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特許7587201特定のウレタン(メタ)アクリレートを含むハードコート層形成用硬化性組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】特定のウレタン(メタ)アクリレートを含むハードコート層形成用硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 299/02 20060101AFI20241113BHJP
   C08J 7/046 20200101ALI20241113BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20241113BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20241113BHJP
   B05D 3/06 20060101ALI20241113BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
C08F299/02
C08J7/046 A CER
C09D4/02
B05D7/00 A
B05D3/06 Z
B05D7/24 302T
B05D7/24 302P
B05D7/24 302L
B05D7/24 303E
B05D7/24 302R
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020154006
(22)【出願日】2020-09-14
(65)【公開番号】P2022047947
(43)【公開日】2022-03-25
【審査請求日】2023-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】脇田 健吾
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-190343(JP,A)
【文献】特開2012-241060(JP,A)
【文献】特開2016-074884(JP,A)
【文献】国際公開第2020/008937(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08L
C08J
C09D
B05D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記式[1]で表される部分構造を有する、少なくとも1種のウレタン(メタ)アクリレート100質量部、
(b)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の末端に、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテル0.05質量部乃至10質量部、及び
(c)活性エネルギー線によりラジカルを発生する重合開始剤1質量部乃至20質量部
を含む、硬化性組成物であって、
前記(a)ウレタン(メタ)アクリレートが(a1)ヒドロキシ基を少なくとも1つ有する(メタ)アクリレート化合物と(a2)下記式[1´]で表される少なくとも1つのイソシアネート化合物との反応生成物である、硬化性組成物(ただし、溶解度パラメータが9~13(cal/cm 1/2 、分子量が350以下、25℃の粘度が30mPa・s以下である水酸基を有さない重合性不飽和基含有モノマーを含有する硬化性組成物を除く。)
【化1】
(上記式中、R は炭素原子数4乃至15の2価の炭化水素基を表し、Rは1価アルコールの残基を表す。)
【化2】
(上記式中、R 及びR は前記式[1]の定義と同義である。)
【請求項2】
前記(b)パーフルオロポリエーテルは、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の末端にウレタン結合を介して活性エネルギー線重合性基を有する、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記(b)パーフルオロポリエーテルは、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の末端にウレタン結合を介して活性エネルギー線重合性基を少なくとも2つ有する、請求項1又は請求項に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
前記(b)パーフルオロポリエーテルは、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端それぞれにウレタン結合を介して活性エネルギー線重合性基を少なくとも2つ有する、請求項1乃至請求項のうち何れか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
前記(b)パーフルオロポリエーテルのポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基が、繰り返し単位-[CFO]-及び繰り返し単位-[CFCFO]-の双方を有し、これら繰り返し単位をブロック結合、ランダム結合、又は、ブロック結合及びランダム結合にて結合してなる基である、請求項1乃至請求項のうち何れか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖が、下記式[4]で表される構造を有する、請求項に記載の硬化性組成物。
【化3】
(上記式[4]中、nは、繰り返し単位-[CFCFO]-の数と、繰り返し単位-[CFO]-の数との総数であって5乃至30の整数を表し、前記繰り返し単位-[CFCFO]-と、前記繰り返し単位-[CFO]-は、ブロック結合、ランダム結合、又は、ブロック結合及びランダム結合にて結合してなる。)
【請求項7】
(d)帯電防止剤10質量部乃至55質量部をさらに含む、請求項1乃至請求項のうち何れか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項8】
前記(d)帯電防止剤は金属酸化物粒子を含む、請求項に記載の硬化性組成物。
【請求項9】
前記金属酸化物粒子は、スズ、亜鉛、及びインジウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物を含む、請求項に記載の硬化性組成物。
【請求項10】
前記金属酸化物粒子はドーパントが添加されていてもよい酸化スズを含む、請求項に記載の硬化性組成物。
【請求項11】
