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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】成膜方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20241118BHJP
   C23C 16/458 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
H01L21/205
C23C16/458
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022049111
(22)【出願日】2022-03-24
(65)【公開番号】P2023142285
(43)【公開日】2023-10-05
【審査請求日】2024-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100217940
【弁理士】
【氏名又は名称】三並 大悟
(72)【発明者】
【氏名】森山 義和
(72)【発明者】
【氏名】醍醐 佳明
(72)【発明者】
【氏名】渡部 亨
(72)【発明者】
【氏名】石井 成明
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-107289(JP,A)
【文献】特開2012-069677(JP,A)
【文献】特開2006-344758(JP,A)
【文献】特開2010-027881(JP,A)
【文献】特開2016-201528(JP,A)
【文献】特開2014-103405(JP,A)
【文献】特開2015-216269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
C23C 16/458
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応室内でサセプタに載置されたウェハを回転し、
反応室内にプロセスガスを導入して前記ウェハ上にSiC膜をエピタキシャル成長させる成膜工程の前後で前記ウェハの回転速度を変化させるときに、前記ウェハと前記サセプタとの間における接触面で発生する摩擦力が前記ウェハの回転方向に発生する慣性力よりも大きくなるように前記ウェハの温度を制御する、成膜方法。
【請求項2】
前記ウェハの回転速度を変化させるときの前記ウェハの温度が、1100℃よりも高い、請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記サセプタにおける前記接触面の平面度が0.1-0.3mm以下であり、かつ前記接触面の面粗さRzが3-35μmである、請求項1または2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記ウェハの回転速度が予め決められたしきい値以上のとき、前記反応室の壁面を加熱する、請求項1から3のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項5】
前記ウェハの回転速度が予め決められたしきい値のとき、前記プロセスガスを不活性ガスと水素ガスで切り替える、請求項1から4のいずれか1項に記載の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiC(シリコンカーバイド)ウェハ上に、エピタキシャル成長にてSiC膜を成膜する場合、SiCウェハは、サセプタ上に載置される。このウェハおよびサセプタは、SiC膜をエピタキシャル成長させる成膜工程時に回転しているが、この成膜工程、および成膜工程の前後でウェハの回転速度を加速または減速することがある。このような回転速度の変化によって、ウェハがサセプタ上で回転移動して位置ずれが発生する場合がある。
【0003】
