(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】樹脂含有組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 23/08 20060101AFI20241113BHJP
C08K 5/06 20060101ALI20241113BHJP
C08L 71/00 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
C08L23/08
C08K5/06
C08L71/00 A
(21)【出願番号】P 2020120843
(22)【出願日】2020-07-14
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 匡史
(72)【発明者】
【氏名】水橋 俊成
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-166773(JP,A)
【文献】国際公開第2019/054496(WO,A1)
【文献】特開2019-210433(JP,A)
【文献】特開2019-116535(JP,A)
【文献】特開2016-125057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C09D101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLBが7以下の非イオン性界面活性剤を含有する、エチレン/α、β-不飽和カルボン酸共重合体の水性分散組成物であって、
エチレン/α、β-不飽和カルボン酸共重合体100質量部に対してHLBが7以下の非イオン性界面活性剤を5~15質量部含有
し、
前記HLBが7以下の非イオン性界面活性剤が、アセチレングリコール系界面活性剤である、
水性分散組成物。
【請求項2】
前記HLBが7以下の非イオン性界面活性剤が、左右対称の化学構造を有する界面活性剤である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記HLBが7以下の非イオン性界面活性剤が、式(I):
【化1】
(式中、m及びnは、同一又は異なって、0又は正数を示す。)で表され、HLBが7以下である化合物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
式(I):
【化2】
(式中、m及びnは、同一又は異なって、0又は正数を示す。)で表され、HLBが7以下である化合物を、
エチレン/α、β-不飽和カルボン酸共重合体100質量部に対して5~15質量部含有する、
エチレン/α、β-不飽和カルボン酸共重合体の水性分散組成物。
【請求項5】
エチレン/α、β-不飽和カルボン酸共重合体が、中和度40~70%のエチレン/α、β-不飽和カルボン酸共重合体である、請求項1~
4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
エチレン/α、β-不飽和カルボン酸共重合体が、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体である、請求項
1~5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
コーティング組成物である、請求項1~
6のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂(特にα,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルを構成単位に含む共重合体)を含む組成物等に係る。なお、本明細書に記載される全ての文献の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
α,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルを構成単位に含む共重合体(例えばエチレン/α、β-不飽和カルボン酸共重合体)の水分散体は、良好な熱接着性を有する皮膜を形成することができることから、コーティング剤、ヒートシール剤、ディレータック剤、インモールドラベル、パーコート剤、繊維処理剤及び各種バインダー等の広範な用途に利用されている。
【0003】
このような各種用途に用いられるα,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルを構成単位に含む共重合体は、固形状で用いられる場合と、溶剤や水に溶解、または分散した状態で用いられる場合がある。前者はラミネートコート剤のように、薄い皮膜を形成することが困難であることや、最近のプラスチック削減などの問題もあり、後者の状態で用いられることが多くなってきた。また後者のうちでも、特に省資源、安全性および環境問題の観点から、溶剤を用いる必要のない水性のもの、特に水分散型のものが広く利用されるようになってきている。
【0004】
α,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルを構成単位に含む共重合体樹脂水系分散液としては、例えばエチレン/アクリル酸共重合体をアンモニア、アミン、又はアルカリ金属水酸化物等で中和した水分散液が知られている(例えば、特許文献1~3)。
【0005】
また、特に、α,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルを構成単位に含む共重合体水分散液をコーティング剤として用いるにあたっては、コーティングする基材も、従来のアルミや鋼板などの金属に加えて、最近ではポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリビニルアルコールフィルム等の高分子フィルムや、当該高分子をラミコート(特に蒸着)したり、若しくは無機鉱物などを基材表面に担持させたりした、滅菌紙、耐油紙、耐水紙、ガスバリア紙等の機能性紙や機能性フィルムが出現してきており、多様化している(例えば、特許文献4~6)。しかし、このような高分子フィルムや、あるいは機能性紙や機能性フィルムの表面は、接着性が低いことが多く、このために、従来のα,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルを構成単位に含む共重合体水分散液を用いることでは優良なコーティングが難しい場合が多かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭50-135141号公報
【文献】特許第6426751号公報
【文献】特許第4364983号公報
【文献】特開2001-303475号公報
【文献】特許第4934970号公報
【文献】特開2001-254292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明者らは、接着性に特に優れることにより、種々の材料(例えば高分子フィルム、あるいは機能性紙や機能性フィルム)のコーティング剤として広く使用可能な、α,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルを構成単位に含む共重合体を含有する組成物を開発すべく、検討を行った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
HLBが7以下の非イオン性界面活性剤を含有する、α,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルを構成単位に含む共重合体の水性分散組成物。
項2.
