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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】トナー
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/09 20060101AFI20241119BHJP
   G03G 9/087 20060101ALI20241119BHJP
   G03G 9/097 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
G03G9/09
G03G9/087 325
G03G9/097 365
G03G9/097 344
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020198552
(22)【出願日】2020-11-30
(65)【公開番号】P2022086504
(43)【公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】赤▲崎▼ 浩二朗
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/090537(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/045664(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/070870(WO,A1)
【文献】特開2004-151638(JP,A)
【文献】特開2015-045850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08-9/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂、着色剤、軟化剤及び帯電制御剤を含む着色樹脂粒子、並びに外添剤を含有するトナーであって、
前記着色剤がC.I.ピグメントブルー15:3及びC.I.ピグメントブルー15:4から選ばれる少なくとも1種を含むシアン着色剤、又は、C.I.ピグメントレッド122及びC.I.ピグメントバイオレット19から選ばれる少なくとも1種を含むマゼンタ着色剤であり、
前記結着樹脂が、少なくともモノビニル単量体を含む重合性単量体の重合体を含有し、前記重合性単量体において架橋性の重合性単量体の含有量がモノビニル単量体100質量部に対して0.05質量部以下であり、
前記重合体の重量平均分子量が4.85×10 以上1.00×10 以下であり、
測定周波数24Hzでの動的粘弾性測定により得られるトナーの損失正接(tanδ)の温度依存性曲線から特定されるガラス転移温度(Tg1)が70℃<Tg1(℃)を満たし、
前記損失正接(tanδ)の温度依存性曲線において、45℃における損失正接(tanδ)をtanδ(45℃)、前記ガラス転移温度(Tg1)における損失正接(tanδ)をtanδ(Tg)としたときに、
式(1):5.00×10-2<(tanδ(Tg)-tanδ(45℃))/(Tg-45)<7.60×10-2
を満たし、
高速示差走査熱量計を用いた示差走査熱量測定により得られる、昇温速度1000K/秒で昇温時のトナーの、みかけガラス転移温度(Tg2)が68℃~74℃であり、降温速度1000K/秒で降温時のトナーの発熱開始温度が50℃~62℃であることを特徴とするトナー。
【請求項2】
測定周波数24Hzでの動的粘弾性測定により得られるトナーの損失正接(tanδ)の温度依存性曲線において、100℃における損失正接(tanδ)をtanδ(100℃)、130℃における損失正接(tanδ)をtanδ(130℃)としたときに、
式(2):2.1×10-3<(tanδ(130℃)-tanδ(100℃))/30<4.4×10-2
を満たす、請求項1に記載のトナー。
【請求項3】
フローテスターにて、圧力5.0kgf/cmの条件で測定される1/2法における軟化温度(T1/2)が、124℃超過159℃未満である、請求項1又は2に記載のトナー。
【請求項4】
前記ガラス転移温度(Tg1)における損失正接(tanδ)が2.410未満である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のトナー。
【請求項5】
前記損失正接(tanδ)の温度依存性曲線において、100℃における損失正接(tanδ)が0.900以上1.400以下であり、130℃における損失正接(tanδ)が1.000以上2.500以下である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のトナー。
【請求項6】
前記結着樹脂が、スチレン、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種のモノビニル単量体を含む1種又は2種以上の重合性単量体の重合体を含有する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真法、静電記録法、及び静電印刷法等において静電潜像を現像するために用いられるトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置、静電記録装置、及び静電印刷装置等の画像形成装置においては、感光体上に形成される静電潜像をトナーで現像し、トナー像を紙等の転写材上に転写した後、加熱等により定着することで、定着画像が形成される。
このような画像形成装置においては、高画質化及び高速印刷化に対応するものが望まれており、高画質な画像を形成できるトナーが求められている。近年では、結着樹脂又はトナーの粘弾性に着目したトナーの開発が試みられている。
【0003】
例えば特許文献1には、トナーに含まれる結着樹脂として、ガラス転移温度(Tg)から損失弾性率(G”)がG”=1×10Paになる温度の間に、該結着樹脂のtanδの極小が存在し、そのtanδの極小値が1.2未満であり、そのtanδの極小における温度での貯蔵弾性率(G’)がG’=5×10Pa以上であり、且つ、G”=1×10Paになる温度でのtanδの値が3.0以上であるポリエステル樹脂を用いることが開示されている。
【0004】
特許文献2には、体積平均粒径が1μm以下の耐磨耗性添加剤を分散した表面層を有する定着部材と、動的粘弾性温度依存性測定において、tanδのピークが40℃以上70℃以下の範囲に存在し、かつ、該ピーク値が2.0未満であるトナーとを組み合わせて用いる画像形成方法が開示されている。特許文献2には、該ピーク値を2.0未満に制御する方法として、非晶性ポリエステル樹脂をトナーの結着樹脂として用い、更にトナー中に粒径0.1μm以下の微粒子を分散させる方法と、結晶性ポリエステル樹脂と非晶性ポリエステル樹脂とを組み合わせてトナーの結着樹脂として用いる方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、結着樹脂、着色剤、離型剤、及び電荷制御剤を含有し、前記離型剤は、極性基を有するワックスを含み、周波数10kHz、せん断応力500Paで粘弾性測定装置により測定される、80~145℃におけるtanδの値が1~2であり、温度-tanδ曲線において180℃以下に破断点が観測される、静電荷像現像用トナーが開示されている。特許文献3には、結着樹脂としてポリエステル樹脂を用いることが好ましい旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-194542号公報
【文献】特開2009-151005号公報
【文献】特開2013-88503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、高画質な画像を形成できるトナーにおいては、低温定着性と保存性の両方がバランス良く優れていることが求められるものの、従来の結着樹脂又はトナーの粘弾性を調整する手法では、トナーの低温定着性と保存性の両方をバランス良く向上させることが困難であった。
また、低温定着性を向上させたトナーは、高温放置後に現像ローラから噴き出しやすくなる傾向があり、低温定着性に優れながら、保存性が良好で、高温放置後の噴き出しの発生を抑制できるトナーが求められていた。
本開示の目的は、低温定着性と保存性のバランスに優れ、高温放置後の噴き出しの発生を抑制できるトナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記目的を達成すべく鋭意検討したところ、定着時と同等の高速の昇温速度で測定したみかけガラス転移温度と高速の降温速度で測定した発熱開始温度を用いると、定着性のような急速に加熱、冷却される現象に対して、トナーの組成物中で各成分が共存して相互作用を受けた状態での挙動を間接的に評価できることを見出した。更に、本発明者は、効率的にトナーの低温定着性を向上し、且つ保管時のブロッキングを抑制することができるトナーの粘弾性特性があることを見出し、本開示に至った。
【0009】
すなわち、本開示のトナーは、結着樹脂、着色剤、軟化剤及び帯電制御剤を含む着色樹脂粒子、並びに外添剤を含有するトナーであって、
測定周波数24Hzでの動的粘弾性測定により得られるトナーの損失正接(tanδ)の温度依存性曲線から特定されるガラス転移温度(Tg1)が45℃<Tg1(℃)を満たし、
前記損失正接(tanδ)の温度依存性曲線において、45℃における損失正接(tanδ)をtanδ(45℃)、前記ガラス転移温度(Tg1)における損失正接(tanδ)をtanδ(Tg)としたときに、
式(1):5.00×10-2<(tanδ(Tg)-tanδ(45℃))/(Tg-45)<7.60×10-2
を満たし、
高速示差走査熱量計を用いた示差走査熱量測定により得られる、昇温速度1000K/秒で昇温時のトナーの、みかけガラス転移温度(Tg2)が68℃~74℃であり、降温速度1000K/秒で降温時のトナーの発熱開始温度が50℃~62℃であることを特徴とする。
【0010】
本開示においては、測定周波数24Hzでの動的粘弾性測定により得られるトナーの損失正接(tanδ)の温度依存性曲線において、100℃における損失正接(tanδ)をtanδ(100℃)、130℃における損失正接(tanδ)をtanδ(130℃)としたときに、
式(2):2.1×10-3<(tanδ(130℃)-tanδ(100℃))/30<4.4×10-2
を満たすものであってもよい。
【0011】
本開示においては、フローテスターにて、圧力5.0kgf/cmの条件で測定される1/2法における軟化温度(T1/2)が、124℃超過159℃未満であってもよい。
【0012】
本開示においては、前記ガラス転移温度(Tg)における損失正接(tanδ)が2.410未満であってもよい。
【0013】
本開示においては、前記損失正接(tanδ)の温度依存性曲線において、100℃における損失正接(tanδ)が0.900以上1.400以下であってもよく、130℃における損失正接(tanδ)が1.000以上2.500以下であってもよい。
【0014】
本開示においては、前記結着樹脂が、スチレン、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種のモノビニル単量体を含む1種又は2種以上の重合性単量体の重合体を含有してもよい。
【0015】
本開示においては、前記結着樹脂が含有する重合体の重量平均分子量が2.00×10以上1.00×10以下であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、低温定着性と保存性のバランスに優れ、高温放置後の噴き出しの発生を抑制できるトナーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、高速示差走査熱量測定における昇温時のトナーのみかけガラス転移温度(Tg2)と、降温時のトナーの発熱開始温度の求め方を示す図である。
図2図2は、実施例1のトナーの損失正接(tanδ)の温度依存性曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示のトナーは、結着樹脂、着色剤、軟化剤及び帯電制御剤を含む着色樹脂粒子、並びに外添剤を含有するトナーであって、
測定周波数24Hzでの動的粘弾性測定により得られるトナーの損失正接(tanδ)の温度依存性曲線から特定されるガラス転移温度(Tg1)が45℃<Tg1(℃)を満たし、
前記損失正接(tanδ)の温度依存性曲線において、45℃における損失正接(tanδ)をtanδ(45℃)、前記ガラス転移温度(Tg1)における損失正接(tanδ)をtanδ(Tg)としたときに、
式(1):5.00×10-2<(tanδ(Tg)-tanδ(45℃))/(Tg-45)<7.60×10-2
を満たし、
高速示差走査熱量計を用いた示差走査熱量測定により得られる、昇温速度1000K/秒で昇温時のトナーの、みかけガラス転移温度(Tg2)が68℃~74℃であり、降温速度1000K/秒で降温時のトナーの発熱開始温度が50℃~62℃であることを特徴とする。
【0019】
本開示のトナーは、前記高速示差走査熱量測定において特定のみかけガラス転移温度(Tg2)と特定の発熱開始温度の範囲を満たす特定の熱特性を有し、且つ、前記損失正接(tanδ)の温度依存性曲線において前記式(1)を満たす特定の粘弾性を有することにより、低温定着性及び保存性の両方がバランス良く向上され、高温放置後の噴き出しが抑制されたトナーであり、従来実現が困難であった優れた性能を有するトナーである。
以下、本開示のトナーの熱特性、粘弾性特性、本開示のトナーに使用される着色樹脂粒子の製造方法及び着色樹脂粒子、本開示のトナーに使用される外添剤、並びに、本開示のトナーの性能について、順に説明する。
