(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】ベークド製品用の乳化剤としてのタンパク質加水分解物
(51)【国際特許分類】
A21D 2/24 20060101AFI20241118BHJP
A21D 2/26 20060101ALI20241118BHJP
A21D 13/80 20170101ALI20241118BHJP
【FI】
A21D2/24
A21D2/26
A21D13/80
(21)【出願番号】P 2022128596
(22)【出願日】2022-08-12
(62)【分割の表示】P 2020523367の分割
【原出願日】2018-10-26
【審査請求日】2022-09-09
(32)【優先日】2017-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘルガソン,スランドゥル
(72)【発明者】
【氏名】ヒーチュ,ディーター
(72)【発明者】
【氏名】ホーラッハー,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】クッチャー,ヨッヘン
(72)【発明者】
【氏名】マルツ,セリーナ
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-524471(JP,A)
【文献】特開平09-009860(JP,A)
【文献】特開平06-062721(JP,A)
【文献】特開2001-302694(JP,A)
【文献】特開2005-185223(JP,A)
【文献】特開平07-258292(JP,A)
【文献】特開昭58-174232(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0311407(US,A1)
【文献】スポンジケーキの性状におよぼす起泡改良剤の影響, 家政学雑誌, 1971, vol.22, no.5, p.280-287
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポンジケーキ、スイスロール、及びエンゼルケーキから選択される無脂肪のケーキを調製するためのタンパク質加水分解物の使用であって、
タンパク質加水分解物が、少なくとも1種の還元糖に結合しており、タンパク質加水分解物の分子量が600~2400Daの間であり、タンパク質加水分解物の溶解度が、少なくとも85%である、使用。
【請求項2】
タンパク質が、植物又は動物タンパク質から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
泡立て後の標準のバッター密度が、450g/l未満である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
タンパク質加水分解物の最大分子量が、2300Daである、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
タンパク質加水分解物の最小分子量が、650Daである、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
タンパク質加水分解物が、カゼイン加水分解物であり、カゼイン加水分解物の分子量が、650~1000Daの間である、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
タンパク質加水分解物が、小麦タンパク質加水分解物であり、小麦タンパク質加水分解物の分子量が、1300~2200Daの間である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
デンプンベースのバッター中の
、少なくとも1種の還元糖に結合したタンパク質加水分解物の量が、少なくとも0.8%(w/w)である、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
小麦粉ベースのバッター中の
、少なくとも1種の還元糖に結合したタンパク質加水分解物の量が、少なくとも2.0%(w/w)である、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
タンパク質加水分解物が、酵素的に加水分解されたタンパク質加水分解物である、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
タンパク質加水分解物が、加水分解後にろ過されない、並びに/又は、クエン酸、乳酸、リン酸、塩酸及び硫酸からなる群から選択される酸によりpH中和される、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
ベークド製品のバッターが、レシチン(E322);ポリソルベート(E432~436);アンモニウムリン脂質(E442);脂肪酸のナトリウム、カリウム及びカルシウム塩(E470);脂肪酸のモノ及びジグリセリド(E471);モノ及びジグリセリドの酢酸エステル(E472a);モノ及びジグリセリドの乳酸エステル(E472b);モノ及びジグリセリドのクエン酸エステル(E472c);モノ及びジグリセリドのジアセチル酒石酸エステル(E472e);脂肪酸のショ糖エステル(E473);スクログリセリド(E474);脂肪酸のプロピレングリコールエステル(E477);脂肪酸のポリグリセロールエステル(E475);キャスター油脂肪酸のポリグリセロールエステル(E476);脂肪酸のモノ及びジグリセリドと相互作用する熱的酸化大豆油(E479)、並びにステアリル乳酸ナトリウム及びカルシウム(E481及びE482)からなる群から選択される、単離された乳化剤を含まない、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
