(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】非水系電解液及びエネルギーデバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20241112BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241112BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20241112BHJP
H01M 6/16 20060101ALI20241112BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241112BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20241112BHJP
H01G 11/64 20130101ALI20241112BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M4/505
H01M4/525
H01M6/16 A
H01M10/052
H01G11/06
H01G11/64
(21)【出願番号】P 2021535429
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2020029256
(87)【国際公開番号】W WO2021020515
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2019141464
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】320011605
【氏名又は名称】MUアイオニックソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤 脩平
(72)【発明者】
【氏名】西尾 晃一
(72)【発明者】
【氏名】中村 健史
(72)【発明者】
【氏名】玉井 花穂
【審査官】岡田 眞理
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-134232(JP,A)
【文献】特開2019-057356(JP,A)
【文献】特開2014-137993(JP,A)
【文献】特開2011-077029(JP,A)
【文献】特開2017-191634(JP,A)
【文献】特開2016-035820(JP,A)
【文献】特開2016-098189(JP,A)
【文献】特開2012-109091(JP,A)
【文献】特開2001-307772(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109346771(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 6/16
H01M 10/052
H01G 11/06
H01G 11/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極及び負極を備えるエネルギーデバイス用の非水系電解液であって、該非水系電解液が電解質及び非水系溶媒とともに、式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする非水系電解液。
【化1】
(式中、Xは少なくとも1つの炭素-炭素不飽和結合を有する、置換基を有していてもよい炭素数2以上5以下の不飽和炭化水素基であり、Yは炭素原子、水素原子、酸素原子、硫黄原子およびリン原子からなる群から選ばれる原子で構成された炭素数1以上10以下の有機基であり、R
1は水素原子、ハロゲン原子、又は非置換もしくはハロゲン原子置換の炭素数1以上10以下の炭化水素基であり、R
2は、非置換もしくはハロゲン原子置換の炭素数1以上10以下の炭化水素基であり、nは、1以上3以下の整数である。R
1が複数存在する場合、該R
1は、同一であっても異なっていてもよく、R
2が複数存在する場合、該R
2は、同一であっても異なっていてもよく、Yが複数存在する場合、該Yは、同一であっても異なっていてもよい。但し、R
2とXまたはYから選ばれる1つとが互いに結合して環は形成しない。)
【請求項2】
前記式(1)中、Xが、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する基を含む不飽和炭化水素である、請求項1に記載の非水系電解液。
【請求項3】
前記式(1)中、Xが、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する脂肪族不飽和炭化水素基である、請求項1または2に記載の非水系電解液。
【請求項4】
前記式(1)中、R
1が炭素数1以上10以下のアルキル基である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項5】
前記式(1)中、R
2が炭素数1以上10以下のアルキレン基である、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項6】
前記式(1)中、Yが、炭素数1以上10以下の炭化水素基もしくはアルキルスルホニル基、または、炭素数2以上10以下のアルキルオキシカルボニル基もしくはアルキルカルボニル基である、請求項1~5のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項7】
非水系電解液全量に対する前記式(1)で表される化合物の含有量が0.001質量%以上10質量%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の非水系電解液。
【請求項8】
負極、正極及び請求項1~7のいずれか1項に記載の非水系電解液を含む、エネルギーデバイス。
【請求項9】
前記正極は正極活物質を有し、該正極活物質が下記組成式(3)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含む、請求項8に記載のエネルギーデバイス。
Li
a101Ni
b101Co
c101M
d101O
2・・・(3)
(式(3)中、a101、b101、c101及びd101は各々、0.90≦a101≦1.10、0.40≦b101≦0.98、0.01≦c101<0.50、0.01≦d101<0.50を満たす数値を示し、b101+c101+d101=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解液、及びエネルギーデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の携帯電話、ノートパソコン等のいわゆる民生用の小型機器用の電源や、電気自動車用等の駆動用車載電源等の広範な用途において、リチウム一次電池やリチウム二次電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等のエネルギーデバイスが実用化されている。しかしながら、近年のエネルギーデバイスに対する高性能化の要求はますます高くなっている。
【0003】
中でも、非水系電解液電池の電池特性を改善する手段として、正極や負極の活物質、非水系電解液の添加剤分野において数多くの検討がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、特定の電解質塩とシラン化合物を含有する非水電解液電池用電解液を用いることにより、60℃以上の高温での使用を想定した高温サイクル特性及び、高温貯蔵特性を改善する検討が開示されている。
特許文献2には、ケイ素原子を分子中に含む特定構造の新規含フッ素エーテル化合物が開示されている。そして、この含フッ素エーテル化合物を含む非水電解液、及びこの非水電解液を用いた非水電解液電池は、従来の含フッ素エーテル化合物を用いた非水電解液に比べて、サイクル特性等が優れることが開示されている。
特許文献3には、特定のケイ素化合物を含有する非水系電解液を用いることにより、金属イオンを吸蔵及び放出可能な、Liと合金化可能な金属と黒鉛と、を含有する負極活物質を含む負極の充放電時の電極膨れを抑制できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-035820号公報
【文献】特開2016-098189号公報
【文献】国際公開第2019/059365号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、電気自動車の車載用途電源や、スマートフォン等の携帯電話用電源等にリチウム電池の高容量化が加速されており、電池内の空隙の割合が従来と比較して小さくなっている。そのため、特に初期放電抵抗の低減、保存時ガス発生量抑制への要求が更に高まっている。
上記に鑑み、本発明は、エネルギーデバイスの、初期放電抵抗を低減し、かつ、保存時のガス発生を抑制できる非水系電解液を提供することを課題とする。また、初期放電抵抗を低減し、かつ、保存時のガス発生の抑制されたエネルギーデバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、不飽和炭化水素基を有するシラン化合物の置換基に、酸素を介して炭素原子、水素原子、酸素原子、硫黄原子およびリン原子からなる群から選ばれる原子で構成された炭素数1以上10以下の有機基を有することにより、初期放電抵抗を低減し、かつ、保存時のガス発生を抑制できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
本発明は、以下に示す具体的態様等を提供する。
<1> 正極及び負極を備えるエネルギーデバイス用の非水系電解液であって、該非水系電解液が電解質及び非水系溶媒とともに、式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする非水系電解液。
【化1】
(式中、Xは少なくとも1つの炭素-炭素不飽和結合を有する、置換基を有していてもよい炭素数2以上5以下の不飽和炭化水素基であり、Yは炭素原子、水素原子、酸素原子、硫黄原子およびリン原子からなる群から選ばれる原子で構成された炭素数1以上10以下の有機基であり、R
1は水素原子、ハロゲン原子、又は非置換もしくはハロゲン原子置換の炭素数1以上10以下の炭化水素基であり、R
2は、非置換もしくはハロゲン原子置換の炭素数1以上10以下の炭化水素基であり、nは、1以上3以下の整数である。R
1が複数存在する場合、該R
1は、同一であっても異なっていてもよく、R
2が複数存在する場合、該R
2は、同一であっても異なっていてもよく、Yが複数存在する場合、該Yは、同一であっても異なっていてもよい。但し、R
2とXまたはYから選ばれる1つとが互いに結合して環は形成しない。)
<2> 前記式(1)中、Xが、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する基を含む不飽和炭化水素である、<1>に記載の非水系電解液。
<3> 前記式(1)中、Xが、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する脂肪族不飽和炭化水素基である、<1>または<2>に記載の非水系電解液。
<4> 前記式(1)中、R
1が炭素数1以上10以下のアルキル基である、<1>~<3>のいずれかに記載の非水系電解液。
<5> 前記式(1)中、R
2が炭素数1以上10以下のアルキレン基である、<1>~<4>のいずれかに記載の非水系電解液。
<6> 前記式(1)中、Yが、炭素数1以上10以下の炭化水素基もしくはアルキルスルホニル基、または、炭素数2以上10以下のアルキルオキシカルボニル基もしくはアルキルカルボニル基である、<1>~<5>のいずれかに記載の非水系電解液。
<7> 非水系電解液全量に対する前記式(1)で表される化合物の含有量が0.001質量%以上10質量%以下である、<1>~<6>のいずれかに記載の非水系電解液。
<8> 負極、正極及び<1>~<7>のいずれかに記載の非水系電解液を含む、エネルギーデバイス。
<9> 前記正極は正極活物質を有し、該正極活物質が下記組成式(3)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を含む、<8>に記載のエネルギーデバイス。
Li
a101Ni
b101Co
c101M
d101O
2・・・(3)
(式(3)中、a101、b101、c101及びd101は各々、0.90≦a101≦1.10、0.40≦b101≦0.98、0.01≦c101<0.50、0.01≦d101<0.50を満たす数値を示し、b101+c101+d101=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、初期放電抵抗を低減し、かつ、優れた保存ガス抑制に優れるエネルギーデバイスを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明の一例(代表例)であり、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0011】
[1.非水系電解液]
本発明の一実施形態に係る非水系電解液は、一般的な非水系電解液と同様に、電解質及びこれを溶解する非水系溶媒を含有し、以下に説明する式(1)で表される含フッ素化合物を含有する。
これまでも、含フッ素化合物を用いることにより、電池特性の改善が試みられている。例えば、トリメチルビニルシランはビニルシラン部位が正極に作用するが、単座作用である為、相互作用力は小さい。シアノアルキル基を有するジメチルビニルシランは、シアノ部位が正極上で副反応を起こし、抵抗増加を引き起こす場合がある。また、シアノ基は電気化学的還元安定性に乏しく、負極側で容易に還元副反応が起き、電池特性に悪影響をもたらす場合がある。
