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特許7588117酸素同位体標識化合物及び酸素同位体標識化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】酸素同位体標識化合物及び酸素同位体標識化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 209/48 20060101AFI20241114BHJP
   C07C 251/24 20060101ALI20241114BHJP
   C07C 249/02 20060101ALI20241114BHJP
   C07B 59/00 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
C07D209/48 CSP
C07C251/24
C07C249/02
C07B59/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022103618
(22)【出願日】2022-06-28
(65)【公開番号】P2024004127
(43)【公開日】2024-01-16
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】染谷 巧
(72)【発明者】
【氏名】中山 栄希
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/113471(WO,A1)
【文献】特開2020-037545(JP,A)
【文献】Journal of Labelled Compounds and Radiopharmaceuticals,1987年,24(7),773-778
【文献】天然有機化合物討論会講演要旨集,1989年,31st,677-684
【文献】THE JOURNAL OF ANTIBIOTICS,1995年,48(9),1015-20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 209/48
C07C 251/24
C07C 249/02
C07B 59/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される酸素同位体標識化合物。
【化1】
式(1)中、Yは18O又は17Oであり、Yとして示す酸素同位体の同位体濃縮度が天然存在比を超えており、Rは1価の炭化水素基である。
【請求項2】
式(2)で表される酸素同位体標識化合物。
【化2】
式(2)中、Yは18O又は17Oであり、Yとして示す酸素同位体の同位体濃縮度が天然存在比を超えており、R1は1価の炭化水素基であり、Rは、それぞれ独立に、水素原子、重水素原子、炭素数1~2のアルキル基、炭素数1~2のアルコキシ基及びハロゲン原子からなる群から選択されるいずれか1つの基又は原子であり、nは、それぞれ独立に、1~5の整数である。
【請求項3】
式(3)で表される化合物と酸素同位体標識水とを反応させた後に金属アルコキシドと反応させ、式(4)で表される化合物を反応させ、式(1)で表される化合物を得る、酸素同位体標識化合物の製造方法。
【化3】
式(1)中、Yは18O又は17Oであり、Yとして示す酸素同位体の同位体濃縮度が天然存在比を超えており、式(1)及び式(4)中、Rは1価の炭化水素基であり、式(4)中、Xは、臭素原子を表す
【請求項4】
式(1)で表される化合物と式(5)で表される化合物とを反応させ、式(6)で表されるベンゾフェノンイミン化合物と反応させ、式(2)で表される化合物を得る、酸素同位体標識化合物の製造方法。
【化4】
式(1)及び式(2)中、Yは18O又は17Oであり、Yとして示す酸素同位体の同位体濃縮度が天然存在比を超えており、Rは1価の炭化水素基であり、式(2)及び式(6)中、Rは、それぞれ独立に、水素原子、重水素原子、炭素数1~2のアルキル基、炭素数1~2のアルコキシ基及びハロゲン原子からなる群から選択されるいずれか1つの基又は原子であり、nは、それぞれ独立に、1~5の整数であり、式(5)中、Zは水素原子又メチル基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素同位体標識化合物及び酸素同位体標識化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界の酸素同位体は、16Oが99.759atom%、17Oが0.037atom%、18Oが0.204atom%の割合で存在している。これらのうち同位体重成分である18Oにより重酸素化された同位体標識化合物は、質量分析法により定量分析する際の内部標準物質として、医薬、農薬生化学等の分野で有用である。
