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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】細胞親和性粒子
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/02 20060101AFI20241118BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20241118BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20241118BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241118BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241118BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241118BHJP
   A61K 31/337 20060101ALN20241118BHJP
   A61K 31/573 20060101ALN20241118BHJP
   A61K 31/425 20060101ALN20241118BHJP
   A61K 31/536 20060101ALN20241118BHJP
   A61K 31/015 20060101ALN20241118BHJP
【FI】
A61K47/02
A61K9/14
A61K47/34
A61K45/00
A61P35/00
A61P29/00
A61K31/337
A61K31/573
A61K31/425
A61K31/536
A61K31/015
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020196283
(22)【出願日】2020-11-26
(65)【公開番号】P2021091669
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2019220038
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「レイヤード結晶シェルによる”単一結晶面粒子”の創製とその超精密機能化」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】永田 夫久江
(72)【発明者】
【氏名】李 誠鎬
(72)【発明者】
【氏名】宮島 達也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 且也
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/035750(WO,A1)
【文献】特開2012-193144(JP,A)
【文献】特開2008-143957(JP,A)
【文献】特開2008-156213(JP,A)
【文献】国際公開第2012/137967(WO,A1)
【文献】Advanced Powder Technology,2016年,Vol.27,pp.903-907
【文献】Colloids and Surfaces B: Biointerfaces,2012年,Vol.91,pp.144-153
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00
A61K 9/00
A61K 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物または動物の細胞内に取り込まれるための細胞親和性粒子であって、
難水溶性化合物と疎水性高分子とを含有するコアと、
前記コアと接する部分で前記疎水性高分子と化学結合しており、前記コアの外側に設けられた水酸アパタイトを含有するシェルとを有し、
前記水酸アパタイトの外表面に結晶c面が現れている細胞親和性粒子
【請求項2】
植物または動物の細胞表面に付着するための細胞親和性粒子であって、
難水溶性化合物と疎水性高分子とを含有するコアと、
前記コアと接する部分で前記疎水性高分子と化学結合しており、前記コアの外側に設けられた水酸アパタイトを含有するシェルとを有し、
前記水酸アパタイトの外表面に結晶c面が現れている細胞親和性粒子
【請求項3】
請求項1または2において、
平均粒子径が50nm以上である細胞親和性粒子。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかにおいて、
前記難水溶性化合物が難水溶性の蛍光化合物である細胞親和性粒子。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかにおいて、
前記難水溶性化合物が難水溶性の医薬化合物である細胞親和性粒子。
【請求項6】
請求項1から3のいずれかにおいて、
前記難水溶性化合物が難水溶性の機能性化合物である細胞親和性粒子。
【請求項7】
請求項1からのいずれかにおいて、
前記疎水性高分子がポリ乳酸である細胞親和性粒子。
【請求項8】
請求項1からのいずれかにおいて、
前記水酸アパタイトの外表面に付着した親水性化合物をさらに有する細胞親和性粒子。
【請求項9】
動物の細胞内に取り込まれて、前記動物内のがん細胞の周辺で抗がん化合物を放出するための細胞親和性粒子を含む抗がん剤であって、
前記細胞親和性粒子が、抗がん化合物とポリ乳酸とを含有するコアと、前記コアと接する部分で前記ポリ乳酸と化学結合しており、前記コアの外側に設けられた水酸アパタイトを含有するシェルとを有し、
前記水酸アパタイトの外表面に結晶c面が現れている抗がん剤
【請求項10】
