(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】複合体及びその用途
(51)【国際特許分類】
C08L 1/08 20060101AFI20241113BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
C08L1/08
C08L69/00
(21)【出願番号】P 2021539256
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2020030297
(87)【国際公開番号】W WO2021029336
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2023-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2019147350
(32)【優先日】2019-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西岡 聖司
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-231050(JP,A)
【文献】特開2009-155626(JP,A)
【文献】特公昭46-043996(JP,B1)
【文献】特開2014-001263(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0015142(US,A1)
【文献】特開昭59-86621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフト重合体と、脂肪族ポリカーボネートとを含む複合体であって、
前記グラフト重合体は、幹ポリマーと、該幹ポリマーに結合する枝ポリマーとを有し、前記幹ポリマーはセルロース系樹脂を含み、
前記セルロース系樹脂は、アルキルセルロースおよびヒドロキシアルキルセルロースからなる群より選ばれる少なくとも一種であり、
前記枝ポリマーは、Fedors法で値づけられる溶解度パラメータが17~24MPa
0.5である重合体Bである、複合体。
【請求項2】
前記セルロース系樹脂に対し、前記重合体
Bの割合が10質量%以上、400質量%以下である、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記重合体Bは、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリトリメチレンカーボネート、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びポリメタクリル酸メチルからなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の複合体。
【請求項4】
前記グラフト重合体の質量平均分子量が5万以上100万以下である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の複合体を含む、フィルム。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の複合体を含む、シート。
【請求項7】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の複合体を含む、粒子。
【請求項8】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の複合体を含む、繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックによる環境汚染が懸念されていることから、近年、環境に配慮した各種の機能性樹脂が開発されている。この点、脂肪族ポリカーボネートは、生分解性樹脂を有することから、脂肪族ポリカーボネートを利用した樹脂開発、あるいは、脂肪族ポリカーボネートと他の生分解性樹脂とのブレンド技術が注目されている。脂肪族ポリカーボネートのなかでも、二酸化炭素を原料とする脂肪族ポリカーボネートの利用は、二酸化炭素が固定化できるという点でも環境に配慮した材料であるといえる。
【0003】
例えば、特許文献1には、セルロース材料と、脂肪族ポリカーボネートを含む複合材料が提案されている。このような複合材料により、脂肪族ポリカーボネートの機械強度等の物性が向上することが開示されている。特許文献2には、セルロースと特定の構造を有する脂肪族ポリカーボネートを含む複合材料が提案されている。このような複合材料により、生分解速度がコントロールでき、自然環境下でも長期間利用可能な生分解性材料が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-001263号公報
【文献】特開2006-036954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、脂肪族ポリカーボネートとセルロース系樹脂とは相溶性が良くないため、両材料の複合化を試みても、目的とする複合体が得られにくいという問題があった。例えば、脂肪族ポリカーボネートとセルロース系樹脂の複合体は透明性が低下する、あるいは、脂肪族ポリカーボネートとセルロース系樹脂との界面が剥離しやすくなる等の問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、セルロース系樹脂と脂肪族ポリカーボネートの相溶性が良好である複合体及びその用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、枝ポリマーが特定の溶解度パラメータを有する重合体であるグラフト重合体を使用することで上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
グラフト重合体と、脂肪族ポリカーボネートとを含む複合体であって、
前記グラフト重合体は、幹ポリマーと、該幹ポリマーに結合する枝ポリマーとを有し、前記幹ポリマーはセルロース系樹脂を含み、
前記枝ポリマーは、Fedors法で値づけられる溶解度パラメータが17~24MPa0.5である重合体Bである、複合体。
項2
前記セルロース系樹脂に対し、前記重合体の割合が10質量%以上、400質量%以下である、項1に記載の複合体。
項3
前記重合体Bは、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリトリメチレンカーボネート、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びポリメタクリル酸メチルからなる群より選ばれる少なくとも一種である、項1又は2に記載の複合体。
項4
前記セルロース系樹脂がアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース及びセルロースエステルからなる群より選ばれる少なくとも一種である、項1~3のいずれか1項に記載の複合体。
項5
前記グラフト重合体の質量平均分子量が5万以上100万以下である、項1~4のいずれか1項に記載の複合体。
項6
項1~5のいずれか1項に記載の複合体を含む、フィルム。
項6-1
項1~5のいずれか1項に記載の複合体のフィルムへの使用。
項7
項1~5のいずれか1項に記載の複合体を含む、シート。
項7-1
項1~5のいずれか1項に記載の複合体のシートへの使用。
項8
項1~5のいずれか1項に記載の複合体を含む、粒子。
項8-1
項1~5のいずれか1項に記載の複合体の粒子への使用。
項9
項1~5のいずれか1項に記載の複合体を含む、繊維。
項9-1
項1~5のいずれか1項に記載の複合体の繊維への使用。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る複合体は、セルロース系樹脂と脂肪族ポリカーボネートの相溶性が高いため、優れた物性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。また、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。
