(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H05B 33/10 20060101AFI20241114BHJP
H05B 33/12 20060101ALI20241114BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20241114BHJP
【FI】
H05B33/10
H05B33/12 Z
H05B33/14 A
(21)【出願番号】P 2019114893
(22)【出願日】2019-06-20
【審査請求日】2022-04-26
【審判番号】
【審判請求日】2024-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100176658
【氏名又は名称】和田 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100223424
【氏名又は名称】和田 雄二
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【氏名又は名称】阿部 寛
(72)【発明者】
【氏名】岸川 英司
(72)【発明者】
【氏名】藤井 貴志
【合議体】
【審判長】神谷 健一
【審判官】橿本 英吾
【審判官】廣田 健介
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-185992(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0355924(US,A1)
【文献】特開2009-301769(JP,A)
【文献】特開2008-238195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC H10K 77/12
H10K 77/13
H10K 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に配置された第1電極層上に、第1機能層と、前記第1機能層上に配置され且つ前記第1機能層に接する第2機能層とを含むデバイス機能部を形成するデバイス機能部形成工程と、
前記デバイス機能部上に第2電極層を形成する第2電極層形成工程と、
を備える、電子デバイスの製造方法であって、
前記第1機能層及び前記第2機能層を含む積層構造を形成する積層構造形成工程と、
前記積層構造に対し、判定波長に対する前記積層構造の光学特性値として、前記判定波長に対する反射率、透過率、吸収率、屈折率及び消衰係数のうちの何れか一つを取得する光学特性値取得工程と、
前記光学特性値が判定条件を満たすか否かを判定する判定工程と、
を備え、
前記積層構造形成工程は、
前記第2機能層の材料を含む塗布液を前記第1機能層上に塗布して塗布膜を形成する塗布工程と、
前記塗布膜を加熱して前記第2機能層を得る加熱工程と、
を有し、
前記積層構造形成工程は、前記デバイス機能部形成工程中又は前記デバイス機能部形成工程とは別に実施され、
前記判定工程において、前記判定条件を満たさない場合、前記加熱工程における前記塗布膜の加熱温度、または、前記塗布工程から前記加熱工程までの移行時間を調整する調整工程を前記第2電極層形成工程の前に実施し、前記判定条件を満たすと前記判定工程で判定されるまで、前記積層構造形成工程、前記判定工程及び前記調整工程を繰り返し、
前記積層構造形成工程が前記デバイス機能部形成工程中に実施され且つ前記判定工程において前記判定条件を満たすと判定された場合、前記第2電極層形成工程では、前記積層構造を含む前記デバイス機能部上に前記第2電極層を形成し、
前記積層構造形成工程が前記デバイス機能部形成工程とは別に実施され且つ前記判定工程において前記判定条件を満たすと判定された場合、前記積層構造形成工程における前記積層構造の形成条件と同じ条件を用いて前記デバイス機能部形成工程を実施する、
電子デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記光学特性値取得工程の前に、前記判定波長を決定する準備工程を更に備え、
前記準備工程は、
前記第1機能層に対応する第1層上に、前記第2機能層に対応している第2層を異なる形成条件で形成することによって基準積層構造及び少なくとも一つのサンプル積層構造を形成する工程と、
前記基準積層構造及び前記少なくとも一つのサンプル積層構造それぞれの光学特性として、反射率分布、透過率分布、吸収率分布、屈折率分布及び消衰係数分布のうちの何れかを取得する工程と、
前記基準積層構造の前記光学特性を示しており波長を独立変数とする第1関数と、前記少なくとも一つのサンプル積層構造の光学特性を示しており波長を独立変数とする少なくとも一つの第2関数とに基づいて、波長を独立変数とする少なくとも一つの第3関数を得る工程と、
前記少なくとも一つの第3関数における変曲点の位置に対応する波長の前後50nm領域において、前記少なくとも一つの第3関数の関数値の絶対値が最大である波長を前記判定波長に決定する工程と、
を有する、
請求項1に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記判定条件は、前記判定波長に対する前記光学特性値と前記判定波長に対する基準光学特性値との差を前記基準光学特性値で除した値の絶対値が所定値以下であることである、
請求項1又は2に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記光学特性値取得工程では、前記判定波長に対する前記積層構造の前記反射率を前記光学特性値として取得し、
前記所定値は0.1である、
請求項3に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記光学特性値取得工程では、前記判定波長に対する前記積層構造の前記透過率を前記光学特性値として取得し、
前記所定値は、0.009である、
請求項3に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記判定条件は、前記判定波長に対する前記光学特性値と前記判定波長に対する基準光学特性値との差の絶対値が所定値以下であることである、
請求項1又は2に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記光学特性値取得工程では、前記判定波長に対する前記積層構造の前記反射率を前記光学特性値として取得し、
前記所定値は0.008である、
請求項6に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記光学特性値取得工程では、前記判定波長に対する前記積層構造の前記透過率を前記光学特性値として取得し、
前記所定値は、0.006である、
請求項6に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項9】
前記第1機能層及び前記第2機能層は有機層であり、
前記第1機能層または前記第2機能層は、低分子材料を50質量%以上含む、
請求項1~8の何れか一項に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記積層構造は、前記第1機能層と前記第2機能層との積層構造であり、
前記光学特性値取得工程は、前記加熱工程の後、前記第2機能層上に他の層を形成する前に実施する、
請求項1~9の何れか一項に記載の電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスは、基板上に設けられた第1電極層と、第1電極層上に設けられており複数の機能層を含むデバイス機能部と、デバイス機能部上に設けられた第2電極層と、を備える。電子デバイスを製造する際に、デバイス機能部が有する複数の機能層は、特許文献1に記載されているように例えば塗布法(湿式成膜法)で形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているように、電子デバイスが有する複数の機能層を塗布法で形成する場合、第1機能層上に第2機能層の材料を含む塗布液を塗布して塗布膜を形成し、塗布膜を加熱することによって第2機能層が形成される。この場合、第2機能層の形成工程で、第1及び第2機能層の材料が熱、膨潤、溶出といった要因によって拡散する。それによって、第1機能層と第2機能層との界面近傍にそれらの混合層が形成され、混合層の影響で所望のデバイス特性とは異なる電子デバイス(すなわち、不良品である電子デバイス)が製造されていた。その結果、電子デバイスの製造歩留まりが低下していた。
【0005】
