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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】判定装置、判定方法、判定プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20241115BHJP
【FI】
A61B10/00 H
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020208686
(22)【出願日】2020-12-16
(65)【公開番号】P2021094402
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2019226401
(32)【優先日】2019-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】518070663
【氏名又は名称】株式会社NeU
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 清
(72)【発明者】
【氏名】川島 隆太
(72)【発明者】
【氏名】花沢 明俊
(72)【発明者】
【氏名】宮川 大
【審査官】鳥井 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0025033(US,A1)
【文献】特開平09-019419(JP,A)
【文献】実開昭59-017971(JP,U)
【文献】特開2011-024869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/16
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者によって描画された線画を取得する取得部と、
前記取得部で受け付けた線画における線の長さである描画距離を計測し、所定の図形における線の長さに対する前記描画距離の比を算出し、算出した前記比と、あらかじめ求めた前記比と認知症検査結果との関係とに基づいて認知機能低下の程度を判定する演算部と、
を備える判定装置。
【請求項2】
前記所定の図形を表示する表示部を備え、
前記取得部は、前記利用者によって描画される前記線画の入力を受け付ける入力装置を含む、
請求項1に記載の判定装置。
【請求項3】
前記所定の図形は、多角形の隣接する頂点間を、前記多角形の内側に湾曲する曲線で結んだ曲線を含む、
請求項1または2に記載の判定装置。
【請求項4】
前記所定の図形は、多角形の隣接する頂点間を、前記多角形の内側又は外側に湾曲する曲線で結んだ曲線を含む、
請求項1または2に記載の判定装置。
【請求項5】
前記多角形は、四角形であり、
前記演算部は、前記比が小さいほど認知機能低下の程度が高いと判定する、
請求項3または4に記載の判定装置。
【請求項6】
前記多角形は、八角形であり、
前記演算部は、前記比が大きいほど認知機能低下の程度が高いと判定する、
請求項3または4に記載の判定装置。
【請求項7】
前記所定の図形は、ラメ曲線の少なくとも一部を含む、
請求項1から6のいずれか1項に記載の判定装置。
【請求項8】
コンピュータが、
利用者によって描画された線画における線の長さである描画距離を計測し、
所定の図形における線の長さに対する計測した前記描画距離の比を算出し、
算出した前記比と、あらかじめ求めた前記比と認知症検査結果との関係とに基づいて認知機能低下の程度を判定する
ことを実行する判定方法。
【請求項9】
コンピュータが、
利用者によって描画された線画における線の長さである描画距離を計測し、
所定の図形における線の長さに対する計測した前記描画距離の比を算出し、
算出した前記比と、あらかじめ求めた前記比と認知症検査結果との関係とに基づいて認知機能低下の程度を判定する、
ことを実行するための判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、判定装置、判定方法、判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化に伴い、今後、高齢者の医療費増大が予想されている。社会コストの増大を防ぐためには、健常時から未病対策を取ることが望ましい。特に、脳の健康維持のためには、定期的な認知機能のチェックと日頃からの脳(認知機能)のトレーニングをすることが望ましい。
【0003】
また、高齢化に伴い、認知症の患者が増加しており、被検者の集団から認知機能低下の傾向のある被検者をスクリーニングする認知症スクリーニング検査の必要性が高まっている。認知症スクリーニング検査として、MMSE(Mini-Mental State Examination、精
神状態短時間検査)、HDS-R(Hasegawa's Dementia Scale-Revised、改訂長谷川式
