(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】フレキシブル電子デバイス用金属張積層板及びこれを用いたフレキシブル電子デバイス
(51)【国際特許分類】
B32B 7/025 20190101AFI20241118BHJP
B32B 15/088 20060101ALI20241118BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20241118BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20241118BHJP
H05B 33/02 20060101ALI20241118BHJP
H05B 33/04 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
B32B7/025
B32B15/088
B32B15/08 J
H05B33/14 A
H05B33/02
H05B33/04
(21)【出願番号】P 2021545582
(86)(22)【出願日】2020-09-10
(86)【国際出願番号】 JP2020034215
(87)【国際公開番号】W WO2021049556
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2019165629
(32)【優先日】2019-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】王 宏遠
(72)【発明者】
【氏名】中塚 淳
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】河合 翔平
(72)【発明者】
【氏名】平石 克文
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-073348(JP,A)
【文献】特開2017-064709(JP,A)
【文献】特開2018-170417(JP,A)
【文献】特開2011-097007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B15/08
B32B15/088
B32B7/025
H05K1/03
H05B33/02
H01L51/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層と、前記金属層の片面に積層された単層又は複数層のポリイミド層を含むポリイミド絶縁層と、を有するフレキシブル電子デバイス用金属張積層板であって、
前記ポリイミド絶縁層が下記の条件(a)~(f);
(a)厚みが3μm以上25μm以下の範囲内であること;
(b)前記金属層に対する厚み比が0.1以上0.5以下の範囲内であること;
(c)熱膨張係数が25ppm/K以下であること;
(d)湿度膨張係数が30ppm/%RH以下であること;
(e)前記金属層と接触していない露出面の算術平均粗さ(Ra)が1.0nm以下であること;
(f)前記金属層と接触していない露出面を有しているポリイミド層を構成するポリイミドが非熱可塑性であること;
を満たす
とともに、前記金属層の引張弾性率に対する前記ポリイミド絶縁層の引張弾性率の比が1/70以上1/10以下の範囲内であることを特徴とするフレキシブル電子デバイス用金属張積層板。
【請求項2】
前記金属層の熱膨張係数が1ppm/K以上25ppm/K
以下の範囲内であることを特徴とする請求項
1に記載のフレキシブル電子デバイス用金属張積層板。
【請求項3】
前記金属層の厚みが10μm以上50μm以下の範囲内であることを特徴とする請求項
1に記載のフレキシブル電子デバイス用金属張積層板。
【請求項4】
前記ポリイミド絶縁層が単層であることを特徴とする請求項
1に記載のフレキシブル電子デバイス用金属張積層板。
【請求項5】
水蒸気透過率が10
-6g/(m
2・day)以下であることを特徴とする請求項
1に記載のフレキシブル電子デバイス用金属張積層板。
【請求項6】
23℃、湿度50%の雰囲気下、24時間調湿後の50mm角の中央部の凸面が平らな面上に接するように静置し、4角の浮き上がり量の最大値を反り量としたとき、反り量が10mm以下であることを特徴とする請求項
1に記載のフレキシブル電子デバイス用金属張積層板。
【請求項7】
請求項
1~6のいずれか1項に記載のフレキシブル電子デバイス用金属張積層板と、前記フレキシブル電子デバイス用金属張積層板における前記ポリイミド絶縁層の前記金属層と接触していない露出面に積層された有機EL層と、を備えたフレキシブル電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ELディスプレイ、有機EL照明などの各種のフレキシブル電子デバイス材料として有用なフレキシブル電子デバイス用金属張積層板、及びこれを用いたフレキシブル電子デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)・液晶装置等の表示装置やタッチパネルは、テレビのような大型ディスプレイや、携帯電話、パソコン、スマートフォン、車載ディスプレイなどの中・小型ディスプレイをはじめ、各種のディスプレイの構成部材として使用される。例えば、有機EL装置は、一般に支持基板であるガラス基板上に薄膜トランジスタ(TFT)を形成し、更にその上に電極、有機EL層及び電極を順次形成し、これらをガラス基板や多層薄膜等で気密封止して作られる。
【0003】
近年、有機EL装置にフレキシブル性を付与するため、ガラス基板に代えて、ステンレスや樹脂フィルムなどの可撓性を有する材質で構成されたフレキシブル基板が用いられるようになっている。有機EL装置に用いるフレキシブル基板には、ガスバリア性、平滑性及び絶縁性が重要な特性として求められる。
ガスバリア性は、フレキシブル基板材料として樹脂を用いる場合に、水蒸気などのガス成分を透過させないために必要となる特性であり、様々な環境条件で使用される有機EL装置の耐久性と信頼性に影響する。
平滑性は、複数の有機EL層を均一に成膜するために重要であり、ガラス基板と同等の平滑性が必要となる。
絶縁性は、フレキシブル基板上に形成した複数の有機EL素子を独立して制御できるようにするために必要であり、絶縁性が不十分であると素子間の短絡が生じて不具合の発生原因となる。
【0004】
フレキシブル基板材料として用いられるステンレス箔は、可撓性とガスバリア性に優れているものの、平滑性及び絶縁性を担保できないため、ステンレス箔上に有機材料や無機材料の薄膜を積層することが必要となる。例えば、有機EL素子用のフレキシブル基板として、ステンレス箔上に、ゾルゲル法によるメチル基含有シリカ系被膜とフェニル基含有シリカ系被膜を積層した構造の絶縁被膜付きステンレス箔が提案されている(例えば、特許文献1など)。特許文献1では、ゾルゲル法によって形成したメチル基含有シリカ系被膜とフェニル基含有シリカ系被膜との組み合わせによって、ステンレス箔表面の疵や異物などの影響を緩和して平滑性を担保できる、とされている。
【0005】
また、ステンレス箔の代わりに、ポリイミドフィルムを用い、ゾルゲル法による有機基含有シリカ膜を積層した有機EL素子用積層体が提案されている(例えば、特許文献2など)。しかし、ポリイミドフィルムは、ステンレス箔に比べてガスバリア性に劣ることから、様々な環境下で使用される有機EL装置の耐久性や信頼性の担保という点で懸念がある。また、ゾルゲル法による被膜は平滑性に優れているものの、フレキシブル性を損なわないようにするために、厚みを3μm程度に抑えなければならないため、絶縁性の確保という点でも不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-87310号公報
【文献】特開2017-73345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のとおり、フレキシブル電子デバイス用途に用いられるフレキシブル基板は、ガスバリア性、平滑性及び絶縁性という3つの要求特性を同時に満足させることが必要である。そのため、従来技術の組み合わせとして、ステンレス箔とポリイミド絶縁層とゾルゲル膜とを積層することによって、ガスバリア性と絶縁性と平滑性のすべてを改善することも考えられる。しかし、製造工程が煩雑になるというデメリットがあり、また、各層の熱膨張係数の制御が困難になって反りが発生しやすくなるというデメリットも予想される。
すなわち、金属、樹脂、無機材料などの異なる物性を有する異種材料を多層に積層して複合化させた場合、反りの発生が問題となりやすい。また、分子内に多くの極性基を含むポリイミドは吸湿性が高いため、環境湿度の季節変動によってポリイミド絶縁層に伸縮が生じて想定外の反りが発生することが懸念される。さらに、ステンレス箔とポリイミド絶縁層との接着性を確保しなければならないという、特許文献1、2において検証されていない新たな課題も克服する必要がある。
【0008】
従って、本発明の目的は、ガスバリア性、平滑性及び絶縁性という3つの要求特性を同時に担保できるとともに、反りが抑制され、さらに金属層とポリイミド絶縁層との接着性にも優れるフレキシブル電子デバイス用金属張積層板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、金属層と積層されるポリイミド絶縁層として、特定の厚みと物性を有するものを用いることによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明のフレキシブル電子デバイス用金属張積層板は、金属層と、前記金属層の片面に積層された単層又は複数層のポリイミド層を含むポリイミド絶縁層と、を有するものである。本発明のフレキシブル電子デバイス用金属張積層板は、前記ポリイミド絶縁層が下記の条件(a)~(f);
