(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】熱電変換装置
(51)【国際特許分類】
H10N 10/13 20230101AFI20241119BHJP
H02N 11/00 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
H10N10/13
H02N11/00 A
(21)【出願番号】P 2020149066
(22)【出願日】2020-09-04
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】大久保 ユリア
(72)【発明者】
【氏名】東平 知丈
(72)【発明者】
【氏名】能川 玄也
(72)【発明者】
【氏名】島田 武司
(72)【発明者】
【氏名】松田 三智子
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-206881(JP,A)
【文献】特開2006-340439(JP,A)
【文献】特開2019-057607(JP,A)
【文献】特開2018-010908(JP,A)
【文献】特開2015-032747(JP,A)
【文献】特開2015-204423(JP,A)
【文献】特開昭61-154087(JP,A)
【文献】国際公開第2014/157287(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/13
H02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電変換モジュールと、受熱部材と、冷却部材と、外殻部材と、第1の治具と、第2の治具と、封止部材と、を有し
前記受熱部材は、
平坦面部と該平坦面部の一方の面に立設されたフィン部とを有し、
キャップで覆った前記熱電変換モジュールの一方側に前記平坦面部の他方の面を密着して配置され
、
前記冷却部材は、
前記熱電変換モジュールの他方側に密着して配置され
、
前記外殻部材は、
フランジと、筒と、筒の軸方向の一方側の端部に備えた引っ掛かり部と、を有し、
前記熱電変換モジュールと、前記受熱部材と、前記冷却部材と、を囲うように配置されており、
前記第1の治具は、
環状の挟持部と、前記環状の挟持部の軸方向を長手方向とする複数の柱部と、環状の締結部と、を有し、
前記第1の治具の挟持部で前記受熱部材の平坦面部の端部を前記外殻部材
の引っ掛かり部との間に
、前記受熱部材の平坦面部の他方の面に垂直な方向から挟むことで、前記受熱部材を支持し、
前記第2の治具は、
環状の押圧部と、前記環状の押圧部の軸方向を長手方向とする複数の柱部、環状の締結部と、からなり、
前記押圧部は、前記冷却部材を挟んで前記熱電変換モジュールを
前記受熱部材に向って押圧して支持し、
前記第1の治具の柱部と前記第2の治具の柱部を干渉しない位置に配置し、
前記第1の治具の締結部の外面と前記第2の治具の締結部の内面の間に隙間を有し、
前記封止部材は、
前記受熱部材の平坦面部と前記外殻部材
の引っ掛かり部の内面との間に配置され、
前記第1の治具を前記外殻部材に締結することで、前記第1の治具と前記封止部材と前記外殻部材とが一体に拘束された
ことを特徴とする熱電変換装置。
【請求項2】
前記外殻部材
の引っ掛かり部の内側の溝
に、前記封止部材となるOリングが配置されることを特徴とする請求項1に記載の熱電変換装置。
【請求項3】
前記フィン部と、外殻部材の一部とが熱源流体に突出していることを特徴とする請求項1
