(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-13
(45)【発行日】2024-11-21
(54)【発明の名称】窒素製造方法及び窒素製造装置
(51)【国際特許分類】
F25J 3/04 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
F25J3/04 103
F25J3/04 104
(21)【出願番号】P 2024154065
(22)【出願日】2024-09-06
【審査請求日】2024-09-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橘 博志
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-66054(JP,A)
【文献】米国特許第5813251(US,A)
【文献】特開2018-169051(JP,A)
【文献】特開2015-183922(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25J 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素、窒素、及びアルゴンを含む空気を、圧縮、予冷、及び精製することで得られる原料空気を冷却して得られた高圧低温原料空気と、中圧液化窒素を昇圧して得られた高圧液化窒素とを蒸留して、高圧窒素ガスと高圧液化空気とに分離する高圧分離工程と、
前記原料空気の一部を断熱膨張させて得られた中圧低温原料空気を蒸留して、中圧窒素ガスと中圧液化空気とに分離する中圧分離工程と、
前記高圧液化空気と前記中圧液化空気の少なくとも一方を減圧して得られた低圧液化空気を蒸留して、窒素富化空気と液化酸素とアルゴン富化酸素ガスとに分離する低圧分離工程と、
前記アルゴン富化酸素ガスを蒸留して、アルゴンガスとアルゴン富化液化酸素とに分離するアルゴン分離工程と、
前記中圧窒素ガスと、前記液化酸素とを間接熱交換させて、前記中圧窒素ガスを液化させて前記中圧液化窒素を生成すると共に、前記液化酸素を気化させて酸素ガスを生成する窒素凝縮工程と、
前記アルゴンガスを液化させて液化アルゴンを生成するアルゴン凝縮工程と、
前記高圧窒素ガスを製品として導出する製品窒素導出工程と、
前記アルゴンガスまたは前記液化アルゴンの一部を製品として導出する製品アルゴン導出工程と、を含むことを特徴とする窒素製造方法。
【請求項2】
前記高圧分離工程において、前記高圧低温原料空気と前記高圧液化窒素とを蒸留して、前記高圧窒素ガスと前記高圧液化空気とに加えて、該高圧液化空気よりもアルゴン濃度が高い高圧アルゴン富化液化空気を分離し、
該高圧アルゴン富化液化空気を減圧して得られた低圧アルゴン富化液化空気を前記低圧分離工程の原料の一部とすることを特徴とする請求項1に記載の窒素製造方法。
【請求項3】
前記中圧分離工程において、前記中圧低温原料空気を蒸留して、前記中圧窒素ガスと前記中圧液化空気とに加えて、該中圧液化空気よりもアルゴン濃度が高い中圧アルゴン富化液化空気を分離し、
該中圧アルゴン富化液化空気を減圧して得られた低圧アルゴン富化液化空気を前記低圧分離工程の原料の一部とすることを特徴とする請求項1に記載の窒素製造方法。
【請求項4】
前記低圧分離工程において、前記低圧アルゴン富化液化空気を、前記低圧液化空気よりも下部に供給することを特徴とする請求項2に記載の窒素製造方法。
【請求項5】
前記低圧分離工程において、前記低圧アルゴン富化液化空気を、前記低圧液化空気よりも下部に供給することを特徴とする請求項3に記載の窒素製造方法。
【請求項6】
