(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】卵黄様組成物の製造方法及び卵黄様組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 15/00 20160101AFI20241113BHJP
【FI】
A23L15/00 A
(21)【出願番号】P 2020183562
(22)【出願日】2020-11-02
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】海老原 脩
(72)【発明者】
【氏名】仲西 由美子
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 純子
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-217552(JP,A)
【文献】特開2005-052052(JP,A)
【文献】特開2002-325559(JP,A)
【文献】特開2005-052124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵黄、卵に由来しないプロテアーゼ及び水を加熱しながら、混合する第1混合工程と、
前記第1混合工程を経た混合物に対して、加熱せずに、混合する第2混合工程と、
前記第2混合工程を経た混合物に対して、澱粉を添加し、加熱しながら、混合する第3混合工程と、を有し、
全原料中、水を90質量%以上97質量%以下用いる、卵黄様組成物の製造方法。
【請求項2】
前記第1混合工程において、卵黄、前記
プロテアーゼ及び水を含む混合物を55℃以上69℃以下まで加熱する、請求項1に記載の卵黄様組成物の製造方法。
【請求項3】
前記第1混合工程において、卵黄、前記
プロテアーゼ及び水を含む混合物を60℃以上まで加熱し、
前記第1混合工程を経た混合物を第3混合工程の開始までに60℃未満まで冷却する請求項1又は2に記載の卵黄様組成物の製造方法。
【請求項4】
前記第3混合工程において、前記第2混合工程を経た混合物を75℃以上まで加熱する、請求項1~3の何れか1項に記載の卵黄様組成物の製造方法。
【請求項5】
前記第3混合工程後の混合物を目開き100μm以上500μmの篩にかけて篩上を分離する工程を有する、請求項1~4の何れか1項に記載の卵黄様組成物の製造方法。
【請求項6】
前記澱粉が、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉である、請求項1~5の何れか1項に記載の卵黄様組成物の製造方法。
【請求項7】
卵黄、卵に由来しない
プロテアーゼ、澱粉及び水を含有し、
30℃における粘度が100mPa・s以上1000mPa・s以下である卵黄様組成物を製造する、請求項1に記載の卵黄様組成物の製造方法。
【請求項8】
L*a*b*表色系に基づく、
L*値が、50以上60以下、
a*値が、15以上25以下、
b*値が、65以上80以下、である卵黄様組成物を製造する、請求項7に記載の卵黄様組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵黄様組成物の製造方法及び卵黄様組成物に関する。
【0002】
卵黄はその機能、栄養価等に優れた特徴を有することから、調味料、惣菜、菓子など様々な食品に幅広く利用されている。また卵黄・液卵はその色彩や食感が好まれ、従来より、卵黄又は液卵様の組成物が提案されている。
例えば特許文献1には、乾物あたりの蛋白質含量が25重量%以上、脂質含量が蛋白質含量に対して100重量%以上であって、LCI値が55%以上である大豆乳化組成物を卵黄代替用組成物として使用することが記載されている。また、特許文献2には、液卵様の外観を有するものであり、タンパク質含量が5%以下であり、加工澱粉含量が1~10%である、液状組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-13397号公報
【文献】特開2020-58246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
卵黄の中でも、生卵黄の鮮やかな色とトロトロした性状を好む人は多い。一方で卵黄の凝固点は68℃であるのに対し、一般に食品にはその安全性の点から、殺菌に68℃超、望ましくは85℃以上の加熱が求められる。このため、卵黄を生の状態で有する食品を提供することには衛生上の制限があり、加熱しても凝固しにくく、生の卵黄のような外観及び物性、特に色味及び粘度を有する組成物が求められている。
