(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】多孔質球状シリカ、触媒担体、化粧品、分析カラム、研磨剤、樹脂組成物、および、多孔質球状シリカの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20241112BHJP
B01J 32/00 20060101ALI20241112BHJP
B01J 37/00 20060101ALI20241112BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20241112BHJP
B01J 35/60 20240101ALI20241112BHJP
B01J 35/51 20240101ALI20241112BHJP
B01J 35/37 20240101ALI20241112BHJP
A61K 8/25 20060101ALI20241112BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20241112BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20241112BHJP
A61K 8/04 20060101ALI20241112BHJP
B01J 20/283 20060101ALI20241112BHJP
B01J 20/281 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C01B33/18 E
B01J32/00
B01J37/00 F
B01J37/08
B01J35/60 Z
B01J35/51
B01J35/37
A61K8/25
A61K8/02
A61Q19/00
A61K8/04
B01J20/283
B01J20/281 G
B01J20/281 A
(21)【出願番号】P 2024533840
(86)(22)【出願日】2024-02-29
(86)【国際出願番号】 JP2024007618
【審査請求日】2024-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2023033927
(32)【優先日】2023-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】吉村 典子
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/154014(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/131873(WO,A1)
【文献】特開2020-193144(JP,A)
【文献】特開2014-210671(JP,A)
【文献】特開2010-100503(JP,A)
【文献】特開2020-79165(JP,A)
【文献】国際公開第2009/072218(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
A61Q 1/00-90/00
A61K 8/00ー8/99
B01J 21/00-38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コールターカウンター法で測定される体積基準の累積50%径(D50)が2μm以上200μm以下の範囲にあり、
同じく累積10%径(D10)と、累積90%径(D90)との比(D10/D90)が0.3以上であり、
BJH法による細孔容積が0.5ml/g以上、8ml/g以下であり、
BJH法による細孔半径の最頻値が5nm以上、50nm以下であり、
BET法による比表面積が50m
2/g以上、400m
2/g以下であり、
JIS Z8844に規定される方法に従って、負荷速度を0.4462mN/secとして求めた粒子10個についての「試料の破壊が認められたときの試験力」の算術平均値が1.0×10
1mN以上2.0×10
1mN以下であり、
SEM画像で観察される粒子200個について、円形度が0.7以下の粒子が20個以下であり、
アルカリ金属含有率が50ppm以下であることを特徴とする多孔質球状シリカ。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔質球状シリカを含む触媒担体。
【請求項3】
請求項1に記載の多孔質球状シリカを含む化粧品。
【請求項4】
請求項1に記載の多孔質球状シリカを含む分析カラム。
【請求項5】
請求項1に記載の多孔質球状シリカを含む研磨剤。
【請求項6】
請求項1に記載の多孔質球状シリカを含む樹脂組成物。
【請求項7】
フュームドシリカが分散した水相と、非水溶性溶媒を主成分とする有機相からなるW/Oエマルションを調製する工程、
エマルションを加熱して水相をゲル化させ、ゲル化体分散液を得る工程、
生じたゲル化体を液中から回収し噴霧乾燥する工程、及び、
得られた多孔質球状シリカを900~1500℃の温度で10~25時間焼成する工程、
を含んでなる多孔質球状シリカの製造方法。
【請求項8】
噴霧乾燥の噴霧方式が二流体ノズル方式であることを特徴とする請求項7に記載の多孔質球状シリカの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な多孔質球状シリカ、触媒担体、化粧品、分析カラム、研磨剤、樹脂組成物、および、多孔質球状シリカの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質シリカは種々に検討され、多様な物性を有する多孔質シリカが提案されている。多孔質シリカは、例えば、ケイ酸アルカリ金属水溶液に鉱酸を添加することで中和し、生成した粒子を分離・回収する方法(特許文献1)や、フュームドシリカ分散液を噴霧乾燥する方法(特許文献2)、フュームドシリカ分散液を液中でゲル化させる方法(特許文献3)によって製造される。上記の方法によって製造される多孔質シリカは、細孔容積や細孔径に特徴を持ち、触媒の担体や分析カラムの充填剤としての利用が期待される。さらに工業製品等の研磨剤として使用する場合には、細孔内部へ樹脂が浸入することにより、研磨パット上の樹脂への固定が容易になる。上記用途に球状品を使用することで、粒径の調整や充填率の向上が容易となるといったメリットがある。加えて、多孔質球状シリカは形状由来の滑らかな感触性を有するため、化粧品添加剤としても有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2004/101139号パンフレット
【文献】国際公開第2019/131873号パンフレット
【文献】国際公開第2022/154014号パンフレット
【非特許文献】
【0004】
【文献】「ファインセラミックスの焼結」、粉体工学会誌、Vol.25、No.12、(1988)、p.805-811