前記HLBが7以下の非イオン性界面活性剤が、左右対称の化学構造を有する界面活性剤である、項1に記載の組成物。
項3.
α,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルを構成単位に含む共重合体が、
さらに、エチレン、プロピレン、ブテン、イソブテン、ブタジエン、イソプレン、及びスチレンからなる少なくとも1種を構成単位に含む共重合体である、項1又は2のいずれかに記載の組成物。
項4.
前記HLBが7以下の非イオン性界面活性剤が、アセチレングリコール系界面活性剤である、項1~3のいずれかに記載の組成物。
項5.
アセチレングリコール系界面活性剤が、式(I):
【0010】
【0011】
(式中、m及びnは、同一又は異なって、0又は正数を示す。)で表され、HLBが7以下である化合物である、項4に記載の組成物。
項6.
式(I):
【0012】
【0013】
(式中、m及びnは、同一又は異なって、0又は正数を示す。)で表され、HLBが7以下である化合物を、
α,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルを構成単位に含む共重合体100質量部に対して2~15質量部含有する、
α,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルを構成単位に含む共重合体の水性分散組成物。
項7.
α,β-不飽和カルボン酸が、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、及びイタコン酸からなる群より選択される少なくとも1種であり、
α,β-不飽和カルボン酸のエステルが、α,β-不飽和カルボン酸の炭素数1~10のアルキルエステルである、項1~6のいずれかに記載の組成物。
項8.
α,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルを構成単位に含む共重合体が、中和度40~70%のα,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルを構成単位に含む共重合体である、項1~7のいずれかに記載の組成物。
項9.
α,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルを構成単位に含む共重合体が、エチレン/α、β-不飽和カルボン酸共重合体である、項1~8のいずれかに記載の組成物。
項10.
エチレン/α、β-不飽和カルボン酸共重合体が、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体である、項9に記載の組成物。
項11.
コーティング組成物である、項1~10のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0014】
優れた接着性を示すコーティングを可能とするα,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルを構成単位に含む共重合体を含有する組成物が提供される。当該組成物は、特にコーティング剤として有用である。当該組成物をコーティング剤として用いると、接着性に特に優れるので、従来のα,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルを構成単位に含む共重合体を含有する組成物では優良なコーティングを施すことが難しい材料に対してであっても、優良なコーティングを施すことができる。
【0015】
さらには、より特定された組成を有する当該組成物は、優れた接着性に加えて優れた塗工性をも示すため、より好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。本開示は、α,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルを構成単位に含む共重合体の水性分散組成物及びその用途等を好ましく包含するが、これらに限定されるわけではなく、本開示は本明細書に開示され当業者が認識できる全てを包含する。
【0017】
本開示に包含されるα,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルを構成単位に含む共重合体の水性分散組成物は、HLBが7以下の非イオン性界面活性剤を含有する。本明細書において、本開示に包含される当該組成物を「本開示の組成物」ということがある。また、α,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルを構成単位に含む共重合体を共重合体(A)ということがある。
【0018】
共重合体(A)は、1種又はそれ以上のα,β-不飽和カルボン酸を構成単位に含む共重合体であり、例えば、(i)1種又は2種以上のα,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルと1種又は2種以上のα,β-不飽和カルボン酸又はそのエステル以外のモノマーとの共重合体であってもよいし、(ii)2種以上のα,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルの共重合体であってもよい。なお、「2種以上のα,β-不飽和カルボン酸又はそのエステル」には、2種以上のα,β-不飽和カルボン酸のみの場合、2種以上のα,β-不飽和カルボン酸エステルのみの場合、並びに、1種以上のα,β-不飽和カルボン酸及び1種以上のα,β-不飽和カルボン酸エステルの場合、が包含される。
