(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】球状AlN粒子およびその製造方法、並びにこれを含有する複合材料
(51)【国際特許分類】
C01B 21/072 20060101AFI20241115BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20241115BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
C01B21/072 G
C08K3/28
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2020139334
(22)【出願日】2020-08-20
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【氏名又は名称】小林 良博
(72)【発明者】
【氏名】楠 一彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健也
(72)【発明者】
【氏名】海野 裕人
(72)【発明者】
【氏名】沼尾 竜太郎
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-120407(JP,A)
【文献】特開2017-178751(JP,A)
【文献】特開2017-178752(JP,A)
【文献】特開2019-108236(JP,A)
【文献】特開2004-182585(JP,A)
【文献】特開昭62-132711(JP,A)
【文献】特開平04-092864(JP,A)
【文献】特開2020-023435(JP,A)
【文献】特開2020-111477(JP,A)
【文献】国際公開第2011/093488(WO,A1)
【文献】特開平04-154610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/072
C08L 101/00
C08K 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al原子に対してZr原子を、モル比Zr/Al=4.0×10
-4~4.2×10
-2の量で含有
する焼結粒子から成り、AlN転換率が70.0%以上であり、円形度が0.85~1.00であることを特徴とする球状AlN粒子。
【請求項2】
AlN転換率が90.0%以上であることを特徴とする請求項1に記載の球状AlN粒子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の球状AlN粒子を、樹脂中に含有することを特徴とする、樹脂と球状AlN粒子との複合材料。
【請求項4】
請求項1または2に記載の球状AlN粒子を製造する方法であって、
平均粒径(D50)が0.05~4.00μmの、アルミナ粉末およびアルミナ水和物粉末の一方または両方を有するアルミナ原料粉末に、前記アルミナ原料粉末をアルミナ成分換算した100質量%に対して外割で、Zr化合物の原料粉末をZrO
2成分換算で0.10~10.00質量%混合する原料混合工程、
前記原料混合工程で生じた混合物を球状の造粒物にする造粒工程、
前記球状の造粒物を炭素粉末と混合する炭素粉末混合工程、
前記炭素粉末混合工程で生じた混合物を、窒素含有雰囲気
中1700℃~1800℃の温度で熱処理する窒化工程
を含むことを特徴とする球状AlN粒子の製造方法。
【請求項5】
前記炭素粉末混合工程で前記球状の造粒物と混合する炭素粉末の割合は、前記球状の造粒物におけるアルミナ原料粉末をアルミナ成分換算した100質量%に対して外割で、20.0~40.0質量%であることを特徴とする請求項4に記載の球状AlN粒子の製造方法。
【請求項6】
前記原料混合工程において、アルミナ原料粉末に、前記アルミナ原料粉末をアルミナ成分換算した100質量%に対して外割で、更に炭素粉末を0.3~2.1質量%混合することを特徴とする請求項4または5に記載の球状AlN粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は球状窒化アルミニウム(AlN)粒子およびその製造方法、並びに球状AlN粒子を含有する放熱シート等のサーマルインターフェイスマテリアル等に用いられる複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体デバイスのパワー密度上昇に伴い、デバイスに使用される材料には、より高度な放熱特性が求められている。放熱材料には、サーマルインターフェイスマテリアル(Thermal Interface Materials: 以下、単に「TIM」という)と呼ばれる一連の材料があり、その使用量は急速に拡大している。TIMとは、半導体デバイスから発生する熱をヒートシンクまたは筐体等に逃がす経路の熱抵抗を緩和するための材料であり、シート、ゲル、グリースなど多様な形態が用いられる。
【0003】
一般に、TIMは、熱伝導性フィラーをエポキシやシリコーンのような樹脂に分散した複合材料である。そのような熱伝導フィラーとしてはシリカ、アルミナ等の金属酸化物が多く用いられている。しかし、金属酸化物を用いた複合材料により成形されるシート状成形体は、厚み方向の熱伝導率が1~3W/m・K程度であり、より高い熱伝導率を有するシート状成形体が要求されている。そのため、そのようなシート状成形体に用いられる次世代の熱伝導性フィラー材料として、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物系の高熱伝導性フィラーの実用化推進が期待されている。中でも窒化アルミニウム(AlN)は電気絶縁性に優れ、かつ高熱伝導性を有することから、放熱材料として期待されている。放熱材料の熱伝導率を向上させるためには、窒化アルミニウムの結晶性が高く中実構造からなるフィラーをマトリクスとなる樹脂中に高充填することが重要となる。
