(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】リチウム吸着用粒状体の製造方法および粒状体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/26 20060101AFI20241115BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20241115BHJP
B01J 13/14 20060101ALI20241115BHJP
C08F 2/20 20060101ALI20241115BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
B01J20/26 E
B01J20/30
B01J13/14
C08F2/20
C08F2/44 A
(21)【出願番号】P 2024508295
(86)(22)【出願日】2023-05-25
(86)【国際出願番号】 JP2023019431
(87)【国際公開番号】W WO2023234156
(87)【国際公開日】2023-12-07
【審査請求日】2024-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2022090621
(32)【優先日】2022-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武井 孝行
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】高野 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-119638(JP,A)
【文献】特開2021-089230(JP,A)
【文献】特開2009-270038(JP,A)
【文献】特開平01-207141(JP,A)
【文献】国際公開第2021/162082(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 13/14
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水性ポリマの原料と、リチウム吸着剤の前駆体と、重合開始剤と、が混合されることで得られた懸濁重合用水溶液が分散媒中で懸濁され、リチウム吸着用粒状体が得られる懸濁重合工程、を包含し、
該懸濁重合工程の後において前記リチウム吸着剤の前駆体は酸処理が行われ、
前記分散媒が、シリコンオイルである、
ことを特徴とするリチウム吸着用粒状体の製造方法。
【請求項2】
前記懸濁重合用水溶液が、
撹拌機で撹拌されている前記分散媒に、単位時間当たりあらかじめ定められた量だけ投入される、
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウム吸着用粒状体の製造方法。
【請求項3】
含水性ポリマの原料と、リチウム吸着剤の前駆体と、重合開始剤と、が混合されることで得られた懸濁重合用水溶液が分散媒中で懸濁され、リチウム吸着用粒状体が得られる懸濁重合工程、を包含するリチウム吸着用粒状体の製造方法であって、
前記懸濁重合工程よりも前に、前記含水性ポリマの原料と、前記リチウム吸着剤の前駆体とは混合され、混合水溶液が得られる混合工程が設けられ、
該混合工程の後、前記懸濁重合工程において、前記混合水溶液に前記重合開始剤が混合され、それにより得られる前記懸濁重合用水溶液が前記分散媒中で懸濁され、
前記懸濁重合工程の後において前記リチウム吸着剤の前駆体は酸処理が行われ、
前記リチウム吸着用粒状体が、
前記リチウム吸着剤の前駆体と、
該前駆体を内包した前記含水性ポリマと、を含む、
ことを特徴とするリチウム吸着用粒状体の製造方法。
【請求項4】
前記混合工程において、あらかじめ定められた量のエタノールが添加された後に混合される、
ことを特徴とする請求項3に記載のリチウム吸着用粒状体の製造方法。
【請求項5】
前記含水性ポリマがポリアクリルアミドであり、
該ポリアクリルアミドの原料が、アクリルアミドおよびN,N’-メチレンビスアクリルアミドである、
ことを特徴とする請求項1または3に記載のリチウム吸着用粒状体の製造方法。
【請求項6】
前記懸濁重合工程が、窒素ガスの割合があらかじめ定められた範囲である窒素雰囲気で行われている、
