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特許7587519熱可塑性樹脂組成物、その製造方法、それを含む成形品及び成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-12
(45)【発行日】2024-11-20
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物、その製造方法、それを含む成形品及び成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/12 20060101AFI20241113BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20241113BHJP
   C23C 18/16 20060101ALI20241113BHJP
   C23C 18/22 20060101ALI20241113BHJP
【FI】
C08L25/12
C08L51/04
C23C18/16 A
C23C18/22
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021559222
(86)(22)【出願日】2020-07-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-08
(86)【国際出願番号】 KR2020008866
(87)【国際公開番号】W WO2021075668
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2021-10-04
(31)【優先権主張番号】10-2019-0129852
(32)【優先日】2019-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ジュ・ヒョン・イ
(72)【発明者】
【氏名】セジン・ハン
(72)【発明者】
【氏名】ビョン・イル・カン
(72)【発明者】
【氏名】ソンキョン・キム
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2006-0016165(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2007-0092884(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0073062(KR,A)
【文献】特表2008-504387(JP,A)
【文献】特開2007-091970(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0076637(KR,A)
【文献】特開2008-031513(JP,A)
【文献】国際公開第2015/060196(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08F 2/00-299/08
C08J 3/00- 7/18
C23C 2/00- 30/00
C25D 1/00- 21/22
B32B 1/00- 43/00
B29C 45/00- 45/84
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A-1)アルキルアクリレートゴムに芳香族ビニル化合物及びビニルシアン化合物がグラフトしたグラフト共重合体であって、前記アルキルアクリレートゴムの平均粒径が0.05μm~0.15μmであるアルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体と、(A-2)アルキルアクリレートゴムに芳香族ビニル化合物及びビニルシアン化合物がグラフトしたグラフト共重合体であって、前記アルキルアクリレートゴムの平均粒径が0.2μm超~0.7μm以下であるアルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体とを重量比1:1.5~1:4で含むベース樹脂17~49重量%と、
(B)重量平均分子量が50,000~80,000g/molである芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体51~83重量%とを含む、熱可塑性樹脂組成物であって、
熱可塑性樹脂組成物を射出して射出品とし、前記射出品をクロムフリーのエッチング液を用いてエッチングし、前記エッチングされた射出品をめっきして、めっき層を有する成形品を得るために使用される熱可塑性樹脂組成物であり、
前記めっき層を有する成形品の、めっき密着力が9N/cm以上であることを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A-1)アルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体及び(A-2)アルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体のアルキルアクリレートゴムは、独立して、アルキル基の炭素数が1~10であることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A-1)アルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体及び(A-2)アルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体は、独立して、アルキルアクリレートゴム20~80重量%、芳香族ビニル化合物10~70重量%及びビニルシアン化合物5~50重量%を含んでなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体は、ビニルシアン化合物20~40重量%及び芳香族ビニル化合物60~80重量%を含んでなることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