動物の細胞内に取り込まれて、前記動物内の炎症細胞の周辺で抗炎症化合物を放出するための細胞親和性粒子を含む抗炎症剤であって、
前記細胞親和性粒子が、抗炎症化合物とポリ乳酸とを含有するコアと、前記コアと接する部分で前記ポリ乳酸と化学結合しており、前記コアの外側に設けられた水酸アパタイトを含有するシェルとを有し、
前記水酸アパタイトの外表面に結晶c面が現れている抗炎症剤。
【請求項11】
請求項9の抗がん剤または請求項10の抗炎症剤において、
前記細胞親和性粒子の平均粒子径が50nm以上である抗がん剤または抗炎症剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、機能性化合物を内包し、植物もしくは動物の細胞内または細胞表面に導入できる細胞親和性粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物または動物の細胞内に機能性化合物を導入する技術は、高効率な細胞の機能化のために重要である。特に医薬品の分野では、薬効成分を有する機能性化合物を細胞に到達させることが強く求められている。機能性化合物は、単独で細胞内に到達することが難しいため、細胞に到達する担体とともに細胞内に導入する必要がある。細胞に導入する担体として、ポリエチレンイミンのようなカチオン性ポリマーが多く用いられるが(非特許文献1)、その細胞毒性が問題となっている。
【0003】
また、薬効成分を有する機能性化合物は、難水溶性であることが多い。近年開発されている新薬の約40%が難水溶性化合物であると言われている。これらの難水溶性化合物を動物に投与する場合、従来は難水溶性化合物をエタノールに溶解させて投与していた。アルコールの影響を考慮すると、アルコールフリーで動物に投与できる製剤が求められている。さらに、植物または動物の細胞内に導入した粒子の位置を知るために、細胞内に到達する蛍光性粒子が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Colloids and Surfaces B: Biointerfaces 122 (2014) 520-528
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願の課題は、植物もしくは動物の細胞内または細胞表面に難水溶性の機能性化合物を到達させるのに適した粒子を提供することである。また、本願の他の課題は、植物もしくは動物の細胞内または細胞表面に到達でき、蛍光発光する粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の細胞親和性粒子は、難水溶性化合物と疎水性高分子とを含有するコアと、コアと接する部分で疎水性高分子と化学結合しており、コアの外側に設けられた水酸アパタイトを含有するシェルとを有し、植物もしくは動物の細胞内に取り込まれる、または植物もしくは動物の細胞表面に付着する。
【発明の効果】
【0007】
本願の細胞親和性粒子は、シェルを構成する水酸アパタイトが、コアと接する部分で疎水性高分子と化学結合している。このため、本願の細胞親和性粒子は、コアに含まれる難水溶性化合物を安定して保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例2のポトスの茎断面の蛍光顕微鏡像。
図2】実施例3の人参の葉表面の蛍光顕微鏡像。
図3】実施例4のポトスの根表面の蛍光顕微鏡像。
図4】実施例4のポトスの毛根の先端表面の蛍光顕微鏡像。
図5】実施例4のポトスの根断面の蛍光顕微鏡像。
図6】実施例4のポトスの根断面の道管部の蛍光顕微鏡像。
図7】実施例6の動物細胞の蛍光顕微鏡像。
図8】蛍光化合物入り粒子を観察した実施例6の動物細胞の蛍光顕微鏡像。
図9】比較例1の動物細胞の蛍光顕微鏡像。
図10】実施例7の動物細胞の蛍光顕微鏡像。
図11】実施例8の動物細胞の蛍光顕微鏡像。
図12】(a)実施例15のHeLa細胞の核の蛍光顕微鏡像、(b)実施例15のHeLa細胞中の蛍光化合物入り粒子の蛍光顕微鏡像((a)と同じ視野)。
図13】実施例16の動物細胞の蛍光顕微鏡像。
図14】実施例17の動物細胞の蛍光顕微鏡像。
図15】実施例18の動物細胞の蛍光顕微鏡像。
図16】実施例19の動物細胞の蛍光顕微鏡像。
図17】実施例20の動物細胞の蛍光顕微鏡像。
図18】実施例21の動物細胞の蛍光顕微鏡像。
図19】比較例5の動物細胞の蛍光顕微鏡像。
図20】比較例6の動物細胞の蛍光顕微鏡像。
図21】比較例7の動物細胞の蛍光顕微鏡像。
図22】実施例22の細胞傷害性評価のグラフ。
図23】実施例23の細胞生存率のグラフ。
図24】実施例25の動物細胞の蛍光顕微鏡像。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本願の実施形態の細胞親和性粒子は、植物もしくは動物の細胞内に取り込まれる、または植物もしくは動物の細胞表面に付着する。植物または動物の細胞内に取り込まれるとは、水または培地などの媒体を介して、生きている動植物の細胞と接触させると、細胞内に入ることをいう。植物または動物の細胞表面に付着するとは、水または培地などの媒体を介して、生きている動植物の細胞と接触させると、細胞表面に着くことをいう。
【0010】
また、本実施形態の細胞親和性粒子は、植物もしくは動物の細胞内に取り込まれたとき、または植物もしくは動物の細胞表面に付着したときに、細胞に対して毒性を示さない。従来の細胞導入に多く用いられるカチオン性ポリマーなどの試薬は、細胞の生存率を低下させる細胞毒性が問題となっている。これに対して、本願の細胞親和性粒子を用いれば、何も添加しない場合の細胞の生存率と同等の細胞生存率を保つことができる。このため、本願の細胞親和性粒子は、安全に細胞に導入することができる。
【0011】