【0011】
本発明の複合体は、グラフト重合体と、脂肪族ポリカーボネートとを含み、特に、前記グラフト重合体は、幹ポリマーと、該幹ポリマーに結合する枝ポリマーとを有し、前記幹ポリマーはセルロース系樹脂を含み、前記枝ポリマーは、Fedors法で値づけられる溶解度パラメータが17~24MPa0.5である重合体Bである。
【0012】
本発明の複合体によれば、セルロース系樹脂と脂肪族ポリカーボネートの相溶性が高いため、優れた物性を有する。具体的に、グラフト重合体におけるセルロース系樹脂は、枝ポリマーとして所定の溶解度パラメータを有する重合体をグラフト鎖として有することから、脂肪族ポリカーボネートに対する親和性が高く、これにより、脂肪族ポリカーボネートと相溶しやすくなる。従って、例えば、複合体がフィルム及びシート等である場合は、透明性が高い。また、複合体がグラフト重合体を含む層と、脂肪族ポリカーボネートを含む層との多層フィルム及び多層シートである場合は、界面での剥離が生じにくい。また、複合体がグラフト重合体及び脂肪族ポリカーボネートを含む粒子である場合は、両者が粒子中で均一に分布することができ、あるいは、コアシェル粒子を容易に形成することもできる。また、複合体がグラフト重合体及び脂肪族ポリカーボネートを含む繊維である場合は、両者が均一に分布することができ、あるいは、芯鞘構造を容易に形成することもできる。
【0013】
(グラフト重合体)
前記グラフト重合体において、幹ポリマーを構成するセルロース系樹脂の種類は特に限定されず、例えば、公知のセルロース系樹脂を広く適用することができる。セルロース系樹脂の具体例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルエチルセルロース、n-プロピルセルロース、イソプロピルセルロース、n-ブチルセルロース、tert-ブチルセルロース、n-ヘキシルセルロース等のアルキルセルロース;ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース;酢酸セルロース、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース等のセルロースエステル;カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシプロピルセルロース等のカルボキシアルキルセルロース;その他、ニトロセルロース、アルデヒドセルロース、ジアルデヒドセルロース、スルホン化セルロース等のセルロース誘導体およびセルロースが挙げられる。幹ポリマーを構成するセルロース系樹脂の種類は1種又は2種以上とすることができる。
【0014】
中でもグラフト重合体の製造が容易で、脂肪族ポリカーボネートの相溶性がより高くなりやすいという観点から、セルロース系樹脂は、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース及びセルロースエステルからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。中でも、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及び酢酸酪酸セルロースであることがさらに好ましく、エチルセルロースであることが特に好ましい。
【0015】
グラフト重合体において、セルロース系樹脂の置換度は特に限定されず、本発明の効果が阻害されない限りは種々の値とすることができる。例えば、セルロース系樹脂の置換度は2以上3以下であり、一般的には3となる。
【0016】
本明細書において、セルロース系樹脂の置換度とは、セルロース系樹脂の構造単位中の全水酸基のうち、枝ポリマーを含む水酸基以外の基に置換された総数をいう。
【0017】
幹ポリマーはセルロース系樹脂以外の構造単位を含むことができ、あるいは、幹ポリマーはセルロース系樹脂のみで形成することもできる。幹ポリマーはセルロース系樹脂以外の構造単位を含む場合、その含有割合は、幹ポリマーの全構造単位に対して30質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下とすることができる。
【0018】
グラフト重合体において、枝ポリマーはFedors法で値づけられる溶解度パラメータが17~24MPa0.5である重合体Bである。Fedors法で値づけられる溶解度パラメータとは、各種有機化合物及び高分子化合物の溶解度パラメータ(SP値)を決定するために広く用いられている計算方法であり、分子構造に基づいて容易に溶解度パラメータを算出することができる(R.F.Fedors:Polym.Eng.Sci.,14[2],、147-154(1974))。
【0019】
グラフト重合体において、枝ポリマーは通常、幹ポリマーであるセルロース系樹脂に化学結合(特には共有結合)により結合して存在する。ある形態では本発明のグラフト重合体は、セルロース系樹脂の構造単位中の水酸基又は該水酸基の水素原子が枝ポリマーに置換されている。別の形態では本発明のグラフト重合体は、セルロース系樹脂の構造単位中の炭素原子上の水素原子が枝ポリマーに置換されている。別の形態では、グルコース環の開裂部の炭素原子または酸素原子に枝ポリマーが結合している。
【0020】
本発明の複合体では、グラフト重合体を構成する枝ポリマーは、17~24MPa0.5である重合体Bである限り、種々の重合体をグラフト重合体の枝ポリマーとして適用することができる。
【0021】
このような重合体Bとしては、例えば、ポリカプロラクトン(20.9)、ポリグリコール酸(19.9)、ポリ乳酸(21.6)、ポリ(3-ヒドロキシプロピオン酸)(23.6)、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)(21.6)、ポリ(3-ヒドロキシ吉草酸)(21.6)、ポリ(4-ヒドロキシ酪酸)(22.3)、ポリエチレンサクシネート(23.6)、ポリエチレンアジペート(22.3)、ポリブチレンサクシネート(22.3)、ポリブチレンアジペート(21.4)、ポリ(p-ジオキサノン)(22.8)、ポリエチレンカーボネート(22.6)、ポリプロピレンカーボネート(19.5)、ポリブチレンカーボネート(19.2)、ポリシクロヘキセンカーボネート(19.6)、ポリトリメチレンカーボネート(21.5)、ポリ(2,2-ジメチルトリメチレンカーボネート)(18.4)、ポリエチレングリコール(19.2)、ポリプロピレングリコール(17.7)、ポリトリメチレングリコール(18.7)、ポリテトラメチレングリコール(18.4)、ポリエチレンイミン(22.3)、ポリ(N-メチルエチレンイミン)(17.3)、ポリ(N-エチルエチレンミン)(18.1)、ポリ酢酸ビニル(20.5)、ポリアクリル酸メチル(20.9)、ポリアクリル酸エチル(20.4)、ポリアクリル酸ヒドロキシエチル(21.6)、ポリメタクリル酸メチル(19.4)、ポリメタクリル酸エチル(19.2)、ポリメタクリル酸ヒドロキシエチル(19.6)、及びポリスチレン(20.7)等を挙げることができる。重合体は、例えば、それらのうちの1種のみを有するものであってもよいし、2種以上を有することもできる。なお、括弧内はFedors法で値づけられる溶解度パラメータを表す。
【0022】
重合体Bは、複合化する脂肪族ポリカーボネートの種類にもよるため一概には言えないが、中でも、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリカプロラクトン及びポリ乳酸のいずれか1種以上であることが好ましい。
【0023】
グラフト重合体において、幹ポリマーを構成するセルロース系樹脂と、枝ポリマーを構成する重合体Bの含有割合は、本発明の効果が阻害されない限り、特に制限されない。グラフト重合体と脂肪族ポリカーボネートの相溶性がより高くなりやすいという観点から、グラフト重合体は、前記セルロース系樹脂に対し、前記重合体Bの割合が10質量%以上、400質量%以下であることが好ましい。中でも、セルロース系樹脂に対し、重合体の割合が50質量%以上、250質量%以下であることが好ましい。