【0019】
α,β-不飽和カルボン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸(すなわち、メタクリル酸及び/又はアクリル酸)がより好ましい。また、α,β-不飽和カルボン酸のエステルとしては、例えば炭素数1~10(1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10)のアルキルエステルが挙げられる。当該アルキルエステルのアルキル部分は、直鎖又は分岐鎖状であってよい。α,β-不飽和カルボン酸のエステルとしてはとしては、より具体的には例えば、メチルエステル、エチルエステル、ブチル(特にn-ブチル)エステル、2-エチルヘキシルエステル等が挙げられる。また、α,β-不飽和カルボン酸のエステルとしては、例えば2-メチルアミノエチルエステル、ヒドロキシエチルエステル(特に2-ヒドロキシエチルエステル)等も挙げられる。α,β-不飽和カルボン酸のエステルとしては、これらの中でも、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等がより好ましい。
【0020】
α,β-不飽和カルボン酸又はそのエステル以外のモノマーとしては、例えばエチレン、プロピレン、ブテン、イソブテン、ブタジエン、イソプレン、スチレンなどが挙げられる。
【0021】
共重合体(A)としては、より具体的には、例えば、エチレン/α,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルの共重合体、スチレン/α,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルの共重合体等が好ましく挙げられる。これらの中でも、エチレン/α,β-不飽和カルボン酸共重合体がより好ましい。さらに具体的には、例えば、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体や、スチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン/(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル共重合体等がさらに好ましく挙げられる。特に、エチレン/α,β-不飽和カルボン酸共重合体が好ましい。
【0022】
共重合体(A)は、公知の方法又は公知の方法から容易に想到できる方法により調製することができる。また、市販品を購入して用いることもできる。例えば、エチレン/α,β-不飽和カルボン酸共重合体の市販品を購入して用いることもできる。市販品としては、例えば、プリマコール5980、プリマコール5990(ダウケミカル日本(株)製)、ニュクレルAN4221C、ニュクレルN5130H、ニュクレルN2060、ニュクレルN2050H、ニュクレルN1560(三井デュポンポリケミカル(株)製)等を挙げることができる。
【0023】
エチレン/α、β-不飽和カルボン酸共重合体としては、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体が、特に好ましい。
【0024】
共重合体(A)は、特に限定はされないが、含まれるカルボキシル基(α,β-不飽和カルボン酸に由来する)が適度に中和されていることが好ましい。
【0025】
通常、共重合体(A)のカルボキシル基が遊離状態にある場合は親水性が比較的低く、カルボキシル基が塩の状態にある場合は親水性が比較的高くなる。従って、塩基で中和することによって共重合体中の中和されたカルボキシル基が乳化剤の役割を果たし、水性分散液を容易に製造できるようになる。
【0026】
前記中和のための塩基としては、例えば、アンモニア、有機アミンまたはアルカリ金属水酸化物等が好適に用いられる。
【0027】
有機アミンとしては、例えばメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。またアルカリ金属水酸化物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が挙げられる。さらに、アンモニアは例えばアンモニアガスあるいはアンモニア水溶液のような形態で用いることもできる。これら塩基は1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0028】
共重合体(A)のカルボキシル基の20~100%が中和されていることが好ましく、35~100%が中和されていることがより好ましく、40~70%が中和されていることがさらに好ましい。すなわち、共重合体(A)の中和度は、好ましくは20~100%、より好ましくは35~100%、さらに好ましくは40~70%である。なお、当該範囲(20~100%)の上限又は下限は、例えば25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、又は95%であってもよい。例えば、40~95%であってもよい。なお、当該%はカルボキシル基単位のモル%である。
【0029】
