(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】電解質膜支持型還元電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 11/055 20210101AFI20241113BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20241113BHJP
C25B 3/26 20210101ALI20241113BHJP
【FI】
C25B11/055
C25B1/23
C25B3/26
(21)【出願番号】P 2022566519
(86)(22)【出願日】2020-12-01
(86)【国際出願番号】 JP2020044615
(87)【国際公開番号】W WO2022118364
(87)【国際公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】里 紗弓
(72)【発明者】
【氏名】渦巻 裕也
(72)【発明者】
【氏名】鴻野 晃洋
(72)【発明者】
【氏名】小松 武志
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/121556(WO,A1)
【文献】特開2008-223118(JP,A)
【文献】特公昭42-005014(JP,B1)
【文献】特公昭56-036873(JP,B2)
【文献】特開昭58-185790(JP,A)
【文献】特開2004-197215(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0138813(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/055
C25B 1/23
C25B 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化電極を含む酸化槽と空の内部に二酸化炭素が供給される還元槽との間に配置される電解質膜支持型還元電極の製造方法において、
電解質膜の片面の反対面を還元剤溶液に浸漬する第1の工程と、
前記第1の工程の後、前記電解質膜の片面を金属イオンを含む金属塩溶液に浸漬する第2の工程と、
を行う電解質膜支持型還元電極の製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程および前記第2の工程を行う前に、
前記電解質膜の片面を粗化する工程と、
前記電解質膜を沸騰硝酸に浸漬する工程と、
前記電解質膜を沸騰純水に浸漬する工程と、
を行う請求項1に記載の電解質膜支持型還元電極の製造方法。
【請求項3】
前記第2の工程は、
前記電解質膜の反対面を前記還元剤溶液に浸漬し、前記電解質膜の片面を前記金属塩溶液に浸漬する無電解めっき処理により、前記電解質膜の片面に還元電極用の金属を析出させる工程である請求項1または2に記載の電解質膜支持型還元電極の製造方法。
【請求項4】
前記還元剤溶液に含まれる還元剤は、
極性化合物である請求項1ないし3のいずれかに記載の電解質膜支持型還元電極の製造方法。
【請求項5】
前記電解質膜は、
カチオンまたはアニオンを伝導する固体高分子膜である請求項1ないし4のいずれかに記載の電解質膜支持型還元電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜支持型還元電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地球温暖化の防止やエネルギーの安定供給という観点から、二酸化炭素を還元する技術が注目されている。二酸化炭素を還元する還元装置としては、太陽光等の光エネルギーを印加して二酸化炭素を還元する人工光合成技術を利用した還元装置、外部から電気エネルギーを印加して二酸化炭素を還元する電解分解装置がある(非特許文献1~3参照)。
【0003】
非特許文献1の
図2には、光照射による二酸化炭素の還元装置が図示されている。左側の酸化槽と右側の還元槽との間に電解質膜を配置し、酸化槽と還元槽とをそれぞれ水溶液で満たす。酸化槽内に窒化ガリウム(GaN)の酸化電極を入れ、還元槽内に銅(Cu)の還元電極を入れて、酸化電極と還元電極とを導線で接続する。そして、酸化槽内の水溶液にヘリウム(He)を流入し、還元槽内の水溶液に二酸化炭素(CO
2)を流入する。
【0004】