【0024】
セルロース系樹脂に対する重合体の割合は、核磁気共鳴分光分析(NMR分析)により求めることができる。なお、グラフト重合体において、セルロース系樹脂に対する重合体の割合は、「グラフト率」ともいう。
【0025】
グラフト重合体の質量平均分子量は特に制限されず、例えば、5万以上、100万以下とすることができる。この場合、グラフト重合体は、より優れた強度、伸び及び破壊靭性等の機械物性を有することができ、また、成形性にも優れる。グラフト重合体の質量平均分子量は10万以上、60万以下であることがさらに好ましい。
【0026】
グラフト重合体の製造方法は特に制限されず、例えば、公知のグラフト重合体を製造するための方法と同様の手法を採用することができる。
【0027】
具体的には、セルロース系樹脂の存在下、環状化合物の開環重合を行う工程を備える製造方法により、グラフト重合体を製造することができる。以下、この方法を「グラフト重合体の製造方法A」と表記する。
【0028】
グラフト重合体の製造方法Aでは、セルロース系樹脂の存在下、環状化合物の開環重合を行う。グラフト重合体の製造方法Aで使用するセルロース系樹脂は、グラフト重合体の幹ポリマーを形成するための原料である。また、グラフト重合体の製造方法Aにおいて、環状化合物の開環重合で形成される重合体は、Fedors法で値づけられる溶解度パラメータが17~24MPa0.5である重合体Bである。つまり、グラフト重合体の製造方法Aで使用する環状化合物は、グラフト重合体の枝ポリマーを形成するための原料である。
【0029】
グラフト重合体の製造方法Aで使用するセルロース系樹脂の種類は特に限定されず、例えば、公知のセルロース系樹脂を広く適用することができる。セルロース系樹脂の具体例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルエチルセルロース、n-プロピルセルロース、イソプロピルセルロース、n-ブチルセルロース、tert-ブチルセルロース、n-ヘキシルセルロース等のアルキルセルロース;ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース;酢酸セルロース、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース等のセルロースエステル;カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシプロピルセルロース等のカルボキシアルキルセルロース;その他、ニトロセルロース、アルデヒドセルロース、ジアルデヒドセルロース、スルホン化セルロース等のセルロース誘導体またはセルロースが挙げられる。グラフト重合体の製造方法Aで使用するセルロース系樹脂は1種又は2種以上とすることができる。
【0030】
中でもセルロース系樹脂は、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース及びセルロースエステルからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましく、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸酪酸セルロースであることがさらに好ましい。中でも、セルロース系樹脂は、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースであることがさらに好ましく、エチルセルロースであることが特に好ましい。
【0031】
グラフト重合体の製造方法Aで使用するセルロース系樹脂の質量平均分子量は、特に限定されない。例えば、セルロース系樹脂の質量平均分子量は、5千以上が好ましく、1万以上がより好ましく、10万以上がさらに好ましい。また、セルロース系樹脂の質量平均分子量は、100万以下が好ましく、75万以下がより好ましく、50万以下がさらに好ましい。
【0032】
グラフト重合体の製造方法Aで使用する環状化合物としては、Fedors法で値づけられる溶解度パラメータが17~24MPa0.5である重合体Bを形成することができる限り、その種類は特に限定されない。具体的な環状化合物としては、ε-カプロラクトン、グリコリド、L-ラクチド、D-ラクチド、メソ-ラクチド、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、p-ジオキサノン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、シクロヘキセンカーボネート、トリメチレンカーボネート、2,2-ジメチルトリメチレンカーボネート、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、トリメチレンオキシド(オキセタン)、テトラヒドロフラン、アジリジン、N-メチルアジリジン、N-エチルアジリジン等を挙げることができる。
【0033】
環状化合物がε-カプロラクトンである場合、グラフト重合体の枝ポリマーはポリカプロラクトンである。環状化合物がL-ラクチドである場合、グラフト重合体の枝ポリマーはL体のポリ乳酸である。環状化合物がD-ラクチドである場合、グラフト重合体の枝ポリマーはD体のポリ乳酸である。環状化合物がメソ-ラクチドである場合、グラフト重合体の枝ポリマーはシンジオタクチック体のポリ乳酸である。環状化合物がβ-プロピオラクトンである場合、グラフト重合体の枝ポリマーはポリ(3-ヒドロキシプロピオン酸)である。環状化合物がβ-ブチロラクトンである場合、グラフト重合体の枝ポリマーはポリ(3-ヒドロキシ酪酸)である。環状化合物がγ-ブチロラクトンである場合、グラフト重合体の枝ポリマーはポリ(4-ヒドロキシ酪酸)である。環状化合物がδ-バレロラクトンである場合、グラフト重合体の枝ポリマーはポリ(3-ヒドロキシ吉草酸)である。環状化合物がp-ジオキサノンである場合、グラフト重合体の枝ポリマーはポリ(p-ジオキサノン)である。環状化合物がエチレンカーボネートである場合、グラフト重合体の枝ポリマーはポリエチレンカーボネートである。環状化合物がプロピレンカーボネートである場合、グラフト重合体の枝ポリマーはポリプロピレンカーボネートである。環状化合物がブチレンカーボネートである場合、グラフト重合体の枝ポリマーはポリブチレンカーボネートである。環状化合物がシクロヘキセンカーボネートである場合、グラフト重合体の枝ポリマーはポリシクロヘキセンカーボネートである。環状化合物がトリメチレンカーボネートである場合、グラフト重合体の枝ポリマーはポリトリメチレンカーボネートである。環状化合物が2,2-ジメチルトリメチレンカーボネートである場合、グラフト重合体の枝ポリマーはポリ(2,2-ジメチルトリメチレンカーボネート)である。環状化合物がエチレンオキシドである場合、グラフト重合体の枝ポリマーはポリエチレングリコールである。環状化合物がプロピレンオキシドである場合、グラフト重合体の枝ポリマーはポリプロピレングリコールである。環状化合物がトリメチレンオキシド(オキセタン)である場合、グラフト重合体の枝ポリマーはポリトリメチレングリコールである。環状化合物がテトラヒドロフランである場合、グラフト重合体の枝ポリマーはポリテトラメチレングリコールである。環状化合物がアジリジンである場合、グラフト重合体の枝ポリマーはポリエチレンイミンである。環状化合物がN-メチルアジリジンである場合、グラフト重合体の枝ポリマーはポリ(N-メチルアジリジン)である。環状化合物がN-エチルアジリジンである場合、グラフト重合体の枝ポリマーはポリ(N-エチルアジリジン)である。
【0034】