ベークド製品のバッターが、粉及び/又はデンプンを含んでおり、粉中のモノ及びジグリセリドの量が、粉1kg当たり1g/kg未満である、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
少なくとも1種の還元糖に結合したタンパク質加水分解物を含む標準のケーキの体積が、少なくとも3500mlである、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
少なくとも1種の還元糖に結合したタンパク質加水分解物が、凍結乾燥粉末として使用される、請求項1~14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
還元糖が、グルコース、フルクトース、マルトース、ラクトース、ガラクトース、セロビオース、グリセルアルデヒド、リボース キシロース、及びマンノースからなる群から選択される、請求項
1~15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
結合度が、少なくとも10%である、請求項
1~16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
タンパク質加水分解物中のペプチドに対する還元糖のモル比が、0.5~2.0である、請求項
1~17のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベークド製品用の乳化剤としてのタンパク質加水分解物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、スポンジケーキは、砂糖を半分ずつ含有する卵白及び卵黄を別々に泡立てて空気を含ませ、次いで、粉、デンプン及びベーキングパウダーを注意深く添加した後に焼成することによって作製される。しかし、この方法は、工業規模のケーキの製造には複雑過ぎる。更に、従来のように調製されたフォームは、機械的応力に極めて繊細である。現在の工業規模の焼成は、取り扱い及び焼成中にフォームを速く製造し、フォームを安定に保つ高速な方法を必要としている。これは、泡立て及び焼成の間にフォームをはるかに速く生成し、次にフォームを安定化させるのを助ける乳化剤を添加することによって達成される(Bennion & Bemford、1997)。更に、乳化剤を使用することによって、悪影響を与えることなくレシピ全体(すなわち、卵白、卵黄、砂糖、デンプン、小麦粉、及びベーキングパウダー)を泡立てることが可能である。
【0003】
乳化剤は両親媒性なので、空気とケーキバッター(水相)との間の境界面に吸着し、空気と水との相互作用力のバランスを取ることによって界面張力を低減させる。界面張力が低減すると、バッターと空気の粒との間の新たな境界面を作るのに必要なエネルギーが低減する(Eugenie, S. P.等2014)。したがって、界面張力が下がるとバッター中への空気の取り込みが向上し、泡立て後にフォームが軽くなる。次に、乳化剤を正しく混合すると、会合構造が生じ、それによってバッターの粘弾性が実質的に増大する(Richardsson et al. 2004)。粘弾性が増大すると、まず泡立ち特性が向上し、更に崩壊に対してフォームが安定化する(Eugenie, S. P. et al. 2014)。フォームの崩壊は、空気の粒が合体し、より大きい空気の粒を形成することを意味する。これは、フォームの機械的加工中及び焼成中に起こり得る。現在、従来の乳化剤、例えば脂肪酸のモノ-及びジグリセリド等が適用されているが、これらの乳化剤を用いて製造されるケーキの体積には限りがある。
【0004】
ベーキング業界は、ケーキが膨れ過ぎていることを示す大きい気泡を含まない、きめ細かく均一なクラム構造(crumb structure)というケーキの品質を落とすことなく、同じ量のバッターを基にしてケーキの体積を更に増量する、又は成分の量、したがってコストを低減して同じ体積のケーキを製造することに関心を抱いている。更に、より天然由来の製品であること、及び製品のラベル上の成分の数がより少ないことを求める消費者の動向によって、化学又は合成乳化剤、例えば脂肪酸のモノ-及びジグリセリド並びに合成脂肪酸エステル等に代わるものに対する需要が創出されている。
【0005】
タンパク質だけを使用して他の従来の化学合成乳化剤に置きかえても、スポンジケーキ系に空気を適正に抱き込ませることができなかった。フォームが作られないか、又は焼成操作中にフォームが安定しなかった。
【0006】
EP 2214498は、非加水分解性ジャガイモタンパク質に由来するオキシダーゼ及びリパーゼ酵素をパンに適用することについて記載している。
【0007】
タンパク質を加水分解する公知の方法があり、先行技術において、タンパク質の酵素加水分解が、例えば、ACE阻害剤を作製するために(US2004086958A)、又は糖尿病患者を治療するために(US2003004095A)行われてきた。これらの出願は、特定の極めて短いペプチド鎖、多くの場合、数個の長さしかないアミノ酸を形成することに焦点を合わせているが、これらの極めて短いアミノ酸鎖はフォームを安定化させることができない(500未満のOPA-N値)。他の方法が、US 2003175407A及びUS 2007172579Aに記載されており、その方法は、タンパク質を、10を上回る高いpHを使用して加水分解するものであった。それらは更に、得られたタンパク質加水分解物(アルカリ処理された)系の起泡性について記載している。しかし、アルカリ処理は、タンパク質のアミノ酸の化学修飾をもたらし、それによって栄養特性が失われ、更に通常にはないアミノ酸が形成されることが知られている(Tavano O. L. 2013、Provansal et al. 1975)。アルカリ加水分解は、高MWのタンパク質加水分解物(OPA-N値3450)をもたらし、それによって大きな空気の粒を有するフォームが生じる。このフォームの焼成後に、ケーキの構造は粗くなり、したがって従来の乳化剤を用いたケーキほどきめ細かくならない。US 5486461は、カゼイン加水分解物を製造する方法を簡潔に開示している。また、EP 2296487は、飲料、栄養ドリンク及びスポーツドリンクにおける栄養目的のための小麦タンパク質加水分解物の使用を開示しているが、乳化剤としてではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、きめ細かいフォームを生成し、負担がかかる環境、例えば焼成下等でフォームを安定化し、それによって、従来の乳化剤と比較して、同じ好ましい均一なケーキクラム構造を示しながらケーキ体積を大きくすることができる、天然由来の乳化剤を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
