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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】医療機器用の臓器モデル
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/30 20060101AFI20241119BHJP
   G09B 9/00 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
G09B23/30
G09B9/00 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2024521586
(86)(22)【出願日】2023-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2023012130
(87)【国際公開番号】W WO2023223675
(87)【国際公開日】2023-11-23
【審査請求日】2024-01-22
(31)【優先権主張番号】P 2022080569
(32)【優先日】2022-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】502359183
【氏名又は名称】株式会社JMC
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】岡山 慶太
(72)【発明者】
【氏名】坂田 泰史
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 大知
(72)【発明者】
【氏名】稲田 誠
(72)【発明者】
【氏名】湯田坂 拓也
【審査官】岸 智史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/182436(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/079711(WO,A1)
【文献】特開2013-213986(JP,A)
【文献】中国実用新案第211604371(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 23/00-29/14
G09B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器に液体を満たした状態で保持され、前記容器に設けられた挿通部から医療機器が挿入可能な医療機器用の臓器モデルであって、
前記臓器モデルは、前記容器に保持される保持部を備えた軟質部材と、前記容器の内面に設置される板状部を備え、前記軟質部材と一体化される硬質部材と、を有し、
前記硬質部材は前記容器に固定されておらず、前記軟質部材と着脱可能であり、軟質部材と接続されることで位置決めが成されることを特徴とする、医療機器用の臓器モデル。
【請求項2】
容器に液体を満たした状態で保持され、前記容器に設けられた挿通部から医療機器が挿入可能な医療機器用の臓器モデルであって、
前記臓器モデルは、軟質部材と硬質部材が一体化された管腔型の形態を備えており、
前記硬質部材には、前記軟質部材を着脱可能にするスリットが形成されていることを特徴とする、医療機器用の臓器モデル。
【請求項3】
前記保持部は、複数個所設けられており、
少なくとも1つは、カテーテルが挿入可能なカテーテル導入口を備えている、ことを特徴とする請求項1に記載の医療機器用の臓器モデル。
【請求項4】
前記保持部の少なくとも1つは、容器に保持された状態の臓器モデルに対して液体を導入するための液体導入口を備えている、ことを特徴とする請求項3に記載の医療機器用の臓器モデル。
【請求項5】
前記板状部は、前記臓器モデルが設置される容器のいずれかの内面と面接する平板部を備えている、ことを特徴とする請求項1に記載の医療機器用の臓器モデル。
【請求項6】
前記平板部は、前記臓器モデルが設置される容器のいずれかの内面と略同一の形状である、ことを特徴とする請求項5に記載の医療機器用の臓器モデル。
【請求項7】
前記硬質部材に形成されるスリットは、管腔の長手方向、又は、枝分かれした管腔の長手方向に沿って形成されていることを特徴とする、請求項2に記載の医療機器用の臓器モデル。
【請求項8】
前記硬質部材に形成されるスリットは、その中間部分の幅が端部側の幅よりも大きいことを特徴とする、請求項2に記載の医療機器用の臓器モデル。
【請求項9】
前記スリットが形成された部分では、前記軟質部材の一部が露出した状態で硬質部材と軟質部材の二重構造となることを特徴とする、請求項2に記載の医療機器用の臓器モデル。
【請求項10】
前記軟質部材と硬質部材は、全周に亘って重なる二重構造となる重合部を備えており、
前記重合部の軸方向長さは、前記スリットが存在する部分の軸方向長さよりも短いことを特徴とする、請求項2に記載の医療機器用の臓器モデル。
【請求項11】
前記硬質部材に形成されるスリットの端部には、前記軟質部材が差し込まれる差し込み部が形成されていることを特徴とする、請求項2に記載の医療機器用の臓器モデル。
【請求項12】
前記二重構造となる部分には、膨隆部、又は、狭窄部が設けられていることを特徴とする、請求項10に記載の医療機器用の臓器モデル。
【請求項13】
前記軟質部材を硬質部材に装着した際、前記軟質部材と硬質部材との間には隙間が形成されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の医療機器用の臓器モデル。
【請求項14】