ASTM D1238に準拠して測定した溶融指数(220℃、10kg)が14~36g/10分であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
ASTM D256に準拠して測定した衝撃強度が15kgf・cm/cm以上であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
(A-1)アルキルアクリレートゴムに芳香族ビニル化合物及びビニルシアン化合物がグラフトしたグラフト共重合体であって、前記アルキルアクリレートゴムの平均粒径が0.05μm~0.15μmであるアルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体と、(A-2)アルキルアクリレートゴムに芳香族ビニル化合物及びビニルシアン化合物がグラフトしたグラフト共重合体であって、前記アルキルアクリレートゴムの平均粒径が0.2μm超~0.7μm以下であるアルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体とを重量比1:1.5~1:4で含むベース樹脂17~49重量%と;(B)重量平均分子量が50,000~80,000g/molである芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体51~83重量%と;を混練及び押出するステップを含むことを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂組成物を射出して射出品とし、前記射出品をクロムフリーのエッチング液を用いてエッチングし、前記エッチングされた射出品をめっきして、めっき層を有する成形品を得るために使用されるものであり、
前記めっき層を有する成形品の、めっき密着力が9N/cm以上である、製造方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物を含むことを特徴とする、めっき層を有する成形品。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物を射出して射出品を得るステップと、
前記射出品をクロムフリーのエッチング液を用いてエッチングするステップと、
前記エッチングされた射出品をめっきするステップとを含むことを特徴とする、成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願との相互参照〕
本出願は、2019年10月18日付の韓国特許出願第10-2019-0129852号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物、その製造方法、それを含む成形品及び成形品の製造方法に関し、より詳細には、従来と比較して同等以上の機械的物性を有しながらも、熱サイクル特性、めっき密着力及び外観品質がいずれも優れた熱可塑性樹脂組成物、その製造方法、それを含む成形品及び成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(Acrylonitrile-Butadiene-Styrene;ABS)に代表されるABS系樹脂は、アクリロニトリルの剛性及び耐薬品性、ブタジエンとスチレンの加工性、機械的強度及び美麗な外観特性により、自動車用品、電子製品及び事務用機器などに多様に使用されている。
【0004】
既存のABS系樹脂は、湿式めっき工程においてめっき密着力を向上させ、未めっきを防止するために、エッチング工程を必須に行っている。
【0005】
しかし、従来のABS系樹脂のエッチングに用いられるエッチング溶液は、一般にめっき層と基材層の物理的結合を付与するために無水クロム酸の6価クロム(Cr6+)を含むが、これは1級発癌物質として指定されており、これにより作業者に悪影響を及ぼした。
【0006】
また、前記エッチング溶液を安全に廃水処理するためには、6価クロムを3価クロムに還元した後、中和、沈殿させるなどの複雑な処理過程を経なければならないという問題があった。
【0007】
このような問題を解決するために、最近は、毒性低減めっき工程の開発が進められており、特に、毒性低減めっき工程に用いられるクロムフリーの新規なエッチング溶液に対する開発が進められている。
【0008】
しかし、既存のエッチング液を用いる代わりに、毒性が低減されたクロムフリーの新規なエッチング溶液を用いる工程は、新規なエッチング液の低い反応性及び不安定性により、めっき密着力及び熱サイクル特性が低下して、めっきの信頼性が一般の基準に達しないだけでなく、ひどい場合には未めっきが発生した。
【0009】
当該問題点を解消するための方案として、ABS系樹脂のゴムの含量を増加させる方案が提案されたが、これは、成形性の低下及び線膨張係数の増加による熱サイクル性の低下が発生し得、他の方案として、めっき工程時にエッチング液の温度や時間を増加させる方法が提案されたが、これは、全体的な工程時間を増加させるため、工程コストの面で効率的ではなかった。
【0010】
したがって、毒性低減めっき工程上でめっき密着力及び熱サイクル特性に優れ、未めっきが発生しないながらも、加工性、機械的物性及び外観特性が低下しない熱可塑性樹脂の開発が切実に求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】韓国公開特許第10-2013-0006551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の従来技術の問題点を解決するために、本発明は、従来と比較して同等以上の機械的物性を有しながらも、毒性が低減されたクロムフリーのエッチング液を用いためっき工程時に熱サイクル特性、めっき密着力及び外観品質がいずれも優れた熱可塑性樹脂組成物、その製造方法、それを含む成形品及び成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