酸素、窒素、及びアルゴンを含む空気を、圧縮、予冷、及び精製することで得られる原料空気を冷却して得られた高圧低温原料空気と、中圧液化窒素を昇圧して得られた高圧液化窒素とを蒸留して、高圧窒素ガスと高圧液化空気とに分離する高圧塔と、
前記原料空気の一部を断熱膨張させて得られた中圧低温原料空気を蒸留して、中圧窒素ガスと中圧液化空気とに分離する中圧塔と、
前記高圧液化空気と前記中圧液化空気の少なくとも一方を減圧して得られた低圧液化空気を蒸留して、窒素富化空気と液化酸素とアルゴン富化酸素ガスとに分離する低圧塔と、
前記アルゴン富化酸素ガスを蒸留して、アルゴンガスとアルゴン富化液化酸素とに分離するアルゴン塔と、
前記中圧窒素ガスと、前記液化酸素とを間接熱交換させて、前記中圧窒素ガスを液化させて前記中圧液化窒素を生成すると共に、前記液化酸素を気化させて酸素ガスを生成する窒素凝縮器と、
前記アルゴンガスを液化させて液化アルゴンを生成するアルゴン凝縮器と、
前記高圧窒素ガスを製品として導出する製品窒素導出ラインと、
前記アルゴンガスまたは前記液化アルゴンの一部を製品として導出する製品アルゴン導出ラインと、を備えることを特徴とする窒素製造装置。
【請求項7】
前記高圧塔において、前記高圧低温原料空気と前記高圧液化窒素とを蒸留して、前記高圧窒素ガスと前記高圧液化空気とに加えて、該高圧液化空気よりもアルゴン濃度が高い高圧アルゴン富化液化空気を分離し、
該高圧アルゴン富化液化空気を減圧して得られた低圧アルゴン富化液化空気を前記低圧塔に導入することを特徴とする請求項6に記載の窒素製造装置。
【請求項8】
前記中圧塔において、前記中圧低温原料空気を蒸留して、前記中圧窒素ガスと前記中圧液化空気とに加えて、該中圧液化空気よりもアルゴン濃度が高い中圧アルゴン富化液化空気を分離し、
該中圧アルゴン富化液化空気を減圧して得られた低圧アルゴン富化液化空気を前記低圧塔に導入することを特徴とする請求項6に記載の窒素製造装置。
【請求項9】
前記低圧塔において、前記低圧アルゴン富化液化空気の導入部が、前記低圧液化空気の導入部よりも下部にあることを特徴とする請求項7に記載の窒素製造装置。
【請求項10】
前記低圧塔において、前記低圧アルゴン富化液化空気の導入部が、前記低圧液化空気の導入部よりも下部にあることを特徴とする請求項8に記載の窒素製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素製造方法および窒素製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体工場向けの窒素製造装置において、多量かつ比較的高圧力(例えば7barA以上)の窒素ガスに加えてアルゴンを要求されるケースが増えている。
【0003】
特許文献1によれば、原料空気から第1精留塔と第2精留塔で高圧窒素ガスを製造し、後段の酸素塔とアルゴン塔で、少量の酸素とアルゴンを製造することができる。
【0004】
また、特許文献2によれば、第1~第4精留塔を用いて、9~12barAの窒素ガスに加えて、酸素とアルゴンを併産することができる。例えば、第1精留塔により9~12barAの窒素ガスを生成し、第1精留塔の凝縮器で気化した流体を複式精留システム(第2~第4精留塔)に供給して高純度酸素とアルゴンを併産することが可能である。更に複式精留システムに組み込まれた第2精留塔で生成される液化窒素を、ポンプで昇圧して第1精留塔に戻すことによって、第1精留塔で生成される窒素ガスの量を増やす(すなわち、窒素回収率を改善する)ことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第7329714号公報
