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  • 特許-鋼材に含まれる介在物径の予測方法 図1
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  • 特許-鋼材に含まれる介在物径の予測方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】鋼材に含まれる介在物径の予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/32 20060101AFI20241114BHJP
   G01N 29/04 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
G01N3/32
G01N29/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021032403
(22)【出願日】2021-03-02
(65)【公開番号】P2022133622
(43)【公開日】2022-09-14
【審査請求日】2024-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片山 悟
(72)【発明者】
【氏名】藤松 威史
(72)【発明者】
【氏名】杉本 隼之
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-215227(JP,A)
【文献】特開2001-242146(JP,A)
【文献】特開2020-034292(JP,A)
【文献】特開2004-093227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/32
G01N 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)鋼材から第一試験片を採取するステップ、
(B)上記第一試験片を超音波探傷試験に供し、介在物の存在が推測される箇所である検出箇所を特定するステップ、
(C)上記第一試験片から、上記検出箇所を含む第二試験片を採取するステップ、
(D)上記第二試験片を超音波疲労試験に供してこの第二試験片を破断させ、破断面を得るステップ、
(E)上記破断面上の起点部に存在する介在物のサイズを測定するステップ、
及び
(F)上記(A)~(E)のステップを複数行い、得られた複数の介在物サイズに基づいて、統計的手法により、超音波探傷試験により探傷を行った体積よりも大きな体積の上記鋼材の中に存在する最大介在物のサイズを導出するステップ
を含む、最大サイズの予測方法。
【請求項2】
上記ステップ(F)における統計的手法が極値統計法である、請求項1に記載の予測方法。
【請求項3】
上記ステップ(B)の上記超音波探傷試験において、周波数が10MHz以上25MHz以下である超音波が上記第一試験片に入射される、請求項1又は2に記載の予測方法。
【請求項4】
上記ステップ(B)において、上記超音波探傷試験に供される第一試験片の評価体積が100,000mm3以上である、請求項1から3のいずれかに記載の予測方法。
【請求項5】
上記ステップ(D)の超音波疲労試験において、応力が550MPa以上である荷重が第二試験片に負荷される、請求項1から4のいずれかに記載の予測方法。
【請求項6】
鋼材から第一試験片を採取するステップ、
上記第一試験片を超音波探傷試験に供し、介在物の存在が予測される箇所である検出箇所を特定するステップ、
及び
上記第一試験片から、ストレート部を伴うダンベル状の形状を有しており、このストレート部に上記検出箇所を含んでおり、超音波疲労試験に供される、第二試験片を採取するステップ
を含む、試験片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材の中に存在する介在物の最大径(最大サイズ)を予測する方法に関する。詳細には、本発明は、超音波探傷試験及び超音波疲労試験の組合せにより、介在物の最大サイズを予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度鋼からなる軸受は、使用中に破壊を起こすことがある。この破壊の原因の1つは、軸受の使用中に転がり疲れと称する疲労を繰り返し受けることにより、鋼中の非金属介在物に応力集中が起こることによる。この非金属介在物は、鋼の製造工程において不可避的に生成する。介在物周辺への応力集中の影響範囲は、非金属介在物のサイズと相関すると考えられる。したがって軸受の寿命を想定する上で、このサイズを把握することは重要である。また、軸受以外の鋼製部品の寿命を想定する上でも、非金属介在物のサイズを把握することは重要である。特に、存在する複数の非金属介在物の中で、最も大きい非金属介在物の径(最大径)を把握することは、部品の信頼性を確保する観点から重視される。