認知症スケール)、MoCA(Montreal Cognitive Assessment)等がある。例えば、M
MSEは、医師等の専門家が、被検者に対して質問等をすることにより行う検査である。MMSEでは、点数が算出され、当該点数に基づいて、認知症の疑い、軽度認知障害(MCI)の疑い、健常を判定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-126069号公報
【文献】特開平9-19419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
MMSEでは、検査の際に、専門家が被検者に対して質問等をし、判定をすることで行うため、専門家がいないと実施することが難しい。よって、被検者に対して検査(MMSE)を実施するまでに、時間を要するという問題がある。また、MMSEには、検査自体に時間がかかるという問題もある。そこで、専門家がいなくても、簡易に、認知症の疑い、軽度認知障害の疑い、健常などの認知機能低下の程度を判定することが求められている。
【0006】
本発明は、認知機能低下を簡易に判定する判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
即ち、第1の態様は、
利用者によって描画された線画の入力を受け付ける取得部と、
前記取得部で受け付けた線画における線の長さである描画距離を計測し、所定の図形における線の長さに対する前記描画距離の比を算出し、前記比に基づいて認知機能低下の程度を判定する演算部と、
を備える判定装置とする。
【0008】
開示の態様は、プログラムが情報処理装置によって実行されることによって実現されてもよい。即ち、開示の構成は、上記した態様における各手段が実行する処理を、情報処理装置に対して実行させるためのプログラム、或いは当該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体として特定することができる。また、開示の構成は、上記した
各手段が実行する処理を情報処理装置が実行する方法をもって特定されてもよい。開示の構成は、上記した各手段が実行する処理を行う情報処理装置を含むシステムとして特定されてもよい。
【0009】
プログラムを記述するステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくても、並列的または個別に実行される処理を含む。プログラムを記述するステップの一部が省略されてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、認知機能低下を簡易に判定する判定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本実施形態の判定装置の機能ブロックの例を示す図である。
図2図2は、情報処理装置のハードウェア構成例を示す図である。
図3図3は、判定装置100の動作フローの例を示す図である。
図4図4は、被検者に線画の描画を促す表示例を示す図である。
図5図5は、手本となる図形の例を示す図である。
図6図6は、健常者が見本を模写して描いた線画の例である。
図7図7は、認知症患者が見本を模写して描いた線画の例である。
図8図8は、MMSEスコアと手本の線の長さに対する描画距離の比との関係のグラフの例を示す図である。
図9図9は、被検者に線画の描画を促す表示の変形例1を示す図である。
図10図10は、被検者に線画の描画を促す表示の変形例2を示す図である。
図11図11は、見本(手本)の図形の変形例を示す図である。
図12図12は、多角形を八角形とした場合のMMSEスコアと手本の線の長さに対する描画距離の比との関係のグラフの例を示す図である。
図13図13は、多角形を八角形とした場合の健常者が見本を模写して描いた線画の例である。
図14図14は、多角形を八角形とした場合の認知症患者が見本を模写して描いた線画の例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。実施形態の構成は例示であり、発明の構成は、開示の実施形態の具体的構成に限定されない。発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
【0013】
〔実施形態〕
(概要)
ここでは、判定装置が、認知機能低下の程度を判定される被検者に、所定の手本(見本)の線画(曲線を含む線画)を模写させ、被検者によって描かれた線画の線の長さに基づいて、認知機能低下の程度を判定する。被検者の認知機能低下の程度が高い(MMSEスコアが低い)ほど、手本の線画の線の長さと被検者が描画した線画の線の長さである描画距離との差が大きくなる傾向がある。即ち、描画距離とMMSEスコアとに相関がある。そこで、ここでは、判定装置は、見本の図形における線の長さに対する被検者が描画した線画の描画距離の比により認知機能低下の程度を判定する。
