(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】自動分析装置および自動分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/02 20060101AFI20241115BHJP
G01N 35/00 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
G01N35/02 D
G01N35/00 C
(21)【出願番号】P 2021069521
(22)【出願日】2021-04-16
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小原 康博
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-231701(JP,A)
【文献】特開2009-162585(JP,A)
【文献】特開2013-036891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/02
G01N 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器内の試料と試薬の混合液に光を照射する光源と、
前記混合液の光学特性を検出する検出器と、
前記検出器の出力に基づいて前記混合液を分析する制御部と、
試薬容器内の前記試薬に含まれる凝集体を分散化する分散化処理部と、を備え、
前記制御部は、
閾値設定タイミングで、開封直後の前記試薬、または、開封直後の前記試薬を含む前記混合液を用いて、基準値となる光学特性を前記検出器により予め取得するとともに、この基準値に対して所定の範囲を閾値として設定し、
均一性評価タイミングで、前記試薬または前記混合液の光学特性を前記検出器により現状値として再び取得し、
前記現状値が前記閾値の範囲外であった場合、試薬均一化タイミングで、前記分散化処理部により前記試薬に含まれる凝集体を分散化する自動分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記閾値設定タイミングは、前記試薬容器が試薬ディスク内に設置されてからスタンバイ状態が終了するまでの間であることを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記制御部は、前記基準値として、精度管理測定またはキャリブレーション測定に用いられる前記反応容器内の前記混合液の光学特性を予め取得することを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項3に記載の自動分析装置において、
前記制御部は、閾値設定後の精度管理測定またはキャリブレーション測定のたびに、均一性評価を行うことを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記均一性評価タイミングは、前記基準値を最後に取得してから一定時間が経過した後であることを特徴とする自動分析装置。
【請求項6】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記試薬均一化タイミングは、前記混合液の分析が行われていない状態であることを特徴とする自動分析装置。
【請求項7】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記均一性評価タイミングまたは前記試薬均一化タイミングは、ユーザが選択できることを特徴とする自動分析装置。
【請求項8】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記分散化処理部は、前記試薬容器の外から超音波を照射することを特徴とする自動分析装置。
【請求項9】
請求項8に記載の自動分析装置において、
前記超音波の照射時間または照射強度は、ユーザが選択できることを特徴とする自動分析装置。
【請求項10】
検出器と、分散化処理部と、制御部と、を有する自動分析装置を用いた自動分析方法であって、
前記検出器が、反応容器内の開封直後の試薬、または、前記反応容器内の開封直後の前記試薬を含む混合液を用いて、基準値となる光学特性を予め取得し、
前記制御部が、前記基準値に対して所定の範囲を閾値として設定し、
前記検出器が、前記反応容器内の前記試薬または前記混合液を用いて、現状値となる光学特性を取得し、