ウェハの位置ずれが発生すると、成膜工程において、SiCウェハ上のみならずサセプタのウェハ載置部上の一部にもSiCから成る堆積物が形成されることがある。堆積物がサセプタのウェハ載置部上の一部に形成されると、次のSiCウェハは、サセプタのウェハ載置部上に形成された堆積物上に設置されることになる。SiCウェハが、一部に堆積物が形成されたウェハ載置部上に設置された状態で、SiCウェハをエピタキシャル成長に必要な温度まで昇温させると、SiCウェハの裏面に堆積物が転写されることがある。このような堆積物が転写した領域は、高低差が大きな凹凸形状となり、成膜工程後の工程で製造不良が発生し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-46855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、エピタキシャル成長にてSiC膜を成膜する際のウェハの位置ずれを低減することが可能な成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係る成膜方法は、
反応室内でサセプタに載置されたウェハを回転し、
反応室内にプロセスガスを導入して前記ウェハ上にSiC膜をエピタキシャル成長させる成膜工程の前後で前記ウェハの回転速度を変化させるときに、前記ウェハと前記サセプタとの間における接触面で発生する摩擦力が前記ウェハの回転方向に発生する慣性力よりも大きくなるように前記ウェハの温度を制御する。
【0007】
また、前記ウェハの回転速度を変化させるときの前記ウェハの温度が、1100℃よりも高くてもよい。
【0008】
また、前記サセプタにおける前記接触面の平面度が0.1-0.3mm以下であり、かつ前記接触面の面粗さが3-35μmであってもよい。
【0009】
また、前記ウェハの回転速度が予め決められたしきい値以上のとき、前記反応室の壁面を加熱してもよい。
【0010】
また、前記ウェハの回転速度が予め決められたしきい値のとき、前記プロセスガスを不活性ガスと水素ガスで切り替えてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エピタキシャル成長にてSiC膜を成膜する際のプロセス工程においてウェハの位置ずれを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る成膜装置の模式的な断面図である。
図2】一実施形態に係る成膜方法の手順を示すフローチャートである。
図3】ウェハの温度、ウェハの回転速度、および反応室内に導入されるガスの流量の時間変化を示す図である。
図4】(a)は1枚目のウェハが第1サセプタに載置された状態を示す平面図であり、(b)は(a)に示す切断線A-Aに沿った断面図である。
図5】(a)はウェハがウェハ裏面載置部材上で回転方向に位置ずれした状態の一例を示す平面図であり、(b)は(a)に示す切断線B-Bに沿った断面図である。
図6】(a)は2枚目のウェハがウェハ裏面載置部材上に載置された状態を示す平面図であり、(b)は(a)に示す切断線C-Cに沿った断面図である。
図7】成膜装置におけるウェハの上側部分を簡略化して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。本実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る成膜装置100の模式的な断面図である。本実施形態に係る成膜装置100は、CVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いるエピタキシャル成長装置である。以下、主にSiCウェハ上にSiC膜をエピタキシャル成長させる場合を例に説明する。
【0015】
成膜装置100は、ウェハWを載置するサセプタ1を備える。サセプタ1は、サセプタユニットとも称することができ、ウェハW上にSiCエピタキシャル膜の成膜を行う成膜室である反応室2内に設けられている。
【0016】
サセプタ1に載置されたウェハWに供給されたプロセスガスの反応によって、ウェハW上でSiC膜がエピタキシャル成長する。ここでプロセスガスとは、SiCソースガスとしてのSi系ガス(例えばモノシラン(SiH)ガス)、C系ガス(例えばプロパン(C)ガス)、SiCの成長を促進するためのCl系ガス(例えば塩化水素(HCl)ガス)、パージガスとしてのアルゴン(Ar)ガス、キャリアガスとしての水素(H)ガス等である。なお、ジクロロシラン(SiHCl)ガス、トリクロロシラン(SiHCl)などのように、Si原子とCl原子とを含むガスを、Si系ガスとして用いることも可能である。
