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特許7587838微細藻類においてゲノム編集を実施する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】微細藻類においてゲノム編集を実施する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/79 20060101AFI20241114BHJP
   C12N 1/13 20060101ALI20241114BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C12N15/79 Z ZNA
C12N1/13
C12N15/09 110
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021132753
(22)【出願日】2021-08-17
(65)【公開番号】P2022040008
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2020143625
(32)【優先日】2020-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年9月1日に公開された日本植物学会第83回大会研究発表記録に掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年9月16日東北大学において開催された日本植物学会第83回大会で発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)、「ゲノム編集による革新的な有用細胞・生物作成技術の創出」に関する研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】藤江 誠
(72)【発明者】
【氏名】川崎 健
(72)【発明者】
【氏名】中島田 豊
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-500037(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0038860(KR,A)
【文献】POLINER, Eric et al.,Plant Cell Reports,2018年,Vol. 37, No. 10,p.1383-1399,DOI:10.1007/s00299-018-2270-0
【文献】JEONG, Seok Won et al.,Microorganisms,2020年08月06日,Vol. 8, No. 8,p.1195,DOI: 10.3390/microorganisms8081195
【文献】POLINER, Eric et al.,ACS Synthetic Biology,2018年,Vol. 7, No. 4,p.962-968,DOI: 10.1021/acssynbio.7b00362
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)微細藻類のTypeIII RNAポリメラーゼを動員するプロモータ配列、
前記プロモータ配列と作動可能に連結された、ガイドRNA(gRNA)をコードする配列、および
前記gRNAをコードする配列と作動可能に連結された、ナンノクロロプシス微細藻類のTypeIII RNAポリメラーゼによる転写を終結させるターミネータ配列、
を含む核酸構築物であって、
前記プロモータ配列が、配列番号1の配列
(CCAAATGTCTTTGACGGTCGTCACGGTTTTGCGTCGTAAAACCTACGCAAGGAAAATTACCATCATCGACCCGACACAAACAAGCGGTCCTTAGAAATCAGGACCTTTTATTTTTTAAGAAGGGAGTGAATGGGTAACATTTCGTGGTGAGACTTCAACGAAAGTTTGGAGAAAAATTCCACATGTTGTACGCTCCCGGAAAAGAGAAGGAATATAAGGGCGTCACGAGTCATGACTTTCTAAACAGCAAGGTTCGCGTGAAACTCGTTTACGGGAAACC)
または配列番号1の配列の3’末端から1~24塩基だけ短縮された配列を含むナンノクロロプシス微細藻類のU6 RNA遺伝子のプロモータ配列である、
核酸構築物
【請求項2】
前記ターミネータ配列が、少なくとも4塩基の連続したチミジンを含む、請求項1に記載の核酸構築物。
【請求項3】
前記ターミネータ配列が、ナンノクロロプシス微細藻類のU6 RNA遺伝子のターミネータ配列である、請求項1または2に記載の核酸構築物。
【請求項4】
前記ターミネータ配列が、配列番号2の配列
(TTTTTTTTCTTTTGATCAAATTACATTCTGATTCTTAGATACTTCACATGTTGATACTCCAC)
と少なくとも85%の同一性を有する配列を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項5】
前記gRNAをコードする配列が、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項6】
前記gRNAをコードする配列が、配列番号3の配列
(GTTTAAGAGCTATGCTGGAAACAGCATAGCAAGTTTAAATAAGGCTAGTCCGTTATCAACTTGAAAAAGTGGCACCGAGTCGGTGC)
と少なくとも85%の同一性を有する配列を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項7】
前記gRNAをコードする配列が、標的遺伝子をコードする配列のうちの15~25塩基長の配列を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項8】
前記gRNAをコードする配列が、標的遺伝子をコードする配列のうちのPAMおよびPAMの5’側に存在する15~25塩基長の配列を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項9】
前記標的遺伝子が、緑色蛍光タンパク質(GFP)である、請求項またはに記載の核酸構築物。
【請求項10】
前記gRNAが、単鎖ガイドRNAである、請求項1~のいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項11】
Cas9タンパク質をコードする配列をさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項12】
薬剤選択マーカーをコードする配列をさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項13】
前記ナンノクロロプシス微細藻類が、ナンノクロロプシス・オセアニカ(N.oceanicaである、請求項1~12のいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項14】
プラスミドである、請求項1~13のいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の核酸構築物を含む、ナンノクロロプシス微細藻類。
【請求項16】
ナンノクロロプシス微細藻類においてゲノム編集を実施するための核酸構築物を作製するためのキットであって、
ナンノクロロプシス微細藻類のTypeIII RNAポリメラーゼを動員するプロモータ配列を含む核酸であって、前記プロモータ配列が、配列番号1の配列
(CCAAATGTCTTTGACGGTCGTCACGGTTTTGCGTCGTAAAACCTACGCAAGGAAAATTACCATCATCGACCCGACACAAACAAGCGGTCCTTAGAAATCAGGACCTTTTATTTTTTAAGAAGGGAGTGAATGGGTAACATTTCGTGGTGAGACTTCAACGAAAGTTTGGAGAAAAATTCCACATGTTGTACGCTCCCGGAAAAGAGAAGGAATATAAGGGCGTCACGAGTCATGACTTTCTAAACAGCAAGGTTCGCGTGAAACTCGTTTACGGGAAACC)
または配列番号1の配列の3’末端から1~24塩基だけ短縮された配列を含む、核酸と、
ナンノクロロプシス微細藻類のTypeIII RNAポリメラーゼによる転写を終結させるターミネータ配列を含む核酸と
を含む、キット。
【請求項17】
ナンノクロロプシス微細藻類においてゲノム編集を実施する方法であって、
請求項1~14のいずれか一項に記載の核酸構築物、または請求項16に記載のキットにおける前記核酸を、ナンノクロロプシス微細藻類に導入するステップ
を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ナンノクロロプシス微細藻類においてゲノム編集を実施するための核酸構築物、またはこれを用いてゲノム編集を実施する方法を提供する。また、本開示は、この核酸構築物を含むナンノクロロプシス微細藻類も提供する。さらに、本開示は、この核酸構築物を構築するための核酸、またはこれを構築する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
ナンノクロロプシス微細藻類は、油脂を蓄積する性質を有し、バイオ燃料の生産手段や魚類などのための飼料として期待されている。このような特性を持つナンノクロロプシス類を応用利用するに当たり、そのゲノム配列を人工的に改変する技術は有用である。生物のゲノムを人工的に改変する技術の一つとして、ゲノム編集技術があげられる。本発明は、ゲノム編集技術を用いて、ナンノクロプシス類のゲノムを高効率で精密に改変し、新しい性質を付与したナンノクロロプシス類の品種(系統)を作出するために利用できる。