なお、本開示において、数値範囲における「~」とは、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0020】
1.トナーの熱特性
本開示のトナーは、高速示差走査熱量計を用いた示差走査熱量測定により得られる、昇温速度1000K/秒で昇温時のトナーの、みかけガラス転移温度(Tg2)が68℃~74℃であり、降温速度1000K/秒で降温時のトナーの発熱開始温度が50℃~62℃である。
【0021】
本開示において、前記高速示差走査熱量計を用いた示差走査熱量測定(DSC)は、超高速DSC装置(メトラー・トレド社製、Flash DSC)を用いて、下記(1)~(5)の温度条件にて行うことができる。
(1)0℃で0.1秒保持する
(2)0℃から150℃まで1000K/秒で昇温する
(3)150℃で60秒保持する。
(4)150℃から0℃まで-1000K/秒で降温する。
(5)0℃で1秒保持する。
【0022】
図1に、高速示差走査熱量測定における昇温速度1000K/秒で昇温時のトナーのみかけガラス転移温度(Tg2)と、降温速度1000K/秒で降温時のトナーの発熱開始温度の求め方を示す。
みかけガラス転移温度(Tg2)は、昇温時のDSC曲線において、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分、もしくはエンタルピー緩和による吸熱ピークの曲線のこう配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度とする。
また、発熱開始温度は、降温時のDSC曲線において、曲線がそれまでのベースラインから離れて発熱ピークが生じる際の、発熱が開始される温度とする。
【0023】
本発明者は、定着時と同等の1000K/秒という高速の昇温及び降温速度で測定したみかけガラス転移温度と発熱開始温度を用いると、定着性のような急速に加熱、冷却される現象に対して、トナーの組成物中で各成分が共存して相互作用を受けた状態での挙動を間接的に評価でき、トナーの低温定着性を制御できることを見出した。
通常のDSC測定のように10K/秒のような低速昇温では、非晶成分を含む半結晶性試料は、昇温途中で再組織化、再結晶化が生じてピークとして現れることがあり、ガラス転移温度に上記に由来するピークがかぶると、正確な温度の見極めが難しくなる。それに対して、1000K/秒という高速昇温では、再結晶化等の時間的猶予を与えないため、定着時の加熱時のふるまいをそのまま再現できると考えられる。1000K/秒という高速昇温では、単純な吸熱挙動となるため、複数のピークが1つになりやすく、定着時の相転移が見かけ上単純化される。
また、通常のDSC測定のように10K/秒のような低速降温では、樹脂のような非晶成分と軟化剤のような結晶性成分は、相溶状態からゆっくり相分離するため、結晶性成分の結晶化の始まる温度は、非晶性成分の影響を受けにくいものと考えられる。それに対して、1000K/秒という高速降温では、樹脂のような非晶成分と軟化剤のような結晶性成分は、相溶状態から急激に冷却するため、相分離する間もなく、つまり互いに干渉しあいながら結晶性成分の結晶化が生じると考えられる。定着時と同等の1000K/秒という高速の降温速度で測定した発熱開始温度の高低のトナー間の順序は、10K/秒のような低速降温で測定した発熱開始温度の高低のトナー間の順序と変わる場合もあることがわかった。定着時と同等の1000K/秒という高速の降温速度で測定した発熱開始温度は、定着時のトナー中の結晶性成分が周囲の非晶成分の影響を受けた状態で結晶化の始まる温度を評価できると考えられる。
【0024】
昇温速度1000K/秒で昇温時のトナーの、みかけガラス転移温度(Tg2)が68℃~74℃であり、且つ、降温速度1000K/秒で降温時のトナーの発熱開始温度が50℃~62℃であるトナーは、低温定着性に優れながら、保存性が良好で、高温放置後の噴き出しの発生を抑制できる。
前記特定の範囲内のように発熱開始温度が低いことは、定着プロセスにおいて、加温しトナーを溶融させた後、急速に冷却されるタイミングにおいて、溶融した結着樹脂の流動性が維持され、同時に軟化剤の結晶化が遅いことを意味しており、トナーが紙面上に広がり、定着性を良化させやすいと考えられる。
みかけガラス転移温度(Tg2)や発熱開始温度の上限値以下であることにより、低温定着性が良好になる。また、前記特定の範囲よりもみかけガラス転移温度(Tg2)や発熱開始温度が下限値以上であることにより、保存性の悪化が抑制され、高温放置後の噴き出しの発生を抑制できる。
【0025】
前記特定のみかけガラス転移温度(Tg2)や発熱開始温度の範囲を満たす熱特性を有するトナーを得るために、例えば、トナーが含有する結着樹脂の組成、分子量及び含有量、着色剤の種類及び含有量、帯電制御剤のガラス転移温度(Tg)及び含有量、軟化剤の種類及び分子量、並びに外添剤の種類及び含有量等を適宜変更することにより、トナーの熱特性を制御することができる。中でも、結着樹脂の分子量及び組成、並びに着色剤の種類及び含有量等を調整することが有効である。より具体的には、後述する各成分の好ましい形態を採用することにより、前記特定のみかけガラス転移温度(Tg2)や発熱開始温度の範囲を満たすようにすることができる。
【0026】
中でも、定着温度の上昇が抑制されやすい点から、前記みかけガラス転移温度(Tg2)の上限値は、73℃以下であることが好ましく、72℃以下であることがより好ましい。
また、トナーの保管時におけるブロッキングが抑制されやすく、保存性を向上しやすく、高温放置後の噴き出しの発生を抑制しやすい点から、前記発熱開始温度の下限値は、52℃以上であることが好ましく、54℃以上であることがより好ましい。一方、定着温度の上昇が抑制されやすい点から、前記発熱開始温度の上限値は、60℃以下であることが好ましく、58℃以下であることがより好ましい。
【0027】
2.トナーの粘弾性特性
本開示のトナーは、前記損失正接(tanδ)の温度依存性曲線から特定されるガラス転移温度(Tg1)が45℃超過であり、前記損失正接(tanδ)の温度依存性曲線において、45℃における損失正接(tanδ)をtanδ(45℃)、前記ガラス転移温度(Tg)における損失正接(tanδ)をtanδ(Tg)としたときに、
式(1):5.00×10-2<(tanδ(Tg)-tanδ(45℃))/(Tg-45)<7.60×10-2
を満たす。
前記特定の熱特性を有するトナーが、温度-tanδ曲線において前記式(1)を満たす粘弾性を有することで、低温定着性及び保存性をバランス良く向上しやすい。
【0028】
ここで、損失正接(tanδ)は、動的粘弾性測定により測定される貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G’’)との比(G’’/G’)で定義されるものである。
なお、本開示においては、JIS Z8401:1999の規則Bに従い、tanδの値は小数点以下第3位に丸めた値とし、前記式(1)及び後述する式(2)においては、小数点以下第3位に丸めた各tanδの値を用いる。また、前記式(1)に示す(tanδ(Tg)-tanδ(45℃))/(Tg-45)の値は、有効数字が3桁となるように、後述する式(2)に示す(tanδ(130℃)-tanδ(100℃))/30の値は、有効数字が2桁となるように、各々丸めた値とする。
本開示において、トナーの損失正接(tanδ)の温度依存性曲線から特定されるガラス転移温度(Tg1)は、測定周波数24Hzでの動的粘弾性測定により得られるトナーの損失正接(tanδ)の温度依存性曲線が、45℃超過の温度領域に有する1つ以上のピークのうち、最も低温側のピークにおいて、tanδが極大値となる最も低い温度として特定される。ノイズ等の測定由来の細かい上下変動については、前記ピークと解釈しない。なお、本開示において、動的粘弾性測定により得られる損失正接(tanδ)の温度依存性曲線を、温度-tanδ曲線と称する場合がある。
【0029】
本開示において、前記動的粘弾性測定は、回転平板型レオメータ(TAインスツルメント社製、ARES-G2)を使用し、パラレルプレート又はクロスハッチプレートを用いて、下記条件にて行われる。
周波数:24Hz
サンプルセット:試験片(2~4mm厚)を8mmφプレートにて20g荷重で挟み、温度を80℃まで上げて治具に試験片を融着させた後、45℃に戻し、昇温を開始する
昇温速度:5℃/分
温度範囲:45℃から150℃
試験片は、例えば、本開示のトナーを8mmφの筒状の成型器に0.2g注ぎ、1.0MPaで30秒加圧して、厚み2~4mmで8mmΦの円柱の成形体とすることで作製することができる。
【0030】
前記式(1)は、温度-tanδ曲線において、tanδ(45℃)とtanδ(Tg)とを通る直線の傾きの範囲を示す。トナーは、定着時及び保管時において、ある温度に達したときに急に変形することはなく、温度の上昇に伴い、又はある温度で保持した際の時間の経過とともに、徐々に変形する。本発明者は、トナーのそのような性質に基づき、低温定着性と保存性のバランスが良好になり、高温放置後の噴き出しの発生を抑制できるトナーの特性が、tanδ(45℃)とtanδ(Tg)とを通る直線の傾きに現れることを見出した。本発明者は、更に鋭意検討した結果、tanδ(45℃)とtanδ(Tg)とを通る直線の傾きを調整すると、トナーを長時間保管した場合のブロッキング特性や、高温放置後の噴き出し特性を容易に制御することができることを見出した。
前記式(1)に示す(tanδ(Tg)-tanδ(45℃))/(Tg-45)の値を前記数値範囲内で小さくするほど、トナー保管時のブロッキングが抑制されやすくなり、保存性が向上する。(tanδ(Tg)-tanδ(45℃))/(Tg-45)の値は、tanδ(Tg)とtanδ(45℃)との差が小さいほど、また、Tgが高いほど小さくなる。tanδ(Tg)とtanδ(45℃)との差が大きすぎないことにより、トナーの粘性が強くなりすぎず、すなわち、高分子鎖のトナー粒子間での行き来が抑制されるため、ブロッキングが抑制されると推定される。また、Tgが低すぎないことにより、低温での弾性の低下が抑制されるため、ブロッキングが抑制されると推定される。
更に、前記式(1)において前記上限値未満であることにより、トナーの保存性の悪化が抑制される。前記式(1)において前記下限値超過であることにより、定着温度の上昇が抑制されやすいため、低温定着性の悪化が抑制され、また、形成される画像の光沢度が良好になる。
【0031】
温度-tanδ曲線において前記式(1)を満たす粘弾性を有するトナーを得るために、例えば、トナーが含有する結着樹脂の組成、分子量及び含有量、着色剤の種類及び含有量、帯電制御剤のガラス転移温度(Tg)及び含有量、軟化剤の種類及び分子量、並びに外添剤の種類及び含有量等を適宜変更することにより、トナーの粘弾性を制御することができる。中でも、結着樹脂の分子量及び組成、並びに着色剤の種類及び含有量等を調整することが有効である。トナーが含有する結着樹脂の分子量及び組成等は、ガラス転移温度以下の低温領域におけるトナーの粘弾性に与える影響が大きい。そのため、前記式(1)を満たす粘弾性とするためには、トナーが含有する結着樹脂の分子量及び組成等を調整することが有効である。より具体的には、後述する各成分の好ましい形態を採用することにより、トナーの温度-tanδ曲線を、前記式(1)を満たすようにすることができる。
【0032】
本開示のトナーは、測定周波数24Hzでの動的粘弾性測定により得られる温度-tanδ曲線において、前記式(1)を満たす。
中でも、トナーの保管時におけるブロッキングが抑制されやすく、保存性を向上しやすく、高温放置後の噴き出しの発生を抑制しやすい点から、前記式(1)における上限は、7.40×10-2未満であることが好ましく、7.00×10-2以下であることがより好ましく、6.80×10-2以下であることがより更に好ましい。一方、定着温度の上昇が抑制されやすい点、及び形成される画像の光沢度が良好になりやすい点から、前記式(1)における下限は、5.20×10-2以上であってよく、5.50×10-2以上であることが好ましく、5.60×10-2以上であることがより好ましく、5.90×10-2以上であることが更に好ましく、6.50×10-2以上であることがより更に好ましい。
【0033】
本開示のトナーは、測定周波数24Hzでの動的粘弾性測定により得られる損失正接(tanδ)の温度依存性曲線の45℃以上145℃以下の範囲内の線形が、45℃超過100℃未満の範囲内に少なくとも1つのピークを有し、当該ピークのtanδが極大値となる温度を超えると、温度上昇に伴いtanδが減少した後、tanδが増減しながら減少していき又は減少し続け、tanδが極小値に達した後、更に温度上昇に伴い、tanδは緩やかに増加する線形であって良い。
【0034】
本開示のトナーは、中でも、測定周波数24Hzでの動的粘弾性測定により得られるトナーの損失正接(tanδ)の温度依存性曲線において、100℃における損失正接(tanδ)をtanδ(100℃)、130℃における損失正接(tanδ)をtanδ(130℃)としたときに、
式(2):2.1×10-3<(tanδ(130℃)-tanδ(100℃))/30<4.4×10-2
を、更に満たすものであってよい。
前記式(2)は、tanδ(100℃)とtanδ(130℃)とを通る直線の傾きの範囲を示す。本発明者は、トナーの前述のような性質に基づき、低温定着性と保存性のバランスが良好になるトナーの特性が、tanδ(100℃)とtanδ(130℃)とを通る直線の傾きにも現れることを見出した。本発明者は、更に鋭意検討した結果、tanδ(100℃)とtanδ(130℃)とを通る直線の傾きを調整すると、トナーの定着性を容易に制御できることを見出した。
【0035】