【文献】国際公開第2020/169257号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で開示されている窒素製造装置は、比較的圧力の高い窒素ガスを生成しつつ、同時に高純度酸素とアルゴンとを生成することが可能であるが、アルゴン回収率が低く、アルゴン量は窒素ガス量の0.5%程度に留まる。
【0007】
また、特許文献2で開示されている空気分離装置は、比較的圧力の高い窒素ガスを生成しつつ、同時に高純度酸素とアルゴンを生成することが可能であるが、第1精留塔の上部に設置された凝縮器で第1精留塔の還流液を生成するため、第1精留塔の運転圧力が制約を受け、9~12barAの範囲外で操作することは困難である。
言い換えれば、特許文献2で開示されている空気分離装置は、第1精留塔の凝縮器で気化する流体の圧力に応じて、液化する窒素ガスの圧力が制限されるため、第1精留塔の運転圧力を9barAより低くすることはできない。
したがって、要求される製品窒素ガスの圧力が9barAよりも低い場合は、第1精留塔で生成された窒素ガスを減圧することになり非効率となる。また、製品窒素ガスの圧力が12barAよりも高い場合は、第1精留塔の凝縮器で気化したガス流体を減圧するなどの操作が必要となり非効率となる。
【0008】
このように、比較的高く、かつ、広範囲の圧力(例えば、7~15barA)の窒素ガスを効率的に生成しつつ、同時にアルゴンを比較的多量に生成することが可能な窒素製造技術が望まれていたが、有効適切なものがなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を提供する。
[1]酸素、窒素、及びアルゴンを含む空気を、圧縮、予冷、及び精製することで得られる原料空気を冷却して得られた高圧低温原料空気と、中圧液化窒素を昇圧して得られた高圧液化窒素とを蒸留して、高圧窒素ガスと高圧液化空気とに分離する高圧分離工程と、前記原料空気の一部を断熱膨張させて得られた中圧低温原料空気を蒸留して、中圧窒素ガスと中圧液化空気とに分離する中圧分離工程と、前記高圧液化空気と前記中圧液化空気の少なくとも一方を減圧して得られた低圧液化空気を蒸留して、窒素富化空気と液化酸素とアルゴン富化酸素ガスとに分離する低圧分離工程と、前記アルゴン富化酸素ガスを蒸留して、アルゴンガスとアルゴン富化液化酸素とに分離するアルゴン分離工程と、前記中圧窒素ガスと、前記液化酸素とを間接熱交換させて、前記中圧窒素ガスを液化させて前記中圧液化窒素を生成すると共に、前記液化酸素を気化させて酸素ガスを生成する窒素凝縮工程と、前記アルゴンガスを液化させて液化アルゴンを生成するアルゴン凝縮工程と、前記高圧窒素ガスを製品として導出する製品窒素導出工程と、前記アルゴンガスまたは前記液化アルゴンの一部を製品として導出する製品アルゴン導出工程と、を含むことを特徴とする窒素製造方法。
[2]前記高圧分離工程において、前記高圧低温原料空気と前記高圧液化窒素とを蒸留して、前記高圧窒素ガスと前記高圧液化空気とに加えて、該高圧液化空気よりもアルゴン濃度が高い高圧アルゴン富化液化空気を分離し、該高圧アルゴン富化液化空気を減圧して得られた低圧アルゴン富化液化空気を前記低圧分離工程の原料の一部とすることを特徴とする[1]に記載の窒素製造方法。
[3]前記中圧分離工程において、前記中圧低温原料空気を蒸留して、前記中圧窒素ガスと前記中圧液化空気とに加えて、該中圧液化空気よりもアルゴン濃度が高い中圧アルゴン富化液化空気を分離し、該中圧アルゴン富化液化空気を減圧して得られた低圧アルゴン富化液化空気を前記低圧分離工程の原料の一部とすることを特徴とする[1]に記載の窒素製造方法。
[4]前記低圧分離工程において、前記低圧アルゴン富化液化空気を、前記低圧液化空気よりも下部に供給することを特徴とする[2]に記載の窒素製造方法。
