(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-14
(45)【発行日】2024-11-22
(54)【発明の名称】冷凍ひき肉ソース
(51)【国際特許分類】
A23L 23/00 20160101AFI20241115BHJP
A23L 27/10 20160101ALI20241115BHJP
A23L 13/60 20160101ALI20241115BHJP
A23L 3/36 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
A23L23/00
A23L27/10 C
A23L13/60 Z
A23L3/36 A
(21)【出願番号】P 2021574145
(86)(22)【出願日】2021-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2021003217
(87)【国際公開番号】W WO2021153725
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2020012786
(32)【優先日】2020-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】駒林 玄軌
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 武紀
(72)【発明者】
【氏名】久代 可南子
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】2.5kgトマト缶消費「ミートソース篇」,2019年,pp.1-4,[retrieved on 2021.03.19], retrieved from the internet <https://cookpad.com/recipe/5405963>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 23/00-23/10
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セロリシード粉末を含有する冷凍ひき肉ソース。
【請求項2】
セロリシード粉末を、ソースの全質量に対し0.0001~0.1質量%含有する請求項1に記載の冷凍ひき肉ソース。
【請求項3】
さらに粉末醤油を、ソースの全質量に対し0.0001~0.1質量%含有する請求項1又は2に記載の冷凍ひき肉ソース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍状態とされ、長期保存が可能な冷凍ひき肉ソースに関する。
【背景技術】
【0002】
ひき肉ソースは、具材としてひき肉を含むソースであり、その代表例としては、ミートソース、ボロネーゼソース等がある。ひき肉ソースは通常、ひき肉と刻んだ香味野菜とを炒め、ブイヨンやトマトペースト等を加えて煮込むことで製造され、肉の濃厚な旨味とソースの風味とが合わさり、スパゲティのソースにしたり、ご飯のあんかけにしたり、野菜料理や肉料理のソース等として人気がある。
【0003】
ひき肉ソースの改良技術に関し、例えば特許文献1には、ひき肉ソースにだし入り醤油を加えた和風ひき肉ソースが記載されている。
特許文献2には、(A)ピロール類、(B)ピリジン類、(C)ピラジン類、(D)オキサゾール類、(E)オキサゾリン類、(F)アミン類、(G)チアゾール類、(H)チアゾリン類、(I)チアゾリジン類、(J)チオール類、(K)スルフィド類、(L)チオエーテル類、(M)含硫カルボン酸類、(N)キノキサリン類、及び(O)フラノン類からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の香料を含有するミート系フレーバー組成物が記載されており、さらに、このミート系フレーバー組成物に、香気・香味付与、増強乃至改良剤として、レモン、オレンジ、ライム、バニラ、クローブ、スペアミント、ペパーミント、サフラン、タイム、ベイ、セロリ、エストラゴン、マジョラム、ピメンタ、セイボリー、ターメリック、カルミン、キュベブ、フェンネル、マスタード、スターアニス、カッシュ、クミン、フェネグリーク、オリガナム、ローレル、カルダモン、タラゴン、アサフェチダ、シダーウッド、シダーリーフ、デイル、ジュニパー、パプリカ、バジル、オレガノ、プチグレイン、メース、オールスパイス、シンナモン、ジンジャー、ローズマリー、ナッツメグ、アニス、ホップ、セージ、セージスパニッシュ、キャラウエイ、コリアンダー、ペパー等の天然香料・香辛料を配合してもよいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭63-313569号公報
【文献】特開2005-15683号公報
【発明の概要】
【0005】
ひき肉ソースは、ひき肉に由来する肉の濃厚な旨味が味の決め手の1つとなる一方で、ひき肉の臭みが原因で敬遠されることがある。特に冷凍ひき肉ソースは、これを再加熱して喫食可能な状態にすると、臭みが一層増す傾向がある。この問題を解決する手法として、ひき肉ソースに入れるひき肉の種類を、牛肉から豚肉、さらに鶏肉へと、臭みのより少ない肉に変更する方法が考えられるが、この方法では、ひき肉ソースに本来求められる肉の濃厚な旨味も低減し、物足りない風味となってしまう。
【0006】
本発明の課題は、冷凍保存後に再加熱して喫食しても臭みが無く、且つ肉の旨味が濃厚でコクが十分にある冷凍ひき肉ソースを提供することにある。
【0007】
本発明は、セロリシード粉末を含有する冷凍ひき肉ソースを提供することにより、上記課題を解決したものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において、ひき肉ソースは、原料としてひき肉を用いるソース全般を指し、ひき肉の種類には特に限定されない。本発明の冷凍ひき肉ソースには、例えば、牛、豚、羊、猪、鶏、鴨等を原料肉としたひき肉を使用することができ、1種類の原料肉のひき肉を単独で使用してもよく、合いびき肉のように2種類以上の原料肉を組み合わせたひき肉を使用してもよい。本発明においては、ひき肉ソースに肉の濃厚な旨味を付与する観点から、牛肉のひき肉がひき肉ソース中に含まれることが好ましく、ひき肉ソース中に含まれるひき肉の30~100質量%が牛肉のひき肉であることがさらに好ましい。
【0009】
本発明において、ひき肉ソースに含まれるひき肉の含有量は、ソースの種類や嗜好性によっても変更しうるが、ソースの全質量に対し(即ち、ひき肉ソースの湿重量100質量%中;以下同じ)、好ましくは2~60質量%、さらに好ましくは5~50質量%である。尚、本発明でいう「ソースの全質量」とは、冷凍する前のひき肉ソースの質量をいう。
【0010】
本発明においては、ソースの種類も特に制限はなく、トマト系ソース、ホワイト系ソース、ブラウン系ソース、そぼろ入りあん等、いずれのソースにも適用できる。トマト系ソースは肉の臭みによる影響が大きいところ、本発明をトマト系ソースに適用すると、トマトの爽やかな風味と肉の旨味とがより引き立つため、好ましい。
【0011】
本発明でいうトマト系ソースは、その原料にトマトを含むソースであり、具体例としては、ミートソース、ボロネーゼソース等が挙げられる。トマト系ソースの製造の際、トマトはトマト加工品又は生のトマトのいずれの形態で用いてもよく、トマト加工品としては、トマトペースト、トマトピューレ、トマトケチャップ等のいわゆる濃縮トマト、缶詰のホールトマトやカットトマトのようないわゆる固形トマト、トマトジュース等が挙げられる。本発明においては、トマト系ソースの種類や用いるトマトの形態等にもよるが、トマト系ソースの全ての原料(水等の液体を含む)の合計量100質量%中、トマト(トマト加工品又は生のトマト)を5質量%以上用いたトマト系ソースが好ましい。
【0012】