グラフト重合体の製造方法Aにおいて、環状化合物を開環重合する方法は特に限定されず、公知の開環重合の条件を広く採用することができる。例えば、環状化合物の開環重合は触媒の存在下で行うことができる。触媒としては、ナトリウム、カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアルミニウム、アルミニウムトリイソプロポキシド、n-ブチルリチウム、チタンテトライソプロポキシド、四塩化チタン、ジルコニウムテトライソプロポキシド、四塩化スズ、スズ酸ナトリウム、オクタン酸スズ、ジブチルスズジラウレート、ジエチル亜鉛等の金属触媒;ピリジン、4-ジメチルアミノピリジン、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(TBD)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)等の塩基触媒;塩酸、酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ジフェニルリン酸、フェノール等の酸触媒;1,3-ビス(2-プロピル)-4,5-ジメチルイミダゾール-2-イリデン、1,3-ジ-i-プロピルイミダゾール-2-イリデン等のN-ヘテロ環状カルベン等を挙げることができる。開環重合で使用する触媒は1種単独とすることができ、あるいは2種以上とすることもできる。
【0035】
環状カーボネートの開環重合は、助触媒を用いることもできる。助触媒としては、N-シクロヘキシル-N´-フェニルチオ尿素、N,N´-ビス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]チオ尿素、N-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]-N´-シクロヘキシルチオ尿素、(-)-スパルテイン等が挙げられる。
【0036】
環状化合物の開環重合に用いられる触媒(必要に応じて助触媒)の使用量は、公知の環状化合物の開環重合条件と同様とすることができる。重合反応の進行を促進する観点から、環状化合物1モルに対して好ましくは0.001モル以上、より好ましくは0.005モル以上である。また、重合反応に用いられる触媒(必要に応じて助触媒)の使用量は、使用量に見合う効果を得る観点から、環状化合物1モルに対して好ましくは0.2モル以下、より好ましくは0.1モル以下である。
【0037】
環状化合物の開環重合では、必要に応じて反応溶媒を用いてもよい。反応溶媒としては、特に限定されないが、種々の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;エチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、アニソール等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶媒;N,N-ジメチルホルミアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶媒;炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン等のカーボネート系溶媒等が挙げられる。
【0038】
反応溶媒の使用量は、開環重合を円滑に進行させる観点から、環状化合物100質量部に対して、100から10000質量部が好ましい。
【0039】
開環重合は、例えば、ガラスフラスコに、セルロース系樹脂、環状化合物、触媒、及び必要により助触媒、反応溶媒等を仕込み、混合して反応させる方法が挙げられる。
【0040】
開環重合の反応温度は、環状化合物の種類により異なるため一概には決定できないが、好ましくは-80℃以上、より好ましくは-40℃以上、さらに好ましくは0℃以上であり、副反応を抑制し、収率を向上させる観点から、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。
【0041】
反応時間は、重合反応条件により異なるために一概には決定できないが、通常、1から40時間程度であることが好ましい。
【0042】
グラフト重合体の製造方法Aにおいて、セルロース系樹脂と、環状化合物との使用割合は特に限定されず、目的とするグラフト率及び、セルロース系樹脂の置換度に応じて、適宜設定することができる。得られるグラフト重合体の脂肪族ポリカーボネートに対する親和性が高く、脂肪族ポリカーボネートと相溶しやすくなるという観点から、セルロース系樹脂100質量部あたり、環状化合物の使用量は、10質量部以上、1000質量部以下であることが好ましく、50質量部以上、500質量部以下であることがさらに好ましい。
【0043】
上記のように、グラフト重合体の製造方法Aでは、セルロース系樹脂の存在下、環状化合物の開環重合を行うことで、環状化合物が開環重合して重合体Bが生成すると共に、セルロース系樹脂の構造単位中の水酸基も、環状化合物と反応する。この結果、セルロース系樹脂の構造単位中の水酸基又は該水酸基の水素原子が開環重合により形成される重合体Bに置換された構造を有するグラフト重合体が得られる。
【0044】
グラフト重合体の製造方法Aにおいては、重合反応の後、必要に応じて適宜の方法で得られたグラフト重合体の精製等をすることができる。
【0045】
一方、グラフト重合体は、前記製造方法A以外の方法でも製造することができる。具体的には、セルロース系樹脂の存在下、環状エーテルと二酸化炭素との共重合を行う工程を備える製造方法により、グラフト重合体を製造することができる。以下、この方法を「グラフト重合体の製造方法B」と表記する。
【0046】
グラフト重合体の製造方法Bでは、セルロース系樹脂の存在下、環状エーテルと二酸化炭素との共重合を行う。グラフト重合体の製造方法Bで使用するセルロース系樹脂は、グラフト重合体の幹ポリマーを形成するための原料である。また、環状エーテルと二酸化炭素との共重合で形成される重合体は、Fedors法で値づけられる溶解度パラメータが17~24MPa0.5である重合体である。つまり、グラフト重合体の製造方法Bで使用する環状エーテルと二酸化炭素とは、グラフト重合体の枝ポリマーを形成するための原料である。
【0047】
グラフト重合体の製造方法Bで使用するセルロース系樹脂の種類は特に限定されず、グラフト重合体の製造方法Aと同様のセルロース系樹脂を挙げることができる。従って、グラフト重合体の製造方法Bで使用するセルロース系樹脂は、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース及びセルロースエステルからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましく、エチルセルロースであることが特に好ましい。
【0048】
グラフト重合体の製造方法Bで使用する環状エーテルは、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、トリメチレンオキシド(オキセタン)、3,3-ジメチルトリメチレンオキシド(3,3-ジメチルオキセタン)、1,2-ブチレンオキシド、2,3-ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、1-ペンテンオキシド、2-ペンテンオキシド、1-ヘキセンオキシド、1-オクテンオキシド、1-ドデセンオキシド、シクロペンテンオキシド、シクロヘキセンオキシド、スチレンオキシド、ビニルシクロヘキサンオキシド、3-フェニルプロピレンオキシド、3,3,3-トリフルオロプロピレンオキシド、3-ナフチルプロピレンオキシド、2-フェノキシプロピレンオキシド、3-ナフトキシプロピレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、3-ビニルオキシプロピレンオキシド及び3-トリメチルシリルオキシプロピレンオキシド等が挙げられる。なかでも、得られる重合体の脂肪族ポリカーボネートに対する親和性が高く、脂肪族ポリカーボネートと相溶しやすくなるという観点から、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、トリメチレンオキシド及び1,2-ブチレンオキシドが好ましく、エチレンオキシド、プロピレンオキシド及びトリメチレンオキシドであることがより好ましい。環状エーテルがエチレンオキシドを含む場合、得られるポリカーボネートはポリエチレンカーボネート、環状エーテルがプロピレンオキシドを含む場合、得られるポリカーボネートはポリプロピレンカーボネート、環状エーテルがトリメチレンオキシドを含む場合、得られるポリカーボネートはポリトリメチレンカーボネートである。