このとき、酸化電極に光を照射すると、酸化電極では電子・正孔対の生成および分離が生じ、水(H2O)の酸化反応により酸素(O2)およびプロトン(H+)が生成する。そして、プロトンは電解質膜を介して還元槽へ移動し、酸化電極で発生した電子(e-)は導線を介して還元電極へ移動する。その後、還元電極ではプロトンと電子との結合により水素(H2)が生成し、プロトンと電子と二酸化炭素とにより二酸化炭素の還元反応が引き起こされる。この二酸化炭素の還元反応により、エネルギー資源として活用される一酸化炭素、ギ酸、メタンなどが生成する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Satoshi Yotsuhashi、外6名、“CO2 Conversion with Light and Water by GaN Photoelectrode”、Japanese Journal of Applied Physics 51、2012年、p.02BP07-1-p.02BP07-3
【文献】Yoshio Hori、外2名、“Formation of Hydrocarbons in the Electrochemical Reduction of Carbone Dioxide at a Copper Electrode in Aqueous Solution”、Journal of the Chemical Society 85(8)、1989年、p.2309-p.2326
【文献】Qingxin Jia、外2名、”Direct Gas-phase CO2 Reduction for Solar Methane Generation Using a Gas Diffusion Electrode with a BiVO4:Mo and a Cu-In-Se Photoanode”、Chemistry Letter、47、2018年1月13日、p.436- p.439
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
還元電極への二酸化炭素の供給量を増大させるため、還元槽を気相の二酸化炭素で満たす二酸化炭素の気相還元装置がある。この気相還元装置では、プロトンが気相の二酸化炭素中を移動できないことを踏まえ、電解質膜に対して還元電極が直接形成される。
【0007】
その形成方法には、金属イオンを含む金属塩溶液と金属イオンを還元する還元剤溶液とを用いた無電解めっき法がある。従来の無電解めっき法では、電解質膜の片面とその反対面とに金属塩溶液と還元剤溶液とをそれぞれ同時に注入する。還元剤溶液の還元剤が電解質膜を透過して金属塩溶液と接触することで、金属塩溶液内の金属イオンが還元され、電解質膜の片面に金属が析出される。
【0008】
しかし、金属塩溶液と還元剤溶液とを同時に注入するため、還元剤溶液の還元剤が電解質膜を透過して金属塩溶液に接触する前のタイミングで、金属塩溶液が少量ではあるが電解質膜の内部に浸透してしまう。これにより、還元剤溶液と金属塩溶液とが電解質膜の内部で接触し、還元電極が電解質膜内にめり込むように形成されてしまう。また、電解質膜の内部に形成された還元電極には二酸化炭素を供給できず、電解質膜は膜内に水分を含んでいるため、電解質膜内の水分が電解質膜内の溶存酸素と反応して還元電極が酸化してしまう。その結果、還元電極では、式(1)および式(2)に示すように、酸化した還元電極自身の還元反応が優先して進行する。これにより、二酸化炭素の還元反応が抑制され、二酸化炭素の還元反応の効率が低下してしまう。
【0009】
Cu2O+2H++2e-→2Cu+H2O ・・・(1)
CuO+2H++2e-→Cu+H2O ・・・(2)
また、二酸化炭素の気相還元装置では、一般に、太陽光の昇降サイクルやメンテナンスサイクルによって、光エネルギーまたは電気エネルギーのON,OFFを繰り返す運転が実施される。このような運転を行う場合、電解質膜の内部に形成された還元電極がエネルギーOFFの状態で酸化し、再びONにすると酸化した還元電極の還元反応が優先して進行するので、二酸化炭素の還元反応の効率が低下してしまう。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、二酸化炭素の気相還元装置を構成する電解質膜支持型還元電極において、電解質膜の内部に還元電極が形成されることを抑制可能であり、二酸化炭素の還元反応の効率を改善可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様の電解質膜支持型還元電極の製造方法は、酸化電極を含む酸化槽と空の内部に二酸化炭素が供給される還元槽との間に配置される電解質膜支持型還元電極の製造方法において、電解質膜の片面の反対面を還元剤溶液に浸漬する第1の工程と、前記電解質膜の片面を金属イオンを含む金属塩溶液に浸漬する第2の工程と、を行う。