前記式(2)に示す(tanδ(130℃)-tanδ(100℃))/30の値を前記数値範囲内で大きくするほど、定着温度が低下する傾向があり、低温定着性が向上する傾向がある。実際のトナーの定着時には、トナーを転写させた用紙がロールへ侵入してから排出されるまでに、少なくとも100℃から130℃までの温度勾配がある。前記式(2)に示す(tanδ(130℃)-tanδ(100℃))/30の値が大きいほど、トナーが加温されてからのtanδの上昇が速く、すなわちトナーの粘性の増大が速いため、比較的低温での定着が可能になると推定される。更に、前記式(2)において前記下限値超過であることにより、形成される画像の光沢度が良好になりやすい。一方、前記式(2)において前記上限値未満であることにより、トナー保管時のブロッキングが抑制され、保存性の悪化が抑制されやすく、高温放置後の噴き出しの発生を抑制しやすい。
【0036】
本開示のトナーは、低温定着性と保存性のバランスが良好になりやすく、高温放置後の噴き出しの発生を抑制しやすい点から、測定周波数24Hzでの動的粘弾性測定により得られる温度-tanδ曲線において、前記式(2)を満たすことが好ましい。
中でも、トナーの低温定着性が向上する点、及び形成される画像の光沢度が良好になりやすい点から、前記式(2)における下限は、3.0×10-3超過であることが好ましく、3.5×10-3超過であることがより好ましく、1.2×10-2以上であることが更に好ましい。一方、保存性の悪化が抑制されやすい点から、前記式(2)における上限は、4.1×10-2未満であることが好ましく、3.8×10-2未満であることがより好ましく、3.2×10-2以下であることが更に好ましい。
【0037】
温度-tanδ曲線において前記式(2)を満たす粘弾性を有するトナーを得るためには、前記式(1)を満たす粘弾性とする方法と同様に行うことができる。中でも、トナーが含有する着色剤の種類及び含有量等は、100℃~130℃の温度領域におけるトナーの粘弾性に与える影響が大きい。そのため、前記式(2)を満たす粘弾性とするためには、トナーが含有する着色剤の種類及び含有量等を調整することが有効である。
【0038】
本開示のトナーは、測定周波数24Hzでの動的粘弾性測定により得られる温度-tanδ曲線から特定されるガラス転移温度(Tg1)が45℃<Tg(℃)を満たす。前記ガラス転移温度(Tg1)は、中でも、低温での急激な弾性の低下を抑制して、ブロッキングを抑制する点から、好ましくは70℃超過であり、より好ましくは73℃超過である。一方、トナーの軟化開始温度が高くなりすぎないことにより、低温定着性が向上し、形成される画像の光沢度の低下が抑制される点から、前記ガラス転移温度(Tg1)は、100℃未満であってよく、好ましくは90℃以下であり、より好ましくは85℃以下である。
【0039】
また、本開示のトナーは、前記ガラス転移温度(Tg1)における損失正接(tanδ)であるtanδ(Tg)が、好ましくは2.410未満であり、より好ましくは2.320未満であり、更に好ましくは2.300以下である。前記tanδ(Tg)が前記上限値以下であることにより、トナーの保管時におけるブロッキングが抑制されやすく、保存性が向上しやすく、高温放置後の噴き出しの発生を抑制しやすい。
前記tanδ(Tg)の下限は、特に限定はされないが、定着性を良好にする点から、1.000以上であることが好ましく、1.100以上であることがより好ましい。
【0040】
本開示のトナーは、45℃における損失正接(tanδ)であるtanδ(45℃)が、好ましくは0.200以下であり、より好ましくは0.100以下であり、更に好ましくは0.050以下である。前記tanδ(45℃)が前記上限値以下であることにより、トナーの保管時におけるブロッキングが抑制されやすく、保存性が向上しやすく、高温放置後の噴き出しの発生を抑制しやすい。
前記tanδ(45℃)の下限は、特に限定はされず、0.000以上であればよい。
【0041】
また、本開示のトナーは、100℃における損失正接(tanδ)であるtanδ(100℃)が、トナーの低温定着性が向上しやすい点から、好ましくは0.800以上、より好ましくは0.900以上、更に好ましくは0.950以上であり、一方、トナーの保存性の悪化が抑制されやすく、高温放置後の噴き出しの発生を抑制しやすい点から、好ましくは1.500以下、より好ましくは1.400以下、更に好ましくは1.200以下である。
【0042】
また、本開示のトナーは、130℃における損失正接(tanδ)であるtanδ(130℃)が、トナーの低温定着性が向上しやすい点から、好ましくは1.000以上であり、一方、トナーの保存性の悪化が抑制されやすく、高温放置後の噴き出しの発生を抑制しやすい点から、好ましくは3.000以下、より好ましくは2.500以下、更に好ましくは2.300以下、より更に好ましくは1.900以下である。
【0043】
また、本開示のトナーは、低温定着性と保存性のバランスが良好になりやすく、高温放置後の噴き出しの発生を抑制しやすい点から、フローテスターにて、圧力5.0kgf/cmの条件で測定される1/2法におけるトナーの軟化温度(T1/2)が124℃超過165℃未満であることが好ましい。
前記特定の熱特性を有するトナーが、前記軟化温度(T1/2)が前記範囲内を満たし、温度-tanδ曲線において前記式(1)を満たす粘弾性を有することで、低温定着性及び保存性をバランス良く向上しやすい。また、トナーの前記軟化温度(T1/2)が前記範囲内であることにより、トナーの定着温度が低下するため、トナーの取扱いが良好であり、トナー定着時の加熱によるスチレン及びシロキサン物質等の揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)及びナノ粒子(UFP:Ultra Fine Particles))等の発生が抑制されやすい。
前記軟化温度(T1/2)は、中でも、保存性を向上する点から、126℃以上であることが好ましく、130℃以上であることがより好ましく、140℃以上であることが更に好ましく、一方、低温定着性を向上する点から、163℃以下であることが好ましく、159℃未満であってよい。
トナーの前記軟化温度(T1/2)は、例えば、結着樹脂の組成及び分子量、並びに着色剤の種類及び含有量、並びにスチレン系熱可塑性エラストマーの含有量等により調整できる。結着樹脂に用いる架橋性重合性単量体の添加量が少ないほど、前記軟化温度(T1/2)は低下する傾向がある。また、スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量が少ないほど、前記軟化温度(T1/2)は低下する傾向がある。また、結着樹脂が含有する重合体の重量平均分子量が大きいほど、前記軟化温度(T1/2)は上昇する傾向がある。
【0044】
前記フローテスターにて、圧力5.0kgf/cmの条件で測定される1/2法における軟化温度(T1/2)は、島津製作所製のフローテスター(商品名CFT-500C)を用いて、下記の測定条件で測定される流動曲線(ピストンストローク-温度)から求めることができる。具体的には、流動曲線において、流出終了点でのピストンストロークと、ピストンストロークの最低値との差の1/2を求め、求めた値と前記最低値との和となる位置の温度として、前記軟化温度(T1/2)を求めることができる。
(測定条件)
開始温度:35℃
昇温速度:3℃/分
予熱時間:5分
シリンダ圧力:5.0kgf/cm(5kg法)
ダイ穴径:0.5mm
ダイ長さ:1.0mm
試料投入量:1.0~1.3g
【0045】
3.着色樹脂粒子の製造方法
一般に、着色樹脂粒子の製造方法は、粉砕法等の乾式法、並びに乳化重合凝集法、懸濁重合法、及び溶解懸濁法等の湿式法に大別され、画像再現性等の印字特性に優れたトナーが得られ易いことから湿式法が好ましい。湿式法の中でも、ミクロンオーダーで比較的小さい粒径分布を持つトナーを得やすいことから、乳化重合凝集法、及び懸濁重合法等の重合法が好ましく、重合法の中でも懸濁重合法がより好ましい。
【0046】
上記乳化重合凝集法は、乳化させた重合性単量体を重合し、樹脂微粒子エマルションを得て、着色剤分散液等と凝集させ、着色樹脂粒子を製造する。また、上記溶解懸濁法は、結着樹脂や着色剤等のトナー成分を有機溶媒に溶解又は分散した溶液を水系媒体中で液滴形成し、当該有機溶媒を除去して着色樹脂粒子を製造する方法であり、それぞれ公知の方法を用いることができる。
【0047】
本開示に使用される着色樹脂粒子は、湿式法、または乾式法を採用して製造することができるが、湿式法が好ましく、湿式法の中でも特に好ましい懸濁重合法を採用し、以下のようなプロセスにより製造することができる。
【0048】
(A)懸濁重合法
(A-1)重合性単量体組成物の調製工程
まず、重合性単量体、着色剤、軟化剤、帯電制御剤、さらに必要に応じて分子量調整剤及びスチレン系熱可塑性エラストマー等のその他の添加物を混合し、重合性単量体組成物の調製を行う。重合性単量体組成物を調製する際の混合には、例えば、メディア式分散機を用いて行う。
【0049】
本開示において重合性単量体は、重合可能な官能基を有するモノマーのことをいい、重合性単量体が重合して結着樹脂となる。重合性単量体の主成分として、モノビニル単量体を使用することが好ましい。モノビニル単量体としては、例えば、スチレン;ビニルトルエン、及びα-メチルスチレン等のスチレン誘導体;アクリル酸、及びメタクリル酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、及びアクリル酸ジメチルアミノエチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、及びメタクリル酸ジメチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル;アクリロニトリル、及びメタクリロニトリル等の二トリル化合物;アクリルアミド、及びメタクリルアミド等のアミド化合物;エチレン、プロピレン、及びブチレン等のオレフィン;が挙げられる。
これらのモノビニル単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
中でも、トナーの前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度が前記特定の範囲になりやすい点、及びトナーの温度-tanδ曲線が前記式(1)を満たしやすい点から、前記重合性単量体は、スチレン、スチレン誘導体、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種のモノビニル単量体を含むことが好ましく、スチレン、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種のモノビニル単量体含有することがより好ましく、スチレンと、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種とを含有することがより更に好ましい。
また、トナーの前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度が前記特定の範囲になりやすい点、及びトナーの温度-tanδ曲線が前記式(1)を満たしやすい点から、アクリル酸エステルとしては、中でも、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸プロピル及びアクリル酸2-エチルへキシルからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、メタクリル酸エステルとしては、中でも、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸プロピル及びメタクリル酸2-エチルへキシルからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0050】
また、モノビニル単量体の合計100質量部中のスチレンの含有量は、好ましくは60質量部以上、より好ましくは70質量部以上、更に好ましくは80質量部以上、より更に好ましくは90質量部以上である。スチレンの含有量が多いほど、トナーの前記みかけガラス転移温度(Tg2)が高くなり、前記軟化温度(T1/2)が高くなる傾向がある。
【0051】
また、トナーの前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度が前記特定の範囲になりやすい点、及びトナーの温度-tanδ曲線が前記式(1)を満たしやすい点から、前記モノビニル単量体が、スチレンと、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種とを含有し、スチレンと、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの合計との質量比(スチレン:(メタ)アクリル酸エステル)が、50:50~90:10の範囲内であることが好ましく、60:40~80:20の範囲内であることがより好ましい。
【0052】
前記重合性単量体が前記モノビニル単量体以外の重合性単量体を含有する場合、前記モノビニル単量体の含有量は、トナーの前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度が前記特定の範囲になり、且つ、トナーの温度-tanδ曲線が前記式(1)を満たすように適宜調整される。特に限定はされないが、前記重合性単量体の総量100質量部に対し、前記モノビニル単量体の総量が、90質量部以上であることが好ましく、95質量部以上であることがより好ましい。
【0053】
前記重合性単量体は、前記モノビニル単量体とともに、マクロモノマーを含有していてもよい。前記重合性単量体にマクロモノマーを含有させることにより、トナーの保存性と低温定着性とのバランスを向上することができる。
