(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】離型フィルム、フィルム積層体、これらの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20241119BHJP
C08L 83/08 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
B32B27/00 L
B32B27/00 101
C08L83/08
(21)【出願番号】P 2021536610
(86)(22)【出願日】2020-04-14
(86)【国際出願番号】 JP2020016391
(87)【国際公開番号】W WO2021019845
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2019138531
(32)【優先日】2019-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大関 陽介
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-020442(JP,A)
【文献】特表2013-510921(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152992(WO,A1)
【文献】特開2015-183041(JP,A)
【文献】特開2020-100764(JP,A)
【文献】特開2022-114930(JP,A)
【文献】特開2024-6866(JP,A)
【文献】国際公開第2024/029346(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C08J5/00-5/02
5/12-5/22
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
C09J1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも片面側に、(A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーン、(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーン、(C1)フッ素置換基を含まないシリコーン架橋剤、及び、(D)硬化触媒を含む離型層組成物が硬化してなる離型層を備えた離型フィルムであり、
(A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーンと、(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーンとの質量比は1:50~10:1であり、
(C1)フッ素置換基を含まないシリコーン架橋剤の含有量(複数種類を使用する場合がその合計量)は、硬化型シリコーン((A)+(B))100質量部に対して0.1~50質量部であり、
当該離型層内の厚み方向におけるフッ素原子の濃度分布において、離型層表面にフッ素原子が偏在しており、離型層表面のフッ素原子濃度が39.0原子濃度%以上であることを特徴とする離型フィルム(但し、(A)1分子中に少なくとも2つのアルケニル基含有有機基及び少なくとも1つのアリール基含有有機基を有し、フッ素含有有機基を有さない、直鎖状又は分岐状オルガノポリシロキサンと、(B)1分子中に少なくとも1個のアルケニル基含有有機基及び少なくとも1個のフッ素含有有機基を有する、直鎖状又は分岐状オルガノポリシロキサンと、(C-1)ケイ素原子に結合する水素原子を1分子中に3個以上有し、フッ素含有有機基を有さないオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、(C-2)ケイ素原子に結合する水素原子を1分子中に3個以上有し、及びフッ素含有有機基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、(D)白金族金属系触媒とを含有する組成物が硬化してなる離型層を備えた離型フィルムを除く)。
【請求項2】
前記離型層の厚みが0.05μm以上0.5μm以下である、請求項1に記載の離型フィルム。
【請求項3】
(A)フッ素置換基を有する前記硬化型シリコーンと、(B)フッ素置換基を含まない前記硬化型シリコーンとの質量比が1:50~10:1である、請求項1又は2に記載の離型フィルム。
【請求項4】
前記離型層におけるフッ素原子含有量が500質量ppm以上800000質量ppm以下である請求項1~3の何れか一項に記載の離型フィルム。
【請求項5】
(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーンは、溶剤型硬化型シリコーンである請求項1~4のうちの何れか一項に記載の離型フィルム。
【請求項6】
前記離型層の常態剥離力は75mN/cm以下であり、かつ、残留接着率が80%以上である請求項1~5の何れか一項に記載の離型フィルム。
【請求項7】
前記離型層の加熱剥離力が100mN/cm以下である請求項1~6の何れか一項に記載の離型フィルム。
【請求項8】
(A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーン、(C1)フッ素置換基を含まないシリコーン架橋剤、及び(D)硬化触媒を混合した後、攪拌および/または静置を行い、次に、(B)フッ素置換基を持たない硬化型シリコーンと混合し
、その際、(A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーンと、(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーンとの質量比を1:50~10:1とし、且つ、(C1)フッ素置換基を含まないシリコーン架橋剤の配合量(複数種類を使用する場合がその合計量)は、硬化型シリコーン((A)+(B))100質量部に対して0.1~50質量部として離型層組成物を調製し、この離型層組成物を基材フィルムの少なくとも片面側に塗布することを特徴とする、離型フィルムの製造方法(但し、(A)1分子中に少なくとも2つのアルケニル基含有有機基及び少なくとも1つのアリール基含有有機基を有し、フッ素含有有機基を有さない、直鎖状又は分岐状オルガノポリシロキサンと、(B)1分子中に少なくとも1個のアルケニル基含有有機基及び少なくとも1個のフッ素含有有機基を有する、直鎖状又は分岐状オルガノポリシロキサンと、(C-1)ケイ素原子に結合する水素原子を1分子中に3個以上有し、フッ素含有有機基を有さないオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、(C-2)ケイ素原子に結合する水素原子を1分子中に3個以上有し、及びフッ素含有有機基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、(D)白金族金属系触媒とを含有する組成物を調製し、この組成物を基材フィルムの少なくとも片面側に塗布する、離型フィルムの製造方法を除く)。
【請求項9】
(A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーン、(C1)フッ素置換基を含まないシリコーン架橋剤、及び(D)硬化触媒を混合した後、攪拌および/または静置を1分以上行い、次に、(B)フッ素置換基を持たない硬化型シリコーンと混合し
、その際、(A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーンと、(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーンとの質量比を1:50~10:1とし、且つ、(C1)フッ素置換基を含まないシリコーン架橋剤の配合量(複数種類を使用する場合がその合計量)は、硬化型シリコーン((A)+(B))100質量部に対して0.1~50質量部として離型層組成物を調製し、この離型層組成物を基材フィルムの少なくとも片面側に塗布することを特徴とする、離型フィルムの製造方法(但し、(A)1分子中に少なくとも2つのアルケニル基含有有機基及び少なくとも1つのアリール基含有有機基を有し、フッ素含有有機基を有さない、直鎖状又は分岐状オルガノポリシロキサンと、(B)1分子中に少なくとも1個のアルケニル基含有有機基及び少なくとも1個のフッ素含有有機基を有する、直鎖状又は分岐状オルガノポリシロキサンと、(C-1)ケイ素原子に結合する水素原子を1分子中に3個以上有し、フッ素含有有機基を有さないオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、(C-2)ケイ素原子に結合する水素原子を1分子中に3個以上有し、及びフッ素含有有機基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、(D)白金族金属系触媒とを含有する組成物を調製し、この組成物を基材フィルムの少なくとも片面側に塗布する、離型フィルムの製造方法を除く)。
【請求項10】
請求項1~7の何れかに記載の離型フィルムが、シリコーン粘着剤層を介して、機能層を備えた積層フィルムと貼り合わされてなる構成を備えたフィルム積層体。
【請求項11】
機能層を有する前記積層フィルムが、基材フィルムの少なくとも片面側に、架橋樹脂層を設けた積層フィルムである、請求項10に記載のフィルム積層体。
【請求項12】
前記架橋樹脂層が、導電性ポリマーおよびバインダーポリマーを含有する請求項11に記載のフィルム積層体。
【請求項13】
機能層を有する前記積層フィルムが、基材フィルムの片面側に他の離型層を備えた離型フィルムである、請求項10に記載のフィルム積層体。
【請求項14】
前記他の離型層が、(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーンを主成分として含有するシリコーン組成物から形成される第1層、フッ素置換基を有する成分を含有する第2層を順次備えた構成からなる、請求項13に記載のフィルム積層体。
【請求項15】
前記他の離型層が、(A)フッ素置換基を含有する硬化型シリコーンを主成分として含有するシリコーン組成物から形成される、請求項13に記載のフィルム積層体。
【請求項16】
前記他の離型層が、(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーンを主成分として含有するシリコーン組成物から形成される、請求項13に記載のフィルム積層体。
【請求項17】
車載用部材の貼り合わせに用いることを特徴とする請求項10~16の何れか一項に記載のフィルム積層体。
【請求項18】
請求項1~7の何れか一項に記載の離型フィルム(「軽剥離フィルム」と称する)を、シリコーン粘着剤からなるシリコーン粘着剤層の一側に積層し、当該シリコーン粘着剤層の他側には、前記離型フィルムよりも剥離強度が高い離型フィルム(「重剥離フィルム」と称する)を積層してなる構成を備えたフィルム積層体において、前記軽剥離フィルムを剥がした後、露出したシリコーン粘着剤層表面を被着体に貼着させ、該シリコーン粘着剤層を硬化させた後、前記重剥離フィルムを剥離することを特徴とするフィルム積層体の使用方法。
【請求項19】
前記被着体が光学部材であることを特徴とする請求項18に記載のフィルム積層体の使用方法。
【請求項20】
前記光学部材が偏光板又はタッチセンサーである請求項19に記載のフィルム積層体の使用方法。
【請求項21】
前記光学部材が車載用光学部材であることを特徴とする請求項19又は20に記載のフィルム積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型フィルム、これを用いたフィルム積層体、これらの製造方法およびこれらの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶パネルを搭載する自動車が多くなっている。このような車載向けの用途では、高温や低温に長時間さらされることも多く、パネル構成部材を貼り合わせる粘着剤にも、高度な耐候性、耐熱性が求められている。これに適合する粘着剤として、シリコーンを主材とするシリコーン粘着剤が注目されている。
【0003】
シリコーン粘着剤は、耐熱性、耐薬品性、透明性に優れ、一般的な粘着剤では粘着し難いシリコーンゴムやフッ素樹脂、金属などに対しても粘着力を発揮し、再粘着性にも優れているなどの特徴を有している。