または2に記載の熱電変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱を直接電気に変換する熱電変換モジュールを用いた熱電変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー消費低減のために、例えばボイラー、焼却炉、自動車の熱源からの排熱を電気として回収することが検討されている。特にゼーベック効果によって熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換できる熱電素子を用いて、効率よく電気エネルギーを回収できる熱電変換モジュールが注目されている。熱電モジュールとは、P型とN型の熱電変換素子を、電極を介して交互に接続したもので、一方の面を高温側、他方の面を低温側とし、両面に温度差を生じさせることで、電力を発生させるものである。今まで捨てられていた排熱を有効利用できるクリーンな方法として、実用化が期待されている。特に、約300℃以上の高温環境で使用可能な材料の熱電変換素子を用いることで、大きな温度差から、大きな電気エネルギーを回収できる可能性があることから開発が進められている。
【0003】
高温のガスなどの流体を利用して熱電変換モジュールに大きな温度差を与えるためには、高温側に流体からの熱を損失なく伝え、低温側への熱電変換素子以外からの熱伝達を低減し、高温側と低温側の温度差を大きくすることが重要である。
【0004】
例えば、特許文献1に熱電変換モジュールを受熱部材と冷却部材とで把持する熱電変換発電ユニットが開示されている。また、前記熱電変換発電ユニットが、加熱部と冷却部とを有し、これら加熱部および冷却部の内部で被加熱体を順次搬送するトンネル型炉に備えられた構成が開示されている。
【0005】
また、特許文献2に、炉の開口部に取り付けた受熱板に熱電変換モジュールの一方の面を配置し、熱電変換モジュールの他方の面を水冷板に密着、固定して取り付け、前記受熱板の、炉内の受熱側に、受熱フィンを形成した熱電変換装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-350479号公報
【文献】特開2013-211471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、受熱部材と冷却部材とで把持する構成のため、受熱部材から冷却部材へ熱が伝導し、損失しやすいという課題があった。また、トンネル炉の加熱部と冷却部についても同様に熱損失が生じやすく、熱電変換モジュールにおいて大きな温度差を得にくいという課題があった。
【0008】
特許文献2では、受熱板がケースに接触しており、受熱板で集めた熱がケースの部材内部を伝って水冷板との温度差が小さくなる可能性が考えられる。さらに、受熱側の高温ガスの圧力が炉外より高い場合、ケースと受熱板に隙間が発生する可能性も考えられる。
【0009】
本発明の目的は、熱電変換モジュールを取り付けたことによる設備内外の圧力差による流体の流出を防止し、かつ、熱源の流体から熱を集めやすく、さらに熱の損失を小さくすることが可能な熱電変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の熱電変換装置は、熱電変換モジュールと、受熱部材と、冷却部材と、外殻部材と、第1の治具と、第2の治具と、封止部材と、を有し
前記受熱部材は、
平坦面部と該平坦面部の一方の面に立設されたフィン部とを有し、
前記熱電変換モジュールの一方側に前記平坦面部の他方の面を密着して配置され、
前記冷却部材は、
前記熱電変換モジュールの他方側に密着して配置され、
前記外殻部材は、
フランジと、筒と、筒の軸方向の一方側の端部に備えた引っ掛かり部と、を有し、
前記熱電変換モジュールと、前記受熱部材と、前記冷却部材と、を囲うように配置されており、
前記第1の治具は、
環状の挟持部と、前記環状の挟持部の軸方向を長手方向とする複数の柱部と、環状の締結部と、を有し、
前記第1の治具の挟持部で前記受熱部材の平坦面部の端部を前記外殻部材の引っ掛かり部との間に、前記受熱部材の平坦面部の他方の面に垂直な方向から挟むことで、前記受熱部材を支持し、
前記第2の治具は、
環状の押圧部と、前記環状の押圧部の軸方向を長手方向とする複数の柱部、環状の締結部と、からなり、
前記押圧部は、前記冷却部材を挟んで前記熱電変換モジュールを前記受熱部材に向って押圧して支持し、
前記第1の治具の柱部と前記第2の治具の柱部を干渉しない位置に配置し、
前記第1の治具の締結部の外面と前記第2の治具の締結部の内面の間に隙間を有し、
前記封止部材は、
前記受熱部材の平坦面部と前記外殻部材の引っ掛かり部の内面との間に配置され、