そこで、本発明は、製造歩留まりを向上可能な電子デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る電子デバイスの製造方法は、基板上に配置された第1電極層上に、第1機能層と、上記第1機能層上に配置され且つ上記第1機能層に接する第2機能層とを含むデバイス機能部を形成するデバイス機能部形成工程と、上記デバイス機能部上に第2電極層を形成する第2電極層形成工程と、を備える、電子デバイスの製造方法である。上記電子デバイスの製造方法は、上記第1機能層及び上記第2機能層を含む積層構造を形成する積層構造形成工程と、上記積層構造に対し、判定波長に対する上記積層構造の光学特性値として、上記判定波長に対する反射率、透過率、吸収率、屈折率及び消衰係数のうちの何れか一つを取得する光学特性値取得工程と、上記光学特性値が判定条件を満たすか否かを判定する判定工程と、を備える。上記積層構造形成工程は、上記第2機能層の材料を含む塗布液を上記第1機能層上に塗布して塗布膜を形成する塗布工程と、上記塗布膜を加熱して上記第2機能層を得る加熱工程と、を有する。上記積層構造形成工程は、上記デバイス機能部形成工程中又は上記デバイス機能部形成工程とは別に実施される。上記判定工程において、上記判定条件を満たさない場合、上記加熱工程における上記塗布膜の加熱温度、または、上記塗布工程から上記加熱工程までの移行時間を調整する調整工程を上記第2電極層形成工程の前に実施し、上記判定条件を満たすと上記判定工程で判定されるまで、上記積層構造形成工程、上記判定工程及び上記調整工程を繰り返す。上記積層構造形成工程が上記デバイス機能部形成工程中に実施され且つ上記判定工程において上記判定条件を満たすと判定された場合、上記第2電極層形成工程では、上記積層構造を含む上記デバイス機能部上に上記第2電極層を形成する。上記積層構造形成工程が上記デバイス機能部形成工程とは別に実施され且つ上記判定工程において上記判定条件を満たすと判定された場合、上記積層構造形成工程における上記積層構造の形成条件と同じ条件を用いて上記デバイス機能部形成工程を実施する。
【0007】
上記電子デバイスの製造方法では、デバイス機能部を形成する工程において、第2機能層を形成した後、第1機能層と第2機能層とを含む積層構造の光学特性値を取得する。取得した光学特性値が判定条件を満たしていない場合、上記判定条件を満たすように、上記加熱工程における上記塗布膜の加熱温度、または、上記塗布工程から上記加熱工程までの移行時間を調整する調整工程を上記第2電極層形成工程の前に実施する。調整工程を実施した場合、上記積層構造形成工程、上記判定工程及び上記調整工程を繰り返す。上記積層構造形成工程が上記デバイス機能部形成工程中に実施され且つ上記判定工程において上記判定条件を満たすと判定された場合、上記第2電極層形成工程では、上記積層構造を含む上記デバイス機能部上に上記第2電極層を形成する。上記積層構造形成工程が上記デバイス機能部形成工程とは別に実施され且つ上記判定工程において上記判定条件を満たすと判定された場合、上記積層構造形成工程における上記積層構造の形成条件と同じ条件を用いて上記デバイス機能部形成工程を実施する。そのため、第2機能層を、上記塗布工程と上記加熱工程とによって形成しても、第1機能層と第2機能層との間の混合層の状態を制御しながら、電子デバイスを製造可能である。その結果、電子デバイスの製造歩留まりが向上する。
【0008】
一実施形態に係る電子デバイスの製造方法は、上記光学特性値取得工程の前に、上記判定波長を決定する準備工程を更に備えてもよい。上記準備工程は、上記第1機能層に対応する第1層上に、上記第2機能層に対応している第2層を異なる形成条件で形成することによって基準積層構造及び少なくとも一つのサンプル積層構造を形成する工程と、上記基準積層構造及び上記少なくとも一つのサンプル積層構造それぞれの光学特性として、反射率分布、透過率分布、吸収率分布、屈折率分布及び消衰係数分布のうちの何れかを取得する工程と、上記基準積層構造の上記光学特性を示しており波長を独立変数とする第1関数と、上記少なくとも一つのサンプル積層構造の光学特性を示しており波長を独立変数とする少なくとも一つの第2関数とに基づいて、波長を独立変数とする少なくとも一つの第3関数を得る工程と、上記少なくとも一つの第3関数における変曲点の位置に対応する波長の前後50nm領域において、上記少なくとも一つの第3関数の関数値の絶対値が最大である波長を上記判定波長に決定する工程と、を有してもよい。
【0009】
この場合、判定工程における判定条件を適切に設定できる。その結果、第1機能層と第2機能層との間の混合層の状態をより確実に制御しながら電子デバイスを製造可能である。
【0010】
一実施形態において、上記判定条件の例は、上記判定波長に対する上記光学特性値と上記判定波長に対する基準光学特性値との差を上記基準光学特性値で除した値の絶対値が所定値以下であることである。この場合、上記光学特性値取得工程では、上記判定波長に対する上記積層構造の上記反射率を上記光学特性値として取得し、上記所定値は0.1であってもよい。或いは、上記光学特性値取得工程では、上記判定波長に対する上記積層構造の上記透過率を上記光学特性値として取得し、上記所定値は、0.009であってもよい。
【0011】
一実施形態において、上記判定条件の他の例は、上記判定波長に対する上記光学特性値と上記判定波長に対する基準光学特性値との差の絶対値が所定値以下であることである。この場合、上記光学特性値取得工程では、上記判定波長に対する上記積層構造の上記反射率を上記光学特性値として取得し、上記所定値は0.008であってもよい。或いは、上記光学特性値取得工程では、上記判定波長に対する上記積層構造の上記透過率を上記光学特性値として取得し、上記所定値は、0.006であってもよい。
【0012】
一実施形態において、上記第1機能層及び上記第2機能層は有機層であり、上記第1機能層または上記第2機能層は、低分子材料を50質量%以上含んでもよい。上記第1機能層または上記第2機能層が低分子材料を50質量%以上含んでいる場合、第1機能層と第2機能層との界面に混合層が形成されやすい。よって、上記電子デバイスの製造方法がより有効である。
【0013】
一実施形態において、上記積層構造は、上記第1機能層と上記第2機能層との2層構造であり、上記光学特性値取得工程は、上記加熱工程の後、上記第2機能層上に他の層を形成する前に実施してもよい。これにより、第2機能層の形成条件を調整し易い。その結果、第1機能層と第2機能層との間の混合層の影響をより低減できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、製造歩留まりを向上可能な有機電子デバイスの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る電子デバイスの製造方法で製造される有機ELデバイスの概略構成を説明するための模式図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した有機ELデバイス(電子デバイス)の製造方法の一例の概略を説明するためのフローチャートである。
【
図3】
図3は、
図1に示した有機ELデバイス(電子デバイス)の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図4】
図4は、
図3のフローチャートにおける積層構造を形成するための工程を説明するための模式図である。
【
図5】
図5は、実験例1で製造したデバイスD1~5それぞれにおいて指定輝度を得るための駆動電圧とデバイスD1において指定輝度を得るための駆動電圧差を示した図面である。
【
図6】
図6は、実験例1で製造したデバイスD1~5の電圧に対する電流密度変化を示した図面である。
【
図7】
図7は、実験例2で製造したサンプルS1~S3の反射率分布を示した図面である。
【
図8】
図8は、評価サンプル(サンプルS2又はサンプルS3)の反射率と基準サンプル(サンプルS1)の反射率との差を基準サンプルの反射率で除した値を100倍した値の波長に対する変化を示した図面である。
【
図9】
図9は、評価サンプル(サンプルS2又はサンプルS3)の反射率と基準サンプル(サンプルS1)の反射率との差を100倍した値の波長に対する変化を示した図面である。
【
図10】
図10は、実験例2で製造したサンプルS1~S3の透過率分布を示した図面である。
【
図11】
図11は、評価サンプル(サンプルS2又はサンプルS3)の透過率と基準サンプル(サンプルS1)の透過率との差を基準サンプルの透過率で除した値を100倍した値の波長に対する変化を示した図面である。
【
図12】
図12は、評価サンプル(サンプルS2又はサンプルS3)の透過率と基準サンプル(サンプルS1)の透過率との差を100倍した値の波長に対する変化を示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0017】
図1は、一実施形態に係る電子デバイスの製造方法を用いて製造される有機エレクトロルミネッセンスデバイス(以下、「有機ELデバイス」とも称す)の概略構成を示す模式図である。有機ELデバイス1は、基板2と、陽極層(第1電極層)3と、デバイス機能部4と、陰極層(第2電極層)5とを有する。陽極層3、デバイス機能部4及び陰極層5は、陽極層3、デバイス機能部4及び陰極層5の順に基板2上に積層されている。有機ELデバイス1は、トップエミッション型の有機ELデバイスでもよいし、ボトムエミッション型の有機ELデバイスでもよい。以下では、断らない限り、有機ELデバイス1は、ボトムエミッション型の有機ELデバイスである。
【0018】
[基板]
基板2は、有機ELデバイス1が出射する光(波長400nm~800nmの可視光を含む)に対して透光性を有する。基板2の厚さの例は、30μm~700μmである。
【0019】
基板2は、例えばガラス基板及びシリコン基板などのリジッド基板であってもよいし、又は、プラスチック基板及び高分子フィルムなどの可撓性基板であってもよい。可撓性基板とは、基板に所定の力を加えても基板が剪断したり破断したりすることがなく、基板を撓めることが可能な性質を有する基板である。