【0049】
環状エーテルと二酸化炭素とを共重合するための重合反応は、金属触媒の存在下で行うこともできる。金属触媒としては、例えば、亜鉛系触媒、アルミニウム系触媒、クロム系触媒、コバルト系触媒等が挙げられる。これらの中でも、環状エーテルと二酸化炭素との重合反応において、高い重合活性を有することから、亜鉛系触媒又はコバルト系触媒が好ましい。
【0050】
亜鉛系触媒としては、例えば、ジエチル亜鉛-水系触媒、ジエチル亜鉛-ピロガロール系触媒、ビス((2,6-ジフェニル)フェノキシ)亜鉛、N-(2,6-ジイソプロピルフェニル)-3,5-ジ-tert-ブチルサリチルアルドイミナト亜鉛、2-((2,6-ジイソプロピルフェニル)アミド)-4-((2,6-ジイソプロピルフェニル)イミノ)-2-ペンテン亜鉛アセテート、アジピン酸亜鉛、グルタル酸亜鉛等が挙げられる。
【0051】
コバルト系触媒としては、酢酸コバルト-酢酸系触媒、N,N′-ビス(3,5-ジ-tert-ブチルサリチリデン)-1,2-シクロヘキサンジアミノコバルトアセテート、N,N′-ビス(3,5-ジ-tert-ブチルサリチリデン)-1,2-シクロヘキサンジアミノコバルトペンタフルオロベンゾエート、N,N′-ビス(3,5-ジ-tert-ブチルサリチリデン)-1,2-シクロヘキサンジアミノコバルトクロリド、N,N′-ビス(3,5-ジ-tert-ブチルサリチリデン)-1,2-シクロヘキサンジアミノコバルトナイトレート、N,N′-ビス(3,5-ジ-tert-ブチルサリチリデン)-1,2-シクロヘキサンジアミノコバルト2,4-ジニトロフェノキシド、テトラフェニルポルフィリンコバルトクロリド、テトラフェニルポルフィリンコバルトアセテート、N,N´-ビス[2-(エトキシカルボニル)-3-オキソブチリデン]-1,2-シクロヘキサンジアミナトコバルトクロリド、N,N´-ビス[2-(エトキシカルボニル)-3-オキソブチリデン]-1,2-シクロヘキサンジアミナトコバルトペンタフルオロベンゾエート等が挙げられる。
【0052】
コバルト触媒を用いる場合は、助触媒を用いることが好ましい。助触媒としては、ピリジン、N,N-4-ジメチルアミノピリジン、N-メチルイミダゾール、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムアセテート、トリフェニルホスフィン、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリド、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムアセテート等が挙げられる。
【0053】
重合反応に用いられる金属触媒(必要に応じて助触媒)の使用量は、公知の環状エーテル及び二酸化炭素の共重合条件と同様とすることができ、重合反応の進行を促進する観点から環状エーテル1モルに対して好ましくは0.001モル以上、より好ましくは0.005モル以上である。また、重合反応に用いられる金属触媒(必要に応じて助触媒)の使用量は、使用量に見合う効果を得る観点から、環状エーテル1モルに対して好ましくは0.2モル以下、より好ましくは0.1モル以下である。
【0054】
重合反応には、必要に応じて反応溶媒を用いてもよい。反応溶媒としては、特に限定されないが、種々の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、アニソール等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶媒;N,N-ジメチルホルミアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸プロピレン等のカーボネート系溶媒等が挙げられる。
【0055】
反応溶媒の使用量は、反応を円滑に進行させる観点から、環状エーテル100質量部に対して、100から10000質量部が好ましい。
【0056】
エポキシドと二酸化炭素とを金属触媒の存在下で重合反応させる方法としては、特に限定されないが、例えば、オートクレーブに、セルロース系樹脂、環状エーテル、触媒、及び必要により助触媒、反応溶媒等を仕込み、混合した後、二酸化炭素を圧入して、反応させる方法が挙げられる。
【0057】
重合反応において用いられる二酸化炭素の使用量は、環状エーテル1モルに対して、好ましくは0.5から10モル、より好ましくは0.6から5モル、さらに好ましくは0.7から3モルである。
【0058】
重合反応において、二酸化炭素の圧力は特に限定されないが、反応を円滑に進行させる観点から、好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは0.2MPa以上、さらに好ましくは0.5MPa以上であり、使用圧力に見合う効果を得る観点から、好ましくは20MPa以下、より好ましくは10MPa以下、さらに好ましくは5MPa以下である。
【0059】
重合反応における重合反応温度は、特に限定されないが、反応時間短縮の観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは30℃以上であり、副反応を抑制し、収率を向上させる観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは60℃以下である。
【0060】
反応時間は、重合反応条件により異なるために一概には決定できないが、通常、1から40時間程度であることが好ましい。
【0061】
グラフト重合体の製造方法Bにおいて、セルロース系樹脂と、環状エーテルとの使用割合は特に限定されず、目的とするグラフト率及び、セルロース系樹脂の置換度に応じて、適宜設定することができる。得られるグラフト重合体が脂肪族ポリカーボネートに対して高い親和性を示しやすいという観点から、セルロース系樹脂100質量部あたり、環状エーテルの使用量が100質量部以上、10000質量部以下であることが好ましく、250質量部以上、5000質量部以下であることがさらに好ましい。
【0062】
上記のように、セルロース系樹脂の存在下、環状エーテルと二酸化炭素との共重合を行うことで、環状エーテルと二酸化炭素とが共重合してポリカーボネートが生成すると共に、セルロース系樹脂の構造単位中の水酸基も、環状エーテルと反応する。この結果、セルロース系樹脂の構造単位中の水酸基又は該水酸基の水素原子がポリカーボネートに置換された構造を有するグラフト重合体が得られる。
【0063】
グラフト重合体の製造方法Bにおいては、重合反応の後、必要に応じて適宜の方法で得られたグラフト重合体の精製等をすることができる。
【0064】
グラフト重合体は、前述の製造方法A及び製造方法B以外の方法で製造することでできる。例えば、グラフト重合体の枝ポリマーがポリエチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートである場合、前記セルロース系樹脂の存在下、それぞれエチレングリコールとコハク酸との共重合、エチレングリコールとアジピン酸との共重合、1,4-ブタンジオールとコハク酸との共重合、1,4-ブタンジオールとアジピン酸との共重合により製造される。いずれの共重合においても例えば、公知の重合条件と同様の重合条件を採用することができる。
【0065】
また、グラフト重合体の枝ポリマーがポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、またはポリスチレン等のビニル系ポリマーである場合、前記セルロース系樹脂の存在下、ビニル系モノマーのラジカル重合により製造される。この場合のラジカル重合は、例えば、公知の他事駆る重合と同様の条件を採用することができる。
【0066】
(脂肪族ポリカーボネート)
本発明の複合体において、脂肪族ポリカーボネートの種類は特に限定されず、例えば、公知の脂肪族ポリカーボネートを広く採用することができる。脂肪族ポリカーボネートとしては、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリトリメチレンカーボネート、ポリブチレンカーボネート、ポリシクロヘキセンカーボネート、ポリヘキサメチレンカーボネート、ポリ(1,4-シクロヘキサンジメチレン)カーボネート、ポリイソソルビドカーボネート等を挙げることができる。
