(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】エチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物、フィルム及び多層構造体
(51)【国際特許分類】
C08L 29/04 20060101AFI20241119BHJP
C08K 5/56 20060101ALI20241119BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20241119BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241119BHJP
B32B 27/28 20060101ALN20241119BHJP
【FI】
C08L29/04 A
C08K5/56
C08K3/22
C08J5/18 CEX
B32B27/28 102
(21)【出願番号】P 2021539266
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2020030358
(87)【国際公開番号】W WO2021029353
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2019147753
(32)【優先日】2019-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019147756
(32)【優先日】2019-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019216941
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】中島 拓也
(72)【発明者】
【氏名】中井 喜裕
(72)【発明者】
【氏名】竹下 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】工藤 健二
(72)【発明者】
【氏名】山本 友之
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-301055(JP,A)
【文献】特開2017-088666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-ビニルアルコール系共重合体、及び金属化合物を含有し、上記金属化合物が下記一般式(1)を満たすことを特徴とするエチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物。
M
a(OH)
bA
n-
(2a-b)/n・・・(1)
(上記Mは
Zn、Aは価数がn-のヒドロキシ配位子以外のアニオン性配位子を表す。ただし、AとしてO(オキソ配位子)は除く。nは1以上の整数であり、またa,bは0より大きい数字であり、a/b=0.1~10を満たす。)
【請求項2】
上記金属化合物の金属換算含有量が、エチレン-ビニルアルコール系共重合体100重量部に対して、0.01~10重量部であることを特徴とする請求項1記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物を含有することを特徴とするフィルム。
【請求項4】
上記フィルムの20℃、90%RHの条件下の酸素透過度が、15cc・20μm/m
2・day・atm以下であることを特徴とする請求項3記載のフィルム。
【請求項5】
請求項3または4記載のフィルムからなる層を少なくとも一層有する多層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、高湿度下において高いガスバリア性を有するフィルムを得ることができるエチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エチレン-ビニルアルコール系共重合体は、透明性、酸素等のガスバリア性、保香性、耐溶剤性、耐油性、機械強度等に優れており、フィルム、シート、ボトル等に成形され、食品包装材料、医薬品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料等の各種包装材料として広く用いられている。
【0003】
しかし、エチレン-ビニルアルコール系共重合体は分子内に比較的活性な水酸基を有するため、湿度による影響を大きく受けやすく、高湿度環境下ではガスバリア性が著しく低下する。
【0004】
エチレン-ビニルアルコール系共重合体のガスバリア性を高めたエチレン-ビニルアルコール系共重合体フィルムとして、特許文献1では、エチレン-ビニルアルコール系共重合体に無機化合物を均一に分散させたエチレン-ビニルアルコール系共重合体フィルムが開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、エチレン-ビニルアルコール系共重合体に酸化亜鉛超微粒子を良好に分散させることにより、透明性に優れた紫外線遮光フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2016/088862号
【文献】特開2004-91521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1で開示されているフィルムは、無機化合物をエチレン-ビニルアルコール系共重合体に分散させて、ガスバリア性を改善するものであるが、高湿度下におけるガスバリア性が充分ではなく、さらなる改善が求められている。
また、特許文献2では、エチレン-ビニルアルコール系共重合体に酸化亜鉛超微粒子を含有するフィルムを提供するものの、高湿度下におけるガスバリア性の改善を課題としたものではないため、高湿度下におけるガスバリア性は不充分であり、さらなる改善が求められている。