前記金属酸化物粒子は、リンドープ酸化スズ、及び表面が五酸化アンチモンで被覆された酸化スズのうち少なくとも1つを含む、請求項乃至請求項10のうち何れか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項12】
(e)溶媒をさらに含む、請求項1乃至請求項11のうち何れか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のうち何れか一項に記載の硬化性組成物より得られる硬化膜。
【請求項14】
フィルム基材の少なくとも一方の面にハードコート層を備えるハードコートフィルムであって、該ハードコート層が請求項13に記載の硬化膜からなる、ハードコートフィルム。
【請求項15】
フィルム基材の少なくとも一方の面にハードコート層を備えるハードコートフィルムであって、該ハードコート層が、請求項1乃至請求項12のうち何れか一項に記載の硬化性組成物をフィルム基材上に塗布し塗膜を形成する工程と、該塗膜に活性エネルギー線を照射し硬化する工程とを含む方法により形成されてなる、ハードコートフィルム。
【請求項16】
フィルム基材の少なくとも一方の面にハードコート層を備えるハードコートフィルムであって、該ハードコート層が、請求項12に記載の硬化性組成物をフィルム基材上に塗布し塗膜を形成する工程と、加熱により該塗膜から前記溶媒を除去する工程と、該塗膜に活性エネルギー線を照射し硬化する工程とを含む方法により形成されてなる、ハードコートフィルム。
【請求項17】
前記ハードコート層が1μm乃至10μmの膜厚を有する、請求項14乃至請求項16のうち何れか一項に記載のハードコートフィルム。
【請求項18】
請求項1乃至請求項12のうち何れか一項に記載の硬化性組成物をフィルム基材上に塗布し塗膜を形成する工程と、該塗膜に活性エネルギー線を照射し硬化する工程とを含む、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルディスプレイ等の各種表示素子の表面に適用されるハードコート層の形成材料として有用な硬化性組成物に関し、耐擦傷性及び延伸性に優れ、さらには帯電防止性をも付与可能なハードコート層を形成可能な硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンは今や最も一般的な携帯電話の形態として普及し、我々の日常生活においてなくてはならないものとなった。スマートフォンの表面には、ディスプレイの傷付き防止のため、カバーガラスが使用されている。近年、上記のディスプレイとして、屈曲可能なディスプレイ、いわゆるフレキシブルディスプレイの開発が行われている。フレキシブルディスプレイは、屈曲及び巻取等の変形が可能なディスプレイとして、幅広い用途が期待されている。しかし一般にガラスは硬く、曲げ戻しが難しいために、フレキシブルディスプレイには応用出来ない。そのため、ガラスに代えて、傷付き防止のための耐擦傷性を有するハードコート層を備えたプラスチックフィルムを、フレキシブルディスプレイの表面に適用することが試みられている。このハードコート層を備えたプラスチックフィルムを表面に適用したフレキシブルディスプレイを、そのディスプレイ側を外側にして(すなわちハードコート層を外側にして)湾曲させた場合、最表面のハードコート層には引張方向の応力が生じることから、ハードコート層には、一定の延伸性を有することが求められる。
【0003】
また、一般にハードコート層に耐擦傷性を付与する手法として、例えば、高密度の架橋構造を形成する、すなわち分子運動性の低い架橋構造を形成することで表面硬度を高め、外力への抵抗性を与える手法が採られる。これらのハードコート層を形成する材料として、現在、ラジカルにより3次元架橋する多官能アクリレート系材料が最も用いられている。しかし、多官能アクリレート系材料は、その高い架橋密度のため、通常、延伸性に劣る。このように、ハードコート層の延伸性と耐擦傷性とはトレードオフの関係にあり、両者の特性を両立させることが課題となる。
【0004】
これまで耐擦傷性を向上させる手法の一つとして、ハードコート層を形成する硬化性組成物にシリコーン又はフッ素系の表面改質剤を混ぜ、硬化膜表面に滑り性を付与する手法が知られている。また、脂環式骨格及び光重合性不飽和基を有する脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートと、光重合性不飽和基を有する含フッ素化合物とを併用することにより、一定水準の耐擦傷性を示すことが報告されている(特許文献1)。
【0005】
一方、ディスプレイのフロント保護材としてハードコートフィルムが用いられる場合、ラミネート時に発生した静電気による埃等の付着抑制、及びディスプレイの誤動作防止のため、帯電防止性の付与が求められることがある。こうした静電気対策としては、表面抵抗値が1010Ω/□程度であることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-125049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のハードコート層では、一定水準の耐擦傷性を有しているものの、満足できる水準ではない。本発明は、高い耐擦傷性と延伸性とを両立し、さらに帯電防止性を付与可能なハードコート層を形成できる、硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1態様は、(a)下記式[1]乃至式[3]で表される部分構造のうち何れか1つを有する、少なくとも1種のウレタン(メタ)アクリレート100質量部、(b)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の末端に、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテル0.05質量部乃至10質量部、及び(c)活性エネルギー線によりラジカルを発生する重合開始剤1質量部乃至20質量部を含む、硬化性組成物である。
【化1】
(上記式中、R、R及びRはそれぞれ炭素原子数4乃至15の2価の炭化水素基を表し、Rは1価アルコールの残基を表す。)
【0009】
前記(a)ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば(a1)ヒドロキシ基を少なくとも1つ有する(メタ)アクリレート化合物と(a2)下記式[1´]乃至式[3´]で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つのイソシアネート化合物との反応生成物である。
【化2】
(上記式中、R及びRは前記式[1]の定義と同義であり、Rは前記式[2]の定義と同義であり、Rは前記式[3]の定義と同義である。)
【0010】