【0017】
サセプタ1は、回転部4の上方に設けられる。サセプタ1は、開口部を有して構成された環状の形状を有する第1サセプタ1aと、第1サセプタ1aの内側に開口部を塞ぐように設けられた第2サセプタ1bと、を有する。第1サセプタ1aの内周側には、ウェハWを収納するための凹部が設けられている。そして、この凹部内にウェハWの外周部を支持する載置部が設けられている。サセプタ1の材料には、カーボン、SiC、TaCを用いることが好ましい。あるいは、カーボンの表面にTaCを被覆した材料を用いてもよい。また、第1サセプタ1aにおける凹部の構造は、環状の平板部材の内周側を、ウェハWが収納できる口径で座ぐり加工したものや、環状の平板部材の外周側に、ウェハWが収納できる内径を有する環状部材を載置したもの、更には、それらの組み合わせのいずれでもよい。
【0018】
回転部4は、回転軸6と、その上部に接続されたホルダー16と、から構成される。ホルダー16は、その上部でサセプタ1を支持する。回転軸6が、モータ(不図示)によって回転することにより、ホルダー16が回転する。ホルダー16の回転を介してサセプタ1が回転する。このように、サセプタ1の上に載置されたウェハWを、ウェハWのほぼ中心を回転中心として、回転させることができる。
【0019】
ホルダー16は、上部が開口する構造を有する。回転部4内には、第1ヒーター14が設けられている。第1ヒーター14には、例えばカーボン(C)材の抵抗加熱ヒーターが用いられる。第1ヒーター14は、回転軸6内に設けられた略円筒状の石英製のシャフト8の内部を通る電極(不図示)によって給電され、サセプタ1を介してウェハWをその裏面側から加熱する。
【0020】
また、回転部4内には、第1ヒーター14による加熱を効率的に行うために、第1ヒーター14の下方にリフレクタ10が設けられている。リフレクタ10には、カーボン、SiCなどの耐熱性の高い材料を用いる。また、リフレクタ10の下方には断熱材12が設けられる。リフレクタ10や、断熱材12を設けることにより、第1ヒーター14からの熱がシャフト8やその設置部分等に伝わることを低減し、加熱時のヒーター電力を抑制することができる。
【0021】
反応室2の下部には、余剰のプロセスガスや反応副生成物を含むガスを排出するための排気部22が設けられる。排気部22は、調整バルブ58及び真空ポンプ56からなる排気機構54に接続される。排気機構54は、反応室2から排出されたガスを外部に排出し、反応室2内を所定の圧力に調整する。
【0022】
また、反応室2内には、成膜処理が行われる成膜領域と、反応室2の側壁(内壁)2aとを仕切り、側壁2aへの堆積物の生成を防止するために、円筒型のホットウォール式ライナー(壁面)24が設けられている。ホットウォール式ライナー24には、カーボン又はSiCを被覆したカーボン、SiCなどの耐熱性の高い材料が用いられる。なお、回転部4と側壁(内壁)2aとの間にも、回転部4と側壁(内壁)2aとを仕切る不図示の円筒部材を設け、側壁(内壁)2aへの着膜および入熱を低減することが望ましい。
【0023】
ホットウォール式ライナー24と側壁2aとの間には、ウェハWを上方から加熱する第2ヒーター26が設けられている。ウェハWは、第2ヒーター26の下端より下方に載置される。ホットウォール式ライナー24は第2ヒーター26で加熱される。第2ヒーター26は例えば抵抗加熱型のヒーターである。また、第2ヒーター26と側壁2aとの間には断熱材20が設けられており、第2ヒーター26からの熱が側壁2aに伝わることを低減する。断熱材20を設けることにより、加熱時のヒーター電力を抑制することができる。第2ヒーター26は一体でなく、分割され、それぞれが独立に制御可能であってもよい。
【0024】
なお、ホットウォール式ライナー24は、ホットウォール式ライナー24の外部に設けられた高周波コイルにより、誘導加熱されてもよい。
【0025】
反応室2の上部には、熱効率を上げるために、第1ヒーター14や第2ヒーター26からの輻射を反射するリフレクタユニットRU1が設けられている。