【0008】
そこで、本発明ではこのような背景下において、高湿度下におけるガスバリア性、特に高湿度下における酸素バリア性に優れるエチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
しかるに、本発明者らは、エチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物において、特定の金属化合物を含有することにより、高湿度下におけるガスバリア性に優れることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、エチレン-ビニルアルコール系共重合体、及び金属化合物を含有し、上記金属化合物が下記一般式(1)を満たすエチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物を第1の要旨とするものである。
Ma(OH)bAn-
(2a-b)/n・・・(1)
(上記Mは金属種、Aは価数がn-のヒドロキシ配位子以外のアニオン性配位子を表す。ただし、AとしてO(オキソ配位子)は除く。nは1以上の整数であり、またa,bは0より大きい数字であり、a/b=0.1~10を満たす。)
また、本発明は、上記第1の要旨のエチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物を含有するフィルムを第2の要旨とし、さらに上記第2の要旨のフィルムからなる層を少なくとも一層有する多層構造体を第3の要旨とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物は、エチレン-ビニルアルコール系共重合体、及び金属化合物を含有し、上記金属化合物が上記一般式(1)を満たすものである。上記一般式(1)を満たす金属化合物の周囲にエチレン-ビニルアルコール系共重合体分子や水分子が存在する場合、金属化合物の層と層とが剥離し、この微細な層状の構造単位がエチレン-ビニルアルコール系共重合体と分子レベルで相互作用する結果、このエチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物からなるフィルムは、高湿度下におけるガスバリア性、特には酸素バリア性に優れたものとなる。
【0012】
上記金属化合物の金属換算含有量が、エチレン-ビニルアルコール系共重合体100重量部に対して、0.01~10重量部であると、フィルムとした際に、高湿度下におけるガスバリア性、特には酸素バリア性により優れたものとすることができる。
【0013】
本発明のエチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂組成物を含有するフィルムは、高湿度下におけるガスバリア性、特には酸素バリア性に優れたものとすることができる。
【0014】
上記フィルムの20℃、90%RHの条件下の酸素透過度が、15cc・20μm/m2・day・atm以下であると、高湿度下におけるガスバリア性、特には酸素バリア性により優れたものとすることができる。
【0015】
上記フィルムからなる層を少なくとも一層有する多層構造体は、高湿度下におけるガスバリア性、特には酸素バリア性に優れたものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
また、本発明において、「エチレン-ビニルアルコール系共重合体」を「EVOH」と称する場合がある。
【0017】
本発明のEVOH樹脂組成物は、EVOH、及び金属化合物を含有し、上記金属化合物が下記一般式(1)を満たすものである。
Ma(OH)bAn-
(2a-b)/n・・・(1)
(上記Mは金属種、Aは価数がn-のヒドロキシ配位子以外のアニオン性配位子を表す。ただし、AとしてO(オキソ配位子)は除く。nは1以上の整数であり、またa,bは0より大きい数字であり、a/b=0.1~10を満たす。)
以下、各構成成分について説明する。
【0018】
〔EVOH〕
上記EVOHは、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体であるエチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化させることにより得られる樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。上記ビニルエステル系モノマーとしては、経済的な面から、一般的には酢酸ビニルが用いられる。
【0019】
エチレンとビニルエステル系モノマーとの重合法としては、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合を用いて行うことができ、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。
【0020】
このようにして製造されるEVOHは、エチレン由来の構造単位とビニルアルコール構造単位を主とし、通常、ケン化されずに残存する若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。
【0021】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、市場入手性や製造時の不純物処理効率がよい点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。他のビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられ、通常炭素数3~20、好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルを用いることができる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0022】