驚くべきことに、この目的は、600~2400Daの範囲内のMW及び少なくとも85%の溶解度を有するタンパク質加水分解物を使用することによって解決されることが見出された。
本発明はまた、以下に関する。
[項目1]
ベークド製品、好ましくはケーキ、特に無脂肪のケーキを調製するためのタンパク質加水分解物の使用であって、タンパク質加水分解物の分子量が600~2400Daの間であり、タンパク質加水分解物の溶解度が、少なくとも85%、好ましくは少なくとも88、89、90、91、92、93、94、95、95、97、98、又は99%、特に100%である、使用。
[項目2]
タンパク質が、植物又は動物タンパク質から選択され、好ましくは、小麦、大豆、米、ジャガイモ、エンドウ豆、ヒマワリ、菜種、ルピナス、及び乳タンパク質からなる群から選択される少なくとも1種であり、特に小麦タンパク質又はカゼインである、項目1に記載の使用。
[項目3]
泡立て後の標準のバッター密度が、450g/l未満、好ましくは、420、400、380、370、360、350、340、330、320、又は310g/l未満である、項目1又は2に記載の使用。
[項目4]
タンパク質加水分解物の最大分子量が、2300Da、好ましくは、2200、2100、2000、1900、1800、又は1700Daである、項目1~3のいずれか一項に記載の使用。
[項目5]
最小分子量が、650Da、好ましくは、660、670、680、690、700、710、720、750、又は800Daである、項目1~4のいずれか一項に記載の使用。
[項目6]
カゼイン加水分解物の分子量が、650~1000Daの間、好ましくは670~900Daの間、特に680~870Daの間である、項目1~5のいずれか一項に記載の使用。
[項目7]
小麦タンパク質加水分解物の分子量が、1300~2200Daの間、好ましくは1400~2100Daの間、特に1500~2000Daの間、最も好ましくは1600~2000Daの間である、項目1~6のいずれか一項に記載の使用。
[項目8]
デンプンベースのバッター中のタンパク質加水分解物、好ましくはカゼイン加水分解物の量が、少なくとも0.8%(w/w)、好ましくは少なくとも1.2%(w/w)、特に少なくとも1.6%(w/w)である、項目1~7のいずれか一項に記載の使用。
[項目9]
小麦粉ベースのバッター中のタンパク質加水分解物、好ましくはカゼイン加水分解物の量が、少なくとも2.0%(w/w)、好ましくは少なくとも2.4%(w/w)、特に少なくとも3.2%(w/w)である、項目1~8のいずれか一項に記載の使用。
[項目10]
タンパク質加水分解物が、酵素的に、好ましくはエンドペプチダーゼで、特にアルカリプロテアーゼで加水分解されたタンパク質加水分解物である、項目1~9のいずれか一項に記載の使用。
[項目11]
タンパク質加水分解物が、加水分解後にろ過されない、並びに/又は、クエン酸、乳酸、リン酸、塩酸及び硫酸からなる群から選択される酸によりpH中和される、項目1~10のいずれか一項に記載の使用。
[項目12]
ベークド製品のバッターが、レシチン(E322);ポリソルベート(E432~436);アンモニウムリン脂質(E442);脂肪酸のナトリウム、カリウム及びカルシウム塩(E470);脂肪酸のモノ及びジグリセリド(E471);モノ及びジグリセリドの酢酸エステル(E472a);モノ及びジグリセリドの乳酸エステル(E472b);モノ及びジグリセリドのクエン酸エステル(E472c);モノ及びジグリセリドのジアセチル酒石酸エステル(E472e);脂肪酸のショ糖エステル(E473);スクログリセリド(E474);脂肪酸のプロピレングリコールエステル(E477);脂肪酸のポリグリセロールエステル(E475);キャスター油脂肪酸のポリグリセロールエステル(E476);脂肪酸のモノ及びジグリセリドと相互作用する熱的酸化大豆油(E479)、並びにステアリル乳酸ナトリウム及びカルシウム(E481及びE482)からなる群から選択される、単離された乳化剤を含まない、項目1~11のいずれか一項に記載の使用。
[項目13]
ベークド製品のバッターが、粉及び/又はデンプンを含んでおり、粉中のモノ及びジグリセリドの量が、粉1kg当たり1g/kg未満、好ましくは0.5g/kg未満、特に0g/kgである、項目1~12のいずれか一項に記載の使用。
[項目14]
タンパク質加水分解物を含む標準のケーキの体積が、少なくとも3500ml、好ましくは、少なくとも3600、3700、3800、3900、又は4000mlである、項目1~13のいずれか一項に記載の使用。
[項目15]
加水分解物が、糖及び多糖から選択される追加成分を含むことが好ましい凍結乾燥粉末として使用される、項目1~14のいずれか一項に記載の使用。
[項目16]
加水分解物が、少なくとも1種の還元糖に結合している、項目1~15のいずれか一項に記載の使用。
[項目17]
還元糖が、グルコース、フルクトース、マルトース、ラクトース、ガラクトース、セロビオース、グリセルアルデヒド、リボース キシロース、及びマンノースからなる群から選択される、項目16に記載の使用。
[項目18]
結合度が、少なくとも10%、好ましくは少なくとも15%、20%、25%、30%、35%、又は40%である、項目16又は17に記載の使用。
