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特許7589748(メタ)アクリル系共重合体、(メタ)アクリル系共重合体組成物およびインク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】(メタ)アクリル系共重合体、(メタ)アクリル系共重合体組成物およびインク
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/12 20060101AFI20241119BHJP
   C08F 220/04 20060101ALI20241119BHJP
   C09D 11/102 20140101ALI20241119BHJP
【FI】
C08F220/12
C08F220/04
C09D11/102
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022563580
(86)(22)【出願日】2021-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2021029243
(87)【国際公開番号】W WO2022107402
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2020192003
(32)【優先日】2020-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】小林 倫仁
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-041071(JP,A)
【文献】特開2016-196626(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065604(WO,A1)
【文献】特開2019-163417(JP,A)
【文献】特開平04-304277(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0179823(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03587459(EP,A1)
【文献】特開2019-207143(JP,A)
【文献】特開2005-097406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
C09D11/00- 13/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル基の炭素数が1~8である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位と、酸基含有ビニル化合物由来の構成単位と、3官能以上のメルカプタン由来の化学構造とを有し、粒子状の固体であり、
二次ガラス転移温度が、35℃以上67℃以下である、(メタ)アクリル系共重合体。
【請求項2】
アルキル基の炭素数が1~8である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位と、酸基含有ビニル化合物由来の構成単位と、3官能以上のメルカプタン由来の化学構造とを有し、単官能のメルカプタン由来の化学構造および2官能のメルカプタン由来の化学構造からなる群から選ばれる1種以上の化学構造をさらに有し、
二次ガラス転移温度が、35℃以上67℃以下である、(メタ)アクリル系共重合体。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル系共重合体が、粒子状の固体である、請求項2に記載の(メタ)アクリル系共重合体。
【請求項4】
重合性二重結合を2つ以上有する化合物由来の構成単位をさらに含む、請求項1またはに記載の(メタ)アクリル系共重合体。
【請求項5】
単官能のメルカプタン由来の化学構造および2官能のメルカプタン由来の化学構造からなる群から選ばれる1種以上の化学構造をさらに有する、請求項1またはに記載の(メタ)アクリル系共重合体。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル系共重合体の質量平均粒子径が、20~2000μmである、請求項1、3、4、5のいずれか一項に記載の(メタ)アクリル系共重合体。
【請求項7】
前記(メタ)アクリル系共重合体の含水率が、0.01~10質量%である、請求項1~のいずれか一項に記載の(メタ)アクリル系共重合体。
【請求項8】
前記(メタ)アクリル系共重合体の酸価が、20~140mgKOH/gである、請求項1~のいずれか一項に記載の(メタ)アクリル系共重合体。
【請求項9】
前記(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量が、15000~80000である、請求項1~のいずれか一項に記載の(メタ)アクリル系共重合体。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の(メタ)アクリル系共重合体と、水と、塩基性化合物とを含む、(メタ)アクリル系共重合体組成物。
【請求項11】
顔料をさらに含む、請求項10に記載の(メタ)アクリル系共重合体組成物。
【請求項12】
請求項10または11に記載の(メタ)アクリル系共重合体組成物を含む、インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル系共重合体、(メタ)アクリル系共重合体組成物およびインクに関する。
本願は、2020年11月18日に日本国特許庁に出願された特願2020-192003号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
水系インク(水性インクともいう。)は溶剤系インクと異なり、揮発性有機化合物(VOC)の量を低減でき、火災の危険性や変異原性などの毒性を低減できる。そのため水系インクは、グラビア印刷などの用途で広く用いられている。中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位、(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む(メタ)アクリル系重合体や(メタ)アクリル系共重合体は、透明性が高いこと、顔料の発色性が良いことから、水系インク用途で広く用いられている。
【0003】
水系インク用の(メタ)アクリル系重合体や(メタ)アクリル系共重合体は、アルカリ水への良好な溶解性に加えて、溶解時のVOCの総量が少なく抑えられること、インクの貯蔵安定性、フィルム印刷時の良好な隠ぺい性が求められる。
【0004】
特許文献1には、多官能メルカプタンを使用する溶液重合によって製造されたポリカルボン酸樹脂とポリオール樹脂を、重合溶剤とは異なる溶剤中で縮合させた後、さらに95℃でアミンを用いて中和し脱イオン水で分散させることで、水で希釈可能な塗料用樹脂を作製する方法が記載されている。
特許文献2には、溶液中で作製された多官能メルカプタンに対し、疎水性部位と親水性部位を導入することで、保存安定性の高い水性顔料分散物が得られる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平04-304277号公報
【文献】国際公開第2019/065604号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、溶剤の脱揮工程を繰り返し行う必要がある。加えて、樹脂の縮合や95℃程度の高温で樹脂を溶融させたうえでアミン中和を行う必要があるため、樹脂のアルカリ水への溶解性が低い。また、水分散物を得るために必要なエネルギーの総量が大きい上に、重合工程や縮合工程で使用した溶剤が最終組成物に残留してしまうという問題がある。
【0007】
特許文献2の方法は、多段の重合工程により疎水性部分と親水性部分をそれぞれ導入するため、全体の重合工程が長く、生産性が悪い。加えて、重合工程で得られた(メタ)アクリル系共重合体を70℃の高温でアルカリ中和を行う必要がある。そのため、(メタ)アクリル系共重合体のアルカリ水への溶解性が低いという問題がある。
【0008】
本発明は、アルカリ水への溶解性が良好であり、インクの貯蔵安定性とフィルム印刷における隠ぺい性が良好な(メタ)アクリル系共重合体;前記(メタ)アクリル系共重合体を含む(メタ)アクリル系共重合体組成物;および前記(メタ)アクリル系共重合体組成物を含むインクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] アルキル基の炭素数が1~8である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位と、酸基含有ビニル化合物由来の構成単位と、3官能以上のメルカプタン由来の化学構造とを有し、粒子状の固体である、(メタ)アクリル系共重合体。
[2] アルキル基の炭素数が1~8である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位と、酸基含有ビニル化合物由来の構成単位と、3官能以上のメルカプタン由来の化学構造とを有し、単官能のメルカプタン由来の化学構造および2官能のメルカプタン由来の化学構造からなる群から選ばれる1種以上の化学構造をさらに有する、(メタ)アクリル系共重合体。
[3] 前記(メタ)アクリル系共重合体の二次ガラス転移温度が、35℃以上である、[1]または[2]の(メタ)アクリル系共重合体。
[4] 重合性二重結合を2つ以上有する化合物由来の構成単位をさらに含む、[1]~[3]のいずれかの(メタ)アクリル系共重合体。
