(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】粒子線治療装置、および、粒子線治療装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
G21K 1/093 20060101AFI20241118BHJP
G21K 5/04 20060101ALI20241118BHJP
A61N 5/10 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
G21K1/093 D
G21K5/04 A
A61N5/10 H
(21)【出願番号】P 2021063136
(22)【出願日】2021-04-01
【審査請求日】2024-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】和久田 毅
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-224198(JP,A)
【文献】特開平02-174099(JP,A)
【文献】特開2012-254123(JP,A)
【文献】特開2017-167012(JP,A)
【文献】BAJARD M. et al.,Rotative Gantry for Dose Distribution in Hadrontherapy,Proceedings of EPAC08,イタリア,European Particle Accelerator Conference,2008年06月27日,TUPP110,pp. 1779-1781
【文献】CALZOLAIO C. et al.,Preliminary Magnetic Design of a Superconducting Dipole for Future Compact Scanning Gantries for Pro,IEEE Transactions on Applied Superconductivity,米国,IEEE,2016年02月29日,Vol. 26, No. 3,4401005
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 1/093
G21K 5/04
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子線のビームを出射する加速器と、前記ビームを輸送する輸送系と、前記ビームを被検体に対して照射する照射装置と、前記加速器または前記照射装置を制御する制御装置とを有する粒子線治療装置であって、
前記輸送系は、前記ビームを偏向させる電磁石装置と、前記ビーム形状を調整する4極磁石を含み、
前記4極磁石は、出力を調整されてノーマル4極磁場を発生すると共にわずかに回転させて設置されてスキュー4極磁場を発生し、
前記電磁石装置は、ビーム経路の周囲に配置された少なくとも4つのコイルと、前記コイルに電流を供給する少なくとも2つの電源と、前記2つの電源を制御する電源コントローラとを有し、
前記電源コントローラは、前記4つのコイルの発生する磁場の重ね合わせにより、前記ビーム経路を所定の角度に横切る主磁場が形成され、かつ、前記主磁場の方向および強度を維持しながら、前記主磁場に伴って発生する4極以上の多極磁場が抑制される前記4つのコイルへの供給電流を算出する算出部と、算出した前記供給電流を前記電源から前記4つのコイルに供給させる供給制御部とを備えることを特徴とする
粒子線治療装置。
【請求項2】
請求項1に記載の
粒子線治療装置であって、前記算出部は、前記
制御装置が前記加速器へ設定する強度に基づいて、前記供給電流を算出することを特徴とする
粒子線治療装置。
【請求項3】
請求項1に記載の
粒子線治療装置であって、
回転装置をさらに有し、
前記照射装置および前記4つのコイルは、
前記回転装置に搭載され、前記回転装置は、前記4つのコイルの位置関係を保ったまま、予め定めた軸を中心に回転させ、
前記算出部は、前記回転装置の回転の角度に応じて、前記供給電流を算出することを特徴とする
粒子線治療装置。
【請求項4】
請求項1に記載の
粒子線治療装置であって、前記算出部は、予め定めておいた数式および/またはテーブルを用いて前記4つのコイルへの供給電流を算出することを特徴とする
粒子線治療装置。
【請求項5】
請求項4に記載の
粒子線治療装置であって、
回転装置をさらに有し、
前記照射装置および前記4つのコイルは、
前記回転装置に搭載され、前記回転装置は、前記4つのコイルの位置関係を保ったまま、予め定めた軸を中心に回転させ、
前記テーブルは、前記回転装置の回転角度と、前記
制御装置が前記加速器へ設定する強度と、前記供給電流の値との対応関係を示すものであることを特徴とする
粒子線治療装置。
【請求項6】
請求項1に記載の
粒子線治療装置であって、前記4つのコイルは、それぞれフラットコイルであり、前記4つのコイルのうち第1および第2のコイルは、主平面が、前記ビーム経路内を通過するビームの軸方向を挟んで対向するように配置され、第3および第4のコイルは、側面が、前記ビームの軸方向を挟んで対向するように配置されていることを特徴とする
粒子線治療装置。
【請求項7】
粒子線のビームを出射する加速器と、前記ビームを輸送する輸送系と、前記ビームを被検体に対して照射する照射装置と、前記加速器または前記照射装置を制御する制御装置とを有し、前記輸送系は、前記ビームを偏向させる電磁石装置と、前記ビーム形状を調整する4極磁石を含み、前記電磁石装置は、ビーム経路の周囲に配置された少なくとも4つのコイルと、前記コイルに電流を供給する少なくとも2つの電源とを有する