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、多孔質シリカはその多孔質構造に由来した易崩壊性を有するため、長期間使用される触媒の担体や、流体中で使用される分析カラムの充填剤の用途では、耐久性に課題があった。また、工業製品等の研磨剤の用途では、樹脂への混錬工程で粒子形状の歪みや粒子破壊が生じ、ハンドリング性が悪化する問題があった。一般に無機材料の硬度を上昇させる方法として、焼成する手法が取られているが(非特許文献1)、ケイ酸ナトリウムを原料とする特許文献1に記載の多孔質シリカでは、原料由来のナトリウムの含有によって生じる融点降下により、高温下での焼成では細孔が閉塞し、多孔質構造を維持することができない。
【0006】
フュームドシリカ分散液を噴霧乾燥して得られる特許文献2に記載の多孔質シリカでは、焼成後の圧縮強度が低く、硬度の高いシリカを得ることはできない。フュームドシリカ分散液を液中でゲル化して得られる特許文献3に記載の多孔質シリカでは、焼成によって粒子同士の凝集し、解砕工程が必要となるが、この工程で破片状の微粉が生じ、粒子全体としての円形度が低下する。上記微粉の混入は、当該多孔質球状シリカを分析カラムの充填剤の用途で使用した場合、カラム閉塞の要因となり、また当該多孔質球状シリカを化粧品添加剤として使用した場合、感触性が悪化する。
【0007】
したがって、本発明の目的は、アルカリ金属の含有率が低減されており、粒子の硬度が高く、破片状粒子の個数が低減された独立球状の多孔質球状シリカとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねてきた。その結果、多孔質球状シリカの製造工程において、フュームドシリカ分散液を液中でゲル化させることによって得られたゲル化体を、噴霧乾燥した後に焼成することにより、アルカリ金属の含有率が低減されており、粒子の硬度が高く、破片状粒子の個数が低減された独立球状の多孔質球状シリカを製造することができることを見出し、以下の本発明を完成するに至った。
【0009】
[1] コールターカウンター法で測定される体積基準の累積50%径(D50)が2μm以上200μm以下の範囲にあり、
同じく累積10%径(D10)と、累積90%径(D90)との比(D10/D90)が0.3以上であり、
BJH法による細孔容積が0.5ml/g以上、8ml/g以下であり、
BJH法による細孔半径の最頻値が5nm以上、50nm以下であり、
BET法による比表面積が50m2/g以上、400m2/g以下であり、
JIS Z8844に規定される方法に従って、負荷速度を0.4462mN/secとして求めた粒子10個についての「試料の破壊が認められたときの試験力」の算術平均値が1.0×101mN以上2.0×101mN以下であり、
SEM画像で観察される粒子200個について、円形度が0.7以下の粒子が20個以下であり、
アルカリ金属含有率が50ppm以下であることを特徴とする多孔質球状シリカ。
【0010】
[2] [1]に記載の多孔質球状シリカを含む触媒担体。
[3] [1]に記載の多孔質球状シリカを含む化粧品。
[4] [1]に記載の多孔質球状シリカを含む分析カラム。
【0011】
[5] [1]に記載の多孔質球状シリカを含む研磨剤。
[6] [1]に記載の多孔質球状シリカを含む樹脂組成物。
【0012】
[7] フュームドシリカが分散した水相と、非水溶性溶媒を主成分とする有機相からなるW/Oエマルションを調製する工程、
エマルションを加熱して水相をゲル化させ、ゲル化体分散液を得る工程、
生じたゲル化体を液中から回収し噴霧乾燥する工程、及び、
得られた多孔質球状シリカを900~1500℃の温度で10~25時間焼成する工程、を含んでなる多孔質球状シリカの製造方法。
[8] 噴霧乾燥の噴霧方式が二流体ノズル方式であることを特徴とする[7]に記載の多孔質球状シリカの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の多孔質球状シリカは、細孔容積が高く、「試料の破壊が認められたときの試験力」の高さが示すように、高い硬度を有するため、長期間の使用あるいは流体中の使用であっても、粒子の崩壊や細孔の閉塞を生じることなく、多孔質構造を維持することができる。よって、本発明の多孔質球状シリカを使用することで触媒の担体や二酸化炭素等の吸着材、分析カラムの充填剤に要求される耐久性を向上させることができる。さらに、工業製品等の研磨剤として使用する場合には、樹脂への混錬に耐えうる粒子強度となり、製造工程でのハンドリング性が向上する。
【0014】
加えて、高いD10/D90で示されるように、粒度分布の幅が狭いため、分析カラムの充填剤として使用した場合には、粒子間隙に微粉が入り込むことによる閉塞が生じにくくなる。
【0015】
さらに、SEM画像で観察される粒子200個について、円形度が0.7以下の粒子が20個以下と、破片状粒子の個数が低減されており、粒子が独立球状であるため、化粧品添加剤として使用することで、滑らかな感触性を付与することができる。
また、アルカリ金属含有率が50ppm以下と純度が高く、特に半導体等のアルカリ金属の含有を嫌うものを対象とする研磨剤として極めて有用である。
【0016】
本発明の製造方法は、原体を噴霧乾燥した後、焼成することで、粒子同士の凝集を抑制するため、解砕工程を含まないプロセスでの製造が可能となる。これにより、解砕工程を実施した場合に、生じ得る破片状粒子を抑制することができ、微粉の発生や粒子全体としての円形度の低下を生じずに、前記特徴を有する多孔質球状シリカを製造することができる。
【0017】
また、本発明の製造方法は、特定の条件で焼成することにより、一次粒子間の結合の強度を向上させている。これにより、粒子の硬度が高い多孔質球状シリカを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明がこれらの形態に限定されるものではない。
【0019】
<多孔質球状シリカ>
本発明の多孔質球状シリカは、コールターカウンター法で測定される粒度分布における体積基準の累積50%径(D50)が、2μm以上200μm以下の範囲にあり、同じく累積10%径(D10)と、累積90%径(D90)との比(D10/D90)が0.3以上である。多孔質球状シリカが上記の範囲であれば、分析カラムの充填剤として使用した際に、カラムの閉塞が生じにくく、充填が容易になる。D50は好ましくは2μm以上100μm以下であり、特に好ましくは5μm以上50μm以下であり、さらに好ましくは5μm以上20μm以下である。またD10/D90は、好ましくは0.4以上であり、更に好ましくは、0.5以上である。なおD10/D90は1.0を超えることは有り得ず、一般には0.6以下である。
【0020】