[5] 単官能のメルカプタン由来の化学構造および2官能のメルカプタン由来の化学構造からなる群から選ばれる1種以上の化学構造をさらに有する、[1]、[3]、[4]のいずれかの(メタ)アクリル系共重合体。
[6] 前記(メタ)アクリル系共重合体の質量平均粒子径が、20~2000μmである、[1]~[5]のいずれかの(メタ)アクリル系共重合体。
[7] 前記(メタ)アクリル系共重合体の含水率が、0.01~10質量%である、[1]~[6]のいずれかの(メタ)アクリル系共重合体。
[8] 前記(メタ)アクリル系共重合体の酸価が、20~140mgKOH/gである、[1]~[7]のいずれかの(メタ)アクリル系共重合体。
[9] 前記(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量が、15000~80000である、[1]~[8]のいずれかの(メタ)アクリル系共重合体。
[10] [1]~[9]のいずれかの(メタ)アクリル系共重合体と、水と、塩基性化合物とを含む、(メタ)アクリル系共重合体組成物。
[11] 顔料をさらに含む、[10]の(メタ)アクリル系共重合体組成物。
[12] [10]または[11]の(メタ)アクリル系共重合体組成物を含む、インク。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルカリ水への溶解性が良好であり、インクの貯蔵安定性とフィルム印刷における隠ぺい性が良好な(メタ)アクリル系共重合体、前記(メタ)アクリル系共重合体を含む(メタ)アクリル系共重合体組成物および前記(メタ)アクリル系共重合体組成物を含むインクを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための単なる例示であって、本発明をこの実施の形態にのみ限定することは意図されない。本発明は、その趣旨を逸脱しない限り、様々な態様で実施することが可能である。
【0012】
本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸の総称である。「(メタ)アクリル系」とは、アクリル系とメタクリル系の総称である。「(メタ)アクリル系共重合体」とは、例えばアクリロイル基およびメタクリロイル基の少なくとも一方を有する共重合体である。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの総称である。
本明細書において、(メタ)アクリル系共重合体の各構成単位の割合とメルカプタン由来の化学構造の割合は、重合原料に用いた各単量体とメルカプタンの質量比から算出したものを意味する。
本明細書において「室温」とは、特に断りの無い限り23℃±2℃の範囲内の温度を意味する。
【0013】
[(メタ)アクリル系共重合体]
<第一の態様の(メタ)アクリル系共重合体>
本発明の第一の態様の(メタ)アクリル系共重合体は、アルキル基の炭素数が1~8である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(以下、「単量体(a)」ともいう。)由来の構成単位と、酸基含有ビニル化合物(以下、「単量体(b)」ともいう。)由来の構成単位と、3官能以上のメルカプタン由来の化学構造とを有する。
第一の態様の(メタ)アクリル系共重合体は、単官能のメルカプタン由来の化学構造および2官能のメルカプタン由来の化学構造からなる群から選ばれる1種以上の化学構造をさらに有することが好ましい。また、(メタ)アクリル系共重合体は、単量体(a)および単量体(b)以外の他の単量体(以下、「単量体(c)」ともいう。)由来の構成単位をさらに有していてもよい。
【0014】
<第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体>
本発明の第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体は、単量体(a)由来の構成単位と、単量体(b)由来の構成単位と、3官能以上のメルカプタン由来の化学構造とを有し、単官能のメルカプタン由来の化学構造および2官能のメルカプタン由来の化学構造からなる群から選ばれる1種以上の化学構造をさらに有する。また、第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体は、単量体(c)由来の構成単位をさらに有していてもよい。
【0015】
<アルキル基の炭素数が1~8である(メタ)アクリル酸アルキルエステル>
本発明の第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体は、アルキル基の炭素数が1~8である(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位、すなわち、単量体(a)由来の構成単位を有する。
第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体における単量体(a)としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチルが挙げられる。
これらの中でも、(メタ)アクリル系共重合体のアルカリ水への溶解性がより良好となり、入手も容易である点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシルが好ましい。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体における単量体(a)由来の構成単位の割合は、単量体(a)由来の構成単位および単量体(b)由来の構成単位の合計100質量%中、60~97質量%が好ましく、80~95質量%がより好ましい。これらの数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせることができる。
単量体(a)由来の構成単位の割合が上記範囲内であれば、インクの製膜性および耐水性が良好となる。
【0017】
<酸基含有ビニル化合物>
本発明の第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体は、酸基含有ビニル化合物由来の構成単位、すなわち単量体(b)由来の構成単位を有する。
単量体(b)としては、例えばカルボン酸またはスルホン酸などの酸基を有するビニル化合物などが挙げられる。
第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体におけるカルボン酸基を有するビニル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸などの一塩基酸;フマール酸、マレイン酸、イタコン酸などの二塩基酸;これら二塩基酸の部分エステルなどが挙げられる。
スルホン酸基を有するビニル化合物の具体例としては、ビニルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などが挙げられる。
これらの中でも、(メタ)アクリル系共重合体の水溶性が良好となる点から、カルボン酸基を有するビニル化合物が好ましく、(メタ)アクリル酸がより好ましい。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体における単量体(b)由来の構成単位の割合は、単量体(a)由来の構成単位および単量体(b)由来の構成単位の合計100質量%中、3~40質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。これらの数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせることができる。
単量体(b)由来の構成単位の割合が上記範囲内であれば、(メタ)アクリル系共重合体のアルカリ水への溶解性、その他溶剤に対する溶解性がより良好となる。
【0019】
第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体における単量体(a)由来の構成単位および単量体(b)由来の構成単位の合計割合は、(メタ)アクリル系共重合体を構成する全ての構成単位の総質量に対して、70~99.9質量%が好ましく、80~99質量%がより好ましく、85~95質量%がさらに好ましい。これらの数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせることができる。
単量体(a)由来の構成単位および単量体(b)由来の構成単位の合計割合が上記範囲内であれば、アルカリ水への溶解性が極めて良好となる。
本明細書において、第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体を構成する全ての構成単位の総質量には、後述するメタカプタン由来の化学構造の割合も含まれる。
【0020】
<メルカプタン>
第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体は、3官能以上のメルカプタン由来の化学構造を有する。
詳しくは後述するが、第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体を製造する際に重合反応における連鎖移動剤として3官能以上のメルカプタンを使用することで、3官能以上のメルカプタンが重合の開始点となり、3官能以上のメルカプタン由来の化学構造が(メタ)アクリル系共重合体に導入される。
【0021】
3官能以上のメルカプタンは、単一分子内に3つ以上のメルカプト基を持つ化合物である。