【0004】
AlN粒子の製造方法については、従来から、種々の提案がなされている。例えば、特許文献1では、アルミナ(Al2O3)粉末またはアルミナ水和物(Al2O3・nH2O)粉末の球状造粒物を出発原料として、還元窒化工程に供給し、還元窒化を行うことを特徴とする球状窒化アルミニウム粉末の製造方法を提案している。
【0005】
特許文献2では、アルミナまたはアルミナ水和物100質量部に対して、希土類金属元素を含む化合物を0.5質量部~30質量部、および、カーボン粉末を38質量部~46質量部の割合で含有する組成物を、1620~1900℃の温度で2時間以上還元窒化することを特徴とする球状窒化アルミニウム粉末の製造方法を提案している。
【0006】
特許文献3では、粒子全体の重量比100wt%に対して、Y2O3換算で0.01~0.5wt%のYと、SiO2換算で0.01~0.5wt%のSiと、AlNを含有し、前記AlNを60wt%以上の割合で含有し、理論密度の90%以上の相対密度を有し、円形度が0.85~1.00であることを特徴とする、球状AlN粒子およびその製造方法を提案している。
【0007】
特許文献4では、特定の比率でLa、Dy、Erのいずれか1種以上の化合物とSiの化合物とAlNを含有する球状粒子であって、理論密度の90%以上の相対密度を有し、0.85~1.00の円形度を有することを特徴とする、球状AlN粒子およびその製造方法を提案している。
【0008】
AlN粒子を得る方法として、球状のアルミナ粒子を窒化する方法が知られているが、AlN粒子を窒化還元法で製造する場合、従来は、粒成長により表面が凹凸したAlN粒子が生成していた。このAlN粒子をフィラーとして樹脂に含有させて複合材料とすると、表面の凹凸のために、フィラーの流動性が悪くなり、樹脂への充填性を上げることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2011/093488号
【文献】特開2012-72013号公報
【文献】特開2017-178751号公報
【文献】特開2017-178752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の発明者らは、上記課題を解決することを目的とし鋭意研究した結果、AlN粒子を窒化還元法で製造する際に、アルミナ粉末、アルミナ水和物粉末またはそれらの混合粉末に、Zr化合物の原料粉末を特定比率で混合することにより、表面平滑性に優れた球状AlN粒子が製造できることを見出した。この結果、樹脂と混練して複合材料とした際に、従来よりも流動性に優れ、TIMとして適用可能な球状AlN粒子を実現できることを見出した。
【0011】
本発明は、高熱伝導性に優れ、放熱材料用のフィラーとして有用な窒化アルミニウム粒子において充填性を向上させるために粒子表面が平滑なフィラーとその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨は、以下の通りである。
〔1〕Al原子に対してZr原子を、モル比Zr/Al=4.0×10-4~4.2×10-2の量で含有する焼結粒子から成り、AlN転換率が70.0%以上であり、円形度が0.85~1.00であることを特徴とする球状AlN粒子。
〔2〕AlN転換率が90.0%以上であることを特徴とする前記〔1〕に記載の球状AlN粒子。
〔3〕前記〔1〕または〔2〕に記載の球状AlN粒子を、樹脂中に含有することを特徴とする、樹脂と球状AlN粒子との複合材料。
〔4〕前記〔1〕または〔2〕に記載の球状AlN粒子を製造する方法であって、
平均粒径(D50)が0.05~4.00μmの、アルミナ粉末およびアルミナ水和物粉末の一方または両方を有するアルミナ原料粉末に、前記アルミナ原料粉末をアルミナ成分換算した100質量%に対して外割で、Zr化合物の原料粉末をZrO2成分換算で0.10~10.00質量%混合する原料混合工程、
前記原料混合工程で生じた混合物を球状の造粒物にする造粒工程、
前記球状の造粒物を炭素粉末と混合する炭素粉末混合工程、
前記炭素粉末混合工程で生じた混合物を、窒素含有雰囲気中1700℃~1800℃の温度で熱処理する窒化工程
を含むことを特徴とする球状AlN粒子の製造方法。
〔5〕前記炭素粉末混合工程で前記球状の造粒物と混合する炭素粉末の割合は、前記球状の造粒物におけるアルミナ原料粉末をアルミナ成分換算した100質量%に対して外割で、20.0~40.0質量%であることを特徴とする前記〔4〕に記載の球状AlN粒子の製造方法。
〔6〕前記原料混合工程において、アルミナ原料粉末に、前記アルミナ原料粉末をアルミナ成分換算した100質量%に対して外割で、更に炭素粉末を0.3~2.1質量%混合することを特徴とする前記〔4〕または〔5〕に記載の球状AlN粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の球状AlN粒子は粒子表面が平滑であるため、従来よりも流動性に優れ、TIMとして適用可能な球状AlN粒子フィラーとして樹脂へ高充填することができ、TIMとして使用でき、特にパワーデバイス向け等のTIM分野に好適な球状AlNフィラーとなることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例10の本発明の球状AlN粒子からなる粉体のXRDパターン。
【
図2】比較例4の球状AlN粒子からなる粉体のXRDパターン。
【
図3】実施例、比較例の球状AlN粒子の表面性状を示すSEM画像。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の球状AlN粒子は、Al原子に対してZr原子を、モル比Zr/Al=4.0×10-4~4.2×10-2の量で含有し、AlN転換率が70.0%以上であり、円形度が0.85~1.00である。
