(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-15
(45)【発行日】2024-11-25
(54)【発明の名称】光学素子及びEUVリソグラフィシステム
(51)【国際特許分類】
G02B 5/08 20060101AFI20241118BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20241118BHJP
【FI】
G02B5/08 A
G03F7/20 503
(21)【出願番号】P 2022513302
(86)(22)【出願日】2020-08-06
(86)【国際出願番号】 EP2020072119
(87)【国際公開番号】W WO2021037515
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-08-04
(31)【優先権主張番号】102019212910.2
(32)【優先日】2019-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100147692
【氏名又は名称】下地 健一
(72)【発明者】
【氏名】アナスタシア ゴンチャー
(72)【発明者】
【氏名】マティアス シュトルム
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ノットボーム
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/090988(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102012202850(DE,A1)
【文献】特開2006-170811(JP,A)
【文献】特開2001-59901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/00 - 5/136
G03F 7/20 - 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子(1)であって、
基板(2)と、
該基板(2)に施されたEUV放射線(4)を反射する多層系(3)と、
該多層系(3)に施された保護層系(5)であり、第1層(5a)、第2層(5b)、及
び第3層(3c)を含み、前記第1層(5a)は前記第2層(5b)より前記多層系(3)の近くに配置され、前記第2層(5b)は前記第3層(5c)より前記多層系(3)の近くに配置される保護層系(5)と
を備えた光学素子(1)において、
前記第2層(5b)及び前記第3層(5c)は
、それぞれが0.5nm~5.0nmの厚さ(d
2、d
3
)を有し、前記第1層(5a)は、化学量論的若しくは非化学量論的酸化物又は化学量論的若しくは非化学量論的混合酸化物で形成され、前記第1層(5a)の前記酸化物又は前記混合酸化物は、Al、Zr、Yを含む群から選択される少なくとも1つの化学元素を含
み、
前記第2層(5b)は、少なくとも1つの金属、金属の混合物又は合金で形成されることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光学素子において
、前記第3層(5c)は、化学量論的若しくは非化学量論的酸化物又は化学量論的若しくは非化学量論的混合酸化物で形成される光学素子。
【請求項3】
請求項2に記載の光学素子において、前記第3層(5c)の前記酸化物又は混合酸化物は、Zr、Ti、Nb、Y、Hf、Ce、La、Ta、Al、Er、W、Crを含む群から選択される少なくとも1つの化学元素を含む光学素子。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の光学素子において、イオン(6)及び/又は金属粒子(7)が、前記第1層(5a)、前記第2層(5b)、及び/又は前記第3層(5c)に注入され、且つ/又は
、金属粒子(7)が、前記第1層(5a)、前記第2層(5b)、及び/又は前記第3層(5c)に
堆積される光学素子。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の光学素子において、前記保護層系(5)は、0.5nm以下の厚さ(d
4)を有し且つPd、Pt、Rh、Irを含む群から選択され
る少なくとも1つの金属を含む、少なくとも1つの追加層(5d