本実施形態の細胞親和性粒子はコアとシェルを備えている。コアは、機能性化合物である難水溶性化合物と、この難水溶性化合物とは別の疎水性高分子を含有する。シェルは、コアの外側に設けられた水酸アパタイトを含有する。水酸アパタイトは、化学式(Ca10(PO(OH))で表わされ、結晶系が六方晶に属する。水酸アパタイトは、コアと接する部分で疎水性高分子と化学結合している。水酸アパタイトと疎水性高分子が化学結合しているため、本実施形態の細胞親和性粒子は壊れにくく、内部に含有する難水溶性化合物を安定して保持することができる。また、水酸アパタイトを含有するシェルの外表面に、機能性化合物である親水性化合物を付着(担持)することができる。
【0012】
本実施形態の細胞親和性粒子は、水酸アパタイトの外表面に結晶c面が現れている。つまり、水酸アパタイトの外表面の結晶面が主にc面である。このため、本実施形態の細胞親和性粒子は、動植物の細胞に高い親和性で接着できる。細胞環境下に存在する親水性化合物である生体高分子が水酸アパタイトの結晶c面に特異的に結合し、生体高分子を介して細胞と接着するためだと考えられる。生体高分子としては、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、ニドジェン、テネイシン、トロンボスポンジン、フィブリノーゲン、コラーゲン、インテグリン、ペクチン、プロテオグリカン、ペルオキシダーゼ、キチナーゼ、デンプン、および各種ペプチドなどが挙げられる。
【0013】
本実施形態の細胞親和性粒子は、難水溶性化合物を包含した状態で水中に分散することができる。このため、エタノールを使用しなくても難水溶性化合物を体内に導入することができる。難水溶性化合物は、20℃の水への溶解度が100mg未満の化合物である。疎水性高分子は、20℃の水への溶解度が0.1mg未満の高分子化合物である。動植物の細胞に本実施形態の細胞親和性粒子を取り込んだ後、難水溶性化合物を放出させるためには、疎水性高分子が生分解性高分子であることが好ましい。生分解性高分子としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびこれらの共重合体などが挙げられる。
【0014】
難水溶性化合物としては、難水溶性の蛍光化合物、医薬化合物、および機能性化合物が挙げられる。蛍光化合物は、電磁波を照射すると光を発する化合物である。蛍光化合物を含む本実施形態の細胞親和性粒子は、動植物の細胞内に取り込まれたときに、蛍光顕微鏡によって、細胞内での存在位置がわかる。医薬化合物は、病気の治療に用いる化合物である。機能性化合物は、例えばビタミンまたはポリフェノールなどの細胞の生理活性に影響を及ぼす化合物である。
【0015】
医薬化合物を含む本実施形態の細胞親和性粒子は、動植物の細胞内に取り込まれたときに、医薬化合物を放出できる。なお、本実施形態の細胞親和性粒子に含まれる医薬化合物は、薬効機能を有する複数の化合物の混合体であってもよいし、薬効機能を有する一以上の化合物と薬効機能がない一以上の化合物の混合体であってもよいし、複数の化合物の混合体であって、どの化合物に薬効機能があるか必ずしもわかっていないが、混合体として薬効機能があるものであってもよい。
【0016】
医薬化合物としては、抗がん化合物および抗炎症化合物が挙げられる。本実施形態の細胞親和性粒子は、酸性環境下で、シェルを構成する水酸アパタイトが溶解しやすい。このため、本実施形態の細胞親和性粒子は、酸性環境下で抗がん化合物および抗炎症化合物を放出しやすい。一方、がん細胞および炎症細胞の周囲は、酸性環境下であることが知られている。このため、本実施形態の細胞親和性粒子を用いれば、がん細胞または炎症細胞などの周辺で、特異的に抗がん化合物または抗炎症化合物を放出できる。
【0017】
すなわち、本願の実施形態の抗がん剤は、抗がん化合物とポリ乳酸とを含有するコアと、コアと接する部分でポリ乳酸と化学結合しており、コアの外側に設けられた水酸アパタイトを含有するシェルとを有する細胞親和性粒子を含む。また、本願の実施形態の抗炎症剤は、抗炎症化合物とポリ乳酸とを含有するコアと、コアと接する部分でポリ乳酸と化学結合しており、コアの外側に設けられた水酸アパタイトを含有するシェルとを有する細胞親和性粒子を含む。
【実施例
【0018】
実施例1
特許第6284209号公報に記載された手法と同様に、粒子表面に水酸アパタイトの結晶c面が現れる手法で、蛍光化合物を含有するコアシェル型粒子を合成した。重量平均分子量20000のポリ乳酸20mgおよび蛍光化合物である3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン(Aldrich、442631)1mgをアセトン5mLに溶解した。この溶液を蒸留水160mL中に加え、マグネティックスターラーを用いて300rpmで5分間撹拌した。0.020mol/Lの酢酸カルシウム水溶液20mLをこの分散液に加え、マグネティックスターラーを用いて300rpmで5分間撹拌した。0.012mol/Lのリン酸水素二アンモニウム水溶液20mLをさらに滴下して撹拌した。
【0019】
その後、マグネティックスターラーを用いて300rpmで72時間撹拌し、蛍光化合物を含むポリ乳酸の表面に水酸アパタイト結晶が形成されたコアシェル型粒子の水分散液を得た。この水分散液を濾過して水を除去した後、固形物を凍結乾燥させて、粒径が10~100nmのコアシェル型粒子を得た。このコアシェル型粒子は黄色の粉体であり、光学顕微鏡観察では黄色の粒子として観察された。蛍光顕微鏡観察では、このコアシェル型粒子は緑色発光が観察された。
【0020】
実施例2
実施例1の蛍光化合物入り粒子1mgを1mLの水中に分散した。この粒子分散液に、植物(ポトス)の茎切断面を1時間浸した。粒子分散液に浸っていない部分の茎をナイフで切断して切片を作製した。この切片の茎断面部を蛍光顕微鏡で観察した。茎断面が緑色蛍光を発し、蛍光化合物入り粒子が植物内に導入されていることがわかった(図1)。なお、図1から図6では、白みがかって現れている部分が蛍光部である。