本発明の多孔質球状シリカは、下記のBJH法により測定される細孔容積が0.5ml/g以上、8ml/g以下である。細孔容積が8ml/gを超えて大きなものを得ることは困難である。6ml/g以下であれば、より製造しやすく、4ml/以下であればさらに製造しやすく、2.5ml/g以下であれば、特に製造しやすい。特に本発明の多孔質球状シリカを触媒の担体や二酸化炭素等の吸着材として用いる場合、高い担持量や吸着量を有するためには、細孔容積は0.6ml/g以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.7ml/g以上であり、1.0ml/g以上であることはより好ましい。
【0021】
また、BJH法による細孔半径の最頻値は、5nm以上であり、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることはより好ましい。また上限としては50nm以下であり、30nm以下であることが好ましい。
【0022】
なお当該BJH法による細孔容積及び細孔半径は、測定対象のサンプルを、1kPa以下の真空下において、200℃の温度で3時間以上乾燥させ、その後、液体窒素温度における窒素の吸着側のみの吸着等温線を取得し、BJH法(Barrett, E. P. ;Joyner, L. G. ;Halenda, P. P. , J. Am. Chem. Soc. 73, 373 (1951)により解析して得られたものである。「BJH法による細孔半径の最頻値」とは、上記BJH法によって解析して得られる、細孔半径の対数による累積細孔容積の微分を縦軸にとり細孔半径を横軸にとってプロットした細孔分布曲線(体積分布曲線)が最大値をとる細孔半径の値を意味する 。
【0023】
本発明の多孔質球状シリカは、BET法による比表面積が50m2/g以上、400m2/g以下である。比表面積は好ましくは100m2/g以上であり、120m2/g以上、350m2/g以下の範囲にあることは特に好ましい。原料として使用するフュームドシリカの比表面積が高い程、多孔質球状シリカの比表面積は高くなる。また、フュームドシリカの比表面積が高い程、ゲル化が起こりやすく、球状への成形が容易になるが、一般にフュームドシリカの比表面積は400m2/g以下であるため、比表面積が400m2/gを超える多孔質球状シリカを得ることは困難である。なお、比表面積は、窒素吸着BET多点法による値である。
【0024】
本発明の多孔質球状シリカは、JIS Z8844:2019に規定される方法に従って、負荷速度を0.4462mN/secとして求めた粒子10個についての「試料の破壊が認められたときの試験力」(以下、「破壊時の試験力」)の算術平均値が1.0×101~2.0×101mNである。破壊時の試験力が2.0×101mNを超えると細孔容積が0.5ml/g以上の多孔質球状シリカを得ることが困難となる。好ましくは1.0×101~1.8×101mNである。破壊時の試験力が上記範囲であれば、粒子の硬度が高く、目的の耐久性を持つ多孔質球状シリカとなる。
【0025】
本発明の多孔質球状シリカは、アルカリ金属の含有率が50ppm以下である(質量基準)。アルカリ金属含有率が特に40ppm以下であることが好ましく、30ppm以下であることはより好ましい。
【0026】
本発明の多孔質球状シリカは、その形状が球状である。ここで、球状とは、走査電子顕微鏡(SEM)を用いた画像解析法により求めた平均円形度が0.8以上であることを意味する。「画像解析法により求めた平均円形度」とは、2000個以上の多孔質球状シリカについて、SEMにより1000倍の倍率で観察したSEM像を画像解析して得られる円形度の相加平均値である。ここで「円形度」とは、下記式(1)により求められる値である。
【0027】
C=4πS/L2 (1)
上記式(1)において、Cは円形度、Sは当該多孔質球状シリカが画像中に占める面積(投影面積)、Lは画像中における当該多孔質球状シリカの外周部の長さ(周囲長)を表す。平均円形度は特に好ましくは0.85以上である。
【0028】
本発明の多孔質球状シリカは、SEM画像で観察される粒子200個のうち、破片状粒子の個数が20個以下である。ここで、破片状粒子とは、前述の定義に従って算出される円形度が0.7以下である粒子を意味する。破片状粒子の個数は15個以下であることが好ましく、10個以下であることはより好ましい。
【0029】
また本発明の多孔質球状シリカは、親水性であってもよいし、疎水性であってもよい。後述する製造方法で製造される本発明の多孔質球状シリカは親水性である。疎水性のものは、当該製造方法によって親水性の多孔質球状シリカを得た後にシリカ表面処理の方法を適宜適用したりして有ることができる。なおここで「親水性」であるとは、有機溶媒を含まない水に分散可能なことをいう。
【0030】
本発明の多孔質球状シリカは、上記のような特性を持つため、触媒や香料の担体、二酸化炭素等の吸着材、分析カラムの充填剤、化粧品添加剤、工業用製品等の研磨剤、各種樹脂組成物用添加剤として用いることができる。
【0031】
<多孔質球状シリカの製造方法>
上記本発明の多孔質球状シリカを製造する方法は、特に限定されないが、前記高い細孔容積と細孔半径の最頻径は、フュームドシリカ分散液を原料として使用することにより容易に実現される。一般に、フュームドシリカは微粒子状シリカ(一次粒子)が凝集した構造を有している。そのため、フュームドシリカ分散液を多孔質球状シリカの原料として使用し、該分散液中のフュームドシリカをゲル化させて、ネットワークを形成させることで、乾燥収縮による細孔容積の減少が抑制され、高い細孔容積を有する多孔質球状シリカを得ることが可能となる。
【0032】
より具体的には、フュームドシリカが分散した水相と、非水溶性溶媒を主成分とする有機相からなるW/Oエマルションを調整し(W/Oエマルション調整工程)、次いで、エマルションを加熱して水相をゲル化させ、多孔質球状シリカ分散液を得た後に(ゲル化工程)、生じた多孔質球状シリカを液中から回収し(ゲル化体回収工程)、噴霧乾燥(乾燥工程)、焼成する(焼成工程)ことで多孔質球状シリカを製造する方法が挙げられる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0033】
(W/Oエマルション調製工程)
フュームドシリカが分散した水相と、非水溶性溶媒を主成分とする有機相からなるW/Oエマルションを調整する方法としては、まず水相にフュームドシリカを分散した分散液を調製し(分散液調製工程)、これと有機溶媒とを用いて定法に従いエマルションを調整する(エマルション化工程)方法を採用することが特に好ましい。以下、これらを更に説明する。
【0034】
(分散液調製工程)
分散液調製工程は、フュームドシリカを水に分散させて、分散液を調製する工程である。
【0035】
使用するフュームドシリカは水に分散可能であり、かつ、加熱、pHの調整等によりゲル化可能なものである。このような性状は、シリカ表面に多数のシラノール基を有することにより達せられるから、いわゆる表面処理をしていないフュームドシリカであれば、殆どのものが使用できる。またゲル化の進行の容易さから、フュームドシリカの比表面積としては100m2/g以上、特に200m2/g以上のものを用いることが好ましい。250m2/g以上であることはさらに好ましい。比表面積が大きいほどゲル化の進行速度が速く、該フュームドシリカが分散した液滴(W相)をゲル化させることが容易になる。入手の容易さから、上限としては400m2/gのものを用いることが好ましい。なお、比表面積は、窒素吸着BET多点法による値である。
