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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】車両窓用樹脂枠体付きガラス
(51)【国際特許分類】
   B60J 1/10 20060101AFI20241119BHJP
【FI】
B60J1/10 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021089707
(22)【出願日】2021-05-28
(65)【公開番号】P2022182246
(43)【公開日】2022-12-08
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 拓哉
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-251509(JP,A)
【文献】実公平05-009212(JP,Y2)
【文献】実開平04-090418(JP,U)
【文献】特開2018-083546(JP,A)
【文献】特開2009-023495(JP,A)
【文献】米国特許第06086138(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板と、前記ガラス板の周縁部に配置される樹脂製の枠体と、前記ガラス板に配置される前記樹脂製の台座に取付られるクリップと、が一体成形された車両窓用樹脂枠体付きガラスであって、
前記台座は、前記車両窓用樹脂枠体付きガラスが車両に取り付けられたときに、前記ガラス板の車内側の面に配置され、
前記クリップは、前記台座の内部に埋め込まれる座面部を有し、
前記座面部は、前記ガラス板の前記車内側の面に面する第1面部と、前記第1面部に対し、前記ガラス板と反対側に位置する第2面部と、前記第1面部と前記第2面部とを接続する連結部と、を有し、
前記連結部の周縁部には、前記台座を構成する樹脂が介在する掘り込み部を有し、
前記ガラス板の前記車内側の面から前記第1面部の前記ガラス板側の面までの第1距離の前記ガラス板の前記車内側の面から前記第2面部の前記ガラス板と反対側の面までの第2距離に対する比が14%以上50%以下であり、
前記座面部を通り、前記ガラス板に平行となる断面において、前記掘り込み部の面積の前記第1面部の面積に対する比が25%以上50%以下である、
車両窓用樹脂枠体付きガラス。
【請求項2】
前記第1距離が0.5mm以上3mm以下であり、前記第2距離が3.5mm以上6mm以下である、請求項1に記載の車両窓用樹脂枠体付きガラス。
【請求項3】
前記断面において、前記連結部は前記周縁部に複数の突起部を有する、請求項1又は2に記載の車両窓用樹脂枠体付きガラス。
【請求項4】
前記複数の突起部の少なくとも一つは、L字形状である、請求項3に記載の車両窓用樹脂枠体付きガラス。
【請求項5】
前記複数の突起部の少なくとも一つは、T字形状である、請求項3に記載の車両窓用樹脂枠体付きガラス。
【請求項6】
前記クリップは、前記座面部に設けられ、前記ガラス板とは反対の方向に延びる弾性変形可能なシャフト部を有し、
前記複数の突起部の少なくとも二つは、前記シャフト部を回転軸とした場合、互いに回転方向を規制する鉤形状である、請求項3から5のいずれか一項に記載の車両窓用樹脂枠体付きガラス。
【請求項7】
前記第2面部の厚みが1mm以上3mm以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の車両窓用樹脂枠体付きガラス。
【請求項8】
前記シャフト部は先端に平坦部を有する、請求項6に記載の車両窓用樹脂枠体付きガラス。
【請求項9】
前記クリップが、熱可塑性樹脂で構成される、請求項1から8のいずれか一項に記載の車両窓用樹脂枠体付きガラス。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂が重量比で10%以上50%以下のガラス繊維を含む、請求項9に記載の車両窓用樹脂枠体付きガラス。
【請求項11】
