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  • 特許-金属回路基板および半導体冷却装置 図1
  • 特許-金属回路基板および半導体冷却装置 図2A
  • 特許-金属回路基板および半導体冷却装置 図2B
  • 特許-金属回路基板および半導体冷却装置 図2C
  • 特許-金属回路基板および半導体冷却装置 図3
  • 特許-金属回路基板および半導体冷却装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】金属回路基板および半導体冷却装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20241119BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20241119BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
H01L23/36 C
H01L23/12 J
H05K7/20 F
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020171635
(22)【出願日】2020-10-12
(65)【公開番号】P2022063389
(43)【公開日】2022-04-22
【審査請求日】2023-08-03
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】小野 孝彦
【審査官】清水 稔
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-114010(JP,A)
【文献】特開2010-082899(JP,A)
【文献】特開2005-276962(JP,A)
【文献】特開2000-001652(JP,A)
【文献】特開2012-222000(JP,A)
【文献】特開2011-054607(JP,A)
【文献】特開2019-071328(JP,A)
【文献】特開2014-241340(JP,A)
【文献】特開昭60-245153(JP,A)
【文献】米国特許第06451448(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
H01L 23/12
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属回路基板と、前記金属回路基板の金属板の第2の面側に接合された絶縁部材と、前記絶縁部材の金属回路基板とは反対側の面に接合された放熱部材とを備えた半導体冷却装置であって、
前記金属回路基板は、金属板が、半導体素子を搭載する第1の面と、前記第1の面に対向する第2の面と、前記第1の面および第2の面を除く側面とを有し、
前記金属板の側面および/または第2の面が絶縁性コーティング層で覆われており、
前記絶縁性コーティング層が樹脂からなることを特徴とする半導体冷却装置
【請求項2】
前記金属回路基板は、前記金属板の側面および第2の面の両方が絶縁性コーティング層で覆われている請求項1に記載の半導体冷却装置
【請求項3】
前記金属回路基板は、前記金属板の側面を覆う絶縁性コーティング層の厚さt1と、該金属板の側面の表面粗さRz1とが、Rz1≦t1の関係を満たしている請求項1または2に記載の半導体冷却装置
【請求項4】
前記金属回路基板は、前記金属板の第2の面を覆う絶縁性コーティング層の厚さt2と、該金属板の第2の面の表面粗さRz2とが、Rz2≦t2≦3Rz2の関係を満たしている請求項1~3のいずれかに記載の半導体冷却装置
【請求項5】
前記金属回路基板は、前記絶縁性コーティング層が金属板の側面の表面形態に追従する表面形態である請求項1~4のいずれかに記載の半導体冷却装置
【請求項6】
前記金属回路基板は、前記絶縁性コーティング層がフラットな表面形態である請求項1~4のいずれかに記載の半導体冷却装置
【請求項7】
前記絶縁部材が接着性絶縁樹脂シートの硬化物である請求項1~6のいずれかに記載の半導体冷却装置。
【請求項8】