)を含む光学素子。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の光学素子において、前記多層系(3)は、0.5nmを超える厚さ(d)を有する最上層(3b’)を含む光学素子。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の光学素子において、前記多層系(3)は、ケイ素の最上層(3b’)を備える光学素子。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の光学素子において、前記保護層系(5)は、10nm未
満の厚さ(D)を有する光学素子。
【請求項9】
コレクタミラー(103)として構成された、請求項1~
8のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項の少なくとも1つの光学素子(1、103、112~115、121~126)を備えたEUVリソグラフィシステム(101)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の参照]
本願は、2019年8月28日の独国特許出願第10 2019 212 910.2号の優先権を主張し、その全開示を参照により本願の内容に援用する。
【0002】
本発明は、光学素子であって、基板と、基板に施されたEUV放射線を反射する多層系と、多層系に施された保護層系であり、第1層、第2層、及び特に最上の第3層を含み、第1層は第2層より多層系の近くに配置され、第2層は第3層より多層系の近くに配置される保護層系とを備えた光学素子に関する。本発明は、少なくとも1つのかかる光学素子を備えたEUVリソグラフィシステムにも関する。
【背景技術】
【0003】
本願において、EUVリソグラフィシステムは、EUVリソグラフィ用の光学系又は光学装置、すなわちEUVリソグラフィの分野で用いることができる光学系を意味すると理解される。半導体コンポーネントの製造に用いるEUVリソグラフィ装置のほかに、光学系は、例えば、EUVリソグラフィ装置で用いるフォトマスク(以下ではレチクルとも称する)の検査用、構造化対象の半導体基板(以下ではウェーハとも称する)の検査用の検査システム、又はEUVリソグラフィ装置又はその部品の測定に、例えば投影系の測定に用いる計測システムであり得る。
【0004】
EUV放射線は、約5nm~約30nm、例えば13.5nmの波長域の放射線を意味すると理解される。EUV放射線は大半の既知の材料による吸収が大きいので、EUV放射線は、通常は反射光学素子を用いてEUVリソグラフィシステム内を案内される。
【0005】
反射光学素子(EUV)上のコーティングの形態の反射多層系の薄層又は層は、EUVリソグラフィシステム、特にEUVリソグラフィ装置の動作において厳しい条件に曝される。例えば、高い放射パワーを有するEUV放射線が層に当たる。EUV放射線には、EUVミラーのいくつかがおそらく数百℃という高温に加熱されるという効果もある。EUVミラーが概して動作する真空環境中の残留ガス(例えば、酸素、窒素、水素、水、及び例えば希ガス等の超高真空中に存在するさらに他の残留ガス)も、特にEUV放射線の効果により上記ガスがイオン又はラジカル等の反応種に、例えば水素含有プラズマに変換される場合に、コーティングの形態の反射多層系の層に損害を与え得る。動作の休止中の真空環境の通気、及び望ましくない漏れの発生も、反射多層系の層の損傷につながり得る。さらに、反射多層系の層は、動作中に生じる炭化水素、揮発性水素化物、スズ滴又はスズイオン、洗浄媒体等による汚染又は損傷を受け得る。
【0006】
光学素子の反射多層系の層を保護するために、多層系に施されそれ自体が1つ又は複数の層を含み得る保護層系が用いられる。保護層系の層は、典型的な損傷状況、例えば、特に残留ガス雰囲気中に存在し且つ/又は洗浄に用いられる反応性水素の結果としての気泡の形成又は層の分離(層間剥離)を防止するために、様々な機能を果たすことができる。特に、EUV放射線を生成するためにスズ滴にレーザビームを衝突させるEUV放射源の付近にある光学素子の場合、Snの汚染層が形成され且つ/又は多層系の層がSnと混合され得る。
【0007】
特許文献1は、保護層系が少なくとも1つの第1及び1つの第2層を含み、第1層が第2層より多層系の近くに配置される光学素子を記載している。第1層は、第2層よりも低い水素溶解度を有し得る。保護層系は、水素の再結合速度が高い材料で形成された最上の第3層を含み得る。第1層、第2層、及び/又は第3層は、金属又は金属酸化物で形成され得る。最上の第3層の材料は、Mo、Ru、Cu、Ni、Fe、Pd、V、Nb、及びそれらの酸化物を含む群から選択され得る。
【0008】