上記EVOHにおけるエチレン構造単位の含有量は、ビニルエステル系モノマーとエチレンとを共重合させる際のエチレンの圧力によって制御することができ、通常20~60mol%、好ましくは25~50mol%、特に好ましくは25~35mol%である。かかる含有量が低すぎる場合は、高湿下のガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に高すぎる場合は、ガスバリア性が低下する傾向がある。
なお、かかるエチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて測定することができる。
【0023】
また、EVOHにおけるビニルエステル成分のケン化度は、エチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化する際のケン化触媒(通常、水酸化ナトリウム等のアルカリ性触媒が用いられる)の量、温度、時間等によって制御でき、通常90~100mol%、好ましくは95~100mol%、特に好ましくは99~100mol%である。かかるケン化度が低すぎる場合にはガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
かかるEVOHのケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOHは水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液として用いる)に基づいて測定することができる。
【0024】
また、上記EVOHのメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、通常0.5~100g/10分であり、好ましくは1~50g/10分、特に好ましくは3~35g/10分である。かかるMFRが大きすぎる場合には、製膜性が不安定となる傾向があり、小さすぎる場合には粘度が高くなりすぎて溶融押出しが困難となる傾向がある。
かかるMFRは、EVOHの重合度の指標となるものであり、エチレンとビニルエステル系モノマーを共重合する際の重合開始剤の量や、溶媒の量によって調整することができる。
【0025】
また、EVOHには、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば、EVOHの10mol%以下)で、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい。
上記コモノマーとしては、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類、3-ブテン-1-オール、3-ブテン-1,2-ジオール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物等の誘導体;2-メチレンプロパン-1,3-ジオール、3-メチレンペンタン-1,5-ジオール等のヒドロキシアルキルビニリデン類;1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチリルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシアルキルビニリデンジアセテート類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはアルキル基の炭素数が1~18であるモノまたはジアルキルエステル類;アクリルアミド、アルキル基の炭素数が1~18であるN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類;メタアクリルアミド、アルキル基の炭素数が1~18であるN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類;アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;アルキル基の炭素数が1~18であるアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類;トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類;酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類;アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類;トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のコモノマーが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0026】
特に、側鎖に1級水酸基を有するEVOHは、ガスバリア性を保持しつつ二次成形性が良好になる点で好ましく、なかでも、ヒドロキシ基含有α-オレフィン類を共重合したEVOHが好ましく、特には、1,2-ジオール構造を側鎖に有するEVOHが好ましい。
特に、側鎖に1級水酸基を有するEVOHである場合、当該1級水酸基を有するモノマー由来の構造単位の含有量は、EVOHの通常0.1~20mol%、さらには0.5~15mol%、特には1~10mol%のものが好ましい。
【0027】
また、本発明で用いるEVOHとしては、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化、アシル化等の「後変性」されたものであってもよい。