前記金属回路基板の絶縁性コーティング層の比誘電率が前記絶縁部材の比誘電率よりも大きい請求項1~7のいずれかに記載の半導体冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子を搭載する金属回路基板、および金属回路基板を用いた半導体冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属回路基板は、搭載した半導体素子が発生する熱を放出するために、金属製放熱部材を備えた半導体冷却装置として使用される。半導体冷却装置では、金属回路基板と放熱部材の間は電気的な絶縁性が保持されている必要があるため、両者の間に熱伝導率の高い絶縁部材が配置される。近年、この種の半導体冷却装置は動作電圧が高くなる傾向がある。動作電圧が高くなると金属回路基板と絶縁部材間で部分放電が発生して絶縁部材が劣化する懸念も大きくなり、半導体冷却装置における耐電圧性の向上が求められている。特に、側面にバリが突出していると、局所的な電界集中による絶縁破壊が生じ易くなる。
【0003】
特許文献1においては、絶縁部材上に耐電圧性の信頼性を高めるために導体層を設けるとともに、放熱部材上の絶縁部材、導体層、金属回路基板および半導体素子を樹脂で封止した半導体装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6536129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された封止材は、エポキシ樹脂等の主剤に硬化剤と無機フィラーを配合した樹脂組成物であり、封止方法としてトランスファーモールドやポッティングなどの手法を用いている。しかし、無機フィラーを配合した封止材は流動性が悪いために、金属回路基板の側面や底面の金属バリの隙間や加工による凹凸に十分に充填されず、ボイドが発生する可能性が高い。このため、絶縁信頼性を十分に向上させることができない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した技術背景に鑑み、金属回路基板の表面に存在するバリに対して確実に絶縁信頼性を向上させることができる金属回路基板、および金属回路基板を用いた半導体冷却装置を目的とする。
【0007】
即ち、本発明は下記[1]~[10]に記載の構成を有する。
【0008】
[1]金属板が、半導体素子を搭載する第1の面と、前記第1の面に対向する第2の面と、前記第1の面および第2の面を除く側面とを有し、
前記金属板の側面および/または第2の面が絶縁性コーティング層で覆われていることを特徴とする金属回路基板。
【0009】
[2]前記金属板の側面および第2の面の両方が絶縁性コーティング層で覆われている前項1に記載の金属回路基板。
【0010】
[3]前記絶縁性コーティング層が樹脂またはセラミックスからなる前項1または2に記載の金属回路基板。
【0011】
[4]前記金属板の側面を覆う絶縁性コーティング層の厚さt1と、該金属板の側面の表面粗さRz1とが、Rz1≦t1の関係を満たしている前項1~3のいずれかに記載の金属回路基板。
【0012】
[5]前記金属板の第2の面を覆う絶縁性コーティング層の厚さt2と、該金属板の第2の面の表面粗さRz2とが、Rz2≦t2≦3Rz2の関係を満たしている前項1~4のいずれかに記載の金属回路基板。
【0013】
[6]前記絶縁性コーティング層が金属板の側面の表面形態に追従する表面形態である前項1~5のいずれかに記載の金属回路基板。
【0014】
[7]前記絶縁性コーティング層がフラットな表面形態である前項1~5のいずれかに記載の金属回路基板。
【0015】
[8]前項1~7のいずれかに記載の金属回路基板と、前記金属回路基板の金属板の第2の面側に接合された絶縁部材と、前記絶縁部材の金属回路基板とは反対側の面に接合された放熱部材とを備えることを特徴とする半導体冷却装置。
【0016】
[9]前記絶縁部材が接着性絶縁樹脂シートの硬化物である前項8に記載の半導体冷却装置。
【0017】
[10]前記金属回路基板の絶縁性コーティング層の比誘電率が前記絶縁部材の比誘電率よりも大きい前項8または9に記載の半導体冷却装置。
【発明の効果】
【0018】
上記[1]に記載の金属回路基板においては、金属板の絶縁性コーティング層で覆われた面はバリが絶縁性コーティング層中に埋没している。このため、前記金属回路基板、絶縁部材、金属製放熱部材を積層した半導体冷却装置における絶縁信頼性を向上させることができる。即ち、前記金属板の側面においては、バリの先端の電界集中を規制し、絶縁破壊を防ぐことによって絶縁信頼性を向上させることができる。また、前記金属板の第2の面においては、バリの絶縁部材への食い込みを防ぐことによって絶縁信頼性を向上させることができる。
【0019】
上記[2]に記載の金属回路基板によれば、側面および第2の面の両方の面において絶縁信頼性向上効果を得ることができる。
【0020】
上記[3][4][5][6]に記載の各金属回路基板によれば、なお一層絶縁信頼性を向上させることができる。
【0021】