マクロモノマーとしては、例えば、分子鎖の末端に重合可能な炭素-炭素不飽和二重結合を有するもので、数平均分子量が、通常、1,000~30,000の反応性の、オリゴマー及びポリマーを挙げることができる。前記マクロモノマーとしては、例えば、スチレンマクロモノマー、スチレン-アクリロニトリルマクロモノマー、ポリアクリル酸エステルマクロモノマー及びポリメタクリル酸エステルマクロモノマー等を挙げることができる。中でも、トナーの前記みかけガラス転移温度(Tg2)や前記温度-tanδ曲線におけるガラス転移温度(Tg1)を制御しやすい点から、ポリアクリル酸エステルマクロモノマー及びポリメタクリル酸エステルマクロモノマーから選ばれる少なくとも1種を好ましく用いることができる。ポリアクリル酸エステルマクロモノマーに用いられるアクリル酸エステルとしては、例えば、前記モノビニル単量体として使用可能なアクリル酸エステルと同様のものを挙げることができ、ポリメタクリル酸エステルマクロモノマーに用いられるメタクリル酸エステルとしては、例えば、前記モノビニル単量体として使用可能なメタクリル酸エステルと同様のものを挙げることができる。前記マクロモノマーとしては、中でも、前記重合性単量体に含有させることにより、含有させない場合よりも、得られる結着樹脂のガラス転移温度(Tg)が高くなるものを適宜選択して用いるのが、トナーの前記みかけガラス転移温度(Tg2)や前記温度-tanδ曲線におけるガラス転移温度(Tg1)を前記好ましい範囲内にしやすい点から好ましい。
前記マクロモノマーとしては、市販品を用いてもよい。前記マクロモノマーの市販品としては、例えば、東亞合成(株)製のマクロモノマーシリーズAA-6、AS-6、AN-6S、AB-6、AW-6S等を挙げることができる。
前記マクロモノマーは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
前記重合性単量体が前記マクロモノマーを含有する場合、前記マクロモノマーの含有量は、トナーの温度-tanδ曲線が前記式(1)及び前記式(2)を満たすように適宜調整され、特に限定はされないが、前記モノビニル単量体100質量部に対して、好ましくは0.03~5質量部、より好ましくは0.05~1質量部の割合で用いられる。
【0054】
前記重合性単量体は、前記モノビニル単量体とともに、任意の架橋性の重合性単量体を含有していてもよいが、前記みかけガラス転移温度(Tg2)や発熱開始温度が前記特定の範囲になりやすい点及びグロス性を向上しやすいから、架橋性の重合性単量体の含有量は、モノビニル単量体100質量部に対して、0.5質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以下であることがより好ましく、0.05質量部以下であることが更に好ましく、架橋性の重合性単量体を含有しないことが最も好ましい。
架橋性の重合性単量体とは、2つ以上の重合可能な官能基を持つモノマーのことをいう。架橋性の重合性単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、及びこれらの誘導体等の芳香族ジビニル化合物;エチレングリコールジメタクリレート、及びジエチレングリコールジメタクリレート等の2個以上の水酸基を持つアルコールにカルボン酸が2つ以上エステル結合したエステル化合物;N,N-ジビニルアニリン、及びジビニルエーテル等の、その他のジビニル化合物;3個以上のビニル基を有する化合物;等を挙げることができる。これらの架橋性の重合性単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0055】
前記重合性単量体の含有量は、トナーの前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度が前記特定の範囲になり、且つ、トナーの温度-tanδ曲線が前記式(1)を満たすように適宜調整され、特に限定はされないが、前記重合性単量体組成物に含まれる全固形分100質量部に対し、前記重合性単量体の合計含有量が、好ましくは60~95質量部、より好ましくは65~90質量部、更に好ましくは70~85質量部である。
なお、本開示において固形分とは、溶媒以外の全ての成分をいい、液状の単量体等も固形分に含まれる。
【0056】
本開示のトナーが含有する着色剤としては、従来トナーに用いられている着色剤を適宜選択して用いることができ、特に限定はされない。カラートナーを作製する場合は、ブラック、シアン、イエロー、マゼンタの着色剤を用いることができる。
ブラック着色剤としては、例えば、カーボンブラック、チタンブラック、並びに酸化鉄亜鉛、及び酸化鉄ニッケル等の磁性粉等を用いることができる。
シアン着色剤としては、例えば、銅フタロシアニン顔料及びその誘導体等のフタロシアニン顔料、アントラキノン顔料等のシアン顔料、並びにシアン染料等を用いることができる。具体的には、例えば、C.I.ピグメントブルー2、3、6、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、17:1、60;C.I.ソルベントブルー70等が挙げられる。
イエロー着色剤としては、例えば、モノアゾ顔料及びジスアゾ顔料等のアゾ系顔料、縮合多環系顔料等のイエロー顔料、並びにイエロー染料等を用いることができる。具体的には、例えば、C.I.ピグメントイエロー3、12、13、14、15、17、62、65、73、74、83、93、97、120、138、155、180、181、185、186、213、214;C.I.ソルベントイエロー98、162等が挙げられる。
マゼンタ着色剤としては、例えば、モノアゾ顔料及びジスアゾ顔料等のアゾ系顔料、キナクリドン顔料等の縮合多環系顔料等のマゼンタ顔料、並びにマゼンタ染料等を用いることができる。具体的には、例えば、C.I.ピグメントレッド31、48、57:1、58、60、63、64、68、81、83、87、88、89、90、112、114、122、123、144、146、149、150、163、170、184、185、187、202、206、207、209、237、238、251、254、255、269;C.I.ピグメントバイオレット19;C.I.ソルベントレッド1、3、8、23、24、25、27、30、49、81、82、83、84、100、109、121;C.I.ディスパースレッド9;C.I.ソルベントバイオレット8、13、14、21、27;C.I.ディスパースバイオレット1;C.I.ベーシックレッド1、2、9、12、13、14、15、17、18、22、23、24、27、29、32、34、35、36、37、38、39、40;C.I.ベーシックバイオレット1、3、7、10、14、15、21、25、26、27、28等が挙げられる。
前記着色剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
本開示のトナーが含有する着色剤としては、トナーの前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度が前記特定の範囲になり、且つ、トナーの温度-tanδ曲線が前記式(1)を満たしやすいことにより、ホットオフセット性を維持しつつ、トナーの低温定着性及び保存性が向上しやすい点から、好適には、シアン顔料を含むシアン着色剤、イエロー染料とイエロー顔料との組み合わせを含むイエロー着色剤、又は、マゼンタ顔料を含むマゼンタ着色剤が用いられ、より好適には、フタロシアニン系シアン顔料を含むシアン着色剤、イエロー染料と塩素原子を含むイエロー顔料との組み合わせを含むイエロー着色剤、又は、キナクリドン系マゼンタ顔料を含むマゼンタ着色剤が用いられ、更に好適には、C.I.ピグメントブルー15:3及びC.I.ピグメントブルー15:4から選ばれる少なくとも1種を含むシアン着色剤、C.I.ソルベントイエロー98とC.I.ピグメントイエロー214との組み合わせを含むイエロー着色剤、又は、C.I.ピグメントレッド122及びC.I.ピグメントバイオレット19から選ばれる少なくとも1種を含むマゼンタ着色剤が用いられる。
【0058】
また、マゼンタ着色剤として好ましく用いられるキナクリドン系マゼンタ顔料としては、耐候性及び画像濃度に優れる点から、C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122との混晶を好適に用いることができる。C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122との混晶は、例えば、混晶成分を硫酸またはその他の適当な溶剤から同時に再結晶させ、必要によっては塩磨砕した後に溶剤で処理する米国特許第3160510号公報に記載の方法や、置換されたジアミノテレフタル酸混合物の環化後に溶剤で処理するドイツ特許出願公告1217333号公報に記載の方法により製造することができる。
また、C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122との混晶において、C.I.ピグメントバイオレット19とC.I.ピグメントレッド122との使用割合は、質量比で、通常80:20~20:80、好ましくは70:30~30:70、更に好ましくは60:40~40:60である。
【0059】
着色剤の含有量は、重合性単量体の総量100質量部に対し、通常1~20質量部であり、好適には5~15質量部であり、より好適には7~13質量部である。着色剤の含有量が前記範囲内であることにより、トナーの前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度が前記特定の範囲になり、且つ、トナーの温度-tanδ曲線が前記式(1)を満たしやすい。
【0060】
重合性単量体組成物は、軟化剤を含有する。軟化剤を含有することにより、定着時におけるトナーの定着ロールからの離型性を向上することができる。軟化剤としては、一般にトナーの軟化剤又は離型剤として用いられるものであれば、特に制限なく用いることができる。例えば、低分子量ポリオレフィンワックスや、その変性ワックス;パラフィン等の石油ワックス;オゾケライト等の鉱物系ワックス;フィッシャートロプシュワックス等の合成ワックス;ジペンタエリスリトールエステル、カルナウバ等のエステルワックス;等が挙げられる。中でも、トナーの粘弾性を調整して、トナーの保存性と低温定着性のバランスを向上する点から、エステルワックスが好ましく、アルコールとカルボン酸をエステル化して得る合成エステルワックスより好ましく、多価アルコールとモノカルボン酸をエステル化して得る多官能エステルワックスが更に好ましい。
多官能エステルワックスとしては、例えば、ペンタエリスリトールエステル化合物、グリセリンエステル化合物及びジペンタエリスリトールエステル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を好ましく用いることができる。そのような好ましい多官能エステルワックスとしては、例えば、ペンタエリスリトールテトラパルミテート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等のペンタエリスリトールエステル化合物;ヘキサグリセリンテトラベヘネートテトラパルミテート、ヘキサグリセリンオクタベヘネート、ペンタグリセリンヘプタベヘネート、テトラグリセリンヘキサベヘネート、トリグリセリンペンタベヘネート、ジグリセリンテトラベヘネート、グリセリントリベヘネート等のグリセリンエステル化合物;ジペンタエリスリトールヘキサミリステート、ジペンタエリスリトールヘキサパルミテート等のジペンタエリスリトールエステル化合物;等が挙げられる。
【0061】
前記軟化剤の重量平均分子量Mwは、特に限定はされないが、好ましくは400~3500、より好ましくは500~3000の範囲内である。前記軟化剤の重量平均分子量Mwが大きいほど、トナーの前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度が高くなる傾向がある。
前記軟化剤の重量平均分子量Mwは、後述する重合体の重量平均分子量Mwと同様の方法により測定することができる。また、エステルワックスの場合は、溶剤で抽出した後、加水分解によりアルコールとカルボン酸に分解して組成分析を行うことにより、構造式から分子量を算出することもできる。エステルワックスの重量平均分子量Mwは、構造式から算出される分子量と同じ結果になる。
【0062】
また、トナーの粘弾性を調整し、且つ前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度を調整して、トナーの保存性と低温定着性のバランスを向上する点から、前記軟化剤の融点は、50~90℃の範囲内であることが好ましく、60~85℃の範囲内であることがより好ましく、70~80℃の範囲内であることがより更に好ましい。
前記軟化剤の含有量は、特に限定はされないが、トナーの粘弾性を調整し、且つ前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度を調整して、トナーの保存性と低温定着性のバランスを向上する点から、前記モノビニル単量体100質量部に対して、好ましくは1~30質量部、より好ましくは5~20質量部の割合で用いられる。
なお、前記軟化剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
重合性単量体組成物は、正帯電性又は負帯電性の帯電制御剤を含有する。これにより、トナーの帯電性を向上することができる。
帯電制御剤としては、一般にトナー用の帯電制御剤として用いられているものであれば、特に限定されないが、帯電制御剤の中でも、重合性単量体との相溶性が高く、安定した帯電性(帯電安定性)をトナー粒子に付与することができることから、正帯電性又は負帯電性の帯電制御樹脂が好ましく、さらに、正帯電性トナーを得る観点からは、正帯電性の帯電制御樹脂がより好ましく用いられる。