【0020】
基板2がリジッド基板である場合、基板2の厚さの例は、50μm~100μmである。基板2が可撓性基板である場合、基板2の厚さの例は、30μm~700μmである。
【0021】
基板2上には、水分バリア機能を有するバリア層が形成されていてもよい。バリア層は、水分をバリアする機能に加えて、ガス(例えば酸素)をバリアする機能を有してもよい。
【0022】
[陽極層]
陽極層3は基板2に設けられている。陽極層3には、光透過性を示す電極が用いられる。光透過性を示す電極の例は、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物及び金属等を含む薄膜である。光透過性を示す電極は、光透過率の高い薄膜が好ましい。陽極層3は、導電体(例えば金属)からなるネットワーク構造を有してもよい。陽極層3の厚さは、光の透過性、電気伝導度等を考慮して決定され得る。陽極層3の厚さは、通常、10nm~10μmであり、好ましくは20nm~1μmであり、さらに好ましくは50nm~500nmである。
【0023】
陽極層3の材料としては、例えば酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウム錫酸化物(Indium Tin Oxide:略称ITO)、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:略称IZO)、金、白金、銀、銅等が挙げられ、これらの中でもITO、IZO、又は酸化スズが好ましい。陽極層3は、例示した材料からなる薄膜として形成され得る。陽極層3の材料には、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体等の有機物を用いてもよい。この場合、陽極層3は、透明導電膜として形成され得る。
【0024】
[デバイス機能部]
デバイス機能部4は、陽極層3上に設けられる。デバイス機能部4は、陽極層3及び陰極層5に印加された電圧に応じて、電荷の移動及び電荷の再結合などの有機ELデバイス1の発光に寄与する機能部である。デバイス機能部4は、正孔注入層4a、正孔輸送層4b、発光層4c、電子輸送層4d及び電子注入層4eを有する。これらの層は、陽極層3上に、正孔注入層4a、正孔輸送層4b、発光層4c、電子輸送層4d及び電子注入層4eの順に積層されている。
【0025】
正孔注入層4aは、陽極層3から発光層4cへの正孔注入効率を向上させる機能を有する機能層である。正孔注入層4aは、無機層でもよいし、有機層でもよい。正孔注入層4aを構成する正孔注入材料は、低分子化合物でもよいし、高分子化合物でもよい。
【0026】
低分子化合物としては、例えば、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、及び酸化アルミニウムなどの金属酸化物、銅フタロシアニン等の金属フタロシアニン化合物、カーボンなどが挙げられる。
【0027】
高分子化合物としては、例えば、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)のようなポリチオフェン誘導体、ポリピロール、ポリフェニレンビニレン、ポリチエニレンビニレン、ポリキノリン及びポリキノキサリン、並びに、これらの誘導体;芳香族アミン構造を主鎖又は側鎖に含む重合体等の導電性高分子などが挙げられる。
【0028】
正孔注入層4aの厚さは、用いる材料によって最適値が異なる。正孔注入層4aの厚さは、求められる特性及び成膜の簡易さなどを勘案して適宜決定されればよい。正孔注入層4aの厚さは、例えば1nm~1μmであり、好ましくは2nm~500nmであり、さらに好ましくは5nm~200nmである。
【0029】
正孔輸送層4bは、正孔注入層4a(正孔注入層4aが存在しない形態では陽極層3)から発光層4cへの正孔注入効率を向上させる機能を有する機能層である。
【0030】
正孔輸送層4bは正孔輸送材料を含む有機層である。正孔輸送材料は正孔輸送機能を有する有機化合物であれば限定されない。正孔輸送機能を有する有機化合物としては、例えば、ポリビニルカルバゾール若しくはその誘導体、ポリシラン若しくはその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミン残基を有するポリシロキサン誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、ポリアニリン若しくはその誘導体、ポリチオフェン若しくはその誘導体、ポリピロール若しくはその誘導体、ポリアリールアミン若しくはその誘導体、ポリ(p-フェニレンビニレン)若しくはその誘導体、ポリフルオレン誘導体、芳香族アミン残基を有する高分子化合物、及びポリ(2,5-チエニレンビニレン)若しくはその誘導体が挙げられる。
【0031】
正孔輸送材料の例として、特開昭63-70257号公報、特開昭63-175860号公報、特開平2-135359号公報、特開平2-135361号公報、特開平2-209988号公報、特開平3-37992号公報、特開平3-152184号公報に記載されている正孔輸送材料等も挙げられる。
【0032】
正孔輸送層4bの厚さは、用いる材料によって最適値が異なる。正孔輸送層4bの厚さは、求められる特性及び成膜の簡易さなどを勘案して適宜決定されればよい。正孔輸送層4bの厚さは、例えば、1nm~1μmであり、好ましくは2nm~500nmであり、さらに好ましくは5nm~200nmである。
【0033】
発光層4cは、光(可視光を含む)を発する機能を有する機能層である。発光層4cは、通常、主として蛍光及びりん光の少なくとも一方を発光する有機物、又はこの有機物とこれを補助するドーパント材料とを含む。よって、発光層4cは有機層である。ドーパント材料は、例えば発光効率の向上や、発光波長を変化させるために加えられる。上記有機物は、低分子化合物でもよいし、高分子化合物でもよい。発光層4cの厚さの例は2nm~200nmである。
【0034】
主として蛍光及びりん光の少なくとも一方を発光する発光性材料である有機物としては、例えば以下の色素系材料、金属錯体系材料及び高分子系材料が挙げられる。
【0035】
(色素系材料)
色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマー、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体などが挙げられる。
【0036】
(金属錯体系材料)
金属錯体系材料としては、例えばTb、Eu、Dyなどの希土類金属、又はAl、Zn、Be、Ir、Ptなどを中心金属に有し、オキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを配位子に有する金属錯体が挙げられ、例えばイリジウム錯体、白金錯体などの三重項励起状態からの発光を有する金属錯体、アルミニウムキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、フェナントロリンユーロピウム錯体などが挙げられる。
【0037】
(高分子系材料)
高分子系材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素系材料や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどが挙げられる。
【0038】
(ドーパント材料)
ドーパント材料としては、例えばペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどが挙げられる。
【0039】
デバイス機能部4は、発光層4cの他、少なくとも一つの機能層を有してもよい。すなわち、デバイス機能部4は多層構造を有してもよい。例えば、陽極層3と発光層4cの間には、正孔注入層4a及び正孔輸送層4bのうちの少なくとも一つが設けられてもよい。発光層4cと陰極層5との間には、電子輸送層4d及び電子注入層4eのうちの少なくとも一つが設けられてもよい。
【0040】
電子輸送層4dは、電子注入層4e(電子注入層4eが存在しない形態では陰極層5)から発光層4cへの電子注入効率を向上させる機能を有する機能層である。
【0041】
電子輸送層4dは電子輸送材料を含む有機層である。電子輸送材料には、公知の材料が用いられ得る。電子輸送材料の例は、芳香族炭化水素化合物にアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩がドープされた材料である。電子輸送材料の具体例としては、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン若しくはその誘導体、ベンゾキノン若しくはその誘導体、ナフトキノン若しくはその誘導体、アントラキノン若しくはその誘導体、テトラシアノアントラキノジメタン若しくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン若しくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、または8-ヒドロキシキノリン若しくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリン若しくはその誘導体、ポリキノキサリン若しくはその誘導体、ポリフルオレン若しくはその誘導体などが挙げられる。