シリコーン粘着剤は、これを粘着層としてテープ(フィルム)状にしたものが用いられており、通常、使用する前は、片面又は両面を離型フィルムで被覆した状態で保管され、使用時に当該離型フィルムを剥がして用いることが一般的である。
【0004】
この種の用途に用いられる離型フィルムとしては、シリコーン剥離剤を基材フィルムにコートしてなるシリコーン離型フィルムが多く使用されている。
しかしながら、このようなシリコーン離型フィルムは、シリコーン粘着剤を被覆する場合、剥離剤と粘着剤の化学構造が類似しているため、粘着剤と離型フィルムとの間で強く粘着して剥離し難くなる傾向があった。そのため、シリコーン粘着剤に対する剥離力値を低くすること(軽剥離性化)を目的として、シリコーン剥離剤にフッ素を導入することなどが行われている。例えば、特許文献1には、シリコーン粘着剤に対して剥離性を発現するために、フッ素置換基を有するフッ素化シリコーン材料が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されているような、フッ素置換基を有するシリコーン(「フッ素化シリコーン」とも称する)は、化学的安定性が高く、毒性の低い物質である。しかし、フッ素化シリコーンは高価であるため、フッ素化シリコーンの使用量を減らすことが求められている。また、フッ素化シリコーン剥離剤をコートした離型フィルムは、再生利用が困難であることから、この点からもフッ素化シリコーンの使用量を削減することが望まれていた。また、離型層の耐久性が問題になることもあった。
【0007】
そこで本発明は、フッ素化シリコーンを用いて形成してなるシリコーン離型フィルムに関し、シリコーン粘着剤層に対して軽剥離性を有しており、それでいて、フッ素化シリコーンの使用量を減らすことができる、新たな離型フィルム、および、該離型フィルムを用いてなるフィルム積層体を提供せんとするものである。また、離型層の耐久性を高めることができる新たな離型フィルム、および、該離型フィルムを用いてなるフィルム積層体を提供せんとするものでもある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基材フィルムの少なくとも片面側に、(A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーン、(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーン、及び、(D)硬化触媒を含む離型層組成物が硬化してなる離型層を備えた第1の離型フィルムとして、当該離型層内の厚み方向におけるフッ素原子の濃度分布において、離型層表面にフッ素原子が偏在しており、離型層表面のフッ素原子濃度が39.0原子濃度%以上であることを特徴とする離型フィルムを提案する。
【0009】
本発明はまた、基材フィルムの少なくとも片面側に、(A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーン、(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーン、及び、(D)硬化触媒を含む離型層組成物が硬化してなる離型層を備えた第2の離型フィルムとして、XPS(X線光電子分光法)にGC-IB(ガスクラスターイオンビーム)を用いて、スパッタ速度一定下において、前記離型層内の厚み方向におけるフッ素原子の濃度分布を測定し、得られたフッ素原子濃度分布(縦軸:フッ素原子濃度(atom%)、横軸:スパッタ時間(min))を、総スパッタ時間で均等に9分割して、第1計測点(スパッタ時間0)、第2計測点、・・第10計測点を決めた際、
第2計測点~第10計測点におけるフッ素原子濃度(atom%)が、第1計測点(スパッタ時間0)におけるフッ素原子濃度(atom%)の80.0%以下、すなわち第1計測点(スパッタ時間0)におけるフッ素原子濃度(atom%)を100.0%とした際にそれの80.0%以下であることを特徴とする離型フィルムを提案する。
【0010】
本発明はまた、基材フィルムの少なくとも片面側に、(A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーン、(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーン、及び、(D)硬化触媒を含む離型層組成物が硬化してなる離型層を備えた第3の離型フィルムとして、XPS(X線光電子分光法)にGC-IB(ガスクラスターイオンビーム)を用いて、スパッタ速度一定下において、前記離型層内の厚み方向におけるフッ素原子の濃度分布を測定し、得られたフッ素原子濃度分布(縦軸:フッ素原子濃度(atom%)、横軸:スパッタ時間(min))を、総スパッタ時間で均等に9分割して、第1計測点(スパッタ時間0)、第2計測点、・・第10計測点を決めた際、
第6計測点~第10計測点における平均フッ素原子濃度(atom%)が、第1計測点(スパッタ時間0)におけるフッ素原子濃度(atom%)の2.2%より高い、すなわち第1計測点(スパッタ時間0)におけるフッ素原子濃度(atom%)を100.0%とした際にそれの2.2%より高いことを特徴とする離型フィルムを提案する。
【0011】
本発明はまた、(A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーン、(C)シリコーン架橋剤、及び(D)硬化触媒を混合した後、攪拌および/または静置を行い(本発明では、この処理を「事前処理」とも称する)、次に、(B)フッ素置換基を持たない硬化型シリコーンと混合して離型層組成物を調製し、この離型層組成物を基材フィルムの少なくとも片面側に塗布することを特徴とする、離型フィルムの製造方法を提案する。
【発明の効果】
【0012】
本発明が提案する第1及び第2の離型フィルムは、フッ素化シリコーンを用いて形成する離型層に関し、当該離型層内の厚み方向におけるフッ素原子の濃度分布において、離型層表面にフッ素が偏在するようにしたことにより、シリコーン粘着剤層に対して軽剥離性を有し、それでいて、フッ素化シリコーンの使用量を減らすことができる。
また、本発明が提案する第3の離型フィルムは、フッ素化シリコーンを用いて形成する離型層に関し、当該離型層の内部にフッ素が存在するようにしたことにより、離型層の耐久性を向上させることができる。
また、本発明が提案する離型フィルムの製造方法によれば、そのような離型フィルムを好適に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1で得られたXPS(X線光電子分光法)の測定データとして、炭素(C)、酸素(O)、シリコン(Si)及びフッ素(F)の各原子濃度分布(縦軸:各原子濃度(atom%)、横軸:スパッタ時間(min))を示したグラフである。
【
図2】実施例2で得られたXPS(X線光電子分光法)の測定データとして、炭素(C)、酸素(O)、シリコン(Si)及びフッ素(F)の各原子濃度分布(縦軸:各原子濃度(atom%)、横軸:スパッタ時間(min))を示したグラフである。
【
図3】実施例5で得られたXPS(X線光電子分光法)の測定データとして、炭素(C)、酸素(O)、シリコンSi)及びフッ素(F)の各原子濃度分布(縦軸:各原子濃度(atom%)、横軸:スパッタ時間(min))を示したグラフである。
【
図4】比較例1で得られたXPS(X線光電子分光法)の測定データとして、炭素(C)、酸素(O)、シリコン(Si)及びフッ素(F)の各原子濃度分布(縦軸:各原子濃度(atom%)、横軸:スパッタ時間(min))を示したグラフである。
【
図5】比較例2で得られたXPS(X線光電子分光法)の測定データとして、炭素(C)、酸素(O)、シリコン(Si)及びフッ素(F)の各原子濃度分布(縦軸:各原子濃度(atom%)、横軸:スパッタ時間(min))を示したグラフである。
【
図6】比較例3で得られたXPS(X線光電子分光法)の測定データとして、炭素(C)、酸素(O)、シリコン(Si)及びフッ素(F)の各原子濃度分布(縦軸:各原子濃度(atom%)、横軸:スパッタ時間(min))を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0015】
<<本離型フィルム>>
本発明の実施形態の一例に係る離型フィルム(「本離型フィルム」と称する)は、基材フィルム(「本基材フィルム」と称する)の片面側又は両面側に、(A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーン(「フッ素化硬化型シリコーン」とも称する)、(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーン(「非フッ素化硬化型シリコーン」とも称する)、及び、(D)硬化触媒を含み、必要に応じてさらに(C)シリコーン架橋剤を含む離型層組成物(「本離型層組成物」と称する)が硬化してなる離型層(「本離型層」と称する)を備えたものである。
【0016】
<本離型層>
本離型層は、本離型層組成物が硬化してなる層であり、当該離型層内の厚み方向におけるフッ素原子の濃度分布において、フッ素が離型層表面に偏在しているのが好ましい。
このように離型層表面にフッ素が偏在することにより、シリコーン粘着剤層に対して剥離し易い優れた軽剥離性を実現することができ、しかも、フッ素化シリコーンの使用量を減らすことができる。
【0017】
本離型層は、XPS(X線光電子分光法)にGC-IB(ガスクラスターイオンビーム)を用いて、スパッタ速度一定下において、前記離型層内の厚み方向におけるフッ素(F)原子を対象に濃度分布(比率)を測定し、得られたフッ素原子濃度分布(縦軸:フッ素原子濃度(atom%)、横軸:スパッタ時間(min))を、総スパッタ時間で均等に9分割して、第1計測点(スパッタ時間0)、第2計測点、・・第10計測点を決めた際、第1計測点(スパッタ時間0)、すなわち、離型層表面のフッ素原子濃度(atom%、原子濃度%とも称する)が39.0%以上、中でも39.5%以上、その中でも40.0%以上であるのがさらに好ましい。他方、上限値は限定するものではないが、一般的には60.0%以下、中でも50.0%以下である。
【0018】
本離型層はまた、第2計測点~第10計測点におけるフッ素原子濃度(atom%)が、第1計測点(スパッタ時間0)におけるフッ素原子濃度(atom%)を100.0%とした際、それの80.0%以下であるのが好ましく、中でも70.0%以下、その中でも60.0%以下、その中でも40.0%以下であるのがさらに好ましく、その中でも30%以下であることが特に好ましい。下限については特に規定するものではない。但し、一般的には2.2%より高くなり、中でも3.0%以上、その中でも4.0%以上、その中でも5.0%以上であるのが好ましい。
ここで、スパッタ時間は、本離型層表面からの深さに相関するから、前記スパッタ時間は本離型層表面からの深さの指標として読み替えることができる。
【0019】
本離型層において、上記のようにフッ素を離型層表面に偏在させるようにするには、例えば、後述するように“事前処理”を行って本離型層組成物を調製するのが好ましい。但し、かかる方法に限定するものではない。
【0020】
さらに、第6計測点~第10計測点における平均フッ素原子濃度(atom%)が、第1計測点(スパッタ時間0)におけるフッ素原子濃度(atom%)を100.0%とした際、それの2.2%より高いことが好ましく、中でも3.0%以上、その中でも4.0%以上、その中でも5.0%以上であるのがさらに好ましい。但し、フッ素を離型層表面により多く偏在させる観点を加味すると、中でも30.0%以下であるのが好ましく、その中でも20.0%以下、その中でも10.0%以下であるのがさらに好ましい。
後述する“事前処理”を行うことで、事前反応を行わなかった場合と比べ、本離型層内部(基材寄り)にもフッ素が多く分布するようになる。その詳細なメカニズムは明らかではないが、“事前処理”による反応生成物である中間体(フッ素化シリコーン樹脂に架橋剤が単独または複数結合しているが、フッ素化シリコーン樹脂同士の架橋反応までは至っていない状態)や副生成物に由来するフッ素が分布するものと推測される。
このようにフッ素を離型層表面に偏在させつつ、且つ、本離型層の内部にもある程度のフッ素を含有させるようにするには、後述する“事前処理”をより十分に行うのが好ましい。但し、かかる方法に限定するものではない。
【0021】
