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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】光回路
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/12 20060101AFI20241113BHJP
   H01S 5/026 20060101ALI20241113BHJP
   H01S 5/12 20210101ALI20241113BHJP
   H01S 5/50 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
G02B6/12 301
H01S5/026 610
H01S5/026 616
H01S5/12
H01S5/50 610
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023522060
(86)(22)【出願日】2021-05-18
(86)【国際出願番号】 JP2021018874
(87)【国際公開番号】W WO2022244121
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】進藤 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】陳 明晨
(72)【発明者】
【氏名】金澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】中西 泰彦
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/255183(WO,A1)
【文献】特開2008-177405(JP,A)
【文献】特開2008-066647(JP,A)
【文献】特開2003-069149(JP,A)
【文献】特開2009-246241(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0006654(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12-6/14
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-7/00
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に半導体レーザおよび半導体光増幅器(SOA)が集積された光回路において、
前記SOAに光学的に接続され、前記基板の端面よりも内部側で終端された導波路であって、前記終端に向かって、曲げ角度θ wg を有する曲げ導波路部を含む、導波路と、
前記曲げ導波路部前記終端から出射した光が前記端面まで伝搬する窓領域であって、前記光の光軸に平行に、前記光軸から距離Mだけ離間して、前記終端から前記端面まで構成された複数の模擬メサを含み、当該模擬メサを除いてバルク半導体によって埋め込まれた、窓領域と
を備え、
前記端面はへき開面であり、
前記複数の模擬メサは、
前記光軸の両側に配置された2つの模擬導波路、および、
前記2つの模擬導波路の内の前記曲げ導波路部の曲げとは反対側にある一方の模擬導波路から距離2Mだけ離間し、前記2つの模擬導波路と平行な第3の模擬導波路を含むことを特徴とする光回路。
【請求項2】
前記複数の模擬メサは、前記導波路と同一の層構造を有することを特徴とする請求項1に記載の光回路。
【請求項3】
前記複数の模擬メサは、幅Wのメサ構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載の光回路。
【請求項4】
前記光は、前記端面に対して垂直より前記曲げ角度θwgだけ傾斜して、前記端面に入射することを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の光回路。
【請求項5】
前記半導体レーザは、電界吸収型変調器を集積した分布帰還型レーザ(DFBレーザ)であり、
前記光回路は、光送信器であって、
前記導波路は、前記DFBレーザの発振波長よりも短いバンドギャップ波長をもつコア層からなるパッシブ導波路であること
を特徴とする請求項1乃至いずれかに記載の光回路。
【請求項6】
前記DFBレーザ、電界吸収型変調器および前記SOAがInP基板(100)面上に形成され、
前記DFBレーザの光軸は、基板結晶方位
と平行な方向であることを特徴とする請求項に記載の光回路。
【請求項7】
前記距離Mは、2μm<M<6μmの範囲にあり、
前記複数の模擬メサの各々の幅Wは、1μm<Wの範囲にあり、
前記終端と前記端面との間の距離Lは、5μm<L<25μmの範囲にあること
を特徴とする請求項1乃至いずれかに記載の光回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光回路、より具体的には光送信器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の動画配信サービスの普及やモバイルトラフィック需要の増大に伴い、ネットワークトラフィックが爆発的に増大している。ネットワークを担う光伝送路においては、伝送レートの高速化や低消費電力化、伝送距離の長延化によるネットワークの低コスト化がトレンドとなっている。半導体変調光源に対しても、消費電力の増大を抑制しつつ高速・高出力化を達成することが求められている。電界吸収型(EA:Electro-Absorption)変調器(EA変調器)を集積した分布帰還型(DFB:Distributed Feedback)レーザ(以下EADFBレーザ)は、直接変調型のレーザと比較し高い消光特性と優れたチャープ特性を持っており、幅広い用途で用いられてきた。
【0003】
図1は、一般的なEADFBレーザの概略構成を示す図である。集積化EADFBレーザ40は、DFBレーザ10およびEA変調器20が同一チップに集積された構造を有する。DFBレーザ10は多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)からなる活性
層1を有し、共振器内に形成された回折格子3によって単一波長で発振する。EA変調器20は、DFBレーザとは異なる組成のMQWからなる光吸収層2を有し、変調信号源12による電圧制御により光吸収層2の光吸収量を変化させる。DFBレーザ10からの出力光を透過または吸収する条件でEA変調器20を駆動して光を明滅させ、電気信号を変調された光信号4に変換する。
【0004】
EADFBレーザの1つの課題は、EA変調器が大きな光損失を伴うために高出力化が困難な点である。高出力化のための解決策として、EADFBレーザの光出射端にさらに半導体光増幅器(SOA)を集積したEADFBレーザ(SOA Assisted Extended Reach EADFB Laser:AXEL)が提案されている(非特許文献1)。
【0005】
図2は、EADFBレーザにSOAを集積化したAXELの概略構成を示す図である。AXEL45では、EA変調器20によって変調された信号光が、集積されたSOA領域30によって増幅され、信号光4を得る。AXEL45では、一般的なEADFBレーザと比較して約2倍の高出力が得られる。SOA集積効果による高効率動作のため、一般的なEADFBレーザと同一光出力を得る動作条件で駆動した場合、AXELでは消費電力を40%削減できる。またAXELのSOAの活性層としては、DFBレーザと同一のMQW構造が用いられている。このためSOA領域の集積のために新たな再成長プロセスを追加する必要がなく、従来のEADFBレーザと同一製造工程でAXELの作製が可能である。
【0006】
AXELにおける課題に、SOA集積に伴う高光出力特性に起因する、反射戻り光による動作特性の劣化がある。一般的な半導体レーザ等の光送信器においては、半導体チップ端面で反射されチップ内部への反射戻り光が、デバイスの動作特性に悪影響を与える。反射戻り光に対処するため、半導体光送信器ではチップ端面に反射防止膜(AR:Anti-Reflection)コーティングを施すことで、チップ端面から内部への反射戻り光は一般的に0
.1%以下に抑制されている。しかしながら、SOAを集積したEADFBレーザ(AXEL)の場合、その高出力性によって、わずかな反射戻り光でも動作特性に大きな影響を与える。