前記断面において、前記第1面部又は前記第2面部は少なくとも一方は楕円形状である、請求項1から10のいずれか一項に記載の車両窓用樹脂枠体付きガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両窓用樹脂枠体付きガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の窓開口部に固定されるガラスとして、車両窓用樹脂枠体付きガラスの構造が知られている。例えば、特許文献1には、ガラス板と、ガラス板の周縁に射出成形して形成された樹脂製の枠体(モール)と、車両窓用樹脂枠体付きガラスを車両の窓開口部に取り付けるための接着剤が硬化するまで車両窓用樹脂枠体付きガラスを固定するためのクリップ(リテーナ)を、樹脂枠体の膨出部に植設した車両窓用樹脂枠体付きガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実公平5-009212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の車両窓用樹脂枠体付きガラスでは、クリップの座面(頭部)が樹脂枠体の内部に位置するように形成されている。しかし、特許文献1の車両窓用樹脂枠体付きガラスは、クリップの座面の高さが高く、かつ、座面において樹脂が充填される空隙が多いため、クリップに力が加わるとクリップの座面と樹脂枠体との密着性が損なわれ、グラツキが発生する。このクリップのグラツキは窓開口部への取付け精度悪化や走行時の異音発生の原因となる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、クリップのグラツキを抑制できる車両窓用樹脂枠体付きガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の車両窓用樹脂枠体付きガラスは、ガラス板と、ガラス板の周縁部に配置される樹脂製の枠体と、ガラス板に配置される樹脂製の台座に取付られるクリップと、が一体成形された車両窓用樹脂枠体付きガラスであって、台座は、車両窓用樹脂枠体付きガラスが車両に取り付けられたときに、ガラス板の車内側の面に配置され、クリップは、台座の内部に埋め込まれる座面部を有し、座面部は、ガラス板の車内側の面に面する第1面部と、第1面部に対し、ガラス板と反対側に位置する第2面部と、第1面部と第2面部とを接続する連結部と、を有し、連結部の周縁部には、台座を構成する樹脂が介在する掘り込み部を有し、ガラス板の車内側の面から第1面部のガラス板側の面までの第1距離のガラス板の車内側の面から第2面部のガラス板と反対側の面までの第2距離に対する比が14%以上50%以下であり、座面部を通り、ガラス板に平行となる断面において、掘り込み部の面積の第1面部の面積に対する比が25%以上50%以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の車両窓用樹脂枠体付きガラスによれば、クリップのグラツキを抑制でき、窓開口部への取付け精度の向上、走行中の異音の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、車両窓用樹脂枠体付きガラスを車内側から見た平面図である。
図2図2は、図1に示した車両窓用樹脂枠体付きガラスのII-II線に沿う断面図である。
図3図3は、クリップの斜視図である。
図4図4は、座面部を通り、ガラス板に平行となる面で切断した断面である。
図5図5は、車両窓用樹脂枠体付きガラスを製造するための製造工程の一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面にしたがって、車両窓用樹脂枠体付きガラスの実施形態について説明する。ただし、以下の実施の形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の技術範囲をそれらのみに限定するものではない。なお、以下の説明において、「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」、「外」、「内」は車両に取り付けられた場合を示す用語で、車両の進行方向を「前」とした場合の方向を指す。
【0010】
図1は、車両窓用樹脂枠体付きガラス10(以下の説明では、「樹脂枠体付きガラス10」と略称する。)を車内側から見た平面図である。図2は、図1に示した樹脂枠体付きガラス10のII-II線に沿う断面図である。図3は、クリップの斜視図である。図4は、座面部を通り、ガラス板に平行となる面で切断した断面である。