前記現状値が前記閾値の範囲外であった場合、前記分散化処理部が、試薬容器内の前記試薬に含まれる凝集体を分散化する自動分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動分析装置および自動分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動分析装置は、血液や尿などの生体試料と試薬とを反応容器内で混合し、反応液の光学的な特性を測定することにより、目的成分の定性・定量分析を行う。また、近年では、測定処理時間の短縮や、高感度化の観点から、ラテックス粒子や磁性粒子などの不溶性担体を含む試薬での分析を行う自動分析装置が普及している。
【0003】
このような不溶性担体を含む試薬を用いて分析を行う場合、微小粒子が結合して凝集体を形成する可能性があるので、微小粒子を十分に分散させた状態で分析を行わないと、信頼性の高い測定データが得られない。そこで、特許文献1には、装置のイニシャライズ動作時に、試薬容器の公転、自転により容器内の試薬を効率よく撹拌することで、ラテックス試薬などに含まれる微小粒子を分散させる自動分析装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、自動分析装置の試薬保管庫は、試薬の品質を維持するために、例えば5~15℃の低温で冷蔵されているため、試薬が不溶性担体を含む場合、不溶性担体のブラウン運動は減少し、それらの持つ電気的な結合能が優位になることから、自己凝集が発生する。また、試薬保管庫において、試薬は容器の吸引口を介し大気に接した状態で保管されるため、試薬中には大気中の酸素や二酸化炭素などが溶け込んだ状態となり、このことも、不溶性担体に自己凝集を発生させ易くする要因となる。一方で、試薬分注機構により反応容器へと分注された試薬の温度は、恒温槽内で例えば37℃の高温にさらされる。その結果、試薬保管庫内で冷蔵保管され凝集体を形成していた不溶性担体が、反応容器内での温度上昇に伴い徐々に一次粒子へ分散し、光学特性が変わってしまうことにより、被験物質の測定に誤差を生じさせることが分かった。
【0006】
凝集体が実際に形成される程度は、試薬容器が設置されてからの時間など状況によって異なる。しかし、特許文献1に記載の技術では、実際の凝集状態は考慮することなく、一律に分散化処理を行っているため、必要以上に試薬を撹拌する動作がされて非効率となる場合や、逆に、十分に試薬が分散化されないまま分析に用いられる場合がある。
【0007】
上記課題に鑑み、本発明は、試薬に含まれる凝集体を効率よく分散化させ、信頼性の高い自動分析装置および自動分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明の自動分析装置は、反応容器内の試料と試薬の混合液に光を照射する光源と、前記混合液の光学特性を検出する検出器と、前記検出器の出力に基づいて前記混合液を分析する制御部と、試薬容器内の前記試薬に含まれる凝集体を分散化する分散化処理部と、を備え、前記制御部は、閾値設定タイミングで、開封直後の前記試薬、または、開封直後の前記試薬を含む前記混合液を用いて、基準値となる光学特性を前記検出器により予め取得するとともに、この基準値に対して所定の範囲を閾値として設定し、均一性評価タイミングで、前記試薬または前記混合液の光学特性を前記検出器により現状値として再び取得し、前記現状値が前記閾値の範囲外であった場合、試薬均一化タイミングで、前記分散化処理部により前記試薬に含まれる凝集体を分散化する。
【0009】
また、本発明の自動分析方法は、検出器と、分散化処理部と、制御部と、を有する自動分析装置を用いた自動分析方法であって、前記検出器が、反応容器内の開封直後の試薬、または、前記反応容器内の開封直後の前記試薬を含む混合液を用いて、基準値となる光学特性を予め取得し、前記制御部が、前記基準値に対して所定の範囲を閾値として設定し、前記検出器が、前記反応容器内の前記試薬または前記混合液を用いて、現状値となる光学特性を取得し、前記現状値が前記閾値の範囲外であった場合、前記分散化処理部が、試薬容器内の前記試薬に含まれる凝集体を分散化する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、試薬に含まれる凝集体を効率よく分散化させ、信頼性の高い自動分析装置および自動分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施の形態に係る自動分析装置の全体構成の一例を示す図。
【
図2A】試薬に含まれる凝集体に対して超音波が照射される様子を示す図。
【
図2B】一次粒子に分散化された試薬が分注のために吸引される様子を示す図。
【