[5]前記低圧分離工程において、前記低圧アルゴン富化液化空気を、前記低圧液化空気よりも下部に供給することを特徴とする[3]に記載の窒素製造方法。
[6]酸素、窒素、及びアルゴンを含む空気を、圧縮、予冷、及び精製することで得られる原料空気を冷却して得られた高圧低温原料空気と、中圧液化窒素を昇圧して得られた高圧液化窒素とを蒸留して、高圧窒素ガスと高圧液化空気とに分離する高圧塔と、前記原料空気の一部を断熱膨張させて得られた中圧低温原料空気を蒸留して、中圧窒素ガスと中圧液化空気とに分離する中圧塔と、前記高圧液化空気と前記中圧液化空気の少なくとも一方を減圧して得られた低圧液化空気を蒸留して、窒素富化空気と液化酸素とアルゴン富化酸素ガスとに分離する低圧塔と、前記アルゴン富化酸素ガスを蒸留して、アルゴンガスとアルゴン富化液化酸素とに分離するアルゴン塔と、前記中圧窒素ガスと、前記液化酸素とを間接熱交換させて、前記中圧窒素ガスを液化させて前記中圧液化窒素を生成すると共に、前記液化酸素を気化させて酸素ガスを生成する窒素凝縮器と、前記アルゴンガスを液化させて液化アルゴンを生成するアルゴン凝縮器と、前記高圧窒素ガスを製品として導出する製品窒素導出ラインと、前記アルゴンガスまたは前記液化アルゴンの一部を製品として導出する製品アルゴン導出ラインと、を備えることを特徴とする窒素製造装置。
[7]前記高圧塔において、前記高圧低温原料空気と前記高圧液化窒素とを蒸留して、前記高圧窒素ガスと前記高圧液化空気とに加えて、該高圧液化空気よりもアルゴン濃度が高い高圧アルゴン富化液化空気を分離し、該高圧アルゴン富化液化空気を減圧して得られた低圧アルゴン富化液化空気を前記低圧塔に導入することを特徴とする[6]に記載の窒素製造装置。
[8]前記中圧塔において、前記中圧低温原料空気を蒸留して、前記中圧窒素ガスと前記中圧液化空気とに加えて、該中圧液化空気よりもアルゴン濃度が高い中圧アルゴン富化液化空気を分離し、該中圧アルゴン富化液化空気を減圧して得られた低圧アルゴン富化液化空気を前記低圧塔に導入することを特徴とする[6]に記載の窒素製造装置。
[9]前記低圧塔において、前記低圧アルゴン富化液化空気の導入部が、前記低圧液化空気の導入部よりも下部にあることを特徴とする[7]に記載の窒素製造装置。
[10]前記低圧塔において、前記低圧アルゴン富化液化空気の導入部が、前記低圧液化空気の導入部よりも下部にあることを特徴とする[8]に記載の窒素製造装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、比較的高く、かつ、広範囲の圧力(例えば、7~15barA)の窒素ガスを効率的に生成しつつ、同時にアルゴンを比較的多量に生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の実施形態の窒素製造装置を示す図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態の窒素製造装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1の実施形態]
<窒素製造装置100>
本発明の第1の実施形態の窒素製造装置100について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の窒素製造方法を適用した窒素製造装置100の系統図である。なお、以下の説明における高圧、中圧、低圧や高温、低温は、各形態例それぞれにおける相対的な圧力や温度の相違を示すものであって、圧力範囲や温度範囲を特定するものではない。
【0013】
本実施形態の窒素製造装置100は、
図1に示すように、空気圧縮機1と、空気予冷器2と、空気精製器3と、高圧塔4と、中圧塔5と、低圧塔6と、アルゴン塔7と、窒素凝縮器8と、アルゴン凝縮器9と、アルゴン凝縮器外筒10と、主熱交換器11と、過冷器12と、膨張タービン13と、液化窒素ポンプ14と、を備えている。