上記[6]に記載の金属回路基板によれば、側面のバリの先端まで他の部位と同等の厚さの絶縁材料で覆い、バリの先端を確実に埋没させることができる。ひいては、絶縁信頼性を確実に向上させることができる。
【0022】
上記[7]に記載の金属回路基板によれば、側面および第2の面のバリや微細な凹凸を絶縁性コーティング層で覆うことができるので、絶縁信頼性を確実に向上させることができる。表面がフラットな絶縁性コーティング層はウエットプロセスにより作製することができる。
【0023】
上記[8]に記載の半導体冷却装置によれば、上述した金属回路基板による各効果が得られる。
【0024】
上記[9]に記載の半導体冷却装置によれば、接着性絶縁樹脂シートを200℃以下の比較的低温で作製できるので、製品の反り、歪みを抑制できる。
【0025】
上記[10]に記載の半導体冷却装置によれば、なお一層絶縁信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の金属回路基板を用いた半導体冷却装置の斜視図である。
図2A】金属回路基板の一実施形態の断面図である。
図2B】金属回路基板の別の実施形態の断面図である。
図2C】金属回路基板のさらに別の実施形態の断面図である。
図3図2Bの部分拡大図である。
図4】金属回路基板のさらに別の実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は本発明の金属回路基板を用いた半導体冷却装置の一実施形態である。
【0028】
半導体冷却装置1は、金属回路基板10A、10B、10Cと、絶縁部材20と、放熱部材21とを備え、これらの部材が積層状態に接合されている。前記半導体冷却装置1は金属回路基板10A、10B、10Cの第1の面に搭載した半導体素子2が発する熱を放熱部材21に排熱する構造である。
【0029】
図2A図2Bおよび図2Cに示すように、前記金属回路基板10A、10B、10Cは金属板11と絶縁性コーティング層12a、12bとによって構成されている。前記金属板11は、半導体素子2を搭載する面を第1の面11a、前記第1の面11aに対向する面を第2の面11b、前記第1の面11aおよび第2の面11b以外の面を側面11cとする。前記金属板11の第1の面11aおよび第2の面11bは金属回路基板10A、10B、10Cの第1面および第2の面でもあり、金属回路基板10A、10B、10Cの第2の面側に絶縁部材20が接合されている。
【0030】
本発明の金属回路基板10A、10B、10Cは、金属板11の側面11cおよび/または第2の面11bが絶縁性コーティング層12a、12bで覆われている。即ち、半導体素子2を搭載する第1の面11aを除く面の少なくともいずれかの面が絶縁性コーティング層12a、12bで覆われている。図2Aの金属回路基板10Aは金属板11の側面11cのみが絶縁性コーティング層12aに覆われている。図2Bの金属回路基板10Bは金属板11の側面11cが絶縁性コーティング層12aで覆われ、第2の面11bが絶縁性コーティング層12bで覆われている。図2Cの金属回路基板10Cは金属板11の第2の面11bのみが絶縁性コーティング層12bで覆われている。
【0031】
前記金属板11は加工時に表面に微細なバリが発生することがある。また、バリ以外にも素材固有の微細な凹凸がある。前記金属回路基板10A、10B、10Cは、金属板11の側面11cおよび/または第2の面11bが絶縁性コーティング層12a、12bに覆われて、バリ(微細な凸部を含む)13が絶縁性コーティング層12a、12b中に埋没している。空気は電気が通りやすいので、金属板11の側面11cからバリ13が突出しているとバリ13の先端の電界集中による絶縁破壊が起こり易くなるが、側面11cを絶縁性コーティング層12aで覆うことによって電界集中を規制し、絶縁破壊を防いで絶縁信頼性を高めることができる。また、金属板11の第2の面11bからバリ13が突出していると、バリ13が絶縁部材20に食い込んで絶縁部材20の絶縁性能を低下させるおそれがあるが、第2の面11bを絶縁性コーティング層12bで覆ってバリの絶縁部材20への食い込みを防ぐことによって絶縁信頼性を高めることができる(図2B参照)。
【0032】
前記絶縁性コーティング層12a、12b構成する絶縁性材料として、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、光硬化性樹脂、ゴム、セラミックス等を用いることができる。また、前記絶縁性コーティング層12a、12bは半導体冷却装置1の絶縁部材20よりも比誘電率の大きい材料を用いることが好ましく、絶縁信頼性をさらに向上させることができる。前記絶縁性コーティング層12a、12bの比誘電率は5.0~1000が好ましく、絶縁部材20の比誘電率は1.0~3.0が好ましい。