なお、上述したように、スパッタ時間は、本離型層表面からの深さに相関するから、上記スパッタ時間の代わりに離型層表面からの深さを用いて上記各比率を求めてもよい。その際、フッ素原子濃度(atom%)の測定において、測定サンプル作製時の膜厚フレなどにより、離型層表面から下地層すなわち基材フィルムの間がちょうど9区間とならない場合は、別のパラメータを用いて換算を行って9区間に分割し直して、第1から第10計測点のフッ素原子の濃度(atom%)を算出してもよい。
【0022】
本離型層におけるフッ素原子含有量は、シリコーン粘着剤に対して安定して好ましい軽剥離性を得ることができる観点から、500質量ppm以上であるのが好ましく、中でも1000質量ppm以上、その中でも3000質量ppm以上であるのがさらに好ましい。その一方、フッ素化シリコーンの使用量を減らしてフッ素原子含有量を減らす観点からは、800000質量ppm以下であるのが好ましく、中でも700000質量ppm以下、その中でも500000質量ppm以下、その中でも300000質量ppm以下であるのがさらに好ましい。
【0023】
<本離型層組成物>
本離型層組成物は、(A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーン、(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーン、及び、(D)硬化触媒を含み、必要に応じてさらに(C)シリコーン架橋剤を含む組成物である。
【0024】
((A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーン)
フッ素置換基を有する硬化型シリコーンは、シリコーン粘着剤に対する安定した軽剥離性を付与することができる。
なお、「シリコーン(Silicone)」は、ケイ素と酸素からなるシロキサン結合(≡Si-O-Si≡)を骨格とし、そのケイ素(Si)にメチル(-CH3)を主体とする有機基が結合したポリマーである。
「硬化型シリコーン」は、加熱又は光照射(紫外線)によって架橋反応して硬化することができるシリコーンである。
【0025】
前記「フッ素置換基」とは、フッ素原子を含有する置換基を言う。
このフッ素原子を含有する置換基(フッ素置換基)は、置換基にフッ素原子が含まれていれば特に限定はされない。具体的には、フッ素基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、2,2-トリフルオロエチル基、1H,1H-ヘプタフルオロブチル基、2H-ヘキサフルオロイソプロピル基、パーフルオロ-t-ブチル基、パーフルオロヘキシル基などを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
また、フッ素置換基を有する成分として、樹脂骨格の側鎖部分にフッ素置換基を含む樹脂を挙げることができる。
【0026】
フッ素置換基を有する硬化型シリコーンの具体的例としては、信越化学(株)製のKP-911、X-70-201S、X-41-3035;東レ・ダウコーニング(株)製のFS1265-300CS、FS1265-1000CS、FS1265-10000CS、BY24-900、BY24-903、3062、Q2-7785、SYL-OFF 7792、SYL-OFF 7795などを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0027】
フッ素置換基を有する硬化型シリコーンは、溶剤型であっても、無溶剤型であっても、これらを混合したものであってもよい。
フッ素置換基を有する硬化型シリコーンは、単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0028】
ここで、「無溶剤型硬化型シリコーン」とは、溶剤に希釈せずとも塗工できる粘度のシリコーンで、短いポリシロキサン鎖よりなっており、比較的低分子量のシリコーンである。
無溶剤型硬化型シリコーンの粘度は、単体で1000mPa・s以下であるのが好ましく、中でも50mPa・s以上或いは900mPa・s以下、その中でも80mPa・s以上或いは800mPa・s以下であるのがさらに好ましい。この点は、(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーンについても同様である。
【0029】
他方、「溶剤型硬化型シリコーン」とは、溶剤に希釈しなければ塗工できない程度に粘度の高いシリコーンで、比較的高い分子量からなるシリコーンである。この点は「(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーン」についても同様である。
溶剤型硬化型シリコーンの粘度は、30%トルエン溶液とした時の粘度が1000mPa・s以上であるのが好ましく、中でも2000mPa・s以上或いは20000mPa・s以下、その中でも3000mPa・s以上或いは18000mPa・s以下であるのがさらに好ましい。溶剤型硬化型シリコーンが高い粘度を有することにより、基材フィルムとの密着性が高まる傾向にある。この点は、(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーンについても同様である。
【0030】
フッ素置換基を有する硬化型シリコーンのフッ素原子含有量(原子数分率)は、一般的に数千ppm(「フッ素置換基を有する硬化型シリコーン」中の全原子数の1%未満)~数十万ppm(「フッ素置換基を有する硬化型シリコーン」中の全原子数の数十%)程度である。
【0031】
((B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーン)
フッ素置換基を含まない硬化型シリコーンは、溶剤型であっても、無溶剤型であっても、これらを混合したものであってもよい。中でも、安定的にシリコーン粘着剤への軽剥離性を得るための観点から、(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーンは、溶剤型硬化型シリコーンであるのが好ましい。
【0032】
フッ素置換基を含まない硬化型シリコーンの具体例としては、例えば、信越化学(株)製のKNS-3051、KNS-320A、KNS-316、KNS-3002、KNS-3300、X-62-1387、KS-837、X-62-2829、KS-3650、KS-847、KS-847T、KS-776L、KS-776A、KS-774、KS-3703T、KS-3601、KS-830E、X-62-2825、X-62-9201-A、X-62-9201B、KM3951、KM-768、X-52-6015、KF-2005、X-62-7205、X-62-7028-A、X-62-7028-B、X-62-7052、X-62-7622、X-62-7660、X-62-7655;東レ・ダウコーニング(株)製のSP7017、SP7015、SP7025、SP7031、LTC1006L、LTC1063L、LTC1036M、LTC1056L、SRX357、SRX211、SRX345、SRX370、LTC300B、LTC310、LTC355A、LTC759、LTC755、LTC750A、LTC752、LTC761、LTC856、LTC851などを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0033】
また、前記非フッ素化硬化型シリコーンに重剥離添加剤を加えてもよく、その例としては、信越化学(株)製のKS-3800;東レ・ダウコーニング(株)製のSD7292、BY24-4980などを挙げることができる。
【0034】
非フッ素化硬化型シリコーンは、単独で用いてもよいし、又、反応性官能基や粘度が異なる2種類以上を混合して用いてもよい。
2種類以上の非フッ素化硬化型シリコーンを混合することにより、硬化反応を調整したり、塗布液粘度を調整したり、さらには、濡れ性および反応性を高めたりすることができる。その際、無溶剤型シリコーン同士を混合するようにしても、溶剤型シリコーン同士を混合するようにしても、無溶剤型シリコーンと溶剤型シリコーンを混合するようにしてもよい。特に、より軽剥離な離型フィルムを得るため、膜厚を厚くする場合は、硬化層を形成する塗布液の固形分濃度は高くなる傾向にある。そのため、塗布液の粘度が高まり、コート外観の悪化や厚みムラが大きくなるという問題が生じる可能性がある。そこで、無溶剤型シリコーンと溶剤型シリコーンを混合することで、塗布液の粘度を低下させ、良好なコート外観および小さな厚みブレを有する硬化層を形成することができる。
なお、溶剤型硬化型シリコーン及び無溶剤型硬化型シリコーンについては上述のとおりであり、各々の好ましい粘度の範囲についても上述の範囲と同様である。
【0035】
((A)と(B)の比率)
本離型層組成物における、(A)フッ素置換基を有する前記硬化型シリコーンと、(B)フッ素置換基を含まない前記硬化型シリコーンとの質量比は1:50~10:1であるのが好ましく、中でも1:20~5:1、その中でも1:10~2:1、その中でも1:5~1:1であるのがさらに好ましい。
【0036】
なお、上記説明の通り、本願発明においてはヒドロシリル化付加反応により硬化する硬化型シリコーンを用いるのが、特に「(A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーン」において、材料の入手性などの観点から好ましい。
その一方、本願発明の特徴である「当該離型層内の厚み方向におけるフッ素原子の濃度分布において、離型層内部に比べて離型層表面のフッ素原子濃度が高いことを特徴とする離型フィルム」を製造する上では、硬化方式による制限は特に無く、縮合系、UV硬化系などの硬化型シリコーンを用いてもよい。
【0037】
((C)シリコーン架橋剤)
「架橋剤」とは、ポリマー同士を連結する化合物であり、例えば化学的共有結合によって2つ以上の分子を連結することができる化合物である。
【0038】
シリコーン架橋剤として、(C1)フッ素置換基を含まないシリコーン架橋剤(「非フッ素化シリコーン架橋剤」とも称する)と、(C2)フッ素置換基を含むシリコーン架橋剤(非フッ素化シリコーン架橋剤」とも称する)とを挙げることができる。
中でも、後述する事前反応の効果、フッ素の偏在性を高めて、すなわち軽剥離性を高め、かつ、残留接着率を高める効果をより確実なものとする観点から、(C1)非フッ素化シリコーン架橋剤を用いるのが好ましい。また、両者を混合して用いる場合には、(C1)の量をより多くするのが好ましい。
【0039】
((C1)フッ素置換基を含まないシリコーン架橋剤)
「(C1)フッ素置換基を含まないシリコーン架橋剤」としては、下記一般式(1)で示され、一分子中に少なくとも2個、好ましくは3個以上(通常、3~200個程度)、より好ましくは3~100個、その中でも特に3~50個の珪素原子結合水素原子(SiH基)を有するものが好ましい。
【0040】
RbHcSiO(4-b-c)/2 (1)
【0041】
式(1)中、Rは炭素数1~10の非置換又は置換の1価炭化水素基である。また、bは0.7~2.1、特に0.8~2.0、cは0.001~1.0で、かつb+cは0.8~3.0、特に1.0~2.5を満足する正数である。
【0042】
ここで、Rとしては、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン中のRと同様の基を挙げることができるが、好ましくはアルケニル基等の脂肪族不飽和結合を有さないものがよい。
【0043】
この珪素原子結合水素原子は、分子鎖末端の珪素原子に結合したものであっても、分子鎖途中(分子鎖非末端)の珪素原子に結合したものであっても、これらの両方に結合したものであってもよい。
【0044】
「(C1)フッ素置換基を含まないシリコーン架橋剤」の分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状構造のいずれでもよい。
さらに、一分子中の珪素原子数(又は重合度)は2~1,000であるのが好ましく、中でも3以上或いは500以下、その中でも3以上或いは300以下、その中でも特に4以上或いは150以下であるのがさらに好ましい。
【0045】
「(C1)フッ素置換基を含まないシリコーン架橋剤」としては、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、(CH3)2HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH3)2HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C6H5)SiO3/2単位とからなる共重合体などや、これらの例示化合物において、メチル基の一部又は全部をエチル基、プロピル基等の他のアルキル基、フェニル基等のアリール基で置換したものを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