【0067】
脂肪族ポリカーボネートの質量平均分子量、分子量分布等も特に制限されない。例えば複合体の取り扱い易さの観点から、脂肪族ポリカーボネートの質量平均分子量は1万以上が好ましく、5万以上がより好ましく、10万以上がさらに好ましい。また、脂肪族ポリカーボネートの質量平均分子量は100万以下が好ましく、75万以下がより好ましく、50万以下がさらに好ましい。成形加工のし易さの観点から、脂肪族ポリカーボネートの分子量分布は1以上が好ましく、2以上がより好ましく、3以上がさらに好ましい。また、脂肪族ポリカーボネートの分子量分布は20以下が好ましく、15以下がより好ましく、10以下がさらに好ましい。
【0068】
脂肪族ポリカーボネートの製造方法も特に限定されず、例えば、公知の脂肪族ポリカーボネートの製造方法によって脂肪族ポリカーボネートを得ることができる。あるいは、市販品等から脂肪族ポリカーボネートを入手することも可能である。
【0069】
(複合体)
本発明の複合体は、前述のグラフト重合体及び脂肪族ポリカーボネートを含み、例えば、グラフト重合体と脂肪族ポリカーボネートとが接触して形成される。複合体は、前述のグラフト重合体及び脂肪族ポリカーボネートを含む限り、その形状及び構造等は特に制限されない。
【0070】
例えば、本発明の複合体は、フィルム状、シート状、板状、ブロック状、ペレット状、ストランド状、繊維状、粉末状等の種々の形状を形成することができる。
【0071】
例えば、複合体がフィルム状、シート状、板状等の形状である場合、複合体は単層構造(例えば、単層フィルム)であってもよいし、積層構造(例えば、積層フィルム)であってもよい。複合体が単層構造である場合、その単層内にグラフト重合体及び脂肪族ポリカーボネートの両方が存在した混合層となる。この混合層において、両者の存在状態は特に限定されず、例えば、両者が均一に混ざり合うことができ、あるいは、いずれか一方のマトリックス中に他方が分散して存在することもできる。特にグラフト重合体は特定の幹ポリマー及び枝ポリマーを有して形成されていることから、脂肪族ポリカーボネートに対する相溶性が高いため、両者が均一に混ざりやすく、あるいは、一方が他方に分散して存在しやすい(例えば、脂肪族ポリカーボネートマトリックス中にグラフト重合体が均一に分散する)。よって、前記混合層を含む複合体は、グラフト重合体及び脂肪族ポリカーボネートの両方の機能が効果的に発揮されやすく、透明性も高い材料となる。
【0072】
複合体が積層構造である場合、複合体は二層構造に形成されていてもよいし、三層以上の多層構造に形成されていてもよい。例えば、複合体が二層構造に形成されている場合、一方の層がグラフト重合体の層、他方の層が脂肪族ポリカーボネートの層とすることができる。あるいは、複合体が二層構造に形成されている場合、一方又は両方の層が前述の混合層と同様の構成であってもよい。複合体が三層以上の多層構造に形成されている場合は、多層構造のうちの一以上の層をグラフト重合体の層とすることができ、他の一又は二以上の層を脂肪族ポリカーボネートの層とすることができる。また、かかる多層構造であっても少なくとも一つの層が前述の混合層と同様の構成であってもよい。
【0073】
複合体が積層構造である場合において、グラフト重合体の層と脂肪族ポリカーボネートの層とが互いに接している場合、グラフト重合体の層と脂肪族ポリカーボネートとが高い相溶性を有することから、互いに強固に接着することができる。この結果、フィルム又はシート間にずれや剥がれが生じにくい。
【0074】
また、複合体が単層構造及び積層構造のいずれの構造であっても、グラフト重合体と脂肪族ポリカーボネートとの高い相溶性により、透明性が高い材料となり得る。しかも、グラフト重合体の層と脂肪族ポリカーボネートとが高い相溶性を有することで、グラフト重合体の層と脂肪族ポリカーボネート相溶性を何ら考慮していない場合に比べると、機械的強度も向上する。
【0075】
複合体が前記単層構造である場合の厚みは特に限定されず、使用用途に応じて適宜設定することができる。例えば、複合体が単層のフィルムである場合は、厚みを10~250μmとすることができる。また、複合体が前記積層構造である場合の厚み及び各層の厚みは特に限定されず、使用用途に応じて適宜設定することができる。例えば、複合体が積層フィルムである場合は、厚みを20~250μmとすることができる。この場合において、各層の厚みも特に限定されず、例えば、グラフト重合体の層の厚みは10~100μmとすることができ、脂肪族ポリカーボネートの層の厚みは10~100μmとすることができ、前述の混合層の厚みは10~100μmとすることができる。
【0076】
本発明の複合体が、例えば、ペレットや粉末状である場合、複合体は、例えば、粒子状、リン片状、薄片状、不定形状等であってもよい。複合体が粒子状である場合、かかる粒子は例えば、真球状、楕円球状、あるいは不定形状とすることができる。複合体が粒子状である場合、グラフト重合体と脂肪族ポリカーボネートとが均一に混ざり合っていてもよいし、あるいは、いわゆるコアシェル構造を形成していてもよい。コアシェル構造において、例えば、コアを脂肪族ポリカーボネート、シェルをグラフト重合体とすることができ、あるいは、その逆とすることもできる。
【0077】
本発明の複合体が、粒子状である場合、その平均粒子径は特に限定されず、例えば、レーザー回折・散乱法における中位粒子径が0.1~500μmとすることができる。
【0078】
本発明の複合体が繊維状である場合、かかる繊維は、モノフィラメント、あるいはマルチフィラメントとすることができる。複合体がマルチフィラメントである場合、グラフト重合体と脂肪族ポリカーボネートとが均一に混ざり合っているモノフィラメントを紡績したものであってもよいし、グラフト重合体と脂肪族ポリカーボネートをそれぞれモノフィラメントに紡糸し、それらを混合紡績したものであってもよいし、あるいは、いわゆる芯鞘構造を形成していてもよい。芯鞘構造において、例えば、芯を脂肪族ポリカーボネート、鞘をグラフト重合体とすることができ、あるいは、その逆とすることもできる。本発明の複合体が、繊維状である場合、その繊維の径は特に限定されず、例えば、直径1~1000μmとすることができる。
【0079】
本発明の複合体において、グラフト重合体と脂肪族ポリカーボネートの含有割合は特に制限されず、本発明の効果が損なわれない程度で適宜調節することができる。例えば、グラフト重合体と脂肪族ポリカーボネートの総質量に対し、グラフト重合体の含有割合を1~99質量%とすることができ、5~95質量%であることが好ましく、10~90質量%であることがより好ましく、20~80質量%であることがさらに好ましく、30~70質量%であることが特に好ましい。
【0080】
本発明の複合体は、本発明の効果が阻害されない限り、添加剤を含有することができる。添加剤の種類は特に限定されず、光安定剤、酸化防止剤、防腐剤、界面活性剤、充填剤、難燃剤、顔料、着色剤、防カビ剤、滑剤等が挙げられる。複合体が添加剤を含む場合、その含有量は、複合体の全質量に対して20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは、5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下とすることができる。
【0081】
なお、複合体が前述の積層構造である場合、グラフト重合体の層には本発明の効果が阻害されない程度で前記添加剤を含有することができ、脂肪族ポリカーボネートの層にも本発明の効果が阻害されない程度で前記添加剤を含有することができる。
【0082】
(複合体の製造方法)
複合体の製造方法は特に限定されない。例えば、グラフト重合体と脂肪族ポリカーボネートとを用いて、公知の方法で複合体を形成することができる。
【0083】
