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特許7589458コロナウイルス(SARS-CoV-2)検出に用いるオリゴヌクレオチド及びその検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】コロナウイルス(SARS-CoV-2)検出に用いるオリゴヌクレオチド及びその検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6888 20180101AFI20241119BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20241119BHJP
   G01N 33/533 20060101ALI20241119BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
C12Q1/6888 Z
G01N33/53 M
G01N33/533
C12N15/11 Z ZNA
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020120834
(22)【出願日】2020-07-14
(65)【公開番号】P2022017961
(43)【公開日】2022-01-26
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】東田 悟
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111394513(CN,A)
【文献】特開2019-106986(JP,A)
【文献】Naganori Nao et al.,Detection of second case of 2019-nCoV infection in Japan,国立感染症研究所ホームページ,2020年01月30日,niid. go.jp/niid/ja/2019 -ncov/2518-lab/9 334-ncov-vir3-2.html
【文献】Yu Jin Yung et al.,Comparative analysis of primer-probe sets for the laboratory confirmation of SARS-CoV-2,bioRxiv,2020年02月27日,doi.org/10.1101 /2020.02.25.96 4775
【文献】Yan Xiao et al.,Comparison of three TaqMan Real-Time Reverse Transcription-PCR assays in detecting SARS-CoV-2 (preprint),bioRxiv,2020年07月06日,doi.org/10.1101/2020.07.06.189860
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/11
C12Q 1/6888
G01N 33/53
G01N 33/533
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
019年新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)検出用オリゴヌクレオチド及び一組のプライマーセットであって、
前記一組のプライマーセットは、第一のプライマーが配列番号7、8、10のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであり、第二のプライマーが、配列番号14、17、19、20、21、23のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであり、
前記検出用オリゴヌクレオチドが、配列番号2、3、4のいずれかに記載の塩基配列またはその相補配列から選択される配列からなる、
検出用オリゴヌクレオチド及び一組のプライマーセット
【請求項2】
前記検出用オリゴヌクレオチドが蛍光色素で標識され、かつ相補的な2本鎖を形成すると蛍光特性が変化するように構成されたオリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項1に記載の検出用オリゴヌクレオチド及び一組のプライマーセット
【請求項3】
前記検出用オリゴヌクレオチドがインターカレーター性蛍光色素で標識されてなることを特徴とする請求項2に記載の検出用オリゴヌクレオチド及び一組のプライマーセット
【請求項4】
前記第一のプライマーと前記第二のプライマーの組み合わせが、配列番号8と20、10と20、10と14、10と17、10と19、10と21、10と23のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるプライマーセットである、請求項1に記載の検出用オリゴヌクレオチド及び一組のプライマーセット。
【請求項5】
2019年新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検出方法であって、請求項1に記載の検出用オリゴヌクレオチド及び一組のプライマーセットを使用することを特徴とする、検出方法。
【請求項6】
請求項2に記載の検出用オリゴヌクレオチドを使用することを特徴とする請求項に記載の検出方法。
【請求項7】
前記検出用オリゴヌクレオチドがインターカレーター性蛍光色素で標識されてなることを特徴とする請求項に記載の検出方法。
【請求項8】
