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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】六方晶窒化ホウ素粉末
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/064 20060101AFI20241115BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20241115BHJP
   C08L 63/02 20060101ALI20241115BHJP
   H01B 3/00 20060101ALI20241115BHJP
   H01B 17/56 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
C01B21/064 G
C08K3/38
C08L63/02
H01B3/00 A
H01B17/56 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021032919
(22)【出願日】2021-03-02
(65)【公開番号】P2022133951
(43)【公開日】2022-09-14
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】台木 祥太
(72)【発明者】
【氏名】藤波 恭一
(72)【発明者】
【氏名】縄田 輝彦
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-222522(JP,A)
【文献】特表2019-521064(JP,A)
【文献】国際公開第2020/158758(WO,A1)
【文献】特開2019-218254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/00 - 21/50
C08K 3/38
C08L 63/02
H01B 3/00
H01B 17/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶窒化ホウ素一次粒子の凝集粒子からなり、湿式レーザー回折粒度分布法により測定される粒度分布の累積体積頻度50%の粒径(D50)が5~150μm、水銀圧入法により測定される細孔の体積基準メディアン径が3.0μm以下、不純物元素の含有量が500ppm以下であることを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
BET比表面積が2~10m/g、吸油量が50~190cc/100gである請求項1記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
長径が5~10μm、長径/短径が1.0~1.3、円形度が0.3~0.8の範囲にある凝集粒子を5%以上含む、請求項1又は2に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の窒化ホウ素粉末を含む樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4記載の樹脂組成物からなる樹脂シート。
【請求項6】
絶縁耐力が80kV/mm以上である請求項5記載の樹脂シート。
【請求項7】
シート密度が理論密度に対して89~97%である請求項5又は6に記載の樹脂シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な六方晶窒化ホウ素凝集粒子に関する。詳しくは、樹脂に充填して得られる樹脂組成物に極めて高い絶縁耐力と熱伝導率を付与することができ、且つ、上記樹脂組成物の密度を低減し、軽量化することが可能な六方晶窒化ホウ素粉末を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ホウ素粉末は、一般に黒鉛と同様の六方晶系の層状構造を有する白色粉末であり、高熱伝導性、高電気絶縁性、高潤滑性、耐腐食性、離型性、高温安定性、化学的安定性等の多くの特性を有する。そのため、六方晶窒化ホウ素粉末を充填した樹脂組成物は、成形加工することで熱伝導性絶縁シートとして好適に使用されている。
【0003】
また、近年においては、高周波用デバイス向けに低誘電率、低誘電正接、熱伝導率絶縁シートの需要が高まっており、他の高熱伝導フィラーである窒化アルミニウムや酸化アルミニウムに比べて低誘電率である六方晶窒化ホウ素粉末の需要が高まっている。
【0004】
特に、車載向けの低比重熱伝導率絶縁シートとしての用途においては、他の高熱伝導フィラーである窒化アルミニウムや酸化アルミニウムに比べて低比重である六方晶窒化ホウ素粉末は注目されつつある。
【0005】
六方晶窒化ホウ素粉末は、結晶構造に由来する鱗片状粒子よりなる一次粒子を含み、該鱗片状粒子は熱的異方性を有している。それ故、上記鱗片状粒子を単粒子として含む窒化ホウ素粉末を充填剤として用いた熱伝導性絶縁シートの場合、該熱伝導性絶縁シートの面方向に鱗片状粒子が配向するため、鱗片状粒子の熱伝導率の低いc軸方向に熱が伝わり、該熱伝導性絶縁シートの厚さ方向の熱伝導率は低い。
【0006】
このような鱗片状の構造を有する六方晶窒化ホウ素粒子の熱的異方性を改善するために、六方晶窒化ホウ素の鱗片状粒子がランダムな方向を向いて凝集した凝集粒子を含む六方晶窒化ホウ素粉末が提案されている。
【0007】
