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特許7589734含フッ素重合体、膜、膜の製造方法および有機光電子素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】含フッ素重合体、膜、膜の製造方法および有機光電子素子
(51)【国際特許分類】
   C08F 14/26 20060101AFI20241119BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20241119BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20241119BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20241119BHJP
   H05B 33/22 20060101ALI20241119BHJP
   H10K 50/15 20230101ALI20241119BHJP
【FI】
C08F14/26
C08L27/12
H05B33/10
H05B33/14 A
H05B33/22 A
H05B33/22 D
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022503657
(86)(22)【出願日】2021-02-24
(86)【国際出願番号】 JP2021006902
(87)【国際公開番号】W WO2021172369
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2020030460
(32)【優先日】2020-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 岳文
(72)【発明者】
【氏名】鶴岡 薫
(72)【発明者】
【氏名】下平 哲司
(72)【発明者】
【氏名】武井 早希
(72)【発明者】
【氏名】別府 祥太朗
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/133088(WO,A1)
【文献】特開2018-126953(JP,A)
【文献】特開平08-239242(JP,A)
【文献】特開平09-025559(JP,A)
【文献】特開平11-001593(JP,A)
【文献】国際公開第2005/100420(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/096342(WO,A1)
【文献】特表2009-526351(JP,A)
【文献】特表平11-502243(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016644(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/110609(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
H10K50/15
H05B33/10
H10K50/10
H05B33/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)~(3)を満たす含フッ素重合体。
(1)融点が200℃以上である。
(2)1×10-3Paの圧力下において昇温速度2℃/分で昇温させたときの熱重量減少率が、400℃以下で実質的に100%に達する。
(3)1×10-3Paの圧力下において昇温速度2℃/分で昇温させたとき、熱重量減少率が10%となる温度から90%になる温度までの温度幅が100℃以内である。
【請求項2】
25℃における貯蔵弾性率が1×10Pa以上であり、
降温速度2℃/分で降温させたときに変化する貯蔵弾性率が1×10Pa未満になる温度は120℃以上である、請求項1に記載の含フッ素重合体。
【請求項3】
フルオロオレフィンに由来する単位を有する、請求項1または2に記載の含フッ素重合体。
【請求項4】
少なくともテトラフルオロエチレンに由来する単位を有する、請求項3に記載の含フッ素重合体。
【請求項5】
ペルフルオロアルキルビニルエーテルに由来する単位を有する、請求項3または4に記載の含フッ素重合体。
【請求項6】
前記ペルフルオロアルキルビニルエーテルがペルフルオロプロピルビニルエーテルである、請求項5に記載の含フッ素重合体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の含フッ素重合体と有機半導体とを含む膜。
【請求項8】
前記含フッ素重合体と前記有機半導体との合計に対する前記含フッ素重合体の割合が、20~80体積%である、請求項7に記載の膜。
【請求項9】
ドーパントをさらに含む、請求項7または8に記載の膜。
【請求項10】
前記含フッ素重合体と前記有機半導体との共蒸着膜である、請求項7から9のいずれか1項に記載の膜。
【請求項11】
請求項1から6のいずれか1項に記載の含フッ素重合体と有機半導体とを共蒸着させる工程を有する、膜の製造方法。
【請求項12】
前記共蒸着させる工程において、ドーパントをあわせて共蒸着させる、請求項11に記載の膜の製造方法。
【請求項13】
請求項7から10のいずれか1項に記載の膜を含む有機光電子素子。
【請求項14】
基板と、
前記基板に設けられた陽極と、
前記陽極に対向する陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に配置された活性層と、
前記活性層と前記陽極との間に配置された正孔輸送層と、
前記正孔輸送層と前記陽極との間に配置された正孔注入層と、を備え、
前記正孔輸送層および前記正孔注入層の少なくとも一方の層が前記膜である、請求項13に記載の有機光電子素子。
【請求項15】
基板と、
前記基板に設けられた陽極と、
前記陽極に対向する陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に配置された活性層と、
前記活性層と前記陰極との間に配置された電子輸送層と、
前記電子輸送層と前記陰極との間に配置された電子注入層と、を備え、
前記電子輸送層および前記電子注入層の少なくとも一方の層が前記膜である、請求項13または14に記載の有機光電子素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素重合体、膜、膜の製造方法および有機光電子素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自発光型の素子として、有機光電子素子(有機エレクトロルミネッセンス素子。以下、有機EL素子。)が知られている。有機EL素子は、一対の電極間に、発光層、電子輸送層、正孔輸送層等の複数種の層が積層された構成を基本構造としている。
【0003】
有機EL素子を構成する複数種の層の材料として、フッ素樹脂が用いられることがある。フッ素樹脂は、層を低屈折率化するための低屈折率材料、電極のバッファーなど、種々の目的で用いられている。
例えば、フッ素樹脂を材料とする陽極バッファー層を有する有機EL素子が知られている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の有機EL素子では、フッ素樹脂を蒸着させることにより、陽極バッファー層を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】中国特許第100557852号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の実施例においては、真空チャンバー内において、減圧下フッ素樹脂を蒸着させることが記載されている。特許文献1の実施例では、成膜開始時に8×10-3Paであったチャンバー内圧力が、成膜終了時には1~3×10-2Paにまで上昇している。これは、用いたフッ素樹脂が蒸着条件において熱分解し、生じた低分子の分解物が気化することにより、チャンバー内圧力を上げていると考えられる。
特許文献1に記載のように、蒸着中に熱分解してしまうフッ素樹脂を用いると、所望の蒸着条件を担保しにくいことが予想される。そのため、たとえ有機EL素子が得られたとしても、品質が安定しないおそれがあり、改善が求められていた。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、蒸着に適した含フッ素重合体を提供することを目的とする。また、このような含フッ素重合体を材料として含む膜を提供することを併せて目的とする。また、このような膜を容易に製造可能する膜の製造方法を提供することをあわせて目的とする。さらに、このような膜を構造に有する有機光電子素子を提供することを併せて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]下記(1)~(3)を満たす含フッ素重合体。
(1)融点が200℃以上である。(2)1×10-3Paの圧力下において昇温速度2℃/分で昇温させたときの熱重量減少率が、400℃以下で実質的に100%に達する。(3)1×10-3Paの圧力下において昇温速度2℃/分で昇温させたとき、熱重量減少率が10%となる温度から90%になる温度までの温度幅が100℃以内である。
[2]25℃における貯蔵弾性率が1×10Pa以上であり、降温速度2℃/分で降温させたときに変化する貯蔵弾性率が1×10Pa未満になる温度は120℃以上である、[1]に記載の含フッ素重合体。
[3]フルオロオレフィンに由来する単位を有する、[1]または[2]に記載の含フッ素重合体。
[4]少なくともテトラフルオロエチレンに由来する単位を有する、[3]に記載の含フッ素重合体。
[5]ペルフルオロアルキルビニルエーテルに由来する単位を有する、[3]または[4]に記載の含フッ素重合体。
[6]前記ペルフルオロアルキルビニルエーテルがペルフルオロプロピルビニルエーテルである、[5]に記載の含フッ素重合体。
【0008】
[7]前記[1]から[6]のいずれかに記載の含フッ素重合体と有機半導体とを含む膜。
[8]前記含フッ素重合体と前記有機半導体との合計に対する前記含フッ素重合体の割合が、20~80体積%である、[7]に記載の膜。
[9]ドーパントをさらに含む、[7]または[8]に記載の膜。
[10]前記含フッ素重合体と前記有機半導体との共蒸着膜である、[1]から[9]のいずれかに記載の膜。
[11]前記[1]から[6]のいずれかに記載の含フッ素重合体と有機半導体とを共蒸着させる工程を有する、膜の製造方法。
[12]前記共蒸着させる工程において、ドーパントをあわせて共蒸着させる、[11]に記載の膜の製造方法。
【0009】
[13]前記[7]から[10]のいずれかに記載の膜を含む有機光電子素子。
[14]基板と、前記基板に設けられた陽極と、前記陽極に対向する陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置された活性層と、前記活性層と前記陽極との間に配置された正孔輸送層と、前記正孔輸送層と前記陽極との間に配置された正孔注入層と、を備え、前記正孔輸送層および前記正孔注入層の少なくとも一方の層が前記膜である、[13]に記載の有機光電子素子。
[15]基板と、前記基板に設けられた陽極と、前記陽極に対向する陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置された活性層と、前記活性層と前記陰極との間に配置された電子輸送層と、前記電子輸送層と前記陰極との間に配置された電子注入層と、を備え、前記電子輸送層および前記電子注入層の少なくとも一方の層が前記膜である、[13]または[14]に記載の有機光電子素子。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、蒸着に適した含フッ素重合体を提供できる。また、このような含フッ素重合体を材料として含む膜を提供できる。また、このような膜を容易に製造可能する膜の製造方法を提供できる。さらに、このような膜を構造に有する有機光電子素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、含フッ素重合体の要件(2)(3)を説明する模式図である。