【0042】
電子輸送層4dの厚さは、求められる特性及び成膜の簡易さなどを勘案して適宜決定され得る。電子輸送層4dの厚さは、例えば1nm~1μmであり、好ましくは2nm~500nmであり、さらに好ましくは5nm~200nmである。
【0043】
電子注入層4eは、陰極層5から発光層4cへの電子注入効率を向上させる機能を有する機能層である。
【0044】
電子注入層4eは無機層でもよいし、有機層でもよい。電子注入層4eを構成する材料は、発光層4cの種類に応じて最適な材料が適宜選択される。電子注入層4eを構成する材料の例としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうちの1種類以上を含む合金、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、又はこれらの物質の混合物などが挙げられる。アルカリ金属、アルカリ金属の酸化物、ハロゲン化物、及び炭酸塩の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、酸化リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、フッ化ナトリウム、酸化カリウム、フッ化カリウム、酸化ルビジウム、フッ化ルビジウム、酸化セシウム、フッ化セシウム、炭酸リチウムなどを挙げることができる。アルカリ土類金属、アルカリ土類金属の酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩の例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム、フッ化カルシウム、酸化バリウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0045】
この他に従来知られた電子輸送性の有機材料と、アルカリ金属の有機金属錯体を混合した層を電子注入層4eとして利用できる。
【0046】
デバイス機能部4の層構成は、発光層4cと、発光層4cに接する機能層とを含み、発光層4cとそれに接する機能層のうち陰極層(第2電極層)5寄りの機能層が塗布法で形成される層であれば、限定されない。
【0047】
デバイス機能部4が有する層構成の例を以下に示す。陽極層3及び陰極層5と各種機能層の配置関係を示すために、陽極層及び陰極層も括弧書きで記載している。
(a)(陽極層)/正孔注入層/発光層/(陰極層)
(b)(陽極層)/正孔注入層/発光層/電子注入層/(陰極層)
(c)(陽極層)/正孔注入層(又は正孔輸送層)/発光層/電子輸送層/電子注入層/(陰極層)
(d)(陽極層)/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/(陰極層)
(e)(陽極層)/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/(陰極層)
(f)(陽極層)/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/(陰極層)
(g)(陽極層)/発光層/電子輸送層(又は電子注入層)/(陰極層)
(i)(陽極層)/発光層/電子輸送層/電子注入層/(陰極層)
記号「/」は、記号「/」の両側の層同士が接合していることを意味している。
【0048】
デバイス機能部4が有する発光層4cの数は、1つでもよいし、2つ以上でもよい。上記構成例(a)~(i)の層構成のうちのいずれか1つにおいて、陽極層3と陰極層5との間に配置された積層構造を[構造単位I]と称すると、2層の発光層4cを有するデバイス機能部4の構成として、以下の(j)に示す層構成が挙げられる。2つの構造単位Iの層構成は互いに同じであっても、異なっていてもよい。
(j)(陽極層)/[構造単位I]/電荷発生層/[構造単位I]/(陰極層)
【0049】
電荷発生層は、電界を印加することにより、正孔と電子とを発生する層である。電荷発生層としては、例えば酸化バナジウム、ITO、酸化モリブデンなどを含む薄膜が挙げられる。
【0050】
「[構造単位I]/電荷発生層」を[構造単位II]と称すると、3層以上の発光層4cを有する有機ELデバイスの構成として、以下の(k)に示す層構成が挙げられる。
(k)(陽極層)/[構造単位II]x/[構造単位I]/(陰極層)
記号「x」は、2以上の整数を表し、「[構造単位II]x」は、[構造単位II]がx段積層された積層構造を表す。複数の構造単位IIの層構成は同じでも、異なっていてもよい。
【0051】
電荷発生層を設けずに、複数の発光層4cを直接的に積層させてデバイス機能部4を構成してもよい。
【0052】
[陰極層]
陰極層5は、デバイス機能部4上に設けられている。陰極層5の厚さは、用いる材料によって最適値が異なる。陰極層5の厚さは、電気伝導度、耐久性等を考慮して設定される。陰極層5の厚さは、通常、10nm~10μmであり、好ましくは20nm~1μmであり、さらに好ましくは50nm~500nmである。
【0053】
デバイス機能部4からの光(具体的には、発光層4cからの光)が陰極層5で反射して陽極層3側に進むように、陰極層5の材料は、デバイス機能部4が有する発光層4cからの光(特に可視光)に対して反射率の高い材料が好ましい。陰極層5の材料としては、例えばアルミニウム、銀等が挙げられる。陰極層5として、導電性金属酸化物及び導電性有機物等からなる透明導電性電極を用いてもよい。
【0054】
有機ELデバイス1は、デバイス機能部4の水分などによる劣化を防止するための封止部材を備えてもよい。封止部材は、少なくともデバイス機能部4を封止するように陰極層5上に設けられ得る。有機ELデバイス1が封止部材を備える形態では、例えば、陽極層3及び陰極層5の一部は、外部接続のために封止部材から引き出され得る。
【0055】
次に、
図2を利用して、一実施形態に係る有機ELデバイスの製造方法の概略を説明する。断らない限り、デバイス機能部4が
図1に示した多層構造を有する有機ELデバイス1を製造する形態を説明する。
図2に示したように、有機ELデバイス1の製造方法は、基板2上に陽極層(第1電極層)3を形成する第1電極層形成工程S01と、陽極層3上にデバイス機能部4を形成するデバイス機能部形成工程S02と、デバイス機能部4上に陰極層(第2電極層)5を形成する第2電極層形成工程S03とを備える。
【0056】
第1電極層形成工程S01において、陽極層3は、例えばドライ成膜法、メッキ法、塗布法などにより形成され得る。ドライ成膜法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、CVD法などが挙げられる。塗布法としては、例えば、スリットコート法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、スプレーコート法、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法及びノズル印刷法等が挙げられる。
【0057】
デバイス機能部形成工程S02では、正孔注入層4a、正孔輸送層4b、発光層4c、電子輸送層4d及び電子注入層4eをこの順に形成する。
【0058】
第2電極層形成工程S03において、陰極層5は、例えば、スリットコーター法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、スプレーコーター法等の塗布法、真空蒸着法、スパッタリング法、金属薄膜を熱圧着するラミネート法等によって形成され得る。
【0059】
有機ELデバイス1が上記封止部材を有する形態では、上記第2電極層形成工程S03の後に、封止部材でデバイス機能部4を封止する封止工程を実施すればよい。
【0060】
有機ELデバイス1の製造に例えば長尺の基板2を用いる場合には、例えば長尺の基板2上に複数のデバイス形成領域を仮想的に設定し、デバイス形成領域毎に陽極層3、デバイス機能部4及び陰極層5を形成する。これにより、デバイス形成領域毎に有機ELデバイス1が形成される。よって、デバイス形成領域毎に長尺の基板2を個片化することによって、複数の有機ELデバイス1が製造され得る。
【0061】
上記長尺の基板2が可撓性を有する形態では、第1電極層形成工程S01、デバイス機能部形成工程S02及び第2電極層形成工程S03の少なくとも一つの工程は、例えばロールツーロール方式で実施されてもよい。デバイス機能部4が有する正孔注入層4a、正孔輸送層4b、発光層4c、電子輸送層4d及び電子注入層4eをそれぞれ形成する工程の少なくとも一つの工程は、ロールツーロール方式で実施されてもよい。
【0062】
次に、
図3及び
図4を利用して、有機ELデバイス1の製造方法を詳細に説明する。
図3は、一実施形態に係る有機ELデバイスの製造方法の詳細を説明するためのフローチャートであり、
図4は、一実施形態に係る有機ELデバイスの製造方法の詳細を説明するための概念図である。
【0063】
有機ELデバイス1の製造方法は、