【0028】
さらに、本発明で使用されるEVOHは、異なる他のEVOHとの混合物であってもよく、かかる他のEVOHとしては、ケン化度が異なるもの、重合度が異なるもの、共重合成分が異なるもの等をあげることができる。
【0029】
上記EVOHは、EVOH樹脂組成物の主成分であることが好ましく、EVOH樹脂組成物全体に対するEVOHの含有量は、通常80重量%以上、好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上である。なお、上限は通常99.99重量%である。
【0030】
<金属化合物>
本発明で用いる金属化合物は、特定の構造単位が特定の面間隔で層状となっている構造を有するものである。
【0031】
上記構造単位は、金属、ヒドロキシ配位子、ヒドロキシ配位子以外のアニオン性配位子を含み、下記の化学式(1)で表される。
Ma(OH)bAn-
(2a-b)/n・・・(1)
(上記Mは金属種、Aは価数がn-のヒドロキシ配位子以外のアニオン性配位子を表す。ただし、AとしてO(オキソ配位子)は除く。nは1以上の整数であり、またa,bは0より大きい数字であり、a/b=0.1~10を満たす。)
【0032】
上記化学式(1)において、Mとしては、例えば、Na、K、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn等が挙げられる。これらの金属種は、単独でもしくは2種以上含有してもよい。なかでも、高湿度下における酸素バリア性に優れる点から、Ni、Co、Znが特に好ましく、Znが殊に好ましい。
【0033】
また、上記化学式(1)において、Aとしては、例えば、RO(アルコキシ配位子)、ROCO(カルボン酸配位子)、NO3、SO3、PO4、BO3、F、Br、Cl等が挙げられる(Rはアルキル鎖であり、CmH2m+1;m=1~20という化学式で一般的に表される。ただし、本発明の効果を阻害しない限り、アルキル鎖はOH基等の官能基を有していても構わない)。ただし、AとしてO(オキソ配位子)は除く。これらのアニオン性配位子は、単独でもしくは2種類以上含有してもよい。なかでも、EVOHとの相互作用の観点から、NO3、Cl、RO、ROCOが好ましく、ROCOが特に好ましく、その中でもCH3OCOが殊に好ましい。
【0034】
なお、本発明で用いる金属化合物は、例えば、ギブナイト、カオリナイト、イライト/雲母、スメクタイト、バーミキュライト、クロライト、鉄化合物、水晶、非晶質鉱物、炭酸塩鉱物等の一般的な粘土鉱物を除くものである。
【0035】
本発明で用いる金属化合物は水分子を含んでいてもよく、その含水率は通常0.1~20重量%である。
【0036】
上記金属化合物の具体例としては、例えば、金属種としてZnを含む層状化合物が挙げられる。なかでも、高湿度下における酸素バリア性に優れる点から、化学式〔Zn5(OH)8(CH3CO2)2・2H2O〕で表されるZn含有層状化合物が好ましい。
【0037】
上記金属化合物は、例えば、金属含有化合物を特定条件下で反応させることにより得ることができる。なお、上記金属含有化合物が有する金属種としては、前記化学式(1)のMで説明した金属種が挙げられ、なかでもNi、Co、Znが好ましく、Znがより好ましい。
【0038】
上記金属含有化合物としては、例えば、有機酸金属塩、無機金属塩等が挙げられる。
【0039】
上記有機酸金属塩を構成する有機酸としては、例えば、酢酸等の1価のカルボン酸、コハク酸、シュウ酸、酒石酸等の2価のカルボン酸、クエン酸、エチレンジアミン4酢酸等の3価以上のカルボン酸等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併用してもよい。また、有機酸金属塩は、水和物であってもよいし、無水物であってもよい。
上記有機酸金属塩としては、高湿度下での酸素バリア性に優れる点から、1価のカルボン酸金属塩が好ましく、特に好ましくは酢酸金属塩であり、殊に好ましくは酢酸亜鉛またはその水和物である。
【0040】
上記無機金属塩としては、例えば、金属のフッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、オキソ酸等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併用してもよい。また、無機金属塩は、水和物であってもよいし、無水物であってもよい。
上記無機金属塩としては、高湿度下での酸素バリア性に優れる点から、金属の塩化物、オキソ酸が好ましく、特に好ましくは塩化亜鉛や硝酸亜鉛またはそれらの水和物である。
【0041】
本発明で用いる金属化合物は、上記金属含有化合物を用いて、例えば、(I)金属含有化合物を塩基下で反応させる方法、(II)金属含有化合物を加熱して反応させる方法等により得ることができる。
以下、各方法について詳述する。
【0042】
[(I)の方法]
上記(I)の方法は、金属含有化合物を塩基下で反応させる方法である。
【0043】
上記(I)の方法で用いる塩基としては、例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物等が挙げられる。なかでも、金属含有化合物との反応性に優れることから、アルカリ金属の水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。
【0044】
上記金属含有化合物と塩基との反応においては、通常、溶液中で金属含有化合物と、塩基とを混合して反応させればよい。