図2図2は、第1実施形態の膜を示す概略断面図である。
図3図3は、膜10を製造する工程を示す模式図である。
図4図4は、膜10を製造する工程を示す模式図である。
図5図5は、膜10を製造する工程を示す模式図である。
図6図6は、本発明の第2実施形態に係る有機光電子素子(有機EL素子)100を示す断面模式図である。
図7図7は、本発明の第3実施形態に係る有機EL素子200の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書における重合体を構成する「単位」とは、重合体中に存在して重合体を構成する、単量体1分子に由来する部分(すなわち、単量体単位)を意味する。以下、個々の単量体に由来する単位をその単量体名に「単位」を付した名称で呼ぶ場合がある。
【0013】
本明細書において重合体の「主鎖」とは、炭素-炭素不飽和二重結合を有する単量体の付加重合により生じる、単量体において炭素-炭素不飽和二重結合を構成していた炭素原子から構成される炭素原子鎖をいう。
【0014】
本明細書における「脂肪族環」は、環骨格が炭素原子のみから構成される炭素環構造のものに加えて、環骨格に炭素原子以外の原子(ヘテロ原子)を含む複素環構造のものも意味する。ヘテロ原子としては酸素原子、窒素原子、硫黄原子等が挙げられる。
【0015】
[第1実施形態]
以下、図1図5を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る含フッ素重合体、膜、膜の製造方法について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0016】
(含フッ素重合体)
本実施形態の含フッ素重合体は、下記の要件(1)~(3)を満たす。
要件(1)融点が200℃以上である。
要件(2)1×10-3Paの圧力下において昇温速度2℃/分で昇温させたときの熱重量減少率が、400℃以下で実質的に100%に達する。
要件(3)1×10-3Paの圧力下において昇温速度2℃/分で昇温させたとき、熱重量減少率が10%となる温度から90%になる温度までの温度幅が100℃以内である。
【0017】
上記要件(1)~(3)を満たす含フッ素重合体は、蒸着に適した物性を有し、好適に蒸着膜を形成可能となる。
以下、順に説明する。
【0018】
(含フッ素重合体の構造)
本実施形態の含フッ素重合体としては、高い結晶性を有し、所望の範囲の融点を有する重合体であれば単位に特に制限はない。
【0019】
含フッ素重合体は、フルオロオレフィンに由来する単位を有する重合体が好ましい。より具体的には、含フッ素重合体は、少なくともテトラフルオロエチレン(TFE)に由来する単位(すなわち、TFE単位)を有することが好ましい。
【0020】
含フッ素重合体は、一般に、TFE単位や、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)に由来する単位(すなわち、CTFE単位)を高い比率で含有すると、高い結晶性を得られることが知られている。そのため、本実施形態の含フッ素重合体も、TFE単位や、CTFE単位を高い比率で含有することが好ましい。
【0021】
含フッ素重合体全体に対するTFE単位およびCTFE単位の割合は、50mol%以上であることが好ましく、70mol%以上であることがより好ましく、90mol%以上であることがさらに好ましい。含フッ素重合体が、TFE単位とCTFE単位との両方を含む場合は、TFE単位の割合と、CTFE単位の割合との和が、上記含有率以上であると好ましい。
上記含有率の上限値は、100mol%である。
【0022】
本実施形態の含フッ素重合体は、TFEまたはCTFEの単独重合体でもよく、TFEまたはCTFEと他の単量体とからなる群から選ばれる2種以上の単量体の共重合体であってもよい。
上記他の単量体は、TFEまたはCTFEと共重合可能であれば特に制限はない。他の単量体は、炭化水素系単量体でもよく、含フッ素単量体でもよい。
【0023】
上記他の単量体としての炭化水素系単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、スチレン等の炭化水素系単量体が挙げられる。
他の単量体として炭化水素系単量体を用いる場合、含フッ素重合体の全単位に対する、他の単量体に由来する単位の割合は、50mol%以下であることが好ましく、30mol%以下であることがより好ましく、10mol%以下であることがさらに好ましい。
【0024】
得られる含フッ素重合体の屈折率が相対的に小さくなるため、上記他の単量体としては、含フッ素単量体が好ましい。含フッ素単量体としては、ペルフルオロ化合物が好ましい。
他の単量体である含フッ素単量体としては、重合により主鎖に脂肪族環構造を有する単位となる単量体であってもよいが、このような含フッ素重合体の主鎖に脂肪族環構造をもたらす単量体ではないことが好ましい。主鎖に脂肪族環構造を有しない含フッ素重合体は、主鎖に脂肪族環構造を有する含フッ素重合体と比較して結晶性が高く、含フッ素重合体の融点を所望の範囲に制御しやすい。
重合により主鎖に脂肪族環構造を有する単位となる単量体としては、後述のペルフルオロ環状モノエンや環化重合し得るペルフルオロジエンが挙げられる。
ペルフルオロ化合物以外の含フッ素単量体としては、例えば、トリフルオロエチレン(TrFE)、ビニリデンフルオライド(VdF)、1,2-ジフルオロエチレン、1-フルオロエチレン等が挙げられる。
【0025】
含フッ素単量体のうちペルフルオロ化合物としては、例えば、下記の、ペルフルオロオレフィン、ペルフルオロアルキルビニルエーテル、ペルフルオロ環状モノエン、環化重合し得るペルフルオロジエン等が挙げられる。
ペルフルオロオレフィン:ヘキサフルオロプロペン(HFP)等
ペルフルオロアルキルビニルエーテル:ペルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、ペルフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)、ペルフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)等
ペルフルオロ環状モノエン:ペルフルオロ(4-メトキシ-1,3-ジオキソール)、ペルフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)、ペルフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)等
環化重合し得るペルフルオロジエン:ペルフルオロ(3-ブテニルビニルエーテル)等
【0026】
なかでも、含フッ素重合体としては、ペルフルオロアルキルビニルエーテル単位を有することが好ましい。特に、含フッ素重合体は、PPVE単位を有することが好ましい。
含フッ素重合体は、PPVE単位の含有率が変化すると、融点が変化する。具体的には、含フッ素重合体に対するPPVE単位の含有率が増えると、含フッ素重合体の融点が下がる傾向にある。
【0027】
含フッ素重合体に対するPPVE単位の含有率は、14mol%未満が好ましく、10mol%以下がより好ましい。
含フッ素重合体に対するPPVE単位の含有率は、上限は特に制限されないが、0mol%を超えることが好ましく、1mol%以上がより好ましい。
含フッ素重合体に対するPPVE単位の含有率について、上限値と下限値とは、任意に組み合わせることができる。例えば、上記含有率は、1~12mol%が好ましい。
【0028】
上述した各単量体は、通常、ラジカル重合開始剤を用いたラジカル重合により重合される。この場合、重合終了時の含フッ素重合体は、分子鎖(主鎖)の末端の構造が、重合で用いたラジカル重合開始剤のフラグメントが付加した構造であることが考えられる。また、重合に際して連鎖移動剤を用いた場合、分子鎖(主鎖)の末端の構造は、連鎖移動剤のフラグメントが付加した構造を取り得る。
含フッ素重合体は、上記末端の構造が他の構造に変換されてもよい。例えば、上述した重合終了時の含フッ素重合体について300℃以上に熱処理することにより、主鎖の末端の構造は、-C(=O)-Fとなり、含フッ素重合体は酸フッ化物となる。
【0029】
上記酸フッ化物をメタノール処理することにより、主鎖の末端の構造は、メチルエステル基となる。メチルエステル基は、簡便なメタノール処理により、反応性が高い酸フッ化物から変換可能である。そのため、得られる含フッ素重合体の安定性を向上させやすいため好ましい。
【0030】
さらに、上記酸フッ化物をフッ化処理することで、主鎖の末端の構造は、トリフルオロメチル基となる。フッ化処理としては、例えば、特開平11-152310号公報の段落0040に記載された処理方法を挙げることができる。トリフルオロメチル基は、耐熱性が高く、得られる含フッ素重合体の耐熱性が向上しやすいため好ましい。
また、含フッ素重合体は、主鎖の末端の構造がメチルエステル基やトリフルオロメチル基であると、主鎖の末端における分子間相互作用が小さく、蒸着しやすくなるため好ましい。
上述した主鎖の末端の構造は、赤外線分光分析により確認できる。
【0031】
(要件(1))
本実施形態の含フッ素重合体は、結晶性を有することが好ましい。含フッ素重合体が結晶性を有すことにより、融点が200℃以上となりやすい。本実施形態の含フッ素重合体の融点は、215℃以上が好ましく、225℃以上がより好ましく、240℃以上がさらに好ましい。
また、本実施形態の含フッ素重合体の融点は、上限は特に制限されないが、350℃以下であることが好ましく、320℃以下であることがより好ましく、300℃以下がさらに好ましい。
含フッ素重合体の融点の上限値と下限値とは、任意に組み合わせることができる。例えば、含フッ素重合体の融点は、200~350℃であってもよく、215~320℃であってもよく、225~300℃であってもよい。
【0032】
本実施形態において、融点は、示差走査熱量計(例えば、NETZSCH製:DSC 204 F1 Phoenix)を用いて測定する値を採用する。含フッ素重合体9mgを試料容器に仕込み、-70℃から350まで毎分10℃で昇温させた際の熱容量を測定し、得られた融解ピークより融点を求める。
【0033】
(要件(2))
本実施形態において、熱重量減少率は、真空示差熱天秤(アドバンス理工社製:VPE-9000)を用いて測定する値を採用する。具体的には、含フッ素重合体50mgを内径7mmのセルに仕込み、1×10-3Paの真空度にて、室温から500℃まで毎分2℃で昇温させた際の、含フッ素重合体の初期重量(50mg)に対する重量減少率(%)を測定する。
【0034】
要件(2)における「実質的に」とは、上述した熱重量減少率の測定方法において、400℃を超えた温度範囲での熱重量減少が検出下限を下回っており、熱重量減少が確認できないことを意味する。
【0035】
本実施形態の含フッ素重合体は、上記要件(2)を満たす温度が低いほど分子量(重合度)が低いということができる。上記要件(2)を満たさない含フッ素重合体を蒸着させようと、400℃を超えた温度範囲での加熱を試みると、含フッ素重合体が熱分解するおそれがある。その場合、熱分解で生じた生成物が、蒸着で用いる真空チャンバーの内部圧力を上昇させるおそれがある。このように、真空チャンバーの内部圧力が上昇すると、蒸着条件が不安定となり、蒸着膜の品質が安定しないおそれがある。また、部分的に熱分解した含フッ素重合体が蒸着膜中に混入し、蒸着膜の品質が損なわれるおそれがある。
【0036】
一方、上記要件(2)を満たす含フッ素重合体は、真空下で行う蒸着材料として用いたとき、400℃よりも低い温度で加熱することで、好適に蒸着させることが可能となる。これにより、上述した熱分解のおそれがなく、安定した蒸着条件で蒸着処理が可能となる。
【0037】
含フッ素重合体の耐熱性は、真空チャンバーの内部圧力の変化に着目すると、以下のように評価できる。
【0038】
[蒸着時のチャンバー圧変化の評価法]