【0036】
またここで説明する方法で得られる多孔質球状シリカの比表面積は、原料として使用したフュームドシリカの比表面積が高い程、高くなる。したがって、目的とする多孔質球状シリカの比表面積に応じて、原料として使用するフュームドシリカを適宜選択することで、製造条件を変更することなく、多孔質球状シリカの比表面積を任意に制御することができる。なお、本発明に用いるヒュームドシリカは、異なる比表面積のものを混合して用いることも可能である 。
【0037】
上記のようなフュームドシリカは商業的に販売されており、例えば、トクヤマ社のレオロシールの各種親水性グレード、日本アエロジル社のアエロジルの各種親水性グレード、旭化成ワッカーシリコーン社の乾式シリカHDKの各種親水性グレードなどが使用できる。
【0038】
また一般に、フュームドシリカは高純度でアルカリ金属などの不純物をほとんど含まないため、製造した多孔質球状シリカのアルカリ金属含有量も極めて少なくできる。
【0039】
この工程の溶媒としては水が必須であるが、エマルションの形成や後のゲル化を阻害しない範囲で他の溶媒が含まれていてもかまわない。また、後述するゲル化を促進するために潜在性塩基を用いる場合は、フュームドシリカを分散させる前に、水に溶解させておくとよい。
【0040】
溶媒中にフュームドシリカを分散する方法としては、溶媒中にフュームドシリカを予備的に分散した分散液を調製し、破砕機等によって微分散することが好ましい。具体的に微分散するために使用できる破砕機の例を挙げると、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、ピンミル、アトマイザー、コロイドミル、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザーがある。微分散後の分散の程度としては、レーザー回折散乱法によって分散液の粒度分布を測定した際に、D90値が0.5μm以下となっていることが好ましい。
【0041】
フュームドシリカ分散液におけるシリカ濃度は、10質量%~30質量%の範囲にあることが好ましい。また、15質量%以上であることはより好ましく、20質量%以上であることは特に好ましい。フュームドシリカ分散液のシリカ濃度が高い程がゲル化の進行速度は速くなるが、濃すぎる場合には、流動性を失ってしまってフュームドシリカ分散液とすることが困難となる。
【0042】
なおフュームドシリカ分散液のゲル化は加熱によって加速される。上記分散液調製工程の段階でフュームドシリカ分散液のゲル化が進行すると、次のエマルション化の工程でW相が球状となり難く、極端な場合はエマルションの成形そのものが困難になる。従って、分散液調製工程ではフュームドシリカ分散液の液温は室温(20℃)程度以下に保つことが好ましい。フュームドシリカの比表面積や濃度が高く、ゲル化が進行しやすい場合などには、室温よりも低い温度(好ましくは15℃以下、より好ましくは12℃以下)に冷却することも有効である。
【0043】
(エマルション化工程)
W/Oエマルション調製工程は、分散液調製工程によって得たフュームドシリカ分散液を非水溶性溶媒中に分散させてW/Oエマルションを形成する工程である。このようなW/Oエマルションを形成することにより、分散質であるフュームドシリカ分散液は表面張力等により球状になるので、該球状形状で非水溶性溶媒中に分散しているフュームドシリカ分散液をゲル化させることにより、球状のゲル化体を得ることができる。
【0044】
本製造方法において使用する非水溶性溶媒としては、フュームドシリカ分散液とエマルションを形成できる程度の疎水性を有した溶媒であればよい。そのような溶媒としては、例えば、炭化水素類やハロゲン化炭化水素類等の有機溶媒を使用することが可能である。より具体的にはヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、流動パラフィン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロプロパン等の非水溶性溶媒が挙げられる。これらの中でも、適度な粘度を有するヘキサン、ヘプタン、デカンを好適に用いることができる。なお必要に応じて、複数の溶媒を混合して用いてもよい。またフュームドシリカ分散液とエマルションを形成し得るものであれば、低級アルコール類などの親水性溶媒を併用する(混合溶媒として使用する)ことも可能である。
【0045】
非水溶性溶媒の使用量は、W/Oエマルションを形成できる範囲であれば特に限定されないが、一般的にはフュームドシリカ分散液1体積部に対して非水溶性溶媒が1~10体積部程度となる量を使用する。
【0046】
本製造方法において、上記W/Oエマルションを形成する際には、界面活性剤を添加することが好ましい。使用する界面活性剤としては、W/Oエマルション形成に用いられる公知の界面活性剤が制限なく使用でき、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、及びノニオン系界面活性剤のいずれも使用可能である。これらの中でも、W/Oエマルションを形成しやすく、アルカリ金属の混入が起こりにくい点で、ノニオン系界面活性剤が好ましい。特に界面活性剤の親水性及び疎水性の程度を示す値であるHLB値が3以上5以下の界面活性剤を好適に用いることができる。なおここで「HLB値」とは、グリフィン法によるHLB値を意味する。好適に用いることのできる界面活性剤の具体的としては、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノセスキオレート等が挙げられる。
【0047】
界面活性剤の使用量は、W/Oエマルションを形成させる際の一般的な量と変わるところがない。具体的には、フュームドシリカ分散液100mlに対して0.05g以上10g以下の範囲を好適に採用することができる。
【0048】
W/Oエマルションを形成する際に、フュームドシリカ分散液を非水溶性溶媒中に分散させる方法としては、W/Oエマルションの公知の形成方法を採用することができる。工業的な製造の容易性などの観点からは、機械乳化によるエマルション形成が好ましく、具体的には、ミキサー、ホモジナイザー等を使用する方法を例示できる。好適には、ホモジナイザーを用いることができる。この乳化工程により水相の液滴の粒度分布がシャープなエマルションが得られるため、最終的に得られる球状多孔質シリカの粒度分布もシャープなものとなる。好ましくは1μm以上100μm未満の粒子を得る場合、より好ましくは8μm以上90μm以下の粒子を得る場合、ホモジナイザーの回転数としては、好ましくは1,000rpm以上15,000rpm以下であり、より好ましくは2,000rpm以上12,000rpm以下であり、さらに好ましくは4,000rpm以上9,000rpm以下である。攪拌時間としては、好ましくは30秒以上1時間以下であり、より好ましくは1分以上30分以下である。