第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体における3官能以上のメルカプタンとしては、例えば1,2,3-トリメルカプトプロパン、2,2-ビス(メルカプトメチル)-1-メルカプトブタン、1,2,3,4-テトラメルカプトブタン、2,2-ビス(メルカプトメチル)-1,3-ジメルカプトプロパン、グリセリントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)、グリセリントリス(チオグリコレート)、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ペンタエリトリトールテトラキス(チオグリコレート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(チオグリコレート)、トリメチロールプロパントリス(2-メルカプトブチレート)、ペンタエリトリトールテトラキス(2-メルカプトブチレート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(2-メルカプトブチレート)などが挙げられる。
これらの中でも、(メタ)アクリル系共重合体のアルカリ水への溶解性がより良好となり、入手も容易である点から、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリトリトールテトラキス(チオグリコレート)が好ましい。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体における3官能以上のメルカプタン由来の化学構造の割合は、(メタ)アクリル系共重合体を構成する全ての単量体由来の構成単位の合計100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、1~6質量部がより好ましい。これらの数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせることができる。
3官能以上のメルカプタン由来の化学構造の割合が上記下限値以上であれば、(メタ)アクリル系共重合体のアルカリ水への溶解性がより良好となる傾向にある。3官能以上のメルカプタン由来の化学構造の割合が上記上限値以下であれば、(メタ)アクリル系共重合体の臭気が抑制される。
【0023】
第一の態様の(メタ)アクリル系共重合体は、3官能以上のメルカプタン由来の化学構造に加えて、単官能のメルカプタン由来の化学構造および2官能のメルカプタン由来の化学構造からなる群から選ばれる1種以上の化学構造をさらに有することが好ましい。第一の態様の(メタ)アクリル系共重合体が単官能のメルカプタン由来の化学構造および2官能のメルカプタン由来の化学構造からなる群から選ばれる1種以上の化学構造をさらに有する場合、アルカリ水への溶解時の粘度が低くなり、顔料などの配合が容易になる。
【0024】
第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体は、3官能以上のメルカプタン由来の化学構造に加えて、3官能以上のメルカプタン由来の化学構造に加えて、単官能のメルカプタン由来の化学構造および2官能のメルカプタン由来の化学構造からなる群から選ばれる1種以上の化学構造をさらに有する。そのため、第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体によれば、アルカリ水への溶解時の粘度が低くなり、顔料などの配合が容易になる。
【0025】
単官能のメルカプタンは、単一分子内に1つのメルカプト基を持つ化合物である。
第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体における単官能のメルカプタンとしては、例えばn-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン、n-ブチルメルカプタン、チオグリコール酸、3-メルカプトプロピオン酸、2-メルカプトエタノール、3-メルカプトプロピオン酸2-エチルヘキシル、チオグリコール酸2-エチルヘキシル、3-メルカプトプロピオン酸イソオクチル、チオグリコール酸イソオクチル、3-メルカプトプロピオン酸2-メトキシブチルなどが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体における単官能のメルカプタン由来の化学構造の割合は、(メタ)アクリル系共重合体を構成する全ての単量体由来の構成単位の合計100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、1~6質量部がより好ましい。これらの数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせることができる。
単官能のメルカプタン由来の化学構造の割合が上記下限値以上であれば、(メタ)アクリル系共重合体のアルカリ水への溶解性がより良好となる傾向にある。単官能のメルカプタン由来の化学構造の割合が上記上限値以下であれば、(メタ)アクリル系共重合体の臭気が抑制される。
【0027】
2官能のメルカプタンは、単一分子内に2つのメルカプト基を持つ化合物である。
第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体における2官能のメルカプタンとしては、例えば1,4-ジメルカプトブタン、3-オキソ-1,5-ペンタンジチオール、3-チア-1,5-ペンタンジチオール、エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、1,4-ブタンジオールビス(チオグリコ―レート)などが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体における2官能のメルカプタン由来の化学構造の割合は、(メタ)アクリル系共重合体を構成する全ての単量体由来の構成単位の合計100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、1~6質量部がより好ましい。これらの数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせることができる。
2官能のメルカプタン由来の化学構造の割合が上記下限値以上であれば、(メタ)アクリル系共重合体のアルカリ水への溶解性がより良好となる傾向にある。2官能のメルカプタン由来の化学構造の割合が上記上限値以下であれば、(メタ)アクリル系共重合体の臭気が抑制される。
【0029】
<他の単量体>
第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体は、単量体(a)由来の構成単位および単量体(b)由来の構成単位に加えて、他の単量体(単量体(c))由来の構成単位をさらに有していてもよい。
第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体における単量体(c)としては、重合性二重結合を1つ有する化合物(以下、「単量体(c1)」ともいう。)、重合性二重結合を2つ以上有する化合物(以下、「単量体(c2)」ともいう。)などが挙げられる。これらの中でも、単量体(c)としては単量体(c2)が好ましい。すなわち、(メタ)アクリル系共重合体は、単量体(a)由来の構成単位および単量体(b)由来の構成単位に加えて、単量体(c2)由来の構成単位をさらに有することが好ましい。
【0030】
第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体における単量体(c1)としては、例えばスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシチレン、p-メトキシスチレン、4-(tert-ブチル)スチレン、p-(tert-ブトキシ)スチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体における単量体(c1)由来の構成単位の割合は、単量体(a)由来の構成単位および単量体(b)由来の構成単位の合計100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、1~6質量部がより好ましい。これらの数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせることができる。
単量体(c1)由来の構成単位の割合が上記下限値以上であれば、インクの貯蔵安定性がより良好となる傾向にある。単量体(c1)由来の構成単位の割合が上記上限値以下であれば、インクの粘度を下げることができ、印刷時の取扱いが良好となる。
【0032】
第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体における単量体(c2)としては、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2-プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールテトラ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス{4-〔2-(アクリロイルオキシ)エトキシ)〕フェニル}プロパン、2,2-ビス{4-〔2-(メタクリロイルオキシ)エトキシ)〕フェニル}プロパン、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、エトキシ変性イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリトリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4-ジビニルベンゼン、1,3,5-トリビニルベンゼンなどが挙げられる。
