IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 丸善製薬株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人 岡山大学の特許一覧

特許7588308ノラチリオールの新規な製造方法とその用途
<>
  • 特許-ノラチリオールの新規な製造方法とその用途 図1
  • 特許-ノラチリオールの新規な製造方法とその用途 図2
  • 特許-ノラチリオールの新規な製造方法とその用途 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】ノラチリオールの新規な製造方法とその用途
(51)【国際特許分類】
   C12P 17/06 20060101AFI20241115BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20241115BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20241115BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20241115BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20241115BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20241115BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
C12P17/06
C12N1/20 F ZNA
A61K31/352
A61K8/49
A61P3/10
A61P1/16
A61P35/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020106495
(22)【出願日】2020-06-19
(65)【公開番号】P2022001026
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-05-23
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-03226
(73)【特許権者】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】川上 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】奥田 洋
(72)【発明者】
【氏名】桑原 浩誠
(72)【発明者】
【氏名】西谷 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】神崎 浩
(72)【発明者】
【氏名】仁戸田 照彦
(72)【発明者】
【氏名】ハサナ ウスワトゥン
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-368379(JP,A)
【文献】Biological & Pharmaceutical Bulletin(2005),28(9),p.1672-1678
【文献】Environmental Microbiology(2011),13(2),p.482-494
【文献】International Journal of Systematic and Evolutionaly Microbiology(2018),Vol.68,p.3356-3361
【文献】Applied Mirobiology and Biotechnology(2020.01.13),Vol.104,18831890
【文献】日本農芸化学会中四国支部講演会講演要旨集(Web),41,2015年,D-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
C12N 1/00-7/08
A61K31/33-33/44
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
CAPLUS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GenSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を用いてノラチリオールを製造する方法であって、当該微生物が受託番号NITE P-03226のバチルス・エスピー KM7-1株であることを特徴とするノラチリオールの製造方法。
【請求項2】
前記微生物が、マンギフェリンの非存在下又は存在下で培養して調製したものであることを特徴とする、請求項1に記載のノラチリオールの製造方法。
【請求項3】
前記微生物が、好気的又は嫌気的条件下で培養して調製したものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のノラチリオールの製造方法。
【請求項4】
前記微生物が、70℃未満の温度条件下で培養して調製したものであることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載のノラチリオールの製造方法。
【請求項5】
前記微生物の休止菌体、前記微生物の菌体破砕物、及び前記微生物の菌体抽出物からなる群から選択される少なくとも1つを用いてノラチリオールを製造することを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載のノラチリオールの製造方法。
【請求項6】
前記微生物をマンギフェリンの存在下で培養しながらノラチリオールを製造することを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載のノラチリオールの製造方法。