真空蒸着機に含フッ素重合体を0.1g仕込み、チャンバー内の圧力を10-4Pa以下に減圧した上で、含フッ素重合体を蒸着速度0.1nm/秒で200nm成膜する。この際にチャンバー内の圧力をモニターし、蒸着時における圧力の最大値を計測する。
下記計算式より求められるチャンバー圧力の上昇倍率が2倍以下の含フッ素重合体は、好適に蒸着させることが可能となる。
蒸着時のチャンバー圧力の上昇倍率=蒸着中の最大圧力/蒸着前の初期圧力
【0039】
上昇倍率が2倍を超える含フッ素重合体は、熱分解が進みやすく、蒸着に用いるには不適と判断できる。
さらに、チャンバー圧力の上昇倍率が10倍を超えるほど含フッ素重合体が熱分解する場合、熱分解で生じた生成物により、製造する蒸着膜の品質が安定しないおそれがある。
【0040】
本実施形態の含フッ素重合体は、1×10-3Paの圧力下において昇温速度2℃/分で昇温させたときの熱重量減少率が、350℃以下で実質的に100%に達することが好ましい。
【0041】
(要件(3))
本実施形態の含フッ素重合体は、1×10-3Paの圧力下において昇温速度2℃/分で昇温させたとき、熱重量減少率が10%となる温度から90%になる温度までの温度幅が100℃以内である。
【0042】
本実施形態の含フッ素重合体は、上記要件(3)を満たす温度幅が狭いほど分子量分布が狭いということができる。
上記要件(3)を満たさない含フッ素重合体を用い蒸着膜を製造しようとすると、蒸着の始期に蒸着される含フッ素重合体の分子量と、蒸着の終期に蒸着される含フッ素重合体の分子量との差が大きく、同じ蒸着膜において、蒸着膜の厚み方向で含フッ素重合体の分子量が変化し、蒸着膜の物性が安定しないおそれがある。
また、同条件で連続的に蒸着膜を製造する場合、上記要件(3)を満たさない含フッ素重合体を用いると、製造される蒸着膜の品質がロット間でばらつくおそれがある。
このように、要件(3)を満たさない含フッ素重合体を用いると、蒸着条件が不安定となり、蒸着膜の品質が安定しないおそれがある。
【0043】
一方、上記要件(3)を満たす含フッ素重合体は、蒸着の始期に蒸着される含フッ素重合体の分子量と、蒸着の終期に蒸着される含フッ素重合体の分子量との差が小さく、蒸着膜の厚み方向において含フッ素重合体の分子量の変化が小さい。そのため、得られる蒸着膜の物性が安定しやすい。
また、同条件で連続的に蒸着膜を製造する場合、製造される蒸着膜のロット間の品質ばらつきを抑制できる。
これらにより、要件(3)を満たす含フッ素重合体を用いると、蒸着膜の品質が安定しやすい。
【0044】
本実施形態の含フッ素重合体は、1×10-3Paの圧力下において昇温速度2℃/分で昇温させたとき、熱重量減少率が10%となる温度から90%になる温度までの温度幅が70℃以内であることが好ましい。
【0045】
図1は、要件(2)(3)を説明する模式図であり、測定温度に対する熱重量減少率の対応関係を示すグラフである。図1の横軸は測定温度(単位:℃)、縦軸は熱重量減少率(単位%)である。図1においては、要件(2)(3)を満たす含フッ素重合体の挙動を符号Pで示し、要件(2)(3)を満たさない含フッ素重合体の挙動を符号Pxで示す。
【0046】
図1においては、本実施形態の含フッ素重合体の挙動について示すグラフPは、400℃よりも低い温度(Td100)で熱重量減少率が100%に達している。対して、要件(2)(3)を満たさない含フッ素重合体の挙動について示すグラフPxは、400℃において熱重量減少率が100%に達していない。
また、図1において、本実施形態の含フッ素重合体の挙動について示すグラフPは、Td90-Td10の値Wが100℃以下である。
図1からは、本実施形態の含フッ素重合体は、温度Td10と温度Td90との間で急峻に熱重量減少を生じることが分かる。
【0047】
(分子量分画)
上記要件(2)(3)を満たす含フッ素重合体は、重合体を分子量分画することで得られる。以下の説明では、分子量分画の対象となる重合体を、「原料重合体」と称することがある。
分子量分画の方法としては、例えば、昇華精製や超臨界抽出により、分子量を分画し、要件(2)(3)を満たす重合体に調整する方法が挙げられる。
【0048】
(昇華精製)
昇華精製は、減圧下で精製対象物(原料重合体)を加熱して精製対象物の一部または全部を昇華または蒸発させた後に、気体状態の精製対象物に含まれる化合物の析出温度差を利用して、目的の化合物を固体として分離し、回収する手法である。このような昇華精製は、精製対象物を仕込む仕込み部と、気体状態の精製対象物を析出温度ごとに分離して固体として捕集する捕集部を有し、かつ高い真空度を保つことのできる昇華精製装置を用いて行うことができる。
昇華精製装置の構造は特に限定されないが、例えばガラス製の冷却管と冷却管を囲うフラスコ状のガラス容器と、ガラス容器の内部を減圧する真空排気装置からなる、いわゆるミル氏式の昇華精製装置を用いることができる。また、昇華精製装置としては、円筒状のガラス製の昇華管と、昇華管を内部に収容して昇華管を加熱する加熱装置と、昇華管の内部を減圧する高真空排気装置と、を備えたガラスチューブ式の昇華精製装置を用いることもできる。
以下、ガラスチューブ式の昇華精製装置を例に、含フッ素重合体の昇華精製および昇華精製による分子量の分画方法を説明する。
【0049】
含フッ素重合体の昇華精製では、昇華管の仕込み部に原料重合体を仕込み、高真空排気装置を用いて、例えば、圧力を1×10-3Pa以下まで昇華管内の真空度を上げた後、加熱装置を用いて仕込み部を加熱する。これにより、原料重合体に含まれる含フッ素重合体が昇華または蒸発する。
昇華管のうち、仕込み部よりも高真空排気装置による排気側にあたる領域は、「捕集部」に該当する。捕集部は、仕込み部の加熱温度よりも低い温度に設定されている。仕込み部で原料重合体から昇華または蒸発させた含フッ素重合体は、捕集部の壁面で析出し固化して、捕集される。
【0050】
捕集部の捕集温度は、含フッ素重合体が気体から固体へ昇華する温度(析出する温度)に対応し、含フッ素重合体の分子量に対応する。昇華管において捕集温度を異ならせた複数の捕集部を設けることにより、原料重合体を、分子量の異なる含フッ素重合体に分画できる。
例えば、具体的には、仕込み部をA℃に加熱し、捕集部を仕込み部に近い側からB℃とC℃とに加熱した場合(A>B>C)、B℃に設定した捕集部では、A℃では気体、B℃では固体となる分子量範囲の含フッ素重合体が捕集される。
同様に、C℃に設定した捕集部では、B℃では気体、C℃では固体となる分子量範囲の含フッ素重合体が捕集される。すなわち、C℃に設定した捕集部では、原料重合体に含まれる含フッ素重合体のうち、B℃では気体でありC℃では固体となる捕集温度幅B℃-C℃の含フッ素重合体が捕集される。
【0051】
上述の要件(3)は、上述のように捕集温度幅を制御し、例えば捕集温度幅100℃となる捕集部で捕集することで満たすことができる。なお、捕集した含フッ素重合体について、要件(3)を満たすか否かを確認し、要件(3)を満たさない場合には、捕集部の温度条件を制御し、捕集温度幅を狭くするとよい。
捕集部において、低い設定温度の領域で捕集された含フッ素重合体ほど、1×10-3Paの圧力下における熱重量減少率が100%に達する温度が低い、すなわち分子量が小さい含フッ素重合体となる。
【0052】
捕集温度幅は、100℃以下であることが好ましく、70℃以下であることがより好ましく、40℃以下であることがさらに好ましい。捕集温度幅が小さいほど、蒸着条件の変動が少なくなり、また、膜厚方向において均質な相分離構造が形成されやすい。
【0053】
分子量分画した含フッ素重合体は、要件(2)(3)を満たすならば、捕集温度幅の異なる複数の含フッ素重合体を混合してもよい。
【0054】
(超臨界抽出)
超臨界抽出は、超臨界流体の高い溶解性と拡散性を利用して抽出物を得る技術である。超臨界抽出では、例えば、超臨界流体として超臨界COを用い、超臨界COに相対的に低分子量の含フッ素重合体を溶解させ、抽出物として得ることができる。
また、超臨界流体に対する添加剤(エントレーナー)として、含フッ素溶媒を用いることで、超臨界流体に対する含フッ素重合体の溶解性を高めることができる。
【0055】
エントレーナーとして用いる含フッ素溶媒は、特に限定されない。例えば、下記方法で求める親フッ素パラメータPが1以上である含フッ素溶媒が好ましい。(親フッ素パラメータP
3gのトルエンと3gのペルフルオロメチルシクロヘキサンとの二相系に、30μLの前記含フッ素溶媒を滴下してよく混合し一晩静置した後、前記トルエンに含まれる前記含フッ素溶媒と、前記ペルフルオロメチルシクロヘキサンに含まれる前記含フッ素溶媒とをガスクロマトグラフィーにより測定する。前記トルエン中の前記含フッ素溶媒の濃度(単位:mL/L)をM、前記ペルフルオロメチルシクロヘキサン中の前記含フッ素溶媒の濃度(単位:mL/L)をMとしたとき、下記式(A)で求められる値を親フッ素パラメータPとする。
=M/M…(A)
【0056】
エントレーナーとして用いる含フッ素溶媒としては、例えば以下の化合物が挙げられる。
1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロヘキサン(AC-2000、AGC社製)(P=12)
1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタン(AC-6000、AGC社製)(P=5.6)
サイトップ CT-SOLV100E(AGC社製)(P=8.2)
サイトップ CT-SOLV180(AGC社製)(P=∞)
HFE7300(3M社製)(P=8.2)
1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-Decafluoropentane(Vertre XF、Chemours社製)(P=3.7)
1H,1H,2H,2H-ペルフルオロオクタノール(P=1.1)
1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(AE-3000、AGC社製)(P=0.6)
HCFC-225ca/HCFC-225cb(45/55)(P=0.3)
ペルフルオロベンゼン(P=0.3)
ヘキサフルオロ-2-プロパノール(P=0.24)
1H,1H,7H-ペルフルオロヘプタノール(P=0.23)
1H,1H,5H-ペルフルオロペンタノール(P=0.1)
【0057】
抽出工程は、例えば超臨界COを用い、抽出圧力7.4MPa以上、抽出温度31℃以上の条件で行うことができる。
抽出圧力は、30MPa以上が好ましく、50MPa以上がより好ましく、70MPa以上がさらに好ましい。抽出圧力の上限値には特に制限はないが、100MPa以下が好ましい。抽出圧力の上限値と下限値とは、任意に組み合わせることができる。
抽出温度は、40℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。また、抽出温度は、300℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。抽出温度の上限値と下限値とは、任意に組み合わせることができる。
上記範囲であれば、目的とする含フッ素重合体の分子量分画を効率よく行うことができる。
【0058】
(その他の要件)
本実施形態の含フッ素重合体は、下記要件(4)(5)を満たすことが好ましい。
要件(4)25℃における貯蔵弾性率が1×10Pa以上である。
要件(5)降温速度2℃/分で含フッ素重合体を降温させたとき、貯蔵弾性率が1×10Pa未満になる温度は120℃以上である。
含フッ素重合体が上記要件(4)(5)を満たすと、含フッ素重合体の耐熱性が高くなる。
【0059】
上記要件(4)(5)を満たす含フッ素重合体は、例えば含フッ素重合体が有するPPVE単位の含有率を変更することで得られる。PPVE単位の含有率が増えると、貯蔵弾性率は低下する傾向にある。
【0060】