[項目19]
ペプチドに対する還元糖のモル比が、0.5~2.0、好ましくは1.0~1.7である、項目16~18のいずれか一項に記載の使用。
[項目20]
結合済みタンパク質加水分解物であって、加水分解物が還元糖に結合しており、結合度が、少なくとも10%、好ましくは15%、より好ましくは少なくとも20%であり、タンパク質がカゼインであり、タンパク質加水分解物の分子量が、600~2400Daの間、好ましくは650~1000Daの間である、結合済みタンパク質加水分解物。
[項目21]
ペプチドに対する還元糖のモル比が、0.5~2.0、好ましくは1.0~1.7である、項目20に記載の結合済みタンパク質加水分解物。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】表面下に大きい気孔を有していないか又は最小限の量で有しており、クラム構造は、ケーキ全体にわたってきめ細かく均一であり、ケーキの体積は3300mlを上回る、ケーキを示す図である。
【
図2】表面下に大きい気孔を有していないか又は最小限の量で有しており、クラム構造は粗く不均一であり、ケーキの体積は3000mlを上回る、ケーキを示す図である。
【
図3】表面下に多くの気孔があるか、又は極めて不均一/粗いクラム構造であり、ケーキの体積は2800mlを上回る、ケーキを示す図である。
【
図4】ケーキの表面は外皮下の膨大な量の気孔のために脆いか、又はケーキは焼成中に部分的に共に陥没しており、ケーキの体積は2800mlを上回る、ケーキを示す図である。
【
図5】焼成中に完全に共に陥没しており、ケーキの体積は2800ml未満である、ケーキを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ベークド製品、好ましくはケーキ、特に無脂肪のケーキを調製するためのタンパク質加水分解物の使用であって、タンパク質加水分解物の分子量が600~2400Daの間であり、タンパク質加水分解物の溶解度が少なくとも85%である、使用に関する。本発明によるMWは、方法の部で後述するようにOPA-Nを測定することによって決定される平均の見かけのMW値である(Frister H. et al. 1988)。溶解度が高くなると、バッター密度は低くなり、得られるケーキの体積が大きくなる。したがって、好ましくは、溶解度は、少なくとも88、89、90、91、92、93、94、95、95、96、97、98、又は99%であり、特に100%である。
【0012】
本発明によるベークド製品は、バッターの持ち上げ(lifting)が酵母又はサワードウを用いずに行われ、基本的にバッターに空気を機械的に抱き込ませることによってなされる製品である。本発明の文脈における無脂肪とは、ドウが、バター、濃縮バター、マーガリン、又はケーキの調製に一般に使用される油を含まないが、それ自体が幾らかの量の油を含み得る成分、例えばココア又は挽いたナッツ等を含み得ることを意味する。無脂肪とは、焼成後のフィリング又はアイシング、例えば、ホイップクリーム又はバタークリーム等を指すものではない。好ましいケーキは、スポンジケーキ、ロールケーキ(スイスロール)、又はエンゼルケーキである。
【0013】
好ましくは、タンパク質は、植物又は動物タンパク質であり、より好ましくは、小麦、大豆、米、ジャガイモ、エンドウ豆、ヒマワリ、菜種、ルピナス、及び乳タンパク質、例えば、カゼイン、乳清タンパク質、又はベータ-ラクトグロブリン等からなる群から選択される少なくとも1種である。特に好ましいのは、小麦タンパク質又はカゼインである。各タンパク質は異なるMW及び構造を有し、したがって様々なタンパク質加水分解物の最適な範囲は、個々のタンパク質に依存する。
【0014】
一実施形態によれば、タンパク質加水分解物を含む標準のケーキレシピの泡立て後、焼成前のバッター密度は、450g/l未満である。泡立ては、方法の部の「泡立て」に従って行われる。デンプン及び粉の含有率に応じて、2種のバッターの標準レシピがあり(表1参照)、それらにおいて異なる量のタンパク質加水分解物が添加される(表2参照)。きめ細かく安定なフォームを作るためのタンパク質加水分解物の質は、バッター密度によって決定される。何故なら、密度が低いということは、バッターが、より多くの気泡を含んでおり、焼成中にも十分な安定化が存在すれば最終的なケーキ体積が大きくなることを意味しているからである。好ましくは、バッター密度は、420、400、380、370、360、350、340、330、320g/l未満であるか、又は特に310g/l未満である。
【0015】
好ましくは、タンパク質加水分解物の最大分子量(MW)は、2300Da、好ましくは、2200、2100、2000、1900、1800、又は1700Daである。分子量が小さくなると、焼成後に得られるケーキ構造が、ケーキ中の気孔に関してきめ細かくなる。しかし、MWが小さ過ぎると泡立て又は焼成中の安定性が失われ、バッターの密度が高くなるか、又はバッターが焼成中に崩れることになる。したがって、好ましい実施形態によれば、タンパク質加水分解物の最小分子量は、650Da、好ましくは、660、670、680、690、700、710、720、750、又は800Daである。
【0016】
本発明の一実施形態によれば、小麦タンパク質加水分解物の分子量は、1300~2200Daの間、好ましくは1400~2100Daの間、特に1500~2000Daの間、最も好ましくは1600~2000Daの間である。
【0017】
本発明の別の実施形態によれば、カゼイン加水分解物の分子量は、650~1000Daの間、好ましくは670~900Daの間、又は690~900Daの間、特に、680~870Daの間、又は720~870Daの間である。
【0018】