【請求項7】
前記ノラチリオールの製造を好気的又は嫌気的条件下で行うことを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載のノラチリオールの製造方法。
【請求項8】
前記ノラチリオールの製造を70℃以下の温度条件下で行うことを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載のノラチリオールの製造方法。
【請求項9】
前記微生物が、70℃未満の好気的又は嫌気的条件下で生育可能であることを特徴とする、請求項1~8のいずれかに記載のノラチリオールの製造方法。
【請求項10】
受託番号NITE P-03226のバチルス・エスピー KM7-1株であることを特徴とする微生物。
【請求項11】
受託番号NITE P-03226のバチルス・エスピー KM7-1株である微生物の菌体、前記微生物の菌体破砕物、及び前記微生物の菌体抽出物からなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とするノラチリオール調製用剤。
【請求項12】
請求項1~9のいずれかに記載の製造方法でノラチリオールを調製する工程と、
前記ノラチリオールを用いてノラチリオールを含む食品、飼料・餌料、化粧品、医薬品又は医薬部外品を製造する工程とを含むことを特徴とする、食品、飼料・餌料、化粧品、医薬品又は医薬部外品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノラチリオールの新規な製造方法、前記製造方法に好適に用いることができる微生物、ノラチリオール調製用剤、並びにノラチリオールを含む食品、飼料・餌料、化粧品、医薬品又は医薬部外品などの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記構造式で表されるマンギフェリン(Mangiferin)は、マンゴー、サラシア、エルカンプーレなどの植物に豊富に含まれているC-配糖体である。マンギフェリンは、血糖降下作用、抗肥満作用、抗胃痛作用などの生理活性を有することが知られている。
【化1】
【0003】
下記構造式で表されるノラチリオール(Norathyriol)は、マンギフェリンのアグリコンである。ノラチリオールの生理活性の強度は、マンギフェリンよりも高いことが知られている。また、ノラチリオールは、結腸癌、肺癌、乳癌、糖尿病、及び非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)に対する生理活性を有することも知られている。一方、ノラチリオールは、天然の存在量が少ないという問題がある。
【化2】
【0004】
これまでに、マンギフェリンからノラチリオールを製造する方法としては、化学的な方法や、微生物を用いた微生物変換法が報告されている。
【0005】
前記化学的な方法としては、有機合成による方法や酸触媒による分解などが提案されている。しかしながら、有機合成による方法は合成ステップが長く、経済的に成り立つ方法ではないという問題があり、酸触媒による分解は収率が高いとは言えないという問題がある。また、環境面からもあまり適した方法とは言えないという問題がある。
【0006】
一方、微生物変換法は環境的な観点からは、化学的な方法よりも適した方法と考えられる。これまでに、マンギフェリンからノラチリオールへの変換を触媒することができる微生物として、Bacteroides sp. MANG株(非特許文献1参照)、CG19-1株(非特許文献2参照)が報告されている。なお、CG19-1株は、その後の報告において、Catenibacillus scindensと同定されている(非特許文献3参照)。
【0007】
しかしながら、前記報告の微生物は、嫌気性菌のため、その培養のために特別な装置又は器具を必要とする。また、前記報告の微生物は、変換活性を有する菌体の培養に基質となるマンギフェリンの添加が必要である。これらのことはいずれも、ノラチリオールの製造を行う際のコストを増大させるため、経済的に非常に問題となる。
【0008】
したがって、従来よりも簡便で効率的、安全かつ環境にも優しい手法として、植物中に大量に含まれるマンギフェリンからノラチリオールを製造することができる技術の速やかな提供が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Sanugul K., Akao T., Li Y., Kakiuchi N., Nakamura N., Hattori M.、Isolation of a human intestinal bacterium that transforms Mangiferin to Norathyriol and inducibility of the enzyme that cleaves a C-glucosyl bond,2005, Biol. Pharm. Bull.,28(9):1672-1678.
【文献】Braune A., Blaut M.、Deglycosylation of puerarin and other aromatic C-glucosides by newly isolated human intestinal bacterium,2011, Environmental Microbiology,13(2):482-494.