この種の安定同位体元素としては重水素の利用が多いが、化合物によっては重水素置換が難しい、重水素置換だけでは同位体標識数が不足する、等の課題がある。また、同位体効果の弊害も指摘されている。そのため、近年は酸素同位体18Oを標識に利用することが注目されている。
酸素は炭素や窒素と同様に質量数が水素より大きいため、標識体の理化学的物性が非標識体により近似する、18Oであれば1標識あたりの質量数の増加として2個、2標識であれば4個分を得られる、炭素の同位体である13Cや窒素の同位体である15Nと比較して安価である、などの大きなメリットがあるにもかかわらず、実際に使用される頻度は低い。その理由として、重水素標識化合物、炭素同位体標識化合物、及び地窒素同位体標識化合物に比べ、市販されている酸素同位体化合物の種類が極端に少ないことが挙げられる。また、18O導入に際しては、16O水の影響を受けない厳密な反応条件の設定が必須である。
市販の酸素同位体標識試薬は極めて少なく種類も限られていることから、常用されている既知の反応条件を踏襲できる酸素同位体標識試薬の提供が望まれている。既知反応に適用できることの意味は、予備検討が簡略化できる大きなメリットにある。
酸素同位体標識試薬の中でも酸素同位体標識アミノ酸は、タンパク質のプロテオーム解析に用いられており、タンパク質やペプチドサンプルに酸素同位体標識アミノ酸を内部標準物質として導入し、質量分析をする手法として利用されている。
【0003】
非特許文献1には、カルボキシル基を有するアミノ酸の酸素同位体標識方法として、H 18Oを塩化水素ガスで飽和させた強酸条件下でアミノ酸を反応させることで、カルボキシル基中の酸素原子を同位体酸素と交換させる方法が開示されている。
【0004】
非特許文献2には、グリシンエステルベンゾフェノンシッフ塩基を、求核剤となる有機化合物、触媒、塩基性化合物の存在下で反応させることで、α-アミノ酸等価体を合成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Ponnusamy, E., Jones, C. R., and Fiat, D., Synthesis of oxygen 18 isotope labeled amino acids and dipeptides and its effect on carbon 13 nmr, Journal of Labelled Compounds and Radiopharmaceuticals, 1986, Vol. 14, No. 7, pp. 773-778.
【文献】O’Donnell, M. J., The Preparation of Optically Active α-Amino Acids from the Benzophenone Imines of Glycine Derivatives, Aldrichimica Acta, 2001, Vol. 34, No. 1, pp. 3-15.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に開示された技術には、アミノ酸骨格中のカルボキシル基の酸性条件下での交換反応ではトリプトファン、システイン、アスパラギン、グルタミン等のアミノ酸では分解が起こる等の問題があった。
一方、非特許文献2に開示された技術で用いられるグリシンエステルベンゾフェノンシッフ塩基は、所定の有機化合物と共に触媒と塩基性化合物の存在下で反応させることで、所望のα-アミノ酸等価体を得ることができることから、アスパラギンやグルタミン等の様々なα-アミノ酸の合成原料となりうる有用な化合物である。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、酸素同位体標識α-アミノ酸等価体の原料試薬として有用な酸素同位体標識化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 式(1)で表される酸素同位体標識化合物。
【化1】
式(1)中、Yは18O又は17Oであり、Rは1価の有機基である。
[2] 式(2)で表される酸素同位体標識化合物。
【化2】
式(2)中、Yは18O又は17Oであり、R1は1価の有機基であり、Rは、それぞれ独立に、水素原子、重水素原子、炭素数1~2のアルキル基、炭素数1~2のアルコキシ基及びハロゲン原子からなる群から選択されるいずれか1つの基又は原子であり、nは、それぞれ独立に、1~5の整数である。
[3] 酸素同位体濃縮度が天然存在比以上である混合ガス。[1]又は[2]に記載の酸素同位体標識化合物。
[4] 式(3)で表される化合物と酸素同位体標識水とを反応させた後に金属アルコキシドと反応させ、式(4)で表される化合物を反応させ、式(1)で表される化合物を得る、酸素同位体標識化合物の製造方法。