本発明の上記目的及びその他の目的は、以下で説明する本発明によって全て達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明は、(A-1)アルキルアクリレートゴムの平均粒径が0.05μm~0.2μmであるアルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体と、(A-2)アルキルアクリレートゴムの平均粒径が0.2μm超~0.7μm以下であるアルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体とを重量比1:1.5~1:4で含むベース樹脂17~49重量%と;(B)重量平均分子量が50,000~200,000g/molである芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体51~83重量%とを含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【0015】
また、本発明は、(A-1)アルキルアクリレートゴムの平均粒径が0.05μm~0.2μmであるアルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体と、(A-2)アルキルアクリレートゴムの平均粒径が0.2μm超~0.7μm以下であるアルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体とを重量比1:1.5~1:4で含むベース樹脂17~49重量%と;(B)重量平均分子量が50,000~200,000g/molである芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体51~83重量%と;を混練及び押出するステップを含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供する。
【0016】
また、本発明は、本明細書に記載の熱可塑性樹脂組成物を含むことを特徴とする成形品を提供する。
【0017】
また、本発明は、本明細書に記載の熱可塑性樹脂組成物を射出して射出品を得るステップと;前記射出品をクロムフリーのエッチング液を用いてエッチングするステップと;前記エッチングされた射出品をめっきするステップと;を含むことを特徴とする成形品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来と比較して同等以上の機械的物性を有しながらも、毒性が低減されたクロムフリーのエッチング液を用いためっき工程時に熱サイクル特性、めっき密着力及び外観品質がいずれも優れた熱可塑性樹脂組成物、その製造方法、それを含む成形品及び成形品の製造方法を提供する効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物、その製造方法、それを含む成形品及び成形品の製造方法を詳細に説明する。
【0020】
本発明者らは、特定の重量平均分子量を有する芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体と、特定の重量比を有する、ゴムの粒径が異なる2種のASA樹脂とを混合して毒性低減めっき工程に適用する場合、機械的物性の低下及び未めっきの発生がなく、更に、めっき密着性及び熱サイクル特性が大きく向上することを確認し、これに基づいてさらに研究に邁進して、本発明を完成するようになった。
【0021】
本発明において、毒性低減めっき工程とは、クロムフリーのエッチング液を用いてエッチングするステップを含むめっき工程を意味する。
【0022】
本発明において、クロムフリー(Free)とは、エッチング液にクロム含有成分を意図的に添加しないことを意味する。
【0023】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(A-1)アルキルアクリレートゴムの平均粒径が0.05μm~0.2μmであるアルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体と、(A-2)アルキルアクリレートゴムの平均粒径が0.2μm超~0.7μm以下であるアルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体とを重量比1:1.5~1:4で含むベース樹脂17~49重量%と;(B)重量平均分子量が50,000~200,000g/molである芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体51~83重量%とを含むことを特徴とし、この場合に、従来と比較して同等以上の機械的物性を有しながらも、熱サイクル特性、めっき密着性及び外観品質がいずれも優れるという利点がある。
【0024】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物を各成分別に詳細に説明すると、次の通りである。
【0025】