【0014】
空気圧縮機1、空気予冷器2、及び空気精製器3は、酸素、窒素、及びアルゴンを含む空気を圧縮、予冷、及び精製する装置である。
【0015】
高圧塔4は、高圧低温原料空気Bと、高圧液化窒素Cとを低温蒸留して、高圧窒素ガスと高圧液化空気と高圧アルゴン富化液化空気とに分離する精留塔である。
【0016】
中圧塔5は、中圧低温原料空気Eと、中圧液化窒素Fとを低温蒸留して、中圧窒素ガスと、中圧液化空気とに分離する精留塔である。
【0017】
低圧塔6は、低圧液化空気J、Mと、低圧アルゴン富化液化空気Lと、低圧液化空気Oと、低圧空気Pと、アルゴン富化液化酸素Qと、窒素凝縮器8で気化して得られた酸素ガスとを低温蒸留して、窒素富化空気と、アルゴン富化酸素ガスと、液化酸素とに分離する精留塔である。
【0018】
アルゴン塔7は、アルゴン富化酸素ガスSと、液化アルゴンTとを低温蒸留して、アルゴンガスと、アルゴン富化液化酸素とに分離する精留塔である。
【0019】
窒素凝縮器8は、低圧塔6の底部に収納されており、窒素凝縮器8に導入された中圧窒素ガスGと、低圧塔6の底部に溜まった液化酸素とを、間接熱交換させる熱交換器である。
【0020】
アルゴン凝縮器9は、アルゴン凝縮器外筒10に収納されており、アルゴン凝縮器9に導入されたアルゴンガスUを液化させて液化アルゴンを生成する熱交換器である。
【0021】
主熱交換11及び過冷器12は、導入される流体間での熱交換を行い、熱交換後の流体を導出する装置である。
膨張タービン13は、主熱交換器11で冷却された原料空気Aの一部を断熱膨張させて、装置の運転に必要な寒冷を発生させると共に、中圧低温原料空気Eを生成する装置である。
液化窒素ポンプ14は、窒素凝縮器8で液化した中圧液化窒素Fの一部を昇圧して、高圧液化窒素Cを生成する装置である。
【0022】
<窒素製造方法>
次に、本実施形態の窒素製造装置100を用いた窒素製造方法について説明する。
大気中からラインL1に導入した酸素、窒素、及びアルゴンを含む空気AIRを、空気圧縮機1で圧縮し、空気予冷器2で予冷し、空気精製器3で精製することで、原料空気Aを得る。そして、得られた原料空気Aを主熱交換器11で冷却して高圧低温原料空気Bを得る。
【0023】
[高圧分離工程]
高圧分離工程では、ラインL1を介して導入した高圧低温原料空気Bと、ラインL8を介して導入した高圧液化窒素Cとを高圧塔4で低温蒸留して、高圧窒素ガスと高圧液化空気と高圧アルゴン富化液化空気とに分離する。なお、高圧アルゴン富化液化空気は、高圧液化空気よりもアルゴン濃度が高いものをさす。
【0024】
[製品導出工程]
製品導出工程では、高圧塔4の頂部からラインL2を介して導出した高圧窒素ガスDを、主熱交換器11で常温まで加温した後に製品窒素ガス(GN)として回収する。
【0025】
主熱交換器11で冷却された原料空気Aの一部を、ラインL5に導出し、膨張タービン13に導入して膨張させる。そして、膨張させて得られた中圧低温原料空気Eを中圧塔5の底部に導入する。
【0026】
[中圧分離工程]
中圧分離工程では、ラインL5を介して中圧塔5に導入された中圧低温原料空気Eと、ラインL7を介して導入された中圧液化窒素Fとを中圧塔5で低温蒸留して、中圧窒素ガスと、中圧液化空気とに分離する。
そして、中圧塔5の頂部から中圧窒素ガスGをラインL6に導出する。
また、中圧塔5の底部から中圧液化空気HをラインL9に導出する。
【0027】
高圧塔4からラインL3に導出した高圧液化空気Iを、過冷器12に導入する。そして、これを過冷器12で冷却した後に、バルブV1で減圧して低圧液化空気Jを得る。