前記(a2)イソシアネート化合物は、例えば前記式[1´]で表される化合物である。
【0011】
前記(b)パーフルオロポリエーテルは、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の末端に、例えばウレタン結合を介して活性エネルギー線重合性基を有する。
【0012】
前記(b)パーフルオロポリエーテルは、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の末端に、例えばウレタン結合を介して活性エネルギー線重合性基を少なくとも2つ有する。
【0013】
前記(b)パーフルオロポリエーテルは、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端それぞれに、例えばウレタン結合を介して活性エネルギー線重合性基を少なくとも2つ有する。
【0014】
前記(b)パーフルオロポリエーテルのポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基は、繰り返し単位-[CFO]-及び繰り返し単位-[CFCFO]-の双方を有し、これら繰り返し単位をブロック結合、ランダム結合、又は、ブロック結合及びランダム結合にて結合してなる基である。
【0015】
前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖は、例えば下記式[4]で表される構造を有する。
【化3】
(上記式[4]中、nは、繰り返し単位-[CFCFO]-の数と、繰り返し単位-[CFO]-の数との総数であって5乃至30の整数を表し、前記繰り返し単位-[CFCFO]-と、前記繰り返し単位-[CFO]-は、ブロック結合、ランダム結合、又は、ブロック結合及びランダム結合にて結合してなる。)
【0016】
本発明の硬化性組成物は、(d)帯電防止剤10質量部乃至55質量部をさらに含むことができる。前記(d)帯電防止剤は、例えば金属酸化物粒子を含む。前記金属酸化物粒子は、例えばスズ、亜鉛、及びインジウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物を含む。前記金属酸化物粒子は、例えばドーパントが添加されていてもよい酸化スズを含む。前記金属酸化物粒子は、例えばリンドープ酸化スズ、及び表面が五酸化アンチモンで被覆された酸化スズのうち少なくとも1つを含む。
【0017】
本発明の硬化性組成物は、(e)溶媒をさらに含むことができる。
【0018】
本発明の第2態様は、本発明の硬化性組成物より得られる硬化膜である。
【0019】
本発明の第3態様は、フィルム基材の少なくとも一方の面にハードコート層を備えるハードコートフィルムであって、該ハードコート層が本発明の硬化性組成物より得られる硬化膜からなる、ハードコートフィルムである。
【0020】
前記ハードコート層は、例えば、本発明の硬化性組成物をフィルム基材上に塗布し塗膜を形成する工程と、該塗膜に活性エネルギー線を照射し硬化する工程とを含む方法により形成されてなる。
【0021】
前記ハードコート層は、例えば、本発明の硬化性組成物をフィルム基材上に塗布し塗膜を形成する工程と、加熱により該塗膜から前記溶媒を除去する工程と、該塗膜に活性エネルギー線を照射し硬化する工程とを含む方法により形成されてなる。
【0022】
前記ハードコート層が、例えば1μm乃至10μmの膜厚を有する。
【0023】
本発明の第4態様は、本発明の硬化性組成物をフィルム基材上に塗布し塗膜を形成する工程と、該塗膜に活性エネルギー線を照射し硬化する工程とを含む、積層体の製造方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、厚さ1μm乃至10μmの薄膜においても、優れた耐擦傷性と高い延伸性とを両立する硬化膜及びハードコート層の形成に有用な硬化性組成物を提供することができる。また、本発明によれば、前記硬化性組成物から得られる硬化膜又は該硬化膜からなるハードコート層を備えるハードコートフィルムを提供することができ、トレードオフの関係にある耐擦傷性及び延伸性が共に優れるハードコートフィルムを提供することができる。更に本発明によれば、上記の耐擦傷性及び延伸性に加え、帯電防止性をも付与した硬化膜及びハードコート層の形成に有用な硬化性組成物、並びにこれら3つの性能に優れるハードコート層を備えるハードコートフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<硬化性組成物>
本発明の硬化性組成物の各成分について、以下に説明する。
[(a)ウレタン(メタ)アクリレート]
本発明の硬化性組成物において(a)ウレタン(メタ)アクリレートは、前記式[1]乃至式[3]で表される部分構造のうち何れか1つを有する化合物であり、例えば、前記(a1)ヒドロキシ基を少なくとも1つ有する(メタ)アクリレート化合物と(a2)前記式[1´]乃至式[3´]で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つのイソシアネート化合物とを、公知の方法で反応させて得られる反応生成物である。中でも(a)ウレタン(メタ)アクリレートとして、前記式[1]で表される部分構造を有することが最も好ましい。
【0026】
上記(a1)ヒドロキシ基を少なくとも1つ有する(メタ)アクリレート化合物として、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチルアクリレート、2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチルメタクリレート、グリセリンジアクリレート、グリセリンジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、及びジペンタエリスリトールペンタメタクリレートが挙げられる。
【0027】
前記式[1´]乃至式[3´]においてR、R及びRは、ジイソシアネート化合物から2つのイソシアネート基を除いた基であり、例えば、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、トリレン基、キシリレン基、フェニレン基、ナフチレン基、ジシクロヘキシルメタン基、トリメチルヘキサメチレン基、イソホロン基、及びジフェニルメタン基が挙げられる。前記式[1´]においてRは、ジイソシアネート化合物と反応してウレタン結合を形成する1価アルコールからOH基を除いた基である。
【0028】
本発明の硬化性組成物の(a)ウレタン(メタ)アクリレートは、一種を単独で、或いは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