粒子線治療装置の制御方法であって、
前記4極磁石の出力を調整しノーマル4極磁場を発生させると共にわずかに回転させて設置しスキュー4極磁場を発生させ、
前記4つのコイルの発生する磁場の重ね合わせにより、前記ビーム経路を所定の角度の直径方向に横切る主磁場が形成され、かつ、前記主磁場の方向および強度を維持しながら、前記主磁場に伴って発生する4極以上の多極磁場が抑制される前記4つのコイルへの供給電流を算出し、
前記算出した供給電流を前記電源から前記4つのコイルに供給させることを特徴とする
粒子線治療装置の制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載の粒子線治療装置の制御方法であって、前記粒子線治療装置は、前記照射装置および前記4つのコイルを搭載する回転装置をさらに有し、
前記算出は、前記制御装置が前記加速器へ設定する強度と、前記回転装置の回転の角度とに基づいて前記供給電流を算出することを特徴とする粒子線治療装置
の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビーム輸送用の電磁石装置に関し、特に、磁場調整機能を有する磁石構成および運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陽子や炭素等の重粒子を加速器で加速して粒子ビームを形成し、患者の腫瘍等に照射する粒子線治療装置が知られている。粒子線治療装置は、ビームを加速器によって加速し、加速器から出射された粒子ビームを、輸送系によって必要個所において偏向させながら照射ノズルまで輸送し、照射ノズルよりビームを患者に向かって照射する。加速器や輸送系には、多数の電磁石装置が用いられ、ビームに高精度の磁場を印加する。
【0003】
粒子線治療装置では、細く絞ったビームを腫瘍の形状に合わせてなぞるように走査する照射方法(スキャニング照射法)が普及しており、ビームを走査するために、高速で磁場を変更可能な走査電磁石が用いられる。
【0004】
近年、重い炭素イオン等の重粒子ビームを患者に対して360度任意の角度から照射する回転ガントリを備えた粒子線治療装置が実用化されつつある。重粒子ビームを小さな半径で曲げるためには、陽子よりも強い磁場を必要とするため、超電導偏向磁石が用いられる。
【0005】
加速器に利用される磁場としては、ビームを曲げる2極磁場(偏向磁場)、ビームを収束・発散させる4極磁場、ビームの色収差を補正する6極磁場などがある。加速器では所定のビームの仕様を満足するように、これら偏向磁石、4極磁石等の配置が光学設計により決められ、それらの磁石は正確な磁場を発生する必要がある。例えば、ビーム輸送用の偏向磁石においては偏向磁場強度に対して誤差磁場はその1×10-4のオーダーもしくはそれ以下であることが要求される。
【0006】
ビーム輸送用の超電導磁石装置の一例としては、例えば特許文献1に記載のものが知られている。この発明では、4個以上のフラット状の集中巻線コイルをビーム輸送用のビームダクト周辺の所定の位置に配置することによってビーム輸送に必要な低ひずみの偏向磁場分布を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ビーム輸送用の電磁石装置には非常に精度の高い磁場が要求される。特許文献1では、フラットな集中巻線のコイルを4個以上配置して磁場を形成している。離散化された起磁力源を組み合わせた特許文献1の構成は、偏向磁場を発生するための理想的な巻線方法であるコサインシーター巻きのコイルと比べると、離散化された各コイルの巻線形状の誤差およびそれらの設置誤差(組み立て誤差)によって、誤差磁場が発生することがある。
【0009】
コイルの製作精度を高めることによってその誤差磁場は最小化されるが、ビーム輸送用の磁石においては、誤差磁場は主磁場強度の1×10-4以下に抑える必要があり、コイルの製作精度だけで、それを満足させることは困難である。
【0010】
製作上制御できない誤差磁場に対しては、補正磁場手段を持たせることが必要となり、トリムコイル(磁場補正用電磁石)を配置することとなる。具体的には、製作誤差から発生すると予想される誤差磁場量を推測し、その誤差磁場を補償するためのトリムコイルを配置する。例えば、誤差磁場を多極成分に分解し、分解されたそれぞれの多極磁場成分を発生させるトリムコイルを設置する。
【0011】
しかしながら、多極磁場は起磁力源が磁場中心から遠ざかると急激にその強度が下がるため、トリムコイルは磁場中心側(主磁場磁石の内側)に配置することが望ましい。そのため、ビームダクトの周辺にトリムコイルを配置するためのスペースを確保し、その外側に主磁場磁石を配置することになる。主磁場磁石をビームダクトから遠ざけると、その分ビーム輸送に必要な磁場強度が下がるため、磁石の起磁力を大きくする必要が生じる。また、トリムコイルを運転するための電源などが必要となる。そのため、装置が大規模化するという問題が発生する。
【0012】
本発明の目的は、高精度な磁場の空間分布を維持する簡素な構成のビーム輸送用電磁石装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の電磁石装置は、発生する磁場の少なくとも一部が重なり合うように配置された複数のコイルと、複数の電源とを有する。複数のコイルに通電する電流量を調整することにより、ビーム輸送に必要な磁場強度を保ったまま不要な誤差磁場を抑制する。
【0014】