【0007】
従来の単体のEADFBレーザに対して、AXELのSOAによる光増幅効果(ゲイン)が+3dBである場合を具体例として考える。AXELでは、SOAの集積化によって平均光出力が3dB高出力化されることで、反射戻り光強度の絶対値も3dB増加することになる。加えて、チップ端面での反射戻り光は再びSOA内を逆方向に伝搬して増幅される。このため、図2のAXELにおけるDFBレーザ部10に達する反射戻り光強度は、単体のEADFBレーザと比較して6dB増加することになる。上述のAXELの高出力性による反射戻り光対策として、ARコーティングに加えて、窓構造部および曲げ導波路を組み合わせた構造が採用されている。
【0008】
図3は、AXELにおける反射戻り光の影響を軽減する構成を説明する図である。図3は、AXEL半導体チップ50の出力端面55の近傍を拡大した上面図である。正確には、図3は光導波路51、52のコアを通り基板面に平行な面で切ったAXELチップ内部の断面図である。本明細書の以降の説明における上面図は、断面図の場合を含むことに留意されたい。通常、半導体チップの出射端面は、へき開(劈開)によって形成された結晶面であり、半導体チップ内の導波路はこの出射端面に対して垂直な角度に形成される。したがって、光導波路を伝搬する光は出射面に垂直に入射し半導体チップから出射される。
【0009】
一方、図3に示したAXELのチップ構造では、チップ内の光導波路51に曲げ部52を設け、出射端面55に対して垂直方向から傾斜角54(θwg)だけ傾けた入射角で、光が入射する。傾斜角54を持たせることにより、出射端面55において反射された光が再び導波路に結合されにくくなるため、反射戻り光を抑制することができる。一般的に反射を抑制するための導波路の出射端面に対する傾斜角θwgとしては、4~8°が用いられる。
【0010】
さらに図3に示したAXELのチップ構造では、光導波路51が曲げ部52を経て、チップ50の出射端面55よりも内部側で終端している。光導波路から放射された光は、窓領域53と呼ばれるバルクの半導体中を伝搬した後、出射端面55に達してチップ外部に出射される。このとき窓領域53では、出射光は、回折効果によってビーム径が広がりながら伝搬する。ビーム径の広がりにより、出射端面55で反射されチップ内部の導波路に再び結合する反射戻り光の割合をさらに減らすことができる。窓領域53は、通常、10μm程度の長さで作製される。AXELにおいて高出力特性と同時に高品質な伝送特性を得るためには、図3に示したような構成によって、反射戻り光対策を十分に施さなければならない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】W Kobayashi et al., “Novel approach for chirp and output power compensation applied to a 40-Gbit/s EADFB laser integrated with a short SOA,” Opt. Express, Vol. 23, No. 7, pp. 9533-9542, Apr. 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述のAXELにおけるチップ端面近傍の反射戻り光の影響を軽減する構造には、窓構造部を形成する時の製造ばらつきによる、チップ歩留まり低下の問題があった。光出射端面に形成される窓構造部は、へき開によって作製される。実際の半導体チップのへき開工程においては、一般的に±10μm程度のへき開位置誤差が生じてしまう。窓構造部を有するAXELにおいて、十分な高出力性と高品質な特性を有する光送信器を製造する上では、へき開位置のばらつきを十分な精度に制御する必要がある。現状のAXELのチップ端部の構造では、出射端面の形成時のへき開位置ばらつきに対して十分なマージンを設けることができない。へき開位置の製造誤差により、AXELのチップに必ず一定数の不良品が生じてしまい、製造歩留まりを低下させていた。製造工程にへき開を含み、窓構造部を含む他の光回路においても、同様の問題が生じ得る。
【0013】
本発明はこのような問題に鑑みなされたものであって、へき開工程のばらつきに関係なく、高出力特性および高品質な伝送特性を実現する光回路を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の1つの態様は、基板の上に半導体レーザおよび半導体光増幅器(SOA)が集積された光回路において、前記SOAに光学的に接続され、前記基板の端面よりも内部側で終端された導波路と、前記導波路の終端から出射した光が前記端面まで伝搬する窓領域であって、前記光の光軸に平行に、前記光軸から距離Mだけ離間して、前記終端から前記端面まで構成された複数の模擬メサを含み、当該模擬メサを除いてバルク半導体によって埋め込まれた、窓領域とを備えたことを特徴とする光回路である。
【0015】
上述の半導体レーザは、電界吸収型変調器を集積した分布帰還型レーザ(DFBレーザ)であり、前記光回路は、光送信器であって、前記導波路は、前記DFBレーザの発振波長よりも短いバンドギャップ波長をもつコア層からなるパッシブ導波路であり得る。
【発明の効果】
【0016】
光回路、特に光送信器の高出力特性および高品質な伝送特性を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一般的なEADFBレーザの概略構成を示す図である。
図2】EADFBレーザにSOAを集積化したAXEL概略構成を示す図である。
図3】AXELにおける反射戻り光の影響を軽減する構成を示す図である。
図4】デバイス端面で窓領域を作製するためのバー構造を説明する図である。
図5】へき開位置の誤差による送信光信号の品質劣化を説明する図である。
図6】窓領域長Lが長くなった場合の端面近傍の光ビーム形状を示す図である。
図7】AXELにおける上部クラッド層の作製工程を説明する図である。
図8】従来技術の窓構造部を有するAXELの概略構成を示す図である。
図9】従来構成のAXELでへき開位置ばらつきと損失の関係を示す図である。
図10】本開示の光送信器の窓構造部の概略構成を説明する図である。
図11】本開示の光送信器のへき開後の窓構造部の構成を示す図である。
図12】光軸からの模擬メサ位置とInPの厚膜化量の関係を示す図である。
図13】窓領域の光の伝搬距離と回折により生じる損失との関係を示す図である。
図14】実施例1の光送信器の窓構造部の概略構成を示す図である。
図15】実施例1の光送信器の埋め込み再成長前の窓領域近傍を示す図である。
図16】実施例1の光送信器の埋め込み再成長後の窓領域近傍を示す図である。
図17】実施例1でへき開位置ばらつきと損失の関係を示す図である。
図18】実施例1でへき開位置ばらつきと光波形品質の関係を示す図である。
図19】実施例1、2の光送信器の光回路要素の配置を対比して示す図である。
図20】実施例2の光送信器のへき開前の窓構造部の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示の光回路は、へき開位置のばらつきに関係なく、高出力性と高品質な伝送特性を両立する、新しい光送信器の構成を提供する。本開示の光回路は、EADFBレーザおよび半導体光増幅器(SOA)を集積したAXEL構成を有する光送信器であり得る。AXELのチップ出射端面の窓構造部において、光導波路の光軸に平行に構成された模擬メサを含む構造によって、部分的に厚膜化したバルク半導体層を形成する。以下では、まずチップの端部におけるへき開位置のばらつきがAXELの特性に与える影響について説明し、次に本開示の光回路の構成および動作について説明する。
【0019】
以下、本明細書の説明では、用語「AXEL」はEADFBレーザおよび半導体光増幅器(SOA)を集積した光送信器であり、「光送信器」と同じ意味を表すものとする。
【0020】
図4は、デバイス端面で窓領域を作製するためのバー構造を説明する図である。半導体レーザなどの光半導体デバイスでは、同一出射端面を持つ複数のチップをバー状にへき開して、出射端面を形成する。へき開工程を実施することで、共通のへき開面を有し、へき開面に沿って複数のチップが並んだバー(Bar)が形成される。バーは、さらにへき開面