【0026】
リフレクタユニットRU1は、カーボン、SiC、又はSiCを被覆したカーボンを用いた薄板により構成されている。リフレクタユニットRU1は1枚の薄板で構成してもよいし、複数枚の薄板を積層してもよい。
【0027】
反応室2の上部には、ガス供給部30が設けられている。ガス供給部30は、ガス流路(ガスパイプ)32、34、36を介して、成膜領域にパージガスやSiCソースガス等のプロセスガスを供給する。例えば、ガス流路32を介してウェハW上にパージガスとしてのアルゴンガス又は水素ガスが供給される。また、ガス流路34、36を介して、ウェハW上にSiCソースガスとしてシランガスやプロパンガスがキャリアガスと共に供給される。なお図1では、各ガスに対して1本のガス流路が設けられているが、複数のガス流路を設けてもよい。また、ガス供給部30の構造は、シャワーヘッドタイプとしてもよい。
【0028】
なお、反応室2の上部には放射温度計(図示せず)が設けられ、ウェハWの温度を測定することができる。この場合、反応室2の一部に図示しない石英ガラス窓を設け、石英ガラス窓を介して放射温度計でウェハWの温度を測定する。
【0029】
以下、上記のように構成された成膜装置100を用いた成膜方法について説明する。
【0030】
図2は、一実施形態に係る成膜方法の手順を示すフローチャートである。また、図3は、ウェハWの温度、ウェハWの回転速度、および反応室2内に導入されるガスの流量の時間変化を示す図である。
【0031】
図2に示すフローチャートでは、まず、ウェハWを載置したサセプタ1がホルダー16上に取り付けられる(ステップS101)。ステップS101の時点で、ウェハWの温度は、第1ヒーター14および第2ヒーター26によって、第1温度T1に保持される。第1温度T1は、ウェハWを反応室2に搬出入するときの温度であり、例えば900℃~1000℃程度である。なお、ウェハWを載置したサセプタ1を反応室2に搬入する際のウェハWの温度にもよるが、通常、ウェハWを載置したサセプタ1がホルダー16上に取り付けた直後は、ウェハWの温度は第1温度T1とは異なっており、所定時間が経過することにより、第1温度T1へと収束していく。図3では、載置したサセプタ1がホルダー16上に取り付けた直後の過渡的な温度変化については、考慮していない。
【0032】
また、本実施形態では、ステップS101の時点で、不活性ガスが反応室2内に導入されている。ここで不活性ガスは、例えばアルゴン(Ar)ガスやヘリウム(He)ガスである。なお、ステップS101の時点で、反応室2内に導入するガスとして、不活性ガスを使用せず、水素(H)ガスを用いることもできる。ステップS101における不活性ガス、又は、水素ガスのガス流量は、エピタキシャル成長に使用するガスの流量より少ない第1ガス流量G1に設定されている。これは、ガスの消費量を少なくしてコストを低減するためである。しかし、コストを考慮する必要がなければ、第1ガス流量G1は、エピタキシャル成長に使用するガスの流量である第2ガス流量G2と等しくてもよい。
【0033】
次に、ホルダー16が回転し始める(ステップS102)。このとき、ウェハWの回転速度が第1回転速度R1になるように、ホルダー16の回転速度が設定されている。第1回転速度R1は、ウェハWにSiC膜を成膜する前後の状態時の回転速度であり、例えば50rpm(revolution per minute)程度である。
【0034】
次に、図3に示すように、ウェハWの回転速度が第1回転速度R1に到達してから所定時間経過した時刻t1において、第2ヒーター26への供給電力を一定に保ちながら、第1ヒーター14への供給電力を増加させることによって、ウェハWの温度を上昇させる(ステップS103)。
【0035】
次に、ウェハWの温度が予め設定されたしきい値温度Tthに到達した時刻t2において、ホルダー16の回転速度を増加させることによって、ウェハWの回転を加速し始める(ステップS104)。
【0036】