【0028】
また、高圧塔4からラインL4に導出した高圧アルゴン富化液化空気Kを、過冷器12で冷却する。そして、これを過冷器12で冷却した後に、バルブV2で減圧して低圧アルゴン富化液化空気Lを得る。
ここで、高圧塔4に接続するラインL4の導出位置をラインL3の導出位置よりも上部にすることで、アルゴンの回収率を高くすることができる。
【0029】
また、中圧塔5からラインL9に導出した中圧液化空気Hを過冷器12で冷却する。そして、これを過冷器12で冷却した後に、バルブV3で減圧して低圧液化空気Mを得る。
また、ラインL9に導出した中圧液化空気Hの一部をラインL9から分岐したラインL10に導入し、バルブV4で減圧して低圧液化空気Nを得る。
【0030】
[低圧分離工程]
低圧分離工程では、ラインL3とラインL9を介して導入された低圧液化空気J、Mと、ラインL4を介して導入された低圧アルゴン富化液化空気Lと、ラインL11を介して導入された低圧液化空気Oと、ラインL12を介して導入された低圧空気Pと、ラインL19を介して導入されたアルゴン富化液化酸素Qと、窒素凝縮器8で気化して得られた酸素ガスとを、低圧塔6で低温蒸留して、窒素富化空気と、アルゴン富化酸素ガスと、液化酸素とに分離する。
【0031】
ここで、低圧塔6に接続するラインL4の接続位置を、ラインL3とラインL9との接続位置よりも下部にすることでアルゴンの回収率を高くすることができる。
【0032】
次に、低圧塔6の頂部からラインL14に導出した窒素富化空気Rを、過冷器12で加温し、更に主熱交換器11で常温まで加温した後に、廃ガス(WG)として回収する。
また、低圧塔6の中部からアルゴン富化酸素ガスSをラインL15に導出する。
【0033】
[アルゴン分離工程]
アルゴン分離工程では、ラインL15を介して導入されたアルゴン富化酸素ガスSと、L17を介して導入された液化アルゴンTとを、アルゴン塔7で低温蒸留して、アルゴンガスと、アルゴン富化液化酸素とに分離する。
【0034】
アルゴン塔7の頂部からアルゴンガスUをラインL16に導出する。
また、アルゴン塔7の底部からアルゴン富化液化酸素QをラインL19に導出する。
【0035】
[窒素凝縮工程]
窒素凝縮工程では、ラインL6を介して中圧窒素ガスGを低圧塔6の底部に収納された窒素凝縮器8に導入し、中圧窒素ガスGと、低圧塔6の底部に溜まった液化酸素とを、間接熱交換させる。具体的には、中圧窒素ガスGを液化させて中圧液化窒素Fを生成すると共に、液化酸素を気化させて酸素ガスを生成する。
【0036】
窒素凝縮器8で液化した中圧液化窒素FをラインL7に導出する。そして、ラインL7に導出した中圧液化窒素Fの一部を、ラインL8に分岐し、液化窒素ポンプ14で昇圧して高圧液化窒素Cを得る。
【0037】
本実施形態では、高圧塔4で分離した高圧窒素ガスを液化して還流液を生成するための凝縮器が無く、液化窒素ポンプ14で昇圧して得られた高圧液化窒素Cが高圧塔4の還流液となる。このため、高圧塔4の運転圧力、すなわち原料空気の圧力を要求される製品窒素ガスの圧力に応じてある程度任意に設定できる利点がある。
【0038】
窒素凝縮器8で気化した酸素ガスの一部は低圧塔6の上昇ガスとなり、残部はラインL20に導出される。
ラインL20に導出した酸素ガスVは、バルブV8で減圧した後に、ラインL14の窒素富化空気Rと合流する。
【0039】
なお、図示していないが、ラインL20に導出した酸素ガスVを、主熱交換器11で常温まで加温して、製品酸素ガスとして回収することもできる。
窒素凝縮器8で気化しなかった液化酸素Wを、低圧塔6の底部からラインL21に導出し、製品液化酸素(LO)として回収する。
【0040】
[アルゴン凝縮工程]