本発明の冷凍ひき肉ソースは、セロリシード粉末を含有することに特徴がある。セロリシード粉末は、セロリの種子をそのまま用いるのではなく、粉砕等により分割して粉末状にしたものであり、食品分野において野菜料理やカレーのスパイスとして一般に利用されているものを使用することができる。セロリシード粉末の粒径は、分割前のセロリ種子に比べて小径になっていればよく、特に制限はない。セロリシード粉末は、野菜として食されるセロリと同様の青臭さと苦みがあるが、セロリほど強くなく、またわずかに甘味が感じられる。このセロリシード粉末をひき肉ソースに用いることで、ひき肉の臭みを抑制し、肉の旨味、コクを十分に引き出すことができる。尚、分割していないセロリ種子そのものを用いると、効果が得られにくいため大量に含有させる必要が生じるうえ、セロリ種子の濃度ムラが起こって喫食の際に違和感を感じる場合があり、また、ソースにセロリ種子のザラザラした食感が加わるため好ましくない。
【0013】
本発明の冷凍ひき肉ソースに含まれるセロリシード粉末の含有量は、ソースの全質量に対し、好ましくは0.0001~0.1質量%、さらに好ましくは0.0005~0.01質量%、より好ましくは0.001~0.005質量%である。含有量が少なすぎると、ひき肉の臭みが感じられる場合があり、逆に多すぎると、セロリシードの風味が強くなってしまい、ひき肉の旨味やコクが感じられにくくなる。セロリシード粉末の含有量は、セロリの特徴的な芳香成分である、セダノライドをガスクロマトグラフィー法等の公知の分析方法で定量分析することで、測定することができる。
【0014】
本発明の冷凍ひき肉ソースは、セロリシード粉末に加え、粉末醤油を含有すると、さらにひき肉の旨味、コクが増すため好ましい。粉末醤油は醤油を乾燥して粉末にしたものであり、食品分野において一般に利用されているものを使用することができる。粉末醤油としては、醤油以外の成分、例えば香料、香辛料、出汁等を含むものでもよいが、醤油以外の成分が含まれていない粉末醤油が、ひき肉の旨味、コクをより一層引き出すことができるため好ましい。粉末醤油の含有量は、ソースの全質量に対し、好ましくは0.0001~0.1質量%、さらに好ましくは0.0005~0.01質量%、より好ましくは0.001~0.005質量%である。含有量が少なすぎると、ひき肉の旨味、コクの増強効果に乏しく、逆に多すぎると、醤油味が強くなってしまい、ひき肉の旨味やコクが感じられにくくなる。
【0015】
前記セロリシード粉末及び粉末醤油を併用する場合の含有量の比(質量比)は特に限定されるものではないが、それぞれの風味のバランス感を考慮すると、セロリシード粉末:粉末醤油として、好ましくは5:1~1:15、さらに好ましくは3:1~1:10である。
【0016】
本発明の冷凍ひき肉ソースは、常法に従ってひき肉ソースを製造する際に、その原料としてセロリシード粉末及び必要に応じて粉末醤油を用いて、他の原料と共に炒めたり煮込んだりしてもよく、ベースとなるひき肉ソースを常法に従って予め製造し、そこにセロリシード粉末及び必要に応じて粉末醤油を添加してもよい。そのようにして製造したひき肉ソースを冷凍することで、本発明の冷凍ひき肉ソースを製造することができる。ひき肉ソースを冷凍する際は常法に従えばよく、冷凍の方法及び条件等は特に制限されない。
【0017】
本発明の冷凍ひき肉ソースは、例えばトマト系ソースの1種であるボロネーゼソースである場合、以下の手順で製造することができる。まず、ひき肉を炒め、これとは別に、タマネギ等の香味野菜をみじん切りしたものを炒めた後、炒めたひき肉と炒めた香味野菜とを合わせる。次に、そこへワイン、水、ブイヨン等の液体を加えて煮立てる。さらにトマト(例えば、トマトペースト、缶詰のホールトマト等)を加え、必要に応じてトマトを潰しながらかき混ぜ、沸騰しないように火加減を調節しながらさらに2~30分加熱した後、必要に応じて塩等の調味料で味を調えて、ベースとなるひき肉ソースであるボロネーゼソースを得る。次に、このボロネーゼソースに、セロリシード粉末及び必要に応じて粉末醤油を加えて1分~1時間ほどアクを取りながら弱火で加熱する。加熱終了後、20℃程度になるまで強制的に又は自然に冷却し、容器又は袋等に封入して冷凍する。こうして、本発明の冷凍ひき肉ソースである、冷凍ボロネーゼソースが得られる。
【0018】