ことを特徴とする請求項1または3に記載のリチウム吸着用粒状体の製造方法。
【請求項7】
含水性ポリマの原料と、リチウム吸着剤の前駆体と、重合開始剤と、が混合されることで得られた懸濁重合用水溶液が分散媒中で懸濁され、粒状体が得られる懸濁重合工程、を包含し、
前記分散媒が、シリコンオイルである、
ことを特徴とする粒状体の製造方法。
【請求項8】
含水性ポリマの原料と、リチウム吸着剤の前駆体と、重合開始剤と、が混合されることで得られた懸濁重合用水溶液が分散媒中で懸濁され、粒状体が得られる懸濁重合工程、を包含する粒状体の製造方法であって、
前記懸濁重合工程よりも前に、前記含水性ポリマの原料と、前記リチウム吸着剤の前駆体とは混合され、混合水溶液が得られる混合工程が設けられ、
該混合工程の後、前記懸濁重合工程において、前記混合水溶液に前記重合開始剤が混合され、それにより得られる前記懸濁重合用水溶液が前記分散媒中で懸濁され、
前記粒状体が、
前記リチウム吸着剤の前駆体と、
該前駆体を内包した前記含水性ポリマと、を含む、
ことを特徴とする粒状体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム吸着用粒状体およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、リチウム吸着剤の前駆体を含むリチウム吸着用粒状体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1では、かん水からのリチウム回収システムが開示されている。この文献では、リチウム吸着剤を用いてかん水からリチウムを吸着するとともに、吸着されたリチウムを脱着させ、高純度Li2CO3を生成するまでが開示されている。また、この文献では、マンガン酸リチウムのマイクロ粉末をPVCにより直径0.5~1mmの大きさに造粒したものがリチウムの吸着に用いられている。
【0003】
特許文献1では、イオン交換のための多孔質構造であって、a)構造支持体および、b)コーティングされたイオン交換粒子等を含むものが開示されている。この多孔質構造により海水などからリチウムを選択的に抽出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】湯 衛平、“かん水からのリチウム回収システム開発”、[online]、平成22年6月11日、公益財団法人かがわ産業支援財団、[平成30年11月22日]、インターネット(https://www.kagawa-isf.jp/wp-content/uploads/2022/02/21tang.pdf )
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかるに、これらの文献に記載の造粒体または多孔質体では、実際にリチウムの吸着を行う吸着剤、すなわちマンガン酸リチウム等の粉末を、結着材など他の物質を用いて、所定の大きさにしているため、リチウム含有溶液を通液させるごとに、その一部が欠落し、繰り返しの使用に対して寿命が短いという問題がある。
また、リチウムの吸着に寄与しない物質との結合があるため、その結合部分ではリチウムの吸着ができず、リチウム吸着剤の能力が一部使用できないという問題がある。
本発明は上記事情に鑑み、耐久性があるとともにリチウム吸着剤の能力を効率よく活用できるリチウム吸着用粒状体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明のリチウム吸着用粒状体の製造方法は、含水性ポリマの原料と、リチウム吸着剤の前駆体と、重合開始剤と、が混合されることで得られた懸濁重合用水溶液が分散媒中で懸濁され、リチウム吸着用粒状体が得られる懸濁重合工程、を包含し、該懸濁重合工程の後において前記リチウム吸着剤の前駆体は酸処理が行われ、前記分散媒が、シリコンオイルであることを特徴とする。
第2発明のリチウム吸着用粒状体の製造方法は、第1発明において、前記懸濁重合用水溶液が、撹拌機で撹拌されている前記分散媒に、単位時間当たりあらかじめ定められた量だけ投入されることを特徴とする。