例えば、特許文献1又は2に記載されているような、フッ素置換アルキルエーテルを用いた場合、エーテル基の酸素原子の電子がフッ素に引っ張られ、酸素原子の電子密度が低くなり、正極への配位効率が低くなる傾向がある。そのため、含ケイ素化合物を含む従来の非水系電解液を用いたエネルギーデバイスでは、初期放電抵抗の低減が不十分である。
本発明において、式(1)で表される化合物を含有する非水系電解液を用いることで、エネルギーデバイスの初期放電抵抗を低減し、かつ、保存ガス抑制を向上させるメカニズムは明らかではないが、以下の様に推測される。
本発明に係る式(1)で表される化合物は「不飽和結合を有する炭化水素基に結合されたシラン部位(以下、「不飽和シラン部位」と表記することがある。)」と「有機基に結合された酸素部位(以下、「有機基を有する酸素部位」、又は「酸素部位」と表記することがある。)」を有することが特徴であり、「不飽和シラン部位」と「酸素部位」の相互作用による正極金属へのキレート効果が発現し、より正極上に強固に作用すると推測される。「有機基を有する酸素部位」は電気化学的に還元されにくく、負極側での副反応が起きにくい。「不飽和シラン部位」と「酸素部位」が直接結合した化合物の場合、電解液中のフッ化水素(HF)によるケイ素への求核反応が容易に起きてしまい、電解液中の該化合物安定性が低下するが、本発明の式(1)で表される化合物は「不飽和シラン部位」と「有機基を有する酸素部位」との間に炭素原子を1つ以上挟むことで構造的にシランへの求核反応が起きにくくなり、電解液中での該化合物安定性も向上すると推測される。
【0012】
なお、本発明の一実施形態に係る非水系電解液に、式(1)で表される化合物などの添加剤(以下、「併用添加剤」とも表記する。)を含有させる方法は、特に制限されない。下記化合物を直接電解液に添加する方法の他に、電池内又は電解液中において併用添加剤を発生させる方法が挙げられる。併用添加剤を発生させる方法としては、併用添加剤以外の化合物を添加し、電解液等の電池構成要素を酸化又は加水分解等して発生させる方法が挙げられる。更には、電池を作製して、充放電等の電気的な負荷をかけることによって、発生させる方法も挙げられる。
【0013】
また、併用添加剤は、非水系電解液に含有させ実際にエネルギーデバイスの作製に供すると、その電池を解体して再び非水系電解液を抜き出しても、その中の含有量が著しく低下している場合が多い。従って、電池から抜き出した非水系電解液から、併用添加剤が極少量でも検出できるものは本発明に含まれるとみなされる。また、併用添加剤は、非水系電解液として実際にエネルギーデバイスの作製に供すると、その電池を解体して再び抜き出した非水系電解液には併用添加剤が極少量しか含有されていなかった場合であっても、エネルギーデバイスの他の構成部材である正極、負極若しくはセパレータ上で検出される場合も多い。従って、正極、負極、セパレータから併用添加剤が検出された場合は、その合計量を非水系電解液に含まれていたと仮定することができる。この仮定の下、併用添加剤は後述で述べる範囲になるように含まれていることが好ましい。
【0014】
[1-1.式(1)で表される化合物]
本発明の非水系電解液は、下記式(1)で表される「不飽和シラン部位」と「有機基を有する酸素部位」を有する化合物を含有することを特徴とする。
【化2】
(式中、Xは少なくとも1つの炭素-炭素不飽和結合を有する、置換基を有していてもよい炭素数2以上5以下の不飽和炭化水素基であり、Yは炭素原子、水素原子、酸素原子、硫黄原子およびリン原子からなる群から選ばれる原子で構成された炭素数1以上10以下の有機基であり、R
1は水素原子、ハロゲン原子、又は非置換もしくはハロゲン原子置換の炭素数1以上10以下の炭化水素基であり、R
2は、非置換もしくはハロゲン原子置換の炭素数1以上10以下の炭化水素基であり、nは、1以上3以下の整数である。R
1が複数存在する場合、それらは、同一であっても異なっていてもよく、R
2が複数存在する場合、それらは、同一であっても異なっていてもよく、Yが複数存在する場合、それらは、同一であっても異なっていてもよい。但し、R
2とXまたはYから選ばれる1つとが互いに結合して環は形成しない。)
【0015】
式(1)において、nは1以上3以下の整数である。nは、好ましくは2以下であり、より好ましくは1である。上記範囲内にあることにより、不飽和部位と酸素部位を用いた正極金属酸化物へのキレート配位が効率的に起こり易く、特性改善効果を効率よくもたらすことができる。
【0016】
式(1)中のXは、少なくとも1つの炭素-炭素不飽和結合を有し、炭素数2以上5以下の不飽和炭化水素基であれば特に制限はなく、置換基を有するものであってもよい。置換基としては炭化水素基、イソシアナト基、アシル基、オキシカルボニル基、アルコキシ基、ハロゲン原子及びハロゲン原子を含有する基等が挙げられる。好ましくは、炭化水素基、又はハロゲン原子であり、特に好ましくは、アルキル基、又はフッ素原子である。炭素-炭素不飽和結合としては、炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合であり、1つのX中に2以上の炭素-炭素不飽和結合を有していてもよく、炭素-炭素二重結合及び炭素-炭素三重結合の両方を含んでいてもよい。中でも、このXは、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する不飽和炭化水素基又は、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を有する不飽和炭化水素基が好ましく、より好ましいのは、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する不飽和炭化水素基である。
【0017】
Xとして、より具体的には、不飽和炭化水素基として、直鎖状もしくは分岐鎖状の脂肪族炭化水素基であってもよいが、炭素-炭素二重結合を少なくとも1つ有する脂肪族不飽和炭化水素基、炭素-炭素三重結合を少なくとも1つ有する脂肪族不飽和炭化水素基が好ましく、炭素-炭素二重結合を少なくとも1つ有する脂肪族不飽和炭化水素基がより好ましい。Xがこれらの不飽和炭化水素基であると、より強く正極上に作用することができるために好ましい。
さらに、式(1)中のXの不飽和炭化水素基は、炭化水素基以外の置換基を有しない不飽和炭化水素基、一部の水素原子がフッ素原子で置換された不飽和炭化水素基が好ましく、炭化水素基以外の置換基を有しない不飽和炭化水素基がより好ましく、置換基を有しない不飽和炭化水素基がさらに好ましい。Xがこれらのような基であると、不飽和部位と酸素部位を用いた正極金属酸化物へのキレート配位が阻害されないため、より効果的に正極へ配位することができ、高温保存耐久試験でのガス発生の低減といった本発明の効果を得ることができるために好ましい。
また、式(1)中のXの不飽和炭化水素基における炭素数は、2以上であり、5以下であり、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。炭素数がこの範囲であれば、式(1)で表される化合物の電解液に対する溶解性に優れる。また、エネルギーデバイスの初期放電抵抗低減の観点から、炭素-炭素不飽和結合が式(1)で表される化合物の末端にあることが特に好ましい。なお、炭化水素基が分岐鎖状の場合、炭素数は、Si原子に結合する最も長い直鎖を主鎖として、主鎖の炭素数とする。
式(1)中のXの具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0018】
≪炭素-炭素二重結合を少なくとも1つ有する脂肪族不飽和炭化水素基≫
【化3】
なお、*は式(1)で表される化合物のケイ素原子との結合部位を表す。以下も同様である。
【0019】
≪炭素-炭素三重結合を少なくとも1つ有する脂肪族不飽和炭化水素基≫
【化4】
【0020】
これらのうち、好ましくは、以下に示すビニル基、アリル基、エチニル基である。
【化5】
【0021】
これらのうち、より好ましくは、ビニル基である。
【化6】
【0022】
式(1)中のR1は、水素原子、ハロゲン原子又は非置換もしくはハロゲン原子置換の炭素数1以上10以下の炭化水素基であれば特に制限はないが、直鎖状もしくは分岐鎖状の脂肪族炭化水素基が好ましく、非置換のアルキル基、又はアルキルの一部の水素原子がフッ素原子で置換されたアルキル基がより好ましく、非置換のアルキル基がさらに好ましい。R1の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、iso-プロピル基、ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基などが挙げられる。R1がこれらのような基であると、不飽和部位と酸素部位を用いた正極金属酸化物へのキレート配位が阻害されないため、より効果的に正極へ配位することができ、初期放電抵抗の低減、高温保存耐久試験でのガス発生の抑制といった本発明の効果を得ることができるために好ましい。式(1)中、R1が複数存在する場合、該R1は同一であっても異なっていてもよい。
また、式(1)中のR1の炭化水素基における炭素数は、1以上10以下であり、5以下が好ましく、4以下がより好ましく、2以下がさらに好ましい。炭素数がこの範囲であれば、式(1)で表される化合物の電解液に対する溶解性に優れる。
式(1)中のR2は、非置換もしくはハロゲン原子置換の炭素数1以上10以下の炭化水素基であれば特に制限はないが、脂肪族炭化水素基が好ましく、非置換のアルキレン基、又はアルキレンの一部の水素原子がフッ素原子で置換されたアルキレン基がより好ましく、非置換のアルキレン基がさらに好ましい。R2がこれらのような基であると、不飽和部位と酸素部位間の自由度が高く、正極金属酸化物へのキレート配位構造が容易に取れるため効果的に正極へ配位することができ、高温保存耐久試験でのガス発生の低減といった本発明の効果を得ることができるために好ましい。R2が複数存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。
また、式(1)中のR2の炭化水素基における炭素数は、1以上であり、2以上が好ましく、10以下であり、5以下が好ましく、4以下がより好ましい。炭素数がこの範囲であれば、式(1)で表される化合物の電解液に対する溶解性に優れる。
式(1)中のYは、炭素原子、水素原子、酸素原子、硫黄原子およびリン原子からなる群から選ばれる原子で構成された炭素数1以上10以下の有機基であれば特に制限はない。具体例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルコキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基、アルキニルオキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、アルキニルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルスルホニル基、アルケニルスルホニル基、アルキニルスルホニル基、アルキルオキシスルホニル基、アルケニルオキシスルホニル基、ジアルキルホスホリル基、ジアルケニルホスホリル基、ジアルキニルホスホリル基、アルキル(アルキルオキシ)ホスホリル基、ビス(アルキルオキシ)ホスホリル基、などが挙げられる。好ましくは、アルキル基等の炭化水素基、アルキルオキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルキルスルホニル基、ジアルキルホスホリル基、アルキル(アルキルオキシ)ホスホリル基、ビス(アルキルオキシ)ホスホリル基であり、より好ましくはアルキル基等の炭化水素基、アルキルオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アルキルカルボニル基であり、さらに好ましくはアルキルオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基であり、特に好ましくはアルキルスルホニル基である。
Yがこれらのような基であると、不飽和部位と酸素部位を用いた正極金属酸化物へのキレート配位が阻害されず、また、酸素部位の電荷を適度に調整することでより効果的に正極へ配位することができ、初期放電抵抗の低減、高温保存耐久試験でのガス発生の抑制といった本発明の効果を得ることができるために好ましい。
なお、上述のアルキル基、アルキルオキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルキルスルホニル基、ジアルキルホスホリル基、アルキル(アルキルオキシ)ホスホリル基、ビス(アルキルオキシ)ホスホリル基のアルキル部位の炭素数は1以上が好ましく、5以下が好ましく、3以下がより好ましく、2以下がさらに好ましい。
【0023】
式(1)で表される化合物としては、以下の化合物が挙げられる。なお、Meはメチル基、Etはエチル基、n-Prはn-プロピル基、i-Prはiso-プロピル基、n-Buはn-ブチル基、i-Buはiso-ブチル基を表す。mは1以上10以下の整数を表す。
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
中でも、mが1以上5以下の整数であることが好ましい。また、式(1)で表される化合物としては、以下の化合物がより好ましい。
【化10】
【0028】
式(1)で表される化合物の含有量は特に限定されないが、非水系電解液全量に対する式(1)で表される化合物の含有量(2種以上の場合は、合計量)は通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上であり、また、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。この範囲内であると、初期放電抵抗低減の効果が顕著に発現される。