次に、ウェハWの回転速度が予め設定されたしきい値回転速度Rthに到達した時刻t3において、反応室2内に導入するプロセスガスを、不活性ガスから水素ガスへ切り替える(ステップS105)。なお、ウェハWを反応室2へ搬入する際に、反応室2内が不活性ガスで置換されている必要がなければ、すなわち、反応室2内が水素ガスで満たされている状態で、ウェハWを反応室2へ搬入した場合は、不活性ガスから水素ガスへのガスの切り替えを行う必要はない。また、不活性ガス、又は、水素ガスのガス流量は、時刻t3まで、第1ガス流量G1から大きく変更しないことが望ましい。
【0037】
また、ウェハWの回転速度が予め設定されたしきい値回転速度Rthに到達した時刻t3において、第1ヒーター14に加えて、第2ヒーター26への供給電力を増加させることによって、ウェハWの温度を更に上昇させる。
【0038】
次に、時刻t4において水素ガスの流量を増加させ始め、予め設定した第2ガス流量G2に到達させる。また、時刻t5においてウェハWの温度を予め設定した第2温度T2に到達させる。尚、図3においては便宜上、ウェハWの温度が第2温度T2に到達した時刻と、回転速度が第2回転速度R2に到達した時刻と、ガス流量が第2ガス流量G2に到達した時刻とを、共にt5で一致させているが、これに限定されるものではない。
【0039】
ウェハWの回転速度が第2回転速度R2、ウェハWの温度が第2温度T2、ガス流量が第2ガス流量G2に、それぞれ到達したのちに、時刻t6において、水素ガスと共にSi系ガス、C系ガス、SiCの成長を促進するためのCl系ガス等を反応室2内に導入してウェハW上にSiC膜をエピタキシャル成長させる(ステップS106)。第2温度T2は、SiC膜の成膜温度であり、例えば1625℃程度である。また、第2回転速度R2は、例えば600rpm程度である。更に、第2ガス流量G2は100~150slm程度である。なお、図3のガス流量のグラフでは、時刻t6において、Si系ガス、C系ガス、Cl系ガス等を供給開始することによるガス流量の増加は、考慮されていない。また、Si系ガス、C系ガス、Cl系ガス等を供給してエピタキシャル成長を開始する前に、所定時間、Si系ガス、C系ガス、Cl系ガス等を供給しない期間(時刻t5から時刻t6の間の時間)を設けて、ウェハWの表面を水素ガスでエッチングしてもよい。
【0040】
次に、時刻t6から成膜時間が経過した時刻t7において、Si系ガス、C系ガス、SiCの成長を促進するためのCl系ガス等の、SiC膜のエピタキシャル成長に必要なプロセスガスの導入を停止する。こうすることで、エピタキシャル成長が停止する。なお、水素ガスは継続して反応室2に導入される。
【0041】
次に、時刻t8において、第1ヒーター14および第2ヒーター26の供給電力を減少させることによって、ウェハWの温度を下降させる(ステップS107)。また、時刻t8では、ホルダー16の回転速度を減少させることによって、ウェハWの回転を減速し始める。なお、図3のグラフでは、時刻t7においてエピタキシャル成長を停止させ、その後、時刻t8において、ウェハWの温度を下降させ始めると共に、回転速度を減少させ始めているが、ウェハWの温度を下降させ始めるタイミングと、回転速度を減少させ始めるタイミングは、エピタキシャル成長の停止のタイミングと同時であってもよい。また、ウェハWの温度を下降させ始めるタイミングと回転速度を減少させ始めるタイミングとは、必ずしも同時である必要はない。
【0042】
次に、ウェハWの回転速度がしきい値回転速度Rthに到達する時刻t9において、ウェハWの回転速度の減速を一旦停止する(ステップS108)。すなわち、ウェハWの回転速度を、しきい値回転速度Rthに保つようにする。なお、後述するホルダー16の回転速度をさらに減少させ始める時刻t13まで、ウェハWの回転速度は、しきい値回転速度Rthに保たれる。
【0043】
次に、時刻t11において、ガス流量を減少させ、ガス流量が第1ガス流量G1まで低下したのち、時刻t12において、反応室2内に導入するプロセスガスを、水素ガスから不活性ガスへ切り替える。なお、ウェハWを反応室2から搬出する際に、反応室2内が不活性ガスで置換されている必要がない場合、すなわち、反応室2内が水素ガスで満たされている状態で、ウェハWを反応室2から搬出する場合は、不活性ガスから水素ガスへのガスの切り替えを行う必要はない。また、上述したように、コストを考慮する必要がなければ、第1ガス流量G1は、エピタキシャル成長に使用するガスの流量である第2ガス流量G2と等しくてもよく、その場合は、ガス流量の変更を行う必要はない。