【0003】
真核生物においてゲノム編集を実施するには、Crispr/Cas9、TALEN等の方法が利用可能である(国際公開第2014/199358号など)。Crispr/Cas9法では、Cas9タンパク質およびgRNAの二種類の要素を目的細胞に導入する。Crispr/Cas9は、一度実験系の構築に成功すれば、gRNAの塩基配列のうち一部(約20bp)を改変するだけで、その生物のゲノムに含まれるほぼ全ての遺伝子に対してゲノム編集が可能である。そのため、標的生物において有用なCrispr/Cas9法の確立が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/199358号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ナンノクロロプシス微細藻類において高い効率でゲノム編集を実施することができる核酸構築物の構造を見出した。この知見に基づき、本開示は、ナンノクロロプシス微細藻類においてゲノム編集を実施するための核酸構築物、これを用いてゲノム編集を実施する方法、およびこの核酸構築物を含むナンノクロロプシス微細藻類も提供する。さらに、本開示は、この核酸構築物を構築するための核酸、またはこれを構築する方法を提供する。
【0006】
したがって、本発明は以下を提供する。
(項目1)
ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)微細藻類のTypeIII RNAポリメラーゼを動員するプロモータ配列、
前記プロモータ配列と作動可能に連結された、ガイドRNA(gRNA)をコードする配列、および
前記gRNAをコードする配列と作動可能に連結された、ナンノクロロプシス微細藻類のTypeIII RNAポリメラーゼによる転写を終結させるターミネータ配列、
を含む核酸構築物。
(項目2)
前記プロモータ配列が、ナンノクロロプシス微細藻類のU6 RNA遺伝子のプロモータ配列である、項目1に記載の核酸構築物。
(項目3)
前記プロモータ配列が、配列番号1の配列
(CCAAATGTCTTTGACGGTCGTCACGGTTTTGCGTCGTAAAACCTACGCAAGGAAAATTACCATCATCGACCCGACACAAACAAGCGGTCCTTAGAAATCAGGACCTTTTATTTTTTAAGAAGGGAGTGAATGGGTAACATTTCGTGGTGAGACTTCAACGAAAGTTTGGAGAAAAATTCCACATGTTGTACGCTCCCGGAAAAGAGAAGGAATATAAGGGCGTCACGAGTCATGACTTTCTAAACAGCAAGGTTCGCGTGAAACTCGTTTACGGGAAACC)
と少なくとも85%の同一性を有する配列を含む、項目1または2に記載の核酸構築物。(項目4)
前記ターミネータ配列が、少なくとも4塩基の連続したチミジンを含む、項目1~3のいずれか一項に記載の核酸構築物。
(項目5)
前記ターミネータ配列が、ナンノクロロプシス微細藻類のU6 RNA遺伝子のターミネータ配列である、項目1~4のいずれか一項に記載の核酸構築物。
(項目6)
前記ターミネータ配列が、配列番号2の配列
(TTTTTTTTCTTTTGATCAAATTACATTCTGATTCTTAGATACTTCACATGTTGATACTCCAC)
と少なくとも85%の同一性を有する配列を含む、項目1~5のいずれか一項に記載の核酸構築物。
(項目7)
前記gRNAをコードする配列が、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を含む、項目1~6のいずれか一項に記載の核酸構築物。
(項目8)
前記gRNAをコードする配列が、配列番号3の配列
(GTTTAAGAGCTATGCTGGAAACAGCATAGCAAGTTTAAATAAGGCTAGTCCGTTATCAACTTGAAAAAGTGGCACCGAGTCGGTGC)
と少なくとも85%の同一性を有する配列を含む、項目1~7のいずれか一項に記載の核酸構築物。
(項目9)
前記gRNAをコードする配列が、標的遺伝子をコードする配列のうちの15~25塩基長の配列を含む、項目1~8のいずれか一項に記載の核酸構築物。
(項目10)
前記gRNAをコードする配列が、標的遺伝子をコードする配列のうちのPAMおよびPAMの5’側に存在する15~25塩基長の配列を含む、項目1~9のいずれか一項に記載の核酸構築物。
(項目11)
前記標的遺伝子が、緑色蛍光タンパク質(GFP)である、項目9または10に記載の核酸構築物。
(項目12)
前記gRNAが、単鎖ガイドRNAである、項目1~11のいずれか一項に記載の核酸構築物。
(項目13)
Cas9タンパク質をコードする配列をさらに含む、項目1~12のいずれか一項に記載の核酸構築物。
(項目14)
薬剤選択マーカーをコードする配列をさらに含む、項目1~15のいずれか一項に記載の核酸構築物。
(項目15)
前記ナンノクロロプシス微細藻類が、N.oceanicaである、項目1~14のいずれか一項に記載の核酸構築物。
(項目16)
プラスミドである、項目1~15のいずれか一項に記載の核酸構築物。
(項目17)
項目1~16のいずれか一項に記載の核酸構築物を含む、ナンノクロロプシス微細藻類。
(項目18)
ナンノクロロプシス微細藻類においてゲノム編集を実施するための核酸構築物を作製するためのキットであって、
ナンノクロロプシス微細藻類のTypeIII RNAポリメラーゼを動員するプロモータ配列を含む核酸と、
ナンノクロロプシス微細藻類のTypeIII RNAポリメラーゼによる転写を終結させるターミネータ配列を含む核酸と
を含む、キット。
(項目19)
ナンノクロロプシス微細藻類においてゲノム編集を実施する方法であって、
項目1~16のいずれか一項に記載の核酸構築物、または項目18に記載のキットにおける前記核酸を、ナンノクロロプシス微細藻類に導入するステップ
を含む方法。
【0007】
本発明において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。本発明のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0008】
本開示は、ナンノクロロプシス微細藻類における高効率でのゲノム編集を可能にし得るので、ナンノクロロプシス微細藻類の容易な遺伝子操作が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】1006bpのαチューブリンプロモータの生成を確認する電気泳動の結果を示す。
図2】pNAN0006の構築法の概略図を示す。
図3】A)pNAN0006の構造の概略図を示す。B)野生型株(1)およびpNAN0006形質転換株(2,3,4)から抽出したタンパク質のSDS-PAGEを示す。C)抗Cas9抗体によるウエスタンブロットを示す。
図4】pNAN1001、pNAN1002、pNAN1003の構築法の概略図を示す。
図5】N.oceanica NIES 2145株より取得したU6RNA様遺伝子およびその周辺配列を示す。太字(黒)で表した部分はプロモータ、間の配列(赤)はU6RNA、斜体(緑)はターミネータをコードすると推定される。下線部は、プライマーに使用した配列を示す。分離して示した3’および5’の部分(水色)は、クローニングに用いたベクターの配列の一部を表す。
図6】A)pNAN1001、pNAN1002、pNAN1003の構造の概略図。B)pNAN1001、pNAN1002、pNAN1003の発現カセットの構造の概略図を示す。
図7】A)pNAN1001形質転換株、pNAN1002形質転換株、pNAN1003形質転換株、野生株(WT)から抽出したRNAを、逆転写酵素有り(+)、または無し(-)の条件で処理した試料の電気泳動を示す(110bpのgRNAのcDNA)。B)pNAN1001形質転換株、pNAN1002形質転換株、pNAN1003形質転換株、野生株(WT)から抽出したRNAを、逆転写酵素有り(+)、または無し(-)の条件で処理した試料の電気泳動を示す(230bpのβチューブリンmRNAのcDNA)。
図8】pNAN0005の構造の概略図を示す。
図9】A)寒天培地上で形成されたpNAN0005形質転換株のコロニーの蛍光実体顕微鏡像を示す。B)~D)pNAN1002をさらに導入した株から生じるコロニーの蛍光実体顕微鏡像を示す。
図10】pNAN1002の形質転換でゲノム編集を行なった細胞内のGFP遺伝子の解析を示す。GFP遺伝子をPCR増幅後(201bpまたは756bpの断片が出現する)、断片をAluIで消化した。1~10は独立の株の実験結果を示す。ゲノム編集が生じた株では、105bpのバンドが出現する。1、2、5、6、7ではゲノム編集が発生している。
図11】pNAN1002の形質転換により生じたGFP遺伝子の一部の塩基配列の変化を示す。
図12】pNAN1002に基づくpNAN1006の構築の概略図を示す。
図13】それぞれのコロニーから取得したCA2遺伝子の一部のPCR増幅産物をEcoRVで処理した場合または処理しなかった場合の電気泳動の結果を示す。1:野生株、EcoRV処理なし。2:野生株、EcoRV処理あり。3~10:それぞれ、pNAN1006で形質転換した後に生じたゼオシン耐性コロニー、EcoRV処理あり。516bpのバンドがゲノム編集の発生を示す。
図14】pNAN0005を導入したNIES-2146株、NIES-2587株およびNIES-2588株のコロニーの蛍光顕微鏡写真(A~C)、さらにpNAN1002を導入してゲノム編集を実施した各株のコロニーの写真(D、E)および赤色部分を含むコロニーからシングルコロニーアイソレーションすることにより全体的に赤色を示すようになったコロニーの写真(F~H)を示す。