【0021】
実施例3
実施例1の蛍光化合物入り粒子1mgを1mLの水中に分散した。この粒子分散液に、植物(人参)の茎切断面を1時間浸した。粒子分散液に浸っていない部分の人参の葉を外側から蛍光顕微鏡で観察した。葉全体が緑色蛍光を発し蛍光化合物入り粒子が植物内に導入されていることがわかった(図2)。粒子分散液に浸していない別の人参の葉を蛍光顕微鏡で同じ条件で観察しても、緑色の発光は観察されなかった。このため、人参の葉の緑色蛍光発光は自家蛍光ではない。
【0022】
実施例4
実施例1の蛍光化合物入り粒子1mgを1mLの水中に分散した。この粒子分散液に、植物(ポトス)の根を1時間浸した。根の表面を蛍光顕微鏡で観察したところ、根の表面全体から緑色発光が観察された(図3)。さらに、数μmの幅の毛根の先端まで緑色発光が観察された(図4)。これらの結果から、実施例1の蛍光化合物入り粒子は、植物全体に親和性高く存在できることがわかった。さらに、根の断面の切片を作製し蛍光顕微鏡で観察したところ、根の内部からも緑色発光が確認された(図5)。緑色発光は道管部分で強く確認され(図6)、実施例1の蛍光化合物入り粒子が、根の外側から植物内に導入されていることがわかった。
【0023】
実施例5
実施例1の蛍光化合物入り粒子1mgを1mLの水中に分散した。この粒子分散液に、植物(ブロッコリースプラウト)の根を1時間浸した。粒子分散液に浸っていないブロッコリースプラウトの茎部分をスライドガラス状でカバーガラスにはさんでつぶし、外側から蛍光顕微鏡で観察した。茎全体が緑色蛍光を発し、実施例1の蛍光化合物入り粒子が植物内に導入されていることがわかった。
【0024】
実施例6
実施例1の蛍光化合物入り粒子の0.1mg/mL水分散液を、ヒト子宮頸癌由来細胞株(HeLa)に0.1mL添加し、24時間培養した。その後、培養液を除去し、リン酸緩衝液で3回洗浄した。青色蛍光を発するDAPI(富士フイルム和光純薬株式会社、049-18801)で細胞の核を、赤色蛍光を発するファロイジン(Invitrogen、A12381)で細胞骨格のアクチンをそれぞれ染色し、蛍光顕微鏡で観察した。蛍光顕微鏡観察では、核の青色とアクチンの赤色以外に、蛍光化合物入り粒子の存在を示す緑色蛍光を観察した(図7および図8)。
【0025】
図7に示すように、大きな粒状体の中心部に薄い色の核が、核より濃い色のアクチンが核を包むように観察されるとともに、白みがかった小さな点で現れている蛍光化合物入り粒子も観察された。図8は、核とアクチンを染色せずに、蛍光化合物入り粒子のみを添加したときの動物細胞の像である。図8では、蛍光化合物入り粒子が、白みがかった小さな点で現れている。このように、洗浄後の細胞であっても蛍光化合物入り粒子が存在していることがわかり、実施例1の蛍光化合物入り粒子と動物細胞の親和性の高さが示された。
【0026】
比較例1
比較のため、表面が水酸アパタイトではない蛍光化合物入り粒子を合成した。ポリ乳酸20mgおよび蛍光化合物である3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン1mgをアセトン5mLに溶解した。ポリビニルアルコール(PVA)1mgを含む蒸留水160mL中にこの溶液を加え、マグネティックスターラーを用いて300rpmで72時間撹拌し、蛍光化合物を含むポリ乳酸粒子の水分散液を得た。
【0027】
この水分散液を濾過して水を除去した後、固形物を凍結乾燥させて、粒径が50~100nmで、コアが蛍光化合物を含むポリ乳酸で、シェルがPVAのコアシェル型粒子を得た。実施例6と同様にして、得られた蛍光化合物を含む粒子について、ヒト子宮頸癌由来細胞株(HeLa)への親和性評価を行った。蛍光顕微鏡観察の結果、白みがかった小さな点で現れる緑色蛍光が観察されず(図9)、表面に水酸アパタイトが存在しない粒子は、細胞との親和性が低いことがわかった。
【0028】
実施例7
実施例1の蛍光化合物入り粒子の0.1mg/mL水分散液を、骨芽細胞用細胞株(MC3 T3-E1)に0.1mL添加し、72時間培養した。その後、培養液を除去し、リン酸緩衝液で3回洗浄した。実施例6と同様の方法で染色し、蛍光顕微鏡観察を行ったところ、核の青色とアクチンの赤色以外に、蛍光化合物入り粒子の存在を示す緑色蛍光が観察された(図10)。図10では、薄い色の円状の核と、核より濃い色のアクチンが核を包むように観察されるとともに、白みがかった小さな点で現れている蛍光化合物入り粒子も核の周りなどで観察された。このように、洗浄後の細胞であっても蛍光化合物入り粒子が存在していることがわかり、実施例1の蛍光化合物入り粒子と動物細胞の親和性の高さが示された。
【0029】
実施例8
試料の特定の高さのみを観察する蛍光顕微鏡を用いて、実施例7で得られた蛍光化合物入り粒子が存在する細胞を観察した。粒子が発する緑色の蛍光は、核が発する青色の蛍光と同じ高さで観察された(図11)。図11では、円状の2つの核と、核の周りで白みがかった小さな点として現れている蛍光化合物入り粒子が観察された。なお、核の中の薄い色の複数の点は、核の青色蛍光が強い部分である。図11は、同じ細胞内の核と蛍光化合物が観察されたことを示している。この結果から、実施例1の蛍光化合物入り粒子が動物細胞内に入っていることがわかった。
【0030】
実施例9
ポリ乳酸20mgおよび抗がん剤であるパクリタキセル(BLD Pharmatech Ltd、BD9353)0.5mgをアセトン4mLに溶解した。この溶液を蒸留水160mL中に加え、マグネティックスターラーを用いて300rpmで5分間撹拌した。0.020mol/Lの酢酸カルシウム水溶液20mLをこの分散液に加え、マグネティックスターラーを用いて300rpmで5分間撹拌した。0.012mol/Lのリン酸水素二アンモニウム水溶液20mLをさらに滴下して撹拌した。その後、マグネティックスターラーを用いて300rpmで72時間撹拌し、パクリタキセルを含むポリ乳酸の表面に水酸アパタイト結晶が形成されたコアシェル型粒子の水分散液を得た。この水分散液を濾過して水を除去した後、固形物を凍結乾燥させて、粒径が50~100nmのコアシェル型粒子であるパクリタキセル入り粒子を得た。