(a)厚みが3μm以上25μm以下の範囲内であること;
(b)前記金属層に対する厚み比が0.1以上0.5以下の範囲内であること;
(c)熱膨張係数が25ppm/K以下であること;
(d)湿度膨張係数が30ppm/%RH以下であること;
(e)前記金属層と接触していない露出面の算術平均粗さ(Ra)が1.0nm以下であること;
(f)前記金属層と接触していない露出面を有しているポリイミド層を構成するポリイミドが非熱可塑性であること;
を満たすことを特徴とする。
【0010】
本発明のフレキシブル電子デバイス用金属張積層板は、前記金属層の引張弾性率に対する前記ポリイミド絶縁層の引張弾性率の比が1/70以上1/10以下の範囲内であってもよい。
【0011】
本発明のフレキシブル電子デバイス用金属張積層板は、前記金属層の熱膨張係数が1ppm/K以上25ppm/K以下の範囲内であってもよい。
【0012】
本発明のフレキシブル電子デバイス用金属張積層板は、前記金属層の厚みが10μm以上50μm以下の範囲内であってもよい。
【0013】
本発明のフレキシブル電子デバイス用金属張積層板は、前記ポリイミド絶縁層が単層であってもよい。
【0014】
本発明のフレキシブル電子デバイス用金属張積層板は、水蒸気透過率が10-6g/(m2・day)以下であってもよい。
【0015】
本発明のフレキシブル電子デバイス用金属張積層板は、23℃、湿度50%の雰囲気下、24時間調湿後の50mm角の中央部の凸面が平らな面上に接するように静置し、4角の浮き上がり量の最大値を反り量としたとき、反り量が10mm以下であってもよい。
【0016】
本発明のフレキシブル電子デバイスは、上記いずれかのフレキシブル電子デバイス用金属張積層板と、
前記フレキシブル電子デバイス用金属張積層板における前記ポリイミド絶縁層の前記金属層と接触していない露出面に積層された有機EL層と、
を備えている。
【発明の効果】
【0017】
本発明のフレキシブル電子デバイス用金属張積層板は、ガスバリア性、平滑性及び絶縁性が同時に担保されているとともに、反りが抑制されており、特筆すべき長所として、環境湿度の変動に起因する反りが生じにくいこと、及び、金属層とポリイミド絶縁層との接着性に優れていることが挙げられる。そのため、本発明のフレキシブル電子デバイス用金属張積層板は、フレキシブル電子デバイス用の基板として有用性が高く、これを適用したフレキシブル電子デバイスに、優れた耐久性と信頼性を付与できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るフレキシブル電子デバイス用金属張積層板の概略構成を示す厚み方向の断面図である。
【
図2】本発明の別の実施の形態に係るフレキシブル電子デバイス用金属張積層板の概略構成を示す厚み方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係るフレキシブル電子デバイス用金属張積層板30の概略構成を示す厚み方向の断面図である。また、
図2は、本発明の別の実施の形態に係るフレキシブル電子デバイス用金属張積層板30の概略構成を示す厚み方向の断面図である。
【0020】
フレキシブル電子デバイス用金属張積層板30は、金属層10と、この金属層10の片面に積層されたポリイミド絶縁層20と、を備えている。
図1に示すように、ポリイミド絶縁層20は単層のポリイミド層でもよいし、
図2に示すように、複数層のポリイミド層からなっていてもよい。
図2に示すフレキシブル電子デバイス用金属張積層板30は、ポリイミド絶縁層20が、金属層10に接する熱可塑性ポリイミド層21と、この熱可塑性ポリイミド層21に積層された非熱可塑性ポリイミド層23からなる2層構造である。なお、ポリイミド絶縁層20は、3層以上から構成されていてもよい。また、図示は省略するが、ポリイミド絶縁層20が、2層以上の非熱可塑性ポリイミドの層によって構成されていてもよい。
【0021】
<金属層>
金属層10としては、金属箔を用いることが好ましい。金属箔の材質は、特に制限はないが、例えば、ステンレス、チタン、インバー、普通鋼等が好ましい。ステンレス箔としては、例えば、オーステナイト系のSUS304、SUS316や、フェライト系のSUS430、SUS444等が好ましく、市販品を利用可能である。
【0022】
金属層10の熱膨張係数は、反りを抑制する観点から、1ppm/K以上25ppm/K以下の範囲内が好ましく、5ppm/K以上20ppm/K以下の範囲内がより好ましい。金属層10の熱膨張係数が1ppm/K未満、あるいは、25ppm/Kを超えると、ポリイミド絶縁層20との熱膨張係数の差が大きくなり、反りが発生しやすくなるとともに、反り量が大きくなる傾向がある。
【0023】
金属層10の厚みは、支持基材として必要な強度とフレキシブル性とのバランスをとる観点から、10μm以上100μm以下の範囲内が好ましく、10μm以上50μm以下の範囲内がより好ましく、25μm以上50μm以下の範囲内が更に好ましい。金属層10の厚みが10μm未満では機械的な強度が不十分となり、100μmを超えるとフレキシブル性が低下する傾向となる。
【0024】
金属層10の引張弾性率は、支持基材として必要な強度とフレキシブル性とのバランスをとる観点から、100GPa以上300GPa以下の範囲内が好ましく、200GPa以上250GPa以下の範囲内がより好ましい。金属層10の引張弾性率が100GPa未満では、機械的な強度が不十分となる。一方、金属層10の引張弾性率が300GPaを超えると、フレキシブル性が低下する傾向となる。
【0025】
<ポリイミド絶縁層>
ポリイミド絶縁層20は、下記の条件(a)~(f)を満たしている。
【0026】
条件(a):
厚みが3μm以上25μm以下の範囲内であること。
ポリイミド絶縁層20の厚みが3μm未満であると、絶縁性の確保が困難となる。ポリイミド絶縁層20の厚みは好ましくは5μm以上がよい。一方、ポリイミド絶縁層20の厚みが25μmを超えると、反りが発生しやすくなるとともに、フレキシブル性が低下する傾向となる。ポリイミド絶縁層20の厚みは好ましくは15μm以下、より好ましくは12μm以下、更に好ましくは10μm以下がよい。
なお、ポリイミド絶縁層20が複数層からなる場合でも、ポリイミド絶縁層20全体としての厚みが上記範囲内であればよい。
また、
図2に示すように、ポリイミド絶縁層20が熱可塑性ポリイミド層21と非熱可塑性ポリイミド層23との積層構造である場合、熱可塑性ポリイミド層21の厚みT1は、例えば3μm以下の範囲内とし、非熱可塑性ポリイミド層23の厚みT2は、例えば2μm以上25μm以下の範囲内とすることが好ましい。この場合において、ポリイミド絶縁層20全体の熱膨張係数を制御して反りを抑制する観点から、ポリイミド絶縁層20の合計厚みT3に対する非熱可塑性ポリイミド層23の厚みT2の比率(T2/T3)を、例えば50%以上とすることが好ましく、80%以上とすることがより好ましい。
【0027】
条件(b):金属層10に対する厚み比が0.1以上0.5以下の範囲内であること。
金属層10に対する厚み比(ポリイミド絶縁層20の厚み/金属層10の厚み)が0.1未満であると、ポリイミド絶縁層20における金属層10と接触していない露出面の表面粗度が大きくなり、また機械強度が低下する。一方、金属層10に対する厚み比が0.5を超えると、反りが生じやすくなり、またデバイス基板としてのフレキシブル性が低下し、生産性が悪化する傾向となる。
【0028】
条件(c):
熱膨張係数が25ppm/K以下であること。
熱膨張係数が25ppm/Kを超えると、フレキシブル電子デバイス用金属張積層板30に反りが発生しやすくなる。なお、ポリイミド絶縁層20が複数層からなる場合でも、ポリイミド絶縁層20全体としての熱膨張係数が上記範囲内であればよい。
また、金属層10と接触していない露出面を有しているポリイミド層(以下、「最表面ポリイミド層」と記すことがある)についても、熱膨張係数が25ppm/K以下の低膨張性のポリイミド層とすることが好ましい。最表面ポリイミド層を低膨張性のポリイミド層にすることによって、フレキシブル電子デバイス用金属張積層板30の反りを効果的に抑制できる。低膨張性ポリイミド層は非熱可塑性ポリイミド層を構成し、高膨張性ポリイミド層は熱可塑性ポリイミド層を構成する。ここで、低膨張性のポリイミド層は、熱膨張係数が25ppm/K以下、好ましくは20ppm/K以下、より好ましくは15ppm/K以下、更に好ましくは12ppm/K以下のポリイミド層をいう。また、高熱膨張性のポリイミド層は、熱膨張係数が好ましくは35ppm/K以上、より好ましくは35ppm/K以上80ppm/K以下の範囲内のポリイミド層をいう。なお、
図1においては、ポリイミド絶縁層20が最表面ポリイミド層であり、
図2においては、非熱可塑性ポリイミド層23が最表面ポリイミド層である。最表面ポリイミド層の熱膨張係数は、その材質を非熱可塑性ポリイミドによって構成するとともに、形成手段として、ポリイミド前駆体の溶液を金属層10上に塗布するキャスト法を採用し、塗布、乾燥、イミド化の諸条件をコントロールすることによって制御可能である。
ここで、最表面ポリイミド層の熱膨張係数が重要である理由は、例えば、
図2に示すように金属層10と最表面ポリイミド層(非熱可塑性ポリイミド層23)との間に熱可塑性ポリイミド層21が介在している場合でも、熱可塑性ポリイミド層21の熱膨張係数が反りに与える影響が小さいことによる。つまり、金属層10と最表面ポリイミド層との熱膨張係数の関係が、反りの発生・抑制において支配的な要因となるからである。かかる観点から、金属層10の熱膨張係数CTE