[(b)パーフルオロポリエーテル]
本発明の硬化性組成物において好ましい(b)パーフルオロポリエーテルは、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の末端に、ウレタン結合を介して活性エネルギー線重合性基を有する。前記パーフルオロポリエーテルの分子鎖の末端は、該分子鎖の全ての末端及び一部の末端、いずれでもよい。前記パーフルオロポリエーテルの分子鎖が直鎖状である場合、前記分子鎖の全ての末端及び一部の末端は、それぞれ該直鎖状の分子鎖の両末端及び片末端である。前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ウレタン結合との間の連結基としては、例えば、エーテル結合を有する炭化水素基が挙げられ、該炭化水素基は、水素原子の少なくとも1つがフッ素原子で置換されていてもよい。本発明の硬化性組成物において(b)パーフルオロポリエーテルは、本発明の硬化性組成物から形成されるハードコート層における表面改質剤としての役割を果たす。また、(b)パーフルオロポリエーテルは、(a)ウレタン(メタ)アクリレートとの相溶性に優れるため、白濁が抑制され、透明な外観を呈するハードコート層の形成を可能とする。
【0030】
上記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基として、耐擦傷性が良好となる硬化膜が得られる観点から、-[CFO]-(オキシパーフルオロメチレン基)と-[CFCFO]-(オキシパーフルオロエチレン基)の双方を繰り返し単位として有する基が好ましい。その場合、これらのオキシパーフルオロアルキレン基の結合は、ブロック結合及びランダム結合の何れであってもよい。オキシパーフルオロアルキレン基の繰り返し単位数は、その繰り返し単位数の総計として5乃至30の範囲であることが好ましく、7乃至21の範囲であることがより好ましい。
【0031】
上記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖として、下記式[4]で表される構造を有することが好ましい。
【化4】
式[4]中のnは、繰り返し単位-[CFCFO]-の数と、繰り返し単位-[CFO]-の数との総数を表し、5乃至30の範囲の整数が好ましく、7乃至21の範囲の整数がより好ましい。また、繰り返し単位-[CFCFO]-の数と、繰り返し単位-[CFO]-の数との比率は、2:1乃至1:2の範囲であることが好ましく、およそ1:1の範囲とすることがより好ましい。これら繰り返し単位の結合は、ブロック結合及びランダム結合の何れであってもよい。
【0032】
上記活性エネルギー線重合性基として、例えば(メタ)アクリロイル基及びビニル基が挙げられる。(b)パーフルオロポリエーテルは、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の末端に、1つの活性エネルギー線重合性基を有するものに限られず、2つ以上の活性エネルギー線重合性基を有するものであってもよい。活性エネルギー線重合性基を含む末端構造として、例えば、以下に示す式[A1]乃至式[A5]の構造、及びこれらの構造中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した構造が挙げられる。これらの構造のうち、活性エネルギー線重合性基を2つ以上有する、式[A3]、式[A4]及び式[A5]の構造、並びにこれらの構造中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した構造が好ましい。
【化5】
【0033】
本発明の硬化性組成物において(b)パーフルオロポリエーテルの含有量は、前記(a)ウレタン(メタ)アクリレート100質量部に対して、0.05質量部乃至10質量部、好ましくは0.05量部乃至5質量部である。(b)パーフルオロポリエーテルの含有量が0.05質量部以上であることで、ハードコート層に十分な耐擦傷性を付与することができ、また(c)パーフルオロポリエーテルの含有量が10質量部以下であることで、(a)ウレタン(メタ)アクリレートと十分に相溶し、より白濁の少ないハードコート層を得ることができる。
【0034】
なお、(b)パーフルオロポリエーテルは、一種を単独で、或いは二種以上を組み合わせて用いることができる。二種以上を組み合わせる場合、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の片末端(一方の末端)に、ウレタン結合を介して活性エネルギー線重合性基を有し、且つその分子鎖の他端(もう一方の末端)にヒドロキシ基を有するパーフルオロポリエーテルが含まれていてもよい。また、(b)パーフルオロポリエーテルは、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ウレタン結合の間、並びに前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ヒドロキシ基との間にポリ(オキシアルキレン)基を有さないという条件を付加することができる。
【0035】
[(c)重合開始剤]
本発明の硬化性組成物において好ましい(c)重合開始剤は、例えば、電子線、紫外線、X線等の活性エネルギー線により、特に紫外線照射によりラジカルを発生する重合開始剤である。
【0036】
(c)重合開始剤として、例えば、ベンゾイン類、アルキルフェノン類、チオキサントン類、アゾ類、アジド類、ジアゾ類、o-キノンジアジド類、アシルホスフィンオキシド類、オキシムエステル類、有機過酸化物、ベンゾフェノン類、ビスクマリン類、ビスイミダゾール類、チタノセン類、チオール類、ハロゲン化炭化水素類、トリクロロメチルトリアジン類、及びヨードニウム塩、スルホニウム塩などのオニウム塩類が挙げられる。これらの重合開始剤は、一種を単独で、或いは二種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明では、透明性、表面硬化性及び薄膜硬化性の観点から、(c)重合開始剤としてアルキルフェノン類を使用することが好ましい。アルキルフェノン類を使用することにより、耐擦傷性がより向上した硬化膜を得ることができる。
【0037】