式(1)で表される化合物の同定や含有量の測定は、核磁気共鳴(NMR)分光法により行う。
【0029】
[1-2.電解質]
<リチウム塩>
非水系電解液における電解質としては、通常、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、この用途に用いることが知られているものであれば特に制限がなく、任意のものを1種以上用いることができ、具体的には以下のものが挙げられる。
【0030】
例えば、LiBF4等のフルオロホウ酸リチウム塩類;
LiPF6、Li2PO3F、LiPO2F2等のフルオロリン酸リチウム塩類;
LiWOF5等のタングステン酸リチウム塩類;
CF3CO2Li等のカルボン酸リチウム塩類;
CH3SO3Li、FSO3Li等のスルホン酸リチウム塩類;
LiN(FSO2)2、LiN(FSO2)(CF3SO2)、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、リチウム環状1,2-パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3-パーフルオロプロパンジスルホニルイミド等のリチウムイミド塩類;
LiC(FSO2)3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3等のリチウムメチド塩類;
リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムテトラフルオロオキサラトフォスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)フォスフェート、リチウムトリス(オキサラト)フォスフェート等のリチウムオキサラート塩類;
等が挙げられる。
2種類以上の電解質塩の組み合わせとして、特段の制限はないが、LiPF6及びLiN(FSO2)2;LiPF6及びLiBF4;LiPF6及びLiN(CF3SO2)2;LiBF4及びLiN(FSO2)2;並びにLiBF4、LiPF6及びLiN(FSO2)2が挙げられる。なかでも、LiPF6及びLiN(FSO2)2;LiPF6及びLiBF4;又はLiBF4、LiPF6及びLiN(FSO2)2が好ましい。
【0031】
本発明で得られる高温環境下での充電保存特性向上の効果に加え、充放電レート特性、インピーダンス特性の向上効果を更に高める点から、フルオロホウ酸リチウム塩類、フルオロリン酸リチウム塩類、スルホン酸リチウム塩類、リチウムイミド塩類、リチウムオキサラート塩類の中から選ばれるものが好ましく、フルオロスルホン酸リチウム塩類がより好ましい。
【0032】
非水系電解液中の電解質の総濃度は、特に制限はないが、非水系電解液の全量に対して、通常8質量%以上、好ましくは8.5質量%以上、より好ましくは9質量%以上である。また、その上限は、通常18質量%以下、好ましくは17質量%以下、より好ましくは16質量%以下である。電解質の総濃度が上記範囲内であると、電気伝導率が電池動作に適正となるため、十分な出力特性が得られる傾向にある。
【0033】
[1-3.非水系溶媒]
非水系電解液は、一般的な非水系電解液と同様、通常はその主成分として、上述した電解質を溶解する非水系溶媒を含有する。非水系溶媒について特に制限はなく、公知の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、飽和環状カーボネート、鎖状カーボネート、エーテル系化合物、スルホン系化合物、及び環状もしくは鎖状カルボン酸エステル、等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
2種以上の有機溶媒の組み合わせとして、特段の制限はないが、飽和環状カーボネート及び鎖状カルボン酸エステル;環状カルボン酸エステル及び鎖状カーボネート;並びに飽和環状カーボネート、鎖状カーボネート及び鎖状カルボン酸エステルが挙げられる。なかでも、飽和環状カーボネート及び鎖状カーボネート;並びに飽和環状カーボネート、鎖状カーボネート及び鎖状カルボン酸エステルが好ましい。
【0034】
[1-3-1.飽和環状カーボネート]
飽和環状カーボネートとしては、通常炭素数2~4のアルキレン基を有するものが挙げられ、リチウムイオン解離度の向上に由来する電池特性向上の点から炭素数2~3の飽和環状カーボネートが好ましく用いられる。
【0035】
飽和環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。中でも、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートが好ましく、酸化・還元されにくいエチレンカーボネートがより好ましい。飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0036】
飽和環状カーボネートの含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常3体積%以上、好ましくは5体積%以上である。この範囲とすることで、非水系電解液の誘電率の低下に由来する電気伝導率の低下を回避し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性、負極に対する安定性、サイクル特性を良好な範囲としやすくなる。また、通常90体積%以下、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。この範囲とすることで、非水系電解液の酸化・還元耐性が向上し、高温保存時の安定性が向上する傾向にある。
なお、本実施形態における体積%とは25℃、1気圧における体積を意味する。
【0037】
[1-3-2.鎖状カーボネート]
鎖状カーボネートとしては、通常炭素数3~7のものが用いられ、電解液の粘度を適切な範囲に調整するために、炭素数3~5の鎖状カーボネートが好ましく用いられる。
【0038】
具体的には、鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n-プロピルイソプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネート等が挙げられる。中でも、特に好ましくはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートである。
【0039】
また、フッ素原子を有する鎖状カーボネート類(以下、「フッ素化鎖状カーボネート」と略記する場合がある。)も好適に用いることができる。フッ素化鎖状カーボネートが有するフッ素原子の数は、1以上であれば特に制限されないが、通常6以下であり、好ましくは4以下である。フッ素化鎖状カーボネートが複数のフッ素原子を有する場合、それらは互いに同一の炭素に結合していてもよく、異なる炭素に結合していてもよい。
フッ素化鎖状カーボネートとしては、フルオロメチルメチルカーボネート等のフッ素化ジメチルカーボネート誘導体;2-フルオロエチルメチルカーボネート等のフッ素化エチルメチルカーボネート誘導体;エチル-(2-フルオロエチル)カーボネート等のフッ素化ジエチルカーボネート誘導体;等が挙げられる。
【0040】
鎖状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0041】
鎖状カーボネートの含有量は特に限定されないが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常15体積%以上であり、好ましくは20体積%以上、より好ましくは25体積%以上であり、また、通常90体積%以下、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。鎖状カーボネートの含有量を上記範囲とすることによって、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、イオン伝導度の低下を抑制し、ひいては非水系電解液二次電池の出力特性を良好な範囲としやすくなる。
【0042】
さらに、特定の鎖状カーボネートに対して、エチレンカーボネートを特定の含有量で組み合わせることにより、電池性能を著しく向上させることができる。
【0043】
例えば、特定の鎖状カーボネートとしてジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートを選択した場合、エチレンカーボネートの含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常15体積%以上、好ましくは20体積%以上、また、通常45体積%以下、好ましくは40体積%以下であり、ジメチルカーボネートの含有量は、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常20体積%以上、好ましくは30体積%以上、また、通常50体積%以下、好ましくは45体積%以下であり、エチルメチルカーボネートの含有量は通常20体積%以上、好ましくは30体積%以上、また、通常50体積%以下、好ましくは45体積%以下である。含有量を上記範囲内とすることで、高温安定性に優れ、ガス発生が抑制される傾向がある。
【0044】
[1-3-3.エーテル系化合物]
エーテル系化合物としては、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタン、エチレングリコールジ-n-プロピルエーテル、エチレングリコールジ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等の炭素数3~10の鎖状エーテル、及びテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、3-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、2-メチル-1,3-ジオキサン、4-メチル-1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン等の炭素数3~6の環状エーテルが好ましい。なお、上述のエーテル系化合物の一部の水素がフッ素原子に置換されていてもよい。
中でも、炭素数3~10の鎖状エーテルとしては、リチウムイオンへの溶媒和能力が高く、イオン解離性を向上させる点で好ましい。特に好ましくは、粘性が低く、高いイオン伝導度を与えることから、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、又はエトキシメトキシメタンである。
【0045】
炭素数3~6の環状エーテルとしては、高いイオン電導度を与えることから、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、又は1,4-ジオキサン等が好ましい。
【0046】
エーテル系化合物の含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系溶媒100体積%中、通常1体積%以上、好ましくは2体積%以上、より好ましくは3体積%以上、また、通常30体積%以下、好ましくは25体積%以下、より好ましくは20体積%以下である。エーテル系化合物の含有量が前記好ましい範囲内であれば、エーテルのリチウムイオン解離度の向上と粘度低下に由来するイオン伝導度の向上効果を確保しやすい。また、負極活物質が炭素質材料の場合、鎖状エーテルがリチウムイオンと共に共挿入される現象を抑制できることから、入出力特性や充放電レート特性を適正な範囲とすることができる。
【0047】
[1-3-4.スルホン系化合物]
スルホン系化合物としては、特に制限されず、環状スルホンであってもよく、鎖状スルホンであってもよい。環状スルホンの場合、炭素数が通常3~6、好ましくは3~5であり、鎖状スルホンの場合、炭素数が通常2~6、好ましくは2~5である。また、スルホン系化合物1分子中のスルホニル基の数は、特に制限されないが、通常1又は2である。
【0048】
環状スルホンとしては、モノスルホン化合物であるトリメチレンスルホン類、テトラメチレンスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類等;ジスルホン化合物であるトリメチレンジスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンジスルホン類;等が挙げられる。中でも誘電率と粘性の観点から、テトラメチレンスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類、又はヘキサメチレンジスルホン類がより好ましく、テトラメチレンスルホン類(スルホラン類)が特に好ましい。
【0049】
スルホラン類としては、スルホラン及びスルホラン誘導体が好ましい。スルホラン誘導体としては、スルホラン環を構成する炭素原子に結合した水素原子の1以上がフッ素原子、アルキル基、又はフッ素置換アルキル基で置換されたものが好ましい。
【0050】
中でも、2-メチルスルホラン、3-メチルスルホラン、2-フルオロスルホラン、3-フルオロスルホラン、2,3-ジフルオロスルホラン、2-トリフルオロメチルスルホラン、3-トリフルオロメチルスルホラン、等が、イオン伝導度が高く入出力が高い点で好ましい。
【0051】
また、鎖状スルホンとしては、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、モノフルオロメチルメチルスルホン、ジフルオロメチルメチルスルホン、トリフルオロメチルメチルスルホン、ペンタフルオロエチルメチルスルホン等が挙げられる。中でも、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、モノフルオロエチルメチルスルホンが電解液の高温保存安定性が向上する点で好ましい。