【0064】
正帯電性又は負帯電性の帯電制御樹脂としては、官能基含有共重合体を用いることができる。正帯電性の帯電制御樹脂としては、例えば、アミノ基、4級アンモニウム基又は4級アンモニウム塩含有基等の官能基を含有する構成単位を含む官能基含有共重合体を用いることができ、例えば、ポリアミン樹脂、4級アンモニウム基含有共重合体及び4級アンモニウム塩基含有共重合体等が挙げられる。負帯電性の帯電制御樹脂としては、例えば、スルホン酸基、スルホン酸塩含有基、カルボン酸基又はカルボン酸塩含有基等の官能基を含有する構成単位を含む官能基含有共重合体を用いることができ、例えば、スルホン酸基含有共重合体、スルホン酸塩基含有共重合体、カルボン酸基含有共重合体及びカルボン酸塩基含有共重合体等が挙げられる。
正帯電性又は負帯電性の帯電制御樹脂として用いられる前記官能基含有共重合体は、中でも、トナーの前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度が前記特定の範囲になり、且つ、トナーの温度-tanδ曲線が前記式(1)を満たしやすい点から、前記官能基含有共重合体中の官能基含有構成単位の割合が3質量%以下のものが好ましく、2.5質量%以下のものがより好ましい。一方、トナーの帯電安定性及び保存性を向上し、高温放置後の噴き出しの発生を抑制する点から、前記官能基含有共重合体中の官能基含有構成単位の割合は、0.5質量%以上であることが好ましい。帯電制御樹脂が十分に官能基を含有することにより、帯電制御樹脂が、着色樹脂粒子の表面近傍に局在化しやすくなり、帯電制御樹脂が着色樹脂粒子のシェルのように機能することで、トナーの保存性が向上し、高温放置後の噴き出しの発生を抑制すると推定される。
【0065】
正帯電性又は負帯電性の帯電制御樹脂として用いられる前記官能基含有共重合体は、中でも、前記重合性単量体との相溶性が高く、トナーの前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度が前記特定の範囲になり、且つ、トナーの温度-tanδ曲線が前記式(1)を満たしやすい点から、スチレン-アクリル系樹脂であることが好ましい。
【0066】
また、正帯電性又は負帯電性の帯電制御樹脂として用いられる前記官能基含有共重合体は、ガラス転移温度(Tg)が、50~110℃であることが好ましく、60~100℃であることがより好ましい。前記官能基含有共重合体のガラス転移温度(Tg)が前記範囲内であると、トナーの前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度が前記特定の範囲になり、且つ、トナーの温度-tanδ曲線が前記式(1)を満たしやすく、また、トナーの保存性を向上することができる。前記官能基含有共重合体は、着色樹脂粒子の表面近傍に局在化しやすく、シェルのように機能することができるため、前記官能基含有共重合体のTgが前記範囲内であると、Tgが十分に高いことにより、トナーの保存性が向上すると推定される。
なお、前記官能基含有共重合体のガラス転移温度(Tg)は、前述したトナーのガラス転移温度(Tg1)と同様の方法により測定される。
【0067】
また、正帯電性又は負帯電性の帯電制御樹脂として用いられる前記官能基含有共重合体は、重量平均分子量Mwが、5000~30000であることが好ましく、10000~25000であることがより好ましい。
【0068】
正帯電性の帯電制御樹脂以外の帯電制御剤としては、例えば、ニグロシン染料、4級アンモニウム塩、トリアミノトリフェニルメタン化合物、イミダゾール化合物等が挙げられる。
負帯電性の帯電制御樹脂以外の帯電制御剤としては、例えば、Cr、Co、Al、及びFe等の金属を含有するアゾ染料、サリチル酸金属化合物、アルキルサリチル酸金属化合物等が挙げられる。
前記帯電制御剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0069】
本開示において、帯電制御剤は、モノビニル単量体100質量部に対して、通常、0.01~10質量部、好ましくは0.03~8質量部の割合で用いられる。帯電制御剤の含有量が、0.01質量部以上の場合にはカブリの発生を抑制することができ、一方、帯電制御剤の添加量が10質量部以下の場合には、印字汚れを抑制することができる。
【0070】
また、重合性単量体組成物は、更に、分子量調整剤を含有することが好ましい。
分子量調整剤としては、一般にトナー用の分子量調整剤として用いられているものであれば、特に限定されず、例えば、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、及び2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン-4-チオール等のメルカプタン類;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、N,N’-ジメチル-N,N’-ジフェニルチウラムジスルフィド、N,N’-ジオクタデシル-N,N’-ジイソプロピルチウラムジスルフィド等のチウラムジスルフィド類;等が挙げられる。これらの分子量調整剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
本開示では、トナーの前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度が前記特定の範囲になり、且つ、トナーの温度-tanδ曲線が前記式(1)を満たしやすい点から、分子量調整剤の含有量を調整して、結着樹脂が含有する重合体の重量平均分子量Mwが後述する好ましい範囲となるようにすることが好ましい。分子量調整剤は、モノビニル単量体100質量部に対して、好ましくは1.0~3.0質量部、より好ましくは1.1~2.0質量部の割合で用いられる。なお、分子量調整剤の含有量が多いほど、結着樹脂が含有する重合体の重量平均分子量は小さくなる傾向があり、トナーの前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度が低くなる傾向がある。また、分子量調整剤の含有量が多いほど、トナーの温度-tanδ曲線において、前記式(1)に示す(tanδ(Tg)-tanδ(45℃))/(Tg-45)の値及び前記式(2)に示す(tanδ(130℃)-tanδ(100℃))/30の値が大きくなる傾向がある。また、分子量調整剤の含有量が多いほど、トナーの温度-tanδ曲線において、Tgにおけるtanδ、100℃におけるtanδ及び130℃におけるtanδは増加する傾向がある。
【0072】
重合性単量体組成物は、更に、スチレン系熱可塑性エラストマーを含有していてもよい。スチレン系熱可塑性エラストマーを含有することにより、トナーの前記軟化温度(T1/2)が前記好ましい範囲になりやすい。ここで、スチレン系熱可塑性エラストマーとは、スチレン系モノマーと、スチレン系モノマーと共重合し得る、モノオレフィン及びジオレフィン等から選ばれる少なくとも1種の他のモノマーとのランダム、ブロック、グラフト等の共重合体、及びこれら共重合体の水添物のことをいう。
また、トナーがスチレン系熱可塑性エラストマーを含有することにより、トナーの耐熱温度を維持しながらトナーの定着性を向上することができる。
【0073】
本発明で用いるスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレン型ブロック共重合体、スチレン-ブタジエン型ブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン型ブロック共重合体、スチレン-イソプレン型ブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-イソプレン-スチレン型ブロック共重合体及びこれらの水添物;スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン型ブロック共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン型ブロック共重合体、及びスチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレン型ブロック共重合体が代表的に挙げられる。
これらのスチレン系熱可塑性エラストマーの中でも、トナーの保存性及び低温定着性のバランスを最適化させる観点から、スチレン-イソプレン-スチレン型ブロック共重合体を好適に用いることができる。
【0074】
前記スチレン系熱可塑性エラストマー中のスチレン含有率は、好ましくは15~70質量%、より好ましくは15~60質量%、更に好ましくは20~40質量%である。前記スチレン含有率が、前記下限値以上であることにより、炭化水素ユニットの割合が高過ぎず、定着したトナーが定着面から剥離しにくくなるため、定着性の低下が抑制される。一方、前記スチレン含有率が、前記上限値以下であることにより、結着樹脂との相溶性が高くなり過ぎず、トナーの保存性の低下が抑制される。
【0075】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーの重量平均分子量Mwは、特に限定はされないが、トナーの耐熱温度を維持しながらトナーの定着性を向上する効果に優れる点から、好ましくは50,000~350,000であり、より好ましくは80,000~250,000である。
【0076】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、市販品を使用することができる。前記スチレン系熱可塑性エラストマーの市販品としては、例えば、日本ゼオン(株)製のQuintac(登録商標)シリーズ、及び(株)クラレ製のセプトン(登録商標)シリーズ等を挙げることができる。
【0077】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量は、トナーの前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度が前記好ましい範囲となるように調整されることが好ましく、特に限定はされないが、前記モノビニル単量体100質量部に対して、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは1~8質量部、更に好ましくは2~6質量部の割合で用いられる。
なお、前記スチレン系熱可塑性エラストマーは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0078】
(A-2)懸濁液を得る懸濁工程(液滴形成工程)
次いで、前記重合性単量体組成物を、分散安定剤を含む水系媒体中に分散させ、重合開始剤を添加した後、重合性単量体組成物の液滴形成を行う。重合開始剤は、前記のように、重合性単量体組成物が水系媒体中へ分散された後、液滴形成前に添加されても良いが、水系媒体中へ分散される前の重合性単量体組成物へ添加されても良い。
液滴形成の方法は特に限定されないが、例えば、(インライン型)乳化分散機(大平洋機工社製、商品名:マイルダー)、高速乳化分散機(プライミクス社製、商品名:T.K.ホモミクサー MARK II型)等の強攪拌が可能な装置を用いて行う。
【0079】
重合開始剤としては、過硫酸カリウム、及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;4,4’-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、2,2’-アゾビス(2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、及び2,2’-アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ジ-t-ブチルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルブタノエート、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルブタノエート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、及びt-ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物が挙げられる。これらの中で、残留重合性単量体を少なくすることができ、印字耐久性も優れることから、有機過酸化物を用いることが好ましい。有機過酸化物の中では、開始剤効率がよく、残留する重合性単量体も少なくすることができることから、パーオキシエステルが好ましく、非芳香族パーオキシエステルすなわち芳香環を有しないパーオキシエステルがより好ましい。
これらの重合開始剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0080】
重合性単量体組成物の重合反応に用いられる、重合開始剤の添加量は、モノビニル単量体100質量部に対して、好ましくは0.1~20質量部であり、さらに好ましくは0.3~15質量部であり、特に好ましくは1~10質量部である。
【0081】
本開示において、水系媒体は、水を主成分とする媒体のことを言う。