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、二酸化炭素の気相還元装置を構成する電解質膜支持型還元電極において、電解質膜の内部に還元電極が形成されることを抑制可能であり、二酸化炭素の還元反応の効率を向上可能な技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、電解質膜支持型還元電極の製造工程を示す図である。
【
図2】
図2は、無電解めっき法の反応系を示す図である。
【
図3】
図3は、電解質膜に対する還元電極の形成イメージを示す図である。
【
図4】
図4は、実施例1に係る二酸化炭素の気相還元装置の構成例を示す図である。
【
図5】
図5は、二酸化炭素の気相還元装置の運転例を示す図である。
【
図6】
図6は、実施例6に係る二酸化炭素の気相還元装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。本発明は、後述の実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において変更を加えることが可能である。
【0015】
[発明の概要]
本発明は、金属塩溶液と還元剤溶液とを用いた無電解めっき法により、電解質膜に対して還元電極が直接形成された電解質膜支持型還元電極を製造する製造方法に関する発明である。本発明では、電解質膜に対して無電解めっき処理を施す前に、電解質膜の片面の反対面を還元剤溶液に浸漬することを特徴とする。
【0016】
これにより、無電解めっき処理前に電解質膜の片面(還元電極の形成面)まで還元剤溶液が拡散・浸透するので、電解質膜の片面に金属塩溶液を注入した際に当該片面の直上から還元電極を形成可能となる。つまり、還元電極作製時および還元反応停止時における電解質膜内部の還元電極の形成を抑制できるので、還元電極の酸化を抑制でき、二酸化炭素の還元反応の効率を向上できる。
【0017】
[実施例1]
[電解質膜支持型還元電極の製造方法]
図1は、電解質膜支持型還元電極の製造工程を示す図である。電解質膜には、デュポン社製のナフィオン(商標登録)を用いる。金属塩溶液および還元剤溶液には、表1に示すように調整される各溶液を用いる。例えば、還元剤溶液には、極性化合物である水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)を還元剤の主成分とする溶液を用いる。
【0018】
【0019】
まず、電解質膜と還元電極との密着性を向上させるため、工程1では、電解質膜の片面に研磨紙を擦り付けて当該片面を粗化する(S1)。次に、電解質膜のプロトン移動度を向上させるため、工程2では、電解質膜を沸騰硝酸に60分間浸漬し(S2)、工程3では、電解質膜を沸騰純水に60分間浸漬する(S3)。その後、
図2に示すように、電解質膜1を、第1の槽11と第2の槽12との間に配置する。このとき、電解質膜1の粗化面を第1の槽11側に向けて配置する。
【0020】
次に、工程4(第1の工程)では、第2の槽12を還元剤溶液22で満たして1分間放置し、電解質膜1の反対面(粗化面の反対面)を還元剤溶液22に浸漬する(S4)。次に、工程5(第2の工程)では、第1の槽11を金属イオンを含む金属塩溶液21で満たして30分間放置し、電解質膜1の粗化面を金属塩溶液21に浸漬する(S5)。
【0021】
工程5は、電解質膜1を隔てて金属塩溶液21と還元剤溶液22とを接触するように配置して無電解めっき処理する工程である。つまり、工程5は、電解質膜1の反対面を還元剤溶液22に浸漬し、電解質膜の粗化面を金属塩溶液21に浸漬する無電解めっき処理により、電解質膜1の粗化面に還元電極用の金属を析出させる工程である。
【0022】
工程4において、還元剤溶液22の主成分である水素化ホウ素ナトリウムは、極性化合物であるから、電解質膜1の内部を拡散・透過する。その後、工程5において、金属塩溶液21と電解質膜1との界面において、酸化還元反応(BH
4
-+4OH
-→BO
2
-+2H
2O+2H
2+4e
-、Cu
2++2e
-→Cu)が起きて銅が析出する。これにより、