また、特に制限はされないが、共重合体(A)としては、α、β-不飽和カルボン酸含有量が例えば、8質量%以上であるものが好ましく、8~50質量%であるものがより好ましい。当該範囲の上限又は下限は、例えば、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、又は49質量%であってもよい。例えば、9~49質量%であってもよい。なお、ここでのα、β-不飽和カルボン酸含量とは、α、β-不飽和カルボン酸由来単位の含量である。
【0030】
特に、共重合体(A)がエチレン/α,β-不飽和カルボン酸共重合体である場合、エチレン単位に由来する非極性な性質と、α、β-不飽和カルボン酸に由来する極性な性質とをバランスよく兼ね備えさせる為に、α、β-不飽和カルボン酸含有量8~24質量%のものが好ましい。当該範囲の上限又は下限は、例えば、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、又は23質量%であってもよい。当該範囲は例えば18~23質量%であってもよい。
【0031】
共重合体(A)を含有する水性組成物を調製する方法は、特に限定されない。例えば、共重合体(A)を、(中和を行う場合は必要に応じて所定量の塩基の存在下で、)70~130℃の温度で撹拌しながら水系分散媒中に分散する。水系分散媒の撹拌を継続しながら室温まで冷却することにより、共重合体(A)(塩基を用いた場合には中和されている)の水性組成物が水性分散液の形で得られる。
【0032】
なお、特に制限されないが、水性組成物中の共重合体(A)の平均粒子径は、例えば5~2000nm程度が好ましく、10~1000nm程度、10~500nm程度、又は10~300nm程度がより好ましい。
【0033】
なお、本開示の組成物における共重合体(A)含有量は、例えば5~50質量%であることが好ましい。当該範囲の上限又は下限は、例えば、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、又は49質量%であってもよい。例えば、当該範囲は10~40質量%又は15~35質量%であってもよい。
【0034】
なお、共重合体(A)は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
本開示の組成物の水性媒体としては、水が好ましく、水道水、工業用水、イオン交換水、脱イオン水、純水などの各種の水を用いることができる。特に脱イオン水又は純水が好ましい。
【0036】
上述の通り、本開示の組成物には、HLB(親水新油バランス)が7以下の非イオン性界面活性剤が含有される。当該界面活性剤のHLBは、好ましくは2~7である。当該範囲の上限又は加減は、例えば2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、又は6.5であってもよい。例えば、当該範囲は、2.5~6.5であってもよい。
【0037】
当該界面活性剤としては、HLBが7以下の、フッ素系界面活性剤、シロキサン系界面活性剤、アクリル系界面活性剤、又はアセチレングリコール系界面活性剤等が好ましく挙げられる。なお、当該界面活性剤としては、当該技術分野において、表面調整剤(消泡剤、レベリング剤)として用いられる界面活性剤が好ましい。
【0038】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、住友スリーエム社製のフロラードFC-430、FC170や大日本インキ化学工業社製のメガファックF177、F471等が挙げられる。
【0039】
また、フッ素系界面活性剤としては、例えばフッ素化アルキルエステルが好ましい。シロキサン系界面活性剤としては、例えばビックケミー社製のBYK-333、BYK-077等が好ましく挙げられる。アクリル系界面活性剤としては、例えばビックケミー社製のBYK-380や楠本化成社製のディスパロンL-1984-50、L-1970等が好ましく挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば日信化学工業社製のサーフィノール等(より具体的には、例えばサーフィノール420等)が好ましく挙げられる。これらの界面活性剤の中でも、アセチレングリコール系界面活性剤が特に好ましい。
【0040】
また、特に制限はされないが、HLBが7以下の非イオン性界面活性剤の中でも、左右対称の化学構造を有する界面活性剤が好ましい。なお、化学構造式を描いた際、線対称又は点対称の化学構造式が描ける化合物は、「左右対称の化学構造を有する」ものとする。
【0041】
アセチレングリコール系界面活性剤の中でも、より具体的には、式(I):
【0042】
【0043】
(式中、m及びnは、同一又は異なって、0又は正数を示す。)で表される、HLBが7以下の化合物が、特に好ましい。
【0044】
m及びnは、同一又は異なって0又は正数を示し、より具体的には同一又は異なって0~25の整数(0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、又は25)を示す。なお、m+n≦40であることがより好ましい。また、m=nであることが好ましい。式(I)におけるエチレンオキサイド単位(-CH2-CH2-O-)の繰り返し数(m、n)により、式(I)で表される化合物が示すHLBを調整することができる。よって、HLBが7以下となる繰り返し数(m、n)を有する、式(I)で表される化合物を選択して本開示の組成物に用いることができる。なお、m=n=0のとき、HLBは約4となり、m及びnが増えることで、HLBは徐々に高くなる。