図3に示したように、積層構造形成工程S10と、光学特性値取得工程S11と、判定工程S12と、調整工程S13とを有する。以下では、積層構造形成工程S10と、光学特性値取得工程S11と、判定工程S12と、調整工程S13がデバイス機能部形成工程S02に含まれる場合を説明する。
【0064】
[積層構造形成工程]
積層構造形成工程S10では、
図4に示したように、帯状の下地基板10をその長手方向に搬送しながら積層構造20を形成する。
【0065】
積層構造20は、第1機能層21と第2機能層23とを有する。第1機能層21は、デバイス機能部4が有する正孔注入層4a、正孔輸送層4b、発光層4c及び電子輸送層4dのうち任意の層であり、第2機能層23は、第1機能層21に接し且つ陰極層5寄りに配置されている機能層である。第1機能層21は、例えば塗布法、ドライ成膜法などにより形成され得る。塗布法及びドライ成膜法の例は、陽極層3の形成方法の説明において挙げた例と同様とし得る。第2機能層23は塗布法で形成する。
【0066】
下地基板10は、帯状の基板2を含み第1機能層21が形成される基板である。すなわち、下地基板10は、基板2上に第1機能層21を形成する前までの他の層が形成された基板である。例えば、第1機能層21が正孔注入層4aである場合、下地基板10は、基板2と陽極層3とを含む基板である。第1機能層21が正孔輸送層4bである場合、下地基板10は、基板2と陽極層3と正孔注入層4aとを含む基板である。第1機能層21が発光層4cである場合、下地基板10は、基板2と陽極層3と正孔注入層4a及び正孔輸送層4bとを含む基板である。第1機能層21が発光層4cである場合、下地基板10は、基板2と、陽極層3と、正孔注入層4a、正孔輸送層4b及び発光層4cと、を含む基板である。
【0067】
第1機能層21を形成する工程(第1機能層形成工程)を実施した後、第2機能層23を塗布法で形成する場合の上記積層構造20の形成方法を具体的に説明する。
【0068】
図3及び
図4に示したように、積層構造形成工程S10では、下地基板10を搬送しながら第1機能層21上に、第2機能層23の材料を含む塗布液を塗布装置31から塗布することで塗布膜22を形成する(塗布工程S10a)。塗布装置31は、第2機能層23を形成するための塗布法に応じた装置であればよい。例えば、塗布法がインクジェット印刷法である場合には、塗布装置31は、インクジェット印刷装置である。
【0069】
下地基板10を搬送しながらインクジェット印刷法を用いて第2機能層23を形成する際には、少なくともインクが下地基板10に塗布されてから加熱装置32に塗布膜22が搬入されるまでは、下地基板10は水平搬送されることが好ましい。この水平搬送のため、例えば下地基板10をエア浮上させて水平を維持するエア浮上装置が用いられてもよい。
【0070】
次に、下地基板10の搬送経路上に配置された加熱装置32で塗布膜22を加熱することによって第2機能層23を得る(加熱工程S10b)。加熱装置32は、例えばホットプレート、赤外線等を利用した加熱装置が挙げられる。塗布膜22の加熱は、真空環境下で行ってもよい。加熱装置32は、塗布膜22を乾燥させる機能とともに、焼成する機能を有し得る。
【0071】
[光学特性値取得工程]
光学特性取得工程S11では、積層構造形成工程S10で形成した積層構造20の光学測定を行い、判定波長に対する積層構造20の光学特性値として、判定波長に対する反射率、透過率、吸収率、屈折率及び消衰係数のうちの何れか一つを取得する(光学特性値取得工程S11)。
【0072】
図4では、積層構造20の反射率測定のための光学系を模式的に示している。積層構造20の反射率を測定する場合、下地基板10の搬送経路において加熱装置32から搬出された積層構造20に光源33から一定の波長範囲を含む光を照射し、積層構造20で反射された光を分光器34で検出する。光源33の例としては、ハロゲンランプ、キセノンランプ、水銀ランプ、重水素ランプ、AlGaN系紫外LED等が挙げられる。分光器34は、光源33が出力する光の波長範囲の光を分光して検出可能なものであればよい。
【0073】
これにより、光源33から出力された光の波長範囲における反射率分布が得られるので、上記反射率分布における判定波長の反射率として光学特性値を取得し得る。反射率を測定する場合の光学系では、光源33は、積層構造20に光が斜め入射するように配置され、分光器34は、例えば光源33の光軸に沿った光の積層構造20による反射光の進行方向が分光器34の光軸の方向と実質的に一致するように配置され得る。
【0074】
透過率を測定する場合には、光源33と分光器34とを下地基板10に対して互いに反対側に配置した光学系を採用すればよい。この場合、例えば、光源33からの光が積層構造20に対して斜め入射するように配置し、光源33の光軸上に、分光器34を配置すればよい。透過率を測定する場合においても、反射率の場合と同様にして、光源33から出力された光の波長範囲における透過率分布が得られるので、上記透過率分布における判定波長の透過率として光学特性値を取得し得る。
【0075】
[判定工程]
判定工程S12では、光学特性値取得工程S11で取得した光学特性値が判定条件を満たしているか否か判定する。上記判定条件の例は以下の条件1及び条件2が挙げられる。
条件1:判定波長に対する光学特性値と判定波長に対する基準光学特性値との差を基準光学特性値で除した値の絶対値が第1所定値以下である。
条件2:判定波長に対する光学特性値と判定波長に対する基準光学特性値との差の絶対値が第2所定値以下である。
【0076】
判定波長に対する光学特性値をLとし、判定波長に対する基準光学特性値をL0とし、第1所定値をAとし、第2所定値をBとした場合、条件1及び条件2のそれぞれは、以下の式(1a)及び式(1b)で表される。
|(L-L0)/L0|≦A・・・(1a)
|L-L0|≦B・・・(1b)
【0077】
[調整工程]
光学特性値が判定条件を満たしていなければ(判定工程S12で「NO」)、塗布膜処理条件を調整する調整工程S13を実施する。上記塗布膜処理条件は、加熱工程S10bにおける塗布膜22の加熱温度、または、塗布工程S10aから加熱工程S10bまでの移行時間である。
図4に示したように、帯状の下地基板10を搬送しながら第2機能層23を形成する場合、上記移行時間は、下地基板10の搬送方向において、塗布膜22の先頭が塗布装置31を通り過ぎた後から加熱装置32に搬入されるまでの搬送時間とし得る。
【0078】
調整工程S13を実施した場合、積層構造形成工程S10、光学特性値取得工程S11、判定工程S12及び調整工程S13を、光学特性値が判定条件を満たすと判定工程S12で判定されるまで繰り返す。
図4に示したように、帯状の下地基板10を搬送しながら積層構造20を形成する形態では、積層構造形成工程S10を再度実施する際には、塗布膜形成工程S10a以降を実施すればよい。
【0079】
光学特性値が判定条件を満たしていれば(判定工程S12で「YES」)、積層構造20の形成を終了し、第2機能層23上に他の層を形成する。例えば、第2機能層23が電子注入層4e以外の層であれば、第2機能層23を新しい第1機能層21とみなして新しい第1機能層21上に次の第2機能層23を形成する。この場合、新しい第1機能層21及び第2機能層23の組に対して、
図3に示した各工程を実施すればよい。第2機能層23が電子注入層4eであれば、第2機能層23上に陰極層5を形成する。
【0080】
本実施形態のデバイス機能部形成工程S03では、正孔輸送層4b、発光層4c、電子輸送層4d及び電子注入層4eのうちの少なくとも一つの機能層を塗布法で形成する。よって、デバイス機能部形成工程S03は、
図3に示した積層構造形成工程S10と、光学特性値取得工程S11と、判定工程S12とを少なくとも一回行う。
【0081】
図3に示したように、第1機能層21及び第2機能層23を含む積層構造20を形成する場合において、光学特性値取得工程S11を実施することの作用効果を、光学特性値取得工程S11を実施しない場合と比較して説明する。
【0082】
光学特性値取得工程S11を実施しない場合を説明する。この場合、デバイス機能部形成工程において、第1機能層上に第2機能層を形成する。続けて、形成した第2機能層を新しい第1機能層とみなして新しい第1機能層上に次の第2機能層を形成することを繰り返す。このように第1機能層の形成と第2機能層の形成とを繰り返すことで、デバイス機能部が形成される。その後、デバイス機能部上に陰極層を形成することによって、有機ELデバイスを得る。
【0083】
第1機能層上に第2機能層を塗布法で形成する際、第2機能層となる塗布膜の形成後に、第1及び第2機能層の材料が熱、膨潤、溶出といった要因によって拡散する。これによって、第1機能層と第2機能層との界面近傍にそれらの混合層が形成され、その混合層の影響によって、製造した有機ELデバイスのデバイス特性が所望のデバイス特性(設計上のデバイス特性)から乖離する場合がある。換言すれば、混合層に起因した不良品としての有機ELデバイスが製造される。その結果、有機ELデバイスの生産性は低く、且つ、製造歩留まりも低下する。
【0084】