【0003】
1993年発行の「金属疲労 微小欠陥と介在物の影響(養賢堂、村上敬宜著)」には、基準体積内の最大介在物径を、検鏡と極値統計法とによって予測する方法が開示されている。
【0004】
特開2009-281738公報には、鋼中の介在物の最大径を予測する方法が開示されている。この方法では、超音波疲労試験による破壊面に存在する介在物の径が実測される。この径の値に基づき極値統計法により、最大径が算出される。
【0005】
特開2020-34292公報にも、超音波疲労試験と極値統計法とによって介在物の最大径を予測する方法が開示されている。この方法では、水素がチャージされた試験片が、超音波疲労試験に供される。水素のチャージは、水素脆化を利用して試験片の破壊を促進する目的で行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-281738公報
【文献】特開2020-34292公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】1993年発行の「金属疲労 微小欠陥と介在物の影響(養賢堂、村上敬宜著)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
軸受等の鋼製部品において、極値統計法を用いて予測された非金属介在物の最大径に基づいて想定される寿命よりも早期に疲労破壊が起こる場合がある。このような疲労破壊は、大量生産された鋼製部品において疲労の影響を受ける体積が、予測に際して検査した体積よりも大きくなり、予測された最大径よりも大きい径を有する非金属介在物が含まれる場合があることが、原因である。したがって、最大径を予測する従来の方法には、精度の点で改善の余地がある。
【0009】
多数の断面観察を行って、介在物の径が実測されれば、精度よく最大径が予測されうる。しかし、多数の断面における径の実測作業には、手間がかかり、現実的ではない。
【0010】
本発明の目的は、効率よくかつ精度よく、大体積の鋼材中の介在物の最大サイズが予測されうる、方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る最大サイズの予測方法は、
(A)鋼材から第一試験片を採取するステップ、
(B)上記第一試験片を超音波探傷試験に供し、介在物の存在が推測される箇所である検出箇所を特定するステップ、
(C)上記第一試験片から、上記検出箇所を含む第二試験片を採取するステップ、
(D)上記第二試験片を超音波疲労試験に供してこの第二試験片を破断させ、破断面を得るステップ、
(E)上記破断面上の起点部に存在する介在物のサイズを測定するステップ、
及び
(F)上記(A)~(E)のステップを複数回行い、得られた複数個の介在物のサイズに基づいて、統計的手法により、超音波探傷試験により探傷を行った体積に比べて大きな体積の上記鋼材の中に存在する最大介在物のサイズを導出するステップ
を含む。
【0012】
好ましくは、ステップ(F)における統計的手法は、極値統計法である。
【0013】
好ましくは、ステップ(B)の超音波探傷試験において、周波数が10MHz以上25MHz以下である超音波が第一試験片に入射される。
【0014】
好ましくは、ステップ(B)において、超音波探傷試験に供される第一試験片の評価体積は、100,000mm以上である。
【0015】
好ましくは、ステップ(D)の超音波疲労試験において、応力が550MPa以上である荷重が第二試験片に負荷される。
【0016】
他の観点によれば、本発明に係る試験片の製造方法は、
鋼材から第一試験片を採取するステップ、
この第一試験片を超音波探傷試験に供し、介在物の存在が予測される箇所である検出箇所を特定するステップ、
及び
この第一試験片から、検出箇所を含む第二試験片を採取するステップ
を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る方法により、鋼材中の介在物の最大サイズが精度よく予測されうる。また、この方法は、大体積の評価手段として高効率である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る予測方法が示されたフローチャートである。
図2図2は、図1の予測方法に用いられる第一試験片の一例が示された斜視図である。
図3図3は、図1の予測方法に用いられる第二試験片の一例が示された斜視図である。
図4図4は、図3のIV-IV線に沿った拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0020】