具体的には、本発明の電磁石装置は、ビーム経路を取り巻くように配置された4つのコイルと、コイルに電流を供給する少なくとも2つの電源と、2つの電源を制御する電源コントローラとを有する。電源コントローラは、4つのコイルの発生する磁場の重ね合わせにより、ビーム経路を所定の角度の直径方向に横切る主磁場が形成され、かつ、主磁場の方向および強度を維持しながら、主磁場に伴って発生する4極以上の多極磁場が抑制される4つのコイルへの供給電流を算出する算出部と、算出した供給電流を電源から4つのコイルに供給させる供給制御部とを備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡素な構成でありながら、製作誤差などで生じる誤差磁場を補償し、高精度な磁場をビームが通過する空間に発生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態の粒子線治療装置の全体構成を示すブロック図。
【
図2】実施形態の電磁石装置を適用した重粒子線治療装置用の偏向磁石203の側面図。
【
図4】
図2の偏向磁石203内の超電導コイル101~104の配置を示す斜視図。
【
図5】実施形態の電磁石装置の超電導コイル101~104に設定される電流C1~C4を示すテーブルの一例を示す図。
【
図6】実施形態の電源コントローラ620の制御動作を示すフローチャート。
【
図7】実施形態の多極成分磁場の座標系の取り方を示す説明図。
【
図8】実施形態の超電導コイルの配置と、電流の向きを示す説明図。
【
図9】実施形態の電磁石装置の起磁力源のノーマル磁場成分強度の角度位置依存性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態について説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されるものではなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。
<粒子線治療装置>
まず、本実施形態の電磁石装置をビーム輸送用の電磁石装置として用いる粒子線治療装置について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
粒子線治療装置の全体構成を
図1に示す。
図1のように、粒子線治療装置は、粒子線を形成する加速器500と、粒子線を輸送するビーム輸送系200と、患者301に粒子線を照射する照射装置300と、患者301を搭載するベッド302と、回転ガントリ400と、制御系600とを備えて構成される。
【0019】
加速器500は、
図1の例では、前段加速器であるライナック501と、ライナック501が形成した粒子線をさらに加速するシンクロトロン502とを備えた構成であるが、この構成に限らず、サイクロトロン等を用いることももちろん可能である。
【0020】
ビーム輸送系200は、加速器500で形成された粒子線を輸送するダクト204と、ダクト204内の粒子線(ビームとも呼ぶ)に偏向磁場を印加する偏向磁石201、202、203と、粒子線を収束させる磁場を印加する四極磁石211と、軌道補正磁石212とを備えている。
【0021】
ダクト204には、回転連結部214が設けられ、回転連結部214よりも先端側は、回転連結部214よりも加速器500寄りの固定部に対して、回転連結部214の機構によって、軸1213を中心に回転可能に構成されている。
【0022】
回転ガントリ400は、ベッド302の周囲に配置され、回転軸1213を中心に回転するリング状の構造体(回転リング)401と、回転リングを回転駆動する駆動部402を含む。
【0023】
回転連結部214よりも先端側のビーム輸送系200および照射装置300は、回転リング401に搭載され、回転リング401が回転するのに伴って、回転軸1213を中心に回動する。
【0024】
照射装置300には患部の形に合わせてビーム照射位置を移動するための走査用電磁石303が搭載されている。
【0025】
加速器500から出射されたビームは、ビーム輸送系200を通過する間に、偏向磁石201、202、203によってビーム輸送経路に沿って曲げられて移送され、4極磁石211や軌道補正磁石212によってビームの形状や位置が調整される。また、ビームは、照射装置300に設置された走査電磁石303によって、ビームの軸方向216に対して垂直な方向に振られ、これにより患部をなぞるように照射される。
【0026】
これらの偏向磁石201~203、四極磁石211、および、軌道補正磁石212は、ビームのエネルギーに合わせて発生磁場強度が変更される。偏向磁石203については、後で詳しく説明する。
【0027】
なお、ビームのエネルギー変更は、加速器500において行ってもよいし、輸送系200の途中にディグレーダを配置して所望量減衰させることによりエネルギーを変更してもよい。
【0028】
制御系600は、装置全体を制御する制御装置610と、電源コントローラ620とを含む。制御装置610は、加速器500の出射するビーム強度の制御や、回転ガントリ400の駆動部402の制御を行う。電源コントローラ620は、偏向磁石201-203の電源を制御する。
【0029】
<偏向電磁石203の構成例>
以下、
図2、
図3および
図4を用いて、偏向磁石203について説明する。偏向磁石203は、粒子線を30度偏向させる電磁石1230を、ダクト204に沿って3つ並べ、90度偏向させる構成である。なお、偏向磁石201、202も、構成する電磁石1230の個数が偏向磁石203とは異なるが、基本的な構成は同様である。
【0030】
図2は、偏向磁石203の側面図、
図3は、
図2のA-A’断面図である。