Mと最表面ポリイミド層の熱膨張係数CTE
Pとが、以下の関係を満たすことが好ましい。
|CTE
P - CTE
M| ≦ ±10ppm/K ・・・(1)
【0029】
条件(d):
湿度膨張係数が30ppm/%RH以下であること。
一般にポリイミドは、分子内に多くの極性基を含んでおり、吸湿性が高いことから、環境湿度の変動によってポリイミド絶縁層20が伸縮すると反りの原因となる。そのため、本実施の形態では、湿度膨張係数が30ppm/%RH以下、好ましくは15ppm/%RH以下のポリイミドを用いる。ポリイミド絶縁層20が複数層からなる場合は、ポリイミド絶縁層20全体としての湿度膨張係数が30ppm/%RH以下であればよい。ポリイミド絶縁層20の湿度膨張係数を30ppm/%RH以下に抑制するためのポリイミドの具体的構成については後述する。なお、湿度膨張係数は、後記実施例に示す方法・条件で測定することができる。
【0030】
条件(e):
金属層10と接触していない露出面の算術平均粗さ(Ra)が1.0nm以下であること。
ポリイミド絶縁層20において、金属層10と接触していない露出面は、有機EL素子などのデバイスを形成する面(デバイス形成面S)であることから、ガラス基板と同等の平滑性が求められる。そのため、金属層10と接触していない露出面の算術平均粗さ(Ra)が1.0nm以下であることが必要であり、0.6nm以下が好ましく、0.4nm以下がより好ましい。なお、
図1においては、ポリイミド絶縁層20の表面がデバイス形成面Sであり、
図2においては、非熱可塑性ポリイミド層23の表面がデバイス形成面Sである。
デバイス形成面Sの算術平均粗さ(Ra)は、金属層10と接触していない露出面を有しているポリイミド層(最表面ポリイミド層)を非熱可塑性ポリイミドによって構成するとともに、その形成手段として、ポリイミド前駆体の溶液を金属層10上に塗布するキャスト法を採用し、塗布、乾燥、イミド化の諸条件をコントロールすることによって制御可能である。
【0031】
条件(f):
金属層10と接触していない露出面を有しているポリイミド層を構成するポリイミドが非熱可塑性であること。
金属層10と接触していない露出面を有しているポリイミド層(最表面ポリイミド層)が非熱可塑性ポリイミドにより構成されることによって、熱膨張係数の制御が容易となり、反りが抑制される。また、最表面ポリイミド層を非熱可塑性ポリイミドによって形成することにより、金属層10と接触していない露出面であるデバイス形成面Sの算術平均粗さ(Ra)を小さくすることが可能となり、平滑性が確保される。最表面ポリイミド層に用いられる非熱可塑性ポリイミドの具体的構成については、後述する。
【0032】
ポリイミド絶縁層20の引張弾性率は、絶縁樹脂層として必要な強度とフレキシブル性とのバランスをとる観点から、3GPa以上15GPa以下の範囲内が好ましく、5GPa以上12GPa以下の範囲内がより好ましい。ポリイミド絶縁層20の引張弾性率が3GPa未満では、機械的な強度が不十分となる。一方、ポリイミド絶縁層20の引張弾性率が15GPaを超えると、絶縁樹脂層が脆くなり、フレキシブル性が低下する傾向となる。
【0033】
金属層10の引張弾性率に対するポリイミド絶縁層20の引張弾性率の比(ポリイミド絶縁層20の引張弾性率/金属層10の引張弾性率)が1/70以上1/10以下の範囲内であることが好ましい。このような範囲内にすることによって、反りを抑制し、フレキシブル性を担保することができるので、電子デバイス基板として好適である。
【0034】
次に、ポリイミド絶縁層20を構成するための非熱可塑性ポリイミド及び熱可塑性ポリイミドについて説明する。なお、「非熱可塑性ポリイミド」とは、一般に加熱しても軟化、接着性を示さないポリイミドのことであるが、本発明では、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定した、30℃における貯蔵弾性率が1.0×109Pa以上であり、350℃における貯蔵弾性率が1.0×108Pa以上であるポリイミドをいう。また、「熱可塑性ポリイミド」とは、一般にガラス転移温度(Tg)が明確に確認できるポリイミドのことであるが、本発明では、DMAを用いて測定した、30℃における貯蔵弾性率が1.0×109Pa以上であり、350℃における貯蔵弾性率が1.0×108Pa未満であるポリイミドをいう。
【0035】
非熱可塑性ポリイミド:
非熱可塑性ポリイミド層23を構成する非熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸残基及びジアミン残基を含むものである。なお、本発明において、テトラカルボン酸残基とは、テトラカルボン酸二無水物から誘導された4価の基のことを表し、ジアミン残基とは、ジアミン化合物から誘導された2価の基のことを表す。非熱可塑性ポリイミドは、芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導される芳香族テトラカルボン酸残基及び芳香族ジアミンから誘導される芳香族ジアミン残基を含むことが好ましい。
【0036】
(テトラカルボン酸残基)
非熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸残基として、3,3’、4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)及び1,4-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル)二無水物(TAHQ)の少なくとも1種から誘導されるテトラカルボン酸残基並びにピロメリット酸二無水物(PMDA)及び2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)の少なくとも1種から誘導されるテトラカルボン酸残基を含有することが好ましい。
【0037】
BPDAから誘導されるテトラカルボン酸残基(以下、「BPDA残基」ともいう。)及びTAHQから誘導されるテトラカルボン酸残基(以下、「TAHQ残基」ともいう。)は、ポリマーの秩序構造を形成しやすく、分子の運動抑制により吸湿性を低下させることができる。BPDA残基は、ポリイミド前駆体のポリアミド酸としてのゲル膜の自己支持性を付与できるが、一方でイミド化後のCTEを増大させるとともに、ガラス転移温度を低くして耐熱性を低下させる傾向になる。
【0038】
また、ピロメリット酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基(以下、「PMDA残基」ともいう。)及び2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基(以下、「NTCDA残基」ともいう。)は、剛直性を有するため、面内配向性を高め、CTEを低く抑えるとともに、ガラス転移温度の制御の役割を担う残基である。一方で、PMDA残基は、分子量が小さいため、その量が多くなり過ぎると、ポリマーのイミド基濃度が高くなり、極性基が増加して吸湿性が増加する。また、NTCDA残基は、剛直性が高いナフタレン骨格によりフィルムが脆くなりやすく、弾性率を増大させる傾向になる。
【0039】
以上の観点から、非熱可塑性ポリイミド層23を構成する非熱可塑性ポリイミドは、BPDA残基及びTAHQ残基の少なくとも1種並びにPMDA残基及びNTCDA残基の少なくとも1種の合計が、全テトラカルボン酸残基の100モル部に対して80モル部以上、好ましくは90モル部以上であることがよい。
【0040】
PMDA及びNTCDAは、剛直骨格を有するため、他の一般的な酸無水物成分に比べて、ポリイミド中の分子の面内配向性の制御が可能であり、熱膨張係数(CTE)の抑制とガラス転移温度(Tg)の向上効果がある。また、BPDA及びTAHQは、PMDAと比較し分子量が大きいため、仕込み比率の増加によりイミド基濃度が低下することで、吸湿率の低下に効果がある。一方でBPDA及びTAHQの仕込み比率が増加すると、ポリイミド中の分子の面内配向性が低下し、CTEの増加につながる。このような観点から、PMDA及びNTCDAの合計の仕込み量は、原料の全酸無水物成分の100モル部に対し、40モル部以上が好ましい。原料の全酸無水物成分の100モル部に対し、PMDA及びNTCDAの合計の仕込み量が40モル部未満であると、分子の面内配向性が低下し、低CTE化が困難となり、またTgの低下による加熱時におけるフィルムの耐熱性や寸法安定性が低下する。
【0041】
また、BPDA及びTAHQは、分子運動の抑制やイミド基濃度の低下による吸湿率低下に効果があるが、イミド化後のポリイミドフィルムとしてのCTEを増大させる。このような観点から、BPDA及びTAHQの合計の仕込み量は、原料の全酸無水物成分の100モル部に対し、60モル部を超えないようにすることが好ましく、20~50モル部の範囲内がより好ましい。
【0042】