図1に示された予測方法では、まず棒鋼が準備される(STEP1)。この棒鋼は、介在物の最大サイズが予測される対象である。棒鋼に代えて、他の形状を有する鋼材が準備されてもよい。
【0021】
この棒鋼から、第一試験片2が採取される(STEP2)。この第一試験片2が、図2に示されている。この第一試験片2は、円柱形状を有している。ここで示した事例の第一試験片2では、直径は63mmであり、長さは250mmである。この第一試験片2の評価体積は試験片の径および長さと超音波探傷装置での探傷可能長さ、探傷領域(超音波探傷における鋼材表面の不感帯を除いた探傷可能領域に応じる)により決定される。この評価体積を基準評価体積とする。基準評価体積は、実施にあたり適宜変更しても良い。この第一試験片2は、素材となる棒鋼等に切削加工、塑性加工等が施されて得られる。加工に先立ち、棒鋼等に加工を容易にしたり、超音波探傷時の超音波の減衰を抑えたりするための熱処理が施されてもよい。熱処理としては、たとえば焼ならしであり、焼なましや球状化焼なましであってもよい。これらの熱処理の条件は、検査を行う鋼材の化学成分をもとに決定される。その条件決定の手段として熱力学計算ソフトウェアによる平衡状態図の計算や、予備実験による検証が利用されうるし、既にそれらの条件が文献や資料などで公知の鋼種はそれを利用すればよい。第一試験片2の形状は、円柱には限られない。種々の形状が、第一試験片2に採用されうる。
【0022】
この第一試験片2が、超音波探傷試験に供される(STEP3)。超音波探傷試験のための装置には、超音波探触子が備わる。この探触子から、超音波が発せられる。この超音波は、第一試験片2に入射する。第一試験片2に非金属介在物等の内部欠陥がある場合、超音波がこの内部欠陥で反射される。この反射で生じた反射波(内部欠陥からのエコー)が探触子で感知されることで、内部欠陥が検出される。探触子は第一試験片2に対して移動しつつ、超音波を発することで、第一試験片2の広範囲にわたって検査がなされ、単一の内部欠陥、もしくは複数の内部欠陥が検出される。複数の内部欠陥が検出された場合は、その欠陥からの反射波強度(エコーの高さ)にもとづいて測定体積内で最大の内部欠陥を一つ特定する。
【0023】
超音波探傷試験として、直接接触法及び水浸探傷法が採用されうる。ここでは超音波の安定した送受信が可能であるとの観点から、水浸探傷法が好ましい。超音波探傷試験において探触子から発せられる超音波の周波数は、10MHz以上25MHz以下が好ましい。より望ましくは内部欠陥の検出精度の高い20MHz以上である。第一試験片2の表面からの、超音波探触子の鋼中での焦点深さは、後述のように、第一試験片2に引き続いて第二試験片4を加工し、その試験片中に第一試験片2で検出した内部欠陥を包含させることを鑑みて、鋼材表面から5mm程度もしくはそれ以上とすることが好ましい。
【0024】
超音波探傷試験により、内部欠陥が存在する箇所が特定される。換言すれば、介在物の存在が推測される箇所(検出箇所)が特定される。そのうち最大のものとみられる検出箇所には、マーキングを行う(STEP4)。マーキングは、第一試験片2の表面に描かれうる。マーキングが、位置を特定するための電子的な記録によって達成されてもよい。これは、第一試験片2のマーキング位置の情報がそれにつづく第二試験片4を加工するための加工装置の加工位置情報として反映可能な場合に利用される。
【0025】
この第一試験片2から、第二試験片4が採取される(STEP5)。この採取では、前述のマーキング位置が参考にされつつ、第一試験片2が加工される。具体的には、検出箇所が第二試験片4に含まれるように、加工がなされる。1つの第一試験片2から、1つの第二試験片4が採取されうる。加工の手順の具体例として、粗加工、焼入れ焼戻し及び仕上加工が挙げられる。粗加工では、第一試験片2に切削加工等が施される。第二試験片4の焼入焼戻しによる硬さの目安としては、450HV以上を確保することが好ましく、これは硬さが450HVより低いと、水素チャージを行ったとしても、超音波疲労試験により介在物から破断させることができない場合があるためである。より好ましくは500HV以上である。なお、内部欠陥の存在する箇所によっては第一試験片2から、第二試験片4を採取できない場合が起こり得るが、その場合はその第一試験片2は、評価に含めない。
【0026】
超音波疲労試験に供される第二試験片4の一例が、図3及び4に示されている。第二試験片4は、ストレート部を伴うダンベル状の形状を有している。第二試験片4は、中央部6と一対の太径部8と、一方の端部の雄ねじ部を有している。雄ねじ部は後述の超音波疲労試験における超音波疲労試験機のホーンに接続する部分である。中央部6は、ストレート部10と一対のテーパー部12とを有している。図3、4に示された第二試験片4の採取において、ストレート部10に検出箇所が含まれるよう、加工がなされる。ストレート部10を有する第二試験片4には、第一試験片2に包含されていた最大の内部欠陥を内包するようにしてなることから、この場合の実際の評価体積は、第二試験片4のストレート部の体積ではなく、第一試験片2の超音波探傷試験における評価体積(基準評価体積)とみなすことができる。なお、第二試験片4の形状は本実施形態の形状には限らず、他の形状が採用されてもよい。