上記の課題に関し、特許文献1に記載の大豆乳化組成物は、卵黄様のコクを与えることが同文献に記載されているものの、それ自体で卵黄様の色及び粘度を有するものではない。また特許文献2に記載の液状組成物も、加熱凝固した卵料理に用いられ、加熱凝固した卵をふんわりとした食感で彩りを高めるものであり、生卵黄様の色と粘度を有することは何ら同文献に記載されていない。
【0005】
したがって本発明の課題は、加熱によって凝固しにくく、且つ生卵黄様の色と粘度を有する卵黄様組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、卵黄、卵に由来しない酵素及び水を加熱しながら、混合する第1混合工程と、
前記第1混合工程を経た混合物に対して、加熱せずに、混合する第2混合工程と、
前記第2混合工程を経た混合物に対して、澱粉を添加し、加熱しながら、混合する第3混合工程と、を有し、
全原料中、水を90質量%以上97質量%以下用いる、卵黄様組成物の製造方法を提供するものである。
【0007】
また本発明は、卵黄、卵に由来しない酵素、澱粉及び水を含有し、
30℃における粘度が100mPa・s以上1000mPa・s以下である卵黄様組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、加熱しても固まりにくく、生卵黄様の粘度及び色を有する卵黄様組成物を提供することができる。本発明による卵黄様組成物は水分量が多く、カロリーが少ない点でも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1の卵黄様組成物と生卵黄とのL*値、a*値、b*値の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず本発明の卵黄様組成物の製造方法を説明する。
本製造方法は、卵黄、卵に由来しない酵素及び水を加熱しながら、混合する第1混合工程と、
前記第1混合工程を経た混合物を加熱せずに、混合する第2混合工程と、
前記第2混合工程を経た混合物に対して、澱粉を添加し、加熱しながら、混合する第3混合工程と、を有し、
全原料中、水を90質量%以上97質量%以下用いる。
本明細書において「卵黄様組成物」の卵黄様とは、生の卵黄と同様の粘度および色調を有することを意味する。
【0011】
(第1混合工程)
第1混合工程では、卵黄、卵に由来しない酵素及び水を加熱しながら、混合する。卵に由来しない酵素としてはプロテアーゼやホスホリパーゼが挙げられ、プロテアーゼを用いることが加熱により変性して凝固する蛋白質を分解することで、加熱により凝固しにくい卵黄様組成物が得られる点で好ましい。第1混合工程は、卵黄とプロテアーゼ及び水を混合しながら加熱することでプロテアーゼにより卵黄の蛋白質を分解する工程であることが好ましい。
【0012】
卵黄としては、例えば、鶏等の鳥類の卵を割卵し、卵白を分離したものであり工業的に得られるもの、またこれを殺菌、凍結したもの、濃縮または希釈したもの、特定の成分(脂質等)を除去したもの、乾燥させたものやそれを水戻ししたもの等が挙げられる。つまり生卵黄、殺菌液卵黄、凍結卵黄、粉末卵黄やその水戻し品、リパーゼ等の酵素で処理した卵黄などを使用できる。卵黄として全卵は用いないことが得られる卵黄様組成物の外観をより卵黄らしくする点で好ましいが、卵黄様組成物の色及び粘度に影響を及ぼさない程であれば、卵黄は、卵白やその他の卵由来の成分を含んでいても差し支えない。卵黄としては凍結卵黄、殺菌液卵黄、生卵黄を用いることが生卵黄様の外観を容易に実現できる点で好ましく、凍結卵黄を用いることが特に好ましい。
【0013】
第1混合工程で使用する卵黄の量は、卵黄様組成物の全原料中、1質量%以上であることが、得られる卵黄様組成物の色を生卵黄様にしやすい点で好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。前記の卵黄の量は全原料中、10質量%以下であることが、他の原料の量を確保しやすい点から好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0014】
上述した通り、卵に由来しない酵素としては、プロテアーゼを用いることが65℃超、特に食品衛生において通常必要とされる85℃以上への加熱においても固まりにくい卵黄様組成物を得る点で好ましい。