【0014】
(構成例)
図1は、本実施形態の判定装置の機能ブロックの例を示す図である。判定装置100は、取得部102、表示部104、演算部106、格納部108を含む。
【0015】
取得部102は、被検者によって、タッチパネル等の入力装置などを用いて描かれた線画を含む画像を取得する。被検者は、例えば、タッチパネル等の入力装置を介して所定の線画を描画する。また、取得部102は、被検者によって筆記用具により所定の用紙などに描かれた線画をスキャナ等により読み込んだ画像を当該スキャナ等より取得してもよい。入力装置、スキャナ等は、判定装置100に通信可能に接続される。また、取得部102は、被検者等のタッチ操作により線画の入力を受け付けるタッチパネル等の入力装置を含んでもよい。取得部102は、取得した画像を格納部108に格納する。
【0016】
表示部104は、手本(見本)となる線画及び被検者が描画する入力領域(描画領域)を表示する液晶ディスプレイ等の表示装置を含む。表示部104は、手本(見本)となる線画を模写して線画を描くように被検者に促す表示をする。表示装置は、タッチパネル等の入力装置と一体化していてもよい。
【0017】
演算部106は、被検者によって描かれた線画の線の長さ(描画距離)を算出(計測)する。演算部106は、手本となる線画の線の長さに対する被検者によって描かれた線画の線の長さの比を算出する。演算部106は、算出した比に基づいて、認知機能低下の程度を判定する。
【0018】
格納部108は、判定装置100で使用されるデータ、プログラム等を格納する。格納部108は、手本となる線画の画像、取得部102で取得された被検者によって描かれた線画を含む画像を格納する。格納部108は、各画像を画像データとして格納する。格納部108は、手本となる画像の線の長さ、演算部106で算出された被検者によって描かれた線画の線の長さを格納する。格納部108は、算出された手本となる線画の線の長さに対する被検者によって描かれた線画の線の長さの比を格納する。格納部108は、認知機能低下の程度を判定する際に使用される閾値を格納する。
【0019】
判定装置100は、PC(Personal Computer)、ワークステーション(WS、Work Station)、スマートフォン、携帯電話、タブレット型端末、カーナビゲーション装置、P
DA(Personal Digital Assistant)のような専用または汎用のコンピュータ、あるいは、コンピュータを搭載した電子機器を使用して実現可能である。
【0020】
図2は、情報処理装置のハードウェア構成例を示す図である。図2に示す情報処理装置は、一般的なコンピュータの構成を有している。判定装置100は、図2に示すような情報処理装置90によって実現される。図2のコンピュータ90は、プロセッサ91、メモリ92、記憶部93、入力部94、出力部95、通信制御部96を有する。これらは、互いにバスによって接続される。メモリ92及び記憶部93は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体である。コンピュータのハードウェア構成は、図2に示される例に限らず、適宜構成要素の省略、置換、追加が行われてもよい。
【0021】
コンピュータ90は、プロセッサ91が記録媒体に記憶されたプログラムをメモリ92の作業領域にロードして実行し、プログラムの実行を通じて各構成部等が制御されることによって、所定の目的に合致した機能を実現することができる。
【0022】
プロセッサ91は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)である。
【0023】
メモリ92は、例えば、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。メモリ92は、主記憶装置とも呼ばれる。
【0024】
記憶部93は、例えば、EPROM(Erasable Programmable ROM)、ハードディスク
ドライブ(HDD、Hard Disk Drive)である。また、記憶部93は、リムーバブルメデ
ィア、即ち可搬記録媒体を含むことができる。リムーバブルメディアは、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリ、あるいは、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)のようなディスク記録媒体である。記憶部93は、二次記憶装置とも呼ばれる。
【0025】
記憶部93は、各種のプログラム、各種のデータ及び各種のテーブルを読み書き自在に記録媒体に格納する。記憶部93には、オペレーティングシステム(Operating System :OS)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。記憶部93に格納される情報は、メモリ92に格納されてもよい。また、メモリ92に格納される情報は、記憶部93に格納されてもよい。