図15】赤色蛍光を示すようになったコロニーの株のGFP遺伝子の標的部位における塩基配列の変化を示す。一番上は野生型GFP遺伝子の配列(16~80)である。1、2はNIES-2146由来の株、3、4はNIES-2587由来の株、5、6はNIES-2588由来の株のGFP遺伝子の塩基配列である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0011】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0012】
本明細書において「ゲノム編集」とは、細胞内で人為的に遺伝子の改変を行うことを指す。ゲノム編集によって改変される遺伝子は、生物種の内因性遺伝子であってもよいし、生物に外因性に導入された核酸構築物(例えば、プラスミド)上に存在していてもよい。
【0013】
本明細書において「タンパク質」、「ポリペプチド」および「ペプチド」は、同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、天然または人工的に改変されたポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)が包含される。
【0014】
本明細書において「ポリヌクレオチド」および「核酸」は、同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。核酸の例として、DNA、RNA、cDNA、mRNA、rRNA、tRNA、マイクロRNA(miRNA)、lncRNAが挙げられる。この用語はまた、「ポリヌクレオチド誘導体」を含む。「ポリヌクレオチド誘導体」とは、ヌクレオチド誘導体を含むか、またはヌクレオチド間結合が通常とは異なるポリヌクレオチドをいう。「ヌクレオチド誘導体」とは、天然のDNAまたはRNAにおいて使用される通常のヌクレオチドとは異なる構造を有するヌクレオチドをいい、例えば、ロックト核酸(LNA)、2’-O,4’-C-エチレン架橋核酸(2'-O,4'-C-ethylene bridged nucleic acid、ENA)などのエチレン核酸、その他の架橋核酸(bridged nucleic acid、BNA)、ヘキシトール核酸(hexitol nucleic acid、HNA)、アミド架橋核酸(Amido-bridged nucleic acid、AmNA)、モルホリノ核酸、トリシクロ-DNA(tcDNA)、ポリエーテル核酸(例えば、米国特許第5,908,845号参照)、シクロヘキセン核酸(CeNA)などが挙げられる。ヌクレオチド間結合が通常とは異なる例として、例えば、リン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換されたオリゴヌクレオチド間結合、リン酸ジエステル結合がN3’-P5’ホスホロアミデート結合に変換されたオリゴヌクレオチド間結合、リボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換されたオリゴヌクレオチド間結合などが挙げられる。
【0015】
他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る。
【0016】
本明細書において「核酸構築物」とは、人工的に作製された核酸分子を指す。酵素(制限酵素など)を使用する方法、化学合成、生物(大腸菌など)を使用する方法など公知の任意の方法を使用して、核酸構築物を作製することができる。核酸構築物は、RNAであっても、DNAであってもよく、修飾ヌクレオチドを含んでもよく、代表的には、プラスミドである。
【0017】
本明細書において「遺伝子」とは、一定の生物学的機能を果たす核酸部分を指す。この生物学的機能として、ポリペプチドまたはタンパク質をコードすること、タンパク質非コード機能性RNA(ガイドRNA、rRNA、tRNA、マイクロRNA(miRNA)、lncRNAなど)をコードすること、ポリペプチド、タンパク質またはタンパク質非コード機能性RNAの生産を制御すること、特定のタンパク質に特異的に結合されること、核酸の切断または複製を制御することが挙げられる。そのため、本明細書における遺伝子には、タンパク質またはタンパク質非コード機能性RNAをコードする核酸部分以外にも、プロモータ、ターミネータ、エンハンサー、サイレンサー、複製起点などの転写翻訳調節配列が含まれる。本明細書において「遺伝子産物」とは、遺伝子にコードされるポリペプチド、タンパク質、またはタンパク質非コード機能性RNAを指し得る。
【0018】
本明細書において使用する場合、「作動可能に連結された(る)」とは、所望の配列の発現(作動)がある転写翻訳調節配列(例えば、プロモータ、エンハンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモータが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモータが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0019】
本明細書において使用する場合、「転写翻訳調節配列」は、プロモータ、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列、上流調節ドメイン、複製起点、エンハンサーなどを総称し、それらが協働して、細胞におけるコード配列の複製、転写及び翻訳を可能にする。選択されるコード配列の複製、転写および翻訳が適当な宿主細胞において可能である限り、これらの転写翻訳調節配列のすべてが必ずしも存在する必要があるわけではない。当業者は、公開情報から調節核酸配列を含む領域を推定することができる。さらに、当業者は、例えばin vivo、ex vivoまたはin vitroで、使用目的に適用できる転写翻訳調節配列を同定することができる。
【0020】
本明細書において使用する場合、「プロモータ」は、作動可能に連結された核酸配列の転写を制御する核酸配列のセグメントを指す。プロモータは、RNAポリメラーゼによる認識、結合および転写開始のために十分である特定の配列を含む。プロモータは、RNAポリメラーゼの認識、結合または転写開始を調節する配列を含んでもよい。
【0021】
本明細書において使用する場合、「エンハンサー」は、目的遺伝子の発現効率を高める機能を有する核酸配列のセグメントを指す。
【0022】
本明細書において使用する場合、「サイレンサー」は、エンハンサーとは逆に目的遺伝子の発現効率を低下させる機能を有する核酸配列のセグメントを指す。
【0023】
本明細書において使用する場合、「ターミネータ」は、タンパク質や機能性RNAをコードする領域の下流に位置し、核酸がRNAに転写される際の転写の終結に関与する核酸配列のセグメントを指す。
【0024】
本明細書において使用する場合、「複製起点」は、その核酸配列を認識するタンパク質が結合することで部分的にDNA二重らせんが解かれ、複製が開始される核酸配列のセグメントを指す。
【0025】
本明細書において核酸の「相同性」とは、2以上の核酸配列の、互いに対する同一性の程度をいい、一般に「相同性」を有するとは、同一性または類似性の程度が高いことをいう。従って、ある2つの核酸の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。「類似性」は、同一性に加え、類似の塩基についても計算に入れた数値であり、ここで類似の塩基とは、混合塩基(例えば、R=A+G、M=A+C、W=A+T、S=C+G、Y=C+T、K=G+T、H=A+T+C、B=G+T+C、D=G+A+T、V=A+C+G、N=A+C+G+T)において、一部が一致する場合をいう。2種類の核酸が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、またはストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの核酸配列を直接比較する場合、その核酸配列間で、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。
【0026】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST 2.10.1+(2020.6.18発行)を用いて行うことができる。本明細書における同一性の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメータの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。類似性は、同一性に加え、類似のアミノ酸についても計算に入れた数値である。
【0027】
本明細書において、特に断らない限り、ある生物学的物質(例えば、タンパク質、核酸、遺伝子)についての言及は、その生物学的物質の生物学的機能と同様の機能(同じ程度でなくてもよい)を発揮するその生物学的物質のバリアント(例えば、アミノ酸配列に修飾を有するバリアント)についての言及でもあることが理解される。このようなバリアントには、元の分子のフラグメント、同一サイズの元の生物学的物質のアミノ酸配列または核酸配列にわたり、または当該分野で公知のコンピュータ相同性プログラムによってアラインメントを行ってアラインされる元の分子の配列と比較した際、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%または99%同一である分子が含まれ得る。バリアントには、改変されたアミノ酸(例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化またはリン酸化による改変)または改変されたヌクレオチド(例えば、メチル化による改変)を有する分子が含まれ得る。
【0028】