【0016】
本発明による球状AlN粒子は、平均粒径(D50)が0.05~4.00μmの、アルミナ粉末およびアルミナ水和物粉末の一方または両方を有するアルミナ原料粉末に、前記アルミナ原料粉末をアルミナ成分換算した100質量%に対して外割で、Zr化合物の原料粉末をZrO2成分換算で0.10~10.00質量%混合する原料混合工程、前記原料混合工程で生じた混合物を球状の造粒物にする造粒工程、前記球状の造粒物を炭素粉末と混合する炭素粉末混合工程、前記炭素粉末混合工程で生じた混合物を、窒素含有雰囲気で熱処理する窒化工程を含む方法により製造することができる。
【0017】
まず、本発明の一実施形態である球状AlN粒子の製造方法について説明する。
<原料混合工程>
(アルミナ原料粉末)
アルミナ原料粉末としては、アルミナ粉末単独、アルミナ水和物粉末単独、および、アルミナ粉末とアルミナ水和物粉末との混合粉末のいずれを用いてもよい。アルミナ原料粉末におけるアルミナ成分の量を100質量%とし、これに対して混合するZr化合物の原料粉末の質量%をZrO2成分換算で0.10~10.00質量%とすることで、いずれのアルミナ原料粉末を用いたとしても、同様の球状AlN粒子を製造することができる。アルミナ原料粉末は、平均粒径(D50)が0.05~4.00μmのアルミナ原料粉末を用いる。平均粒径(D50)が0.05μmよりも小さいアルミナ原料粉末を用いる場合、後述する造粒工程において、造粒・乾燥して得られる造粒物中のアルミナ原料粉末の充填率が低くなりやすい、すなわち造粒物中のアルミナ原料粉末が少ないため、最終的に得られる球状AlN粒子に空孔が残留することがある。4.00μmより大きいアルミナ原料粉末を用いる場合、造粒物の強度が低く、球状に造粒した造粒物が壊れやすくなり得られるAlN粒子の円形度が低下する。円形度が低下すると、樹脂と混合する際の充填率を上げることが難しくなる。
【0018】
アルミナ原料粉末の平均粒径(D50)は、レーザー回折法による粒度分布測定により得ることができる。また、原料に用いるアルミナ原料粉末の比表面積は、2.0~30.0m2/gの粉末であることが望ましい。比表面積が2.0m2/gよりも小さいアルミナ原料粉末を用いた場合、後述する熱処理工程における加熱過程で、アルミナ粉末での焼結が起こりにくいため、造粒物が球状であっても、アルミナが窒化される過程あるいはAlNが焼結する過程で、いびつな形状になりやすく高い円形度のAlN粒子を得ることができないことがある。比表面積が30.0m2/gよりも大きいアルミナ原料粉末を用いた場合、熱処理工程における昇温過程あるいは窒化が起こる温度よりも低温での焼結が進行しやすくなるため、アルミナ造粒物の表面の気孔が閉塞してしまい、内部の窒化に必要な窒素が供給されずにAlN転換率の低い粒子になるため望ましくない。なお、比表面積は、JIS-Z8830に規定されるBET比表面積測定法により測定することができる。
このようにアルミナ原料粉末に平均粒径(D50)が0.05~4.00μmの粉末を用いることにより窒化する前のアルミナ粉末の焼結も進行するが、窒化した後のAlN粒子も微細なためAlN粒子の焼結が進行しやすく、AlN転換率70.0%以上の球状AlN粒子を得ることができる。
【0019】
アルミナ水和物は、熱処理することによって、γ、θ、η、δなどの遷移アルミナ、さらにα-アルミナに変わる。このようなアルミナ水和物としては、ベーマイト、ダイアスポア、水酸化アルミニウムなどが挙げられる。
【0020】
(Zr化合物の原料粉末)
出発原料に用いるZr化合物の原料粉末は、酸化ジルコニウム(ZrO2)、炭化ジルコニウム(ZrC)、窒化ジルコニウム(ZrN)、水酸化ジルコニウム(Zr(OH)4)、塩化ジルコニウム(ZrCl4)、酢酸ジルコニウム(ZrO(CH3COO)2)、ジルコニウムアルコキシド等の粉末を用いることができる。好ましくは、酸化ジルコニウム(ZrO2)粉末を用いる。
【0021】
Zr化合物の粉末は、原料として用いるアルミナ粉末等の造粒物を熱処理する窒化工程で、アルミナ粉末等の造粒物が焼結する時および窒化後のAlN粒子が焼結する時の粒成長を抑制し、得られる球状AlN粒子の緻密で平滑な表面形成に有効である。
【0022】
熱処理時には、アルミナの窒化反応とともに固相焼結反応が進行している。焼結とは粉末粒子間で原子が移動することで、接触が点接触から面接触へ変化して粒子間の結合が進んで緻密化し機械的強度が増していく現象である。
粉末に限らず、固体や液体の表面は、それらの内部と異なり、原子やイオン、分子は、お互いに結合する相手がいない状態である。そのような状態は物質にとって大変不安定で物質の表面積を減少させる方向に物質移動が起こる。固体であるセラミックスの場合、拡散によって物質移動が進行する。拡散は、拡散が起こる場所によって体積拡散、粒界拡散、表面拡散の主に3つに分類できる。体積拡散は、結晶内部で拡散が起こる。粒界拡散は結晶間での粒界で、表面拡散は物質の表面で、界面拡散は異なった物質の間の界面でそれぞれ拡散が起こる。
アルミナ焼結では、粒界拡散の影響が支配的と言われている。本発明の粒子断面TEM観察の結果、ZrO2の多くは孤立して粒界に存在(一部は粒内に取り込まれて存在)していることが確認できた。ZrO2は粒界拡散を阻害し、結晶粒成長を抑制していると考えられる。結果として、得られる球状AlN粒子に緻密で平滑な表面が形成される。
【0023】
混合時における、Zr化合物の原料粉末に対するの添加量は、アルミナ粉末をアルミナ成分換算した100質量%に対して外割で、Zr化合物の原料粉末をZrO2成分換算で0.10~10.00質量%である。ZrO2成分換算での、Zr化合物の量が0.10質量%よりも少ない場合、得られるAlN粒子表面の平坦化の効果が得られない。また、ZrO2成分換算で10.00質量%よりも多くZr化合物を含む場合、Al-Zr-OもしくはAl-Zr-Nからなる第2相の形成量が多くなるので、放熱性に優れたAlNの相対的な量が減少し好ましくない。