例えば、非晶質窒化ホウ素粉末をスプレードライ等で噴霧造粒し再加熱することにより、鱗片状粒子がランダムに配向した凝集粒子としたものや、非晶質窒化ホウ素粉末と酸化物などの助剤の混合粉末をプレス成形して焼結後、鱗片状粒子がランダムに配向した焼結体を破砕したものなどが提案されている(特許文献1参照)。これらの凝集粒子は、凝集を構成する一次粒子である鱗片状粒子の径が大きく、殆どの鱗片状粒子が10μmを超える大きさを有している。上記凝集粒子よりなる窒化ホウ素粉末は、樹脂に充填した際に、鱗片状一次粒子間の空隙内に樹脂が浸入して空隙が埋まることにより、大きな気泡が樹脂組成物中に存在し難いことで高い絶縁耐性を示すとされている。
【0008】
しかしながら、上記絶縁耐性については、未だ改善の余地がある。即ち、樹脂に充填した際、大きな空隙には樹脂が容易に浸入するが、凝集粒子の中心部に向かって間隙が小さくなったり、連続した長い間隙が形成されていたりする場合、樹脂組成物において、絶縁耐性を低下させるボイドが残存することが懸念される。特に、樹脂の粘度が高い場合、この傾向は顕著となる。また、前記焼結体にあっては、上記問題に加え、焼結助剤としての不純物元素の含有に伴う絶縁耐力の低下を招く原因となることが懸念される。
【0009】
また、凝集粒子内に樹脂を浸入させることによりボイドを減少させる前記凝集粒子においては、樹脂組成物における窒化ホウ素粉末の比重はバルク体と等しく、樹脂組成物の軽量化を図ることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2017-165609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、六方晶窒化ホウ素の鱗片状一次粒子が凝集した凝集粒子を含む六方晶窒化ホウ素粉末において、凝集により熱伝導の異方性を解消して樹脂に充填時の高い熱伝導率を発現しつつ、樹脂に充填した際に極めて高い絶縁耐力を付与することが出来、更に、樹脂組成物の軽量化を図ることも可能な六方晶窒化ホウ素粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、還元窒化法により窒化ホウ素を得るための原料として知られている、含酸素ホウ素化合物、カーボン源及び含酸素カルシウム化合物を用いて還元窒化反応を行う、特定の製造方法を採用することによって得られた六方晶窒化ホウ素は、上記反応時に凝集粒子が生成することにより、ランダムに向いた鱗片状一次粒子間に形成される間隙が極めて小さく、かかる凝集粒子よりなる六方晶窒化ホウ素粉末は、樹脂に充填して樹脂組成物を構成した際、前記課題を全て解消できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明によれば、六方晶窒化ホウ素一次粒子の凝集粒子からなり、湿式レーザー回折粒度分布法により測定される粒度分布の累積体積頻度50%の粒径(D50)が5~150μm、水銀圧入法により測定される細孔の体積基準メディアン径が3.0μm以下、不純物元素の含有量が500ppm以下であることを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末が提供される。
【0014】
また、前記本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、BET法により測定される比表面積が1~15m/g、吸油量が50~190cc/100gであるであることが好ましい。
【0015】
更に、前記本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、長径が5~10μm、長径/短径が1.0~1.3、円形度が0.3~0.8の範囲にある凝集粒子(特定凝集粒子)を5%以上含むものであることが好ましい。
【0016】
更にまた、本発明は、前記窒化ホウ素粉末をフィラーとして充填した、熱伝導性に優れ、高い絶縁耐力を示す樹脂組成物、上記樹脂組成物よりなる樹脂シートをも提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、微細な六方晶窒化ホウ素の鱗片状一次粒子の凝集粒子より構成されているため、凝集による熱伝導性の異方性を解消できるという効果を発揮し、更に、上記特性に加えて、上記微細な六方晶窒化ホウ素の一次粒子が凝集粒子表面に張り付いているように構成され、且つ凝集粒子表面に微細な細孔を有していることにより、従来の凝集体に無い優れた特性を発揮する。即ち、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末を構成する一次粒子の凝集粒子は、一次粒子が微細であることにより粒子間の間隙が極めて小さい且つ、従来の板状粒子凝集粒子同士の間隙とは異なり、凝集粒子表面に板状粒子が張り付いたような構造を取っており、樹脂に充填した際にかかる間隙に存在するボイドが絶縁耐力にほとんど影響せず、これを充填した樹脂組成物は極めて高い絶縁耐力を発揮することができる。また、凝集粒子内に存在する上記間隙により、六方晶窒化ホウ素粉末の軽量化、延いてはこれを充填して得られる樹脂組成物の軽量化を図ることも可能である。
【0018】
また、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、焼結助剤を必要とする焼結法を採用することなく製造でき、不純物元素含有量が少なく、高純度化が可能であり、これにより前記樹脂組成物の絶縁耐力の低下を最大限に抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1で得られた六方晶窒化ホウ素粉末中の特定凝集粒子のSEM写真