【0049】
(ゲル化工程)
ゲル化工程は、W/Oエマルション調製工程に引き続き、フュームドシリカ分散液の液滴が非水溶性溶媒中に分散している状態において、フュームドシリカ分散液をゲル化させる工程である。該ゲル化は公知の方法で行うことができる。例えば高温に加熱する手法や、フュームドシリカ分散液のpHを弱酸性ないし塩基性に調整する手法により容易にゲル化を進行させることができる。上記手法は、その反応を主体的に制御できる点で好ましい。なお前述の方法で調製し、pH調整を行っていないフュームドシリカ分散液のpHは、一般的に3.0~4.5の範囲にある。
【0050】
加熱を行う場合には、用いた各溶媒の沸点を超えないようにすべきであり、ゲル化温度の下限としては、好ましくは50℃であり、より好ましくは60℃である。上限としては好ましくは100℃以下であり、より好ましくは90℃以下である。
【0051】
上記pH調整は、あらかじめフュームドシリカ分散液に尿素などの加熱によって熱分解し、塩基性を示すような物質(「潜在性塩基」と称す)を混合しておき、ゲル化時に加熱することでpHを上昇させる方法や、ミキサー等による攪拌を行いW/Oエマルション形成状態を維持しながら、塩基を該エマルション中へ添加する方法により容易に行うことができる。
【0052】
当該塩基の具体例としては、アンモニア;水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)等の水酸化テトラアルキルアンモニウム類;トリメチルアミン等のアミン類;水酸化ナトリウム等の水酸化アルカリ類;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩類;及びアルカリ金属ケイ酸塩、等が挙げられる。なお、上記撹拌の強度は、W/Oエマルションと塩基との混合が起きる程度に強ければよい。
【0053】
上記pH調整の方法のなかでも、金属元素の混入がない点で、尿素等の潜在性塩基の熱分解による方法、あるいは塩基としてアンモニア、水酸化テトラアルキルアンモニウム類、又はアミン類を用いる方法が好ましい。pH調整にアンモニアを使用する場合には、アンモニアをガスとして吹き込んでもよいし、アンモニア水として添加してもよい。加熱により全体にむら無くpH調整が可能であるという点で尿素を用いたpH調整を採用することが特に好ましい。
【0054】
pHを調整してゲル化を促進させる際のpHとしては、フュームドシリカ分散液のpH値が4.5~8.0程度に上昇するように添加量を調整することが特に好ましい。潜在性塩基を用いる場合も同様であるが、例えば尿素を用いる場合の具体的な添加量を示すと、フュームドシリカ分散液に対して1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることは特に好ましい。上限としては、7質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることはより好ましい。
【0055】
上記の加熱やpH調整を行う際には、ゲル化体同士の凝集を防ぐために攪拌することが好ましい。攪拌は公知の方法が一般に使用されるが、具体的に例を挙げると、攪拌翼のついたミキサーを使用することができる。
【0056】
またゲル化後は分散質が液体状から固体状へと変化するため、系はW/Oエマルションではなく、固体(ゲル化体)が疎水性溶媒中に分散した分散液(サスペンション)となる。
【0057】
(ゲル化体回収工程)
本製造方法においては、上記のようにして生じたゲル化体を液中から回収する。ゲル化体を回収する方法としては、濾過や遠心分離等、一般的な固液分離の方法が使用できるが、当該回収に先立ち、WO相分離を行っても良い。WO相分離とは、前記ゲル化体分散液をO相とW相の2層に分離するものであり、一般的には解乳とも呼ばれている操作である。ここで前記ゲル化工程により得られたゲル化体は分離したW相側に存在している。これをO相とは分離することにより、ろ過等による固液分離でのゲル化体の回収が容易となる。
【0058】
前記WO相分離方法としては、解乳の方法として公知の方法を適宜選択して実施することができるが、好ましくは、解乳において通常使用される一定量の水溶性有機溶媒をゲル化体分散液に加えて加熱し、O相とW相に分離することにより行う。この工程を経ると、一般に、上層がO相(主に有機溶媒を含む層)、下層がW相(水性有機溶媒とゲル化体を含む水層)となる。
【0059】
上記の水溶性有機溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。このうち、イソプロピルアルコールを特に好適に用いることができる。
【0060】
上記の水溶性有機溶媒の添加量としては、エマルション形成時に用いたHLBが3以上5以下の界面活性剤の種類および量によって調整することが好ましい。例えば、界面活性剤としてソルビタンモノオレートを用いた場合には、非水溶性有機溶媒の質量に対して質量で1/6~1/2倍程度(水溶性有機溶媒/非水溶性有機溶媒)の水溶性有機溶媒を加え、必要に応じて攪拌後、静置することにより、好適に解乳を行うことができる。
【0061】
WO相分離においては、界面活性剤はO相側に移行(抽出)されるため、O相を除去することにより、界面活性剤による不純物が混合していない多孔質球状シリカを得ることができる。
【0062】
また、前記加熱の温度範囲としては50℃以上、好ましくは50~80℃程度、より好ましくは60~70℃程度である。
【0063】
上記の如く水溶性有機溶媒をゲル化体分散液に添加した後には、ゲル化体同士の凝集を防ぐために攪拌することが好ましい。攪拌は公知の方法が一般に使用されるが、具体的に例を挙げると、攪拌翼のついたミキサーを使用することができる。混合の程度は特に制限されないが、攪拌によって液面が回転する程度であればよく、ミキサーによる攪拌を例として挙げると、0.1~3.0kW/m3、好ましくは0.5~1.5kW/m3である。また、攪拌時間としては0.5~24時間、好ましくは0.5~1時間程度が適当である。
【0064】
上記WO相分離の後に、ゲル化体を含んだ前記W相の回収を行う。具体的にはデカンテーション等により、O相(上層)を分離除去することができる。
【0065】
(乾燥工程)
回収したW相に含まれるゲル化体は、W相から回収されることが好ましい。回収の方法としては、公知の方法が使用でき、具体的な例を挙げると、吸引ろ過や遠心分離がある。このとき、回収したゲル化体がケーク状となるように、溶媒が除去されていることが好ましい。
【0066】