前記第一のプライマーと前記第二のプライマーの組み合わせが、請求項4に記載のプライマーセットを使用することを特徴とする請求項5に記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に含まれる2019年新型コロナウイルス(以後、SARS-CoV-2とする)を迅速、高感度かつ特異的に検出するためのオリゴヌクレオチドおよび該オリゴヌクレオチドを用いたSARS-CoV-2の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス感染症(以後、COVID-19とする)は、SARS-CoV-2を原因ウイルスとし、2019年、中華人民共和国湖北省武漢市において確認された。世界保健機関(WHO)は、COVID-19について、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言した。その後、世界的な感染拡大の状況、重症度等から2020年3月11日COVID-19をパンデミック(世界的な大流行)とみなせると表明した。
【0003】
コロナウイルス科は、直径80~160nmのエンベロープを有するプラス鎖1本鎖RNA(Ribonucleic acid)ウイルスであり、人の他、イヌ、ブタ、ウシならびにラクダ等種々の動物に感染する。遺伝学的特徴からα、β、γならびにδの属に分類される。ヒトに主に風邪症候群を起こすウイルスとして、αコロナウイルス属の229E株、NL63株、βコロナウイルス属のOC43株、HKU1株がある。これら4種のウイルスが風邪の原因の10~15%(流行期35%)を占める。これらに加え、2003年にはSARS(severe acute respiratory syndrome)コロナウイルスが、2012年にはMERS(Middle East respiratory syndrome)コロナウイルスが同定されているが、この2つは、いずれもヒトに肺炎を主とする重篤な感染症を引き起こし、その致死率は前者が約10%、後者が30%以上と非常に高い(非特許文献1)。SARS-CoV-2は、SARS及びMERSと同じβコロナウイルスに属する。全塩基解析と系統樹解析により、SARSコロナウイルスとは75~80%の相同性、コウモリのコロナウイルスとは85~88%の相同性が認められている。このため、SARS-CoV-2はコウモリのウイルス由来であると考えられている。
【0004】
初期症状は軽症で、発熱、倦怠感、乾性咳嗽、食欲不振、筋肉痛、呼吸困難、喀痰ならびに咽頭痛等がみられるほか、嗅覚・味覚障害が生じることがあり、重症化すると肺炎を発症する。通常、初期症状は5~7日間程度続き、重症化しなければ次第に治っていく。
【0005】
重症化すると呼吸困難に陥る。肺炎以外にも、上気道炎や気管支炎など、その他の呼吸器系器官への炎症が認められる場合もある。重症型の肺炎が生じても、症状に対する治療を行うことで徐々に回復するが、悪化し重篤化すると、急性呼吸器症候群(ARDS)や敗血症性ショック、多臓器不全などが起こり、場合によっては死に至るケースもある。
【0006】
通常のウイルス感染症では、他者に感染させる可能性が最も高いのは、症状が強く表れる時期であるが、新型コロナウイルスの感染者は、無症状の場合、軽症の段階、重症化した段階それぞれで感染する可能性があると考えられている。特に無症状でありながらウイルスに感染し、他者への感染力を有する無症状性病原体保有者の特定は、感染を拡大させないこと、院内感染を防ぐのに最も重要なことである。また、無症状者の特定を行うためには、大規模なスクリーニング検査が有効とされ、十分な処理能力を持ち、かつ高感度である検査法が必要である。
【0007】
高感度検査方法としては、ウイルスの核酸を増幅し検出する遺伝子検査法が挙げられる。しかしながら、検体からウイルス由来の核酸を抽出する工程が煩雑であり、信頼できる結果を得るには作業実施者の練度がある程度必要となる。また、結果を得るのに時間が掛かり、迅速性に欠く一方、抗原抗体検査法は、簡便で処理能力が高く、高い迅速性を有する特徴があるが、感度が遺伝子検査に比べ高くなく、偽陰性となる可能性がある。
【0008】
本発明で使用されたTRC法(特許文献2、特許文献3)では精製から検出まで一体となった装置が市販されており、1時間程度で結果を得ることができるため、十分な迅速性を備えている。また、感度、特異度ともに他の核酸増幅による検出法と遜色はない。
【0009】
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の増幅対象核酸は、他のコロナウイルスとの間で塩基配列の相同性が高いため、その遺伝子を高感度かつ特異的に検出するプライマーセットやオリゴヌクレオチドプローブを設計することは極めて困難であった。特に2003年に流行したコロナウイルス(SARS-CoV)との識別が困難であった。比較的低温の一定温度(例えば、40℃から50℃)条件下でRNAの増幅が可能な増幅方法を利用する場合、増幅対象核酸が高次構造を形成しやすくなるため、当該プライマーセットやオリゴヌクレオチドプローブの設計はより困難なものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2009-131174号公報
【文献】特開2000-14400号公報