図2】実施例1で得られた六方晶窒化ホウ素粉末のSEM写真
図3】実施例1で得られた六方晶窒化ホウ素粉末の粗大凝集粒子表面のSEM写真
【発明を実施するための形態】
【0020】
(六方晶窒化ホウ粉末)
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、六方晶窒化ホウ素一次粒子の凝集粒子からなり、細孔の体積基準メディアン径が3μm以下、不純物元素の含有量が500ppm以下であることを特徴としている。
【0021】
尚、六方晶窒化ホウ素の同定は、試料粉末を、X線回折測定において、六方晶窒化ホウ素以外の帰属ピークが無いことを確認し、六方晶窒化ホウ素粉末として同定した。ここで、上記X線回折測定は、Rigaku社製、全自動水平型多目的X線回折装置SmartLab(商品名)を用いた。測定条件はスキャンスピード20度/分、ステップ幅0.02度、スキャン範囲10~90度とした。また、六方晶窒化ホウ素粉末の結晶性を表すGI値は、六方晶窒化ホウ素粉末のX線回折スペクトルの(100)、(101)及び(102)回折線の積分強度比(面積比)から、式、GI=[{(100)+(101)}/[(102)]によって算出した。本発明の六方晶窒化ホウ素粉末のGI値は2.5以下であり、実施例においてもそれを確認した。
【0022】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、六方晶窒化ホウ素の鱗片状一次粒子の凝集体よりなるが、かかる凝集体は、従来の造粒方法や焼結方法のように、一度製造された鱗片状の六方晶窒化ホウ素単粒子を凝集させる製法ではなく、六方晶窒化ホウ素を合成する特定の反応条件を採用し、凝集粒子を生成せしめることによって得ることができるものである。
【0023】
それ故、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末を構成する凝集粒子は、微細な六方晶窒化ホウ素の鱗片状一次粒子より構成されており、凝集粒子間の間隙が極めて小さく、細孔の体積基準メディアン径が3.0μm以下という特徴的な値を示す。かかる体積基準メディアン径は、好ましくは2.8μm、更に好ましくは2.5μm以下である。上記細孔体積基準メディアン径が3.0μmを超える場合、樹脂に充填した際に、絶縁抵抗に影響を及ぼす気泡が残存し易くなり、高い絶縁耐力を発揮することが困難となる。即ち、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末を構成する凝集粒子の細孔の体積基準メディアン径が前記値を示すことにより、樹脂に充填した際、間隙に存在するボイドが絶縁耐力にほとんど影響せず、得られる樹脂組成物は極めて高い絶縁耐力を発揮することができる。また、凝集粒子内及び表面に細孔(間隙)が存在することにより、六方晶窒化ホウ素粉末を充填して得られる樹脂組成物の軽量化を図ることも可能である。上記細孔は図3のSEM写真によって確認する事が出来る。
【0024】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、凝集粒子の細孔の体積基準メディアン径に加え、細孔径が3μm以下の範囲の細孔の細孔容積が、0.2cm/g以上、好ましくは、0.5~2.0cm/gであることが、細孔の残存による樹脂組成物の軽量化の効果をより一層高めるために好ましい。
【0025】
前記細孔体積基準メディアン径、細孔容積は、Micromeritics社製、オートポアIV9520を使用した水銀圧入法により、0.0036μm~200μmの細孔を測定し、横軸に細孔径、縦軸に積算細孔容積をプロットした積算細孔分布から算出した。
【0026】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、後述する製造方法により焼結助剤を使用しない方法により得られるため、焼結助剤による純度低下が無く、高純度であり、例えば、絶縁シートを構成する樹脂組成物にフィラーとして使用した際、前記細孔の小さいことによる効果と共に働いて、耐電圧性の向上に寄与する。即ち、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、不純物元素の含有量が、500ppm以下、特に400ppm以下と、高純度であることを特徴とする。上記不純物元素の含有量が上記範囲を超えると、絶縁耐力に悪影響を及ぼし、本発明の目的を達成することができない。
【0027】
ここでいう不純物元素とは、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、アルミニウム、リチウム、ストロンチウム、鉄、硫黄、ニッケル、クロム、マンガン、ケイ素、リン、チタン、バリウム、コバルト元素のことである。前記不純物元素の含有量は、上記不純物元素の総含有量をいう。
【0028】
前記六方晶窒化ホウ素粉末の不純物元素含有割合は、蛍光X線分析法によって測定した値である。また、蛍光X線分析装置として、実施例においては、Rigaku社製ZSX Primus2(商品名)を使用した。
【0029】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、C%が0.04%以下、O%が0.4%以下であることが、前記不純物元素量の少ないことと相まって、熱伝導率、絶縁耐力の向上により効果的である。
【0030】