回収したゲル化体は、噴霧乾燥によって乾燥される。本発明の製造方法のように、湿式プロセスでゲル化体を製造する場合は、液中からゲル化体を取り出して乾燥する際に、ゲル化体の粒子間に溶媒の毛管力が生じる。これにより、粒子が凝集するため、特に静置乾燥では、乾燥粉にも凝集が生じることとなる。一方で、噴霧乾燥で乾燥されることにより、乾燥時の溶媒の液滴径を多孔質球状シリカ粒子の粒径に近づけることができる。理想的には、溶媒の液滴径が多孔質球状シリカ粒子の粒径と等しければ、乾燥時の溶媒の液滴中に多孔質球状シリカ粒子が一粒子ずつ含まれる状態となる。上記の状態においては、乾燥時に多孔質球状シリカ粒子が隣接しないため、粒子間に溶媒による毛管力が生じない状態で乾燥することができ、凝集のない粒子を得ることが容易になる。噴霧乾燥の方式は、特に制限されず、ロータリーアトマイザー方式やノズル方式等、公知の方法が使用できるが、目的の多孔質球状シリカ粒子の粒子径と噴霧される溶媒の液滴径が等しくなるように選定されることが好ましい。一般に、ロータリーアトマイザー方式よりもノズル方式の方が噴霧される液滴径が微細となる傾向にある。液滴径をより微細にすることができ、乾燥時に凝集が生じにくいという観点から、二流体ノズル方式が特に好ましい。
【0067】
噴霧乾燥時のゲル化体は、凝集が生じにくいという点から、水溶性有機溶媒に分散されていることが好ましい。具体的な水溶性有機溶媒の例としては、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等がある。より沸点の低い溶媒を使用することで、乾燥効率を向上することができる。
【0068】
上記水溶性有機溶媒に、水や非水溶性溶媒が混入していても良い。乾燥時の凝集を抑制するためには、溶媒中の水溶性有機溶媒の濃度は好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは65質量%以上であり、70質量%以上であることは特に好ましい。水溶性有機溶媒の濃度が上記の範囲であれば、噴霧乾燥時の乾燥不良による凝集が発生しにくくなる。なお、乾燥時の水溶性溶媒の濃度によって細孔内部の乾燥収縮を調整できるため、前述の水溶性有機溶媒の濃度を調整することで、適度な乾燥収縮を生じさせ、細孔容積を制御することが可能である。具体的には、溶媒中に含まれる水の割合を増加させ、水溶性有機溶媒の濃度を低下させることで、乾燥収縮が生じやすくなり、細孔容積は小さくなる。逆に、溶媒中に含まれる水の割合を低減し、水溶性有機溶媒の濃度を上昇させることで、乾燥収縮が抑制され、細孔容積は高くなる。
【0069】
ゲル化体を分散した水溶性有機溶媒(スラリー)は、液中で粒子が凝集することを抑制するために、攪拌されていることが好ましい。攪拌の方法は、一般に公知の方法が使用でき、具体的な例を挙げると、スターラー、攪拌翼のついたミキサー等がある。混合の程度は、液中で粒子が沈降せず、かつ、粒子が破壊されない程度であればよい。スラリーは攪拌しながら噴霧乾燥機に投入しても良いし、一定時間攪拌した後に噴霧乾燥機に投入しても良い。粒子の沈降防止の観点から、攪拌しながら投入することがより好ましい。
【0070】
噴霧乾燥時の入口温度は、スラリーの溶媒の沸点以上であり、噴霧乾燥機の出口において多孔質球状シリカがスラリーやケーク状でなく、乾燥した粉体となるように調節されていることが好ましい。なお、上記「沸点以上」とは、乾燥の際の圧力下での溶媒の沸点以上を意味する。入口温度がスラリーの溶媒の沸点よりも20~50℃程度高い値となるように調節されていることがより好ましく、かつ、入口温度と出口温度の温度差が10~70℃の範囲となるように調節されていることが好ましい。一般に、噴霧乾燥機は投入口(入口)のみに加熱装置が設定されており、出口温度が入口温度を上回ることはない。入口温度と出口温度の温度差は20~70℃の範囲であることがより好ましく、20~60℃の範囲であることは特に好ましい。入口温度と出口温度が上記の範囲内であれば、噴霧乾燥時の乾燥状態が良好となり、凝集のない多孔質球状シリカが得られる。
【0071】
噴霧乾燥時の循環風量は、乾燥室内の温度が安定するように調節されていれば良く、噴霧乾燥機のスケールに応じて調節されることが好ましい。サイクロンを使用して乾燥した多孔質球状シリカを捕集する場合には、循環風量はサイクロン下での捕集効率に影響し、循環風量が大きくなる程、サイクロン下での捕集効率は高くなる。
【0072】
スラリー中に含まれるゲル化体の濃度は、ゲル化体を分散したスラリーが流動性を持ち、噴霧乾燥機に詰まりなく送液される程度に調節されていれば良い。具体的には、乾燥後のシリカ固形分濃度(質量換算)が、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることはより好ましく、さらに好ましくは40質量%以下である。ゲル化体の濃度の下限は、特に制限されないが、濃度が低くなる程、乾燥の処理効率は低下するため、極端に低くならないことが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。
【0073】
噴霧乾燥時のスラリーの送液速度は、噴霧が安定し、入口温度と出口温度が前述の値をなるように調整されていれば良く、噴霧乾燥機のスケールに応じて調節されることが好ましい。スラリーの送液速度は入口温度と出口温度の温度差に影響し、送液速度が速くなると、入口温度と出口温度の温度差が大きくなる。
【0074】
乾燥した多孔質球状シリカの捕集方法としては、一般に公知の方法が使用できる。具体的には、一点捕集方式、二点捕集方式等が挙げられる。また、捕集器は一般的なものが使用でき、具体的には、サイクロンやバグフィルター等がある。粗粒の除去の観点から、サイクロンを使用した二点捕集方式で捕集されることが好ましい。
【0075】
(焼成工程)
本発明の多孔質球状シリカは乾燥後、さらに焼成する。焼成により、破壊時の試験力を上昇させることができる。焼成条件は、破壊時の試験力が目的の値となるように調整すればよく、焼成時間が長く、焼成温度が高い程、破壊時の試験力は高くなる。焼成温度は900~1500℃である。1400℃以下であることが好ましく、1300℃以下であることがより好ましい。焼成時間は10~25時間である。12~23時間であることが好ましく、12~20時間であることがより好ましい。焼成温度と焼成時間が上記の範囲であれば、噴霧乾燥によって凝集なく乾燥された粒子が再度凝集することなく、また、細孔が閉塞することなく、目的の範囲の破壊時の試験力を持った多孔質球状シリカが得られる。
【0076】
焼成の方法としては、公知の方法が使用でき、一般的には、乾燥した多孔質球状シリカをるつぼや石英バット等に入れ、電気炉で加熱する方法が挙げられる。
【0077】
焼成時の雰囲気は、特に制限されず、アルゴンや窒素等の不活性ガス下、または大気雰囲気下で行うことができる。
【0078】
焼成時の昇温速度は、電気炉等の加熱装置の温度上昇が追従可能な範囲であればよい。昇温速度が遅くなる程、焼成の処理効率が低下するため、極端に低くならないことが好ましい。一般的な電気炉を使用した場合には、2~10℃/minでの昇温が好適である。
【0079】