本明細書において「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、ストリンジェント条件としては、6×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)中、約45℃でのハイブリダイゼーション、続いて、0.2×SSC、0.1%SDS中、50~65℃での1または2回以上の洗浄が挙げられる。Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience Publishers,(1995)を参照のこと。
【0029】
本明細書において「対応する」アミノ酸または核酸とは、あるポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子において、比較の基準となるポリペプチドまたはポリヌクレオチドにおける所定のアミノ酸またはヌクレオチドと同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸またはヌクレオチドをいう。対応するアミノ酸は、例えば、システイン化、グルタチオン化、S-S結合形成、酸化(例えば、メチオニン側鎖の酸化)、ホルミル化、アセチル化、リン酸化、糖鎖付加、ミリスチル化などがされる特定のアミノ酸であり得る。このような「対応する」アミノ酸または核酸は、一定範囲にわたる領域またはドメインであってもよい。従って、そのような場合、本明細書において「対応する」領域またはドメインと称される。
【0030】
本明細書において「対応する」遺伝子(例えば、ポリヌクレオチド配列または分子)とは、ある種において、比較の基準となる種における所定の遺伝子と同様の作用を有するか、または有することが予測される遺伝子(例えば、ポリヌクレオチド配列または分子)をいい、そのような作用を有する遺伝子が複数存在する場合、進化学的に同じ起源を有するものをいう。例えば、ある微細藻類種における対応する遺伝子は、対応する遺伝子の基準となる微細藻類種の遺伝子配列をクエリ配列として用いてその微細藻類種の配列データベースを検索することによって見出すことができる。
【0031】
本発明に従って、用語「活性」は、本明細書において、最も広い意味での分子の機能を指す。活性は、限定を意図するものではないが、概して、分子の生物学的機能、生化学的機能、物理的機能または化学的機能を含む。活性は、例えば、酵素活性、他の分子と相互作用する能力、および他の分子の機能を活性化するか、促進するか、安定化するか、阻害するか、抑制するか、または不安定化する能力、安定性、特定の細胞内位置に局在する能力を含む。適用可能な場合、この用語はまた、最も広い意味でのタンパク質複合体の機能にも関する。
【0032】
本明細書において「生物学的機能」とは、ある遺伝子またはそれに関する核酸分子もしくはポリペプチドについて言及するとき、その遺伝子、核酸分子またはポリペプチドが生体内において有し得る特定の機能をいい、これには、例えば、特異的な細胞表面構造認識能、酵素活性、特定のタンパク質との結合能等を挙げることができるがそれらに限定されない。本開示においては、例えば、あるプロモータが特定の宿主細胞において認識される機能などを挙げることができるがそれらに限定されない。本明細書において、生物学的機能は、「生物学的活性」によって発揮され得る。本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリヌクレオチド、タンパク質など)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能(例えば、転写促進活性)を発揮する活性が包含され、例えば、ある分子との相互作用によって別の分子が活性化または不活化される活性も包含される。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドの対応するレセプターへの結合を包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる。従って、「活性」は、結合(直接的または間接的のいずれか)を示すかまたは明らかにするか;応答に影響する(すなわち、いくらかの曝露または刺激に応答する測定可能な影響を有する)、種々の測定可能な指標をいい、例えば、宿主細胞における上流または下流のタンパク質の量あるいは他の類似の機能の尺度が挙げられる。
【0033】
本明細書において使用する場合、「プラスミド」とは、構築・増幅のための細菌細胞中では、染色体とは別個に存在する環状DNAであり、藻類細胞に導入した場合には、染色体に組込まれるか、あるいは、染色体とは別個に環状DNAとして存在するDNAを指す。藻類細胞に導入する際には、制限酵素処理またはPCR増幅等の手段で、その全部あるいはその一部を直線化して導入に用いることもできる。
【0034】
本明細書において使用する場合、用語「形質転換」は、宿主細胞への核酸の導入を意味する。形質転換方法としては、宿主細胞に核酸を導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、コンピテント化細胞の使用、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法、リン酸カルシウム法などの種々の周知の技術が挙げられる。
【0035】
本明細書において「精製された」物質または生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。従って、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。本明細書中で使用される用語「精製された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。本発明で用いられる物質は、好ましくは「精製された」物質である。
【0036】
本明細書において「薬剤」、「剤」または「因子」(いずれも英語ではagentに相当する)は、広義には、交換可能に使用され、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、光、放射能、熱、電気などのエネルギー)でもあってもよい。そのような物質としては、例えば、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子およびこれらの混合物が挙げられるがそれらに限定されない。
【0037】
本明細書において使用される場合、「複合体」または「複合分子」とは、2以上の部分を含む任意の構成体を意味する。例えば、一方の部分がポリペプチドである場合は、他方の部分は、ポリペプチドであってもよく、それ以外の物質(例えば、基材、糖、脂質、核酸、他の炭化水素等)であってもよい。本明細書において複合体を構成する2以上の部分は、共有結合で結合されていてもよくそれ以外の結合(例えば、水素結合、イオン結合、疎水性相互作用、ファンデルワールス力等)で結合されていてもよい。
【0038】
本明細書において「標識」とは、目的となる分子または物質を他から識別するための存在(例えば、物質、エネルギー、電磁波など)をいう。そのような標識方法としては、RI(ラジオアイソトープ)法、蛍光法、ビオチン法、化学発光法等を挙げることができる。標的タンパク質またはそれを捕捉する因子または手段を複数、蛍光法によって標識する場合には、蛍光発光極大波長が互いに異なる蛍光物質によって標識を行う。蛍光発光極大波長の差は、10nm以上であることが好ましい。機能に影響を与えない任意の標識が使用できるが、蛍光物質としては、AlexaTMFluorが挙げられる。AlexaTMFluorは、クマリン、ローダミン、フルオレセイン、シアニンなどを修飾して得られた水溶性の蛍光色素であり、広範囲の蛍光波長に対応したシリーズであり、他の該当波長の蛍光色素に比べ、非常に安定で、明るく、またpH感受性が低い。蛍光極大波長が10nm以上ある蛍光色素の組み合わせとしては、AlexaTM555とAlexaTM633の組み合わせ、AlexaTM488とAlexaTM555との組み合わせ等を挙げることができる。他の蛍光標識として、シアニン色素(例えば、CyDyeTMシリーズのCy3、Cy5等)、ローダミン6G試薬、N-アセトキシ-N2-アセチルアミノフルオレン(AAF)、AAIF(AAFのヨウ素誘導体)等が挙げられる。本開示では、このような標識を利用して、使用される検出手段に検出され得るように目的とする対象を改変することができる。そのような改変は、当該分野において公知であり、当業者は標識におよび目的とする対象に応じて適宜そのような方法を実施することができる。
【0039】
本明細書において「キット」とは、通常2つ以上の区画に分けて、提供されるべき部分(例えば、核酸構築物を構成するエレメント、説明書など)が提供されるユニットをいう。安定性等のため、混合されて提供されるべきでなく、使用直前に混合して使用することが好ましいような組成物の提供を目的とするときに、このキットの形態は好ましい。そのようなキットは、好ましくは、提供される部分をどのように使用するか、あるいは、試薬をどのように処理すべきかを記載する指示書または説明書を備えていることが有利である。本明細書においてキットが試薬キットとして使用される場合、キットには、通常、核酸構築物を構成するための各エレメントの使い方などを記載した指示書などが含まれる。
【0040】
用語「約」は、示された値プラスまたはマイナス10%を指す。「約」が、温度について使用される場合、示された温度プラスまたはマイナス5℃を指し、「約」が、pHについて使用される場合、示されたpHプラスまたはマイナス0.5を指す。
【0041】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0042】
一つの局面において、本開示は、ナンノクロロプシス微細藻類においてゲノム編集を実施するための核酸構築物を提供する。これを達成するための任意の手段が本開示の範囲であると企図される。例えば、明示的な記載がなくとも、ある核酸構築物の記載は、同核酸構築物を含む組成物、同核酸構築物を使用する方法、および同核酸構築物を作製するための方法または材料など、他の手段を反映した実施形態も同時に企図するものである。