前記六方晶窒化ホウ素粉末のO%は、堀場製作所製:酸素/窒素分析装置EMGA-620を使用して測定した。六方晶窒化ホウ素粉末のC%は、堀場製作所製、EMIA-110を用いて測定した。
【0031】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末の粒子径は、樹脂への充填性を勘案すれば、湿式レーザー回折粒度分布法における粒度分布の累積体積頻度50%の粒径(D50)が5~150μmであり、好ましくは、10~100μm、特に20~80μmの粒子径が推奨される。上記粒子径に調整するために、後述する製造方法によって得られた粗六方晶窒化ホウ素粉末より、粗大凝集粒子、具体的には、200μm超、特に、150μm超の凝集粒子を篩等の分級手段により分別して、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末を構成することも可能である。また、粗大粒子を分取して適当な大きさに解砕後、六方晶窒化ホウ素粉末に戻すことにより六方晶窒化ホウ素粉末を構成することもできる。
【0032】
尚、実施例において、前記湿式レーザー回折粒度分布法による粒径の測定は、HORIBA社製:LA-950V2(商品名)を使用して行っている。
【0033】
また、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、比表面積が、1~15m/gであることが好ましく、1.5~14.0m/gであればより好ましく、2.0~13.0m/gであれば更に好ましい。即ち、15.0m/gを超える六方晶窒化ホウ素粉末は、微粒子を多く含ことを意味し、このような六方晶窒化ホウ素粉末は、結晶性の低い窒化ホウ素粉末の含量が多くなり、絶縁放熱シート内での熱抵抗の原因になるだけでなく、粉が舞いやすくなる等といったハンドリング性の観点からも好ましくない。一方、1m/g未満の六方晶窒化ホウ素粉末は、粒成長した扁平な六方晶窒化ホウ素単粒子の割合が増加し、その熱伝導の異方性により樹脂に充填した場合の樹脂組成物の熱伝導率の低下を招くおそれがあるため好ましくない。
【0034】
上記六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積は、BET1点法によって測定した値であり、実施例においては、マウンテック社製:Macsorb HM model-1201(商品名)を使用して測定を行っている。
【0035】
また、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、吸油量が50~190ml/100g、特に、55~170ml/100g、更には、60~150ml/100gであることが好ましい。即ち、上記DBP吸収量は、六方晶窒化ホウ素粉末の特性のうち、凝集粒子内の開気孔量及び、粒子表面のストラクチャーの有無の状態、樹脂との濡れ性を示すものであり、開気孔が多く、ストラクチャーが発達したものであるほど高い。即ち、上記吸油量が低すぎるものは、開気孔が大きく、ストラクチャーの発達十分でなく、好ましくなく、高すぎると反対の傾向になり、樹脂組成物にした際に大きな気泡を噛みやすくなるため好ましくない。
上記六方晶窒化ホウ素粉末の吸油量は、JIS K5101-13-1:2004(「顔料試験方法」-第13部:吸油量-第1節:精製あまに油法)に示される手順に基づき測定される。
【0036】
更に、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、タップ嵩密度が0.40g/cm以上であることが好ましい。即ち、上記タップ嵩密度は、六方晶窒化ホウ素粉末の特性のうち、粒子形状、粒度分布広さを示す指標であり、上記値が高いという事は、大きな開気孔が少なく、球状に近い凝集粒子が多く、また、最密充填に近い粒度分布を有している状態を示すものである。そして、上記本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、後述する特定の六方晶窒化ホウ素凝集粒子の含有量を増加させることにより、粉末内の隙間を埋めやすく、上記タップ嵩密度を高くすることが可能である。尚、実施例で作製された六方晶窒化ホウ素粉末のタップ嵩密度は全て0.40g/cm以上であった。
【0037】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、長径が5~10μm、長径/短径が1.0~1.3、円形度が0.3~0.8の範囲にある凝集粒子(特定凝集粒子)を5%以上好ましくは、10%以上の割合で含むことが好ましい。
【0038】
尚、前記SEM観察長径範囲は、倍率10000倍のSEM観察像で確認した。SEM観察長径/短径は、倍率10000倍のSEM観察像から算出した。円形度は、倍率10000倍のSEM観察像を、画像解析ソフトを用いて4π×(面積)/(周囲長)の式を用いて求めた。
【0039】
また、前記特定凝集粒子の含有割合%に関しては、以下の方法を用いて測定することができる。まず、KOWA株式会社の乾式振動篩KFC-500-1Dを用いて、目開き45μmのSUSメッシュを用いて、六方晶窒化ホウ素粉末を30分間、45μm篩上下に篩い分けし、45μm篩下重量割合X%を求めた。その後、回収した45μm篩下品の倍率1000倍SEM観察像より、該当六方晶窒化ホウ素凝集粒子と非該当粒子を選別し、45μm篩下の六方晶窒化ホウ素凝集粒子のSEM観察像面積割合Y%を求めた。最終的に、45μm篩下重量割合X%と45μm篩下の六方晶窒化ホウ素凝集粒子のSEM観察像面積割合Y%を掛け合わせた割合(X×Y×0.01)%を、本発明における前記特定凝集粒子の割合とした。例えば、六方晶窒化ホウ素粉末の45μm篩下重量割合Xが20wt%で、45μm篩下の前記特定凝集粒子のSEM観察像面積割合Yが60%であれば、前記特定凝集粒子の割合Zは、20×60×0.01=12%と算出する。