【0045】
式(I)で表される化合物としては、市販品を購入して用いることもでき、m=n=0の式(I)で表される化合物としては、例えばサーフィノール104(104E、104H、104A、104PA、104S等)(HLB4)を挙げることができる。また、m及びnが正数である式(I)で表され、HLBが7以下の化合物としては、例えばサーフィノール420(HLB4)、サーフィノールSE、サーフィノールSE-F(いずれもHLB6)、サーフィノールDF110D(HLB3)等が挙げられる(いずれも日信化学工業株式会社)。なお、これら以外のサーフィノールシリーズ製品(例えばサーフィノール440、サーフィノール465、サーフィノール485等)も、式(I)で表される化合物であるが、HLBが7より大きいため、本開示の組成物に用いるには適さない。
【0046】
本開示の組成物における、共重合体(A)と、HLBが7以下の非イオン性界面活性剤との含有割合は、本開示の組成物が奏する優れた接着性が損なわれない範囲であれば、特に限定はされない。例えば、共重合体(A)100質量部に対して、HLBが7以下の非イオン性界面活性剤0.5~15質量部程度含有されることが好ましい。当該範囲(0.5~15質量部)の上限又は下限は、例えば、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11,5、12、12.5、13、13.5、14、又は14.5質量部であってもよい。例えば、当該範囲は、2~14質量部であってもよい。
【0047】
なお、HLBが7以下の非イオン性界面活性剤として、アセチレングリコール系界面活性剤(特に式(I)で表される化合物)を用いる場合、本開示の組成物において、当該界面活性剤は、共重合体(A)100質量部に対して2~15質量部含有されることが好ましい。この場合には、本開示の組成物は、優れた接着性に加え、優れた塗工性をも奏することができる。当該範囲(2~15質量部)の上限又は下限は、例えば、2.5、3、3.5、4、4.5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11,5、12、12.5、13、13.5、14、又は14.5質量部であってもよい。例えば、当該範囲は、2.5~14質量部であってもよい。
【0048】
なお、本開示の組成物は、効果を損なわない範囲で、他の成分を含んでもよい。例えば、泡消剤、粘度調整剤(例えばポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等の水溶性樹脂)、pH調整剤、界面活性剤、防カビ剤等、また必要に応じて、酸化防止剤、脂肪酸アミド、ワックス、シリコーンオイル等のブロッキング性改良剤、アルコール類等を含んでいてもよい。
【0049】
本開示の組成物の製造方法としては、例えば、必要に応じて中和された共重合体(A)水性分散組成物と、HLBが7以下の非イオン性界面活性剤とを、(必要に応じてさらに他の成分をもあわせて)混合分散する方法を挙げることができる。
【0050】
本開示の組成物から得られる(例えば塗工して得られる)皮膜は、接着性に優れる。特に、ヒートシール強度に優れる。また、本開示の組成物において、HLBが7以下の非イオン性界面活性剤として、アセチレングリコール系界面活性剤(特に式(I)で表される化合物)を用いる場合であって、当該界面活性剤が、共重合体(A)100質量部に対して2~15質量部含有される場合には、塗工性にも優れる。このような効果を奏することから、本開示の組成物は、金属板(例えば鋼板、アルミ板等)へのコーティング剤としてはもちろんのこと、従来塗工しにくかった接着剤層や、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル等のプラスチックフィルム、表面処理された紙やアルミ箔等に対しても、コーティング剤、ヒートシール剤、バインダー等として利用することができる。またあるいは、繊維処理剤として利用することもできる。
【0051】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。
【0052】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例】
【0053】
以下、例を示して本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示の実施形態は下記の例に限定されるものではない。
【0054】
評価項目およびその方法
(1)塗工性
ガスバリア剤の塗工されたクラフト紙(日本製紙(株) シールドプラスプレミア塗工紙)上に、乾燥後の皮膜の厚さが10μmとなるようコーティング機(商品名;バーコーター No.16、日本シーダースサービス(株)製)を用いて各エチレン/α、β-不飽和カルボン酸共重合体水性分散組成物を塗布した。これを室温で放置して水分を除去し、皮膜を得た。得られた皮膜(α,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルを構成単位に含む共重合体の皮膜)を目視で評価した。評価基準は下記の通りである。
○:連続皮膜
△:一部不連続皮膜(スポットが存在する)
×:不連続皮膜
【0055】
(2)接着性