上述のように構成された光学素子は、特許文献2にも開示されている。この光学素子は、最上層を有し且つ最上層の厚さよりも厚い最上層の下の少なくとも1つの追加層も有する保護層系を含む。最上層の材料は、酸化物、炭化物、窒化物、ケイ酸塩、及びホウ化物を含む化合物から選択される。
【0009】
特許文献3は、多層反射コーティング及びキャッピング層を有するリフレクタを備えたリソグラフィ投影装置を記載している。キャッピング層は、0.5nm~10nmの厚さを有し得る。キャッピング層は、2つ又は3つの異なる材料の層を含み得る。最上層はRu又はRhから、第2層はB4C、BN、ダイヤモンドライクカーボン、Si3N4、又はSiCからなり得る。第3層の材料は、多層反射コーティングの層の材料に一致し、例えばMoであり得る。
【0010】
2つの層を含む保護層系を有する反射光学素子が、特許文献4に開示されている。当該明細書に記載の保護層系は、耐酸化性及び耐食性のある材料、例えばRu、Zr、Rh、Pdでできた最上層を有する。第2層は、B4C又はMoからなり保護層系の最上層の材料がEUV放射線を反射する多層系の最上層へ拡散するのを防止するための障壁層として働く。
【0011】
特許文献5及び特許文献6は、反射コーティングを酸化から保護するためにRu又はRh、Pd、Ir、Pt、Auから構成された触媒キャッピング層を有する、EUVリソグラフィシステムの自己浄化光学素子を開示している。Cr、Mo、又はTiから構成された金属層が、キャッピング層とミラーの表面との間に導入されていてもよい。
【0012】
特許文献7は、イオンによるエッチングからミラーを保護するために少なくとも1つのミラーに動的保護層が設けられる方法及び装置が開示されている。この方法は、少なくとも1つのミラーを収容するチャンバにガス状物質を(必要に応じて)供給することを含む。ガスは、通常はガス状炭化水素(CXHY)である。しかしながら、このようにして堆積した炭素層の保護効果は限られており、供給にもミラーの監視にも高い費用が必要である。
【0013】
複数の層であるか又は複数の層で形成され得る他の保護層系が、特許文献8及び特許文献9に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】国際公開第2014/139694号
【文献】国際公開第2013/124224号
【文献】欧州特許第1 065 568号明細書
【文献】欧州特許第1 402 542号明細書
【文献】欧州特許第1 362 231号明細書
【文献】米国特許第6,664,554号明細書
【文献】欧州特許第1 522 895号明細書
【文献】特開2006-080478号公報
【文献】特許第4352977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、反射層系の損傷が防止されるか又は少なくとも遅くなって光学素子の寿命を延ばすことができる、光学素子及びEUVリソグラフィシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、第2層及び第3層が、また好ましくは第1層も、それぞれが0.5nm~5nmの厚さを有する、上記種類の光学素子により達成される。
【0017】
本発明らの認識によれば、個々の層の材料が適切に選択された場合、また保護層系が適切に設計されれば個々の層の厚さが比較的薄くても、光学素子の十分な保護効果、ひいては長い寿命を確保することが可能である。薄層系の層の比較的小さな厚さは、概して保護層系を通過するEUV放射線の吸収の低下につながることにより、反射光学素子の反射率を高める。保護層系の層に選択された材料は、EUV放射線を大きく吸収し過ぎない材料であるものとすることが理解されよう。
【0018】
保護層系は、10nm未満、特に7nm未満の(全)厚さを有することが好ましい。前述したように、光学素子の反射率は、比較的薄い保護層系により高めることができる。保護層系の材料及び層厚が適当に選択されれば、保護層系の厚さが薄いにもかかわらず光学素子の十分な保護及び長い寿命を達成することが可能である。
【0019】
さらに別の実施形態において、第1層、第2層、及び/又は第3層は、(金属)酸化物又は(金属)混合酸化物で形成される。酸化物又は混合酸化物は、化学量論的酸化物又は混合酸化物であり得るか、又は非化学量論的酸化物又は混合酸化物であり得る。混合酸化物は、複数の酸化物から構成され、すなわちそれらの結晶格子は、酸素イオン及び複数の化学元素の陽イオンから構成される。EUV放射線に加えてEUV放射源により概して生成されEUVリソグラフィシステムを伝播することが望ましくないDUV放射線に対して、酸化物は高吸収なので、多層系の層で酸化物を用いることが有利であることが分かった。
【0020】