本発明の前記ベース樹脂は、一例として、(A-1)アルキルアクリレートゴムの平均粒径が0.05μm~0.2μmであるアルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体と、(A-2)アルキルアクリレートゴムの平均粒径が0.2μm超~0.7μm以下であるアルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体とを重量比1:1.5~1:4で含むことができ、この場合に、機械的物性が低下しないながらも、クロムフリーの毒性低減めっき工程上でめっき密着力及び熱サイクル特性が向上するという利点がある。
【0026】
前記(A-1)アルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体は、一例として、平均粒径が0.05μm~0.2μm、好ましくは0.07~0.2μm、より好ましくは0.07~0.15μmであるアルキルアクリレートゴムを含むことができ、この範囲内で、熱サイクルの評価後にめっき膜の膨れやクラックが全く発生しないので、熱サイクル特性に優れ、めっき密着力が著しく優れるという利点がある。
【0027】
本発明において、平均粒径は、動的レーザー光散乱(Dynamic Laser Light Scattering)法でインテンシティガウス分布(Intensity Gaussian Distribution、Nicomp 380)を用いて測定される。
【0028】
前記(A-1)アルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体は、一例として、アルキルアクリレートゴム20~80重量%、芳香族ビニル化合物10~70重量%及びビニルシアン化合物5~50重量%を含んでなってもよく、この範囲内で、熱サイクルの評価後にめっき膜の膨れやクラックが全く発生せず、めっき層との密着性に優れるという利点がある。
【0029】
他の一例として、前記(A-1)アルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体は、アルキルアクリレートゴム30~60重量%、芳香族ビニル化合物20~50重量%及びビニルシアン化合物10~30重量%を含んでなってもよく、この範囲内で、熱サイクルの評価後にめっき膜の膨れやクラックが全く発生しないので、熱サイクル特性に優れ、外観品質に優れ、めっき密着性に優れるという効果がある。
【0030】
前記アルキルアクリレートゴムは、一例として、アルキル基の炭素数が1~10であるアクリレートゴムであってもよい。
【0031】
好ましい例として、前記アルキルアクリレートゴムは、メチルアクリレートゴム、エチルアクリレートゴム、ブチルアクリレートゴム及びエチルヘキシルアクリレートゴムからなる群から選択された1種以上であってもよく、この場合に、本来の耐候性及び耐化学性に優れ、さらに、外観品質及びめっき密着性に優れるという利点がある。
【0032】
前記芳香族ビニル化合物は、一例として、スチレン、α-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、ビニルトルエン、t-ブチルスチレン及びクロロスチレンからなる群から選択された1種以上であってもよく、好ましくはスチレンであってもよく、この場合に、加工性及び機械的物性に優れるという効果がある。
【0033】
前記ビニルシアン化合物は、一例として、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及びエタクリロニトリルからなる群から選択された1種以上であってもよく、好ましくはアクリロニトリルを含むものであってもよく、この場合に、加工性、耐衝撃性及びめっき特性に優れるという効果がある。
【0034】
前記(A-2)アルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体は、一例として、平均粒径が0.2μm超~0.7μm以下、好ましくは0.25~0.6μmであるアルキルアクリレートゴムを含むことができ、より好ましくは、平均粒径が0.25~0.45μmであるアルキルアクリレートゴムを含むことができ、この範囲内で、熱サイクル特性に優れ、流動性、耐衝撃性及び外観品質に優れるという効果がある。
【0035】
前記(A-2)アルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体は、一例として、アルキルアクリレートゴム20~80重量%、芳香族ビニル化合物10~70重量%及びビニルシアン化合物5~50重量%を含んでなってもよく、この範囲内で、熱サイクルの評価後にめっき膜の膨れやクラックが全く発生しないので、熱サイクル特性に優れ、流動性及び衝撃強度に優れるという利点がある。
【0036】
他の一例として、前記(A-2)アルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体は、アルキルアクリレートゴム40~60重量%に芳香族ビニル化合物20~40重量%及びビニルシアン化合物10~30重量%を含むことができ、この範囲内で、衝撃強度などの機械的物性が向上し、流動性が適切であるので加工性に優れ、熱サイクルの評価後にめっき膜のクラックが全く発生しないという利点がある。
【0037】
前記(A-2)アルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体に含まれたアルキルアクリレートゴム、芳香族ビニル化合物及びビニルシアン化合物の種類は、本発明の(A-1)アルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体に含まれるアルキルアクリレートゴム、芳香族ビニル化合物及びビニルシアン化合物の種類と同じ範囲内のものであってもよい。
【0038】