原料混合工程でアルミナ水和物を用いる場合、あらかじめTG熱分析により水和物量(n・H2O)を定量化する。水和物量が分かると、アルミナ水和物に対するアルミナ成分値が算出できる。アルミナ粉末とアルミナ水和物との混合粉の場合も、同様にTG熱分析で水和物量を測定することで、アルミナ成分値を求めることができる。
【0024】
(原料混合)
上記アルミナ原料粉末とZr化合物の原料粉末とを混合する方法は、均一に混合可能な方法であればどのような方法も用いることができる。例えば、乾式混合、もしくは、水、アルコール、アセトン等の溶媒を用いた湿式混合で混合することができる。
【0025】
<造粒工程>
原料混合工程で生じた混合物を球状の造粒物にする方法としては、スプレードライ、転動造粒、撹拌造粒、流動造粒などの方法を用いることができる。本発明の製造方法では、スプレードライ法が好ましい。
【0026】
スプレードライ法を用いた場合、大量の原料混合物を効率よく球状に造粒することができる。スプレードライによる造粒を行う場合、水等の溶媒に分散剤やバインダー等の添加物を用いることにより、原料混合物が均一に分散し、強度の高い造粒物を得ることができる。
【0027】
後の窒化工程により得られる球状AlN粒子の粒径は、造粒物の粒径とほぼ同一であるため、造粒工程で造粒物の粒径を制御することで所望の粒径の球状AlN粒子を得ることができる。
【0028】
造粒工程で形成された造粒物は過度に緻密でない。したがって、一次粉体のアルミナ粉末等の空隙を通じて、後述する窒化工程における窒化反応が球状粒子の表面だけでなく、造粒物内部まで反応が進行する。このため、AlN転換率が70.0%以上の球状AlN粒子を得ることができる。
【0029】
<炭素粉末混合工程>
(炭素粉末)
造粒工程で得られた造粒物に炭素粉末を添加して混合する。造粒物に対して混合する炭素粉末の割合は、造粒物中のアルミナ成分を100質量%とし、これに対して外割で20.0~40.0質量%とすることが好ましい。なお、原料混合工程をバッチ式とし、同工程で得られた混合原料の全量を、造粒工程で処理して造粒物を得る場合においては、混合原料の全量におけるアルミナ成分量と、造粒物全量におけるアルミナ成分量とが略等しくなることから、混合する炭素粉末の割合は、原料混合工程時のアルミナ原料粉末をアルミナ成分換算した100質量%に対して外割で、20.0質量%~40.0質量%混合することが好ましいとも言える。
また、炭素粉末の混合は、更に追加して造粒工程の前の原料混合工程で行っても良い。原料混合工程でも炭素粉末を混合することにより、造粒物内へ直接、黒鉛粉末を混合することができ、さらに高いAlN転換率のAlN粒子を得ることができる。炭素粉末が造粒物の間に存在することで、造粒物同士の融着等による結合を抑制することができる。その結果、より円形度の高い球状粒子を得ることができる。アルミナ粉末に近接して還元剤である炭素が存在するので還元反応が速やかに進行する。このため、続く窒化反応も促進されAlN変換率が高い粒子を得ることができる。
【0030】
炭素粉末混合工程において造粒物に混合する炭素粉末としては、活性炭、グラファイト、アモルファスカーボン等、いずれの形態の炭素粉末を用いることができる。炭素粉末は微粒子であることがよいため、カーボンブラック(CB)を用いることが好ましい。また、原料混合工程で炭素粉末を混合する場合は、炭素粉末は微粒子であることが特に好ましく、そのため、カーボンブラック(CB)を用いることがより好ましい。
【0031】
炭素粉末混合工程において、炭素粉末を、造粒物と混合して熱処理することにより、炭素は、アルミナを還元して酸素を分離し、窒素ガスによる窒化を促す効果が有る。本発明による球状AlN粒子は、造粒物の内部まで窒化が進むが、その理由は、炭素がアルミナと接触してCOガスが生成し、このCOガスもアルミナ造粒物内部の還元に寄与しているためと考えられる。添加する炭素粉末の量は、上述のように、造粒物中のアルミナ成分を100質量%とし、これに対して20.0~40.0質量%の炭素粉末を添加することが好ましい。20.0質量%より少ないと原料混合工程から窒化工程までの条件によってはアルミナの還元が不十分となることがある。一方40.0質量%の炭素を添加すればアルミナ還元は十分に行える。
また、原料混合工程でも炭素粉末を混合する場合の炭素粉末の添加量は、原料混合工程時のアルミナ原料粉末をアルミナ成分換算した100質量%に対して外割で、0.3質量%~2.1質量%が好ましい。0.3質量%未満だとAlN変換率向上の効果が低くなることがあり、2.1質量%を超えた場合、還元窒化反応は促進されるもののAlN粒子が形成した際、炭素粉末が存在していた箇所は空隙となりやすいため、内部空隙が大きな球状AlN粒子となる場合がある。そのため、高熱伝導性を確保する観点では、2.1%質量以下が好ましい。また、炭素粉末を2.1質量%より多く添加して作製した球状AlN粒子は、空隙の生成の影響で円形度が低下することがある。
【0032】
<窒化工程>
造粒工程で生じた球状の造粒物を、窒素含有雰囲気中で、1700℃~1800℃の温度で熱処理を行うことにより、球状のAlN粒子を得ることができる。1700℃未満の温度では、アルミナの還元窒化反応が起こりにくく、AlN転換率が低い粒子となるため好ましくない。1800℃よりも高い温度で熱処理した場合、還元窒化でできた球状AlN粒子同士が固着し始め、粒子が結合したり、さらに高い温度ではAlN粒子の分解が起こり始めるため好ましくはない。
【0033】
熱処理の加熱方法としては、例えば、カーボンルツボ等の容器に造粒物を入れて、カーボンヒーター等を用いた抵抗加熱や、高周波誘導加熱により、容器の外側から加熱する外熱方式で加熱することができる。
【0034】