に垂直に切り離されて、個々のデバイスチップとなる。また、隣接するバーはそれぞれ出射端面が向い合せになるように配置されている。
【0021】
図4の半導体デバイス60は、2つのバー61a、61bを含み、各バーには3つの光回路61-1~61-3が含まれている。向かい合うチップはそれぞれ窓構造部53a、53bを有し、へき開予定位置62から窓領域長Lを隔てた位置に、光導波路51a、51bの終端を有する。図4の半導体デバイスは、最終的なへき開予定位置62を含む個々のチップの端面近傍のみを示しており、各チップはAXELの一部を示している。
【0022】
半導体チップのへき開工程では、へき開の精度に限界があり、図4のへき開予定位置62を決めたとしても、実際のへき開位置にはある程度のばらつきが生じてしまう。へき開によって製造された窓構造部を有する半導体チップにおいては、窓領域長Lがチップによってバラついてしまう。前述のように、AXELにおいては、窓領域長は10μm程度に設計される。図4を参照すれば、へき開予定位置62に対して、実際のへき開位置に10μm以上の誤差が生じた場合、2つのバー61a、61bの内の一方のバーの窓領域が消失してしまう。窓領域が消失すれば、反射戻り光の抑制効果は不十分になってしまう。
【0023】
図5は、へき開位置の誤差による送信光信号の品質劣化を説明する図である。同一工程で作製した複数のAXELチップをそれぞれモジュールに実装し、送信光信号の光波形品質を評価した結果をグラフで示す。横軸は、へき開工程を含む製造工程によって作成したAXELチップの実際のへき開位置のずれ量(μm)を、縦軸は、そのチップを使用した光送信器モジュールからの送信光信号波形のマスクマージン(%)を示している。
【0024】
ここで作製した複数のAXELチップは、1.3μm帯を発振波長とする同一構造のチップであって、窓領域長L=10μmを設計値とし、チップ間で異なるのは製造誤差で生じたばらついた窓領域長Lのみである。各チップをモジュールに組み立てる前に、窓領域長Lを実測した。Lを測定した後で、各チップを2枚レンズ系で構成される一般的なバタフライ型半導体モジュールに実装した。バタフライ型パッケージには高周波コネクタが搭載されており、作製した各モジュールを25Gbit/sのNRZ信号で変調し、送信光信号の光波形(EYE波形)を評価した。図5のグラフの縦軸のマスクマージンは、光波形の品質を表す代表的な指標であって、マージン値(%)が大きいほど、アイの開口が明瞭で変調信号の質が良いことを表す。
【0025】
図5のグラフから明らかなように、へき開位置がマイナス方向にずれるほど、すなわち窓領域長Lが小さくなるほどマスクマージンが劣化している。このマスクマージンの劣化は、窓領域長Lが小さくなるにしたがって、チップ端面から内部への反射戻り光強度が増加し、AXELの発振動作が不安定化されるため考えられる。図5に示した窓領域長(へき開位置ずれ量)と送信光信号品質の関係から、窓領域長Lは少なくとも5μm以上が必要であることがわかる。しかしながら次に説明するように、窓領域長Lには上限があり、窓領域長Lが大きすぎてもAXELのデバイス特性に悪影響を及ぼす。
【0026】
図6は、窓領域長Lが長くなった場合の出射端面の近傍の光ビーム形状を示す図である。図6の(a)はAXELチップ50の出射端面近傍で基板面(x-y面)を見た上面図を示し、(b)はVIb―VIb線で基板面(x-y面)に垂直に切った断面図を示す。図6の(a)では、チップ内部の光導波路51および先端の曲げ導波路部52が見えているものとする。曲げ導波路部52を出射した光は、ビーム57aとしてチップ端面のへき開面まで到達する。曲げ導波路部52の端部からへき開面までは、長さLの窓領域53である。図6の(b)を参照すれば、曲げ導波路部52の高さdのコアを出射したプロファイル58を有する光は、ビーム57bとしてへき開面まで到達する。
【0027】
1.55μm帯または1.3μm帯の通信波長帯(C、L、O帯)の光送信器において、コア材料をInGaAsPとした場合、コア層の厚さは200nm~300nm程度である。通常、InP系の光半導体デバイスでは、光導波路水平方向(x-y面内)に比べて導波路垂直方向(z方向)の光閉じ込めが強い。このため窓領域におけるビーム広がりは導波路垂直方向の方で広がり角がより大きくなる。したがって、窓領域53の長さLが長い場合、導波路垂直方向(z方向)におけるビーム57bの上端がクラッド層と半導体外部(空気や電極)との界面59に到達する。ビームの一部が、チップの界面59に到達すれば、ビーム形状に欠損(ケラれ)や光損失を生じる原因になってしまう。図6に示したビーム57a、57bは、例えばビーム中心のピーク強度から一定割合(例えば1/2)減衰した部分をビームエッジとして示している。したがって、図6の(b)のビーム57bの境界の外でも光が分布しており、厚さhの上部クラッド層の界面59を越えた光は、チップの外部に放出・散乱される。
【0028】
一般的なInP系の光半導体デバイスでは、光導波路の上のクラッド層を再成長によって形成しており、上部クラッド層の厚さhは2μm程度である。図6で説明したように、チップの端部に窓構造部を設ける場合、光ビームの回折効果により生じる導波路垂直方向のビーム広がりも考慮して、上部クラッド層の厚さhを設計する必要がある。AXELにおいては、チップ端部の窓領域における上部クラッド層の厚さが問題となる。そこで、まずAXELにおける上部クラッド層の作製工程を確認する。
【0029】
図7は、AXELにおける上部クラッド層の作製工程の一部を説明する図である。図7は、光導波路の光進行方向に垂直に切った断面図によって、(a)にマスク形成工程、(b)にメサ形成工程、(c)に埋め込み層成長工程を示している。図6にも示したように、窓領域53では、光導波路が曲げ部分52で終端されて、InP領域となっている。窓領域53のInPは上部クラッド層の成長工程または埋め込み成長工程の際に同時に形成される。図7では、InPの埋め込み成長時に窓領域53を形成する場合について説明する。
【0030】
図2で説明したようにAXELの導波路は、レーザ部10、EA変調器部20、SOA部30で共通の埋め込み構造を有している。この導波路構造を作製するには、まず図7の(a)に示したように、初期基板に対して絶縁膜を製膜し、パターニングすることで導波路形状の絶縁膜マスク64を形成する。初期基板は、基板60、下部クラッド層61、活性層62および上部クラッド層63を順次成長したものである。この後、図7の(b)に示したように、ドライエッチングまたはウェットエッチングプロセスによってメサ形成工程を行い、導波路メサ部65を形成する。続いて図7の(c)に示したように、電流ブロック層として機能するInP層66を再成長することで、導波路メサ部65の周囲を埋め込む。最後に、絶縁膜マスク64を除去して、埋め込みヘテロ(BH:Buried Hetero)
構造は完成する。チップの端部に窓領域を備えた窓構造部も、このBH構造を作製する時に同時に形成される。窓構造部において問題となるのは、窓領域におけるInPの厚さが、導波路部分の上部クラッドのInPの厚さと比べて薄くなり、特に光フィールドへ影響を及ぼしやすい点である。
【0031】
図8は、従来技術の窓構造部を有するAXELの概略構成を示す図である。図8では、埋め込み再成長により形成された窓構造部を有するAXELの出射端面近傍の概略構成を示している。図8の(a)は、AXELの窓構造部を基板上面方向から見た図であり、(c)における光導波路51の高さ方向の中心(光軸)を含むx-y面で切った断面である。図8の(b)は、AXELの導波路領域における(a)のVIIIb-VIIIb線を含むy-z面で切った断面図、(d)は窓領域における(a)のVIIId-VIIId線を含むy-z面で切った断面図である。図8の(c)は、光導波路51に沿って(a)のVIIIc-
VIIIc線を含むx-z面で切った断面図である。
【0032】
図8では説明を簡略にするために、終端に曲げ導波路の無い直線導波路51を図示している。図8の(b)の導波路領域の断面図に示した通り、導波路メサの両脇に電流ブロック層である埋め込み再成長InP66が形成され、導波路コアは電流ブロック層のInP66で埋め込まれた構造となる。また、図8の(c)、(d)に示したように、長さLの窓領域となる部分についても、導波路メサの作製と同時にエッチングが施され、埋め込み再成長の工程で電流ブロック層66と同じInP層が埋め込まれる。通常の埋め込み再成長工程では、導波路メサの高さに応じて、メサ構造が完全に埋め込まれるように再成長させるInP層の厚さを設定する。導波路メサよりも埋め込み再成長するInP層を厚くし過ぎると、図7の上部クラッド層の作製工程で示した絶縁膜64の上部にInP層66が乗り上げて堆積してしまうためである。