【0043】
(ナンノクロロプシス微細藻類のゲノム編集のための核酸構築物)
一つの局面において、本開示は、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)微細藻類においてゲノム編集を実施するための核酸構築物を提供する。ナンノクロロプシス微細藻類は、小型(約1.5~5マイクロメートル)で球状の細胞体を有し、運動性を有さない。ナンノクロロプシス微細藻類は、クロロフィルaを有するが、クロロフィルbおよびクロロフィルcを欠くことで特徴付けられることが知られる。ナンノクロロプシス微細藻類は、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、カンタキサンチンなどの色素を有することも知られる。ナンノクロロプシス微細藻類は、多くの多価不飽和脂肪酸を蓄積する能力を有することが知られ、魚などのための飼料、ヒトための食品添加物、バイオ燃料の供給源、種々の有用化合物の生物学的生産のための供給源としての利用が期待されている。ナンノクロロプシス微細藻類の種として、australis、gaditana、granulata、limnetica、oceanica、oculata、salinaが挙げられる。これらの種は、以前は、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属に分類されていたが、最近の研究によりミクロクロロプシス(Microchloropsis)属に分類されるものもある(MARVIN W. FAWLEYら、Phycologia Volume 54 (5), 545-552)。なお、以前は、Marine Chlorellaとして分類されていた微細藻類がN.oceanicaに再分類される例もある。最新の分類によりナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属またはミクロクロロプシス(Microchloropsis)属に分類される微細藻類が本開示において好適なナンノクロロプシス微細藻類として使用され得る。具体的な実施形態では、本開示の核酸構築物は、N.oceanica、N.oculata、N.gaditana(Microchloropsis gaditana)、またはN.granulataのナンノクロロプシス微細藻類のゲノム編集に使用できる。
【0044】
一つの実施形態において、核酸構築物は、ナンノクロロプシス微細藻類のTypeIII RNAポリメラーゼを動員するプロモータ配列を含む。一つの実施形態において、核酸構築物は、プロモータ配列と作動可能に連結された、ガイドRNA(gRNA)をコードする配列を含む。一つの実施形態において、核酸構築物は、gRNAをコードする配列と作動可能に連結された、ナンノクロロプシス微細藻類のTypeIII RNAポリメラーゼによる転写を終結させるターミネータ配列を含む。一つの実施形態において、核酸構築物は、これらのプロモータ配列、gRNAをコードする配列およびターミネータ配列を含む。一つの実施形態において、本開示の核酸構築物はCrispr/Cas9システムによって微細藻類におけるゲノム編集を引き起こす。一つの実施形態において、核酸構築物はプラスミドである。
【0045】
(プロモータ)
一つの実施形態において、本開示の核酸構築物は、ガイドRNAを発現するために、ナンノクロロプシス微細藻類のTypeIII RNAポリメラーゼを動員するプロモータ配列を含む。TypeIII RNAポリメラーゼは、5’末端修飾および3’末端修飾などの追加的な構造を転写産物に付加しないと考えられているため、TypeIII RNAポリメラーゼによる転写によって生産されたgRNAは、修飾構造の付加による活性低下のない高効率のゲノム編集を可能にし得る。発明者らは、ナンノクロロプシス微細藻類において、TypeIII RNAポリメラーゼを動員すると予想されるプロモータ配列を見出し、このプロモータ配列を利用することで、高効率なゲノム編集を可能にした。特定の配列を有する核酸が、TypeIII RNAポリメラーゼを動員するかどうかは、例えば、この核酸をナンノクロロプシス微細藻類由来のTypeIII RNAポリメラーゼとインビボまたはインビトロで接触させて結合が観察されるかどうかで調べることができる。
【0046】
一つの実施形態において、ナンノクロロプシス微細藻類のTypeIII RNAポリメラーゼを動員するプロモータ配列は、ナンノクロロプシス微細藻類のU6 RNA遺伝子のプロモータ配列を含み得る。一つの実施形態において、プロモータ配列は、配列番号1の配列
【化1】
、配列番号8または9の配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%の同一性を有する配列を含む。本願実施例において、配列番号1の配列の下線部の24塩基を除去してもゲノム編集が達成されることが確認された。そのため、一つの実施形態において、プロモータ配列は、配列番号1の配列の3’末端から1~50塩基(例えば、約1、約2、約5、約10、約15、約20、約25、約30、約35、約40、約45または約50塩基など)だけ短縮された配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%の同一性を有する配列を含んでもよい。
【0047】
一つの実施形態において、プロモータ配列は、N.oceanicaにおいて3’末端部分に配列番号1の配列の直後に存在する配列番号4のU6 RNA様遺伝子配列
【化2】
の5’末端から1~10塩基(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10塩基)の配列をさらに含んでもよい。配列番号1の配列は、N.oceanicaから取得された配列であるが、他の種のナンノクロロプシス微細藻類にも適用され得る。特に、N.oceanicaは、N.granulata、およびN.oculataと近縁であるため(PLoS Genet. 2014 Jan;10(1):e1004094)、これらの種において有利に使用され得る。また、本明細書の記載を参考にして、N.oceanica以外のナンノクロロプシス微細藻類のU6プロモータ配列も、マウスなどの公知の生物のまたは本明細書に記載のN.oceanicaのU6 RNA様遺伝子配列および/またはU6プロモータ配列との相同性に基づいて当業者は決定することができ、N.oceanicaのU6プロモータ配列と同様に本開示のゲノム編集において使用することができる。
【0048】
(ガイドRNA)
一つの実施形態において、本開示の核酸構築物は、ガイドRNAをコードする配列を含み得る。本明細書において、「ガイドRNA」(gRNA)とは、CRISPR/Cas9システムにおいてCas9タンパク質により標的遺伝子を切断する際に使用されるRNAであって、標的遺伝子を標的化する部分およびCas9タンパク質による核酸の切断を補助する部分を含むRNA分子を指す。ガイドRNAは、CRISPR RNA(crRNA)を含み得る。一つの実施形態において、ガイドRNAはトランス活性化型CRISPR RNA(tracrRNA)を含まなくてもよく、このような実施形態では、ゲノム編集の標的細胞においてtracrRNAが何らかの手段で供給され得る。例えば、tracrRNAは、本開示の核酸構築物上のガイドRNAをコードする部分とは別の部分にコードされていてもよいし、本開示の核酸構築物とは別の核酸構築物(例えば、tracrRNAをコードするプラスミド、tracrRNA自体など)を標的細胞に導入することで供給されてもよいし、tracrRNAを発現するように改変された標的細胞において内因性に供給されてもよい。一つの実施形態において、ガイドRNAは単一の分子としてCas9タンパク質による核酸切断を誘起する単鎖ガイドRNAであってもよく、この実施形態において、tracrRNAの供給は不要であり得る。
【0049】
一つの実施形態において、ガイドRNAは、標的遺伝子の一部(例えば、約10~30塩基、例えば、約10、約12、約14、約16、約18、約20、約22、約24、約26、約28または約30塩基の長さの連続塩基配列)とハイブリダイズする配列(本明細書においてホーミング配列と言及され得る)を有する部分を含み得る。本明細書において、標的遺伝子とは、本明細書に記載のゲノム編集において切断しようとする遺伝子を指し、その遺伝子が二本鎖上にある場合、その機能を発揮する部分(例えば、コード配列)がいずれか一方の鎖上にしかない場合であっても、その機能を発揮する部分と、他方の鎖状に存在する相補的な部分との両方を指す。一つの実施形態において、ガイドRNA中のホーミング配列は、標的遺伝子の一部と完全に相補的な配列を有してもよいが、標的遺伝子の一部と完全に相補的な配列を有しなくても、標的遺伝子の一部とハイブリダイズできれば所望の機能が発揮され得る。一つの実施形態において、ガイドRNA中のホーミング配列は、標的遺伝子の一部の塩基配列を有する核酸分子とストリンジェントな条件においてハイブリダイズする配列を有する。一つの実施形態において、ガイドRNA中のホーミング配列は、標的遺伝子の一部の塩基配列と相補的な塩基配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%の同一性を有する配列を含んでもよい。
【0050】
一つの実施形態において、ガイドRNAによって標的化する標的遺伝子の部分は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を考慮して決定することができる。使用するCas9タンパク質ごとにPAMは異なり、例えば、S.pyogenesのCas9タンパク質はNGGの塩基配列のPAMを認識し、PAMの5’側に隣接する標的配列において切断を生じることが知られる。