【化3】
式(1)中、Yは18O又は17Oであり、式(1)及び式(4)中、Rは1価の有機基である。
[5] 式(1)で表される化合物と式(5)で表される化合物とを反応させ、式(6)で表されるベンゾフェノンイミン化合物と反応させ、式(2)で表される化合物を得る、酸素同位体標識化合物の製造方法。
【化4】
式(1)及び式(2)中、Yは18O又は17Oであり、Rは1価の有機基であり、式(2)及び式(6)中、Rは、それぞれ独立に、水素、重水素、炭素数1~2のアルキル基、炭素数1~2のアルコキシ基及びハロゲン原子からなる群から選択されるいずれか1つの基又は原子であり、nは、それぞれ独立に、1~5の整数であり、式(5)中、Zは水素原子又メチル基である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、酸素同位体標識α-アミノ酸等価体の原料試薬として有用な酸素同位体標識化合物を提供する。より具体的には、本発明は、酸素同位体原子が2つ導入された酸素同位体標識グリシンエステルベンゾフェノンシッフ塩基(式(2))及びその原料となる酸素同位体標識フタルイミド酢酸エステル(式(1))を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は後述する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の変形が可能である。
【0011】
本明細書における用語の意味及び定義は、以下のとおりである。
「~」で表される数値範囲は、~の前後の数値を下限値及び上限値とする数値範囲を意味する。
「酸素同位体(18O)濃縮度」又は単に「酸素同位体濃縮度」は、化合物を構成する特定の酸素原子又はすべての酸素原子が、酸素同位体18Oからなる割合(atom%)を意味する。
【0012】
[酸素同位体標識フタルイミド酢酸エステル]
本発明の第一の実施形態は、式(1)で表される酸素同位体標識フタルイミド酢酸エステル及びその製造方法である。
<化合物>
【0013】
【化5】
【0014】
式(1)中、Yは18O又は17Oである。
式(1)で表される酸素同位体標識フタルイミド酢酸エステルは、Yとして示す酸素同位体の同位体濃縮度(存在比)が、天然存在比である0.204atom%を超えることが好ましく、70atom%以上であることがより好ましい。すなわち、式(1)で表される酸素同位体標識フタルイミド酢酸エステルは、酸素同位体標識α-アミノ酸等価体の原料試薬として利用するため、同位体濃縮度が100atom%に近いほど好ましい。
なお、同位体濃縮度は、特開2006-8666号公報における実施例2と同様の計算方法、具体的には、EI-MS(電子イオン化質量分析:electron ionization mass spectrometry)におけるピーク面積値を用いて求める。
【0015】
式(1)中、Rは1価の有機基である。
前記1価の有機基としては、1価の炭化水素基が好ましい。
前記1価の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基が好ましく、アルキル基又はアリール基がより好ましい。
前記アルキル基としては、炭素数1~5のアルキル基が好ましい。
前記炭素数1~5のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基(プロピル基)、イソプロピル基(1-メチルエチル基)、n-ブチル基(ブチル基)、sec-ブチル基(ブタン-2-イル基)、イソブチル基(2-メチルプロピル基)、tert-ブチル基(1,1-ジメチルエチル基)、n-ペンチル基(ペンチル基)、ネオペンチル基(2,2-ジメチルプロピル基)、イソペンチル基(3-メチルブチル基)、sec-ペンチル基(ペンタン-2-イル基)、3-ペンチル基(ペンタン-3-イル基)、及びtert-ペンチル基(1,1-ジメチルプロピル基)が挙げられる。
前記アリール基としては、炭素数6~10のアリール基が好ましい。
前記炭素数6~10のアリール基としては、例えば、フェニル基、ベンジル基(フェニルメチル基)、フェネチル基(2-フェニルエチル基)、3-フェニルプロピル基、4-フェニルブチル基、及びナフチル基が挙げられる。前記アリール基としては、ベンジル基(フェニルメチル基)が好ましい。
前記1価の炭化水素基を構成する炭素原子としては12C原子が好ましく、水素原子としてはH原子が好ましい。
【0016】
<製造方法>
以下、式(1)で表される酸素同位体標識フタルイミド酢酸エステルの製造方法について説明する。ただし、式(1)で表される酸素同位体標識フタルイミド酢酸エステルを合成する方法は、後述する方法に限定されるものではない。
【0017】