【0033】
上述の導波路領域に対して、窓領域は、図8の(a)の上面図に示したように導波路51が終端しておりメサ形状が存在していない部分であるため、InP層の再成長時に埋め込まれるベースとなる部分の面積・体積がより大きくなっている。埋め込まれる領域空間の大きさの差から、導波路領域および窓領域を1つの再成長工程で同時にInPを埋め込んだ場合、図8の(c)に示したように窓領域のInP層66aが導波路領域のInP層66に比べて薄くなってしまう。図6の光ビーム形状で説明したように、窓領域においては回折現象により光フィールドが広がりながら伝搬し、導波路垂直方向の広がりがより大きい。窓領域においてInP膜厚が薄くなる場合、光フィールドがInP膜と空気との界面に接触し光損失が生じやすくなってしまう。
【0034】
図9は、従来技術のAXELでへき開位置ばらつきと損失との関係を示した図である。図5のマスクマージンの評価と同様に、通常の埋め込み再成長工程を用いて作製したAXELチップについて、まず設計値からのへき開位置のずれ量を測定した。ずれ量を測定したAXELチップを使って、複数のAXELモジュールを作製し、モジュール内の光損失を評価した。図9の横軸はへき開位置のずれ量(μm)を、縦軸は光モジュール内で発生した損失(dB)を示している。図9のプロット点は、図5のマスクマージンの評価を行ったプロット点に対応している。各モジュール内には同一構造を有するAXELチップを用ており、窓領域長Lの設計値は10μmである。
【0035】
光モジュール内の損失は、チップ単体での光出力レベルと、モジュールに実装した状態での光出力レベルの差分から、次のように求める。モジュール実装前のチップ単体での光出力レベルは、各AXELチップに対して、大口径フォトディテクタを用いた光出力強度を測定した。その後、AXELチップを光モュールに実装し、光ファイバに結合した光出力強度を測定した。2つの光強度の差分によって、モジュール実装によって生じた光損失を見積もることができる。この測定で用いた光モジュールは、2枚レンズ系を有しており、アクティブアライメント工程によってAXELチップのモジュール実装を行った。
【0036】
図9のへき開位置ばらつきと損失との関係は、窓領域長Lが設計値(ずれ量0)よりも長くなるとモジュール内部での損失が増加する傾向を示している。この損失増加は、図6で示したように、窓領域長Lが長くなることによって導波路垂直方向で出射ビームの上端がクラッド層とチップ外部の界面59に達し、ビームに欠損が生じることによる。界面59に達したビームの一部は、チップの外部に放出・散乱される光となり、チップ端面から光ファイバへの結合効率が低下してしまい、モジュール内損失の増加となる。
【0037】
図9に示したへき開位置のずれ量と損失の関係から、モジュール内光損失を3.0dB以下とし、出力レベルが安定した光モジュールを作成するためには、AXELチップの窓領域長Lの上限を15μm以下とする必要がある。すなわち、へき開位置の設計値10μmからのずれ量は+5μm以下でなければならない。既に述べたように、図5に示した窓領域長Lと送信光信号品質の関係から、窓領域長Lは少なくとも5μm以上が必要で、へき開位置のずれ量は-5μm以上でなければならない。そうすると、へき開位置は±5μmの精度が必要となる。
【0038】
しかしながら実際の半導体チップのへき開工程においては、通常、へき開位置に±10μm程度の誤差が生じてしまう。窓構造部を有するAXELにおいて、十分な送信信号の品質と光出力レベルを有する光送信器を製造する上で、出射端面の形成時に十分なマージンを設けることができなくなる。結果として、へき開位置の製造誤差により窓領域長が許容値から外れ、一定数の不良品チップが生じ、製造歩留まりを低下させていた。
【0039】
上述のように、AXELの光送信器としての所要特性を担保する上で必要な窓領域長Lは、5μm~15μmの範囲である。この窓領域長Lの範囲は、Cバンド、Lバンド、Oバンドの波長帯域で、導波路終端のコア層がバンドギャップ波長1.1~1.4μmを満たすInGaAsPであれば、概ね当てはまる。
【0040】
本開示の光送信器は、AXELチップの窓領域において、埋め込みInP層を局所的に厚膜化する新規な構成を提示する。窓領域の埋め込み層を局所的に厚膜化することで、導波路垂直方向で光フィールドがチップ表面に達することなく伝搬可能となり、チップ内の窓領域における光損失を減らすことができる。へき開位置のばらつきにより窓領域長がチップごとにばらついた場合でも、安定した光出力レベルと光波形品質を達成し、AXELモジュールの歩留まりを上げる。
【0041】
本開示の光送信器は、出射端面の近傍の窓領域において、光軸から離れた場所に、複数の「模擬メサ構造」を備える。模擬メサ構造によって、窓領域における埋め込み層を堆積させるベースとなる半導体部の面積を減らすことで、再成長時のInPの成長レートが相対的に増加し、導波路領域などウェハ上の他の領域に比べて厚膜化が可能となる。以下、図面を参照しながら、本開示の光送信器の構成、作製法および効果について説明する。
【0042】
図10は、本開示の光送信器の窓構造部の概略構成を説明する図である。図10では、図4に示したようにへき開前で2つの隣接するAXELチップが向かい合わせに配置された状態のAXELチップ100の、2つの窓領域の近傍を模式的に図示している。図10では、説明を簡略化するために、先端に曲げ部の無い導波路から光が伝搬する窓構造について説明をする。一方の窓構造部108aは、隣接するチップの窓構造部108bと接しており、2つの窓構造部がへき開を行うことで切り離され、1つのAXELチップとなる。図10の(a)は、窓構造部を基板面の上方から見た図であり、(c)におけるXa-Xa線を含むx-y面で切った断面である。図10の(b)は、AXELの導波路領域における(a)のXb-Xb線を含むy-z面で切った断面図、(d)は窓領域における(a)のXd-Xd線を含むy-z面で切った断面図である。図10の(c)は、光導波路101a、101bに沿って(a)のXc-Xc線を含むx-z面で切った断面図である。
【0043】
図10の本開示の光送信器の特徴的な構成は、対応する従来技術の構成を示した図8の各図と対比することで明らかとなる。図10の(a)を参照すれば、AXELチップ100は、窓領域において、終端した導波路101aの光軸の延長上であって、光軸からオフセット距離だけ離れた位置に、模擬メサ構造102-1、102-2を備えている。模擬メサ構造102-1、102-2は、図10の(b)および(d)を参照すれば、導波路コアを含むメサ構造と同じ層構成を有している。図10の模擬メサ構造を備えた窓構造部は、図8で示した従来技術のAXELにおける窓構造部で、窓領域のへき開面までにInP埋め込み層の他は何も存在しなかったのと対照的である。模擬メサ構造は、AXELにおける光信号処理の機能を持たないただの構造物である。したがって本明細書では、模擬メサ構造は、「ダミーメサ」と呼ぶこともできる。また模擬メサ構造は、導波路コアを含む導波路メサと同じ層構成のメサ構造を持っていることから、「模擬導波路」と呼ぶこともできる。図10から容易に理解できるように、模擬メサ構造102-1、102-2は、導波路101aのメサを作製する工程と同時に作製できる。
【0044】
したがって本開示の光回路は、基板103の上に半導体レーザおよび半導体光増幅器(SOA)が集積された光回路において、前記SOAに光学的に接続され、前記基板の端面よりも内部側で終端された導波路101と、前記導波路の終端から出射した光が前記端面まで伝搬する窓領域108であって、前記光の光軸に平行に、前記光軸から距離Mだけ離間して、前記終端から前記端面まで構成された複数の模擬メサ102-1、102-2を含み、当該模擬メサを除いてバルク半導体106,106aによって埋め込まれた、窓領域とを備えたものとして実施できる。
【0045】