【文献】Braune A., Blaut M.、Cantenibacillus scindens gen. nov., sp. nov., a C-deglycosylating human intestinal representative of the Lachnospiraceae,2018,Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 68:3356-3361.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような要望に応え、現状を打破し、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、マンギフェリンからノラチリオールを従来よりも簡便で効率的、安全かつ環境にも優しく製造することができるノラチリオールの新規な製造方法、前記製造方法に好適に用いることができる微生物、ノラチリオール調製用剤、並びにノラチリオールを含む食品、飼料・餌料、化粧品、医薬品又は医薬部外品などの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、マンギフェリンをノラチリオールに変換する能力を有するバチルス属に属する微生物を用いることで、マンギフェリンからノラチリオールを従来よりも簡便な手法で効率的に製造することができることを知見した。
【0012】
本発明は、本発明者らの前記独自の知見等に基づくものであり、前記課題を解決するための手段は、以下のとおりである。即ち、
<1> 微生物を用いてノラチリオールを製造する方法であって、当該微生物がバチルス(Bacillus)属に属し、マンギフェリンをノラチリオールに変換する能力を有する微生物であることを特徴とするノラチリオールの製造方法である。
<2> 前記微生物が、マンギフェリンの非存在下又は存在下で培養して調製したものであることを特徴とする、前記<1>に記載のノラチリオールの製造方法である。
<3> 前記微生物が、好気的又は嫌気的条件下で培養して調製したものであることを特徴とする、前記<1>又は<2>に記載のノラチリオールの製造方法である。
<4> 前記微生物が、70℃未満の温度条件下で培養して調製したものであることを特徴とする、前記<1>~<3>のいずれかに記載のノラチリオールの製造方法である。
<5> 前記微生物の休止菌体、前記微生物の菌体破砕物、及び前記微生物の菌体抽出物からなる群から選択される少なくとも1つを用いてノラチリオールを製造することを特徴とする、前記<1>~<4>のいずれかに記載のノラチリオールの製造方法である。
<6> 前記微生物をマンギフェリンの存在下で培養しながらノラチリオールを製造することを特徴とする、前記<1>~<4>のいずれかに記載のノラチリオールの製造方法である。
<7> 前記ノラチリオールの製造を好気的又は嫌気的条件下で行うことを特徴とする、前記<1>~<6>のいずれかに記載のノラチリオールの製造方法である。
<8> 前記ノラチリオールの製造を70℃以下の温度条件下で行うことを特徴とする、前記<のいずれかに記載のノラチリオールの製造方法である。
<9> 前記微生物が、70℃未満の好気的又は嫌気的条件下で生育可能であることを特徴とする、前記<1>~<8>のいずれかに記載のノラチリオールの製造方法である。
<10> 前記微生物が、受番号NITE -03226のバチルス・エスピー KM7-1株であることを特徴とする、前記<1>~<9>のいずれかに記載のノラチリオールの製造方法である。
<11> 受番号NITE -03226のバチルス・エスピー KM7-1株であることを特徴とする微生物である。
<12> バチルス属に属し、マンギフェリンをノラチリオールに変換する能力を有する微生物の菌体、前記微生物の菌体破砕物、及び前記微生物の菌体抽出物からなる群から選択される少なくとも1つを含むことを特徴とするノラチリオール調製用剤である。
<13> 前記<1>から<10>のいずれかに記載の製造方法でノラチリオールを調製する工程と、
前記ノラチリオールを用いてノラチリオールを含む食品、飼料・餌料、化粧品、医薬品又は医薬部外品を製造する工程とを含むことを特徴とする、食品、飼料・餌料、化粧品、医薬品又は医薬部外品の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、マンギフェリンからノラチリオールを従来よりも簡便で効率的、安全かつ環境にも優しく製造することができるノラチリオールの新規な製造方法、前記製造方法に好適に用いることができる微生物、ノラチリオール調製用剤、並びにノラチリオールを含む食品、飼料・餌料、化粧品、医薬品又は医薬部外品などの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、試験例2におけるバチルス・エスピー KM7-1株の種々の好気的条件下での生育度を測定した結果を示す図である。
図2図2は、試験例2における種々の好気的条件下で培養したバチルス・エスピー KM7-1株のノラチリオール生成濃度を測定した結果を示す図である。
図3図3は、試験例3におけるバチルス・エスピー KM7-1株の休止菌体反応におけるマンギフェリンからノラチリオールの生成の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(ノラチリオールの製造方法)
本発明のノラチリオールの製造方法は、微生物を用いてノラチリオールを製造する方法であって、ノラチリオールの生成工程を少なくとも含み、活性微生物調製工程、回収工程等のその他の工程を必要に応じて更に含む。
【0016】
<生成工程>
前記生成工程は、バチルス属に属し、マンギフェリンをノラチリオールに変換する能力(以下、「活性」と称することもある。)を有する微生物を用いてマンギフェリンからノラチリオールを生成する(以下、「変換する」と称することもある。)工程である。
【0017】
-微生物-
前記微生物としては、バチルス属に属し、マンギフェリンをノラチリオールに変換する能力を有する微生物であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0018】