式(1)で表される酸素同位体標識フタルイミド酢酸エステルは、以下の工程1~工程3を備える方法によって合成できる。
工程1:式(3)で表されるフタルイミドアセトニトリルと、酸素同位体標識水とを、塩化水素・1,4-ジオキサン溶液中で反応させて反応液中に酸素同位体標識フタルイミドグリシンを生成する。
工程2:反応液から析出したNHClを分離し、溶媒を除去した後、金属アルコキシド、式(4)で表される化合物、及び有機溶媒を加えて、工程1で生成した酸素同位体標識フタルイミドグリシンと反応させ、反応液中に式(1)で表される酸素同位体標識フタルイミドグリシンエステルを生成させる。
工程3:工程2で得られた反応液から式(1)で表される酸素同位体標識フタルイミドグリシンエステルを単離精製することで、目的化合物を得る。
【0018】
【化6】
【0019】
式(1)中のY及びRは、上述したとおりである。式(4)中のRは、式(1)中Rは、と同義である。
【0020】
(工程1)
式(3)で表されるフタルイミドアセトニトリルに対するに対する酸素同位体標識水の使用量は、化学量論量以上が好ましく、2.5~5.0等量がより好ましい。これは反応を完全に進行させるために、小過剰の酸素同位体標識水用いる一方で、大過剰の使用はコストアップにつながるためである。
塩化水素・1,4-ジオキサン溶液の使用量は、塩化水素が式(3)で表されるフタルイミドアセトニトリルに対して化学量論の過剰量となる量が好ましい。
式(3)で表されるフタルイミドアセトニトリル、酸素同位体標識水、及び塩化水素・1,4-ジオキサン溶液の反応条件として、反応温度は0~100℃が好ましく、40~60℃がより好ましい。反応温度が0℃以上であると反応速度がより大きくなり、100℃以下であると原料及び生成物がより分解しにくくなり、副生成物がより少なくなる。
式(1)で表される酸素同位体標識フタルイミドグリシンエステルの合成において、反応時間は30分以上が好ましい。反応時間を30分以上とすることで、反応が充分に進行するため好ましい。
【0021】
(工程2)
工程1で得られた反応液から溶媒を除去する方法としては、減圧留去が好ましい。
金属アルコキシドと式(4)で表される化合物との反応に用いる有機溶媒としては、N,N-ジメチルアセトアミドやN,N-ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性極性溶媒が望ましい。
金属アルコキシドとしては、例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムtert-ブトキシドが挙げられるが、これらに限定されない。
金属アルコキシドと式(4)で表される化合物との反応の条件として、反応温度は0~100℃が好ましく、40~60℃がより好ましい。反応温度が0℃以上であると反応速度がより大きくなり、100℃以下であると原料や生成物が分解より分解しにくくなり、副生成物がより少なくなる。
金属アルコキシドと式(4)で表される化合物との反応において、反応時間は30分以上である。数分では反応時間が短すぎて反応が終わりきらないため好ましくない。
【0022】
(工程3)
工程2で得られた反応液から式(1)で表される酸素同位体標識フタルイミドグリシンエステルを単離精製する方法としては、カラムクロマトグラフィーによる精製、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒等)による精製が好ましい。
【0023】
[酸素同位体標識グリシンエステルベンゾフェノンシッフ塩基]
本発明の第二の実施形態は、式(2)で表される酸素同位体標識グリシンエステルベンゾフェノンシッフ塩基及びその製造方法である。
<化合物>
【0024】
【化7】
【0025】
式(2)中、Yは18O又は17Oである。
式(2)で表される酸素同位体標識グリシンエステルベンゾフェノンシッフ塩基は、Yとして示す酸素同位体の同位体濃縮度(存在比)が、天然存在比である0.204atom%を超えることが好ましく、70atom%以上であることがより好ましい。すなわち、(2)で表される酸素同位体標識グリシンエステルベンゾフェノンシッフ塩基は、酸素同位体標識α-アミノ酸等価体の原料試薬として利用するため、同位体濃縮度が100atom%に近いほど好ましい。
なお、同位体濃縮度は、特開2006-8666号公報における実施例2と同様の計算方法で。EI-MS(電子イオン化質量分析:electron ionization mass spectrometry)におけるピーク面積値を用いて求める。
【0026】
式(2)中、R1は1価の有機基である。
前記1価の有機基としては、1価の炭化水素基が好ましい。
前記1価の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基が好ましく、アルキル基又はアリール基がより好ましい。