アルゴン凝縮工程では、アルゴンガスUを液化させて液化アルゴンTを生成する。具体的には、ラインL16を介してアルゴン凝縮器外筒10に収納されたアルゴン凝縮器9にアルゴンガスUを導入するとともに、ラインL10を介してアルゴン凝縮器外筒10に低圧液化空気Nを導入し、アルゴンガスUと低圧液化空気Nとを間接熱交換させ、アルゴンガスUを液化させて液化アルゴンTを生成するとともに、低圧液化空気Nを気化させて低圧空気を生成する。他の形態として、アルゴン凝縮器9がアルゴン凝縮器外筒10に収納されていない場合もある。この場合、低圧液化空気Nが直接アルゴン凝縮器9に導入され、アルゴンガスUとの間接熱交換により気化して、低圧空気Xが生成される。
【0041】
[製品アルゴン導出工程]
製品アルゴン導出工程では、アルゴン凝縮器9で液化した液化アルゴンTを、ラインL17に導出する。
そして、ラインL17に導出した液化アルゴンTの一部を、ラインL18に分岐し、主熱交換器11で気化させ、常温まで加温した後に製品アルゴンガス(GAR)として回収する。
なお、図示していないが、ラインL16のアルゴンガスUの一部を、分岐して主熱交換器11で常温まで加熱した後に、製品アルゴンガス(GAR)として回収してもよい。
【0042】
アルゴン凝縮器9で気化した低圧空気Xを、ラインL12に導出し、バルブV6で減圧した後に、低圧空気Pとして低圧塔6に導入する。
また、ラインL12に導出した低圧空気Xの一部を、ラインL13に分岐し、バルブV7で減圧した後にラインL14の窒素富化空気Rと合流させる。
また、アルゴン凝縮器9で気化しなかったアルゴン凝縮器外筒10の低圧液化空気Yを、ラインL11に導出し、バルブV5で減圧した後に、低圧液化空気Oとして低圧塔6に供給する。
【0043】
以上説明したように、本実施形態では7~15barAの製品窒素ガスを製造する場合に、無駄にガス流体を減圧する必要が無く、効率的に製品窒素ガスとアルゴンを製造することができる。
【0044】
[第2の実施形態]
<窒素製造装置100A>
次に、本発明の第2の実施形態の窒素製造装置100Aについて、図面を参照して説明する。第1実施形態と同様の部分については説明を省略する。
第1の実施形態では、高圧塔4の中部にラインL4が接続されており、高圧塔4からラインL4に高圧アルゴン富化液化空気Kが導出されていた。
これに対し、本実施形態では、ラインL4は設けられず、代わりに、中圧塔5の中部にラインL22が接続されている。そして、中圧塔5からラインL22に中圧アルゴン富化液化空気K’が導出される。なお、中圧アルゴン富化液化空気K’は、中圧液化空気よりもアルゴン濃度が高いものをさす。
【0045】
<窒素製造方法>
次に、第2の実施形態の窒素製造装置100Aを用いた窒素製造方法について、
図2を用いて説明する。本実施形態は第1の実施形態の変形例であり、第1の実施形態と同様の部分については、説明を省略する。
【0046】
[中圧分離工程]
本実施形態では、中圧分離工程において、ラインL5を介して中圧塔5に導入された中圧低温原料空気Eと、ラインL7を介して導入された中圧液化窒素Fとを中圧塔5で低温蒸留して、中圧窒素ガスと、中圧液化空気とに加えて、中圧アルゴン富化液化空気を分離する。
【0047】
そして、高圧塔4の中部からラインL4に高圧アルゴン富化液化空気Kを導出する代わりに、本実施形態では、中圧塔5の中部からラインL22に中圧アルゴン富化液化空気K’を導出する。
ラインL22に導出した中圧アルゴン富化液化空気K’を、過冷器12で冷却し、バルブV9で減圧した後に、低圧アルゴン富化液化空気L’として、低圧塔6に導入する。
ここで、低圧塔6に接続するラインL22の接続位置を、ラインL3とラインL9との接続位置よりも下部にすることでアルゴンの回収率を高くすることができる。