これらの中でも、アルカリ水への溶解時の粘度が低くなり、顔料などの配合が容易になる点から、エチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが好ましい。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体における単量体(c2)由来の構成単位の割合は、単量体(a)由来の構成単位および単量体(b)由来の構成単位の合計100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、1~6質量部がより好ましい。これらの数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせることができる。
単量体(c2)由来の構成単位の割合が上記下限値以上であれば、インクの貯蔵安定性がより良好となる傾向にある。単量体(c2)由来の構成単位の割合が上記上限値以下であれば、インクの粘度を下げることができ、印刷時の取扱いが良好となる。
【0034】
<物性>
第一の態様の(メタ)アクリル系共重合体は、室温で固体である。第一の態様の(メタ)アクリル系共重合体は室温で固体であるため、アルカリ水に溶解した際のVOCを低減できる。加えて、水に溶解した状態(水溶液)や水に分散した状態(分散液)に比べて嵩が増すのを抑制できるため、輸送や保管の際にも好適である。
第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体も室温で固体であることが好ましい。第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体が室温で固体である場合、アルカリ水に溶解した際のVOCを低減できる。加えて、水に溶解した状態(水溶液)や水に分散した状態(分散液)に比べて嵩が増すのを抑制できるため、輸送や保管の際にも好適である。
固体の(メタ)アクリル系共重合体の具体的な形状としては、粉体状、板状、破砕片状、球状、粒子状、顆粒状、ペレット状の固体などが挙げられる。これらの中でも、溶剤やアルカリ水に溶解する際の取り扱い性が容易である点から、粉体状、破砕片状、球状、粒子状、顆粒状の固体が好ましい。
第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体は、後述する塩基性化合物で中和することにより、水、または水と後述の補助溶剤との混合溶剤に容易に溶解できる。
【0035】
第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体の二次ガラス転移温度(Tg)は、35℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、45℃以上がさらに好ましい。第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体の二次ガラス転移温度(Tg)は、70℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましく、55℃以下がさらに好ましい。これらの下限値および上限値は任意に組み合わせることができる。
第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体の二次ガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であれば、アルカリ水への溶解時に共重合体粒子間の凝集が抑制され、アルカリ水への溶解性がより良好となる。
第一の態様および第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体の二次ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができ、その具体的な測定方法は実施例の項に記載される通りである。
【0036】
第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体の質量平均粒子径は、20~2000μmが好ましく、50~850μmがより好ましく、80~700μmがさらに好ましく、150~600μmが特に好ましい。これらの数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせることができる。
(メタ)アクリル系共重合体の質量平均粒子径が上記下限値以上であれば、配合作業が容易になる。また、(メタ)アクリル系共重合体の質量平均粒子径が上記上限値以下であれば、アルカリ水への溶解時間が短縮される。
(メタ)アクリル系共重合体の質量平均粒子径は、標準ふるいを使用して、粒状樹脂20gを5分間振とうして分級することで算出できる。
【0037】
第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体の含水率は、アクリル系共重合体の総質量に対して0.01~10質量%が好ましく、0.02~8.0質量%がより好ましく、0.1~5.0質量%がさらに好ましく、0.5~5.0質量%が特に好ましい。これらの数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせることができる。
(メタ)アクリル系共重合体の含水率が上記下限値以上であれば、アルカリ水への溶解性が良好となる。また、(メタ)アクリル系共重合体の含水率が上記上限値以下であれば、印刷物の耐水性が高くなる。また、(メタ)アクリル系共重合体の含水率が上記範囲内であれば、粒子状の(メタ)アクリル系共重合体を得た際の共重合体の取り扱い性が良好となる。
(メタ)アクリル系共重合体の含水率の具体的な測定方法は、実施例の項に記載される通りである。
【0038】
第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体の酸価は、20~140mgKOH/gが好ましく、50~100mgKOH/gがより好ましく、55~90mgKOH/gがさらに好ましい。これらの数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせることができる。
(メタ)アクリル系共重合体の酸価が上記下限値以上であれば、アルカリ水への溶解性がより良好となる。(メタ)アクリル系共重合体の酸価が上記上限値以下であれば、中和溶解に必要とする塩基性化合物の量を減らすことができ、印刷物の耐水性も良好となる。
(メタ)アクリル系共重合体の酸価とは、(メタ)アクリル系共重合体1gを中和するのに必要な水酸化カリウムの質量をミリグラム数で表した値を意味する。第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体の酸価は、フェノールフタレインの変色点を基準にした、水酸化カリウム溶液による中和滴定により測定できる。具体的な測定方法は、実施例の項に記載される通りである。
【0039】
第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、15000~80000が好ましく、15000~60000がより好ましく、20000~60000がさらに好ましく、25000~60000が特に好ましく、25000~40000が最も好ましい。これらの数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせることができる。
(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量が上記下限値以上であれば、インクの貯蔵安定性がより良好となる傾向にある。(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量が上記上限値以下であれば、インクの粘度が低くなり、製膜性が良好となる傾向がある。
第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される重量平均分子量(ポリスチレン換算)である。具体的な測定方法は実施例の項に記載される通りである。
【0040】
第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体の数平均分子量(Mn)は、5000~120000であることが好ましく、8000~80000がより好ましく、12000~70000がさらに好ましく、15000~60000が特に好ましく、20000~50000が最も好ましい。これらの数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせることができる。
(メタ)アクリル系共重合体の数平均分子量が上記下限値以上であれば、インクの貯蔵安定性がより良好となる傾向にある。(メタ)アクリル系共重合体の数平均分子量が上記上限値以下であれば、インクの粘度が低くなり、製膜性が良好となる傾向がある。
第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体の数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される数平均分子量(ポリスチレン換算)である。具体的な測定方法は実施例の項に記載される通りである。
【0041】
<製造方法>