図4は、偏向磁石203内の超電導コイルの配置を示す斜視図である。偏向磁石203は、断熱容器110と、冷凍機120と、断熱容器110の内部に配置された3つの電磁石1230とを備えている。3つの電磁石1230は、それぞれビーム経路(ダクト204)の周囲に配置された少なくとも4つの超電導コイル101、102、103、104と、超電導コイル101~104に電流を供給する少なくとも2以上(ここでは4つ)の電源41~44と、電源41~44を制御する電源コントローラ620を含む。
【0031】
超電導コイル101~104にはそれぞれリード31a、31b、32a、32b、33a、33b、34a、34bが接続され、リード31a等を介して、電源41~44にそれぞれ接続されている。リード31a等は、断熱容器110を貫通している。
【0032】
図2~
図4に示すように、超電導コイル101、102、103、104は、それぞれフラットコイルであり、超電導コイル103と超電導コイル104は、主平面が、ビームの軸方向216を挟んで対向するように配置されている。超電導コイル101と超電導コイル102は、側面が、ビームの軸方向216を挟んで対向するように配置されている。
【0033】
具体的には、超電導コイル101~104は、主平面内に長径と短径を有する扁平な形状に巻回され、長径がダクト204の軸方向(ビームの軸方向216)に沿うように配置されている。長径方向は、ダクト204の湾曲に沿うように湾曲している。超電導コイル101~104は、いずれもその主平面が、粒子線を偏向させる面内に平行になるように、ダクト204の周囲の4方向に配置されている。超電導コイル101と102は、その主平面が、ダクト204を通過するビームの軸方向216を挟んで対向するように配置され、超電導コイル103と104は、側面が、ビームの軸方向216を挟んで対向するように配置されている。
【0034】
断熱容器110は、真空容器111とその内側に配置された輻射シールド112とを備えている。冷凍機120は、断熱容器110に搭載されている。例えば、冷凍機120は、1段目(例えば40k)が輻射シールドに熱的に接続されており、輻射シールド112を1段目の温度まで冷却する。2段目(例えば4k)は、銅のメッシュ等(不図示)により超電導コイル101~104に熱的に接続されており、伝導冷却により超電導コイル101~104を冷却する。
【0035】
電磁石1230を構成する超電導コイル101~104は、それぞれ断熱容器110内の他の電磁石1230を構成する対応する位置の超電導コイル101~104と電気的に直列接続されている。直列接続された4組の超電導コイルは、
図3に示すように、それぞれ断熱容器110に設置された電流リード41aおよび41b、42aおよび42b、43aおよび43b、44aおよび44bの端部に接続されている。電流リード41aおよび41b、42aおよび42b、43aおよび43b、44aおよび44bの他端は、断熱容器110の内部から外部に引き出され、断熱容器110の外部に設置された電源41、42、43、44に接続されている。これにより、超電導コイル101、102、103、104は、それぞれ電源41、42、43、44から供給される電流によって運転される。
【0036】
超電導コイル101~104は、それぞれが形成する磁場を重ね合わせて、ダクト204内を輸送される粒子線に対して所定の強度分布の主磁場213を形成して印加する。具体的には、粒子線の進行方向216を所定の角度(ここでは垂直)に横切る方向に主磁場213を印加する。これにより、磁場方向213および粒子線の進行方向216に対して直交する方向215へ粒子線を偏向させる。
【0037】
電源コントローラ620は、
図2に示すように、4つの超電導コイル101~104への供給電流を算出する算出部621と、算出した供給電流を電源41~44から4つの超電導コイル101~104にそれぞれ供給させる供給制御部622とを備えている。4つの超電導コイル101~104の発生する磁場の重ね合わせにより、ビーム経路(ダクト204)を所定の角度の直径方向に横切る主磁場213が形成され、かつ、主磁場213の方向および強度を維持しながら、主磁場213に伴って発生する4極以上の多極磁場が抑制される供給電流を算出部621は算出するように構成されている。
【0038】
4極以上の多極磁場は、ビーム強度の変化や、回転ガントリ400の回転により偏向磁石203と他の構成物との位置関係の変化、に伴って変化する。よって、算出部621は、ビームの強度や回転ガントリ400の回転角度に基づいて、主磁場213の方向および強度を維持しながら4極以上の多極磁場を抑制することができる超電導コイル101~104への供給電流値を算出する。ビームの強度や回転ガントリ400の回転角度は、本実施形態では電源コントローラが制御装置610から受け取る構成であるが、ビーム強度や回転角度をセンサ等により計測して、算出部621が供給電流値の算出に用いてもよい。
【0039】
具体的には、算出部621は、予め定めたおいた数式やテーブルを用いて4つのコイルへの供給電流を算出する。テーブルとしては、例えば、
図5に一例を示すように、回転ガントリ400の回転角度と、ビームの強度と、超電導コイル(C1~C4)101~104への供給電流値との対応関係を示すものを用いる。テーブル内の供給電流値は、予め計算または実験により求めておく。
【0040】
また、算出部621が数式に基づいて、供給電流値を求める場合、回転ガントリ400の回転角度の代表的な2以上の値と、ビームの強度の代表的な2以上の値との組み合わせについて、予め計算または実験により供給電流値を求めておき、算出部621は、それらの値を用いて、補間計算や外挿計算等により、実際のビームの強度や回転ガントリ400の回転角度に対応する供給電流値を算出する構成にすることができる。