前記管腔型は血管であることを特徴とする、請求項に記載の医療機器用の臓器モデル。
【請求項15】
前記医療機器は、カテーテルであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の医療機器用の臓器モデル。
【請求項16】
前記臓器モデルは管腔型の形態を備えていることを特徴とする、請求項1に記載の医療機器用の臓器モデル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体にカテーテルを挿入して診断治療を行なうカテーテル手技、内視鏡や超音波機器、その他電磁波を用いた医療機器を挿入して行なう診断治療手技等の練習を行なう際に用いられる臓器モデルに関する。なお、ここでの臓器モデルは、実際の人体における管腔型の臓器、各種の血管等が該当する。
【背景技術】
【0002】
従来、上記した手技を練習する装置として、例えば、特許文献1に開示されているようなカテーテル・シミュレータが知られている。このカテーテル・シミュレータは、心臓疾患のある患者に対してカテーテル手技の向上が図れるように、心疾患の種類に応じた複数の心臓モデル、及び、各心臓モデルを保持する容器と、容器に水流を循環させるポンプとを備えている。
【0003】
前記心臓モデルは、軟質の樹脂材で構成されており、容器内に突出するように設けられたカテーテルの導入口を有する保持部に保持される。前記容器内には、水を溜めた状態で心臓モデルを浮遊するように保持することができ、また、前記ポンプを駆動することで心臓内に拍動流を生じさせることができる。このように、心臓モデルが水中に浮遊している状態で、カテーテルを、保持部を介して挿入しながら操作することで、実際の各種心臓病に対する手術と同様な手技を練習することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開WO2016/158222号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のカテーテル・シミュレータは、臓器モデル(心臓モデル)を軟質材で構成しているため、カテーテルを主とするデバイスを操作する際に、臓器モデルに加わる力で臓器モデルが変形したり、損傷することがある。また、軟質材で構成された臓器モデルは、水中で変動し易くなり、カテーテルを制御し難くなる。
【0006】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、臓器モデルが変形したり、損傷することなく、安定してカテーテル手技や内視鏡手技等の練習が行なえる医療機器用の臓器モデルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明は、容器に液体を満たした状態で保持され、前記容器に設けられた挿通部から医療機器が挿入可能な医療機器用の臓器モデルであって、前記臓器モデルは、前記容器に保持される保持部を備えた軟質部材と、前記容器の内面に設置される板状部を備え、前記軟質部材と一体化される硬質部材と、を有し、前記硬質部材は前記容器に固定されておらず、前記軟質部材と着脱可能であり、軟質部材と接続されることで位置決めが成されることを特徴とする。
【0008】
上記した臓器モデルは、軟質部材と硬質部材が一体化されて構成されていることで、実際の人体の臓器の種類、及び、カテーテル等の医療機器の操作をシミュレーションする手技に応じて、構成部位の材質を変更することが可能となる。例えば、実際にカテーテルを挿入して診断治療を行なう手技をシミュレーションする構成では、診断治療の対象となる部位を軟質部材で構成し、それ以外の部位を硬質部材で構成することで、カテーテルを挿入してデバイスを操作する際、人体と同様な感覚が得られると共に、臓器モデルに加わる力によって臓器モデルが変形したり、損傷することを抑制することができる。また、硬質部材は、板状部によって容器の内面に、接着やネジ止め等によって固定されることなく設置され、そのような状態の硬質部材に対して、軟質部材が容器に保持されて一体化されることから、軟質部材を安定した保持状態にすることが可能となる。これにより、臓器モデルは、浮遊する液体中で変動することが抑制され、カテーテルが制御し易くなる。
【0009】
また、本発明は、容器に液体を満たした状態で保持され、前記容器に設けられた挿通部から医療機器が挿入可能な医療機器用の臓器モデルであって、前記臓器モデルは、軟質部材と硬質部材が一体化された管腔型の形態を備えており、前記硬質部材には、前記軟質部材を着脱可能にするスリットが形成されていることを特徴とする。
【0010】
このような臓器モデルにおいても、上記したような作用効果が得られると共に、硬質部材にスリットが形成されることで、軟質部材の位置が定まり易くなり、着脱操作し易くすることが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、臓器モデルが変形したり、損傷することなく、安定してカテーテル手技や内視鏡手技等の練習が行なえる医療機器用の臓器モデルが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る医療機器用の臓器モデルが設置されるカテーテル・シミュレータの構成要素である容器の一例を示す斜視図。
図2】硬質部材と軟質部材が一体化された臓器モデルを図1に示す容器に設置したカテーテル・シミュレータの一実施形態を示す全体図。
図3】臓器モデルの第1の実施形態(心臓モデル)を示しており、軟質部材の部分を示す斜視図。
図4】臓器モデルの第1の実施形態(心臓モデル)を示しており、硬質部材の部分を示す斜視図。
