(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】樹脂シートおよび樹脂シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 43/22 20060101AFI20241119BHJP
B29C 43/58 20060101ALI20241119BHJP
B29K 101/12 20060101ALN20241119BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20241119BHJP
【FI】
B29C43/22
B29C43/58
B29K101:12
B29L7:00
(21)【出願番号】P 2021550578
(86)(22)【出願日】2020-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2020034989
(87)【国際公開番号】W WO2021065489
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2019180115
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】澤口 太一
(72)【発明者】
【氏名】摺出寺 浩成
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特許第4135768(JP,B2)
【文献】国際公開第2017/126599(WO,A1)
【文献】特開2010-264652(JP,A)
【文献】特開2009-090616(JP,A)
【文献】特開2011-224990(JP,A)
【文献】特開2004-198536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/22
B29C 43/58
B29K 101/12
B29L 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を用いて形成された熱可塑性樹脂フィルムを熱プレス成形して、互いに離隔した複数の非球面状部を有する樹脂シートを製造する方法であって、
前記熱プレス成形を、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも40℃以上高いプレス温度で、プレス圧力を0.1MPa/秒以下の平均昇圧速度で最終プレス圧力まで昇圧させることにより行う、樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
前記プレス圧力を、0.1MPa/秒以下の一定の昇圧速度で最終プレス圧力まで昇圧させる、請求項1に記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
前記非球面状部の少なくとも一方の表面は、厚み方向の断面形状が変曲点を有する形状である、請求項1または2に記載の樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂を用いて形成された、非球面状部を複数有する樹脂シートであって、
前記非球面状部の配設密度が0.16個/cm
2以上であり、
互いに隣接する非球面状部間の最小間隔が1.0mm以上であり、
平面視における前記非球面状部の直径が1mm以上15mm以下であり、
前記非球面状部の位相差が50nm以下であり、
最薄部の厚みが500μm以下である、樹脂シート。
【請求項5】
前記非球面状部の厚み精度のバラツキが0.2μm以下である、請求項4に記載の樹脂シート。
【請求項6】
前記非球面状部の少なくとも一方の表面は、厚み方向の断面形状が変曲点を有する形状である、請求項4または5に記載の樹脂シート。
【請求項7】
前記熱プレス成形は、少なくとも一対の金型を用いて前記熱可塑性樹脂フィルムを熱プレスすることにより行い、
前記一対の金型は、少なくとも一方が非球面状部形成領域であるキャビティ部を複数個有し、且つ、互いに隣接するキャビティ部間の最小間隔が1.0mm以上である、請求項1~3の何れかに記載の樹脂シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シートおよび樹脂シートの製造方法に関し、特には、透過型光学素子の製造に有用な樹脂シートおよび樹脂シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子電気機器の軽量化、小型化、及び薄型化が進み、これらの電子電気機器に搭載されるカメラユニット等においても、薄型化及び小径化へのニーズが高まっている。また、このようなカメラユニット等においては、一層の高画質化のニーズがあり、これらの光学機器に備えられるレンズ及びプリズム等の透過型光学素子についても高性能であることが求められている。
【0003】
従来、カメラユニット等に採用されるレンズ等の透過型光学素子は、一般的に、射出成形法により製造されてきた。しかしながら、射出成形法によりレンズを形成した場合、得られたレンズ内にウェルドラインが形成されることを完全に抑制することは困難であった。また、射出成形法に従って得られたレンズでは、複屈折が生じ易かった。このため、得られたレンズ中において、十分に高い光学的性能を発揮することが可能な領域の占める比率を十分に高めることが難しく、直径が1cmに満たないような小径のレンズを射出成形法に従って形成しても、レンズとして十分に機能させることが難しかった。
【0004】
そこで、近年、射出成形法以外の方法により、小径のレンズ等の透過型光学素子を製造する方法が検討されてきた。例えば、特許文献1には、第1のレンズ面を形成する第1の凹凸構造が複数設けられた第1の金型と、第2のレンズ面を形成する第2の凹凸構造を複数有する第2の金型との間にレンズ成形材を挟み込み、加熱プレス処理することにより、隙間なく連続配置された多数のマイクロレンズを備えるマイクロレンズアレイを製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、プレス成形を用いた上記従来の技術では、例えばレンズ等として使用し得る非球面状部を複数有する樹脂シートを製造した際に、厚み精度のバラツキが小さく、且つ、形状精度の高い複数の非球面状部を有する樹脂シートを得ることができなかった。
