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特許7588844情報処理装置、立体像表示装置およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】情報処理装置、立体像表示装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G03H 1/22 20060101AFI20241118BHJP
   G03H 1/08 20060101ALI20241118BHJP
   G11B 7/0065 20060101ALI20241118BHJP
   G11B 20/18 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
G03H1/22
G03H1/08
G11B7/0065
G11B20/18 522B
G11B20/18 572C
G11B20/18 572E
G11B20/18 574L
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021096000
(22)【出願日】2021-06-08
(62)【分割の表示】P 2016167590の分割
【原出願日】2016-08-30
(65)【公開番号】P2021144243
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2021-06-08
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (その1) 掲載年月日 2016年7月 掲載アドレス https://dl.dropboxusercontent.com/u/16839236/3Dconf2016_CD.zip (その2) 開催日 2016年7月13日から2016年7月14日 (公開日は2016年7月14日) 集会名 3次元画像コンファレンス2016 主催者 3次元画像コンファレンス2016実行委員会 [担当 電子情報通信学会 画像工学研究会] (その3) 掲載年月日 2016年8月22日 掲載アドレス https://shingi.jst.go.jp/kobetsu/s-tlo/2016_s-tlo.html
(73)【特許権者】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】前田 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智義
【合議体】
【審判長】里村 利光
【審判官】西岡 貴央
【審判官】神谷 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-266465(JP,A)
【文献】特開平11-316539(JP,A)
【文献】特開平10-123919(JP,A)
【文献】特表2008-544306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03H1/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体像データをフレーム分割処理により複数のサブフレームに分割する分割部と、
前記分割された立体像データに基づいて、空間光位相変調器に計算機合成ホログラムを表示させるためのCGHデータを作成するCGH作成部と、
前記CGHデータを非可逆圧縮して圧縮データを生成する圧縮部と、
前記圧縮データをハードディスクドライブに保存する保存制御部と、
前記ハードディスクドライブから前記圧縮データを読み出して前記圧縮データからCGH画像データを復元する復元部と、
を備え、
前記圧縮データの1フレームが前記ハードディスクドライブから読み出されてから、当該1フレームの前記圧縮データに対応するCGHが前記空間光位相変調器に表示されるまでの時間が、前記空間光位相変調器の1フレーム期間よりも短い、情報処理装置。
【請求項2】
前記CGHデータは、各画素における光強度を表すバイナリデータを含み、
前記圧縮部は、前記バイナリデータの先頭の符号ビットを抽出することにより、前記圧縮データを作成する、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記CGHデータは、各画素における光強度を表すバイナリデータを含み、
前記圧縮部は、前記光強度を所定の閾値と比較し、前記バイナリデータを当該比較結果に応じた値に変換することにより、前記圧縮データを作成する、請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記CGH画像データはバイナリホログラムである、請求項1~3のいずれかに記載の情報処理装置。
【請求項5】
参照光を発生する光源と、
前記参照光を回折させることによって立体像を再生させる空間光位相変調器と、
前記空間光位相変調器に、前記参照光を回折させる計算機合成ホログラムを表示させるためのCGH画像データを出力する情報処理装置と、
を備えた立体像表示装置であって、
前記情報処理装置が請求項1~4のいずれかに記載の情報処理装置である、立体像表示装置。
【請求項6】