本実施形態において、貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定装置(例えば、アントンパール社製、MCR502)、および粘弾性測定装置用加熱炉(例えば、アントンパール社製、CTD450)を用いて測定する値を採用する。具体的には、試料(含フッ素重合体)を融点以上に加熱した後、定速降温モードで2℃/分で降温させる。上記測定装置を用い、歪み0.01%、周波数1Hzの条件で貯蔵弾性率(G’)を測定する。
【0061】
図2は、本実施形態の膜を示す概略断面図である。図2に示す膜10は、有機半導体と含フッ素重合体の共蒸着膜であり、基板50上に形成されている。
膜10においては、有機半導体と含フッ素重合体とが相分離しており、有機半導体のドメイン51bと、上述した含フッ素重合体のドメイン52bとを含む。ドメイン51bとドメイン52bとは膜厚方向に連続している。
膜10の面方向におけるドメイン52bの大きさDは、例えば10nm~20nm程度である。
以下の説明では、膜10が有する上述のような相分離構造を、ナノドメイン構造と称することがある。
【0062】
上述の通り、本実施形態で用いられる含フッ素重合体は、融点が200℃以上であり、高い結晶性を有する。通常、高い結晶性を有する材料を用いて膜を形成した場合、耐熱性の高い膜が得られる。一方で、高い結晶性を有する材料を用いて形成した膜は、結晶化した部分が可視光を散乱するため、ヘイズが高く、透明性の低い膜となりやすい。このことから、高い結晶性を有する材料を用いて形成した膜は、透明性を必要とする光電子素子等への適用が難しかった。
【0063】
しかし、膜10は、可視光に対して十分に小さいナノドメイン構造を有している。このような膜10に含まれる含フッ素重合体の一部が結晶化したとしても、結晶化した部分の大きさは、ナノドメイン構造に収まる大きさとなる。
そのため、膜10は、可視光を散乱させにくく、高い透明性を示す。
さらに、膜10は、含フッ素重合体の高い結晶性に基づいて、高い耐熱性を有する。そのため、膜10は、高温下に晒されてもナノドメイン構造が保持され、高い透明性を維持し得る。
【0064】
膜10のヘイズおよびその耐熱性は、下記方法で測定することができる。
[ヘイズ測定用試料の作製]
ガラス基板上に、α-NPDと、含フッ素重合体と、を共蒸着し、100nmの共蒸着膜を成膜して、ヘイズ測定用試料を得る。2つの材料の合計の蒸着速度は0.2nm/秒とする。蒸着速度を調整し、共蒸着膜におけるα-NPDと含フッ素重合体の体積比を所望の比率とする。
【0065】
[ヘイズ測定]
ヘイズ測定は、ヘイズメーター(東洋精機社製ヘイズガードK50-290)を用いて行う。
ヘイズ測定用試料の初期ヘイズを測定後、サンプル試料を100℃に熱したホットプレート上で1時間加熱する。試料を常温に戻した後に、再度ヘイズを測定する。さらに、サンプル試料を120℃に熱したホットプレート上で1時間加熱し、同様にしてヘイズを測定する。
【0066】
得られたヘイズについて、以下のように評価する。
〇:0.2未満、
△:0.2以上0.5未満
×:0.5以上
【0067】
膜10を構成する含フッ素重合体と有機半導体との合計に対する含フッ素重合体の割合は、膜10全体に対するドメイン52bの体積と等しい。膜10全体に対するドメイン52bの割合は、20~80体積%が好ましい。含フッ素重合体の割合が20体積%以上であると、含フッ素重合体を有さない有機半導体の膜と比べて、十分に低屈折率化された膜となる。また、含フッ素重合体の割合が80体積%以下であると、膜10の導電性を十分に確保できる。
【0068】
膜10の屈折率は、下記方法で作製した試料を用い、下記方法で測定することができる。
[屈折率測定用試料の作製]
シリコン基板上に、α-NPDと、含フッ素重合体と、を共蒸着し、100nmの共蒸着膜を成膜して、屈折率測定用試料を得る。2つの材料の合計の蒸着速度は0.2nm/秒とする。蒸着速度を調整し、共蒸着膜におけるα-NPDと含フッ素重合体の体積比を所望の比率とする。
[屈折率測定]
多入射角分光エリプソメトリー(例えば、ジェー・エー・ウーラム社製:M-2000U)を用いて、シリコン基板上の膜に対して、光の入射角を45~75度の範囲で5度ずつ変えて測定を行う。それぞれの角度において、波長450~800nmの範囲で約1.6nmおきにエリプソメトリーパラメータであるΨとΔを測定する。前記の測定データを用い、有機半導体の誘電関数をCauchyモデルによりフィッティング解析を行い、波長600nmの光に対する蒸着膜の屈折率を得る。
【0069】
有機半導体は、公知のものを使用可能であり、本実施形態の膜10を備える装置の機能に応じて、適切な材料を選択できる。
例えば、有機半導体としては、有機EL素子の正孔注入層を構成する正孔注入材料、電子注入層を構成する電子注入材料、正孔輸送層を構成する正孔輸送材料、電子輸送層を構成する電子輸送材料、発光層を構成するホスト材料やゲスト材料を例示できる。
【0070】
正孔注入材料としては、芳香族アミン誘導体が好適に例示できる。具体例としては、下記のα-NPD、TAPC、PDA、TPD、m-MTDATA等が挙げられるが、これらに限定されない。
【化1】
【0071】
前記以外の正孔注入材料としては、例えば、下記の、半導体材料、有機金属錯体材料、アリールアミン材料、高分子半導体材料等が挙げられる。また市販品としては下記のものが挙げられる。
半導体材料:酸化モリブデン、酸化タングステン等の金属酸化物、フッ化アルミニウム、フッ化マグネシウム等の金属フッ化物
有機金属錯体材料:銅フタロシアニン等
アリールアミン材料:N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス-[4-(フェニル-m-トリル-アミノ)-フェニル]-ビフェニル-4,4’-ジアミン(DNTPD)、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニルベンジジン(NPB)、4,4’,4”-トリス(N,N-ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン(TDATA)、ジピラジノ[2,3-f:2’,3’-h]キノキサリン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN)、9,9’,9”-トリフェニル-9H,9’H,9”H-3,3’:6’,3”-テルカルバゾール(Tris-PCz)、4,4’,4”-トリス(N,N-2-ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(2-TNATA)等
高分子半導体材料:ポリアニリン/ドデシルベンゼンスルホン酸(PANI/DBSA)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4-スチレンスルホネート)(PEDOT/PSS)、ポリアニリンカンファースルホン酸(PANI/CSA)、またはポリアニリン/ポリ(4-スチレンスルホネート)(PANI/PSS)等
市販品:N-(ジフェニル-4-イル)-9,9-ジメチル-N-(4-(9-フェニル-9H-カルバゾイル-3イル)フェニル)-9H-フルオレン-2-アミン(以下、「HT211」という。)、HTM081(Merck社製)、HTM163(Merck社製)、HTM222(Merck社製)、NHT-5(NoValed社製)、NHT-18(NoValed社製)、NHT-49(NoValed社製)、NHT-51(NoValed社製)、NDP-2(NoValed社製)、NDP-9(NoValed社製)等
【0072】
例示した正孔注入材料は、市販品を購入できる。これら正孔注入材料は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。また、上記正孔注入材料は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
電子注入材料としては、公知のものを使用できる。具体例としては、LiF,CsCO,CsF等の無機化合物や、下記のAlq、PBD、TAZ、BND、OXD-7、8-ヒドロキシキノリノラト-リチウム(Liq)等が挙げられるが、これらに限定されない。他にも、NDN-1(NoValed社製)、NDN-26(NoValed社製)等の市販品を使用できる。
【0074】
【化2】
【0075】
正孔輸送層の材料(正孔輸送材料)としては、例えば、前記正孔注入材料が挙げられるが、これらに限定されない。
例えば、前記正孔注入材料として挙げたもの以外の、4,4’,4”-トリ(9-カルバゾイル)トリフェミルアミン(TCTA)、2,2’,7,7’-テトラキス(N,N-ジフェニルアミノ)-2,7-ジアミノ-9,9’-スピロビフルオレン(Spiro-TAD)、2,2’,7,7’-テトラキス(N,N-ジ-p-メトキシフェニルアミノ)-9,9’-スピロビフルオレン(Spiro-MeOTAD)等のアリールアミン材料を正孔輸送材料として使用できる。
【0076】
前記正孔注入材料として挙げたもの以外の正孔輸送材料としては、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体等が挙げられる。なかでも、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物およびスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。
これら正孔輸送材料は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。また、上記正孔輸送材料は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
電子輸送層の材料(電子輸送材料)としては、公知のものを使用できる。例えば、電子輸送材料としては、前記電子注入材料が挙げられるが、これらに限定されない。前記電子注入材料として挙げたもの以外の電子輸送材料としては、2,2’,2''-(1,3,5-ベンジントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)(TPBi)、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(BCP)、2-(4-tert-ブチルフェニル)-5-(4-ビフェニリル)-1,3,4-オキサジアゾール(t-Bu-PBD)、シロール環を有するシロール誘導体が挙げられる。
【0078】
これら電子輸送材料は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。また、上記電子輸送材料は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
発光層の形成材料としては、蛍光材料、熱活性化遅延蛍光(TADF)材料、りん光材料等、公知のものを採用できる。
【0080】
例えば、発光層の形成材料としては、(E)-2-(2-(4-(ジメチルアミノ)スチリル)-6-メチル-4H-ピラン-4-イリデン)マロノニトリル(DCM)、4-(ジシアノメチレン)-2-メチル-6-ジュロリジル-9-エニル-4H-ピラン(DCM)、Rubrene、Coumarin6、Ir(ppy)、(ppy)Ir(acac)等の発光ゲスト材料、4,4’-ビス(9H-カルバゾール-9-イル)ビフェニル(CBP)、3,3'-ジ(9H-カルバゾール-9-イル)-1,1'-ビフェニル(mCBP)等のりん光ホスト材料、ADN、Alq3等の蛍光ホスト材料、ポリフェニレンビニレン(PPV)、MEH-PPV等のポリマー材料が挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
発光層の形成材料は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。発光層の形成材料は、所望の発光波長に応じて適宜選択される。
【0082】
膜10の形成材料である有機半導体は、分子量が300~1000であることが好ましい。有機半導体の分子量は、400以上であることがより好ましい。また、有機半導体の分子量は900以下であることがより好ましい。