【0026】
オペレーティングシステムは、ソフトウェアとハードウェアとの仲介、メモリ空間の管理、ファイル管理、プロセスやタスクの管理等を行うソフトウェアである。オペレーティングシステムは、通信インタフェースを含む。通信インタフェースは、通信制御部96を介して接続される他の外部装置等とデータのやり取りを行うプログラムである。外部装置等には、例えば、他のコンピュータ、外部記憶装置等が含まれる。
【0027】
入力部94は、キーボード、ポインティングデバイス、ワイヤレスリモコン、タッチパネル等を含む。また、入力部94は、カメラのような映像や画像の入力装置や、マイクロフォンのような音声の入力装置を含むことができる。
【0028】
出力部95は、LCD(Liquid Crystal Display)、EL(Electroluminescence)パ
ネル、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、PDP(Plasma Display Panel)等の表示装置、プリンタ等の出力装置を含む。また、出力部95は、スピーカのような音声の出力装置を含むことができる。
【0029】
通信制御部96は、他の装置と接続し、コンピュータ90と他の装置との間の通信を制御する。通信制御部96は、例えば、LAN(Local Area Network)インタフェースボード、無線通信のための無線通信回路、有線通信のための通信回路である。LANインタフェースボードや無線通信回路は、インターネット等のネットワークに接続される。
【0030】
判定装置100を実現するコンピュータは、プロセッサが補助記憶装置に記憶されているプログラムを主記憶装置にロードして実行することによって、取得部102、表示部104、演算部106としての機能を実現する。一方、格納部108は、主記憶装置または補助記憶装置の記憶領域に設けられる。
【0031】
(動作例)
図3は、判定装置100の動作フローの例を示す図である。図3の動作フローは、判定装置100による被検者の認知機能低下の程度の判定を開始する際に、開始される。
【0032】
S101では、判定装置100の表示部104は、ディスプレイ等の表示装置に、被検者に、手本の図形と同じ図形の描画を促す表示をする。当該表示には、図形の描画を促す文章と、手本となる図形と、被検者が図形を描画する領域である描画領域とが含まれる。
【0033】
図4は、被検者に線画の描画を促す表示例を示す図である。図4の表示例は、例えば、表示部104によって表示される。図4の表示例は、上部に、被検者に図形の描画を促す「左側の図形と同じ図形を、右側に描いて下さい。」との表示と、左側に、手本となる図形と、右側に、被検者が線画を描く描画領域とを含む。手本となる図形は、図4に記載されたものに限定されるものではない。また、図4の表示で例では、描画領域の範囲が点線
の長方形で示されているが、描画領域は他の方法(背景と色が違う長方形等)によって示されてもよい。また、描画領域が示されなくてもよい。描画領域の縦幅及び横幅は、それぞれ、手本の画像の縦幅及び横幅よりも大きい。
【0034】
手本(見本)の図形は、例えば、多角形の各頂点を固定して、各辺(直線)を内側に湾曲させた曲線(閉曲線)とする。頂点を結ぶ1つの曲線は、例えば、頂点間の距離の1/8以上1/4未満の矢高を有する円弧状の曲線である。矢高は、弧中央から弦までの距離である。円弧状の曲線は、円弧に限定されるものではなく、線分の両側を固定して一方の側に湾曲させた曲線であればよい。また、手本の図形は、多角形の各辺を外側に湾曲させたものであってもよい。また、手本の図形は、多角形の各辺を内側に湾曲させたものと外側に湾曲させたものを組み合わせたものであってもよい。また、手本の図形は、閉曲線でなくてもよく、線分(直線)を一方向に湾曲させた曲線(若しくは、当該曲線を複数繋いだもの)であってもよい。当該多角形の隣接する2頂点の距離は、2cm以上6cm未満であることが好ましい。手本の図形の大きさは、ディスプレイ、タッチパネルの大きさに応じて、決められてもよい。手本の図形の縦幅は、例えば、ディスプレイの縦幅の50%から70%であることが好ましい。見本の図形が大きすぎると、被検者が描く図形も大きくなり、被検者が描く図形が描画領域(またはディスプレイ(タッチパネル))からはみ出すおそれがある。また、見本の図形が小さすぎると、被検者が描く図形も小さくなり、線の長さの差が表れにくくなるおそれがある。
【0035】