図4】試薬の均一性評価と試薬均一化の流れを示すフローチャート。
【
図5A】均一状態(不溶性担体が分散状態)の試薬を用いた場合における、測定開始5分後(均一状態試薬添加直後)からの吸光度の変化を示すグラフ。
【
図5B】不均一状態(不溶性担体が自己凝集状態)の試薬を用いた場合における、測定開始5分後(不均一状態試薬添加直後)からの吸光度の変化を示すグラフ。
【
図6】出力部に表示される、均一性評価および試薬均一化に関する設定登録画面の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。なお、全体を通して、各図における同一の各構成部分には同一の符号を付して説明を省略することがある。
【0013】
<装置構成>
まず、本実施の形態に係る自動分析装置の構成について説明する。
【0014】
≪全体構成≫
図1は、本実施の形態に係る自動分析装置の全体構成の一例を示す図である。自動分析装置100は、主として、試料ディスク101と、その同心円状に配置された試料102を収容する試料容器103と、反応ディスク104と、その同心円状に配置された反応容器105(反応セル)と、試料分注機構106と、試薬ディスク107と、その同心円状に配置された種々の試薬108を収容する試薬容器109と、試薬分注機構110と、振動機構111と、撹拌機構112と、恒温槽循環液体113と、測光機構114と、反応容器洗浄機構115と、制御部121と、から構成される。また、制御部121は、制御回路116と、測光回路117と、コンピュータ118と、入力部119(例えば、ポインティングデバイス、キーボード、タブレット等)と、測定結果や各種操作に係るグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)等が表示される出力部120と、を備える。なお、
図1では、制御部121は各々の構成部に接続され、装置全体を制御するものとしたが、構成部ごとに独立した制御部を備えるように構成することもできる。
【0015】
自動分析装置100による分析は、主に以下のように実施される。まず、試料ディスク101に設置された試料容器103内の試料102が、試料容器103から反応容器105へと試料分注機構106により分注される。試料102の入った反応容器105は、反応ディスク104の回転動作により、試薬分注位置まで移動し、試薬分注機構110が、分析に使用する試薬108を試薬容器109から試料102の入った反応容器105へと分注する。以下では、反応容器105内に収容された、試料102と試薬108との混合液を反応液122と称することがある。なお、分析に使用する試薬108は、後述の均一性の評価で均一化の必要があるとされた場合、振動機構111(分散化処理部)によって、均一化が実行される。続いて、撹拌機構112により、反応容器105内の反応液122の撹拌が行われる。反応容器105は、反応ディスク104の下部に満たされた恒温槽循環液体113によって、一定の温度、例えば37℃に保たれており、反応の促進と反応の進行の安定化が図られている。
【0016】
反応容器105内の反応液122は、反応ディスク104の回転動作に伴い、測光機構114を通過するときに、図示しない光源から照射された光に対する信号が測光回路117を介して測定される。このように測光機構114および測光回路117を含む検出器により検出された、吸光度などの光学特性を示す測光データは、コンピュータ118に送られる。コンピュータ118は、演算部123によって、試料中の対象成分の濃度を求めるとともに、得られたデータを記憶部124に記録し、出力部120に結果を表示させる。反応後の反応容器105は、反応容器洗浄機構115により洗浄され、次の反応に繰り返し使用される、あるいは、図示しない反応容器廃棄部に廃棄される。
【0017】
≪分散化処理部の構成≫
次に、分散化処理部として、超音波を照射する振動機構を用いた場合、試薬の均一化と分注がどのように行われるかについて説明する。本実施の形態では、試薬ディスク107内のうち、特定の試薬容器109の設置ポジションに、圧電素子502で構成される振動機構が設置される。
図2Aは、試薬に含まれる凝集体に対して超音波が照射される様子を示す図であり、
図2Bは、一次粒子に分散化された試薬が分注のために吸引される様子を示す図である。
【0018】
まず、制御部121は、均一化の必要があると評価された試薬に対応する試薬容器109を、圧電素子502の上へ移動させる。次に、