本発明による使用のためのタンパク質加水分解物の量は、バッター中の粉の含有率に依存する。デンプンのみを含むバッターの一実施形態では、バッター中のタンパク質加水分解物、好ましくはカゼイン加水分解物の量は、少なくとも0.8%(w/w)、好ましくは少なくとも1.2%(w/w)、より好ましくは少なくとも1.6%(w/w)、特に少なくとも2.0%(w/w)である。最適な配合量は、個々のタンパク質加水分解物、各ベーカーが作製するバッターの差異及び追加成分に依存する。表1による標準のバッターレシピでは、好ましいカゼイン加水分解物の投与量は10g又は1.6%w/wであり、小麦タンパク質加水分解物の場合、それは好ましくは15g又は2.4%w/wである。
【0019】
小麦粉を含むバッターの別の実施形態では(表1参照、粉:デンプンの比が6:4である1番目の標準のケーキレシピ)、タンパク質加水分解物、好ましくはカゼイン加水分解物の量は、少なくとも2.0%(w/w)、好ましくは少なくとも2.4%(w/w)、より好ましくは少なくとも3.0%(w/w)、特に少なくとも3.2%(w/w)である。粉:デンプンの比がより低いか又はより高い場合、タンパク質加水分解物の最小量は、粉が多くなれば一般にタンパク質加水分解物が多く必要になるため、対応して調整されることになる。
【0020】
特定の一実施形態によれば、適用すべきカゼイン加水分解物の最大量は、5%(w/w)、好ましくは4%(w/w)、特に3.5%(w/w)である。
【0021】
別の特定の実施形態によれば、適用すべき小麦タンパク質加水分解物の最大量は、7%(w/w)、好ましくは6%(w/w)、特に5%(w/w)である。
【0022】
好ましくは、タンパク質加水分解物は、酵素的に加水分解されたタンパク質加水分解物である。好ましい酵素は、エンドペプチダーゼ、特にアルカリプロテアーゼである。そのような酵素の例は、アルカラーゼ、ニュートラーゼ、又はフレーバーザイム(Novozymes)である。主に加水分解を化学的に、例えば水酸化物によって行うこともできるが、所望のMWの範囲内の加水分解物を得るために条件及びプロセスを注意深く制御しなくてはならない。
【0023】
好ましい実施形態では、タンパク質加水分解物は、加水分解後に、好ましくは酵素的加水分解後にろ過されない。加水分解後の溶解度が低過ぎて、より高い溶解度、より低いバッター密度、及びより大きいケーキ体積を得るために、溶解度を増大させる必要がある場合、ろ過ステップを追加することも可能である。
【0024】
別の実施形態では、タンパク質加水分解物は、加水分解後に、好ましくは酵素的加水分解後に、食品成分に適した任意の酸、例えば、これらに限定されないが、乳酸、リン酸、塩酸、クエン酸又は硫酸を適用することによって、噴霧乾燥前に約pH7.0に中和される。このpHが中性の噴霧乾燥製品は、他のバッター成分、例えばベーキングパウダー等によっては、加工中に利点を有する。
【0025】
本発明の一目的が、ベークド製品用の天然由来の非化学乳化剤を提供することであることから、本発明によるバッター又はケーキは、レシチン(E322);ポリソルベート(E432~436);アンモニウムリン脂質(E442);脂肪酸のナトリウム、カリウム、及びカルシウム塩(E470);脂肪酸のモノ-及びジグリセリド(E471);モノ及びジグリセリドの酢酸エステル(E472a);モノ及びジグリセリドの乳酸エステル(E472b);モノ及びジグリセリドのクエン酸エステル(E472c);モノ-及びジグリセリドのジアセチル酒石酸エステル(E472e);脂肪酸のショ糖エステル(E473);スクログリセリド(E474);脂肪酸のプロピレングリコールエステル(E477);脂肪酸のポリグリセロールエステル(E475);キャスター油(caster oil)脂肪酸のポリグリセロールエステル(E476);脂肪酸のモノ-及びジグリセリドと相互作用する熱的酸化大豆油(E479)、並びにステアリル乳酸ナトリウム及びカルシウム(sodium and calcium stearyl lactylate)(E481及びE482)からなる群から選択される、単離された乳化剤を含まないことが好ましい。何故なら、全てのこれらの乳化剤は、それらのEナンバーと共に製品ラベル上に列挙しなければならないからである。本出願の文脈における単離された乳化剤とは、別々の構成成分として調製され、ドウに添加される乳化剤を意味しており、天然に存在する成分の一部分、例えば、卵黄中に存在するレシチン等として添加される乳化剤を意味するものではない。
【0026】
一実施形態では、バッターはデンプンのみを含み、別の実施形態では、それはデンプンと粉、特に小麦粉との、粉:デンプンの比がケーキ製品に応じて90:10~10:90であるような混合物である。好ましくは、そのような混合物において、粉中のモノ及びジグリセリドの量は、粉1kg当たり1g未満、好ましくは0.5g未満、特に0gである。したがって、その比は、粉のモノ及びジグリセリド含有率に依存しており、モノ及びジグリセリドの含有率が低ければ、含有率がより高い場合と比較して、粉の比を高くすることが可能である。
【0027】
好ましくは、粉/デンプン又はデンプンレシピ(表1及び焼成例)に従う550gのバッターから焼成したケーキである、タンパク質加水分解物を含む標準のケーキの体積は、少なくとも3500ml、好ましくは少なくとも3600、3700、3800、3900ml、又は特に少なくとも4000mlである。焼成後の体積は、ケーキのクラム構造と共に重要な品質パラメータである。体積は、様々な方法、例えば、レーザースキャニング又は菜種置換法等によって決定することができる。スポンジケーキは、軽く、均一な構造を有していることが期待される。体積が大きいと、大きい気孔が生じ、不規則な構造になることが多い(表2、Hyfoamaの例参照)。
【0028】
好ましい実施形態では、タンパク質加水分解物は、糖及び多糖から選択される追加成分を含むことが好ましい凍結乾燥又は噴霧乾燥粉末として使用される。加水分解物を、液体又は濃縮物として加水分解後に直接適用することも可能であるが、タンパク質の液体は一般に、とりわけ食品用途では、乾燥粉末より安定化及び保存が困難である。