ガスバリア剤の塗工されたクラフト紙(日本製紙(株) シールドプラスプレミア塗工紙)上に、乾燥後の皮膜の厚さが10μmとなるようコーティング機(商品名;バーコーター No.16、日本シーダースサービス(株)製)を用いてα,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルを構成単位に含む共重合体の水性分散組成物を塗布した。
【0056】
これを、熱風乾燥機を用いて105℃で1分間乾燥し、各α,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルを構成単位に含む共重合体の水性分散組成物の皮膜を有する基材を25mm幅で切り出し、これを試験片とした。
【0057】
この試験片の塗工面同士を張り合わせ、ヒートシール試験機(商品名;熱傾斜試験機 東洋精機(株)製)を用いて、この試験機の条件をシール温度80℃~120℃、シール圧2kg/cm2、シール時間3秒に設定し、ヒートシールさせた。シールされた試験片を1日放置した後、引張り試験機(商品名;オートグラフAGS-D型、島津製作所(株)製)を用い、引張り速度50mm/分、引張角度180度に設定し、紙の材破を確認した。そして、以下の基準で評価した。(紙が破れたものは剥離せずに紙が破れた、ということであり、紙が破れなかったものは、紙が破れること無く剥離してしまったということであるため、紙が破れたものが、接着性が高いと評価できる。)
紙材破;〇
高温120℃のシール温度でのみ紙材破;△
紙材破なし(接着性なし);×
【0058】
以下の例では、α,β-不飽和カルボン酸又はそのエステルを構成単位に含む共重合体として、エチレン/α、β-不飽和カルボン酸共重合体を用いた。
【0059】
〔製造例1:中和されたエチレン/アクリル酸共重合体の製造〕
径が50mmの攪拌羽根を備えた、500ml容量のセパラブルフラスコにエチレン/アクリル酸共重合体(EAA)(商品名;プリマコール5980、LGグローバル(株)製、アクリル酸含有量20質量%、メルトフローレート300g/10分)112g、28%アンモニア水11.3g(60%中和相当)および水性分散媒として水276.7gを仕込み、攪拌下に加熱し昇温した。内容物を95℃まで昇温後その温度にて4時間攪拌を続けた後、攪拌を継続しながら内容物を室温まで冷却し、中和されたエチレン/アクリル酸共重合体の水性分散液を得た。
【0060】
〔製造例2:中和されたエチレン/メタクリル酸共重合体の製造〕
径が50mmの攪拌羽根を備えた500ml容量のセパラブルフラスコにエチレン/メタクリル酸共重合体(EMAA)(商品名;ニュクレルN2060、三井・ダウケミカル(株)製、メタクリル酸含有量20質量%、メルトフローレート60g/10分)62.5g、水酸化カリウム3.6g(50%中和相当)および水性分散媒として水140.4gを仕込み、攪拌下に加熱し昇温した。内容物を98℃まで昇温後、その温度にて8時間攪拌を続けた後、攪拌を継続しながら内容物を室温まで冷却し、中和されたエチレン/メタクリル酸共重合体の水性分散液を得た。
【0061】
(実施例1)
エチレン/アクリル酸共重合体の水性分散液(当該共重合体濃度28質量%)50gと、アセチレングリコール系界面活性剤 サーフィノール420 (日信化学工業(株)) 0.84gとを混合分散し、エチレン/アクリル酸共重合体の水性分散組成物を得た。得られた水性分散組成物を前記性能評価方法に従い評価した。結果を表1に示す。
【0062】
(実施例2)
製造例2で得られたエチレン/メタクリル酸共重合体の水性分散液(当該共重合体濃度28質量%)50gと、アセチレングリコール系界面活性剤 サーフィノール420 (日信化学工業(株)) 0.84gとを混合分散し、エチレン/メタクリル酸共重合体の水性分散組成物を得た。得られた水性分散組成物を前記性能評価方法に従い評価した。結果を表1に示す。
【0063】
(比較例1)
エチレン/アクリル酸共重合体の水性分散液(当該共重合体濃度28質量%)50gと、アセチレングリコール系界面活性剤 サーフィノール440 (日信化学工業(株)) 0.84gとを混合分散し、エチレン/アクリル酸共重合体の水性分散組成物を得た。得られた水性分散組成物を前記性能評価方法に従い評価した。結果を表1に示す。
【0064】
(比較例2)
エチレン/アクリル酸共重合体の水性分散液(当該共重合体濃度28質量%)50gと、アセチレングリコール系界面活性剤 サーフィノール465 (日信化学工業(株)) 0.84gとを混合分散し、エチレン/アクリル酸共重合体の水性分散組成物を得た。得られた水性分散組成物を前記性能評価方法に従い評価した。結果を表1に示す。
【0065】
(比較例3)
エチレン/アクリル酸共重合体の水性分散液(当該共重合体濃度28質量%)50gと、アセチレングリコール系界面活性剤 サーフィノール485 (日信化学工業(株)) 0.84gとを混合分散し、エチレン/アクリル酸共重合体の水性分散組成物を得た。得られた水性分散組成物を前記性能評価方法に従い評価した。結果を表1に示す。
【0066】
(参考例1)
エチレン/アクリル酸共重合体の水性分散液(当該共重合体濃度28質量%)50gと、アセチレングリコール系界面活性剤 サーフィノール420 (日信化学工業(株)) 0.14gとを混合分散し、エチレン/アクリル酸共重合体の水性分散組成物を得た。得られた水性分散組成物を前記性能評価方法に従い評価した。結果を表1に示す。
【0067】
(参考例2)
エチレン/アクリル酸共重合体の水性分散液(当該共重合体濃度28質量%)を前記性能評価方法に従い評価した。結果を表1に示す。
【0068】