前記第1の治具を前記外殻部材に締結することで、前記第1の治具と前記封止部材と前記外殻部材とが一体に拘束された
ことを特徴とする。
【0011】
さらに、前記外殻部材の引っ掛かり部の内側の溝に、前記封止部材となるOリングが配置されることが好ましい。
【0014】
さらに、前記フィン部と、外殻部材の一部と、が熱源流体に突出していることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱電変換装置において、熱電変換モジュールを取り付けたことによる設備内外の圧力差による流体の流出を防止し、かつ、熱源の流体(高温流体)から熱を集めやすく、さらに熱の損失を小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】熱電変換モジュール一体型の冷却部材を示す斜視図
【
図10】ガス温度と各部位の温度との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の熱電変換装置の実施の形態を以下に説明する。本発明の熱電変換装置を実施する形態は、
熱電変換モジュールと、
平坦面部と該平坦面部の一方の面に立設されたフィン部とを有し、前記熱電変換モジュールの一方側に前記平坦面部の他方の面を密着して配置された受熱部材と、
前記熱電変換モジュールの他方側に密着して配置された冷却部材と、
前記受熱部材と、前記熱電変換モジュールと、前記冷却部材と、を囲うように配置された筒状の外殻部材と、
前記受熱部材の平坦面部の端部を前記外殻部材との間に挟んで支持する第1の治具と、
前記冷却部材を挟んで前記熱電変換モジュールを支持する第2の治具と、
前記受熱部材の平坦面部と前記外殻部材との間に配置された封止部材と、
を有している。それぞれの構成を以下に説明する。
【0018】
(熱電変換モジュール)
熱電変換モジュールの外観を模式的に
図1に示す。P型とN型の熱電変換素子を、電極を介して接続したもので、一方の面を高温側、他方の面を低温側とし、両面に温度差を生じさせることで、電力変換を行うものである。このときN型の素子内では、高温側で密度の高くなった電子が低温側へ流れ、P型の素子内では
、正の電荷を持つ正孔が
低温側へ流れ、逆の電位差が生じることで電流が流れる。温度差によって熱起電力が生じる現象をゼーベック効果という。
【0019】
図1ではその一例として、P型素子11、N型素子12、高温側電極13、低温側電極14、絶縁基板15、電極の終端16として示している。また、素子や電極の配列状態を見せるために、絶縁基板15を、破断線を境界に取り去った状態で示している。P型とN型を電極で接続したものを1対とする。1対の発電量は、温度の差によるが1~100
mW程度と極めて少ないが、これを複数接続することで、大きな発電量を得られるため好ましい。また、1対の電圧は低いが、電気的に直列になるよう並べて電圧を高くしても良く、さらに昇圧用のDC-DCコンバーターで昇圧することで、商用製品に使える電圧値を得てもよい。
【0020】
熱電変換素子は、300℃以上の高温向けとして、Mg2Si系、シリサイド系、ハーフホイスラー系、スクッテルダイト系等の材料を使用することが好ましい。これらの材料は、高温域で大気中に晒されると酸化することがあるため、例えば、真空雰囲気で密閉する、つまり真空封止するなど、酸化を抑制することが好ましい。真空封止は、熱電変換モジュールの外周近傍領域だけを囲って封止しても良く、熱電変換モジュールの低温面が密着する冷却部材と一体として封止しても良い。
【0021】
(冷却部材)
冷却部材とは、熱電変換モジュールの低温側を冷却するために使用するものである。冷却部材は1つ以上の平面を有し、冷却媒体(冷媒)によって冷やされる。この冷却部材の平面を熱電変換モジュールの低温側の面に密着させることで、熱電変換モジュールの低温側の面を冷却する。以下に冷却部材と熱電変換モジュールが一体の場合の例について説明する。
図2に、熱電変換モジュール一体型の熱電変換装置の一部を模式的に分解した図を示す。それぞれ、熱電変換モジュール10、冷却部材20、キャップ22、冷媒配管23、端子24である。尚、冷却部材20は水冷板などとしても良く、上述の通り、熱電変換モジュールの低温側を冷却するための面を持っていれば、板状のほかに、主面の反対側に水路の構造体を有する形状などでも良い。