第3発明のリチウム吸着用粒状体の製造方法は、含水性ポリマの原料と、リチウム吸着剤の前駆体と、重合開始剤と、が混合されることで得られた懸濁重合用水溶液が分散媒中で懸濁され、リチウム吸着用粒状体が得られる懸濁重合工程、を包含するリチウム吸着用粒状体の製造方法であって、前記懸濁重合工程よりも前に、前記含水性ポリマの原料と、前記リチウム吸着剤の前駆体とが混合され、混合水溶液が得られる混合工程が設けられ、該混合工程の後、前記懸濁重合工程において、前記混合水溶液に重合開始剤が混合され、それにより得られる前記懸濁重合用水溶液が前記分散媒中で懸濁され、前記懸濁重合工程の後において前記リチウム吸着剤の前駆体は酸処理が行われ、前記リチウム吸着用粒状体が、前記リチウム吸着剤の前駆体と、該前駆体を内包した前記含水性ポリマと、を含むことを特徴とする。
第4発明のリチウム吸着用粒状体の製造方法は、第3発明において、前記混合工程において、あらかじめ定められた量のエタノールが添加された後に混合されることを特徴とする。
第5発明のリチウム吸着用粒状体の製造方法は、第1発明または第3発明において、前記含水性ポリマがポリアクリルアミドであり、該ポリアクリルアミドの原料が、アクリルアミドおよびN,N’-メチレンビスアクリルアミドであることを特徴とする。
第6発明のリチウム吸着用粒状体の製造方法は、第1発明または第3発明において、前記懸濁重合工程が、窒素ガスの割合があらかじめ定められた範囲である窒素雰囲気で行われていることを特徴とする。
第7発明の粒状体の製造方法は、含水性ポリマの原料と、リチウム吸着剤の前駆体と、重合開始剤と、が混合されることで得られた懸濁重合用水溶液が分散媒中で懸濁され、粒状体が得られる懸濁重合工程、を包含し、前記分散媒が、シリコンオイルであることを特徴とする。
第8発明の粒状体の製造方法は、含水性ポリマの原料と、リチウム吸着剤の前駆体と、重合開始剤と、が混合されることで得られた懸濁重合用水溶液が分散媒中で懸濁され、粒状体が得られる懸濁重合工程、を包含する粒状体の製造方法であって、前記懸濁重合工程よりも前に、前記含水性ポリマの原料と、前記リチウム吸着剤の前駆体とが混合され、混合水溶液が得られる混合工程が設けられ、該混合工程の後、前記懸濁重合工程において、前記混合水溶液に重合開始剤が混合され、それにより得られる前記懸濁重合用水溶液が前記分散媒中で懸濁され、前記粒状体が、前記リチウム吸着剤の前駆体と、該前駆体を内包した前記含水性ポリマと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1発明によれば、リチウム吸着用粒状体の製造方法が、含水性ポリマの原料と、リチウム吸着剤の前駆体と、重合開始剤が混合されることで得られた懸濁重合用水溶液が分散媒中で懸濁され、リチウム吸着用粒状体が得られる懸濁重合工程を含む態様であることにより、リチウム吸着剤の前駆体を内包したゲル状の粒状体の含水性ポリマを得ることができる。
第3発明によれば、懸濁重合工程よりも前に、含水性ポリマの原料と、リチウム吸着剤の前駆体とが混合され、混合水溶液が得られる混合工程が設けられ、この混合工程の後、懸濁重合工程において、混合水溶液に重合開始剤が混合されることで得られた懸濁重合用水溶液が用いられる態様であることにより、重合が始まる前に含水性ポリマの原料とリチウム吸着剤の前駆体とを混合することができ、これらの偏りを減らして組成の斑を少なくすることができる。
第4発明によれば、混合工程において所定のエタノールが添加されることにより、リチウム吸着剤の前駆体を内包したゲル状の粒状体の含水性ポリマを、より容易に得ることができる。
第5発明によれば、ポリアクリルアミドの原料がアクリルアミドおよびN,N’-メチレンビスアクリルアミドであることにより、ポリアクリルアミドを容易に得ることができる。
第6発明によれば、懸濁重合工程が所定の窒素雰囲気で行われていることにより、効率よく重合反応が進むことで、未反応の原料が少なくなり、リチウム吸着用粒状体を構成するゲルの強度が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るリチウム吸着用粒状体の模式図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係るリチウム吸着用粒状体の製造方法のフロー図である。
【
図3】本発明の第2実施形態に係るリチウム吸着用粒状体の製造方法のフロー図である。
【
図4】本発明の第3実施形態に係るリチウム吸着用粒状体の製造方法のフロー図である。
【
図5】本発明の第4実施形態に係るリチウム吸着用粒状体の製造方法のフロー図である。
【
図6】本発明の第5実施形態に係るリチウム吸着用粒状体の製造方法のフロー図である。
【