非熱可塑性ポリイミド層23を構成する非熱可塑性ポリイミドに含まれる、上記BPDA残基、TAHQ残基、PMDA残基、NTCDA残基以外のテトラカルボン酸残基としては、例えば、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、2,3',3,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-、2,3,3',4'-又は3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3'',4,4''-、2,3,3'',4''-又は2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,7,8-、1,2,6,7-又は1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、2,3,5,6-シクロヘキサン二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-又は2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-(又は1,4,5,8-)テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-(又は2,3,6,7-)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-、3,4,9,10-、4,5,10,11-又は5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物、エチレングリコール ビスアンヒドロトリメリテート等の芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基が挙げられる。
【0043】
(ジアミン残基)
非熱可塑性ポリイミド層23を構成する非熱可塑性ポリイミドに含まれるジアミン残基としては、一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が好ましい。
【0044】
【0045】
式(1)において、連結基Zは単結合、-COO-又は-NHCO-を示し、Yは独立に、ハロゲン原子若しくはフェニル基で置換されてもよい炭素数1~3の1価の炭化水素、又は炭素数1~3のアルコキシ基、又はアルケニル基を示し、nは0~2の整数を示し、p及びqは独立に0~4の整数を示す。ここで、「独立に」とは、上記式(1)において、複数の置換基Y、さらに整数p、qが、同一でもよいし、異なっていてもよいことを意味する。なお、上記式(1)において、末端の二つのアミノ基における水素原子は置換されていてもよく、例えば-NR2R3(ここで、R2,R3は、独立してアルキル基などの任意の置換基を意味する)であってもよい。
【0046】
一般式(1)で表されるジアミン化合物(以下、「ジアミン(1)」と記すことがある)は、1ないし3つのベンゼン環を有する芳香族ジアミンである。ジアミン(1)は、剛直構造を有しているため、ポリマー全体に秩序構造を付与する作用を有している。そのため、ガス透過性が低く、低吸湿性のポリイミドが得られ、分子鎖内部の水分を低減できる。ここで、連結基Zとしては、単結合が好ましい。
【0047】
ジアミン(1)としては、例えば、1,4-ジアミノベンゼン(p-PDA;パラフェニレンジアミン)、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)、2,2’-ジエチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-EB)、2,2’-ジエトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル(m-EOB)、2,2’-ジプロポキシ-4,4’-ジアミノビフェニル(m-POB)、2,2’-n-プロピル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-NPB)、2,2’-ジビニル-4,4’-ジアミノビフェニル(VAB)、4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート(APAB)、4,4'-ジアミノ-2'-メトキシベンズアニリド(MABA)等を挙げることができる。
【0048】
非熱可塑性ポリイミド層23を構成する非熱可塑性ポリイミドは、ジアミン(1)から誘導されるジアミン残基を、全ジアミン残基の100モル部に対して、好ましくは20モル部以上、より好ましくは50モル部以上含有することがよい。ジアミン(1)を上記範囲内の量で使用することによって、モノマー由来の剛直構造により、ポリマー全体に秩序構造が形成されやすくなり、ガス透過性が低く、低吸湿性である非熱可塑性ポリイミドが得られやすい。
【0049】
非熱可塑性ポリイミド層23を構成する非熱可塑性ポリイミドに含まれるその他のジアミン残基としては、例えば、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2-ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、3,3''-ジアミノ-p-テルフェニル、4,4'-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4'-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン、2'-メトキシ-4,4'-ジアミノベンズアニリド、4,4'-ジアミノベンズアニリド、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、6-アミノ-2-(4-アミノフェノキシ)ベンゾオキサゾール、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミン化合物から誘導されるジアミン残基、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマー酸型ジアミン等の脂肪族ジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が挙げられる。
【0050】
非熱可塑性ポリイミドにおいて、上記テトラカルボン酸残基及びジアミン残基の種類や、2種以上のテトラカルボン酸残基又はジアミン残基を適用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張係数、貯蔵弾性率、引張弾性率等を制御することができる。また、非熱可塑性ポリイミドにおいて、ポリイミドの構造単位を複数有する場合は、ブロックとして存在しても、ランダムに存在していてもよいが、ランダムに存在することが好ましい。
【0051】
なお、非熱可塑性ポリイミドに含まれるテトラカルボン酸残基及びジアミン残基を、いずれも芳香族基とすることで、ポリイミドフィルムの高温環境下での寸法精度を向上させることができるため好ましい。
【0052】
非熱可塑性ポリイミドのイミド基濃度は、33%以下であることが好ましく、32%以下であることがより好ましい。ここで、「イミド基濃度」は、ポリイミド中のイミド基部(-(CO)2-N-)の分子量を、ポリイミドの構造全体の分子量で除した値を意味する。イミド基濃度が33%を超えると、樹脂自体の分子量が小さくなるとともに、極性基の増加によって吸湿性が増加する。上記酸無水物とジアミン化合物の組み合わせを選択することによって、非熱可塑性ポリイミド中の分子の配向性を制御することで、イミド基濃度低下に伴うCTEの増加を抑制し、低吸湿性を担保している。
【0053】
非熱可塑性ポリイミドの重量平均分子量は、例えば10,000~400,000の範囲内が好ましく、50,000~350,000の範囲内がより好ましい。重量平均分子量が10,000未満であると、フィルムの強度が低下して脆化しやすい傾向となる。一方、重量平均分子量が400,000を超えると、過度に粘度が増加して塗工作業の際にフィルム厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0054】
非熱可塑性ポリイミド層23は、耐熱性の観点から、ガラス転移温度(Tg)が280℃以上であることが好ましい。
【0055】
また、非熱可塑性ポリイミド層23を構成する非熱可塑性ポリイミドには、任意成分として、例えば可塑剤、エポキシ樹脂などの他の硬化樹脂成分、硬化剤、硬化促進剤、カップリング剤、充填剤、溶剤、難燃剤などを適宜配合することができる。
【0056】
熱可塑性ポリイミド:
熱可塑性ポリイミド層21は、金属層10と非熱可塑性ポリイミド層23との間に介在して接着層として機能するため、優れた接着性を有することが好ましい。熱可塑性ポリイミド層21を構成する熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸残基及びジアミン残基を含むものであり、芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導される芳香族テトラカルボン酸残基及び芳香族ジアミンから誘導される芳香族ジアミン残基を含むことが好ましい。
【0057】
(テトラカルボン酸残基)
熱可塑性ポリイミド層21を構成する熱可塑性ポリイミドに用いるテトラカルボン酸残基としては、上記非熱可塑性ポリイミド層23を構成する非熱可塑性ポリイミドにおけるテトラカルボン酸残基として例示したものと同様のものを用いることができる。
【0058】
(ジアミン残基)
熱可塑性ポリイミド層21を構成する熱可塑性ポリイミドに含まれるジアミン残基としては、一般式(B1)~(B7)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が好ましい。
【0059】
【0060】
式(B1)~(B7)において、R1は独立に炭素数1~6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、連結基Aは独立に-O-、-S-、-CO-、-SO-、-SO2-、-COO-、-CH2-、-C(CH3)2-、-NH-若しくは-CONH-から選ばれる2価の基を示し、n1は独立に0~4の整数を示す。ただし、式(B3)中から式(B2)と重複するものは除き、式(B5)中から式(B4)と重複するものは除くものとする。ここで、「独立に」とは、上記式(B1)~(B7)の内の一つにおいて、または二つ以上において、複数の連結基A、複数のR1若しくは複数のn1が、同一でもよいし、異なっていてもよいことを意味する。なお、上記式(B1)~(B7)において、末端の二つのアミノ基における水素原子は置換されていてもよく、例えば-NR3R4(ここで、R3,R4は、独立してアルキル基などの任意の置換基を意味する)であってもよい。