【0007】
そこで、本発明は、厚み精度のバラツキが小さく、且つ、形状精度の高い複数の非球面状部を有する樹脂シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、所定の条件で樹脂シートを熱プレス成形することにより、厚み精度のバラツキが小さく、且つ、形状精度の高い非球面状部を複数有する樹脂シートが得られることを見出した。また、本発明者らは、樹脂シートを所定の形状にすれば、非球面状部の厚み精度のバラツキを小さくすることができると共に、形状精度を高めることができることを見出した。そして、本発明者らは、上述した新たな知見に基づいて本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の樹脂シートの製造方法は、熱可塑性樹脂を用いて形成された熱可塑性樹脂フィルムを熱プレス成形して、互いに離隔した複数の非球面状部を有する樹脂シートを製造する方法であって、前記熱プレス成形を、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも40℃以上高いプレス温度で、プレス圧力を0.1MPa/秒以下の平均昇圧速度で最終プレス圧力まで昇圧させることにより行うことを特徴とする。このように、プレス圧力の平均昇圧速度およびプレス温度を所定の範囲内にすれば、厚み精度のバラツキが小さく、且つ、形状精度の高い非球面状部を複数有する樹脂シートを容易に製造することができる。
なお、本発明において、「熱可塑性樹脂のガラス転移温度」は、JIS K7121に基づき測定することができる。
【0010】
ここで、本発明の樹脂シートの製造方法は、前記プレス圧力を、0.1MPa/秒以下の一定の昇圧速度で最終プレス圧力まで昇圧させることが好ましい。プレス圧力の昇圧速度を一定にすれば、非球面状部の形状精度を更に高めることができると共に、複屈折および厚み精度のバラツキを更に小さくすることができる。
【0011】
そして、本発明の樹脂シートの製造方法は、前記非球面状部の少なくとも一方の表面が、厚み方向の断面形状が変曲点を有する形状であることが好ましい。このような形状を有する非球面状部は、レンズなどの透過型光学素子として有利に使用し得る。
【0012】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の樹脂シートは、熱可塑性樹脂を用いて形成された、非球面状部を複数有する樹脂シートであって、前記非球面状部の配設密度が0.16個/cm2以上であり、互いに隣接する非球面状部間の最小間隔が1.0mm以上であり、平面視における前記非球面状部の直径が1mm以上15mm以下であり、前記非球面状部の位相差が50nm以下であり、最薄部の厚みが500μm以下であることを特徴とする。このように、非球面状部の配設密度、最小間隔、直径および位相差、並びに、最薄部の厚みが所定の範囲内であれば、非球面状部の厚み精度のバラツキを小さくすることができると共に、形状精度を高めることができる。
なお、本発明において、「位相差」は、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0013】
ここで、本発明の樹脂シートは、前記非球面状部の厚み精度のバラツキが0.2μm以下であることが好ましい。非球面状部の厚み精度のバラツキが0.2μm以下であれば、複屈折を十分に小さくすることができる。
なお、本発明において、「厚み精度のバラツキ」は、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0014】
そして、本発明の樹脂シートは、前記非球面状部の少なくとも一方の表面が、厚み方向の断面形状が変曲点を有する形状であることが好ましい。このような形状を有する非球面状部は、レンズなどの透過型光学素子として有利に使用し得る。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、厚み精度のバラツキが小さく、且つ、形状精度の高い複数の非球面状部を有する樹脂シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】樹脂シートの一例の厚み方向に沿う断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の樹脂シートの製造方法は、例えば本発明の樹脂シートを製造する際に用いることができる。そして、本発明に係る樹脂シートは、特に限定されることなく、例えば光学レンズ及びプリズムといった透過型光学素子の製造に好適に用いることができる。ここで、「光学レンズ」とは、光の屈折作用を示す透明体を意味する。また、「プリズム」とは、光の分散作用、屈折作用、全反射作用、及び/又は、複屈折作用を示す透明多面体を意味する。本発明に係る樹脂シートを用いれば、形状精度が高く、且つ低複屈折性の透過型光学素子を効率的に得ることができる。より具体的には、本発明に係る樹脂シートを用いれば、片面及び/又は両面が変曲点のある非球面レンズ等の種々の形状の非球面レンズを好適に製造することができる。
そして、当該非球面レンズは、例えば、小型電子電気機器のカメラユニットのレンズとして好適に用いることができる。
【0018】
(樹脂シート)
本発明の樹脂シートは、厚み方向に沿う断面の形状を例えば
図1に示すように、熱可塑性樹脂を用いて形成された樹脂シート10であって、非球面状部11を複数有するものである。そして、本発明の樹脂シート10は、非球面状部11の配設密度が0.16個/cm
2以上であり、互いに隣接する非球面状部11間の最小間隔Pが1.0mm以上であり、平面視における非球面状部11の直径Dが1mm以上15mm以下であり、非球面状部11の位相差が50nm以下であり、最薄部H