前記(A-1)アルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体と、(A-2)アルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体との重量比は、一例として1:1.5~1:4であってもよく、好ましくは1:1.6~1:3.5、より好ましくは1:1.65~1:3であり、この範囲内で、流動性が適切であるので加工性に優れ、熱サイクルの評価後にめっき膜の膨れやクラックが全く発生しないので熱サイクル特性に優れ、めっき特性が向上するという効果があり、前記範囲を超える場合、めっき密着性及び熱サイクル特性が低下し、前記範囲未満である場合、流動性、耐衝撃性、熱サイクル特性が低下するという問題が発生する。
【0039】
前記ベース樹脂は、一例として、熱可塑性樹脂100重量%に対して17~49重量%含むことができ、好ましくは20~40重量%であってもよく、この範囲内で、機械的物性、加工性及びめっき密着力に優れ、特に、熱サイクル特性は著しく優れるという利点がある。
【0040】
前記ベース樹脂の含量が前記範囲未満である場合には、衝撃強度などの機械的物性、めっき密着性及び熱サイクル特性が大きく低下し、前記範囲を超える場合には、加工性及び熱サイクル特性が低下するという欠点がある。
【0041】
本発明の(B)芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体は、一例として重量平均分子量が50,000~200,000g/mol、好ましくは60,000~180,000g/molであってもよく、より好ましくは70,000~150,000g/molであってもよく、この範囲内で、流動性が適切であるので加工が容易であり、耐衝撃性などの機械的物性に優れながらも、めっき密着性に優れるという効果がある。
【0042】
本発明において、重量平均分子量は、特に定義しない限り、共重合体1gを温度40℃でテトラヒドロフラン(THF)に溶解して製造した後、多孔性シリカで充填されたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。このとき、ポリスチレン(PS)を標準物質として用いてキャリブレーション(Calibration)した後、分子量を測定する。
【0043】
前記(B)芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体は、一例として、熱可塑性樹脂100重量%に対して51~83重量%であってもよく、好ましくは60~83重量%、より好ましくは60~75重量%含むことができ、この範囲内で、流動性が適切であるので加工が容易であると共に、クロムフリーのエッチング液を用いたエッチング工程時に樹脂の表面に凹凸が十分に形成されることで、めっき密着力、外観品質などに優れるという利点を提供する。
【0044】
前記(B)芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体は、一例として、ビニルシアン化合物20~40重量%及び芳香族ビニル化合物60~80重量%を含むことができ、この範囲内で、機械的物性などの全体的な物性バランスに優れながらも、めっき密着性及び熱サイクル特性に優れるという効果がある。
【0045】
他の一例として、前記(B)芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体は、ビニルシアン化合物23~37重量%及び芳香族ビニル化合物63~77重量%を含むことができ、この範囲内で、毒性が低減されたクロムフリーのエッチング液を用いためっき工程時に、めっき密着力、熱サイクル特性及び外観品質がいずれも優れるという利点がある。
【0046】
前記(B)芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体は、一例として、溶液重合または塊状重合で製造されてもよく、この場合に、耐熱性及び流動性などに優れるという効果がある。
【0047】
前記溶液重合及び塊状重合は、それぞれ、本発明の属する技術分野で通常行われる溶液重合及び塊状重合方法による場合、特に制限されない。
【0048】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、一例として、クロムフリーのエッチング液用熱可塑性樹脂組成物であってもよく、この場合に、毒性物質であるクロム酸を含まないので環境に優しく、エッチング工程時に樹脂の表面に凹凸が十分に形成されるのでめっき密着性が向上し、熱サイクルの評価後にめっき膜の膨れやクラックが発生しないので、外観特性に優れながらも機械的物性に優れるという利点がある。
【0049】
前記クロムフリーのエッチング液は、一例として、過マンガン酸塩と有機酸又は無機酸を含む溶液であってもよく、好ましくは、過マンガン酸カリウム(KMnO)とリン酸(HPO)及び硫酸(HSO)のうちの1つ以上を含むクロムフリーのエッチング液であり、この場合に、樹脂の表面に十分な凹凸を形成して、樹脂とめっき層のめっき密着性を向上させ、優れた外観品質を維持するという利点がある。
【0050】
前記クロムフリーのエッチング液は、一例として、20~30g/Lの過マンガン酸塩及び550~650mL/Lのリン酸を含むエッチング液であってもよく、この範囲内で、全体的に均一な凹凸を形成して、めっき密着性を向上させ、成形品の外観品質に優れるという利点がある。
【0051】
前記熱可塑性樹脂組成物は、一例として、熱安定剤、酸化防止剤、衝撃補強剤、光安定剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤などの添加剤をさらに含むことができ、この場合に、本発明の熱可塑性樹脂組成物の固有の基本物性を低下させずに添加剤の機能を実現するという効果がある。
【0052】
前記添加剤は、一例として、前記ベース樹脂及び芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体の総含量100重量部を基準として、0.1~5重量部、または1~5重量部含まれてもよい。