【0027】
続いて、この第二試験片4の共振周波数が、確認される(STEP6)。超音波疲労試験機の超音波ホーンに接続された第二試験片4について、共振周波数が基準周波数と対比され、合否が判定される(STEP7)。基準周波数は、後に詳説される超音波疲労試験において第二試験片4に与えられる超音波振動の周波数である。合否判定は、共振周波数と基準周波数との乖離の程度に基づいてなされる。例えば、超音波疲労試験機の基準周波数が、20,000Hzである場合、共振周波数が19,800Hz以上20,200Hz以下である第二試験片4は、合格である。共振周波数が19,800Hz未満である第二試験片4、及び共振周波数が20,200Hzを超える第二試験片4は、不合格である。さらに厳格な基準によれば、共振周波数が19,970Hz以上20,030Hz以下である第二試験片4は、合格であるとする。不合格である第二試験片4は、加工によって修正がなされる(STEP8)。典型的な修正は、第二試験片4の長さの変更である。長さの変更により、この第二試験片4の共振周波数が変動する。修正された第二試験片4の共振周波数が、再度確認され(STEP6)、合否が判定される(STEP7)。不合格である第二試験片4が、修正されることなく廃棄されてもよい。
【0028】
合格した第二試験片4に、水素がチャージされる(STEP9)。このチャージにより、第二試験片4に水素脆化が生じうる。水素脆化が生じた第二試験片4は、後に詳説される超音波疲労試験において、小さい応力でかつ少ない繰り返しサイクル数で破断しうる。水素チャージは、この超音波疲労試験による破断の容易化と破断の迅速化を目的として行われる。
【0029】
水素のチャージの方法として、
(1)電解液への第二試験片4の浸漬
(2)高圧の水素ガス中への第二試験片4の暴露
及び
(3)電解液中での第二試験片4を陰極とした電気分解
が例示される。水素のチャージに、その他の方法が採用されてもよい。電気分解の場合、例えば、純水に3%の塩化ナトリウムと0.3%のチオシアン酸アンモニウムとが添加された電解液が使用されうる。鋼への水素原子の拡散係数は、温度依存性を有する。従って、室温よりも高い温度の電解液が用いられれば、高効率、すなわちより短時間でチャージがなされうる。十分に大きな内部欠陥が第二試験片4に包含される場合は、破断が容易になるため、水素のチャージ(STEP9)が省略されてもよい。
【0030】
水素のチャージの後の第二試験片4が、超音波疲労試験に供される(STEP10)。チャージ(STEP9)で第二試験片4に導入された水素は、徐々に大気へと放出される。放出により、第二試験片4に含まれる水素の量が、徐々に減少する。ただし、チャージ(STEP9)から短時間で超音波疲労試験(STEP10)が行われれば、十分な水素を含む第二試験片4が、超音波疲労試験に供されうる。したがって、水素脆化が生じる状態での試験を行いうる。
【0031】
超音波疲労試験では、超音波ホーンに接続された第二試験片4に対し、超音波振動による引張荷重及び圧縮荷重が、交互に繰返し負荷される。これらの荷重の作用方向は、第二試験片4の軸方向である。荷重の負荷にともない、第二試験片4に応力が発生する。このとき、好ましくは、550MPa以上の応力が発生するように、第二試験片4に荷重が負荷される。なお、この応力は後述するような第二試験片4の超音波疲労試験中の発熱が抑制されることを前提に、迅速破断を促進するためにさらに高い応力に調整して良い。
【0032】
超音波疲労試験の間、繰り返し応力の負荷に起因した内部摩擦により発熱し、第二試験片4が昇温する。この昇温は、第二試験片4からの水素の放出を助長し、また、試験片の脆性的な破断を阻害し、試験の完遂を妨げる。したがって、昇温は、抑制される必要がある。冷却されたエアーが第二試験片4に吹き付けられることで、昇温は抑制されうる。さらに、超音波振動が第二試験片4に間欠的に入力されることでも、昇温が抑制されうる。摩擦による昇温の程度は試験片の硬さや合金の組成に依存するので、適切な荷重を選択して、負荷することでも摩擦熱を抑制し、昇温を抑制することができる。通常は、エアーの吹き付けと超音波振動の間欠入力と試験荷重の適切な荷重選択のいずれもが行われる。
【0033】