プロテアーゼとしては、その由来として、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン、カテプシン等の動物起源の酵素、パパイン、ブロメリン、フィシン等の植物起源の酵素、サーモリシン等の各種微生物由来のプロテアーゼ等の既知の酵素が知られている。これらのプロテアーゼは構造から、セリン残基を活性中心に含むセリンプロテアーゼ(トリプシン,キモトリプシンなど),システイン残基を含むチオールプロテアーゼ(パパインなど),酸性アミノ酸を活性中心に含む酸性プロテアーゼ(ペプシンなど),補酵素として金属イオンを含む金属プロテアーゼ(サーモライシンやカルボキシペプチダーゼAなど)などに分類される。これらの酵素は1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0015】
中でも50℃~70℃で酵素活性が高い耐熱性プロテアーゼの利用が好ましい。具体的には本製造方法で用いるプロテアーゼは至適温度が50℃~70℃であることが好ましく、55℃~65℃であることがより好ましい。
【0016】
上記の観点から、微生物由来のプロテアーゼが好ましく、Bacillus属の菌体より抽出された耐熱性プロテアーゼがより好ましい。耐熱性プロテアーゼの例としては、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)由来の中性プロテアーゼや、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)由来のプロテアーゼや、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)由来のプロテアーゼ等が挙げられる。
これらのプロテアーゼの多くは至適pHが中性付近(例えばpH5.0~8.5、特にpH6.5~7.5)である金属プロテアーゼである。
【0017】
またプロテアーゼにはエンド型ペプチダーゼ及びエキソ型ペプチダーゼが存在するが、エンド型ペプチダーゼを用いることが目的とする加熱により凝固しにくい卵黄様組成物を得やすい点で好ましい。
【0018】
第1混合工程で用いる卵に由来しない酵素の量は、卵黄100質量部に対し0.01質量部以上であることが卵黄様組成物の加熱による凝固をより確実に防ぐ点で好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましい。前記酵素は卵黄100質量部に対し1質量部以下であることが卵黄様組成物の変質の防止の点で好ましい。特に上記の量は前記酵素がプロテアーゼである場合に好ましい。また上記と同様の理由から第1混合工程で使用するプロテアーゼの量は、卵黄の質量1gに対し、9U以上900U以下であることが好ましく、45U以上800U以下であることがより好ましい。
【0019】
本発明では卵黄様組成物の全原料中の水の使用量が90質量%以上であるものであり、これにより、低カロリーながら粘度が生卵黄と同様の卵黄様組成物が得られるほか、生卵黄様の透明感が得られるという利点がある。また卵黄様組成物の全原料中の水の使用量が97質量%以下であることは他の成分量を確保する点や卵黄の風味を完全に失わない点で好ましい。これらの観点から卵黄様組成物の全原料中の水の使用量は90質量%以上97質量%以下であることが好ましく、92質量%以上96質量%以下であることがより好ましい。本発明では、本製造方法のうち、特に第1混合工程において、水を多く用いることが好ましい。これは加熱時の焦げを回避できるという利点があるためである。以上の理由から第1混合工程で用いる水の量は全原料中90質量%以上97質量%以下であることが好ましく、92質量%以上96質量%以下であることがより好ましく、93質量%以上95質量%以下であることが更に好ましい。なお、上記の水の量には、卵黄等の水以外の成分に含まれる水分を含めない。
【0020】
第1混合工程の加熱は、同工程における品温の最高温度T1として55℃以上69℃以下にまで加熱対象となる混合物を加熱することが好ましい。上記温度まで卵黄及び酵素を水の存在下で加熱することは、卵に含まれるプロテアーゼインヒビターの至適温度外でプロテアーゼを活性させるため好ましく、T1を60℃以上65℃以下とすることがより好ましい。第1混合工程の加熱速度は特に限定されないが、常温からT1までの加熱に掛ける時間は、3分以上であると蛋白質分解がより進行しやすい点で好ましい。また第1混合工程開始から第2混合工程終了までの何れかの間に、混合物の温度が55℃以上69℃以下である状態が、3分以上60分以下継続することが蛋白質分解効率及び製造効率の点で好ましく、5分以上45分以下継続することがより好ましく、更に好ましくは、5分以上30分以下継続する。
【0021】
第1混合工程の混合速度については特に制限はないが、例えば回転型の撹拌機である場合は10rpm~25rpmの回転数が好適な例として挙げられる。
【0022】