酸化物の特性、例えば還元性等は、微細構造及び欠陥の存在に大きく依存するので、酸化物及び/又は混合酸化物をできる限り欠陥なく施すことが有利である。この点で、例示的に、論文「Turning a Non-Reducible into a Reducible Oxide via Nanostructuring: Opposite Behaviour of Bulk ZrO2 and ZrO2 Nanoparticles towards H2 Adsorption」、A.R. Puigdollers他、Journal of Physical Chemistry C 120(28), 2016、論文「Transformation of the Crystalline Structure of an ALD TiO2Film on a Ru Electrode by O3 Pretreatment」、S. K. Kim他、Electrochem. Solid-State Lett. 2006, 9(1), F5、論文「Role of Metal/Oxide Interfaces in Enhancing the Local Oxide Reducibility」、P. Schlexer他、Topics in Catalysis, October 2018、及び論文「Increasing Oxide Reducibility: The Role of Metal/Oxide Interfaces in the Formation of Oxygen Vacancies」、A. R. Puigdollers他、ACS Catal. 2017, 7, 10, 6493-6513.を参照することができる。酸化物及び/又は混合酸化物をできる限り欠陥なく施すために、各層が施される基板材料のコーティングプロセスの適当な選択が行われなければならず、施される各層について適当な厚さも規定されなければならない。
【0021】
一発展形態において、第3層の(化学量論的若しくは非化学量論的)酸化物又は(化学量論的若しくは非化学量論的)混合酸化物は、Zr、Ti、Nb、Y、Hf、Ce、La、Ta、Al、Er、W、Crを含む群から選択される少なくとも1つの化学元素を含む。
【0022】
多層系の層の劣化を防止し且つ/又は反射率の低下に対抗するために、第3層の材料は、保護層系又は第3層の表面の洗浄に用いられる、洗浄媒体(水性、酸性、塩基性の有機溶剤又は界面活性剤)に対して、また反応性水素(H*)すなわち水素イオン及び/又は水素ラジカルに対しても、安定であるべきである。光学素子がEUV放射源の付近に配置される場合、第3層の材料は、Snに耐性があり且つ/又はSnと混合されないものとすべきである。特に、第3層に堆積したSn汚染物を、反応性水素(H*)を用いて第3層の表面から除去できるべきである。第3層の材料は、レドックス反応も起こり難い、換言すれば例えば水素との接触時に酸化も還元もし難いものであるべきである。第3層は、酸素及び/又は水素を含有する雰囲気中で揮発性であるいかなる物質も含有すべきではない。前述の金属の酸化物及び混合酸化物は、これらの条件又はこれらの条件の大部分を満たす。
【0023】
一発展形態において、第2層の(化学量論的若しくは非化学量論的)酸化物又は(化学量論的若しくは非化学量論的)混合酸化物は、Al、Zr、Y、Laを含む群から選択される少なくとも1つの化学元素を含む。
【0024】
第2層の材料は、反応性水素(H*)及びSnに基本的に耐性があるべきである。第2層の材料は、さらにレドックス耐性であるべきである。第2層の材料が酸化物又は混合酸化物である場合、第2層の材料は特に、水素による還元に対して不活性であり耐ブリスタ性でもあるべきである。第2層の材料は、H/O遮断剤、すなわち下の層への酸素の通過及び好ましくは水素の通過をできる限り完全に防止する材料でもあるべきである。第2層の材料は、第3層の成長に適した基礎を形成するものでもあるべきである。第2層も、酸素及び/又は水素を含有する雰囲気中で揮発性であるいかなる物質も含有すべきではない。酸化物及び混合酸化物に加えて、これらの条件は特に特定の金属材料(以下参照)により満たされる。
【0025】
別の発展形態において、第1層の(化学量論的若しくは非化学量論的)酸化物又は(化学量論的若しくは非化学量論的)混合酸化物は、A、Zr、Yを含む群から選択される少なくとも1つの化学元素を含む。第3層の材料は、H/O遮断剤、すなわち下の層への酸素の通過及び好ましくは水素の通過をできる限り完全に防止する材料でもあるべきである。第1層の材料は、反応性水素(H*)に、またブリスタの形成にも基本的に耐性があるべきである。第1層は、多層系の最終層を第2層の材料との混合から保護するために障壁を形成すべきでもある。さらに、第1層の材料は、第2層の成長に適した基礎を形成すべきである。