模擬メサ構造102-1、102-2を形成することによって、従来技術のAXELと比べ、埋め込み再成長時に窓領域内においてInP層が堆積されるベースとなる領域の面積・体積を小さくしている。図7のInPの埋め込み再成長工程で説明したように、導波路メサ部分64の上部に絶縁膜マスク64を設けた状態で再成長を行うことで、メサ部分以外の半導体露出部分にInPが製膜され、導波路メサが埋め込まれる。
【0046】
同様に、図10の模擬メサ構造の領域101-1、101-2においても、絶縁膜マスクにより模擬メサの上部を絶縁マスクで保護した状態で再成長を行う。これにより、窓領域では、模擬メサ構造を除いた半導体露出部のみに選択的にInP層が成長される。模擬メサ構造を配置することによって、窓領域では、InP層が堆積されるベースとなる半導体露出部分、すなわち再成長工程の前(図7の(b))で基板103の露出している面積が減少している。InPの堆積工程において埋め込まれるべきInPの空間も、相対的に小さくなることが理解できる。結果として、窓領域では、模擬メサ構造を除いた半導体露出部分のInP成長レートが相対的に増加し、模擬メサ近傍のInP膜厚が増加することになる。特に2つの模擬メサ構造102-1、102-2の間にある窓領域部分は、通常の導波路メサ部分の周囲よりも厚いInPが製膜されることになる。図10の(c)および(d)において、2つの模擬メサ構造に挟まれた、導波路101aの光軸の延長線上の窓領域では、導波路メサの周辺のInP層106と比べて、InP膜がより厚く堆積し、盛り上がったプロファイル106aを持っている。
【0047】
窓領域のInP埋め込み層が厚膜化されることによって、導波路の終端から出射し窓領域を回折しながら伝搬する光フィールドが上部の半導体と空気の界面に接しにくくなり、光損失が減少する。言い換えると、光損失を増加させることなく、窓領域長Lを長く設計できることになり、へき開位置ずれに対して十分なマージンを持たせることがきる。導波路101aの終端位置から始まる窓領域において、模擬メサ構造は光フィールドが影響を受けることのないように光軸から十分離れた位置に配置されている。このため、模擬メサ構造を設けることによっても、出射ビームに何の影響も生じない。
【0048】
図11は、本開示の光送信器のへき開後の窓構造部の構成を示す図であって、へき開工程を実施した後の、出射端面が形成されたAXELチップを示している。図11の(a)は、基板面を見た図であり、コアを通る基板面に平行な面で切った断面図である。図11の(b)は、AXELの導波路領域における(a)のXIb-XIb線を含むy-z面で切った断面図である。先の図10で示したへき開前のチップ100をへき開した後で、切り離された1つのAXELチップとなる。
【0049】
模擬メサ構造が窓領域を伝搬する光に対して影響を与えることなく、InP層を厚膜化するには、窓領域中の光軸に沿って、光軸に対して対称に同一形状の模擬メサを配置することが望ましい。図11を参照すると、窓領域の長さをL、模擬メサ構造102-1、102-2の幅をW、光軸109から模擬メサ構造の端部までの距離(位置)をMと定義する。模擬メサ構造は、光軸1090に沿って導波路の終端部からへき開面まで形成されており、窓領域長と同じLであるものとする。ここで、光軸を基準とした模擬メサ構造の端部の位置Mおよび幅Wをパラメータとして、2つの模擬メサ構造間に生成されるInP膜厚の変化を調べた。模擬メサ構造102-1、102―2の上部を基準高さとし、光軸の直上のInP膜厚の基準高さからの厚膜化量Δdを実験的に確認した。
【0050】
図12は、光軸からの模擬メサ位置およびInPの厚膜化量の関係を示した図である。同一基板上に異なる構成の複数の模擬メサ構造のサンプルを準備し、光軸からの模擬メサまでの位置Mおよび厚膜化量Δdを、模擬メサ幅Wをパラメータとしてプロットした。通常のAXEL作製時と同じ、高さ4μmのメサ高さの導波路が完全に埋め込まれるInP成長量で、すべてのサンプルに対し同時に埋め込み再成長を実施した。複数のサンプルにおいて、光軸からの模擬メサ位置Mを2~10μmで変化させた。パラメータとして、模擬メサ構造の幅Wを3、5、10μmの3種類として、それぞれ幅Wについてプロットしている。
【0051】
図12のグラフから明らかなとおり、模擬メサ構造と光軸との距離Mを狭くするか、または、模擬メサ構造の幅Wを広くすることで、窓領域におけるInP膜を厚くすることが可能となる。実際には、光軸からの模擬メサの位置M=2μmの際は、模擬メサ構造の幅Wに関係なく、模擬メサ構造の上へ再成長InPが乗り上げてしまい、成長膜厚が安定しなかった。光軸からの模擬メサの位置M=7μmの場合は、200nm以下の厚膜化量Δdしか得られておらず、実用的な効果が得られなかった。図12の結果から、実用的かつ十分な効果が得られる光軸からの模擬メサ位置はM=2~6μm程度であることが分かった。本開示の光送信器の模擬メサ構造を用いることで、窓構造部のInP膜を最大で1.5μm程度厚膜化できる。模擬メサ構造の幅Wについては、幅Wを大きくするほど厚膜化の効果が得られ、最も小さいW=3μmの場合であっても厚膜化に十分な効果を発揮することが分かった。
【0052】
図13は、窓領域における光の伝搬距離と回折により生じる光損失の関係を示す図である。埋め込みInP膜厚が異なる窓領域について、図13の右側の模式図に示したように光が伝搬した場合に回折による垂直方向のビーム広がり量を計算した。横軸に、長さLの窓領域108内で、導波路終端から光が伝搬した距離Zを示し、縦軸に、InP埋め込み層と上部空気との界面に接触する光パワー割合(%)を示した。図13では、従来技術の窓構造部の例としてコア層の中心高さを基準とした上部クラッド層厚Dcladが2μmの場合、本開示の模擬メサ構造によって上部クラッド層厚Dcladを3μmに厚膜化した場合について比較している。
【0053】
従来技術の窓構造部では、光が窓領域を15μm程度の距離Zを伝搬すると、光フィールドの内6%程度の光パワーが上部クラッド層界面に接触し光損失となっていた。これに対して、本開示の光送信器で模擬メサ構造により厚膜化されたInP埋め込み層の窓構造部では、光が窓領域を20μm伝搬しても上部クラッド層界面に接触する光フィールドの光パワー割合は3%程度である。従来技術の構成と比べて、界面に接触する光の光パワー割合が半分以下となり、十分な低損失化が可能である。すなわち、本開示の光送信器の模擬メサ構造を用いることで、へき開位置の設計値10μmから、プラス側に最大誤差が生じた状態の窓領域長20μmとした場合でも、光損失を十分に抑えることができる。これによって、製造工程におけるへき開位置の避けられない誤差に対しても、高出力性と高品質な伝送特性の所要性能に対して十分なマージンを持った光送信器を設計する。AXELチップの不良率を減らして、歩留まりを向上し、製造コストを下げることができる。
【0054】
以下、本開示の光送信器のより具体的な構成および効果について、実施例とともに詳細に説明する。
【実施例1】
【0055】
本実施例の光送信器では、25Gbit/sの変調信号を生成可能であって、高ロスバジェットな光通信システムに対応するために、AXELの変調時光出力を+9dBm以上に増加させることを目指した。高出力化を目的として設計された現在の典型的なAXELの変調時光出力は、+10dBm程度である。
【0056】
図14は、実施例1の光送信器の概略構成を示す図である。図14はチップの基板面を見た上面図であって、へき開による出射端面を形成する工程を説明するため、切り離される前の隣接する2つのAXEL200a、200bを含むチップ200を図示している。1つのAXEL200aは、長さ300μmのDFBレーザ202aと、その前方の長さ150μmのEA変調器203aと、長さ200μmのSOA204aを備えたモノリシック集積素子である。3つの領域は光導波路201aで接続されており、高い放熱効果と電流狭窄効果を得られる半絶縁性InPを用いた埋め込みヘテロ構造を採用している。AXEL200aは、十分な反射抑制効果を得るために、光導波路201aの先端の曲げ導波路部分と、へき開予定面212までの窓領域208aとを有する。隣接するもう1つのAXEL200bも、へき開予定面212と光軸線の交点で、180度回転すれば、AXEL200aと重なり、同一の形状となる。
【0057】