例えば、複合体が単層のフィルム、シート等である場合、グラフト重合体と脂肪族ポリカーボネートを原料とし、公知の方法で成形することで、フィルム及びシート等を製造することができる。成形方法及び成形条件は特に限定されず、例えば、公知の成形方法及び成形条件を広く採用することができる。具体的にはインフレーション法、Tダイ法、カレンダー法、溶液キャスト法等によりグラフト重合体と脂肪族ポリカーボネートの複合体のフィルム又はシートとして成形することができる。また、得られたフィルム又はシートを、ロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法等により一軸方向又は二軸方向に延伸してもよい。
【0084】
また、複合体が積層構造を有するフィルム、シート等である場合もその製造方法は特に限定されず、例えば、公知の積層体を製造する方法を広く採用することができる。具体的には、グラフト重合体を含む層と、脂肪族ポリカーボネートを含む層とを互いに積層させることで、積層構造を有する複合体を製造することができる。積層方法及び積層条件は特に限定されず、例えば、公知の成形方法及び成形条件を広く採用することができる。具体的には共押出インフレーション法、共押出Tダイ法等での成形することができる。あるいは、押出ラミネート法、熱ラミネート法、ドライラミネート法等で成形することができ、若しくは、前記の成形方法で得られた単層フィルムを積層し、加熱により圧着させ積層体とすることができる。また、得られた積層構造を有するフィルム、シートは、ロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法等により一軸方向又は二軸方向に延伸して用いることができる。
【0085】
また、複合体が粒子である場合、その製造方法は特に限定されず、例えば、公知の粒子の製造方法を広く採用することができる。例えば、グラフト重合体及び脂肪族ポリカ―ボネートの複合体を機械的に粉砕する方法、グラフト重合体及び脂肪族ポリカ―ボネートの複合体を有機溶媒に溶解又は分散させ噴霧乾燥する方法、グラフト重合体及び脂肪族ポリカ―ボネートの複合体を有機溶媒に溶解させ、その有機溶媒と混和しない溶媒を加え、高速攪拌により乳化させ、その後、有機溶媒等の溶媒を除去する方法、グラフト重合体及び脂肪族ポリカ―ボネートの複合体を溶解しない溶媒中で、溶融温度以上に加熱しながら高速攪拌により乳化させ、その後急冷することで粒子を形成させる方法、又はグラフト重合体及び脂肪族ポリカ―ボネートを溶解又は分散した有機溶媒を急冷することで、粒子を形成させる方法を挙げることができる。有機溶媒としては、例えば、グラフト重合体を溶解又は分散することができる溶媒を挙げることができ、例えば、キシレン、トルエン、ベンゼン等の芳香族化合物、その他、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等の塩素系炭化水素;酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールおよびtert-ブタノール等のアルコール等が挙げられる。
【0086】
例えば、上記グラフト重合体及び脂肪族ポリカ―ボネートを溶解又は分散した有機溶媒を急冷することで粒子を形成させる場合、急冷をする前に、グラフト重合体及び脂肪族ポリカ―ボネートを含む有機溶媒を加熱することもできる。この加熱温度としては、60~200℃とすることができる。当該加熱の後に前記急冷を行うことができる。この急冷にあたっては、グラフト重合体及び脂肪族ポリカ―ボネートを含む有機溶媒を20℃以下とすることができる。
【0087】
上記の急冷により、グラフト重合体及び脂肪族ポリカ―ボネートを含む懸濁液を得ることができるため、その後はろ過等の処理により、目的の微粒子状の複合体を得ることができる。このように得られる複合体は、例えば、コアシェル構造に形成されている。コア及びシェルがグラフト重合体及び脂肪族ポリカ―ボネートのいずれになるかは、使用する有機溶媒の種類等に依存する。例えば、有機溶媒がグラフト重合体の良溶媒であり脂肪族ポリカーボネートの貧溶媒である場合、脂肪族ポリカーボネートがコアに、グラフト重合体がシェルであるコアシェル構造が形成される。また、有機溶媒がグラフト重合体の貧溶媒であり、脂肪族ポリカーボネートの良溶媒である場合は逆の構造が得られる。
【0088】
また、複合体が繊維である場合、その製造方法は特に限定されず、例えば、公知の繊維の製造方法を広く採用することができる。例えば、グラフト重合体及び脂肪族ポリカ―ボネートの複合体を溶融紡糸する方法、乾式紡糸する方法、湿式紡糸する方法を用いることができる。前記紡糸により成形された繊維は、さらに延伸、紡績等の工程を行ってもよい。また、芯鞘構造を有する繊維とする場合は、共押出溶融紡糸法、またはグラフト重合体若しくは脂肪族ポリカーボネートのモノフィラメントを他方のポリマーを有機溶媒に溶解させた溶液に浸漬し、溶媒を乾燥させる方法等を用いることができる。
【0089】
(複合体の用途)
本発明の複合体は、前述のようにフィルム、シート等に形成することができ、積層構造に形成することができることから、例えば、各種の多層フィルム用途に使用することができる。この多層フィルムは本発明の複合体を含むため、透明性が高く、機械強度にも優れ、また、多層フィルムにおけるグラフト重合体の層と脂肪族ポリカ―ボネートの層とが高い相溶性を有することから、フィルム間にずれや剥がれが生じにくい。従って、複合体を多層フィルムに使用することで、様々な機能を発現することができる。
【0090】
また、本発明の複合体は、光学フィルム、農業用フィルム、あるいは包装フィルムへの使用にも好適である。特に、本発明の複合体は、グラフト重合体と脂肪族ポリカ―ボネートとの相溶性が高いことから、単層構造及び積層構造のいずれにおいても透明性が高く、しかも、優れた機械強度も有するため、光学フィルムあるいは農業用フィルムへの使用に好適である。
【0091】
本発明の複合体を多層フィルム、光学フィルムあるいは農業用フィルムに適用する場合、これらが複合体を含む限りはその他の構成が特に限定されず、例えば、複合体を含むことを除いては、公知の多層フィルム、光学フィルム又は農業用フィルムと同様の構成とすることができる。
【0092】
本発明の複合体はフィルム等の他、前述のように粒子または繊維を形成することができることから、例えば、フィラー、光拡散剤、軽量化剤、滑剤、アンチブロッキング剤等の各種添加剤としても好適に使用することができる。
【実施例】
【0093】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0094】
各実施例及び比較例で得られたでグラフト重合体の質量平均分子量(Mw)は、以下の方法により行った。
【0095】
〔グラフト重合体の質量平均分子量(Mw)〕
グラフト重合体濃度が0.2質量%であるテトラヒドロフラン溶液を調製し、高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて、グラフト重合体の質量平均分子量(Mw)を測定した。この測定値を、同一条件で測定した質量平均分子量が既知のポリスチレンと比較することにより、グラフト重合体の質量平均分子量Mwを算出した。測定条件は、以下の通りとした。
・カラム:GPCカラム(昭和電工株式会社の商品名、Shodex OHPac SB-804,SB-805)
・カラム温度:40℃
・溶出液:テトラヒドロフラン
・流速:1.0mL/min
【0096】
(製造例1)
冷却管、温度計及び攪拌機を備え付けたセパラブルフラスコに、エチルセルロース(Mw=18万、エトキシ化率48.0%)30質量部、プロピレンカーボネート100質量部、オクタン酸スズ0.5質量部、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン0.5質量部及びジグライム250質量部を仕込んだ。次いで、窒素雰囲気下で150℃まで昇温し、同温度で24時間攪拌して反応させた。反応溶液を50質量%メタノール水溶液1000質量部に滴下させることで固体を析出させた。析出した固体をろ過により回収し、50質量%メタノール水溶液500質量部で洗浄後、70℃で8時間乾燥させることで、グラフト重合体を得た。得られたグラフト重合体は枝ポリマーがポリプロピレンカーボネート(SP値19.5)、グラフト率53質量%、Mwは22万であった。