上記金属含有化合物と強塩基とを混合させる方法は、特に限定されないが、例えば、金属含有化合物を溶解させた溶液と、塩基を溶解させた溶液とを混合する方法、金属含有化合物を分散させたスラリー液と、塩基を溶解させた溶液とを混合する方法等が挙げられる。なかでも、反応効率の点から、金属含有化合物を溶解させた溶液と、塩基を溶解させた溶液とを混合する方法が好ましい。さらには、金属含有化合物として有機酸金属塩を用いる場合は、塩基を溶解させた溶液に、有機酸金属塩を溶解させた溶液を添加し混合する方法が好ましく、無機金属塩を用いる場合は、無機金属塩を溶解させた溶液に、塩基を溶解させた溶液を添加し混合する方法が好ましい。
【0045】
上記金属含有化合物及び塩基を溶解させる溶媒としては、金属含有化合物及び塩基を溶解できるものであれば特に制限はなく、例えば、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等の炭素数1~5の低級アルコールが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いてもよい。なかでも、後処理が容易な点から水が好ましい。
【0046】
上記金属含有化合物を溶解させた溶液における金属含有化合物の濃度は、通常0.5~3mol/L、好ましくは1~2mol/Lである。
また、塩基を溶媒に溶解させた溶液における塩基の濃度は、通常0.01~100mol/L、好ましくは0.1~30mol/L、特に好ましくは1~10mol/Lである。
金属含有化合物及び塩基の濃度が上記範囲よりも低すぎると、反応が充分に進行しない傾向がある。また、金属含有化合物及び塩基の濃度が上記範囲よりも高すぎると、副反応が起きる傾向がある。
【0047】
上記金属含有化合物と塩基とのモル比率(金属含有化合物:塩基)は、通常0.5:2~2:0.5であり、好ましくは0.8:1.5~1.5:0.8であり、特に好ましくは0.9:1.2~1:1である。モル比率が上記範囲外であると、反応が充分に進行しない傾向がある。
【0048】
また、金属含有化合物と塩基とを反応させる際のpHは、通常4~9であり、好ましくは5~8である。pHが上記範囲よりも低すぎる場合は、反応が充分に進行しない傾向がある。またpHが上記範囲よりも高すぎる場合は、生成した金属化合物が分解する傾向がある。なお、pHの調整には、金属含有化合物を溶解させた溶液または、金属含有化合物を分散させたスラリー液と、塩基を溶解させた溶液の用いる量によって行う。
【0049】
上記反応における反応温度は、通常15~60℃、好ましくは20~40℃である。反応温度が低すぎると、反応が充分に進行しない傾向があり、反応温度が高すぎると、金属含有化合物が熱により分解し、目的とする金属化合物が得られない傾向がある。
また、反応時間は、通常0.5~5時間、好ましくは1~3時間であり、反応時の圧力は、常圧で行えばよい。
【0050】
上記反応後、金属化合物が沈殿物として得られる。得られた金属化合物は、そのまま用いてもよいが、洗浄や粉砕操作等により金属化合物を精製して用いることが好ましい。
【0051】
[(II)の方法]
上記(II)の方法は、金属含有化合物を加熱して反応させる方法である。
【0052】
上記(II)の方法は、通常、金属含有化合物を溶解させた溶液を撹拌しながら加熱することにより行われる。
【0053】
金属含有化合物を溶解させる溶媒としては、上記(I)の方法で列挙した溶媒を用いることができる。なかでも、水、アルコール類が好ましく、水と1-プロパノールの混合溶媒が特に好ましい。
【0054】
上記加熱条件としては、溶液の温度を通常、20~100℃、好ましくは50~95℃、特に好ましくは70~90℃で加熱すればよい。反応温度が低すぎると、反応が充分に進行しない傾向があり、反応温度が高すぎると、金属含有化合物が熱により分解し、目的とする金属化合物が得られない傾向がある。
また、反応時間は、通常0.1~100時間、好ましくは0.5~30時間、特に好ましくは1~10時間であり、反応時の圧力は、常圧で行えばよい。
【0055】
上記反応後、金属化合物が沈殿物として得られる。得られた金属化合物は、そのまま用いてもよく、また、洗浄や粉砕操作等により金属化合物を精製して用いてもよい。
【0056】
一般的に金属化合物とは、例えば、金属塩、金属酸化物、金属錯体、金属単体または合金などを指すが、上記の各方法によって得られる金属化合物は、上述のように、前記化学式(1)で表される層状の構造単位が特定の面間隔で層状となっている構造を有する金属層状化合物である。そのため、金属化合物の周囲にEVOH分子や水分子が存在する場合、金属化合物の層と層とを剥離させ、この剥離した微細な層状の構造単位がEVOHと分子レベルで相互作用する結果、優れた酸素バリア性が得られるものと推測される。
【0057】
本発明の金属化合物は、高湿度下におけるガスバリア性、特に酸素バリア性に優れる点から、CuKα線を用いて広角X線回折で測定した時に2θ=2~15°にX線回折の主ピークを有することが好ましく、2θ=2~9°に主ピークを有することがより好ましく、2θ=3~8°に主ピークを有することが特に好ましい。上記範囲にX線回折の主ピークを有する場合、金属化合物とEVOHとが相互作用して、EVOHの極性が高くなることで、高湿度下での酸素バリア性に優れるからである。
【0058】
上記金属化合物の層間距離(層と層との距離)は、EVOHの分子や水分子との相互作用の点から、0.01~50nmであることが好ましく、0.1~30nmであることがより好ましい。上記金属化合物の層間距離は、X線回折法で分析した際の2θ=2~15°の範囲における最も強度が強いピークの回折位置をもとに、Braggの式から算出することができる。
【0059】
上記金属化合物から剥離した層状の構造単位の分子量は、EVOHの分子レベルで相互作用が可能である点から、100~10,000であることが好ましく、200~2,000であることが特に好ましい。