図3の拡大図(a)に示すように、電解質膜1の当初表面上に還元電極2が直上形成された電解質膜支持型還元電極30が得られる。発明者は、還元電極2が電解質膜1の内部にめり込むことなく、電解質膜1の直上から還元電極2が形成されていることを確認した。
【0023】
電解質膜1は、例えば、カチオンまたはアニオンを伝導する固体高分子膜、炭素-フッ素からなる骨格を持つ電解質膜であるナフィオンやフォアブルー、アクイヴィオン(商標登録)を用いてもよい。また、金属塩溶液21および還元剤溶液22を他の薬品に変更することで、Ni、Pt、Au、Ag、Pd、Sn、Pdなど任意の種類の金属を形成してもよいし、当該金属に対して酸化反応や置換反応の処理を行うことにより金属錯体を形成してもよい。
【0024】
[二酸化炭素の気相還元装置の構成]
図4は、実施例1に係る二酸化炭素の気相還元装置100の構成例を示す図である。当該気相還元装置100は、酸化電極への光照射により還元電極で二酸化炭素の還元反応を起こす還元装置(人工光合成装置)である。以下、単に気相還元装置100という。
【0025】
気相還元装置100は、
図4に示すように、一筐体の内部空間を二分することで形成された酸化槽41と還元槽44とを備える。酸化槽41は水溶液43で満たされ、水溶液43には半導体または金属錯体からなる酸化電極42が挿入される。酸化槽41に隣接する還元槽44には、その空の内部に二酸化炭素の気体または二酸化炭素を含む気体が満たされる。
【0026】
酸化電極42は、例えば、窒化物半導体、酸化チタン、アモルファスシリコン、ルテニウム錯体、レニウム錯体のような光活性やレドックス活性を示す化合物である。水溶液43は、例えば、炭酸水素カリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液、塩化ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化ルビジウム水溶液、水酸化セシウム水溶液である。
【0027】
上記製造方法で製造した電解質膜支持型還元電極30は、酸化槽41と還元槽44との間に配置される。酸化槽41側には電解質膜1が配置され、還元槽44側には還元電極2が配置される。酸化電極42と還元電極2とは、導線45で接続される。
【0028】
酸化槽41には、酸化槽41内の水溶液43にヘリウムを流入するため、チューブ46が挿入される。還元槽44には、還元槽44内に二酸化炭素を流入するため、還元槽44の底部に気体入力口47が形成される。さらに、気相還元装置100を運転するため、光源48が酸化電極42に対して対向配置される。光源48は、例えば、キセノンランプ、擬似太陽光源、ハロゲンランプ、水銀ランプ、太陽光、または、これらの組み合わせである。
【0029】
[電気化学測定およびガス・液体生成量測定]
電気化学測定およびガス・液体生成量測定を説明する。
【0030】
酸化槽41を水溶液43で満たす。酸化電極42には、サファイア基板上にn型半導体である窒化ガリウム(GaN)の薄膜と、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)の薄膜とを、その順にエピタキシャル成長させ、その上にニッケル(Ni)を真空蒸着して熱処理を行うことで、酸化ニッケル(NiO)の助触媒薄膜を形成した基板を用いた。そして、その酸化電極42を、水溶液43に浸水するように酸化槽41内に設置した。水溶液43は、1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液とした。光源48には、300Wの高圧キセノンランプ(波長450nm以上をカット、照度6.6mW/cm2)を用い、酸化電極42の半導体光電極の酸化助触媒が形成されている面(NiOの形成面)が照射面となるように固定した。酸化電極42の光照射面積を2.5cm2とした。
【0031】
酸化槽41に対してチューブ46からヘリウムを、還元槽44に対して気体入力口47から二酸化炭素を、それぞれ流量5ml/minかつ圧力0.18MPaで流し入れた。この系では、電解質膜支持型還元電極30内の[電解質膜-銅(還元電極)-気相の二酸化炭素]からなる三相界面において、二酸化炭素の還元反応を進行させることができる。
【0032】