【0052】
スルホン系化合物の含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常0.3体積%以上、好ましくは0.5体積%以上、より好ましくは1体積%以上であり、また、通常40体積%以下、好ましくは35体積%以下、より好ましくは30体積%以下である。スルホン系化合物の含有量が前記範囲内であれば、高温保存安定性に優れた電解液が得られる傾向にある。
【0053】
[1-3-5.環状もしくは鎖状カルボン酸エステル]
環状カルボン酸エステルとしては、ガンマブチロラクトン及びガンマバレロラクトン等が挙げられる。中でも、ガンマブチロラクトンがリチウムイオン解離度の向上に由来する電池特性向上の点から特に好ましい。上述の化合物の水素原子の一部をフッ素原子で置換した環状カルボン酸エステルも好適に使える。
環状カルボン酸エステルの含有量は、非水系電解液の非水系溶媒非水系電解液の全量に対して、通常1体積%以上、好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上である。この範囲であれば、非水系電解液の電気伝導率を改善し、エネルギーデバイスの大電流放電特性を向上させやすくなる。また、環状カルボン酸エステルの含有量は、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、通常70体積%以下、好ましくは50体積%以下、より好ましくは40体積%以下である。このように上限を設定することにより、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、電気伝導率の低下を回避し、負極抵抗の増大を抑制し、エネルギーデバイスの大電流放電特性を良好な範囲としやすくなる。
【0054】
鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、吉草酸メチルピバル酸メチルが挙げられる。
これらのうち、負極での副反応が少ない点、電解液粘度低下によるイオン伝導度の向上の点から、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル又は酢酸ブチルが好ましい。
鎖状カルボン酸エステルを非水系溶媒として用いる場合の含有量は、非水系電解液の非水系溶媒全量に対して、好ましくは1体積%以上、より好ましくは5体積%以上、更に好ましくは10体積%以上、更により好ましくは20体積%以上であり、また、50体積%以下で含有させることができ、より好ましくは45体積%以下、更に好ましくは40体積%以下である。鎖状カルボン酸エステルの含有量を前記範囲とすると、非水系電解液の電気伝導率を改善し、非水系電解液二次電池の入出力特性や充放電レート特性を向上させやすくなる。また、負極抵抗の増大を抑制し、非水系電解液二次電池の入出力特性や充放電レート特性を良好な範囲としやすくなる。
【0055】
尚、鎖状カルボン酸エステルを非水系溶媒として用いる場合は、好ましくは環状カーボネートとの併用であり、更に好ましくは環状カーボネートと鎖状カーボネートとの併用である。
例えば、環状カーボネートと鎖状カルボン酸エステルを併用した場合、環状カーボネートの含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常15体積%以上、好ましくは20体積%、また通常45体積%以下、好ましくは40体積%以下であり、鎖状カルボン酸エステルの含有量は、通常20体積%以上、好ましくは30体積%以上、また通常55体積%以下、好ましくは50体積%以下である。また、環状カーボネートと鎖状カーボネートと鎖状カルボン酸エステルを併用した場合、環状カーボネートの含有量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常15体積%以上、好ましくは20体積%、また通常45体積%以下、好ましくは40体積%以下であり、鎖状カーボネートの含有量は、通常25体積%以上、好ましくは30体積%以上、また通常84体積%以下、好ましくは80体積%以下である。含有量を上記範囲内とすることで、電解質の低温析出温度を低下させながら、非水系電解液の粘度も低下させてイオン伝導度を向上させ、低温でも更に高い入出力を得ることができ、また電池膨れを更に低下させる観点で好ましい。
【0056】
[1-4.助剤]
本発明の非水系電解液には、本発明の効果を奏する範囲で各種の助剤を含有してもよい。助剤としては、従来公知のものを任意に用いることができる。なお、助剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0057】
非水系電解液に含有していてもよい助剤としては、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート、モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩、フッ素含有環状カーボネート、硫黄含有有機化合物、リン含有有機化合物、イソシアナト基(イソシアネート基)を有する化合物、ケイ素含有化合物、芳香族化合物、フッ素非含有カルボン酸エステル、エーテル結合を有する環状化合物、カルボン酸無水物、ホウ酸塩、シュウ酸塩、フルオロスルホン酸塩等が挙げられる。具体的には、例えば、国際公開公報第2015/111676号に記載の化合物等が挙げられる。
エーテル結合を有する環状化合物は、非水系電解液において助剤として用いることもできるし、1-3.で示したとおり非水系溶媒としても用いることができるものも含まれる。エーテル結合を有する環状化合物を助剤として用いる場合は、4質量%未満の量で用いる。ホウ酸塩、シュウ酸塩及びフルオロスルホン酸塩は、非水系電解液において助剤として用いることもできるし、1-2.で示したとおり電解質として用いることができるものも含まれる。これら化合物を助剤として用いる場合は、3質量%未満で用いる。
以下、炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート並びにモノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩について説明する。
【0058】
[1-4-1.炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート]
炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネート(以下、「不飽和環状カーボネート」ともいう)としては、炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を有する環状カーボネートであれば、特に制限はない。芳香環を有する環状カーボネートも、不飽和環状カーボネートに包含されることとする。
【0059】
不飽和環状カーボネートとしては、ビニレンカーボネート類、芳香環、炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を有する置換基で置換されたエチレンカーボネート類、フェニルカーボネート類、ビニルカーボネート類、アリルカーボネート類、カテコールカーボネート類等が挙げられる。中でもビニレンカーボネート類、または芳香環もしくは炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を有する置換基で置換されたエチレンカーボネート類が好ましい。
不飽和環状カーボネートの具体例としては、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、4,5-ジメチルビニレンカーボネート、フェニルビニレンカーボネート、4,5-ジフェニルビニレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、4,5-ビニルビニレンカーボネート、アリルビニレンカーボネート、4,5-ジアリルビニレンカーボネート等のビニレンカーボネート類;
ビニルエチレンカーボネート、4,5-ジビニルエチレンカーボネート、4-メチル-5-ビニルエチレンカーボネート、4-アリル-5-ビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、4,5-ジエチニルエチレンカーボネート、4-メチル-5-エチニルエチレンカーボネート、4-ビニル-5-エチニルエチレンカーボネート、4-アリル-5-エチニルエチレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネート、4,5-ジフェニルエチレンカーボネート、4-フェニル-5-ビニルエチレンカーボネート、4-アリル-5-フェニルエチレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、4,5-ジアリルエチレンカーボネート、4-メチル-5-アリルエチレンカーボネート等の芳香環もしくは炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を有する置換基で置換されたエチレンカーボネート類;
等が挙げられる。中でも、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネートは更に安定な界面保護被膜を形成するので好ましく、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートがより好ましく、ビニレンカーボネートがさらに好ましい。
【0060】
不飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。不飽和環状カーボネートの量(2種以上の場合は合計量)は、非水系電解液全量に対し、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。この範囲内であれば、非水系電解液電池が十分なサイクル特性向上効果を発現しやすく、また、高温保存特性が低下し、ガス発生量が多くなり、放電容量維持率が低下するといった事態を回避しやすい。
【0061】
上記式(1)で表される化合物と不飽和環状カーボネート(2種以上の場合は合計量)の質量比は、式(1)で表される化合物:不飽和環状カーボネートが、通常1:100以上であり、好ましくは10:100以上、より好ましくは20:100以上、更に好ましくは25:100以上であり、通常10000:100以下であり、好ましくは500:100以下、より好ましくは300:100以下、さらに好ましくは100:100以下、特に好ましくは75:100以下、最も好ましくは50:100以下である。この範囲であれば、電池特性、特に耐久特性を著しく向上させることができる。この原理については定かではないが、この比率で混合させることで、電極上での添加剤の副反応を最小限に抑えられるためと考えられる。
【0062】
[1-4-2.モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩]
モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩は、それぞれ、分子内に少なくとも1つのモノフルオロリン酸又はジフルオロリン酸構造を有する塩であれば、特に制限されない。本実施形態の電解液において、上記式(1)で表される化合物とモノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩から選ばれる1種以上とを併用することにより、この電解液を用いた電池において、耐久特性を改善することができる。
【0063】
モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩におけるカウンターカチオンは、特に制限されず、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、NR121R122R123R124(式中、R121~R124は、独立して、水素原子又は炭素数1以上12以下の有機基である)で表されるアンモニウム等が挙げられる。上記アンモニウムのR121~R124で表わされる炭素数1以上12以下の有機基は特に制限されず、例えば、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子又はアルキル基で置換されていてもよいシクロアルキル基、ハロゲン原子又はアルキル基で置換されていてもよいアリール基、置換基を有していてもよい窒素原子含有複素環基等が挙げられる。中でもR121~R124は、独立して、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基又は窒素原子含有複素環基等が好ましい。カウンターカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムが好ましく、中でもリチウムが好ましい。
【0064】
モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩としては、モノフルオロリン酸リチウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム、ジフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸ナトリウム、ジフルオロリン酸カリウム等が挙げられ、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウムが好ましく、ジフルオロリン酸リチウムがより好ましい。モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0065】
モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩から選ばれる1種以上のフルオロリン酸塩の量(2種以上の場合は合計量)は、非水系電解液全量に対し、通常0.001質量%以上であり、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上、特に好ましくは0.3質量%以上であり、また、通常5質量%以下であり、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1.5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。この範囲内であると、初期不可逆容量向上の効果が顕著に発現される。
【0066】
上記式(1)で表される化合物とモノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩(2種以上の場合は合計量)の質量比は、式(1)で表される化合物:モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩が、通常1:100以上であり、好ましくは10:100以上、より好ましくは20:100以上、更に好ましくは25:100以上であり、通常10000:100以下であり、好ましくは500:100以下、より好ましくは300:100以下、さらに好ましくは100:100以下、特に好ましくは75:100以下、最も好ましくは50:100以下である。この範囲であれば、電池特性、特に耐久特性を著しく向上させることができる。この原理については定かではないが、この比率で混合させることで、電極上での添加剤の副反応を最小限に抑えられるためと考えられる。
【0067】
[1-5.非水系電解液の製造方法]
非水系電解液は、前述の非水系溶媒に、電解質と、特定の含シラン化合物(式(1)で表される化合物)と、必要に応じて前述の「助剤」などを溶解することにより調製することができる。
【0068】
非水系電解液を調製するに際しては、非水系電解液の各原料、すなわち、リチウム塩等の電解質、特定の含シラン化合物、非水系溶媒、助剤等は、予め脱水しておくことが好ましい。脱水の程度としては、各原料の水分量が通常50質量ppm以下、好ましくは30質量ppm以下となるまで脱水することが望ましい。
【0069】
非水系電解液中の水分を除去することで、水の電気分解、水とリチウム金属との反応、リチウム塩の加水分解等が生じ難くなる。脱水の手段としては特に制限はないが、例えば、脱水する対象が非水系溶媒等の液体の場合は、モレキュラーシーブ等の乾燥剤を用いればよい。また脱水する対象が電解質等の固体の場合は、分解が起きる温度未満で加熱して乾燥させればよい。
【0070】
[2.非水系電解液を用いたエネルギーデバイス]
非水系電解液を用いたエネルギーデバイスは、金属イオンを吸蔵または放出可能な複数の電極と、以上説明した非水系電解液とを備えるものである。エネルギーデバイスの種類としては、一次電池、二次電池、リチウムイオンキャパシタをはじめとする金属イオンキャパシタが具体例として挙げられる。中でも、一次電池または二次電池が好ましく、二次電池が特に好ましい。なお、これらのエネルギーデバイスに用いられる非水系電解液は、高分子やフィラー等で疑似的に固体化された、所謂ゲル電解質であることも好ましい。以下、当該エネルギーデバイスについて説明する。
【0071】
[2-1.非水系電解液二次電池]
本発明の一実施態様である非水系電解液二次電池は、金属イオンを吸蔵及び放出しうる正極活物質を有する正極と、金属イオンを吸蔵及び放出しうる負極活物質を有する負極とを備える非水系電解液二次電池であって、非水系電解液を含む。
【0072】
[2-1-1.電池構成]
非水系電解液二次電池は、非水系電解液以外の構成については、従来公知の非水系電解液二次電池と同様であり、通常は、非水系電解液が含浸されている多孔膜(セパレータ)を介して正極と負極とが積層され、これらがケース(外装体)に収納された形態を有する。
【0073】
[2-1-2.非水系電解液]
非水系電解液としては、上述の非水系電解液を用いる。なお、本実施形態に係る発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の非水系電解液に対し、その他の非水系電解液を混合して用いることも可能である。
【0074】
[2-1-3.負極]
負極は、負極活物質を集電体表面の少なくとも一部に有する。
[2-1-3-1.負極活物質]
負極に使用される負極活物質としては、電気化学的に金属イオンを吸蔵及び放出可能なものであれば、特に制限はない。具体例としては、炭素質材料、金属化合物系材料、リチウム含有金属複合酸化物材料、及びこれらの混合物等が挙げられる。これらの1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意に組み合わせて併用してもよい。
なかでも、サイクル特性及び安全性が良好でさらに連続充電特性も優れている点で、炭素質材料、金属化合物系材料または金属化合物系材料と黒鉛粒子との混合物が好ましい。金属化合物系材料の中では、ケイ素を含む材料が好ましく、したがって負極活物質としては、炭素質材料およびケイ素を含む材料が特に好ましい。
【0075】
[2-1-3-1-1.炭素質材料]
負極活物質として用いられる炭素質材料としては、特に限定されないが、下記(a)~(e)から選ばれるものが、初期不可逆容量、高電流密度充放電特性のバランスがよい二次電池を与えるので好ましい。
(a)天然黒鉛
(b)人造炭素質物質並びに人造黒鉛質物質を400℃~3200℃の温度範囲で1回以上熱処理して得られた炭素質材料
(c)負極活物質層が少なくとも2種類の異なる結晶性を有する炭素質から成り立ち、かつ/またはその異なる結晶性の炭素質が接する界面を有している炭素質材料
(d)負極活物質層が少なくとも2種類の異なる配向性を有する炭素質から成り立ち、かつ/またはその異なる配向性の炭素質が接する界面を有している炭素質材料
(e)非晶質炭素
炭素質材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0076】
上記(b)における人造炭素質物質または人造黒鉛質物質の具体例としては、
石炭系コークス、石油系コークス、石炭系ピッチ、石油系ピッチ及びこれらを酸化処理したもの;
ニードルコークス、ピッチコークス及びこれらを一部黒鉛化した炭素材;
ファーネスブラック、アセチレンブラック、ピッチ系炭素繊維等の有機物の熱分解物;
炭化可能な有機物及びこれらの炭化物;並びに、
炭化可能な有機物をベンゼン、トルエン、キシレン、キノリン、n-へキサン等の低分子有機溶媒に溶解させた溶液状の炭化物;などが挙げられる。
【0077】
上記(a)~(e)の炭素質材料はいずれも従来公知であり、当業者によく知られている製造方法により製造してもよいし、市販品を購入してもよい。
炭素質材料としては、なかでも、天然黒鉛が好ましい。炭素質材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
天然黒鉛としては、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛及び/又はこれらの黒鉛を原料に球形化や緻密化等の処理を施した黒鉛粒子等が挙げられる。これらの中でも、粒子の充填性又は充放電レート特性の観点から、球形化処理を施した球状もしくは楕円体状の黒鉛粒子が特に好ましい。
黒鉛粒子の平均粒子径(d50)は、通常1μm以上、100μm以下である。
【0078】
また、炭素質材料は、以下の(1)~(4)に示した物性及び形状等の特徴の内、少なくとも1項目を満たしていることが好ましく、複数の項目を同時に満たすことがより好ましい。
(1)X線回折パラメータ
炭素質材料の学振法によるX線回折で求めた格子面(002面)のd値(層間距離)は、通常0.335nm以上、0.360nm以下である。また、学振法によるX線回折で求めた炭素質材料の結晶子サイズ(Lc)は、1.0nm以上である。
(2)体積基準平均粒径
炭素質材料の体積基準平均粒径は、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の平均粒径(メジアン径)であり、通常1μm以上、100μm以下である。
(3)ラマンR値、ラマン半値幅
炭素質材料のラマンR値は、アルゴンイオンレーザーラマンスペクトル法を用いて測定した値であり、通常0.01以上、1.5以下である。
また、炭素質材料の1580cm-1付近のラマン半値幅は特に制限されないが、通常10cm-1以上、100cm-1以下である。
(4)BET比表面積
炭素質材料のBET比表面積は、BET法を用いて測定した比表面積の値であり、通常0.1m2・g-1以上、100m2・g-1以下である。
また、負極活物質中に性質の異なる炭素質材料が2種以上含まれていてもよい。ここでいう性質とは、X線回折パラメータ、体積基準平均粒径、ラマンR値、ラマン半値幅及びBET比表面積の群から選ばれる1つ以上の特性を示す。
好ましい例としては、体積基準粒度分布がメジアン径を中心としたときに左右対称とならないこと、ラマンR値が異なる炭素質材料を2種以上含有していること、及びX線パラメータが異なること等が挙げられる。
【0079】
[2-1-3-1-2.金属化合物系材料]
負極活物質として用いられる金属化合物系材料としては、金属イオン、例えば、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能であれば、特に限定されず、リチウムと合金を形成する単体金属若しくは合金、またはそれらの酸化物、炭化物、窒化物、珪化物、硫化物、燐化物等の化合物が好ましく使用できる。このような金属化合物としては、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn等の金属を含有する化合物が挙げられる。なかでも、周期表13族または14族の金属・半金属元素(すなわち炭素を除く。また以降では、金属及び半金属をまとめて「金属」と呼ぶ。)を含む材料であることがより好ましく、容量とサイクル寿命の点から、例えば、Sb、Si、Sn、Al、As、及びZnからなる群より選ばれる金属又はその化合物であることが好ましく、更には、ケイ素(Si)、スズ(Sn)または鉛(Pb)(以下、これら3種の元素を「SSP金属元素」という場合がある)の単体金属若しくはこれら金属元素を含む合金、または、それらの金属(SSP金属元素)を含む化合物であることが好ましい。最も好ましいのはケイ素であり、金属Si(以下、Siと記載する場合がある)又はSi金属化合物が高容量化の点で、好ましい。
【0080】
本明細書では、Si又はSi金属化合物を総称してSi化合物と呼ぶ。Si化合物としては、具体的には、SiOx,SiNx,SiCx、SiZxOy(Z=C、N)等が挙げられる。Si化合物としてSi金属酸化物(SiOx)が、黒鉛と比較して理論容量が大きい点で好ましく、又は非晶質SiあるいはナノサイズのSi結晶は、リチウムイオン等のアルカリイオンの出入りがしやすく、高容量を得ることが可能である点で好ましい。
この一般式SiOxは、二酸化珪素(SiO2)とSiとを原料として得られるが、そのxの値は通常0<x<2である。
金属化合物系材料が粒子形状である場合、平均粒子径(d50)は、サイクル寿命の観点から、通常0.01μm以上10μm以下である。
金属化合物系材料は、1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0081】
[2-1-3-1-3.金属化合物系材料と黒鉛粒子との混合物]
負極活物質として用いられる金属化合物系材料と黒鉛粒子との混合物は、前述の金属化合物系材料と前述の黒鉛粒子が互いに独立した粒子の状態で混合されている混合体でもよいし、金属化合物系材料が黒鉛粒子の表面又は内部に存在している複合体でもよい。
金属化合物系材料と黒鉛粒子の合計に対する金属化合物系材料の含有割合は、通常1質量%以上99質量%以下である。
【0082】
[2-1-3-1-4.リチウム含有金属複合酸化物材料]
負極活物質として用いられるリチウム含有金属複合酸化物材料としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能であれば特に限定はされないが、高電流密度充放電特性の点からチタンを含むリチウム含有金属複合酸化物材料が好ましく、リチウムとチタンの複合酸化物(以下、「リチウムチタン複合酸化物」と略記する場合がある。)がより好ましく、スピネル構造を有するリチウムチタン複合酸化物が、二次電池の出力抵抗を大きく低減するので特に好ましい。
【0083】
また、リチウムチタン複合酸化物のリチウム及び/又はチタンが、他の金属元素、例えば、Al、Ga、Cu及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素で置換されているものも好ましい。
【0084】
リチウムチタン複合酸化物として、Li4/3Ti5/3O4、Li1Ti2O4及びLi4/5Ti11/5O4が好ましい。また、リチウム及び/又はチタンの一部が他の元素で置換されたリチウムチタン複合酸化物として、例えば、Li4/3Ti4/3Al1/3O4が好ましい。
【0085】
[2-1-3-2.負極の構成、物性、作製方法]
上記活物質材料を含有する負極及び電極化手法、正極(「正極板」ともいう。)については、公知の技術構成を採用することができるが、次に示す(I)~(VIII)のいずれか1項目または複数の項目を同時に満たしていることが望ましい。
【0086】
(I)負極作製