【文献】特開2001-37500号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】Wang C, et al: A novel coronavirus outbreak of global health concern. Lancet 395: 470-473, 2020. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30185-9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、試料中に存在する新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に由来する核酸を高感度、迅速に増幅し、かつ偽陽性が発生しにくい特異的なオリゴヌクレオチド、および該オリゴヌクレオチドを用いた新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下のとおりである。
【0014】
(1)配列番号1に記載の塩基配列またはその相補配列から選択される連続した10塩基以上の配列からなることを特徴とする2019年新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)検出用オリゴヌクレオチド。
(2)前記(1)オリゴヌクレオチドが蛍光色素で標識され、かつ相補的な2本鎖を形成すると蛍光特性が変化するように構成されたオリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項1に記載のオリゴヌクレオチド。
(3)前記(2)オリゴヌクレオチドがインターカレーター性蛍光色素で標識されてなることを特徴とする請求項2に記載のオリゴヌクレオチド。
【0015】
(4)2019年新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検出方法であって(1)に記載のオリゴヌクレオチドを使用することを特徴とする、検出方法。
(5)前記(2)に記載のオリゴヌクレオチドを使用することを特徴とする(4)に記載の検出方法。
(6)前記オリゴヌクレオチドがインターカレーター性蛍光色素で標識されてなることを特徴とする(5)に記載の検出方法。
(7)一組のプライマーセットを用いることを特徴とする(4)~(6)のいずれかに記載の検出方法。
(8)前記一組のプライマーセットが、配列番号6に記載の塩基配列もしくはその相補配列から選択される連続した10塩基以上の配列からなる第一のプライマー、および配列番号13に記載の塩基配列もしくはその相補配列から選択される連続した10塩基以上の配列からなる第二のプライマー、からなることを特徴とする(7)に記載の検出方法。
(9)前記第一のプライマーが、配列番号6に記載の塩基配列もしくはその相補配列中、連続する15~30塩基からなり、かつ第二のプライマーが配列番号13に記載の塩基配列もしくはその相補配列中、連続する15~30塩基からなることを特徴とする(8)に記載の検出方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のオリゴヌクレオチドは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が有するRNAに特異的な配列およびその相補配列の一部にハイブリダイズすることより、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が有するRNAの塩基配列またはその相補配列を特異的に検出させることができる。
【0017】
本発明のオリゴヌクレオチド及び該オリゴヌクレオチドを用いた新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検出方法は、試料中に含まれる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を迅速、高感度に検出でき、かつ他のコロナウイルス種を検出しないなど、偽陽性の発生も極めて少なく特異性が高い。そのため、検査結果を早急に医師に提示することが可能となり、感染拡大防止や、適切な薬剤の投与による症状の早期改善に寄与するものと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明中において試料とは、鼻咽頭ぬぐい液、喀痰、気管支肺胞洗浄液、気管内吸引物、胸水、血液、尿、便などがあげられる。
【0020】
本発明のオリゴヌクレオチドを用いた新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が有するRNAの核酸塩基配列またはその相補配列を含む核酸の検出は、従来から知られた核酸検出方法を利用することができる。具体的には、
(A)電気泳動や液体クロマトグラフィーを用いた方法、
(B)検出可能な標識で標識されたオリゴヌクレオチドプローブによるハイブリダイゼーション法、
(C)当該特定塩基配列またはその相補配列を含む核酸を、一組のプライマーセットを用いて増幅した増幅産物の塩基配列の一部とハイブリダイズすることで蛍光特性が変化するように設計された蛍光色素標識オリゴヌクレオチドを用いた方法、
などがあげられる。前記(C)の蛍光色素標識オリゴヌクレオチドの一例として、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を利用した蛍光標識オリゴヌクレオチドや、インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0021】