前記空間光位相変調器はデジタルマイクロミラーデバイスである、請求項5に記載の立体像表示装置。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載の情報処理装置の各部としてコンピュータを動作させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計算機合成ホログラムによって立体像を再生する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ホログラムによる立体像は様々な角度から眺めることができ、視覚疲労もなく長時間利用可能である。ホログラムは、電子計算機による計算によって作成することが可能でありそのようなホログラムは計算機合成ホログラム(CGH:Computer-Generated Hologram)と呼ばれる。CGHを空間光位相変調器(SLM:Spatial Light Modulator)に表示し、参照光をSLMに照射することで、空間に三次元物体を再生することができる。
【0003】
しかし、CGHを表示させるためのホログラムデータ(以下、CGHデータ)は膨大であるため、通常はハードディスクドライブ(HDD)等の補助記憶装置に記憶されるが、CGHデータをHDDから読み出すと、主記憶装置(メインメモリ)に一時的にファイルを確保できず、データスワップによって読み出し速度が低下する。そのため、所望のフレームレートが得られず、フリッカが生じやすくなる。
【0004】
これに対し、下記の非特許文献1及び非特許文献2では、CGHのデータを記憶する補助記憶装置として、HDDの代わりにSSDを用いることにより、高速にデータを読み出す技術が開示されている。また、下記の非特許文献3には、CGHのデータを記憶する補助記憶装置として、HDDの代わりにRAMディスクを用いることにより、高速にデータを読み出している。
【0005】
また、下記の非特許文献4には、並列分散計算システムであるマルチGPUクラスタシステムを用いて高速にホログラムを計算する技術が開示されている。非特許文献4では、高額な空間光位相変調器を1つのみ搭載しているため、ノード間通信が必要となるが、超高速なネットワークであるInfiniBandを用いてノード間転送を行っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】杉山充、「倍精度マルチコアプロセッサ及びSSDストレージによる計算機合成ホログラムの高速化」、千葉大学博士論文、2015年1月
【文献】Atushi Sugiyama、外5名、「Large scale calculation for holography using SSD」、Photonics Letters of Poland、vol. 6、2014年3月、Pp.87-89
【文献】前田祐貴、外9名、「Image Quality Improvement of Electroholography by Using Spatiotemporal Division Method」、Proceedings of The International Display Workshops、vol. 22、2015年12月、Pp.908-909
【文献】庭瀬裕章、外8名、「シングル空間光位相変調器用マルチGPUクラスタシステムによる計算機合成ホログラムの計算高速化」、第14回情報科学技術フォーラム講演論文集、第1分冊、2015年9月、Pp.41-44
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、非特許文献1及び非特許文献2に記載の技術では、SSDはHDDに比べ記憶容量が小さいため、あまり膨大な量のCGHを記憶させることができない。そのため、時分割表示による再生像の高精細化やカラー化、あるいは高速再生を実現することが困難である。
【0008】
同様に、非特許文献3についても、RAMディスクは記憶容量当たりのコストがHDDに比べて高いため、RAMディスクの容量をCGHのデータ量に合わせて増大させることは現実的ではない。また、非特許文献4では、ノード間通信のためにInfiniBandを用いているため、システムのコストが増大してしまう。
【0009】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、特別なハードウェアを用いることなく空間光位相変調器にCGHを高速に再生可能な情報処理装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、CGHデータを圧縮して、その圧縮データを補助記憶装置に保存することにより、補助記憶装置からの読出し遅延によるフレームレートの低下を防止できることを見出した。
【0011】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の態様を有する。
項1.
空間光位相変調器に計算機合成ホログラムを表示させるためのCGHデータを圧縮して圧縮データを生成する圧縮部と、
前記圧縮データを補助記憶装置に保存する保存制御部と、
を備えた、情報処理装置。
項2.
前記CGHデータは、各画素における光強度を表すバイナリデータを含み、
前記圧縮部は、前記バイナリデータの先頭の符号ビットを抽出することにより、前記圧縮データを作成する、項1に記載の情報処理装置。
項3.
前記CGHデータは、各画素における光強度を表すバイナリデータを含み、
前記圧縮部は、前記光強度を所定の閾値と比較し、前記バイナリデータを当該比較結果に応じた値に変換することにより、前記圧縮データを作成する、項1に記載の情報処理装置。
項4.
前記補助記憶装置はハードディスクドライブである、項1~3のいずれかに記載の情報処理装置。
項5.