図5図3に示す軟質部材と、図4に示す硬質部材を一体化した状態の心臓モデルを示す斜視図。
図6】硬質部材と軟質部材を一体化する際の装着状態を示す図であり、図5のA-A線に沿った断面図。
図7】臓器モデルの第2の実施形態(心臓モデル)を示す図。
図8】臓器モデルの第3の実施形態(心臓モデル)を示す図。
図9】臓器モデルの第4の実施形態(心臓モデル)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1及び図2は、本発明の一実施形態を示す図であり、図1は、カテーテル・シミュレータの構成要素である容器の一例を示す斜視図、図2は、臓器モデルを図1に示す容器に設置したカテーテル・シミュレータの一実施形態を示す全体図である。
【0014】
なお、本発明における「臓器モデル」とは、実際の人体に存在する臓器(管腔臓器、実質臓器、血管等)が該当する。本実施形態の臓器モデルは、人体の心臓部分(管腔臓器)を模した形態で構成されており、心臓疾患、例えば、肺動脈弁留置に関するカテーテル操作の手技の向上を図ることを目的としている。また、本発明における医療機器は、上記した臓器モデルに挿入される各種機器(例えば、カテーテル、鉗子、内視鏡、超音波診断装置)が該当する。
【0015】
図に示すカテーテル・シミュレータ1は、臓器モデル(以下、心臓モデルと称する)100を収容する容器10と、容器10内に水等の液体Wを満たした状態で液体を循環させるポンプ(拍動流生成ポンプ)50とを備えている。このポンプ50は、容器10内に満たされた液体に対して拍動流を生じさせるように間欠的に駆動される構成となっている。
【0016】
本実施形態の容器10は、四面の側壁11~14及び底面15によって水、電解水などの液体Wを収容する略立方体形状の収容部10aを備えている。この場合、側壁11は、実際の人体の下半身側であり、側壁12は、実際の人体の上半身側となる。
【0017】
前記側壁11には、収容部10aに液体を満たした状態で心臓モデル100に設けられた保持部を接続して保持可能な接続部11a,11bが収容部内に突出するように設けられている。また、前記側壁12には、心臓モデル100の他端側に設けられた保持部を接続して保持可能な接続部12aが収容部内に突出するように設けられている。前記接続部11a,11b,12aは、円筒状に構成されて収容部内に突出しており、その部分に心臓モデル100の保持部(模擬血管通路等を構成する)を差し込むことで、心臓モデル100は、液体が満たされた容器内に浮遊した状態で保持されるようになっている。
【0018】
なお、前記接続部11a,12aは、外部からカテーテルが挿入される挿通部(カテーテル導入口)としての機能を兼ね備えている。すなわち、接続部11a,12aには、同軸上で容器外に突出する挿通部11a´,12a´が一体化されており、各挿通部にカテーテルの導入管200が接続されるようになっている。この場合、導入管200は、その先端部に、カテーテル導入端子を有している。前記導入端子は、導入管200に満たされた液体が外部へ漏洩しないような機能(弁機能)を有すると共に、トレーニング者がカテーテルを導入管200へ導入し、かつそこから引抜きができるような構造を有している。
【0019】
前記接続部11bは、収容部内の液体を循環させて、保持される心臓モデル100の内部に拍動流を生成するためのものであり、接続部11bには、心臓モデル100の右心室111に突出形成された流入口(液体導入口)105が接続されるようになっている。この流入口105は、実際の心臓には存在しない要素であり、前記接続部11bと同一軸上で外部に突出する流入管11b´に、前記ポンプ50から液体を供給する流入管51が接続されることで、心臓モデルの内部空間(右心室側の空間から肺動脈に繋がる部分)に、実際の拍動流と同じ流れを生じさせることが可能となる。
【0020】
また、前記側壁11には、前記収容部10a内の液体をポンプ50側に排出する排出口11dが設けられている。この排出口11dには、同一軸上で外部に突出する排出管11d´が設けられており、この排出管11d´に、ポンプ50側へ液体を流す流出管52が接続されることで、心臓モデル100内に流れた液体は、ポンプ50を介して循環するようになっている。
【0021】
前記側壁11~14及び前記底面15は、液体W及び心臓モデル100を安定的に収容可能な強度を有する材料によって形成されている。また、容器10については、液体及び心臓モデルを安定的に収容できる形状に形成されていれば良い。さらに、容器を構成する側壁11~14及び底面15の材料は透明性を有することが好ましい。このような強度を有し、透明性のある材料としては、例えばアクリル、ポリカーボネート、PET、ポリスチレン等が挙げられる。上記のように側壁や底面が透明性を有することで、シミュレーションの際、容器10内に設置された心臓モデルや、容器10の外部から挿入するカテーテル等の挙動を目視によって観察することが可能となる。
【0022】
なお、トレーニング者が視認できる材料で前記容器10を形成した場合でも、カメラを設置してモニタ等に表示したり、或いは、X線による透視をしてモニタ等に表示すれば、カテーテルの挙動をモニタ上のみで把握するシミュレーションを実施でき、より現実に近い状態を実現することも可能である。訓練の段階や内容に応じて、目視認識、モニタ表示確認、X線撮像の使用を選択できる。
【0023】
前記容器10の上方は開口しており、ここに開閉可能な蓋を配設しても良い。これにより、収容部10aに液体を充填する作業、心臓モデルを液体内に設置する作業等、訓練の準備や後始末をする際に、容器上面の開口を介して効率的に作業することができる。また、蓋を透明にすることで容器上面方向からの視認性を維持しつつ、塵埃の侵入を防ぐことができる。さらに、蓋を液面と密着させることにより、液面の揺れによる視認性の低下を防ぐことも可能である。