【0060】
また、上記層状の構造単位は、EVOHの分子との相互作用の点からが親水性であることが好ましい。
さらに、上記層状の構造単位は、20℃、90%RHの環境下で1,000時間静置しても分解しないことが好ましい。
【0061】
EVOH樹脂組成物における金属化合物の金属換算含有量は、EVOH100重量部に対して、通常0.01~10重量部であり、好ましくは0.05~8重量部、特に好ましくは0.1~5重量部、殊に好ましくは0.2~3重量部である。金属化合物の含有量が少なすぎると、高湿度下における酸素バリア性が低下する傾向があり、金属化合物の含有量が高すぎると、フィルム等にする場合に白化し透明性が低下する傾向がある。
なお、EVOH樹脂組成物が金属種の異なる金属化合物を複数含有する場合は、EVOH樹脂組成物に含まれる全ての金属化合物の合計量を含有量とする。
また、上記金属化合物の含有量は、ICP-MSを用いた標準添加法により求めることができる。
【0062】
[その他の成分]
本発明のEVOH樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲において、一般的にEVOH樹脂組成物に配合する配合剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、光安定剤、界面活性剤、抗菌剤、乾燥剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、架橋剤、硬化剤、発泡剤、結晶核剤、防曇剤、生分解用添加剤、シランカップリング剤、酸素吸収剤等が含有されていてもよい。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0063】
本発明のEVOH樹脂組成物は、EVOH、金属化合物、必要に応じてその他の成分を混合することにより得ることができる。
【0064】
<EVOH樹脂組成物>
本発明のEVOH樹脂組成物は、前記EVOH、及び下記一般式(1)を満たす金属化合物を含有するものである。
Ma(OH)bAn-
(2a-b)/n・・・(1)
(上記Mは金属種、Aは価数がn-のヒドロキシ配位子以外のアニオン性配位子を表す。ただし、AとしてO(オキソ配位子)は除く。nは1以上の整数であり、またa,bは0より大きい数字であり、a/b=0.1~10を満たす。)
【0065】
上記一般式(1)を満たす金属化合物が有する層状の構造とEVOHとが相互作用して、EVOHの極性が高くなることで、高湿度下での酸素バリア性に優れるという効果が得られるものと推測される。
【0066】
また、本発明においては、高湿度下におけるガスバリア性、特に酸素バリア性に優れる点から、CuKα線を用いて広角X線回折で測定した時に2θ=2~15°にX線回折の主ピークを有することが好ましく、2θ=2~9°に主ピークを有することがより好ましく、2θ=3~8°に主ピークを有することが特に好ましい。
【0067】
上記CuKα線を用いて広角X線回折で測定した時に2θ=2~15°に観測されるX線回折の主ピークは、上記一般式(1)由来のピークであることが好ましい。
【0068】
なお、上記広角X線回折は、下記の条件で測定されるものである。
[測定条件]
・使用機器:D8 DISCOVER(ブルカージャパン社製)
・デテクター:2次元検出器 VANTEC-500(ブルカージャパン社製)
・電圧:50kV
・電流:100mA
・カメラ長:100mm
・測定方法:反射法
・積算時間:30分間
・波長:CuKα線(Kα1、Kα2は分離せず)
・デテクター位置:2θ=10°
・X線入射角:θ=0.3°
・2θ方向1次元化の条件:2θ=0~35°、方位角(chi)=-95~-85°
・方位角方向1次元化:方位角(chi)=-180~0°
方位角方向に一次元化する際は、2θ=2~15°の範囲で最も回折強度の強いピークが含まれるように1.0°の範囲で方位角方向に一次元化する。このとき、方位角-180~0°の範囲にピークが観測された場合は、2θ=2~15°の範囲で回折ピークが観測されたと判断する。例えば、2θ=6.8°に回折ピークが観測された場合は、2θ=6.0~7.0°の範囲で方位角方向に一次元化したとき、方位角=-180~0°の範囲でピークが観測されれば、2θ=2~15°の範囲に回折ピークが観測されたと判断すればよい。
【0069】
上記広角X線回折に用いる試料としては、後述するフィルム状態としたEVOH樹脂組成物をそのまま用いればよい。また、上記EVOH樹脂組成物のフィルムが他の基材と積層されている場合であって、EVOH樹脂組成物層を剥離できる場合は、EVOH樹脂組成物層を剥離して測定を行い、剥離できない場合は、他の基材と積層された状態のまま測定を行えばよい。なお、測定時において、剥離したEVOH樹脂組成物層(フィルム)の厚みは、30μm以上であることが好ましく、フィルムの厚みが足りない場合は、フィルムを積層してもよい。
【0070】
<EVOH樹脂組成物を含有するフィルム>
本発明のEVOH樹脂組成物を含有するフィルムは、上記EVOH樹脂組成物を含有する組成物を製膜することにより得られるものであり、好ましくは、上記EVOH樹脂組成物を製膜することにより得られるものである。
【0071】
上記フィルムを製膜する方法としては、例えば、EVOH樹脂組成物を含有する組成物の溶液(コーティング液)を用いる方法、本発明のEVOH樹脂組成物を含有するペレット状の組成物を、押出機を用いて溶融成形する方法等が挙げられる。なかでも、EVOH樹脂組成物を含有する組成物の溶液(コーティング液)を用いる方法が好ましい。また、上記コーティング液を用いる場合の固形分濃度は、通常0.5~30重量%、好ましくは5~20重量%である。
【0072】