【0031】
実施例10
実施例9のパクリタキセル入り粒子を20μg/mLの濃度で加えた培地の中で、マウス乳がん細胞(4T1)の培養を行い、24時間後の細胞生存性をCell Counting Kit-8(株式会社同仁化学研究所、CK04)にて評価した。何も添加しなかった場合の細胞生存数に対して、粒子を添加した場合の細胞生存数の割合を細胞生存率として算出したところ、細胞生存率は50%であった。下記の実施例11と比べて有意に細胞生存率が低下し、パクリタキセルが効果的に細胞に届いたことを示した。
【0032】
実施例11
パクリタキセルを加えない粒子を実施例9と同様な条件で合成し、実施例10と同様にしてマウス乳がん細胞(4T1)の培養を行った。細胞生存率は104%であり、パクリタキセルが含まれない粒子では、何も加えない場合とほぼ変わらない細胞生存率であった。粒子そのものは、細胞に対して悪影響を及ぼさないことがわかった。
【0033】
比較例2
パクリタキセル5mgをエタノール1mLに溶解した溶液を、体積比で、この溶液:培地が1:999となるように混合し、パクリタキセルが5μg/mLの濃度の培地を作製した。このパクリタキセル含有培地の中で、マウス乳がん細胞(4T1)の培養を行い、48時間後の細胞生存性をCell Counting Kit-8にて評価した。何も添加しなかった場合の細胞生存数に対して、溶液を添加した場合の細胞生存数の割合を細胞生存率として算出したところ、細胞生存率は41%であった。
【0034】
実施例12
紫外可視分光光度計計測により分析をした結果、実施例9のパクリタキセル入り粒子に含まれるパクリタキセルの量は、粒子1mgあたり約10μgであることがわかった。このため、比較例2のパクリタキセル量と同じ量になるように、パクリタキセル入り粒子を500μg/mLの濃度で加えた培地の中で、マウス乳がん細胞(4T1)の培養を行い、48時間後の細胞生存性をCell Counting Kit-8にて評価した。細胞生存率は30%であった。実施例12では、比較例2に対して有意に細胞生存率が低下し、パクリタキセルが効果的に細胞に届いたことを示した。
【0035】
実施例13
重量平均分子量20000のポリ乳酸20mgおよび蛍光化合物であるナイルレッド(富士フイルム和光純薬、144-08811)1mgをアセトン5mLに溶解した。この溶液を蒸留水160mL中に加え、マグネティックスターラーを用いて300rpmで5分間撹拌した。0.020mol/Lの酢酸カルシウム水溶液20mLをこの分散液に加え、マグネティックスターラーを用いて300rpmで5分間撹拌した。0.011mol/Lのリン酸水素二アンモニウム水溶液20mLをさらに滴下して撹拌した。その後、マグネティックスターラーを用いて300rpmで72時間撹拌し、蛍光化合物を含むポリ乳酸の表面に水酸アパタイト結晶が形成されたコアシェル型粒子の水分散液を得た。
【0036】
この蛍光化合物入り粒子の粒径が10~100nmであることが、走査型電子顕微鏡観察によりわかった。この蛍光化合物入り粒子の水分散液は、可視光下では薄いピンク色を呈色していたが、蛍光顕微鏡観察では赤色蛍光が観察された。蛍光化合物入り粒子は水中で高い分散性を示し、ガラス瓶に入れて静置しても沈殿することなく水中に均一に分散していた。この蛍光化合物入り粒子の水分散液をさらに1週間静置しても、蛍光化合物入り粒子は沈殿することなく水中に均一に分散していた。
【0037】
実施例14
重量平均分子量20000のポリ乳酸20mgおよび蛍光化合物である3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン(Aldrich、442631)1mgをアセトン5mLに溶解した。この溶液を蒸留水160mL中に加え、マグネティックスターラーを用いて300rpmで5分間撹拌した。0.020mol/Lの酢酸カルシウム水溶液20mLをこの分散液に加え、マグネティックスターラーを用いて300rpmで5分間撹拌した。0.011mol/Lのリン酸水素二アンモニウム水溶液20mLをさらに滴下して撹拌した。その後、マグネティックスターラーを用いて300rpmで72時間撹拌し、蛍光化合物を含むポリ乳酸の表面に水酸アパタイト結晶が形成されたコアシェル型粒子の水分散液を得た。
【0038】
この蛍光化合物入り粒子の粒径が10~100nmであることが、走査型電子顕微鏡観察によりわかった。この蛍光化合物入り粒子の水分散液は、可視光下では薄い黄色を呈色していたが、蛍光顕微鏡観察では緑色蛍光が観察された。蛍光化合物入り粒子は水中で高い分散性を示し、ガラス瓶に入れて静置しても沈殿することなく水中に均一に分散していた。この蛍光化合物入り粒子の水分散液をさらに1週間静置しても、蛍光化合物入り粒子は沈殿することなく水中に均一に分散していた。
【0039】
比較例3
比較のため、粒子表面に水酸アパタイトの結晶c面が現れていない蛍光化合物入りコアシェル型粒子を合成した。特開平8-117323号公報に記載された手法と同様に、カルシウムイオンを含む水溶液とリン酸イオンを含む水溶液を混合した後に高分子を複合化する手法を用いると、粒子表面に水酸アパタイトのc面は現れない。マグネティックスターラーを用いて300rpmで撹拌している蒸留水160mL中に、0.020mol/Lの酢酸カルシウム水溶液20mLと0.012mol/Lのリン酸水素二アンモニウム水溶液20mLを加えた。この水溶液に、重量平均分子量20000のポリ乳酸20mgおよび蛍光化合物である3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン(Aldrich、442631)1mgをアセトン5mLに溶解した溶液をさらに加えた。