前記インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドの一例として、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が有するRNAの塩基配列またはその相補配列を含む核酸の一部と特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドの3’末端側、5’末端側、リン酸ジエステル部または塩基部分に、適当なリンカーを介してインターカレーター性蛍光色素を標識したオリゴヌクレオチドがある。前記オリゴヌクレオチドは新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が有するRNAの塩基配列(またはその相補配列)と相補的2本鎖を形成すると、インターカレーター性蛍光色素部分が前記相補的2本鎖部分にインターカレートすることで蛍光特性が変化するプローブである。標識するインターカレーター性蛍光色素に特に限定はなく、オキサゾールイエロー、チアゾールオレンジ、エチジウムブロマイド、ヘミシアニン等の汎用されている蛍光色素、およびこれらの誘導体の中から、蛍光強度や蛍光特性を考慮して、適宜選定すればよい。なお3’末端側に蛍光色素を標識する場合を除き、オリゴヌクレオチドの3’末端側は当該末端側からの核酸伸長反応を防止する意味で、グリコール酸などの適当な修飾がされているとよい。
【0022】
前記インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドを構成するオリゴヌクレオチドとして、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が有するRNAの塩基配列またはその相補配列を含む核酸と特異的にハイブリダイズ可能であって、配列番号1に記載の塩基配列中、少なくとも10塩基からなる連続する塩基配列又はその相補配列を含むオリゴヌクレオチドを上げることができる。より好ましくは、配列番号2に記載の塩基配列(GenBank No.MN908947.1の29212番目から29228番目までの塩基配列)またはその相補配列とハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド、配列番号3に記載の塩基配列(GenBank No.MN908947.1の29216番目から29235番目までの塩基配列)またはその相補配列とハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド、配列番号4に記載の塩基配列(GenBank No.MN908947.1の29228番目から29245番目までの塩基配列)またはその相補配列とハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチド、配列番号5に記載の塩基配列(GenBank No.MN908947.1の29239番目から29258番目までの塩基配列)またはその相補配列とハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0023】
本発明におけるオリゴヌクレオチドとその相補配列のハイブリダイズ条件の例として、42℃において、50%(v/v)ホルムアミド、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%フィコール、0.1%のポリビニルピロリドン、50mMのリン酸ナトリウムバッファー(pH6.5)、150mMの塩化ナトリウム、75mMのクエン酸ナトリウムが存在する条件や、本明細書の実施例に記載の核酸増幅条件があげられる。また、当該条件下で、前記の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が有するRNAの塩基配列と、十分に特異的かつ高効率にハイブリダイゼーション可能であれば、第一及び第二のプライマーの塩基配列は、前記特定塩基配列と比較して置換、欠失、付加、修飾があってもよい。第一及び第二のプライマーの長さは任意に設定できるが、好ましくは10塩基から50塩基までの範囲である。
【0024】
本発明は、試料中に含まれる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が有するRNAの塩基配列の5’末端部と相補的な配列を有する第一のプライマーとして、配列番号6に記載の塩基配列(GenBank No.MN908947.1の29135番目から29206番目までの塩基配列)と特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドを、また試料中に含まれる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が有するRNAの塩基配列の3’末端部と相同的な配列を有する第二のプライマーとして、配列番号13に記載の塩基配列(GenBank No.MN908947.1の29280番目から29396番目までの塩基配列)と特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドを、それぞれ用いることを特徴としている。
【0025】
その中でも第一のプライマー及び第二のプライマーが15~30塩基からなることが好ましい。
【0026】
第一のプライマーの一例として、配列番号6に記載の塩基配列またはその相補配列中、連続する15~30塩基であるオリゴヌクレオチドがあげられ、さらに具体的な例として、配列番号7(GenBank No.MN908947.1の29135番目から29154番目までの塩基配列の相補配列)、配列番号8(GenBank No.MN908947.1の29142番目から29161番目までの塩基配列の相補配列)、配列番号9(GenBank No.MN908947.1の29155番目から29174番目までの塩基配列の相補配列)、配列番号10(GenBank No.MN908947.1の29166番目から29185番目までの塩基配列の相補配列)、配列番号11(GenBank No.MN908947.1の29179番目から29196番目までの塩基配列の相補配列)および配列番号12(GenBank No.MN908947.1の29187番目から29206番目までの塩基配列の相補配列)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0027】