上記有機半導体の分子量が300以上であれば、有機半導体のガラス転移点(Tg)が高くなり、有機半導体膜の耐熱性が向上する。分子量が1000以下であれば、有機半導体の蒸気圧が高くなり、熱分解温度以下で蒸着することが可能となる。
有機半導体の分子量の上限値と下限値とは、任意に組み合わせることができる。すなわち、有機半導体の分子量は、300~900であってもよく、400~1000であってもよく、400~900であってもよい。
有機半導体の分子量は、TOF-SIMS(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)を用いた測定で求めることができる。
【0083】
また、膜10は、ドーパントをさらに含んでいてもよい。ドーパントは、公知のものを使用可能であり、本実施形態の膜10を備える装置の機能に応じて、適切な材料を選択できる。ドーパントを含むことにより、膜10は導電性を高めることができる。
例えば、正孔注入材料として用いられるドーパントとしては、TCNQ、F-TCNQ、PPDN、TCNNQ、F-TCNNQ、HAT-CN、HATNA、HATNA-Cl、HATNA-F、C6036、F16-CuPc、NDP-2(Novaled社製)、NDP-9(Novaled社製)等の有機ドーパントやMoO、V、WO、ReO、CuI等の無機ドーパントが挙げられる。
電子注入材料として用いられるドーパントとしては、8-ヒドロキシキノリノラト-リチウム(Liq)、NDN-1(Novaled社製)、NDN-26(Novaled社製)等が挙げられる。
【0084】
図3~5は、上述した膜10を製造する工程を示す模式図である。
まず、図3に示すように、膜10を形成する基板50を用意する。このような基板50を真空蒸着装置のチャンバー500内に設置し、有機半導体の蒸着源(るつぼ)51と含フッ素重合体の蒸着源(るつぼ)52とから、有機半導体51a、含フッ素重合体52aを供給して共蒸着する。なお、図3では、有機半導体と含フッ素重合体とを別々の蒸着源から蒸着させることとして示しているが、同一の蒸着源から蒸着させることとしてもよい。
【0085】
有機半導体51a、含フッ素重合体52aとしては、上述の膜10を構成する有機半導体、含フッ素重合体をそれぞれ用いることができる。
共蒸着時には、基板50上に形成される共蒸着膜において、含フッ素重合体と有機半導体の合計に対する含フッ素重合体の比率が20~80体積%となるように、蒸着条件を設定する。
【0086】
有機半導体51aは、蒸着時の加熱で分解しないものが好ましい。蒸着時の加熱で分解しないことは、用いる有機半導体について、下記方法で重量減少率を求めることで判断できる。
【0087】
(判断方法)
真空示差熱天秤(アドバンス理工社製:VPE-9000)を用いて測定する。有機半導体50mgを内径7mmのセルに仕込み、1×10-3Pa~1×10-4Paの真空度にて、毎分2℃で500℃まで昇温した際の有機半導体の重量減少率(%)を測定し、重量減少率が50%となる温度(Td50)を求める。
次いで、熱重量示差熱分析装置(日立ハイテクサイエンス社製:STA7200)を用いて、窒素フロー下において、毎分10℃で450℃まで昇温した際の有機半導体の重量減少率を測定し、Td50における重量減少率を求める。
【0088】
d50における常圧での重量減少率が1%以下であれば、減圧下のTd50において重量減少した理由が熱分解ではなく、昇華によるものであると判断する。このような有機半導体は、蒸着時の加熱で分解しない、すなわち蒸着に適した材料であると判断できる。
一方で、Td50における常圧での重量減少率が1%を超える場合、減圧下のTd50において重量減少した理由が熱分解であると判断する。このような有機半導体は、蒸着時の加熱で分解するため、蒸着に不適であると判断できる。
【0089】
図4に示すように、有機半導体と含フッ素重合体とを共蒸着すると、基板上では、有機半導体と含フッ素重合体とが相分離し、有機半導体のドメイン51bと、含フッ素重合体のドメイン52bとが形成されると考えられる。
含フッ素重合体のドメイン52bの大きさ(直径)は、共蒸着を行う基板50の表面エネルギーと、含フッ素重合体の表面エネルギーとの関係によって、少ないバラツキで一定の数値範囲に収まるものと考えられる。すなわち、用いる含フッ素重合体が基板50の表面に塗れ広がりやすい場合には、ドメイン52bは大きく広がりやすいと考えられ、含フッ素重合体が基板50の表面に塗れ広がりにくい場合には、ドメイン52bの直径は小さくなりやすいと考えられる。
【0090】
図5に示すように、共蒸着を継続すると、蒸着源51から昇華した有機半導体51aは、ドメイン52bに堆積するよりもエネルギー的に安定であるため、有機半導体のドメイン51bに堆積すると考えられる。同様に、蒸着源52から昇華した含フッ素重合体52aは、ドメイン51bに堆積するよりもエネルギー的に安定であるため、含フッ素重合体のドメイン52bに堆積すると考えられる。
これにより、共蒸着膜の膜厚方向に連続した有機半導体のドメイン51bと、共蒸着膜の膜厚方向に連続した含フッ素重合体のドメイン52bとが形成される。また、基板50の法線方向から共蒸着膜を見た場合、ドメイン52bの直径は、共蒸着膜の膜厚方向で大きく変化することなく、基板50表面に形成される最初のドメイン52bの大きさを反映したものとなる。
このとき、上述の含フッ素重合体を用いることにより、ドメイン52bを構成する含フッ素重合体は分子量が狭く、蒸着の初期と終期とで物性の差が小さくなる。そのため、得られる膜10の品質が安定しやすい。
【0091】
上記のようにして、膜10を製造する。
ここで、膜10を加熱した場合には、ドメイン52bが加熱により移動しやすくなり、近接するドメイン52b同士が合一して、膜10のナノドメイン構造が崩れることがある。これに対し、用いる含フッ素重合体が上述の要件(4)(5)を満たしていると、ドメイン52bが合一し難く、ナノドメイン構造を維持しやすい膜10となる。
【0092】
以上のような構成の含フッ素重合体によれば、耐熱性が高く、蒸着に適した含フッ素重合体を提供できる。
また、以上のような構成の膜によれば、低屈折率化され、高透明かつ高耐熱性であり、品質の安定した膜となる。
また、以上のような構成の膜の製造方法によれば、このような膜を容易に製造できる。
なお、本実施形態においては、本実施形態の含フッ素重合体と有機半導体とを共蒸着して膜10を形成したが、これに限らない。本実施形態の含フッ素重合体と有機半導体とを含む膜は、塗布などのウェットプロセスによって製造してもよい。
【0093】
[第2実施形態]
図6は、本発明の第2実施形態に係る有機光電子素子(有機EL素子)100を示す断面模式図である。有機EL素子100は、基板110、陽極111、正孔注入層112、正孔輸送層113、発光層114、電子輸送層115、電子注入層116、陰極117がこの順に積層した構造を有している。本実施形態の有機EL素子100は、発光層114で生じた光Lが、陰極117を介して外部へ射出されるトップエミッション方式を採用している。
【0094】
(基板)
基板110は、光透過性を備えていてもよく、光透過性を備えなくてもよい。基板110の形成材料としては、ガラス、石英ガラス、窒化ケイ素等の無機物や、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の有機高分子(樹脂)を用いることができる。また、表面の絶縁性が確保されるならば、基板110の形成材料として金属材料を採用することもできる。
また、基板110は、有機EL素子に電気的に接続される不図示の各種配線、駆動素子を備えている。
【0095】
(陽極)
陽極111は、基板110上に形成され、正孔輸送層113に正孔(ホール)を供給する。また、陽極111は、発光層114から発せられた光を反射する光反射性を有する。
【0096】
陽極111の形成材料としては、ITO(Indium Tin Oxide:インジウムドープ酸化錫)やIZO(Indium Zinc Oxide:インジウムドープ酸化亜鉛)等の導電性金属酸化物を用いることができる。また、陽極111に光反射性を付与するため、陽極111の基板110側には、金属材料を形成材料とする反射膜が設けられている。すなわち、陽極111は、導電性金属酸化物を形成材料とする層と、反射膜との積層構造を有する。
また、陽極111の形成材料として、銀を用いることとしてもよい。
【0097】
陽極111の厚さは、特に制限されないが、30~300nmが好ましい。陽極111の厚さは、例えば100nmである。
【0098】
(正孔注入層)
正孔注入層112は、陽極111と正孔輸送層113との間に形成されている。正孔注入層112は、陽極111から正孔輸送層113への正孔の注入を容易にする機能を有する。なお、正孔注入層112は形成しなくてもよい。
正孔注入層112は、上述した正孔注入材料を用いて形成できる。
正孔注入層112の厚さは、特に制限されないが、1~100nmが好ましい。正孔注入層112の厚さは、例えば5nmである。
【0099】
(正孔輸送層)
正孔輸送層113は、正孔注入層112上に形成されている。正孔輸送層113は、陽極111から注入された正孔を発光層114に向けて良好に輸送する機能を有する。
正孔輸送層113は、上述した正孔輸送材料を用いて形成できる。
正孔輸送層113は、単層であってもよく、正孔輸送材料の層が複数積層した構成であってもよい。正孔輸送層113が正孔輸送材料の層が複数積層した積層体である場合、各層を構成する正孔輸送材料は、同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0100】
正孔輸送層113は、波長域450~800nmにおける吸収係数が5000cm-1以下であることが好ましく、1000cm-1以下であることがより好ましく、上記波長域において吸収帯を有さないことが特に好ましい。
正孔輸送層113を構成する各層の吸収係数が5000cm-1を超える場合、光が厚み100nmの正孔輸送層を1回通過すると通過前の光の全量を100%としたときに対し5%の光が吸収される。有機EL素子の内部では光の多重干渉により、正孔輸送層113を通過するときの光の吸収による損失が累積する。そのため、正孔輸送層を通過する際における光吸収が光取出し効率を大きく低減させる要因となる。光吸収が十分小さい正孔輸送層を用いることは、有機EL素子の発光効率を損なわないために極めて重要である。有機EL素子の発光効率が損なわれないことによりエネルギー利用効率が高くなり、かつ、光吸収に基づく発熱が抑制される結果として素子寿命が長くなる。
【0101】
正孔輸送層113の厚さは特に制限されないが、10~250nmが好ましく、20~150nmがより好ましい。
【0102】
(発光層)
発光層114は、正孔輸送層113の上に形成されている。発光層114では、陽極111から注入された正孔および陰極117から注入された電子が再結合し、光子を放出して発光する。その際の発光波長は、発光層114の形成材料に応じて定まる。発光層114は、本発明における「活性層」に該当する。
発光層114は、上述した発光層の形成材料を用いて形成できる。
発光層の形成材料は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよく、所望の発光波長に応じて適宜選択される。
発光層114の厚さは、特に制限されないが、10~30nmが好ましい。発光層114の厚さは、例えば15nmである。
【0103】
(電子輸送層)
電子輸送層115は、発光層114の上に形成されている。電子輸送層115は、陰極117から注入された電子を発光層114に向けて良好に輸送する機能を有する。
電子輸送層115は、上述した電子輸送材料を用いて形成できる。
電子輸送層115の厚さは、特に制限されないが、30~80nmが好ましい。電子輸送層115の厚さは、例えば60nmである。
【0104】
(電子注入層)
電子注入層116は、陰極117と電子輸送層115との間に設けられている。電子注入層116は、陰極117から電子輸送層115への電子の注入を容易にする機能を有する。電子注入層116の形成材料としては、上述した電子注入材料を使用できる。