【0040】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末において、前記特定凝集粒子は、他の凝集粒子の隙間を埋めるのに適した適度な大きさを有し、また、略球状であるため、六方晶窒化ホウ素粉末中に前記割合で存在させることにより、六方晶窒化ホウ素粉末の樹脂への充填性を高め、比較的大きい気泡の残存を効果的に抑制することができ、樹脂組成物の絶縁耐力の向上に寄与するものと推定される。
【0041】
前記特定凝集粒子の六方晶窒化ホウ素粉末に占める割合は、前記した下限値より多い程上記作用を助長するために好ましく、後述の製造方法によって得られた六方晶窒化ホウ素粉末を前記篩等による分級により、比較的粒子径の大きい粒子を分別することによってその割合を増加させることが好ましい。
【0042】
また、前記特定凝集粒子は、後述する製造方法により六方晶窒化ホウ素粉末の一部として生成するものであるが、特定凝集粒子を構成する六方晶窒化ホウ素一次粒子の大きさが、他の凝集粒子に比して小さく揃っており、殆どの一次粒子の長径が4μm以下であるという特徴を有し、かかる特徴も前記した樹脂組成物における絶縁耐力の向上に寄与する。
【0043】
(窒化ホウ素粉末の製造方法)
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法は、特に制限されるものではないが、代表的な製造方法を例示すれば、425μm篩上残分が3重量%以下の含酸素ホウ素化合物、カーボン源、含酸素カルシウム化合物を、含酸素ホウ素化合物に含まれるB源とカーボン源に含まれるC源の割合であるB/C(元素比)換算で0.63~0.73、含酸素ホウ素化合物とカーボン源との合計量(B、C換算値)100質量部に対して含酸素カルシウム化合物をCaO換算で4~12質量部となる割合で混合し、窒素雰囲気下にて1910~2000℃の最高温度に加熱して、還元窒化した後、反応生成物中に存在する窒化ホウ素以外の副生成物を酸洗浄により除去することを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法が挙げられる。
【0044】
(原料)
上記本発明の製造方法の最大の特徴は、原料として、粒径の制御された含酸素ホウ素化合物、カーボン源、含酸素カルシウム化合物を、後述するように、所定の割合で混合し、1910℃以上の高温で還元窒化する点にある。各原料が示す役割については以下の通りである。
【0045】
(含酸素ホウ素化合物)
上記本発明の製造方法において、原料の含酸素ホウ素化合物としては、ホウ素原子を含有する化合物が制限なく使用される。例えば、ホウ酸、無水ホウ酸、メタホウ酸、過ホウ酸、次ホウ酸、四ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウムなどが使用できる。一般的には、入手が容易なホウ酸、酸化ホウ素が好適に用いられる。また、使用する含酸素ホウ素化合物の平均粒子径を、425μm篩上残分が3質量%以下、好ましくは、1.5質量%以下にすることが好ましい。特に、300μm篩上残分が50%以下であることがより好ましく、250μm篩上残分が70%以下であることが更に好ましい。即ち、含酸素ホウ素化合物の425μm篩上残分が3重量%以上であると、150μm以上の粗大窒化ホウ素凝集粒子が残存し易くなり、粗大凝集粒子内の残存空隙が増加して、得られる六方晶窒化ホウ素粉末において細孔のメディアン径が3μmを超え、絶縁耐力の低下を招く。
【0046】
(含酸素カルシウム化合物)
含酸素カルシウム化合物は、含酸素ホウ素化合物と複合酸化物を形成することで、高融点の複合酸化物を形成し、含酸素ホウ素化合物の揮散を防止する役割を有する。
【0047】
本発明の製造方法において、触媒及び含酸素ホウ素化合物の揮散防止剤として使用される含酸素カルシウム化合物としては、公知のものが特に制限無く使用されるが、特に、酸素とカルシウムが含まれる含酸素カルシウム化合物が好適に使用される。含酸素カルシウム化合物としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム等が挙げられる。その中でも含酸素カルシウム化合物が好適に使用出来る。含酸素カルシウム化合物としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム等を使用することが出来、これら2種類以上を混合して使用することも可能である。その中でも、酸化カルシウム、炭酸カルシウムを使用するのが好ましい。
【0048】
上記含酸素カルシウム化合物は、2種類以上を混合して使用することも可能である。また、上記含酸素カルシウム化合物の平均粒子径は、平均粒子径0.01~200μmが好ましく、0.05~120μmがより好ましく、0.1~80μmが特に好ましい。
【0049】
(カーボン源)