図7】本発明の第6実施形態に係るリチウム吸着用粒状体の製造方法のフロー図である。
【
図8】本発明の第7実施形態に係るリチウム吸着用粒状体の製造方法のフロー図である。
【
図9】(a)本発明の実施例1に係るリチウム吸着用粒状体の使用前のSEM写真である。(b)本発明の実施例1に係るリチウム吸着用粒状体の使用後のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するためのリチウム吸着用粒状体およびその製造方法を例示するものであって、本発明はリチウム吸着用粒状体およびその製造方法を以下のものに特定しない。なお、特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものではない。
【0011】
<リチウム吸着用粒状体>
本明細書で開示のリチウム吸着用粒状体は、リチウム吸着剤の前駆体と、該前駆体を内包した含水性ポリマと、を含み、前記含水性ポリマがゲル状の粒状体を形成することが可能なものである。
【0012】
この構成により、含水性ポリマが所定の水分を有している場合、粒状体がゲル状であるので、その一部が欠落することがなくなり、粒状体の耐久性が向上する。また、含水性ポリマは、海水などの液体を透過することができるので、リチウム吸着剤が全体としてこの液体と接触することができ、リチウム吸着剤の能力を効率よく活用できる。
【0013】
リチウム吸着用粒状体は、ゲル状の粒状体であることが好ましい。この構成により、海水などの液体を通過させるカプセルにそのまま収納して用いることができる。
【0014】
リチウム吸着用粒状体は、含水性ポリマが、アミド基を有することが好ましい。この構成により、含水性ポリマの含水率が高くなるので、リチウム吸着剤の全体がより液体と接触しやすくなり、リチウム吸着剤の能力をより効率よく活用できる。
【0015】
リチウム吸着用粒状体は、アミド基を有する含水性ポリマが、ポリアクリルアミドであることが好ましい。この構成により、粒状体の耐久性と、リチウム吸着剤の能力の高効率化の両方を、より高いレベルで達成できる。
【0016】
リチウム吸着用粒状体は、リチウム吸着剤の前駆体が、マンガン酸リチウムであることが好ましい。この構成により、リチウムの吸着能力が高くなる。
【0017】
図1には、本発明の一実施形態に係るリチウム吸着用粒状体の模式図を示す。この模式図は、リチウム吸着用粒状体を構成する含水性ポリマが水分を含み、リチウム吸着用粒状体がゲル状になった状態を模式的に示している。本実施形態に係るリチウム吸着用粒状体は、ゲル状の粒状体を形成することができる含水性ポリマの中にリチウム吸着剤の前駆体が含まれている構成である。
図1でにおいては、含水性ポリマの一例としてポリアクリルアミドを、リチウム吸着剤の前駆体の一例としてマンガン酸リチウムを記載している。
【0018】
(リチウム吸着剤の前駆体)
リチウム吸着剤の前駆体は、マンガン酸リチウム、チタン酸リチウムなどの化合物が該当する。例えば、Li1.6Mn1.6O4、Li1.33Mn1.67O4、Li4Mn5O12、Li4Ti5O12、Li2TiO3、Li2MnO3、Li2SnO3、LiMn2O4、LiAlO2、LiCuO2、LiTiO2、Li4TiO4、Li7Ti11O24、Li3VO4、Li2Si3O7、LiFePO4、LiMnPO4、Li2CuP2O7を挙げることができる。
【0019】
上記のリチウム吸着剤の前駆体は、リチウムを吸着する前に、酸処理を行うことによりリチウム吸着剤となる。例えばLi1.6Mn1.6O4の場合、塩酸による酸処理により以下のリチウム吸着剤となる。
【0020】
[数1]
Li1.6Mn1.6O4+1.6HCl→H1.6Mn1.6O4+1.6LiCl
【0021】
(含水性ポリマ)
含水性ポリマは、水分を含むことができるポリマを言う。水分を含むことができることにより、リチウムが含有している液体、例えば海水等が含水性ポリマの中に含侵でき、含水性ポリマの中にリチウム吸着剤がある場合、そのリチウム吸着剤が海水等と接触することができ、海水等に含まれるリチウムを吸着することが可能になる。
【0022】