また、加熱する際に、マイクロ波により加熱する方法を用いることにより、ルツボ等の容器にいれた造粒物を内部まで均一に加熱でき、通常の外部加熱による熱処理よりも低温、且つ短時間で球状AlN粒子を得ることができる。
【0035】
マイクロ波による加熱を使用して球状AlN粒子を得る場合、球状に造粒した造粒物と炭素粉末を混合してマイクロ波照射することにより、マイクロ波の吸収効率の良い炭素が発熱源として作用するため、より効率良く球状AlN粒子を得ることができる。
【0036】
熱処理では、アルミナが窒化される前に、アルミナ粉末が焼結することにより、アルミナ一次粒子同士がネック形成により結合し、造粒物の形状を保ったまま、アルミナの強固な骨格が形成される。窒化されて球状AlN粒子が生成する際も、粒子が球形を保ったままで窒化反応が進行する。造粒物にZrが存在すると一次粒子であるアルミナもしくは窒化されたAlN粒子同士の過度な粒成長を抑制することができるので、表面が平坦化した球状AlN粒子を得ることができる。
【0037】
<炭素除去処理>
炭素粉末を添加して球状AlN粒子を作製した場合、炭素を除去するために、酸化性雰囲気で400℃~800℃の温度で加熱して炭素を酸化除去することが好ましい。もっとも簡単に酸化するには大気雰囲気で加熱すればよい。この際に、球状AlN粒子の極表層が酸化され酸化富化層が形成される。この酸化富化層は、AlNが水分と反応しNH3を生成することを防ぐ役割がある。AlN粒子の極表層の構造は、断面TEMで観察することができる。TEM観察時にEDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)装置で元素分析をすれば、Al、O、Nの存在量を定量できる。また、複数の粒子に対して、XPS(X-ray photoelectron spectroscopy)分析を行えば、AlN粒子の表面を構成する元素の組成、化学結合状態を知ることができる。またArイオンスパッタを行いながらXPS分析を行えば深さ方向の元素プロファイルを得ることができる。
【0038】
次に、本発明のもう一つの一実施形態である球状AlN粒子について説明する。
上述した製造方法で得られる球状AlN粒子は、Al原子に対してZr原子を、モル比Zr/Al=4.0×10-4~4.2×10-2の量で含有し、AlN転換率が70.0%以上であり、円形度が0.85~1.00であることを特徴とする球状AlN粒子である。
【0039】
本発明の球状AlN粒子は、Al原子に対してZr原子を、モル比Zr/Al=4.0×10-4~4.2×10-2の量で含有する。
本発明の球状AlN粒子に含まれるZrの含有量は、原子吸光、ICP質量分析(ICP-MS)により測定する。なお、製造時の原料混合工程で添加したZr成分の量は、製造過程を通して、変化しないので、ここで規定するモル比のZr成分のモル数は、上述した製造方法の原料混合工程で添加したZr化合物の原料粉末のZrO2成分換算の添加量をZrのモル数に換算したものと同じである。
【0040】
<AlN転換率>
本発明の球状AlN粒子は、上述したようにアルミナ造粒物を還元剤となる炭素粉末と混合した後、窒素含有雰囲気下で加熱し、還元窒化することで製造する。球状AlN粒子にはAlNの他に、反応中間生成物であるAlONが含まれる。その他に、極微量の未反応アルミナ、さらには添加したZrO2粒子が窒化還元された、ZrON、ZrNを極微量含有する。本発明の球状AlN粒子のAlN転換率は70.0%以上であるため、樹脂と混合した際に高い熱伝導率を得ることができる。AlN転換率が70.0%よりも小さい場合、未反応のアルミナもしくは反応中間生成物であるAlONなどの熱伝導率の低い成分が含まれることから樹脂と混合した複合体の熱伝導率が低下してしまう。
【0041】
本発明の球状AlN粒子のAlN変換率は、X線回折分析により測定する。X線回折分析で得られる、AlNおよびアルミナ、AlONの最強ピークの強度比を計算することで算出する。具体的には、AlN、Al2O3およびAlONが示す各X線回折パターンのピークのうち、最も強度が大きいピークをそれぞれ選択し、これらのピークが示す強度の合計を100%としたときにAlNのピーク強度が占める比率をAlN転換率とする。
【0042】
なお、本発明の球状AlN粒子は、上記のAl化合物以外にもZrを含む化合物が含まれる。Zr化合物については、Zr含有量は、原子吸光、ICP質量分析(ICP-MS)により測定できるものの、その存在形態は分からない場合がある。この場合、Zr化合物を考慮したAlN変換率を算出することが困難である。本発明の球状AlN粒子は、Al原子に対してZr原子を、モル比Zr/Al=4×10-4~4.2×10-2の量で含有する球状AlN粒子である。したがって、Al化合物に対して含有量が少ないZrを含む化合物は考慮せず、粒子がAl2O3、AlN、AlONで構成されているものとしてAlN変換率を求めた。
【0043】
<円形度>
本発明の球状AlN粒子の円形度は、0.85~1.00であり、この範囲とすることで、高い流動性が得られ、充填性の良いフィラーとして使用することができる。円形度が0.85未満である場合、いびつな粒子が多数含まれることから樹脂と混合した際の充填率を高くすることが困難となり望ましくない。本発明の球状AlN粒子の円形度は、市販のフロー式粒子像分析装置により測定した。
【0044】
<粒子径>
本発明の球状AlN粒子は、平均粒径(D50)が5~150μmであることが望ましい。平均粒径が150μmを超えた場合は、AlONが残留しないように、長時間の熱処理が必要となり、時間とコストがかかる、一方、5μm未満の場合は、焼結による凝集を防ぐために熱処理温度を低くして長時間処理が必要となり、時間とコストがかかる。なお、ここでいう、平均粒径は、レーザー回折法による粒度分布測定で求めた。平均粒径はメディアン径と呼ばれるもので、レーザー回折法で粒度分布を測定して、粒径の頻度の累積が50%となる粒径を平均粒径(D50)とした。