前記補助記憶装置に保存された前記圧縮データからCGH画像データを復元する復元部をさらに備えた、項1~4のいずれかに記載の情報処理装置。
項6.
参照光を発生する光源と、
前記参照光を回折させることによって立体像を再生させる空間光位相変調器と、
前記空間光位相変調器に、前記参照光を回折させる計算機合成ホログラムを表示させるためのCGH画像データを出力する情報処理装置と、
を備えた立体像表示装置であって、
前記情報処理装置が項5に記載の情報処理装置である、立体像表示装置。
項7.
項1~5のいずれかに記載の情報処理装置の各部としてコンピュータを動作させるプログラム。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特別なハードウェアを用いることなく空間光位相変調器にCGHを高速に再生可能な情報処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る立体像表示装置の概略図である。
図2】空間光位相変調器に表示される計算機合成ホログラムの一例である。
図3】本発明の一実施形態に係る情報処理装置の構成を示すブロック図である。
図4】CGHデータの作成および圧縮の手順を示すフローチャートである。
図5】圧縮前のCGHデータの一部を示す図である。
図6】CGHデータの圧縮方法の一例を説明するための図である。
図7】CGHデータの圧縮方法の他の例を説明するための図である。
図8】圧縮データの読出および復元の手順を示すフローチャートである。
図9】CGH画像データの復元方法の一例を説明するための図である。
図10】本発明の実施例および比較例において再生した立体像である。
図11】高精細な立体像を再生するための時分割表示についての説明図である。
図12】(a)および(b)はそれぞれ、実施例および比較例におけるCGHである。
図13】(a)および(b)はそれぞれ、実施例および比較例における再生像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
(全体構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る立体像表示装置1の概略図である。立体像表示装置1は、光源2と、対物レンズ3と、コリメータレンズ4と、空間光位相変調器5と、情報処理装置6とを備えている。
【0016】
光源2は、立体像の再生に使用される光源であり、コヒーレント光もしくは部分的なコヒーレント光を参照光として発生する。光源2としては、このような参照光を発生するものであれば特に限定されず、例えば、レーザ光源やLED光源を用いることができる。また、光源2の個数および光源2が発生する参照光の色も、特に限定されない。例えば、3つの光源2からR、G、Bの3色の参照光を発生させることにより、あらゆる色の立体像を再生することができる。
【0017】
対物レンズ3およびコリメータレンズ4は、光源2から出射された参照光を平行光にするために用いる光学素子である。なお、コリメータレンズ4を通過した光は、必ずしも平行でなくてもよい。また、対物レンズ3およびコリメータレンズ4は、本発明に必須の構成ではない。
【0018】
空間光位相変調器5は、前記参照光を回折させることによって立体像Sを再生させる素子である。後述するように、空間光位相変調器5にはCGHが表示され、CGHが空間光位相変調器5に入射した参照光を回折させることにより、空間光位相変調器5の参照光の入射面と反対側の空間上に立体像Sが再生される。本実施形態では、空間光位相変調器5として、液晶ディスプレイ(LCD)を用いているが、これに限らず、高速再生を容易に行う観点では、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD)を用いることが好ましい。
【0019】
情報処理装置6は、空間光位相変調器5に、前記参照光を回折させるCGHを表示させるためのCGH画像データを出力する装置である。情報処理装置6は、例えば、汎用のパーソナルコンピュータによって構成され、立体像の元データに基づいて解析計算処理を行うことにより、CGHデータを作成することができる。そして、このCGHデータからCGH画像データが作成される。空間光位相変調器5は、情報処理装置6から入力されたCGH画像データに基づいて、参照光の入射面にCGHを表示する。