minの厚みが500μm以下であることを必要とする。非球面状部の配設密度、最小間隔、直径および位相差、並びに、樹脂シートの最薄部の厚みが上記範囲内であれば、非球面状部の厚み精度のバラツキを小さくすることができると共に、形状精度を高めることができる。
なお、樹脂シートの非球面状部の形状は、
図1に示す形状に限定されず、平凸レンズ、両凸レンズ、凸メニスカスレンズ、平凹レンズ、両凹レンズ、及び凹メニスカスレンズ等、任意の非球面形状とすることができる。そして、樹脂シートの非球面状部は、特に限定されることなく、例えば樹脂シートから切り出して非球面レンズとして好適に用いることができる。ここで、レンズなどの透過型光学素子として有利に使用し得る観点からは、非球面状部の少なくとも一方の表面は、厚み方向の断面形状が変曲点を有する形状であることが好ましい。
【0019】
<熱可塑性樹脂>
熱可塑性樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、脂環構造含有樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ウレタン樹脂、オレフィン樹脂、及びチオウレタン樹脂等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを指す。そして、上述した熱可塑性樹脂は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
これらの中でも、透明性に優れることから、熱可塑性樹脂は脂環構造含有樹脂を含むことが好ましい。
【0020】
脂環構造含有樹脂とは、主鎖及び/又は側鎖に飽和環状炭化水素構造及び不飽和環状炭化水素構造等の脂環式構造を有する重合体である。なかでも、機械強度及び耐熱性に優れる樹脂シートが得られ易いことから、シクロアルカン構造を主鎖に有するものが好ましい。脂環式構造含有樹脂を構成する重合体(以下、「脂環式構造含有重合体」とも称する)中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合は特に限定されないが、重合体に含まれる全繰り返し単位に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。脂環式構造を有する繰り返し単位の割合が50質量%以上の脂環式構造含有重合体を用いることで、透明性及び耐熱性に優れる樹脂シートが得られ易くなる。
【0021】
脂環式構造含有重合体の具体例としては、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素系重合体などが挙げられる。これらの中でも、得られる樹脂シートの透明性、耐熱性、及び機械的強度を高める観点から、ノルボルネン系重合体が好ましい。なお、本明細書において、これらの重合体は、重合反応生成物だけでなく、その水素化物も意味するものである。
【0022】
ノルボルネン系重合体は、ノルボルネン系モノマーの重合体又はその水素化物である。ノルボルネン系重合体としては、ノルボルネン系モノマーの開環重合体、ノルボルネン系モノマーとこれと開環共重合可能なその他のモノマーとの開環重合体、ノルボルネン系モノマーの付加重合体、ノルボルネン系モノマーとこれと共重合可能なその他のモノマーとの付加重合体、及びこれらの重合体の水素化物などが挙げられる。なかでも、ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物(即ち、ノルボルネン系開環重合体水素化物)が好ましい。ノルボルネン系開環重合体水素化物を用いることで、樹脂シートの透明性、耐熱性、及び機械的強度等を一層高めることができると共に、熱プレス成形を用いて樹脂シートを製造する際の離型性及び転写性を高めることができる。
【0023】
ノルボルネン系モノマーとしては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(慣用名:ノルボルネン)及びその誘導体、トリシクロ[4.3.01,6.12,5]デカ-3,7-ジエン(慣用名ジシクロペンタジエン)及びその誘導体、7,8-ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン(慣用名メタノテトラヒドロフルオレン:1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレンともいう)及びその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン(慣用名:テトラシクロドデセン)及びその誘導体、などが挙げられる。誘導体に含まれうる置換基としては、アルキル基、アルキレン基、ビニル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基などが挙げられる。例えば、ノルボルネン系モノマーとしての誘導体としては、8-メトキシカルボニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-メチル-8-メトキシカルボニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-エチリデン-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エンなどが挙げられる。これらのノルボルネン系モノマーは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
ノルボルネン系モノマーと開環共重合可能なその他のモノマーとしては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、及びシクロオクテンなどの単環の環状オレフィン系単量体などが挙げられる。ノルボルネン系モノマーと付加共重合可能なその他のモノマーとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、及び1-ヘキセンなどの炭素数2~20のα-オレフィン並びにこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、及び3a,5,6,7a-テトラヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデンなどのシクロオレフィン並びにこれらの誘導体;1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、及び1,7-オクタジエンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。
