(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】排水処理設備および排水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20241119BHJP
B01D 61/02 20060101ALI20241119BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20241119BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20241119BHJP
C02F 1/62 20230101ALI20241119BHJP
C02F 1/64 20230101ALI20241119BHJP
【FI】
C02F1/44 E
B01D61/02 500
B01D61/14 500
B01D61/58
C02F1/62 E
C02F1/62 B
C02F1/62 C
C02F1/62 Z
C02F1/64 Z
(21)【出願番号】P 2023148051
(22)【出願日】2023-09-13
【審査請求日】2024-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【氏名又は名称】服部 映美
(72)【発明者】
【氏名】後藤 秀樹
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-047417(JP,A)
【文献】特開平10-137540(JP,A)
【文献】特開2003-340450(JP,A)
【文献】特開2000-117270(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112358104(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/58-1/64
C02F1/44
B01D61/00-71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属を含有する排水にアルカリ薬剤を添加してpHを10~12に調整する第1のpH調整設備と、
前記第1のpH調整設備においてpH調整されることにより析出した析出物を、ろ過装置により分離除去するろ過設備と、
前記ろ過設備から流出されたろ過後の処理水に酸を添加してpH9.5~11に調整する第2のpH調整設備と、
前記第2のpH調整設備においてpH調整された処理水を、逆浸透膜により逆浸透膜処理する逆浸透膜処理装置と、
が備えられている、排水処理設備。
【請求項2】
前記逆浸透膜処理装置から流出した透過水に酸を添加してpH5.8~8.6に調整する第3のpH調整設備が更に備えられている、請求項1に記載の排水処理設備。
【請求項3】
前記第3のpH調整設備においてpH調整された処理水を設備用水として供給する供給流路が更に備えられている、請求項2に記載の排水処理設備。
【請求項4】
前記ろ過設備に備えられる前記ろ過装置を逆洗浄する逆洗浄設備と、
前記逆洗浄設備から排出された洗浄排水を凝集沈殿処理する凝集沈殿設備と、
前記凝集沈殿設備から流出された処理水を、前記第1のpH調整設備に供給する第1の返送流路と、が更に備えられている、請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の排水処理設備。
【請求項5】
前記凝集沈殿設備において生成した汚泥を脱水する脱水処理設備と、
前記脱水処理設備において前記汚泥から分離された脱水処理水を、前記凝集沈殿設備に返送する第2の返送流路と、が更に備えられている、請求項4に記載の排水処理設備。
【請求項6】
重金属を含有する排水にアルカリ薬剤を添加してpHを10~12に調整する第1のpH調整工程と、
第1のpH調整工程によって析出した析出物を、ろ過装置により分離除去するろ過工程と、
前記ろ過工程後の処理水に酸を添加してpH9.5~11に調整する第2のpH調整工程と、
前記第2のpH調整工程後の処理水を、逆浸透膜により逆浸透膜処理する逆浸透膜処理工程と、
が備えられている、排水処理方法。
【請求項7】
前記逆浸透膜処理工程後の透過水に酸を添加してpH5.8~8.6に調整する第3のpH調整工程が更に備えられている、請求項6に記載の排水処理方法。
【請求項8】
前記第3のpH調整工程後の処理水を、設備用水の供給流路に供給する、請求項7に記載の排水処理方法。
【請求項9】
前記ろ過工程に使用される前記ろ過装置を逆洗浄する逆洗浄工程と、
前記逆洗浄工程後の洗浄排水を凝集沈殿処理する凝集沈殿工程と、
前記凝集沈殿工程後の処理水を、前記第1のpH調整工程に供給する第1の返送工程と、が更に備えられている、請求項6乃至請求項8の何れか一項に記載の排水処理方法。
【請求項10】
前記凝集沈殿工程によって生成する汚泥を脱水する脱水処理工程と、