【0024】
前記接続部11a,12aは、心臓モデルを保持する機能以外に、カテーテルを導入する機能を備えているため、それぞれ、カテーテルが挿通される連通孔が形成されている。上記したように、各接続部11a,12aと同軸上で外部に突出する挿通部11a´,12a´には、トレーニング者によって操作されるカテーテルを容器10の外部から導入するための導入管200がそれぞれ接続される(図2では、挿通部11a´に接続された同入管のみが示されている)。このため、導入管200は、容器10の外側で操作可能な接続機構を備えている。接続機構は、例えば、導入管200を、挿通部11a´(12a´)に差し込んで操作部材(ナット等)201を回転すると、前記導入管200を固定・解放できる構造となっており、前記導入管の脱着操作が容易に行えるようになっている。この接続機構については、公知のワンタッチ方式にする等、様々な方式にすることが可能である。
【0025】
上記したように、本実施形態の心臓モデル100内には、前記接続部11bに保持された流入口105を介してポンプ50から液体が供給される。収容部内の液体は、排出口11d(排出管11d´)及び流出管52を介してポンプ50側へ戻されるようになっており、心臓モデル100内に拍動流が流れる構成となっている。
【0026】
また、前記接続部11b(流入管11b´)、及び、前記排出口11d(排出管11d´)に、開閉用バルブ16を設けておくことが好ましい。この閉塞用バルブ16は、シミュレーション終了後に、前記容器10からポンプ50を取り外す際、接続部11b、及び、排出口11dを閉塞することで、前記収容部10a内の液体が前記容器10の外部に漏れ出ることを防ぐ。
【0027】
前記心臓モデル100を支持した状態でのシミュレーションは、収容部10aに液体Wを満たし、心臓モデル100を液体中に浮遊した状態で設置する。心臓モデル100が浮遊状態になることで、直視下、ならびにX線透視下における視認性を確保するとともに、トレーニング者がカテーテル操作するに際して、より現実に近い感触が得られるようになる。
【0028】
前記容器10内には、人体の心臓と同じ大きさの心臓モデル、及びそれを浮遊させるだけの液体だけで済むため、前記容器10は小型化することが可能となる。本実施例における容器10の外形寸法は、20cm×20cm×15cm程度となっており、前記容器に満たす必要な液体(水)の量は、おおよそ3L~6L程度で済む。前記容器10を小型化すると、シミュレーションの実施場所のスペースの無駄を省くことができ、前記容器10及び前記容器10を用いたカテーテル・シミュレータの収納性、運搬性が向上する。また、前記容器の収容部10aに満たす水量が6L程度で済むことから、水道が利用不可な場所であっても、タンク等で水を運搬することでシミュレーションを実施可能となり、練習場所の選択肢が広がる。さらに、水が満たされた容器10の重量は、トレーニング者が一人で取扱いが可能な程度に軽量であるため、補助者の制約なしに、シミュレーションの準備や片づけをすることも行えるようになる。
【0029】
次に、上記した心臓モデル100の構成について、図3図6を参照して説明する。
これらの図において、図3は心臓モデル100の軟質部材の部分を示す斜視図、図4は硬質部材の部分を示す斜視図、図5図3に示す軟質部材と、図4に示す硬質部材を一体化した状態の心臓モデルを示す斜視図、そして、図6は硬質部材と軟質部材を一体化する際の装着状態を示す図であり、図5のA-A線に沿った断面図である。
【0030】
前記心臓モデル100は、軟質部材100Aと硬質部材100Bが着脱可能となるように一体化されており、軟質部材100Aに、模擬血管通路として実際の心臓と同様、右心房110と連通する上大静脈101、下大静脈102が突出形成されている。これらの上大静脈101及び下大静脈102は、それぞれ前記接続部12a,11aに対して嵌め込むことで心臓モデル100は、収容部内に浮遊するように保持可能となっている。
【0031】
前記軟質部材100Aは、実際の人体の心臓に近い弾力性を有する材料、例えばPVA(ポリビニルアルコール)、ポリウレタン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、フェノール樹脂、シリコンやこれらに類する材料、その他の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を単独で或いは複数組み合わせたもの等で形成されており、人体の臓器に近い触手感覚にてカテーテル操作が練習できるようにしている。
【0032】
前記軟質部材100Aは、上大静脈101と下大静脈102が繋がる右心房110、及び、前記右心房110と三尖弁を介して繋がる右心室111を備えており、この右心室111に、前記流入口105が形成されている。また、右心室111からは、肺動脈弁を介して肺動脈115が突出形成されており、肺動脈115は、分岐部(枝分かれした部分)115aから二股に分かれて分岐されている。図3では、分岐した部分の片方が示されており、その先端側には開口部115Aが形成されている。
【0033】
なお、前記軟質部材100Aには、実際の心臓と同様、左心房、左心室、左心室と連通する大動脈、肺と連結される肺静脈等の構成要素を形成しておいても良い。また、大動脈や肺静脈を容器10に対して接続(保持)するようにしても良い。この場合、心臓モデル100を容器10内に保持する保持部は、軟質部材100Aに設けておくことが望ましく、これにより、前記接続部11a,11b,12aに対する接続を容易に行うことが可能となる。また、保持部を、軟質部材100Aに複数個所設ける構成では、上記したように、少なくとも1つが、カテーテルが挿入可能な挿通部を構成する(兼用する)ことが望ましい。また、本実施形態の保持部は、軟質部材で構成される前記上大静脈101、下大静脈102、及び、前記流入口105で構成されている。