前記微生物としては、好気的条件下及び嫌気的条件下の少なくともいずれかの条件下でマンギフェリンをノラチリオールに変換する活性を有するものであることが好ましく、好気的件下でマンギフェリンをノラチリオールに変換する能力を有するものであることがより好ましい。
また、前記微生物としては、高温且つ好気的又は嫌気的条件下で生育し、マンギフェリンをノラチリオールに変換する活性を有する菌体を調製可能なものであることが好ましく、高温且つ好気的条件下で生育し、マンギフェリンをノラチリオールに変換する活性を有する菌体を調製可能なものであることがより好ましい。
前記好気的条件とは、酸素が存在する条件を意味する。
【0019】
前記微生物の生育温度の下限としては、通常4℃以上であり、10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましい。前記微生物の生育温度の上限としては、通常70℃未満、好適には65℃以下、より好適には60℃以下が好ましい。前記微生物の好適な生育温度の範囲としては、20~65℃、より好ましくは30~60℃、更に好ましくは40~60℃の温度範囲が好適に挙げられる。
【0020】
前記微生物としては、マンギフェリンを含有しない培地で培養して調製された場合でも、マンギフェリンをノラチリオールに変換する活性を有するものであることが好ましい。
【0021】
前記微生物としては、16S rDNA(16S rRNA遺伝子)の塩基配列が、配列番号1で表される受番号NITE -03226のバチルス・エスピー(Bacillus sp.) KM7-1株の16S rDNAの部分塩基配列と相同性を有する微生物であることが好ましい。前記相同性としては、当該微生物がマンギフェリンをノラチリオールに変換する活性を有する限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、通常99.0%以上が好ましく、99.2%以上がより好ましく、99.3%以上が特に好ましい。
前記相同性を解析する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、BLAST相同性検索により行う方法などが挙げられる。
【0022】
前記微生物としては、受番号NITE -03226のバチルス・エスピー KM7-1株であることが好ましい。前記バチルス・エスピー KM7-1株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター(NPMD)(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託申請した(受番号NITE -03226、受領日:2020年5月26日)。
【0023】
前記微生物としては、本質的に、C-配糖体であるマンギフェリンからノラチリオールを生成する活性を有する微生物であって、同じC-配糖体であるプエラリン(puerarin)からはそのアグリコンを生成する活性を有さない微生物であることが好ましい。
【0024】
前記微生物の入手方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、マウスの腸内細菌叢、発酵食品、植物(花・茎・葉・根)、土壌などから単離する方法などが挙げられる。
前記マウスの腸内細菌叢から前記微生物を単離する方法としては、特に制限はなく、腸内細菌の一般的な単離手法を適宜選択することができ、例えば、マウス糞便を、GAM液体培地を用い、嫌気的条件で培養し、得られた菌体がマンギフェリンをノラチリオールに変換する活性を有するか否かを確認することにより、入手することができる。
前記単離における培養の条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、37℃程度で、4日間程度培養するなどが挙げられる。
前記得られた菌体がマンギフェリンをノラチリオールに変換する活性を有するか否かを確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、後述する〔実施例〕の項目に記載の[活性測定]と同様にして行うことができる。
【0025】
前記入手した微生物から生成工程で用いる微生物(以下、「活性微生物」と称することがある。)を調製する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、マンギフェリンの非存在下で培養して調製したものであってもよいし、マンギフェリンの存在下で培養して調製したものであってもよい。また、好気的条件下で培養して調製したものであってもよいし、嫌気的条件下で培養して調製したものであってもよい。その際、70℃未満の温度条件下で培養して調製したものを適宜用いることができる。
【0026】
-マンギフェリン-
前記マンギフェリンは、市販品を用いてもよいし、公知の方法により植物から調製したマンギフェリンを用いてもよい。また、前記マンギフェリンは、精製されたものを用いてもよいし、植物から調製した、マンギフェリン以外の成分が含まれる未精製物や粗精製物を用いてもよい。
【0027】
-生成-
前記生成の方法としては、マンギフェリンからノラチリオールを生成することができる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、増殖状態にある前記微生物の菌体を用いる態様、休止状態にある前記微生物の菌体を用いる態様、前記微生物の菌体破砕物や菌体抽出物を用いる態様などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明において、「微生物を用いてノラチリオールを製造する」における微生物には、菌体の態様、菌体破砕物や菌体抽出物等の菌体処理物の態様が含まれる。
また、前記微生物や菌体処理物は、担体に固定化するなどの処理をして用いてもよい。
【0028】