【0040】
その後、マグネティックスターラーを用いて300rpmで72時間撹拌し、蛍光化合物を含むポリ乳酸の表面に水酸アパタイト粒子がランダムに存在しているコアシェル型粒子の水分散液を得た。この蛍光化合物入り粒子の粒径が50~100nmであることが、走査型電子顕微鏡観察によりわかった。この蛍光化合物入り粒子の水分散液は、可視光下では薄い黄色を呈色していたが、蛍光顕微鏡観察では緑色蛍光が観察された。粒子表面の水酸アパタイトがランダムな方向を向いているこの蛍光化合物入り粒子は沈殿しやすく、ガラス瓶に入れて静置すると10分程度で沈殿した。
【0041】
比較例4
比較のため、粒子表面に水酸アパタイトの結晶c面が現れていない蛍光化合物入りコアシェル型粒子を合成した。国際公開第2012/071014号に記載された手法と同様に、ポリ乳酸を疎水性溶媒に溶解した溶液を用いてリン酸カルシウムと複合化する手法を用いると、粒子表面に水酸アパタイトのc面が現れない。重量平均分子量20000のポリ乳酸20mgおよび蛍光化合物である3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン(Aldrich、442631)1mgをクロロホルム5mLに溶解した。この溶液を蒸留水160mL中に加え、マグネティックスターラーを用いて300rpmで5分間撹拌した。
【0042】
この分散液に、0.020mol/Lの酢酸カルシウム水溶液20mLと0.012mol/Lのリン酸水素二アンモニウム水溶液20mLをあらかじめ混合したものを加え、マグネティックスターラーを用いて300rpmで5分間撹拌した。その後、マグネティックスターラーを用いて300rpmで72時間撹拌し、蛍光化合物を含むポリ乳酸の表面に水酸アパタイト粒子がランダムに存在しているコアシェル型粒子の水分散液を得た。
【0043】
この蛍光化合物入り粒子の粒径が5~100μmであることが、走査型電子顕微鏡観察によりわかった。この蛍光化合物入り粒子の水分散液は、可視光下では薄い黄色を呈色していたが、蛍光顕微鏡観察では緑色蛍光が観察された。粒径が1μmを超える蛍光化合物入り粒子は沈殿しやすく、この蛍光化合物入り粒子の水分散液をガラス瓶に入れて静置すると、1分以内に蛍光化合物入り粒子が沈殿した。水中に長時間分散させられる観点からは、本願の細胞親和性粒子の粒径は1μm以下であることが好ましい。
【0044】
実施例15
実施例13の蛍光化合物入り粒子の0.1mg/mL水分散液を、HeLa細胞に0.1mL添加し、48時間培養した。その後、培養液を除去し、リン酸緩衝液で3回洗浄した。青色蛍光を発するDAPI(富士フイルム和光純薬株式会社、049-18801)、で細胞の核を染色し、蛍光顕微鏡観察を行ったところ、核の青色の像(図12(a))と、蛍光化合物入り粒子の存在を示す赤色蛍光(図12(b))が同じ場所で観察された(図12)。図12(a)では、核の青色の像が濃灰色で現れ、図12(b)では、蛍光化合物入り粒子の赤色蛍光が薄灰色で現れている。このように、洗浄後の細胞であっても、蛍光化合物入り粒子がHeLa細胞中に存在していることがわかり、実施例13の蛍光化合物入り粒子と動物細胞の親和性の高さが示された。
【0045】
実施例16
実施例14の蛍光化合物入り粒子の0.1mg/mL水分散液を、HeLa細胞に0.1mL添加し、48時間培養した。その後、培養液を除去し、リン酸緩衝液で3回洗浄した。実施例6と同様の方法で染色し、蛍光顕微鏡観察を行ったところ、核の青色とアクチンの赤色以外に、蛍光化合物入り粒子の存在を示す緑色蛍光が観察された(図13)。図13では、薄い色の円状の核と、核より濃い色のアクチンが核を包むように観察されるとともに、白みがかった小さな点で現れている蛍光化合物入り粒子も核の周りなどで観察された。このように、洗浄後の細胞であっても、蛍光化合物入り粒子がHeLa細胞中に存在していることがわかり、実施例14の蛍光化合物入り粒子と動物細胞の親和性の高さが示された。
【0046】
実施例17
試料の特定の高さのみを観察する蛍光顕微鏡を用いて、実施例14で得られた蛍光化合物入り粒子が存在する実施例16の細胞を観察した。粒子が発する緑色の蛍光は、核が発する青色の蛍光とアクチンが発する赤色の蛍光と同じ高さで観察された(図14)。図14では、中央に存在する濃灰色の縦長の楕円状の核と、核の周りで白みがかった小さな点として現れている蛍光化合物入り粒子と、核および蛍光化合物入り粒子を含む大きな薄灰色で現れる線状のアクチンが観察された。これは、同じ細胞内の核とアクチンと蛍光化合物が観察されたことを示している。この結果から、実施例14の蛍光化合物入り粒子が動物細胞内に入っていることがわかった。
【0047】
実施例18
実施例14の蛍光化合物入り粒子の0.1mg/mL水分散液を、マウス胎児繊維芽細胞(NIH/3T3)に0.1mL添加し、48時間培養した。その後、培養液を除去し、リン酸緩衝液で3回洗浄した。実施例6と同様の方法で染色し、蛍光顕微鏡観察を行ったところ、核の青色とアクチンの赤色以外に、蛍光化合物入り粒子の存在を示す緑色蛍光が観察された(図15)。図15では、濃灰色の円状の核と、核より薄い色の線状のアクチンが核を包むように観察されるとともに、白みがかった小さな点で現れている蛍光化合物入り粒子も核の周りなどで観察された。このように、洗浄後の細胞であっても、蛍光化合物入り粒子がマウス胎児繊維芽細胞中に存在していることがわかり、実施例14の蛍光化合物入り粒子と動物細胞の親和性の高さが示された。
【0048】
実施例19