【0045】
(AlN粒子の表面性状)
AlN粒子の表面性状は、SEMによる粒子の外観観察により判定することができる。以下に示す表2では、複数のアルミナ1次粒子が粒界拡散機構による焼結で合体(粒成長)し、元のアルミナ造粒物に対して粒子表面の粗度が大きくなったと見えるものを「粒成長」と記載し、アルミナ1次粒子の合体が抑制され元のアルミナ造粒物と同程度の表面粗度を維持できていると見えるものを「粒成長抑制」と記載した。
【0046】
本発明のさらにもう一つの一実施形態は、本発明の球状AlN粒子を、樹脂中に含有することを特徴とする、樹脂と球状AlN粒子との複合材料である。
【0047】
本発明の複合材料に用いる樹脂としては、公知の樹脂が適用できるが、エポキシ樹脂が好ましい。本用途に適用するエポキシ樹脂は特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中の1種類を単独で用いることもできるし、異なる分子量を有する2種類以上を併用することもできる。これらの中でも、硬化性、耐熱性等の観点から、1分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂が好ましい。具体的には、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノール類とアルデヒド類のノボラック樹脂をエポキシ化したもの、ビスフェノールA、ビスフェノールFおよびビスフェノールS等のグリシジルエーテル、フタル酸やダイマー酸等の多塩基酸とエポクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルエステル酸エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、アルキル変性多官能エポキシ樹脂、β-ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、1,6-ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、2,7-ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ビスヒドロキシビフェニル型エポキシ樹脂、更には難燃性を付与するために臭素等のハロゲンを導入したエポキシ樹脂等が挙げられる。これら1分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂中でも特にビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。
【0048】
また、例えば、プリント基板用のプリプレグ、各種エンジニアプラスチックスにおいては、エポキシ系以外の樹脂も適用できる。具体的には、エポキシ樹脂の他には、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のポリアミド;ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリフェニレンスルフィド、芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変成樹脂、ABS樹脂、AAS(アクリロニトリルーアクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂が挙げられる。
【0049】
本発明の球状AlN粒子の、複合材料における添加量は、耐熱性、熱膨張率の観点から、多いことが好ましいが、通常、70質量%以上95質量%以下、好ましくは80質量%以上95質量%以下、更に好ましくは85質量%以上95質量%以下であるのが適当である。これは、球状AlN粒子の配合量が少なすぎると、材料の強度向上や熱膨張抑制などの効果が得られにくいためであり、また逆に多すぎると、複合材料の粘度も大きくなりすぎるなどの問題から、材料として実用が困難となるためである。
【0050】
本発明の複合材料は、球状AlN粒子および樹脂以外に、硬化剤、シランカップリング剤等を含むことができる。硬化剤は前記樹脂を硬化するために、公知の硬化剤を用いればよいが、フェノール系硬化剤を使用することができる。フェノール系硬化剤としてはフェノールノボラック樹脂、アルキルフェノールノボラック樹脂、ポリビニルフェノール類などを単独あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。前記フェノール系硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂との当量比(フェノール性水酸基当量/エポキシ基当量)が1.0未満、0.1以上が好ましい。これにより、未反応のフェノール硬化剤の残留がなくなり、吸湿耐熱性が向上する。シランカップリング剤についても、公知のカップリング剤を用いればよいが、エポキシ系官能基を有するものが好ましい。
【0051】
本発明の複合材料の製造方法は、一例として、次のようにして製造した。本発明の球状AlN粒子からなる粉体を容器に採取した。その後、この球状AlN粉体を、エポキシ樹脂混合するため、株式会社 シンキー製攪拌機(あわとり練太郎)にて大気圧下で混練し、大気圧から真空引きしながらさらに混練して、本発明の複合材料が得られた。
【実施例】
【0052】
以下、実施例および比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0053】
球状AlN粒子の作製
(実施例1)