【0053】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、一例として、ASTM D1238に準拠して測定した溶融指数(220℃、10kg)が14~36g/10分であってもよく、好ましくは15~33g/10分であってもよく、この範囲内で、流動性に優れるので様々な形状への射出成形が容易であるという利点を提供することができる。
【0054】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、一例として、ASTM D256に準拠して測定したアイゾット衝撃強度(6.4mm、23℃)が15kgf・cm/cm以上、15~36kgf・cm/cm、または15~31kgf・cm/cmであってもよく、この範囲内で、耐衝撃性に優れるという効果がある。
【0055】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、一例として、めっき密着力が9N/cm以上、9~25N/cm、または9~15N/cmであってもよく、この範囲内で、めっき後、外観品質に優れるという効果がある。
【0056】
以下では、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法について説明する。
【0057】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、一例として、(A-1)アルキルアクリレートゴムの平均粒径が0.05μm~0.2μmであるアルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体と、(A-2)アルキルアクリレートゴムの平均粒径が0.2μm超~0.7μm以下であるアルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体とを重量比1:1.5~1:4で含むベース樹脂17~49重量%と;(B)重量平均分子量が50,000~200,000g/molである芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体51~83重量%と;を混練及び押出するステップを含むことができ、この場合に、流動性が適切であるので加工が容易であると共に、機械的物性の低下がなく、毒性が低減されたクロムフリーのエッチング液を用いためっき工程上でめっき密着性、熱サイクル特性及び外観特性がいずれも優れるという利点がある。
【0058】
前記混練は、一例として、(A-1)アルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体、(A-2)アルキルアクリレート-芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物グラフト共重合体、及び(B)芳香族ビニル化合物-ビニルシアン化合物共重合体を一度に投入して混練するものであってもよい。
【0059】
前記混練及び押出は、一例として、一軸押出機、二軸押出機、またはバンバリーミキサを通じて行われてもよく、二軸押出機を通じて行われることが好ましく、この場合に、組成物が均一に分散して相溶性に優れるという効果がある。
【0060】
前記混練及び押出は、一例として、スクリュー回転数が200~300rpm、または250~300rpmであり、温度が200~300℃、200~270℃、または220~260℃である条件下で行われてもよく、この場合に、単位時間当たりの処理量が適切であるので、工程効率に優れながらも、過度の切断を抑制するという効果がある。
【0061】
以下では、本発明の熱可塑性樹脂組成物を含む成形品及びその製造方法について説明する。本発明の成形品及びその製造方法を説明するに当たって、本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法と同様に、上述した熱可塑性樹脂組成物の内容を全て含む。
【0062】
本発明の成形品は、一例として、本発明の熱可塑性樹脂組成物を含むものであってもよく、前記成形品は、機械的特性、めっき特性及び熱サイクル特性がいずれも優れるという利点がある。
【0063】
前記成形品は、一例として、基材層及びめっき層を含むことができ、前記基材層は、本発明の熱可塑性樹脂組成物で成形されたものであってもよく、前記めっき層は、好ましくは、銅、ニッケル及びクロムからなる群から選択された1種以上を含んで形成されたものであり、この場合に、基材層とめっき層との密着性に優れ、機械的特性及び外観品質に優れるという利点がある。
【0064】
前記成形品は、一例として、クロムフリーのエッチング液を用いる成形品であってもよく、この場合に、毒性物質であるクロム酸を含まないので環境に優しく、熱サイクルの評価後にめっき膜の膨れやクラックが発生しないので、外観特性に優れながらも、機械的物性及びめっき特性に優れるという利点がある。
【0065】
前記クロムフリーのエッチング液は、好ましい一例として、過マンガン酸塩と有機酸又は無機酸を含む溶液であってもよく、より好ましくは、過マンガン酸カリウム(KMnO)とリン酸(HPO)を含むクロムフリーのエッチング液であり、この場合に、樹脂の表面に十分な凹凸を形成して、樹脂とめっき層とのめっき密着性を向上させ、外観品質に優れるという利点がある。
【0066】
前記成形品は、一例として、水栓(faucet)、自動車内装材、または自動車外装材であってもよく、これは、めっき特性、機械的特性及び熱サイクル特性などに優れるので、人の手が直接触れても容易に損傷せず、長期間の使用が可能であるという利点がある。
【0067】
前記水栓は、具体的な一例として、シャワーヘッド、または水道管であってもよい。
【0068】