【0011】
[車両窓用樹脂枠体付きガラス]
図1に示す樹脂枠体付きガラス10は、自動車の固定窓であり、一例として自動車のリヤクオーターガラスに採用されるものである。この樹脂枠体付きガラス10は、ガラス板12と、ガラス板12の周縁部に設けられた樹脂製の枠体14と、を備える。
【0012】
さらに、樹脂枠体付きガラス10は、ガラス板12に配置される樹脂製の台座16に取付られるクリップ18を備える。台座16は、樹脂枠体付きガラス10が車両に取り付けられたときに、ガラス板の車内側の面に配置される。なお、樹脂枠体付きガラス10はリヤクオーターガラスに限定されない。フロントベンチガラスであってもよいし、ルーフガラスであってもよい。また、フロントガラスやリヤガラスであってもよい。樹脂枠体付きガラス10は、最終的には接着剤により車両の窓開口部に接着され、固定される。
【0013】
<ガラス板>
図1に示すガラス板12は、平面視において、略四角形状(台形形状)に形成されている。ただし、ガラス板12の形状は略四角形状に限定されず、略三角形状などでもよい。ガラス板12は、無機ガラスでもよいし、有機ガラスでもよい。無機ガラスとしては、例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラスなどが特に制限なく用いられる。これらのなかでも、製造コスト、及び成形性の観点からソーダライムガラスが特に好ましい。ガラス板12の成形法は特に限定されない。例えば、無機ガラスの場合、フロート法などにより成形されたガラス板が好ましい。
【0014】
ガラス板12が無機ガラスである場合、ガラス板12は、未強化ガラス又は強化ガラスの何れでもよい。未強化ガラスは、溶融ガラスを板状に成形して徐冷したものである。強化ガラスは、未強化ガラスの表面に圧縮応力層を形成したものであり、風冷強化ガラス、化学強化ガラスのいずれでもよい。
【0015】
強化ガラスが物理強化ガラス(例えば、風冷強化ガラス)である場合、曲げ成形において均一に加熱したガラス板を軟化点付近の温度から急冷させるなど、徐冷以外の操作により、ガラス表面とガラス内部との温度差によってガラス表面に圧縮応力層を生じさせることで、ガラス表面を強化してもよい。強化ガラスが化学強化ガラスである場合、曲げ成形の後、イオン交換法などによってガラス表面に圧縮応力を生じさせることでガラス表面を強化してもよい。また、ガラス板12としては、紫外線又は赤外線を吸収するガラスを用いてもよい。ガラス板12は透明であることが好ましいが、透明性を損なわない程度に着色されたガラス板であってもよい。
【0016】
ガラス板12は、1方向にのみ曲げ成形された単曲曲げ形状を有していてもよいし、2方向(例えば所定方向と、当該所定方向と直交する方向)に曲げ成形された複曲曲げ形状を有していてもよい。ガラス板12の曲げ成形には、重力成形、プレス成形又はローラー成形などが用いられる。ガラス板12が所定の曲率に曲げ成形されている場合、ガラス板12の曲率半径は、1,000~100,000mmであってよい。
【0017】
ガラス板12は、1枚のガラス板であってもよいが、例えば、2枚以上のガラス板が中間膜を介して接着された合わせガラスであってもよい。合わせガラスの中間膜は、一例としてポリビニルブチラール(PVB)製又はエチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)製などの公知の熱可塑性樹脂膜が用いられる。合わせガラスの中間膜は、透明であってもよいし、着色された中間膜であってもよい。また、中間膜は2層以上であってもよい。
【0018】
ガラス板12が合わせガラスである場合、ガラス板12を車両に取り付けた場合に外側に位置するガラスの厚みと、内側に位置するガラスの厚みとは同じであってもよいし、異なっていてもよい。ガラス板12を車両に取り付けた場合に、外側に位置するガラスの厚みは1.0mm以上3.0mm以下であることが好ましい。外側に位置するガラス板の厚みが1.0mm以上であると、耐飛び石性能等の強度が十分であり、3.0mm以下であると、合わせガラスの質量が大きくなり過ぎず、車両の燃費の点で好ましい。内側に配置されるガラス板の厚みは、0.3mm以上2.3mm以下であることが好ましい。車内側に位置するガラス板の板厚が0.3mm以上であることによりハンドリング性がよく、2.3mm以下であることにより質量が大きくなり過ぎない。外側に位置するガラスの厚みと内側に位置するガラスの厚みがそれぞれ1.8mm以下であれば、ガラス板12の軽量化と遮音性を両立させることができ、好ましい。なお、内側に位置するガラスの厚みが1.0mm以下の場合、内側に位置するガラスが化学強化ガラスであってもよい。内側に位置するガラスが化学強化ガラスである場合、ガラス表面の圧縮応力値は300MPa以上、圧縮応力層の深さは2μm以上であることが好ましい。