【0044】
次に、時刻t13において、ホルダー16の回転速度をさらに減少させることによって、ウェハWの回転速度をしきい値回転速度Rthからさらに低下させ始める(ステップS109)。ウェハWの回転速度は、時刻t14において第1回転速度R1まで低下する。
【0045】
その後、ウェハWの回転を停止させ、ウェハWおよびサセプタ1を反応室2内から搬出し、続いて次のウェハWおよびサセプタ1を反応室2内に搬入する。
【0046】
以下、上述した成膜方法で成膜されるときのウェハの状態について説明する。
【0047】
図4(a)は、1枚目のウェハW1が第1サセプタ1aに載置された状態を示す平面図である。図4(b)は、図4(a)に示す切断線A-Aに沿った断面図である。ウェハW1は、その裏面側でウェハ裏面載置部材1a1によって支持されている。ウェハ裏面載置部材1a1は、第1サセプタ1aの凹部に収納されることで、第1サセプタ1aの一部を構成する。ウェハ裏面載置部材1a1は、例えば炭素(C)を材料とする環状部材である。
【0048】
また、ウェハW1の側面(外周面)は、ウェハ裏面載置部材1a1上に配置された側面ガイド1a2によって囲まれている。側面ガイド1a2は、第1サセプタ1aの別の一部を構成する。側面ガイド1a2は、例えばSiCを材料とする環状部材である。ウェハ裏面載置部材1a1および側面ガイド1a2は、第1サセプタ1aの基材1a3によって支持されている。基材1a3は、ホルダー16に着脱可能に取り付けられる。
【0049】
なお、本実施形態では、第1サセプタ1aは、ウェハ裏面載置部材1a1、側面ガイド1a2、および基材1a3から成る構造であるが、第1サセプタ1aの構造は、これに限定されない。例えば、第1サセプタ1aは、ウェハ裏面載置部材1a1と側面ガイド1a2とを同じ材料で一体化した構造であってもよい。
【0050】
ウェハW1をサセプタ1上に載置し、サセプタ1を回転させ始めると、ウェハW1には回転方向の慣性力と、ウェハ裏面載置部材1a1との接触面における回転方向の摩擦力とが発生する。サセプタ1の回転速度を増加させる場合、ウェハW1に対する摩擦力は、ウェハW1が回転している向きと同一の向き(正の向き)に発生し、ウェハW1に対する慣性力は、ウェハW1が回転している向きと逆の向き(負の向き)に発生する。回転の角加速度が小さい時は、回転方向の慣性力と摩擦力とが釣り合うため、ウェハW1はウェハ裏面載置部材1a1上での回転方向の位置ずれを生じない。しかし、回転の角加速度が大きい時は、慣性力が最大静止摩擦力を上回るため、ウェハW1はウェハ裏面載置部材1a1上での回転方向の位置ずれを生じやすくなる。なお、ウェハW1は、側面ガイドによって水平移動を抑制されているため、ウェハWの半径方向の慣性力や摩擦力については考慮していない。
【0051】
例えば、直径:150mm、厚み:350μm、オリフラ長:47.5mm、Warp:60μm以下のSiCウェハと、ウェハ裏面載置部材1a1における載置面の平面度が0.2mm、面粗さRzが12μmのサセプタ1を使用し、上述したしきい値温度Tthが1100℃よりも低く、且つ、サセプタ1を回転させる際の角加速度が0.314rad/sec(≒3rpm/sec)となる条件でサセプタ1を回転させた場合には、ウェハW1の位置がウェハ裏面載置部材1a1上で回転方向に数°~45°程度ずれる場合がある。このような回転方向の位置ずれは、回転速度が変化する時、すなわち、図3においては、時刻t2から時刻t5の間の期間、時刻t8から時刻t9の間の期間、時刻t13から時刻t14の間の期間に生じやすい。なお、SiCウェハの厚みは、200-500μmであることが好ましい。厚みが200μmより薄いと摩擦力が小さくなりすぎるため効果が抑えられ、500μmより厚いと基板コストが高くなってしまう。より好ましくは295-355μmである。また、載置面の平面度は、0.1-0.3mmが好ましく、より好ましくは0.1-0.2mmで、面粗さは、3-35μmが好ましく、より好ましくは10-13μmである。平坦度、面粗さが下限より小さいと、摩擦力が小さくなりすぎるため効果が抑えられ、大きすぎると基板上に形成される膜特性に影響するためである。