【0041】
<電源コントローラ620による電源41~44の制御動作>
電源コントローラ620による偏向磁石203の制御について
図6のフローを用いて説明する。
【0042】
電源コントローラ620は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサーと、メモリ623とを備えたコンピュータ等によって構成することができる。メモリ623内には、テーブル624の他にプログラムが予め格納されている。CPUは、メモリ623に格納されたプログラムを読み込んで実行することにより、算出部621と供給制御部622の機能を実現する。
【0043】
なお、電源コントローラ620は、その一部または全部を、ハードウエアにより構成することも可能である。例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)のようなカスタムICや、FPGA(Field-Programmable Gate Array)のようなプログラマブルICを用いて、算出部621や供給部622の機能を実現するように回路設計を行えばよい。
【0044】
算出部621は、制御装置610からビーム出射を開始したことを示す信号を受け取ったならば(ステップ61)、制御装置610から現在のガントリ回転角、ビーム強度を取り込む(ステップ62)。ガントリ回転角は、制御装置610が、回転ガントリ400の駆動部402に出力している回転角を指示する制御信号を、算出部621が取り込むことにより取得する。ビーム強度は、制御装置610が加速器500へビーム強度を設定する制御信号を、算出部621が取り込むことにより取得する。
【0045】
算出部621は、メモリ623内のテーブル624を参照し、ステップ62で取り込んだガントリ回転角、ビーム強度に対応する電流値C1,C2,C3,C4を求める(ステップ63)。算出部621は、供給制御部622に電流値C1,C2,C3,C4を設定する(ステップ64)。これにより、供給制御部622は、電源41~44の出力電流が電流値C1,C2,C3,C4になるように制御する。
【0046】
これにより、ビーム経路(ダクト204)を所定の角度の直径方向に横切る主磁場213が形成される。また、回転ガントリ400の回転角やビーム強度の変化に応じて、電流値C1,C2,C3,C4が変化することにより、主磁場213の方向および強度を維持しながら、主磁場213に伴って発生する4極以上の多極磁場が抑制される。
【0047】
算出部621は、制御装置610がビームの出射を終了したかどうかを判定し、出射が継続している場合は、ステップ62に戻って、電流制御を継続する。ビーム出射が終了したならば電源コントローラ610による、電源41~44の電流制御も終了する(ステップ65)。
【0048】
<実施形態の効果>
このように、本実施形態の偏向磁石203では、粒子線の偏向に必要な磁場213を発生するコイルを超電導コイル101~104に分割し、電源41~44からそれぞれ独立に供給する電流を、電源コントローラ621が算出した電流値にコントロールして制御する。これにより、超電導コイル101~104がつくる磁場を重ね合わせてダクト204内に所望の方向の主磁場213を形成しながら、多極磁場を低減することができる。
【0049】
言い換えるならば、超電導コイル101~104は、ダクト204内に特徴的な多極展開磁場を発生するような位置に配置されており、したがってそれらのコイルの起磁力を調整することによって磁場213に対して、多極磁場を混合することが可能である。すなわち、磁石の製作誤差によって発生する不要な多極磁場を起磁力調整によってキャンセルすることができる。
【0050】
これにより、トリムコイル等の磁場補正手段を設置することなく、製作誤差や、ビーム強度の変化や、回転ガントリ400の回転によって発生する不要な多極磁場を補償することが可能なビーム輸送用の電磁石を提供することができる。
【0051】
<超電コイル101~104の電流値C1,C2,C3,C4の算出方法>
上述したように主磁場213は、ビームのエネルギーに応じて一定に保たれる必要がある。本実施形態では、4つの電源(41、42、43、44)によってそれぞれ励磁された超電導コイル101~104が発生する磁場が重ねあわされた主磁場213によってビームが偏向されることから、磁場213が所定の値となるように電源(41、42、43、44)の電流値C1,C2,C3,C4は適切に制御される。
【0052】
ビーム輸送用の電磁石では磁場の安定度が必要である。偏向半径2.4mに磁石において偏向磁場の強度が設計値から1×10-4だけ異なると、偏向磁石出口においてビーム位置が0.24mmずれることになる。そのため、粒子線治療装置用の回転ガントリ用の磁石では主磁場の安定度が1×10-4よりも良好であることが要求される。
【0053】
ビーム輸送用の磁石ではビーム強度に応じて主磁場強度も変化させる必要があり、重粒子線治療装置用の磁石では、定格磁場強度に対し20%~100%の間で磁場強度を変化させる。空芯磁石では電磁力によるコイルの変形によって磁場均一性がわずかに変化し、鉄芯、磁性体シールドなど磁性体を備える磁石の場合にはさらにその磁性材料の磁化の変化によって磁場均一性は変化(多極磁場成分が発生)する。鉄製のクライオスタット(磁性体シールド)の場合には対称性により主に6極磁場成分を発生し、その強度は主磁場の積分強度に対して1×10-4のオーダーとなり補正が必要である。