【0019】
ガラス板12が1枚のガラス板である場合、ガラス板12は風冷強化ガラスであることが好ましく、この場合、ガラス板12の厚みは1.8mm以上5.0mm以下であることが好ましい。
【0020】
また、ガラス板12が有機ガラスである場合、有機ガラスの材料としては、ポリカーボネート又はアクリル樹脂(例えば、ポリメチルメタクリレート)などの透明樹脂が挙げられる。
【0021】
ガラス板12は、車内側の面の外周縁に遮蔽領域20を備えていることが好ましい。遮蔽領域20は、例えば、黒色顔料を含有する溶融性ガラスフリットを含むセラミックカラーペーストを塗布し、焼成することによって形成される。遮蔽領域20によって、ガラス板12の周辺部に黒色不透明層が形成される。遮蔽領域20により外部からの視界が遮られる。また、遮蔽領域20は、後述する枠体14及び台座16の形成領域をカバーするように形成される。なお、ガラス板12には、耐候性を高める観点や、親水性や撥水性などの機能性を高める観点から各種適切な膜が、ガラス板12の表面層として形成されてもよい。
【0022】
<樹脂製の枠体>
樹脂製の枠体14は、一例としてガラス板12の全周を取り囲むように設けられる。樹脂製の枠体14の材料としては、ポリ塩化ビニル(PVC)及び熱可塑性エラストマー(TPE)などの合成樹脂を例示できる。枠体14は、枠体14の形状に対応したキャビティを有する金型に、ガラス板12を装着し、キャビティに上記の合成樹脂(溶融した合成樹脂)を射出することにより、ガラス板12の周縁部に設けられる。
【0023】
また、枠体14は、図2に示すように、ガラス板12の車外側面12Aと接する車外側部14Aと、車内側面12Bと接する車内側部14Bと、端面12Cと接し車外側部14Aと車内側部14Bとを接続する連結部14Cと、を備える。枠体14は、いわゆる3面モールである。枠体14には、ガラス板12と反対側に延びるリップ14Dを設けてもよい。リップ14Dは、窓開口部(不図示)の取付部の縦壁に当接する。
【0024】
なお、枠体14は、ガラス板12の車内側面12Bと端面12Cとに接する車内側部14Bと連結部14Cとから構成される2面モールでもよいし、ガラス板12の車内側面12Bのみに接する1面モールでもよい。
【0025】
<台座及びクリップ>
図1及び図2に示すように、樹脂製の台座16は、樹脂枠体付きガラス10が車両に取り付けられたときに、ガラス板12の車内側面12Bに配置される。枠体14と台座16とは、同種の樹脂材料から一体成形される。
【0026】
枠体14と台座16とは、図1及び図2に示すように、互いに離間して配置されるものであってよく、また、枠体14と台座16とは、互いに連続するものであってよい。台座16は、車内側面12Bであって、枠体14よりガラス板12の中心側に配置される。図1においては、4つの台座16が、ガラス板12の4隅にそれぞれ、枠体14から離間した位置に配置されている。
【0027】
各台座16には、それぞれクリップ18が取り付けられている。一般的に、樹脂枠体付きガラス10は、ウレタン系の接着剤など(不図示)により、車両の窓開口部に固定される。樹脂枠体付きガラス10は、窓開口部の取付穴にクリップ18を挿入することで、接着剤が硬化するまで窓開口部に対する樹脂枠体付きガラス10の位置ずれや浮き上がりを防止する。
【0028】
台座16及びクリップ18は、上記の機能が十分果たせるような適切な位置に適切な個数で配設される。例えば、台座16及びクリップ18は、枠体14の内側でガラス板12の外周縁に沿って点在するように設定される。この際、台座16及びクリップ18は、接着剤の塗布範囲よりもガラス板12の中心側に配置される。接着剤は、クリップ18を介して窓開口部の取付穴から侵入しうる水をシールできる。
【0029】