図2Aに示すように、制御部121内の圧電素子駆動回路501は、試薬ディスク107の上面の一部に設置された圧電素子502から超音波503を照射する。照射された超音波503は、試薬容器109内の試薬108に含まれる凝集体504に振動を与え、凝集体504を形成する不溶性担体を一次粒子506に分散させ、試薬108を均一化する。その後、
図2Bに示すように、制御部121の制御回路116は、試薬分注機構110の試薬ノズル505と制御して、均一化済みの試薬を吸引し、反応容器105へ分注する。これにより、反応容器105内での凝集体504の分散化状態の相違によって測定結果に影響が生じるのを防ぎ、信頼性の高い自動分析装置100を実現することが可能となる。
【0019】
なお、圧電素子502は、試薬ディスク107内の全ての試薬容器設置ポジションの底面に配置しても良いし、不溶性担体を含む試薬に対応する試薬容器設置ポジションの底面に選択的に複数配置しても良い。配置スペースやコストを考慮すると、後者が望ましい。さらに、圧電素子502を複数のセグメントに分割し、照射範囲を調節できるような構成としても良い。また、試薬容器109側面から超音波を照射できるよう、試薬ディスク107の外周または内周に沿って圧電素子502を配置しても良い。この場合も、異なる高さから超音波を照射できるよう、圧電素子502を複数のセグメントに分割して配置することができる。
【0020】
このように、本実施の形態では、分散化処理部として、試薬容器109の外から超音波を照射する振動機構111を用いたので、異なる種類の試薬108の均一化が必要な場合であっても、試薬108の種類が変わる毎に分散化処理部を洗浄する工程が発生しない利点がある。また、本実施の形態では、試薬容器109を自転/公転させたり加温したりするのと異なり、超音波503による振動が試薬108に与えられるため、微小粒子が強固に結合した凝集体であっても分散化させることが可能である。
【0021】
<制御フロー>
次に、本実施の形態に係る制御部121が、試薬の均一性を評価し、必要に応じて試薬の均一化(分散化)を行うまでの流れを説明する。まず、制御部121は、閾値設定タイミングで、試薬108、または、試薬108と試料102などの混合液、の基準値となる光学特性を予め取得するとともに、この基準値に対して所定の範囲を閾値として設定する。次に、制御部121は、均一性評価タイミングで、試薬108または混合液の光学特性を現状値として再び取得する。現状値が閾値の範囲外であった場合、制御部121は、均一化実行タイミングで、振動機構111により試薬に含まれる凝集体を分散化する。以下では、閾値設定と、均一性評価および試薬均一化と、に分けて具体的に説明する。
【0022】
≪閾値設定≫
図3は、閾値設定の流れを示すフローチャートである。本実施の形態では、試薬のみの光学特性が基準値として設定される場合を例に挙げて説明する。
【0023】
まず、ロボットアームまたはユーザ(オペレータ)が、新規に開封した試薬容器109を試薬ディスク107内に設置する(ステップS201)。その後、制御部121は、試薬容器109に貼付されたバーコードやRFIDなどの識別子を試薬ディスク107に設置されたバーコードリーダやRFIDリーダなどの読取機で読み取らせ、品目、コード、ロット情報などを記憶部124に登録することで、試薬登録を実施する。
【0024】
次に、ユーザによって予め選択された閾値設定の対象となる試薬108が、試薬分注機構110によって反応容器105へ分注される(ステップS202)。その後、検出器は、反応容器105内の試薬108の分散状態を、吸光度などの光学特性として検出する(S203)。ここでは、反応容器105内に試薬108のみが存在する状態で光学特性を検出しているが、試薬108の他に試料102や精製水あるいは希釈液を混和させた混合液の光学特性を検出しても良い。特に、定期的に濃度が既知の試料を精度管理試料として測定することで測定精度の保証を行う精度管理測定時や、予め濃度が既知の試料を標準試料として測定することで検量線を作成するキャリブレーション測定時に、反応容器105内に混合液が存在する状態で検出した光学特性を用いれば、試薬108の消費を抑制することが可能である。
【0025】
次に、制御部121は、検出部で検出された光学特性を、凝集体が存在しない状態に対応する試薬108の基準値として、記憶部124に記録する(ステップS204)。さらに、制御部121は、検出部が検出した基準値と、ユーザによって選択された係数と、を用いて、均一性評価のための閾値を算出し、この閾値も記憶部124に記録する(ステップS205)。このようにして、閾値の設定が完了すると、自動分析装置100は、スタンバイ状態に遷移する(ステップS206)。
【0026】
なお、