【0061】
式(B1)で表されるジアミン(以下、「ジアミン(B1)」と記すことがある)は、2つのベンゼン環を有する芳香族ジアミンである。このジアミン(B1)は、少なくとも1つのベンゼン環に直結したアミノ基と2価の連結基Aとがメタ位にあることで、ポリイミド分子鎖が有する自由度が増加して高い屈曲性を有しており、ポリイミド分子鎖の柔軟性の向上に寄与すると考えられる。従って、ジアミン(B1)を用いることで、ポリイミドの熱可塑性が高まる。ここで、連結基Aとしては、-O-、-CH2-、-C(CH3)2-、-CO-、-SO2-、-S-が好ましい。
【0062】
ジアミン(B1)としては、例えば、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、(3,3’-ビスアミノ)ジフェニルアミン等を挙げることができる。
【0063】
式(B2)で表されるジアミン(以下、「ジアミン(B2)」と記すことがある)は、3つのベンゼン環を有する芳香族ジアミンである。このジアミン(B2)は、少なくとも1つのベンゼン環に直結したアミノ基と2価の連結基Aとがメタ位にあることで、ポリイミド分子鎖が有する自由度が増加して高い屈曲性を有しており、ポリイミド分子鎖の柔軟性の向上に寄与すると考えられる。従って、ジアミン(B2)を用いることで、ポリイミドの熱可塑性が高まる。ここで、連結基Aとしては、-O-が好ましい。
【0064】
ジアミン(B2)としては、例えば1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン、3-[3-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン等を挙げることができる。
【0065】
式(B3)で表されるジアミン(以下、「ジアミン(B3)」と記すことがある)は、3つのベンゼン環を有する芳香族ジアミンである。このジアミン(B3)は、1つのベンゼン環に直結した、2つの2価の連結基Aが互いにメタ位にあることで、ポリイミド分子鎖が有する自由度が増加して高い屈曲性を有しており、ポリイミド分子鎖の柔軟性の向上に寄与すると考えられる。従って、ジアミン(B3)を用いることで、ポリイミドの熱可塑性が高まる。ここで、連結基Aとしては、-O-が好ましい。
【0066】
ジアミン(B3)としては、例えば1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、4,4'-[2-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[4-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[5-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン等を挙げることができる。
【0067】
式(B4)で表されるジアミン(以下、「ジアミン(B4)」と記すことがある)は、4つのベンゼン環を有する芳香族ジアミンである。このジアミン(B4)は、少なくとも1つのベンゼン環に直結したアミノ基と2価の連結基Aとがメタ位にあることで高い屈曲性を有しており、ポリイミド分子鎖の柔軟性の向上に寄与すると考えられる。従って、ジアミン(B4)を用いることで、ポリイミドの熱可塑性が高まる。ここで、連結基Aとしては、-O-、-CH2-、-C(CH3)2-、-SO2-、-CO-、-CONH-が好ましい。
【0068】
ジアミン(B4)としては、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4,4'-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド等を挙げることができる。
【0069】
式(B5)で表されるジアミン(以下、「ジアミン(B5)」と記すことがある)は、4つのベンゼン環を有する芳香族ジアミンである。このジアミン(B5)は、少なくとも1つのベンゼン環に直結した、2つの2価の連結基Aが互いにメタ位にあることで、ポリイミド分子鎖が有する自由度が増加して高い屈曲性を有しており、ポリイミド分子鎖の柔軟性の向上に寄与すると考えられる。従って、ジアミン(B5)を用いることで、ポリイミドの熱可塑性が高まる。ここで、連結基Aとしては、-O-が好ましい。
【0070】
ジアミン(B5)としては、4-[3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]フェノキシ]アニリン、4,4’-[オキシビス(3,1-フェニレンオキシ)]ビスアニリン等を挙げることができる。
【0071】
式(B6)で表されるジアミン(以下、「ジアミン(B6)」と記すことがある)は、4つのベンゼン環を有する芳香族ジアミンである。このジアミン(B6)は、少なくとも2つのエーテル結合を有することで高い屈曲性を有しており、ポリイミド分子鎖の柔軟性の向上に寄与すると考えられる。従って、ジアミン(B6)を用いることで、ポリイミドの熱可塑性が高まる。ここで、連結基Aとしては、-C(CH3)2-、-O-、-SO2-、-CO-が好ましい。
【0072】
ジアミン(B6)としては、例えば、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル(BAPE)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン(BAPK)等を挙げることができる。
【0073】
式(B7)で表されるジアミン(以下、「ジアミン(B7)」と記すことがある)は、4つのベンゼン環を有する芳香族ジアミンである。このジアミン(B7)は、ジフェニル骨格の両側に、それぞれ屈曲性の高い2価の連結基Aを有するため、ポリイミド分子鎖の柔軟性の向上に寄与すると考えられる。従って、ジアミン(B7)を用いることで、ポリイミドの熱可塑性が高まる。ここで、連結基Aとしては、-O-が好ましい。
【0074】
ジアミン(B7)としては、例えば、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル等を挙げることができる。
【0075】
熱可塑性ポリイミド層21を構成する熱可塑性ポリイミドは、全ジアミン残基の100モル部に対して、ジアミン(B1)~ジアミン(B7)から選ばれる少なくとも一種のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を60モル部以上、好ましくは60モル部以上100モル部以下の範囲内、より好ましくは70モル部以上100モル部以下の範囲内で含有することがよい。ジアミン(B1)~ジアミン(B7)は、屈曲性を有する分子構造を持つため、これらから選ばれる少なくとも一種のジアミン化合物を上記範囲内の量で使用することによって、ポリイミド分子鎖の柔軟性を向上させ、熱可塑性を付与することができる。原料中のジアミン(B1)~ジアミン(B7)の合計量が全ジアミン成分の100モル部に対して60モル部未満であるとポリイミド樹脂の柔軟性不足で十分な熱可塑性が得られない。
【0076】
また、熱可塑性ポリイミド層21を構成する熱可塑性ポリイミドに含まれるジアミン残基としては、一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基も好ましい。式(1)で表されるジアミン化合物[ジアミン(1)]については、非熱可塑性ポリイミドの説明で述べたとおりである。ジアミン(1)は、剛直構造を有し、ポリマー全体に秩序構造を付与する作用を有しているため、分子の運動抑制により吸湿性を低下させることができる。更に、熱可塑性ポリイミドの原料として使用することで、ガス透過性が低く、長期耐熱接着性に優れたポリイミドが得られる。
【0077】
熱可塑性ポリイミド層21を構成する熱可塑性ポリイミドは、ジアミン(1)から誘導されるジアミン残基を、好ましくは1モル部以上40モル部以下の範囲内、より好ましくは5モル部以上30モル部以下の範囲内で含有してもよい。ジアミン(1)を上記範囲内の量で使用することによって、モノマー由来の剛直構造により、ポリマー全体に秩序構造が形成されるので、熱可塑性でありながら、ガス透過性及び吸湿性が低く、長期耐熱接着性に優れたポリイミドが得られる。
【0078】
熱可塑性ポリイミド層21を構成する熱可塑性ポリイミドは、発明の効果を損なわない範囲で、ジアミン(1)、(B1)~(B7)以外のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を含むことができる。
【0079】
熱可塑性ポリイミドにおいて、上記テトラカルボン酸残基及びジアミン残基の種類や、2種以上のテトラカルボン酸残基又はジアミン残基を適用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張係数、引張弾性率、ガラス転移温度等を制御することができる。また、熱可塑性ポリイミドにおいて、ポリイミドの構造単位を複数有する場合は、ブロックとして存在しても、ランダムに存在していてもよいが、ランダムに存在することが好ましい。
【0080】
なお、熱可塑性ポリイミドに含まれるテトラカルボン酸残基及びジアミン残基を、いずれも芳香族基とすることで、ポリイミドフィルムの高温環境下での寸法精度を向上させることができる。