【0022】
以下、冷媒として水を用いた場合の冷却部材を例に説明する。この場合、冷媒配管は水道管や水用ホース、水用チューブと読み替えても良い。冷却部材は、後述する外殻部材に余裕を持って入る大きさである。これによって、外殻部材の内側に間隙を維持して冷却部材を配置することが可能である。形状は、熱電変換モジュールの低温面が全て密着できるよう熱電変換モジュールより広い平坦面を有し、密着面が冷却媒体によって十分に冷える肉厚を有していれば、いずれの形状でも良い。
冷却部材の材質は一般的にアルミ、銅、ステンレスが用いられ、いずれでも良いが、熱伝導率が高いという観点で銅が望ましく、酸化防止のためニッケルメッキをするとさらに良い。
図2の冷却部材20は、冷却部材が円柱形の場合で、そこに水の出入口となる冷媒配管23を備えている図である。円柱形の片面に、熱電変換モジュール10の低温面を密着させ、キャップ22で覆い、キャップ22の外周を真空雰囲気中で冷却部材20に溶接することで、熱電変換モジュールを真空封止する。キャップ22は、熱電変換モジュールを完全に覆う大きさで、容器につばが付いた形状をしている。受熱部材に長時間接触しても問題無い耐熱性・耐酸化性があり、真空封止を保つ強度を有する材料として、ステンレス等が好ましい。さらに、受熱部材から受けた熱を低損失で熱電変換モジュール10の高温面に伝えるため、肉厚をできるだけ薄くすることが望ましい。
熱電変換モジュールで発生した電流を真空封止した空間の外へ取り出す際、端子24を用いる。端子24は、たとえば、1本の導線に、セラミックスやガラス等の絶縁材を介して、外周に溶接材を備えたものなどを用いればよい。導線および接合部の材質は、銅やステンレス、ニッケル、Fe-Ni-Co合金等が使われることが多い。電流を取り出すとき、例えばX-Y方向へ取り出すのであれば、小さい端子を使用してもよい。隣にある受熱部材に接触し、電流が漏れることを避けることと、絶縁部材が受熱部材に触れ、熱の逃げを避けるため、加熱源から離れるように電流を取り出すことが好ましい。例えば、端子を冷却部材側の方向に配置しても良い。この場合、具体的には冷却部材に、冷却媒体の流路と干渉しないように端子を溶接し、その端子の先を熱電変換モジュールの電極の終端16と接合することで、発生した電力を大気中へ取り出すことなどが考えられる。
熱電変換モジュールを冷却部材とキャップでz方向に挟み込む際、キャップと熱電変換モジュールの間にセラミックス基板を挟むことで絶縁を保ち、さらにグラファイトシートを挟むことで、密着性を高められるため好ましい。
【0023】
(受熱部材)
図3に受熱部材の外観を示す。
図3の例では、受熱部材のフィン部32は、平板状の平坦面部31の一方の面に垂直に(z方向に)立設されている。ここで、平坦面部とは熱電変換モジュールの高温部に熱を伝えるための平坦面を有していれば良い。例えば、
図3に示すような平板状であっても良く、多少の厚さの変化や、フィン部を構成するための溝等の構造体を有していても良い。平坦面部とフィン部は一体物でも、別々に成形や加工されて圧入等で組み合わせたものでもどちらでも構わない。材質は、熱を伝えやすいものが好ましく、例えば、アルミ、銅、鉄、ステンレス、モリブデン、窒化珪素、窒化アルミ等が挙げられる。フィン部の形状は、流体の粘度や速度、流れの方向に応じて、必ずしも板状(ひれ状)である必要はなく、円柱、角柱、角板、ピン等が挙げられる。
【0024】
(外殻部材)
図4に外殻部材40の外観を示す。形状を分かりやすく示すため、中央断面にハッチングをかけて示す。外殻部材40は形状が筒状で、受熱部材を熱源流体(高温流体)が流れる配管に突き出すために必要である。熱源流体は、熱電変換モジュールの低温側より高温で、温度差を付けられる熱源であればよく、以後、高温流体を用いて説明することもある。外殻部材40は、筒41の高温流体側に受熱部材を取り付ける面を構成できるよう、筒41の軸方向(z方向)の一方側の端部に沿って引っ掛かり部42を備えている。