図2では、スタンバイ状態に遷移する前に、閾値設定を行う例を示したが、スタンバイ状態のときに閾値設定を行っても良い。開封直後の試薬容器109が試薬ディスク107内に設置されてからスタンバイ状態が終了するまでの間であれば、試薬容器109内の試薬108が酸素等と晒される時間が短く、凝集体が形成され難いと考えられるためである。
【0027】
≪均一性評価および試薬均一化≫
図4は、試薬の均一性評価と試薬均一化の流れを示すフローチャートである。本実施の形態では、均一性評価のタイミングとして、タイムアウトが設定された場合を例に挙げて説明する。
【0028】
まず、予め設定されたタイムアウト時間が経過すると(ステップS301)、自動分析装置100を起動してスタンバイ状態となったときなどに、制御部121が出力部120を用いてユーザへ報知する。その後、ユーザが入力部119を操作することにより、均一性の評価処理が開始される。なお、ユーザによる操作を待たずに、自動的に均一性の評価が開始されるようにしても良い。
【0029】
次に、試薬分注機構110は、対象の試薬108を試薬容器109より吸引し、反応容器105へ吐出する(S302)。その後、制御部121は、反応容器105内に分注された試薬108の光学特性を検出器により検出し、光学特性の現状値として記憶部124に記録する(S303)。
【0030】
さらに、制御部121は、前述の閾値設定で設定された閾値と、光学特性の現状値と、を用いて、試薬108に関する均一性の評価を行う(ステップS304)。ステップS304において、光学特性の現状値が閾値の範囲内(例えば、吸光度が0.84未満)であれば、閾値設定後の凝集体の形成はゼロまたは僅かであるとして、スタンバイ状態が継続し、通常の分析を行う測定状態への遷移が可能となる(ステップS306)。
【0031】
一方、ステップS304において、光学特性の現状値が閾値の範囲外(例えば、吸光度が0.84以上)であれば、閾値設定後に分析結果に影響を与える可能性のある凝集体が形成されているとして、制御部121は、振動機構111を動作させて試薬容器109内の試薬108の均一化を実行する(ステップS305)。このとき、制御部121は、均一化対象の試薬108を収容する試薬容器109を、例えば、試薬ディスク107上の振動機構111に対応する位置へ移動させ、振動機構111から試薬容器109内へ向けて超音波を照射する。予め設定された時間の照射が終了すると、再びステップS302に戻り、均一化が実行された試薬108は、反応容器105に分注される。以降、光学特性が閾値の範囲内に入るまで、ステップS302~ステップS305が繰り返される。
【0032】
ステップS304において、試薬均一化が必要と判定された場合でも、制御部121は、その時点ですぐには均一化を実行せず、所定のタイミングで試薬均一化が実行される旨を出力部120に出力する。そして、例えば、その日に予定していた分析がすべて終了し、スリープ状態(省電力モード)となったとき、自動分析装置100がシャットダウンされたとき、次の日に自動分析装置100が起動されてスタンバイ状態となったとき、などのタイミングで試薬均一化が実行される。このように、自動分析装置100が測定状態でないときに試薬108の均一化を行うことで、通常の分析が制限されるのを抑えつつ、分析精度を高めることが可能となっている。ただし、閾値からの乖離度が高い場合、あるいは、均一性評価用の閾値よりも高い別の閾値を超える場合、など緊急性の高い場合には、測定状態に遷移せず、すぐに振動機構111による均一化が実行されるようにしても良い。
【0033】
なお、
図3では、予め設定されたタイムアウト時間が経過した時点、すなわち、基準値を最後に取得してから一定時間が経過した時点、をトリガとして、均一性評価を行う場合について説明したが、均一性評価のタイミングは、これに限らない。例えば、最初の精度管理測定時やキャリブレーション測定時に検出した混合液の光学特性に基づいて予め閾値が設定されている場合には、精度管理測定やキャリブレーション測定のたびに、反応容器105内の混合液の光学特性を検出することで、試薬108の均一性を評価しても良い。
【0034】
<光学特性の比較>
一般に、ラテックス粒子などの不溶性担体は、測定対象の抗原を特異的に認識する抗体などのタンパク質と結合しており、試料中に抗原などのタンパク質が存在する場合、凝集反応を起こすため、吸光度や散乱光強度が増大する。換言すると、試料中に抗原などのタンパク質が存在しない場合、不溶性担体は、凝集反応を起こさないため、吸光度は変化しない。しかし、試薬容器109が開封されて試薬が酸素等に晒され、かつ、試薬が低温で保管されていると、抗原などが存在しなくても、自己凝集を起こす可能性がある。以下では、試薬容器109が開封されて一定時間が経過して不溶性担体が自己凝集を起こしている(不均一状態の)試薬と、試薬容器109が開封された直後で不溶性担体が自己凝集を殆ど起こしていない(均一状態の)試薬とで、光学特性の1つである吸光度がどのように異なるかを説明する。