上記アルキルフェノン類として、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2-メチルプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-(4-(4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル)フェニル)-2-メチルプロパン-1-オン等のα-ヒドロキシアルキルフェノン類;2-メチル-1-(4-(メチルチオ)フェニル)-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン等のα-アミノアルキルフェノン類;2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン;及びフェニルグリオキシル酸メチルが挙げられる。
【0038】
本発明の硬化性組成物において(c)重合開始剤の含有量は、前記(a)ウレタン(メタ)アクリレート100質量部に対して、1質量部乃至20質量部、好ましくは2質量部乃至10質量部である。
【0039】
[(d)帯電防止剤]
本発明の硬化性組成物は、任意成分として(d)帯電防止剤を含有してもよい。(d)帯電防止剤として、例えば金属酸化物粒子を含有する帯電防止剤が挙げられる。前記金属酸化物粒子として、その一次粒子径が4nm乃至100nmの微粒子を採用することができる。前記金属酸化物粒子はその一次粒子径を上記数値範囲内とすることにより耐擦傷性及び延伸性に影響を与えることなく帯電防止性を付与することができ、また透明性の実現につながる硬化膜を得ることができる。なお、本発明において、金属酸化物粒子における一次粒子径とは、透過型電子顕微鏡を用いて観察される個々の粒子の粒子径を指す。
【0040】
上記金属酸化物粒子として、例えばスズ、亜鉛、及びインジウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物を含むことができる。具体的には酸化スズ(SnO)、スズドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、リンドープ酸化スズ(PTO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AlZO)、アンチモンドープ酸化亜鉛(AZO)、インジウムドープ酸化亜鉛又は酸化亜鉛ドープ酸化インジウム(IZO)、及び酸化インジウムガリウム亜鉛(IGZO)を挙げることができ、これらの中でもドーパントが添加された上記元素の酸化物が帯電防止剤として好ましく、リンドープ酸化スズ(PTO)が特に好ましい。
【0041】
上記金属酸化物粒子として、また、金属酸化物を核とし、その表面が酸性又は塩基性の酸化物で被覆された表面被覆型金属酸化物粒子を挙げることができる。前記核として、例えば、酸化スズ等の上記金属酸化物粒子の他、酸化チタン、酸化チタン-酸化スズ複合体、酸化ジルコニウム-酸化スズ複合体、酸化タングステン-酸化スズ複合体、及び酸化チタン-酸化ジルコニウム-酸化スズ複合体を挙げることができる。前記酸性又は塩基性の酸化物として、例えば五酸化アンチモン、酸化ケイ素-五酸化アンチモン複合体、及び酸化ケイ素-酸化スズ複合体を挙げることができる。
【0042】
本発明において(d)帯電防止剤を含有する場合、その含有量は、前記(a)ウレタン(メタ)アクリレート100質量部に対して、10質量部乃至55質量部である。なお、(d)帯電防止剤は、一種を単独で、或いは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
[(e)溶媒]
本発明の硬化性組成物は、任意成分として(e)溶媒を含有してもよく、すなわちワニスの形態としてもよい。(e)溶媒としては、前記(a)成分乃至(c)成分、及び任意成分である前記(d)成分の溶解・分散性、また、後述する硬化膜(ハードコート層)の形成に係る硬化性組成物の塗工時の作業性、硬化前後の乾燥性等を考慮して適宜選択すればよい。
【0044】
上記(e)溶媒として、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素類;n-ヘキサン、n-ヘプタン、ミネラルスピリット、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素類;塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、o-ジクロロベンゼン等のハロゲン化物類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等のエステル類又はエステルエーテル類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ジ-n-ブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコール等のアルコール類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のアミド類;及びジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類、並びにこれらの溶媒のうち二種以上を混合した溶媒が挙げられる。
【0045】
本発明の硬化性組成物において(e)溶媒の含有量は特に限定されないが、例えば、本発明の硬化性組成物の固形分濃度が1質量%乃至70質量%、好ましくは5質量%乃至50質量%となる濃度である。ここで固形分濃度(不揮発分濃度とも称する)とは、本発明の硬化性組成物の前記(a)成分乃至(c)成分、並びに任意成分である前記(d)成分及びその他添加剤の総質量(合計質量)に対する固形分(全成分から溶媒成分を除いたもの)の含有量を表す。
【0046】
<硬化膜>
本発明の硬化性組成物は、基材上に塗布(コーティング)して塗膜を形成し、該塗膜に活性エネルギー線を照射して重合(硬化)させることにより、硬化膜を形成でき、該硬化膜も本発明の対象である。また後述するハードコートフィルムにおけるハードコート層として、上記硬化膜からなるものを用いることができる。
【0047】
上記基材として、例えば、各種樹脂(ポリカーボネート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリウレタン、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、ノルボルネン系樹脂)、金属、木材、紙、ガラス、スレートを挙げることができる。これら基材の形状は板状、フィルム状又は3次元成形体でもよい。
【0048】