なお、電子注入層116は形成しなくてもよい。
電子注入層116の厚さは、特に制限されないが、0.5~2nmが好ましい。電子注入層116の厚さは、例えば1nmである。
【0105】
(陰極)
陰極117は、電子注入層116の上に形成されている。陰極117は、電子注入層116に電子を注入する機能を有する。陰極117の形成材料としては、公知のものを採用できる。例えば、陰極117の形成材料として、MgAg電極、Al電極が挙げられる。陰極117の表面にはLiF等のバッファー層が形成されていてもよい。
陰極117は、全体として発光層114から発せられた光の一部を反射し、残部を透過する程度に薄く形成された半透過膜である。
陰極117の厚さは、特に制限されないが、5~30nmが好ましい。陰極117の厚さは、例えば5nmである。
【0106】
(マイクロキャビティ構造)
本実施形態の有機EL素子100においては、陽極111と陰極117が、陽極111と陰極117との間で光を共振させる光共振構造(マイクロキャビティ)を構成している。陽極111と陰極117との間では、発光層114で生じた光が反射を繰り返し、陽極111と陰極117との間の光路長と合致した波長の光が共振して増幅される。一方で、陽極111と陰極117との間の光路長と合致しない波長の光は減衰する。
ここでいう「光路長」は、素子外部に射出される所望の光の波長と、当該所望の光の波長における各層の屈折率と、を用いて算出されるものとする。
【0107】
陽極111と陰極117との間の光路長は、例えば発光層114で生じる光Lの中心波長の整数倍に設定されている。この場合、発光層114で発せられた光Lは、中心波長に近いほど増幅され、中心波長から離れるほど減衰して有機EL素子100の外部に射出される。このようにして、有機EL素子100から射出される光Lは、発光スペクトルの半値幅が狭く、色純度が向上したものとなる。
【0108】
マイクロキャビティ構造は、陰極および陽極を両端とする固定端反射による共振を利用している。そのため、「発光位置から陽極までの光路長が、素子外部に射出される所望の光の波長λの1/4の整数倍」であり、かつ「発光位置から陰極までの光路長が、素子外部に射出される所望の光の波長λの1/4の整数倍」である場合、所望のマイクロキャビティ構造を形成できる。
【0109】
本実施形態の有機EL素子100は、上述したいずれかの1層または複数層に、上述した含フッ素重合体を含む。
本実施形態の有機EL素子100は、正孔注入層112と正孔輸送層113の少なくとも一方に、上述した含フッ素重合体を含むことが好ましい。正孔輸送層113が、正孔輸送材料の層の積層体である場合、各層のうち少なくとも1層に上述した含フッ素重合体を含む。
また、本実施形態の有機EL素子100は、電子輸送層115と電子注入層116の少なくとも一方に、上述した含フッ素重合体を含むことが好ましい。電子輸送層115が、電子輸送材料の層の積層体である場合、各層のうち少なくとも1層に上述した含フッ素重合体を含む。
また、本実施形態の有機EL素子100は、正孔注入層112と正孔輸送層113の少なくとも一方、および電子輸送層115と電子注入層116の少なくとも一方に、上述した含フッ素重合体を含むことが好ましい。
【0110】
上述した含フッ素重合体を含んだ各層は、これらの層が上述した含フッ素重合体を含まない場合と比べ低屈折率となる。そのため、本実施形態の有機EL素子100は、光取出し効率が向上し、外部量子効率が向上する。これにより、本実施形態の有機EL素子100は、上述した含フッ素重合体を含まない従来の有機EL素子と比べて、少ない投入電力で従来の有機EL素子と同等の発光量が得られる。
また、上述した含フッ素重合体を含んだ各層は、耐熱性が高い。そのため、本実施形態の有機EL素子100は、信頼性が高い有機EL素子100となる。
【0111】
有機EL素子100の耐熱性は、下記の方法で評価することができる。
<耐熱性評価1>
[導電性評価用の素子1の作製]
2mm幅の帯状にITO(酸化インジウムスズ)が成膜されたガラス基板を用いる。
当該基板を中性洗剤、アセトン、イソプロパノールを用いて超音波洗浄し、さらにイソプロパノール中で煮沸洗浄した上で、オゾン処理によりITO膜表面の付着物を除去する。
洗浄後の基板を真空蒸着機内に置き、圧力10-4Pa以下に減圧した上で、基板上に三酸化モリブデンを蒸着する。蒸着速度は0.1nm/秒であり、5nm成膜して正孔注入層を作製する。
【0112】
次いで、正孔注入層上にα-NPDと、含フッ素重合体と、を共蒸着する。2つの材料の合計の蒸着速度は0.2nm/秒であり、100nm成膜して電荷輸送層を作製する。蒸着速度を調整し、電荷輸送層におけるα-NPDと含フッ素重合体の体積比を所望の比率とする。
【0113】
次いで、電荷輸送層上に2mm幅の帯状にアルミニウムを蒸着する。帯状のアルミニウム膜は、基板の垂直方向から見た視野においてITO膜と直交させる。これにより、素子面積4mm(=ITO膜2mm×アルミニウム膜2mm)の導電性評価用の素子1を得る。
【0114】
[素子1の耐熱性評価]
ソースメータ(アジレント・テクノロジー社製:B1500A)を用い、素子1のITOを陽極、アルミニウムを陰極として電圧を印加しながら電圧を変化させ、電圧毎に素子に流れる電流を測定し、電界(E)(単位:MV/cm)に対する電流密度(J)(単位:mA/cm)を求める。
なお、電界(E)は、電圧値を上記電荷輸送層の膜厚である100nmで割った値であり、電流密度(J)は、電流値を上記素子面積である4mmで割った値である。
【0115】
次いで、N雰囲気において、素子1を80℃のホットプレート上で60分加熱する。素子1を常温に戻した後、再度素子に流れる電流を測定し、電界(E)(単位:MV/cm)に対する電流密度(J)(単位:mA/cm)を求める。
次いで、N雰囲気において、同じ素子1を90℃のホットプレート上で60分加熱する。素子1を常温に戻した後、再度素子に流れる電流を測定し、電界(E)(単位:MV/cm)に対する電流密度(J)(単位:mA/cm)を求める。
【0116】
得られた結果から、素子1の耐熱性を以下のように評価する。
×:80℃に加熱後、0.4MV/cmの電流密度が初期の90%未満
△:90℃に加熱後、0.4MV/cmの電流密度が初期の90%未満
〇:90℃に加熱後、0.4MV/cmの電流密度が初期の90%以上
【0117】
<耐熱性評価2>
[導電性評価用の素子2の作製]
三酸化モリブデンの代わりにHAT-CN,α-NPDの代わりにHT211を用いたこと以外は、[導電性評価用の素子1の作製]と同様に行い、導電性評価用の素子2を作製する。
【0118】
[素子2の耐熱性評価]
加熱温度を100℃、110℃、120℃、130℃とし、加熱時間をそれぞれ15分間とした以外は[素子1の耐熱性評価]と同様に行い、電界(E)(単位:MV/cm)に対する電流密度(J)(単位:mA/cm)を求める。
得られた結果から、素子2の耐熱性を以下のように評価する。
×:100℃に加熱後、0.4MV/cmの電流密度が初期の90%未満
△:110℃に加熱後、0.4MV/cmの電流密度が初期の90%未満
〇:120℃に加熱後、0.4MV/cmの電流密度が初期の90%未満
〇〇:130℃に加熱後、0.4MV/cmの電流密度が初期の90%未満
〇〇〇:130℃に加熱後、0.4MV/cmの電流密度が初期の90%以上
【0119】
また、上述した含フッ素重合体は、製造時には、各層を構成する有機半導体と共蒸着した共蒸着膜として各層に導入するとよい。具体的には、例えば正孔注入層112と正孔輸送層113とにいずれも上述した含フッ素重合体を含ませる場合、正孔注入材料と含フッ素重合体とを共蒸着して共蒸着膜(第1膜)を形成した後、正孔輸送材料と含フッ素重合体とを共蒸着して共蒸着膜(第2膜)を形成するとよい。
【0120】
以上のような構成の有機EL素子100によれば、正孔注入層112と正孔輸送層113の少なくとも一方が上述した含フッ素重合体を含むことにより、外部量子効率が向上し、消費電力が少ない有機EL素子となる。
【0121】
[第3実施形態]
図7は、本発明の第3実施形態に係る有機EL素子200の説明図であり、図6に対応する図である。
有機EL素子200は、基板210、陽極211、正孔注入層112、正孔輸送層113、発光層114、電子輸送層115、電子注入層116、陰極217がこの順に積層した構造を有している。本実施形態の有機EL素子200は、発光層114で生じた光Lが、陽極211および基板210を介して外部へ射出されるボトムエミッション方式を採用している。
【0122】
基板210は、光透過性を備えている。基板210の形成材料としては、ガラス、石英ガラス、窒化ケイ素等の無機物や、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の有機高分子(樹脂)を用いることができる。また、光透過性を有するならば、上記材料を積層または混合して形成された複合材料を用いることもできる。
【0123】
陽極211は、基板210上に形成され、正孔輸送層113に正孔を供給する。陽極211の形成材料としては、ITOやIZO等の光透過性を有する導電性金属酸化物を用いることができる。
【0124】
陰極217は、電子注入層116の上に形成されている。陰極217は、電子注入層116に電子を注入する機能を有する。また、陰極217は、発光層114において等方的に放射される光Lを反射し、陽極211の方へ向かわせる機能を有する。陰極217の形成材料としては、MgAg、Ag、Al等を用いることができる。陰極217の表面にはLiF等のバッファー層が形成されていてもよい。
陰極217の厚さは、特に制限されないが、30~300nmが好ましい。陰極217の厚さは、例えば100nmである。
【0125】
このような構成の有機EL素子200においても、第2実施形態で示した有機EL素子100と同様に、上述したいずれか1層または複数層に、上述した含フッ素重合体を含むことが好ましい。詳しくは、有機EL素子200は、正孔注入層112と正孔輸送層113の少なくとも一方の層に、上述した含フッ素重合体を含むことが好ましい。
また、有機EL素子200は、電子輸送層115と電子注入層116の少なくとも一方の層に、上述した含フッ素重合体を含むことが好ましい。
さらに、有機EL素子200は、正孔注入層112と正孔輸送層113の少なくとも一方、および電子輸送層115と電子注入層116の少なくとも一方に、上述した含フッ素重合体を含むことが好ましい。
これにより、有機EL素子200は、含フッ素重合体を含まない従来の有機EL素子と比べて、光取出し効率が向上する。
【0126】
以上のような構成の有機EL素子200によっても、各層が上述した含フッ素重合体を含むことにより、外部量子効率が向上し、消費電力が少ない有機EL素子となる。
また、上述した含フッ素重合体を含んだ各層は、耐熱性が高い。そのため、本実施形態の有機EL素子200は、信頼性が高い有機EL素子200となる。
有機EL素子200の耐熱性は、上述の有機EL素子100の耐熱性と同様の方法で評価することができる。
なお、有機EL素子100または有機EL素子200は、各層の間に、その他の機能層を配置してもよい。例えば、発光層と電荷輸送層の間に、正孔ブロック層や電子ブロック層を配置してもよいし、前述のマイクロキャビティ構造を形成するための調整層を配置してもよい。
【0127】
また、有機EL素子100または有機EL素子200において、光射出方向に量子ドットを含む波長変換層を配置してもよい。このような波長変換層を有することにより、射出する光の色純度を向上させた有機EL素子となる。
有機EL素子100または有機EL200において、発光層114の形成材料として量子ドットを用いてもよい。
量子ドットとは、量子力学に従う独特な光学特性を持つナノスケールの半導体結晶を指す。量子ドットは、通常、2~10nmの直径の単結晶粒子である。量子ドットは、結晶サイズ(=粒径)に応じてバンドギャップが変化するため、粒径を調整することでバンドギャップを調整することができ、所望の発光波長が得られる。