図5は、手本となる図形の例を示す図である。ここでは、図5のように、多角形である四角形(図5の点線)の各頂点を固定して、各辺を内側に湾曲させた曲線(閉曲線)を手本の図形(図5の実線)とする。当該閉曲線は、例えば、xy直交座標において、(x/a)2/3+(y/b)2/3=1の等式で表される曲線である(a、bは定数)。当該曲線は、ラメ曲線(|x/a|+|y/b|=1)において、n=2/3とした場合である。ここで、当該曲線の長さは、4(a+ab+b)/(a+b)である。当該閉曲線は、当該等式で表される曲線の一部を含む曲線であってもよい。当該閉曲線は、アステロイド曲線であってもよい。アステロイド曲線は、上記の閉曲線の等式において、aとbとが等しい場合であり、xy直交座標において、(x/a)2/3+(y/a)2/3=1の等式で表される曲線である。当該閉曲線は、1以上の円弧、1以上の楕円弧を組み合わせたものであってもよい。当該閉曲線は、ラメ曲線やラメ曲線の一部を含む曲線であってもよい。当該閉曲線は、頂点を含まなくてもよい。手本となる図形の線の長さは、あらかじめ算出されて、格納部108に格納されている。
【0036】
S102では、判定装置100の取得部102は、被検者によって描かれた線画の入力を受け付けるタッチパネル等の入力装置により受け付ける。被検者は、S101の表示部104による表示に従って、タッチパネル等の入力装置により、線画の入力を行う。取得部102は、被検者によって描かれた線画の画像を、被検者を識別する識別子とともに格納部108に格納する。また、取得部102は、入力装置により被検者によって描かれた線画の軌跡を、描画時刻及び描画位置によって取得し、格納部108に格納してもよい。描画位置を描画時刻順につなぐことで、線画の軌跡となる。線画の軌跡は、例えば、被検者が描画した画面上の位置を、描画した時刻毎(例えば、1/30秒(=タッチパネルのサンプリング周期Δt)毎)に取得したもので表される。即ち、線画の軌跡は、描画した時刻である描画時刻と描画した画面上の位置である描画位置とを、描画の開始時刻から終了時刻まで、対応付けられて表される。
【0037】
S103では、判定装置100の演算部106は、S102で取得した被検者によって描かれた線画の線の長さ(描画距離)を算出(計測)する。演算部106は、格納部108に格納される被検者が描いた線画を含む画像を読み出す。演算部106は、読み出した画像に含まれる線画(被検者が描いた線画)を抽出する。演算部106は、抽出した線画
の線の長さ(描画距離)を算出する。線画の線の長さ(描画距離)の算出には周知の方法が使用され得る。また、演算部106は、被検者によって描かれた線画が複数の部分に分かれている場合、それぞれの線画の線の長さを算出し、すべての部分の線画の線の長さを足し合わせたものを描画距離とする。
【0038】
また、演算部106は、被検者によって描かれた線画の軌跡が格納部108に格納されている場合、当該軌跡を抽出し、当該線画の軌跡の線の長さ(描画距離)を算出する。このとき、演算部106は、描画の開始時刻から終了時刻までの各描画位置を取得する。さらに、演算部106は、時刻tの描画位置と次の時刻t+Δtの描画位置との間の距離を
描画の開始時刻から終了時刻までについて加算することで、線画の線の長さ(描画距離)を算出することができる。
【0039】
演算部106は、格納部108に格納される手本となる図形の線の長さを取得する。また、演算部106は、手本となる図形を含む画像を格納部108から取得し、当該画像から手本となる図形(線画)を抽出し、当該線画の線の長さを算出してもよい。演算部106は、手本となる図形の線の長さに対する被検者によって描かれた線画の線の長さ(描画距離)の比を算出する。演算部106は、当該比が第1閾値以上である場合に、被検者が健常であると判定する。演算部106は、当該比が第1閾値未満である場合に、被検者が軽度認知障害の疑いであると判定する。演算部106は、当該比が第1閾値よりも小さい第2閾値未満である場合に、認知症の疑いであると判定する。健常、軽度認知障害の疑い、認知症の疑いは、認知機能低下の程度の例である。健常、軽度認知障害の疑い、認知症の疑いの順に、認知機能低下の程度が高い。よって、演算部106は、算出された比が小さいほど、認知機能低下の程度が高いと判定する。演算部106は、判定結果を、被検者を識別する識別子とともに格納部108に格納する。また、演算部106は、判定結果を、表示部104の表示装置に表示してもよい。
【0040】
図6は、健常者が見本を模写して描いた線画の例である。図7は、認知症患者が見本を模写して描いた線画の例である。図6の健常者が描いた線画の描画距離は、135.4mmである。図7の認知症患者が描いた線画の描画距離は、124.0mmである。健常者が描いた線画の方が、認知症患者が描いた線画に比べて、曲線部分がよく再現されている。認知症患者が描いた線画は、曲線部分がほぼ直線になっている。このため、認知症患者が描いた線画の描画距離は、健常者が描いた線画の描画距離に比べ、短くなっている。なお、見本の図形の線の長さは、165.0mmである。
【0041】