【0054】
回転ガントリの最下流にはビームを90度曲げる偏向磁石があり、この磁石は3つの超電導磁石で構成されている。超電導磁石は断熱真空容器(クライオスタット)内に断熱支持されているが、回転ガントリの回転とともに磁石自重によりわずかな位置ずれ、回転が生じる。0.1度の磁石回転によって生じる4極磁場、6極磁場は1.5×10-5程度であるが10-4の磁場精度が要求されるため無視はできない量である。
【0055】
本実施の形態の電流制御によれば、主磁場の強度をビーム偏向に必要な強度に維持しながら、4極磁場、6極磁場、8極磁場をそれぞれ1×10-5以下にできる。
【0056】
C1,C2,C3,C4の電流値は、以下のようにして算出することができる。各コイルに単位電流(密度)の電流を通電した時に、各コイルがビーム経路上につくる磁場を予め計算し多極展開をしておく。そしてその多極展開した磁場を経路に沿って積分することによって積分多極磁場のデータを得る。さらに、回転ガントリ筐体に組みつける前の単体磁石の状態で通電を行ってビームダクト内の磁場分布の計測を行う。両者の突き合わせによって、磁場補正用の各コイルに単位電流を通電した時の積分多極磁場強度のデータ(感度データ)を生成する。この感度データを用いて、観測された磁場分布またはビームスポット形状を補正するような電流配分を逆問題を解いて決定することによって、C1,C2,C3,C4の電流値が算出される。
【0057】
磁石を回転ガントリ筐体に組付け後、ある程度ビームが通るように調整を行った後、電流補正テーブルを作成する。ビームエネルギーをある値に設定し回転ガントリをある角度位置に固定した状態でビームを通し、ビームモニターによってビーム形状を観測し、形状から推定される残留誤差多極磁場を補正するように電流値の微調整を行う。代表的なガントリ角度およびビームエネルギー強度に対して、この作業を行って補正電流テーブルを構築する。中間のガントリ位置やエネルギー状態に対しては、テーブル補間処理を行って補正電流量を決定する。
【0058】
<多極磁場とコイル配置について>
(磁場設計について)
以下に、ビーム輸送用電磁石の設計に関し磁場の表式と磁場設計の概念について説明する。円弧状にビームを輸送する電磁石であっても、まずは、無限直線状起磁力源を用いた磁場設計を行い、それをベースにして3次元化する手法がとられる。無限直線状起磁力(電流)がつくる磁場について説明する。
【0059】
図7は、多極成分磁場についての説明をするための座標系の取り方ついての説明図である。ここでは、
図7に示すような座標系を考える。起磁力源を直線状の電流Iとし、電流は紙面に対して垂直に手前から奥に向って流れているものとする。磁場の方向をz軸方向に取る。電流の位置は、座標原点からの距離をfとし、x軸からなす角をφで与える。磁場評価点の位置は同様に、rとθで与えることとする。
【0060】
この時、原点周辺の磁場Bz(r、θ)は、
【数1】
と、原点からの距離rのべき乗で展開した表式で書くことができる。ここでnは展開次数である。
【0061】
次数nの磁場にBn(r、θ)を
【数2】
のようにBn、nl(r、θ)とBn、sw(r、θ)の2成分の和の形で表現する。
【0062】
Bn、nl(r、θ)とBn、sw(r、θ)は
【数3】
【数4】
の表式で書き表され、それぞれをノーマル2(n+1)極磁場、スキュー2(n+1)極磁場と呼ぶことにする。n=0の場合にはスキュー磁場はゼロになるからノーマル磁場しか存在しない。n=0の磁場がビーム輸送に使われる偏向磁場であり、n=1のノーマル4極磁場がビームの収束・発散に利用される。
【0063】
ビーム飛行経路を一定の曲率で偏向させるためには一様な磁場が必要であり、偏向用電磁石では、基本的にn=0次の一様磁場(2極磁場)だけを残してそれ以外の次数の磁場成分(多極成分磁場ともいう)はゼロにする磁場設計を行う。
【0064】
2極磁場が得られるコイル巻線方法(電流配置方法)としてはコサインシータ巻線がよく使われている。これは、
図7における座標系において電流の強度(電流分布)をx軸からなす角θに対してcos(θ)状に分布させる配置方法である。
【0065】
式3および式4において、多極展開磁場強度の電流ソースの角度位置に関する依存性はcos[(n+1)φ]およびsin[(n+1)φ]の部分であるが、電流の強度分布としてcos(φ)の分布をもたせて積分をすればn=0以外の項はゼロとなることからわかるように、コサインシータ巻線では2極磁場のみが得られる。
【0066】
本発明及び/又は本実施形態では、いわゆるコサインシータ巻きの電流密度分布が連続的に変化する分布巻線コイルではなく、矩形断面のコイルが離散的に配置された体系によって偏向磁石を実現しようとしている。
【0067】
この場合であっても、コサインシータ巻線の場合と同様に、n=0以外の多極成分磁場をゼロ(又は、ゼロに近い値、無視できる値、等)とするようなコイル配置としなければならない。
【0068】
本実施形態のように、2次元平面内で電流起磁力源を上下対称(x軸に対して)に配置すると、式4から分かるようにスキュー成分の磁場はすべてキャンセルされるため、ノーマル成分のみに着目して磁石の設計ができる。さらに、左右反対称(z軸に対して)に起磁力源を配置することによって、ノーマル成分の磁場のうちnが奇数次の磁場成分はキャンセルされる。ここで左右反対称とはコイル断面形状がz軸に対して対称であり、電流の向きが反対であることをいう。
図8での丸の中央に点が打たれた印は電流が紙面奥から手前に向かって流れていることを示し、丸にバツの印は電流が紙面奥に向かって流れていることを示す。
【0069】