負極の製造は、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のいずれの方法を用いてもよい。例えば、負極活物質に、バインダー、溶媒、必要に応じて、増粘剤、導電材、充填材等を加えてスラリーとし、これを集電体に塗布、乾燥した後にプレスして負極活物質層を形成することによって作製することができる。
【0087】
(II)集電体
負極活物質を保持させる集電体としては、公知のものを任意に用いることができる。負極の集電体としては、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料が挙げられるが、加工し易さとコストの点から特に銅が好ましい。
また、集電体は適宜メッシュ状に形成してもよい。なお、負極の集電体の形状が板状や膜状等である場合、該集電体の厚さは任意であるが、通常1μm以上、1mm以下である。
【0088】
(III)集電体と負極活物質層の厚さ
負極(「負極板」ともいう。)の厚さは用いられる集電体に合わせて設計されるものであり、特に制限されないが、負極材の厚さから集電体厚さを差し引いた負極活物質層の厚さは通常15μm以上、300μm以下である。
【0089】
(IV)電極密度
負極活物質を電極化した際の電極構造は、特には限定されず、集電体上に存在している負極活物質層の密度は、1g・cm-3以上、4g・cm-3以下である。
【0090】
(V)バインダー
負極活物質を結着するバインダーとしては、非水系電解液や電極製造時に用いる溶媒に対して安定な材料であれば、特に制限されない。
具体例としては、SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、エチレン-プロピレンゴム等のゴム状高分子;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子;等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0091】
負極活物質100質量部に対するバインダーの割合は、通常0.1質量部以上、20質量部以下である。
【0092】
特に、負極形成材料であるスラリーがSBRに代表されるゴム状高分子を主要成分として含有する場合には、負極活物質100質量部に対するバインダーの割合は、通常0.1質量部以上、5質量部以下である。
【0093】
また、スラリーがポリフッ化ビニリデンに代表されるフッ素系高分子を主要成分として含有する場合には、負極活物質100質量部に対するバインダーの割合は、1質量部以上15質量部以下である。
【0094】
(VI)液体媒体
スラリーを形成するための液体媒体としては、負極活物質、バインダー、並びに必要に応じて使用される増粘剤及び導電材を溶解または分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いてもよい。
【0095】
(VII)増粘剤
増粘剤は、通常、スラリーの粘度を調整するために使用される。増粘剤としては、特に制限はないが、具体的には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール及びこれらの塩等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0096】
増粘剤を用いる場合、負極活物質100質量部に対する増粘剤の割合は、通常0.1質量部以上で、5質量部以下である。
【0097】
(VIII)負極板の表面被覆
また、上記負極板は、その表面に、負極活物質とは異なる組成の物質が付着したもの(表面付着物質)を用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム等の酸化物、硫酸リチウム等の硫酸塩、炭酸リチウム等の炭酸塩等が挙げられる。
【0098】
[2-1-4.正極]
以下に非水系電解液二次電池に使用される正極について説明する。
正極は、正極活物質を集電体表面の少なくとも一部に有する。
【0099】
[2-1-4-1.正極活物質]
以下に前記正極に使用される正極活物質について説明する。
【0100】
(1)組成
正極活物質としては、電気化学的に金属イオンを吸蔵及び放出可能なものであれば特に制限はないが、例えば、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出可能なものが好ましく、リチウムと少なくとも1種の遷移金属を含有する物質(リチウム遷移金属系化合物)が好ましい。リチウム遷移金属系化合物の具体例としては、リチウム遷移金属複合酸化物、リチウム含有遷移金属燐酸化合物、リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物、リチウム含有遷移金属ホウ酸化合物等が挙げられる。なかでも、リチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。
【0101】
前記リチウム遷移金属複合酸化物の遷移金属としてはV、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が好ましい。前記リチウム遷移金属複合酸化物の具体例としては、LiCoO2等のリチウム・コバルト複合酸化物;LiNiO2等のリチウム・ニッケル複合酸化物;LiMnO2、LiMn2O4、Li2MnO4等のリチウム・マンガン複合酸化物;これらのリチウム遷移金属複合酸化物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si、Nb、Mo、Sn、W等の他の金属で置換したもの等が挙げられる。
【0102】
置換されたリチウム遷移金属複合酸化物の具体例としては、例えば、LiNi0.5Mn0.5O2、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2、LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2、LiMn1.8Al0.2O4、Li1.1Mn1.9Al0.1O4、LiMn1.5Ni0.5O4が挙げられる。
中でも、リチウム、ニッケル及びコバルトを含有する複合酸化物がより好ましい。コバルト及びニッケルを含有する複合酸化物は、同じ電位で使用した際の容量を大きくとることが可能となるためである。
【0103】
一方でコバルトは資源量も少なく高価な金属であり、自動車用途等の高容量が必要とされる大型電池では活物質の使用量が大きくなることから、コストの点では、より安価な遷移金属としてマンガンを主成分に用いることも望ましい。すなわち、リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物が特に好ましい。
【0104】
また、化合物としての安定性や、製造の容易さによる調達コストも鑑みると、スピネル型構造を有するリチウム・マンガン複合酸化物も好ましい。すなわち、上記の具体例のうちLiMn2O4、LiMn1.8Al0.2O4、Li1.1Mn1.9Al0.1O4、LiMn1.5Ni0.5O4等も好ましい具体例として挙げることができる。
【0105】
前記リチウム含有遷移金属燐酸化合物の遷移金属としては、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が好ましく、前記リチウム含有遷移金属燐酸化合物の具体例としては、例えば、LiFePO4、Li3Fe2(PO4)3、LiFeP2O7等の燐酸鉄類、LiCoPO4等の燐酸コバルト類、LiMnPO4等の燐酸マンガン類、及びこれらのリチウム遷移金属燐酸化合物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si、Nb、Mo、Sn、W等の他の金属で置換したものが挙げられる。
中でも、リチウム鉄燐酸化合物が好ましい、鉄は資源量も豊富で極めて安価な金属であり、かつ有害性も少ないためである。すなわち、上記の具体例のうち、LiFePO4をより好ましい具体例として挙げることができる。
【0106】
前記リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物の遷移金属としては、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が好ましく、前記リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物の具体例としては、例えば、Li2FeSiO4等のケイ酸鉄類、Li2CoSiO4等のケイ酸コバルト類、これらのリチウム遷移金属ケイ酸化合物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si、Nb、Mo、Sn、W等の他の金属で置換したもの等が挙げられる。
【0107】
前記リチウム含有遷移金属ホウ酸化合物の遷移金属としては、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が好ましく、前記ホウ酸化合物の具体例としては、例えば、LiFeBO3等のホウ酸鉄類、LiCoBO3等のホウ酸コバルト類、これらのリチウム遷移金属ホウ酸化合物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si、Nb、Mo、Sn、W等の他の金属で置換したもの等が挙げられる。
【0108】
非水系電解液二次電池に用いる正極には、組成式(3)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物が用いられることが好ましい。
Lia101Nib101Coc101Md101O2・・・(3)
(式(3)中、a101、b101、c101及びd101は各々、0.90≦a101≦1.10、0.40≦b101≦0.98、0.01≦c101<0.50、0.01≦d101<0.50を満たす数値を示し、b101+c101+d101=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
b101が0.50以上0.98以下であることが好ましい。
【0109】
組成式(3)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物の好適な具体例としては、例えば、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2、LiNi0.4Co0.4Mn0.2O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、Li1.05Ni0.50Co0.20Mn0.30O2、Li1.05Ni0.50Mn0.29Co0.21O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2が挙げられる。
【0110】
組成式(3)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物として、下記組成式(4)で表されるものが好ましい。アルカリ不純物と一般式(1)で表される化合物が好適に反応し、高温保存時のガス抑制効果がさらに高まるからである。
Lia102Nib102Coc102Md102O2・・・(4)
(式(4)中、a102、b102、c102及びd102は各々、0.90≦a102≦1.10、0.50≦b102≦0.98、0.01≦c102<0.40、0.01≦d102<0.40を満たす数値を示し、b102+c102+d102=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
【0111】
組成式(4)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物の好適な具体例としては、例えば、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、Li1.05Ni0.50Co0.20Mn0.30O2、Li1.05Ni0.50Mn0.29Co0.21O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2等が挙げられる。
【0112】
組成式(3)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物として、下記組成式(5)で表されるものも好ましい。アルカリ不純物と一般式(1)で表される化合物が好適に反応し、高温保存時のガス抑制効果がより高まるからである。
Lia103Nib103Coc103Md103O2・・・(5)
(式(5)中、a103、b103、c103及びd103は各々、0.90≦a103≦1.10、0.50≦b103≦0.90、0.05≦c103≦0.30、0.05≦d103≦0.30を満たす数値を示し、かつb103+c103+d103=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
【0113】
組成式(3)であるリチウム遷移金属複合酸化物として、下記組成式(6)で表されるものも好ましい。アルカリ不純物と一般式(1)で表される化合物が好適に反応し、高温保存時のガス抑制効果がさらに高まるからである。
Lia104Nib104Coc104Md104O2・・・(6)
(式(16)中、a104、b104、c104及びd104は各々、0.90≦a104≦1.10、0.50≦b104≦0.80、0.10≦c104≦0.30、0.10≦d104≦0.30を満たす数値を示し、かつb104+c104+d104=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
【0114】
組成式(3)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物として、下記組成式(7)で表されるものが特に好ましい。アルカリ不純物と一般式(1)で表される化合物が好適に反応し、高温保存時のガス抑制効果がさらに高まるからである。