更に、陰極層が形成された後では、光学特性値取得工程S11で実施する光学測定をデバイス機能部に対して実施することが困難である。よって、混合層を形成しないような条件を製造過程にフィードバックしにくい。その結果、有機ELデバイスが製造された後、有機ELデバイスの特性評価が実施されるまで有機ELデバイスの良否が不明である。更に、製造した有機ELデバイスの特性評価によるフィードバックは、一般的に、第2機能層となる塗布膜を形成後、相当な時間を経過しているので、その間、異常条件で有機ELデバイスが製造される。よって、その間に製造された有機ELデバイスは不良品となり、有機ELデバイスの製造に使用した材料も無駄になる。その結果、有機ELデバイスの製造コストも増加する。
【0085】
更に、上述した膨潤、溶出などに起因した第1及び第2機能層の混合状態(例えば混合層の厚さ)は、例えば液体状態である塗布液の第1機能層との接触時間によって変動が大きいことから有機ELデバイスのデバイス特性のバラツキが大きくなる傾向にある。
【0086】
これに対して、本実施形態に係る有機ELデバイスの製造方法では、陰極層形成工程S03を実施する前に、光学特性値取得工程S11を実施する。第2機能層23を塗布法で形成して積層構造20を得る場合、第1機能層21と第2機能層23との界面近傍において混合層が形成されていれば、混合層の影響によって光学特性値が変化する。よって、有機ELデバイス1が所望のデバイス特性を有するために許容可能な光学特性値に対する条件を判定条件として予め設定しておくことで、取得した光学特性値が上記判定条件を満たしていない場合、
図3に示した調整工程S13を実施して、第2機能層23の形成条件(具体的には、前述した塗布膜処理条件)を調整可能である。これにより、混合層の影響が低減された有機ELデバイス1が製造される。よって、不良品が製造されにくいので、有機ELデバイス1の製造歩留まりも向上する。
【0087】
更に、第2機能層23の形成条件を調整することで、所望のデバイス特性を有する有機ELデバイス1を効率的に製造できる。その結果、工業能力指数が上昇し、有機ELデバイス1の生産性が向上する。
【0088】
図2及び
図3に示した製造方法では、光学特性値取得工程S11及び判定工程S12を経ることで塗布膜処理条件へのフィードバックを効率的に実施できるので、不良品が製造されることに伴う材料などの無駄も削減可能である。よって、有機ELデバイス1の製造コストも低減できる。
【0089】
更に、判定工程S12での判定結果に応じて、塗布膜処理条件を調整するため、混合層が生じていても第1機能層21及び第2機能層23の混合割合が均一化し易い。その結果、デバイス特性が実質的にそろった有機ELデバイス1を製造可能である。
【0090】
光学特性値取得工程S11で反射率を取得する形態では、例えば、条件1の第1所定値(式(1a)のA)の例は0.1であり、0.03が好ましく、光学特性値取得工程S11で透過率を取得する形態では条件2の第2所定値(式(1b)のB)の例は0.008であり、0.003が好ましい。第1所定値が例示した値であれば、混合層の影響が許容可能な場合と許容不可の場合とを好適に分離できる。同様の観点から、光学特性値取得工程S11で反射率を取得する形態では、条件1の第1所定値(式(1a)のA)の例は0.009であり、0.005が好ましく、光学特性値取得工程S11で透過率を取得する形態では、例えば、条件2の第2所定値(式(1b)のB)の例は0.006であり、0.005が好ましい。
【0091】
光学特性値取得工程S11において光学特性取得値を取得する際の「判定波長」は、積層構造20に対して測定する光学特性(反射率分布、透過率分布、吸収率分布、屈折率分布及び消衰係数分布のうちの何れか一つ)において、混合層の影響が有機ELデバイス1の所望のデバイス特性に対して許容可能な場合と許容不可の場合との分離に適した波長であればよい。
【0092】
有機ELデバイス1の製造方法は、光学特性値取得工程S11の前に、判定波長を決定する準備工程を備えてもよい。
【0093】
上記準備工程は、第1機能層21に対応する第1層上に、第2機能層23に対応している第2層を異なる形成条件で形成することによって基準積層構造及び複数のサンプル積層構造を形成する。基準積層構造は、例えば、混合層の影響が実質的に存在しない(或いは、混合層の影響が非常に小さい)積層構造の基準サンプル(例えば後述の実験例2のサンプルS1)である。複数のサンプル積層構造は、例えば、混合層の影響が生じている可能性の高い積層構造の複数のサンプル(例えば後述のサンプルS2,S3)である。
【0094】
その後、基準積層構造及び複数のサンプル積層構造それぞれの光学特性として、反射率分布、透過率分布、吸収率分布、屈折率分布及び消衰係数分布のうちの何れかを取得する。次に、基準積層構造の光学特性を示しており波長を独立変数とする第1関数L0(λ)と、複数のサンプル積層構造の光学特性を示しており波長を独立変数とする複数の第2関数L(λ)とに基づいて、波長を独立変数とする複数の第3関数K(λ)を得る。第3関数は、判定工程S12において、判定に使用するためのものである。本実施形態では式(1a)又は式(1b)の左辺に対応する式であり、式(1a)の左辺に対応する第3関数K(λ)をK1(λ)と称し、式(1b)の左辺に対応する第3関数K(λ)をK2(λ)と称した場合、K1(λ)及びK2(λ)は、式(2a)又は式(2b)である。
K1(λ)=(L(λ)-L0(λ))/L0(λ)・・・(2a)
K2(λ)=(L(λ)-L0(λ))×100・・・(2b)
【0095】
その後、複数の第3関数K(λ)それぞれにおける変曲点の位置に対応する波長の前後50nm領域において、複数の第3関数K(λ)の関数値の絶対値が最大である波長を判定波長に決定する。
【0096】
例えば、2つの第3関数K(λ)としてKa(λ)とKb(λ)を仮定し、Ka(λ)における変曲点の位置に対応する波長の前後50nm領域における関数値の絶対値が最大の波長をλ1とし、Kb(λ)における変曲点の位置に対応する波長の前後50nm領域における関数値の絶対値が最大の波長をλ2とし、Ka(λ1)がKb(λ2)より大きいとする。この場合、波長λ1を判定波長とする。このように、判定波長を決定した場合、その判定波長において、基準積層構造と、複数のサンプル積層構造とを分離可能なように、上記第1所定値または第2所定値を決定してもよい。
【0097】
サンプル積層構造の数は、一つでもよい。ここでは、実際に実験を実施する場合を説明したが、例えば判定波長及び上記所定値を、シミュレーションなどを用いて予め設定してもよい。更に、準備工程をシミュレーションで実施してもよい。
【0098】
図3に示したように、加熱工程S10bを実施して第2機能層23を形成した後に、続けて光学特性値取得工程S11を実施する形態では、混合層の影響を低減するような条件を第2機能層23の形成条件のうち塗布膜処理条件にフィードバックし易い。その結果、有機ELデバイス1の生産性及び製造歩留まりが一層向上するとともに、製造コストもより低減できる。
【0099】
第1機能層21及び第2機能層23のうちの少なくとも一方が低分子材料を50質量%以上含む場合、上記混合層が生じやすい。よって、本実施形態の有機ELデバイスの製造方法が有効である。
【0100】
積層構造形成工程S10、光学特性値取得工程S11、判定工程S12及び調整工程S13は、デバイス機能部形成工程S02が有する工程である必要はない。例えば、積層構造形成工程S10、光学特性値取得工程S11、判定工程S12及び調整工程S13は、デバイス機能部形成工程S02とは別に(例えば、デバイス機能部形成工程S02の前)に実施されてもよい。この場合、積層構造形成工程S10、光学特性値取得工程S11、判定工程S12及び調整工程S13を実施する工程は、デバイス機能部4が有する積層構造20の形成条件(上述した混合層の影響を低減可な条件)を、サンプルを用いて予め決定する工程に対応する。この形態において、判定工程S12で判定条件を満たすと判定された後は、次のようにして有機ELデバイス1を製造する。
【0101】
すなわち、上記判定工程S12で判定条件を満たすと判定された積層構造の形成条件と同じ条件で、デバイス機能部形成工程S02において積層構造20を形成することによって、デバイス機能部4を形成する。デバイス機能部4において、複数の積層構造20が存在する場合(すなわち、第1機能層21及び第2機能層23の組み合わせが複数存在する場合)には、積層構造20毎に、積層構造形成工程S10、光学特性値取得工程S11、判定工程S12及び調整工程S13を予め実施し、各積層構造20の形成条件を決定しておけばよい。
【0102】
次に、実験結果を説明する。
【0103】
[実験例1]
実験例1では、
図1に示した層構成を有する5つの有機ELデバイスを製造した。実験例1で製造した5つの有機ELデバイスそれぞれを、デバイスD1,デバイスD2、デバイスD3、デバイスD4及びデバイスD5と称す。
【0104】
ガラス基板上に、陽極層、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層及び電子注入層を順に形成することによってデバイスD1~D5を製造した。実験例1では、正孔輸送層を第1機能層とみなし且つ発光層を第2機能層とみなした。よって、デバイスD1~D5を製造する際には発光層を塗布法で形成した。デバイスD1~D5の製造方法は、発光層の形成工程において、採用した塗布法、塗布膜の加熱温度(焼成温度)、及び、塗布膜を形成する工程から加熱工程までの移行時間が異なる点以外は、同じ条件で製造した。
【0105】