【0025】
上述のようなノルボルネン系モノマーを含む開環重合体及び付加重合体は、公知の触媒の存在下で重合させることにより合成することができる。また、これらの水素化物は、公知の水素化触媒を用いた水素化反応により、得ることができる。
【0026】
なお、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、及びビニル脂環式炭化水素系重合体としては、例えば、国際公開第2017/126599号に記載されたものが挙げられる。
【0027】
また、脂環式構造含有重合体などの熱可塑性樹脂として、市販品を使用することもできる。具体的には、例えば脂環式構造含有重合体の市販品としては、日本ゼオン社製、ZEONEX(登録商標)、三井化学社製、APEL(登録商標)、JSR社製、ARTON(登録商標)、ポリプラスチックス社製、TOPAS(登録商標)などが挙げられる。また、例えばオレフィン樹脂の市販品としては、三井化学社製、TPX(登録商標)などが挙げられる。
【0028】
そして、熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、200℃以下が好ましく、160℃以下がより好ましい。熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)が上記下限値以上であれば、樹脂シートの非球面状部の形状精度を一層高めることができる。また、熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)が上記上限値以下であれば、樹脂シートの生産効率を高めると共に、非球面状部の形状精度を一層高めることができる。
【0029】
なお、樹脂シートは、上述したような樹脂成分以外の成分を含有するものであってもよい。樹脂成分以外の成分としては、光安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、帯電防止剤、炭素材料(カーボン等)、顔料、及び、染料等の添加剤が挙げられる。これらの成分の配合量は、特に限定されず適宜決定することができる。例えば、これらの添加剤の合計量は、樹脂成分を100質量%として、例えば20質量%以下、好ましくは10質量%以下でありうる。
【0030】
<非球面状部>
非球面状部は、配設密度が0.16個/cm2以上であることが必要であり、非球面状部の配設密度は、0.30個/cm2以上であることが好ましく、0.40個/cm2以上であることがより好ましく、3.0個/cm2以下であることが好ましく、2.0個/cm2以下であることがより好ましく、1.0個/cm2以下であることが更に好ましく、0.60個/cm2以下であることが特に好ましい。非球面状部の配設密度が0.16個/cm2以上であれば、非球面状部の厚み精度のバラツキを小さくすることができると共に、形状精度を高めることができる。また、非球面状部の配設密度が上記上限値以下であれば、複屈折を小さくすることができると共に、厚み精度のバラつきを更に小さくすることができる。
【0031】
また、互いに隣接する非球面状部間の最小間隔は、1.0mm以上であることが必要であり、3.0mm以上であることが好ましく、5.0mm以上であることがより好ましく、7.0mm以上であることが更に好ましい。非球面状部間の最小間隔が1.0mm以上であれば、非球面状部の厚み精度のバラツキを小さくすることができると共に、形状精度を高めることができる。また、非球面状部間の最小間隔が1.0mm以上であれば、例えばプレス成形等の成形方法を用いて作製する場合であっても、樹脂シート中の気泡およびエア溜まりの発生を抑制することができる。なお、非球面状部間の最小間隔は、通常、20mm以下である。
【0032】
更に、平面視における非球面状部の直径は、1mm以上15mm以下であることが必要であり、非球面状部の直径は、3mm以上であることが好ましく、9mm以下であることが好ましい。非球面状部の直径が上記範囲内であれば、非球面状部の厚み精度のバラツキを小さくすることができると共に、形状精度を高めることができる。
【0033】
また、非球面状部の中心の厚みは、50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、1500μm以下であることが好ましく、1000μm以下であることがより好ましい。非球面状部の中心の厚みが上記範囲内であれば、レンズなどの透過型光学素子として有利に使用することができる。
【0034】
更に、非球面状部の厚み精度のバラツキは、0.2μm以下であることが好ましく、0.1μm以下であることがより好ましい。厚み精度のバラツキが上記上限値以下であれば、非球面状部の複屈折を小さくすることができる。
【0035】
そして、非球面状部の位相差は、50nm以下であることが必要であり、20nm以下であることが好ましい。位相差が上記上限値以下であれば、非球面状部の厚み精度のバラツキを小さくすることができると共に、形状精度を高めることができる。
【0036】
<樹脂シートの性状>
また、樹脂シートは、最薄部の厚みが500μm以下であることが必要であり、樹脂シートの最薄部の厚みは、50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。最薄部の厚みが上記上限値以下であれば、非球面状部の厚み精度のバラツキを小さくすることができると共に、形状精度を高めることができる。また、最薄部の厚みが上記下限値以上であれば、樹脂シートの強度を十分に確保することができる。
【0037】
(樹脂シートの製造方法)