上記基材上への塗布方法は、キャストコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、ロールコート法、スプレーコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法、印刷法(凸版印刷法、凹版印刷法、平版印刷法、スクリーン印刷法等)等を適宜選択し得、中でもロール・ツー・ロール(roll-to-roll)法に利用でき、また薄膜塗布性の観点から、凸版印刷法、特にグラビアコート法を用いることが望ましい。なお事前に孔径が0.2μm程度のフィルタなどを用いて、本発明の硬化性組成物を濾過した後、塗布に供することが好ましい。なお塗布する際、必要に応じて該硬化性組成物に溶剤をさらに添加してもよい。この場合の溶剤としては前述の[(e)溶媒]で挙げた種々の溶媒を挙げることができる。
【0049】
基材上に本発明の硬化性組成物を塗布し塗膜を形成した後、必要に応じてホットプレート、オーブン等の加熱手段で塗膜を予備乾燥して溶媒を除去する(溶媒除去工程)。この際の加熱乾燥の条件としては、例えば、40℃乃至120℃で、30秒乃至10分程度とすることが好ましい。乾燥後、紫外線等の活性エネルギー線を照射して、上記塗膜を硬化させる。活性エネルギー線としては、例えば、紫外線、電子線及びX線が挙げられ、特に紫外線が好ましい。紫外線照射に用いる光源としては、例えば、太陽光線、ケミカルランプ、低圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、及びUV-LEDが使用できる。さらにその後、ポストベークを行うことにより、具体的にはホットプレート、オーブン等の加熱手段を用いて加熱することにより、重合を完結させてもよい。
【0050】
なお、形成される硬化膜の厚さは、乾燥、硬化後において、通常0.1μm乃至50μm、好ましくは0.5μm乃至20μmである。
【0051】
<ハードコートフィルム>
本発明の硬化性組成物を用いて、フィルム基材の少なくとも一方の面(表面)にハードコート層を備えるハードコートフィルムを製造することができる。該ハードコートフィルムも本発明の対象であり、該ハードコートフィルムは、例えば、タッチパネル、液晶ディスプレイ等の各種表示素子の表面を保護するために好適に用いられる。
【0052】
本発明のハードコートフィルムにおけるハードコート層は、本発明の硬化性組成物をフィルム基材上に塗布し塗膜を形成する工程と、必要に応じて加熱により溶媒を除去する工程と、該塗膜に紫外線等の活性エネルギー線を照射し、該塗膜を硬化させる工程とを含む方法により形成することができる。これらの工程を含む、フィルム基材の少なくとも一方の面にハードコート層を備えるハードコートフィルムの製造方法も本発明の対象である。
【0053】
上記フィルム基材としては、前述の<硬化膜>で挙げた基材のうち、光学用途に使用可能な各種の透明な樹脂製フィルムが用いられる。好ましい樹脂製フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリウレタン、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ポリカーボネート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、トリアセチルセルロース(TAC)等のフィルムが挙げられる。
【0054】
また上記フィルム基材上への、本発明の硬化性組成物の塗布方法(塗膜形成工程)、及び塗膜への活性エネルギー線照射方法(硬化工程)は、前述の<硬化膜>で挙げた方法を用いることができる。また本発明の硬化性組成物に溶媒が含まれる(ワニス形態の)場合、塗膜形成工程の後、必要に応じて該塗膜を乾燥し溶媒を除去する工程を含むことができる。その場合、前述の<硬化膜>で挙げた塗膜の乾燥方法(溶媒除去工程)を用いることができる。
【0055】
こうして得られたハードコート層の層厚(膜厚)は、例えば1μm乃至20μm、好ましくは1μm乃至10μmである。
【実施例
【0056】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、実施例において、試料の調製及び物性の分析に用いた装置及び条件は、以下の通りである。
【0057】
(1)バーコーターによる塗布
装置:(株)エスエムテー製 PM-9050MC
バー:オーエスジーシステムプロダクツ(株)製 A-Bar OSP-22、最大ウエット膜厚22μm(ワイヤーバー#9相当)
塗布速度:4m/分
(2)オーブン
装置:三基計装(株)製 2層式クリーンオーブン(上下式)PO-250-45-D
(3)UV硬化
装置:ヘレウス(株)製 CV-110QC-G
ランプ:ヘレウス(株)製 無電極ランプH-bulb
(4)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)
装置:東ソー(株)製 HLC-8220GPC
カラム:昭和電工(株)製 Shodex(登録商標)GPC K-804L、GPC K-805L
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
検出器:RI
(5)擦傷試験
装置:新東科学(株)製 往復摩耗試験機 TRIBOGEAR TYPE:30S
走査速度:5,000mm/分
走査距離:50mm
(6)引張試験
装置:(株)島津製作所製 卓上形精密万能試験機オートグラフAGS-10kNX
つかみ具:1kN手動ねじ式平面形つかみ具
つかみ歯:高強度ラバーコートつかみ歯
引張速度:10mm/分
測定温度:23℃
(7)表面抵抗測定
装置:三菱化学(株)製 高抵抗率計 Hiresta UP MCP-HT450
プローブ:URSプローブ
レジテーブル:UFL
印加電圧:10V
【0058】
また、略記号は以下の意味を表す。
ヒドロキシ基を1つ有する多官能アクリレート(a1-1):
ジペンタエリスリトールペンタアクリレート/ヘキサアクリレート混合物[東亞合成 (株)製 アロニックス(登録商標) M-403、ペンタ体割合50%乃至60%(カタログ値)、推定水酸基価=63.3mgKOH/g(ペンタ体55%、ヘキサ体45%として算出)]
アロファネート体ポリイソシアネート(a2-1):
ヘキサメチレンジイソシアネートのアロファネート変性体[旭化成ケミカルズ(株)製 デュラネート(登録商標)A201H、イソシアネート基含有率=17.2質量%、2官能]
ビウレット体ポリイソシアネート(a2-2):
ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット変性体[旭化成ケミカルズ(株)製 デュラネート(登録商標)24A-100、イソシアネート基含有率=23.5質量%、3官能]
イソシアヌレート体ポリイソシアネート(a2-3):
ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体[旭化成ケミカルズ(株)製 デュラネート(登録商標)TLA-100、イソシアネート基含有率=23.3質量%、3官能]