デバイスD1~D5の製造方法が有する発光層形成工程において、採用した塗布法、塗布膜の加熱温度(焼成温度)、及び、塗布工程から加熱工程までの移行時間は表1のとおりであった。表中、「Spin」はスピンコート法を意味しており、「IJ」はインクジェット印刷法を意味している。スピンコート法の場合はスピンコート成膜(回転成膜)が終了した時点で液の流動性が殆ど無視できる領域まで乾燥が進んでいる。よって、表1中のデバイスD1の移行時間は空欄としている。
【表1】
【0106】
表1に示したように、デバイスD1では、塗布膜をスピンコート法で形成しており、デバイスD2~D5では、塗布膜をインクジェット印刷法で形成した。スピンコート法で使用した塗布液に含まれている発光層用の材料と、インクジェット印刷法で使用した塗布液に含まれている発光層用の材料は同じであった。しかしながら、インクジェット印刷法に使用した塗布液の方がスピンコート法で使用した塗布液より乾燥しにくい特性を有していた。これは、インクジェット印刷法では、塗布液を塗布するノズルの詰まりを防止する塗布液を使用する必要があるためであった。このような違いにより、スピンコート法の方が、インクジェット印刷法より、塗布膜と正孔輸送層との混合が生じにくいと考えられた。そのため、デバイスD1のデバイス特性を基準として、デバイスD1のデバイス特性に対するデバイスD2~D5のデバイス特性を以下のように評価した。
【0107】
製造したデバイスD1~D5に電圧を印加して発光させ、指定輝度に対する駆動電圧を取得した。
図5は、デバイスD1の指定輝度に対する駆動電圧と、デバイスD1~D5の指定輝度に対する駆動電圧との差を示したグラフである。
図5中のD1~D5は、デバイスD1~D5を意味している。
図5の縦軸は、デバイスD1~D5それぞれの指定輝度に対する駆動電圧からデバイスD1の指定輝度に対する駆動電圧を減算した値を示している。よって、
図5において縦軸の正の方向に沿って値が大きいほど、有機ELデバイスの発光効率が低下している。
【0108】
すなわち、デバイスD1の発光効率に対して、デバイスD2及びデバイスD3は実質的にデバイスD1と同様のデバイス特性を有する一方、デバイスD4及びデバイスD5はデバイス特性が大幅に低下していた。
【0109】
図6は、製造したデバイスD1~D5に電圧を印加した場合において、印加した電圧(V)に対する電流密度(任意単位)の変化を示すグラフである。
図6からも、デバイスD1のデバイス特性を基準とした場合、デバイスD2及びデバイスD3はデバイスD1と実質的に同じデバイス特性を有していた一方、デバイスD4及びデバイスD5はデバイスD1に対して大幅にデバイス特性が低下していたことが理解され得る。
【0110】
図5及び
図6に示した結果より、表1に示したデバイスD2,D3の製造条件ではデバイスD1と同様の特性を有するデバイスが製造できる一方、デバイスD4,D5の製造条件では、デバイスD1のデバイス特性に対して大幅にデバイス特性が低下したデバイスが製造されることがわかった。
【0111】
デバイスD2~D5は、発光層を塗布法で形成する際の塗布膜の加熱温度及び移行時間が異なっていた点以外は、採用した塗布法も含めて同じ製造条件で製造されたものであった。よって、発光層を形成する際に、正孔輸送層(第1機能層)と発光層(第2機能層)との界面に形成された混合層の影響でデバイスD2~D5のデバイス特性の違いが現れており、混合層の状態は、加熱温度と移行時間を調整することで制御可能であることが理解され得る。例えば、デバイスD2とデバイスD4を比較すると、移行時間は同じである一方、加熱温度はデバイスD4の方が高い。すなわち、加熱温度を高くすると混合層がより形成され易く、結果としてデバイスのデバイス特性が低下する。デバイスD3とデバイスD5を比較すると、加熱温度は同じである一方、移行時間はデバイスD5の方が長い。すなわち、移行時間を長くすると混合層がより形成され易く、結果としてデバイスのデバイス特性が低下する。
【0112】
したがって、
図3に示した調整工程S13において、塗布工程S10aから加熱工程S10bまでの移行時間と加熱温度の少なくとも一方を調整することによって、混合層の影響を低下させ、所望のデバイス特性を有する有機ELデバイスを製造できることが理解され得る。
【0113】
[実験例2]
実験例2では、ガラス基板上に、正孔輸送層及び発光層を順に積層した3つのサンプルを製造した。製造した3つのサンプルを、サンプルS1、サンプルS2及びサンプルS3と称す。
【0114】
サンプルS1~S3の製造に使用したガラス基板は同じであった。サンプルS1が有する正孔輸送層及び発光層の形成方法は、実験例1のデバイスD1が有する正孔輸送層及び発光層の形成方法と同じであった。サンプルS2が有する正孔輸送層及び発光層の形成方法は、実験例1のデバイスD2が有する正孔輸送層及び発光層の形成方法と同じであった。サンプルS3が有する正孔輸送層及び発光層の形成方法は、実験例1のデバイスD4が有する正孔輸送層及び発光層の形成方法と同じであった。
【0115】
実験例1で説明したように、デバイスD1,D2,D4の製造方法は、デバイスD1,D2,D4が有する発光層の形成方法が異なる点以外は同じであった。従って、サンプルS1、サンプルS2及びサンプルS3の光学特性の評価は、デバイスD1,D2,D4における正孔輸送層(第1機能層)と発光層(第2機能層)の積層構造の光学特性の評価に相当した。
【0116】
実験例2でも、実験例1で説明したように、デバイスD1のデバイス特性を基準とした場合を想定した。これにより、実験例2では、サンプルS1の光学特性に対するサンプルS2,S3の光学特性を評価した。以下では、サンプルS1を基準サンプルとも称し、サンプルS2,S3を評価サンプルとも称す。実験例2では、反射率及び透過率を光学特性として測定した。
【0117】
まず、光学特性として反射率分布を採用した場合を説明する。
【0118】
製造したサンプルS1~S3に対して波長範囲380nm~480nmに対する反射率を測定した。反射率の測定方法は、
図4に示した光源33及び分光器34を含む光学系で積層構造20の反射率を測定する場合に説明した方法と同じであった。すなわち、
図4に示したように光源33と分光器34とを測定対象(サンプルS1,S2,S3)に対して同じ側に配置した光学系を用いて反射率測定を行った。反射率の測定では、光源33からの光が測定対象に対して斜め入射するように配置し、光源33の光軸に沿った光の測定対象による反射光の進行方向が分光器34の光軸の方向と実質的に一致するように分光器34を配置した。
【0119】
図7は、波長に対する反射率の変化(反射率分布)を示すグラフであり、横軸は波長(nm)を示し、縦軸は反射率(%)を示している。
【0120】
基準サンプル(サンプルS1)の波長λ(nm)に対する反射率を基準反射率Lr0(λ)[%]とし、評価サンプル(サンプルS2又はサンプルS3)の波長λ(nm)に対する反射率をLr(λ)[%]とし、以下の式(3a)で定義したR1(λ)[%]及び式(3b)で定義したR2(λ)[%]を算出した。R1(λ)は、波長λに対する評価サンプルの反射率と基準サンプルの反射率との差を基準サンプルの反射率で除した値を100倍したものである。R2(λ)は、波長λに対する評価サンプルの反射率と基準サンプルの反射率との差を100倍したものである。
R1(λ)=(Lr(λ)-Lr0(λ))/Lr0(λ)×100・・・(3a)
R2(λ)=(Lr(λ)-Lr0(λ))×100・・・(3b)
【0121】
波長λを変化させた場合のR1(λ)の変化は、
図8に示したとおりであり、波長λを変化させた場合のR2(λ)の変化は、
図9に示したとおりであった。
図8中の実線α1及び
図9中の実線α2は、R1(λ)及びR2(λ)の定義式中のLr(λ)として、サンプルS2の反射率を適用した場合を示しており、
図8中の破線β1及び
図9中の破線β2は、R1(λ)及びR2(λ)の定義式中のLr(λ)として、サンプルS3の反射率を適用した場合を示している。
図8及び
図9の横軸は波長λ(nm)を示しており、
図8の縦軸は、波長λにおけるR1(λ)の値を示しており、
図9の縦軸は波長λにおけるR2(λ)の値を示している。
【0122】
図8より、判定波長を例えば405nmとした場合、実線α1では上記判定波長に対するR1(λ)の絶対値は2.8%、すなわち、10%以下(0.1以下)である一方、破線β1では上記判定波長に対するR1(λ)の絶対値は11.4%であり、10%を超えている。したがって、判定波長が上記範囲内の波長であれば、10%を判定用基準値(或いは閾値)として、サンプルS2とサンプルS3とを分離できることが理解され得る。
【0123】
判定波長に対するR1(λ)の絶対値は、光学特性値として反射率を採用した場合の式(1a)の左辺に相当し、上記判定基準値は、条件1の第1所定値(すなわち、式(1a)のA)に相当する。サンプルS2及びサンプルS3の評価はデバイスD2及びデバイスD4の製造過程において、
図3に示した光学特性値取得工程S11で取得した光学特性値が判定条件を満たすか否かの判定に相当することから、条件1を採用する場合には第1所定値を0.1と設定しておくことで、デバイスD1と実質的に同じデバイス特性を有するデバイス(デバイスD2)か、デバイスD1に対してデバイス特性が低下したデバイス(デバイスD4)であるか否かを判定可能であることが理解され得る。更に、