また、本実施形態に係るリチウム吸着用粒状体を構成する含水性ポリマは、ゲル状の粒状体を形成することが可能である。加えて、本実施形態にかかるリチウム吸着用粒状体を構成する含水性ポリマは、酸等の薬品に対する安定性を有していることが必要である。含水性ポリマとしては、ポリメタクリル酸2-ヒドロキシエチル、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、アミド基を有する含水性ポリマが挙げられる。またアミド基を有する含水性ポリマの中でも、ポリアクリルアミドがさらに好ましい。このポリアクリルアミドの化学式を以下に示す。化学式において「・・・」と表示されている部分は、同じ構成が繰り返しつながっていることを示す。アミド基を有する含水性ポリマが、ポリアクリルアミドであることにより、粒状体の耐久性と、リチウム吸着剤の能力の高効率化の両方を、より高いレベルで達成できる。ポリアクリルアミドを形成するモノマーとして例えば、2-プロペンアミド、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N-(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N-(ブトキシメチル)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-(1,1-ジメチル-3-オキソブチル)アクリルアミドなどを用いることができる。
【0023】
【0024】
なお「ゲル」とは、サイズが1nmから1000nm程度の粒子が、気体、液体あるいは固体に浮遊あるいは懸濁している物質、すなわち分散系と呼ばれる物質のうち、固体状のものを言う。また「ゲル状」とは、その物質が「ゲル」または「ゲルに準ずる物質」であることを言う。
【0025】
本実施形態に係るリチウム吸着用粒状体は、水分が少ない状態のものも該当する。水分が少ない状態であれば、リチウム吸着用粒状体の密度を小さくすることができ、輸送時のコストを削減できる。
【0026】
<リチウム吸着用粒状体の製造方法>
本明細書で開示のリチウム吸着用粒状体の製造方法は、含水性ポリマの原料と、リチウム吸着剤の前駆体と、重合開始剤と、が混合されることで得られた懸濁重合用水溶液が分散媒中で懸濁され、リチウム吸着用粒状体が得られる懸濁重合工程、を包含する。この態様により、リチウム吸着剤の前駆体を内包したゲル状の粒状体の含水性ポリマを得ることができる。
【0027】
リチウム吸着用粒状体の製造方法は、懸濁重合工程よりも前に、含水性ポリマの原料と、リチウム吸着剤の前駆体とが混合され、混合水溶液を得る混合工程が設けられ、混合工程の後、懸濁重合工程において、混合水溶液に重合開始剤が混合されることで得られた懸濁重合用水溶液が用いられることが好ましい。この態様により、重合が始まる前に含水性ポリマの原料とリチウム吸着剤の前駆体とを混合することができ、これらの偏りを減らして組成の斑を少なくすることができる。
【0028】
リチウム吸着用粒状体の製造方法は、含水性ポリマがポリアクリルアミドであり、ポリアクリルアミドの原料が、アクリルアミドおよびN,N’-メチレンビスアクリルアミドであることが好ましい。この態様により、ポリアクリルアミドを容易に得ることができる。
【0029】
リチウム吸着用粒状体の製造方法は、懸濁重合工程が、窒素雰囲気で行われていることが好ましい。この態様により、含水性ポリマの酸化による劣化を防止できる。
【0030】
リチウム吸着用粒状体の製造方法は、懸濁重合工程の後に、リチウム吸着用粒状体を減圧濾過し、ろ過後リチウム吸着用粒状体を得る固液分離工程を有することが好ましい。この態様により、リチウム吸着用粒状体に付着した分散媒の除去効率を上げることができる。
【0031】
リチウム吸着用粒状体の製造方法は、固液分離工程の後に、ろ過後リチウム吸着用粒状体を洗浄し、洗浄後リチウム吸着用粒状体を得る洗浄工程を有することが好ましい。この態様により、分散媒の除去効率をさらに上げることができる。
【0032】
(第1実施形態)
第1実施形態に係るリチウム吸着用粒状体の製造方法のフロー図を
図2に示す。この図に基づいて、以下に各工程について説明する。
【0033】
(懸濁重合工程)
本実施形態に係るリチウム吸着用粒状体の製造方法は、懸濁重合工程を実行する。この懸濁重合工程では、含水性ポリマの原料と、リチウム吸着剤の前駆体と、重合開始剤と、が混合されることで得られた懸濁重合用水溶液が分散媒中で懸濁され、リチウム吸着用粒状体が得られる。
【0034】