【0034】
上記した心臓モデル100は、軟質部材のみで構成すると、カテーテルを主とするデバイスを操作する際に心臓モデルにかかる力でモデルの変形や損傷がみられることから、実際に治療する部位を除いた部分は、硬質部材100Bで構成されている(軟質部材と硬質部材のハイブリッドモデルとして構成されている)。この場合、硬質部材100Bは、前記軟質部材100Aよりも硬い材料、例えば、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、不飽和ポリエステル、塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタラート等を3Dプリンタを用いることで一体成形することが可能である。
なお、心臓モデル100を硬質部材のみで構成すると、カテーテルを主としたデバイスの操作感(実際の心臓の柔軟性)を再現することができない。
【0035】
本実施形態の硬質部材100Bは、前記軟質部材100Aで形成された肺動脈115が嵌合される硬質部材側の肺動脈120を備えている。
以下、軟質部材側の肺動脈を軟質肺動脈115と称し、硬質部材側の肺動脈を硬質肺動脈120と称する。
【0036】
硬質肺動脈120は、軟質肺動脈115と同様な管状(管腔とも称する)に形成されており、軟質肺動脈115を収容して、両部材が一体化できるように、硬質肺動脈の長手方向に沿ってスリット120aが設けられている。すなわち、スリット120aを形成することで、硬質肺動脈120はハーフパイプ状となり、スリット120aによる開口部分を介して、軟質肺動脈115を収容することが可能となる。なお、前記スリット120aについては、硬質肺動脈(管腔部位)の長手方向以外にも、後述するように、枝分かれした管腔の長手方向に沿って形成する等、適宜、変形することが可能である。
【0037】
ここで、軟質部材100Aと、硬質部材100Bの接続方法について説明する。
一般的に、靴下を履くのと同じように、硬質部分に軟質部分を重ねる手法、すなわち硬質部分が内側、軟質部分が外側となったオーバーラップ構造にすることが、接続する上では容易である。それとは反対に、内側を軟質部材、外側を硬質部材のオーバーラップ構造にすると、軟質部材を硬質部材にセットするのに支障を生じる。オーバーラップ部分が短い構成であれば、用手的に軟質部材を硬質部材に押し込むことも可能であるが、簡単に外れてしまうというデメリットが生ずる。
【0038】
また、二股以上に枝分かれした管腔構造に対応できないというデメリットも生じる。すなわち、先端が二股以上に枝分かれした管腔構造である場合、枝分かれした部分を摘まむなどして圧縮した形で硬質部材に押し込み、その後、元の形状に復元するという工程が必要になる。仮にうまく接続できた場合であっても、今度は抜去する際にさらなる手間を必要とする。このため、先端部が二股以上に枝分かれした管腔構造であっても、枝分かれした部分にスリットを形成しておくことで、比較的に容易に軟質部材100Aを硬質部材100Bにセットすることが可能となる。
【0039】
さらに、例えば、カテーテルの進行方向に対し、近位側を軟質部材、遠位側を硬質部材の順で構成したい場合、近位側の軟質部材を硬質部材の外側に配置すると、カテーテルの操作により、軟質部材は容易に変形し得るため、接続部において硬質部と段差が生じる可能性がある。これにより、カテーテルの操作に支障が出るだけでなく、接続部の外れや、軟質部材の損傷という事態を引き起こす。
【0040】
カテーテルの進行方向に対し、近位側を軟質部材、遠位側を硬質部材の順で構成しなければならない例として、本実施形態のように、管腔臓器が肺動脈(心臓から肺動脈に至る部分を再現するときの例)であることが挙げられる。
近位側を硬質部材、遠位側を軟質部材の順で構成した場合、心臓部分が硬質部材、血管部分が軟質部材となり、心臓が拍動せず、末梢血管部分が拍動により過度に揺れるということが問題となる。したがって、心臓の拍動や末梢血管の剛性を再現するには、本実施形態のように、カテーテルの進行方向に対し、近位側を軟質部材、遠位側を硬質部材の順で構成する方が望ましい。
【0041】
このように、カテーテルの進行方向に対し、近位側を軟質部材、遠位側を硬質部材の順で構成する場合であっても、軟質部材を内側、硬質部材を外側の順で容易に接続することができれば、上記した問題は解消することが可能である。
【0042】
本実施形態では、心臓(管腔臓器)モデルにおいて、軟質部材100Aの構成要素である軟質肺動脈115を内側、硬質部材100Bの構成要素である硬質肺動脈120を外側の順で容易に接続するように構成されている。
そして、このような接続が容易に実現できるように、管腔(硬質肺動脈120)の長手方向に沿ってスリット120aを設けており、これにより、容易に軟質部材を硬質部材に嵌める(押し込む)ことを可能としている。この場合、スリットの形成範囲については、管腔の中心に対して開口する角度が、全周囲方向に対して180°を越えない範囲、望ましくは150°未満、より望ましくは120°未満にすることで、シミュレーション操作中に軟質部材100Aを外れ難くすることができる。また、開口する角度は、90°以上にすることが望ましく、これにより、着脱操作時に、軟質部材100Aを硬質部材100Bに嵌め易く、抜け難くすることが可能となる。