【0052】
図5(a)は、ウェハW1がウェハ裏面載置部材1a1上で回転方向に位置ずれした状態の一例を示す平面図である。図5(b)は、図5(a)に示す切断線B-Bに沿った断面図である。
【0053】
図5(a)に示すように、ウェハW1の外周面の一部には、直線状のオリフラOFが形成されている。そのため、ウェハW1の位置がウェハ裏面載置部材1a1上で回転方向にずれると、ウェハ裏面載置部材1a1の一部が露出する。そのため、図3に示す時刻t2から時刻t5までの期間にこのような位置ずれが生じた場合、時刻t6から時刻t7までのエピタキシャル成長期間には、ウェハ裏面載置部材1a1の一部が露出した状態で、ウェハW1上でSiC膜がエピタキシャル成長することになる。このとき、ウェハ裏面載置部材1a1の露出部分には、SiCから成る堆積物200が形成されてしまう。この堆積物200は、ウェハW1が成膜工程後に反応室2から搬出されても残存する。
【0054】
図6(a)は、2枚目のウェハW2がウェハ裏面載置部材1a1に載置された状態を示す平面図である。図6(b)は、図6(a)に示す切断線C-Cに沿った断面図である。
【0055】
ウェハ裏面載置部材1a1に堆積物200が残存した状態で、2枚目のウェハW2がウェハ裏面載置部材1a1上に載置されると、堆積物200とウェハW2とが接触することになる。この状態で、サセプタ1及びウェハW2の温度を増加させることにより、堆積物200がウェハW2の裏面に転写されてしまう。そのため、成膜工程後の工程で製造不良が起こり得る。
【0056】
上述した堆積物200の発生は、ウェハW1が回転方向に位置ずれすることに起因する。また、ウェハW1の位置ずれは、サセプタ1を回転させることによりウェハW1に生じる回転方向の慣性力が、ウェハ裏面載置部材1a1とウェハとの接触面における最大静止摩擦力を上回ったことに起因する。
【0057】
しかし、この最大静止摩擦力は、ウェハWの温度が高くなるにつれて大きくなる。そこで、本実施形態では、時刻t2から時刻t5までのウェハWの加速期間には、最大静止摩擦力が慣性力よりも高い関係を維持しやすくなるようにウェハWの温度を制御する。具体的には、しきい値温度Tthが1100℃よりも高くなるように、第1ヒーター14および第2ヒーター26の供給電力を調整する。
【0058】
しきい値温度Tthが1100℃よりも高くて1300℃以下である場合、ウェハWの位置ずれ量は、しきい値温度Tthが1100℃であるときの位置ずれ量に対して約半分程度に抑制しやすくなる。
【0059】
また、しきい値温度Tthが1300℃よりも高くて1400℃以下である場合、ウェハWの位置ずれ量は、しきい値温度Tthが1100℃であるときのずれ量に対して約1/3程度以下に抑制しやすくなる。
【0060】
さらに、しきい値温度Tthが1400℃よりも高い場合、ウェハWの位置ずれ量は、ほぼゼロにしやすくなる。このように、しきい値温度Tthが1100℃よりも高くなると、ウェハWの位置ずれ量を許容範囲内に抑制しやすくなる。
【0061】
なお、ウェハW1の回転方向の位置ずれは、時刻t2から時刻t5までの間の回転速度加速期間だけでなく、図3に示す時刻t8からt9の間、および、時刻t13から時刻t14の間の回転速度減速期間でも起こり得る。特に、時刻t8から時刻t9の間の期間においては、水素ガスが反応室2に導入されており、且つ、SiC膜の成膜温度に近い高温領域である。そのため、ウェハW1の位置がウェハ裏面載置部材1a1上で回転方向にずれると、ウェハ裏面載置部材1a1の一部が露出し、ウェハ裏面載置部材1a1の表面が水素ガスによってエッチングされるなどのダメージを生じる恐れがある。そのため、本実施形態では、ウェハ温度がしきい値温度Tthよりも高くなっている期間で、回転速度の減速を一旦停止させている。これにより、ウェハWの回転を加速する時だけでなく減速する時にも、ウェハ裏面載置部材1a1とウェハとの接触面における最大静止摩擦力を、ウェハW1に生じる回転方向の慣性力よりも大きくしておくことができる。その結果、ウェハWの位置ずれを抑制し、ウェハ裏面載置部材1a1へのダメージを抑制することが可能となる。なお、時刻t8から時刻t13までの間、ウェハWの回転速度が第2回転速度R2を維持し、時刻t13からウェハWの回転速度を減速するようにしてもよいが、第1回転速度R1まで低下させる期間が長くなるため、スループットは悪化しやすくなる。