前記菌体破砕物又は菌体抽出物の調製方法としては、前記菌体破砕物又は菌体抽出物を用いてマンギフェリンからノラチリオールを生成することができる限り、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。調製した前記菌体破砕物又は菌体抽出物を用いてマンギフェリンからノラチリオールを生成することができるか否かは、例えば、後述する〔実施例〕の項目に記載の[活性測定]と同様にして行うことができる。
【0029】
前記生成工程は、上述したように増殖状態にある菌体を用いても行うことができるが、とりわけ、休止状態にある菌体を用いた休止菌体反応で行うことが好ましい。前記休止菌体反応とは、微生物の生育、増殖を止めた状態で、マンギフェリンからノラチリオールを生成する反応を行うことをいう。
【0030】
--増殖状態にある微生物の菌体を用いる態様--
前記増殖状態にある微生物の菌体を用いる態様としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記微生物をマンギフェリンの存在下で培養しながら行う態様が挙げられる。
【0031】
前記増殖状態にある微生物の菌体を用いる態様における培地としては、特に制限はなく、公知の微生物の培養に用いる培地を適宜選択することができ、例えば、ブイヨン培地(NB培地)などが挙げられる。
【0032】
前記培地における前記菌体や前記マンギフェリンの含有量としては、特に制限はなく、例えば、前記増殖状態にある微生物の菌体量やノラチリオールの生成効率などを考慮して、適宜選択することができる。
【0033】
--休止状態にある微生物の菌体を用いる態様、微生物の菌体破砕物や菌体抽出物を用いる態様--
前記休止状態にある微生物の菌体を用いる態様、前記微生物の菌体破砕物や菌体抽出物を用いる態様としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記休止状態にある微生物の菌体、前記微生物の菌体破砕物、及び前記微生物の菌体抽出物の少なくともいずれかと、前記マンギフェリンとを、必要に応じてその他の成分を含む液体中で反応させる方法などが挙げられる。前記方法は、前記休止状態にある微生物の菌体、前記微生物の菌体破砕物、及び前記微生物の菌体抽出物の少なくともいずれかと前記マンギフェリンのみを用いて行ってもよい。
【0034】
前記液体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リン酸ナトリウム緩衝液(リン酸緩衝液)、酢酸ナトリウム緩衝液(酢酸緩衝液)、クエン酸・クエン酸カリウム緩衝液(クエン酸緩衝液)、クエン酸リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、フタル酸緩衝液、トリス緩衝液、マッキルベイン緩衝液、塩化アンモニウム緩衝液、HEPES緩衝液、乳酸ナトリウム緩衝液(乳酸緩衝液)、トリス塩酸緩衝液等の緩衝液、水道水、精製水等の水、生理食塩水などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記液体の好適なpHは、通常pH4~10、好ましくはpH5~9、より好ましくはpH6~8の範囲である。
【0035】
前記液体における前記休止状態にある微生物の菌体、前記微生物の菌体破砕物、及び前記微生物の菌体抽出物の合計含有量や前記マンギフェリンの含有量としては、特に制限はなく、例えば、前記休止状態にある微生物の菌体、前記微生物の菌体破砕物、及び前記微生物の菌体抽出物の合計含有量やノラチリオールの生成効率などを考慮して、適宜選択することができる。
例えば、前記液体における前記マンギフェリンの含有量としては、通常0.01~100mM、好適には0.1~10mMの濃度範囲の量が用いられる。
【0036】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記マンギフェリンを溶解させるための溶媒などが挙げられる。
前記マンギフェリンを溶解させるための溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」と称することがある。)、ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と称することがある。)、テトラヒドロフラン(以下、「THF」と称することがある。)、アセトニトリル、アセトン等の非プロトン性極性溶媒、エタノール、メタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、酢酸等のプロトン性極性溶媒などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記液体中におけるその他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0037】
前記生成工程の条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、好気的条件であってもよいし、嫌気的条件であってもよいが、好気的条件で行うことが好ましい。
【0038】
前記生成工程の温度(以下、「反応温度」と称することがある。)の下限としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、通常10℃以上であり、20℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましい。前記生成工程の温度の上限としては、通常70℃以下が好ましく、好適には60℃以下がより好ましい。前記生成工程の好適な温度の範囲としては、20~70℃の範囲が好ましく、30~60℃の範囲がより好ましい。