【0043】
上記した装着態様によれば、スリット120aが形成された部分では、軟質部材100A(軟質肺動脈115)の一部が露出した状態で、硬質部材と軟質部材が二重構造となっている。このような二重構造であれば、カテーテルを挿入する際、デバイスが接触する部分を、実際の人体と同様な感触にすることができると共に、力が加わった際、二重構造となっている外側の硬質部材によって補強効果が得られ、軟質部材が破損したり傷が付くことを防止することができる。
【0044】
前記硬質部材に形成されるスリットは、軟質部材が嵌め易く、外れ難いという両面を兼ね備えていることが望ましく、また、直視下での視認性を維持する目的からも、前記二重構造の部分が過剰に大きな範囲を占めないことが望ましい。この観点から、形成されるスリットは、前述のように開口する角度とともに、形状での工夫が必要となる。例えば、図7の第2実施形態に示すように、硬質肺動脈120に形成されるスリット120aは、中間部分121aの幅を、端部側121bの幅よりも大きくすることが望ましい。このようにすることで、軟質部材を硬質部材に対して取り付け易く(押し込み易く)なり、また、視認性を維持しつつ、端部の二重構造でしっかりと軟質部分を保持することができる。
【0045】
また、先端部が二股以上に枝分かれした管腔構造であっても、図6に示すように、枝分かれした部分115aにもスリット120aを設けておくことで、比較的容易に軟質部材100Aを硬質部材100Bにセットすることが可能となる。さらに、スリット120aから挿入した軟質部材の先端(軟質肺動脈115の先端115A)を、一部、硬質部材側に差し込めるように構成することで、予期せぬ軟質部材の外れを防止することができる。すなわち、硬質肺動脈120のスリットの端部側に、全周(360°)に亘って、重なる二重構造の重合部(リング状の差し込み部)120bを形成しておくことが望ましく、これにより、軟質部材100A(軟質肺動脈115)が外れることが防止できる。
【0046】
なお、上記した差し込み部120bを形成するのであれば、全周でオーバーラップする部分は、スリット120aが存在する部分よりも短く形成する方が望ましい。仮にこの割合が逆転すると、嵌め難く、取り外しにくい構成となってしまう。すなわち、管腔の長手方向で見た場合、全周でオーバーラップする部分の長さは、スリット120aが存在する部分の長さよりも短い方が望ましい(可能であれば、この比率は小さければ小さいほどよい)。また、そのような差し込み部120bは、軟質肺動脈115をスリット120aから硬質肺動脈120に挿入した際、そのまま固定できるように、スリット120aの端部に形成しておくことが望ましい。
【0047】
上記した構成において、軟質部材の厚みと略一致する掘り込み(凹所)を硬質部材側に形成しておき、軟質部材と硬質部材の移行部において、段差が生じないようにすることが望ましい。このように、段差を防ぐことで、カテーテル操作の際の違和感やカテーテルの通過困難などの事態を避けることができ、X線透視下で血管造影を行った際に、実臨床との差異を小さくすることが可能となる。また、軟質部材100Aと硬質部材100Bのオーバーラップする部位が過度に厚みをもたないよう、軟質部材の厚みを減らすことも可能である。オーバーラップ部分の厚みを減らすことで、X線透視下で血管の壁が誇張されることや、直視時において透明なモデルの透過性が低下することに寄与する。
【0048】
また、本実施形態のスリット120aは、硬質肺動脈120の下面側(底面側)に形成されており、軟質部材を下側から上側に向けて嵌め込むようにしている。本実施形態の心臓モデル100は、肺動脈弁の留置に関する手技を練習できる構成となっており、挿入したカテーテルは、天井方面(胸板側)に力がかかるように進むことから、上側に硬質肺動脈120が位置することで、軟質部材が外れたり、損傷することを防止できる。ただし、手技によっては、力が掛かりにくいところが異なるので、それに応じてスリットを形成すればよい。例えば、底面側にカテーテルの力が作用する手技では、上面側にスリットを形成すればよく、このような構成では、両部材を一体化する際に軟質部材を硬質部材に嵌め易くすることができる。
【0049】
前記硬質部材100Bの硬質肺動脈120の下流側には、人体の肺と同様、多数の末梢血管(肺血管)125が一体形成されている。この末梢血管125は、硬質肺動脈120から多数、分岐されており、肺動脈弁の留置に関する手技を行なう際、ガイドワイヤが挿入される部位にもなる。また、末梢血管(肺血管)125については、前記硬質肺動脈120と一体形成された連結板125Aに設けておくことが望ましい。
このように末梢血管125を連結版125Aで一体化すると、取り扱い時など、末梢血管125が破損することを防止することが可能となる。
【0050】
前記硬質部材100Bは、前記容器10の内面に設置される板状部130を備えている。板状部130は、容器10に対して、接着やネジ等によって物理的に固定されていないことが望ましい。すなわち、板状部130は、容器10のいずれかの内面に密着させること、ならびに、硬質部材100Bを介して、容器に保持された軟質部材100Aと一体化されることで、容器内におけるその位置を安定に保つことができる。このように、軟質部材100Aを、硬質部材100Bと一体化するように接続することで位置決めが成され、その位置を安定させることができるとともに、硬質部材(板状部)を容器に固定しないことから、容易に脱着することが可能となる。
【0051】