図3は、クリップ18の斜視図である。図2及び図3に示すように、クリップ18は、台座16の内部に埋め込まれる座面部22と、座面部22に設けられ、ガラス板12とは反対の方向に延びる弾性変形可能なシャフト部30と、を備える。
【0030】
座面部22は、ガラス板12の車内側面12Bに面する第1面部23と、第1面部23に対し、ガラス板12の車内側面12Bと反対側に位置する第2面部24と、第1面部23と第2面部24とを接続する連結部25とを、有している。更に、連結部25は、その周縁部には、台座16を構成する樹脂が介在する掘り込み部26を有している。
【0031】
弾性変形可能なシャフト部30は、第2面部24から延びるシャフト本体31と、シャフト本体31を挟んだ両側に、それぞれ係合部32を備える。係合部32は、シャフト本体31の先端側で接続され、シャフト本体31の基端側に向かうにしたがって、シャフト本体31から離れる方向に延びている。即ち、シャフト本体31と係合部32とは基端側に向かうにしがい隙間が大きくなる。係合部32は、シャフト本体31との連結部を支点として弾性変形できる。
【0032】
樹脂枠体付きガラス10を窓開口部に対して仮止めする場合、クリップ18のシャフト部30が窓開口部の取付穴に挿入される。その際、係合部32が弾性変形し、取付穴を通過すると、係合部32が元の状態に戻り、取付穴に対し係合され、抜け止めとして機能する。
【0033】
シャフト本体31の基端側で係合部32と座面部22との間にシールフランジ部40が設けられている。シールフランジ部40は、ガラス板12と反対側に開口を有する椀形状を有している。シールフランジ部40は窓開口部に当接されると、シールフランジ部40の高さ方向が低くなる方向に弾性変形し、取付穴の周縁をシールできる。
【0034】
クリップ18は熱可塑性樹脂で構成されることが好ましい。熱可塑性樹脂として、POM(ポリアセタール)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PA(ポリアミド)、PVC(ポリ塩化ビニル)などを適用できる。これらの熱可塑性樹脂に重量比で10%以上50%以下のガラス繊維を含ませることができ、クリップ18の強度を向上できる。ガラス繊維の重量比は好ましくは、15%以上30%以下である。
【0035】
次に、実施形態の樹脂枠体付きガラス10の第1の特徴について図2を参照して説明する。樹脂枠体付きガラス10において、クリップ18のグラツキを抑制するためには、ガラス板12の車内側面12Bと座面部22との距離が重要となる。
【0036】
実施形態の樹脂枠体付きガラス10は、ガラス板12の車内側面12Bから第1面部23のガラス板12側の面までの第1距離L1のガラス板12の車内側面12Bから第2面部24のガラス板12と反対側の面までの第2距離L2に対する比r1(L1/L2×100)を、14%以上50%以下の範囲としている。
【0037】
比r1を14%以上とすることにより、ガラス板12の車内側面12Bから第1面部23のガラス板12側の面までの第1距離L1を短くでき、冷却時間を短縮することができる。比r1を50%以下にすることで、座面部22とガラス板12との距離を短くでき、グラツキを効果的に抑制できる。比r1は、より好ましくは25%以上40%以下であり、更に好ましくは25%以上33%以下である。
【0038】
上述の第1距離L1は、好ましくは0.5mm以上3mm以下であり、より好ましくは0.5mm以上1.5mm以下であり、更に好ましくは1mm以上1.5mm以下である。
【0039】
また、第2距離L2は、好ましくは3.5mm以上6mm以下であり、より好ましくは3.5mm以上5mm以下であり、更に好ましくは3.5mm以上4mm以下である。
【0040】
上述の第1距離L1と第2距離L2とは、比r1が14%以上50%以下の範囲となるように決定される。
【0041】
なお、第2面部24の厚みは、射出圧力による座屈防止の観点から、好ましくは1mm以上3mm以下であり、より好ましくは1.2mm以上3mm以下であり、更に好ましくは1.5mm以上3mm以下である。
【0042】
また、第1面部23の厚みは、台座16に対するクリップ18の引き抜き強度を保つ観点から、好ましくは1mm以上3mm以下であり、より好ましくは1.2mm以上3mm以下であり、更に好ましくは1.5mm以上3mm以下である。
【0043】