【0026】
別の実施形態において、第1層及び/又は第2層は、少なくとも1つの金属(又は金属の混合物若しくは合金)で形成される。酸化物又は混合酸化物で好ましくは形成される第3層とは異なり、第1層及び第2層は(少なくとも)1つの金属で形成され得る。洗浄媒体に対する耐性に関する要件は、第1及び第2層では第3層より厳しくない。
【0027】
一発展形態において、第2層は、Al、Zr、Y、Sc、Ti、V、Nb、La及び貴金属、特にRu、Pd、Pt、Rh、Ir、並びにそれらの混合物を含む群から選択される金属を含むか又はかかる金属からなる。Ru、Pd、Pt、Rh、Irは貴金属であり、より詳細には白金族である。
【0028】
別の実施形態において、第1層は、Al、Mo、Ta、Cr、及びそれらの混合物を含む群から選択される金属を含むか又はかかる金属からなる。これらの材料は、第1層の材料について前述した要件を同様に十分に満たす。
【0029】
別の実施形態において、第1層の材料は、C、B4C、BNを含む群から選択される。特に拡散障壁層としての特性に関して、これらの材料は、保護層系の第2層の材料が多層系の最上層へ拡散するのを防止するのに有利であることが分かった。
【0030】
3つの層及び任意のさらなる層(以下参照)に適した材料の選択には、それらの特性に関する調和が必要であり、特に、3つの層の材料の格子定数、熱膨張率(CTE)、及び自由表面エネルギーが相互に調和すべきである。したがって、前述の材料の全ての組み合わせが保護層系の製造に等しく適するわけではない。
【0031】
保護層系の層及び反射層系の層は、特にPVD(物理蒸着)コーティングプロセス又はCVD(化学蒸着)コーティングプロセスにより施され得る。PVDコーティングプロセスは、例えば、電子ビーム蒸着、マグネトロンスパッタリング、又はレーザビーム蒸着(「パルスレーザ堆積」、PLD)を含み得る。CVDコーティングプロセスは、例えば、プラズマCVDプロセス(PE-CVD)又は原子層堆積(ALD)プロセスであり得る。原子層堆積は、特に非常に薄い層の堆積を可能にする。
【0032】
別の実施形態において、金属層及び/又はイオンが第1層、第2層、及び/又は第3層に注入され、且つ/又は好ましくは金属粒子が第1層、第2層、及び/又は第3層に堆積され、上記粒子及びイオンは、Pd、Pt、Rh、Irを含む群から特に選択される。特にSnイオンの注入を防止するために、比較的少量のイオンが第1層、第2層、及び/又は第3層に注入されれば有利であり得る。当該イオンは、金属イオン、好ましくは貴金属イオン、特に白金族イオン、例えばPd、Pt、Rh、及び場合によってはIrであり得る。代替として又は追加として、各層に注入されるイオンは、希ガスイオン、例えばArイオン、Krイオン、又はXeイオンであり得る。
【0033】
イオンの注入の代替として又は追加として、第1、第2、及び/又は第3層は、金属粒子、好ましくは貴金属粒子、特に白金族粒子をドープしたものであり得る。好ましくは貴金属粒子の形態の、特に白金族粒子の形態の金属粒子は、各層(単数又は複数)の表面に、特に最上の第3層の表面に堆積されていてもよい。全体が参照により本願の内容の一部とされる独国特許出願公開第10 2015 207 140号に記載のように、各層への(ナノ)粒子の適用が表面欠陥の阻止を可能にする結果として、該当の位置ではいかなる吸収及び/又は解離プロセス及び関連の汚染物質堆積もあり得なくなる。粒子は、個別形態、特に個々の原子の形態で、又はクラスタで(例えば、25原子以下の群で)のみ適用/堆積されることが好ましい。
【0034】
別の実施形態において、保護層系は、0.5nm以下の厚さを有し且つPd、Pt、Rh、Irを含む群から選択されることが好ましい少なくとも1つの金属、好ましくは少なくとも1つの貴金属、特に少なくとも1つの白金族を含む、少なくとも1つの追加層、特にサブモノレイヤ層を含む。保護層系は、水素及び/又は酸素に関する3つの他の層のブロック効果を強化するために(薄)層を含み得る。(薄)追加層は、特にサブモノレイヤ層、すなわち下の層を原子層で完全に覆わない層であり得る。保護層系は、4つより多い層、例えば5つ、6つ、又はそれ以上の数等の層も含み得る。層は、例えば、拡散障壁の機能を担うことにより、隣接する層の混合に対抗する(薄)層であり得る。
【0035】