本発明の製造方法において、カーボン源としては、還元剤として作用する公知の炭素材料が特に制限無く使用される。例えば、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー等の非晶質炭素の他、ダイヤモンド、グラファイト、ナノカーボン等の結晶性炭素、モノマーやポリマーを熱分解して得られる熱分解炭素等が挙げられる。そのうち、反応性の高い非晶質炭素が好ましく、更に、工業的に品質制御されている点で、カーボンブラックが特に好適に使用される。また、上記カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等を使用することができる。また、上記カーボン源の平均粒子径は、0.01~5μmが好ましく、0.02~4μmがより好ましく、0.05~3μmが特に好ましい。即ち、該カーボン源の平均粒子径を5μm以下とすることにより、カーボン源の反応性が高くなり、また、0.01μm以上とすることにより、取り扱いが容易となる。
【0050】
本発明の製造方法において、上記の各原料を含む混合物の反応への供給形態は特に制限されず、粉末状のままでもよいが、造粒体を形成して行ってもよい。
【0051】
本発明の製造方法において、前記原料の混合方法は特に制限されず、振動ミル、ビーズミル、ボールミル、ヘンシェルミキサー、ドラムミキサー、振動攪拌機、V字混合機等の一般的な混合機が使用可能である。
【0052】
また、造粒を行う場合の造粒方法も、必要に応じてバインダーを使用し、押出造粒、転動造粒、コンパクターによる造粒など、公知の方法により実施することができる。この場合、造粒体の大きさは、5~10mm程度が好適である。
【0053】
(原料の調製)
本発明において、還元窒化反応は、カーボン源と窒素の供給により実施されるが、目的とする六方晶窒化ホウ素凝集粒子を効果的に得るためには、含酸素ホウ素化合物に含まれるB源とカーボン源との割合は、B/C(元素比)換算で0.63~0.73、好ましくは0.65~0.72とすることが必要である。即ち、該モル比が0.73を超えると、還元されずに揮散するホウ素化合物の割合が増加し、Ca助剤と複合酸化物を形成し易く、また上記複合酸化物の融点が低く、板状粒子が粒成長しやすく、目的とする一次粒子が小粒径で細孔を有した凝集粒子が得難い。また、該モル比が0.63未満では、カーボン含有割合が多く、カーボン由来の不純物残存の恐れがある。
【0054】
本発明において、目的とする六方晶窒化ホウ素凝集粒子を効果的に得るためには、含酸素ホウ素化合物とカーボン源との合計量(B、C換算値)100質量部に対して含酸素カルシウム化合物をCaO換算で4~12質量部となる割合で混合することが必要である。このとき、CaO換算質量部が4質量部以下では、還元されずに揮散するホウ素化合物の割合が増加し、収率が低下するばかりでなく、残存するホウ素化合物と形成するCaO-B複合酸化物の融点が下がり、六方晶窒化ホウ素粒子の粒成長が促進され、目的とする細孔を有した凝集粒子を形成し難く好ましくない。CaO換算質量部が12質量部以上では、カルシウム由来の不純物が残存する虞があり好ましくない。
【0055】
本発明においては、上記原料粒径、組成比を調整することで、目的とする過度な粒成長が行われず、一次粒子径の小さい凝集粒子を高選択的に作製することが出来る。
(還元窒化)
本発明の窒化ホウ素製造方法において、反応系への窒素源の供給は、公知の手段によって形成することが出来る。例えば、後に例示した反応装置の反応系内に窒素ガスを流通させる方法が最も一般的である。また、使用する窒素源としては、上記窒素ガスに限らず、還元窒化反応において窒化が可能なガスであれば特に制限されない。具体的には、前記窒素ガスの他、アンモニアガスを使用することも可能である。また、窒素ガス、アンモニアガスに、水素、アルゴン、ヘリウム等の非酸化性ガスを混合したガスも使用可能である。
【0056】
上記製造方法において、結晶性の高く、且つ細孔を有する六方晶窒化ホウ素粉末を得るために、還元窒化反応における加熱温度は、通常1910℃~2000℃、好ましくは、1920~1980℃の温度を採用することが必要である。加熱温度を1910℃~2000℃にすることで、六方晶窒化ホウ素粒子の結晶性が向上し、一次粒子形状外周がより、シャープになり、粒子同士の微小な細孔が増える効果を有する。また、かかる温度が1910℃未満では還元窒化反応が未進行、且つ、結晶性の高い白色の六方晶窒化ホウ素を得ることが困難であり、2000℃を超える温度では、効果が頭打ちとなり、経済的に不利であるだけでなく、加熱炉へのダメージが増加し好ましくない。
【0057】
また、還元窒化反応の時間は適宜決定されるが、一般に、6~30時間程度である。
【0058】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法は、反応雰囲気制御の可能な公知の反応装置を使用して行うことができる。例えば、高周波誘導加熱やヒーター加熱により加熱処理を行う雰囲気制御型高温炉が挙げられ、バッチ炉の他、プッシャー式トンネル炉、竪型反応炉等の連続炉も使用可能である。
【0059】
(酸洗浄)
本発明の製造方法において、上述の還元窒化によって得られる反応生成物は、六方晶窒化ホウ素粉末の他に、酸化ホウ素―酸化カルシウムから成る複合酸化物等の不純物が存在するため、酸を用いて洗浄することが好ましい。かかる酸洗浄の方法は特に制限されず、公知の方法が制限無く採用される。例えば、窒化処理後に得られた副生成物含有窒化ホウ素を解砕して容器に投入し、該不純物を含有する六方晶窒化ホウ素粉末の5~10倍量の希塩酸(10~20質量%HCl)を加え、4~8時間接触せしめる方法などが挙げられる。
【0060】
上記酸洗浄時に用いる酸としては、塩酸以外にも、硝酸、硫酸、酢酸等を用いることも可能である。
【0061】