【0062】
図7は、成膜装置100におけるウェハWの上側部分を簡略化して示す図である。図7に示すように、ウェハWの上側には、ホットウォール式ライナー(壁面)24が設けられている。ウェハW上にSiC膜を形成するためのプロセスガスGは、ホットウォール式ライナー24の内側領域を通って、ウェハW上に導入される。そのため、ホットウォール式ライナー24には、SiCから成る堆積物が形成される場合がある。このようなSiCから成る堆積物と、ホットウォール式ライナー24との界面には、SiCから成る堆積物とホットウォール式ライナー24との間の熱膨張係数差によって、特に、低温領域では大きな歪が生じているものと思われる。
【0063】
低温領域に置いて、ホットウォール式ライナー24が、第2ヒーター26によって温度変化を受けると、堆積物が、ホットウォール式ライナー24から剥離しやすくなる。剥離した堆積物は、パーティクルとして、ウェハW上に落下する。なお、また、希ガスと水素ガスとの切り替えや、ガス流量の変動も、ホットウォール式ライナー24の温度変化をもたらす。
【0064】
成膜前にパーティクルがウェハW上に付着すると、SiC膜を成膜した際に、ウェハW上のSiC膜にパーティクルが埋め込まれる恐れがあり、欠陥などの成膜不良が起こり得る。また、成膜後にパーティクルがウェハW上に付着すると、成膜工程後の工程で製造不良が発生し得る。このようなパーティクルがウェハW上に付着することを抑制するためには、パーティクルが発生しやすいタイミングで、ウェハWの回転速度をしきい値回転速度Rth以上にしておくことが望ましい。
【0065】
そのため、本実施形態では、時刻t3より前の期間と、時刻t13以降の期間、すなわち、ウェハWの回転速度が、しきい値回転速度Rth未満である期間では、第2ヒーター26への供給電力を一定に保つことが望ましい。また、希ガスと水素ガスとの切り替えや、ガス流量の変更を行わないことが望ましい。こうすることで、ウェハWの回転速度が、しきい値回転速度Rth未満である期間に、ホットウォール式ライナー24が温度変化を生じることを抑制しやすくなる。すなわち、しきい値回転速度Rth未満である期間での、パーティクルの発生を抑制することができるため、成膜不良を低減することが可能となる。
【0066】
また、時刻t3から時刻t13までの期間においては、ウェハWの回転速度をしきい値回転速度Rth以上とし、且つ、時刻t3より前の期間と、時刻t13以降の期間、に比べて高い電力を第2ヒーター26へ供給することが望ましい。このように高い回転速度の状態で壁面を加熱することで、パーティクルがウェハWに付着することを抑制しながら、ウェハWを高温で加熱することができる。
【0067】
更に、時刻t3から時刻t13までの期間において、ウェハWの回転速度をしきい値回転速度Rth以上としながら、必要に応じて、希ガスと水素ガスとの切り替えや、ガス流量の変更を行うことが望ましい。このように高い回転速度でガスの切り替えや流量を制御することで、パーティクルがウェハWに付着することを抑制しながら、希ガスと水素ガスとの切り替えや、ガス流量の変更を行うことができる。なお、ウェハWを反応室2から搬出する際に、反応室2内が不活性ガスで置換されている必要がない場合、すなわち、反応室2内が水素ガスで満たされている状態で、ウェハWを反応室2から搬出する場合は、不活性ガスから水素ガスへのガスの切り替えを行う必要はない。また、コストを考慮する必要がなければ、第1ガス流量G1は、エピタキシャル成長に使用するガスの流量である第2ガス流量と等しくても良く、その場合は、ガス流量の変更を行う必要はない。
【0068】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1:サセプタ
2:反応室
14:第1ヒーター
26:第2ヒーター
100:成膜装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7