前記板状部130は、硬質部材100Bと同じ材料で一体形成することが可能であり、取り扱い性、装着性を考慮すると、前記容器10のいずれかの内面と面接するような平板部131を備えた構成であることが望ましい。すなわち、平板部131を、容器10のいずれかの内面に密着するように配設することで、硬質部材100Bを安定して配置することが可能となる。
【0052】
本実施形態では、前記平板部131は、容器10の底面15に密着すると共に、底面15と略同一の形状に形成されている。これは、前記平板部131と容器側面との間に生ずる摩擦力、前記平板部131と容器底面15の平面同士の間に生じる密着効果、ならびに、容器内の液体による圧力などにより、硬質部材100Bと容器10との間で接着などによる物理的固定をせずとも、カテーテルなどのデバイス操作による負荷など、実臨床で想定し得る力に対して硬質部材100Bが容器内で安定した位置を保つようにするためである。すなわち、本実施形態では、平板部131を容器10の開口から落とし込むだけで、その位置を安定させることが可能となっている。
【0053】
前記板状部130に関しては、容器の内面に接着したり、ネジ止めするような構成であってもよく、その形状についても特に限定されることはないが、本実施形態のように、容器10の底面15に密着させる平板部を備えた構成にすることで、以下のような作用効果が得られる。
【0054】
硬質部材100Bの硬質部分を容器10と接着した場合、軟質部材100Aをセットする際、或いは、洗浄する操作に支障をきたすばかりでなく、仮に硬質部材の一部が破損すると、硬質部材のすべてを取り換える必要が生じる。また、接着ではなく、ネジなどにより固定した場合も、セッティングの工程が増え、破損や水漏れなどのリスクにつながる。一方で、硬質部分を容器と固定しない場合、カテーテルの操作時にかかる力により、心臓モデル100が所定の位置から動く可能性もあるが、硬質部材100Bに容器10の内面(本実施形態では底面15)と同形状の平板部131を設けることで、接着などにより固定することなく、実臨床で想定し得る力に対して容器10の中で安定した位置を保つことが可能となる。
【0055】
上記した板状部(平板部131)は、シミュレーション中に、過度な力が加わった場合でも、硬質部材がデバイスを押す力で動かないように、平板部131が容器の底面から浮き上がるのを防止する構造が備えられていることが望ましい。例えば、容器10側の内面に、平板部131を容器に挿入する際に支障とならない程度の突起を設ける、あるいは平板部に浮力に抗する錘を付けることで、硬質部材がデバイスの挙動によって、容器底面から浮き上がるのを防止することが可能となる。
【0056】
上記した構成の心臓モデル100は、硬質部材100Bに対して軟質部材100Aを組み付けて一体化し、この状態で容器10内に設置してもよい。この場合、水やアルコールなどの液体を軟質部材100Aの外側、又は、硬質部材100Bの内側に塗布しておくことで、接続後に過度に滑りが出ることなく、接続の過程を容易にすることができる。或いは、容器10に液体を満たした状態で、硬質部材100Bをセットしておき、この状態で軟質部材100Aを一体化するようにしてもよい。
【0057】
そして、軟質部材100Aの上大静脈101及び下大静脈102を、それぞれ容器10の接続部12a,11aに対して嵌め込むことで、心臓モデル100は、容器10の収容部10a内に浮遊するように保持される。また、容器10の接続部11bに、流入口105を接続することで、前記ポンプ50によって心臓モデル100の内部空間(右心室側の空間から肺動脈に繋がる部分)に、実際の拍動流と同じ流れを生じさせることができる。すなわち、カテーテルの操作を、実際の拍動流と同様な感覚で操作することが可能となる。
【0058】
上記したように心臓モデル100がセットされたカテーテル・シミュレータにおいて、例えば、肺動脈弁の留置に関する手技を練習する場合、図2に示すように、カテーテルの導入管200を挿通部11a´に接続し、ガイドワイヤを挿入する。このカテーテルのアプローチは、軟質部材100Aで構成されている右心房110から右心室111を通過し軟質肺動脈115へ移動するように行なわれる。この際、前記ポンプ50によって、右心室111から肺動脈115(120)へ、実際の拍動流と同じ流れが生じており、実際の心臓と同じ状態でシミュレーションすることができる。
【0059】
挿入されたガイドワイヤは、その先端が硬質部材100Bの末梢血管125に支持された状態となり、その後、ガイドワイヤに沿わせてカテーテル本体(肺動脈弁の留置用のデリバリーカテーテル)を挿入する。ガイドワイヤは、硬質部分に支持されるので、安定した状態でデリバリーカテーテルを挿入することができ、その後、右心室と肺動脈の境界部分に肺動脈弁を設置する手技の練習が行なえる。
【0060】
上記した構成では、肺動脈弁を設置する部分は、軟質部材100Aで構成されるため、実際の心臓と同じような感覚でカテーテル手技を練習することが可能となる。この場合、従来のカテーテル・シミュレータのように、心臓モデルを軟質部材のみで構成すると、液体に浮遊した状態で、しかも拍動によって流れが生じるため、肺動脈の先端側が変動し易い状態となる(実際の人体では、周囲に実質臓器が存在することで血管の動きが間接的に制御されるため、このような大きな変動は生じない)。本実施形態では、上記したように、肺動脈の先端側が硬質部材となっていることで、肺動脈弁を留置する手技では、先端側のガイドワイヤの支持状態が安定し、実際のカテーテル操作と同様な状態で練習することが可能となる。
【0061】