【0020】
図2は、空間光位相変調器5に表示されるCGH7の一例を示している。CGH7の白い部分は、参照光が空間光位相変調器5を透過する領域であり、CGH7の黒い部分は、参照光が空間光位相変調器5を透過しない領域である。CGH7によって、参照光が回折することにより、図1に示すような立体像Sが再生される。
【0021】
ここで、空間光位相変調器5に表示されるCGH7は高精細であるため、CGHの画像データは非常に大きい。一般的なCGH画像データでは、一つの画素において、RGBαの各々1Byte(8bit)、合計4Byte(32bit)となる。また、CGHデータも4Byteの浮動小数点数で表される。ともに1画素あたり4Byteとなるため、例えば、空間光位相変調器5の画素数が1920×1024である場合、1フレームあたり1920×1024×4(Byte)≒7.5MBのデータ量となる。そのため、CGH画像データ、もしくは、CGHデータをHDDから読み出す場合、読み込み速度を100MB/sとすると、1フレームあたりの読み出し時間が約75msとなり、空間光位相変調器5に表示されるCGHのフレームレートが低下してしまう。
【0022】
そこで、本実施形態では、CGHデータを圧縮してHDDに保存することにより、HDDからの読み出し時間を短縮して、フレームレートを維持することができる。これによって、補助記憶装置として読み出し速度の速いSSDやRAMディスクのような特別なハードウェアを用いることなく空間光位相変調器5にCGHを高速に再生することができる。
【0023】
(情報処理装置の構成)
図3は、図1に示す情報処理装置6の構成を示すブロック図である。情報処理装置6は、補助記憶装置としてハードディスクドライブ(HDD)61を備えている。HDD61には、情報処理装置6を制御するための各種プログラムや、CGHデータの元となる立体像データD1等が格納されている。また、情報処理装置6は、他のハードウェア構成として、フレームバッファ(Frame Buffer)62、および図示しないCPU、GPU並びに主記憶装置(メモリ)等を備えている。
【0024】
また、情報処理装置6は、機能ブロックとして、CGH作成部63、圧縮部64、保存制御部65および復元部66を備えている。これらの機能ブロックは、情報処理装置6のCPUがHDD61に格納されているプログラムをメモリに読み出して実行することにより実現される。情報処理装置6がインターネット等の通信ネットワークに接続されている場合、上記プログラムのプログラムコードを、通信ネットワークを介して情報処理装置6に供給してもよい。あるいは、上記プログラムのプログラムコードを記録したCD-ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体を介して、上記プログラムのプログラムコードを情報処理装置6に供給してもよい。
【0025】
情報処理装置6の各機能ブロックは、上記のようにソフトウェア的に実現してもよいし、論理回路等によってハードウェア的に実現してもよい。
【0026】
(CGHデータの作成および圧縮)
本実施形態では、CGHデータを作成後、そのままHDD61に保存するのではなく、CGHデータを圧縮してHDD61に保存する。図4は、CGHデータの作成および圧縮の手順を示すフローチャートである。
【0027】
ステップS1では、CGH作成部63が、HDD61から立体像データD1を1フレームずつメモリ上に読み出す。立体像データD1は、例えば物体点群からなる三次元物体の位置座標の情報である。CGH作成部63の演算処理は、情報処理装置6のCPUがGPUと協働で行ってもよい。
【0028】
続いて、ステップS2において、CGH作成部63は、立体像データD1に基づいて、ホログラム面上の各画素における光強度Iを計算することにより、CGHデータD2を作成する。本実施形態において、CGHデータD2には、一画素あたり4Byteの浮動小数点数で表される光強度情報が含まれている。作成されたCGHデータD2は、例えばグラフィックボードのグローバルメモリに格納される。
【0029】