本製造方法においては第1混合工程~第3混合工程のいずれかにおいて、卵黄、卵に由来しない酵素及び水を含む混合物(以下、単に「混合物」ともいう。)に澱粉以外の成分を含有させてもよい。得られる卵黄様組成物が卵黄に加えて更に色素を含有することで卵黄様組成物の色を更に生卵黄に近いものとすることができる。色素としては、カロチノイド系色素、ベニコウジ色素、ラック色素、コチニール色素、ベニバナ色素、カラメル色素、コチニール色素が挙げられる。カロチノイド系色素としては、α-カロチン、β-カロチン、γ-カロチン、カプサンチン、カプソルビン、アスタキサンチン、カンタキサンチン、ゼアキサンチン、ロドキサンチン、リコピン、クリプトキサンチン、クロセチン、クロシン、ビキシン、ノルビキシン等の化合物、ニンジン、パプリカ、クチナシ、アナトー等のカロチノイド系色素を含有する動植物の溶剤(水、アルコール、アセトン、ヘキサン等)による抽出物(例えば、ニンジンカロチン色素、パプリカ色素、クチナシ黄色素、アナトー色素等)やその合成品等が挙げられる。中でもカロチノイド系色素を用いることが生卵黄様の色調を再現できる点で好ましく、また複数種の色素を組み合わせて用いることが卵黄の色味が一層得やすい点で好ましい。特にアナトー色素及びパプリカ色素を組み合わせて用いることが卵黄に近い色味を得やすい点で好ましい。
【0023】
第1混合工程~第3混合工程の何れかにおいて色素を添加する場合、第1混合工程において卵黄、前記酵素及び水とともに色素を混合することが混合ムラを回避する点から好ましい。また第1混合工程~第3混合工程の何れかにおいて色素を添加する場合、色素の添加量は、卵黄様組成物の全原料中、0.01質量%以上1質量%が好ましく挙げられ、0.1質量%以上0.5質量%がより好ましい。アナトー色素及びパプリカ色素を組み合せる場合には、アナトー色素100質量部に対し、パプリカ色素を1質量部以上15質量部以下が用いることが好ましく、3質量部以上10質量部以下が用いることがより好ましい。
【0024】
また第1混合工程~第3混合工程のいずれかにおいて、混合物に更に調味料を含有させてもよい。調味料としては、塩、糖類、みりん、醸造酢、エキス類、酸味料、旨味調味料、糖類以外の甘味料などが挙げられる。糖類としては、ブドウ糖などの単糖類、ショ糖、麦芽糖、果糖などの二糖類、オリゴ糖、デキストリン、ソルビトール、マルチトール、キシリトール等の糖アルコールなどが挙げられる。糖類以外の甘味料としては、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、ネオテーム、甘草抽出物、ステビアやその酵素処理物等が挙げられる。酸味料としてはクエン酸、リンゴ酸等が挙げられる。またうま味調味料としてはグルタミン酸ナトリウム等が挙げられる。エキスとしては、昆布、シイタケなどのだし、魚介エキス、鶏、豚、牛等の畜肉エキス等の各種の抽出物が挙げられる。
【0025】
第1混合工程~第3混合工程の何れかにおいて混合物に調味料を含有させる場合、第1混合工程において卵黄、前記酵素及び水とともに調味料を混合することが混合ムラを回避できる点から好ましい。また第1混合工程~第3混合工程の何れかにおいて調味料を添加する場合、調味料の添加量は特に制限はないが、卵黄様組成物の全原料中、0.01質量%以上15質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
【0026】
(第2混合工程)
次いで、第2混合工程について説明する。本製造方法では、第1混合工程で卵黄、卵に由来しない酵素及び水を含む混合物(以下、単に「混合物」ともいう。)に澱粉を添加せず、第2混合工程において混合物を加熱せずに混合した後、第3混合工程で澱粉を添加することに特徴の一つを有する。第1混合工程の当初から前記混合物に澱粉を含有させると、酵素反応が遅くなるという弊害がある。また、第1混合工程において加熱した状態の混合物に澱粉を添加すると、高温下で澱粉を添加することによるダマが生じてしまう。これに対し、本製造方法では、第2混合工程の通り加熱せずに混合する工程から第3混合工程にて澱粉を添加するため、澱粉添加によるダマを防止でき、生卵黄様の組成物を得ることができる。
【0027】
第2混合工程では、第1混合工程で得られた混合物を加熱せずに混合する。加熱せずに混合するとは、熱を積極的に与えずに混合することを指し、第1混合工程の加熱による余熱が残った状態を許容するものである。第2混合工程の最低温度T2は、第1混合工程の混合物の最高温度(後述するT1)以下であることを前提として、69℃以下であることが酵素反応を進めるうえで好ましく、65℃以下であることがより好ましい。第2混合工程における混合物の最低温度T2は50℃以上であることが酵素反応を進めつつ、第3混合工程の加熱に必要なエネルギーを低減する観点から好ましく、55℃以上であることがより好ましい。