【0051】
好ましい実施形態において、ホーミング配列はガイドRNAの5’末端部分に位置する。一つの実施形態において、ホーミング配列の5’末端はガイドRNAの5’末端から1、2、3、4、または5塩基以内に存在する。ガイドRNAのうちホーミング配列以外の部分配列は、(例えば、使用するCas9タンパク質に応じて)共通の配列を使用することができ、このような配列は、当業者に公知であるか、または容易に設計できる。
【0052】
標的遺伝子の例として、タンパク質(例えば、脂質代謝関連酵素、光合成関連遺伝子、増殖関連遺伝子、タンパク質発現を調整するタンパク質)をコードする遺伝子もしくはそれを制御する遺伝子、機能性RNA(例えば、マイクロRNA)をコードする遺伝子もしくはそれを制御する遺伝子、ゲノム編集の発生を評価するためのマーカー遺伝子(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)などの発光タンパク質をコードする遺伝子)が挙げられる。標的遺伝子のより具体的な例として、例えば、アセチル-CoAカルボキシラーゼ遺伝子、ADP-グルコースピロホスホリラーゼ遺伝子、リブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ遺伝子、Lhc遺伝子、炭酸脱水素酵素遺伝子、サイクリン遺伝子、MAPキナーゼ遺伝子が挙げられる。標的遺伝子を適当に選択することによって、ナンノクロロプシス微細藻類の増殖能、代謝産物、光合成効率などの改変が達成され得る。当業者は、使用するCas9タンパク質、PAMなどを考慮して、標的遺伝子の好適な部位を標的としたホーミング配列を適切に設計できる。
【0053】
当業者は、目的とするガイドRNAの構造に基づいてガイドRNAをコードする配列を設計することができ、ガイドRNAをコードする配列を含む核酸構築物を作製することができる。ガイドRNAは、標的とする遺伝子の部分配列および/またはプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)に相補的であり得るので、ガイドRNAをコードする配列は、標的とする遺伝子の部分配列および/またはPAMを有し得る。一つの実施形態において、gRNAをコードする配列は、標的遺伝子をコードする配列のうちのPAMおよびPAMの5’側に存在する15~25塩基長の配列を含み得る。一つの実施形態において、ガイドRNAをコードする配列は、プロモータの下流にプロモータ配列と作動可能に連結することができる。一つの実施形態において、ガイドRNAをコードする配列は、配列番号3の配列
【化3】
と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%の同一性を有する配列を含み得る。
【0054】
(ターミネータ)
一つの実施形態において、本開示の核酸構築物は、gRNAをコードする配列と作動可能に連結された、ナンノクロロプシス微細藻類のTypeIII RNAポリメラーゼによる転写を終結させるターミネータ配列を含む。例えば、ターミネータ配列によってTypeIII RNAポリメラーゼによる転写が終結するかどうかは、本明細書に記載のTypeIII RNAポリメラーゼを動員するプロモータ配列に作動可能に連結された配列の転写物の長さ(サイズ)を決定することなどにより当業者に容易に確認され得る。一つの実施形態において、ターミネータ配列は、少なくとも3、4、5、6、7または8塩基の連続したチミジンを含み得る。
一つの実施形態において、ターミネータ配列は、配列番号2の配列
【化4】
と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%の同一性を有する配列を含み得る。
【0055】
(その他のエレメント)
一つの実施形態において、本開示の核酸構築物は、Cas9をコードする配列を含んでもよい。この実施形態では、単一の核酸構築物(例えば、プラスミド)を導入するだけで、標的細胞においてCas9タンパク質およびガイドRNAを発現させることが可能であり得るため、操作が簡便であり、ゲノム編集効率が向上し得る。別の実施形態において、Cas9タンパク質は、本開示の核酸構築物とは別に標的細胞に導入されてもよい(例えば、Cas9タンパク質をコードする別のプラスミドで標的細胞を形質転換することで、Cas9タンパク質を内因的に発現するように標的細胞を改変することで、またはCas9タンパク質を標的細胞に導入することで)。一つの実施形態において、本開示の核酸構築物は、Cas9をコードする配列およびその上流のプロモータ配列を含んでもよく、このプロモータはガイドRNAに作動可能に連結されたプロモータ配列と同じであっても異なってもよい。一つの実施形態において、Cas9をコードする配列の上流のプロモータ配列は、ナンノクロロプシス微細藻類のチューブリン遺伝子のプロモータなど恒常的に発現される遺伝子のプロモータであってもよく、そのようなプロモータは当業者が容易に決定できる。
【0056】
本開示において使用されるCas9タンパク質は、任意の公知のCas9タンパク質であり得、微生物から天然に得られるCas9タンパク質だけでなく、その改変体であってもよい。そのような改変体は、当業者に公知であり、例えば、核局在シグナルを有するように改変されたCas9タンパク質などが挙げられる。Cas9は、任意の公知の生物種のものを使用することができる。Cas9によって認識されるPAMの配列およびCas9による標的核酸の切断様式は公知であり、当業者であれば、目的に応じて適切なCas9を選択することができる。例えば、S.pyogenesのCas9はPAM配列5’-XGG-3’を認識し、Neisseria meningitidisのCas9はPAM配列5’-XXXXGATT-3’を認識し、Streptococcus thermophilusのCas9はPAM配列5’-XXAGAA-3’を認識し、Treponema denticolaのCas9はPAM配列5’-XAAAAC-3’を認識するなどである。当業者は、標的遺伝子などを考慮して適当なCas9タンパク質を選択できる。
【0057】
一つの実施形態において、本開示の核酸構築物は、1つまたは複数の薬剤選択マーカーをコードする配列を含んでもよい。薬剤選択マーカーは、ナンノクロロプシス微細藻類のコロニー形成(増殖)を阻害する任意の薬剤(ゼオシン、ハイグロマイシンなど)に対して耐性を与え得るので、薬剤選択マーカーを含む核酸構築物で形質転換した細胞を薬剤存在下で培養することで形質転換に成功したコロニーが形成され得る。
【0058】
一つの実施形態において、本開示の核酸構築物(例えば、プラスミド)は、ナンノクロロプシス微細藻類において作動する複製起点を有し得る。一つの実施形態において、本開示の核酸構築物(例えば、プラスミド)は、ナンノクロロプシス微細藻類において作動するエンハンサーを有し得る。任意の公知の複製起点および/またはエンハンサーが使用され得る。ナンノクロロプシス微細藻類において作動する核酸エレメントはナンノクロロプシス微細藻類に由来する必要はない。本開示の核酸構築物は、ナンノクロロプシス微細藻類以外の生物の細胞において作製されてもよいので、それらの生物において作動する複製起点、プロモータ、転写終結配列などの転写翻訳調節配列を含んでもよい。生物ごとの転写翻訳調節配列は、公知であり、当業者が適宜選択できる。
【0059】
特定の実施形態において、本開示は、pNAN1001(受領番号:NITE AP-03261)、pNAN1002(受領番号:NITE AP-03262)またはpNAN1003(受領番号:NITE AP-03263)の配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%の同一性を有する配列を含む核酸構築物を提供する。
【0060】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形本開示の核酸構築物(例えば、プラスミド)は、ナンノクロロプシス微細藻類において作動する複製起点を有し得る。一つの実施形態において、本開示の核酸構築物(例えば、プラスミド)は、ナンノクロロプシス微細藻類において作動するエンハンサーを有し得る。任意の公知の複製起点および/またはエンハンサーが使用され得る。ナンノクロロプシス微細藻類において作動する核酸エレメントはナンノクロロプシス微細藻類に由来する必要はない。本開示の核酸構築物は、ナンノクロロプシス微細藻類以外の生物の細胞において作製されてもよいので、それらの生物において作動する複製起点、プロモータ、転写終結配列などの転写翻訳調節配列を含んでもよい。生物ごとの転写翻訳調節配列は、公知であり、当業者が適宜選択できる。
【0061】
(核酸構築物の作製)
一つの局面において、本開示は、本開示の核酸構築物を作製する方法およびこれを作製するための核酸を提供する。本開示の核酸構築物の任意の要素(例えば、プロモータ配列、gRNAをコードする配列、ターミネータ配列)を単独でまたは集合的に含む核酸を任意の好適な手法(制限酵素を使用するライゲーションなど)で組み合わせて本開示の核酸構築物を作製することができる。一つの実施形態では、本開示の核酸構築物を作製するための核酸は、キットとして提供することができる。一つの実施形態では、キットは、本開示の核酸構築物を作製するための核酸のうちの少なくとも1つが充填された、1以上の容器を含み得る。キットは、核酸構築物を作製するための方法を示す指示書を含んでもよい。ガイドRNAのホーミング配列以外はゲノム編集の標的遺伝子によらず共通のシステムが使用され得るので、一つの実施形態では、キットは、ホーミング配列をコードする塩基配列以外の本開示の核酸構築物を単独でまたは集合的に含む核酸を含み得る。
【0062】
(核酸構築物の導入)