前記反応温度は、生成工程を行う間、一定であってもよいし、変化させてもよい。例えば、増殖状態の微生物の菌体を用いて生成工程を行う場合は、微生物の増殖に好適な一定の温度又はノラチリオールの生成に好適な一定の温度で処理してもよいし、微生物の増殖に好適な温度で一定時間処理した後に、ノラチリオールの生成に好適な温度に適宜変化させて処理することもできる。
【0039】
前記生成工程の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、通常1時間以上、好適には5~50時間などが挙げられる。
【0040】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、活性微生物調製工程、回収工程などが挙げられる。
【0041】
-活性微生物調製工程-
前記微生物調製工程は、上記した生成工程で用いる微生物を調製する工程である。
【0042】
前記微生物を調製する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、培地中で、前記微生物を培養し、増殖させる工程などが挙げられる。得られた菌体は、生成工程に付す前に、必要に応じて洗浄、濃縮、乾燥、破砕、粉砕、抽出、固定化などの処理を行ってもよい。
【0043】
前記培地としては、特に制限はなく、公知の微生物の培養に用いる培地を適宜選択することができ、例えば、ブイヨン培地(NB培地)などが挙げられる。前記培地の好適なpHは、通常pH4~10、好ましくはpH5~9、より好ましくはpH6~8の範囲である。前記培地は、マンギフェリンを含有するものであってもよいし、含有しないものであってもよいが、マンギフェリンを含有しないものであることが好ましい。後述する〔実施例〕の項目で示したように、本発明では、マンギフェリンを含有しない培地で培養して調製した微生物を用いた場合でも、前記生成工程においてマンギフェリンをノラチリオールに変換することができる。そのため、前記培地中にマンギフェリンを含有させなくても所望の活性を有する微生物を調製することができ、本発明はコスト面でも非常に優れている。
【0044】
前記培養の方法としては、特に制限はなく、公知の微生物の培養方法を適宜選択することができる。
【0045】
前記培養の条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、好気的条件で行ってもよいし、嫌気的条件で行ってもよいが、好気的条件で行うことが好ましい。
【0046】
前記培養の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上記した微生物の生育温度に応じて適宜選択することができる。
【0047】
前記培養の期間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、通常1時間以上、好適には1~5日間などが挙げられる。
【0048】
前記培養に用いる容器としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0049】
前記培養の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、静置培養、通気培養、攪拌培養、振とう培養、回分培養、半回分培養(流加培養)、連続培養などが挙げられる。
【0050】
-回収工程-
前記回収工程は、前記生成工程で生成したノラチリオールを回収する工程である。
【0051】
前記ノラチリオールを回収する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を目的に応じて適宜選択することができ、例えば、溶媒抽出法、各種吸着材に対する吸着親和性の差を利用する方法、クロマトグラフ法などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
前記回収工程で回収されるノラチリオールは、精製されたものであってもよいし、粗精製のものであってもよいし、未精製のものであってもよい。
【0053】
本発明のノラチリオールの製造方法により製造されるノラチリオールの用途としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、食品、飼料・餌料、化粧品、医薬品、医薬部外品などに好適に用いることができる。
【0054】
(微生物)
本発明の微生物の一態様は、上記した受番号NITE -03226のバチルス・エスピー KM7-1株である。
【0055】
(ノラチリオール調製用剤)
本発明のノラチリオール調製用剤は、バチルス属に属し、マンギフェリンをノラチリオールに変換する能力を有する微生物の菌体、前記微生物の菌体破砕物、及び前記微生物の菌体抽出物からなる群から選択される少なくとも1つを含み、必要応じて更にその他の構成を含む。
【0056】
<バチルス属に属し、マンギフェリンをノラチリオールに変換する能力を有する微生物の菌体、前記微生物の菌体破砕物、及び前記微生物の菌体抽出物からなる群から選択される少なくとも1つ>
前記バチルス属に属し、マンギフェリンをノラチリオールに変換する能力を有する微生物の菌体、前記微生物の菌体破砕物、及び前記微生物の菌体抽出物は、上記した本発明の(ノラチリオール製造方法)の<生成工程>の項目に記載したものと同様であり、好ましい態様も同様である。
前記微生物の菌体、菌体破砕物、及び菌体抽出物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0057】
<その他の構成>
前記その他の構成としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、緩衝液や水などの液体、前記マンギフェリンを前記液体に溶解させるための溶媒などが挙げられる。
【0058】
(食品、飼料・餌料、化粧品、医薬品又は医薬部外品の製造方法)