第ニのプライマーの一例として、配列番号13に記載の塩基配列またはその相補配列中、連続する15~30塩基からなるオリゴヌクレオチドがあげられ、さらに具体的な例として、配列番号14(GenBank No.MN908947.1の29280番目から29299番目までの塩基配列)および配列番号15(GenBank No.MN908947.1の29295番目から29310番目までの塩基配列)、配列番号16(GenBank No.MN908947.1の29307番目から29326番目までの塩基配列)、配列番号17(GenBank No.MN908947.1の29324番目から29342番目までの塩基配列)、配列番号18(GenBank No.MN908947.1の29340番目から29359番目までの塩基配列)、配列番号19(GenBank No.MN908947.1の29359番目から29381番目までの塩基配列)、配列番号20(GenBank No.MN908947.1の29365番目から29387番目までの塩基配列)および配列番号21(GenBank No.MN908947.1の29373番目から29396番目までの塩基配列)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0028】
中でも新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が有するRNAを迅速かつ特異的に検出可能であるという点で、第一のプライマーが配列番号7、8、9、10、11、12のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであり、第二のプライマーが、配列番号14、15、16、17、18、19、20、21のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるプライマーセットが好ましい。その中でも第一のプライマーと第二のプライマーの組み合わせが、配列番号8と20、10と20、10と14、10と17、10と19、10と21のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるプライマーセットが更に好ましい。
【0029】
本発明のプライマーセットは、RT-PCR法等、当業者が通常用いる核酸増幅法を利用した、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が有するRNAの塩基配列またはその相補配列を含む核酸を増幅するためのプライマーセットとして有用である。なお、第一または第二のプライマーのいずれか一方の5’末端側にRNAポリメラーゼのプロモーターをさらに付加させると、前記プロモーターに対応したRNAポリメラーゼを用いて、RNAポリメラーゼのプロモーターを付加した塩基配列またはその相補配列を含む核酸が合成されるため、これら核酸からNASBA(Nucleic Acid Sequence Based Amplification)法、TMA(Transcription-Mediated Amplification)法、TRC(Transcription-Reverse transcription Concerted reaction)法といった一定温度でRNAを増幅する方法を用いて、RNAを増幅させることができる点で好ましい。プライマーの5’末端側に付加するプロモーターは、RNA増幅に用いるRNAポリメラーゼ(例えば、分子生物学の分野で汎用される、T7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼやSP6 RNAポリメラーゼ)に対応したプロモーターを用いればよい。また前記プロモーターに、転写効率に影響を及ぼすことが知られている転写開始領域をさらに付加してもよい。RNA増幅に用いるRNAポリメラーゼとしてT7 RNAポリメラーゼを用いたときの、プライマーの5’末端側に付加するプロモーター(T7プロモーター)の具体例として、配列番号24に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドがあげられる。
【0030】
本発明のオリゴヌクレオチドを用いて新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が有するRNAを検出するには、例えば以下の(1)から(6)に示す工程により実施すればよい。
【0031】
(1)配列番号13~23に記載の塩基配列またはその相補配列と特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドである第二のプライマーが新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が有するRNAにハイブリダイズし、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、特定塩基配列に相補的なcDNAを合成し、前記RNAとのRNA-DNA2本鎖を生成する工程、
(2)リボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有する酵素により、前記RNA-DNA2本鎖のRNAを分解する工程(1本鎖DNAの生成)、