試料の特定の高さのみを観察する蛍光顕微鏡を用いて、実施例14で得られた蛍光化合物入り粒子が存在する実施例18の細胞を観察した。粒子が発する緑色の蛍光は、核が発する青色の蛍光とアクチンが発する赤色の蛍光と同じ高さで観察された(図16)。図16では、濃灰色の円状の核と、核の周りで白みがかった小さな点として現れている蛍光化合物入り粒子と、核および蛍光化合物入り粒子を含む大きな薄灰色で現れる線状のアクチンが観察された。これは、同じ細胞内の核とアクチンと蛍光化合物が観察されたことを示している。この結果から、実施例14の蛍光化合物入り粒子が動物細胞内に入っていることがわかった。
【0049】
実施例20
実施例14の蛍光化合物入り粒子の0.1mg/mL水分散液を、マウス繊維芽細胞様細胞株(L929)に0.1mL添加し、48時間培養した。その後、培養液を除去し、リン酸緩衝液で3回洗浄した。実施例6と同様の方法で染色し、蛍光顕微鏡観察を行ったところ、核の青色とアクチンの赤色以外に、蛍光化合物入り粒子の存在を示す緑色蛍光が観察された(図17)。図17では、薄い色の円状の核と、核より濃い色のアクチンが核を包むように観察されるとともに、白みがかった小さな点で現れている蛍光化合物入り粒子も核の周りなどで観察された。このように、洗浄後の細胞であっても、蛍光化合物入り粒子がマウス胎児繊維芽細胞中に存在していることがわかり、実施例14の蛍光化合物入り粒子と動物細胞の親和性の高さが示された。
【0050】
実施例21
試料の特定の高さのみを観察する蛍光顕微鏡を用いて、実施例14で得られた蛍光化合物入り粒子が存在する実施例20の細胞を観察した。粒子が発する緑色の蛍光は、核が発する青色の蛍光とアクチンが発する赤色の蛍光と同じ高さで観察された(図18)。図18では、濃灰色の円状の核と、核の周りで白みがかった小さな点として現れている蛍光化合物入り粒子と、核および蛍光化合物入り粒子を含む大きな薄灰色で現れる線状のアクチンが観察された。これは、同じ細胞内の核とアクチンと蛍光化合物が観察されたことを示している。この結果から、実施例14の蛍光化合物入り粒子が動物細胞内に入っていることがわかった。
【0051】
比較例5
比較例3の蛍光化合物入り粒子の0.1mg/mL水分散液を、マウス繊維芽細胞様細胞株(L929)に0.1mL添加し、48時間培養した。その後、培養液を除去し、リン酸緩衝液で3回洗浄した。実施例6と同様の方法で染色し、蛍光顕微鏡観察を行ったところ、核の青色とアクチンの赤色以外に、蛍光化合物入り粒子の存在を示す緑色蛍光が観察されたが、細胞のある場所だけでなく細胞がない場所でも緑色蛍光が観察された(図19)。図19では、薄灰色で現れている三角形状または星形状などの核およびアクチンの外側に、白みがかった小さな点として現れている蛍光化合物入り粒子が存在している。比較例3の蛍光化合物入り粒子は沈殿しやすい粒子のため、細胞培養の際に培養容器底に沈殿した粒子と考えられた。
【0052】
比較例6
試料の特定の高さのみを観察する蛍光顕微鏡を用いて、比較例3で得られた蛍光化合物入り粒子が存在する比較例5の細胞を観察した。細胞内には、粒子が発する緑色の蛍光は少ししか観察されなかった。粒子が発する緑色の蛍光が多く観察されたのは、アクチンが発する赤色の蛍光が観察されない高さであった(図20)。図20では、中央に円形状に薄い色で現れている核の外側に、白みがかった小さな点として現れている蛍光化合物入り粒子が存在している。これは、細胞骨格であるアクチンが存在していない高さに多くの粒子があることを示し、比較例3で得られた粒子は細胞内にほとんど入っていないことがわかった。
【0053】
比較例7
比較例4の蛍光化合物入り粒子の0.1mg/mL水分散液を、マウス繊維芽細胞様細胞株(L929)に0.1mL添加し、48時間培養した。その後、培養液を除去し、リン酸緩衝液で3回洗浄した。実施例6と同様の方法で染色し、蛍光顕微鏡観察を行ったところ、核の青色とアクチンの赤色以外に、蛍光化合物入り粒子の存在を示す緑色蛍光がほとんど観察されなかった(図21)。図21では、円形状に薄灰色で現れているアクチンと、アクチンの中心に円形状に濃灰色で現れている核が存在しており、白みがかった小さな点として現れている蛍光化合物入り粒子がほとんど存在しない。
【0054】
この結果から、比較例4の粒子は動物細胞に対する親和性がないと考えられた。すなわち、難水溶性化合物と疎水性高分子を含有するコアと、コアと接する部分で疎水性高分子と化学結合してコアの外側に設けられた水酸アパタイトを含有するシェルを備え、シェルの水酸アパタイト粒子の析出方向がランダムであり、粒径が1μmを超えるコアシェル型粒子は、細胞内にほとんど取り込まれないと考えられる。
【0055】
実施例22
実施例9と同様な方法でパクリタキセル(PTX)添加量を0.2、0.5、1.0mgと変化させて合成したパクリタキセル入り粒子を20、40、100、200、500、1000μg/mLの濃度でそれぞれ加えた培地の中で、マウス線維芽細胞(NIH/3T3)の培養を行い、72時間後に乳酸脱水素酵素(LDH)活性をすることにより細胞傷害を評価した。このパクリタキセル入り粒子を添加して培養した培地のLDH活性値は、この粒子を添加せずに培養した培地のLDH活性値とほぼ変わらなかった(図22)。このパクリタキセル入り粒子は、正常細胞であるマウス線維芽細胞(NIH/3T3)に対し悪影響を及ぼさないことがわかった。
【0056】
実施例23
実施例9と同様な方法でパクリタキセル添加量を0.2、0.5、1.0mgと変化させて合成したパクリタキセル入り粒子を20、40、100、200、500、1000μg/mLの濃度で加えた培地の中で、ヒト子宮頸癌由来細胞株(HeLa)の培養を行い、24時間後の細胞生存性をCell Counting Kit-8(株式会社同仁化学研究所、CK04)にて評価した。何も添加しなかった場合の細胞生存数に対して、この粒子を添加した場合の細胞生存数の割合をHeLa細胞の細胞生存率として算出したところ、HeLa細胞の細胞生存率はほぼ0%であった(図23)。
【0057】