本発明の食品、飼料・餌料、化粧品、医薬品又は医薬部外品などの製造方法は、ノラチリオール調製工程と、製造工程とを少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を有する。
【0059】
<ノラチリオール調製工程>
前記ノラチリオール調製工程は、上記した本発明のノラチリオールの製造方法でノラチリオールを調製する工程であり、上記した(ノラチリオールの製造方法)の項目に記載したものと同様にして行うことができる。
【0060】
<製造工程>
前記製造工程は、前記ノラチリオール調製工程で得られたノラチリオールを用いてノラチリオールを含む食品、飼料・餌料、化粧品、医薬品又は医薬部外品などを製造する工程である。
前記製造工程の方法としては、前記調製工程で得られたノラチリオールを用いる限り、特に制限はなく、食品、飼料・餌料、化粧品、医薬品又は医薬部外品などの公知の製造方法を適宜選択することができ、例えば、食品、飼料・餌料、化粧品、医薬品又は医薬部外品などの原料中に前記ノラチリオールを配合したり、製造した食品、飼料・餌料、化粧品、医薬品又は医薬部外品などに前記ノラチリオールを添加したりする方法などが挙げられる。なお、前記ノラチリオール調製工程で得られたノラチリオールをそのまま、或いは、精製してノラチリオールを含む食品、飼料・餌料、化粧品、医薬品又は医薬部外品などとする場合には、原料にノラチリオールを配合又は添加する工程を省くことができる。
【0061】
前記食品、飼料・餌料、化粧品、医薬品又は医薬部外品の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記食品には、飲料、機能性食品、健康食品なども含まれる。
また、前記化粧品としては、例えば、皮膚化粧料、メークアップ化粧料、洗浄料、頭髪化粧料、頭髪洗浄料、育毛剤、染毛剤、脱色剤、ウェーブ液などが挙げられる。
【0062】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【実施例
【0063】
以下、試験例を示して本発明を説明するが、本発明はこれらの試験例に何ら限定されるものではない。
【0064】
(試験例1:菌株の単離及び同定)
<菌株の単離>
マウス糞便から、マンギフェリンをノラチリオールに変換する能力を有する株の単離を以下のようにして行った。
(1) マウス糞便を、GAM液体培地(日水製薬社製)を用い、嫌気的条件(三菱ガス化学社製の嫌気培養キット「アネロパック」を使用)で4日間、37℃で培養した。得られた菌体の一部を用いて、下記の[活性測定]により、マンギフェリンをノラチリオールに変換する活性を有するか否かを確認した。
[活性測定]
得られた菌体(培養液10mLで得られる菌体量)を用い、1mM マンギフェリン及び5%DMSOを含有する50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.3)(濃度はいずれも最終濃度を示す。反応液総量は0.1mL)中で、好気的条件で24時間、37℃で休止菌体反応を行った。
反応終了後、反応液を1-ブタノールで抽出処理し、その1-ブタノール層を次に示す液体クロマトグラフィー分析に供して、基質であるマンギフェリンと、精製物であるノラチリオールを定量した。
-液体クロマトグラフィー分析-
以下に示す装置及び条件で分離し、標準標品との比較により、マンギフェリンとノラチリオールを定量した。
・ 装置 : Acquity H-Class UPLCシステム
・ カラム : Waters社 HSS T3 φ 2.1×50(mm)
・ 検出波長 : 310nm
・ 溶出溶媒 : 30-75%メタノール(濃度勾配)+0.1%トリフルオロ酢酸
・ 流速 : 0.6mL/min
【0065】
(2) 上記(1)で得た残りの菌体を生理食塩水で段階希釈した(10、10、10、10、10倍希釈)。
【0066】
(3) 上記(2)で調製した希釈液を、直径9cmのペトリ皿中のGAM寒天培地(日水製薬社製のGAM液体培地に寒天を1.5%添加したもの)に100μL(1つの希釈液について2枚ずつ)塗布し、嫌気的条件で4日間、37℃で培養した。
【0067】
(4) 分離したコロニーが現れた、10倍希釈の希釈液を塗布したペトリ皿の1枚については、シャーレ上の菌体全てを集め、上記(1)に記載の[活性測定]と同様にして、マンギフェリンをノラチリオールに変換する活性を有することを確認した。そのうえで、もう1枚のペトリ皿からコロニー13株をピックアップし、別のペトリ皿中のGAM寒天培地(2枚ずつ)に植菌し、上記(3)と同じ条件で培養した。
【0068】
(5) 13株すべてのペトリ皿1枚から菌株を回収し、上記(1)に記載の[活性測定]と同様にして活性測定を行ない、3株にマンギフェリンをノラチリオールに変換する活性が認められた。
【0069】
(6) 上記活性が認められた3株について、もう1枚のペトリ皿から菌株を回収し、もう一度上記(2)、(3)、及び(4)と同様の流れでコロニーを作成し、それらのコロニーにマンギフェリンをノラチリオールに変換する活性のあることを、上記(1)に記載の[活性測定]と同様にして活性測定を行ない、確認した。
【0070】
以上により、マンギフェリンをノラチリオールに変換する能力を有する株を単離した。
【0071】
<菌株の同定>
上記で単離した3株の16S rDNAの塩基配列を解析したところ、全く同じ塩基配列が得られた。そこで、最も典型的な株であるKM7-1株を選択し、このKM7-1株について、分子系統解析(16S rDNAの部分塩基配列解析の結果に基づく)による菌株の同定を行った。
なお、解析は、解析ソフトウェアとして株式会社テクノスルガ・ラボ製のENKIを用い、データベースとして、DB-BA14.1(株式会社テクノスルガ・ラボ)と国際塩基配列データベース(DDBJ/ENA(EMBL)/GenBank)を用いたBLAST相同性検索により、行った。