【0028】
なお第2混合工程において、非加熱状態で混合を停止しないことは、酵素反応を効率的に進められるという利点がある。第2混合工程の混合は第1混合工程の混合と同じ容器又は装置内で行ってもよく、別の容器又は装置内で行ってもよい。同様に第3混合工程の混合は第2混合工程の混合と同じ容器又は装置内で行ってもよく、別の容器又は装置内で行ってもよい。
【0029】
本製造方法は、第2混合工程後、第3混合工程を直ちに開始してもよく、第2混合工程後、第3混合工程の前に別工程、例えば第2混合工程で得られた混合物を冷却する工程を有していてもよい。後者の場合、第2混合工程では、第1混合工程で得られた混合物を冷却しなくてもよい。第2混合工程の後、第3混合工程の前に混合物を冷却させる場合、通常、静置状態または水を添加することにより混合物を冷却させる。
【0030】
第1混合工程における混合物の最高温度をT1とし、第1混合工程終了時点から第3混合工程開始時点までの混合物の最低温度をT2’としたときに、T2’は60℃未満であることが好ましく、57℃以下であることがより好ましい。またT2’は50℃以上であることが第3混合工程の加熱に必要なエネルギーを低減する観点から好ましく、55℃以上であることがより好ましい。
また、第1混合工程における混合物の最高温度をT1とし、第1混合工程終了時点から第3混合工程開始時点までの混合物の最低温度をT2’とした場合に、T1-T2’は5℃以上20℃以下であることが、卵黄蛋白質を効率よく分解しながら澱粉のダマを防いで、加熱による凝固が抑制され且つ粘度が生卵黄様である卵黄様組成物を首尾よく得る点で好ましく、5℃以上15℃以下であることがより好ましい。
なお、第2混合工程のT2が、上記のT2’と同様の範囲であることは製造時間を短縮しながら澱粉のダマを防ぐ点で好ましい。この観点からT2は60℃未満であることが好ましく、57℃以下であることがより好ましい。またT1-T2が5℃以上20℃以下であることが好ましく、5℃以上15℃以下であることがより好ましい。
【0031】
また第2混合工程における混合速度は特に規定するものではないが、第2混合工程の混合が回転型撹拌機による場合、その回転数は、例えば10rpm以上30rpm以下であることが製造効率や製造時の飛び跳ね防止の点で好ましい。
【0032】
(第3混合工程)
次いで、第3混合工程により、澱粉を添加し、加熱しながら第2混合工程で得られた混合物を加熱する。この工程により澱粉を糊化する。用いる澱粉としては、加工澱粉であることが、糊化温度を低下でき、これにより製造効率を高める点や、加工澱粉の有する各種の特性を卵黄様組成物に付与できる点で好ましく、中でも、澱粉を酸化プロピレンでエーテル化する処理を経た加工澱粉であることが、生卵黄様のとろみを付与できる点で好ましい。澱粉を酸化プロピレンでエーテル化する処理を経た加工澱粉としては、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉等が挙げられる。特にヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉を用いることが生卵黄様のとろみを付与できる点で好ましい。ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉は、糊化開始温度が低く、耐熱性や冷凍耐性、耐せん断性、耐酸性などに優れるため、卵黄様組成物を種々の形態で用いることができる点でも好ましい。
【0033】
第2混合工程における澱粉の添加量は、卵黄様組成物の全原料中、1質量%以上7質量%以下であることが、生卵黄様の粘度を得る点で好ましく、2質量%以上5質量%以下であることが、より好ましい。
【0034】
第3混合工程において澱粉を添加する温度は加熱開始前又は加熱開始と同時、或いは混合物の温度における第2混合工程の最低温度T2からの温度差が10℃未満の範囲であることが、澱粉のダマを一層確実に防ぐ点で好ましい。
【0035】
第3混合工程において、澱粉を添加した混合物の温度が75℃以上となるまで加熱することが、澱粉を効率よく糊化させる点、及び衛生的な製造の点で好ましく、80℃以上となるまで加熱することが、より一層好ましく、85℃以上となるまで加熱することが更に一層好ましい。また、第3混合工程において、澱粉を添加した混合物の温度は95℃以上でも問題ないが、95℃以下であることが、釜への焦げ付き防止の点で好ましく、90℃以下であることがより好ましい。
【0036】