【0081】
熱可塑性ポリイミドのイミド基濃度は、33%以下であることが好ましく、32%以下であることがより好ましい。ここで、「イミド基濃度」は、ポリイミド中のイミド基部(-(CO)2-N-)の分子量を、ポリイミドの構造全体の分子量で除した値を意味する。イミド基濃度が33%を超えると、樹脂自体の分子量が小さくなるとともに、極性基の増加によって吸湿性が増加する。上記ジアミン化合物の組み合わせを選択することによって、熱可塑性ポリイミド中の分子の配向性を制御することで、イミド基濃度低下に伴うCTEの増加を抑制し、低吸湿性を担保している。
【0082】
熱可塑性ポリイミドの重量平均分子量は、例えば10,000~400,000の範囲内が好ましく、50,000~350,000の範囲内がより好ましい。重量平均分子量が10,000未満であると、フィルムの強度が低下して脆化しやすい傾向となる。一方、重量平均分子量が400,000を超えると、過度に粘度が増加して塗工作業の際にフィルム厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0083】
熱可塑性ポリイミド層21を構成する熱可塑性ポリイミドは、金属層10と非熱可塑性ポリイミド層23との間に介在して接着層として機能するため、ポリイミド絶縁層20への金属元素の拡散を防止するために完全にイミド化された構造が最も好ましい。但し、ポリイミドの一部がアミド酸となっていてもよい。そのイミド化率は、フーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、1回反射ATR法にてポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1015cm-1付近のベンゼン環吸収体を基準とし、1780cm-1のイミド基に由来するC=O伸縮の吸光度から算出される。
【0084】
また、熱可塑性ポリイミド層21に用いる樹脂には、ポリイミドの他に、任意成分として、例えば可塑剤、エポキシ樹脂などの他の硬化樹脂成分、硬化剤、硬化促進剤、無機フィラー、カップリング剤、充填剤、溶剤、難燃剤などを適宜配合することができる。
【0085】
(ポリイミドの合成)
ポリイミド絶縁層20を構成するポリイミドは、上記酸無水物及びジアミンを溶媒中で反応させ、前駆体樹脂を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、酸無水物成分とジアミン成分をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0~100℃の範囲内の温度で30分~24時間撹拌し重合反応させることでポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5~30重量%の範囲内、好ましくは10~20重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶媒の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液(ポリイミド前駆体溶液)の濃度が5~30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0086】
ポリイミドの合成において、上記酸無水物及びジアミンはそれぞれ、その1種のみを使用してもよく2種以上を併用して使用することもできる。酸無水物及びジアミンの種類や、2種以上の酸無水物又はジアミンを使用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張性、接着性、ガラス転移温度等を制御することができる。
【0087】
合成された前駆体は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、前駆体は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。前駆体をイミド化させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80~400℃の範囲内の温度条件で1~24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0088】
以上の構成を有する本実施の形態のフレキシブル電子デバイス用金属張積層板30は、23℃、湿度50%の雰囲気下、24時間調湿後の50mm角の中央部の凸面が平らな面上に接するように静置し、4角の浮き上がり量の最大値を反り量としたとき、反り量が10mm以下である。反り量が10mmを超えると、ハンドリング性が低下するとともに、ポリイミド絶縁層20のデバイス形成面S(金属層10と接触していない露出面)への有機EL層の形成が困難となる。
【0089】
本実施の形態のフレキシブル電子デバイス用金属張積層板30は、ガスバリア性を確保する観点から、水蒸気透過率が10-6g/(m2・day)以下であることが好ましい。
【0090】
[フレキシブル電子デバイス用金属張積層板の製造方法]
本実施の形態のフレキシブル電子デバイス用金属張積層板30は、ポリイミド絶縁層20を所謂キャスト法によって形成することが好ましい。キャスト法は、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の樹脂溶液を、金属層10の原料である金属箔上に塗布して塗布膜を形成した後、熱処理により乾燥、硬化させる方法である。キャスト法では、ポリイミド絶縁層20の厚み、熱膨張係数、湿度膨張係数、ポリイミド絶縁層20におけるデバイス形成面Sの平滑性、及び、金属層10との密着性の制御が容易になる。
【0091】
キャスト法において、塗布膜は、ポリアミド酸の樹脂溶液を金属層10となる金属箔の上に塗布した後に乾燥することによって形成できる。この場合、ポリアミド酸溶液の上に、異なる構成成分からなる他のポリアミド酸溶液を順次塗布して形成することができるし、また、同一の構成のポリアミド酸溶液を2回以上塗布してもよい。また、多層押出により、同時に複数層の塗布膜を積層形成してもよい。また、ポリアミド酸の塗布膜を一旦イミド化して単層又は複数層のポリイミド層とした後に、更にその上にポリアミド酸の樹脂溶液を塗布し、イミド化してポリイミド絶縁層20を形成することも可能である。塗布する方法は特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。この場合、ステンレス箔は、カットシート状、ロール状のもの、又はエンドレスベルト状などの形状のものを使用できる。生産性を得るためには、ロール状又はエンドレスベルト状の形態とし、連続生産可能な形式とすることが効率的である。
【0092】
イミド化の方法は、特に制限されず、例えば、80~400℃の範囲内の温度条件で1~60分間の範囲内の時間加熱するといった熱処理が好適に採用される。金属層10の酸化を抑制するため、低酸素雰囲気下での熱処理が好ましく、具体的には、窒素又は希ガスなどの不活性ガス雰囲気下、水素などの還元ガス雰囲気下、あるいは真空中で行うことが好ましい。熱処理により、塗布膜中のポリアミド酸がイミド化し、ポリイミドが形成される。
【0093】
本実施の形態のフレキシブル電子デバイス用金属張積層板30の製造方法について、金属層10がステンレス層であるフレキシブル電子デバイス用金属張積層板30をキャスト法によって製造する場合を例に挙げて、より具体的に説明する。
【0094】
まず、ステンレス箔を準備する。そして、このステンレス箔上に、ポリアミド酸の樹脂溶液を塗布し、乾燥することによって、1層目の塗布膜を形成する。1層目の塗布膜は、
図1に示す態様では非熱可塑性ポリイミドの前駆体樹脂層であり、
図2に示す態様においては、熱可塑性ポリイミドの前駆体樹脂層である。
図2に示す態様では、1層目の塗布膜の上に、さらにポリアミド酸の樹脂溶液を塗布し、乾燥することによって、2層目の塗布膜を形成する。この場合、2層目の塗布膜は、非熱可塑性ポリイミドの前駆体樹脂層である。必要に応じて、ポリアミド酸の種類を選択しながら、同様にして、3層目以降の塗布膜を順次形成してもよい。
その後、単層又は複数層の前駆体樹脂層を熱処理し、各前駆体樹脂層のポリアミド酸をイミド化することによって、金属層10としてのステンレス層上に、単層又は複数層からなるポリイミド絶縁層20が積層したフレキシブル電子デバイス用金属張積層板30を作製することができる。
【0095】
[フレキシブル電子デバイス]
本発明の一実施の形態に係るフレキシブル電子デバイスは、上記フレキシブル電子デバイス用金属張積層板30を具備する。例えば、フレキシブル電子デバイスが有機ELデバイスである場合には、図示は省略するが、フレキシブル電子デバイス用金属張積層板30と、このフレキシブル電子デバイス用金属張積層板30におけるポリイミド絶縁層20のデバイス形成面S(金属層10と接触していない露出面)に積層された有機EL素子を含む層(有機EL層)と、を備えている。ここで、有機EL層その他の構成については、一般的なフレキシブル有機ELデバイスと同様である。
【実施例】
【0096】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0097】
[粘度の測定]
粘度は、恒温水槽付のコーンプレート式粘度計(トキメック社製)にて、合成例で得られたポリアミド酸溶液について25℃で測定した。
【0098】
[熱膨張係数(CTE)の測定]
1)ポリイミドフィルムのCTE
3mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、サーモメカニカルアナライザー(Bruker社製、商品名;4000SA)を用い、5.0gの荷重を加えながら10℃/分の昇温速度で30℃から250℃まで昇温させ、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、250℃から100℃までの平均熱膨張係数(熱膨張係数、CTE)を求めた。
2)金属箔のCTE
3mm×15mmのサイズの金属箔を、熱機械分析(TMA:装置名TMA/SS6100)装置にて5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度(10℃/min)、降温速度(10℃/min)で室温から300℃の温度範囲で昇温・降温させて引張り試験を行い、降温時の100℃から30℃への温度変化に対する伸び量の変化から面方向熱膨張係数(ppm/K)を測定した。
【0099】
[反りの測定]
反りは、50mm×50mmのサイズのサンプルを23℃、湿度50%の雰囲気下で、24時間調湿後、サンプルの中央部の凸面が平らな面上に接するよう静置し、サンプルの4角の静置面からの浮き上がりの距離を計測し、その最大値を反り量とした。反り量が10mmを超える場合は、不良とし、10mm以下となる場合は、良好とした。
【0100】
[ガラス転移温度(Tg)の測定]
ポリイミドフィルム(10mm×22.6mm)を動的熱機械分析装置にて20℃から500℃まで5℃/分で昇温させたときの動的粘弾性を測定し、ガラス転移温度(Tanδ極大値:℃)を求めた。
【0101】
[熱分解温度(Td5)の測定]
窒素雰囲気下で10~20mgの重さのポリイミドフィルムを、SEIKO社製の熱重量分析(TG)装置TG/DTA6200にて一定の速度で30℃から550℃まで昇温させたときの重量変化を測定し、200℃での重量をゼロとし、重量減少率が5%の時の温度を熱分解温度(Td5)とした。
【0102】
[表面粗度(RaとRz)の測定]
表面粗度は、AFM(ブルカー・エイエックスエス社製、商品名:Dimension Icon型SPM)、プローブ(ブルカー・エイエックスエス社製、商品名:TESPA(NCHV)、先端曲率半径10nm、ばね定数42N/m)を用いて、タッピングモードで、1μm×1μmの範囲で測定し、算術平均粗さ(Ra)及び最大落差(Rz)を求めた。
【0103】
[接着性の測定]
「反りの測定」の際、サンプル調製のために所定サイズにカットする過程において、ポリイミド絶縁層と金属箔が剥離するものは不良とし、剥離しないサンプルは、良好とした。
【0104】
[吸湿率の測定]
ポリイミドフィルム(4cm×20cm)を、120℃で2時間乾燥した後、23℃/50%RHの恒温恒湿機で24時間静置し、その前後の重量変化から次式により求めた。
吸湿率(重量%)=[(吸湿後重量-乾燥後重量)/乾燥後重量]×100
【0105】
[吸湿膨張係数(CHE)の測定]
ポリイミドフィルムを120℃で2時間乾燥した後、BRUKER製のTMA4000SA湿度膨張係数測定装置にて、23℃/50%RHの湿度条件において24時間静置し、湿度膨張係数を求めた。
【0106】
[引張弾性率の測定]
テンシロン万能試験機(オリエンテック株式会社製、商品名;RTA-250)を用い、引張速度10mm/minで、温度23℃、相対湿度50%RHの環境下で引張試験を行い、引張弾性率を測定した。
【0107】
[水蒸気透過率の測定]
モレスコ製のガスバリア評価試験機を用いて、WVTR方法にて測定を行った。測定面の直径が60mm、40℃、90%RH、試験差圧1atmの条件で水蒸気透過率の測定を実施した。この際、透過した水蒸気の検出を四重極系質量分析計(QMS)でガスを検出した。
【0108】
実施例等に用いた略号は、以下の化合物を示す。
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3’,4,4’‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
m‐TB:2,2’‐ジメチル‐4,4’‐ジアミノビフェニル
BAPP:2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
MABA:4,4’‐ジアミノ‐2’‐メトキシベンズアニリド
DAPE:4,4’‐ジアミノジフェニルエーテル
TPE-R:1,3‐ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン
DMAc:N,N‐ジメチルアセトアミド
【0109】
合成例1~7
ポリアミド酸溶液A~Gを合成するため、窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコの中に、表1で示した固形分濃度となるように溶剤のDMAcを加え、表1に示したジアミン成分及び酸無水物成分を10分間攪拌しながら室温で溶解させた。その後、溶液を室温で10時間攪拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸の粘稠な溶液A~Gを調製した。
【0110】
【0111】
[実施例1]
ステンレス箔1(SUS304、厚み;30μm、熱膨張係数;17ppm/K、Ra;5.12nm、Rz;43.3nm)の上に、ポリアミド酸溶液Aを硬化後の厚みが4.9μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し、溶媒を除去した。次に、130℃から360℃まで段階的な熱処理を行い、イミド化を完結し、金属張積層板1aを調製した。
金属張積層板1aの接着性及び反りは良好であり、ポリイミド絶縁層におけるステンレス箔1に接触していない露出面のRa及びRzはそれぞれ、0.37nm及び4.4nmであった。これらの結果を表2に示す。
また、塩化第二鉄水溶液を用いて、金属張積層板1aにおけるステンレス箔1をエッチング除去して、ポリイミドフィルム1aを調製した。ポリイミドフィルム1aのCTEは5ppm/K、Td5は517℃、Tgは365℃、CHEは9ppm/%RH、吸湿率は0.91wt%であった。これらの結果を表3に示す。
【0112】
<フレキシブル電子デバイスとしての評価>
実施例1で調製した金属張積層板1aにおけるポリイミド絶縁層の表面に薄膜トランジスタを形成し、更にその上に電極、有機EL層及び電極を順次形成し、これらをガラス基板で気密封止してフレキシブル電子デバイス1を調製した。フレキシブル電子デバイス1を40℃/90%RHの恒温恒湿機で1000時間静置し、フレキシブル電子デバイス1の輝度の変化は10%以内であることが確認された。
【0113】
<耐熱性の評価>
実施例1で調製した金属張積層板1aを窒素雰囲気で室温から400℃まで昇温し、400℃で30分保持した後、室温まで冷却した。400℃で保持したときの酸素濃度は50ppm以下であった。加熱及び冷却後の金属張積層板1aの接着性は良好であり、また金属張積層板1aを5cm×5cmのサイズに切り取ったサンプルの反りは0.5mmであり、良好であった。
【0114】
[実施例2]
ポリアミド酸溶液Bを使用し、硬化後の厚みが5μmとなるように塗布したこと以外、実施例1と同様にして、金属張積層板2b及びポリイミドフィルム2bを調製した。
金属張積層板2bの接着性及び反りは良好であり、ポリイミド絶縁層におけるステンレス箔1に接触していない露出面のRa及びRzはそれぞれ、0.34nm及び3.2nmであった。これらの結果を表2に示す。
また、ポリイミドフィルム2bのCTEは11.3ppm/K、Td5は510℃、Tgは390℃、CHEは14ppm/%RH、吸湿率は1.2wt%であった。これらの結果を表3に示す。
【0115】
[実施例3]
ポリアミド酸溶液Cを使用し、硬化後の厚みが5μmとなるように塗布したこと以外、実施例1と同様にして、金属張積層板3c及びポリイミドフィルム3cを調製した。
金属張積層板3cの接着性及び反りは良好であり、ポリイミド絶縁層におけるステンレス箔1に接触していない露出面のRa及びRzはそれぞれ、0.39nm及び4.5nmであった。これらの結果を表2に示す。
また、ポリイミドフィルム3cのCTEは3ppm/K、Td5は510℃、Tgは310℃、CHEは15ppm/%RH、吸湿率は1.3wt%であった。これらの結果を表3に示す。
【0116】
[実施例4]
ポリアミド酸溶液Dを使用し、硬化後の厚みが4.9μmとなるように塗布したこと以外、実施例1と同様にして、金属張積層板4d及びポリイミドフィルム4dを調製した。
金属張積層板4dの接着性及び反りは良好であり、ポリイミド絶縁層におけるステンレス箔1に接触していない露出面のRa及びRzはそれぞれ、0.32nm及び3.1nmであった。これらの結果を表2に示す。
また、ポリイミドフィルム4dのCTEは11.9ppm/K、Td5は492℃、Tgは372℃、CHEは26ppm/%RH、吸湿率は1.6wt%であった。これらの結果を表3に示す。
【0117】
[実施例5]
ポリアミド酸溶液Eを使用し、硬化後の厚みが3.2μmとなるように塗布したこと以外、実施例1と同様にして、金属張積層板5e及びポリイミドフィルム5eを調製した。
金属張積層板5eの接着性及び反りは良好であり、ポリイミド絶縁層におけるステンレス箔1に接触していない露出面のRa及びRzはそれぞれ、0.5nm及び5.2nmであった。これらの結果を表2に示す。
また、ポリイミドフィルム5eのCTEは2ppm/K、Td5は517℃、Tgは365℃、CHEは9ppm/%RH、吸湿率は0.9wt%であった。これらの結果を表3に示す。
【0118】
[実施例6]
ステンレス箔1の代わりに、ステンレス箔2(SUS304、厚み;50μm、熱膨張係数;17ppm/K、Ra;9.8nm、Rz;72.2nm)を使用し、ポリアミド酸溶液Aの代わりに、ポリアミド酸溶液Bを使用し、硬化後の厚みが6.3μmとなるように塗布したこと以外、実施例1と同様にして、金属張積層板6b及びポリイミドフィルム6bを調製した。