本発明の樹脂シートの製造方法は、熱可塑性樹脂を用いて形成された熱可塑性樹脂フィルムを熱プレス成形して、互いに離隔した複数の非球面状部を有する樹脂シートを製造する方法であり、特に限定されることなく、例えば上述した本発明の樹脂シートを製造する際に用いることができる。そして、本発明の樹脂シートの製造方法は、例えば、熱可塑性樹脂フィルムを、少なくとも一対の金型により加熱及び加圧したまま、一定時間保持することにより熱プレスフィルムを得る「熱プレス工程」と、熱プレス工程の後に、一対の金型を熱可塑性樹脂のガラス転移温度以下の温度まで冷却して、熱プレスフィルムを冷却する「金型冷却工程」と、金型冷却工程の後に、熱プレスフィルムを一対の金型から離型して樹脂シートを得る「離型工程」とを含み、熱プレス工程における熱プレスを、熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも40℃以上高いプレス温度で、プレス圧力を0.1MPa/秒以下の平均昇圧速度で最終プレス圧力まで昇圧させることにより行うことを特徴とする。
【0038】
本発明の樹脂シートの製造方法では、熱プレス成形時のプレス圧力の平均昇圧速度およびプレス温度を所定の範囲内にしているので、厚み精度のバラツキが小さく、且つ、形状精度の高い非球面状部を複数有する樹脂シートを容易に製造することができる。
【0039】
なお、本発明の樹脂シートの製造方法は、熱プレス工程に先立って、熱可塑性樹脂フィルムを所定の搬送方向に沿って搬送する搬送工程を含んでも良い。また、本発明の樹脂シートの製造方法の各工程を実施する環境の気圧は、特に限定されることなく、JIS Z8703に規定された標準状態の範囲内であり得る。なお、本発明の樹脂シートの製造方法の各工程は、特に限定されることなくあらゆる手段により実施可能であるが、所謂、ロール・ツー・ロール方式の製造手段を用いて実施されることが好ましい。ロール・ツー・ロール方式の製造手段を用いて各工程を実施することで、樹脂シートの製造効率を高めることができるからである。
【0040】
<樹脂シート>
本発明の樹脂シートの製造方法で製造する樹脂シートは、互いに離隔した複数の非球面状部を有するものであれば特に限定されない。中でも、樹脂シートは、上述した本発明の樹脂シートと同様の性状を有していることが好ましい。
【0041】
<熱可塑性樹脂フィルム>
熱可塑性樹脂フィルムに用いられる熱可塑性樹脂としては、特に限定されることなく、例えば上述した本発明の樹脂シートの熱可塑性樹脂と同様のものが挙げられる。なお、「フィルム」とは、表面及び裏面(即ち、主面)が、厚み分の距離を隔てて対向してなる形状を有する物体を意味する。
【0042】
そして、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法としては、特に限定されることなく、従来公知の適宜な方法を採用することができる。例えば、所定の成分を混合して熱可塑性樹脂フィルム製造用の成形材料を得た後、これを用いて、溶融押出成形法、溶融流延成形法、射出成形法等により、熱可塑性樹脂フィルムを得ることができる。
【0043】
熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、製造する樹脂シートの非球面状部の直径に応じて、適宜選択することができる。例えば、熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、通常50μm以上であり、好ましくは70μm以上であり、通常500μm以下であり、好ましくは400μm以下である。なお、熱可塑性樹脂フィルムの厚みにバラツキがある場合には、熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、ランダムに選定した複数の測定点における厚みの単純算術平均の値に相当する。
【0044】
<搬送工程>
搬送工程では、熱プレス工程に先立って、熱可塑性樹脂フィルムを、所定の搬送方向に沿って熱プレスを実施する位置まで搬送する。搬送方向は、熱可塑性フィルムの幅方向に対して直交する長手方向に沿う方向であることが好ましい。
【0045】
<熱プレス工程>
熱プレス工程では、熱可塑性樹脂フィルムを、少なくとも一対の金型により所定の平均昇圧速度およびプレス温度で熱プレスして熱プレスフィルムを得る。なお、熱プレス工程では、少なくとも一対の金型を用いる限りにおいて特に限定されることなく、一対の金型を用いて熱可塑性樹脂フィルムを熱プレスしてもよいし、複数対の金型により1枚の熱可塑性樹脂フィルムの異なる部分を同時又は時間差で熱プレスしても良い。本発明の樹脂シートの製造方法において、射出成形法によらず、熱可塑性樹脂フィルムを金型を用いた熱プレスに供することで、得られる樹脂シートの非球面状部における複屈折の発生を抑制することができる。
【0046】
[金型]
金型としては、少なくとも一方が非球面状部形成領域であるキャビティ部を複数個有している限りにおいて特に限定されることなく、平板金型などの任意の形状の金型を用い得る。
なお、金型に用いる材質としては、公知の材質が使用できる。例えば、炭素鋼、ステンレス鋼、これらをベースにした合金類が挙げられ、なかでも加工性と硬度の観点から、STAVAX(登録商標)材(ウッデホルム社製)等のステンレス鋼が好ましい。また、離型性の観点から、クロム、チタン、及びニッケル等の金属によるめっきが金型表面に施されてなる、金型を用いることが好ましく、なかでも、無電解ニッケル-リンめっきが金型表面に施されてなる金型を用いることが、より好ましい。
【0047】
そして、本発明の製造方法で用いる金型の少なくとも一方は、複数のキャビティ部が金型の平面方向にて離散配置されてなる。複数のキャビティ部は、金型の平面方向にて、等間隔で離隔して配置されていることが好ましい。
ここで、一対の金型は、両方が、それぞれ複数のキャビティ部を有していてもよい。キャビティ部をそれぞれ有する一対の金型を用いて成形することで、両面が賦形された樹脂シートを効率的に製造することができるからである。なお、一対の金型の各形状は、当然、製造する樹脂シートの形状に応じて、同一であっても、相異なっていても良い。
【0048】