図8は、MMSEスコアと手本の線の長さに対する描画距離の比との関係のグラフの例を示す図である。図8の横軸は、MMSEスコア(点数)であり、縦軸は見本の線の長さに対する描画距離の比である。また、各プロットに基づく近似直線が引かれている。近似直線のRは0.2819、相関係数は0.53である。MMSEスコアと描画距離の比との間には、正の相関がある。MMSEスコアでは、27-30点で健常、22-26点で軽度認知障害の疑い、21点以下で認知症の疑いと判定される。よって、ここでは、第1閾値は0.78、第2閾値は0.75とする。各閾値は、ここで示す値に限定されるものではなく、より多くの被検者のMMSEスコアと描画距離の比との関係によって決定され得る。
【0042】
(その他)
上記の例では、判定装置100が、手本となる画像を表示部104に表示(S101)し、被検者によって描かれた線画の画像等を取得(S102)している。これらのS101及びS102の動作は、判定装置100にインターネット等のネットワークによって接続される他の情報処理装置(PC、スマートフォン、タブレット端末等)によって行われてよい。このとき、判定装置100は、他の情報処理装置から、手本となる画像や被検者
によって描かれた線画の画像等をネットワークを介して取得し、認知機能低下の程度の判定(S103)を行う。
【0043】
図9は、被検者に線画の描画を促す表示の変形例1を示す図である。図9の表示の変形例1は、図4の表示例と同様に、例えば、表示部104によって表示される。図9の表示の変形例1は、上部に、被検者に図形の描画を促す「左側の図形と同じ図形を、右側に描いて下さい。」との表示と、左側に、手本となる図形と、右側に、被検者が線画を描く描画領域とを含む。また、図4の表示例と異なり、手本となる図形の各頂点には、丸点が表示されていている。さらに、描画領域には、描画の際に目印となるように、手本となる図形の各頂点に対応する位置に、丸点が表示されている。描画領域に手本の図形の頂点が表示されることで、被検者が模写する線画が大きくなりすぎたり小さくなりすぎたりすることを抑制することができる。
【0044】
図10は、被検者に線画の描画を促す表示の変形例2を示す図である。図10の表示の変形例2は、図4の表示例と同様に、例えば、表示部104によって表示される。図10の表示の変形例2は、上部に、被検者に図形の描画を促す「図形をなぞって描いて下さい。」との表示と、中央部に、手本となる図形と被検者が線画を描く描画領域とを含む。描画領域には、手本となる図形が含まれる。描画領域に手本の図形が表示されることで、被検者が模写する線画が大きくなりすぎたり小さくなりすぎたりすることを抑制することができる。
【0045】
また、図9の表示の変形例1、図10の表示の変形例2では、描画領域の範囲が点線の長方形で示されているが、描画領域は他の方法(背景と色が違う長方形等)によって示されてもよい。また、描画領域が示されなくてもよい。描画領域の縦幅及び横幅は、それぞれ、手本の画像の縦幅及び横幅よりも大きい。
【0046】
また、上記の例では、判定装置100の表示部104に図4図9図10のような画面表示を行い、タッチパネル等により被検者に図形を描かせている。この代わりに、図4図9図10のような画面表示と同様の内容を用紙に印刷して、被検者に当該用紙に対して図形を描かせてもよい。この場合、判定装置100の取得部102は、スキャナ等により当該用紙を読み込ませた画像を取得する。判定装置100の取得部102は、読み込ませた画像から、手本となる図形の画像と、被検者によって描かれた線画の画像とを取得する。演算部106は、それぞれの画像から、手本となる図形の線の長さと、被検者によって描かれた線画の線の長さ(描画距離)とを算出し、手本となる画像の線の線の長さに対する描画距離の比を算出し、認知機能低下の程度を判定する。判定装置100は、格納部108に、あらかじめ、手本となる画像の線の線の長さを格納していてもよい。また、判定装置100による判定結果と、他の方法による認知機能の検査等を組み合わせることで、より高精度に被検者の認知機能低下を調べることができる。
【0047】
図10と同様の内容を用紙に印刷して被検者に当該用紙に対して図形を描かせる場合、手本の図形の色や濃度等と被検者に図形を描かせる際の筆記用具の色や濃度等とを変えることで、スキャナ等で読み込ませたときに、手本の図形と被検者によって描かれた線画とを分離することができる。例えば、青色で印刷された手本に対して赤色の筆記用具を使用したり、灰色で印刷された手本に対して黒色の筆記用具を使用したりする。また、手本の図形が印刷された用紙の上に、透明シートを重ねて、被検者に当該透明シート上に線画を描かせ、当該透明シートをスキャナ等で読み込ませることで、被検者によって描かれた線画を取得してもよい。
【0048】
図11は、見本(手本)の図形の変形例を示す図である。上記の例では、見本の図形として、多角形である四角形の各頂点を固定して、各辺を内側に湾曲させた曲線を手本の図
形とした(図4図5図9図10)。ここでは、多角形である八角形(図11の点線)の各頂点を固定して、各辺を内側に湾曲させた曲線(図11の実線)を手本の図形とする。