なお、好ましくは2種類以上の架橋剤を併用するのが好ましい。
併用する目的は架橋反応を進行させる作用を期待するものでもある。
【0046】
「(C1)フッ素置換基を含まないシリコーン架橋剤」の含有量(複数種類を使用する場合がその合計量)は、硬化型シリコーン((A)+(B))100質量部に対して0.1~50質量部であるのが好ましく、中でも0.3質量部以上或いは30質量部以下、その中でも0.5質量部以上或いは20質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0047】
また、(A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーン中の珪素原子結合アルケニル基と、(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーン中の珪素原子結合アルケニル基の合計量に対する、(C)シリコーン架橋剤中の珪素原子結合水素原子(SiH基)のモル比は、0.3~3.0であるのが好ましく、中でも0.5以上或いは2.5以下、その中でも特に0.8以上或いは2.0以下であるのがさらに好ましい。
【0048】
「(C1)フッ素置換基を含まないシリコーン架橋剤」の具体例としては、例えば、東レ・ダウコーニング(株)製の3062A、3062B、3062D、SP 7297などを挙げることができる。
【0049】
((C2)フッ素置換基を含むシリコーン架橋剤)
他方、(C2)フッ素置換基を含むシリコーン架橋剤としては、前記(1)式において、Rがフルオロ基を有するものを挙げることができる。
具体例として、東レ・ダウコーニング(株)製の3062C、Q2-7560などを例示することができる。
【0050】
((D)硬化触媒)
「硬化触媒」は、硬化型シリコーンの珪素原子に結合したアルケニル基と、(C)シリコーン架橋剤のハイドロジェンシラン(SiH)基とのヒドロシリル化付加反応を促進するための触媒である。
硬化触媒としては、例えば白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などの白金族金属系触媒を挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0051】
本離型層組成物又は本離型層における硬化触媒の含有量としては、硬化型シリコーンの合計量((A)+(B))に対して、金属換算量として、0.5~500質量ppmであるのが好ましく、中でも5質量ppm以上或いは500質量ppm以下、その中でも10質量ppm以上或いは200質量ppm以下であるのがさらに好ましい。
【0052】
((E)反応制御剤)
本離型層組成物及び本離型層は、必要に応じて、上記成分以外に、反応制御剤を含有してもよい。
【0053】
(E)反応制御剤としては、下記一般式(2)で示されるアセチレンアルコールなどを使用することができる。
【0054】
CH≡C-C(R2)(OH)R1 (2)
【0055】
式(2)中、R1は直鎖状又は分岐状の炭素数5~15の1価の炭化水素基であり、R2は直鎖状の炭素数1~3の1価の炭化水素基である。)
【0056】
上記式(2)において、R1は直鎖状又は分岐状の炭素数5~15の1価の炭化水素基であるのが好ましくは、さらに好ましくは6~14、その中でも特に8~12である。
R1の具体例としては、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等のアルキル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基等のアルケニル基などを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
上記式(2)において、R1の1価の炭化水素基の炭素数が5未満の場合、制御剤の揮発性が高く、制御効果が不十分となる場合がある。一方、炭素数が15より大きい場合は、mol当たりのアセチレンアルコールの有効成分が少なくなり制御効果が弱くなる傾向にあるため、所望する制御効果を得るために多量に添加する必要があるなどの懸念がある。
【0057】
上記式(2)において、R2は、直鎖状の炭素数1~3の1価の炭化水素基であり、好ましくは1~2である。R2の具体例として、メチル基、エチル基、n-プロピル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基、n-プロペニル基等のアルケニル基などを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。R2の炭素数が少ないほどシリコーン組成物の制御効果が出やすく、好ましくはメチル基がよい。
【0058】
反応制御剤は1種類でもよいし、必要に応じて、2種類以上を併用してもよい。
反応制御剤の含有量は、本離型層組成物合計量100質量部あたり、0.001~5.0質量部であるのが好ましく、中でも0.01質量部以上或いは1.0質量部以下、その中でも0.05質量部以上或いは0.5質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0059】
(その他の成分)
本離型層組成物及び本離型層は、上記成分以外に、必要に応じてその他の成分を含有することができる。例えば、硬化型シリコーン以外のシリコーン、シリコーンゴム、シリコーンレジン、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、セルロース等の樹脂や、これらの樹脂をグラフト重合などにより変性させた共重合体等;シリカ粒子、アルミナ粒子、シリコーンゴム粒子、シリコーンレジン粒子、シリコーンゴム/レジン複合粒子等の各種粒子;シランカップリング剤などを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0060】
本離型層組成物及び本離型層は、必要に応じて、例えば軽剥離化剤、重剥離化剤、架橋剤、密着性向上剤を含有してもよい。
軽剥離化剤、重剥離化剤、密着性向上剤の具体的な例としては、信越化学(株)製のKS-3800、X-92-185;東レ・ダウコーニング(株)製のBY24-850、SD7292、BY24-4980、SP7297、BY24-808、SD7200などを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0061】
(固形分)
なお、本離型層組成物の固形分濃度は0.1質量%~100質量%であるのが好ましく、中でも0.5質量%以上或いは50質量%以下、その中でも1.0質量%以上或いは20質量%以下、その中でも1.5質量%以上或いは10質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0062】
本離型層組成物の固形分には、アルキルビニルポリシロキサン、アルキルハイドロジェンポリシロキサンが含まれる。その中で、ビニル基(アルケニル基)を含有するアルキルビニルポリロキサンの好ましい量は、固形分質量当たり、85.0~99.9質量%であり、中でも90.0質量%以上或いは99.5質量%以下、その中でも92.0質量%以上或いは99.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0063】
(本離型層の膜厚)
本離型層の膜厚は、特に限定するものではない。離型層の膜厚が厚ければ、基材の影響、例えば基材の硬さの影響を本離型フィルムの離型面に伝えづらくなり好ましい傾向から、0.01μm以上であるのが好ましく、中でも0.05μm以上、その中でも0.10μm以上であるのがさらに好ましい。その一方、本離型層の膜厚が厚過ぎると、ブロッキングの発生、コート外観の悪化などを引き起こす場合があるから、10μm以下であるのが好ましく、中でも5μm以下、その中でも1μm以下、0.5μm以下であるのがさらに好ましく、0.25μm以下であるのが特に好ましい。
【0064】
<本基材フィルム>
本基材フィルムは、フィルム状を呈するものであれば、その材料を特に限定するものではない。例えば、紙製、樹脂製、金属製などであってもよい。これらの中でも、機械的強度および柔軟性の観点から、樹脂製であることが好ましい。
【0065】
樹脂製の基材フィルムとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミドなどの高分子を膜状に形成したフィルムを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。また、フィルム化が可能であれば、これらの材料を混合したもの(ポリマーブレンド)や構成単位を複合化したもの(共重合体)であっても構わない。
【0066】
上記例示したフィルムの中でも、ポリエステルフィルムは、耐熱性、平面性、光学特性、強度などの物性が優れており、特に好ましい。
上記ポリエステルフィルムは単層でも、性質の異なる2以上の層を有する多層フィルム(積層フィルム)でもよい。
また、ポリエステルフィルムは、無延伸フィルム(シート)であっても延伸フィルムであってもよい。中でも、一軸方向又は二軸方向に延伸された延伸フィルムであるのが好ましい。その中でも、力学特性のバランスや平面性の観点で、二軸延伸フィルムであるのがより好ましい。
【0067】
上記ポリエステルフィルムの主成分樹脂であるポリエステルは、ホモポリエステルであっても、共重合ポリエステルであってもよい。
なお、主成分樹脂とは、本ポリエステルフィルムを構成する樹脂の中で最も質量割合の大きい樹脂の意味であり、本ポリエステルフィルムを構成する樹脂の50質量%以上、或いは75質量%以上、或いは90質量%以上、或いは100質量%を占める場合が想定される。
【0068】
上記ホモポリエステルとしては、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などを挙げることができ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等を挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
代表的なホモポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)等を例示することができる。
【0069】
一方、上記ポリエステルが共重合ポリエステルの場合は、30モル%以下の第三成分を含有した共重合体であることが好ましい。
共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等の一種又は二種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の一種または二種以上を挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0070】
中でも、本基材フィルムの主成分樹脂としては、60モル%以上、好ましくは80モル%以上がエチレンテレフタレート単位であるポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0071】
本基材フィルムは、易滑性の付与および各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を含有することも可能である。粒子を含有する場合、含有する粒子の種類は、易滑性付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の無機粒子、アクリル樹脂、スチレン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の有機粒子等を挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。さらに、ポリエステルの製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0072】
一方、使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0073】
粒子の平均粒径は、好ましくは5μm以下、より好ましくは0.1μm以上或いは3μm以下の範囲である。平均粒径を上記範囲で用いることにより、フィルムに適度な表面粗度を与え、良好な滑り性と平滑性が確保できる。