図4では、引っ掛かり部42として筒状の部材に円環状の部材を取り付けた構成を示しているが、この引っ掛かり部とは、受熱部材の平坦面部の他方の面に垂直な方向から、挟んで支持することができるよう、突出、屈曲等によって、筒の径方向の内向きに設けられた凸部のことを指し、外殻部材の筒の内径が小さくなる方向に傾斜しているような構造でも良い。引っ掛かり部42は、外殻部材40の端面である外面42bと、それに対置された内面42aとを有し、内面42aに、後述する封止部材を挟むための溝43を有する。すなわち、外殻部材が、封止部材が配置される位置に、溝を有する。一方、この外殻部材を配管に取り付ける側の構造としては、例えば、高温流体の流れる主配管に対して取付配管が枝分かれし、その取付配管の先端がフランジの構造となっているとき、筒41の他方側に適合する同サイズのフランジ44を備えていても良い。外殻部材は、高温流体に直接接触するため、耐熱性と強度が必要で、鉄やステンレス等が望ましい。
【0025】
(組立て時の構成)
図5に熱電変換装置を組み立てた時の断面図を示す。外殻部材40は、受熱部材30と、熱電変換モジュール10と、冷却部材20と、を囲うように配置される。ここで、囲うように配置とは、筒の軸方向から上面視したとき、外殻部材の内側に受熱部材や熱電変換モジュール、冷却部材が配置されることである。
このとき引っ掛かり部の端面42bの内側の空間45は、高温流体が流れ込みにくく、また流れたとしても乱流になり、フィン部32が熱を受けにくい。そのため、フィン部32は引っ掛かり部の端面42bより、確実に高温流体側に突き出していることが好ましい。
受熱部材は長期間の使用により損傷や劣化する可能性があるため、外殻部材から容易に分解、交換できることが好ましい。そのための締結方法としては、ボルト締結等が挙げられる。
【0026】
(取付配管との関係)
外殻部材を高温流体が流れる主配管に取り付ける一例として、先に示した取付配管のフランジに取り付ける場合を詳細に説明する。フランジは例えばJIS(日本産業規格)に定められた範囲であれば、いずれの構成に適用しても良い。フランジに本発明の装置を取り付ける際、ガスケットを用いることで、規定の圧力に耐え、気密性を保ちやすいため好ましい。ガスケットは例えば、膨張黒鉛やPTFE材等で作られた軟質ガスケットや、メタルジャケットガスケット等のセミメタルガスケット、金属性のメタルガスケット、織布ガスケット等がある。
取り付け先の配管の一例として、
図6のような形状が挙げられる。すなわち、高温流体が流れる主配管100の側面に、その配管と直交する向きに別の取付配管101が取り付けられており、その取付配管101の端部にフランジ102が取り付けられている構成である。このとき、取付配管101内は、高温流体の流れの淀みになると想定されため、受熱部材は、淀みの領域を避け、その先の主配管100内に突出していることが好ましい。
このことを、
図5を用いて説明する。外殻部材の引っ掛かり部42の全部が、主配管の内壁100aよりも高温流体の流れる主配管内部に突き出し、かつ、フィン部32が引っ掛かり部の端面42bより突き出すことで、フィン部32を高温流体の流れの中に確実に配置する。この構成を、フィン部と、外殻部材の一部と、が熱源流体に突出していると言い換えても良い。
【0027】
(第1の治具)
図7に第1の治具の外観図を示すが、第1の治具の構成はこれに限定されるものではない。第1の治具50は、環状の挟持部51と、環状の挟持部51の軸方向を長手方向とする複数の柱部52と、環状の締結部53とを有する。複数の柱部52は、軸方向(z方向)の一端側と他端側において、それぞれ、環状(
図7では円環状)の挟持部51及び締結部53に対して、回転対称的な位置で配置または接続されていることが好ましい。より好ましくは、周方向に等間隔で配置または接続されていることが好ましい。柱部52の数は3つ以上が好ましい。第1の治具の挟持部51で、受熱部材の平坦面部の端部を、外殻部材の引っ掛かり部との間に、前記受熱部材の平坦面部の他方の面に垂直な方向から挟むことで、受熱部材を支持する。締結部53は外殻部材のフランジに締結する。この時、他の部材との位置関係を考慮して、締結部の寸法や、外面53aなどの位置を設計すれば良い。