AXELチップはInP基板(100)面上に形成されており、基板方位[011]方向に光を出力するようにDFBレーザ202aが配置されている。DFBレーザ202aからの光は、同一光軸上のEA変調器203a、SOA204aを経て、結晶方位[011]に対してθwgの角度を持つように曲げ導波路によって伝搬方向を変えて導波路終端に到達する。本実施例では、十分な反射抑制効果を得られる曲げ角度として、θwgを5°に設定している。図14では、曲げ角度θwgを強調して描いている点に留意されたい。導波路終端から出射された光は長さLの窓領域208aを通過した後、へき開予定面(出射端面)に到達する。隣接するAXELチップ200bは、導波路201aからの出射光が同一光軸上で対向するように導波路201bの曲げ導波が配置されている。2つのAXEL200a、200bの光回路要素は、へき開予定面と光軸線の交点で、回転対称の同一構造を有する。図14の状態の2つのAXELチップ200a、200bは、へき開工程によって2つのチップに分離されることになる。
【0058】
前述のようにへき開工程では、通常±10μm程度の位置ずれ誤差が発生する。したがって、最終的な窓領域長Lはへき開工程が完了した時点で決定される。十分な反射抑制効果を得るためには窓領域長5μm以上が必要であり、へき開工程における位置ずれ誤差も考慮し、本実施例では窓領域長Lを15μmとした。したがって、対向する2つのAXELチップの導波路201a、201bの各終端は、へき開前の状態で30μmの長さの窓領域208a、208bを隔てて配置されていることになる。本実施例の光送信器では、光軸に対して概ね線対称となるように2つの模擬メサ構造205-1、205-2が設けられている。2つの模擬メサ構造205-1、205-2の光軸方向の位置は、曲げ角度θwgが5°あるために、わずかにずれていることに留意されたい。基板面を見たとき、2つの模擬メサ構造205-1、205-2のいずれも、幅がWであって、光軸からMだけ離れた位置に、光軸と平行に配置されている。
【0059】
図14から直感的に理解されるとおり、模擬メサ構造205-1、205-2は導波路を延長した光軸から十分に離れた場所に配置されているため、導波路終端から出射された光に影響を与えない。2つの模擬メサ構造は、へき開予定面212をまたぐように配置され、対向する2つの隣接AXEL200a、200bに対して同様の効果を発揮する。本実施例では、模擬メサ構造の幅Wを5μm、光軸からの距離Mを3μmに設計している。図12において模擬メサ位置およびInPの厚膜化量の関係で説明したように、適切な模擬メサ構造の幅と位置を設定することで、窓領域208a、208bのInP埋め込み層を十分に厚膜化することができる。
【0060】
次に、本実施例の光送信器の作製手順を説明する。素子作製のために、n-InP基板(100)面上に、下部SCH(Separated Confinement Heterostructure)層、多重量
子井戸層である活性層(MQW1)、上部SCH層を順次成長した初期基板を用いた。多重量子井戸層は6層の量子井戸層からなり、発振波長1.3μm帯に光利得を有している。この多重量子井戸層を含む初期成長基板は、DFBレーザの高効率動作のために最適化された構造である。
【0061】
光送信器の作製手順は、初めに上述の初期基板に対して、DFBレーザおよびSOA領域となる部分を残し、その他の活性層を選択的にエッチングする。バットジョイント再成長により、EA変調器のための多重量子井戸層(MQW2)を成長させる。SOA領域となる部分では、初期成長基板で形成されたコア層構造がそのまま残存しており、DFBレーザの層構造と同一の層構造を持っている。DFBレーザ、EA変調器およびSOAの3領域の層構造の差異は、回折格子の有無のみである。上述の手順により、複数の異なる機能の領域を集積した構造でありながら再成長回数を抑制し低コストでの製造が可能である。
【0062】
次に、DFBレーザとEA変調器の間の境界部分、EA変調器とSOAの間の境界部分、および、SOAの終端から出射端面に至る領域を再び選択的にエッチングし、バットジョイント再成長を行うことで、パッシブ領域のコア層となるバルク半導体を成長する。続いて、DFBレーザの領域に発振波長1.3μm帯で動作する回折格子を形成する。DFBレーザの共振器には、基板方位[011]方向に光を出力するように回折格子を形成している。その後、再び再成長により素子全面にp-InPクラッド層およびコンタクト層を成長する。本実施例では、導波路を伝搬する光フィールドが上部クラッド層と電極などの界面に到達しないように、クラッド層厚を2.0μmとした。このクラッド層厚は、通常の通信波長帯における光半導体デバイスとして一般的な値である。
【0063】
次に、導波路となる部分のメサ構造を形成する。この工程で、窓構造部の導波路の終端部分も一括して作製され、さらに、本開示の光送信器で導入した窓領域における模擬メサ構造も本工程で同時に作製される。
【0064】
図15は、本実施例の光送信器の埋め込み再成長前の窓領域近傍を示した図である。図14に示した光送信器と同様に、2つの隣接するAXEL200a、200bがへき開で切り離される前の状態で、InP埋め込み層を作製前の状態を示している。図15の(a)は、埋め込み前の基板面を見た図であり、導波路のコア高さ中心を通り基板面(x-y面)に平行な面で切った断面図を示している。図15の(b)はXVb-XVb線を通る基板面に垂直な断面(y-z面)で切った断面図、(c)はXVc-XVc線を通る基板面に垂直な断面(y-z面)で切った断面図である。尚、導波路の先端部が曲げ導波路となっているため、図15の(b)、(c)の断面は厳密にはy-z面からやや傾いた(θwg=5°)面を示している。
【0065】
メサ構造の加工においては、光が伝搬する導波路部分および窓領域の模擬メサ部分に絶縁膜マスクパターン207a~207cを形成し、ドライエッチングにより半導体をエッチングすることでメサ構造を形成する。図15の(b)、(c)の各断面図のように、光が伝搬する導波路部分および模擬メサ部分では、前述のバットジョイント工程で形成したコア層201aが側壁から完全に露出するように4μm程度の深さまで半導体基板210をエッチングした。導波路のコア層201aと模擬メサのコア層205-1、205-2は、前述のパッシブ領域のバットジョイント工程で成長した同一組成の半導体で構成される。導波路部分および模擬メサ部分の各メサ構造が完成すると、次に、絶縁膜マスク207a~207cを残したまま埋め込み再成長によりメサ構造をInPで埋め込んだ。
【0066】
図16は、本実施例の光送信器の埋め込み再成長後の窓領域近傍を示した図である。図16の(a)は、InP層211を埋め込み後の基板面を見た図であり、導波路のコア高さ中心を通り基板面(x-y面)に平行な面で切った断面図を示している。図16の(b)はXVIb-XVIb線を通り基板面に垂直な断面(y-z面)で切った断面図、(c)はXVIc-XVIc線を通り基板面に垂直な断面(y-z面)で切った断面図である。図15との相違点は、導波路部分および模擬メサ部分がInP埋め込み層211で埋め込まれていることである。
【0067】
埋め込みInP層は、Feをドーピングした半絶縁性InP層であり、電流ブロック層として機能する。導波路のメサ構造が完全に埋め込まれるように、InPの埋め込み成長量を調整した。半絶縁性InP層の成長量が少なすぎる場合、電流ブロック効果が十分発揮されず、DFBレーザやSOA部へ電流が効率的に注入されず十分な出力と効率の光増幅特性を得られない。逆に、半絶縁性InP層の成長量が多すぎる場合、導波路上部の絶縁膜上に再成長したInPが乗り上げる異常成長が発生し、DFBレーザ部やSOA部の電極形成が困難になる。十分な電流狭窄効果および導波路上部の平坦性を確保するため、埋め込み成長時のInP層の成長量を設定する必要がある。
【0068】
本実施例では導波路メサにおいて、図16の(b)に示したように、導波路メサが完全にInP211で埋め込まれ、導波路断面においてInP211が導波路メサと同程度の高さになるよう、InP層の成長量を調整した。これに対して窓領域においては、図16の(c)に示したように、模擬メサ構造を設けることによって半導体210の露出部が狭くなっており、InPの成長膜厚が導波路メサと比較して相対的に大きくなる。この厚膜化の作用によって、窓領域における2つの模擬メサ構造間の埋め込みInP層の厚さを増加させることができる。
【0069】