なお、上記粒子の平均粒径は、以下の通り測定することができる。
原料としての粒子の平均粒径は、動的光散乱法等によって測定される体積基準粒度分布から求められる平均粒径(D50)として測定することができる。
本基材フィルムに含有されている状態の粒子の平均粒径は、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)を使用し、本基材フィルムの表面或いは断面を観察し、10個以上の粒子の直径を測定し、その平均値として求めることができる。その際、断面形状が楕円形である場合は、最長径と最短径の平均値を各粒子の直径として測定することができる。
【0074】
さらに本基材フィルム中の粒子含有量は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは0.0003質量%以上或いは3質量%以下の範囲である。粒子がない場合、あるいは少ない場合は、フィルムの透明性が高くなり良好なフィルムとなるが、滑り性が不十分となる場合があるため、塗布層中に粒子を入れることにより滑り性を向上させる等の工夫が必要な場合がある。また、粒子含有量が多すぎる場合は、フィルムの透明性が不十分な場合がある。
【0075】
<本離型フィルムの構成例>
本離型フィルムは、本基材フィルムの片面側又は両面側に本離型層を備えた構成であればよいから、後述するように、本離型フィルムの片面側又は両面側において、本基材フィルムと本離型層とは直接積層してもよいし、他の層を介して積層してもよい。
【0076】
前記「他の層」としては、例えば、本基材フィルムと本離型層との密着性を高めるためのアンカーコート層、フィルム表面への配合物やオリゴマーの滲み出し(ブリード、プレートアウト)を封止するオリゴマー封止層、帯電防止性を備えた帯電防止層などを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0077】
本離型フィルムの具体的構成例としては、本基材フィルム/本離型層、本基材フィルム/アンカーコート層/本離型層、本基材フィルム/帯電防止層/本離型層、本基材フィルム/オリゴマー封止層/本離型層、帯電防止層/本基材フィルム/帯電防止層/本離型層、オリゴマー封止層/本基材フィルム/オリゴマー封止層/本離型層、本基材フィルム/帯電防止層/オリゴマー封止層/本離型層、本離型層/本基材フィルム/本離型層、本離型層/アンカーコート層/本基材フィルム/アンカーコート層/本離型層、本離型層/帯電防止層/本基材フィルム/帯電防止層/本離型層、本離型層/オリゴマー封止層/本基材フィルム/オリゴマー封止層/本離型層、本離型層/オリゴマー封止層/帯電防止層/本基材フィルム/帯電防止層/オリゴマー封止層/本離型層などを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0078】
(アンカーコート層)
前記アンカーコート層としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン系共重合体、ポリエステル、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、これらの変性物などの高分子材料を含有するものを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0079】
(オリゴマー封止層)
前記オリゴマー封止層は、加水分解性アルコキシシリケート及び/又はその重縮合物を含有するものでもよい。加水分解性アルコキシシリケートとしては、次の一般式(3)で示す構造(R1は、炭素数が1~10の炭化水素基を表す。)を挙げることができる。
【0080】
Si(OR1)4 (3)
【0081】
式(3)中、R1は、炭素数が1~10の炭化水素基を表す。
【0082】
上記オリゴマー封止層は、さらに無機系粒子を含有してもよく、無機系粒子の具体例としてはシリカ、アルミナ、カオリン、炭酸カルシウム、酸化チタン、バリウム塩等を挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
また、上記オリゴマー封止層は、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、有機系高分子粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤発泡剤、染料等が含有されてもよい。但し、これらに限定するものではない。
【0083】
(帯電防止層)
帯電防止層は、帯電防止性付与の観点から、導電性ポリマー及びバインダーポリマーを含有するのが好ましい。
なお、塗布液中には、本発明の主旨を損なわない範囲において、その他の成分を含有していても構わない。
【0084】
前記導電性ポリマーは、具体的には下記式(4)に示すポリチオフェンおよびその誘導体(I)を含有するのが好ましい。
【0085】
【0086】
上記式(4)において、R1,R2はそれぞれ独立に、水素元素、炭素数1~12の脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、もしくは芳香族炭化水素基をあらわし、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、シクロヘキシレン基、ベンゼン基などである。但し、これらに限定するものではない。
【0087】
なお、上記のアンカーコート層、帯電防止層、オリゴマー封止層などの層は、フィルム状の基材を製膜すると同時に形成するインラインコーティング法や、製膜済みの基材フィルムに別途工程で形成するオフラインコーティング法のどちらを採用して形成することもできる。インラインコーティング法の具体例としては、例えばポリエステルを溶融押出ししてから二軸延伸後熱固定して巻き上げるまでの任意の段階でコーティングを行う方法である。通常は、溶融・急冷して得られる実質的に非晶状態の未延伸シート、その後に長手方向(縦方向)に延伸された一軸延伸フィルム、熱固定前の二軸延伸フィルムの何れかにコーティングする方法である。
【0088】
<<本離型フィルムの製造方法>>
次に、本離型フィルムの製造方法の一例について説明する。
【0089】
一般的に、離型フィルムにおいて、フッ素置換基を有するシリコーン(フッ素化シリコーン)の使用量を低減させる方策として、例えば、離型層におけるフッ素化シリコーンの含有割合を低減させたり、離型層の膜厚を薄くしたりする等の方策が考えられる。しかし、前者の方法では、本来の目的である軽剥離性が損なわれるし、後者の方法では、離型層を均一に形成出来なかったり、剥離力の安定性が低下したりするなどの問題がある。
また、(A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーン(「フッ素化硬化型シリコーン」と称する)と、(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーン(「非フッ素化硬化型シリコーン」とも称する)とを組み合わせて使用することにより、軽剥離性を維持しつつ、フッ素化シリコーンの使用量を減らすことが考えられる。
しかし、(A)フッ素化硬化型シリコーンと、(B)非フッ素化硬化型シリコーンの2種類を混合した溶液をフィルム上に塗布・乾燥した場合、より高疎水性である(A)フッ素化硬化型シリコーンが表面(空気界面)側に偏析し易いことが確認された。その一方、併用するシリコーン架橋剤や触媒については、その分子構造から、(A)フッ素化硬化型シリコーンと同水準の高疎水性を有していないため、膜中で均一に分散せず、良好な硬化状態を有する離型層が得られなかったり、(B)非フッ素化硬化型シリコーンを多く混合することができなかったりするなどの問題が確認された。
そこで本発明では、離型層の形成において、先ず、(A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーン、(C)シリコーン架橋剤及び(D)硬化触媒を混合し、攪拌および/または静置を行って反応させる処理、すなわち“事前処理”を行い、次に、(B)フッ素置換基を持たない硬化型シリコーンを混合して離型層組成物を調製することで、前記(C)シリコーン架橋剤として、(C1)フッ素置換基を有さないシリコーン架橋剤を使用した場合であっても、均一に分散することができ、且つ、シリコーン粘着剤に対してより剥離し易い(軽剥離性)塗膜形成を実現することができる。
【0090】
すなわち、本離型フィルムの好ましい製造方法の一例として、例えば、(A)フッ素化硬化型シリコーン、(C)シリコーン架橋剤及び(D)硬化触媒を混合した後、攪拌および/または静置を行う“事前処理”を実施し、次に、事前処理で得られた事前処理組成物と(B)非フッ素化硬化型シリコーンとを混合して本離型層組成物を調製し、この本離型層組成物を本基材フィルムの少なくとも片面側に塗布することにより、本離型フィルムを製造する方法を挙げることができる。但し、この製造方法に限定するものではない。
【0091】
(A)フッ素化硬化型シリコーン、(C)シリコーン架橋剤及び(D)硬化触媒を混合した後、攪拌および/または静置を行う“事前処理”を実施するようにして、少し時間をおくことで、常温下において、前記混合液中で架橋反応(「プレ架橋」とも称する)を進行させることができる。
この際、前記「攪拌および/または静置」すなわち“事前処理”は、架橋反応を進行させることができれば他の手段でもよく、その時間は、10秒以上行うのが好ましく、1分以上行うのがさらに好ましく、中でも3分以上、中でも5分以上、その中でも15分以上行うのが特に好ましい。事前処理時間の上限に特に制限は無い。溶剤の揮発や作業性の観点から、1週間以内が好ましく、3日以内がさらに好ましく、1日以内であることが特に好ましい。
なお、架橋反応が進み過ぎると、材料種によっては液の白濁やゲル化が生じる可能性がある。そのため、所定のプレ架橋時間経過後に反応制御(抑制)剤(アセチレンアルコール誘導体など)を添加(または追加)することが好ましい。反応制御剤は、後述の非フッ素化硬化型シリコーン(またはその配合液)に添加されていてもよい。
【0092】
(C)シリコーン架橋剤としては、上述のように、フッ素置換基を含まないシリコーン架橋剤を用いることが好ましい。
【0093】
上記事前処理で得られた事前処理組成物と、(B)非フッ素化硬化型シリコーンとを混合した後、必要に応じて溶剤で希釈して本離型層組成物を調製するのが好ましい。
希釈のための溶剤としては、極性溶媒でもよく、非極性溶媒であってもよい。さらに、上記溶剤を2種類以上混合して用いてもよい。
前記の極性溶媒としては、エタノール、(イソ)プロピルアルコールなどのアルコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸(イソ)プロピル、酢酸(イソ)ブチル、酢酸(イソ)ペンチル、乳酸エチル、安息香酸エチルなどのエステル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、ジイソブチルケトンなどのケトン類、エチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコール類、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、アセトニトリルなどを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
前記の非極性溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類、イソヘキサン、イソオクタン、イソノナンなどの分岐構造を有する炭化水素類、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素類、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類、ジオキサンなどを挙げることができる。フッ素溶媒としては、ハイドロフルオロエーテル類、メタキシレンヘキサフルオライド、トリデカフルオロオクタンなどを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0094】
本離型層組成物を本基材フィルムに塗布する方法としては、例えば「コーティング方式」(原崎勇次著、槙書店、1979年発行)に示されるような塗布技術を用いることができる。例えばコーティングヘッドとして、エアドクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、含浸コーター、リバースロールコーター、トランスファロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、キャストコーター、スプレイコーター、カーテンコーター、カレンダコーター、押出コーター等が例示される。但し、これらに限定するものではない。