本開示の核酸構築物を標的細胞に導入する方法は、任意の方法であり得るが、例えば、コンピテントな標的細胞の使用、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法、リン酸カルシウム法などが挙げられる。各方法の詳細は公知であり、当業者は適切に実施できる。核酸構造物は環状プラスミドの状態で標的細胞に導入してもよいし、制限酵素処理あるいはPCR法で、直線化した状態で標的細胞に導入しても良い。また、制限酵素処理あるいはPCR法で、核酸構造物を構成する要素のうちで必要な要素を含む部分のみを抽出してから、標的細胞に導入しても良い。本開示の核酸構築物には、標的細胞に導入する核酸構築物、および標的細胞に導入する核酸構築物を調製するための元となる核酸構築物(例えば、プラスミド)の両方が含まれると企図される。一つの実施形態において、本開示は、本開示の核酸構築物で形質転換された細胞(ナンノクロロプシス微細藻類など)を提供する。細胞が形質転換されているかどうかは、任意のマーカー(発色タンパク質の発現、薬剤耐性など)によって確認できる。
【0063】
(組成物)
一つの実施形態において、本開示は、本開示の核酸構築物を含むゲノム編集を実施するための組成物を提供する。組成物は、任意の好適な形態(例えば、核酸構築物を含む流体)で提供され得る。組成物は、本開示の核酸構築物の安定化のための成分、標的細胞を傷害しない成分など任意の好適な成分を含み得る。
【0064】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0065】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【実施例
【0066】
試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用したが、他メーカー(Sigma-Aldrich、和光純薬、ナカライ、R&D Systems、USCN Life Science INC等)の同等品でも代用可能である。
【0067】
(ナンノクロロプシス微細藻類においてcas9を発現させるためのプラスミドの構築)
ナンノクロロプシス微細藻類においてcas9を安定的に発現させるために、Nannochloropsis oceanica NIES 2145株(国立環境研究所から入手)のβチューブリンプロモータとpCAMBIA1300由来のNosターミネータを用いて、ゼオシン耐性遺伝子を発現するプラスミドpNAN0002をまず構築し、ついでpNAN0002にN.oceanica NIES 2145株のαチューブリン遺伝子のプロモータでCas9遺伝子を発現させるカセットを導入して、pNAN0006を得た。その概略を図2に示す。
【0068】
pNAN0002は以下のように構築した。
pEM7/Zeo(Invitrogen、V50020)のゼオシン耐性遺伝子の下流部をプライマーP1とP2を用いたPCRで開裂したDNA断片と、pCAMBIA1300(米国、Marker Gene Technologies, Incから購入)からプライマーP3とP4を用いたPCRで取得した約300bpのNosターミネータのDNA断片をin-fusion法で接続し、pEM7/Zeo-NosTを得た。ついで、JOINT GENOME INSTITUTEのウェブサイト(https://jgi.doe.gov/)においてN.oceanica CCMP1779 v2.0のデータベースからβチューブリンをコードする配列を検索し、その上流の配列をプロモータ配列として特定した。
pEM7/Zeo-NosTの上流部をP5とP6を用いたPCRで開裂したDNA断片に、P7とP8を用いたPCRでN.oceanica NIES 2145株から取得した約550bpのβチューブリンプロモータのDNA断片をin-fusion法で接続し、約3.6KbpのpNAN0002を得た。
【0069】
2145株のαチューブリン遺伝子のプロモータでCas9遺伝子を発現させるカセットは以下のように構築した。
SpCas9をもとにImad Ajjawiらが改変したCas9遺伝子およびターミネータ配列(Nature Biotechnology VOLUME 35 NUMBER 7 2017 647-655のSupplementary Note 1に記載の配列の一部(2780bp-7347bp))を含む配列(以下)を全合成しプラスミドpNAN-cas9-tを得た。
・配列番号5:>2780-7347
【化5-1】
【化5-2】
【化5-3】
【0070】
JOINT GENOME INSTITUTEのウェブサイト(https://jgi.doe.gov/)においてN.oceanica CCMP1779 v2.0のデータベースからαチューブリンをコードする配列を検索し、その上流の配列をプロモータ配列(配列番号6)として特定した。約1000bpのαチューブリン遺伝子のプロモータ領域のDNA断片は、P29とP30を用いたPCRで、N.oceanica NIES 2145株より取得し、電気泳動により確認した(図1)。
・配列番号6:αチューブリンプロモータ
【化6】
【0071】
pNAN-cas9-t内のCas9遺伝子の上流を、プライマーP26とP27を用いたPCRで開裂し、前記の約1000bpのαチューブリンプロモータをコードするDNAとin-fusion法で接続し、pNAN aTubP-Cas9-tを取得した。pNAN aTubP-Cas9-Tの発現カセットをコードするDNA断片(αチューブリンプロモータ:Cas9遺伝子:ターミネータ)をプライマーP17とP28を用いたPCRで取得し、pNAN0002をプライマーP31とP32を用いたPCRで開裂した断片にブラントライゲーションで結合し、pNAN0006を取得した(図2)。
【0072】
N.oceanica NIES 2145にpNAN0006をエレクトロポレーション法により導入し、ゼオシン耐性に基づいてコロニーを選択して、形質転換株(2、3、4はそれぞれ別のコロニーを示す)を作製した。形質転換株を溶解して、タンパク質を抽出してSDS-PAGEを行った(図3B)。その後、抗Cas9抗体(Guide-it Cas9 Polyclonal Antibody、632607、タカラバイオ)を使用したウエスタンブロットを行い、Cas9タンパク質の生産について野生株(1)と比較した(図3C)。Cas9タンパク質は、野生株では検出されず、形質転換株でのみ検出された。
【0073】
(ナンノクロロプシス微細藻類においてsgRNAを発現させるためのプラスミドの構築)
構築の概略を図4に示す。sgRNAをナンノクロロプシス微細藻類において発現させるためのプロモータについて検討した。ヒトなどにおいてTypeIII RNAポリメラーゼを動員することが知られるU6遺伝子のプロモータに対応するナンノクロロプシス遺伝子を探索した。N.oceanica CCMP1779 v2.0のデータベースから、マウスのU6遺伝子と相同性がある配列を検索し、N.oceanicaのU6様遺伝子である可能性のある塩基配列を含む領域を特定した。U6様遺伝子領域は、転写開始点と考えられる部位において保存性が低く、偽遺伝子である可能性もあり、特に転写開始点の特定は容易ではなかった。N.oceanicaのU6様遺伝子(配列番号4)のGTATAAの上流の領域をU6プロモータ(配列番号7)と特定し、下流の領域をターミネータ(配列番号2)と特定した。
配列番号4:U6様遺伝子
【化7】
配列番号7:U6プロモータ
【化8】
配列番号2:U6ターミネータ
【化9】
【0074】
これに基づき、N.oceanica NIES 2145株から、プライマーP33とP34を用いたPCR法でU6遺伝子様配列とその周辺配列を取得し、pGEM-T Easy Vector(プロメガ)に挿入して、2145-U6-Tvecを得た(図5にその部分配列が示される)。
【0075】
2145-U6-Tvecを鋳型として、3組のプライマーペア(P37とP38、P37とP39、P37とP40)を用いたインバースPCRで、U6様遺伝子は欠如するが、U6ターミネータ、及び、長さが異なる3種類のU6プロモータ配列を持つDNA断片を得た。
【0076】
これら3種類の断片に、sGFPに相補的な配列を含むsgRNAの断片をin-fusion法で挿入した。sGFPに相補的な配列を含むsgRNAは以下のように作製した。オリゴDNAであるP35およびP36と、Guide-it CRISPR/Cas9 System(Green)(クロンテック、Cat. No. 632601)を用いてsgRNAに対応する配列を含むプラスミド(pGuide-it-sGFP36-58)を得た。
【0077】
pGuide-it-sGFP36-58を鋳型とし、3組のプライマーペア(P41とP42、P41とP43、P41とP44)を用いて、3種類のDNA断片を取得した。P37とP38由来の断片にはP41とP42由来の断片、P37とP39由来の断片にはP41とP43由来の断片、P37とP40由来の断片にはP41とP44由来の断片をin-fusion法でそれぞれ接続し、pU6-1 sGFP36-55、pU6-2 sGFP36-55、pU6-3 sGFP36-55をそれぞれ得た。
【0078】
pU6-1 sGFP36-55、pU6-2 sGFP36-55、pU6-3 sGFP36-55をそれぞれNotIで消化し、U6プロモータ(長さの異なる3種類;それぞれ配列番号8、9、1)、gRNA(配列番号10)およびU6ターミネータ(配列番号2)をコードするDNA断片を取得した。
【0079】
αチューブリンプロモータの下流にcas9コード配列を含むプラスミド(pNAN0006)のNotIサイトに、前項に記載の3種類のU6プロモータ、gRNAおよびU6ターミネータをコードする配列を導入して、pNAN1001、pNAN1002、pNAN1003を作製した。
・配列番号8:U6プロモータ(pNAN1001)
【化10】

・配列番号9:U6プロモータ(pNAN1002)
【化11】