上記酸洗浄の後、残存する酸を洗浄する目的で、純水を用いて洗浄する。上記洗浄の方法としては、上記酸洗浄時の酸をろ過した後、使用した酸と同量の純水に酸洗浄した窒化ホウ素を分散させ、再度ろ過する。
【0062】
(乾燥)
上記、酸洗浄、水洗浄後の、含水塊状物を乾燥条件としては、50~250℃の大気、もしくは減圧下での乾燥が好ましい。乾燥時間は、特に指定しないが、含水率が0%に限りなく近づくまで乾燥することが好ましい。
【0063】
(分級)
乾燥後の窒化ホウ素粉末は、必要に応じて、解砕後、篩等による粗粒除去、気流分級等による微粉除去を行ってもよい。
【0064】
(窒化ホウ素粉末の用途)
本発明の窒化ホウ素粉末の用途は、特に限定されず、公知の用途に特に制限無く適用可能である。好適に使用される用途を例示するならば、電気絶縁性向上や熱伝導性付与等の目的で樹脂に充填剤として使用する用途が挙げられる。上記窒化ホウ素粉末の用途において、得られる樹脂組成物は、高い電気絶縁性や熱伝導性を有する。
【0065】
本発明の樹脂組成物は制限無く公知の用途に使用することが出来るが、後述する樹脂と混合し熱伝導性樹脂組成物あるいは熱伝導性成形体とすることでポリマー系放熱シートやフェイズチェンジシート等のサーマルインターフェイスマテリアル、放熱テープ、放熱グリース、放熱接着剤、ギャップフィラー等の有機系放熱シート類、放熱塗料、放熱コート等の放熱塗料類、PWBベース樹脂基板、CCLベース樹脂基板等の放熱樹脂基板、アルミベース基板、銅ベース基板等のメタルベース基板の絶縁層、パワーデバイス用封止材、層間絶縁膜等の用途に好ましく用いることが出来る。
【0066】
また、本発明の窒化ホウ素粉末は樹脂組成物とする際に、一般的な高熱伝導絶縁フィラーである窒化アルミニウム、酸化アルミニウム等の熱伝導性フィラーと混合して使用することが出来る。
【0067】
前記樹脂としては、ポリオレフィン、塩化ビニル樹脂、メタクリル酸メチル樹脂、ナイロン、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ケイ素樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂等の熱硬化性樹脂、フッ素樹脂、液晶性ポリマー、合成ゴムなどが挙げられる。
【0068】
また、上記樹脂組成物には、必要に応じて樹脂組成物の配合剤として公知の重合開始剤、硬化剤、重合禁止剤、重合遅延剤、カップリング剤、可塑剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、抗菌剤、有機フィラー、有機無機複合フィラーなどの公知の添加剤を含んでもよい。また、本発明の効果を損なわない範囲で他の無機フィラーを含んでいてもよい。
【0069】
また、本発明の窒化ホウ素粉末は、立方晶窒化ホウ素や窒化ホウ素成型品等の窒化ホウ素加工品製品の原料、エンジニアリングプラスチックへの核剤、フェーズチェンジマテリアル、固体状または液体状のサーマルインターフェイスマテリアル、溶融金属や溶融ガラス成形型の離型剤、化粧品、複合セラミックス原料等の用途にも使用することができる。
【実施例
【0070】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
尚、実施例において、各測定は、以下の方法により測定した値である。
【0072】
[細孔体積基準メディアン径(μm)]
得られた六方晶窒化ホウ素粉末について、細孔体積基準メディアン径は、水銀圧入法で測定した。0.0036μm~200μmの細孔分布を求めた際の、横軸に細孔径、縦軸に積算細孔容積をプロットした積算細孔分布から、メディアン径を算出した。Micromeritics社製、オートポアIV9520を用いて算出した。
【0073】
[JIS K5101-13-1:2004に準拠した六方晶窒化ホウ素粉末の吸油量]
得られた六方晶窒化ホウ素粉末について、JIS K5101-13-1:2004(「顔料試験方法」-第13部:吸油量-第1節:精製あまに油法)に示される手順に基づき吸油量を求めた。
【0074】
[六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積(m/g)]
得られた六方晶窒化ホウ素粉末について、マウンテック社製:Macsorb HM model-1201を用いて比表面積を測定した。
【0075】
[六方晶窒化ホウ素粉末の粒度分布の累積体積頻度50%の粒径D1(μm)]
得られた六方晶窒化ホウ素粉末について、HORIBA社製:LA-950V2を用いて粒度分布の累積体積頻度50%の粒径(D1)を測定した。六方晶窒化ホウ素粉末の粒度分布は、日機装株式会社製:粒子径分布測定装置MT3000を使用して測定した。なお、測定サンプルは、以下に示す方法により調製した。まず、50mLスクリュー管瓶にエタノール20gを分散媒として加え、エタノール中に六方晶窒化ホウ素粉末1gを分散させた。得られた粒度分布の累積体積頻度50%の粒径を(D1)とした。
【0076】
[六方晶窒化ホウ素粉末不純物元素濃度(質量%)]
得られた六方晶窒化ホウ素粉末について、Rigaku社製ZSX Primus2(商品名)を用いて六方晶窒化ホウ素粉末の不純物元素(カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、アルミニウム、リチウム、ストロンチウム、鉄、硫黄、ニッケル、クロム、マンガン、ケイ素、リン、チタン、バリウム、コバルト)の濃度を測定した。
【0077】
実施例1