(3)該1本鎖DNAに、配列番号6~12に記載の塩基配列またはその相補配列と特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドである第一のプライマーがハイブリダイズし(ここで前記第一または第二のプライマーのいずれか一方はその5’末端側にRNAポリメラーゼのプロモーターが付加される)、DNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素により、当該増幅領域の塩基配列またはその相補的な配列のRNAを転写可能なプロモーターを含む2本鎖DNAを生成する工程、
(4)RNAポリメラーゼ活性を有する酵素により前記2本鎖DNAを鋳型とするRNA転写産物を生産する工程、
(5)該RNA転写産物が、前記(1)の反応におけるcDNA合成の鋳型となることで、連鎖的にRNA転写産物を生成する工程、
(6)配列番号1またはその相補配列を含むオリゴヌクレオチドであって、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が有するRNAまたはその相補的な配列に対し、ハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドにインターカレーター性蛍光色素を標識したオリゴヌクレオチドを用いて、前記RNA転写産物量を経時的に測定する工程。
【0032】
前記(1)の工程で用いるRNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、前記(2)の工程で用いるRNase H活性を有する酵素、および前記(3)の工程で用いるDNA依存性DNAポリメラーゼ活性を有する酵素は、それぞれ別個あるいは種々の組合せで添加することもできるが、前記活性を併せ持つレトロウイルス由来の逆転写酵素を使用することもできる。該逆転写酵素は特に限定されないが、分子生物学の分野で汎用される、AMV(Avian Myeloblastosis Virus)逆転写酵素、MMLV(Molony Murine Leukemia Virus)逆転写酵素、RAV(Rous Associated Virus)逆転写酵素、HIV(Human Immunodeficiency Virus)逆転写酵素などが使用できる。
【0033】
前述した態様による新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が有するRNAの検出方法における反応温度は、使用する各酵素の耐熱性や活性、ならびにプライマー/プローブのTm等に依存するが、使用する酵素がAMV逆転写酵素およびT7 RNAポリメラーゼであり、プライマー/プローブの長さが15から20塩基の範囲である場合は、35から65℃の範囲で反応温度を設定すればよく、40から50℃の範囲で設定するとより好ましい。
【0034】
前述した態様による新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が有するRNAの検出方法は、蛍光強度を経時的に測定することから有意な蛍光増加が認められた任意の時間で測定を終了することが可能であり、核酸増幅および測定をあわせて通例20分以内で終了することが可能である。
【0035】
前述した態様による新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が有するRNAの検出方法は、前述した第一のプライマー、第二のプライマー、およびインターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドを含む新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)RNA検出用試薬に試料を添加し、経時的に蛍光検出可能な温調ブロックに載置することで、自動的に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が有するRNAを増幅し検出することができる。本発明の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が有するRNAを検出するためのオリゴヌクレオチドは、配列番号2~4記載の塩基配列からなるものが好ましい。
【実施例
【0036】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0037】
実施例1 インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドの調製
【0038】
下記(A)に示す、インターカレーター性蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチド(以下、INAFプローブと記載する)を特開2000-316587号公報で開示の方法に基づき作製した。
【0039】
(A)配列番号2に記載の塩基配列(GenBank No.MN908947.1の29212番目から29228番目までの塩基配列)またはその相補配列、配列番号3に記載の塩基配列(GenBank No.MN908947.1の29216番目から29235番目までの塩基配列)またはその相補配列、配列番号4に記載の塩基配列(GenBank No.MN908947.1の29228番目から29245番目までの塩基配列)またはその相補配列、配列番号5に記載の塩基配列(GenBank No.MN908947.1の29239番目から29258番目までの塩基配列)またはその相補配列、からなるオリゴヌクレオチドであって、配列番号2においては5’末端から12番目のチミンに、配列番号3においては5’末端から8番目のチミンに、配列番号4においては5’末端から8番目のシトシンに、配列番号5においては、5’末端から5番目のシトシンに、リンカーを介してチアゾールオレンジを標識したもの。