・配列番号73:U6プロモータ(pNAN1003)
【化12】

・配列番号10:gRNA
【化13】

(下線は、GFPをコードする配列の一部(ターゲット配列);太字は、cas9のPAM)
・配列番号2:U6ターミネータ
【化14】

【0080】
pNAN1001、pNAN1002、pNAN1003については、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターにこれを寄託し、2020年8月19日に受領された。受領番号はそれぞれ、NITE AP-03261、NITE AP-03262、NITE AP-03263である。
【0081】
(sgRNA発現の確認)
これらのプラスミドを使用して、N.oceanica NIES 2145を形質転換した。pNAN1001形質転換株、pNAN1002形質転換株、pNAN1003形質転換株、および野生株からRNAを抽出し、混入しているゲノムDNAをDNaseで消化した後、逆転写酵素を用いてcDNAを合成した。次いで、cDNAを鋳型として、PCR法によりsgRNAを検出した。目的のsgRNAのサイズは110bpであった。逆転写酵素を添加しなかったサンプルでは110bpのバンドは検出されなかったので、110bpのバンドが細胞内で転写されたsgRNAに由来することが確認された(図7A)。また、上記と等量のRNAを用いて、N.oceanicaで恒常的に発現しているβチューブリンのmRNAをRT-PCRで検出し、上記実験でそれぞれ等量のサンプルが使用されたことを確認した(図7B)。
【0082】
(ゲノム編集の検出)
構築したプラスミドを導入することでゲノム編集が生じるかどうかを試験した。
GFPをコードするプラスミドpNAN0005を構築した。pNAN0005の構造を図8に示す。pNAN0005のT-BORDER(L)~T-BORDER(R)までをP13とP14を用いたPCRで抽出し、これを使用してN.oceanica NIES 2145を形質転換したことによりGFPの緑色蛍光を発する株をモデル実験系として作製した(図9A)。このGFP発現株に、ゲノム編集用ベクター(pNAN1001、pNAN1002またはpNAN1003)を導入した。GFP遺伝子においてゲノム編集が行われると、GFP遺伝子が機能しなくなり、GFPの蛍光が失われる。プラスミド導入後、GREEN(図9B)、MIX(図9C)またはRED(図9D)のいずれかのコロニーが出現する。GREENはゲノム編集されていないコロニー、MIXはコロニーの形成過程でゲノム編集が生じたコロニー、REDはゲノム編集された単一の細胞から形成されたコロニーを意味する。なお、MIXのコロニーから単一の細胞を取得することでREDコロニーを作製することができる。
【表1】
【0083】
いずれのプラスミドも高い効率でゲノム編集をもたらすことが分かった。特に、pNAN1003によるゲノム編集効率が高かった。
【0084】
(pNAN1002形質転換株中のGFP遺伝子の解析)
上記のpNAN1002形質転換株のMIXコロニーから単一細胞を取得し、REDコロニーを形成させ、これについて解析した(1~10は、それぞれ別のコロニーを示す)。コロニーからプラスミドを抽出し、pNAN0005のGFP遺伝子を含む核酸断片(201bpまたは756bp)をPCRで増幅し、増幅した断片をAluIで消化した(図10)。増幅したGFPの遺伝子の5’側部分には、以下に下線で示す4つのAluI認識部分が存在する。
【化15】
pNAN1002から生産されるsgRNAはこのうちの第2のAluI認識部分に改変を導入し得るので、第2のAluI認識部分が失われることによって第1および第3のAluI認識部分の間の塩基配列を有する約105bpの断片が生じ得る。
【0085】
201bpの断片を増幅した1、2、5、6の試料は、AluI処理により105bpのバンドを生じ、756bpの断片を増幅した7の試料は、AluI処理により105bpのバンドを生じることが確認された。そのため、これらの試料においてゲノム編集が確認された。
【0086】
次に、ゲノム編集が確認された試料について、GFP遺伝子の部分の塩基配列を決定した(図11)。その結果、1、2、5、6の試料のGFP遺伝子における5bpの欠失、および7の試料のGFP遺伝子における1bpの置換が確認された。
【0087】
(CA2遺伝子に対するsgRNAの設計)
N.oceanicaのCA2遺伝子(配列番号12)中の配列を標的とするsgRNA配列(配列番号13)を設計した。
・配列番号12:CA2遺伝子
【化16】
(下線は、標的配列の相補配列を示す。)
・配列番号13:sgRNAの5’末端側配列
【化17】
(下線は、gRNA配列を示し、太字は、PAMを示す。)
【0088】
このsgRNA配列を含むプラスミドを、pNAN1002をベースに構築した。具体的には、pNAN1002を鋳型とし、プライマーP39およびP51を用いてPCRを行った。このPCR産物をセルフライゲーションすることでpNAN1006を作製した(図12)。
【0089】
(CA2遺伝子に対するゲノム編集の検出)
N.oceanica NIES 2145をpNAN1006で形質転換し、ゼオシン存在下でのインキュベーションにより、ゼオシン耐性コロニー(コロニー3~10)を形成させた。野生株およびそれぞれのコロニーについて、CA2遺伝子の一部(516bp)を増幅するようにPCRを行い、PCR産物をEcoRVで消化して解析した(図13)。ゲノム編集が生じると、516bpの中に存在するEcoRVの認識配列(CA2遺伝子中の標的とした配列中に存在)が変化し、EcoRVで切断されなく改変体が出現する。電気泳動のパターンにおいて516bp断片の存在が確認され、CA2遺伝子においてゲノム編集が生じたことが示された。
【0090】
(異なる株を使用したゲノム編集)
ナンノクロロプシス微細藻類の各種の株にpNAN0005を導入して、GFP蛍光を発する株を作製する。次いで、それらのGFP蛍光を発する株に、pNAN1001、1002、あるいは1003を導入する。GFP蛍光が消失することでゲノム編集が生じた可能性がある株を選抜し、最終的には当該部分の塩基配列を決定してゲノム編集を確認する。
【0091】
具体的には、以下のようにN.oculata、N.gaditana(Microchloropsis gaditana)、およびN.granulataにおいてもゲノム編集可能であることを確認した。
【0092】
1.ゲノム編集モニタリング用の株の構築
国立環境研究所から入手したN.oculata NIES-2146株、N.gaditana NIES-2587株、およびN.granulata NIES-2588株におけるゲノム編集をモニタリングするために、それぞれGFPを発現させるプラスミドpNAN0005をエレクトロポレーション法で導入した。
【0093】
2.モニタリング用の株へのpNAN1002の導入
pNAN1002は、GFP遺伝子に対してゲノム編集を行うall-in-oneベクターである。pNAN1002を導入した株は、ゼオシン耐性を獲得する。また、導入した株がGFP遺伝子を含むと、そのGFP遺伝子に対してゲノム編集を行う。ゲノム編集が生じた細胞ではGFP遺伝子の配列が変化し、GFP蛍光を喪失する。GFP蛍光を喪失した細胞は、クロロフィルの自家蛍光(赤)を発するようになる。上記pNAN0005導入株にさらにpNAN1002を導入した。その後、ゼオシンを含む選択培地上に現れた赤色部分を含むコロニーからシングルコロニーアイソレーションすることにより、全体的に赤色を示すコロニーを取得した。
【0094】
結果を図14に示す。pNAN0005の導入によりそれぞれの株が緑色蛍光を示すようになった(図14A~C)が、さらにpNAN1002を導入してゲノム編集を実施したコロニーでは標的のGFPによる蛍光を喪失した細胞が出現し、クロロフィルの自家蛍光(赤)が部分的に観察された(図14D、E)。さらに赤色部分を含むコロニーからシングルコロニーアイソレーションすることにより、全体的に赤色を示すコロニーを取得した(図14F~H)。
【0095】
3.塩基配列解析によるゲノム編集の確認
GFP蛍光を喪失し、赤色を示すようになった上記細胞株について、GFP遺伝子の構造変化を解析した。ゲノム編集が実施され蛍光を失ったそれぞれの株から、GFP遺伝子の断片をPCR法で取得し、標的部位の配列をサンガー法で決定した。
【0096】
結果を図15に示す。NIES-2146由来の株(2146-7c、2146-8C)、NIES-2587由来の株(2587-9C、2587-12c)、およびNIES-2588由来の株(2588-3c、2588-9c)のいずれの株においても、GFP遺伝子の標的部位(PAM配列(TGG)の上流)において塩基配列に変異が生じていることが観察された。本開示の核酸構築物は種々のナンノクロロプシス微細藻類をゲノム編集可能であることが示された。
【0097】
以下に、本実施例で使用したプライマーのリストを示す。
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【0098】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本開示は、ナンノクロロプシス微細藻類における高効率でのゲノム編集を可能にし得るので、ナンノクロロプシス微細藻類を用いる種々の用途(バイオ燃料生産などの生物変換、飼料など)における利点を提供し得る。
【受託番号】
【0100】
pNAN1001(受領番号:NITE AP-03261)
pNAN1002(受領番号:NITE AP-03262)
pNAN1003(受領番号:NITE AP-03263)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【配列表】
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