なお、CGH作成部63によってCGHデータD2を作成する代わりに、他の情報処理装置等で作成されたCGHデータD2を情報処理装置6に供給してもよい。その場合、ステップS1およびS2は省略される。
【0030】
続いて、ステップS3において、圧縮部64が、CGHデータD2を圧縮して圧縮データD3を生成する。本実施形態では、圧縮部64は、CGHデータD2を1/32のデータ量に圧縮する。圧縮方法の一例を、図5および図6に基づいて説明する。
【0031】
図5は、圧縮前のCGHデータD2の一部を示している。図5では、縦(H)10×横(W)10=100画素分のデータが示されており、各画素の濃淡は、当該画素の光強度Iに対応している。
【0032】
図6に示すように、各画素の光強度Iは、4Byte(32bit)の符号付き2進数で表記した浮動小数点数で表わされている。すなわち、光強度Iの取り得る範囲は、10進数で-3.40×1038~3.40×1038の範囲であり、各光強度Iの先頭のビットは、正(0)または負(1)を表すビットである。
【0033】
圧縮部64は、各画素の光強度Iから先頭の符号ビットを抽出し、抽出した値をビットシフトによって圧縮データD3の変数に1bitずつ格納していく。図6では、CGHデータD2の1行目の画素の光強度I[0][0]~I[0][10]について、先頭の符号ビットを抽出している。この処理をCGHデータD2の全画素について繰り返すことにより、圧縮部64は、CGHデータD2を1/32のデータ量の圧縮データD3に圧縮することができる。
【0034】
すなわち、本実施形態では、一画素あたり4Byte(32bit)の浮動小数点数から1bitの符号ビットのみを取り出すことによりデータ圧縮を行っている。これにより、例えば、画素数が1920×1024である場合、圧縮データD3は、1フレームあたり1920×1024×1(bit)≒0.23MBのデータ量となる。
【0035】
1フレームの全画素の光強度Iに対して上述の圧縮処理を行い、1フレーム分の圧縮データD3が作成されると、図4のステップS4において、保存制御部65が圧縮データD3をHDD61に保存する。
【0036】
なお、圧縮部64は、光強度Iを表すバイナリデータから先頭の符号ビットを抽出する代わりに、各画素の光強度Iを所定の閾値と比較し、前記バイナリデータを当該比較結果に応じた値に変換することによって、圧縮データD3を生成してもよい。例えば、閾値を0に設定した場合、圧縮部64は、図7に示すように、I[x][y]>0であれば白(0)、I[x][y]≦0であれば黒(1)として、当該値をビットシフトを用いて圧縮データD3の変数に1bitずつ格納する。この場合も、CGHデータD2は1/32のデータ量に圧縮される。なお、後述するように、復元されたCGH画像データによるCGHおよび再生像が、データ圧縮前のCGHデータによるCGHおよび再生像とそれぞれ一致するのであれば、閾値を0以外(例えば、10進数で10、-10等)に設定してもよい。
【0037】
続いて、立体像データD1に未処理の次のフレームが存在する場合(ステップS5においてYes)、ステップS1~S4を立体像データD1の全フレームについて行う。立体像データD1の全フレームのCGHデータの作成、圧縮および保存が完了すると(ステップS5においてNo)、CGHデータの作成および圧縮の処理は終了する。
【0038】
(圧縮データの読出および復元)
本実施形態では、立体像の再生時において、圧縮データD3がHDD61から読み出され、CGH画像データD4に復元される。図8は、圧縮データの読出および復元の手順を示すフローチャートである。
【0039】
ステップS6において、ユーザの操作等により、立体像の再生が指示されると、ステップS7において、復元部66が、HDD61から圧縮データD3を1フレームずつ読み出す。前述のように、圧縮データD3のデータ量は、圧縮前のCGH画像データ、もしくは、CGHデータの1/32であり、1フレームあたりのデータ量はメモリの容量よりもはるかに小さい。そのため、データスワップは起こらず、HDD61からの読み出し時間は1フレームあたり約2msに短縮される。よって、HDD61からの読出し遅延によるフレームレートの低下を防止することができる。
【0040】