上記製造方法において、得られる多孔質球状シリカの粒径は、エマルション化工程で調製するW/Oエマルションにおけるフュームドシリカ分散液の液滴(W相)径にほぼ一致する。従って、目的とする径の範囲となるように分散条件を設定する必要がある。W/Oエマルションにおける液滴径の制御方法は種々知られており、それら技術を適宜選択、適用すればよい。液滴の粒径の調整方法としては、公知の方法が使用できるが、具体的には、界面活性剤の添加量を調整する方法や乳化時に加えるせん断力を回転数や流量等によって調整する方法がある。界面活性剤の添加量による調整では、界面活性剤の使用量が多いと液滴は微細になりやすく、使用量が少ないと液滴は大きくなりやすい。またせん断力による調整では、加えるせん断力が大きい程、液滴は微細になりやすく、せん断力が小さい程、液滴は大きくなりやすい。
【0080】
また細孔容積は乾燥収縮によって制御することができる。乾燥収縮の制御方法は、公知のものが使用でき、具体的には、乾燥前の水溶性溶媒の濃度を調整する方法が挙げられる。細孔容積は焼成条件によっても制御することができ、焼成温度が高く、焼成時間が長い程、細孔容積は小さくなる方向である。また、本発明の製造方法のように、原料としてフュームドシリカを使用することにより、フュームドシリカが凝集構造を有することに起因して、前記高い細孔半径の最頻値となる。比表面積は原料として使用するフュームドシリカの比表面積を適宜選択することによって調整可能であるし、また、ゲル化時間によっても調整可能である。なお、ゲル化時間が短い程、比表面積は高くなる方向である。比表面積は焼成条件によっても調整することができる。一般に焼成温度が高く、焼成時間が長い程、比表面積は低くなる方向である。
【0081】
アルカリ金属含有率は、前記したようにアルカリ金属を実質的に含有しないフュームドシリカを原料として用い、その他の原料もアルカリ金属を実質的に含有しないものを用いて、当業者が十分に注意を払ってコンタミネーション(不純物の混入)を避けて製造を行えば、容易に低減できる。さらにアルカリ金属含有率の低減を目指す場合には、固液分離後、乾燥する前に水や有機溶媒等によってケークを洗浄してもよい。
破片状粒子の個数は、本発明の製造方法のように、製造過程で生じる粒子凝集を抑制し、解砕工程を実施しないことで低減できる。また、製造工程全体を通して、粒子が破壊されないように粒子に過度な負荷がかからないように注意することが必要である。
【実施例】
【0082】
以下に、本発明を具体的に説明するための実施例を示す。ただし本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではない。
【0083】
<評価方法>
製造した多孔質球状シリカに対して、以下の項目について評価を行った。
【0084】
(コールターカウンターによる粒度分布、体積基準の累積径の測定)
40mlのイオン交換水に多孔質球状シリカを0.1g添加し、超音波洗浄機(BRANSON製 BRANSONIC1510J-DTH)を用いて、30分間分散させた。その分散液の粒度分布をベックマン・コールター株式会社社製Multisizer IIIを用いて測定を行った。測定にはアパチャー径が100μmのアパチャーを使用した。得られた粒度分布から、体積基準の累積50%径、累積10%径、および、累積90%径を評価した。
【0085】
(BJH細孔容積、細孔半径(最頻値)及びBET比表面積の測定)
BJH細孔容積、細孔半径(最頻値)及びBET比表面積の測定は、前述の定義に従って,BELSORP-mini(日本ベル株式会社製)により行った。
【0086】
(試料の破壊が認められたときの試験力)
「試料の破壊が認められたときの試験力」の測定は前述の定義に従って、微小圧縮試験機(島津製作所製、MCT-W510-J)により行った。測定時の負荷速度は0.4462mN/sec、負荷保持時間は10secとした。測定には直径200μmの圧子を使用した。
【0087】
(アルカリ金属含有率)
多孔質球状シリカ1gに硝酸10mlとフッ酸10mlを添加して溶解した。前記溶液を180℃で4時間加熱して蒸発乾固した。室温に冷却後、硝酸を2mlと超純水18mlを加え、20mlにメスアップして測定試料を得た。得られた測定試料を誘導結合プラズマ発光分析装置(サーモサイエンティフィック製、ICAP650DUO)を使用して、アルカリ金属含有率を測定した。
【0088】
(平均円形度)
2000個以上の多孔質球状シリカについて、SEM(日立ハイテクノロジーズ製S-5500、加速電圧3.0kV、二次電子検出)を用いて倍率1000倍で観察したSEM像を画像解析し、前述の定義に従って平均円形度を算出した。
【0089】
(破片状粒子の数(円形度が0.7以下の粒子の数))
200個以上の多孔質シリカについて、SEM(日立ハイテクノロジーズ製S-5500、加速電圧3.0kV、二次電子検出)を用いて倍率800倍で観察したSEM像を画像解析し、前述の定義に従って各粒子の円形度を算出、円形度が0.7以下の粒子の個数をカウントした。
【0090】
<実施例1>
(分散液調製工程)
尿素6.65gを溶解させたイオン交換水200mlに、レオロシールQS-30(株式会社トクヤマ製)をホモジナイザー(IKA製、T25BS1)で攪拌しながら66g添加し、フュームドシリカを予備分散した後に、超音波ホモジナイザー(BRANSON製、Sonifier SFX250)を使用して微分散することで、フュームドシリカ分散液を得た。分散後の液の粒度分布をレーザー回折散乱法で測定したところ、D90値は0.19μmであった。なお、分散液調製工程は、10℃に冷却したチラー中で行った。
【0091】
(W/Oエマルション調製工程)
上記方法で調整したフュームドシリカ分散液から65.5gを分取し、ソルビタンモノオレート(花王株式会社製、レオドールSP-010V)0.75gを分散した129gのデカンを添加した後、ホモジナイザーを用いて、8600rpmの条件で3分間攪拌することにより、W/Oエマルションを得た。
【0092】
(ゲル化工程)
得られたW/Oエマルションを翼径60mm、翼幅20mm、斜角45度の4枚パドル翼を用い、200rpmの条件で撹拌しながら、80℃のウォーターバスで3時間保持することにより、ゲル化を行った。
【0093】
(ゲル化体回収工程)
イソプロピルアルコール77gと水52gを加えて70℃で30分間保持しながら攪拌羽で攪拌した。その後、静置することによりO相を上層、W相を下層とする2層に分離した。
【0094】
ついでデカンテーションにより、O相とW相を分離し、W相を回収した。
【0095】
W相を吸引濾過し、ゲル化体をW相から濾別した。
【0096】
(乾燥工程)
得られたゲル化体のケークをイソプロピルアルコール60gに分散し、スターラーで攪拌しながら噴霧乾燥機(BUCHI製、Mini Spray Dryer B-290)に投入した。このとき、スラリー中の乾燥後のシリカ固形分濃度は10質量%であった。噴霧乾燥機の入口温度は120℃とし、出口温度は85℃であった。送液速度は15ml/min、循環風量は35m3/hとした。