第3混合工程における混合物の最高温度T3と第2混合工程における混合物の最低温度T2との差T3-T2は25℃以上45℃以下であることが、生卵黄に近い粘度が得やすい点及び効率的な製造の点で好ましく、25℃以上35℃以下であることがより好ましい。
【0037】
また第3混合工程における加熱速度に特に制限はないが、例えば75℃以上の状態が3分以上継続することが澱粉を確実に糊化しやすい点で好ましく、75℃以上の状態が5分以上継続することがより好ましい。また、特に好ましくは80℃以上の状態が5分以上継続することで、澱粉が確実に糊化しやすく食品衛生上の点等から好ましい。80℃以上の温度の継続時間に特に制限はないが、例えば45分以下であると製造効率がよいため好ましい。
【0038】
また第3混合工程における撹拌速度は特に規定するものではないが、第3混合工程の混合が回転型の撹拌機による場合、その回転数は、例えば10rpm以上30rpm以下であることが製造効率や適度な粘度が得やすい点で好ましく、20rpm以上25rpm以下であることがより好ましい。
【0039】
第3混合工程にて得られた混合物は、篩を通して加熱によるダマ・焦げ付きを除くことが好ましい。その際の篩の目開きとしては、100μm以上500μm以下であることが操作効率及び得られる篩下品の品質の点で好ましく、100μm以上400μm以下であることがより好ましい。
【0040】
以上の第1混合工程~第3混合工程及び必要に応じて行われる上記篩通しの工程により卵黄様組成物が得られる。
【0041】
次いで本発明の卵黄様組成物について説明する。本発明の卵黄様組成物の説明には、上記の卵黄様組成物の製造方法の説明について適用できる点は適宜適用可能である。逆に以下の卵黄様組成物の説明は、本発明の卵黄様組成物の製造方法の説明に適宜適用できる。
【0042】
本発明の卵黄様組成物は、卵黄、卵に由来しない酵素、澱粉及び水を含有し、30℃における粘度が100mPa・s以上1000mPa・s以下である。当該構成の本発明の卵黄様組成物は生卵黄様の粘度及び色を有する。卵黄、前記の酵素、澱粉としては前記の卵黄様組成物の製造方法の説明において上述したものを用いることができる。また卵黄様組成物のおける卵黄の好ましい量としては、粘度及び色として生卵黄様とする点から上述した全原料中の卵黄の好ましい量と同様とすることができ、具体的には1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
また卵に由来しない酵素の好ましい量としては、上述した第1混合工程で用いる卵黄に対する好ましい量と同様の量とすることができる。
【0043】
卵黄様組成物における水の量としては、低カロリーとしながら粘度及び色を生卵黄様とする点から上記全原料中の水の好ましい量と同様の量又はそれに近似した量とすることができ、例えば90質量%以上97質量%以下が好ましく、92質量%以上96質量%以下がより好ましく、93質量%以上95質量%以下が特に好ましい。
【0044】
卵黄様組成物における澱粉の好ましい量としては、粘度及び色を生卵黄様とする点から上述した全原料中の澱粉の好ましい量と同様の量とすることができ、具体的には1質量%以上7質量%以下であることが好ましく、2質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
【0045】
更に卵黄様組成物には色素を任意で添加可能であり、当該色素としては上記と同様に卵黄様組成物の製造方法で好ましいものとして挙げたものと同様の物が挙げられる。卵黄様組成物における色素の好ましい量としては、卵黄様組成物に全原料中の色素の好ましい量と同様の量が挙げられ、具体的には0.01質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましい。また2種以上の色素を含有する場合の当該色素の比率としても上記で挙げた比率が挙げられる。
【0046】
更に卵黄様組成物には調味料を任意で添加可能であり、当該調味料としては卵黄様組成物の製造方法で好ましいものとして上記で挙げたものと同様の物が挙げられる。卵黄様組成物における調味料の好ましい量としては、卵黄様組成物に全原料中の調味料の好ましい量と同様の量が挙げられ、具体的には0.01質量%以上15質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
【0047】