次に、実施形態の樹脂枠体付きガラス10の第2の特徴について図4を参照して説明する。図4(A)は、台座16を構成する樹脂Rが掘り込み部26に介在する前の断面図である。図4(A)に示すように、連結部25の周縁部には台座16を構成する樹脂が介在する掘り込み部26が形成されている。断面視において、掘り込み部26が、連結部25と第1面部23とがオーバーラップしていない領域で構成される。図4(A)において、第1面部23は、断面において楕円形状を有している。ここで、第1面部23は、紙面の左右方向が長径であり、紙面の上下方向が短径の楕円である。ただし、第1面部23は楕円形状に限定されない。また、図示していないが、第2面部24も第1面部23と同様の楕円形状であってもよいし、異なる形状であってもよい。第1面部23と第2面部24とは、同じ形状で、かつ同じ大きさであることが好ましい。
【0044】
図4(B)は、台座16を構成する樹脂Rが掘り込み部26に介在した後の断面図である。掘り込み部26に介在する樹脂Rと第1面部23とのオーバーラップする面積が、台座16に対するクリップ18の引き抜き強度を決定するので、グラツキを抑制するためには、その面積が重要となる。
【0045】
実施形態の樹脂枠体付きガラス10は、座面部22を通り、ガラス板12に平行となる断面において、掘り込み部26の面積S1の第1面部23の面積S2に対する比r2(S1/S2×100)を、25%以上50%以下の範囲としている。
【0046】
比r2を25%以上にすることで台座16に対するクリップ18の引き抜き強度を確保できる。また、比r2を50%以上にすることで、樹脂Rの充填を確実にできる。比r2は、より好ましくは30%以上40%以下であり、更に好ましくは30%以上35%以下である。
【0047】
面積S1は、好ましくは75mm以上100mmであり、より好ましくは80mm以上90mmである。また、面積S2は、好ましくは250mm以上300mmであり、より好ましくは260mm以上290mmである。面積S1及び面積S2は、比r2が25%以上50%以下の範囲となるように決定される。
【0048】
図4(A)に示すように、断面において、連結部25は複数の突起部27を有している。連結部25の複数の突起部27が、断面における掘り込み部26の形状を画定する。複数の突起部27が、掘り込み部26に樹脂Rが介在した際、シャフト部30を回転軸とした場合、台座16に対するクリップ18の回転方向に移動することを規制できる。その結果、クリップ18のグラツキを抑制できる。
【0049】
図4(A)において、複数の突起部27は3種類の突起部27A、27B及び27Cを備えている。複数の突起部27は少なくとも一つはT字形状の突起部27Aであってもよい。T字形状の突起部27Aは、縦部分と横部分とが組み合わされて形成され、縦部分が横部分の略中央で接続する。縦部分と横部分とは略直交する。T字形状の突起部27Aは縦部分が連結部25の中心側に位置し、横部分が外周側に位置する。図4(B)に示すように、T字形状の突起部27Aは、縦部分の両側から樹脂Rを介在させることができ、台座16により座面部22が強固に保持される。
【0050】
図4(A)において、T字形状の突起部27Aは、縦部分を中心に線対称であるが、線対称に限定されない。また、二つのT字形状の突起部27Aが対向する位置に配置されていが、数、及び配置される位置は特に限定されない。
【0051】
また、複数の突起部27は、少なくとも二つは、シャフト部30を回転軸とした場合、互いに回転方向を規制する鉤形状の突起部27Bである。鉤形状の突起部27Bは、谷部28により鋭角を形成する。図4(B)に示すように、鉤形状の突起部27Bと谷部28との間には樹脂Rが介在しやすい。第1面部23の長径及び短径を対称の軸とした場合、線対称の位置にある二つの突起部27Bは互いに回転方向を規制する向きに配置される。一方、シャフト部30の回転軸を対称の中心した場合、点対象の位置にある二つの突起部27Bは同じ方向を向くように配置される。
【0052】
互いに回転方向を規制する鉤形状の少なくとも二つの突起部27Bを設けることより、台座16に対するクリップ18の回転方向の移動が規制でき、クリップ18のグラツキを抑制できる。
【0053】
図4(A)において、複数の突起部27は、矩形状の突起部27Cであってもよい。矩形状の突起部27Cは断面において、大きな面積を占めている。矩形状の突起部27Cの大きさを調整することで、比率r2を25%以上50%以下の範囲に容易に調整できる。