第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体は、塊状重合、懸濁重合、乳化重合などの公知の重合方法によって製造することができる。これらの重合方法の中でも、共重合体の取り扱い性が容易な粉体状や球状や粒子状の共重合体が得られやすい点から、塊状重合、懸濁重合が好ましい。
【0042】
<懸濁重合による製造方法>
第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体の懸濁重合による製造方法は、懸濁重合工程と、第一の脱水工程と、洗浄工程と、第二の脱水工程と、乾燥工程とを有することが好ましい。
【0043】
(懸濁重合工程)
懸濁重合工程は、上述した単量体(a)および単量体(b)と、必要に応じて単量体(c)とを水中に分散させて3官能以上のメルカプタンの存在下、重合し、第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体を得る工程である。
懸濁重合の方法としては公知の方法を採用できる。懸濁重合の方法としては、例えば、重合温度制御機能と攪拌機能とを有する反応器内にて、単量体(a)および単量体(b)と、必要に応じて単量体(c)とを、重合用助剤の存在下、水中で重合させる方法が挙げられる。
【0044】
第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体の製造で使用できる重合用助剤としては、重合開始剤、連鎖移動剤、分散剤、分散助剤などが挙げられる。ただし、少なくとも連鎖移動剤として上述した3官能以上のメルカプタンを用いる。
重合用助剤として3官能以上のメルカプタンを用いることで、3官能以上のメルカプタン由来の化学構造を有する第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体が得られる。
【0045】
第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体の製造で使用できる重合開始剤としては、例えば2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、tert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-アミルヒドロキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ヘキシルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエートなどが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体の製造で使用できる連鎖移動剤としては、少なくとも3官能以上のメルカプタンを用いる。
また、連鎖移動剤として、3官能以上のメルカプタンに加えて、上述した単官能のメルカプタンおよび2官能のメルカプタンの少なくとも一方を併用してもよい。
さらに、これらメルカプタンに加えて、ジフェニルジスルフィド、ジベンジルジスルフィド、α-メチルスチレンダイマーをさらに併用してもよい。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体の製造で使用できる分散剤としては、例えば水中で単量体を安定に分散させる界面活性剤が挙げられる。具体的には、メタクリル酸2-スルホエチルナトリウムとメタクリル酸カリウムとメタクリル酸メチルとの共重合体、3-ナトリウムスルホプロピルメタクリレートとメタクリル酸メチルとの共重合体、メタクリル酸ナトリウムとメタクリル酸との共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体の製造で使用できる分散助剤としては、例えば硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、塩化カリウム、酢酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸マンガンなどが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
懸濁重合により、第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体はスラリーの状態で得られる。スラリーを脱水することで通常は真球に近い形状の(メタ)アクリル系共重合体粒子が得られる。
【0050】
(第一の脱水工程、第二の脱水工程)
第一の脱水工程は、懸濁重合後のスラリーを脱水機などで脱水して、第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体粒子を反応液から分離する工程である。
第二の脱水工程は、洗浄工程後の(メタ)アクリル系共重合体粒子を脱水機などで脱水して、(メタ)アクリル系共重合体粒子を洗浄液から分離する工程である。
【0051】
各脱水工程には各種の脱水機を使用することができ、例えば遠心脱水機、多孔ベルト上で水を吸引除去する機構の装置などを適宜選択して使用することができる。
脱水機は、1基を使用してもよいし、同一機種を2基用意して各脱水工程で使用してもよいし、複数の異なる機種の脱水機を使用してもよい。製品品質、設備投資費、生産性、運転コストなどの点から目的に沿う機種を適宜選択することができる。製品品質と生産速度のバランスを重視する場合は、各脱水工程でそれぞれ専用の脱水機を使用することが好ましい。
【0052】
(洗浄工程)
洗浄工程は、反応液から分離された(メタ)アクリル系共重合体粒子を洗浄することである。
洗浄工程により、(メタ)アクリル系共重合体以外の成分が除去され、第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体が得られる。
洗浄方法としては、例えば第一の脱水工程で脱水した(メタ)アクリル系共重合体粒子に洗浄液を添加して(メタ)アクリル系共重合体を再度スラリー化させて攪拌混合する方法、洗浄機能を有する脱水機内で脱水工程を行った後に、続けて洗浄液を加えて洗浄する方法などが挙げられる。また、これらの洗浄方法を組み合わせて洗浄を行ってもよい。
【0053】
洗浄液は、洗浄工程の目的が達成されるようにその種類や量を選定すればよい。洗浄液としては、例えば水(イオン交換水、蒸留水、精製水など)、ナトリウム塩が溶解した水溶液、任意のpHに調整されたバッファー、メタノールなどが挙げられる。
【0054】
(乾燥工程)
乾燥工程は、第二の脱水工程後の第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体粒子を乾燥する工程である。
第二の脱水工程後の(メタ)アクリル系共重合体粒子の表面には水が残留している。また、(メタ)アクリル系共重合体の内部は飽和吸水に近い状態にある。そのため、第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体の含水率をさらに下げるために、乾燥することが好ましい。
【0055】
乾燥には各種の乾燥機を使用することができ、例えば減圧下で加温して乾燥を行う乾燥機、加温空気を用いて(メタ)アクリル系共重合体粒子を管内空輸しながら同時に乾燥を行う乾燥機、多孔板の下側から加温空気を吹き込み上側の(メタ)アクリル系共重合体粒子を流動させながら乾燥を行う乾燥機などが挙げられる。
乾燥工程は、乾燥工程後の、第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体の含水率が0.01~10質量%となるように行うことが好ましい。
【0056】
<塊状重合による製造方法>
(メタ)アクリル系共重合体の塊状重合による製造方法は、塊状重合工程と、粉砕工程とを有することが好ましい。塊状重合工程と粉砕工程との間に、脱揮工程を有していてもよい。
【0057】
(塊状重合工程)
塊状重合工程は、上述した単量体(a)および単量体(b)と、必要に応じて単量体(c)とを3官能以上のメルカプタンの存在下、重合し、第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体を得る工程である。
塊状重合の方法としては公知の方法を採用できる。塊状重合の方法としては、例えば、重合温度制御機能を有する反応器内にて、単量体(a)および単量体(b)と、必要に応じて単量体(c)とを、重合用助剤の存在下で重合させる方法が挙げられる。
【0058】
重合用助剤としては、重合開始剤、連鎖移動剤などが挙げられる。ただし、少なくとも連鎖移動剤として上述した3官能以上のメルカプタンを用いる。
重合開始剤としては、懸濁重合工程の説明において先に例示した重合開始剤が挙げられる。
連鎖移動剤としては、懸濁重合工程の説明において先に例示した連鎖移動剤が挙げられる。
【0059】
塊状重合工程で用いる反応器の形状は任意である。例えば、実験室レベルの方法としては、両端部を繋ぎ環状にしたゴムチューブを2枚の強化ガラス板で挟み込み、四隅をクリップで止めたガラスセルを反応器として用いることができる。また、工業的に用いられる反応器としては、攪拌機構を有する密閉容器が挙げられる。
【0060】
重合温度制御機能については、例えば、反応器として前記ガラスセルを用いる場合は、市販の恒温水槽を用いればよい。攪拌機構を有する密閉容器を用いる場合は、反応容器外表面から温度調整された熱媒や冷媒と熱交換させることで温度制御を行うことができる。
【0061】
(脱揮工程)
脱揮工程は、塊状重合工程で得られた第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体に含まれる揮発成分(例えば未反応の単量体、水分など)を除去(脱揮)する工程である。