アダクト体ポリイソシアネート(a2-4):
ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト変性体[旭化成ケミカルズ(株)製 デュラネート(登録商標)P301-75E、イソシアネート基含有率=12.5質量%、2官能]
PFPE:両末端それぞれにポリ(オキシアルキレン)基を介さずヒドロキシ基を2つ有するパーフルオロポリエーテル[ソルベイスペシャルティポリマーズ社製 Fomblin(登録商標)T4]
BEI:1,1-ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート[昭和電工(株)製 カレンズ(登録商標)BEI]
DOTDD:ジネオデカン酸ジオクチル錫[日東化成(株)製 ネオスタン(登録商標)U-830]
SM2:両末端にアクリロイル基を合計4つ有するパーフルオロポリエーテルウレタンアクリレート[ソルベイスペシャルティポリマーズ社製 FLUOROLINK(登録商標)AD-1700、不揮発分70質量%溶液]
SM3:片末端にメタクリロイル基を有するポリジメチルシロキサン[JNC(株)製 サイラプレーン(登録商標)FM-0721]
O2959:2-ヒドロキシ-1-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2-メチルプロパン-1-オン[IGM Resins社製 OMNIRAD(登録商標)2959]
MEK:メチルエチルケトン
MeOH:メタノール
帯電防止剤d-1:
リンドープ酸化スズ20質量%イソプロピルアルコール分散ゾル[日産化学(株)製セルナックス(登録商標)CX-S204IP、一次粒子径:5nm乃至20nm、二次粒子径:10nm乃至20nm]
※ここで一次粒子径、及び二次粒子径とは、透過型電子顕微鏡観察によって測定される平均粒子径を指す。粒子径は透過型電子顕微鏡によるゾルを銅メッシュ上に滴下し乾燥させ、透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製JEM-1020)を用いて加速電圧100kVにて観察し、100個の粒子を測定し平均化した値を平均一次粒子径として求めた。
帯電防止剤d-2:
酸化スズを核としてその表面が五酸化アンチモンで被覆された一次粒子径30nm乃至40nmのコアシェル粒子30質量%メタノール分散ゾル[日産化学(株)製セルナックス(登録商標)HX-307M1]
【0059】
[製造例1]表面改質剤SM1の製造
スクリュー管に、PFPE 1.19g(0.5mmol)、BEI 0.52g(2.0mmol)、DOTDD 0.017g(PFPE及びBEIの合計質量の0.01倍量)、及びMEK 1.67gを仕込んだ。この混合物を、スターラーチップを用いて室温(およそ23℃)で72時間撹拌して、目的化合物である表面改質剤の50質量%MEK溶液を得た。得られたSM1のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量:Mwは3,000、分散度:Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)は1.2であった。
【0060】
[ウレタンアクリレート製造時のイソシアネート仕込み量の求め方]
ヒドロキシ基を1つ有する多官能アクリレート(a1-1)と各種ポリイソシアネート(a2-1)乃至(a2-4)とを反応させ、ウレタンアクリレートを製造する際の該ポリイソシアネートの仕込み量は、[(a1-1)の水酸基価/561)×(42×100/イソシアネート基含有率)×[(a1-1)量/100]×(NCO基の数/OH基の数)を用いて算出した。
【0061】
[製造例2]ウレタンアクリレートUA1の製造
スクリュー管に、OH基の数/NCO基の数=1となるよう(a1-1)10g、及びアロファネート体ポリイソシアネート(a2-1)2.76gを仕込み、さらにDOTDD 0.13g[(a1-1)及び(a2-1)の合計質量の0.01倍量]、及びMEK 3.22gを仕込んだ。得られた混合物を、スターラーチップを用いて室温(およそ23℃)でイソシアネート基を示す2260cm-1の赤外線吸収スペクトルが消失するまで撹拌した後、目的化合物であるウレタンアクリレートUA1の80質量%MEK溶液を得た。
【0062】
[製造例3]ウレタンアクリレートUA2の製造
スクリュー管に、OH基の数/NCO基の数=2/3となるよう(a1-1)10g、及びビウレット体ポリイソシアネート(a2-2)3.02gを仕込み、さらにDOTDD 0.13g[(a1-1)及び(a2-2)の合計質量の0.01倍量]、及びMEK 2.96gを仕込んだ。得られた混合物を、スターラーチップを用いて室温(およそ23℃)で3時間程度撹拌した後、残イソシアネート基を消滅させるためMeOH 0.33gを仕込み、室温(およそ23℃)でイソシアネート基を示す2260cm-1の赤外線吸収スペクトルが消失するまで撹拌した後、目的化合物であるウレタンアクリレートUA2の80質量%MEK/MeOH溶液を得た。
【0063】
[製造例4]ウレタンアクリレートUA3の製造
スクリュー管に、OH基の数/NCO基の数=2/3となるよう(a1-1)10g、及びイソシアヌレート体ポリイソシアネート(a2-3)3.05gを仕込み、さらにDOTDD 0.13g[(a1-1)及び(a2-3)の合計質量の0.01倍量]、及びMEK 2.97gを仕込んだ。得られた混合物を、スターラーチップを用いて室温(およそ23℃)で3時間程度撹拌した後、残イソシアネート基を消滅させるためMeOH 0.33gを仕込み、室温(およそ23℃)でイソシアネート基を示す2260cm-1の赤外線吸収スペクトルが消失するまで撹拌した後、目的化合物であるウレタンアクリレートUA3の80質量%MEK/MeOH溶液を得た。
【0064】
[製造例5]ウレタンアクリレートUA4の製造
スクリュー管に、OH基の数/NCO基の数=1となるよう(a1-1)10g、及びアダクト体ポリイソシアネート(a2-4)3.73gを仕込み、さらにDOTDD 0.14g[(a1-1)及び(a2-4)の合計質量の0.01倍量]、及びMEK 3.47gを仕込んだ。得られた混合物を、スターラーチップを用いて室温(およそ23℃)でイソシアネート基を示す2260cm-1の赤外線吸収スペクトルが消失するまで撹拌した後、目的化合物であるウレタンアクリレートUA4の80質量%MEK溶液を得た。
【0065】
[実施例1乃至実施例4、比較例1乃至比較例3]