したがって設計上考慮すべき磁場はnが偶数次の項のみであり、残すべきn=0の2極磁場以外のn=2の6極磁場、n=4の10極磁場、n=6の14極磁場、、、等をキャンセルする磁場設計を行なうこととなる。n次の磁場は次数が高いほど(r/f)のn乗でその強度は小さくなっていくため、無限に高い次数の磁場までをキャンセルする必要はなく、キャンセルすべき磁場に関しては、ビームが通過する領域において要求される磁場精度によって決定される。
【0070】
(コイル配置の原理)
図9に起磁力源のノーマル磁場成分強度の角度位置依存性を示すグラフを示す。ノーマル磁場成分の角度依存性はcos[(n+1)φ]であり、n=0、2、4に対して図示した。
【0071】
n=0次の磁場は電流の角度位置に対してcos[φ]の依存性があるため、なるべくx軸に近づけて)電流(コイル)を配置するのが効率が良く、cos[φ]が0.5以上1以下となる領域に正の主たる起磁力を、-1以上-0.5以下となる領域に負の主たる起磁力を配置する。x>0、z>0の第一象限を考えると、偏向磁場を発生させるためにx軸から60度の範囲に正の起磁力を配置する。(すなわち、外側に配置される漏洩磁場低減用の逆向きの起磁力源考慮にいれない)。
【0072】
次にn=2次の磁場を考える。第一象限で0度から60度範囲でcos[3φ]はφ=30度のところで符号が変化する。0から60度の範囲に正の起磁力のみを配置することにするので、n=2次の磁場をキャンセルするために、このφ=30度のラインをまたぐように起磁力源を配置する。
【0073】
したがって、
図8に示すように本実施形態のように最小個数の4つのコイルで偏向磁石を実現するためには、上下対称性、左右反対称性を考えφ=±30度および±150度のラインを境とする第一および第二の低角度領域に同じ形状の、第一と第二の高角度領域に同じ形状のコイルを配置する。
【0074】
<ノーマル4極、8極磁場の調整>
n=1のノーマル4極磁場の電流ソースの角度位置に関する依存性はcos(2φ)であり、左右反対称の起磁力源(起磁力の符号が逆で位置が180度―φ)のセットは、その出力を持たないので、第一および第二の高角度領域に配置される左右反対称のコイル(103、104)の電流を調整してもノーマル4極磁場を調整することはできない。第一および第二の低角度領域に配置されるコイル(101、102)の電流量を調整することによってノーマル4極磁場を発生することができる。
【0075】
n=3のノーマル8極磁場の電流ソースの角度位置に関する依存性はcos(4φ)であり、左右反対称の起磁力源(起磁力の符号が逆で位置が180度―φ)のセットは、その出力を持たないので、第一および第二の高角度領域に配置される左右対称のコイル(103、104)の電流を調整してもノーマル8極磁場を調整することはできない。第一および第二の低角度領域に配置されるコイル(101、102)の電流量を調整することによってノーマル8極磁場を発生することができる。
【0076】
n=1とn=3の磁場成分を独立に調整するためには自由度が不足しているが、一般にビーム輸送用の電磁石装置には、ビーム形状を調整するために4極磁石が別途配置されることから、この外部に設置される4極磁石の出力を調整することによって、ノーマル4極とノーマル8極磁場についての磁場補正が可能となる。
【0077】
なお、n=5以上の磁場成分に対しては、磁石自体が発生する磁場強度が小さいため、誤差磁場の量も小さく磁場補正対象とはならないし、また、起磁力調整によってわずかに発生する磁場についてもビーム輸送に影響はないので無視できる。
【0078】
<ノーマル6、10極磁場の調整>
n=2のノーマル6極磁場の電流ソースの角度位置に関する依存性はcos(3φ)であり、左右反対称の起磁力源(起磁力の符号が逆で位置が180度―φ)のセットにおいてもその出力を有する。したがって、第一および第二の高角度領域(103、104)と第一および第二の低角度領域のすべてのコイル(101、102)の電流調整によりノーマル6極磁場を発生させることができる。
【0079】
n=4のノーマル10極磁場の電流ソースの角度位置に関する依存性はcos(5φ)であり、ノーマル6極磁場と同様に、第一および第二の高角度領域と第一および第二の低角度領域のすべてのコイル(101~104)の電流調整によりノーマル10極磁場を発生させることができる。
【0080】
n=2とn=4の磁場成分を独立に調整するためには自由度が不足しているが、なお、n=4以上の磁場成分に対しては、磁石自体が発生する磁場強度が小さいため、誤差磁場の量も小さく磁場補正対象とはならないし、また、起磁力調整によってわずかに発生する磁場についてもビーム輸送に影響はないので無視できる。
【0081】
<スキュー4、6、8極磁場の調整>
n=1のスキュー4極磁場の電流ソースの角度位置に関する依存性はsin(2φ)であり、上下対称の起磁力源(起磁力の符号が同じで位置が―φ度)は、その出力を持たないので、第一および第二の低角度領域に配置される赤道面に対して対称形状のコイル(101、102)の電流を調整してもスキュー4極磁場を調整することはできない。第一および第二の高角度領域に配置されるコイル(103、104)の電流量を調整することによってスキュー4極磁場を発生することができる。
【0082】