上記コーティング液の調製は、例えば、溶媒に全ての成分を一括で仕込んで混合する方法、一部の成分を溶媒に溶解させた溶液に、他の成分を添加し混合する方法等が挙げられる。なかでも、作業性の点から、EVOHを溶媒に溶解させた溶液に、他の成分を添加して混合する方法が好ましい。
また、前述の金属化合物を得る方法において、金属含有化合物を反応させる際に、溶媒中にEVOHを溶解させておくことも好ましく、作業性の点から、特に(II)の方法で金属化合物を得る場合に好ましい。
上記溶媒としては、前記金属化合物で挙げた溶媒を用いることができる。
【0073】
上記製膜方法としては、例えば、溶融押出法や流延法や塗工による方法等の公知の方法を採用することができる。なかでも、塗工による方法が好ましい。
【0074】
上記塗工方法としては、例えば、バーコーター、ロールコーティング、ダイコーティング、グラビアコーティング、コンマコーティング、スクリーン印刷等公知の方法が挙げられる。
【0075】
塗工後、例えば60~105℃、0.5~10分間加熱処理等によって乾燥させることにより、EVOH樹脂組成物からなるフィルムを得ることができる。また、上記フィルムは、必要に応じて一軸延伸や、二軸延伸等の延伸操作を行ってもよい。
【0076】
上記フィルムは、単層構造体としてもよいし、多層構造体としてもよい。上記多層構造体は、上記フィルムからなる層を少なくとも一層有することが好ましい。また、上記多層構造体は、製膜したフィルムを積層してもよいし、他の基材樹脂と積層させてもよい。
【0077】
上記フィルムの厚みは、通常1~200μm、好ましくは1~100μm、特に好ましくは1~50μmである。なお、上記製膜したフィルムが多層構造である場合は、EVOH樹脂組成物からなる全てのフィルムの厚みを合計したものを、フィルムの厚みとする。
【0078】
上記基材樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン(ブロック及びランダム)共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖及び側鎖の少なくとも一方に有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン系樹脂や、これらのポリオレフィン類を不飽和カルボン酸またはそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン類等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いてもよい。また、これらの基材樹脂は、コロナ処理等の表面処理を行ってもよい。
【0079】
本発明のEVOH樹脂組成物からなるフィルムは、高湿度下における優れたガスバリア性を有するものであるが、このフィルムを高湿度下で静置すると、より一層、高湿度下における優れたガスバリア性、特に酸素バリア性を有するフィルムとすることができることから好ましい。このような効果が得られる原理は明らかではないが、高湿度下に静置することによって、EVOHの分子が可塑化し、フィルム中に分散していた金属含有層状化合物が、EVOHと相互作用する、またはフィルムの表面に局在化するためと推測される。
【0080】
本発明において、高湿度下とは、20±5℃、90±10%RHを意味する。
また、静置時間は、通常70時間以上、好ましくは300時間以上、より好ましくは600時間以上である。なお、静置時間の上限は、通常1,000時間である。
【0081】
EVOH樹脂組成物からなるフィルムの酸素透過度は、15cc・20μm/m2・day・atm(cm3・20μm/m2・day・atm)以下であることが好ましく、10cc・20μm/m2・day・atm以下であることがより好ましく、5cc・20μm/m2・day・atm以下であることが特に好ましい。なお、上記酸素透過度は、20℃、90%RHの環境下で測定したものであり、酸素透過度の下限は、通常0cc・20μm/m2・day・atmである。また、上記酸素透過度は、酸素透過率測定装置により求めることができる。
【0082】
本発明のEVOH樹脂組成物及び、EVOH樹脂組成物からなるフィルムは、包装用材料として有用であり、特に食品や医薬品等の包装材料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下「部」とあるのは、重量基準を意味する。
【0084】
実施例に先立って、以下のEVOHを用意した。
【0085】
〔親水性樹脂〕
・EVOH1(エチレン構造単位の含有量:25mol%、MFR:4g/10min、ケン化度:99.6mol%、水分率:0.3重量%)
【0086】
また、以下の手順に従い金属化合物の合成を行った。
【0087】
<Zn含有層状化合物の合成>
Zn含有層状化合物の合成は、Inorg.Chem.2013,52,95-102に記載されている方法に従い行った。
具体的には、1.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液900部を27℃で撹拌しつつ、そこへ1.5mol/L酢酸亜鉛二水和物(富士フイルム和光純薬社製)水溶液900部を添加し、27℃で2時間撹拌して反応させた。反応後、析出した白色の沈殿物を減圧ろ過によってろ別した。その後、得られた白色固形物と水750部とを撹拌して再度、ろ過することで白色固形物を洗浄した。この洗浄操作を、水を取り替えながら計3回行った。最後にろ別した白色固形物を、60℃で一晩常圧乾燥し、Zn含有層状化合物を得た。
【0088】
<合成したZn含有層状化合物の同定>
上記Zn含有層状化合物を固体NMR及び広角X線回折による測定を行い、Zn含有層状化合物を同定した。
【0089】
〔固体NMR(13C-CP/MAS)測定〕