【0040】
実施例2 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)検出用オリゴヌクレオチドの検討
【0041】
表1に示す、第一のプライマー、第二のプライマーおよびINAFプローブの組み合わせ(以下、オリゴヌクレオチドの組み合わせと記載する)を用いて、以下に示す方法で評価した。なお表1に記載のINAFプローブは実施例1で作製したプローブである。
【0042】
(1)新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が有するRNAとしては、市販のコントロール試薬(vircell社、AMPLIRUN SARS-CoV-2 RNA CONTROL)を使用した。コントロールRNAは、RNA希釈液(10mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)、1mM EDTA、0.02% コール酸ナトリウム)を用いて1000コピー/15μLになるように希釈し、これらをRNA試料として用いた。
【0043】
(2)以下の組成からなる反応液を蒸発乾燥用チューブに分注し、蒸発乾燥した。
反応液の組成:濃度はRNA試料、開始液、添加後(30μL中)の最終濃度
60mM Tris-HCl緩衝液(pH8.35)
300mM トレハロース
各0.39mM dATP、dCTP、dGTP、dTTP
各2.1mM ATP、CTP、UTP
1.5mM GTP
3.2mM ITP
0.4μM 第一のプライマー
0.4μM 第二のプライマー(各配列番号の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの5’末端側にT7プロモータ(配列番号24)を付加したもの)
10nM INAFプローブ(実施例1で調製したもの)
0.025mg/mL 牛血清アルブミン
200U T7 RNAポリメラーゼ
9.0U AMV逆転写酵素
【0044】
(3)上記の蒸発乾燥後にRNA試料を15μL添加後、46℃で5分間保温し、その後、以下の組成からなる開始液15μLを添加し撹拌した。
酵素液の組成:反応時(30μL中)の最終濃度
9.00% ジメチルスルホキシド
21mM 塩化マグネシウム
137mM 塩化カリウム
【0045】
(4)引き続き蒸発乾燥用チューブを直接測定可能な温調機能付き蛍光分光光度計を用い、46℃で反応させると同時に反応溶液の蛍光強度を経時的に20分間測定した。
【0046】
開始液を加え撹拌を終えた時点を0分として、反応液の蛍光強度比(所定時間の蛍光強度値をバックグラウンドの蛍光強度比で割った値)が1.5を超えた場合を陽性判定とし、そのときの時間を検出時間とした。結果を表1、2及び3に示す。実験は、各々の組合せごとに2回数測定し、その平均値を使用した。「N.D.」は反応開始後20分後の蛍光強度比が1.5以下(陰性判定)であったことを意味する。
【0047】
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)RNAの検出性能(表1)については、本実施例で検討したオリゴヌクレオチドの組み合わせ(set1からset21)のうち、set10~13、set15、set18を除く、いずれもが1000コピー/testの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)RNAを20分以内に検出した。特に、オリゴヌクレオチドの組み合わせset1~3、set5~8、set14、set17、20は1000コピー/testの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)RNAを平均で10分以内に検出しており、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)RNAを迅速に検出可能なオリゴヌクレオチドの組み合わせといえる。
【0048】
【表1】
【0049】
本実施例で検討したオリゴヌクレオチドの組み合わせのうち、検出時間が10分以内であった組合せのうちからset2及びset6を用いて、測定感度評価(表2)及び他のコロナウイルスRNAの交差反応性評価(表3)を実施した。
【0050】
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)RNAの測定感度ついては、30コピー/testの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のRNAを検出し、交差反応性については、2003年型SARS(SARS-CoV)、MERS、コロナウイルス(229E、OC43)を検出せず、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して高い特異性を有しており、本実施例で検討したオリゴヌクレオチドの組み合わせは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の有するRNAを特異的に検出可能なオリゴヌクレオチドの組み合わせといえる。
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【配列表】
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