前記アルキル基としては、炭素数1~5のアルキル基が好ましい。
前記炭素数1~5のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基(プロピル基)、イソプロピル基(1-メチルエチル基)、n-ブチル基(ブチル基)、sec-ブチル基(ブタン-2-イル基)、イソブチル基(2-メチルプロピル基)、tert-ブチル基(1,1-ジメチルエチル基)、n-ペンチル基(ペンチル基)、ネオペンチル基(2,2-ジメチルプロピル基)、イソペンチル基(3-メチルブチル基)、sec-ペンチル基(ペンタン-2-イル基)、3-ペンチル基(ペンタン-3-イル基)、及びtert-ペンチル基(1,1-ジメチルプロピル基)が挙げられる。
前記アリール基としては、炭素数6~10のアリール基が好ましい。
前記炭素数6~10のアリール基としては、例えば、フェニル基、ベンジル基(フェニルメチル基)、フェネチル基(2-フェニルエチル基)、3-フェニルプロピル基、4-フェニルブチル基、及びナフチル基が挙げられる。前記アリール基としては、ベンジル基(フェニルメチル基)が好ましい。
前記1価の炭化水素基を構成する炭素原子としては12C原子が好ましく、水素原子としてはH原子が好ましい。
【0027】
式(2)中、Rは、それぞれ独立に、水素原子(H)、重水素原子(H)、炭素数1~2のアルキル基、炭素数1~2のアルコキシ基及びハロゲン原子からなる群から選択されるいずれか1つの基又は原子であり、水素原子(H)が好ましい。
前記炭素数1~2のアルキル基としては、メチル基及びエチル基が挙げられ、メチル基が好ましい。前記前記炭素数1~2のアルキル基を構成する炭素原子としては12C原子が好ましく、水素原子としてはH原子が好ましい。
前記炭素数1~2のアルコキシ基としては、メトキシ基及びエトキシ基が挙げられ、メトキシ基が好ましい。前記前記炭素数1~2のアルコキシ基を構成する炭素原子としては12C原子が好ましく、酸素原子としては16O原子が好ましく、水素原子としてはH原子が好ましい。
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、アスタチン原子、及びテネシン原子が挙げられ、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子が好ましく、フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子がより好ましい。前記フッ素原子としては19F原子が好ましく、前記塩素原子としては35Cl原子又は37Cl原子が好ましく、35Cl原子がより好ましく、前記臭素原子としては79Br原子又は81Br原子が好ましく、前記ヨウ素原子としては、127I原子が好ましい。
式(2)中、nは、それぞれ独立に、1~5の整数であり、1~2の整数が好ましく、1がより好ましい。
【0028】
<製造方法>
以下、本実施形態に係る酸素同位体標識グリシンエステルベンゾフェノンシッフ塩基の製造方法について説明する。ただし、式(2)で表される酸素同位体標識グリシンエステルベンゾフェノンシッフ塩基を合成する方法は、後述する方法に限定されるものではない。
【0029】
式(2)で表される酸素同位体標識グリシンエステルベンゾフェノンシッフ塩基は、以下の工程4~工程6を備える方法によって合成できる。
工程4:式(1)で表される酸素同位体標識フタルイミドグリシンエステルと、式(5)で表される化合物と、を有機溶媒中で反応させて、反応液中に酸素同位体標識グリシンエステルを生成させ、得られた反応液から溶媒を除去した後に、塩化水素・1,4-ジオキサン溶液を加えて酸素同位体標識グリシンエステルと反応させ、酸素同位体標識グリシンエステル塩酸塩を生成させる。
工程5:工程4で得られた反応液から溶媒を除去した後に、式(6)で表されるベンゾフェノンイミン化合物及び有機溶媒を加えて酸素同位体標識グリシンエステル塩酸塩と反応させ、反応液中に式(2)で表される酸素同位体標識グリシンエステルベンゾフェノンシッフ塩基を生成させる。
工程6:工程5で得られた反応液から式(3)で表される酸素同位体標識グリシンエステルベンゾフェノンシッフ塩基を単離精製することで、目的化合物を得る。
【0030】
【化8】
【0031】
式(1)及び式(2)中のY及びR、式(2)及び式(6)中のR及びnは、上述したとおりであり、式(5)中のZは水素原子又メチル基である。
式(5)中の水素原子としてはH原子が好ましく、メチル基を構成する炭素原子としては12C原子が好ましく、水素原子としてはH原子が好ましい。
【0032】
(工程4)
式(1)で表される酸素同位体標識フタルイミド酢酸エステルと式(5)で表される化合物との反応に用いる有機溶媒としては、メタノール又はエタノール等のアルコールが好ましい。