【0128】
量子ドットとしては、溶液に分散可能なコロイド状量子ドットを用いることも可能である。このようなコロイド状量子ドットは、一般的なウェットコーティング技術を用いて成膜することが出来る。
量子ドットの種類は特に制限はなく、ペロブスカイト量子ドット、炭素系量子ドット、合金型量子ドット、コア・シェル型量子ドット、コア型量子ドットを用いることが出来る。
【0129】
また、上述の実施形態においては、有機光電子素子として有機EL素子を例示して説明したが、本発明の含フッ素重合体を含む膜が適用される有機光電子素子は、有機EL素子に限らない。
本発明の有機光電子素子は、例えば有機半導体レーザーであってもよい。有機半導体レーザーとしては公知の構成を採用できる。有機半導体レーザーを構成する有機半導体からなるいずれかの膜に上述の含フッ素重合体を含む膜を採用することにより、外部量子効率が向上した有機半導体レーザーとなる。
また、本発明の有機光電子素子は、例えば、光センサ、太陽電池などの受光素子であってもよい。光センサおよび太陽電池としては公知の構成を採用できる。
光センサおよび太陽電池を構成する有機半導体からなるいずれかの膜に上述の含フッ素重合体を含む膜を採用することにより、検出性能を向上させた光センサや、発電効率を向上させた太陽電池となる。
【0130】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例
【0131】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0132】
<評価方法>
本実施形態においては、以下の各方法により評価を行った。
【0133】
[含フッ素重合体の真空下における熱重量減少率の測定]
真空示差熱天秤(アドバンス理工社製:VPE-9000)を用いて測定した。含フッ素重合体50mgを内径7mmのセルに仕込み、1×10-3Paの真空度にて、室温から500℃まで毎分2℃で昇温させた際の、含フッ素重合体の初期重量(50mg)に対する重量減少率(%)を測定した。
重量減少率が100%となる温度(Td100)、重量減少率が10%となる温度(Td10)および重量減少率が90%となる温度(Td90)を求めた。
【0134】
[融点の測定]
示差走査熱量計(NETZSCH製:DSC 204 F1 Phoenix)を用いて測定した。含フッ素重合体9mgを試料容器に仕込み、-70℃から350まで毎分10℃で昇温させた際の熱容量を測定し、得られた融解ピークより融点を求めた。
【0135】
[貯蔵弾性率の測定]
本実施形態において、貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定装置(アントンパール社製、MCR502)、および粘弾性測定装置用加熱炉(アントンパール社製、CTD450)を用いて測定する値を採用した。
具体的には、試料(含フッ素重合体)を融点以上に加熱した後、定速降温モードで2℃/分で降温させた。上記測定装置を用い、歪み0.01%、周波数1Hzの条件で貯蔵弾性率(G’)を測定し、25℃におけるG’およびG’が1×10Pa未満になる温度を求めた。
【0136】
<含フッ素重合体の合成>
評価に用いた含フッ素重合体は、以下のように合成した。
[合成例1]
内容積1.351Lのジャケット付きの重合槽(ステンレス鋼製)を脱気し、重合槽内に、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(AE-3000、AGC社製)を701g、ペルフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)を57g、テトラフルオロエチレン(TFE)を108g、メタノールを35.7g、それぞれ秤量して仕込んだ。
【0137】
重合槽の温度を60℃に保持して、t-ブチルパーオキシピバレート(PBPV)の0.53質量%溶液(溶媒:AE-3000)の18.9mLを仕込み、重合を開始させた。
重合中、重合の進行に伴い重合圧力が低下するため、重合圧力がほぼ一定になるように重合槽内にTFEを連続的に導入した。重合圧力は、1.04±0.04MPaG(ゲージ圧)に保持した。
なお、「ゲージ圧」とは、大気圧を0MPaGとする相対圧力であり、真空をゼロとする絶対圧力との差を指す。
【0138】
TFEの導入量が121gになった時点で重合を終了させ、含フッ素重合体を得た。得られた重合体の組成は、PPVE単位:TFE単位=2:98(モル%)であった。
【0139】
次いで、得られた重合体を330℃のオーブンで加熱した後、メタノールに浸漬し、75℃のオーブンで40時間加熱することで、末端基をメチルエステル基に置換し、含フッ素重合体Aを得た。
【0140】
得られた含フッ素重合体Aの44gを上述したガラスチューブ式の昇華精製装置の原料仕込み部に仕込み、捕集部内を3.0×10-3Paに減圧した。次いで、原料仕込み部を330℃まで徐々に加温し、含フッ素重合体Aを昇華させた。昇華精製装置では、捕集部を仕込み部に近い側から310℃、280℃、250℃の設定温度で加熱した。
このうち、設定温度280℃の捕集部に析出させた物質を回収し、精製した4gの含フッ素重合体A1を得た。
【0141】
[合成例2]
AE-3000を649g、PPVEを152g、TFEを109g、メタノールを15.5g、PBPVの0.79質量%溶液(溶媒:AE-3000)の18.9mL用いたこと以外は合成例1と同様にして、含フッ素重合体を得た。
得られた含フッ素重合体の組成は、PPVE単位:TFE単位=4:96(モル%)であった。
次いで、合成例1と同様の条件で含フッ素重合体の末端基をメチルエステル基に置換し、含フッ素重合体Bを得た。
【0142】
含フッ素重合体Bを20g用いたこと以外は合成例1と同様にして含フッ素重合体Bを昇華させた。設定温度250℃の捕集部に析出させた物質を回収し、精製した2gの含フッ素重合体B1を得た。
【0143】
また、得られた含フッ素重合体Bの20gを超臨界抽出装置の圧力容器に仕込み、二酸化炭素による超臨界抽出を行った。
抽出温度を40℃、抽出圧力30MPa、二酸化炭素流量30ml/分で(条件1)0.2gを抽出した後、抽出温度を80℃、抽出圧力を60MPaに上げ、さらにエントレーナーとしてAC-2000(AGC社製)を二酸化炭素に対して10体積%の比率で用いて(条件2)1.4gの抽出物を得た。
条件2で得られた抽出物を、含フッ素重合体B2とした。
【0144】
[合成例3]
合成例2と同様にして製造した含フッ素重合体を330℃のオーブンで加熱した後、特開平11-152310号公報の段落[0040]に記載の方法で処理し、フッ素ガスにより含フッ素重合体の末端基を-CF基に置換して、含フッ素重合体Cを得た。
原料仕込み部を360℃まで徐々に加温したこと以外は合成例1と同様にして含フッ素重合体Cを昇華させた。設定温度250℃および280℃の捕集部に析出させた物質を回収し、精製した6gの含フッ素重合体C1を得た。
【0145】
[合成例4]
内容積1006mLのステンレス製オートクレーブに、PPVEを57.9g、AC2000(AGC社製)を767g、メタノールを4.13g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を1.24g仕込み、液体窒素で凍結脱気をした。
オートクレーブを70℃に昇温した後、オートクレーブ内にTFEを48.4g導入し、重合反応を開始させた。重合の進行により、オートクレーブ内の圧力が低下するため、TFEを連続的に供給し、オートクレーブの温度と圧力を一定に保持しながら重合させた。重合開始から5時間後にオートクレーブを冷却して重合反応を停止し、系内のガスを排出して反応溶液を得た。
【0146】
反応溶液にメタノールを800g加えて混合し反応溶液に溶解する重合体を析出させた後、層分離させ、重合体が分散している下層を回収した。得られた重合体の分散液を80℃で16時間温風乾燥し、次に100℃で16時間真空乾燥して、含フッ素重合体を19g得た。
得られた含フッ素重合体の組成は、PPVE単位:TFE単位=6:94(モル%)であった。
【0147】
次いで、合成例1と同様にして含フッ素重合体の末端基をメチルエステル基に置換し、含フッ素重合体Dを得た。
合成例1と同様にして含フッ素重合体Dを昇華させた。設定温度250℃および280℃の捕集部に析出させた物質を回収し、精製した5gの含フッ素重合体D1を得た。
【0148】
[合成例5]
PPVEを69.4g、メタノールを4.18g、AIBNを1.26g用いたこと以外は、合成例4と同様にして、含フッ素重合体を得た。
得られた含フッ素重合体の組成は、PPVE単位:TFE単位=8:92(モル%)であった。
【0149】
次いで、合成例3と同様の条件で含フッ素重合体の末端基を-CF基に置換して、含フッ素重合体Eを得た。
合成例2と同様にして含フッ素重合体Eを昇華させ、精製した4gの含フッ素重合体E1を得た。
【0150】
[合成例6]
PPVEを78.9g、メタノールを4.23g、AIBNを1.27g用いたこと以外は、合成例4と同様にして、含フッ素重合体を得た。
得られた含フッ素重合体の組成は、PPVE単位:TFE単位=9:91(モル%)であった。
【0151】
次いで、合成例1と同様にして含フッ素重合体の末端基をメチルエステル基に置換し、含フッ素重合体Fを得た。
合成例1と同様にして含フッ素重合体Fを昇華させ、精製した4gの含フッ素重合体F1を得た。
【0152】
[合成例7]
PPVEを85.9g、メタノールを4.27g、AIBNを1.28g用いたこと以外は、合成例4と同様にして、含フッ素重合体を得た。
得られた含フッ素重合体の組成は、PPVE単位:TFE単位=10:90(モル%)であった。
【0153】
次いで、合成例3と同様の条件で含フッ素重合体の末端基を-CF基に置換して、含フッ素重合体Gを得た。
合成例3と同様にして含フッ素重合体Gを昇華させた。設定温度250℃、280℃および310℃の捕集部に析出させた物質を回収し、精製した6gの含フッ素重合体G1を得た。
【0154】
[合成例8]
PPVEを152.9g、メタノールを2.40g、AIBNを1.15g、TFEを56.3g用いたこと以外は、合成例4と同様にして、含フッ素重合体を得た。
得られた含フッ素重合体の組成は、PPVE単位:TFE単位=14:86(モル%)であった。
【0155】
次いで、得られた含フッ素重合体を330℃のオーブンで加熱した後、メタノールに浸漬し、75℃のオーブンで40時間加熱することで、末端基をメチルエステル基に置換し、含フッ素重合体Hを得た。
合成例1と同様にして含フッ素重合体Hを昇華させ、精製した4gの含フッ素重合体H1を得た。
【0156】
[合成例9]
ペルフルオロ(3-ブテニルビニルエーテル)を30g、AC2000(AGC社製)を30g、メタノールを0.5g、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート(IPP)を0.44gを秤量し、内容積50mlのガラス製反応器に仕込んだ。反応器内を高純度窒素ガスにて置換した後、40℃に加熱して24時間重合を行った。
得られた溶液を、666Pa(絶対圧)、50℃の条件で脱溶し、重合体を28g得た。
【0157】
次いで、得られた重合体を300℃のオーブンで加熱した後、メタノールに浸漬し、75℃のオーブンで20時間加熱することで、末端基をメチルエステル基に置換し、含フッ素重合体Iを得た。
合成例4と同様にして含フッ素重合体Iを昇華精製し、精製した4gの含フッ素重合体I1を得た。
【0158】
[合成例10]
内容積1.351Lのジャケット付きの重合槽(ステンレス鋼製)を脱気し、重合槽内に、R113(1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン、AGC社製)331gと、メタノール1.1gと、ヘキサフルオロプロペン(HFP)765gを仕込んだ。さらに、重合槽内に、TFEを温度50℃で1.34MPaGとなるよう仕込んだ。
次いで、ビス(ペルフルオロブチリル)ペルオキシドの1.5質量%溶液(溶媒:R113)を54.7ml仕込み、重合を開始させた。