【0049】
図12は、多角形を八角形とした場合のMMSEスコアと手本の線の長さに対する描画距離の比との関係のグラフの例を示す図である。図12の横軸は、MMSEスコア(点数)であり、縦軸は見本の線の長さに対する描画距離の比である。また、各プロットに基づく近似直線が引かれている。近似直線のRは0.56、相関係数は-0.75である。ここでは、図8の例と異なり、MMSEスコアと描画距離の比との間には、負の相関がある。すなわち、MMSEスコアが高いほど、描画距離が短くなる。よって、ここでは、上記のS103の判定において、演算部106は、手本となる図形の線の長さに対する被検者によって描かれた線画の線の長さの比が第3閾値未満である場合に、被検者が健常であると判定する。演算部106は、当該比が第3閾値以上である場合に、被検者が軽度認知障害の疑いであると判定する。演算部106は、当該比が第3閾値よりも大きい第4閾値以上である場合に、認知症の疑いであると判定する。よって、ここでは、演算部106は、算出された比が大きいほど、認知機能低下の程度が高いと判定する。ここでは、第3閾値は1.15、第4閾値は1.30とする。各閾値は、ここで示す値に限定されるものではなく、より多くの被検者のMMSEスコアと描画距離の比との関係によって決定され得る。
【0050】
図13は、多角形を八角形とした場合の健常者が見本を模写して描いた線画の例である。図14は、多角形を八角形とした場合の認知症患者が見本を模写して描いた線画の例である。図13の健常者が描いた線画の描画距離は、152.1mmである。図14の認知症患者が描いた線画の描画距離は、253.0mmである。健常者が描いた線画の方が、認知症患者が描いた線画に比べて、曲線部分がよく再現されている。認知症患者が描いた線画は、曲線を追いすぎている。このため、多角形を八角形とした場合では、認知症患者が描いた線画の描画距離は、健常者が描いた線画の描画距離に比べ、長くなっている。
【0051】
(実施形態の作用、効果)
判定装置100は、手本となる図形と、被検者が図形を描画する描画領域とを表示部104に表示し、被検者に手本の図形を描画領域に模写することを促す。被検者は、描画領域に手本となる図形を模写して図形を描く。判定装置100は、被検者が模写した図形を取得する。判定装置100は、被検者が模写した図形の線の長さ(描画距離)を算出する。判定装置100は、手本となる図形の線の長さに対する被検者が描画した図形の描画距離の比を算出する。判定装置100は、当該比に基づいて、認知機能低下の程度を判定する。認知機能の検査の1つであるMMSEのスコアと当該比とには、手本となる図形に応じて正または負の相関があり、当該比により、判定装置100は、認知機能低下の程度を判定することができる。判定装置100によれば、認知機能の検査を行う医師等の専門家がいなくても、短時間で、認知機能低下の程度を判定することができる。また、判定装置100によれば、被検者に対して、容易に、高頻度で、認知機能低下の程度を判定することができる。よって、判定装置100によれば、高頻度で検査を行うことで、より早期に被検者の認知機能低下を発見できる可能性がある。
【0052】
上記の構成は、可能な限りこれらを組み合わせて実施され得る。例えば、判定装置100が、多角形を四角形とした見本と、多角形を八角形とした見本とを用いて、認知機能低下の程度を判定してもよい。このようにすることで、より精度の高い判定を行うことができる。
【0053】
〈コンピュータ読み取り可能な記録媒体〉
コンピュータその他の機械、装置(以下、コンピュータ等)に上記いずれかの機能を実
現させるプログラムをコンピュータ等が読み取り可能な記録媒体に記録することができる。そして、コンピュータ等に、この記録媒体のプログラムを読み込ませて実行させることにより、その機能を提供させることができる。
【0054】
ここで、コンピュータ等が読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、または化学的作用によって蓄積し、コンピュータ等から読み取ることができる記録媒体をいう。このような記録媒体内には、CPU、メモリ等のコンピュータを構成する要素を設け、そのCPUにプログラムを実行させてもよい。
【0055】
また、このような記録媒体のうちコンピュータ等から取り外し可能なものとしては、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R/W、DVD、DAT、8mmテープ、メモリカード等がある。
【0056】
また、コンピュータ等に固定された記録媒体としてハードディスクやROM等がある。
【符号の説明】
【0057】
100 判定装置
102 取得部
104 表示部
106 演算部
108 格納部

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