懸濁重合工程では、まず含水性ポリマの原料を、あらかじめ定められた濃度となるように水に溶かし、その水溶液にあらかじめ定められた割合となるようにリチウム吸着剤の前駆体を投入し、さらに、あらかじめ定められた量の重合開始剤を投入することで懸濁重合用水溶液が得られる。なお、懸濁重合準備工程で、含水性ポリマの原料、リチウム吸着剤の前駆体、および重合開始剤の混合は、上記の順番に限定されない。すべてを一度に水に溶かす場合、含水性ポリマの原料と重合開始剤とを先に水に溶かす場合も含まれる。ただし、重合開始剤が先に投入される場合は、重合の進行を遅らせるため、含水性ポリマの原料を冷却しておくことが好ましい。
【0035】
含水性ポリマは、ゲル状の粒状体を形成することが可能である。加えて、本実施形態にかかるリチウム吸着用粒状体を構成する含水性ポリマは、酸等の薬品に対する安定性を有していることが必要である。アミド基を有する含水性ポリマとしては、ポリアクリルアミドが該当する。
【0036】
含水性ポリマがポリアクリルアミドの場合、含水性ポリマの原料は、アクリルアミドおよびN,N’-メチレンビスアクリルアミドであることが好ましい。この態様により、ポリアクリルアミドを容易に得ることができる。
【0037】
リチウム吸着剤の前駆体は、マンガン酸リチウム、チタン酸リチウムなどの化合物が該当する。例えば、Li1.6Mn1.6O4、Li1.33Mn1.67O4、Li4Mn5O12、Li4Ti5O12、Li2TiO3、Li2MnO3、Li2SnO3、LiMn2O4、LiAlO2、LiCuO2、LiTiO2、Li4TiO4、Li7Ti11O24、Li3VO4、Li2Si3O7、LiFePO4、LiMnPO4、Li2CuP2O7を挙げることができる。
【0038】
重合開始剤は、含水性ポリマの原料が重合するものであれば問題ない。例えば含水性ポリマがポリアクリルアミドであり、その原料がアクリルアミドおよびN,N’-メチレンビスアクリルアミドである場合、重合開始剤は、過硫酸アンモニウム(APS)とテトラメチルエチレンジアミン(TEMED)の組合せとすることができる。
【0039】
懸濁重合工程では、例えば所定の大きさの容器に液状の分散媒を投入し、それを撹拌機で撹拌しながら、懸濁重合用水溶液を単位時間当たりあらかじめ定められた量を投入する。ここで、液状の分散媒としては、例えばシリコンオイルが好ましい。ただしこれに限定されず、疎水性の溶媒であれば特に問題ない。また、分散媒として気体、すなわちガスを利用することも可能である。この場合、アトマイザを用いることが好ましい。
【0040】
懸濁重合工程が、窒素ガスの割合があらかじめ定められた範囲である窒素雰囲気で行われることが好ましい。この場合窒素雰囲気のガスの組成は窒素ガスの割合が99%以上であることがさらに好ましい。
【0041】
懸濁重合工程で得られたリチウム吸着用粒状体は、分散媒等との混合物に含まれており、この状態でリチウム吸着用粒状体の使用者に譲渡されたり、後述する第3実施形態等で開示される固液分離工程等を経てリチウム吸着に使用されたりする。
【0042】
(第2実施形態)
第2実施形態に係るリチウム吸着用粒状体の製造方法のフロー図を
図3に示す。第1実施形態と第2実施形態との相違点は、懸濁重合工程よりも前に、含水性ポリマの原料と、リチウム吸着剤の前駆体とが混合され、混合水溶液が得られる混合工程が設けられ、混合工程の後、懸濁重合工程において、混合水溶液に重合開始剤が混合されることで得られた懸濁重合用水溶液が用いられる点である。その他の部分は第1実施形態と同じであるので、第1実施形態と同じ部分は説明を省略する。
【0043】
(混合工程)
本実施形態に係るリチウム吸着用粒状体の製造方法は、懸濁重合工程よりも前に混合工程を実行する。この混合工程では、含水性ポリマの原料と、リチウム吸着剤の前駆体とが混合され、混合水溶液が得られる。
【0044】
混合工程では、まず含水性ポリマの原料を、あらかじめ定められた濃度となるように水に溶かし、その水溶液にあらかじめ定められた割合となるようにリチウム吸着剤の前駆体を投入し、かき混ぜることで、含水性ポリマの原料と、リチウム吸着剤の前駆体とが混合される。この混合された後の液体が、混合水溶液である。
【0045】
(懸濁重合工程)
本実施形態の懸濁重合工程では、混合工程で得られた混合水溶液に重合開始剤が混合されることで得られた懸濁重合用水溶液が用いられ、この懸濁重合用水溶液が分散媒中で懸濁され、リチウム吸着用粒状体が得られる。
【0046】
(第3実施形態)
第3実施形態に係るリチウム吸着用粒状体の製造方法のフロー図を