【0035】
まず、試料分注機構106が、試料ディスク101上に配置された試料容器103から試料を吸引し、反応容器105に吐出する。次に、試薬分注機構110が、緩衝液(第1試薬)を吸引し、反応容器105に吐出する。続いて、試薬分注機構110が、不溶性担体を含む試薬(第2試薬)を試薬容器109から吸引し、反応容器105に吐出する。反応容器105内の混合液は、撹拌機構112により撹拌され、反応容器105内で温められる。
【0036】
図5Aは、均一状態(不溶性担体が分散状態)の試薬を用いた場合における、測定開始5分後からの吸光度の変化を示すグラフである。反応容器105内の試料が精製水の場合、第2試薬に含まれる不溶性担体が特異的に認識するタンパク質が存在しないため、凝集反応が起こらず、
図5A中の符号401で示すように、吸光度は低い状態のまま変化しない。一方、反応容器105内の試料がキャリブレータの場合、第2試薬に含まれる不溶性担体が特異的に認識するタンパク質が存在するため、凝集反応が起こり、光源から照射された光が凝集体によって遮られることで、
図5A中の符号402で示すように、吸光度が徐々に増大して行く。
【0037】
図5Bは、不均一状態(不溶性担体が自己凝集状態)の試薬を用いた場合における、測定開始5分後からの吸光度の変化を示すグラフである。反応容器105内の試料が精製水の場合、第2試薬に含まれる不溶性担体が特異的に認識するタンパク質が存在しないため、凝集反応は起こらない。しかし、
図5Bでは、最初、不溶性担体が自己凝集していることに起因して吸光度が
図5Aと比べ高い状態にあり、その後、反応容器105内で温められることで、結合していた不溶性担体が一次粒子へ分散し、
図5Bの符号403で示すように、吸光度が徐々に低下して行く。一方、反応容器105内の試料がキャリブレータの場合、第2試薬に含まれる不溶性担体が特異的に認識するタンパク質が存在するため、凝集反応が起こり、光源から照射された光が凝集体によって遮られることで、
図5B中の符号404で示すように、吸光度が徐々に増大して行く。ただし、
図5B中の符号404では、予め自己凝集していた不溶性担体が、加温によって分散される影響で、最初に吸光度の一時的な低下が見られる点で、
図5A中の符号402の挙動と異なっている。
【0038】
<設定画面>
図6は、出力部120に表示される、均一性評価および試薬均一化に関する設定登録画面の一例を示す図である。
図6に示すように、設定登録画面601は、均一性評価の要否を選択するための要否情報領域602と、閾値設定の詳細を設定するための閾値情報領域603と、均一性評価の詳細を設定するための均一性評価情報領域604と、実行する均一化の詳細を設定するための均一化実行情報領域605と、これらの情報領域に表示されている内容で設定を登録または更新してメイン画面に戻るための登録/更新ボタン606と、表示されている内容を破棄してメイン画面に戻るためのキャンセルボタン607と、で構成されている。各情報領域への入力方法は、入力部119の入力手段(例えば、キーボード、ポインティングデバイス)による直接入力のほか、プルダウンによる選択による入力を含む。
【0039】
さらに、閾値情報領域603は、閾値取得方法設定欄608と、閾値取得対象設定欄609と、試料ポジション設定欄610と、取得区間設定欄611と、取得ポイント数設定欄612と、閾値係数設定欄613と、閾値設定欄614と、で構成される。
【0040】
閾値取得方法設定欄608では、閾値を自動で設定するかユーザが固定値を手動で設定するかが選択できるようになっている。閾値取得対象設定欄609では、閾値を取得する際に光学特性が検出される対象として、例えば、試薬のみ、精度管理測定時の試薬を含む混合液、キャリブレーション測定時の試薬を含む混合液、などからユーザが選択できるようになっている。試料ポジション設定欄610は、例えば、閾値取得対象として精度管理測定時に用いられる混合液が選択された場合、どのポジションにある試料を精度管理試料として反応容器105に分注するかを指定するものである。
図6では、閾値取得対象設定欄609で「試料のみ」が選択されているため、試料ポジション設定欄610には「なし」と表示されている。