【0028】
(第2の治具)
冷却部材を挟んで前記熱電変換モジュールを支持する第2の治具の外観図を
図8に、形状を分かりやすく示すため、中央断面にハッチングをかけて示す。第2の治具の構成はこれに限定されるものではない。第2の治具60は、環状の押圧部61、環状の押圧部61の軸方向を長手方向とする複数の柱部62、環状の締結部63からなる。複数の柱部62は、軸方向(z方向)の一端側と他端側において、それぞれ、環状(
図8では円環状)の押圧部61及び締結部63に対して、回転対称的な位置で配置または接続されていることが好ましい。より好ましくは、周方向に等間隔で配置または接続されていることが好ましい。柱部52の数は3つ以上が好ましい。第2の治具の押圧部は、冷却部材を挟んで、熱電変換モジュールを受熱部材に向かって押圧し、支持する。このとき、冷却部材の設置位置を定めるため、押圧部61に冷却部材20の外形と同一寸法の段付き部64を設け、そこに冷却部材を嵌めても良い。締結部63は外殻部材のフランジ44に締結する。
押圧は、例えば冷却部材が
図2に示したような円柱形の場合、冷媒配管や端子を避けて押圧する。このとき、冷却部材および熱電変換モジュールに、十分な剛性であれば、冷却部材の中央のみを押圧しても良く、弾性変形による押圧荷重のバラツキを考慮して、冷却部材の外周部を押圧しても良い。締結部の内面63aや押圧部65が、第1の治具および第1の治具を外殻部材に締結するためのボルトと干渉することを避けるために、逃げ穴63bや切り欠き65等を設けても良い。
【0029】
(第1の治具から第2の治具への熱損失回避)
受熱部材が受けた熱を、熱電変換モジュールに伝えるために、次の2点の熱損失を抑えることが望ましい。1つ目は受熱部材から第1の治具へ逃げる熱、2つ目は第1の治具から他の部材へ逃げる熱である。
まず1つ目について、第1の治具は、高温環境下で受熱部材を支持できるだけの耐熱性や強度を有する材料として、鉄やステンレス等の金属材料が良いと考えられる。このとき挟持部は、受熱部材から受けた熱を柱部に伝えるか、外気に放つことで逃がしてしまう。これを最小限に抑えるには、挟持部の体積をなるべく減らして貯蔵できる熱容量を少なくし、さらに柱部の断面積をなるべく狭くして、挟持部から熱が移動し難くすることが好ましい。
2つ目について、第1の治具と第2の治具は近接しており、この第2の治具は冷却部材と接していることから温度が低く、第1の治具と比べると温度差が大きい。仮に第1の治具が第2の治具にいずれかの領域で接触すると、その接触領域で大きな熱の移動が生じる。すなわち、第1の治具から見れば、熱が奪われることになるため、熱電変換モジュールの高温側に伝える熱が失われることになる。一方で第2の治具から見れば、熱を受けて水冷部材を温めることになり、熱電変換モジュールの低温面を冷却する能力を減じさせることになる。そのため、第1の治具と第2の治具は、接触する領域を可能な限り小さくすることが好ましく、さらに接触していない、すなわち非接触であることが望ましい。
【0030】
このことを更に詳しく説明する。第1の治具と第2の治具が接する可能性のある部分は、第1の治具の柱部と第2の治具の柱部との間、または第1の治具の締結部と第2の治具の締結部との間である。柱部間の接触を避ける方法として、柱部の本数や太さ、各柱部の中心線を結んだ直径、取り付け角度等を変えても良い。締結部間の接触を避ける方法としては、第2の治具の柱部の長さを調整しても良い。
締結部間の接触を避ける方法について、
図5を用いて説明する。第1の治具の締結部の外面53aと第2の治具の締結部の内面63aの間に隙間110を設けるよう第2の治具の柱を長くする。このとき第1の治具50を外殻部材40に締結するためのボルト501が、第2の治具60に干渉することを避けるため、第2の治具の締結部に逃げ穴63bを設けても良い。また、第2の治具60を外殻部材40に締結するためのボルト601が第1の治具の締結部53に干渉することを避けるため、その締結部の直径をボルト601が接触しない位置まで小さくして良い。