脱揮方法としては公知の方法を採用できる。脱揮方法としては、例えば、ベント付き押出機を用いて(メタ)アクリル系共重合体を処理する方法などが挙げられる。
押出機の設定温度は、除去しようとする揮発成分の沸点などを勘案して決定すればよい。
【0062】
(粉砕工程)
粉砕工程は、必要に応じて脱揮処理された第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体を、所望の粒子径となるように粉砕する工程である。
粉砕方法としては、要求される粒子径に応じた任意の粉砕方法を採用できる。
水中での中和溶解時に水とスラリーを形成させる点から、粉砕後の粒子の最大径は5mm以下が好ましく、2mm以下がより好ましい。
【0063】
<作用効果>
以上説明した本発明の第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体は優れた溶解性と粉体性状をもつことから各種溶剤、特にアルカリ水への溶解性が良好である。さらに本発明の第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体を含有する組成物およびインクは、塗工性に優れており、貯蔵安定性とフィルム印刷における隠ぺい性が優れることから、印刷時にブツや印刷ムラを生じにくい。
また、本発明の第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体であれば、生産性にも優れる。
【0064】
<用途>
本発明の第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体は、例えばインク、塗料の原料として使用できる。特に、水系インクの原料として好適である。
【0065】
[(メタ)アクリル系共重合体組成物]
本発明の(メタ)アクリル系共重合体組成物は、上述した本発明の第一の態様の(メタ)アクリル系共重合体及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体からなる群から選ばれる1種以上と;水と;塩基性化合物と;を含む。
(メタ)アクリル系共重合体組成物は、顔料や、水以外の溶剤(以下、「補助溶剤」ともいう。)をさらに含んでいてもよい。
以下、顔料を含む(メタ)アクリル系共重合体組成物を特に「顔料含有組成物」ともいう。
【0066】
(メタ)アクリル系共重合体の含有量は、(メタ)アクリル系共重合体組成物の総質量に対して10~60質量%が好ましく、15~50質量%がより好ましい。これらの数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせることができる。(メタ)アクリル系共重合体の含有量が上記下限値以上であれば、製膜性が良好となり、基材への印刷時の質感が良好となる。(メタ)アクリル系共重合体の含有量が上記上限値以下であれば、製膜性が良好となり、各種基材に対する良好な印字性能を発揮する。
【0067】
水の含有量は、(メタ)アクリル系共重合体組成物の総質量に対して20~80質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましい。これらの数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせることができる。水の含有量が上記下限値以上であれば、顔料との混合性が良好となる。水の含有量が上記上限値以下であれば、(メタ)アクリル系重合体を溶解させた後の粘度が低く、他材料との混合性が良好となる。
【0068】
塩基性化合物は、固体状の(メタ)アクリル系共重合体を中和して、水、または水と補助溶剤との混合溶剤に溶解させる役割を果たす。
塩基性化合物としては、例えばアルカリ金属水酸化物、アンモニア、アンモニア水、アミン化合物などが挙げられる。
アルカリ金属水酸化物としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。
アミン化合物としては、例えばトリエチルアミン、1-プロピルアミン、ジエチルアミン、トリイソプロピルアミン、ジブチルアミン、アミルアミン、1-オクチルアミン、2-(ジメチルアミノ)エタノール、2-(エチルアミノ)エタノール、2-(ジエチルアミノ)エタノール、1-アミノ-2-プロパノール、2-アミノ-1-プロパノール、3-アミノ-1-プロパノール、1-(ジメチルアミノ)-2-プロパノール、3-(ジメチルアミノ)-1-プロパノール、2-(プロピルアミノ)エタノール、ビス(3-エトキシプロピル)アミン、アミノベンジルアルコール、モルホリン、N-メチルモルホリン、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなどが挙げられる。
これらの中でも、使用量あたりのアミン価数が高く中和に必要なアミン量を少なくでき、インクの低VOC化が実現できるという点、および印刷物の乾燥後に揮発しやすく、印刷物に残りにくい点から、トリエチルアミン、2-(ジメチルアミノ)エタノールが好ましい。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
塩基性化合物の含有量は、(メタ)アクリル系共重合体組成物の総質量に対して0.1~10質量%が好ましく、2~5質量%がより好ましい。これらの数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせることができる。塩基性化合物の含有量が上記下限値以上であれば、(メタ)アクリル系重合体組成物の溶解性が良好となる。塩基性化合物の含有量が上記上限値以下であれば、印刷後の耐水性が良好となる。
【0070】
顔料としては、例えば酸化チタン、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄鉛、コバルトブルー、クロムグリーン、コバルトグリーン、ベンジジンイエロー、ジンクホワイトなどが挙げられる。また、市販されている任意の顔料を用いることもできる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
(メタ)アクリル系共重合体組成物が顔料を含む場合、顔料の含有量は、(メタ)アクリル系共重合体組成物の総質量に対して20~60質量%が好ましく、20~50質量%がより好ましい。これらの数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせることができる。顔料の含有量が上記下限値以上であれば、基材に対する隠ぺい性が向上し、塗膜の発色が良好になる。顔料の含有量が上記上限値以下であれば、均一に顔料が分散したインクを調整することができ、ブツの少ない塗膜となる。
【0072】
本発明の(メタ)アクリル系共重合体組成物は、水を溶剤として含むが、必要に応じて水以外の溶剤を補助溶剤として含んでもよい。
補助溶剤としては、例えばアルコール類、グリコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類、カルビトール類のうち水に可溶な有機溶剤などが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
(メタ)アクリル系共重合体組成物が補助溶剤を含む場合、補助溶剤の含有量は、(メタ)アクリル系共重合体組成物の総質量に対して1~40質量%が好ましく、2~30質量%がより好ましい。これらの数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせることができる。補助溶剤の含有量が上記下限値以上であれば、(メタ)アクリル系共重合体組成物におけるレベリング性をより向上させることができる。補助溶剤の含有量が上記上限値以下であれば、(メタ)アクリル系共重合体組成物に含まれる揮発性有機化合物(VOC)の量を低減できる。
【0074】
(メタ)アクリル系共重合体組成物は、例えば水、または水と補助溶剤との混合溶剤に、(メタ)アクリル系共重合体を塩基性化合物とともに溶解させることにより得られる。その際、必要に応じて顔料を配合してもよい。具体的な製造方法としては、通常使用される攪拌機を用いて、(メタ)アクリル系共重合体組成物を構成する成分を混合攪拌する方法が挙げられる。
【0075】
以上説明した本発明の(メタ)アクリル系共重合体組成物は、塗工性に優れ、貯蔵安定性とフィルム印刷における隠ぺい性が優れることから、印刷時にブツ、印刷ムラを生じにくい。
【0076】
[インク]
本発明のインクは、上述した(メタ)アクリル系共重合体組成物を含む。
(メタ)アクリル系共重合体組成物が顔料を含まない場合、インクは(メタ)アクリル系共重合体組成物に加えて、顔料をさらに含むことが好ましい。
(メタ)アクリル系共重合体組成物が顔料含有組成物の場合、顔料含有組成物そのものをインクとしてもよいし、水や補助溶剤でさらに希釈してもよい。
また、インクは、種々の目的により、必要に応じて補助溶剤、バインダー、その他助剤などをさらに含んでいてもよい。
【0077】
インクに含まれる本発明の第一の態様及び第二の態様の(メタ)アクリル系共重合体の含有量は、インクの総質量に対して5~30質量%が好ましく、10~25質量%がより好ましい。これらの数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせることができる。(メタ)アクリル系共重合体の含有量が上記下限値以上であれば、顔料の一次粒子の凝集を抑制することができる。(メタ)アクリル系共重合体の含有量が上記上限値以下であれば、粘度が低く取扱いが容易なインクとなる。
【0078】