【0029】
好ましい実施形態では、タンパク質加水分解物は、少なくとも1種の還元糖に結合している。この結合の利点は、加水分解物の焼成性能に影響を与えることも、それを低減することもなく、幾つかのタンパク質加水分解物の苦味を低減することである。本出願の文脈における結合とは、加水分解物と糖との単なる混合ではなく、高温でメイラード反応を行うことを意味する。この結合は、タンパク質加水分解物のアミノ基と還元糖のカルボニル基との縮合によって開始されて、シッフ塩基が形成され、アマドリ及びヘインズ生成物へ転位する。この結合は、溶液/分散液中で行われても、又は乾燥状態で行われてもよく、好ましくは、高濃度のペプチド及び還元末端を有する糖を含む溶液中で行われる。この結合によって処理された加水分解物を「結合済み加水分解物」と呼ぶ。結合のプロセスは、それぞれのタンパク質加水分解物及びそのMWに応じて、例えば、pH、温度、及び反応時間を選択することによって制御される。結合反応の例及び結果を表3に示す:糖の量が多くなると苦さが少なくなり、pHが高くなると苦さが少なくなり、また反応時間が長くなると苦さが更に低減する。温度は約65℃であることが好ましく、何故なら、より高い温度では、白色の粉末が好まれる幾つかの用途に望ましくない結合体の色の変化を回避するために、プロセスを極めて正確に制御することが必要になるからである。結合のレベルは、結合度を決定することによって特徴づけされる。
【0030】
行った味覚分析(表3)は、苦さと結合度との間に明白な相関関係を示している。結合済みペプチドは、結合プロセスのないタンパク質加水分解物と糖との同じ組み合わせと比較して、苦味が少なかった。このことは、苦味のマスキングが、糖の甘味によって生じるのではなく、特定の結合反応によって生じることを明白に示している。
【0031】
本発明によれば、食料製品に適した任意の還元糖が適用可能である。好ましくは、糖は、グルコース、フルクトース、マルトース、ラクトース、ガラクトース、セロビオース、グリセルアルデヒド、リボース キシロース、及びマンノースからなる群から選択される。
【0032】
一実施形態によれば、後で説明する方法に従って測定される結合度は、少なくとも10%、好ましくは15%、20%、25%、30%、35%、又は40%である。少なくとも10%の結合度で、苦さの有意な低減が早くも達成されるが、少なくとも20%又はそれ以上の結合度によって、50%の苦味の低減に達することができる。
【0033】
一実施形態によれば、ペプチドに対する還元糖のモル比は、0.5~2.0、好ましくは1.0~1.7である。グルコースの場合、これは、10:90~40:60、好ましくは20:80~30:70のグルコースと加水分解物との重量比に相当する。糖の量が多くなると、結合済み加水分解物の苦さは少なくなる。何故なら、苦味を生じる基がより多く還元糖と反応することができるからである。したがって、糖の量は、苦さの多い加水分解物、例えばカゼイン加水分解物等の方が、苦さの少ないペプチド、例えば小麦タンパク質加水分解物等よりも多く、個々の苦さに応じて調整されることになる。
【0034】
本発明はまた、食料製品、好ましくはベーキング製品用の苦味のない乳化剤として適した結合済み小麦タンパク質又はカゼイン加水分解物であって、加水分解物が還元糖に結合しており、結合度が、少なくとも10%、好ましくは15%、20%、35%、30%、35%、又は40%であり、タンパク質加水分解物が、600~2400Daの間のMWを有する、結合済み小麦タンパク質又はカゼイン加水分解物に関する。好ましくは、MWは、タンパク質の由来に応じて650~2000Daの間である。カゼイン加水分解物の結合体の場合、加水分解物のMWは、好ましくは650~1000Daの間、特に670~900Daの間である。小麦タンパク質加水分解物の場合、加水分解物のMWは、好ましくは1300~2200Daの間、特に1500~2000Daの間である。
【実施例】
【0035】
一実施形態によれば、ペプチドに対する還元糖のモル比は、0.5~2.0、好ましくは1.0~1.7である。グルコースの場合、これは、10:90~40:60、好ましくは20:80~30:70のグルコースと加水分解物との重量比に相当する。糖の量が多くなると、結合済み加水分解物の苦さは少なくなる。何故なら、苦味を生じる基がより多く還元糖と反応することができるからである。したがって、糖の量は、苦さの多い加水分解物、例えばカゼイン加水分解物等の方が、苦さの少ないペプチド、例えば小麦タンパク質加水分解物等よりも多く、個々の苦さに応じて調整されることになる。
【0036】
方法
タンパク質加水分解
タンパク質加水分解物についての一般的なプロセスの説明
タンパク質を水中に分散し、続いてpHを調整する。pHは、各酵素に最適なpH範囲に調整し、よって、どの酵素を使用するかに応じて変動し得る。一般的な加工温度は、50~65℃である。しかし、各酵素には特定の最適な反応温度があるため、これも、どの酵素を使用するかに応じて変動し得る。タンパク質分散液の温度及びpH状態が安定であれば、酵素を添加して、タンパク質加水分解反応を開始する。反応時間によって、製造されるタンパク質加水分解物のMWが決まり、よってタンパク質加水分解物の特性は、反応時間によって制御することができる。所望のMWを達成したら、温度を上げて酵素を変性させるか、又はpHを変えることによって、反応を停止する。一般的な変性温度は80~90℃であり、使用する酵素のタイプに依存する。変性後に、タンパク質加水分解物を、限定されるものではないが、噴霧乾燥又は冷凍乾燥を使用して凍結乾燥する。材料の適用性又は粉末の取り扱いを改変するために、凍結乾燥操作前に糖、多糖、脂質、及び他の成分を添加することが可能である。
【0037】
小麦タンパク質加水分解物