続いて、ステップS8において、復元部66は、読み出された圧縮データD3をCGH画像データD4に復元する。具体的には、図9に示すように、復元部66は、圧縮データD3の変数から先頭の値を1bitずつ取り出し、取り出された値が「0」であれば、当該値に対応する画素を白(すなわち、(RGBα)=(255、255、255、255))とし、取り出された値が「1」であれば、当該値に対応する画素を黒(すなわち、(RGBα)=(0、0、0、0))とする。これにより、復元部66は、圧縮データD3を復元してバイナリホログラムのCGH画像データD4を生成することができる。
【0041】
なお、現在の通常のCPUであれば、圧縮データD3の復元処理を、1フレーム期間(1フレームが複数のサブフレームに分割されている場合、1サブフレーム期間)に比べて十分短時間に行うことができるので、復元処理によってフレームレートが低下することはない。また、後述する実施例(図12および図13)に示すように、復元されたCGH画像データD4によるCGHおよび再生像は、データ圧縮前のCGHデータD2によるバイナリCGHおよび再生像とそれぞれ完全に一致し、誤差は生じない。
【0042】
その後、復元されたCGH画像データD4はフレームバッファ62に順次転送され、空間光位相変調器5に出力される。これにより、空間光位相変調器5にCGH7が表示される(ステップS9)。
【0043】
その後、残りのフレームについて、ステップS7~S9を行い、全てのフレームが表示されると(ステップS10においてYes)、圧縮データの読出および復元の処理は終了する。
【0044】
(付記事項)
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0045】
例えば、本実施形態では、圧縮部64は、CGHデータD2の各画素の光強度Iから先頭の符号ビットを抽出することにより、圧縮データD3を生成しているが、符号ビットだけでなく、最上位から所定桁数(例えば2)のビットを抽出してもよい。この場合も、抽出する桁数がCGHデータD2の各画素の光強度Iの桁数よりも少なければ、HDD61に保存するデータ量を削減することができる。
【0046】
また、本実施形態では、CGHデータの圧縮、圧縮データのHDDへの保存、圧縮データのHDDからの読み出し、および、圧縮データの復元を、1つの情報処理装置で行っていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、また、圧縮データの復元を、図3に示す情報処理装置6とは異なる情報処理装置によって行ってもよい。
【0047】
また、HDDを情報処理装置6の外部(例えば、クラウド上や外部記憶装置)に独立して設けてもよい。また、補助記憶装置としてHDDの代わりにフラッシュメモリやSSD等を用いてもよい。
【0048】
また、CGHデータの圧縮と圧縮データの復元とを、互いに異なる情報処理装置で行ってもよく、例えば、HDD61から読み出された圧縮データD3を情報処理装置6から他の情報処理装置に転送し、当該他の情報処理装置において、CGH画像データD4の復元を行ってもよい。この場合、圧縮によってCGHデータのデータ量を大幅に削減しているため、データ転送時間を大幅に短縮することができる。さらに、例えば、マルチGPUクラスタシステムなどの並列分散処理システムにおいて、ノード間データ転送を必要とする場合であっても、転送時間を短縮することが可能となる。
【0049】
このように本発明では、転送されるデータ量を削減することができるので、読出し速度の速いSSD、RAMディスク等の補助記憶装置や、超高速なネットワークを必要としない。よって、ハードウェアのコスト増大を抑えることができる。
【実施例
【0050】
本実施例では、図1に示す空間光位相変調器5および情報処理装置6を用いて、CGHデータの圧縮、補助記憶装置への保存および復元を行って立体像の再生を行い、1フレームの再生時間を計測した。また、比較例として、CGHデータを圧縮せずに補助記憶装置への保存および立体像の再生を行い、1フレームの再生時間を計測した。
【0051】
実施例では、空間光位相変調器5としてLCDを用いた。比較例においても、空間光位相変調器として同一のLCDを用いた。当該LCDの仕様は下記表1の通りであった。