【0097】
(製造例2)
プロピレンカーボネートの代わりにエチレンカーボネートに変更したこと以外は製造例1と同様の方法でグラフト重合体を得た。得られたグラフト重合体は枝ポリマーがポリエチレンカーボネート(SP値22.6)、グラフト率90質量%、Mwは30万であった。
【0098】
(製造例3)
冷却管、温度計及び攪拌機を備え付けたセパラブルフラスコに、ヒドロキシプロピルセルロース(Mw=18万)30質量部、ε-カプロラクトン40質量部、オクタン酸スズ1質量部及びジグライム250質量部を仕込んだ。次いで、窒素雰囲気下で150℃まで昇温し、同温度で6時間攪拌して反応させた。反応溶液を50質量%メタノール水溶液1000質量部に滴下させることで固体を析出させた。析出した固体をろ過により回収し、50質量%メタノール水溶液500質量部で洗浄後、70℃で8時間乾燥させることで、グラフト重合体を得た。得られたグラフト重合体は枝ポリマーがポリカプロラクトン(SP値20.9)、グラフト率130質量%、Mwは32万であった。
【0099】
(製造例4)
ε-カプロラクトン40質量部の代わりにL-ラクチド100質量部に変更したこと以外は製造例3と同様の方法でグラフト重合体を得た。得られたグラフト重合体は枝ポリマーがポリ乳酸(SP値21.6)、グラフト率230質量%、Mwは53万であった。
【0100】
(実施例1)
製造例1で得られたグラフト重合体を、プレス成形機(ゴンノ水圧機製作所製40t加熱プレス)を用い、150℃、圧力5MPa・Gで5分間プレスして成形した100μm厚みのフィルムと、脂肪族ポリカーボネート(住友精化製ポリプロピレンカーボネート)(Mw=34万)を同様の方法で成形して得た100μm厚みのフィルムとを積層し、同様のプレス成形機を用いて100℃にて0.3MPaで1分間圧着させることで、二層フィルムを得た。この二層フィルムをグラフト重合体と脂肪族ポリカーボネートとを含む複合体とした。
【0101】
(実施例2)
製造例1で得られたグラフト重合体を、製造例2で得られたグラフト重合体に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で二層フィルムを得た。この二層フィルムをグラフト重合体と脂肪族ポリカーボネートとを含む複合体とした。
【0102】
(実施例3)
製造例1で得られたグラフト重合体を、製造例3で得られたグラフト重合体に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で二層フィルムを得た。この二層フィルムをグラフト重合体と脂肪族ポリカーボネートとを含む複合体とした。
【0103】
(実施例4)
製造例1で得られたグラフト重合体を、製造例4で得られたグラフト重合体に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で二層フィルムを得た。
【0104】
(比較例1)
製造例1で得られたグラフト重合体を、エチルセルロース(Mw=18万、エトキシ化率48.0%)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で二層フィルムを得た。この二層フィルムを複合体の比較用フィルムとして使用した。
【0105】
(実施例5)
製造例1で得られたグラフト重合体を実施例1と同様の方法で成形した50μm厚みのフィルム1枚と、脂肪族ポリカーボネート(住友精化製ポリプロピレンカーボネート)(Mw=34万)を実施例1と同様の方法で成形して得た50μm厚みのフィルム2枚とを準備した。グラフト重合体を用いて形成した50μm厚みのフィルムの両面それぞれを脂肪族ポリカーボネートのフィルムで挟むように積層させ、100℃にて0.3MPaで1分間圧着させることで、三層フィルムを得た。この三層フィルムをグラフト重合体と脂肪族ポリカーボネートとを含む複合体とした。
【0106】
(実施例6)
製造例3で得られたグラフト重合体100質量部と脂肪族ポリカーボネート(住友精化製ポリプロピレンカーボネート)(Mw=34万)100質量部とをアセトン500質量部に溶解させて混合液を調製した。得られた混合液をガラスシャーレ上に展開し、乾燥させることで、厚さ250μmのグラフト体と脂肪族ポリカーボネートの混合フィルム(単層)を得た。この混合フィルムをグラフト重合体と脂肪族ポリカーボネートとを含む複合体とした。
【0107】
(比較例2)
製造例3で得られたグラフト重合体を、ヒドロキシプロピルセルロース(Mw=18万)に変更したこと以外は実施例6と同様の方法で混合フィルムを得た。この混合フィルムを複合体の比較用フィルムとして使用した。
【0108】
(実施例7)
製造例4で得られたグラフト重合体10質量部をキシレン240質量部に溶解して溶液を調製し、この溶液に脂肪族ポリカ―ボネート(住友精化製ポリエチレンカーボネート)(Mw=20万)を5質量部加えた後、140℃にて800rpmで攪拌し、脂肪族ポリカーボネートを溶融、分散させた。次いで、10℃まで急冷することで、懸濁液を得た。得られた懸濁液を0.45μmのフィルターでろ過し、得られたろ物を10℃に冷却したn-ヘキサン200質量部で洗浄し、乾燥することで粉末を得た。得られた粉末は、中位粒子径が440μmであり、粉末の赤外分光分析を行ったところ、表面はエステル基が観測されカーボネート基が観測されなかったこと、内部はカーボネート基が観測されエステル基が観測されなかったことから、脂肪族ポリカーボネートをコア層に、グラフト重合体をシェル層に有するコアシェル粒子であった。このコアシェル粒子をグラフト重合体と脂肪族ポリカーボネートとを含む複合体とした。
【0109】
(評価例1)
実施例1~4及び比較例1で得られた二層フィルムについて、JIS Z0238:1998に準拠し、万能試験機(島津製作所製AGS-J)を用いて試験速度50mm/分の条件で層間剥離試験を行い、下記判断基準に基づいて各フィルムの性能を評価した。
A:いずれかの層が破断するまで接着していた。
B:いずれの層も破断しないものの、接着面の剥離時には大きく変形していた。
C:いずれの層も変形、破断せずに、ほぼ抵抗なく剥離した。
【0110】
【0111】
表1には、評価例1(層間剥離試験)の評価結果を示している。この結果から、実施例で得られた二層フィルム(多層フィルム)は、層間のずれ及び剥離が発生しにくいことがわかった。実施例で得られた二層フィルムにおけるグラフト重合体の脂肪族ポリカーボネートに対する相溶性がセルロース系樹脂に比べて大きいことから、グラフト重合体の層と脂肪族ポリカーボネートの層との密着性が向上していると認められる。
【0112】
(評価例2)
実施例1~6及び比較例1~2で得られた各フィルムの全光線透過率をヘーズメーター(日本電色工業製、NDH300A)により測定した。
【0113】
【0114】
表2には、評価例2(全光線透過率)の評価結果を示している。この結果から、各実施例で得られたフィルムは優れた透明性を有していることがわかった。特に、各実施例で得られたフィルムは、比較例2のように単にヒドロキシプロピルセルロースと脂肪族ポリカーボネートとをブレンドして得たフィルムよりも透明性が向上していた。このことから、特定構造を有するグラフト重合体と、脂肪族ポリカーボネートとを含む複合体は、光学フィルムとして好適に使用できることがわかる。
【0115】
(評価例3)
実施例6及び比較例2で得られたフィルムの機械強度を万能試験機(島津製作所製、AGS-J)により、25℃、50mm/分の引張速度で測定し、破断強度、破断ひずみを求めた。
【0116】
【0117】
表3には、評価例3(機械強度)の評価結果を示している。実施例6で得られた混合フィルムは比較例2で得られた混合フィルムよりも優れた機械強度を有していることがわかった。比較例2の混合フィルムでは、脂肪族ポリカーボネートとセルロース系樹脂とが均一に混ざっていないことから、フィルムが破断しやすい。これに対し、実施例6の混合フィルムは、脂肪族ポリカーボネートとグラフト重合体とは相溶性が高いため両者が均一に混合されていることから、実施例6で得られた混合フィルムは優れた機械強度を有していると考えられる。