ここで、第1の治具の締結部の外面53aから第2の治具の締結部の内面63aまでの隙間110について、熱膨張率の観点から次のように計算する。計算式はΔL=α(T2-T1)Lを用いる。Lは熱膨張前の部材の長さ(mm)、T2-T1は温度変化(℃)、ΔL(デルタL)は熱膨張量(mm)を表す。例えば第1の治具の柱部と第2の治具の柱部の長さがそれぞれ100mmで、第2の治具は温度変化しないが、第1の治具は300℃温度上昇する場合を考える。材質は鉄またはステンレスの場合、熱膨張係数αは多く見積もっても17.8×10
-6/℃程度であるため、計算結果はΔL=0.54mmとなる。熱膨張による、第1の治具の締結部と第2の治具の締結部との干渉を防ぐため、これ以上の隙間を空けることが好ましい。つまり、上記の例において、隙間110は、柱の長さに対して0.54%程度熱膨張する可能性が考えられ、このことから1%以上にすることが好ましい。一方で、隙間110の上限は、第2の治具の締結ボルト601が長く、その先端が外殻部材のフランジ部に締結する長さが短くなることを防ぎ、熱電発電モジュールを十分に隣接部材に密着させられるため、隙間110は5%以下が好ましい。第1の治具の締結部の外径から第2の治具の締結ボルトまでの距離111も、同様に熱膨張前の長さの1%以上5%以下とすることが好ましい。
以上の構成により、第1の治具が第2の治具と非接触としてもよい。
【0031】
(封止部材)
封止部材について
図5を用いて説明する。封止部材70は、受熱部材の平坦面部31と外殻部材の引っ掛かり部の内面42aとの間から高温流体の漏れを防止するためにこれらの間に挟むように配置される。封止部材には、前述の外殻部材をフランジに取り付ける時と同様、一定の圧力に耐え、気密性を保つことが求められるため、ガスケット、もしくはOリングを使うことが望ましい。特にOリングは断面が円形で隣接する部材と点で接するため、熱移動が少ない。そのため、受熱部材が受けた熱を外殻部材に逃がさないようするためには、Oリングを使用する方が、より好ましい。
Oリングは、耐熱性を考慮して、金属製のメタルOリングで断面は中空が好ましい。材質はステンレスやインコネル、インコロイ等がある。メタルOリングのうち、約7.0MPaを超える高圧な環境で使用する場合は、バランス用の孔を内径側(内圧用)または外径側(外圧用)に備えたものを使用すると尚良い。また、気密性や耐食性を高めるために銀、ニッケル、銅、金等でメッキをしても良い。
メタルOリングを使用する場合、外殻部材の引っ掛かり部の内面に溝43を備えることが好ましい。溝の寸法は特に定めの無い時はJIS(日本産業規格)に準拠するのが一般的である。メタルOリングは、ゴム製より変形しにくいため、気密性を確保するために、Oリングが接する面、すなわちコの字型の溝43の底面と、受熱部材の平坦面部31を平坦にするのが良く、例えば算術平均粗さRaで1.6μm以下とすることが好ましい。これにより、Oリングに与える押し付け力とその反発力で密着させることができる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を説明する。
(熱電変換装置の構成)
熱電変換素子の材料はスクッテルダイト系で、
図1のように素子を32対連結した熱電変換モジュールを使用した。冷却部材は、
図2に示すように、銅製の円筒形の冷却板に水路が形成されたものを使用した。熱電変換モジュールと一体になるよう、ステンレス製のキャップで覆い、キャップの外周を冷却部材と溶接して真空封止した。受熱部材は銅で、
図3に示すように、円板状の平坦面部に板状のフィンを9枚垂直に立てた形状とした。フィン部は平坦面部に貫通しない程度の深さに掘った溝に圧入した。フィン部一枚の板厚は5mm、板の長さは90mm、幅は円の中心を通る板が一番大きく、円の中心から離れるに従って小さくなり、26~69mmとした。外殻部材は、
図4に示すような形状のステンレス製で、肉厚5mmの筒に、板厚6mmの引っ掛かり部を溶接した。引っ掛かり部の溝の底面は、算術平均粗さRaで0.8μmとした。取付配管と外殻部材との間にガスケットを用いた。第1の治具は、
図7に示すような形状で、柱部は4本あり、材質はステンレスとした。第2の治具は、押圧部の材質は鉄とし、柱の数を12本として、その他は