多層系は、動作波長における屈折率の実部が比較的大きい材料の層(「スペーサ」とも称する)と、動作波長における屈折率の実部が比較的小さい材料の層(「アブソーバ」とも称する)とを交互に施した層を通常は含む。多層系のこの構成の結果として、ブラッグ反射が起こるアブソーバ層に対応する格子面を有する結晶がある意味で模倣される。スペーサ層及びアブソーバ層の厚さは、動作波長に応じて決定される。
【0036】
別の実施形態において、多層系は、0.5nmを超える厚さを有する最上層を含む。この場合の最上層は、通常はスペーサ層である。動作波長が約13.5nmにある場合、スペーサ層の材料は通常はケイ素であり、アブソーバ層の材料はモリブデンである。
【0037】
別の実施形態において、光学素子は、コレクタミラーの形態をとる。EUVリソグラフィでは、コレクタミラーは、例えば放射源が種々の方向に発した放射線を集光して束状の形態で次のミラーに反射するために、プラズマ放射源の下流で、EUV放射源の後の第1ミラーとして通常は用いられる。放射源の環境における高放射強度により、残留ガス雰囲気中に特に高確率で存在する分子水素が高運動エネルギーの反応性(原子状及び/又はイオン性)水素に変換され得るので、コレクタミラーは、反応性水素の侵入により、保護層系の層及び/又はそれらの多層系の上方の層で層間剥離現象を示すリスクが特に高い。
【0038】
本発明のさらに別の態様は、前述の少なくとも1つの光学素子を備えたEUVリソグラフィシステムに関する。EUVリソグラフィシステムは、ウェーハを露光するEUVリソグラフィ装置とすることができ、又はEUV放射線を用いる他の何らかの光学装置、例えば、EUVリソグラフィで用いるマスク、ウェーハ等を例えば検査するためのEUV検査システムとすることができる。
【0039】
本発明のさらなる特徴及び利点は、本発明に必須の詳細を示す図面の図を参照して以下の本発明の例示的な実施形態の説明から、また特許請求の範囲から明らかである。個々の特徴は、単独で個別に、又は本発明の一変形形態において任意の所望の組み合わせで複数としてそれぞれ実現することができる。
【0040】
例示的な実施形態を概略図に示し、以下の説明において説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1a】反射多層系と3つの層を有する保護層系とを備えた、EUVミラーの形態の光学素子の概略図を示す。
【
図1b】イオン及び金属(ナノ)粒子が保護層系の第2層に注入されて第3層の上側に堆積した、
図1aの光学素子の概略図を示す。
【
図1c】保護層系が貴金属から構成された第4層を含む、
図1a、
図1bの光学素子の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図面の以下の説明において、同一又は機能的に同一のコンポーネントには同一の参照符号を用いる。
【0043】
図1a~
図1cは、熱膨張率が低い材料、例えばZerodur(登録商標)、ULE(登録商標)、又はClearceram(登録商標)からなる基板2を備えた光学素子1の構成を概略的に示す。
図1a~
図1cに示す光学素子1は、垂直入射で、すなわち面法線に対して通常は約45°未満の入射角αで光学素子1に入射するEUV放射線4を反射するよう構成される。EUV放射線4の反射のために、反射多層系3が基板2に施される。多層系3は、動作波長における屈折率の実部が比較的大きい材料の層(「スペーサ」3bとも称する)と、動作波長における屈折率の実部が比較的小さい材料の層(「アブソーバ」3aとも称する)とを交互に施した層を含み、アブソーバ-スペーサ対が積層体を形成する。多層系3のこの構成の結果として、ブラッグ反射が起こるアブソーバ層に対応する格子面を有する結晶がある意味で模倣される。十分な反射率を確保するために、多層系3は、概して50個より多い交互層3a、3bを含む。
【0044】
個々の層3a、3bの厚さ及び繰返し積層体の厚さは、どのようなスペクトル又は角度依存反射プロファイルを達成しようとするかに応じて、多層系3全体で一定であってもよく変わってもよい。各動作波長における最大可能反射率を高めるためにアブソーバ3a及びスペーサ3bから構成された基本構造に追加の吸収材料を多少補うことにより、反射プロファイルに目標通りに影響を及ぼすこともできる。その目的で、積層体によってはアブソーバ及び/又はスペーサ材料を相互に交換することができ、又は積層体を2つ以上のアブソーバ及び/又はスペーサ材料から構成することができる。アブソーバ及びスペーサ材料は、反射率の最適化のために全ての積層体で一定の又は変動する厚さを有することができる。さらに、スペーサ及びアブソーバ層3a、3b間に例えば拡散障壁として付加的な層を設けることも可能である。
【0045】