425μm篩上残分が2.1重量%の酸化ホウ素195g、カーボンブラック99g、炭酸カルシウム55.2gをスパルタンミキサーを使用して混合した。該混合物の(B/C)元素比換算は0.68、含酸素ホウ素化合物、カーボン源の、B、C換算質量合計量100質量部に対する上記含酸素カルシウム化合物のCaO換算質量含有割合は10.5質量部である。該混合物1500gを、黒鉛製タンマン炉を用い、窒素ガス雰囲気下、1500℃6時間、1940℃で4時間保持することで窒化処理した。
【0078】
次いで、副生成物含有窒化ホウ素を解砕して容器に投入し、該副生成物含有窒化ホウ素の5倍量の塩酸(7質量%HCl)を加え、スリーワンモーター回転数350rpmで24時間撹拌した。該酸洗浄の後、酸をろ過し、使用した酸と同量の純水に、ろ過して得られた窒化ホウ素を分散させ、再度ろ過した。この操作をろ過後の水溶液が中性になるまで繰り返した後、200℃で12時間真空乾燥させた。
【0079】
乾燥後に得られた粉末を目開き90μmの篩にかけて、白色の六方晶窒化ホウ素粉末を得た。得られた六方晶窒化ホウ素粉末中の各物性を上述した方法で測定し、表1、2に示した。
【0080】
実施例2
酸化ホウ素の425μm篩上残分が2.9重量%、(B/C)元素比換算を0.72、含酸素ホウ素化合物、カーボン源、の、B、C換算質量合計量100質量部に対する上記含酸素カルシウム化合物のCaO換算質量含有割合を8質量部とした以外は実施例1と同様にした。各条件、測定値を表1、2に示した。
【0081】
実施例3
酸化ホウ素の425μm篩上残分が1.0重量%、(B/C)元素比換算を0.65、含酸素ホウ素化合物、カーボン源、の、B、C換算質量合計量100質量部に対する上記含酸素カルシウム化合物のCaO換算質量含有割合を6質量部とした以外は実施例1と同様にした。各条件、測定値を表1、2に示した。
【0082】
実施例4
酸化ホウ素の425μm篩上残分が0.1重量%且つ、300μm篩上残分が15.0重量%とした以外は実施例1と同様にした。各条件、測定値を表1、2に示した。
【0083】
実施例5
酸化ホウ素の425μm篩上残分が0.5重量%、(B/C)元素比換算を0.70、含酸素ホウ素化合物、カーボン源の、B、C換算質量合計量100質量部に対する上記含酸素カルシウム化合物のCaO換算質量含有割合を8質量部とした以外は実施例1と同様にした。また、得られた窒化ホウ素粉末を、上記45μm篩処理を行い、六方晶窒化ホウ素特定凝集粒子割合を18.2%まで高めた試料を作製した。測定値を表1、2に示した。
【0084】
比較例1~6
各条件、表1に示す部分を変更した以外は実施例1と同様にした。各条件、測定値を表1、2に示した。比較例2で作製した六方晶窒化ホウ素粉末には、本発明に該当する六方晶窒化ホウ素凝集粒子は含まれなかった。比較例6で作製した六方晶窒化ホウ素粉末は、白色粉末ではなく、一部カーボンが残存し、黒色部分が確認されており、粉体物性の分析を行っていない。
【0085】
[樹脂組成物]
前記実施例1~6で得られた窒化ホウ素粉末をエポキシ樹脂に充填し樹脂組成物を作製し、熱伝導率の評価を行った。エポキシ樹脂は、(三菱化学株式会社製JER828)100質量部と硬化剤(イミダゾール系硬化剤、四国化成株式会社製キュアゾール2E4MZ)5質量部と溶媒としてメチルエチルケトン210質量部の混合物を準備した。次に、基材樹脂35体積%と、前記特定窒化ホウ素粉末65体積%となるように上記ワニス状混合物と六方晶窒化ホウ素粉末を自転・公転ミキサー(倉敷紡績株式会社製MAZERUSTAR)にて混合して樹脂組成物を得た。
【0086】
上記樹脂組成物を,テスター産業社製自動塗工機PI-1210を用いて、PETフィルム上に厚み250~300μm程度に塗工・乾燥し、減圧下、温度:200℃、圧力:5MPa、保持時間:30分の条件で硬化させ、厚さ220μmのシートを作製した。該シートを温度波熱分析装置にて解析し、熱伝導率を算出した結果を表3に示した。実施例1~5で作製した六方晶窒化ホウ素粉末を充填したシートの熱伝導率は、8.5W/m・K以上であり、高熱伝導率を示した。また、耐電圧試験機(多摩電測株式会社製)にて絶縁耐力を測定した結果、80kV/mm以上と高絶縁耐力であり、樹脂組成物内の、絶縁耐力低下原因となる大きな空隙量が少ない事が示唆された。
【0087】
また、作製したシートの体積と重量から実密度を求め、樹脂と六方晶窒化ホウ素粒子の充填率から計算されるシート理論密度を100%とした際の、実密度/シート理論密度を求め、樹脂シート相対密度とした。本発明の六方晶窒化ホウ素粉末で作製した樹脂シートは、実密度/シート理論密度が89~97%であり、樹脂シート内に、熱伝導率、絶縁耐力を低下させない微小な空隙を有していることが分かる。よって、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末を使用する事で、無機充填樹脂シートの軽量化を実現しながら、高い熱伝導率、絶縁耐力を維持する事が可能であった。
【0088】
また、比較例1~5で得られた窒化ホウ素粉末及を用いた以外は同様にして前記樹脂組成物を得、熱伝導率、絶縁耐力、樹脂シート相対密度を測定し、表3に示した。表より明らかなように、比較例1~5で得られた窒化ホウ素粉末を充填したシートはいずれも、熱伝導率8.5W/m・K、絶縁耐力80kV/mm以上、樹脂シート相対密度97.0%以下を同時に達成する事が出来なかった。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
図1
図2
図3