上記した構成の心臓モデル100によれば、その構成要素(軟質部材100A、硬質部材100B)が分離できるため、ポータブルな構造となり、取り扱い性の向上が図れる。また、軟質部材のみで構成した場合と比較すると、カテーテルが挿入される部位の血管が動かなくなり、実際の人体の場合と同様、カテーテルを制御することができる。また、硬質部材のみで構成した場合と比較すると、カテーテルが通過する部分の感覚が実際の人体と同等になり、手技の向上が図れるようになる。
【0062】
上記した構成の心臓モデルでは、二重構造となる部分に、膨隆部、又は、狭窄部を設けておいてもよい。これらを設けておくことで、二重構造となる部分の動きを制御し易くなり、カテーテル操作時の逸脱などを防ぐことに寄与する。また、上記した手技を行なうに際しては、軟質部材100Aを硬質部材100Bに装着した際、軟質部材と硬質部材との間に隙間が形成されるように構成することが望ましい。
具体的には、例えば、図8の第3実施形態に示すように、軟質肺動脈115と硬質肺動脈120とを密着させるのではなく、その重合部分の少なくとも一部に、両者の間に隙間Gが生じるように構成するのが望ましい。
【0063】
このように構成すると、軟質部材100Aの血管部分に病変部を設けた際、カテーテル操作によって血管が拡がることができ、実際の人体と同様な感覚でカテーテル手技を行なうことが可能となる。また、前記末梢血管125については、図8に示すように、軟質部材100Aに形成する等、その構成要素については、適宜変形することが可能である。
【0064】
上記した構造では、軟質部材100Aと硬質部材100Bの接続は、硬質部材100Bにスリット120aを形成することで行なったが、接続態様についてはスリットに限定されることはなく、種々変形することが可能である。例えば、管腔構造に枝分かれがなく、オーバーラップする部分が短い範囲であれば、用手的に軟質部材を硬質部材に押し込むことでも対応可能である。具体的には、図9の第4実施形態に示すように、軟質部材100Aを硬質部材100Bに組み込む際、例えば、両者の管腔部分同士を接続して一体化するようにしてもよい。すなわち、軟質部材100Aの軟質肺動脈115の先端を、硬質部材100Bの硬質肺動脈120の先端開口に内嵌することで、両者を一体化することが可能である。勿論、軟質肺動脈115の先端を、硬質部材100Bの硬質肺動脈120の先端開口に外嵌するようにしてもよい。
【0065】
また、本発明は、臓器モデルを軟質部材と硬質部材のハイブリッド構造としたが、そのハイブリッド構造についても種々変形することが可能である。
例えば、軟質部材と硬質部材を単純に接続するのではなく、軟質素材で全体を構成し、硬質部材をホルダーとして軟質部材の一部に被せるように一体化してもよい。この場合、軟質部材と硬質部材を組み合わせる観点から、軟質部材と硬質部材には十分な隙間を設けておくのがよい。また、隙間があることにより、軟質部材に適度な可動性をもたせることができ、実臨床のカテーテル操作に近づけることができる。
【0066】
また、本実施形態では、管腔型の臓器モデルとして、心臓を例示したが、心臓や血管に限らず各種の管腔を伴う臓器に適用することが可能である、例えば、消化管、気管、尿管など、血管部分以外に適用することも可能である。また、形成された臓器モデルに対して挿入される医療機器は、上記したカテーテルに限定されることはなく、術式等に応じて様々な構成のものを挿入することが可能である。
【0067】
以上、本発明に係る臓器モデルの実施形態について説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されることはなく、種々、変形することが可能である。
臓器モデル100の色彩については、現実の心臓と同じような色彩で内部が視認できないようにして、トレーニング者がX線を照射してモニタを観察しながらシミュレーションできるようにしてもよい。或いは、透明又は半透明の色彩にして、トレーニング者が挿入するカテーテル、ガイドワイヤ、その他のデバイスの動きを、直接、目視によって観察しながらシミュレーションできるようにしてもよい。なお、トレーニング者が視認できる材料で心臓器モデルを形成しても、容器10にカバー等を被せることで、X線による透視によってカテーテルの挙動をモニタ上のみで把握することも可能である。
【0068】
本実施形態では、軟質部材の3個所で容器10に接続し、1個所で硬質部材に接続するようにしたが、接続方法や接続位置、接続する部位の個数については適宜変形することが可能である。また、本実施形態では、2個所(上下の大静脈)からカテーテルを挿入できるようにしたが、別の部位からカテーテルが挿入できるように臓器モデルを支持するようにしてもよい。更に、ハイブリッド構造は、臓器モデルの先端に至るまでハイブリッド構造(二重構造)にしても良いが、主管部までハイブリッド構造にする等、臓器やカテーテル手技に応じて適宜することが可能である。また、前記スリットについては、カテーテルを挿入した際、力が掛かりにくいところに形成すればよく、スリットの形成の仕方、例えば、長さや開口の大きさについても適宜、変形することが可能である。
【0069】
さらに、硬質部材100Bに設けられる板状部130については、容器10の内面との間で、硬質部材を移動させないように設置できる構成であればよく、その大きさ、形状、肉厚等、適宜変形することが可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 カテーテル・シミュレータ
10 容器
10a 収容部
11a,11b,12a 接続部
11a´,12a´ 挿通部
50 ポンプ
100 心臓モデル
100A 軟質部材
100B 硬質部材
130 板状部
131 平板部
200 カテーテルの導入管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9