【0041】
取得区間設定欄611は、検出器により得られた測光データのうち、光学特性の基準値として取り込むべきデータの区間を指定するものである。
図6では、取得区間として「16」のみが指定されているので、測光データのうち16番目のデータ(
図5A,
図5Bにおける反応時間5sでのデータに相当)のみが、閾値設定のために用いられる。なお、取得区間に2つの数字が入力されている場合には、その2つの数字に挟まれた区間に含まれるデータが、閾値設定のために用いられる。
【0042】
取得ポイント数設定欄612は、取得区間設定欄611で設定されたデータの区間のうち、いくつのポイントでデータを取得するかを指定するものである。
図6では、取得区間が「16」のみなので、取得ポイント数は必然的に「1ポイント」となる。なお、取得区間が一定の範囲で指定された場合には、複数のポイントが取得され、最小二乗法などを用いて閾値設定のための基準値を算出しても良い。
【0043】
閾値係数設定欄613は、取得した光学特性の基準値に対し、一定の許容幅を付加して閾値を算出するための係数を指定するものである。
図6では、閾値係数が「1.05」となっているため、指定された16番目のデータの光学特性が例えば吸光度0.800であった場合は、0.800に1.05を乗じた0.840が閾値として算出される。閾値設定欄614は、算出された閾値を表示するものである。
【0044】
次に、均一性評価情報領域604には、次の均一性評価をどのようなタイミングで行うかを選択するための評価タイミング設定欄615が含まれる。評価タイミング設定欄615でユーザが選択できるタイミングとしては、タイムアウト、精度管理測定時、キャリブレーション測定時、などがある。
図6では、評価タイミング設定欄615で「タイムアウト」が選択されているため、タイムアウト時間設定欄616に、具体的な時間が入力できるようになっている。なお、基準値設定後まだ均一性評価が行われていない場合、タイムアウト時間が経過するまでは、基準値設定時の分散状態が維持されていると見做され、既に均一性評価済みの場合、タイムアウト時間が経過するまでは、直近の均一性ありの評価結果が保証できる有効期限と見做される。
【0045】
次に、均一化実行情報領域605は、超音波強度設定欄617と、処理時間設定欄618と、実行タイミング設定欄619と、で構成される。超音波強度設定欄617では、超音波の照射強度をユーザが選択でき、処理時間設定欄618では処理時間をユーザが入力できるようになっている。例えば、自動分析装置100の稼働中に、凝集体を短時間で分散化することを目的とする場合、超音波強度を「強」に設定しつつ処理時間を短く設定する。一方、自動分析装置100が不稼働中に、不溶性担体の凝集を予防したり、試薬の昇温による試薬の劣化を防止したりすることを目的とする場合、超音波強度を「弱」に設定しつつ処理時間を長く設定しても良い。
【0046】
実行タイミング設定欄619では、試薬均一化のタイミングをユーザが選択できるようになっている。
図6では、実行タイミング設定欄619で「スタンバイ」が選択されているが、スリープ状態など、自動分析装置100が測定状態でない他のタイミングも、選択が可能である。
【符号の説明】
【0047】
100…自動分析装置、101…試料ディスク、102…試料、103…試料容器、104…反応ディスク、105…反応容器、106…試料分注機構、107…試薬ディスク、108…試薬、109…試薬容器、110…試薬分注機構、111…振動機構、112…撹拌機構、113…恒温槽循環液体、114…測光機構、115…反応容器洗浄機構、116…制御回路、117…測光回路、118…コンピュータ、119…入力部、120…出力部、121…制御部、122…反応液、123…演算部、124…記憶部、501…圧電素子駆動回路、502…圧電素子、503…超音波、504…凝集体、505…試薬ノズル、506…一次粒子、401…精製水+均一試薬、402…キャリブレータ+均一試薬、403…精製水+不均一試薬、404…キャリブレータ+不均一試薬、601…設定登録画面、602…要否情報領域、603…閾値情報領域、604…均一性評価情報領域、605…均一化実行情報領域、606…登録/更新ボタン、607…キャンセルボタン、608…閾値取得方法設定欄、609…閾値取得対象設定欄、610…試料ポジション設定欄、611…取得区間設定欄、612…取得ポイント数設定欄、613…閾値係数設定欄、614…閾値設定欄、615…評価タイミング設定欄、616…タイムアウト時間設定欄、617…超音波強度設定欄、618…処理時間設定欄、619…実行タイミング設定欄