卵黄様組成物は、水、卵に由来しない酵素、澱粉、任意成分である調味料及び色素に加え、他の成分を含有していてもよい。当該他の成分の量としては、好ましくは合計で卵黄様組成物中、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。例えば卵黄様組成物は、澱粉に加えて寒天やキサンタンガム等の増粘多糖類やゼラチンなどをゲル化剤又は増粘剤を適宜含有していてもよい。その場合、澱粉以外の増粘剤及びゲル化剤の量は、特に限定するものではないが、例えば合計で澱粉に対する量が100質量%以下であることがそれらのゲル化剤や増粘剤を用いずに生卵黄様の粘度が得られる効果に一層優れる点で好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。
【0048】
卵黄様組成物は、30℃における粘度が100mPa・s以上1000mPa・s以下であり生卵黄様の物性を有していることが好ましい。より好ましくは、卵黄様組成物の30℃における粘度は150mPa・s以上800mPa・s以下であり、より好ましくは200mPa・s以上500mPa・s以下である。
更に卵黄様組成物は、冷却時及び/又は加熱時の粘度についても生卵黄様であることが好ましく、10℃における粘度が300mPa・s以上1300mPa・s以下であることが好ましく、400mPa・s以上800mPa・s以下であることがより好ましい。また50℃における粘度が80mPa・s以上500mPa・s以下であることが好ましく、100mPa・s以上300mPa・s以下であることがより好ましい。卵黄様組成物の粘度は後述する実施例に記載の方法にて測定できる。
【0049】
卵黄様組成物は、L*a*b*表色系に基づくL*値が50以上60以下であり、a*が、15以上25以下であり、b*値が、65以上80以下であることが、生卵黄様の色調に一層優れる点で好ましい。生卵黄様の色味を更に一層高める点から、L*a*b*表色系に基づくL*値は52以上58以下であることがより好ましい。またa*値が、17以上23以下であることがより好ましい。更にb*値が、70以上75以下であることがより好ましい。
【0050】
本発明による卵黄様組成物は、生卵黄様の色及び粘度を有するとともに水分を多く含み低カロリーである。本発明による卵黄様組成物は、ソース、ドレッシングや、親子丼、オムレツ、オムライス、かつ丼などの卵含有食品における卵黄代替品、うどん、パスタ、サラダ、唐揚げ、フライ、パン等の惣菜のトッピング、中華まん、おむすびの具等、種々の用途に使用できる。
【実施例】
【0051】
(実施例1)
<第1混合工程>
釜に、凍結卵黄2質量部、食塩0.15質量部、水95質量部、アナトー色素0.3質量部、パプリカ色素0.02質量部及びプロテアーゼ(至適温度が55℃~65℃、至適pHが6.5~7.5であるバチルス属細菌由来のエンド型金属プロテアーゼ)0.0015質量部(卵黄の質量1gにつき67.5U)を入れて加熱しながら13rpmにて混合した。この工程において、品温を常温(25℃)から3分以上30分以下の時間をかけて60℃まで昇温させて、加熱を止めた。
<第2混合工程>
加熱を止めた状態で、第1混合工程で得られた混合物を13rpmにて混合し、55℃まで品温を下げた。第1混合工程開始から第2混合工程終了までの間における品温が55℃以上69℃以下であった継続時間は5分以上30分以下の範囲内とした。
<第3混合工程>
第2混合工程で得られた混合物に加工澱粉(ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉)を3質量部加えて再び釜を加熱しながら13rpmにて混合し、85℃にまで昇温した。80℃以上の継続時間は5分以上45分以下の範囲内とした。
得られた混合物について、水合わせとして蒸発分の水を加えた後、目開き212μmの網目を通して透過物を卵黄様組成物として得た。
【0052】
得られた実施例1の卵黄様組成物について、10℃、20℃、30℃、40℃及び50℃それぞれにおける粘度を測定した。粘度はVISCOMETER TV-25(東機産業)を用い、回転速度50rpm、治具HH1の条件で測定した。得られた粘度を下記表1に示す。なお、表1には生卵黄について同様に粘度を測定した結果を合わせて示す。
更に、得られた卵黄様組成物について、色差計(コニカミノルタ社製色彩色差計CR-5)を用い、常温(25℃)でのL*値、a*値及びb*値を測定した。その結果を表2に示す。また
図1には得られたL*値、a*値及びb*値に基づき、L*値を円の大きさとしたときの実施例1の卵黄様組成物と生卵黄との関係を示すグラフを記載する。
【0053】
【0054】
【0055】
表1より、実施例1で得られた卵黄様組成物が生卵黄と10~50℃の粘度が同様であることが判る。また表2及び
図1より、実施例1で得られた卵黄様組成物について、生卵黄と色味が同様であることが判る。