【0095】
(他の層の形成方法)
本離型フィルムは、上述のように、基材フィルムの片面又は両面に、必要に応じてアンカーコート層、帯電防止層、オリゴマー封止層などの「他の層」を形成した後、離型層組成物を塗布し、硬化させて形成することができる。
このように「他の層」を形成する場合には、ロール状態より巻き出された基材フィルムの少なくとも片面側に、必要に応じて、アンカーコート層、帯電防止層、オリゴマー封止層などの「他の層」を形成した後、離型層組成物を塗布、硬化させることで離型層を形成する。
【0096】
<本離型フィルムの物性>
本離型フィルムは次の物性を有することができる。
【0097】
(常態剥離力)
本離型層の常態剥離力は、75mN/cm以下であるのが好ましく、中でも60mN/cm以下、その中でも50mN/cm以下、その中でも特に40mN/cm以下であるのがさらに好ましい。常態剥離力が低いほど、シリコーン粘着剤との剥離に必要な力が少なくて済み、生産工程における剥離の失敗、粘着層変形などの不具合を抑制することができる。また、軽剥離性に優れる離型フィルムを使用することで、粘着シートの両面に剥離フィルムを備える両面粘着テープにおいて、意図しない側の剥離フィルムが剥がれてしまう現象を防止することが可能である。
一方、下限に関して特に限定するものではない。剥離フィルムと粘着剤とを積層させた積層体を長期保管する上で、1mN/cm以上であるのが好ましい。
なお、常態剥離力は、粘着テープ「シリコーン粘着剤付きポリイミドテープNo.5413(3M社製)」を5cm幅で貼り合せ、室温すなわち23℃の環境下、剥離試験機により180°剥離、0.3m/minの条件下で測定することができる。
【0098】
(加熱剥離力)
本離型層の加熱剥離力は、100mN/cm以下であるのが好ましく、中でも80mN/cm以下、その中でも特に60mN/cm以下であるのがさらに好ましい。
加熱剥離力は、フィルム上に硬化形成後、離型層表面に残存する反応基(ハイドロジェンシラン基(Si-H基)など)と相関があると考えられる。常態剥離力に近い値を示すほど、表面に残存する反応基量が少ないことを示している。
なお、加熱剥離力は、粘着テープ「シリコーン粘着剤付きポリイミドテープNo.5413(3M社製)」を貼り付けた後、50mm×300mmのサイズにカットし、熱風式オーブンにて、100℃、1時間熱処理し、その後、サンプルを取り出し、室温にて1時間放置後の剥離力を測定することで得られる。この際の剥離力は、例えば島津製作所(株)製「EZ Graph」を使用し、引張速度0.3(m/min)の条件下、180°剥離を行って測定することができる。
【0099】
(残留接着率)
本離型層の残留接着率は、80%以上であるのが好ましく、中でも90%以上、その中でも95%以上がさらに好ましい。
上記範囲を満足することにより、表面から貼り合せている相手方被着体表面への離型層成分の転着が少なくなる。
なお、残留接着率とは、剥離剤の移行を確認するための指標であり、通常,粘着テープを剥離剤塗工面などに貼って、剥がしたあとの粘着力を、室温すなわち23℃の環境下において、初期の粘着力で除した比率で表示した値である(JIS Z 0109:2015)。
【0100】
<<本フィルム積層体>>
本発明の実施形態の一例にかかるフィルム積層体(「本フィルム積層体」と称する)として、上述した本離型フィルムが、シリコーン粘着剤層を介して「機能層を備えた積層フィルム」と貼り合わされてなる構成を備えたものを挙げることができる。
【0101】
<積層フィルム(1)>
前記の「機能層を有する積層フィルム」としては、例えば、基材フィルムの少なくとも片面側に、架橋樹脂層すなわち樹脂が架橋してなる構造を備えた層を有する積層フィルム(「積層フィルム(1)」と称する)を挙げることができる。
【0102】
この際、前記架橋樹脂層は、例えば、導電性ポリマーおよびバインダーポリマー、必要に応じて架橋剤、粒子を含有する架橋樹脂層組成物から形成されたものを例示することができる。
【0103】
(導電性ポリマー)
前記導電性ポリマーとして、ポリチオフェンとポリ陰イオンからなる組成物、または、上記ポリチオフェン誘導体とポリ陰イオンからなる組成物を含有することが好ましい。
【0104】
前記ポリ陰イオンとは、「遊離酸状態の酸性ポリマー」のことを指し、高分子カルボン酸、あるいは、高分子スルホン酸、ポリビニルスルホン酸などが好ましい。高分子カルボン酸の具体例としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸が例示される。高分子スルホン酸の具体例として、ポリスチレンスルホン酸が例示される。中でも、ポリスチレンスルホン酸が導電性の点で最も好ましい。なお、遊離酸の一部が中和された塩の形をとってもよい。これらポリ陰イオンを重合時に用いることにより、本来、水に不溶なポリチオフェン系化合物を水分散あるいは水性化しやすく、かつ、酸としての機能がポリチオフェン系化合物のドーピング剤としての機能も果たすものと考えられる。
【0105】
また、高分子カルボン酸や高分子スルホン酸は、共重合可能な他のモノマー、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレンなどと共重合した形で用いることもできる。ポリ陰イオンとして用いられる高分子カルボン酸や高分子スルホン酸の分子量は特に限定されないが、塗剤の安定性や導電性の点で、その質量平均分子量は1000~1000000が好ましく、より好ましくは5000~150000である。本発明の特性を阻害しない範囲で、一部リチウム塩やナトリウム塩などのアルカリ塩やアンモニウム塩などを含んでも良い。中和された塩の場合も、非常に強い酸として機能するポリスチレンスルホン酸とアンモニウム塩は、中和後の平衡反応の進行により、酸性側に平衡がずれることが分かっており、これによりドーパントとして作用すると考えられる。
【0106】
ポリチオフェンまたはポリチオフェン誘導体に対して、ポリ陰イオンは、固形分質量比でより過剰に存在させた方が導電性の点で好ましく、ポリチオフェンまたはポリチオフェン誘導体が1質量部に対し、ポリ陰イオンは1質量部~5質量部が好ましく、1質量部~3質量部がより好ましい。上記ポリチオフェンまたはポリチオフェン誘導体とポリ陰イオンからなる組成物に関して、例えば、特開平6-295016号公報、特開平7-292081号公報、特開平1-313521号公報、特開2000-6324号公報、ヨーロッパ特許EP602731号、米国特許US5391472号などに記載例があるが、これら以外の方法であってもよい。一例を挙げると、3,4-ジヒドロキシチオフェン-2,5-ジカルボキシエステルのアルカリ金属塩を出発物質として、3,4-エチレンジオキシチオフェンを得たのち、ポリスチレンスルホン酸水溶液にペルオキソ二硫酸カリウムと硫酸鉄と、先に得た3,4―エチレンジオキシチオフェンを導入し、反応させ、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)などのポリチオフェンに、ポリスチレンスルホン酸などのポリ陰イオンが複合体化した組成物を得る。
【0107】
例えば、導電性ポリマー技術の最新動向(株式会社 東レリサーチセンター発行 1999年6月1日 第1刷)にも記載例がある。
【0108】
(バインダーポリマー)
架橋樹脂層組成物を構成するバインダーポリマーとは、高分子化合物安全性評価フロースキーム(昭和60年11月、化学物質審議会主催)に準じて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による数平均分子量(Mn)が1000以上の高分子化合物で、かつ造膜性を有するものと定義する。
【0109】
架橋樹脂層組成物を構成するバインダーポリマーとしては、イオン性ポリマーと相溶又は混合分散可能であれば、熱硬化性樹脂でも熱可塑性樹脂であってもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリイミド、ポリアミドイミド等のポリイミド;ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド12、ポリアミド11等のポリアミド;ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素樹脂;ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂;エポキシ樹脂;オキセタン樹脂;キシレン樹脂;アラミド樹脂;ポリイミドシリコーン;ポリウレタン;ポリウレア;メラミン樹脂;フェノール樹脂;ポリエーテル;アクリル樹脂及びこれらの共重合体等を挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を併用してもよい。但し、これらに限定するものではない。
【0110】
前記バインダーポリマーは、原料として、有機溶剤に溶解されていてもよいし、ヒドロキシル基やスルホ基、カルボキシ基等の官能基が付与されて水溶液化若しくは界面活性剤を併用して水分散化されていてもよい。また、バインダーポリマーには、必要に応じて、架橋剤、重合開始剤等の硬化剤、重合促進剤、溶媒、粘度調整剤等を併用してもよい。
【0111】
前記バインダーポリマーの中でも、離型層との密着性の観点から、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ビニル樹脂の中から選択されるいずれか1種類以上の使用が好ましい。
【0112】
架橋樹脂層組成物中におけるバインダーポリマーの含有量は、固形分質量比で、好ましくは5~90質量%であり、より好ましくは10~70質量%であり、さらに好ましくは10~60質量%である。バインダーポリマーの含有量が、上記範囲にあれば、得られる架橋樹脂層の強度や離型層への密着性を十分に得ることができる。
【0113】
(架橋剤)
架橋樹脂層組成物には、必要に応じて架橋剤を含ませることができる。
架橋剤は主に、他の樹脂や化合物に含まれる官能基との架橋反応や、自己架橋によって、架橋樹脂層の凝集性、表面硬度、耐擦傷性、耐溶剤性、耐水性等を改良することができる。
【0114】
架橋剤はどのような種類の架橋剤でも使用することが可能である。例えばメラミン化合物、グアナミン系、アルキルアミド系、及びポリアミド系の化合物、グリオキサール系、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、アジリジン化合物、イソシアネート化合物、シランカップリング剤、ジアルコールアルミネート系カップリング剤、ジアルデヒド化合物、ジルコアルミネート系カップリング剤、過酸化物、熱又は光反応性のビニル化合物や感光性樹脂等が好適に用いられる。中でも、離型層への良好な密着性を相乗的に得るという観点から、メラミン化合物、エポキシ化合物の架橋剤やシランカップリング剤を用いることが好ましい。
また、これら架橋剤には他のポリマー骨格に反応性基を持たせた、ポリマー型架橋反応性化合物も含まれており、さらに本発明においては、これら架橋剤を1種又は2種以上を併用してもよい。
【0115】
架橋樹脂層組成物中における架橋剤の含有量は、固形分質量比で、好ましくは1~90質量%であり、より好ましくは3~50質量%であり、さらに好ましくは5質量%~40質量%である。架橋剤の比率が、上記の範囲にあれば、バインダーポリマーとの相乗作用による離型層への密着性を十分に得ることができる。
【0116】
(粒子)
架橋樹脂層の固着性、滑り性改良を目的として、架橋樹脂層は粒子を含有してもよい。
当該粒子の平均粒径に特に制限はない。例えば光学用途に用いる場合はフィルムの透明性の観点から、好ましくは1.0μm以下であり、より好ましくは0.5μm以下であり、さらに好ましくは0.2μm以下である。また架橋樹脂層の固着性、滑り性改良を得る観点から好ましくは0.01μm以上である。
粒子の具体例としてはシリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、二酸化チタン等の不活性無機粒子やポリスチレン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリビニル系樹脂から得られる微粒子あるいはこれらの架橋粒子に代表される有機粒子等を挙げることができる。