表1に記載の各成分を混合し、表1に記載の固形分濃度の硬化性組成物を調製した。なお、ここで固形分とは溶媒以外の成分を指す。また、表1中、[部]とは[質量部]を表す。なお、表1中のウレタンアクリレート及び表面改質剤はそれぞれ固形分を表す。
【0066】
【表1】
【0067】
これらの硬化性組成物を、A4サイズの両面易接着処理PETフィルム[東レ(株)製 ルミラー(商標登録)U403、厚み100μm]上にバーコーターにより塗布し、塗膜を得た。この塗膜を80℃のオーブンで3分間乾燥させ溶媒を除去した。得られた膜を、窒素雰囲気下、露光量300mJ/cmのUV光を照射し露光することで、ハードコート層(硬化膜)を有するハードコートフィルムを作製した。
【0068】
各硬化性組成物の均質性、並びに得られたハードコートフィルムの耐擦傷性及び延伸性を評価した。評価の手順を以下に示す。結果を表2に併せて示す。
[組成物均質性]
調製後2時間経過後の硬化性組成物の外観を目視で確認し、以下の基準に従い評価した。
A:透明溶液(浮遊物及び沈降物いずれも無し)
C:浮遊物及び沈降物いずれも有り
[耐擦傷性]
得られたハードコートフィルムのハードコート層表面を、往復摩耗試験機に取り付けたスチールウール[ボンスター(BONSTAR)(登録商標)#0000(超極細)]で表2に記載の荷重を掛けてストローク60mmで10往復擦った。その後、前記ストローク60mmの両端5mmの範囲を除いた領域内における傷の程度を目視で確認し、以下の基準A、B及びCに従い評価した。なお、ハードコート層として実際の使用を想定した場合、少なくともBであることが求められ、Aであることが望ましい。
A:傷無し(傷0本)
B:傷発生(長さ5mm未満の傷1本乃至4本)
C:傷発生(長さ5mm未満の傷5本以上、又は長さ5mm以上の傷1本以上)
[延伸性]
得られたハードコートフィルムを長さ60mm、幅10mmの矩形に切り取り、試験片を作製した。その試験片の長手方向の両端から20mmずつを掴むように万能試験機のつかみ具に取り付け、延伸率(=(つかみ具間距離の増加量)÷(つかみ具間距離)×100)が4%、5%、6%となるように1%刻みで引張試験を行った。引張試験後のハードコートフィルムを目視で観察し、試験片のハードコート層にクラックが発生しなかった最大の延伸率を確認した。比較例1の延伸率を延伸性100とし、これを基準として延伸性を算出した。
【0069】
【表2】
【0070】
表1に示すように、実施例1乃至実施例4の硬化性組成物は、イソシアネート化合物として前記式[1´]で表される化合物、前記式[2´]で表される化合物、又は前記式[3´]で表される化合物を用いて得られたウレタンアクリレートUA1、UA2又はUA3、及び表面改質剤として分子鎖の両末端それぞれにウレタン結合を介してアクリロイル基を有するパーフルオロポリエーテルSM1又はSM2を含むものである。一方、比較例1の硬化性組成物は、イソシアネート化合物として前記式[1´]乃至式[3´]で表されない化合物であるアダクト体ポリイソシアネートを用いて得られたウレタンアクリレートUA4、及び表面改質剤としてSM1を含むものである。そして表2に示すように、実施例1乃至実施例4の硬化性組成物から得られたハードコート層を備えるハードコートフィルムは、比較例1の硬化性組成物から得られたハードコート層を備えるハードコートフィルムと比べて、より優れた耐擦傷性を示し、且つ同等以上の延伸性を示した。
【0071】
前記式[1´]乃至式[3´]で表されない化合物であるアダクト体ポリイソシアネートのアダクト体構造骨格は、ウレタン結合中のエーテル部位の回転自由度が高いため、外力に対し変形しやすく、そのため、ウレタンアクリレートUA4の分子鎖が破断しやすく耐擦傷性に劣ると考えられる。一方、前記式[1´]乃至式[3´]で表されるイソシアネート化合物の構造骨格は、エーテル部位を有さないウレア結合を有しているため外力に対し変形しにくく、ウレタンアクリレートUA1乃至UA3は耐擦傷性に優れると考えられる。中でも、イソシアネート化合物として前記式[1´]で表される化合物を用いて得られたウレタンアクリレートUA1を含む、実施例1及び実施例4の硬化性組成物から得られたハードコート層を備えるハードコートフィルムは、優れた耐擦傷性を維持しつつ最も延伸性に優れることが示された。前記式[1´]で表されるイソシアネート化合物の構造は、ウレタン結合とウレア結合を共に有する。加えて、R0で表される1価のアルコール残基の回転自由度が高く、加わった外力を熱エネルギーとして緩和することが可能と推察される。そのため、ウレタンアクリレートUA1は優れた耐擦傷性を維持しつつ最も延伸性に優れると考えられる。
【0072】
一方、比較例2の硬化性組成物は、ウレタンアクリレートUA1、及び表面改質剤として片末端にメタクリロイル基を有するポリジメチルシロキサンSM3を含むものであり、表面改質剤SM3の相溶性が悪く良好な組成物を得ることができなかった。更に、表面改質剤を含まない比較例3の硬化性組成物から得られたハードコート層を備えるハードコートフィルムは、実施例1乃至実施例4の硬化性組成物から得られたハードコート層を備えるハードコートフィルムと比べて、耐擦傷性に劣ることが示された。
【0073】
[実施例5及び実施例6]
表3に記載の各成分を混合し、表3に記載の固形分濃度の硬化性組成物を調製した。なお、ここで固形分とは溶媒及び分散媒以外の成分を指す。また、表3中、[部]とは[質量部]を、[%]は[質量%]を表す。なお、表3中のウレタンアクリレート、表面改質剤及び帯電防止剤はそれぞれ固形分を表す。
【0074】
【表3】
【0075】
これらの硬化性組成物を、A4サイズの両面易接着処理PETフィルム[東レ(株)製ルミラー(商標登録)U403、厚み100μm]上にバーコーターにより塗布し、塗膜を得た。この塗膜を60℃のオーブンで3分間乾燥させ溶媒を除去した。得られた膜を、窒素雰囲気下、露光量300mJ/cmのUV光を照射し露光することで、およそ4μmの層厚(膜厚)を有するハードコート層(硬化膜)を有する、ハードコートフィルムを作製した。
【0076】
得られたハードコートフィルムについて、前述の[耐擦傷性]及び[延伸性]の評価に加え、表面抵抗を評価した。表面抵抗評価の手順を以下に示す。結果を表4に示す。
[表面抵抗]
ハードコート層表面を上にして前記ハードコートフィルムを、高抵抗率計のレジテーブル上に置き、プローブを該ハードコートフィルム(ハードコート層)に押し付け10秒後の値を3回測定し、平均値を表面抵抗値[Ω/□]とした。
【0077】
【表4】
【0078】
表3及び表4に示すように、帯電防止剤d-1又はd-2を用いた実施例5及び実施例6の硬化性組成物から得られたハードコート層を備えるハードコートフィルムは、優れた耐擦傷性及び延伸性を示すと共に、帯電防止性を有することが示された。