本開示において、水系媒体には、分散安定化剤を含有させることが好ましい。分散安定化剤としては、例えば、硫酸バリウム、及び硫酸カルシウム等の硫酸塩;炭酸バリウム、炭酸カルシウム、及び炭酸マグネシウム等の炭酸塩;リン酸カルシウム等のリン酸塩;酸化アルミニウム、及び酸化チタン等の金属酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化第二鉄等の金属水酸化物;等の無機化合物や、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、及びゼラチン等の水溶性高分子;アニオン性界面活性剤;ノニオン性界面活性剤;両性界面活性剤;等の有機化合物が挙げられる。これらの分散安定化剤は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0082】
上記分散安定化剤の中でも、無機化合物が好ましく、分散安定剤を含む水系媒体としては、特に難水溶性の金属水酸化物のコロイドが好ましい。無機化合物、特に難水溶性の金属水酸化物のコロイドを用いることにより、着色樹脂粒子の粒径分布を狭くすることができ、また、洗浄後の分散安定化剤残存量を少なくできるため、得られる重合トナーが画像を鮮明に再現することができ、更に環境安定性を悪化させない。
【0083】
(A-3)重合工程
上記(A-2)のようにして、重合性単量体組成物の液滴形成を行った後は、重合開始剤の存在下、当該重合性単量体組成物を重合反応に供することにより、着色樹脂粒子を形成する。即ち、重合性単量体組成物の液滴が分散した水系分散媒体を加熱し、重合を開始し、着色樹脂粒子の水分散液を形成する。
前記加熱の条件は、前記重合性単量体の重合体の重量平均分子量Mwが後述する好ましい範囲となるように調整することが好ましく、特に限定はされないが、加熱温度は、50℃以上とすることが好ましく、更に60~95℃とすることが好ましい。また、加熱時間は、1時間~20時間とすることが好ましく、更に2時間~15時間とすることが好ましい。
【0084】
着色樹脂粒子は、そのままで、又は外添剤を添加して、トナーとして用いてもよいが、この着色樹脂粒子を所謂コアシェル型(または、「カプセル型」ともいう)の着色樹脂粒子のコア層として用いることが好ましい。コアシェル型の着色樹脂粒子は、コア層の外側を、コア層とは異なる材料で形成されたシェル層で被覆した構造を有する。低軟化点を有する材料よりなるコア層を、それより高い軟化点を有する材料で被覆することにより、温度-tanδ曲線において前記式(1)及び前記式(2)を満たしやすく、トナーの低温定着性と保存性をバランス良く向上させることができる。
【0085】
上述した、前記着色樹脂粒子を用いて、コアシェル型の着色樹脂粒子を製造する方法としては特に制限はなく、従来公知の方法によって製造することができる。in situ重合法や相分離法が、製造効率の点から好ましい。
【0086】
in situ重合法によるコアシェル型の着色樹脂粒子の製造法を以下に説明する。
着色樹脂粒子が分散している水系媒体中に、シェル層を形成するための重合性単量体(シェル用重合性単量体)と重合開始剤を添加し、重合することでコアシェル型の着色樹脂粒子を得ることができる。
【0087】
シェル用重合性単量体としては、前述の重合性単量体と同様なものが使用できる。その中でも、スチレン、アクリロニトリル、及びメチルメタクリレート等の、Tgが80℃を超える重合体が得られる単量体を、単独であるいは2種以上組み合わせて使用することが好ましい。
【0088】
シェル用重合性単量体の重合に用いる重合開始剤としては、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸金属塩;2,2’-アゾビス(2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド)及び2,2’-アゾビス-(2-メチル-N-(1,1-ビス(ヒドロキシメチル)2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド)等のアゾ系開始剤;等の水溶性重合開始剤を挙げることができる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。重合開始剤の量は、シェル用重合性単量体100質量部に対して、好ましくは、0.1~30質量部、より好ましくは1~20質量部である。
【0089】
シェル層の重合温度は、好ましくは50℃以上であり、更に好ましくは60~95℃である。また、重合の反応時間は好ましくは1時間~20時間であり、更に好ましくは2時間~15時間である。
【0090】
(A-4)洗浄、ろ過、脱水、及び乾燥工程
重合により得られた着色樹脂粒子の水分散液は、重合終了後に、常法に従い、ろ過、分散安定化剤の除去を行う洗浄、脱水、及び乾燥の操作が、必要に応じて数回繰り返されることが好ましい。
【0091】
上記の洗浄の方法としては、分散安定化剤として無機化合物を使用した場合、着色樹脂粒子の水分散液への酸又はアルカリの添加により、分散安定化剤を水に溶解し除去することが好ましい。分散安定化剤として、難水溶性の無機水酸化物のコロイドを使用した場合、酸を添加して、着色樹脂粒子水分散液のpHを6.5以下に調整することが好ましい。添加する酸としては、硫酸、塩酸及び硝酸等の無機酸、並びに蟻酸及び酢酸等の有機酸を用いることができるが、除去効率の大きいことや製造設備への負担が小さいことから、特に硫酸が好適である。
【0092】
脱水、ろ過の方法は、種々の公知の方法等を用いることができ、特に限定されない。例えば、遠心ろ過法、真空ろ過法、加圧ろ過法等を挙げることができる。また、乾燥の方法も、特に限定されず、種々の方法が使用できる。
【0093】
(B)粉砕法
粉砕法を採用して着色樹脂粒子を製造する場合、例えば以下のようなプロセスにより行われる。
先ず、結着樹脂、着色剤、軟化剤、帯電制御剤、及び必要に応じて添加されるスチレン系熱可塑性エラストマー等のその他の添加物を混合機、例えば、ボールミル、V型混合機、FMミキサー(:商品名)、高速ディゾルバ、インターナルミキサー、フォールバーグ等を用いて混合する。次に、上記により得られた混合物を、加圧ニーダー、二軸押出混練機、ローラ等を用いて加熱しながら混練する。得られた混練物を、ハンマーミル、カッターミル、ローラミル等の粉砕機を用いて、粗粉砕する。更に、ジェットミル、高速回転式粉砕機等の粉砕機を用いて微粉砕した後、風力分級機、気流式分級機等の分級機により、所望の粒径に分級して粉砕法による着色樹脂粒子を得る。
【0094】
なお、粉砕法で用いる結着樹脂、着色剤、軟化剤、帯電制御剤、及び必要に応じて添加されるスチレン系熱可塑性エラストマーは、前述の(A)懸濁重合法で挙げたものを用いることができる。また、粉砕法により得られる着色樹脂粒子を、前述の(A)懸濁重合法により得られる着色樹脂粒子と同様に、in situ重合法等の方法に用いてコアシェル型の着色樹脂粒子を製造することもできる。
【0095】
結着樹脂としては、他にも、従来からトナーに広く用いられている樹脂を使用することができる。粉砕法で用いられる結着樹脂としては、具体的には、ポリスチレン、スチレン-アクリル酸ブチル共重合体、ポリエステル系樹脂、及びエポキシ系樹脂等を例示することができる。
【0096】
4.着色樹脂粒子
上述の(A)懸濁重合法、又は(B)粉砕法等の製造方法により、着色樹脂粒子が得られる。
以下、トナーを構成する着色樹脂粒子について述べる。なお、以下で述べる着色樹脂粒子は、コアシェル型のものとそうでないもの両方を含む。
【0097】
本開示に用いられる着色樹脂粒子は、結着樹脂、着色剤、軟化剤及び帯電制御剤を含み、更に必要に応じてスチレン系熱可塑性エラストマー等のその他の添加物を含有していてもよい。
【0098】
前記着色樹脂粒子が含有する結着樹脂としては、例えば、前述の(A)懸濁重合法で挙げた重合性単量体を重合して得られる重合体が挙げられる。なお、本開示において重合体は、単独重合体又は共重合体のいずれであってもよい。また、結着樹脂として含有される前記重合性単量体の重合体は、着色樹脂粒子内において、スチレン系熱可塑性エラストマーと架橋結合を形成していてもよい。前記重合体の各構成単位を誘導する好ましい重合性単量体は、前述の(A)懸濁重合法で述べた好ましい重合性単量体と同様である。トナーが、前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度が前記特定の範囲になり、且つ、トナーの温度-tanδ曲線が前記式(1)を満たしやすく、トナーの低温定着性及び保存性をバランス良く向上しやすい点から、前記着色樹脂粒子が含有する結着樹脂は、スチレン、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種のモノビニル単量体を含む1種又は2種以上の重合性単量体の重合体を含有することが好ましく、スチレンと、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種とを含む1種又は2種以上の重合性単量体の重合体を含有することが更に好ましい。
なお、前記重合体の全構成単位中の各構成単位の構造及び割合は、当該重合体を合成する際の仕込み量から求めることができ、また、H-NMR測定による積分値から算出することができる。
【0099】
結着樹脂が含有する重合体の重量平均分子量Mwは、トナーが、前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度が前記特定の範囲になり、且つ、トナーの温度-tanδ曲線が前記式(1)を満たしやすく、トナーの低温定着性及び保存性をバランス良く向上しやすい点から、好ましくは1.00×10以上2.00×10以下である。中でも、前記重量平均分子量Mwの下限は、トナーの保存性を向上する点から、より好ましくは2.00×10以上、更に好ましくは3.00×10以上であり、一方、前記重量平均分子量Mwの上限は、トナーの低温定着性を向上する点から、より好ましくは1.50×10以下、更に好ましくは1.00×10以下である。なお、結着樹脂が含有する重合体とは、典型的には、前記重合性単量体の重合体である。
前記重合体の重量平均分子量Mwが小さいほど、トナーのガラス転移温度(Tg1)が低下し且つtanδ(Tg)が大きくなる傾向があるため、前記式(1)に示す(tanδ(Tg)-tanδ(45℃))/(Tg-45)の値が大きくなる傾向がある。また、前記重合体の重量平均分子量Mwが小さいほど、トナーのtanδ(100℃)及びtanδ(130℃)のいずれも増大する傾向があるが、tanδ(130℃)の方が増加幅が大きくなりやすいため、前記式(2)に示す(tanδ(130℃)-tanδ(100℃))/30の値は大きくなる傾向がある。また、前記重合体の重量平均分子量Mwが大きいほど、トナーの前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度が高くなる傾向がある。また、前記重合体の重量平均分子量Mwが前記上限値以下であることにより、低温定着性の悪化が抑制されやすい。
なお、本開示において重合体の重量平均分子量Mwは、GPCによるポリスチレン換算で求めることができる。測定用の試料としては、通常、測定対象とする重合体をテトラヒドロフラン(THF)に溶解したものを用いる。結着樹脂が含有する重合体の重量平均分子量Mwを測定する場合は、トナーをテトラヒドロフラン(THF)に溶解したものを測定用の試料として用い、測定結果から、結着樹脂として含有される重合体以外の重合体、すなわち帯電制御樹脂、軟化剤及びスチレン系熱可塑性エラストマー等について予め測定したピークを差し引いたデータを用いて、結着樹脂として含有される重合体の重量平均分子量Mwを求めることができる。
【0100】
前記着色樹脂粒子が含有する結着樹脂は、典型的には前記重合性単量体の重合体であるが、トナーが前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度が前記特定の範囲になり、且つ、トナーの温度-tanδ曲線が前記式(1)を満たす範囲で、従来からトナーの結着樹脂として広く用いられている、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂等や、未反応の重合性単量体が少量含まれていてもよい。中でも、前記結着樹脂100質量部に含まれるポリエステル系樹脂の含有量は、5質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、0.1質量部以下であることがより更に好ましく、ポリエステル系樹脂を含有しないことが特に好ましい。ポリエステル系樹脂の含有量が前記上限値以下であることにより、トナーの環境安定性を向上することができ、特に、湿度変化によるトナーの帯電の変化を抑制することができる。
また、前記結着樹脂が前記重合性単量体の重合体以外の樹脂を含む場合は、トナーの前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度が前記特定の範囲になり、且つ、トナーの温度-tanδ曲線が前記式(1)を満たしやすい点から、前記結着樹脂100質量部中の前記重合性単量体の重合体の含有量が、95質量部以上であることが好ましく、97質量部以上であることがより好ましく、99質量部以上であることがより更に好ましい。
【0101】
前記結着樹脂の合計含有量は、トナーの前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度が前記特定の範囲になり、且つ、トナーの温度-tanδ曲線が前記式(1)を満たしやすい点から、前記着色樹脂粒子に含まれる全固形分100質量部に対し、好ましくは60~95質量部、より好ましくは65~90質量部、更に好ましくは70~85質量部である。
【0102】
前記着色樹脂粒子が含有する着色剤、軟化剤、帯電制御剤及びスチレン系熱可塑性エラストマーは、前述の(A)懸濁重合法で挙げたものと同様である。