キャビティ部は、配設密度が0.16個/cm2以上であることが好ましく、0.30個/cm2以上であることがより好ましく、0.40個/cm2以上であることが更に好ましく、3.0個/cm2以下であることが好ましく、2.0個/cm2以下であることがより好ましく、1.0個/cm2以下であることが更に好ましく、0.60個/cm2以下であることが特に好ましい。キャビティ部の配設密度が0.16個/cm2以上であれば、得られる樹脂シートの非球面状部の厚み精度のバラツキを小さくすることができると共に、形状精度を高めることができる。また、キャビティ部の配設密度が上記上限値以下であれば、複屈折を小さくすることができると共に、厚み精度のバラつきを更に小さくすることができる。
【0049】
また、互いに隣接するキャビティ部間の最小間隔は、1.0mm以上であることが好ましく、3.0mm以上であることがより好ましく、5.0mm以上であることが更に好ましく、7.0mm以上であることが特に好ましい。キャビティ部間の最小間隔が1.0mm以上であれば、得られる樹脂シートの非球面状部の厚み精度のバラツキを小さくすることができると共に、形状精度を高めることができる。また、キャビティ部の最小間隔が1.0mm以上であれば、樹脂シート中の気泡およびエア溜まりの発生を抑制することができる。なお、キャビティ部間の最小間隔は、通常、20mm以下である。
【0050】
更に、平面視におけるキャビティ部の直径は、1mm以上15mm以下であることが好ましく、3mm以上であることがより好ましく、9mm以下であることがより好ましい。キャビティ部の直径が上記範囲内であれば、得られる樹脂シートの非球面状部の厚み精度のバラツキを小さくすることができると共に、形状精度を高めることができる。
【0051】
また、金型を閉じた状態におけるキャビティ部の中心の深さ(形成される非球面状部の厚み方向に対応する方向の距離)は、50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、1500μm以下であることが好ましく、1000μm以下であることがより好ましい。キャビティ部の中心の間隔が上記範囲内であれば、得られる樹脂シートの非球面状部をレンズなどの透過型光学素子として有利に使用することができる。
【0052】
更に、金型は、閉じた状態(閉型状態)における樹脂シート形成面間の最小間隔が、50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることが更に好ましい。最小間隔が上記上限値以下であれば、得られる樹脂シートの非球面状部の厚み精度のバラツキを小さくすることができると共に、形状精度を高めることができる。また、最小間隔が上記下限値以上であれば、得られる樹脂シートの強度を十分に確保することができる。
【0053】
[プレス温度]
熱プレス工程において一対の金型で熱可塑性樹脂フィルムを熱プレスする際のプレス温度(金型温度)は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)よりも40℃高い温度(Tg+40℃)以上であることが必要であり、プレス温度は、ガラス転移温度よりも50℃高い温度(Tg+50℃)以上であることが好ましく、ガラス転移温度よりも55℃高い温度(Tg+55℃)以上であることが好ましい。プレス温度が上記下限値以上であれば、得られる樹脂シートの非球面状部の厚み精度のバラツキを小さくすることができると共に、形状精度を高めることができる。なお、効率的に樹脂シートを製造する観点からは、プレス温度は、ガラス転移温度よりも80℃高い温度(Tg+80℃)以下とすることが好ましい。
なお、プレス温度は、特に限定されることなく、既知の一般的な方法(例えば、既知のヒーター及びクーラー等を用いた温度制御方法)に従って金型の温度を制御することにより、適宜調節することができる。
【0054】
[プレス圧力]
熱プレス工程では、金型で熱可塑性樹脂フィルムを熱プレスする際のプレス圧力を、所定の昇圧速度で最終プレス圧力まで昇圧させた後、任意に最終プレス圧力で所定時間保持する。
【0055】
-昇圧速度-
ここで、プレス圧力の平均昇圧速度は、0.1MPa/秒以下であることが必要であり、0.07MPa/秒以下であることが好ましく、0.05MPa/秒以下であることがより好ましい。平均昇圧速度が上記上限値以下であれば、得られる樹脂シートの非球面状部の複屈折を小さくすることができると共に、形状精度を高めることができる。なお、効率的に樹脂シートを製造する観点からは、平均昇圧速度は、0.04MPa/秒以上とすることが好ましい。
【0056】
なお、プレス圧力の昇圧速度は、平均昇圧速度が0.1MPa/秒以下になれば一定の速度でなくてもよいが、得られる樹脂シートの非球面状部の複屈折を更に小さくすると共に形状精度を更に高める観点からは、熱プレス工程全体を通して、0.1MPa/秒以下であることが好ましく、0.07MPa/秒以下であることがより好ましく、0.05MPa/秒以下であることが更に好ましい。
また、非球面状部の形状精度を更に高めると共に、複屈折および厚み精度のバラツキを更に小さくする観点からは、熱プレス工程では、プレス圧力を一定の昇圧速度で最終プレス圧力まで昇圧させることが好ましく、0.1MPa/秒以下の一定の昇圧速度で最終プレス圧力まで昇圧させることがより好ましく、0.07MPa/秒以下の一定の昇圧速度で最終プレス圧力まで昇圧させることが更に好ましく、0.05MPa/秒以下の一定の昇圧速度で最終プレス圧力まで昇圧させることが特に好ましい。
【0057】
-最終プレス圧力-
最終プレス圧力は、特に限定されることなく、例えば1MPa以上10MPa以下とすることができる。最終プレス圧力が上記範囲内であれば、得られる樹脂シートの非球面状部の形状精度を更に高めると共に、複屈折および厚み精度のバラツキを更に小さくすることができる。
【0058】
[その他のプレス条件]
なお、熱プレス工程におけるプレス時間は特に限定されることなく、用いる熱可塑性樹脂フィルムの種類及びサイズ、目的とする樹脂シートの形状及び大きさ等に応じて、適宜決定することができる。例えば、最終プレス圧力までプレス圧力を昇圧させる時間は、20秒以上300秒以下とすることができ、プレス圧力を最終プレス圧力で保持する時間は、0秒以上180秒以下とすることができる。