光学素子1が動作波長13.5nmに最適化されている本例では、換言すればEUV放射線4の実質的に垂直入射時に波長13.5nmで最大反射率を示す光学素子1では、多層系3の積層体は、交互のケイ素層3a及びモリブデン層3bを含む。この系では、ケイ素層3bは13.5nmにおける屈折率の実部が比較的大きい層に対応し、モリブデン層3aは13.5nmにおける屈折率の実部が比較的小さい層に対応する。動作波長の正確な値に応じて、他の材料の組み合わせ、例えばモリブデン及びベリリウム、ルテニウム及びベリリウム、又はランタン及びB4C等が同様に可能である。
【0046】
多層系3を劣化から保護するために、保護層系5が多層系3に施される。
図1aに示す例では、保護層系は、第1層5a、第2層5b、及び第3層5cからなる。この配置では、第1層5aは、第2層より多層系3の近くに配置される。第2層5bは、第3層5cより多層系3の近くに配置され、第3層5cは保護層系5の最上層を形成し、その露出面に周囲環境との境界が形成される。
【0047】
第1層5aは第1厚さd1を有し、第2層5bは第2厚さd2を有し、第3層5cは第3厚さd3を有し、これらの厚さのそれぞれが0.5nm~5.0nmの範囲にある。保護層系5は、10nm未満、場合によっては7nmの全厚D(ここで、D=d1+d2+d3)を有する。
【0048】
図示の例では、最上の第3層5cの材料は、Zr、Ti、Nb、Y、Hf、Ce、La、Ta、Al、Er、W、Crを含む群から選択される少なくとも1つの化学元素を含む(化学量論的若しくは非化学量論的)酸化物又は(化学量論的若しくは非化学量論的)混合酸化物である。
【0049】
第2層5bの材料も同様に、Al、Zr、Y、Laを含む群から選択される(化学量論的若しくは非化学量論的)酸化物及び/又は(化学量論的若しくは非化学量論的)混合酸化物であり得る。酸化物又は混合酸化物の代替として、第2層5bの材料は、(少なくとも)1つの金属を含み得る。金属は、例えば、Al、Zr、Y、Sc、Ti、V、Nb、La、及び貴金属、好ましくは白金族、特にRu、Pd、Pt、Rh、Irを含む群から選択され得る。
【0050】
第1層5aの材料も同様に、(化学量論的若しくは非化学量論的)酸化物又は(化学量論的若しくは非化学量論的)混合酸化物であり得る。酸化物又は混合酸化物は、Al、Zr、Yを含む群から選択される少なくとも1つの光学素子を通常は含む。代替として、第1層5aは、(少なくとも)1つの金属を含むか又は(少なくとも)1つの金属からなり得る。金属は、特にAl、Mo、Ta、Crを含む群から選択され得る。第1層5aの材料は、代替としてC、B4C、BNを含む群から選択され得る。これらの材料は、拡散障壁として有利であることが分かった。
【0051】
保護層系5の保護効果は、3つの層5a~5cに選択される材料に応じてだけでなく、材料がその特性に関して、例えば格子定数、熱膨張率、自由表面エネルギー等に関して最適か否かに応じても変わる。
【0052】
材料が特性に関して調和している保護層系3の2つの例を以下に記載する。第1例において、第3層5cは、TiOxで形成され1.5nmの厚さd3を有し、第2層5bは、Ruで形成され2nmの厚さd2を有し、第1層5aは、AlOxで形成され2nmの厚さd1を有する。第2例では、第3層5cは、YOxで形成され2nmの厚さd3を有し、第2層5bは、Ruで形成され1.5nmの厚さd2を有し、第1層5aは、Moで形成され3nmの厚さd1を有する。保護層系5の全層厚Dは、第1例では5.5nmであり、第2例では6.5nmである。ここに記載する例だけでなく、他の材料の組合せも可能であり、保護層系5の3つの層5a~5cは上記値とは異なり得ることが理解されよう。
【0053】
図1bは、光学素子1の環境に存在する可能性があるSnイオンの注入に対抗するために少量のイオン6が第2層5bに注入されている、光学素子1を示す。イオン6は、例えば希ガスイオン、例えばArイオン、Krイオン、又はXeイオンであり得る。注入イオンは、例えばPdイオン、Ptイオン、Rdイオン、又は場合によってはIrイオンのような貴金属イオンでもあり得る。貴金属イオンは、水素及び/又は酸素遮断剤として働く。
【0054】
イオンの注入の追加として又は代替として、例えば、第2層5bに金属(ナノ)粒子7を、特に希金属の、例えばPd、Pt、Rh、Irの粒子及び/又は(外来)原子をドープすることにより、第2層5bに金属粒子を注入することも可能である。イオン6及び金属粒子7の注入は、第1層5a及び第3層5cでも行われ得ることが理解されよう。
【0055】