前記着色樹脂粒子に含まれる前記着色剤の含有量は、所望の発色が得られ、且つトナーの前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度が前記特定の範囲になり、且つ、トナーの温度-tanδ曲線が前記式(1)を満たすように、着色剤の種類に応じて適宜調整され、特に限定はされないが、前記結着樹脂100質量部に対し、好ましくは1~20質量部、より好ましくは5~15質量部、更に好ましくは7~13質量部である。
前記着色樹脂粒子に含まれる前記軟化剤の含有量は、トナーの保存性と低温定着性のバランスを向上する点から、前記結着樹脂100質量部に対し、好ましくは1~30質量部、より好ましくは5~20質量部である。
前記着色樹脂粒子に含まれる前記帯電制御剤の含有量は、前記結着樹脂100質量部に対し、好ましくは0.01~15質量部、より好ましくは0.03~8質量部である。前記帯電制御剤の含有量が前記下限値以上であることにより、カブリの発生を抑制することができ、一方、前記上限値以下であることにより、印字汚れを抑制することができる。
前記着色樹脂粒子に含まれる前記スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量は、トナーの前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度が前記特定の範囲になり、且つ、トナーの温度-tanδ曲線が前記式(1)を満たすように適宜調整され、特に限定はされないが、前記結着樹脂100質量部に対し、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは1~8質量部、更に好ましくは2~6質量部である。
【0103】
着色樹脂粒子は、体積平均粒径(Dv)が好ましくは3~15μmであり、更に好ましくは4~12μmである。Dvが3μm以上であることにより、トナーの流動性を向上することができ、転写性の悪化及び画像濃度の低下を抑制することができる。Dvが15μm以下であることにより、画像の解像度の低下を抑制することができる。
【0104】
また、着色樹脂粒子は、その体積平均粒径(Dv)と個数平均粒径(Dn)との比(Dv/Dn)が、好ましくは1.0~1.3であり、よりに好ましくは1.0~1.2である。Dv/Dnが1.3以下であることにより、転写性、画像濃度及び解像度の低下を抑制することができる。なお、着色樹脂粒子の体積平均粒径、及び個数平均粒径は、例えば、粒度分析計(ベックマン・コールター製、商品名:マルチサイザー)等を用いて測定することができる。
【0105】
着色樹脂粒子の平均円形度は、画像再現性の観点から、0.96~1.00であることが好ましく、0.97~1.00であることがより好ましく、0.98~1.00であることがさらに好ましい。
上記着色樹脂粒子の平均円形度が0.96以上であることにより、印字の細線再現性を向上することができる。本開示の着色樹脂粒子の平均円形度は1以下であり、測定試料が完全な球形の場合、平均円形度は1となる。
本開示において、円形度とは、粒子像と同じ投影面積を有する円の周囲長を、粒子の投影像の周囲長で除した値である。平均円形度は、測定試料表面の凹凸の度合いを示す指標となり、粒子の形状を定量的に表現する簡便な方法として用いることができる。測定試料の表面形状が複雑になるほど平均円形度は小さな値となる。
着色樹脂粒子の円形度は、例えば、着色樹脂粒子を分散させた水溶液を試料液とし、フロー式粒子像分析装置(例えば、シメックス社製、商品名:FPIA-2100等)を用いて試料液中の着色樹脂粒子の投影像を撮影し、当該投影像から、粒子の投影面積に等しい円の周囲長、及び粒子投影像の周囲長を測定し、計算式1:(円形度)=(粒子の投影面積に等しい円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)により求めることができる。平均円形度は、試料液に含まれる各着色樹脂粒子の円形度の平均値である。
【0106】
5.本開示のトナー
本開示のトナーは、着色樹脂粒子をそのままでトナーとすることもできるが、トナーの帯電性、流動性、及び保存性等を調整する観点から、上記着色樹脂粒子を、外添剤と共に混合攪拌して外添処理を行うことにより、着色樹脂粒子の表面に、外添剤を付着させて1成分トナーとしてもよい。
なお、1成分トナーは、さらにキャリア粒子と共に混合攪拌して2成分現像剤としてもよい。
【0107】
外添処理を行う攪拌機は、着色樹脂粒子の表面に外添剤を付着させることができる攪拌装置であれば特に限定されず、例えば、FMミキサー(:商品名、日本コークス工業社製)、スーパーミキサー(:商品名、川田製作所社製)、Qミキサー(:商品名、日本コークス工業社製)、メカノフュージョンシステム(:商品名、ホソカワミクロン社製)、及びメカノミル(:商品名、岡田精工社製)等の混合攪拌が可能な攪拌機を用いて外添処理を行うことができる。
【0108】
外添剤としては、シリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化錫、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム及び酸化セリウム等の無機微粒子;ポリメタクリル酸メチル樹脂、シリコーン樹脂及びメラミン樹脂等の有機微粒子;等が挙げられる。これらの中でも、無機微粒子が好ましく、無機微粒子の中でも、シリカ及び酸化チタンから選ばれる少なくとも1種の微粒子が好ましく、特にシリカからなる微粒子が好適である。
なお、これらの外添剤は、それぞれ単独で用いることもできるが、2種以上を併用して用いることが好ましい。
【0109】
本開示のトナーにおいて、外添剤は、着色樹脂粒子100質量部に対して、通常、0.05~6質量部、好ましくは0.2~5質量部の割合で用いられる。外添剤の含有量が0.05質量部以上であることにより、転写残の発生を抑制することができ、外添剤の含有量が6質量部以下であることにより、カブリの発生を抑制することができる。
【0110】
本開示のトナーは、前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度が前記特定の範囲になり、且つ、トナーの温度-tanδ曲線が前記式(1)を満たすことにより、保存性が良好であり、ブロッキング発生温度(耐熱温度)の低下が抑制されたものである。本開示のトナーは、ブロッキング発生温度(耐熱温度)が53℃以上であることが好ましく、54℃以上であることがより好ましく、55℃以上であることが更に好ましい。なお、本開示において、トナーのブロッキング発生温度とは、トナーを一定の温度で8時間保管した時に、凝集するトナーの質量が、トナー総量の5質量%以下となる最高温度とする。トナーのブロッキング発生温度は、後述する実施例におけるトナーの耐熱温度の測定と同様の方法により測定することができる。
【0111】
本開示のトナーは、前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度が前記特定の範囲になり、且つ、トナーの温度-tanδ曲線が前記式(1)を満たすことにより、保存性が良好であり、高温放置後の噴き出しの発生が抑制されたものである。本開示のトナーは、高温放置後の噴き出し試験において、カートリッジの現像ローラからトナーがこぼれ落ちる(噴き出す)現象が収まる時間(噴き出し時間(秒))が0秒から15秒であることが好ましく、噴き出し時間が短い方がより好ましく、噴き出しが発生しないことがさらに好ましい。なお、本開示において、トナーの高温放置後の噴き出し試験は、市販の非磁性一成分現像方式のプリンターの現像装置のトナーカートリッジにトナーを充填し、当該トナーが充填されたカートリッジは、湿度の影響を受けないように封をした状態で、高温環境下(温度:45℃)で、5日間放置した後、23℃50%の環境下にて行われる。トナーの噴き出し試験は、後述する実施例におけるトナーの高温放置後の噴き出し試験と同様の試験により測定することができる。
【0112】
本開示のトナーは、前記みかけガラス転移温度(Tg2)及び前記発熱開始温度が前記特定の範囲になり、且つ、トナーの温度-tanδ曲線が前記式(1)を満たすことにより、低温定着性が良好であり、定着温度の上昇が抑制されたものである。本開示のトナーの定着温度は、170℃以下であることが好ましく、160℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることが更に好ましい。なお、本開示において、トナーの定着温度とは、プリンターを用いてベタ画像を用紙に印字し、ベタ領域にこすり試験を行った場合に、こすり試験前の画像濃度(ID(前))に対する、こすり試験後の画像濃度(ID(後))の比率として下記式から求められる定着率80%以上が得られる最低温度とする。
定着率(%)=〔ID(後)/ID(前)〕×100
前記こすり試験は、測定部分を堅牢度試験機に粘着テープで貼り付け、500gの荷重を載せ、コットン布を巻いたこすり端子で5往復こすることにより行う。
なお、本開示において、ベタ領域とは、その領域内部の(プリンター制御部を制御する仮想的な)ドットのすべてに現像剤を付着させるように制御した領域のことである。
【0113】
本開示のトナーは、トナーのみからなる1成分現像剤として用いてもよいし、さらにキャリア粒子と共に混合攪拌して2成分現像剤として用いてもよい。
【実施例
【0114】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本開示を更に具体的に説明するが、本開示は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、部及び%は、特に断りのない限り質量基準である。
また、重合体の重量平均分子量Mwは、GPCによるポリスチレン換算で求めた。測定用の試料は、重合体を2mg/mLの濃度となるようにテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、超音波処理を10分行った後、0.45μmメンブランフィルターを通して試料とした。測定条件は、温度:40℃、溶媒:テトラヒドロフラン、流速:1.0mL/min、濃度:0.2wt%、試料注入量:100μLとし、カラムは、東ソー(株)製、GPC TSKgel MultiporeHXL-M(30cm×2本)を用いた。また、重量平均分子量Mw1,000~300,000間のLog(Mw)-溶出時間の一次相関式が0.98以上の条件で測定した。なお、トナー中の結着樹脂が含有する重合体の重量平均分子量Mwは、トナーをTHFに溶解させたものを試料とし、前述の測定方法により得られたGPCの結果から、予め測定した帯電制御樹脂、軟化剤及びスチレン系熱可塑性エラストマーのピークを差し引いたデータを用いて、重量平均分子量Mwを求めた。
なお、以下実施例4、5、7、及び15については、参考例とする。
【0115】
[製造例1:マゼンタ顔料Aの製造]
2,5-ジ-(4-メチルフェニルアミノ)テレフタル酸をリン酸中で環化して、2,9-ジメチルキナクリドン(C.I.ピグメントレッド122)を合成した。得られた2,9-ジメチルキナクリドンのリン酸分散液に水を添加してフィルターで濾別した後、更に水で洗浄した。洗浄した2,9-ジメチルキナクリドンに再び水を添加して、固形分20%の水分散液とした。
同様に2,5-ジ-フェニルアミノテレフタル酸を用いて、固形分20%のキナクリドン(C.I.ピグメントバイオレット19)の水分散液を作製した。
上記固形分20%のジメチルキナクリドン(C.I.ピグメントレッド122)の水分散液250部と固形分20%のキナクリドン(C.I.ピグメントバイオレット19)の水分散液250部にエタノール250部を添加して顔料の混合液とした。この混合液を、冷却管を装備した容器に移し、顔料を磨砕しながら、加熱還流下で5時間反応させた。反応終了後、反応液から顔料を濾別、洗浄、乾燥した後、粉砕して、マゼンタ顔料の混晶(すなわち、C.I.ピグメントレッド122とC.I.ピグメントバイオレット19の混晶)であるマゼンタ顔料Aを得た。なお、当該混晶に含まれる各顔料の質量比は、C.I.ピグメントレッド122:C.I.ピグメントバイオレット19=1:1であった。
【0116】
[実施例1]
1.着色樹脂粒子の製造
(1)コア用重合性単量体組成物の調製:
結着樹脂としてスチレン74部、n-ブチルアクリレート26部、ポリメタクリル酸エステルマクロモノマー(東亜合成化学工業社製、商品名:AA6、Tg=94℃)0.1部、分子量調整剤としてテトラエチルチウラムジスルフィド0.50部、着色剤として、前記製造例1で得られたマゼンタ顔料A(C.I.ピグメントレッド122とC.I.ピグメントバイオレット19の混晶)8.0部を、メディア式分散機(浅田鉄工社製、商品名:ピコミル)を用いて、湿式粉砕した。
前記湿式粉砕により得られた混合物に、帯電制御樹脂(CCR1:4級アンモニウム塩を含むスチレンアクリル系樹脂、官能基量1質量%)10.0部と合成エステルワックス1(ヘキサグリセリンオクタベヘネート、融点70℃)12.0部、スチレン系熱可塑性エラストマーとして、エラストマーa(スチレン-イソプレン-スチレン型ブロック共重合体、スチレン単量体単位の含有割合:24質量%、重量平均分子量Mw:106,000、日本ゼオン社製、商品名:Quintac 3270)を2.0部添加し、混合、溶解して、コア用重合性単量体組成物を調製した。
【0117】
(2)水系分散媒体の調製:
他方、イオン交換水280部に塩化マグネシウム10.4部を溶解した水溶液に、イオン交換水50部に水酸化ナトリウム7.3部を溶解した水溶液を、攪拌下で徐々に添加して、水酸化マグネシウムコロイド分散液を調製した。
【0118】
(3)シェル用重合性単量体の調製:
一方、メチルメタクリレート2部と水130部を超音波乳化機にて微分散化処理して、シェル用重合性単量体の水分散液を調製した。
【0119】
(4)造粒工程:
上記水酸化マグネシウムコロイド分散液(水酸化マグネシウム量5.3部)に、上記コア用重合性単量体組成物を投入し、さらに攪拌して、そこへ重合開始剤としてt-ブチルパーオキシ-2-エチルブタノエート6部を添加した。重合開始剤を添加した分散液を、インライン型乳化分散機(大平洋機工社製、商品名:マイルダー)により、回転数15,000rpmにて分散を行い、コア用重合性単量体組成物の液滴を形成した。
【0120】
(5)懸濁重合工程:
コア用重合性単量体組成物の液滴を含有する分散液を、反応器に入れ、90℃に昇温して重合反応を行った。重合転化率がほぼ100%に達した後、前記シェル用重合性単量体の水分散液にシェル用重合開始剤として2,2’-アゾビス〔2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-プロピオンアミド〕(和光純薬社製、商品名:VA-086、水溶性開始剤)0.1部を溶解したものを反応器に添加した。次いで、95℃で4時間維持して、重合を更に継続した後、水冷して反応を停止し、コアシェル型着色樹脂粒子の水分散液を得た。
【0121】
(6)後処理工程:
着色樹脂粒子の水分散液を攪拌しながら、pHが4.5以下となるまで硫酸を添加して酸洗浄を行った後(25℃、10分間)、濾別した着色樹脂粒子を、水で洗浄し、洗浄水をろ過した。この際の濾液の電気伝導度は、20μS/cmであった。さらに洗浄及びろ過工程後の着色樹脂粒子を脱水及び乾燥し、乾燥した着色樹脂粒子を得た。
【0122】
(7)体積平均粒径(Dv)、個数平均粒径(Dn)及び粒径分布(Dv/Dn)
前記着色樹脂粒子を約0.1g秤量し、ビーカーに取り、分散剤として界面活性剤水溶液(富士フイルム社製、商品名:ドライウエル)0.1mLを加えた。そのビーカーへ、更にアイソトンIIを10~30mL加え、20W(Watt)の超音波分散機で3分間分散させた後、粒径測定機(ベックマン・コールター社製、商品名:マルチサイザー)を用いて、アパーチャー径;100μm、媒体;アイソトンII、測定粒子個数;100,000個の条件下で、着色樹脂粒子の体積平均粒径(Dv)、及び個数平均粒径(Dn)を測定し、粒径分布(Dv/Dn)を算出した。
【0123】
2.トナーの製造
着色樹脂粒子100部に、疎水化処理した平均粒径7nmのシリカ微粒子0.2部と、疎水化処理した平均粒径20nmのシリカ微粒子0.76部と、疎水化処理した平均粒径50nmのシリカ微粒子1.91部とを添加し、高速攪拌機(日本コークス工業社製、商品名:FMミキサー)を用いて混合し、実施例1のトナーを調製した。
【0124】
[実施例2~15、比較例1~6]
実施例1において、上記「1.着色樹脂粒子の製造」の上記「(1)コア用重合性単量体組成物の調製」の際に下記表1に従って各材料を添加した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~15及び比較例1~6のトナーを得た。
【0125】
【表1】
【0126】
なお、表1中の各略号は以下の通りである。
ST: スチレン
BA: n-ブチルアクリレート
AA6: ポリメタクリル酸エステルマクロモノマー(東亜合成化学工業社製、商品名:AA6、Tg=94℃)
TET: テトラエチルチウラムジスルフィド
PB15:3: C.I.ピグメントブルー15:3
PY214: C.I.ピグメントイエロー214
SY98: C.I.ソルベントイエロー98
CCR1: 4級アンモニウム塩を含むスチレンアクリル系樹脂、官能基量1質量%
CCR2: 4級アンモニウム塩を含むスチレンアクリル系樹脂、官能基量0.5質量%
架橋剤1:ジビニルベンゼン(新日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、商品名:DVB-570)
エステルワックス1: ヘキサグリセリンオクタベヘネート(融点70℃)
エステルワックス2: ペンタエリスリトールテトラベへネート(融点76℃)
エステルワックス3:ペンタエリスリトールテトラステアレート(融点76℃)
また、表1中、実施例15及び比較例4~6の着色剤の種類「PY214/SY98」及び部数「6.4/1.28」は、着色剤として、C.I.ピグメントイエロー214を6.4部、及びC.I.ソルベントイエロー98を1.28部用いたことを意味する。
また、結着樹脂が含有する重合体の重量平均分子量Mwの値は、表1に示す値に10を乗じた値である。
【0127】
[高速DSC測定]
各実施例及び各比較例で得たトナーについて、高速示差走査熱量測定により、昇温時及び降温時のDSC曲線を得た。前記高速示差走査熱量計を用いた示差走査熱量測定(DSC)は、試料の前処理として、筆の毛先を使ってシリコンオイルをチップセンサーに塗布し、広げた。シリコンオイルをチップセンサーに塗布することで、測定後のトナーがチップセンサーに融着しないため、測定後のトナーを除去することができ、同じチップセンサーを再利用することが可能になる。その結果、ベースラインがサンプル間で安定することになり、再現性の良いデータが得られる。シリコンオイルを塗布したチップセンサーに、10粒程度トナーを乗せ、当該トナーについて、超高速DSC装置(メトラー・トレド社製、Flash DSC)を用いて、窒素気流下で、下記(1)~(5)の温度条件にて行った。
(1)0℃で0.1秒保持する
(2)0℃から150℃まで1000K/秒で昇温する
(3)150℃で60秒保持する。
(4)150℃から0℃まで-1000K/秒で降温する。
(5)0℃で1秒保持する。
【0128】
図1に、高速示差走査熱量測定における昇温速度1000K/秒で昇温時のトナーのみかけガラス転移温度(Tg2)と、降温速度1000K/秒で降温時のトナーの発熱開始温度の求め方を示す。
みかけガラス転移温度(Tg2)は、昇温時のDSC曲線において、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分、もしくはエンタルピー緩和による吸熱ピークの曲線のこう配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度とした。
また、発熱開始温度は、降温時のDSC曲線において、曲線がそれまでのベースラインから離れて発熱ピークが生じる際の、発熱が開始される温度とした。
【0129】
[粘弾性の測定]
各実施例及び各比較例で得たトナーについて、動的粘弾性測定により損失正接(tanδ)の温度依存性曲線を得た。動的粘弾性測定は、回転平板型レオメータ(TAインスツルメント社製、ARES-G2)を使用し、クロスハッチプレートを用いて、下記条件にて行った。試験片は、トナーを8mmφの筒状の成型器に0.2g注ぎ、1.0MPaで30秒加圧し、厚み3mmで8mmΦの円柱の成形体とすることで作製した。
(動的粘弾性測定の条件)
周波数:24Hz
サンプルセット:試験片(3mm厚)を8mmφプレートにて20g荷重で挟み、温度を80℃まで上げて治具に試験片を融着させた後、45℃に戻し、昇温を開始する
昇温速度:5℃/分
温度範囲:45℃から150℃
【0130】
各実施例で得たトナーの損失正接(tanδ)の温度依存性曲線の線形は、45℃から表2に示すガラス転移温度(Tg)までは、温度が上昇するに伴いtanδが0付近から2.0付近まで急激に増加し、Tgでtanδが極大値に達し、Tgから100℃付近までは、温度上昇に伴いtanδが1.0~1.2付近まで減少してtanδの極小値に達し、当該極小値における温度から150℃までは、温度上昇に伴い緩やかにtanδが増加する線形であった。一例として、実施例1で得たトナーの損失正接(tanδ)の温度依存性曲線を図2に示す。なお、動的粘弾性測定は45℃から150℃までの範囲で行ったが、図2には45℃から145℃までの測定結果を示す。
また、得られた温度-tanδ曲線から、各トナーの45℃におけるにおける損失正接tanδ(45℃)、ガラス転移温度(Tg)、ガラス転移温度(Tg)における損失正接tanδ(Tg)、100℃における損失正接をtanδ(100℃)、130℃における損失正接tanδ(130℃)を求め、前記式(1)に示す(tanδ(Tg)-tanδ(45℃))/(Tg-45)の値、及び前記式(2)に示す(tanδ(130℃)-tanδ(100℃))/30の値を算出した。
【0131】
[軟化温度(T1/2)の測定]
各実施例及び各比較例で得たトナーについて、島津製作所製のフローテスター(商品名CFT-500C)を用い、下記の測定条件で、圧力5.0kgf/cmの条件で測定される1/2法における軟化温度(T1/2)を求めた。
(測定条件)
開始温度:35℃
昇温速度:3℃/分
予熱時間:5分
シリンダ圧力:5.0kgf/cm
ダイ穴径:0.5mm
ダイ長さ:1.0mm
試料投入量:1.0~1.3g
【0132】
[評価]
(1)トナーの耐熱温度
トナー10gを、100mLのポリエチレン製の容器に入れて密閉した後、50℃から1℃ずつ変化させ所定の温度に設定した恒温水槽の中に該容器を沈め、8時間経過した後に取り出した。取り出した容器からトナーを42メッシュの篩の上にできるだけ振動を与えないように移し、粉体測定機(ホソカワミクロン社製、商品名:パウダテスタ(登録商標)PT-R)にセットした。篩の振幅を1.0mmに設定して、30秒間、篩を振動させた後、篩上に残ったトナーの質量を測定し、これを凝集したトナーの質量とした。
この凝集したトナーの質量が0.5g以下になる最高温度を、トナーの耐熱温度とした。
耐熱温度が高いほど、トナーは保管時のブロッキングが生じ難く、保存性に優れる。
(耐熱温度の評価基準)
◎:58℃以上
○:53℃以上57℃以下
×:52℃以下
【0133】
(2)トナーの定着温度
市販の非磁性一成分現像方式のプリンターの定着ロール部の温度を変化できるように改造したプリンターを用いて、定着ロールの温度を120℃から5℃ずつ変化させて、それぞれの温度でのトナーの定着率を測定し、温度-定着率の関係を求め、定着率80%以上が得られる最低の温度をトナーの定着温度とした。定着温度が低いほど、トナーは低温定着性に優れる。
なお、定着率は、プリンターで印刷した試験用紙におけるベタ領域のこすり試験前後の画像濃度比率から計算した。こすり試験前の画像濃度をID(前)、こすり試験後の画像濃度をID(後)とすると、定着率(%)=〔ID(後)/ID(前)〕×100である。こすり試験は、試験用紙の測定部分を堅牢度試験機に粘着テープで貼り付け、500gの荷重を載せ、コットン布を巻いたこすり端子で5往復こすることにより行った。
(定着温度の評価基準)
○:180℃未満
×:180℃以上
【0134】
(3)トナーの高温放置後の噴き出し試験
市販の非磁性一成分現像方式のプリンターを用い、現像装置のトナーカートリッジに、トナーを充填した。
トナーが充填されたカートリッジは、湿度の影響を受けないように封をした状態で、高温環境下(温度:45℃)で、5日間放置した後、23℃50%の環境下にて、電動ドライバー(Panasonic製 EZ6220)を用いて、カートリッジに搭載されている現像ローラを毎分400回転(印刷速度40ppm相当)で回転させた。これによりカートリッジの現像ローラからトナーがこぼれ落ちる(噴き出す)現象が生じるか否かについて確認した。噴き出す現象が生じた場合に、カートリッジの現像ローラからトナーがこぼれ落ちる(噴き出す)現象が収まる時間を噴き出し時間(s)とした。噴き出す現象が生じなかった場合には、吹き出し時間を0秒とした。
【0135】
【表2】
【0136】
[考察]
比較例1、2のトナーは、高速DSC測定における発熱開始温度が62℃超過、又はみかけガラス転移温度(Tg2)が74℃超過であったため、定着温度が高く、低温定着性に劣っていた。比較例1、2のトナーは、また、温度-tanδ曲線において、前記式(2)に示す(tanδ(130℃)-tanδ(100℃))/30の値が2.1×10-3以下である粘弾性を有するものであった。
比較例3のトナーは、高速DSC測定における発熱開始温度が50℃未満、及びみかけガラス転移温度(Tg2)が68℃未満であり、且つ、前記式(1)に示す(tanδ(Tg)-tanδ(45℃))/(Tg-45)の値が7.60×10-2以上である粘弾性を有するものであったため、耐熱温度が低く、即ちトナーの保管時におけるブロッキングが生じ易いことから、保存性に劣っており、高温放置後の噴き出し特性も劣っていた。
比較例4のトナーは、前記式(1)に示す(tanδ(Tg)-tanδ(45℃))/(Tg-45)の値が7.60×10-2以上である粘弾性を有するものであったため、耐熱温度が低く、即ちトナーの保管時におけるブロッキングが生じ易いことから、保存性に劣っており、高温放置後の噴き出し特性も劣っていた。
比較例5のトナーは、前記式(1)に示す(tanδ(Tg)-tanδ(45℃))/(Tg-45)の値が7.60×10-2以上であり、且つ、前記式(2)に示す(tanδ(130℃)-tanδ(100℃))/30の値が4.4×10-2以上である粘弾性を有するものであったため、耐熱温度が低く、即ちトナーの保管時におけるブロッキングが生じ易いことから、保存性に劣っており、高温放置後の噴き出し特性も劣っていた。
比較例6のトナーは、高速DSC測定における発熱開始温度が50℃未満、及びみかけガラス転移温度(Tg2)が68℃未満であったが、定着温度が高く、低温定着性に劣っていた。比較例6のトナーは、また、温度-tanδ曲線において、前記式(2)に示す(tanδ(130℃)-tanδ(100℃))/30の値が2.1×10-3以下である粘弾性を有するものであった。
一方、実施例1~15のトナーは、高速DSC測定における発熱開始温度及びみかけガラス転移温度(Tg2)が特定の範囲を満たし、且つ、温度-tanδ曲線において、前記式(1)を満たす粘弾性を有するトナーであったため、耐熱温度が高く、即ちトナーの保管時におけるブロッキングが生じにくいことから、保存性に優れており、定着温度が低く、低温定着性にも優れており、且つ、高温放置後の噴き出し特性にも優れていた。
図1
図2