本発明の成形品の製造方法は、一例として、本発明の熱可塑性樹脂組成物を射出して射出品を得るステップと、前記射出品をクロムフリーのエッチング液を用いてエッチングするステップと、前記エッチングされた射出品をめっきするステップとを含むことができ、この場合に、機械的物性、熱サイクル物性の低下なしに、めっき密着性に優れた成形品を収得することができる。
【0069】
前記エッチングステップは、前記熱可塑性樹脂内のゴム部分を溶かして表面に凹凸を付与する過程であって、この過程を通じて、ゴムが溶けて生じた孔は、めっき膜との物理的な結合を有するようにするアンカリング(anchoring)部位として作用し、めっき密着力を有するようにするだけでなく、表面に極性を付与して、以降のめっき工程時に未めっきの発生を抑制する。
【0070】
前記エッチングステップにおいて、エッチング時間は、一例として、2~15分、または3~10分であってもよく、エッチング温度は、一例として、60~80℃、または65~75℃であってもよく、この範囲内で、工程コストを低減しながらも、めっき密着力及び熱サイクル特性に優れた成形品を収得することができる。
【0071】
前記クロムフリーのエッチング液は、上述した本発明の熱可塑性樹脂組成物のクロムフリーのエッチング液の内容を全て含む。
【0072】
好ましい例として、前記クロムフリーのエッチング液は、過マンガン酸塩とリン酸(HPO)を含むクロムフリーのエッチング液である。
【0073】
前記成形品の製造方法は、一例として、エッチングステップの前に、射出品でのオイルなどを除去する脱脂ステップを含むことができる。
【0074】
前記脱脂ステップは、一例として、前記射出品を界面活性剤で処理してオイルを除去するステップであってもよく、前記界面活性剤は、本発明の属する技術分野で一般的に脱脂ステップに用いられる界面活性剤であれば、特に制限されない。
【0075】
前記脱脂ステップは、一例として、40~60℃、または50~60℃で1~15分、または3~8分間行われてもよく、この範囲内で、脱脂効率に優れる。
【0076】
前記めっきステップは、一例として、触媒化ステップ及び活性化ステップのうちの1つ以上のステップを含むめっき前処理ステップと、化学めっき及び電気めっきのうちの1つ以上のステップを含むめっき処理ステップとを含むことができる。
【0077】
前記触媒化ステップは、一例として、金属触媒を用いて金属のアンカー孔に吸着させるステップであってもよく、前記金属触媒は、本発明の属する技術分野においてめっき前処理時に通常使用される金属触媒であれば、特に制限されないが、好ましくは、パラジウム-錫触媒であってもよく、この場合に、パラジウムがアンカー孔に吸着される。
【0078】
前記触媒化ステップは、一例として、20~40℃で1~8分間行うことができ、好ましくは、25~35℃で1~5分間行うことができ、この範囲内で、金属のアンカー孔への吸着効率に優れるという効果がある。
【0079】
前記活性化ステップは、一例として、硫酸水溶液で処理して活性化させるステップであってもよく、この場合に、アンカー孔に吸着させようとする金属以外の他の金属などを除去することで、アンカー孔に吸着された金属を活性化させる効果が大きい。
【0080】
前記活性化ステップは、一例として、45~65℃で1~10分間行うことができ、好ましくは、50~60℃で1~5分間行うことができ、この範囲内で、活性化効果が大きい。
【0081】
前記化学めっきは、一例として、金属塩を用いる無電解めっきであってもよく、前記金属塩は、好ましくは硫酸ニッケルであってもよい。
【0082】
前記化学めっきは、好ましくは、20~40℃で1~20分間行うことができ、より好ましくは、25~35℃で1~10分間行うことができ、この範囲内で、無電解めっき特性に優れるという利点がある。
【0083】
前記電気めっきは、一例として、銅電気めっき、ニッケル電気めっき、及びクロム電気めっきからなる群から選択された1種以上の電気めっきであってもよい。
【0084】
前記銅電気めっきは、本発明の属する技術分野において銅電気めっきに通常使用される銅塩を制限なしに用いることができるが、好ましくは硫酸銅を用いた電気めっきである。
【0085】
前記銅電気めっきは、一例として、15~35℃で20~60分間、2~4A/dmで行うことができ、好ましくは、20~30℃で30~40分間、2.5~3.5A/dmで行うことができる。
【0086】
前記ニッケル電気めっきは、本発明の属する技術分野においてニッケル電気めっきに通常使用されるニッケル塩を制限なしに用いることができるが、好ましくは硫酸ニッケルを用いることができる。
【0087】
前記ニッケル電気めっきは、一例として、50~60℃で10~30分間、2~4A/dmで行うことができ、好ましくは、55~60℃で10~20分間、2.5~3.5A/dmで行うことができる。
【0088】
前記クロム電気めっきは、本発明の属する技術分野においてクロム電気めっきに通常使用されるクロム系化合物を制限なしに用いることができるが、好ましくは無水クロム酸を用いることができる。
【0089】
前記クロム電気めっきは、好ましくは、45~65℃で1~15分間、10~20A/dmで行うことができ、より好ましくは、50~60℃で1~5分間、13~18A/dmで行うことができる。
【0090】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示するが、以下の実施例は、本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範疇及び技術思想の範囲内で様々な変更及び修正が可能であることは当業者にとって明らかであり、このような変更及び修正が添付の特許請求の範囲に属することも当然である。
【実施例
【0091】
下記実施例及び比較例で使用された材料は、次の通りである。
【0092】