【0054】
また、複数の突起部27は、図示していないが、少なくとも一つはL字形状であってもよい。L字形状の突起部は、縦部分と横部分とが組み合わされて形成され、縦部分と横部分の端部同士で接続される。縦部分と横部分とは略直交する。L字形状の突起部は、T字形状の突起部27Aと同様に、谷部28との間に樹脂Rが介在しやすく、台座16により座面部22が強固に保持される。
【0055】
突起部27は、図示していないが、歯車形状であってもよい。例えば、歯車形状の突起部は、連結部25の中心から外側に放射状に先細り突出する形状とされ、同じ形状の複数の突起部が連結部25の外周に均等に配置されてもよい。
【0056】
突起部27の形状はグラツキを抑制できれば、特定の形状に限定されるものではない。
【0057】
[樹脂枠体付きガラスの製造工程]
次に、図5に示した金型80を参照して、樹脂枠体付きガラス10の製造工程の一例について説明する。なお、図5では、金型80のキャビティ83に枠体14となる溶融樹脂85が既に射出され、また、キャビティ84に台座16となる溶融樹脂85が既に射出された図が示されている。以下の説明では、溶融樹脂85がキャビティ83及び84に射出される前の状態から説明する。
【0058】
図5に示すように、下型82には、上型81に開口する凹部86が形成されている。凹部86は、縦断面が略階段状となっており、深さの深い凹部と浅い凹部とを有する。凹部86の浅い凹部にクリップ18の座面部22が装着される。また、シャフト部30は深い凹部に配置され、シャフト部30の先端が深い凹部の底部と接する。ガラス板12が下型82の所定の位置に装着され、ガラス板12と、クリップ18の座面部22と、凹部86の浅い凹部とにより、キャビティ84が形成される。なお、浅い凹部には、座面部22を位置決めするための段差を有している。
【0059】
この後、金型80の上型81を下型82に固定する。これにより、下型82と上型81との間にキャビティ83が形成される。
【0060】
次に、樹脂注入口(不図示)から溶融樹脂85をキャビティ83及び84に射出する。これにより、溶融樹脂85はキャビティ83及び84を満たしていき、キャビティ83及び84に充填される。この後、溶融樹脂85が固化したところで下型82と上型81とを互いに分離する。ガラス板12と、ガラス板12の周縁部に配置される樹脂製の枠体14と、ガラス板に配置される樹脂製の台座16に取付られるクリップ18と、が一体成形された樹脂枠体付きガラス10が製造される。
【0061】
なお、キャビティ84に溶融樹脂85を射出する際、クリップ18の座面部22が深い凹部と浅い凹部とを仕切る蓋部材として機能する。したがって、座面部22により、溶融樹脂85が凹部86の深い凹部に流入することが防止される。一方、座面部22は射出された溶融樹脂85からの圧力を受け、シャフト部30が凹部86の深い凹部の底部に押し付けられる。クリップ18の座面部22が、溶融樹脂85が貫通、または座面部22の中央まで流入する形状だと、流入した溶融樹脂85の射出圧により、クリップ18の座面部22が、シャフト部30の先端の方向に座屈してしまう恐れがある。しかし、本発明の実施形態のクリップ18の座面部22は、溶融樹脂85が座面部22の中央まで流入しないため、クリップ18の座面部22が座屈変形することを抑制できる。また、図5に示すように、シャフト部30は先端に平坦部33を有しているため、平坦部33で溶融樹脂85の射出圧を受けることで、クリップ18が座屈変形することが抑制できる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよい。
【符号の説明】
【0063】
10 車両窓用樹脂枠体付きガラス、12 ガラス板、12A 車外側面、12B 車内側面、12C 端面、14 枠体、14A 車外側部、14B 車内側部、14C 連結部、14D リップ、16 台座、18 クリップ、20 遮蔽領域、22 座面部、23 第1面部、24 第2面部、25 連結部、26 掘り込み部、27、27A、27B、27C 突起部、28 谷部、30 シャフト部、31 シャフト本体、32 係合部、33 平坦部、40 シールフランジ部、80 金型、81 上型、82 下型、83、84 キャビティ、85 溶融樹脂、86 凹部
図1
図2
図3
図4
図5