図4に示す。第2実施液体と第3実施形態との相違点は、混合工程において、含水性ポリマの原料およびリチウム吸着剤の前駆体の他に、あらかじめ定められた量のエタノールが添加される点である。その他の部分は第2実施形態と同じであるので、第2実施形態と同じ部分は説明を省略する。なお、第3実施形態は、第2実施形態の混合工程において、所定量のエタノールが添加された態様であるが、第1実施形態のリチウム吸着用粒状体の製造方法において、所定量のエタノールが添加された態様も、本願のリチウム吸着用粒状体の製造方法に含まれる。
【0047】
添加されるエタノールの量は、混合工程で混合される粉末(リチウム吸着剤の前駆体)の重量に対応して決定される。なお、添加されたエタノールは、懸濁重合工程の撹拌中に揮発することが好ましい。
【0048】
(第4実施形態)
第4実施形態に係るリチウム吸着用粒状体の製造方法のフロー図を
図5に示す。第2実施形態と第4実施形態との相違点は、懸濁重合工程の後に固液分離工程が設けられている点である。その他の部分は第2実施形態と同じであるので、第2実施形態と同じ部分は説明を省略する。なお、第4実施形態は、第2実施形態のリチウム吸着用粒状体の製造方法の後に固液分離工程を加えた態様であるが、第1実施形態のリチウム吸着用粒状体の製造方法の後に固液分離工程を加えた態様も、本願のリチウム吸着用粒状体の製造方法に含まれる。
【0049】
(固液分離工程)
固液分離工程は、懸濁重合工程で得られたリチウム吸着用粒状体を減圧濾過し、ろ過後リチウム吸着用粒状体を得る工程である。懸濁重合工程では、リチウム吸着用粒状体が、液体の中に浸漬している状態であるので、ゲル状のリチウム吸着用粒状体と液体とを固液分離工程で分離する。この際、リチウム吸着用粒状体は、あらかじめ定められた圧力下で、減圧濾過されることが好ましい。この減圧濾過には、例えば到達真空度が10hPaの真空ポンプが用いられることが好ましい。なお、固液分離工程で得られるろ過後リチウム吸着用粒状体は、リチウム吸着用粒状体の一態様である。
【0050】
懸濁重合工程の後にリチウム吸着用粒状体を減圧濾過し、ろ過後リチウム吸着用粒状体を得る固液分離工程を有することにより、リチウム吸着用粒状体に付着した分散媒の除去効率を上げることができる。
【0051】
(第5実施形態)
第5実施形態に係るリチウム吸着用粒状体の製造方法のフロー図を
図6に示す。第4実施液体と第5実施形態との相違点は、混合工程において、含水性ポリマの原料およびリチウム吸着剤の前駆体の他に、あらかじめ定められた量のエタノールが添加される点である。その他の部分は第4実施形態と同じであるので、第4実施形態と同じ部分は説明を省略する。なお、第5実施形態は、第4実施形態の混合工程において、所定量のエタノールが添加された態様であるが、第1実施形態のリチウム吸着用粒状体の製造方法において、所定量のエタノールが添加された態様も、本願のリチウム吸着用粒状体の製造方法に含まれる。
【0052】
添加されるエタノールの量は、混合工程で混合される粉末(リチウム吸着剤の前駆体)の重量に対応して決定される。なお、添加されたエタノールは、懸濁重合工程の撹拌中に揮発することが好ましい。
【0053】
(第6実施形態)
第6実施形態に係るリチウム吸着用粒状体の製造方法のフロー図を
図7に示す。第4実施形態と第6実施形態との相違点は、固液分離工程の後に洗浄工程が設けられている点である。その他の部分は第4実施形態と同じであるので、第4実施形態と同じ部分は説明を省略する。なお、第6実施形態は、第4実施形態のリチウム吸着用粒状体の製造方法の後に洗浄工程を加えた態様であるが、第1実施形態のリチウム吸着用粒状体の製造方法の後に固液分離工程を加え、その後に洗浄工程を加えた態様も、本願のリチウム吸着用粒状体の製造方法に含まれる。
【0054】
(洗浄工程)
洗浄工程は、固液分離工程で得られたろ過後リチウム吸着用粒状体を洗浄し、洗浄後リチウム吸着用粒状体を得る工程である。固液分離工程を終えた後のろ過後リチウム吸着用粒状体では、ろ過後リチウム吸着用粒状体の外側に、疎水系の液体の被覆が残存している状態であるので、洗浄工程によりこの被覆を除去する。疎水系の液体の被覆が残存している状態では、リチウムを含有する液体とリチウム吸着用粒状体との接触がこの被覆により阻害されるからである。なお、洗浄工程で得られる洗浄後リチウム吸着用粒状体は、リチウム吸着用粒状体の一態様である。この洗浄工程では、所定の純度の純水、メタノールまたはエタノールなどの液体が適宜用いられる。