【0117】
なお、上記粒子の平均粒径は、以下の通り測定することができる。
原料としての粒子の平均粒径は、動的光散乱法等によって測定される体積基準粒度分布から求められる平均粒径(D50)として測定することができる。
架橋樹脂層に含有されている状態の粒子の平均粒径は、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)を使用し、架橋樹脂層の表面或いは断面を観察し、10個以上の粒子の直径を測定し、その平均値として求めることができる。その際、断面形状が楕円形である場合は、最長径と最短径の平均値を各粒子の直径として測定することができる。
【0118】
(その他)
架橋樹脂層は、必要に応じて界面活性剤、消泡剤、塗布性改良剤、離型剤、増粘剤、有機系潤滑剤、帯電防止剤、導電剤、紫外線等光吸収剤、酸化防止剤、発泡剤、染料、顔料等が含有されてもよい。
【0119】
架橋樹脂層中の成分の分析は、例えば、TOF-SIMS、ESCA、蛍光X線等の分析によって行うことができる。
【0120】
(架橋樹脂層の形成方法)
架橋樹脂層の形成方法に関しては、ポリエステルフィルムの延伸工程中にフィルム表面を処理する、インラインコーティングにより設けられてもよく、一旦製造したフィルム上に系外で塗布する、オフラインコーティングを採用してもよい。製膜と同時に塗布が可能であるため、製造が安価に対応可能であり、架橋樹脂層の厚みを延伸倍率により変化させることができるという点でインラインコーティングが好ましく用いられる。
【0121】
インラインコーティングについては、以下に限定するものではないが、例えば、逐次二軸延伸においては、特に縦延伸が終了した横延伸前にコーティング処理を施すことができる。インラインコーティングによりポリエステルフィルム上に架橋樹脂層が設けられる場合には、製膜と同時に塗布が可能になると共に架橋樹脂層を高温で処理することができ、ポリエステルフィルムとして好適なフィルムを製造できる。
【0122】
インラインコーティングによって架橋樹脂層を設ける場合は、上述の一連の化合物を含む架橋樹脂層組成物の水溶液又は水分散体として、塗布液をポリエステルフィルム上に塗布する要領にて行うのが好ましい。また、本発明の主旨を損なわない範囲において、水への分散性改良、造膜性改良等を目的として、塗布液中には少量の有機溶剤を含有していてもよい。有機溶剤は1種又は2種以上を併用することができる。
【0123】
塗布液中の有機溶剤の含有量は10質量%以下が好ましく、さらに好ましくは5質量%以下である。具体的な有機溶剤の例としては、n-ブチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、メチルアルコール等の脂肪族又は脂環族アルコール類、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類、n-ブチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール誘導体、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸アミル等のエステル類、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類、N-メチルピロリドン等のアミド類を挙げることができる。
【0124】
また、オフラインコーティングあるいはインラインコーティングに係わらず、必要に応じて熱処理と紫外線照射等の活性エネルギー線照射とを併用してもよい。
【0125】
架橋樹脂層を形成する方法としては、例えば、グラビアコート、リバースロールコート、ダイコート、エアドクターコート、ブレードコート、ロッドコート、バーコート、カーテンコート、ナイフコート、トランスファロールコート、スクイズコート、カーテンコート、含浸コート、キスコート、スプレーコート、カレンダコート、押出コート等、従来公知の塗布方式を用いることができる。
【0126】
(架橋樹脂層の厚さ)
架橋樹脂層の厚さは、最終的な被膜としてみた際に、各種機能性を発現させる観点から、0.01μm~3μmであるのが好ましく、中でも0.02μm以上或いは1μm以下、その中でも0.03μm以上或いは0.3μm以下であるのがさらに好ましい。
なお、架橋樹脂層組成物を含む塗布液の塗布量は、通常0.01~3g/m2、好ましくは0.01~1g/m2、さらに好ましくは0.01~0.3g/m2である。0.01g/m2以上であれば、離型層への接着性(易接着性能)及び帯電防止性能において十分な性能が得られ、3g/m2以下であれば、架橋樹脂層は、外観・透明性が良好で、フィルムのブロッキング、ライン速度低下による生産性の低下を招くおそれがない。
本発明において塗布量は、塗布した時間あたりの液質量(乾燥前)、塗布液不揮発分濃度、塗布幅、延伸倍率、ライン速度等から計算で求めることができる。
【0127】
<積層フィルム(2)>
前記の「機能層を有する積層フィルム」としては、例えば、本基材フィルムの片面側に「他の離型層」を備えた離型フィルム(「積層フィルム(2)」と称する)を挙げることができる。
【0128】
前記「他の離型層」の一例として、(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーンを主成分として含有するシリコーン組成物から形成される第1層、フッ素置換基を有する成分を含有する第2層を順次備えた構成からなるものを挙げることができる。
【0129】
前記「他の離型層」の別の一例として、(A)フッ素置換基を含有する硬化型シリコーンを主成分として含有するシリコーン組成物から形成される層を挙げることができる。
【0130】
さらに前記「他の離型層」の別の一例として、(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーンを主成分として含有するシリコーン組成物から形成される層を挙げることができる。
【0131】
前記の「主成分」とは、構成成分のうち、最も質量割合の大きな成分を意味するものである。
【0132】
<本フィルム積層体の用途>
本フィルム積層体は、耐久性および透明性が良好なシリコーン粘着剤を用いることができる観点から、車載用部材の貼り合わせに用いるのが好ましい。
【0133】
<本離型フィルム及び本フィルム積層体の使用方法>
本離型フィルムは、シリコーン粘着剤に対して優れた離型性を有するから、シリコーン粘着剤に対する軽剥離フィルムとして次のように使用することができる。
すなわち、本離型フィルム(「軽剥離フィルム」と称する)を、シリコーン粘着剤からなるシリコーン粘着剤層の一側に積層し、当該シリコーン粘着剤層の他側には、前記離型フィルムよりも剥離強度が高い離型フィルム(「重剥離フィルム」と称する)を積層してなる構成を備えたフィルム積層体において、前記軽剥離フィルムを剥がした後、露出したシリコーン粘着剤層表面を「被着体」に貼着させ、該シリコーン粘着剤層を硬化させた後、前記重剥離フィルムを剥離するようにして使用することができる。ただし、かかる使用方法に限定するものではない。
【0134】
前記被着体としては、例えば各種工程紙、合い紙、光学部材を挙げることができる。
前記光学部材としては、偏光板、又は、タッチセンサーなどを挙げることができる。
また、シリコーン粘着剤自体が有する耐熱性、耐寒性、耐候性、高透明性を活かして、自動車に搭載されるタッチパネルなどの車載用にも利用できる。
【0135】
(シリコーン粘着剤)
前記シリコーン粘着剤は、シリコーンを主成分樹脂とする粘着剤であればよい。
当該「主成分樹脂」とは、粘着剤を構成する樹脂の中で最も含有割合(質量)の大きな樹脂の意味である。
前記シリコーン粘着剤は、例えば付加反応型、過酸化物硬化型又は縮合反応型のシリコーン粘着剤等を挙げることができる。中でも、低温短時間で硬化可能という観点から、付加反応型シリコーン粘着剤が好ましく用いられる。なお、これらの付加反応型シリコーン粘着剤は支持体上に粘着剤層の形成時に硬化するものである。
前記シリコーン粘着剤として、付加反応型シリコーン粘着剤を用いる場合、前記シリコーン粘着剤は白金触媒等の触媒を含んでいてもよい。
例えば、前記付加反応型シリコーン粘着剤は、必要に応じて、トルエン等の溶剤で希釈したシリコーン樹脂溶液を、白金触媒等の触媒を添加して均一になるよう攪拌した後、支持体上に塗布し、100~130℃/1~5分で硬化させることができる。
また、必要に応じて、前記付加反応型シリコーン粘着剤に架橋剤、粘着力を制御するための添加剤を加えたり、前記粘着剤層の形成前に前記支持体にプライマー処理を施したりしてもよい。
【0136】
前記付加反応型シリコーン粘着剤に用いるシリコーン樹脂の市販品としては、SD4580PSA、SD4584PSA、SD4585PSA、SD4587LPSA、SD4560PSA、SD4570PSA、SD4600FCPSA、SD4593PSA、DC7651ADHESIVE、DC7652ADHESIVE、LTC-755、LTC-310(いずれも東レ・ダウコーニング社製)、KR-3700、KR-3701、X-40-3237-1、X-40-3240、X-40-3291-1、X-40-3229、X-40-3323、X-40-3306、X-40-3270-1(いずれも信越化学社製)、AS-PSA001、AS-PSA002、AS-PSA003、AS-PSA004、AS-PSA005、AS-PSA012、AS-PSA014、PSA-7465(いずれも荒川化学工業社製)、TSR1512、TSR1516、TSR1521(いずれもモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製)等を挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0137】
(偏光板)
上記偏光板の材料および構成は任意である。例えば、ヨウ素を配向色素として用いた延伸ポリビニルアルコールフィルムに保護フィルムとしてTAC(トリアセチルセルロース)フィルムを積層したものが、この種の偏光板として広く実用化されている。
また、偏光板は、表面に、実質的に位相差を有しないハードコート、防眩、低反射、帯電防止などの機能を持つ層構成を有するものであってもよい。
【0138】
(タッチセンサー)
上記タッチセンサーは、ユーザが画面に表示される画像を指やタッチペンなどで接触する場合、この接触に反応してタッチ地点を把握する部材であり、センサー技術により、静電容量方式、抵抗膜方式、赤外線または超音波などを利用した表面波方式などの方法が例示される。
一般にタッチセンサーは液晶表示パネル、有機ELなどの表示装置に搭載される。
また、近年、ガラス基板の代替として、フレキシブル性に着目して、基材フィルムを用いる傾向にある。
タッチセンサーフィルムは、感知電極の機能を実行するためのパターン化した透明導電層を設けるのが一般的である。
【0139】
<語句の説明など>
一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、その厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいい、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいう(日本工業規格;JIS K6900)。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0140】
本発明において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【実施例】
【0141】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0142】
<評価方法>
(1)常態剥離力
試料フィルムの離型面に、粘着テープ「シリコーン粘着剤付きポリイミドテープNo.5413(3M社製)」を5cm幅で貼り合せ、室温(23℃)の環境下、剥離試験機により180°剥離、0.3m/minの条件で常態剥離力の測定を行った。
【0143】
(2)加熱剥離力
試料フィルムの離型面に粘着テープ「シリコーン粘着剤付きポリイミドテープNo.5413(3M社製)」を貼り付けた後、50mm×300mmのサイズにカットし、熱風式オーブンにて、100℃、1時間熱処理した。その後、サンプルを取り出し、室温(23℃)にて1時間放置後の剥離力を測定した。
剥離力は、島津製作所(株)製「EZ Graph」を使用し、引張速度0.3(m/min)の条件下、室温(23℃)にて180°剥離を行った。