100gの小麦タンパク質を1050gの55~65℃の温水中(温度は全加水分解時間を通して保たれる)に徐々に分散させ、Ca(OH)2を使用してpHを9.0~10.5に調整し、次いで0.2~1.0gのアルカラーゼを添加し、200~300gの小麦タンパク質を次の5~30分間でゆっくり分散させる。0.5~2.0gのアルカラーゼを添加し、材料を10~30分間撹拌する。200~350gのタンパク質(この時点で粘度が高いため、高速撹拌器を使用してタンパク質を3分間分散させる)及び0.5~2.0gのアルカラーゼを分散させ、Ca(OH)2を使用してpHをpH9.0~10.5に一定に保ちながら、30~120分間撹拌する。場合によって、食品用酸、例えば、リン酸、塩酸(Hydrocloric acid)、クエン酸、乳酸、又は硫酸等を使用して、pHを7.0~7.5に調整する。80~84℃に加熱し、その温度を15分間保持することによって酵素反応を停止する。溶液を噴霧乾燥して、粉末を形成する。
【0038】
例W5及びW6を、以下のプロセスに従って製造した。
100gの小麦タンパク質を1050gの58℃の温水中(温度は全加水分解時間を通して保たれる)に徐々に分散させ、Ca(OH)2を使用してpHを9.5に調整し、次いで0.5gのアルカラーゼを添加し、250gの小麦タンパク質を次の10分間でゆっくり分散させる。1gのアルカラーゼを添加し、材料を20分間撹拌する。250gのタンパク質(この時点で粘度が高いため、高速撹拌器を使用してタンパク質を3分間分散させる)及び1gのアルカラーゼを分散させ、Ca(OH)2を使用してpHをpH9.5に一定に保ちながら、60分間撹拌する。80~84℃に加熱し、その温度を15分間保持することによって酵素反応を停止する。溶液を噴霧乾燥して、粉末を形成する。
【0039】
カゼイン加水分解物
21.5kgの水道水を55~65℃に加熱し(温度は全加水分解時間を通して保たれる)、0~250gのNaOH(20%NaOH溶液)を添加する。6~8kgのカゼインを温水中に分散させ、20%NaOH溶液を使用してpHを8.5~9.5に調整する。40~100gのアルカラーゼを添加し、5~12kgのカゼインをゆっくり添加しながら材料を15~60分間撹拌する(pHは8.5~9.5に保つ)。40~100のアルカラーゼを添加し、20%NaOH溶液を使用してpHをpH8.0~9.0に10~120分間一定に保つ。場合によって、pHを8.0~9.0に30~120分間保ちながら、5~7kgのカゼインを添加する。次いで、pHを一定に保たずに30~120分間撹拌すると、最終pHは7.5~8.5となる。場合によって、食品用酸、例えば、リン酸、塩酸、クエン酸、乳酸又は硫酸等を使用して、pHを7.0~7.5に調整する。80~84℃に加熱し、その温度を15分間保持することによって酵素反応を停止する。溶液を噴霧乾燥して、粉末を形成する。
【0040】
例C9及びC11を、以下のプロセスに従って製造した。
21.15kgの水道水を60℃に加熱し(温度は全加水分解時間を通して保たれる)、182gのNaOH(20%NaOH溶液)を添加する。6.93kgのカゼインを温水中に分散させて、20%NaOH溶液を使用してpHを9.0に調整する。87gのアルカラーゼを添加し、10.42gのカゼインをゆっくり添加しながら材料を30分間撹拌する(pHを9.0に保つ)。87のアルカラーゼを添加し、20%NaOH溶液を使用してpHをpH8.5に60分間一定に保つ。次いで、最後の60分間pHを一定に保たないで60分間撹拌すると、最終pHは7.9になる。80~84℃に加熱し、その温度を15分間保持することによって酵素反応を停止する。溶液を噴霧乾燥して、粉末を形成する。
【0041】
タンパク質加水分解物の結合
70~90gのカゼイン加水分解物を86~110gの水に溶解し、10~30gのグルコースをこの溶液に65又は85℃で添加し、NaOHでpHを8又は8.5に調整する。NaOHを使用してpHを一定に保ちながら、この系を撹拌する。30又は60分後に、この系を噴霧乾燥して粉末を形成する。
【0042】
泡立て
タンパク質加水分解物の焼成性能を、標準のケーキ用途で試験する(表1)。185gの天然小麦デンプン、150gの砂糖、2.2gの炭酸水素ナトリウム、3gの酸性ピロリン酸ナトリウム、230gの全卵、及び30gの水のブレンドをタンパク質加水分解物と共に、遊星型ミキサー(Hobart N 50、デイトン、オハイオ、米国)内で、ステップ3では5分間、ステップ2では更に30秒間泡立てた。
【0043】
【0044】
バッター密度
泡立て後に、250mlのボウルを満たすバッターの量(g)を秤量することによってバッター密度を決定する。重量に4を掛けて、1リットル当たりのグラム数でのバッター密度を得る。
例:250mlのボウル中バッター100g×4=バッター密度400g/l
【0045】
焼成及び標準のケーキの体積
550gのバッターを秤量して丸型の焼成缶(直径26cm、高さ5cm)に入れ、ドラフトが開いたデッキオーブン(Wachtel、ヒルデン、ドイツ)内で、およそ29分間195℃で焼成する。
【0046】
レーザースキャナー(Volscan、Micro Stable Systems、ハミルトン、マサチューセッツ、米国)を使用して、標準のケーキの体積を決定する。
【0047】
ケーキ構造の評価
ケーキを室温まで冷まし(室温で1時間保管する)、次いでケーキを中央で水平方向に切断してケーキ構造を調査することによって、ケーキ構造の評価を行う。1~5にランク付けすることによってケーキを格付けし、以下の例及び
図1~5に示すように、1は良好なケーキ構造であり、5は極めて悪いケーキ構造である。
1)ケーキは、表面下に大きい気孔を有していないか又は最小限の量で有しており、クラム構造は、ケーキ全体にわたってきめ細かく均一である。ケーキの体積は、3300mlを上回る(
図1)。
2)ケーキは、表面下に大きい気孔を有していないか又は最小限の量で有しており、クラム構造は、粗く不均一である。ケーキの体積は、3000mlを上回る(
図2)。
3)表面下に多くの気孔があるか、又は極めて不均一/粗いクラム構造である。ケーキの体積は、2800mlを上回る(
図3)。