荷重が負荷された第二試験片4では、非金属介在物に応力が集中する。荷重の負荷が繰り返されることにより、第二試験片4の評価体積(図3に例示された試験片の場合は直径6mmのストレート部の体積を指す)に含まれる最大の非金属介在物から疲労破壊が起こる。この疲労破壊により第二試験片4が破断し、破断面が得られる。通常、破断は荷重方向(第二試験片4の軸方向)に垂直な面で生じる。この破断の起点部を観察することにより、破断の起因となった非金属介在物を観測することができる。非金属介在物が起点部に現れない場合も生じうるが、その場合の試験結果は以降で行う極値統計法による解析データには含めない。
【0034】
この破断面上の起点部に存在する非金属介在物の径が、測定される(STEP11)。この測定は、通常は走査型電子顕微鏡(SEM)によってなされうる。非金属介在物の径(サイズ)の測定方法としては、観察断面における介在物の長径と短径を掛け合わせたものの平方根((長径×短径)1/2)として求めても良いし、観察画像の解析により介在物の断面積を算出して、それを円相当径に換算したものであっても良い。また、径の測定以外にも走査型電子顕微鏡に付属させたエネルギー分散型X線分析装置や波長分散型X線分析装置を用いて介在物の化学組成が分析されてもよい。これは、鋼材に含まれる介在物の特徴を示すデータとして活用されうる。
【0035】
複数の第一試験片2から採取された複数の第二試験片4に対する超音波疲労試験(STEP10)を行うことにより、複数の破断面が得られる。これらを観察することにより、複数の非金属介在物の径が測定される。これらの非金属介在物の径のデータ群、および基準評価体積(超音波探傷試験による第一試験片2の1本あたりの評価体積)に基づいて、統計的手法により、棒鋼に存在する最大介在物の径が導出される(STEP12)。ここでは典型的な統計的手法として、極値統計法を用いる。極値統計法によって、極値分布モデルに基づき、便宜的に定める予測体積内の非金属介在物の径の最大値が導出される。換言すれば、棒鋼に含まれうる最大介在物の径が、予測される。
【0036】
1つの第二試験片4の、超音波疲労試験での負荷応力の90%以上の応力が作用する領域の体積(「超音波疲労試験の評価体積」)が、本来であれば評価体積とみなされるが、前述の通り、ここでは第二試験片4を取り出した元の第一試験片2から、その超音波探傷試験における評価体積内の最大の介在物が内包させるようにして第二試験片4を取り出すのであるから、第一試験片2の1本あたりの超音波探傷試験における評価体積を実質的な「超音波疲労試験の評価体積」とみなすことができる。この評価体積は、最大介在物の径の予測における基準評価体積となる。
【0037】
本発明では、本来極めて小さい体積に過ぎない「超音波疲労試験の評価体積」に関し、棒鋼が超音波探傷試験(STEP3)に供されて、それによる極めて大きな体積のうち超音波疲労試験(STEP10)の対象箇所(最大介在物の存在が期待される箇所)が特定され、そこから、超音波疲労試験片を取り出すことから、極めて大きい体積領域が、実質的な最大介在物の径の予測を目的とした評価の対象領域となる。
【0038】
このように、極めて大きくすることが容易な「超音波探傷試験の評価体積」を最大介在物径の予測を目的とした評価の対象領域とする工夫により、本発明に係る予測方法では、最大介在物の径が、精度よく予測されることになる。一方、それを評価するために用いる超音波疲労試験片は小さくすることができるため、超音波疲労試験には既に市販されているような装置を利用することができ、したがって容易に実現されうる。また、試験時間(試験片の破断に要する時間)についても超音波疲労試験ならびに試験片への水素チャージによる脆化作用を併用できることから迅速に破断させることができる。従って、本発明に係る予測方法では、最大介在物の径が、効率よく予測される。さらに本発明に係る予測方法は、精度及び効率の両方に優れる。
【0039】
精度の観点から、超音波探傷試験に供される第一試験片2の評価体積は、100,000mm以上が好ましい。より好ましくは200,000mm以上である。
【0040】
本発明は、試験片の製造方法にも向けられる。この製造方法は、
鋼材から第一試験片2を採取するステップ、
この第一試験片2を超音波探傷試験に供し、介在物の存在が予測される箇所である検出箇所を特定するステップ、
及び
この第一試験片2から、検出箇所を含む第二試験片4を採取するステップ
を含む。
【0041】
この製造方法により、簡便に試験片が得られる。この試験片は、高精度の介在物大きさ評価に寄与しうる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係る予測方法は、鋼材に関して適用されうる。
【符号の説明】
【0043】
2・・・第一試験片
4・・・第二試験片
6・・・中央部
8・・・太径部
10・・・ストレート部
12・・・テーパー部
図1
図2
図3
図4