インクに含まれる水の含有量は、インクの総質量に対して20~60質量%が好ましく25~50質量%がより好ましい。これらの数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせることができる。水の含有量が上記下限値以上であれば、粘度の低く印刷が容易なインクとなる。水の含有量が上記上限値以下であれば、印刷物の乾燥性が良好となる。
【0079】
インクに含まれる塩基性化合物の含有量は、インクの総質量に対して0.1~10質量%が好ましく、2~5質量%がより好ましい。これらの数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせることができる。塩基性化合物の含有量が上記下限値以上であれば、インクの製膜性が良好となる。塩基性化合物の含有量が上記上限値以下であれば、耐水性が良好な画像を形成することができる。
【0080】
顔料としては、(メタ)アクリル系共重合体組成物の説明において先に例示した顔料が挙げられる。
インクに含まれる顔料の含有量は、インクの総質量に対して10~50質量%が好ましく、20~40質量%がより好ましい。これらの数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせることができる。顔料の含有量が上記下限値以上であれば、基材の隠ぺい性に優れるインクとなる。顔料の含有量が上記上限値以下であれば、印刷時の凝集物発生が抑制され、色ムラの少ないインクとなる。
【0081】
本発明のインクは、水を溶剤として含むが、必要に応じて水以外の溶剤を補助溶剤として含んでもよい。
補助溶剤としては、(メタ)アクリル系共重合体組成物の説明において先に例示した補助溶剤が挙げられる。
インクが補助溶剤を含む場合は、補助溶剤の含有量は、インクの総質量に対して0.1~30質量%が好ましく、1~25質量%がより好ましい。これらの数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせることができる。補助溶剤の含有量が上記下限値以上であれば、水系インクにおけるレベリング性をより向上させることができる。補助溶剤の含有量が上記上限値以下であれば、インクに含まれる揮発性有機化合物(VOC)の量を低減できる。
【0082】
本発明のインクは、インクの基材密着力を補う目的でバインダーを含んでいてもよい。
バインダーとしては、例えばウレタンディスパージョン(PUD)、ウレタン-アクリル複合ディスパージョン(PUA)、アクリルエマルション、ポリエステルディスパージョン、ポリオレフィンディスパージョン、ポリオレフィン-アクリル複合ディスパージョン、ポリオレフィン-ポリエステルディスパージョンなどが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0083】
その他の助剤としては、例えば消泡剤、レベリング剤や、顔料分散剤、製膜助剤、密着性付与剤などが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
インクは、例えば(メタ)アクリル系共重合体組成物に、顔料と、必要に応じて補助溶剤、バインダーおよびその他助剤の1つ以上を加え、混合することにより得られる。その際、必要に応じて、顔料分散処理を行ってもよい。また、必要に応じて水でさらに希釈してもよい。
顔料分散処理の方法としては、市販のロッキングシェーカーや、遊星ビーズミル、バッチ式攪拌式ビーズミル、連続式攪拌式ビーズミルなどを用いた、任意の分散処理方法を採用できる。
【0085】
以上説明した本発明のインクは、塗工性に優れており、貯蔵安定性とフィルム印刷における隠ぺい性が優れることから、印刷時にブツや印刷ムラを生じにくい。
【実施例
【0086】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の実施例および比較例における各種測定および評価方法は、以下の通りである。
なお、以下の説明において、特に断りがない限り「部」は質量部を意味し、「%」は質量%を意味する。
【0087】
[測定・評価方法]
<二次ガラス転移温度(Tg)の測定>
示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製、「EXSTAR DSC-6200」)を用い、下記温度走査条件にて(メタ)アクリル系共重合体5mgに対して昇降温操作を行った。下記温度走査条件の工程(3)で測定されたDSCデータを、横軸に温度(℃)、縦軸にDSC測定値(mW)をプロットした際、グラフの傾きの変化率が0となる点のうち低温側の点について引いた接線と、グラフの傾きの変化率が最大となる点(変曲点)の接線の交点に対応する温度(℃)を(メタ)アクリル系共重合体の二次ガラス転移温度(Tg)とした。
(温度走査条件)
・工程(1):-10℃で5分間安定後、110℃まで昇温する。
・工程(2):-10℃まで冷却する。
・工程(3):110℃まで再度昇温する。
・工程(4):室温まで冷却する。
・昇温速度 :+10℃/分。
・降温速度 :-10℃/分。
【0088】
<酸価の測定>
(メタ)アクリル系共重合体約0.5gをビーカーに精秤し(A(g))、トルエンとエタノールの混合溶液(質量比1:1)50mLを加えた。フェノールフタレイン数滴を加え、0.05規定のKOH溶液(溶媒:エタノール)にて滴定した。(滴定量=B(mL)、KOH溶液の力価=f)。ブランク測定を同様に行い(滴定量=C(mL))、以下の式に従って算出した。
酸価(mgKOH/g)={(B-C)×0.05×56.11×f}/A
【0089】
<重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)の測定>
(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーショングロマトグラフィー(GPC)により測定し、標準ポリスチレンの検量線を用いてポリスチレン換算した値として算出した。GPCの測定条件は以下の通りである。
(GPC測定条件)
・装置:東ソー株式会社製の「HLC-8220GPC」。
・カラム:東ソー株式会社製の「TSKgel G5000HXL(7.8mmφ×300mm)」と「GMHXL-L(7.8mmφ×300mm)」を直列に連結したもの。
・溶離液:テトラヒドロフラン。
・試料濃度:0.4%。
・測定温度:40℃。
・注入量:100μL。
・流量:1.0mL/分。
・検出器:RI(装置内蔵)、UV(東ソー UV-8220)。
【0090】
<含水率の測定>
(メタ)アクリル系共重合体の含水率は、(メタ)アクリル系共重合体を105℃で2時間乾燥した場合の含水率を0%として、105℃で2時間乾燥した時の乾燥前後の(メタ)アクリル系共重合体の重量の乾燥減量から算出した。
【0091】
<アルカリ水への溶解性の評価>
水65.5gおよび(メタ)アクリル系共重合体30.0gを攪拌子とともにガラス瓶(柏洋硝子株式会社製、「M-225」)に投入し、蓋をして、30℃に調温された水浴中で10分間攪拌してスラリーとした。得られたスラリーに、2-(ジメチルアミノ)エタノール4.5gを加え、さらに30℃で3時間攪拌した後の溶解性を溶液の状態を目視にて確認した。溶液中に沈殿物がある場合は追加で3時間攪拌を行い、以下の評価基準にてアルカリ水への溶解性を評価した。
A:最初の3時間の攪拌後、沈殿物が目視で確認されず、溶解性に優れている。
A-:最初の3時間の攪拌後は沈殿物が目視で確認されたが、追加で3時間攪拌することで沈殿物が消失しており、溶解性に優れている。
B:6時間攪拌後も明らかに不溶物が沈殿しており、溶解性が悪い。
【0092】
<貯蔵安定性および隠ぺい性の評価>
((メタ)アクリル系共重合体組成物の調製)
水65.5gおよび(メタ)アクリル系共重合体30.0gを攪拌子とともにガラス瓶(柏洋硝子株式会社製、「M-225」)に投入し、蓋をして、室温で10分間攪拌してスラリーとした。得られたスラリーに、2-(ジメチルアミノ)エタノール4.5gを加え、さらに60℃の水浴につけ、溶け残りがなくなるまで攪拌して、(メタ)アクリル系共重合体の濃度が30%である(メタ)アクリル系共重合体組成物を得た。
【0093】
(インクの調製)
得られた(メタ)アクリル系共重合体組成物50g、酸化チタンCR-90(石原産業株式会社製)30g、2-プロパノール20g、ガラスビーズ60gを容器内で混合した後、ロッキングシェーカーにて1時間分散処理を行った。次いで、得られた混合物からガラスビーズを除去し、顔料ペーストを得た。
得られた顔料ペースト60gに対して、2-プロパノール11g、水13gを添加し希釈して、水系インクを得た。得られた水系インクを用いて、インクの貯蔵安定性と印刷物の隠ぺい性の評価を行った。
【0094】
(貯蔵安定性の評価)
インクを室温で3日間静置し、顔料の沈降の有無を目視にて確認し、以下の評価基準にて貯蔵安定性を評価した。
A:3日経過時でもインク中で顔料が分散状態にある。
B:3日経過時にインク中の顔料の一部または全部が沈殿している。
【0095】
(隠ぺい性の評価)
グラビア印刷機(RK PRINTCOAT INSTRUMENTS社製、「GP-100」)にインクをセットして、印刷を行った。印刷時の版プレートは150線/インチのものを使用した。また、印刷対象の基材としては、プロピレンフィルム(東洋紡株式会社製、「パイレン(登録商標)フィルムOT P2108」)を使用した。
印刷後の塗膜について、分光測色計(コニカミノルタ株式会社、「CM-5」)を用いて、透過光の色差を測定した。その後、L値(明度)の実測値から100を減ずることにより△L値を求め、以下の評価基準にて隠ぺい性を評価した。△L値が小さいほど、印刷物の隠ぺい性に優れることを意味する。