n=2のスキュー6極磁場の電流ソースの角度位置に関する依存性はsin(3φ)であり、上下対称の起磁力源(起磁力の符号が同じで位置が―φ度)は、その出力を持たないので、第一および第二の低角度領域に置される赤道面に対して対称形状のコイル(101、102)の電流を調整してもスキュー6極磁場を調整することはできない。さらに、左右反対称の起磁力源(起磁力の符号が逆で位置が180度―φ)のセットは、その出力を持たないので、第一および第二の高角度領域に配置される左右反対称のコイル(103、104)の電流を調整してもスキュー6極磁場を調整することはできない。したがって、左右反対称、上下対称の起磁力配置をもつ本実施の形態ではスキュー6極磁場を補正することはできない。
【0083】
n=3のスキュー8極磁場の電流ソースの角度位置に関する依存性はsin(4φ)であり、上下対称の起磁力源(起磁力の符号が同じで位置が―φ度)は、その出力を持たないので、第一および第二の低角度領域に配置される赤道面に対して対称形状のコイル(101、102)の電流を調整してもスキュー8極磁場を調整することはできない。第一および第二の高角度領域に配置される左右反対称のコイル(103、104)はスキュー8極磁場に対しては本来出力を有するが、本実施の磁石では、第一および第二の高角度領域に配置されるコイル(103、104)は、第一象限において30度から60度の範囲に置かれたコイルの上下対称、左右反対称のコイルとなる。スキュー8極磁場はソースが45度の位置あるときにその出力はゼロとなるため、本実施の形態ではスキュー8極磁場の補正能力はほとんどない。
【0084】
このように、本実施の形態の磁石ではスキュー成分に関しては4極磁場以外の磁場補正能力は本質的にない。しかし、スキュー多極磁場は上下非対称の起磁力源によって発生するものであり、ペアリングをすることによって上下対称を厳しく管理して磁石を製作することにより、n=2以上のスキュー成分の誤差磁場の発生は抑制でき、問題とはならない。
【0085】
<磁場補正まとめ>
本実施の形態では、以下の多極磁場成分の磁場補正を行うことができる。
1)ノーマル4極磁場
2)ノーマル6極磁場
3)ノーマル8極磁場
4)スキュー4極磁場
ノーマル4極磁場とノーマル8極磁場については、第一および第二の低角度領域に配置されたコイル(101、102)の起磁力に差をつけることによって補正磁場を発生できるが、自由度が不足するために外部に設置されたビーム形状を調整する4極磁石を利用しノーマル4極磁場を活用することによって、独立に調整が可能である。
【0086】
ノーマル6極磁場について、第一および第二の低角度領域に配置されたコイル(101、102)の起磁力総量と第一および第二の高角度領域に配置されたコイル(103、104)の起磁力総量との間に差をつけ、その際に第一および第二の高角度領域に配置されたコイルの起磁力を同じだけ変化させることによってノーマル6極磁場を単独に調整が可能である。
【0087】
スキュー4極磁場については、第一および第二の高角度領域に配置されたコイル(103、104)の起磁力に差をつけることによってスキュー4極磁場を単独に調整が可能である。
【0088】
<スキュー4極補助磁場補正手段>
4つの多極磁場成分に対しては独立に誤差磁場補正が可能であり、それぞれの多極補正磁場を発生させるために必要な電流を重ね合わせた補正電流を各コイルに追加することによって、磁場補正可能である。しかし、超電導コイルに通電しうる電流には限界があり磁場補正能力は追加できる補正電流の量によって制限される。
【0089】
特に、スキュー4極磁場とノーマル6極磁場の補正磁場を発生する第一と第二の高角度領域に配置されるコイル(103、104)に対しては、このコイルの負荷率は磁石設計上大きくなることから、大きな補正電流を追加することはできない。
【0090】
ノーマル6極磁場の補正能力を大きく保つためには、起磁力調整によるスキュー4極磁場の調整能力の割り当てを減らす必要がある。そのためには補助的なスキュー4極磁場補正手段の活用が有効である。超電導偏向磁石の外部にはビーム形状を補正するための常電導4極磁石211が設置されている。この4極磁石はノーマル4極磁場を発生するように構成されており、ノーマル4極磁場の誤差磁場の補正に対しても活用されるが、さらにこの磁石をわずかに回転させて設置することによりスキュー4極磁場を発生することが可能である。
【0091】
あらかじめ超電導偏向磁石は発生するスキュー4極磁場強度を測定しておき、この磁場を大まかにキャンセルするように4極磁石211を回転させて設置する。超電導偏向磁石の起磁力調整によって補償しないといけないスキュー4極磁場が減るため、ノーマル6極磁場補正のための追加補正電流をより多く流すことが可能となる。
【0092】
以上のように、追加の補正磁場発生手段を新たに設置することなく、偏向磁石の起磁力調整によって、製作誤差によって生じる、ノーマル4極、6極、8極磁場およびスキュー4極磁場を補償することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の電磁石装置は、ビーム輸送用の超電導磁石であり様々なビーム輸送を必要とする装置に対して適用可能である。例えば、粒子線治療装置の電磁石として有用であり、粒子線治療装置を高性能化および小型化できる。
【符号の説明】
【0094】
20、21…コイル、20m、21m…磁場、
31a、31b、32a、32b、33a、33b、34a、34b…リード、
41、42、43、44…電源(励磁電源)
101~104…コイル、110…断熱容器、120…冷凍機、200…ビーム輸送系、
201、202、203…偏向磁石、204…ダクト、211…四極磁石、212…軌道補正磁石、214…回転連結部、301…患者、300…照査装置、302…ベッド、303…走査用電磁石、400…回転ガントリ、500…加速器、501…ライナック、502…シンクロトロン、1213…回転軸、1230…電磁石