Lia105Nib105Coc105Md105O2・・・(7)
(式(7)中、a105、b105、c105及びd105は各々、0.90≦a105≦1.10、0.55≦b105≦0.98、0.01≦c105<0.30、0.01≦d105<0.30を満たす数値を示し、かつb105+c105+d105=1を満たす。MはMn、Al、Mg、Zr、Fe、Ti及びErからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表す。)
【0115】
組成式(7)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物の好適な具体例としては、例えば、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2等が挙げられる。
【0116】
上記組成式(3)~(7)中、MはMn又はAlを含むことが好ましく、Mnを含むことがより好ましく、Mn又はAlであることがさらに好ましく、Mnであることが特に好ましい。リチウム遷移金属複合酸化物の構造安定性が高まり、繰り返し充放電した際の構造劣化が抑制されるからである。
【0117】
上記の正極活物質のうち1種を用いてもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。また、上記の正極活物質のうち少なくとも1種と他の正極活物質とを混合して使用してもよい。他の正極活物質の例としては、上記に挙げられていない遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、遷移金属燐酸化合物、遷移金属ケイ酸化合物、遷移金属ホウ酸化合物が挙げられる。
【0118】
リチウム遷移金属複合酸化物と併用する正極活物質としては、上述した、スピネル型構造を有するリチウム・マンガン複合酸化物又はオリビン型構造を有するリチウム含有遷移金属燐酸化合物が好ましい。
また、リチウム含有遷移金属燐酸化合物の遷移金属としては、上述したものを用いることができる。また、好ましい態様も同様である
【0119】
(表面被覆)
正極活物質の表面に、正極活物質とは異なる組成の物質(表面付着物質)が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム等の酸化物、硫酸リチウム等の硫酸塩、炭酸リチウム等の炭酸塩等が挙げられる。
これら表面付着物質は、例えば、溶媒に溶解又は懸濁させて該正極活物質に含浸添加、乾燥する方法等により該正極活物質表面に付着させることができる。
表面付着物質の量としては、該正極活物質に対して、好ましくは1μmol/g以上であり、また、10μmol/g以上が好ましく、通常1mmol/g以下で用いられる。
本明細書においては、正極活物質の表面に、上記表面付着物質が付着したものも「正極活物質」という。
【0120】
[2-1-4-2.正極の構成と作製法]
以下に、正極の構成及びその作製法について説明する。
【0121】
(正極の作製法)
以下に、正極の構成と製造方法について述べる。正極活物質を用いる正極の製造は、公知のいずれの方法でも作製することができる。例えば、正極活物質、導電材及びバインダー、並びに必要に応じて増粘剤等を乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着するか、またはこれらの材料を液体媒体に溶解または分散させてスラリーとして、これを正極集電体に塗布し、乾燥することにより、正極活物質層を集電体上に形成する塗布法により正極を得ることができる。また、例えば、上述の正極活物質をロール成形してシート電極としてもよいし、圧縮成形によりペレット電極としてもよい。
【0122】
(活物質含有量)
正極活物質層中の正極活物質の含有量は、通常60質量%以上、99.9質量%以下である。
【0123】
(導電材)
導電材としては、公知の導電材を任意に用いることができる。具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、アセチレンブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素質材料等が挙げられる。導電材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。正極活物質層中の導電材の含有量は、通常0.01質量%以上、50質量%以下である。
【0124】
(バインダー)
正極活物質層の製造に用いるバインダーは、非水系電解液や電極製造時に用いる溶媒に対して安定な材料であれば、特に限定されない。
【0125】
塗布法で正極活物質層を形成する場合は、バインダーはスラリー用の液体媒体に対して溶解または分散される材料であれば特に限定されないが、その具体例としては、耐候性、耐薬品性、耐熱性、難燃性等から、
ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子;
ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンシアニド等のCN基含有ポリマー;等が好ましく挙げられる。
また、上記のポリマーなどの混合物、変成体、誘導体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体なども使用できる。なお、バインダーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
また、バインダーとして樹脂を用いる場合、その樹脂の重量平均分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1万以上300万以下である。分子量がこの範囲であると電極の強度が向上し、電極の形成を好適に行うことができる。
正極活物質層中のバインダーの含有量は、通常0.1質量%以上、80質量%以下である。
【0126】
(液体媒体)
正極活物質層を形成するためのスラリーの調製に用いる液体媒体としては、正極活物質、導電材、バインダー、並びに必要に応じて使用される増粘剤等を溶解または分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いてもよい。有機系溶媒の例としては、N-メチルピロリドン(NMP)等のアミド類等を挙げることができる。
なお、液体媒体は、1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0127】
(密度)
集電体への上記スラリーの塗布、乾燥によって得られた正極活物質層は、正極活物質の充填密度を上げるために、ハンドプレス、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。正極活物質層の密度は、1g・cm-3以上が好ましく、1.5g・cm-3以上がより好ましく、2g・cm-3以上がさらに好ましく、3.0g・cm-3以上が殊更に好ましく、3.3g・cm-3以上が特に好ましく、また、4g・cm-3以下が好ましく、3.8g・cm-3以下がより好ましく、3.5g・cm-3以下が特に好ましい。
正極活物質層の密度が、上記範囲内であると、集電体/活物質界面付近への非水系電解液の浸透性が低下することなく、特に二次電池の高電流密度での充放電特性が良好となる。さらに、活物質間の導電性が低下し難くなり、電池抵抗が増大し難くなる。
【0128】
(集電体)
正極集電体の材質としては特に制限は無く、公知のものを任意に用いることができる。具体例としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料が挙げられる。中でも、アルミニウムが好ましい。
【0129】
集電体の形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられ、炭素質材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。これらのうち、金属箔又は金属薄膜が好ましい。なお、集電体は適宜メッシュ状に形成してもよい。正極の集電体の形状が板状や膜状等である場合、集電体の厚さは、集電体の強度および取り扱い性の観点から、通常1μm以上、1mm以下である。
【0130】
(正極板の厚さ)
正極板の厚さは、特に限定されないが、高容量かつ高出力、高レート特性の観点から、正極板の厚さから集電体の厚さを差し引いた正極活物質層の厚さは、集電体の片面に対して、通常10μm以上、500μm以下である。
【0131】
(正極板の表面被覆)
また、上記正極板は、その表面に、正極板とは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよく、当該物質としては、正極活物質の表面に付着していてもよい表面付着物質と同じ物質が用いられる。
【0132】
[2-1-5.セパレータ]
非水系電解液二次電池において、正極と負極との間には、短絡を防止するために、通常はセパレータを介在させる。この場合、非水系電解液は、通常はこのセパレータに含浸させて用いる。
【0133】
セパレータの材料としては、本、非水系電解液に対し安定な材料であれば特に制限されないが、好ましくは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン等の樹脂;アルミナや二酸化ケイ素等の酸化物類、窒化アルミや窒化ケイ素等の窒化物類、硫酸バリウムや硫酸カルシウム等の硫酸塩類、ガラス繊維からなるガラスフィルター等の無機物;等が挙げられ、好ましくはポリオレフィン、ガラスフィルターであり、更に好ましくはポリオレフィンである。これらの材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また上記材料を積層させて用いてもよい。
【0134】
更に、セパレータとして多孔性シートや不織布等の多孔質のものを用いる場合、セパレータの空孔率は任意であるが、好ましくは通常20%以上、90%以下である。
【0135】
セパレータの形態としては特に制限されないが、好ましくは、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜形状のものが用いられる。薄膜形状のセパレータでは、平均孔径が0.01~1μm、厚さが1~50μmのものが好適に用いられる。独立した薄膜形状以外に、樹脂製のバインダーを用いて無機物の粒子を含有する複合多孔層を正極及び/または負極の表層に形成させてなるセパレータを用いてもよい。セパレータとしては、保液性に優れるため、微多孔性フィルム及び不織布が好ましい。
【0136】
(透気度)
セパレータの非水系電解液二次電池における透気度は、ガーレ値で把握することができる。ガーレ値とは、フィルム厚さ方向の空気の通り抜け難さを示し、100mlの空気が該フィルムを通過するのに必要な秒数で表される。セパレータのガーレ値は、任意ではあるが、通常10~1000秒/100mlである。
【0137】
[2-1-6.電池設計]
(電極群)
電極群は、前述の正極板と負極板とを前述のセパレータを介してなる積層構造のもの、及び前述の正極板と負極板とを前述のセパレータを介して渦巻き状に捲回した構造のもののいずれでもよい。電極群の体積が電池内容積に占める割合(以下、電極群占有率と称する)は、通常は40%以上、90%以下である。
【0138】
(保護素子)
保護素子として、過大電流等による発熱とともに抵抗が増大するPTC(Positive Temperature Coefficient)サーミスター、温度ヒューズ、異常発熱時に電池内部圧力や内部温度の急激な上昇により回路に流れる電流を遮断する弁(電流遮断弁)等を使用することができる。上記保護素子は高電流の通常使用で作動しない条件のものを選択することが好ましく、保護素子がなくても異常発熱や熱暴走に至らない設計にすることがより好ましい。
【0139】
(外装体)
非水系電解液二次電池は、通常、上記の非水系電解液、負極、正極、セパレータ等を外装体(外装ケース)内に収納して構成される。この外装体に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り公知のものを任意に採用することができる。
【0140】
外装ケースの材質は用いられる非水系電解液に対して安定な物質であれば特に限定されるものではないが、軽量化の観点から、アルミニウムまたはアルミニウム合金の金属、ラミネートフィルムが好適に用いられる。
上記金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、または、樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。
【0141】
(形状)
また、外装ケースの形状も任意であり、例えば円筒型、角形、ラミネート型、コイン型、大型等のいずれであってもよい。
【0142】
[2-2.非水系電解液一次電池]
正極に金属イオンを吸蔵可能な材料を用い、負極に金属イオンを放出可能な材料を用いる。正極材料としてはフッ化黒鉛、二酸化マンガン等の遷移金属酸化物が好ましい。負極材料としては亜鉛やリチウムなどの金属単体が好ましい。非水系電解液には、上述の非水系電解液を用いる。
【0143】
[2-3.金属イオンキャパシタ]
正極に電気二重層を形成できる材料を用い、負極に金属イオンを吸蔵・放出可能な材料を用いる。正極材料としては活性炭が好ましい。また負極材料としては、炭素質材料が好ましい。非水系電解液には、上述の非水系電解液を用いる。
【0144】
[2-4.電気二重層キャパシタ]
電極には電気二重層を形成できる材料を用いる。電極材料としては活性炭が好ましい。非水系電解液には、上述の非水系電解液を用いる。
【実施例】
【0145】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0146】