【0052】
【表1】
【0053】
また、実施例では、情報処理装置6として汎用のパーソナルコンピュータを用いた。比較例においても、同一のパーソナルコンピュータを用いた。当該パーソナルコンピュータの仕様は下記表2の通りであった。
【0054】
【表2】
【0055】
また、実施例および比較例では、補助記憶装置として同一のHDDを用いた。当該HDDの仕様は下記表3の通りであった。
【表3】
【0056】
また、実施例および比較例における、パーソナルコンピュータのGPUの仕様は下記表4の通りであった。
【0057】
【表4】
【0058】
実施例において、再生時間は、HDDから圧縮データまたは非圧縮のCGHデータを読み出し、空間光位相変調器にCGHを表示するまでの時間を指す。
【0059】
図10は、実施例および比較例に使用した元の立体像を示している。立体像の中央部分には噴水が描かれており、立体像の物体点は、912,462点である。また、実施例および比較例では、図11に示すように、1フレームのCGHを最大8つのサブフレームSF1~SF8に分割した。非特許文献3に詳細に記載されているように、CGHのフレーム分割により、再生像の高精細化を図ることができる。
【0060】
フレームを分割する方法としては、物体点の粒子番号による分割方法を採用した。当該方法では、図11に示すように、立体像の物体点を、粒子番号の順に複数の立体像の各サブフレームSF1~SF8に振り分けた。これにより、各サブフレームSF1~SF8の物体点は、分割前の画像データの物体点の1/8となる。そして、各サブフレームSF1~SF8について、CGHを計算した。
【0061】
フレーム分割を行わない場合(以下、分割なしの場合)、CGHは全700フレームであり、4つのサブフレームに分割した場合(以下、4分割の場合)、CGHは全2,800フレームであり、8つのサブフレームに分割した場合(以下、8分割の場合)、CGHは全5,600フレームであった。圧縮前のCGHデータのデータ量は、分割なしの場合は約5.1GBであり、4分割の場合は約21GBであり、8分割の場合は約41GBであった。これに対し、圧縮後のCGHデータ(圧縮データ)のデータ量は、分割なしの場合は約164MBであり、4分割の場合は約656MBであり、8分割の場合は約1.3GBであった。
【0062】
実施例および比較例において、分割なしの場合、4分割の場合、および、8分割の場合における、1フレームの再生時間を計測した結果を、表5に示す。
【0063】
【表5】
【0064】
比較例では、8分割の場合、全サブフレームを合計したデータ量(約41GB)がメインメモリの容量(32GB)を超えたため、フレームレートが低下し、1フレームの再生時間が極端に長くなった。一方、実施例では、分割なしの場合、4分割の場合、および、8分割の場合のいずれにおいても、1フレームの再生時間は同じであった。なお、実施例では、復号の処理を含むため、分割なしの場合、および、4分割の場合において、1フレームの再生時間が比較例よりも長くなっているが、60Hzの垂直同期信号の周期(約16.6ms)よりも十分に短いため、フレームレートの低下は生じなかった。
【0065】
図12(a)および(b)はそれぞれ、実施例および比較例における、8分割の場合のLCDに表示されたCGHである。同図から明らかなように、両者は完全に一致した。
【0066】
また、図13(a)および(b)はそれぞれ、実施例および比較例における、8分割の場合の再生像である。同図から明らかなように、両者は完全に一致しており、圧縮による再生像の劣化は発生しなかった。
【符号の説明】
【0067】
1 立体像表示装置
2 光源
3 対物レンズ
4 コリメータレンズ
5 空間光位相変調器
6 情報処理装置
7 計算機合成ホログラム(CGH)
61 ハードディスクドライブ(HDD、補助記憶装置)
62 フレームバッファ
63 CGH作成部
64 圧縮部
65 保存制御部
66 復元部
D1 立体像データ
D2 CGHデータ(ホログラムデータ)
D3 圧縮データ
D4 CGH画像データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13