図8と同様の構成とした。第1の治具と第2の治具の柱部は、干渉しないように配置、すなわち非接触とした。この時、第1の治具の柱部52が、第2の治具の押圧部61に干渉するのを避けるため、押圧部に切り欠き65を設けた。また、第1の治具の締結部から第2の治具の締結部までの隙間110は距離2mmとし、第1の治具の締結部から締結ボルト601までの距離111は5mmとした。封止部材は、中空で円形断面の外径がφ2.4mmで、材質が321鋼のメタルOリングを使用した。外殻部材の引っ掛かり部には、JIS規格に則り前記のメタルOリングのサイズに合わせた溝を設けた。
【0033】
(組立て手順)
図9は、熱電変換装置を構成する各部材の組み立て順を分かりやすくするため、分解して一列に並べた図である。組み立ては3段階で行った。第1段階は、外殻部材から第1の治具までの組み立てである。外殻部材40の中に、封止部材70、受熱部材30、第1の治具50の順に配置していき、第1の治具50を外殻部材40にボルト締結することで、これらを一体に拘束した。第2段階は、さらに外殻部材40の筒の中に、熱電モジュール10と冷却部材20を一体化したものを挿入した後、第2の治具60を配置し、第2の治具60を外殻部材40にボルト締結することで、熱電変換装置を組み上げた。第3段階は、配管フランジのフランジにガスケットを介して外殻部材を取り付けた。この時、フィン部と、外殻部材の一部と、が高温流体に突出していた。その後、冷却部材20に水配管を接続し、熱電変換モジュール10に端子を介して電気配線を接続した。
【0034】
(試験条件と結果)
内燃機関の排気を高温流体とする主配管から枝分かれした取付配管に熱電変換装置を設置し、熱電変換モジュールを発電させる試験を行った。高温流体の温度は、293.0℃、340.5℃、387.1℃、443.0℃で、風速および内圧は、温度の上昇に比例して上昇した。K熱電対を4カ所に設置し、それぞれ高温流体の温度、受熱部材のフィン部の中間位置の温度、受熱部材の平坦面部の温度、冷却部材の温度を測定した。水は別置の冷却設備から、設定温度30℃の循環水を流した。試験中、熱電変換モジュールの高温面と低温面の温度を直接測定することはできないため、受熱部材の平坦面部の温度を、熱電変換モジュールの高温面温度と仮定し、冷却部材の温度を熱電変換モジュールの低温面温度と仮定し、これらの温度の差を簡易ΔT(デルタT)として求めた。
結果を
図10に示す。横軸のガス温度(高温流体の温度)に対して、フィン部の温度が非常に近い値を示した。ガス温度を基準にすると、平坦面部への熱損失は約8.5%で、冷却板の温度上昇率は約4.8%であった。その結果、温度差ΔT(デルタT)は、理想値(=ガス温度-冷却設定温度)に比べ約9.6%の損失に抑えられた。冷却板の温度上昇よりも平坦面部の温度低下が大きい原因は、この差分の熱が、外気に放出されたためと推定する。ガス漏れに関しては、封止部材からの漏れは発生しなかった。
これにより、熱電変換モジュールを取り付けたことによる炉内外の圧力差による流体の流出を防止し、かつ、熱源の流体から熱を集めやすく、さらに熱の損失を小さくできた。
【符号の説明】
【0035】
10:熱電変換モジュール
11:P型素子
12:N型素子
13:高温側電極
14:低温側電極
15:絶縁基板
16:電極の終端
20:冷却部材
22:キャップ
23:冷媒配管
24:端子
30:受熱部材
31:平坦面部
32:フィン部
40:外殻部材
41:筒
41a:筒の内壁
42:引っ掛かり部
42a:引っ掛かり部の内面
42b:引っ掛かり部の端面
43:溝
44:フランジ
45:流体淀み空間
50:第1の治具
51:挟持部
52:柱部
53:締結部
53a:締結部の外面
60:第2の治具
61:押圧部
62:柱部
63:締結部
63a:締結部の内面
63b:逃げ穴
64:段付き部
65:切り欠き
70:封止部材
100:主配管
100a:主配管の内壁
101:取付配管
102:フランジ
110:第1の治具の締結部と第2の治具の締結部の隙間
111:第1の治具の締結部から第2の治具を外殻部材に締結するためのボルトまでの距離
501:締結ボルト
601:締結ボルト