A:△L値≦-22.5。
B:△L値>-22.5。
【0096】
[分散剤(1)の製造]
攪拌機、冷却管、温度計を備えた重合装置に、脱イオン水1230g、メタクリル酸2-スルホエチルナトリウム60g、メタクリル酸カリウム10g、メタクリル酸メチル12gを加えて攪拌し、重合装置内を窒素置換しながら、重合温度50℃に昇温し、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩0.08gを添加し、さらに重合温度60℃に昇温した。重合開始剤の添加と同時に、滴下ポンプを使用して、メタクリル酸メチルを0.24g/minの速度で75分間連続的に滴下し、重合温度60℃で6時間保持した後、室温に冷却して分散剤(1)を得た。得られた分散剤(1)の固形分は7.5%あった。
【0097】
[実施例1]
攪拌機、冷却管、温度計を備えた重合装置中に、メタクリル酸メチル40部、メタクリル酸n-ブチル40部、アクリル酸n-ブチル5部、メタクリル酸15部、トリメチロールプロパントリメタクリレート1.2部を均一に溶解した単量体混合物と、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.4部と、3-メルカプトプロピオン酸2-エチルヘキシル2部、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)2部、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)2部を加え、均一になるまで攪拌混合した。さらに、純水160部、硫酸ナトリウム0.1部、分散剤(1)0.6部を均一混合したものを加え、攪拌しながら窒素置換を行った。その後、80℃にフラスコ内温度を制御して懸濁重合を開始し、重合発熱のピークを検出した後、90℃で30分処理し、スラリー状の(メタ)アクリル系共重合体を得た(懸濁重合工程)。
重合後、釜内を常温まで冷却し、生成したスラリーを遠心分離式脱水機にて脱水した(第一の脱水工程)。
得られた(メタ)アクリル系共重合体と、洗浄液として純水を質量比((メタ)アクリル系共重合体:洗浄液)が1:2となるように洗浄用槽に投入し、20分間攪拌混合して洗浄を行った後(洗浄工程)、遠心分離式脱水機にて脱水した(第二の脱水工程)。
脱水後、脱水された(メタ)アクリル系共重合体を40℃に内温設定された流動槽式乾燥機に投入し、(メタ)アクリル系共重合体粒子の含水率が10%以下になるように乾燥した(乾燥工程)。
得られた粒子状の固体の(メタ)アクリル系共重合体粒子について、二次ガラス転移温度(Tg)、酸価、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を測定し、アルカリ水への溶解性を評価した。また、上述した方法により水系インクを調製し、インクの貯蔵安定性と印刷物の隠ぺい性を評価した。結果を表1に示す。
【0098】
[実施例2、3、5、6、比較例1~7]
表1、2に示す配合組成とした以外は、実施例1と同様にして粒子状の固体の(メタ)アクリル系共重合体粒子を製造し、各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0099】
[実施例4]
温度計を備えたガラスセル中に、メタクリル酸メチル70部、アクリル酸n-ブチル5部、アクリル酸2-エチルヘキシル12部、メタクリル酸13部、トリメチロールプロパントリアクリレート1.2部、tert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート(日油株式会社製、「パーブチルO」)0.4部、3-メルカプトプロピオン酸2-エチルヘキシル4部、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)2部、の均一混合物を投入し、密閉した後、水槽中で83℃にガラスセル内温度を制御して塊状重合を開始し、重合発熱のピークを検出した後、90℃で30分処理し、塊状の固体の(メタ)アクリル系共重合体を得た(塊状重合工程)。
重合後、ガラスセル内を常温まで冷却した。塊状の固体の(メタ)アクリル系共重合体をセルから取り外し、サニタリークラッシャーSC-01(三庄インダストリー株式会社製)にて粉砕後、目開き2mmのメッシュの上で振とうし、通過分を回収し、粒子状の固体の(メタ)アクリル系共重合体を得た(粉砕工程)。
得られた粒子状の固体の(メタ)アクリル系共重合体について、二次ガラス転移温度(Tg)、酸価、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を測定し、アルカリ水への溶解性を評価した。また、上述した方法により水系インクを調製し、インクの貯蔵安定性と印刷物の隠ぺい性を評価した。結果を表1に示す。
【0100】
[実施例5]
実施例4で得られた粒子状の固体の(メタ)アクリル系共重合体を、目開き1mmのメッシュ上で5分間振とうし、通過分を回収し、粒子状の固体の(メタ)アクリル系共重合体を得た。
【0101】
[実施例6]
実施例4で得られた粒子状の(メタ)アクリル系共重合体を、目開き750μmのメッシュ上で5分間振とうし、通過分を回収し、粒子状の固体の(メタ)アクリル系共重合体を得た。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
表中の略号は以下の通りである。また、表中の空欄は、その成分が配合されていないこと(配合量0部)を意味する。
・MMA:メタクリル酸メチル。
・n-BMA:メタクリル酸n-ブチル。
・n-BA:アクリル酸n-ブチル。
・2-EHA:アクリル酸2-エチルヘキシル。
・IBXMA:メタクリル酸イソボルニル。
・MAA:メタクリル酸。
・TMPTMA:トリメチロールプロパントリメタクリレート。
・HDDA:1,6-ヘキサンジオールジアクリレート。
・TMPTA:トリメチロールプロパントリアクリレート。
・EHMP:3-メルカプトプロピオン酸2-エチルヘキシル。
・EGMP:エチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)。
・TMPMP:トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)。
・PEMP:ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)。
・PETG:ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)。
・AMBN:2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)。
・パーブチルO:tert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート。
なお、IBXMAは単量体(a)の代替品(単量体(a’))である。
【0105】
表1の結果から明らかなように、各実施例で得られた(メタ)アクリル系共重合体は、アルカリ水への溶解性が良好であった。また、これら(メタ)アクリル系共重合体を含むインクは、貯蔵安定性が良好であり、フィルム印刷における印刷物の隠ぺい性にも優れていた。
【0106】
一方、表2の結果から明らかなように、3官能以上のメルカプタン由来の化学構造を有さず、代わりに単官能のメルカプタン由来の化学構造を有する(メタ)アクリル系共重合体を使用した比較例1、2の場合、インクの貯蔵安定性と印刷物の隠ぺい性が悪かった。
3官能以上のメルカプタン由来の化学構造を有さず、代わりに単官能のメルカプタン由来の化学構造を有するものの、単量体(c2)由来の構成単位としてHDDA(1,6-ヘキサンジオールジアクリレート)由来の構成単位を有する比較例3の(メタ)アクリル系共重合体は、アルカリ水への溶解性が悪かった。また、比較例3の場合、(メタ)アクリル系共重合体組成物は得られたものの粘度が非常に高く、顔料の分散処理を行うことができなかったため、インクの貯蔵安定性と印刷物の隠ぺい性の評価を行うことができなかった。
3官能以上のメルカプタン由来の化学構造を有さず、代わりに単官能のメルカプタン由来の化学構造または2官能のメルカプタン由来の化学構造を有するものの、その割合が比較例1、2の場合と比べて少ない比較例4、5の(メタ)アクリル系共重合体は、溶離液に溶解せず、GPC測定を行うことができなかった。また、アルカリ水への溶解性が悪かった。さらに、比較例4、5の場合、(メタ)アクリル系共重合体組成物は得られたものの粘度が非常に高く、顔料の分散処理を行うことができなかったため、インクの貯蔵安定性と印刷物の隠ぺい性の評価を行うことができなかった。
単量体(a)由来の構成単位または単量体(b)由来の構成単位を有さない比較例6、7の(メタ)アクリル系共重合体は、アルカリ水への溶解性が悪かった。また、比較例6、7の場合、(メタ)アクリル系共重合体がアルカリ水に完全に溶解せず、(メタ)アクリル系共重合体組成物およびインクを調製することができなかったため、インクの貯蔵安定性と印刷物の隠ぺい性の評価を行うことができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明によれば、アルカリ水への溶解性が良好であり、インクの貯蔵安定性とフィルム印刷における隠ぺい性が良好な(メタ)アクリル系共重合体、前記(メタ)アクリル系共重合体を含む(メタ)アクリル系共重合体組成物および前記(メタ)アクリル系共重合体組成物を含むインクを提供することができる。したがって、本発明の(メタ)アクリル系共重合体は、アルカリ水溶液によって現像可能な樹脂組成物の分野においても好適に利用でき、産業上極めて重要である。