(A-1)アクリレートゴムの平均粒径が100nmであるグラフトASA樹脂(SA130、LG化学社製)
(A-2)アクリレートゴムの平均粒径が300nmであるグラフトASA樹脂(SA928、LG化学社製)
(B)ビニルシアン化合物の含量が30重量%であり、重量平均分子量が80,000g/molであるSAN樹脂(95RF、LG化学社製)
(C)グラフトABS樹脂(DP270E、LG化学社製)
【0093】
実施例1~4及び比較例1~7
下記の表1に記載された組成及び含量を有するように各成分を二軸押出機に投入し、230℃で溶融及び混練してペレット状の樹脂組成物を製造し、製造されたペレット状の樹脂組成物を射出して、物性を測定するための試片を作製した。射出を通じて、100mm×100mm×3mmの規格の四角試片、及び150mm×80mm×3mmの規格のキャップ(cap)形状の試片をそれぞれ製造した。
【0094】
製造された試片に、下記のめっき方法により、厚さ30μm以上の均一な厚さのめっき膜を形成した。
【0095】
まず、界面活性剤を55℃で5分間処理してオイルを除去し、KMnO25g/L及びリン酸600mL/Lを含むクロムフリーのエッチング液を用いて、68℃で10分間、試片を酸化させた。次に、30℃で2分間、パラジウム-錫触媒を用いてパラジウムのアンカー孔への吸着を図った。活性化ステップは、55℃で2分間行われ、硫酸水溶液を用いて錫を除去し、硫酸ニッケルを用いて30℃で5分間無電解めっきを行った。無電解めっき後に行われた電気めっきでは、銅、ニッケル及びクロムを用い、硫酸銅を用いた銅電気めっきは、25℃で35分間、3A/dmで行い、無水クロム酸液を用いたクロム電気めっきは、55℃で3分間、15A/dmで行った。
【0096】
【表1】
(前記表1において、各成分の含量は、(A-1)、(A-2)、(B)及び(C)の総含量を基準とした重量%である。)
【0097】
[試験例]
前記実施例1~4及び比較例1~7で製造された試片の特性を、下記の方法により測定し、その結果を、下記の表2に示した。
【0098】
*溶融指数(Melt Index、g/10分):製造された試片を用いて、標準測定ASTM D1238に準拠して220℃、10kgの条件で測定した。
【0099】
*衝撃強度(Notched Izod Impact Strength、kgf・cm/cm):厚さ6.4mmの試片を用いて、標準測定ASTM D256に準拠して測定した。
【0100】
*めっき密着力の評価:規格が100mm×100mm×3mmであるめっきされた四角形状の試片の前面部に10mm幅の傷をつけ、プッシュプルゲージ(Push-pull gage)を用いて垂直方向に80mmを剥離しながら測定された値に対する平均値を示した。
【0101】
*熱サイクル特性:キャップ(cap)形状の試片を用いて、チャンバ内で以下の(1)~(5)の過程を行った後、めっき膜の外観を目視で観察し、クラック及びめっき膨れが全く発生しない場合に○、クラック及びめっき膨れが一部でも発生した場合に×として区分して表した。
(1)60分間、チャンバ内の温度を-40℃に維持
(2)1分以内にチャンバ内の温度を90℃に昇温
(3)60分間、チャンバ内の温度を90℃に維持
(4)1分以内にチャンバ内の温度を-40℃に冷却
(5)(1)~(4)の過程を8回繰り返す
【0102】
*外観品質の評価(未めっきの発生有無の評価):150mm×80mm×3mmの規格のキャップ(cap)形状の試片の外観を目視で観察し、未めっき部位がない場合に‘異常無し’、未めっき部位が一部でも発生した場合に‘未めっき’として区分して表した。
【0103】
【表2】
【0104】
前記表2に示したように、本発明の実施例1~4の場合、ゴムの粒径が異なる2種のASA樹脂、及び特定の重量平均分子量を有するSAN樹脂を特定量含むことによって、衝撃強度などの機械的物性が向上し、かつ、適切な流動性により加工性に優れ、めっき密着力、熱サイクル特性及び外観品質がいずれも向上したことが確認できた。さらに、本発明は、毒性が低減されたクロムフリーのエッチング液を用いためっき工程において、機械的物性及び流動性が低下しないながらも、めっき密着力及び熱サイクル特性が非常に改善されることが確認できた。
【0105】
反面、ゴムの平均粒径が異なる2種のASA樹脂ではなく、1種のASA樹脂を含む比較例1の場合、溶融指数及び衝撃強度が低下し、熱サイクルの評価後にめっき膜にクラックが発生することを通じて、熱サイクル特性が良くないことが確認できた。また、1種のASA樹脂を含む他の例である比較例2の場合、めっき密着力が大きく低下し、熱サイクルの評価後にはめっき膜に膨れが発生することが確認できた。
【0106】
また、ABS樹脂のみを含む比較例3の場合、未めっきが発生する問題があった。
【0107】
また、ゴムの平均粒径が異なる2種のASA樹脂の総含量が、本発明に係る含量範囲に満たない比較例4の場合、衝撃強度などの機械的物性が低下し、めっき密着力は大きく低下するだけでなく、熱サイクルの評価後にはめっき膜に膨れが発生することを通じて、めっき特性が不良であることが確認でき、本発明に係る含量範囲を超える比較例5の場合、溶融指数が適切でないので加工性が低下し、熱サイクルの評価後にめっき膜のクラックが発生して、熱サイクル特性が不良であることが確認できた。
【0108】
さらに、アルキルアクリレートゴムの平均粒径が0.05~0.2μmであるASA樹脂と、アルキルアクリレートゴムの平均粒径が0.2μm超~0.7μm以下であるASA樹脂との重量比が本発明の範囲未満である比較例6の場合、溶融指数が大きく低下し、熱サイクルの評価後にクラックが発生することが確認でき、反対に、前記重量比が本発明の範囲を超える比較例7の場合、めっき密着力が低下すると同時に、熱サイクルの評価後に膨れが発生することを通じて、熱サイクル特性が不良であることが確認できた。