【0048】
本実施形態の窒素製造方法においても、第1の実施形態と同様に、高圧塔4で分離した高圧窒素ガスを液化して還流液を生成するための凝縮器が無く、液化窒素ポンプ14で昇圧して得られた高圧液化窒素が高圧塔4の還流液となる。このため、高圧塔4の運転圧力、すなわち原料空気の圧力を要求される製品窒素ガスの圧力に応じてある程度任意に設定できる利点がある。
この結果、本実施形態でも、7~15barAの製品窒素ガスを製造する場合に、無駄にガス流体を減圧する必要が無く、効率的に製品窒素ガスとアルゴンを製造することができる。
【0049】
以上、本発明を上記の実施形態例に基づき説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
例えば、高圧塔4で分離された高圧液化空気をバルブで減圧した後に中圧塔5の底部に供給することもできる。また、上記実施形態では、アルゴン凝縮工程において、アルゴンガスUと間接熱交換する流体として、中圧塔5の底部から導出した中圧液化空気Hを減圧した低圧液化空気Nを用いたが、高圧塔4の塔底部から導出した高圧液化空気Iを減圧した低圧液化空気を用いてもよい。
また、第2実施形態の変形例として、高圧塔4の中部から高圧アルゴン富化液化空気を導出し、バルブで減圧した後に中圧塔5の中部に導入することもできる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明について実施例及び比較例を用いて詳しく説明する。
<実施例>
実機の設計に用いているシミュレータを用いて、
図1に示す本発明の窒素製造装置100のシミュレーションを実施した。
シミュレーションを実施するにあたっては、原料空気の流量を100とし、製品窒素ガスGN(酸素濃度1ppm以下、圧力9.4barA)と製品アルゴンガスGAR(酸素濃度1.5%以下、窒素濃度0.5%以下)を最大量回収する条件で計算した。
結果を表1に示す。
【0051】
【0052】
このシミュレーション結果によると、流量100の原料空気から製品窒素ガスGNを流量40回収し、同時に製品アルゴンガスGARを流量0.5回収することができた。
【0053】
上記結果から明らかなように、本発明の窒素製造方法および窒素製造装置によれば、比較的圧力の高い(例えば7barA以上)の製品窒素ガスを多量に(例えば空気量の40%以上)回収しつつ、同時に製品アルゴンを多量に(例えば製品窒素ガス量の1%以上)回収することができる。
また、広範囲の圧力(例えば7~15barA)の窒素ガスを窒素圧縮機を用いることなく製造することができる。
【符号の説明】
【0054】
1:空気圧縮機、2:空気予冷器、3:空気精製器、4:高圧塔、5:中圧塔、6:低圧塔、7:アルゴン塔、8:窒素凝縮器、9:アルゴン凝縮器、10:アルゴン凝縮器外筒、11:主熱交換器、12:過冷器、13:膨張タービン、14:液化窒素ポンプ
【要約】
【課題】本発明は、比較的高く、かつ、広範囲の圧力(例えば、7~15barA)の窒素ガスを効率的に生成しつつ、同時にアルゴンを比較的多量に生成することが可能な窒素製造技術を提供することを目的とする。
【解決手段】酸素、窒素、及びアルゴンを含む空気を、圧縮、予冷、及び精製することで得られる原料空気を冷却して得られた高圧低温原料空気と、中圧液化窒素を昇圧して得られた高圧液化窒素とを蒸留して、高圧窒素ガスと高圧液化空気とに分離する高圧塔と、前記原料空気の一部を断熱膨張させて得られた中圧低温原料空気を蒸留して、中圧窒素ガスと中圧液化空気とに分離する中圧塔と、低圧塔と、アルゴン塔と、窒素凝縮器と、アルゴン凝縮器と、製品窒素導出ラインと、製品アルゴン導出ラインと、を備えることを特徴とする窒素製造装置を提供する。
【選択図】
図1