図1bに示す例では、金属(ナノ)粒子7、より詳細には貴金属粒子及び/又は貴金属原子が、最上の第3層5cに施されている。特にPd、Pt、Rh、Irの形態の(ナノ)粒子7の適用は、個別形態で、特に個々の原子の形態で、又はクラスタで(例えば、25原子以下の群で)行われ得る。
【0056】
図1bに示す例では、光学素子1の多層系3は、0.5nmを超える厚さdを有するケイ素の最上層3b’を含む。最上層3b’の厚さdは、多層系3の反射が最大になるように選択される。代替として、多層系3の最上層3b’は、
図1aに示すように具現され得る、すなわち0.5nm未満の厚さを有し得ることが理解されよう。
【0057】
図1cは、第1層5aと第2層5bとの間に0.5nm以下の厚さd
4を有するさらなる第4層5dを含む保護層系3を示す。第4層5dは、金属、より詳細には貴金属、例えばPd、Pt、Rh、及び/又はIrを含む。第4(薄)層5dは、サブモノレイヤ層を形成して欠陥の最小化に寄与し、したがって下の第1層5aへの水素及び/又は酸素の侵入に対する障壁として働くことができる。欠陥の最小化のための第4層5dは、第2層5bと第3層5cとの間又は場合によっては第3層5c上に形成することもでき、後者の場合、第3層5cは保護層系5の最上層を形成しないことが理解されよう。保護層系5は、欠陥数を最小化するために且つ/又は水素及び/又は酸素に対する障壁を形成するために、第5層、第6層等も任意に含み得る。
【0058】
図1a~
図1cに示す光学素子1は、以下の
図2にいわゆるウェーハスキャナの形態で概略的に示すように、EUVリソグラフィ装置101の形態のEUVリソグラフィシステムで用いることができる。
【0059】
EUVリソグラフィ装置101は、50ナノメートル未満、特に約5ナノメートル~約15ナノメートルのEUV波長域で高エネルギー密度を有するEUV放射線を生成するEUV光源102を備える。EUV光源102は、例えば、レーザ誘起プラズマを生成するプラズマ光源の形態で具現することができる。
図2に示すEUVリソグラフィ装置101は、13.5nmのEUV放射線の動作波長用に設計され、
図1a~
図1cに示す光学素子1もそのように設計される。しかしながら、EUVリソグラフィ装置101をEV波長域の異なる動作波長用に、例えば6.8nm用等に設計することも可能である。
【0060】
EUVリソグラフィ装置101はさらに、EUV光源102のEUV放射線を集束させて束状の照明ビーム104を形成し且つエネルギー密度をこのようにしてさらに高めるために、コレクタミラー103を備える。照明ビーム104は、本例では5つの反射光学素子112~116(ミラー)を有する照明系110により、構造化された物体Mを照明するよう働く。
【0061】
構造化された物体Mは、例えば、物体M上の少なくとも1つの構造を作製する反射及び無反射又は少なくとも低反射領域を有する、反射型フォトマスクであり得る。代替として、構造化された物体Mは、各ミラーでのEUV放射線の入射角を設定するために、1次元又は多次元配置で配置され且つ少なくとも1つの軸周りで任意に可動である複数のマイクロミラーあり得る。
【0062】
構造化された物体Mは、照明ビーム104の一部を反射して投影ビーム経路105を整形し、投影ビーム経路105は、構造化された物体Mの構造に関する情報を運んで投影レンズ120に放射され、投影レンズ120は、構造化された物体M又はその各部分領域の投影像を基板W上に生成する。基板W、例えばウェーハは、半導体材料、例えばケイ素を含み、ウェーハステージWSとも称するマウンティング上に配置される。
【0063】
本例では、投影レンズ120は、構造化された物体Mに存在する構造の像をウェーハW上に生成するために6つの反射光学素子121~126(ミラー)を有する。投影レンズ120のミラーの数は、通常は4つ~8つである。しかしながら、適切な場合はミラーを2つだけ用いることもできる。
【0064】
照明系110の反射光学素子103、112~116及び投影レンズ120の反射光学素子121~126は、EUVリソグラフィ装置101の動作中に真空環境127に配置される。特に酸素、水素、及び窒素を含有する残留ガス雰囲気が、真空環境127に形成される。
【0065】
図1a~
図1cに示す光学素子1は、EUV放射線4の垂直入射用に設計された、照明系110の光学素子103、112~115又は投影レンズ120の反射光学素子121~126の1つであり得る。特に、
図1a~
図1cの光学素子1は、EUVリソグラフィ装置101の動作において反応性水素だけでなくSn汚染物にも曝されるコレクタミラー103であり得る。
図1a~
図1cに関連して説明した保護層系5は、コレクタミラー103の寿命を大幅に延ばすことができ、特にこのミラーは、例えば洗浄後に再使用することができる。