【0059】
<金型冷却工程>
金型冷却工程では、一対の金型を熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度以下の温度まで冷却して、熱プレスフィルムを冷却する。かかる工程を実施することで、得られる樹脂シートの非球面状部の形状精度を高めることができる。なお、金型冷却工程の始点は、例えば、熱プレス工程の開始時点から所定時間経過後に、金型を冷却するための温度制御を開始する時点、或いは、熱プレス工程の開始時点から所定時間経過後に、金型に対する熱入力を停止した時点であり得る。金型冷却工程の終点は、後述する金型冷却温度まで金型温度が下がった時点、或いは、かかる時点から所定時間(例えば、50秒)経過した時点であり得る。
【0060】
[金型冷却温度]
金型冷却温度は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)以下である必要があり、ガラス転移温度よりも15℃低い温度(Tg-15℃)以下が好ましく、ガラス転移温度よりも30℃低い温度(Tg-30℃)以下がより好ましい。また、金型冷却温度は、ガラス転移温度よりも80℃低い温度(Tg-80℃)以上であることが好ましく、ガラス転移温度よりも75℃低い温度(Tg-75℃)以上であることがより好ましい。金型冷却温度が上記上限値以下であれば、後述する離型工程にて、離型し易く、得られる樹脂シートの非球面状部の形状精度を効果的に高めることができる。また、金型冷却温度が上記下限値以上であれば、樹脂シートの製造効率を一層高めることができる。
【0061】
[その他の金型冷却条件]
金型冷却時間及び金型冷却速度等は、特に限定されることなく、熱可塑性樹脂フィルムの種類及びサイズ、目的とする樹脂シートの非球面状部の形状及び大きさ等に応じて、適宜決定することができる。例えば、金型冷却時間は、10秒以上100秒以下とすることができ、金型冷却速度は、50℃/分以上300℃/分以下とすることができる。
【0062】
<離型工程>
離型工程では、金型冷却工程の後に、熱プレスフィルムを金型から離型して、樹脂シートを得る。この際、樹脂シートの非球面状部の形状精度を高める観点からは、熱プレスフィルムに対して張力をかけながら離型することが好ましい。ここで、張力は、搬送方向に沿う方向の力として作用させることが好ましい。また、離型工程における張力の制御方法は特に限定されず、公知の方法により制御することができる。例えば、熱プレスフィルムの巻き出しロール、熱プレスフィルムを巻き取るための巻取りロール、もしくは張力制御用に別途設けられたニップロール等により制御することができる。
さらに、離型工程のみならず、上述した熱プレス工程における、熱可塑性樹脂フィルムと一対の金型の何れか一方とが接触する金型加熱工程以降、離型工程を開始する時点までの各段階において、熱可塑性樹脂フィルムに対して継続的又は断続的に張力がかけられていることが好ましい。得られる樹脂シートの非球面状部の形状精度を一層高めることができるからである。勿論、上記期間以外に行う他の工程においても、熱可塑性樹脂フィルムに対して張力がかけられていても良い。即ち、搬送工程から、離型工程以降に行い得る工程までの全ての工程を通じて、熱可塑性樹脂フィルムに対して張力がかけられていても良い。
【0063】
[張力]
熱プレスフィルムに対して、搬送方向で作用させる張力の大きさは、熱可塑性樹脂フィルムの幅1mあたり、1N以上であることが好ましく、10N以上であることがより好ましく、2000N以下であることが好ましく、1000N以下であることがより好ましい。なお、「熱可塑性樹脂フィルムの幅」とは、搬送方向に対して直交する方向である。張力の大きさが上記下限値以上であれば、得られる樹脂シートの非球面状部の形状精度を一層高めることができる。また、張力の大きさが上記上限値以下であれば、熱プレスフィルムが破断することを抑制して、樹脂シートの製造効率を一層高めることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。実施例及び比較例において、熱可塑性樹脂のガラス転移温度は以下のようにして測定した。また、実施例及び比較例において、樹脂シートの非球面状部の形状精度、厚み精度のバラツキおよび位相差は、以下のようにして評価した。
【0065】
<熱可塑性樹脂フィルムのガラス転移温度>
熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量分析計(SIIナノテクノロジー社製、「DSC6220」)を用いて、JIS K7121に基づき昇温速度10℃/分の条件で測定した。
【0066】
<形状精度>
樹脂シートの非球面状部を打ち抜き、測定試料とした。
次に、打ち抜いた非球面状部のうち300個の測定試料について、形状測定器(パナソニック社製、「UA-3P」)を用いて、非球面の設計値を基準とするPV値(基準表面に対する測定試料の表面の形状の最大誤差、即ち測定範囲内での最も高い点(Peak)と最も低い点(Valley)の差)を測定した。そして、測定したPV値の単純平均値を形状精度として以下の基準で評価した。
A:PV値の単純平均値が0.5μm以下
B:PV値の単純平均値が0.5μm超1.0μm以下
C:PV値の単純平均値が1.0μm超
<厚み精度のバラツキ>
樹脂シートの非球面状部を打ち抜き、測定試料とした。
次に、打ち抜いた非球面状部のうち300個の測定試料について、中心の厚みを、形状測定器(パナソニック社製、「UA-3P」)を用いて測定した。そして、測定した厚みの標準偏差を厚み精度のバラツキとして以下の基準で評価した。
A:標準偏差が0.1μm以下
B:標準偏差が0.1μm超0.2μm以下
C:標準偏差が0.2μm超
<位相差>
樹脂シートの非球面状部を打ち抜き、測定試料とした。
次に、打ち抜いた非球面状部のうち300個の測定試料について、樹脂成形レンズ検査システム(フォトニックスラティス社製、「WPA-100」)を用いて位相差を測定した。