また、本発明の冷凍ひき肉ソースは、市販のひき肉ソースを使用して製造することもできる。具体的には、市販のひき肉ソース、例えばボロネーゼソース又はミートソース等を鍋に入れ、さらにセロリシード粉末及び必要に応じて粉末醤油を入れて加熱し、加熱により蒸発する分の水を必要に応じて適宜補充しつつ、2~30分ほど弱火で加熱する。後は前記と同様に冷凍することで、本発明の冷凍ひき肉ソースが得られる。
【0019】
本発明の冷凍ひき肉ソースは、長期間にわたって冷凍保存が可能である。本発明の冷凍ひき肉ソースを喫食するには、鍋や電子レンジ等の加熱調理器具を用いて常法に従って解凍すればよい。解凍して得られたひき肉ソースは、それ単独で喫食してもよく、あるいは他の食材にかける等して喫食してもよい。他の食材としては、例えば、スパゲティ、ラザニア、グラタン、ハンバーグ等が挙げられる。
【0020】
本発明の冷凍ひき肉ソースは、前記の他の食材にかける等して、他の食材と共に冷凍保存することも可能である。本発明の冷凍ひき肉ソースと他の食材を一体にして冷凍保存することで、これを解凍するだけで、適量、例えば1食分の食材をまとめて喫食可能な状態に用意することができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0022】
以下の実施例において用いる原料として、以下のものを使用した。
・乾燥セロリ種子:市販の乾燥セロリ種子(ギャバン製;種子そのもの)をそのまま用いた。
・セロリシード粉末:上記の市販の乾燥セロリ種子を卓上ミキサーで粉砕してセロリシード粉末とした。
・セロリ葉粉末:市販のセロリ葉を乾燥後、卓上ミキサーで粉砕してセロリ葉粉末とした。
・ガーリック粉末:市販のガーリックフレーク(ギャバン製)を卓上ミキサーで粉砕してガーリック粉末とした。
・ジンジャー粉末:市販のジンジャーパウダー(ギャバン製)をそのまま用いた。
・粉末醤油:醤油以外の成分を含まない市販の粉末醤油(正田醤油製)をそのまま用いた。
・粉末だし醤油:市販のあご入り旨味だし(博多ふくいち製)をそのまま用いた。
【0023】
〔実施例1~18及び比較例1~4〕ボロネーゼソース
みじん切りにしたタマネギ50gとニンジン50gを炒めてソフリットを製造した。別に、塩と胡椒で味付けした牛ひき肉300gを、まず塊状のまま炒め、表面が焼けてきたらほぐすようにしてさらに炒めた。ここに先のソフリットを加え、ワイン200mLを加えて煮立つまで加熱した。煮立ったらトマトペースト50mLを加えて全体に均一に混合し、沸騰しないように火加減を調節し、20分間加熱してベースのボロネーゼソースを製造した。このボロネーゼソースに表1~3の量のセロリシード粉末、粉末醤油等を加え、弱火で2分間かき混ぜながら加熱混合し、ボロネーゼソースであるひき肉ソースを製造した。製造したひき肉ソースを冷却した後100gずつポリエチレン製袋に入れて平板状にして冷凍し、冷凍ひき肉ソースを製造した。
【0024】
〔試験例〕
各実施例及び比較例の冷凍ひき肉ソースを、ポリエチレン製袋から取り出して皿に移し、電子レンジにより出力500Wで品温が85℃になるまで加熱して解凍した。解凍されたひき肉ソースを10名の専門パネラー(ひき肉ソースの風味を評価する業務に5年以上従事している者)が食し、その風味を下記評価基準に従って評価した。その評価結果を、10名のパネラーの平均点として下記表1~3に示す。尚、表1には参考例として、セロリシード粉末、粉末醤油等を加えないベースのボロネーゼソースを同様に評価した結果を示す。
【0025】
<ソース風味の評価基準>
5点:ひき肉の濃厚な旨味とコクが十分にあり、非常に良好。
4点:ひき肉の濃厚な旨味とコクがあり、良好。
3点:ひき肉の濃厚な旨味とコクが感じられるが、やや牛肉の臭みがある。
2点:旨味とコクがやや物足りず、牛肉の臭みが感じられ不良。
1点:旨味とコクがあまり感じられず、牛肉の臭みが強く非常に不良。
【0026】
【0027】
【0028】
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の冷凍ひき肉ソースは、冷凍保存後に再加熱して喫食しても臭みが無く、且つ肉の旨味が濃厚でコクが十分にある。また、本発明の冷凍ひき肉ソースは、比較的簡便に製造することができ、且つ長期保存が可能である。