非常に少ないパクリタキセル濃度にも関わらず、この粒子によってHeLa細胞の細胞生存率が低下しており、パクリタキセルが効果的にHeLa細胞に届いたことを示した。なお、ポリ乳酸の表面に水酸アパタイト結晶が形成され、パクリタキセルを含まないコアシェル型粒子を加えた培地を培養した場合の細胞生存数は、何も添加しなかった培地を培養した場合の細胞生存数と同等であった。ポリ乳酸と水酸アパタイト結晶から構成されるコアシェル型粒子自体は細胞に対して悪影響を及ぼさないことがわかった(図23)。
【0058】
実施例24
ポリ乳酸20mgおよび蛍光物質のフルオロセイン(東京化成工業、F0095)1mgをアセトン4mLに溶解した。この溶液を蒸留水160mL中に加え、マグネティックスターラーを用いて300rpmで5分間撹拌した。0.020mol/Lの酢酸カルシウム水溶液20mLをこの分散液に加え、マグネティックスターラーを用いて300rpmで5分間撹拌した。0.012mol/Lのリン酸水素二アンモニウム水溶液20mLをさらに滴下して撹拌した。その後、マグネティックスターラーを用いて300rpmで72時間撹拌し、フルオロセインを含むポリ乳酸の表面に水酸アパタイト結晶が形成されたコアシェル型粒子の水分散液を得た。この水分散液を濾過して水を除去した後、固形物を凍結乾燥させて、粒径が50~100nmのコアシェル型粒子であるフルオロセイン入り粒子を得た。
【0059】
実施例25
実施例24のフルオロセイン入り粒子を1mg/mLの濃度で加えた培地の中で、マウス乳がん細胞(4T1)の培養を24時間培養した。その後、培養液を除去し、りん酸緩衝溶液で3回洗浄した。実施例6と同様の方法で染色し、蛍光顕微鏡観察を行ったところ、核の青色とアクチンの赤色以外に、フルオロセイン入り粒子の存在を示す緑色蛍光が観察された(図24)。図24では、円形状に濃灰色で現れている核と、核の周囲に薄灰色で現れているアクチンと、アクチンの領域内に白みがかった小さな点として現れているフルオロセイン入り粒子が存在している。このように、洗浄後の細胞であっても、フルオロセイン入り粒子がマウス乳がん細胞中に存在していることがわかり、実施例24のフルオロセイン入り粒子とマウス乳がん細胞の親和性の高さが示された。
【0060】
実施例26
ポリ乳酸20mgおよびβカロテン(富士フイルム和光純薬株式会社、031-05533)0.5mgをアセトン4mLに溶解した。この溶液を蒸留水160mL中に加え、マグネティックスターラーを用いて300rpmで5分間撹拌した。0.020mol/Lの酢酸カルシウム水溶液20mLをこの分散液に加え、マグネティックスターラーを用いて300rpmで5分間撹拌した。0.012mol/Lのリン酸水素二アンモニウム水溶液20mLをさらに滴下して撹拌した。その後、マグネティックスターラーを用いて300rpmで72時間撹拌し、βカロテンを含むポリ乳酸の表面に水酸アパタイト結晶が形成されたコアシェル型粒子の水分散液を得た。この水分散液を濾過して水を除去した後、固形物を凍結乾燥させて、粒径が50~100nmのコアシェル型粒子であるβカロテン入り粒子を得た。
【0061】
実施例27
実施例26のβカロテン入り粒子を200μg/mLの濃度で加えた培地の中で、マウス骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1)の培養を1週間行った。βカロテン入り粒子を培地に入れたことによる骨細胞への影響を評価するために、リアルタイムPCR装置(CFX96、BIO-RAD製)を用いて、骨分化マーカーであるオステオポンチン(OPN)の遺伝子発現量を測定した。何も入れていない培地のみで培養した細胞のOPN遺伝子発現量に比べ、βカロテン入り粒子含有培地で培養した細胞は、100倍大きい遺伝子発現量を示し、βカロテンが効果的に細胞へ届いたことを示した。
【0062】
実施例28
ポリ乳酸20mgおよびデキサメタゾン(富士フイルム和光純薬株式会社、041-18861)0.5mgをアセトン4mLに溶解した。この溶液を蒸留水160mL中に加え、マグネティックスターラーを用いて300rpmで5分間撹拌した。0.020mol/Lの酢酸カルシウム水溶液20mLをこの分散液に加え、マグネティックスターラーを用いて300rpmで5分間撹拌した。0.012mol/Lのリン酸水素二アンモニウム水溶液20mLをさらに滴下して撹拌した。その後、マグネティックスターラーを用いて300rpmで72時間撹拌し、デキサメタゾンを含むポリ乳酸の表面に水酸アパタイト結晶が形成されたコアシェル型粒子の水分散液を得た。この水分散液を濾過して水を除去した後、固形物を凍結乾燥させて、粒径が50~100nmのコアシェル型粒子であるデキサメタゾン入り粒子を得た。
【0063】
実施例29
マウスマクロファージ細胞(RAW264)に炎症を誘導するリポポリサッカリド(シグマ、L652)を培地に添加して24時間培養した後、実施例28のデキサメタゾン入り粒子を50μg/mLの濃度になるように培地にさらに加えて24時間培養を行った。デキサメタゾン入り粒子を加えたことによる抗炎症作用を評価するために、リアルタイムPCR装置を用いて、炎症性サイトカインであるインターロイキン6(IL-6)およびインターロイキン1β(IL-1β)の遺伝子発現量を測定した。何も入れていない培地のみで培養した細胞のIL-6およびIL-1βの遺伝子発現量を100%とすると、デキサメタゾン入り粒子含有培地で培養した細胞のIL-6およびIL-1βの遺伝子発現量は、それぞれ2%、16%であり、炎症性サイトカインの遺伝子発現量が低下していた。抗炎症作用を有するデキサメタゾンが効果的に細胞へ届いたことにより、炎症性サイトカインであるIL-6およびIL-1βの発現量が抑制されたことを示した。
図1
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