【0033】
前記熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ビスマレイミド樹脂、およびアクリル樹脂等を例示できる。
【0034】
前記熱可塑性樹脂として、ポリオレフィン、塩化ビニル樹脂、メタクリル酸メチル樹脂、ナイロン、フッ素樹脂等を例示できる。
【0035】
前記ゴムとして、アクリルゴム、ニトリルゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、ブチルゴム、シリコンゴム等を例示できる。
【0036】
前記セラミックスとして、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化セリウム、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、酸化チタン、ダイヤモンドライクカーボン等の無機化合物の粉体を例示できる。
【0037】
上述した絶縁性材料のなかでも、比誘電率の高い金属酸化物が好ましく、さらに酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウムなどのチタン酸系の材料を推奨できる。これらのチタン酸系のコーティング材料は加熱により金属酸化物になりボイドやクラックのない緻密なコーティング層をつくることができる。
【0038】
絶縁性コーティング層の形成方法は限定されないが、例えば以下の方法で形成することができる。熱硬化性樹脂の場合は、主剤樹脂に硬化剤を加え、さらに溶剤を加えて流動性を有する樹脂組成物を調製し、この樹脂組成物を金属板11に塗布し、エージングして硬化させる。熱可塑性樹脂の場合は、溶剤を加えて流動性を有する樹脂組成物を調製し、この樹脂組成物を金属板11に塗布し、その後溶剤を除去する。ゴムの場合はゴムを形成するモノマー成分の他に加硫材、溶剤を適宜加えて流動性を有するゴム前駆体組成物を調整し、この組成物を金属板11に塗布し、エージングして硬化させる。
セラミックスの場合は、樹脂や加熱によりセラミックス層を形成する上述した無機化合物を含む粘度の低い前駆体コーティング材を調製し、この前駆体コーティング材を塗工した後に溶媒乾燥、熱分解の工程を経て絶縁層を形成する。
【0039】
上述した樹脂、ゴムおよび前駆体コーティング材のコーティング材料は流動性が高くて金属板11の側面11cおよび/または第2の面11bとバリ13の間の僅かな隙間にも充填され、ボイドを発生することなくバリ13を絶縁性コーティング層12a、12b中に埋没させて完全に覆うことができる。そして、バリ13を完全に覆うことでバリ13に起因する絶縁破壊を防止することができる。特許文献1に参照されるように、半導体素子を含む放熱部材上の全ての部材を封止する場合は、硬化後の封止材に機械的強度が要求されるために大量の無機フィラーを含有させる必要があり、必然的に封止材の流動性が低下する。一方、金属板11の側面11cおよび/または第2の面11bをバリ13が埋没する程度の厚さ絶縁性コーティング層12a、12bで被覆する場合は、高い機械的強度を必要としないので大量の無機フィラーを含有させる必要がなく、流動性の高いコーティング材料を選択できる。
【0040】
また、金属板11の側面11cの絶縁性コーティング層12aは半導体冷却装置1の放熱部材21上の全ての部材を機械強度の高い材料で封止する場合においても有用である。側面11cとバリ13との僅かな隙間は既に絶縁性コーティング層12aで埋め尽くされており、流動性の低い封止材を狭い隙間に入り込ませる必要がないので、流動性が低くても機械的強度の高い封止材を選択できるからである。
(絶縁性コーティング層の厚み)
図3に金属回路基板10Bの部分拡大図を示す。
【0041】
前記金属板11の側面11cの表面粗さ(最大高さ)をRz1とし、側面11cを覆う絶縁性コーティング層12aの厚みをt1とする。前記側面11cの表面粗さRz1と絶縁性コーティング層12aの厚みt1は、Rz1≦t1の関係を満たしていることが好ましい。この関係はバリ13が先端まで完全に絶縁性コーティング層12aに埋没している状態を示しており、絶縁信頼性向上効果が大きい。Rz1>t1はバリ13の先端が絶縁性コーティング層12aの表面から飛び出した状態であるから、絶縁信頼性向上効果が少ない。絶縁性コーティング層12aの特に好ましい厚さt1はRz1の3倍以上である。また、絶縁性コーティング層12aの厚さt1の上限値に特段の定めはない。
【0042】