加熱剥離力の値が低い方が、剥離特性が良好であると評価することができる。
【0144】
(3)残留接着率(離型層の移行性代用評価)
試料フィルムの離型面に、シリコーン粘着剤付きテープ(3M社製「No.5413」)を2kgゴムローラーで貼り付けた後、50mm×250mm長に切り出した状態を残留接着率の測定試料とした。100℃に加熱したオーブン内で、1時間加熱処理した後、20mm幅に切り出し常温常湿に1時間放置した。洗浄済みのステンレス板(60mm×150mm)に測定試料から剥がした粘着テープをゴムローラーで圧着した。
剥離力は、島津製作所(株)製「EZ Graph」を使用し、引張速度0.3(m/min)の条件下、室温(23℃)にて180°剥離を行った。
そして、測定した残留接着率の評価フィルムの剥離力及び基準フィルム(試料フィルムの代わりに、ナフロンテープにNo.5413テープを貼り合せた試料)の剥離力を次式に代入して残留接着率(%)を求めた。
残留接着率(%)=(移行性評価フィルムの剥離力/基準フィルムの剥離力)×100
【0145】
(4)離型層中の厚み方向におけるフッ素原子濃度(atom%)
XPS(X線光電子分光法)にGC-IB(ガスクラスターイオンビーム)を用いて、スパッタ速度(スパッタ条件設定)一定下において、試料フィルムの離型層内の厚み方向における炭素(C)、酸素(O)、シリコン(Si)及びフッ素(F)の原子を対象に濃度分布(比率)を測定した。
【0146】
この際、XPSの設定条件は次のとおりである。
装置:アルバック・ファイ製 PHI5000 VersaProbe II
=分析条件=
X線強度:AlKα/15kV・25W
測定範囲:100μmφ
パスエネルギー:58.70eV
帯電補正:284.6eV(C1s)
=スパッタ条件=
Ar-GCIB
10kV、60分(3分間隔、20水準)
【0147】
得られたフッ素原子濃度分布(縦軸:フッ素原子濃度(atom%)、横軸:スパッタ時間(min))を、総スパッタ時間で均等に9分割して、第1計測点(スパッタ時間0秒、離型層表面)から第10計測点(下地、基材PETフィルム到達)までを決め、各計測点におけるフッ素原子濃度(atom%)を求めた。
そして、第1計測点におけるフッ素原子の濃度(atom%)に対する、第2計測点におけるフッ素原子の濃度(atom%)の比率(%)、並びに、第1計測点におけるフッ素原子の濃度(atom%)に対する、第6計測点~第10計測点における平均フッ素原子濃度(atom%)の比率(%)を算出して、表1に示した。
【0148】
<実施例1>
下記(A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーン、下記(C1)シリコーン架橋剤、及び下記(D1)硬化触媒1を混合して溶液a1を作製した。1分間撹拌後、下記溶液b1((B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーン+(D2)硬化触媒2)を、質量比(溶液a1:溶液b1)が1:2となるように混合し、固形分濃度3.6質量%の塗布液A1を作製した。
そして、基材フィルム(三菱ケミカル(株)製PETフィルム(「T100-38」、厚み38μm))の片面に、前記塗布液A1をNo.4バーを用いて塗布し、150℃で15秒間熱処理して硬化させて離型層を設けた離型フィルム(試料フィルム)を得た。
【0149】
(離型層組成物)
溶液a1:
(A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーン
(東レ・ダウコーニング(株)「3062」、10質量%、粘度10mm2/s) 100質量部
(C1)フッ素置換基を含まないシリコーン架橋剤
(東レ・ダウコーニング(株)「3062A」) 0.50質量部
(D1)白金触媒1
(東レ・ダウコーニング(株)「FS XK-3077」) 0.50質量部
ジイソプロピルエーテル/酢酸エチル(3:7)
【0150】
溶液b1:
(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーン
(信越化学(株)製「KS-847H」、溶剤型、30質量%、架橋剤/反応制御剤含有、粘度11000mPa・s(25℃))67質量部
(D2)白金触媒2(信越化学(株)製「CAT-PL-50T」) 0.67質量部
ジイソプロピルエーテル/酢酸エチル(3:7)
【0151】
<実施例2>~<実施例5>
実施例1において、溶液a1作製後に1分間撹拌を行い、さらに静置時間をそれぞれ表に示すように追加した以外は、実施例1と同様に製造して離型フィルム(試料フィルム)を得た。
【0152】
<実施例6>
実施例1において、溶液a1を固形分濃度10質量%で作製後に1分間撹拌を行い、さらに15分間静置し、その後溶媒で希釈し固形分濃度3.6質量%とした以外は、実施例1と同様に製造して離型フィルム(試料フィルム)を得た。
【0153】
<比較例1>
実施例1において、撹拌を全く行わなかった以外は、実施例1と同様に製造して離型フィルム(試料フィルム)を得た。
なお、「攪拌を全く行わなかった」とは、「(C1)シリコーン架橋剤及び(D1)硬化触媒1を混合して溶液a1を作製した後、攪拌をせずにすぐに溶液b2を混合して塗布液A1を作製した」との意味である。
【0154】
<比較例2>
実施例1において、(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーン、および(D2)硬化触媒2を混合しなかった以外は、実施例1と同様に製造して離型フィルム(試料フィルム)を得た。
【0155】
<比較例3>
実施例2において、(C1)フッ素置換基を含まないシリコーン架橋剤の代わりに、(C2)フッ素置換基を有する架橋剤(東レ・ダウコーニング(株)「3062C」)0.5質量部)を配合した以外は、実施例2と同様に製造して離型フィルム(試料フィルム)を得た。
【0156】
<比較例4>
比較例2において、(C1)フッ素置換基を含まないシリコーン架橋剤の代わりに、(C2)フッ素置換基を有する架橋剤(東レ・ダウコーニング(株)「3062C」)0.5質量部)を配合した以外は、実施例1と同様に製造して離型フィルム(試料フィルム)を得た。
【0157】
<比較例5>
フッ素置換基を含まない硬化型シリコーン(フッ素置換基を含まない架橋剤を含む)としてTPR6600(モメンティブ社製):100質量部に対して、硬化触媒としてLC600(モメンティブ社製):3質量部を配合し混合して溶液b2を作成した。
フッ素置換基を有するフッ素置換基を有する硬化型シリコーン(架橋剤を含む)としてBY24-900(東レ・ダウコーニング(株)社製):100質量部に対して、硬化触媒としてNC-25(東レ・ダウコーニング(株)社製):0.5質量部を配合し混合して溶液a2を作成した。
前記フッ素置換基を有する硬化型シリコーンを含む溶液a2:100質量部に対して、前記フッ素置換基を含まない硬化型シリコーンを含む溶液b2:100質量部を配合して混合し、n-ヘプタンとメチルイソブチルケトンを1:1の重量比で混合した溶媒を加えポリマー成分を溶解させて、固形分濃度が3.0質量%の塗布液A2を作製した。
なお、溶液a2と溶液b2の混合前には、撹拌を全く行わなかった。
ここで「攪拌を全く行わなかった」とは、「溶液a2を作成した後、攪拌をせずにすぐに溶液b2混合して塗布液A2を作成した」との意味である。
そして、基材フィルム(三菱ケミカル(株)製PETフィルム(「T100-38」、厚み38μm))の片面に、前記塗布液A2をNo.10バーを用いて塗布し、120℃で120秒間熱処理して硬化させて離型層を設けた離型フィルム(試料フィルム)を得た。
【0158】
<比較例6>
フッ素置換基を有するフッ素置換基を有する硬化型シリコーン(架橋剤を含む)としてBY24-900(東レ・ダウコーニング(株)社製):100質量部に対して、硬化触媒としてNC-25(東レ・ダウコーニング(株)社製):0.5質量部を配合し混合して溶液a2を作成した。
前記溶液a2にn-ヘプタンとメチルイソブチルケトンを1:1の重量比で混合した溶媒を加えポリマー成分を溶解させて、固形分濃度が3.6質量%の塗布液A3を作製した。
そして、基材フィルム(三菱ケミカル(株)製PETフィルム(「T100-38」、厚み38μm))の片面に、前記塗布液A3をNo.4バーを用いて塗布し、120℃で120秒間熱処理して硬化させて離型層を設けた離型フィルム(試料フィルム)を得た。
【0159】
【0160】
【0161】
<考察>
上記実施例及びこれまで本発明者が行ってきた試験結果から、基材フィルムの少なくとも片面側に形成する離型層が、(A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーン、(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーン、及び、(D)硬化触媒を含む離型層組成物が硬化してなるものは、フッ素化シリコーンの使用量を減らしても、シリコーン粘着剤層に対して剥離し易い優れた軽剥離性を有することが分かった。
しかも、そのような離型層の共通点を調査すると、当該離型層内の厚み方向におけるフッ素原子の濃度分布において、フッ素が離型層表面に偏在している特徴を見いだすことができた。
より具体的には、上記実施例のようにして得られたフッ素原子濃度分布(縦軸:フッ素原子濃度(atom%)、横軸:スパッタ時間(min))において、総スパッタ時間で均等に9分割して、第1計測点(スパッタ時間0)、第2計測点、・・第10計測点を決めた際、第2計測点~第10計測点におけるフッ素原子濃度(atom%)が、第1計測点(スパッタ時間0)におけるフッ素原子濃度(atom%)の80.0%以下であるという特徴を見出すことができた。
さらに、第6計測点~第10計測点における平均フッ素原子濃度(atom%)は、第1計測点(スパッタ時間0)におけるフッ素原子濃度(atom%)の2.2%より高ければ、さらに優れた効果、すなわち、フッ素化シリコーンの使用量を減らしても、シリコーン粘着剤層に対して剥離し易い優れた軽剥離性を得ることができることが分かった。
【0162】
他方、上記離型層の形成方法においては、次のことが分かった。
(A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーンと(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーンとの2種類を混合した溶液をフィルム上に塗布・乾燥した場合、より高疎水性である(A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーンが表面(空気界面)側に偏析し易いことが確認された。
その一方、併用されるシリコーン架橋剤や触媒については、その分子構造から、(A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーンと同水準の高疎水性を有していない。そのため、膜中で均一に分散せず、良好な硬化状態を有する離型層が得られなかったり、(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーンを多く混合することができなかったりした。
そこで本発明では、先ず、(A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーン、(C)シリコーン架橋剤及び(D)硬化触媒を混合し、攪拌および/または静置を行って反応させる“事前処理”を行い、該事前処理で得られた事前処理組成物と、(B)フッ素置換基を持たない硬化型シリコーンとを混合して離型層組成物を調製したところ、(C1)フッ素置換基を有さないシリコーン架橋剤を使用しても、均一に分散することができ、且つ、シリコーン粘着剤に対してより剥離し易い(軽剥離性)塗膜形成を実現することができることが分かった。
このメカニズム詳細は不明であるが、配合液作製後、経時変化において、配合液中で、適度な絡み合い(プレ架橋)が起こっているものと推察される。それに伴い、(A)フッ素置換基を有する硬化型シリコーンが表面(空気界面)側により多く存在しようとするものと推察される。
その結果、フィルムに塗布した後も、フッ素置換基が離型層表面近傍により多く偏在することで、軽剥離な特性を有する塗膜形成が可能になったものと推察される。
さらには、より多くの(B)フッ素置換基を含まない硬化型シリコーンを混合することができるため、離型層皮膜を形成する過程において、皮膜中におけるフッ素原子含有量の合計量をさらに低減することが可能となり、効率よく、離型性を発現できることもわかった。