本実施例のAXELの窓領域においては、光軸の上方の半導体埋め込み層の厚さが3.1μmとなっており、従来技術のAXELの窓領域における2.0μmと比べて大幅に厚膜化されている。窓領域のInP層の成長量が大きくなり過ぎた場合、模擬メサ構造の上部にもInPが乗り上げる異常成長が発生し得る。しかしながら、模擬メサ構造そのものはAXELの動作上で何の機能・役割も持っておらず、プロセス工程にでも問題は起こらない。模擬メサ構造は、窓領域の成長膜厚を調整するためだけの構造物として機能する。また、模擬メサ構造の形成と窓領域のInP層の成長は、導波路を形成するためのエッチング工程と埋め込み成長工程により実施される。したがって、本開示の光送信器における模擬メサ構造の導入に伴い、作製プロセスの増加や複雑化は一切無く、従来技術のAXELの同一の製造工程で作製が可能である。
【0070】
上述の図16の埋め込み再成長工程に続いて、絶縁膜マスク207a~207cを除去した後、図14に示したDFBレーザ202a、EA変調器203a、SOA204aの各領域を電気的に分離するために、各領域間のコンタクト層をウェットエッチングにより除去する。続いて半導体基板の上部表面の各領域上のコンタクト層を介して電流を注入するためのP側の電極を形成する。その後、InP基板を150μm程度まで研磨し、基板裏面に電極を形成して半導体ウェハ上での工程は完了となる。
【0071】
半導体ウェハ上の工程の次に、(011)結晶面をへき開によって形成することで、複数のAXELチップを含む半導体バーを作製する。ここでは一般的な半導体チップのへき開工程を用い、そのへき開位置精度は±10μm以下である。へき開工程によって作製された複数のチップが連なった半導体バーを用い、前方の出射端面はARコーティングを、反対側の後ろ側の端面には高反射コーティング(HR:High Reflection)を施す。
【0072】
上述の一連の作製手順を経て得られた実施例1の光送信器について、窓領域に模擬メサ構造を導入したことによる効果を確認するために、同一工程で作製した従来技術の複数のAXELチップとともにモジュール実装し評価を行った。
【0073】
図17は、実施例1のAXELでへき開位置ばらつきと光損失の関係を示した図である。図17は、従来技術の構成によるAXELモジュールの結果と、実施例1のAXELモジュールの結果とを同時に示している。従来技術の埋め込み再成長工程のもの、および、実施例1のもののいずれも、モジュール実装前にすべてのAXELチップで、窓領域長を実測値として評価し、その実測値で図17の横軸のへき開位置ずれ量をプロットしている。図17の縦軸のモジュール内の光損失は、モジュール実装前のAXELチップにおいて大口径PDによって評価した光出力レベルと、モジュール実装後のファイバ結合光出力レベルの差分から算出される。光出力レベル測定時の駆動条件は、EA変調器を無バイアス状態とし、DFBレーザ、SOAにそれぞれ80mA、40mAのCW(Continuous-Wave)電流を印可した。AXELチップの動作温度を、55℃とした。図17では、従来技
術のAXELチップを用いたモジュールを同一条件で評価した結果もプロットしている。従来技術のAXELチップは、窓領域長Lを10μmとして設計している。図17の○(白丸)プロットで示した従来技術構成によるAXELモジュール内の光損失の結果は、図9で既に示したプロットデータと同一である。
【0074】
前述のようにへき開の位置精度には限界があり、窓領域長Lにはばらつきが生じてしまう。従来技術のAXELでは窓領域長10μmを設計値としているが、へき開工程で発生する±10μm程度の位置ずれ誤差より、窓領域長Lの実測値としては0μmから20μmの範囲にばらついている。窓領域長Lのばらつきによってモジュール内の光損失も変動し、特に設計値よりも窓領域長が大きい10μm以上の場合に急激に光損失が増大する。作製したAXELチップの正味の光出力は変調時出力Pavgで平均+12dBm程度と推定される。したがって、モジュール実装時に光損失が3dB以上増加すると、目標とする+9dBmの光送信器の光出力基準を達成できなくなる。これが、従来技術のAXELモジュールにおいて製造時歩留まりを低下させる主要因であった。
【0075】
これに対して、図17で●(黒丸)プロットで示した模擬メサ構造を導入した本実施例のAXELチップ群では、窓領域長Lの設計値を15μmとしており、実測値も5~25μmの範囲に分布している。従来技術で損失が急増した窓領域長Lが10μmを超える場合でも、モジュール内の光損失が比較的小さいことが確認できる。プラス側に誤差最大となる窓領域長Lが25μmの付近でわずかに光損失の増加がみられるが、本実施例のいずれのモジュールにおいても光損失を3dB以下に抑えている。図17に示した光損失の結果からわかるように、模擬メサ構造の導入により、光損失のばらつきが不可避であったAXELモジュールについても、高い歩留まりで製造することが可能になった。変調時光出力の目標値+9dBm以上に対し、従来技術の窓構造部を持つチップによるモジュールの歩留まりは約40%であった。一方、本実施例の模擬メサ構造を有するチップによるモジュールでは、製造歩留まりは約75%となり、従来技術比で製造歩留まりを2倍近くに飛躍的に向上できた。
【0076】
最後に作製したAXELモジュールを用いて25Gbit/sの変調特性評価を行い、光送信信号の動作品質を確認した。変調信号はNRZ、疑似ランダム2進数シーケンス(Pseudo-Random Binary Sequence)PRBS231-1を用いた。すべてのAXELにお
いてレーザの電流値を80mA、EA変調器への印可電圧を-1.5Vに設定して比較を行った。SOAの駆動電流については、70mAに設定した。本実施例の光送信器では、25Gbit/sのデータレートで、EYE波形の評価から9.1dBの動的消光比が得られた。
【0077】
図18は、実施例1のAXELでへき開位置ばらつきと光波形品質の関係を示した図である。横軸は、AXELチップの実際のへき開位置のずれ量(μm)を、縦軸は、そのチップを使用した光送信器モジュールからの光送信信号波形のマスクマージン(%)を示している。図5に示した従来技術のへき開位置ずれ量と、EYE波形のマスクマージン(%)との関係と全く同様である。図18で示した従来技術の構成のAXELによる○(白丸)プロットは、図5で示したグラフのデータプロットと同一である。本実施例の構成のAXELによる●(黒丸)プロットは、図17で光損失を示したサンプルと全く同じサンプルについて、EYE波形のマスクマージンを示している。
【0078】
図18のグラフの関係から明らかなとおり、モジュール実装した本実施例のAXELでは、へき開位置ずれ量に依らず、30%以上の安定したマスクマージンが得られている。このマスクマージンの値は、モジュール実装した従来技術のAXELにおいて良好な品質が得られたサンプルと同程度の水準である。本実施例の模擬メサ構造を導入した光送信器では、マスクマージンの低下は確認されず、光信号の波形品質の劣化も生じておらず、製造歩留まりが大幅に改善できることは明らかである。
【0079】
上述のAXELモジュールの動作条件を用いてシングルモードファイバによる40kmの伝送特性を評価したところ、ビットエラーレート10-12を下回るエラーフリー伝送が確認できた。以上の結果から、窓領域に模擬メサ構造を導入した光送信器では、従来技術の構成にように、へき開位置のばらつきによってモジュール性能を劣化させることなく、光送信モジュールの製造歩留まりの飛躍的な向上が確認された。
【実施例2】
【0080】
上述の実施例1では、窓領域に2つの模擬メサ構造を導入した光送信器(AXEL)の基本的な構成例を示し、へき開面の位置ずれに対する耐性と、光出力レベルおよび送信波形の品質の両立、製造工程の歩留まり向上の効果について説明した。窓領域における模擬メサ構造は、実施例1に示したような出力導波路の光軸の両側に2つの模擬メサを備えたものだけに限られず、様々なバリエーションが可能である。本実施例では、1つのウェハからの生産数を増加可能なチップデザインに対して、模擬メサ構造を導入する例を示す。以下述べる光送信器の実施例では、1.5μm帯AXELチップにおいて、窓領域に3つの模擬メサ構造を導入した。
【0081】