【0097】
(焼成工程)
得られた乾燥粉をるつぼに入れ、電気炉(アドバンテック製、FUS722PB)で、昇温速度は5℃/minで昇温し、1000℃で20時間焼成した。なお、焼成雰囲気の調整は行わず、空気雰囲気下とした。
【0098】
このようにして得られた多孔質球状シリカの物性を表1に示す。(以下の実施例、比較例についても同様に、得られた多孔質球状シリカの物性を表1に示した。)
【0099】
<実施例2>
実施例1において、焼成条件を900℃で17時間に変更したほかは、実施例1と同様にして多孔質球状シリカを得た。なお、噴霧乾燥時の出口温度は85℃であった。
【0100】
<実施例3>
実施例1において、W/Oエマルション調製工程におけるホモジナイザーの回転数を3000rpmに変更したほかは、実施例1と同様にして多孔質球状シリカを得た。なお、噴霧乾燥時の出口温度は85℃であった。
【0101】
<実施例4>
実施例1において、W/Oエマルション調製工程におけるホモジナイザーの回転数を10000rpmに変更したほかは、実施例1と同様にして多孔質球状シリカを得た。なお、噴霧乾燥時の出口温度は85℃であった。
【0102】
<実施例5>
実施例1において、焼成条件を1200℃で15時間に変更したほかは、実施例1と同様にして多孔質球状シリカを得た。なお、噴霧乾燥時の出口温度は85℃であった。
【0103】
<実施例6>
実施例1において、W/Oエマルション調製工程におけるホモジナイザーの回転数を6000rpm、焼成条件を1200℃で10時間に変更したほかは、実施例1と同様にして多孔質球状シリカを得た。なお、噴霧乾燥時の出口温度は85℃であった。
【0104】
<比較例1>
9g/100mL、SiO2/Na2Oのモル比が3.1のケイ酸ナトリウム水溶液に、pHが2.9となるように10g/100mLの硫酸を添加して、500mLのシリカゾルを調整した。このシリカゾル66.5gを分取し、実施例1におけるヒュームドシリカ分散液をこのシリカゾルに変更したほかは、実施例1と同様にしてW/Oエマルション調整工程、ゲル化工程、ゲル化体回収工程を行い、ゲル化体を得た。得られたゲル化体を真空乾燥機により乾燥し、1000℃で20時間焼成して多孔質球状シリカを得た。
【0105】
<比較例2>
実施例1の分散液調整工程と同様にして調整したフュームドシリカ分散液を噴霧乾燥した後、1000℃で20時間焼成して多孔質球状シリカを得た。
【0106】
<比較例3>
実施例1において、W/Oエマルション調整工程におけるホモジナイザーの回転数を5500rpmに変更し、ゲル化工程、ゲル化体回収工程を行い、ゲル化体を得た。得られたゲル化体を真空乾燥機により乾燥し、1000℃で20時間焼成した。焼成後、ジェットミルを使用して解砕し、多孔質球状シリカを得た。
【0107】
<比較例4>
実施例1において、焼成工程を行わなかったほかは、実施例1と同様にして多孔質球状シリカを得た。
【0108】
<比較例5>
実施例6において、800℃で10時間焼成したほかは、実施例6と同様にして多孔質球状シリカを得た。
【0109】
【0110】
<評価結果>
(実施例1~6)
表1に示すように、実施例1~6においては、JIS Z8844に規定される方法に従って、負荷速度を0.4462mN/secとして求めた粒子10個についての「試料の破壊が認められたときの試験力」の算術平均値が1.0×101~2.0×101mNであるように、硬度が高く、かつ、SEM画像で観察される粒子200個について、円形度が0.7以下の粒子が20個以下であり、破片状粒子の数が低減されていた。これは、本発明の製造方法のように、フュームドシリカ分散液を液中でゲル化させて得られたゲル化体を適当な乾燥条件のもと、噴霧乾燥によって乾燥することで、粒子の凝集を抑制し、適当な焼成条件で焼成することで実現できる。
【0111】
また、実施例1~6において得られた多孔質球状シリカはすべて、D50が2~200μmの範囲であり、D10/D90が0.3以上であり、BJH法による細孔容積が0.5~8ml/gの範囲であり、BJH法による細孔半径の最頻値が5nm以上、50nm以下の範囲であり、BET法による比表面積が50m2/g以上、400m2/g以下の範囲であり、アルカリ金属含有率が50ppm以下であった。
【0112】
実施例1~6では、種々のD50値の多孔質球状シリカが得られたが、いずれも乳化時の回転数の変更によってW/Oエマルションの液滴径を調整することで制御され、本発明の製造方法では、製造プロセスの大きな変更なく、容易に多孔質球状シリカのD50値を制御可能である。
【0113】
(比較例1)
ケイ酸ナトリウムを原料として使用した比較例1の多孔質球状シリカは、細孔容積が小さくなっていた。これは原料由来のナトリウムが残存することにより、焼成時に融点降下が生じ、細孔が閉塞したためである。このように、ケイ酸ナトリウムを原料として使用した場合には、細孔容積を維持しながら、硬度の高い多孔質球状シリカを得ることは困難である。
【0114】
(比較例2)
フュームドシリカ分散液を噴霧乾燥することによって得られた比較例2の多孔質球状シリカは、破壊時の試験力が低くなっていた。これは、焼成前の原体の一次粒子間の結合の強度が低いことに起因している。このように、噴霧乾燥で造粒した場合には、目的の硬度の多孔質球状シリカを得ることは困難である。
【0115】
(比較例3)
ゲル化体を回収後、真空乾燥機内で静置して乾燥した比較例3の多孔質球状シリカは、破片状粒子の個数が多くなっていた。これは、静置乾燥時に粒子が凝集しており、解砕工程を行うことで、破片状粒子が生じたためである。このように、静置乾燥では破片状粒子の個数を低減した多孔質球状シリカを得ることは困難である。
【0116】
(比較例4)
焼成工程を行わなかった比較例4の多孔質球状シリカは、破壊時の試験力が低かった。このように、焼成工程を行わなければ、硬度の高い多孔質球状シリカを得ることは困難である。
【0117】
(比較例5)
比較例5の多孔質球状シリカは、破壊時の試験力が低かった。このように、焼成条件が適当でなければ、硬度の高い多孔質球状シリカを得ることは困難である。
【要約】
アルカリ金属の含有率が低減されており、粒子の硬度が高く、破片状粒子の個数が低減された独立球状の多孔質球状シリカとその製造方法を提供する。
体積基準の累積50%径(D50)が2μm以上200μm以下、累積10%径(D10)と、累積90%径(D90)との比(D10/D90)が0.3以上、細孔容積が0.5ml/g以上、8ml/g以下、細孔半径の最頻値が5nm以上、50nm以下、比表面積が50m2/g以上、400m2/g以下、JIS Z8844に規定される方法に従って求めた「試料の破壊が認められたときの試験力」の算術平均値が1.0×101mN以上2.0×101mN以下、円形度が0.7以下の粒子が20個以下であり、アルカリ金属含有率が50ppm以下である多孔質球状シリカ。