酸化槽41と還元槽44とをヘリウムと二酸化炭素とでそれぞれ十分に置換した後、光源48を用いて酸化電極42に均一に光を300分間照射した。酸化電極42への光照射により、酸化電極42と還元電極2との間に電子が流れる。光照射時の酸化電極42と還元電極2との間の電流値を、電気化学測定装置(Solartron社製、1287型ポテンショガルバノスタット)で測定した。また、光照射中の任意の時間に、酸化槽41内および還元槽44内のガスおよび液体を採取し、ガスクロマトグラフおよび液体クロマトグラフ、ガスクロマトグラフ質量分析計で反応生成物を分析した。その結果、酸化槽41内では、酸素が生成され、還元槽44内では、水素、一酸化炭素、ギ酸、メタン、メタノール、エタノール、エチレンが生成されていることを確認した。
【0033】
[実施例2]
実施例2では、電解質膜支持型還元電極30の製造方法の工程4において、電解質膜1の還元剤溶液22への浸漬時間を10分間にした。それ以外の条件は実施例1と同様である。
【0034】
[実施例3]
実施例3では、電解質膜支持型還元電極30の製造方法の工程4において、電解質膜1の還元剤溶液22への浸漬時間を30分間にした。それ以外の条件は実施例1と同様である。
【0035】
[実施例4]
実施例4では、電解質膜支持型還元電極30の製造方法の工程4において、電解質膜1の還元剤溶液22への浸漬時間を60分間にした。それ以外の条件は実施例1と同様である。
【0036】
[実施例5]
実施例5では、
図5に示すように、酸化電極42への光照射を60分間行い(ON)、30分間停止する(OFF)、という運転を繰り返し行い、酸化電極42への総光照射時間が300分間になったときに測定を停止した。それ以外の条件は実施例3と同様である。
【0037】
[実施例6]
[電解質膜支持型還元電極の製造方法]
電解質膜支持型還元電極30は、実施例1と同様の手順で製造する。
【0038】
[二酸化炭素の気相還元装置の構成]
図6は、実施例6に係る二酸化炭素の気相還元装置100の構成を示す図である。当該二酸化炭素の気相還元装置100は、気相の二酸化炭素の電解還元反応の装置(電解還元反応装置)である。以下、単に気相還元装置100という。
【0039】
気相還元装置100は、
図6に示すように、一筐体の内部空間を二分することで形成された酸化槽41と還元槽44とを備える。酸化槽41は水溶液43で満たされ、水溶液43には半導体または金属錯体からなる酸化電極42が挿入される。酸化槽41に隣接する還元槽44には、その空の内部に二酸化炭素の気体または二酸化炭素を含む気体が満たされる。酸化電極42は、例えば、白金、金、銀、銅、インジウム、ニッケルである。水溶液43の具体例は、実施例1と同様である。
【0040】
上記製造方法で製造した電解質膜支持型還元電極30は、酸化槽41と還元槽44との間に配置される。酸化槽41側には電解質膜1が配置され、還元槽44側には還元電極2が配置される。酸化電極42と還元電極2とは、導線45で接続される。
【0041】
酸化槽41には、酸化槽41内の水溶液43にヘリウムを流入するため、チューブ46が挿入される。還元槽44には、還元槽44内に二酸化炭素を流入するため、還元槽44の底部に気体入力口47が形成される。さらに、気相還元装置100を運転するため、電源49が導線45に接続される。
【0042】
[電気化学測定およびガス・液体生成量測定]
電気化学測定およびガス・液体生成量測定を説明する。
【0043】
酸化槽41を水溶液43で満たす。酸化電極42には、白金(ニラコ社製)を用いた。酸化電極42の表面積の約0.55cm2が水溶液43に浸水するように酸化槽41内に設置した。水溶液43は、1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液とした。
【0044】
酸化槽41に対してチューブ46からヘリウムを、還元槽44に対して気体入力口47から二酸化炭素を、それぞれ流量5ml/minかつ圧力0.18MPaで流し入れた。この系では、電解質膜支持型還元電極30内の[電解質膜-銅(還元電極)-気相の二酸化炭素]からなる三相界面において、二酸化炭素の還元反応を進行させることができる。二酸化炭素が直接供給される還元電極2の面積は、約6.25cm2である。
【0045】
酸化槽41と還元槽44とをヘリウムと二酸化炭素とでそれぞれ十分に置換した後、酸化電極42と還元電極2との間を電源49を介して導線45でつなぎ、電圧2.0Vを印加して300分間電子を流した。電圧2.0Vを印加した時の酸化電極42と還元電極2との間の電流値を、電気化学測定装置で測定した。また、電圧印加中の任意の時間に、酸化槽41内および還元槽44内のガスおよび液体を採取し、ガスクロマトグラフおよび液体クロマトグラフ、ガスクロマトグラフ質量分析計にて反応生成物を分析した。その結果、酸化槽41内では、酸素が生成され、還元槽44内では、水素、一酸化炭素、ギ酸、メタン、メタノール、エタノール、エチレンが生成されていることを確認した。