式(1)で表される酸素同位体標識フタルイミド酢酸エステルに対する式(5)で表される化合物の使用量は化学量論の小過剰量が好ましく、1.1~1.3等量がより好ましい。これは小過剰量であると、化合物が分解より分解しにくいからである。
式(1)で表される酸素同位体標識フタルイミド酢酸エステルと式(5)で表される化合物との反応の反応条件として、反応時間は1~3時間が好ましい。反応時間が1時間以上であると反応が充分に進行し、3時間以下であると生成した酸素同位体標識グリシンエステルがより分解しにくい。反応温度は室温(25℃)以下が好ましく、氷冷下がより好ましい。反応温度が室温(25℃)以下の温度であると、酸素同位体標識グリシンエステルがより分解しにくい。
塩化水素・1,4-ジオキサン溶液の使用量は、塩化水素が式(1)で表される酸素同位体標識フタルイミド酢酸エステルに対して化学量論の過剰量となる量が好ましい。
反応系に塩化水素・1,4-ジオキサン溶液を加える際の反応条件として、反応温度が室温(25℃)以下の温度であると、酸素同位体標識グリシンエステルがより分解しにくい。
反応液から溶媒を除去する方法としては、減圧留去が好ましい。
【0033】
(工程5)
工程4で得られた反応液から溶媒を除去する方法としては、減圧留去が好ましい。
ベンゾフェノンイミンとの反応に用いる有機溶媒としては、ジクロロメタンが好ましい。
ベンゾフェノンイミンの使用量は、式(1)で表される酸素同位体標識フタルイミド酢酸エステルに対して化学量論の等量が望ましい。
ベンゾフェノンイミンとの反応の反応条件として、反応温度は0~50℃が好ましく、反応時間は12~24時間が好ましい。反応時間が12時間以上であると、反応が充分に進行する。
【0034】
(工程6)
工程5で得られた反応液から式(2)で表される酸素同位体標識グリシンエステルベンゾフェノンシッフ塩基を単離精製する方法としては、カラムクロマトグラフィーによる精製、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒等)による精製が好ましい。
【実施例
【0035】
以下では、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は後述する実施例によって限定されるものではない。
【0036】
[実施例1]
初めに市販のフタルイミドカリウム9.53g(50.5mmol)とブロモアセトニトリル6.00g(50.0mmol)とをN,N-ジメチルホルムアミド25mLに加え、50℃で2時間反応させることでフタルイミドアセトニトリル(式(3))を合成した。
次に、50mLナスフラスコに合成したフタルイミドアセトニトリル(式(3))0.93g(5mmol)を採取し、ジオキサン10mL及び塩化水素・1,4-ジオキサン溶液5mLを加え撹拌し、H 18O(98atom%18O)0.5g(25mmol)を加えて50℃で6時間反応させた。反応終了後に析出したNHClを濾別し、溶媒を減圧留去した。
得られた粉末にN,N-ジメチルアセトアミド5.6mL、カリウムt-ブトキシド0.31g(2.8mmol)、及びベンジルブロミド0.48g(2.8mmol)を加えて室温で30分撹拌した後に、50℃で4時間撹拌した
反応後に反応液を分液処理し、溶媒を減圧留去した後に、カラムクロマトグラフィーで精製することでフタルイミド酢酸ベンジル-18(式(1A))を得た(0.40g、収率23%、濃縮度80.2atom%18O)。
【0037】
【化9】
【0038】
[実施例2]
50mLのナスフラスコにフタルイミド酢酸ベンジル-18(式(1A))0.30g(1mmol)とエタノール20mLとを加えて氷冷下で撹拌した後に、1Mメチルヒドラジン・エタノール溶液2.2mL(2.2mmol)を加え、氷冷下で2時間反応させた後に溶媒を減圧留去した。
この反応系に氷冷下でエタノール10mLと4M塩化水素・1,4-ジオキサン溶液1mLとを加えて撹拌し、再度溶媒を減圧留去した。
得られた粉末にジクロロメタン5mLとベンゾフェノンイミン0.17mL(1mmol)を加えて24時間撹拌した。
反応後に反応液を濾過し、溶媒を減圧留去した後に、カラムクロマトグラフィーで精製することでグリシンベンジルエステルベンゾフェノンシッフ塩基-18(式(2A))を得た(0.07g、収率20%、濃縮度71.8atom%18O)。
【0039】
【化10】
【産業上の利用可能性】
【0040】
式(2)で表される酸素同位体標識グリシンエステルベンゾフェノンシッフ塩基及び式(1)で表される酸素同位体標識フタルイミド酢酸エステルは、それぞれ、酸素同位体標識α-アミノ酸等価体を合成するための酸素同位体標識化合物及びその合成中間体となる酸素同位体標識化合物として有用である。