金属張積層板6bの接着性及び反りは良好であり、ポリイミド絶縁層におけるステンレス箔2に接触していない露出面のRa及びRzはそれぞれ、0.34nm及び4.2nmであった。これらの結果を表2に示す。
また、ポリイミドフィルム6bのCTEは6.1ppm/K、Td5は510℃、Tgは513℃、CHEは14ppm/%RH、吸湿率は1.2wt%であった。これらの結果を表3に示す。
【0119】
比較例1
ポリアミド酸溶液Fを使用し、硬化後の厚みが5.5μmとなるように塗布したこと以外、実施例1と同様にして、金属張積層板f及びポリイミドフィルムfを調製した。
金属張積層板fの接着性は良好であったが、反りは不良であった。また、ポリイミド絶縁層におけるステンレス箔1に接触していない露出面のRa及びRzはそれぞれ、0.5nm及び4.6nmであった。これらの結果を表2に示す。
また、ポリイミドフィルムfのCTEは56ppm/K、Td5は511℃、Tgは310℃、CHEは7ppm/%RH、吸湿率は0.2wt%であった。これらの結果を表3に示す。
【0120】
比較例2
ポリアミド酸溶液Gを使用し、硬化後の厚みが4.7μmとなるように塗布したこと以外、実施例1と同様にして、金属張積層板g及びポリイミドフィルムgを調製した。
金属張積層板gの接着性は良好であったが、反りは不良であった。また、ポリイミド絶縁層におけるステンレス箔1に接触していない露出面のRa及びRzはそれぞれ、0.68nm及び7.8nmであった。これらの結果を表2に示す。
また、ポリイミドフィルムgのCTEは51ppm/K、Td5は511℃、Tgは215℃、CHEは8ppm/%RH、吸湿率は0.3wt%であった。これらの結果を表3に示す。
【0121】
【0122】
【0123】
[実施例7]
ステンレス箔1の上に、ポリアミド酸溶液Fを硬化後の厚みが1.5μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し、溶媒を除去した。次に、ポリアミド酸溶液Aを硬化後の厚みが3.2μmとなるように均一に塗布した後、130℃から360℃まで段階的な熱処理を行い、イミド化を完結し、金属張積層板7を調製した。金属張積層板7の接着性及び反りは良好であり、ポリイミド絶縁層におけるステンレス箔1に接触していない露出面のRa及びRzはそれぞれ、0.38nm及び3.2nmであった。
また、実施例1と同様にして、エッチング除去して、ポリイミドフィルム7を調製した。ポリイミドフィルム7のCTEは20ppm/K、CHEは8ppm/%RHであった。
【0124】
[実施例8]
ステンレス箔1の上に、ポリアミド酸溶液Bを硬化後の厚みが2.2μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し、溶媒を除去した。次に、ポリアミド酸溶液Aを硬化後の厚みが3.2μmとなるように均一に塗布した後、130℃から360℃まで段階的な熱処理を行い、イミド化を完結し、金属張積層板8を調製した。
金属張積層板8の接着性及び反りは良好であり、ポリイミド絶縁層におけるステンレス箔1に接触していない露出面のRa及びRzはそれぞれ、0.39nm及び3.8nmであった。
また、実施例1と同様にして、エッチング除去して、ポリイミドフィルム8を調製した。ポリイミドフィルム8のCTEは7ppm/K、CHEは11ppm/%RHであった。
【0125】
[実施例9]
ステンレス箔1の代わりに、ステンレス箔3(SUS444、厚み;25μm、熱膨張係数;11ppm/K、引張弾性率;215GPa、Ra;5.58nm、Rz;36.4nm)を使用し、ポリアミド酸溶液Aの硬化後の厚みが6.0μmとなるように塗布したこと以外、実施例1と同様にして、金属張積層板9a及びポリイミドフィルム9aを調製した。
金属張積層板9aの接着性及び反りは良好であり、ポリイミド絶縁層におけるステンレス箔3に接触していない露出面のRa及びRzはそれぞれ、0.31nm及び3.2nmであった。これらの結果を表4に示す。
また、ポリイミドフィルム9aのCTEは-1.6ppm/K、Td5は517℃、Tgは365℃、CHEは9ppm/%RH、吸湿率は0.91wt%、引張弾性率は10.5GPaであった。これらの結果を表5に示す。
【0126】
[実施例10]
ステンレス箔1の代わりに、ステンレス箔3を使用し、ポリアミド酸溶液Aの代わりに、ポリアミド酸溶液Bを使用し、硬化後の厚みが6.0μmとなるように塗布したこと以外、実施例1と同様にして、金属張積層板10b及びポリイミドフィルム10bを調製した。
金属張積層板10bの接着性及び反りは良好であり、ポリイミド絶縁層におけるステンレス箔3に接触していない露出面のRa及びRzはそれぞれ、0.25nm及び2.1nmであった。これらの結果を表4に示す。
また、ポリイミドフィルム10bのCTEは6.4ppm/K、Td5は510℃、Tgは390℃、CHEは14ppm/%RH、吸湿率は1.2wt%、引張弾性率は8.5GPaであった。これらの結果を表5に示す。
【0127】
[実施例11]
ステンレス箔1の代わりに、チタン箔1(TR270C、厚み;50μm、熱膨張係数;11ppm/K、引張弾性率;113GPa、Ra;9.71nm、Rz;97.5nm)を使用し、ポリアミド酸溶液Aを硬化後の厚みが6.0μmとなるように塗布したこと以外、実施例1と同様にして、金属張積層板11a及びポリイミドフィルム11aを調製した。
金属張積層板11aの接着性及び反りは良好であり、ポリイミド絶縁層におけるチタン箔1に接触していない露出面のRa及びRzはそれぞれ、0.24nm及び2.5nmであった。これらの結果を表4に示す。
また、ポリイミドフィルム11aのCTEは-1.6ppm/K、Td5は517℃、Tgは365℃、CHEは9ppm/%RH、吸湿率は0.91wt%、引張弾性率は10.5GPaであった。これらの結果を表5に示す。
【0128】
[実施例12]
ステンレス箔1の代わりに、チタン箔1を使用し、ポリアミド酸溶液Aの代わりに、ポリアミド酸溶液Bを使用し、硬化後の厚みが6.0μmとなるように塗布したこと以外、実施例1と同様にして、金属張積層板12b及びポリイミドフィルム12bを調製した。
金属張積層板12bの接着性及び反りは良好であり、ポリイミド絶縁層におけるチタン箔1に接触していない露出面のRa及びRzはそれぞれ、0.28nm及び3.7nmであった。これらの結果を表4に示す。
また、ポリイミドフィルム12bのCTEは6.4ppm/K、Td5は510℃、Tgは390℃、CHEは14ppm/%RH、吸湿率は1.2wt%、引張弾性率は8.5GPaであった。これらの結果を表5に示す。
【0129】
【0130】
【0131】
[実施例13]
ポリアミド酸溶液Aの硬化後の厚みが12.2μmとなるように塗布したこと以外、実施例1と同様にして、金属張積層板13a及びポリイミドフィルム13aを調製した。
金属張積層板13aの接着性及び反りは良好であり、ポリイミド絶縁層におけるステンレス箔1に接触していない露出面のRa及びRzはそれぞれ、0.57nm及び9.4nmであった。
また、ポリイミドフィルム13aのCTEは22ppm/K、Td5は517℃、Tgは365℃、CHEは9ppm/%RH、吸湿率は0.91wt%であった。
【0132】
<金属張積層板における水蒸気バリア性の効果の検証>
(参考例1)
ステンレス箔2を12cm×12cmにカットし、その中央部をレーザーによって孔開け加工してステンレス箔2’を調製した。ステンレス箔2’におけるレーザー入口側(上側)の表面の孔サイズは直径9.1μm、レーザー出口側(下側)の表面の孔サイズは直径32.3μmであり、円錐形の孔とした。ステンレス箔2’における水蒸気透過率は6.5×10-3g/(m2・day)であった。なお、水蒸気透過率の評価においては、ステンレス箔2’の中央部の上側から水蒸気を触れるようにした。
【0133】
(参考実施例1)
参考例1で調製したステンレス箔2’の上側の上に、ポリアミド酸溶液Aを硬化後の厚みが5.0μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し、溶媒を除去した。次に、130℃から360℃まで段階的な熱処理を行い、イミド化を完結し、金属張積層板14a’を調製した。
金属張積層板14a’において、40℃、90%RHの条件で、ポリイミド絶縁層側から水蒸気を触れて、4日間かけて水蒸気透過率の測定を行ったが、測定下限値(1.0×10-7g/(m2・day))を下回っており、ポリイミド絶縁層による水蒸気バリア性の効果が高いことが確認された。
【0134】
[実施例14]
ステンレス箔1の代わりに、ステンレス箔2を使用し、ポリアミド酸溶液Aの硬化後の厚みが5.0μmとなるように塗布したこと以外、実施例1と同様にして、金属張積層板14a及びポリイミドフィルム14aを調製した。
金属張積層板14aにおいて、40℃、90%RHの条件で、ポリイミド絶縁層側から水蒸気を触れて、4日間かけて水蒸気透過率の測定を行ったが、測定下限値(1.0×10-7g/(m2・day))を下回っていた。
【0135】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。
【0136】
本出願は、2019年9月11日に日本国で出願された特願2019-165629号に基づく優先権を主張するものであり、当該出願の全内容をここに援用する。
【符号の説明】
【0137】
10…金属層、20…ポリイミド絶縁層、21…熱可塑性ポリイミド層、23…非熱可塑性ポリイミド層、30…フレキシブル電子デバイス用金属張積層板、S…デバイス形成面