4)ケーキの表面は、外皮下の膨大な量の気孔のために脆いか、又はケーキは焼成中に部分的に共に陥没しており、ケーキの体積は、2800mlを上回る(
図4)。
5)ケーキは、焼成中に完全に共に陥没している。ケーキの体積は2800ml未満である(
図5)。
【0048】
溶解度
噴霧乾燥後のタンパク質加水分解物の粉末について、2.5gのClarcel DIC-Bをろ過助剤(filtration aide)として含む92.5gの水道水に5gのタンパク質加水分解物の粉末を分散させることによって、タンパク質加水分解物の溶解度を決定する。タンパク質加水分解物の粉末を水相にゆっくり添加することによって、それを水に投入する際、タンパク質加水分解物の粉末が塊を形成しないように注意する必要がある。次いで、NaOH又はHClを使用して、分散液をpH8±0.5に調整する。分散液/溶液を、マグネチックスターラーで、200rpmで1時間撹拌する。Seitz K 300 R001/4cmろ紙を使用して、試料を2.5barの圧力下でろ過する。タンパク質濃度をろ過前及びろ液中で測定した。溶解度は、次式によって算出した:
(ろ液中のタンパク質(g)/ろ過前のタンパク質(g))×100=タンパク質加水分解物の溶解度(%)
【0049】
タンパク質濃度(デュマ法)
タンパク質濃度は、ISO標準方法(ISO 16634)に従って分析する。試料をガス化する燃焼管内で加熱することによって、試料をガスに変換する。得られたガス混合物から、干渉する構成成分を除去する。ガス混合物又はそれらのうちの代表的な部分の中の窒素化合物を窒素分子に変換し、それを熱伝導度検出器によって定量的に決定する。窒素含有率は、マイクロプロセッサによって算出される。窒素に基づいてタンパク質含有量を評価するために、以下の係数を使用した:小麦タンパク質、5.7;カゼイン及び大豆、6.25;米、5.95。
【0050】
平均分子量
平均の見かけのMW値は、OPA-Nを測定することによって測定した(Frister H. et al. 1988)。OPA-Nは、MWを直接示すものではなく、試料当たりの末端アミン基の量を示すに過ぎない。見かけのMW値は、次式を使用して、判明した窒素の総量(窒素の総量は、上述のデュマ法を用いて測定される)をOPA-N値で割ることによって得ることができる:
(Nの総量/OPA-N)*100=見かけのMW
【0051】
モノ及びジグリセリド
モノ及びジグリセリドを定量化する方法については、Morrison et al. 1975を参照されたい。
【0052】
結合度は、以下のように決定される。
最初にOPA-N値を窒素の総量で割る、すなわち、遊離アミノ基を、全てのアミノ酸からの窒素の総量で割る。次いで、結合後のこの比の低減率(%)が算出される。
結合度=
[(OPA-Nstart/窒素start)-(OPA-Nend/窒素end)]/(OPA-Nstart/窒素start)
OPA-Nstartは、結合反応していない加水分解済みタンパク質のOPA-N値であり、OPA-Nendは、結合反応後のOPA-N値である。同様に、窒素startは、結合反応していない加水分解済みタンパク質の総窒素含有率であるのに対して、窒素endは、結合反応後の総窒素含有率である。この比は、糖が系に添加され、したがって総窒素とOPA-Nの両方が希釈によって直接低減された場合に生じる希釈効果を考慮するために使用される。しかし、比を使用することによって、遊離アミノ基の絶対的低減だけが算出される。
【0053】
苦さの官能評価
5人の訓練を受けた官能評価者を使用して、試料を水中1%のペプチド溶液として室温で試験する。希釈作用を排除するために、全ての試料を、どれだけの糖が添加されたとしても1%のペプチドのみを含有するように調整する。評価者には、比較するための標準(非結合加水分解物)を与え、その標準を3の苦さに設定する。苦さに何らかの変化が検出可能であれば、評価者は、苦さが少ない場合は格付けを下げ、苦さが多い場合は格付けを上げる。したがって、「苦さ数」が低くなるということは、系の苦味が少なくなることを意味する。
【0054】
材料
以下の材料を使用した:
NaOH、HCl、硫酸、クエン酸、乳酸、Ca(OH)2、Sigma-Aldrich(セントルイス、ミズーリ、米国)
エンドウ豆タンパク質(エンドウ豆タンパク質72%、Agrident、アムステルダム、オランダ)、大豆タンパク質(Unico 75 IP、Vitablend Nederland B.V.ウォルフェガ、オランダ)、小麦タンパク質(Gluvital 21000、Cargill Germany GmbH、クレーフェルト、ドイツ)、米タンパク質(Remipro N80+、Beneo Remy N.V.ルーバン-ウェイグマール、ベルギー)、カゼイン(Acid Casein 741、Fonterra Ltd、オークランド、ニュージーランド)、
アルカラーゼ 2.4L FG、Novozymes(Novozymes A/S、Gagsvaerd、デンマーク)、Clarcel DIC-B(Ludwig Schulz GmbH、ラングラ、ドイツ)
Spongolit 455、BASF SE(ルートヴィヒスハーフェン、ドイツ)、Gluadin AGP、BASF SE(ルートヴィヒスハーフェン、ドイツ)。Hyfoama 77、Kerry Group(トラリー、アイルランド共和国)
【0055】
実施例
Spongolit(商標)、Hyfoama(商標)、並びに本発明による幾つかの小麦タンパク質加水分解物の例(W1~W7)、及び上の方法によって加水分解されたカゼイン加水分解物(C1~C18)を、デンプン又は粉/デンプンと共に標準のケーキレシピに、乳化剤の様々な量で適用した。例W2、3、4は、一般に化粧品に適用される、市販の小麦加水分解物Gluadin AGPに相当する。C18は、加水分解物が30%のグルコースを含むために、より高い濃度(w/w)を有しており、2.4%の非結合加水分解物に相当する。
【0056】
【0057】
【0058】