【0046】
[実施例7]
実施例7では、電解質膜支持型還元電極30の製造方法の工程4において、電解質膜1の還元剤溶液22への浸漬時間を10分間にした。それ以外の条件は実施例6と同様である。
【0047】
[実施例8]
実施例8では、電解質膜支持型還元電極30の製造方法の工程4において、電解質膜1の還元剤溶液22への浸漬時間を30分間にした。それ以外の条件は実施例6と同様である。
【0048】
[実施例9]
実施例9では、電解質膜支持型還元電極30の製造方法の工程4において、電解質膜1の還元剤溶液22への浸漬時間を60分間にした。それ以外の条件は実施例6と同様である。
【0049】
[実施例10]
実施例10では、
図5に示したように、電源49による電圧印加を60分間行い(ON)、30分間停止する(OFF)、という運転を繰り返し行い、総電圧印加時間が300分間になったときに測定を停止した。それ以外の条件は実施例8と同様である。
【0050】
[比較対象例1]
[電解質膜支持型還元電極の製造方法]
実施例1に記載の工程1~工程5のうち、工程4(電解質膜1の還元剤溶液22への浸漬)を行うことなく、金属塩溶液21と還元剤溶液22とを第1の槽11と第2の槽12とにそれぞれ同時に注入した。それ以外の製造方法は実施例1と同様である。製造後の電解質膜支持型還元電極30の断面を観察すると、
図3の拡大図(b)に示すように、電解質膜1の粗化面から300nmの深さまで還元電極2が電解質膜1の内部にめり込むように形成されていた。
【0051】
[二酸化炭素の気相還元装置の構成]
光照射による二酸化炭素の気相還元装置であり、実施例1と同様である。
【0052】
[電気化学測定およびガス・液体生成量測定]
実施例1と同様である。
【0053】
[比較対象例2]
[電解質膜支持型還元電極の製造方法]
比較対象例1と同様である。
【0054】
[二酸化炭素の気相還元装置の構成]
光照射による二酸化炭素の気相還元装置であり、実施例1と同様である。
【0055】
[電気化学測定およびガス・液体生成量測定]
図5に示したように、酸化電極42への光照射を60分間行い(ON)、30分間停止する(OFF)、という運転を繰り返し行い、酸化電極42への総光照射時間が300分間になったときに測定を停止した。それ以外の条件は実施例1と同様である。
【0056】
[比較対象例3]
[電解質膜支持型還元電極の製造方法]
比較対象例1と同様である。
【0057】
[二酸化炭素の気相還元装置の構成]
電圧印加による二酸化炭素の気相還元装置であり、実施例6と同様である。
【0058】
[電気化学測定およびガス・液体生成量測定]
実施例6と同様である。
【0059】
[比較対象例4]
[電解質膜支持型還元電極の製造方法]
比較対象例1と同様である。
【0060】
[二酸化炭素の気相還元装置の構成]
電圧印加による二酸化炭素の気相還元装置であり、実施例6と同様である。
【0061】
[電気化学測定およびガス・液体生成量測定]
図5に示したように、電源49による電圧印加を60分間行い(ON)、30分間停止する(OFF)、という運転を繰り返し行い、総電圧印加時間が300分間になったときに測定を停止した。それ以外の条件は実施例6と同様である。
【0062】
[二酸化炭素の還元反応の実験結果]
実施例1~4、6~9および比較対象例1、3による二酸化炭素還元のファラデー効率を表2に示す。表2は、300分間連続で光照射または電圧印加した場合の二酸化炭素還元のファラデー効率(積算値)である。
【0063】
【0064】
また、実施例5、10および比較対象例2、4による二酸化炭素還元のファラデー効率を表3に示す。表3は、光照射または電圧印加を60分間ON、30分間OFFする運転を繰り返した場合における、300分後の二酸化炭素還元のファラデー効率(積算値)である。
【0065】
【0066】
二酸化炭素還元のファラデー効率とは、式(3)に示すように、光照射または電圧印加により電極間に流れた電子数に対して、二酸化炭素の還元反応に使われた電子数の割合を示す値である。
【0067】
二酸化炭素還元のファラデー効率=(二酸化炭素の還元反応の電子数)/(酸化電極-還元電極間の電子数) ・・・(3)