表1に示すように、平均粒径(D50)が1.00μmであるアルミナ(Al2O3)粉に、当該アルミナ粉100質量%対して外割でZrO2粉1.00質量%(平均粒径1.0μm)と、PVA(polyvinyl alcohol)系バインダー、ポリカルボン酸系分散剤および水を添加し、ボールミルで混合した。得られた混合物をスプレードライ(大川原化工機株式会社製CL-8)により造粒して、Zr/Alモル比=4.14×10-3の造粒物を得た。得られた造粒物に、炭素粉末(平均粒径5μmの活性炭)を混合したものを黒鉛坩堝にいれ、窒素雰囲気下で、温度1750℃で、8時間熱処理をした。この際、造粒物中のアルミナ成分100質量%に対して炭素粉末(活性炭)を30.0質量%の割合で混合した。
さらに熱処理後の粉は、電気炉SUPER-BURN(株式会社モトヤマ社製)を用いて大気雰囲気下、750℃、8時間加熱処理を行って残留カーボン成分を除去し球状AlN粒子を得た。
【0054】
(実施例2)
アルミナ粉100質量%に対して外割で0.50質量%ZrO2粉を添加した以外は、実施例1と同様に球状AlN粒子を作製した。造粒物中のアルミナ成分100質量%に対して混合した炭素粉末(活性炭)の割合は30.0質量%である。
(実施例3)
アルミナ粉100質量%に対して外割で0.10質量%のZrO2粉を添加した以外は、実施例1と同様に球状AlN粒子を作製した。造粒物中のアルミナ成分100質量%に対して混合した炭素粉末(活性炭)の割合は30.0質量%である。
(実施例4)
アルミナ粉100質量%に対し外割で5.00質量%のZrO2粉を添加した以外は、実施例1と同様に球状AlN粒子を作製した。造粒物中のアルミナ成分100質量%に対して混合した炭素粉末(活性炭)の割合は30.0質量%である。
(実施例5)
アルミナ粉100質量%に対し外割で10.00質量%のZrO2粉を添加した以外は、実施例1と同様に球状AlN粒子を作製した。造粒物中のアルミナ成分100質量%に対して混合した炭素粉末(活性炭)の割合は30.0質量%である。
(実施例6)
窒素雰囲気下での加熱温度を1700℃とした以外は、実施例1と同様に球状AlN粒子を作製した。
(実施例7)
窒素雰囲気下での加熱温度を1800℃とした以外は、実施例1と同様に球状AlN粒子を作製した。
(実施例8)
平均粒径(D50)が0.1μmであるアルミナ粉を用いた以外は実施例1と同様に球状AlN粒子を作製した。
(実施例9)
平均粒径(D50)が3.9μmであるアルミナ粉を用いた以外は実施例1と同様に球状AlN粒子を作製した。
(実施例10)
実施例1のアルミナ粉に、当該アルミナ粉100質量%対して外割でZrO2粉1.00質量%(平均粒径1.0μm)と、PVA(polyvinyl alcohol)系バインダー、ポリカルボン酸系分散剤および水を添加し、更に、カーボンブラック(平均粒径20nm)0.40質量%添加して、ボールミルで混合したものを、スプレードライにより造粒し、実施例1と同様に球状AlN粒子を作製した。
(実施例11)
実施例1のアルミナ粉に、当該アルミナ粉100質量%対して外割でZrO2粉1.00質量%(平均粒径1.0μm)と、PVA(polyvinyl alcohol)系バインダー、ポリカルボン酸系分散剤および水を添加し、更に、カーボンブラック(平均粒径20nm)2.00質量%添加して、ボールミルで混合したものを、スプレードライにより造粒し、実施例1と同様に球状AlN粒子を作製した。
【0055】
(比較例1)
表1に示すように、ZrO2を添加することなくアルミナ粉100質量%に、PVA(polyvinyl alcohol)系バインダー、ポリカルボン酸系分散剤および水を添加し、ボールミルで混合したものをスプレードライにより造粒した以外は、実施例1と同様に球状AlN粒子を作製した。
(比較例2)
アルミナ粉100質量%に対して外割で0.05質量%ZrO2粉を添加した以外は、実施例1と同様に球状AlN粒子を作製した。
(比較例3)
アルミナ粉100質量%に対して外割で13.00質量%ZrO2粉を添加した以外は、実施例1と同様に球状AlN粒子を作製した。
(比較例4)
窒素雰囲気下での加熱温度を1650℃とした以外は、実施例1と同様に球状AlN粒子を作製した。
(比較例5)
窒素雰囲気下での加熱温度を1850℃とした以外は、実施例1と同様に球状AlN粒子を作製した。
(比較例6)
平均粒径(D50)が0.02μmであるアルミナ粉を用いた以外は実施例1と同様に球状AlN粒子を作製した。
(比較例7)
平均粒径(D50)が4.70μmであるアルミナ粉を用いた以外は実施例1と同様に球状AlN粒子を作製した。
(比較例8)
造粒物中のアルミナ成分100質量%に対して炭素粉末(活性炭)を19.2質量%混合した以外は実施例11と同様に球状AlN粒子を作製した。
(参考例1)
実施例1のアルミナ粉に、当該アルミナ粉100質量%対して外割でZrO2粉1.00質量%(平均粒径1.0μm)と、PVA(polyvinyl alcohol)系バインダー、ポリカルボン酸系分散剤および水を添加し、更に、カーボンブラック(平均粒径20nm)2.20質量%添加して、ボールミルで混合したものを、スプレードライにより造粒して、実施例1と同様に球状AlN粒子を作製した。
【0056】
【0057】
得られた球状AlN粒子の評価を表2に示す。
<評価>
(AlN転換率)
得られた球状AlN粒子の平均粒径(D50)を、CILAS社製レーザー回折散乱式粒度分布測定装置CILAS920で測定した。円形度は、Sysmex社製フロー式粒子像分析装置「FPIA-3000」(スペクトリス社製)を用いて、約500個の粒子を測定した。AlN転換率は、リガク製X線回折装置「RINT-2500TTR」によりX線回折パターンを測定した。AlN転換率の算出は、AlN(PDFカードNo.25-1133)アルミナ(PDFカードNo.10-0173)およびAlON(PDFカードNo.48-0686)の最大ピーク強度を測定し、その強度比からAlN転換率を百分率で求めた。
例として、実施例10の本発明のAlN粒子からなる粉体のX線回折(XRD)パターンを
図1に示す。比較例4のAlN粒子からなる粉体のXRDパターンを
図2に示す。