測定波長(543nm)で規格化した値として得られる位相差の値の単純平均値を用いて、以下の基準に従って評価した。位相差の値が小さいほど、複屈折が小さいことを意味する。
A:位相差の単純平均値が20nm以下
B:位相差の単純平均値が20nm超50nm以下
C:位相差の単純平均値が50nm超
【0067】
(実施例1)
ノルボルネン系開環重合体水素化物を含む熱可塑性樹脂(ZEONEX E48R(日本ゼオン社製)、ガラス転移温度:139℃)を、フィルム押出成形機(単軸押出機、φ=20mm、GSIクレオス社製)に入れ、これを260℃で溶融し、溶融樹脂をTダイから押し出し、これを冷却して、厚みが500μmである、幅295mmの熱可塑性樹脂フィルムを得た。なお、熱可塑性フィルムの幅方向に垂直な方向が長手方向となっており、ロール・ツー・ロール成形法により成形するために充分な長さを有していた。
上記に従って得られた熱可塑性樹脂フィルムを、温度調節装置を有する一対の金型を備える熱プレス成形機にセットした(搬送工程)。なお、一対の金型としては、表1に示す性状を有するものを用いた。
そして、金型の温度を表1に示すプレス温度まで昇温させた後、表1に示す条件で熱可塑性樹脂フィルムを熱プレスした(熱プレス工程)。
さらに、熱プレスフィルムをプレスしたままの状態で、一対の金型を100℃まで冷却して、金型間に挟まれた状態の熱プレスフィルムを冷却した(金型冷却工程)。
その後、金型を開いて金型冷却工程を終了し、表1に示す性状の樹脂シートを金型から剥離した(離型工程)。
得られ樹脂シートについて、上記に従って各種評価を行った結果を、搬送工程を開始してから離型工程を完了するまでに要した時間(サイクルタイム)と共に表1に示す。
【0068】
(実施例2)
熱プレス時の昇圧速度を表1に示す速度に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂シートを製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0069】
(実施例3~4)
プレス温度を表1に示す温度に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂シートを製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0070】
(実施例5~7)
金型を表1に示す金型に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂シートを製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
(実施例8)
熱可塑性樹脂フィルムとしてノルボルネンとエチレンとをモノマーとして用いたランダム付加重合により得られたノルボルネン-エチレンランダム共重合体を含む熱可塑性樹脂(TOPAS6013(Polyplastics社製)、ガラス転移温度:138℃)を用い、プレス温度を表1に示す温度に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂シートを製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0072】
(実施例9)
熱可塑性樹脂フィルムとしてポリカーボネート樹脂(ワンダーライトPC-115(旭化成社製)、ガラス転移温度:145℃)を用い、プレス温度を表1に示す温度に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂シートを製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
(実施例10)
熱可塑性樹脂フィルムとしてポリメチルメタクリレート樹脂(デルペット80NH(旭化成ケミカルズ社製)、ガラス転移温度:100℃)を用い、プレス温度を表1に示す温度に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂シートを製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
(実施例11)
熱可塑性樹脂フィルムとしてポリエステル樹脂(OKP-1(大阪ガスケミカル社製)、ガラス転移温度:132℃)を用い、プレス温度を表1に示す温度に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂シートを製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
(比較例1)
熱プレス時の昇圧速度を表1に示す速度に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂シートを製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
(比較例2)
プレス温度を表1に示す温度に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂シートを製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0077】
(比較例3)
金型を表1に示す金型に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂シートを製造し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
【0079】
表1より、実施例1~11の樹脂シートは、厚み精度のバラツキが小さく、且つ、形状精度の高い複数の非球面状部を有することが分かる。また、比較例1の樹脂シートは、非球面状部の形状精度が低く、更に、比較例2~3の樹脂シートは、非球面状部の厚み精度のバラツキが大きく、形状精度も低いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、厚み精度のバラツキが小さく、且つ、形状精度の高い複数の非球面状部を有する樹脂シートを提供することができる。
【符号の説明】
【0081】
10 樹脂シート
11 非球面状部