式(3)の「二酸化炭素の還元反応の電子数」は、二酸化炭素の還元生成物の積算生成量の測定値を、その生成反応に必要な電子数に換算することで求めることができる。還元反応生成物の濃度をA[ppm]、キャリアガスの流量をB[L/sec]、還元反応に必要な電子数をZ[mol]、ファラデー定数をF[C/mol]、気体のモル体をVm[L/mol]、光照射時間または電圧印加時間をT[sec]としたとき、式(4)を用いて算出した。
【0068】
二酸化炭素の還元反応の電子値[C]=(A×B×Z×F×T×10-6)/Vm ・・・(4)
表2より、実施例1~4および実施例6~9では、比較対象例1および比較対象例3とそれぞれ比較して、二酸化炭素還元のファラデー効率が向上したことを確認した。これは、各実施例1~4、6~9において、電解質膜の内部に還元電極がめり込まず、電解質膜の直上から還元電極が形成できていたことが要因と考えられる。
【0069】
各実施例1~10では、比較対象例1~4と異なり、無電解めっき処理前に、工程4として電解質膜を還元剤溶液に浸漬させた。これにより、無電解めっき処理前に電解質膜の粗化面まで還元剤溶液が拡散・浸透したため、第1の槽に金属塩溶液を注入した際に電解質膜の粗化面の直上から還元電極が形成される。
【0070】
一方、比較対象例1~4では、工程4を行うことなく、第1の槽と第2の槽とに金属塩溶液と還元剤溶液とをそれぞれ同時に注入した。この場合、金属塩溶液も少量だけ電解質膜の内部に浸透する。それゆえ、還元剤溶液が電解質膜の粗化面まで浸透する前に、金属塩溶液が電解質膜の内部で接触し、還元電極が電解質膜内にめり込むように形成される。また、比較対象例1~4の場合、電解質膜の内部に形成された還元電極の部分には二酸化炭素が供給できないことに加えて、電解質膜は膜内に水を含んでいることから、電解質膜内の水分が電解質膜内の溶存酸素と反応して還元電極が酸化される。その結果、酸化した電極自身の還元反応が優先して進行し、二酸化炭素還元反応が抑制されてしまう。
【0071】
以上より、実施例1~10で工程4を実施することにより、電解質膜への還元電極のめり込みが抑制され、二酸化炭素の還元反応の効率が向上した。
【0072】
また、実施例1~4および実施例6~9の各二酸化炭素還元のファラデー効率を比較すると、工程4での電解質膜の還元剤溶液への浸漬時間が30分以上である実施例3、4および実施例8、9の方が、30分未満である実施例1、2および実施例6、7よりも高い。浸漬時間に対する電解質膜にめり込む還元電極の深さを分析すると、実施例1と実施例6、実施例2と実施例7、実施例3と実施例8、実施例4と実施例9のそれぞれについて、250nm、150nm、20nm、20nmであった。この結果から、浸漬時間が30分未満の範囲では、めり込む還元電極の深さが深くなる傾向が得られ、浸漬時間が30分以上では、深さ20nmで飽和値となり、二酸化炭素還元のファラデー効率がより向上することが想定される。したがって、電解質膜は、予め還元剤溶液に30分以上浸漬させることが望ましい。
【0073】
また、表3より、実施例5、10では、比較対象例2、4とそれぞれ比較して、二酸化炭素還元のファラデー効率が向上した。実施例5、10については、表2に示す300分間連続運転させた実施例3、8とそれぞれほぼ同程度のファラデー効率が得られた。比較対象例2、4のファラデー効率が低いのは、二酸化炭素の気相還元装置のON、OFFを繰り返す際に、OFFと共に還元電極が酸化され、再びONにすると酸化された電極の還元反応が優先して進行することから、二酸化炭素の還元反応の効率が低下してしまうことが要因と考えられる。
【0074】
以上より、実施例5、10では、工程4を行うことにより、電解質膜への還元電極のめり込みを抑制でき、OFFの状態で還元電極が酸化されるのを抑制できることから、二酸化炭素の還元反応の効率が向上した。
【0075】
[発明の効果]
本発明によれば、無電解めっき法による二酸化炭素の気相還元用の電解質膜支持型還元電極の製造において、無電解めっき処理を行う前に電解質膜を還元剤溶液に浸漬するので、還元電極作製時および還元反応停止時における電解質膜内部の還元電極の形成を抑制できる。その結果、還元電極の酸化を抑制でき、二酸化炭素の還元反応の効率を向上できる。
【符号の説明】
【0076】
1:電解質膜
2:還元電極
11:第1の槽
12:第2の槽
21:金属塩溶液
22:還元剤溶液
30:電解質膜支持型還元電極
41:酸化槽
42:酸化電極
43:水溶液
44:還元槽
45:導線
46:チューブ
47:気体入力口
48:光源
49:電源