図3に示した光学特性値取得工程S11で取得した光学特性値が判定条件を満たさない場合、実験例1で述べたように、塗布膜処理条件を調整することで、デバイスD1と実質的に同じデバイス特性のデバイスを製造できることがわかる。
【0124】
図9より、判定波長を405nmとした場合、実線α2では上記判定波長に対するR2(λ)は0.2%、すなわち、0.8%以下(0.008以下)である一方、破線β2では上記特性波長に対するR2(λ)は0.9%であり、0.8%を超えている。したがって、判定波長が上記範囲内の波長であれば、0.8%を判定用基準値(閾値)として、サンプルS2とサンプルS3とを分離できることが理解され得る。
【0125】
判定波長に対するR2(λ)の絶対値は、光学特性値として反射率を採用した場合の式(1b)の左辺に相当し、上記判定基準値は、条件2の第2所定値(すなわち、式(1b)のB)に相当する。サンプルS2及びサンプルS3の評価はデバイスD2及びデバイスD4の製造過程において、
図3に示した光学特性値取得工程S11で取得した光学特性値が判定条件を満たすか否かの判定に相当することから、条件2を採用する場合には第2所定値を0.008と設定しておくことで、デバイスD1と実質的に同じデバイス特性を有するデバイス(デバイスD2)か、デバイスD1に対してデバイス特性が低下したデバイス(デバイスD4)であるか否かを判定可能であることが理解され得る。更に、
図3に示した光学特性値取得工程S11で取得した光学特性値が判定条件を満たさない場合、実験例1で述べたように、塗布膜処理条件を調整することで、デバイスD1と実質的に同じデバイス特性のデバイスを製造できることがわかる。
【0126】
次に、光学特性として透過率分布を採用した場合を説明する。
【0127】
製造したサンプルS1~S3に対して波長範囲380nm~480nmに対する透過率測定した。透過率は、光学特性値取得工程S11の説明で説明したように、
図4に示した光源33と分光器34とを測定対象(サンプルS1,S2,S3)に対して互いに反対側に配置した光学系で行った。透過率の測定では、光源33からの光が測定対象に対して斜め入射するように配置し、光源33の光軸上に、分光器34を配置した。
【0128】
図10は、波長に対する透過率の変化(透過率分布)を示すグラフであり、横軸は波長(nm)を示し、縦軸は透過率(%)を示している。
【0129】
基準サンプル(サンプルS1)の波長λ(nm)に対する透過率を基準透過率Lt0(λ)[%]とし、評価サンプル(サンプルS2又はサンプルS3)の波長λ(nm)に対する透過率をLt(λ)[%]とし、以下の式(4a)で定義したT1(λ)[%]及び式(4b)で定義したT2(λ)[%]を算出した。T1(λ)は、波長λに対する評価サンプルの透過率と基準サンプルの透過率との差を基準サンプルの透過率で除した値を100倍したものである。T2(λ)は、波長λに対する評価サンプルの透過率と基準サンプルの透過率との差を100倍したものである。
T1(λ)=(Lt(λ)-Lt0(λ))/Lt0(λ)×100・・・(4a)
T2(λ)=(Lt(λ)-Lt0(λ))×100・・・(4b)
【0130】
波長λを変化させた場合のT1(λ)の変化は、
図11に示したとおりであり、波長λを変化させた場合のT2(λ)の変化は、
図12に示したとおりであった。
図11中の実線α3及び
図12中の実線α4は、T1(λ)及びT2(λ)の定義式中のLt(λ)として、サンプルS2の透過率を適用した場合を示しており、
図11中の破線β3及び
図12中の破線β4は、T1(λ)及びT2(λ)の定義式中のLt(λ)として、サンプルS3の透過率を適用した場合を示している。
図11及び
図12の横軸は波長λ(nm)を示しており、
図11の縦軸は、波長λにおけるT1(λ)の値を示しており、
図12の縦軸は波長λにおけるT2(λ)の値を示している。
【0131】
図11より、判定波長を385nmとした場合、実線α3では上記判定波長に対するT1(λ)の絶対値は0.1%、すなわち、0.9%以下(0.009以下)である一方、破線β3では上記判定波長に対するT1(λ)の絶対値は1.0%であり、0.9%を超えている。したがって、判定波長が上記範囲内の波長であれば、0.9%を判定用基準値(或いは閾値)として、サンプルS2とサンプルS3とを分離できることが理解され得る。
【0132】
判定波長に対するT1(λ)の絶対値は、光学特性値として透過率を採用した場合の式(1a)の左辺に相当し、上記判定基準値は、条件1の第1所定値(すなわち、式(1a)のA)に相当する。サンプルS2及びサンプルS3の評価はデバイスD2及びデバイスD4の製造過程において、
図3に示した光学特性値取得工程S11で取得した光学特性値が判定条件を満たすか否かの判定に相当することから、条件1を採用する場合には第1所定値を0.009と設定しておくことで、デバイスD1と実質的に同じデバイス特性を有するデバイス(デバイスD2)か、デバイスD1に対してデバイス特性が低下したデバイス(デバイスD4)であるか否かを判定可能であることが理解され得る。更に、
図3に示した光学特性値取得工程S11で取得した光学特性値が判定条件を満たさない場合、実験例1で述べたように、塗布膜処理条件を調整することで、デバイスD1と実質的に同じデバイス特性のデバイスを製造できることがわかる。
【0133】
図12より、判定波長を385nmとした場合、実線α4では上記判定波長に対するT2(λ)の絶対値は0.1%、すなわち0.6%以下(0.006以下)である一方、破線β4では上記判定波長に対するT2(λ)の絶対値は0.7%であり、0.6%を超えている。したがって、判定波長が上記範囲内の波長であれば、0.6%を判定用基準値(或いは閾値)として、サンプルS2とサンプルS3とを分離できることが理解され得る。
【0134】
判定波長に対するT2(λ)の絶対値は、光学特性値として透過率を採用した場合の式(1b)の左辺に相当し、上記判定基準値は、条件2の第2所定値(すなわち、式(1b)のB)に相当する。サンプルS2及びサンプルS3の評価はデバイスD2及びデバイスD4の製造過程において、
図3に示した光学特性値取得工程S11で取得した光学特性値が判定条件を満たすか否かの判定に相当することから、条件2を採用する場合には第2所定値を0.006と設定しておくことで、デバイスD1と実質的に同じデバイス特性を有するデバイス(デバイスD2)か、デバイスD1に対してデバイス特性が低下したデバイス(デバイスD4)であるか否かを判定可能であることが理解され得る。更に、
図3に示した光学特性値取得工程S11で取得した光学特性値が判定条件を満たさない場合、実験例1で述べたように、塗布膜処理条件を調整することで、デバイスD1と実質的に同じデバイス特性のデバイスを製造できることがわかる。
【0135】
以上、本発明の種々の実施形態を説明した。しかしながら、本発明は、例示した種々の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0136】
光学特性値取得工程は、塗布法で形成される第2機能層を形成した後、第2電極層形成工程が実施される前までに行われればよい。すなわち、光学特性取得工程で光学測定を行う測定対象である積層構造は、第1機能層と第2機能層の2層構造に限定されず、3層以上を有していてもよい。ただし、上記測定対象である積層構造は、第1機能層と第2機能層の2層構造であることが、第2機能層の形成条件へのフィードバックが容易であるため、好ましい。デバイス機能部において第1機能層及び第2機能層の組み合わせが複数存在する場合、少なくとも一つの第1機能層及び第2機能層に対して、
図3及び
図4を用いて説明した工程が実施されればよい。この場合でも、少なくとも一つの第1機能層及び第2機能層の組における混合層の影響が低減されるからである。
【0137】
これまでの説明では、
図3に示した光学特性値取得工程S11では、分光計測によって、一定の波長範囲に対して光学特性を取得した後、判定波長に対する光学特性値を特定した。しかしながら、判定波長に対する光学特性値を取得できれば、上記方法に限定されない。例えば、判定波長の光を利用して光学特性値を取得してもよい。
【0138】
図2に例示した製造方法は、陽極層形成工程S01、有機EL部形成工程S02及び陰極層形成工程S03を備える。しかしながら、例えば陽極層が予め形成された基板を準備しておけば、陽極層形成工程S01は不要である。すなわち、有機ELデバイスの製造方法は、有機EL部形成工程S02及び陰極層形成工程S03を備えればよい。
【0139】
第1の電極層が陽極層であり、第2の電極層が陰極層である形態を説明したが、第1の電極層が陰極層であり、第2の電極層が陽極層でもよい。
【0140】
本発明は、有機ELデバイス以外の有機電子デバイス、例えば、有機太陽電池、有機フォトディテクタ、有機トランジスタなどを製造する場合にも適用可能である。更に、本発明は、デバイス機能部が有する全ての機能層が無機材料によって構成されている電子デバイスの製造にも適用可能である。
【符号の説明】
【0141】
1…有機ELデバイス(有機電子デバイス)、2…基板、3…陽極層(第1電極層)、4…デバイス機能部、4a…正孔注入層(機能層)、4b…正孔輸送層(機能層)、4c…発光層(機能層)、4d…電子輸送層(機能層)、4e…電子注入層(機能層)、5…陰極層(第2電極層)。