図19は、実施例2のAXELチップの光回路要素の配置例を示した図である。図19では、へき開予定面を挟んで窓領域を含む2つのAXELチップを示しており、(a)に実施例1のチップ310の光回路要素の概略配置を、(b)に本実施例のチップ300の光回路要素の概略配置を示している。各チップは、DFBレーザ、EA変調器、SOAを含み、これらの光回路要素を通る主導波路301aを備える。主導波路301aの先端部にある曲げ導波路305aの光軸は、主導波路301aの光軸に対して傾斜角(θwg)だけ傾けられている。したがって、曲げ導波路305aから出射した光は、へき開後、へき開面303に対して垂直より傾斜角(θwg)だけ傾いて、チップの端面から出射することになる。図19では、説明のために模擬メサ構造を描いていない点に留意されたい。
【0082】
実施例1の光送信器では、図19の(a)で示したようにへき開前の状態のチップ310の隣接する2つのAXELで、へき開予定面303で対向する2つの曲げ導波路305a、305bの光軸306を一致させるように光回路要素を配置していた。図19の(a)の光回路要素の配置では、光回路が形成される(100)面の基板において、出射端面となるへき開面303に沿った方向で、基板結晶方位(011)方向に導波路を持つDFBレーザ等の配列に大きなオフセットを生じる。チップ310の主導波路301aに平行な側壁304のへき開位置のマージンや十分な面積の電極確保の観点から、DFBレーザやEA変調器等の領域は側壁304からできるだけ遠い、チップ中心に配置するのが望ましい。したがって、図19の(a)のような光回路要素の配置では、チップ幅(図縦方向)を比較的大きく設計せざるを得なくなる。一般的なAXELチップでこのような光回路要素の配置をした場合、最低でも300μm程度のチップ幅が必要であった。
【0083】
これに対して、図19の(b)に示した本実施例の光送信器では、隣接する2つのAXELチップの出射光の光軸306a、306bが一致しないように光回路要素を配置している。これによって、DFBレーザ等の基板結晶方位(011)方向の導波路領域をチップの中心付近に配置して、チップ幅をより狭くすることが可能になる。
【0084】
図19の(b)のように光回路要素を配置してチップ幅を縮小した構造を採用した場合、実施例1の模擬メサ構造では問題が生じる。実施例1の光送信器では2つの模擬メサ構造は、曲げ導波路の延長上の光軸の両側に、へき開予定位置をまたぐように配置されていた。図19の(b)のように隣接するAXELの2つの光軸306a、306bが一致していない光回路要素の配置の場合、このように2つの模擬メサ構造を配置できない。本実施例では、へき開予定面で隣接して配置されている2つAXELに対し、3つの模擬メサ構造を等間隔で配置する構造を採用した。
【0085】
図20は、実施例2の光送信器のへき開前の窓構造部の概略構成を示す図である。図20は、隣接する2つのAXELのへき開前のチップ300の基板面を見た図であって、正確には、基板の厚さ方向における導波路コアを通る基板面に平行に切った断面図である。それぞれのAXELの導波路は、図19の(b)に示したように曲げ導波路の光軸306a、306bがずれている。
【0086】
本実施例の光送信器では、3つの模擬メサ構造302-1~302-3はいずれもへき開面303をまたぐように、それぞれの曲げ導波路305a、305bの光軸と平行であって、光軸から距離Mだけ離間して配置されている。3つの模擬メサ構造のうちの真ん中の模擬メサ構造302-2は、隣接する2つのAXELチップの両方の光軸306a、306bから距離Mだけ離れた位置に配置されている。3つの模擬メサ構造の内で両端にある2つの模擬メサ構造も、同様にそれぞれのAXELチップの光軸から距離Mだけ離間して配置されている。いずれの模擬メサ構造も幅Wは共通である。
【0087】
したがって本開示の光回路は、導波路301aが、終端に向かって、曲げ角度θwgを有する曲げ導波路部305aを含み、光軸306aは前記曲げ導波路部の光軸の延長線にあり、上述の複数の模擬メサは、前記光軸306aの両側に配置された2つの模擬導波路302-1、302-2、および、前記2つの模擬導波路の内の前記曲げ導波路部305aの曲げとは反対側にある一方の模擬導波路302-2から距離2Mだけ離間し、前記2つの模擬導波路と平行な第3の模擬導波路302-3を含むものとして実施できる。
【0088】
図20のように模擬メサ構造を配置することで、実施例1と同等に窓領域InPの厚膜化効果を得られる。同時に図19で説明したように、AXELチップの小型化とウェハ内でのチップ製造の収率を増加させることができる。
【0089】
本実施例のAXELチップの作製工程は、前述の実施例1のAXELチップの工程とほぼ同一である。AXELチップ内のDFBレーザ、EA変調器、SOAの長さはそれぞれ、350μm、200μm、200μmである。DFBレーザに形成された回折格子は、発振波長が1.55μmになるように設計された周期を有する。図20のように、出射端近傍の窓領域に模擬メサ構造を3つ配置し、窓領域のInP埋め込み層を厚膜化させている。光軸から模擬メサ構造の端までの距離Mを4μm、模擬メサの幅Wを7μmとした。
【0090】
図20から明らかなとおり、光軸から模擬メサ構造までの距離Mは、隣接する2つのAXELチップの導波路配置が決定すると一意に決定されてしまう。一方、模擬メサ構造の幅Wを任意の値に設計できるため、幅Wを適切に設定することによって窓領域のInP膜を所望の厚さに調整可能である。実施例1の光送信器と比較して、本実施例では光軸から模擬メサ構造までの距離Mが増加している。模擬メサ構造によって、InP層の堆積のベースとなる半導体露出部分の減少の程度は、実施例1よりも小さくなり、窓領域のInPの厚膜化効果は低下することが予想される。
【0091】
本実施例では、模擬メサ構造の幅Wを増加させることによって、実施例1の場合と同等のInPの厚膜化効果を得ることに成功している。実際に作製したAXELチップにおいて、窓領域内の光軸上のクラッド層厚を確認したところ、3.0μmであり、窓領域長Lを15μmと設計した場合でも、窓領域内で光損失を増加させることなく、歩留まり向上の効果が得られる。さらに本実施例の光送信器では、チップ幅を従来技術の300μmから200μmに狭めることができた。これにより、同一ウェハ上で作製可能なAXELチップの数を50%増やすことに成功した。
【0092】
続いて、作製した実施例2のAXELチップの基本特性評価を行った。55℃の動作温度において、DFBレーザ、SOAにそれぞれ80mA、100mAの電流を印可し、EA変調器に印可電圧-1.5Vを与えた。振幅電圧Vpp=1.5Vで10Gbit/sのNRZ信号による変調を行ったところ、変調時光出力として最大+11dBmに達する高光出力レベルが確認された。本実施例の模擬メサ構造を有するAXELチップをモジュール化した際の歩留まりを評価したところ、変調時光出力の目標値を+10dBm以上としたとき、モジュールの製造歩留まりが約60%の非常に良好な結果が確認された。
【0093】
上述の実施例では、いずれの模擬メサ構造も、基板面を見たときの形状が矩形の導波路メサであった。しかしながら、2つの模擬メサ構造の間における埋め込みInP層を厚膜化するためには、窓領域におけるInP層の堆積のベースとなる面積・空間へ減らすことができれば良い。したがって、模擬メサ構造の形状は、例えば導波路終端から出射端面に向かってテーパ状に広がるものであっても良い。この場合でも、窓領域における2つの模擬メサ構造の間の埋め込みInP層が均一性良く厚膜化されるよう、光軸と模擬メサ構造までの距離Mは、窓領域を通じて一定であるのが好ましい。また、2つの模擬メサ構造が、光軸に対して線対称の形状であることが望ましい。
【0094】
上述の説明では、[011]の方向に光を出力するようにDFBレーザの導波路を構成した例を示したが基板方位は
であっても良い。
【0095】
以上詳細に説明してきたように、チップのへき開面近傍の窓領域に模擬メサ構造を導入した本開示の光送信器により、AXELの高出力性と高品質な伝送特性を両立することができた。へき開時の位置ずれに対しても、窓領域長Lにマージンを十分持たせることができるようになり、光送信器モジュールの歩留まりを大幅に向上し、低コスト化も実現できた。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、光通信に利用することができる。
図1
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