その結果、最も高い相同率を示したのはBacillus hisashii N-11株(Accession No. AB618491)(相同率 495/499, 99.2%)であり、前記KM7-1株は、バチルス属に属するものと考えられた。そこで、前記KM7-1株をバチルス・エスピー(Bacillus sp.) KM7-1株とした。
なお、前記KM7-1株の16S rDNAの部分塩基配列(499bp)は配列番号1に示すとおりのものであった。
【0072】
前記バチルス・エスピー KM7-1株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター(NPMD)(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託申請した(受番号NITE -03226、受領日:2020年5月26日)。
【0073】
(試験例2:好気的条件下での生育と変換活性)
<生育>
下記の培養条件で、バチルス・エスピー KM7-1株の培養を行った。
[生育温度]
37℃、45℃、又は50℃
[培養容器と培地量]
50mLの三角フラスコ中に30mLのブイヨン培地(NB培地)、20mLの三角フラスコ中に10mLのブイヨン培地(NB培地)、又は直径25mmの試験管中に10mLのブイヨン培地(NB培地)
[培養期間]
1日、2日、3日、4日、又は5日
[培養の種類]
静置培養、又は振とう培養
【0074】
図1に、上記の培養条件で培養したバチルス・エスピー KM7-1株の生育度(培地10mLあたりの菌体量(mg)を示す。図1中、黒の棒グラフは静置培養の場合を示し、白の棒グラフは振とう培養の場合を示す。
【0075】
<活性測定>
上記の培養条件で培養して得られた菌体を用い、下記の湿菌体量とした以外は、上記試験例1の[活性測定]と同様にして、休止菌体反応を行い、生成したノラチリオールの量を測定した。
・ 湿菌体量 : 12mg、18mg、20mg、25mg、又は35mg
【0076】
図2に、上記の培養条件で培養して得られた菌体を用いた休止菌体反応で得られたノラチリオール生成濃度(μM)を測定した結果を示す。図2中、黒の棒グラフは静置培養の菌体を用いた場合を示し、白の棒グラフは振とう培養の菌体を用いた場合を示す。
【0077】
以上の結果から、バチルス・エスピー KM7-1株は、好気的に良好に生育し、好気的な休止菌体反応でマンギフェリンを効率良くノラチリオールに変換すること、及び37℃よりも50℃の方がより良好な生育を示すことが確認された。
また、バチルス・エスピー KM7-1株は、培養日数に関わらず、同じ菌体量でほぼ同じ変換活性を有していたこと、及び生育の際の培地にマンギフェリンを添加していないことから、マンギフェリンをノラチリオールに変換する変換活性酵素は構成的に発現していることが推察される。
そして、バチルス・エスピー KM7-1株は、培養容器の種類にかかわらず、振とう培養より静置培養の生育がより良好であること、試験管培養より三角フラスコ培養のほうが生育が良好で、生育2日目で最大生育を示すことが確認された。
【0078】
(試験例3:休止菌体反応によるマンギフェリンからノラチリオール生成の経時変化)
バチルス・エスピー KM7-1株を20mLの三角フラスコ中に10mLのブイヨン培地(NB培地)を用いて、50℃、3日間、静置条件下で培養し、得られた菌体(8mg又は16mg)を用いて、マンギフェリンからノラチリオールへの変換の経時変化実験を行なった。
<活性測定>
マンギフェリンからノラチリオールへの変換の経時変化実験は、上記の培養条件で培養して得られた菌体を上記の量で用い、反応時間を36時間とした以外は、上記試験例1の[活性測定]と同様にして、休止菌体反応にて行い、残存するマンギフェリンの濃度と生成したノラチリオールの濃度とを測定した。
【0079】
図3に、上記の培養条件で培養して得られた菌体を用いた休止菌体反応で得られたノラチリオール生成濃度(μM)を経時的に測定した結果と、マンギフェリンの残存濃度(μM)を経時的に測定した結果を示す。図3中、「○」は8mgの菌体を用いた場合のノラチリオールの生成濃度(「8mg(Nora)」)を示し、「□」は16mgの菌体を用いた場合のノラチリオールの生成濃度(「16mg(Nora)」)を示し、「●」は8mgの菌体を用いた場合のマンギフェリンの残存濃度(「8mg(Mang)」)を示し、「■」は16mgの菌体を用いた場合のマンギフェリンの残存濃度(「16mg(Mang)」)を示す。
【0080】
図3に示すように高変換率でノラチリオールが生成し、その生成初速度は菌体量に対応していた。
【0081】
以上のように、本発明の微生物は、これまでに報告されているマンギフェリンをノラチリオールに変換する活性を有する微生物と異なり、好気的条件で培養することができ、また、変換活性酵素を誘導するための基質(マンギフェリン)の添加が不要であり、更に、マンギフェリンからノラチリオールへの変換反応が好気的条件下で進行することができる。また、本発明の微生物は、休止菌体反応でマンギフェリンをノラチリオールに変換する活性を有するため、基質であるマンギフェリンのみを含有する緩衝液中で反応を行うことができ、基質以外のその他の成分を含有しない系での反応も可能である。そのため、本発明によれば、特殊な培養条件や特別な装置・器具を必要とせず、経済的に優れた安全で環境にも優しい変換システムを構築することができる。
また、マンギフェリンは植物中に多量に存在し安価に供給可能であるため、本発明によれば、これまで高価であったノラチリオールを安価かつ安定に生産し、市場に供給することが可能となる。
【受託番号】
【0082】
NITE -03226
図1
図2
図3
【配列表】
0007588308000001.app