上記Zn含有層状化合物を4mmφのジルコニアローターに充填し、ポリエチレン製のドライブチップで密栓し、測定試料とした。この測定試料を固体NMR〔AVANCEIII 400WB(1H:400MHz,13C:100MHz)、Bruker社製〕を用い、CP/MASプローブにて測定を行った。
測定条件は、5000Hzで回転後、90°パルス幅45μs、コンタクトタイム2ms、積算回数485回、取り込み時間50ms、遅延時間5秒で行った。
【0090】
〔広角X線回折(XRD)測定〕
上記Zn含有層状化合物を下記条件で広角X線回折(XRD)測定を行った。
[測定条件]
使用機器:D8 DISCOVER(ブルカージャパン社製)
電圧:50kV
電流:100mA
カメラ長:150mm
測定方法:反射法
積算時間:20分間
測定の結果、2θ=6.8°、13.5°、20.2°に主にピークが検出された。
【0091】
上記固定NMR及び広角X線回折の測定結果から、上記Inorg.Chem.2013,52,95-102に記載されているZn含有層状化合物と一致したため、得られたZnを有する化合物をZn含有層状化合物〔Zn5(OH)8(CH3CO2)2・2H2O〕と同定した。
【0092】
また、上記Zn含有層状化合物〔Zn5(OH)8(CH3CO2)2・2H2O〕を広角X線回折で測定した際に最もピーク強度が強かった2θ=6.8°の回折位置をもとにBraggの式から層間距離を算出した結果、上記Zn含有層状化合物〔Zn5(OH)8(CH3CO2)2・2H2O〕は、層間距離1.3nmの層状化合物であった。
【0093】
<実施例1>
水/1-プロパノール=1/1(体積比)の混合溶媒45部に、EVOH1を5部添加し、87℃で1時間、加熱撹拌してEVOHを完全に溶解させた。この溶液を55℃まで放冷し、上記で得られたZn含有層状化合物をEVOH100部に対し、金属換算で0.05部添加し、55℃のまま2時間撹拌してEVOH樹脂組成物(コーティング液)を調製した。得られたコーティング液を、コロナ処理をした厚み12μmのPET基材のコロナ処理面にワイヤーバー#24を使用して塗布し、80℃で5分間乾燥させた。この工程を2回行うことで、PET基材上に厚み6μmのフィルム層が積層された2層フィルムを得た。得られたフィルムを20℃、90%RHの調湿条件下で600時間静置してフィルムを調製した。
【0094】
<実施例2>
実施例1において、添加するZn含有層状化合物の量を、EVOH100部に対して金属換算で0.1部に変更した以外は、実施例1と同じ方法でフィルムを作成し、同じ調湿条件で調製した。
【0095】
<実施例3>
実施例1において、添加するZn含有層状化合物の量を、EVOH100部に対して金属換算で1.0部に変更した以外は、実施例1と同じ方法でフィルムを作成し、同じ調湿条件で調製した。
【0096】
<実施例4>
実施例1において、添加するZn含有層状化合物の量を、EVOH100部に対して金属換算で5.0部に変更した以外は、実施例1と同じ方法でフィルムを作成し、同じ調湿条件で調製した。
【0097】
<比較例1>
実施例1において、Zn含有層状化合物を添加しなかったこと以外は、実施例1と同じ方法でフィルムを作成し、同じ調湿条件で調製した。
【0098】
<比較例2>
実施例1において、Zn含有層状化合物に替えて酸化亜鉛(富士フイルム和光純薬社製)をEVOH100部に対して金属換算で0.1部添加したこと以外は、実施例1と同じ方法でフィルムを作成し、同じ調湿条件で調製した。
【0099】
上記で得られた実施例1~4、比較例1,2のフィルムを用いて、下記の条件により広角X線回折及び酸素バリア性を測定した。結果を後記表1に示す。
【0100】
〔フィルムの広角X線回折(XRD)測定〕
上記で得られたEVOH樹脂組成物フィルムをPETフィルムから剥離して、厚みが30μm以上となるように積層し試料とした。
この試料の広角X線回折測定を下記の条件で行った。
[測定条件]
使用機器:D8 DISCOVER(ブルカージャパン社製)
デテクター:2次元検出器 VANTEC- 500(ブルカージャパン社製)
電圧:50kV
電流:100mA
カメラ長:100mm
測定方法:反射法
積算時間:30分間
波長:CuKα線(Kα1、Kα2は分離せず)
デテクター位置:2θ=10°
X線入射角:θ=0.3°
2θ方向1次元化の条件:2θ=0~35°、方位角(chi)=-95~-85°
方位角方向1次元化:2θ=6.0~7.0°、方位角(chi)=-180~0°
X線回折測定の後、得られた回折像を2θ=6.0~7.0°の範囲において方位角方向に-180~0°の範囲で一次元化し、回折強度の方位角依存性を確認した。このとき、方位角-90°において回折ピークが観測されていれば、EVOH樹脂組成物は2θ=6.0~7.0°において回折ピークを持つと判断した。
【0101】
〔ガスバリア性〕
得られたEVOH樹脂組成物フィルムの酸素透過度を、酸素透過度測定装置(OX-TRAN100A、MOCON社製)を用いて、20℃、90%RHの条件下で測定した。
【0102】
【0103】
上記表1からわかるように、EVOHと一般式(1)を満たす金属化合物を含有する実施例1~4の樹脂組成物は、高湿度下におけるガスバリア性に優れていた。
一方、一般式(1)を満たす金属化合物を含有しない比較例1のEVOHおよび比較例2のEVOH樹脂組成物は、いずれもガスバリア性に劣るものであった。
【0104】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明のEVOH樹脂組成物は、高湿度下におけるガスバリア性、特に酸素バリア性に優れるため、包装用材料として有用であり、特に食品や医薬品等の包装材料として好適に用いることができる。