【0055】
固液分離工程の後に洗浄工程を有することにより、分散媒の除去効率をさらに上げることができる。
【0056】
(第7実施形態)
第7実施形態に係るリチウム吸着用粒状体の製造方法のフロー図を
図8に示す。第6実施液体と第7実施形態との相違点は、混合工程において、含水性ポリマの原料およびリチウム吸着剤の前駆体の他に、あらかじめ定められた量のエタノールが添加される点である。その他の部分は第6実施形態と同じであるので、第6実施形態と同じ部分は説明を省略する。なお、第7実施形態は、第6実施形態の混合工程において、所定量のエタノールが添加された態様であるが、第1実施形態のリチウム吸着用粒状体の製造方法において、所定量のエタノールが添加された態様も、本願のリチウム吸着用粒状体の製造方法に含まれる。
【0057】
添加されるエタノールの量は、混合工程で混合される粉末(リチウム吸着剤の前駆体)の重量に対応して決定される。なお、添加されたエタノールは、懸濁重合工程の撹拌中に揮発することが好ましい。
【実施例】
【0058】
以下、本発明に係るリチウム吸着用粒状体およびその製造方法の具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
<リチウム吸着用粒状体の調製>
本実施例は、上記の第2実施形態に沿って実施されている。まず混合工程が実施された。含水性ポリマの原料として、粉状のアクリルアミドと、粉状のN,N’-メチレンビスアクリルアミドとが準備された。アクリルアミドとN,N’-メチレンビスアクリルアミドとの割合は、100:3である。これらの原料が工業用の純水に溶解させられ、これらの原料の濃度が50wt%となる水溶液が作成された。この水溶液8gに対して、リチウム吸着剤の前駆体であるマンガン酸リチウム3.2gが混合され、混合水溶液が得られた。
【0060】
次に懸濁重合工程の前半部として、添加工程が実施された。添加工程では、上記の混合水溶液に、重合開始剤として、過硫酸アンモニウム40μLとテトラメチルエチレンジアミン8μLが加えられ、懸濁重合用水溶液が得られた。
【0061】
次に懸濁重合工程の後半部が実施された。懸濁重合工程の後半部では、懸濁重合用水溶液が分散媒であるシリコンオイル中で懸濁された。シリコンオイルは72mLが容器に準備され、そのシリコンオイル内に撹拌翼が設けられ、この撹拌翼が300rpmで回転することで、シリコンオイルが撹拌された。この撹拌は窒素ガスの濃度が99%以上の窒素雰囲気、および30℃の一定温度下で行われた。この状態において、懸濁重合用水溶液が滴下され、3時間かけて重合することでゲル状のリチウム吸着用粒状体が得られた。
【0062】
次に固液分離工程と洗浄工程が実施された。固液分離工程と洗浄工程を経ることで、洗浄後リチウム吸着用粒状体が得られた。この洗浄工程後で、リチウム吸着の使用前のリチウム吸着用粒状体のSEM写真を
図9(a)に示す。図の中で円形状に表されているのがリチウム吸着用粒状体である。この円形状の外周部に位置し、色が薄く表されている部分がゲル状の含水性ポリマであり、内部に位置し、色が濃く表されている部分がリチウム吸着剤の前駆体である。
【0063】
得られた洗浄後リチウム吸着用粒状体を用いて、リチウム吸着剤の前駆体をリチウム吸着剤とする溶離工程と、リチウム吸着剤とリチウム含有溶液とを接触させてリチウムをリチウム吸着剤に吸着させる吸着工程をそれぞれ15回行った。15回行った後のリチウム吸着用粒状体を
図9(b)に示す。
図9(a)と同様、リチウム吸着用粒状体の外周部にゲル状の含水性ポリマが存在し、その内部にリチウム吸着剤の前駆体が存在しているのがわかる。この図より、リチウム吸着剤がリチウム吸着用粒状体から流れ出ることがなく、耐久性が向上したことが分かった。また、洗浄工程の前後、すなわちろ過後リチウム吸着用粒状体および洗浄後リチウム吸着用粒状体の重量を測定したところ、その重量変化は、ろ過後リチウム吸着用粒状体の1%未満であった。アルミナバインダー等を用いて製作された、リチウム吸着用の造粒体においては、洗浄工程の前後で通常10重量%以上の重量が減少する。これは造粒体において、初期的な崩壊が生じるためであると考えられるところ、この造粒体の場合と比較して、リチウム吸着用粒状体では、その重量変化が非常に少なく、この点で、崩壊が少なくなり耐久性が向上したことが分かった。