実施例に使用した化合物を以下に示す。
【0147】
【化11】
炭酸3-[エテニル(ジメチル)シリル]プロピルメチル
【化12】
ジメチル(3-メトキシプロピル)ビニルシラン
【化13】
酢酸3-[エテニル(ジメチル)シリル]プロピル
【化14】
メタンスルホン酸3-[エテニル(ジメチル)シリル]プロピル
【0148】
また、比較例に使用した化合物の構造を以下に示す。
【化15】
トリメチルビニルシラン
【化16】
(3-シアノプロピル)ジメチルビニルシラン
【化17】
メタンスルホン酸無水物
【化18】
メタンスルホン酸エチル
【化19】
メタンスルホン酸3-(トリメチルシリル)プロピル
【0149】
<実施例1-1~1-6及び比較例1-1~1-6>
[実施例1-1]
[非水系電解液の調製]
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(「EC」ともいう)、エチルメチルカーボネート(「EMC」ともいう)及びジメチルカーボネート(「DMC」ともいう)からなる混合溶媒(混合体積比 EC:EMC:DMC=2:4:4)に、電解質であるLiPF6を1.2mol/L(14.7質量%、非水系電解液中の濃度として)の割合で溶解させた。そして、添加剤としてジフルオロリン酸リチウム1.0質量%及びビニレンカーボネート(「VC」ともいう)1.0質量%を溶解させて基本電解液とした。更に、かかる基本電解液に対して、添加剤として化合物(1-1)0.5質量%を添加して実施例1-1の非水系電解液を調製した。なお、添加剤の含有量は、非水系電解液全量を100質量%とした時の含有量である。
【0150】
[正極の作製]
正極活物質としてリチウムコバルトニッケルマンガン酸化物(LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2)94質量部と、導電材としてアセチレンブラック3質量部と、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)3質量部とを、N-メチルピロリドン溶媒中で、ディスパーザーで混合してスラリー化した。これを厚さ15μmのアルミニウム箔の片面に均一に塗布、乾燥した後、正極活物質層の密度が3.3g・cm-3になるようにプレスして、正極とした。
【0151】
[負極の作製]
負極活物質として天然黒鉛粉末、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)、結着材としてスチレン-ブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレン-ブタジエンゴムの濃度50質量%)を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。このスラリーを厚さ10μmの銅箔の片面に均一に塗布、乾燥した後、プレスして負極とした。なお、乾燥後の負極において、天然黒鉛:カルボキシメチルセルロースナトリウム:スチレン-ブタジエンゴム=98:1:1の質量比となるように作製した。
【0152】
[リチウム二次電池の作製]
上記の正極、負極、及びポリプロピレン製のセパレータを、負極、セパレータ、正極、セパレータ、負極の順に積層して電池要素を作製した。この電池要素をアルミニウム(厚さ40μm)の両面を樹脂層で被覆したラミネートフィルムからなる袋内に正・負極の端子が突設するように挿入した後、非水系電解液を袋内に注入し、真空封止を行ない、シート状のリチウム二次電池を作製した。
【0153】
[初期充放電]
リチウム二次電池をガラス板で挟んで加圧した状態で、25℃において、0.05Cに相当する電流で10時間定電流充電した後、0.2Cで2.8Vまで定電流放電した。更に、0.2Cに相当する電流で4.1Vまで定電流―定電圧充電(「CC-CV充電」ともいう)(0.05Cカット)した後、60℃、24時間の条件下で放置した。電池を十分に冷却させた後、0.2Cの定電流で2.8Vまで放電した。次いで、0.2Cで4.3VまでCC-CV充電(0.05Cカット)した後、0.2Cで2.8Vまで再度放電し、さらに0.2Cで3.72VまでCC-CV充電(0.05Cカット)して初期の電池を安定させた。
ここで、1Cとは電池の基準容量を1時間で放電する電流値を表し、例えば、0.2Cとはその1/5の電流値を表す。以下同様である。
【0154】
[初期放電抵抗評価試験]
初期充放電を実施したリチウム二次電池を、-20℃において、0.1Cの電流で10秒間放電を実施した。このときの放電前の電池電圧と10秒放電直後の電圧の差分から、オームの法則R(抵抗)=V(電圧)÷I(電流)に従い抵抗を算出し、これを初期放電抵抗とした。
【0155】
[高温保存耐久試験(電池膨れ)]
初期放電抵抗評価試験を実施したリチウム二次電池を、25℃において、0.2Cで4.3VまでCC-CV充電(0.05Cカット)した後、エタノール浴中に浸し、そのときの浮力から保存前電池体積を求めた(アルキメデスの原理)。その後、「60℃、14日間の条件で高温保存を行った後、25℃において、0.2Cで2.8Vまで定電流放電させ、再度25℃において0.2Cの定電流で4.3VまでCC-CV充電(0.05Cカット)する操作」を合計2回実施した。さらに、60℃、14日間の条件で高温保存を行った後、電池を十分に冷却させた後、エタノール浴中に浸して体積を測定し、高温保存耐久試験前後の体積変化から電池膨れを求めた。
【0156】
上記作製したリチウム二次電池を用いて、上記の初期充放電試験、初期放電抵抗評価試験及び高温保存耐久試験を実施した。評価結果を、後述する比較例1-1を100.0%としたときの相対値で表1に示す。以下の実施例1-2~1-6、比較例1-2~1-6も同様とする。
【0157】
[実施例1-2]
実施例1-1の電解液において、化合物(1-1)0.5質量%の代わりに、化合物(1-1)1.0質量%を用いた以外、実施例1-1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、上記の評価を実施した。
【0158】
[実施例1-3]
実施例1-1の電解液において、化合物(1-1)0.5質量%の代わりに、化合物(1-1)2.0質量%を用いた以外、実施例1-1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、上記の評価を実施した。
【0159】
[実施例1-4]
実施例1-2の電解液において、化合物(1-1)1.0質量%の代わりに、化合物(1-2)1.0質量%を用いた以外、実施例1-2と同様にしてリチウム二次電池を作製し、上記の評価を実施した。
【0160】
[実施例1-5]
実施例1-2の電解液において、化合物(1-1)1.0質量%の代わりに、化合物(1-3)1.0質量%を用いた以外、実施例1-2と同様にしてリチウム二次電池を作製し、上記の評価を実施した。
【0161】
[実施例1-6]
実施例1-2の電解液において、化合物(1-1)1.0質量%の代わりに、化合物(1-4)1.0質量%を用いた以外、実施例1-2と同様にしてリチウム二次電池を作製し、上記の評価を実施した。
【0162】
[比較例1-1]
実施例1-1の電解液において、化合物(1-1)を含まない基本電解液を用いた以外、実施例1-1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、上記の評価を実施した。
【0163】
[比較例1-2]
実施例1-2の電解液において、化合物(1-1)1.0質量%の代わりに、化合物(2-1)1.0質量%を用いた以外、実施例1-2と同様にしてリチウム二次電池を作製し、上記の評価を実施した。
【0164】
[比較例1-3]
実施例1-2の電解液において、化合物(1-1)1.0質量%の代わりに、化合物(2-2)1.0質量%を用いた以外、実施例1-2と同様にしてリチウム二次電池を作製し、上記の評価を実施した。
【0165】
[比較例1-4]
実施例1-2の電解液において、化合物(1-1)1.0質量%の代わりに、化合物(2-3)1.0質量%を用いた以外、実施例1-2と同様にしてリチウム二次電池を作製し、上記の評価を実施した。
【0166】
[比較例1-5]
実施例1-2の電解液において、化合物(1-1)1.0質量%の代わりに、化合物(2-4)1.0質量%を用いた以外、実施例1-2と同様にしてリチウム二次電池を作製し、上記の評価を実施した。
【0167】
[比較例1-6]
実施例1-2の電解液において、化合物(1-1)1.0質量%の代わりに、化合物(2-1)0.45質量%、及び化合物(2-1)0.56質量%を用いた以外、実施例1-2と同様にしてリチウム二次電池を作製し、上記の評価を実施した。
【0168】
【0169】
表1から、実施例1-1~1-6の電解液を用いると、式(1)で表される化合物を含有しない場合(比較例1-1)に比べ、初期放電抵抗を増加させずに電池膨れを抑制できることがわかる。一方、比較例1-2の電解液では、初期放電抵抗が増加してしまう上に、電池膨れ抑制効果も弱いことがわかる。比較例1-3~1-6の電解液では、電池膨れは抑制されたが、初期放電抵抗が増加することがわかった。よって、本発明にかかる非水系電解液を用いたリチウム二次電池の方が優れた特性を有することは明らかである。
【0170】
<実施例2-1~2-2及び比較例2-1~2-2>
[実施例2-1]
実施例1-6の電解液において、ジフルオロリン酸リチウムを含まず、化合物(1-4)1.0質量%の代わりに、化合物(1-4)0.5質量%を含む電解液を用いた以外、実施例1-6と同様にしてリチウム二次電池を作製し、上記の評価を実施した。
【0171】
[実施例2-2]
実施例2-1の電解液において、ジフルオロリン酸リチウムを0.5%質量%用いた以外、実施例2-1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、上記の評価を実施した。
【0172】
[比較例2-1]
比較例1-1の電解液において、ジフルオロリン酸リチウムを含まない電解液を用いた以外、比較例1-1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、上記の評価を実施した。
【0173】
[比較例2-2]
比較例2-1の電解液において、ジフルオロリン酸リチウムを0.5%質量%用いた以外、比較例2-1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、上記の評価を実施した。
【0174】
【0175】
表2から、実施例2-1~2-2の電解液を用いると、式(1)で表される化合物が添加されていない場合(比較例2-1~2-2)に比べ、初期放電抵抗を増加させずに電池膨れを抑制できることがわかる。また、比較例2-2の電解液では、電池膨れが増加したが、ジフルオロリン酸リチウムと化合物1-4とを組み合わせた実施例2-2では、実施例2-1及び比較例2-1と比べて電池膨れの増加が見られなかった。すなわち、式(1)で表される化合物とジフルオロリン酸リチウムを組み合わせることにより、相乗的な電池膨れ抑制効果が発現することがわかった。よって、本発明にかかる非水系電解液を用いたリチウム二次電池の方が優れた特性を有することは明らかである。
【0176】
<実施例3-1及び比較例3-1~3-2>
[実施例3-1]
実施例1-6の電解液において、化合物(1-4)1.0質量%の代わりに、化合物(1-4)0.5質量%を用い、作製したリチウム二次電池を用いた高温保存試験の高温保存期間において、「60℃、14日間」を2回実施する代わりに、「85℃、1日間」とした以外は同様の試験を行い、初期放電抵抗と電池膨れを求めた。
【0177】
[比較例3-1]
比較例1-1で作製したリチウム二次電池を用いた高温保存試験の高温保存期間において、「60℃、14日間」を2回実施する代わりに、「85℃、1日間」とした以外は同様の試験を行い、初期放電抵抗と電池膨れを求めた。
【0178】
[比較例3-2]
実施例3-1の電解液において、化合物(1-4)0.5質量%の代わりに、化合物(2-5)0.5質量%を用いた以外、実施例3-1と同様にしてリチウム二次電池を作製し、上記の評価を実施した。
【0179】
【0180】
表3から、実施例3-1の電解液を用いると、式(1)で表される化合物を含まない場合(比較例3-1~3-2)に比べ、初期放電抵抗を増加させずに電池膨れを抑制できることがわかる。よって、本発明にかかる非水系電解液を用いたリチウム二次電池の方が優れた特性を有することは明らかである。
【0181】
本出願は、2019年7月31日出願の日本特許出願(特願2019-141464)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0182】
本発明の非水系電解液によれば、非水系電解液を含むエネルギーデバイスの初期放電抵抗が低減され、かつ、保存時のガス発生の抑制された、エネルギーデバイスが提供することができるので、当該電解液はエネルギーデバイスが用いられる電子機器等のあらゆる分野において好適に利用できる。
また、非水系電解液及びこれを用いたエネルギーデバイスは、エネルギーデバイスを用いる公知の各種用途に用いることが可能である。具体例としては、例えば、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、携帯オーディオプレーヤー、小型ビデオカメラ、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、バイク、原動機付自転車、自転車、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、電動工具、ストロボ、カメラ、家庭用バックアップ電源、事業所用バックアップ電源、負荷平準化用電源、自然エネルギー貯蔵電源、リチウムイオンキャパシタ等が挙げられる。