前記金属板11の第2の面11bの表面粗さ(最大高さ)をRz2とし、第2の面11bを覆う絶縁性コーティング層12bの厚みをt2とする。前記第2の面11bの表面粗さRz2と絶縁性コーティング層12bの厚みt2は、Rz2≦t2≦3Rz2の関係を満たしていることが好ましい。厚みt2の下限値が表面粗さRz2であることの理由は、側面11cと同じく、バリ13が先端まで完全に絶縁性コーティング層12bに埋没させて絶縁信頼性を向上させることである。一方、絶縁性コーティング層12bの厚みt2に上限値を設定するのは、第2の面11bが放熱部材21への熱移動路となるので、絶縁性コーティング層12bが熱移動の妨げとなって厚くなるほど冷却性能が低下するためである。前記厚みt2が表面粗さRz2の3倍以下であれば、冷却性能を維持することができる。特に好ましい厚さt2は表面粗さRz2の1倍~3倍である。
【0043】
図3は、図2Bの金属板11の側面11cと第2の面11bの両方の面が絶縁性コーティング層12a、12bで覆われた金属回路基板10Bであるが、どちらか一方の面のみに絶縁性コーティング層12a、12bを形成する場合(図2A図2C参照)も、厚さt1、t2の好適範囲は同じである。
(絶縁性コーティング層の表面形態および形成方法)
図4および図2Bは金属板11の側面11cを覆う絶縁性コーティング層12c、12aの2種類の表面形態形を示している。
【0044】
図4の絶縁性コーティング層12cは側面11cの表面形態に追従してバリ13の部分が突出する表面形態であり、絶縁性コーティング層12cの厚みが略一定である。前記バリ13は先端まで他の部位と同じ厚さの絶縁材料で覆われ、バリ13を絶縁性コーティング層12cに確実に埋没させることができる。ひいては、絶縁信頼性を確実に向上させることができる。このような表面形態の絶縁性コーティング層12cはドライプロセスで製膜することにより得られる。ドライプロセスとは、PVD、CVD、蒸着、電子ビーム堆積など化学種をイオン化、ラジカル化、ガス化、単分子化したものを製膜する方法である。
【0045】
一方、図2Bの絶縁性コーティング層12aはフラットな表面形態であり、バリ13を覆う部分は他の部分よりも厚みが薄くなっている。この表面形態の絶縁性コーティング層12aには、金属バリや金属回路基板側面の微細な凹凸に対しても絶縁層で被覆するというメリットがある。また、このような表面形態はウエットプロセスで製膜することにより得られる。ウエットプロセスとはディッピング、スピンキャスト、スプレーパイロリシスディスペンサ塗布を単独もしくは組み合わせた方法である。
【0046】
前記金属板11の側面11cの絶縁性コーティング層の表面形態は上記2種類のどちらでも良い。しかし、第2の面11bの絶縁性コーティング層は、絶縁部材20との接合性を考慮してフラットな表面形態であることが望ましい。
(半導体冷却装置)
本発明の半導体冷却装置1は、図1に示すように、上述の金属回路基板10A、10B、10Cと、前記金属回路基板10A、10B、10Cの第2の面側に接合された絶縁部材20と、前記絶縁部材20の前記金属回路基板10A、10B、10Cとは反対側の面に接合された放熱部材21とを備えている。
【0047】
前記絶縁部材20は樹脂、セラミックス等の任意の絶縁性材料で構成することができ、接着性絶縁樹脂シートの硬化物を推奨できる。接着性絶縁樹脂シートは200℃以下の比較的低温で作製できるため、製品の反り、歪みを抑制できる。
【0048】
また、前記金属回路基板10A、10B、10Cの絶縁性コーティング層12a、12bの比誘電率は前記絶縁部材20の比誘電率よりも大きくなるように設計することが好ましい。
【0049】
前記放熱部材21はアルミニウムや銅等の熱伝導性の良い任意の材料で構成することができる。また、液冷式、空冷式等の冷却方式も限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の金属回路基板は金属製放熱部材を備えた半導体冷却装置に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0051】
1…半導体冷却装置
2…半導体素子
10A、10B、10C…金属回路基板
11…金属板
11a…第1の面
11b…第2の面
11c…側面
12a,12b,12c…絶縁性コーティング層
13…バリ
20…絶縁部材
21…放熱部材
t1…側面の絶縁性コーティング層の厚さ
t2…第2の面の絶縁性コーティング層の厚さ
Rz1…側面の表面粗さ
Rz2…第2の面の表面粗さ
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4