【0159】
重合の進行に伴い重合槽内の圧力が低下するため、重合圧力がほぼ一定になるようにTFEを連続的に仕込んだ。重合圧力は、1.34MPaGに保持した。
重合槽内にビス(ペルフルオロブチリル)ペルオキシドの1.5質量%溶液(溶媒:R113)を間欠で仕込み、TFEが86g消費された時点で重合を終了させ、含フッ素共重合体Jを得た。TFEの消費量は、TFEのガスボンベの質量減少量から求めた。
【0160】
得られた含フッ素重合体Jの組成は、HFP単位:TFE単位=8:92(モル%)であった。
合成例4と同様にして含フッ素重合体Jを昇華させ、精製した4gの含フッ素重合体J1を得た。
【0161】
また、市販の含フッ素重合体として、TFEとペルフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体(PFA)である以下の材料を用いた。
Fluon PFA:AGC社製 Fluon PFA P-63
【0162】
合成した含フッ素重合体について、上述の方法で物性を測定した。測定した物性を表1に示す。
【表1】
【0163】
表1に示したとおり、含フッ素樹脂A1~G1およびJ1は、上述の実施形態で示した要件(1)~(3)を満たすが、含フッ素重合体B、HおよびFluon PFAは要件(2)、(3)を、含フッ素重合体I1、H1およびHは要件(1)を満たしていないことが分かる。なお、含フッ素重合体I1は、非晶性であり結晶性を有さないことから、融点は検出されなかった。
【0164】
表1に示した含フッ素重合体を用い、以下評価1~5を行った。
<評価1:蒸着時のチャンバー圧変化>
[蒸着時のチャンバー圧変化の評価法]
真空蒸着機に含フッ素重合体を0.1g仕込み、チャンバー内の圧力を10-4Pa以下に減圧した上で、含フッ素重合体を蒸着速度0.1nm/秒で200nm成膜した。この際にチャンバー内の圧力をモニターし、蒸着時における圧力の最大値を計測した。計測値を用い、下記計算式より圧力の上昇倍率を求めた。
蒸着時のチャンバー圧力の上昇倍率=蒸着中の最大圧力/蒸着前の初期圧力
チャンバー圧力の上昇倍率が2倍以下である含フッ素重合体は「良品」と評価し、上昇倍率が2倍を超える含フッ素重合体は「不良」と評価した。
【0165】
<評価2:屈折率>
[屈折率測定用試料の作製]
シリコン基板上に、有機半導体であるα-NPDと、含フッ素重合体と、を共蒸着し、100nmの共蒸着膜を成膜して、屈折率測定用試料を得た。2つの材料の合計の蒸着速度は0.2nm/秒とした。蒸着速度を調整し、共蒸着膜におけるα-NPDと含フッ素重合体の体積比を所望の比率とした。
【0166】
[屈折率の測定]
多入射角分光エリプソメトリー(ジェー・エー・ウーラム社製:M-2000U)を用いて、シリコン基板上の膜に対して、光の入射角を45~75度の範囲で5度ずつ変えて測定を行った。それぞれの角度において、波長450~800nmの範囲で約1.6nmおきにエリプソメトリーパラメータであるΨとΔを測定した。前記の測定データを用い、有機半導体の誘電関数をCauchyモデルによりフィッティング解析を行い、波長600nmの光に対する蒸着膜の屈折率を得た。
【0167】
<評価3:ヘイズ>
[ヘイズ測定用試料の作製]
ガラス基板上に、α-NPDと、含フッ素重合体と、を共蒸着し、100nmの共蒸着膜を成膜して、ヘイズ測定用試料を得た。2つの材料の合計の蒸着速度は0.2nm/秒とした。蒸着速度を調整し、共蒸着膜におけるα-NPDと含フッ素重合体の体積比を所望の比率とした。
【0168】
[ヘイズ測定]
ヘイズ測定は、ヘイズメーター(東洋精機社製、ヘイズガードK50-290)を用いて行った。
ヘイズ測定用試料の初期ヘイズを測定後、試料を100℃に熱したホットプレート上で1時間加熱した。試料を常温に戻した後に、再度ヘイズを測定した。さらに、試料を120℃に熱したホットプレート上で1時間加熱し、同様にしてヘイズを測定した。
【0169】
得られたヘイズについて、以下のように評価した。
〇:0.2未満
△:0.2以上0.5未満
×:0.5以上
【0170】
<評価4:耐熱性1>
[導電性評価用の素子1の作製]
2mm幅の帯状にITO(酸化インジウムスズ)が成膜されたガラス基板を用いた。
当該基板を中性洗剤、アセトン、イソプロパノールを用いて超音波洗浄し、さらにイソプロパノール中で煮沸洗浄した上で、オゾン処理によりITO膜表面の付着物を除去した。
洗浄後の基板を真空蒸着機内に置き、圧力10-4Pa以下に減圧した上で、基板上に三酸化モリブデンを蒸着した。蒸着速度は0.1nm/秒であり、5nm成膜して正孔注入層を作製した。
【0171】
次いで、正孔注入層上にα-NPDと、含フッ素重合体と、を共蒸着した。2つの材料の合計の蒸着速度は0.2nm/秒であり、100nm成膜して電荷輸送層を作製した。蒸着速度を調整し、電荷輸送層におけるα-NPDと含フッ素重合体の体積比を所望の比率とした。
次いで、電荷輸送層上に2mm幅の帯状にアルミニウムを蒸着した。帯状のアルミニウム膜は、基板の垂直方向から見た視野においてITO膜と直交させた。これにより、素子面積4mm(=ITO膜2mm×アルミニウム膜2mm)の導電性評価用の素子1を得た。
【0172】
[素子1の耐熱性評価]
ソースメータ(アジレント・テクノロジー社製:B1500A)を用い、素子1のITOを陽極、アルミニウムを陰極として電圧を印加しながら電圧を変化させ、電圧毎に素子に流れる電流を測定し、電界(E)(単位:MV/cm)に対する電流密度(J)(単位:mA/cm)を求めた。
【0173】
次いで、N雰囲気において、素子1を80℃のホットプレート上で60分加熱した。素子1を常温に戻した後、再度素子に流れる電流を測定し、電界(E)(単位:MV/cm)に対する電流密度(J)(単位:mA/cm)を求めた。
【0174】
次いで、N雰囲気において、同じ素子1を90℃のホットプレート上で60分加熱した。素子1を常温に戻した後、再度素子に流れる電流を測定し、電界(E)(単位:MV/cm)に対する電流密度(J)(単位:mA/cm)を求めた。
【0175】
得られた結果から、素子1の耐熱性を以下のように評価した。
×:80℃に加熱後、0.4MV/cmの電流密度が初期の90%未満
△:90℃に加熱後、0.4MV/cmの電流密度が初期の90%未満
〇:90℃に加熱後、0.4MV/cmの電流密度が初期の90%以上
【0176】
<評価5:耐熱性2>
[導電性評価用の素子2の作製]
三酸化モリブデンの代わりにHAT-CN,α-NPDの代わりにHT211を用いたこと以外は、[導電性評価用の素子1の作製]と同様に行い、導電性評価用の素子2を作製した。
【0177】
[素子2の耐熱性評価]
加熱温度を100℃、110℃、120℃、130℃とし、加熱時間をそれぞれ15分間とした以外は[素子1の耐熱性評価]と同様に行い、電界(E)(単位:MV/cm)に対する電流密度(J)(単位:mA/cm)を求めた。
【0178】
得られた結果から、素子2の耐熱性を以下のように評価した。
×:100℃に加熱後、0.4MV/cmの電流密度が初期の90%未満
△:110℃に加熱後、0.4MV/cmの電流密度が初期の90%未満
〇:120℃に加熱後、0.4MV/cmの電流密度が初期の90%未満
〇〇:130℃に加熱後、0.4MV/cmの電流密度が初期の90%未満
〇〇〇:130℃に加熱後、0.4MV/cmの電流密度が初期の90%以上
【0179】
以下の例1~18において、含フッ素重合体の具体的な評価内容を説明する。
【0180】
[例1]
含フッ素重合体A1を用い、上述の評価1~評価3、5を行った。
評価2、評価3、評価5の試料作製では、有機半導体と含フッ素重合体の共蒸着において蒸着速度を調整し、有機半導体と含フッ素重合体との体積比を50:50とした。
【0181】
[例2]
試料作製において、蒸着速度を調整し、有機半導体と含フッ素重合体の体積比を80:20とした以外は、例1と同様にして評価を行った。
【0182】
[例3]
試料作製において蒸着速度を調整し、有機半導体と含フッ素重合体の体積比を20:80とした以外は、例1と同様にして評価を行った。
【0183】
[例4]
含フッ素重合体B1を用い、上述の評価1~評価5を行った。
評価2~5の試料作製では、有機半導体と含フッ素重合体の共蒸着において蒸着速度を調整し、有機半導体と含フッ素重合体の体積比を50:50とした。
【0184】
[例5]
含フッ素重合体としてB2を用いた以外は、例1と同様にして評価を行った。
[例6]
含フッ素重合体としてC1を用いた以外は、例1と同様にして評価を行った。
[例7]
含フッ素重合体としてD1を用いた以外は、例4と同様にして評価を行った。
[例8]
含フッ素重合体としてE1を用いた以外は、例1と同様にして評価を行った。
[例9]
含フッ素重合体としてF1を用いた以外は、例1と同様にして評価を行った。
【0185】
[例10]
含フッ素重合体としてG1を用いた以外は、例1と同様にして評価を行った。
[例11]
含フッ素重合体としてJ1を用いた以外は、例1と同様にして評価を行った。
[例12]
含フッ素重合体としてH1を用いた以外は、例4と同様にして評価を行った。
[例13]
含フッ素重合体としてBを用いた以外は、例1と同様にして評価を行った。
[例14]
含フッ素重合体としてHを用いた以外は、例1と同様にして評価を行った。
【0186】
[例15]
含フッ素重合体I1を用い、評価1~4を行った。
評価2~4の試料作製では、有機半導体と含フッ素重合体の共蒸着において蒸着速度を調整し、有機半導体と含フッ素重合体の体積比を50:50とした。
【0187】
[例16]
市販の含フッ素重合体であるFluon PFAを用い、評価1:蒸着時のチャンバー圧変化を評価した。
評価1にて蒸着時のチャンバー内上昇が著しく大きかったため、共蒸着を要する他の評価は行わなかった。
【0188】
[例17]
含フッ素重合体を用いない例として、α-NPDの単膜を蒸着速度0.1nm/秒で成膜した試料を用い、上述の評価2~4を行った。
【0189】
[例18]
含フッ素重合体を用いない例として、HT211の単膜を蒸着速度0.1nm/秒で成膜した試料を用い、評価5を行った。
【0190】
上記例1~18において、例1~11が実施例に該当し、例12~18が比較例に該当する。結果を表2に示す。
【0191】
【表2】
【0192】
評価の結果、例1~11においては、蒸着時のチャンバー内圧上昇が無く、安定した蒸着が可能であることが分かった。
また、例1~11は、加熱してもヘイズ上昇が抑制されていることが分かった。
また、例1~11の素子1,2は、耐熱性に優れていることが分かった。
対して、例13,14,16においては、蒸着時のチャンバー内圧上昇が認められ、蒸着状態が不安定になるおそれがあることが分かった。
また、例12,14,15および17においては、加熱することでヘイズが上昇することが分かった。例17では、加熱によりα-NPDが融解し、その後結晶化が進んだことにより散乱源が生じたと考えられる。例12、14、15では、加熱により、共蒸着膜のナノドメイン構造が変化し、共蒸着膜の内部に散乱源が生じたと考えられる。
また、例12,14,15においては、素子1,2の耐熱性が低いことが分かった。
以上の結果より、本発明が有用であることが確認できた。
なお、2020年02月26日に出願された日本特許出願2020-030460号の明細書、特許請求の範囲、要約書および図面の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0193】
10…膜、50…基板、51,52…蒸着源、51a…有機半導体、51b…(有機半導体の)ドメイン、52a…含フッ素重合体、52b…(含フッ素重合体の)ドメイン、100,200…有機EL素子(有機光電子素子)、110,210…基板、111…陽極、112…正孔注入層、113…正孔輸送層、114…発光層、115…電子輸送層、116…電子注入層、117,217…陰極、500…チャンバー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7