【0058】
(表面性状)
粒子表面性状は、SEMにより観察を行った。表2では、複数のアルミナ1次粒子が粒界拡散機構による焼結で合体(粒成長)し、元のアルミナ造粒物に対して粒子表面の粗度が大きくなったと見えるものを「粒成長」と記載し、アルミナ1次粒子の合体が抑制され元のアルミナ造粒物と同程度の表面粗度を維持できていると見えるものを「粒成長抑制」と記載した。
実施例1~4および、比較例1~3の結果をSEM像に示す。従来技術であるZr未添加で作製した球状AlN粒子(比較例1)のSEM像を
図3(a)に示す。粒子表面は粒成長が進行しているため凹凸が激しい。一方、ZrO
2を1.00質量%(Zr/Al=4.14E-03)および5.00質量%(Zr/Al=2.07E-02)添加して作製したAlN粒子(実施例1,4)のSEM画像をそれぞれ
図3(b)、(c)に示す。
実施例1,4では、Zrの添加により、粒子表面の凹凸が抑制され平滑な粒子表面が得られることがSEM像からも分かる。
【0059】
実施例1~5と比較例1~3を比べるとZrの添加量は、ZrO2成分換算で、少なくとも0.10質量%以上は必要であることが、実施例3、比較例2の結果の比較から分かる。ZrO2は添加しすぎると、Al-Zr-OもしくはAl-Zr-Nからなる第2相の形成量が多くなるが、添加量10.00質量%(実施例5)では粒成長抑制がみられる。
【0060】
(樹脂と球状AlN粒子との複合材料)
上記のように作製した、実施例、比較例のAlN粒子を用いて、複合材料を作製した。球状AlN粒子からなる粉体40gずつを容器に採取した。その後、これら40gの球状AlN粒子を三菱ケミカル製エポキシ樹脂(エピコート801N)10gと混合するため、THINKY製攪拌機(あわとり練太郎)にて、大気圧下で2000rpm、15秒間混練し、大気圧から5Torrへ真空引きしながらさらに2000rpm、90秒間混練した。混練物は25℃に設定したウォーターバスに容器を静置して1時間冷却して複合材料を作製した。
【0061】
(流動性評価)
粒子表面形態の平坦化効果は、作製した複合材料の流動性評価結果から判定した。作製した複合材料の流動性評価を表2に示す。
上記ようにして作製した各複合材料の粘度(単位:μ[Pa・S])を測定した。粘度の測定にはレオメーターを用い、Anton Paar社製のMCR-102を使用した。直径50mmのパラレルプレートPP50をプレートギャップ1mmに設定し、せん断ひずみ0.1%、測定温度28.5℃の条件にて周波数分散モードで0.1~100rad/sの範囲を測定した。
【0062】
比較例1に示した、ZrO2粉末を無添加で作製した球状AlN粒子と樹脂からなる複合材料のせん断速度1(rad/s)のときの粘度(Pa・s)に対してそれぞれ、粘度低減が75%以上であったものを「◎」、粘度低減が50%以上であったものを「○」、50%未満であったものを「×」として評価した。
【0063】
粘度低減が50%以上のものは、AlN粒子の粒成長が抑制され平滑な表面が得られ、樹脂混練物の粘度が低下したものと判断した。比較例1に示したAlN粒子からなる粉体と樹脂との混練物のせん断速度1(rad/s)時の粘度は、4363(Pa・s)であった。実施例1~5と比較例1~3を比べるとZrの添加量は、ZrO2成分換算で、少なくとも0.10質量%以上は必要であることが、実施例3、比較例2の結果から分かる。ZrO2は添加しすぎると、Si-Zr-Oからなる異相の混入があるが、添加量10.00質量%(実施例5)では表面性状に粒成長抑制がみられ、複合材料の判定は「○」であった。
【0064】
実施例(発明例)、比較例の球状AlN粒子の特性値を表2に示す。
【表2】
【0065】
(窒素雰囲気下での焼成温度(実施例1,5,6、比較例4,5))
1700℃未満の温度(比較例4)では、アルミナの還元窒化反応が起こりにくく、AlN転換率が低い粒子となるため好ましくない。1800℃よりも高い温度(比較例5)で熱処理した場合、還元窒化でできたAlN粒子同士が固着し始め、粒子が結合したり、さらに高い温度ではAlN粒子の分解が起こり始めるため好ましくはない。本発明のAlN粒子の焼成温度は1700℃~1800℃である。
【0066】
(原料アルミナ粒子径)
アルミナの原料としては、実施例、比較例では、平均粒径(D50)が0.02~4.70μmのアルミナ粉末を用いた。平均粒径が0.02μmの小さいアルミナ粉末を用いた場合(比較例6)、造粒工程において、造粒・乾燥して得られる造粒物中のアルミナ粉末の充填率が低くなりやすいため、最終的に得られる球状AlN粒子に空孔が残留した。4.70μmのより大きいアルミナ粉末を用いた場合(比較例7)、造粒物の強度が低く、球状に造粒した造粒物が壊れやすくなり得られるAlN粒子の円形度が低下した。これらの影響で比較例のいずれの粒子とも円形度が0.85を下回った。
【0067】
(造粒物に対する炭素粉末添加)
造粒物に対する炭素粉末量が、20.0質量%を下回る例(比較例8)では、アルミナの還元窒化反応が起こりにくく、AlN転換率が70.0%よりも低い粒子となった。AlN転換率を上げるためには、加熱温度を上げるなどの対応が必要である。炭素粉末量が少な過ぎる場合には、加熱温度を上げるなどの対応を行っても、AlN転換率を70.0%以上とすることができなくなる。従って、造粒物に対する炭素粉末量は、20.0質量%以上とすることが好ましい。
【0068】
(原料混合工程での炭素添加)
原料混合工程で炭素粉を混合すると(実施例10,11)、90%以上の高いAlN転換率のAlN粒子を得ることができた。原料混合工程に混合する炭素量が、2.1質量%を超えた例(参考例1)では、還元窒化反応は促進されるもののAlN粒子が形成した際、炭素粉が存在していた箇所は空隙となるため、表面形態、円形度ともに悪化した。内部空隙が大きなAlN粒子となったため、高熱伝導性を確保する観点では2.1質量%以下が好ましい。