前記脱水処理工程において前記汚泥から分離された脱水処理水を、凝集沈殿工程に返送する第2の返送工程と、が更に備えられている、請求項9に記載の排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理設備および排水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Ni、Cu等の重金属を含有する排水を処理する際には、一般に、排水のpHを10~12程度に調整することにより、排水中に含まれる重金属を水酸化物として析出・凝集させ、次いで、沈殿またはろ過の工程を経ることで処理される。ろ過後の処理水は、中和処理がなされた後に放流される。
【0003】
ところで、この放流水の一部または全部を、例えば、クーリングタワー(以下CTと表記)等の設備用水に再利用する場合がある。この場合は、放流水の水質に応じて逆浸透膜やその他の精密ろ過膜によって脱塩処理もしくはろ過処理を行う必要がある。しかし、放流水の有機物濃度が高い場合、これをそのまま逆浸透膜や精密ろ過膜に供給することはバイオファウリングによって透過流束の減少させるおそれがあるため、放流水のpHを例えば9~11程度に再調整してバイオファウリング抑制させた状態で、逆浸透膜や精密ろ過膜に供給する必要がある。
【0004】
また、特許文献1には、湿式排煙脱硫装置からの排水をアルカリ処理及び軟化処理することにより、重金属、フッ素、カルシウム及びマグネシウム等を固形物として析出させる反応工程と、反応工程で生成した固形物を排水から分離する第一固液分離工程と、第一固液分離工程で処理された排水をpHを調整すると共に、排水中に含まれる微細な固形物を精密濾過膜で分離する第二固液分離工程と、第二固液分離工程で処理された排水の中に溶解している塩類を逆浸透膜を用いて分離する塩類分離工程とからなり、塩類分離工程で回収した水を排煙脱硫装置に循環して再使用する湿式排煙脱硫装置からの排水の処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された排水の処理方法では、塩類分離工程で回収した水を排煙脱硫装置に循環して再使用する際に、水のpHを再調整する必要がある。すなわち、重金属を除去する段階と、重金属を処理後の処理水を脱塩処理またはろ過処理する段階のそれぞれにおいて、pH調整を行う必要がある。これにより、従来の排水処理方法では、pH調整工程が増加し、また、pH調整のための薬液の使用量が増大する問題があった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、重金属を含有する排水の処理水を、再利用する場合の水処理において、pH調整工程の増加や、pH調整のための薬液の使用量の増大を防止することが可能な、排水処理設備および排水処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
[1] 重金属を含有する排水にアルカリ薬剤を添加してpHを10~12に調整する第1のpH調整設備と、
前記第1のpH調整設備においてpH調整されることにより析出した析出物を、ろ過装置により分離除去するろ過設備と、
前記ろ過設備から流出されたろ過後の処理水に酸を添加してpH9.5~11に調整する第2のpH調整設備と、
前記第2のpH調整設備においてpH調整された処理水を、逆浸透膜により逆浸透膜処理する逆浸透膜処理装置と、
が備えられている、排水処理設備。
[2] 前記逆浸透膜処理装置から流出した透過水に酸を添加してpH5.8~8.6に調整する第3のpH調整設備が更に備えられている、[1]に記載の排水処理設備。
[3] 前記第3のpH調整設備においてpH調整された処理水を設備用水として供給する供給流路が更に備えられている、[2]に記載の排水処理設備。
[4] 前記ろ過設備に備えられる前記ろ過装置を逆洗浄する逆洗浄設備と、
前記逆洗浄設備から排出された洗浄排水を凝集沈殿処理する凝集沈殿設備と、
前記凝集沈殿設備から流出された処理水を、前記第1のpH調整設備に供給する第1の返送流路と、が更に備えられている、[1]乃至[3]の何れか一項に記載の排水処理設備。
[5] 前記凝集沈殿設備において生成した汚泥を脱水する脱水処理設備と、
前記脱水処理設備において前記汚泥から分離された脱水処理水を、前記凝集沈殿設備に返送する第2の返送流路と、が更に備えられている、[4]に記載の排水処理設備。
【0009】
[6] 重金属を含有する排水にアルカリ薬剤を添加してpHを10~12に調整する第1のpH調整工程と、
第1のpH調整工程によって析出した析出物を、ろ過装置により分離除去するろ過工程と、
前記ろ過工程後の処理水に酸を添加してpH9.5~11に調整する第2のpH調整工程と、
前記第2のpH調整工程後の処理水を、逆浸透膜により逆浸透膜処理する逆浸透膜処理工程と、
が備えられている、排水処理方法。
[7] 前記逆浸透膜処理工程後の透過水に酸を添加してpH5.8~8.6に調整する第3のpH調整工程が更に備えられている、[6]に記載の排水処理方法。
[8] 前記第3のpH調整工程後の処理水を、設備用水の供給流路に供給する、[7]に記載の排水処理方法。
[9] 前記ろ過工程に使用される前記ろ過装置を逆洗浄する逆洗浄工程と、
前記逆洗浄工程後の洗浄排水を凝集沈殿処理する凝集沈殿工程と、
前記凝集沈殿工程後の処理水を、前記第1のpH調整工程に供給する第1の返送工程と、が更に備えられている、[6]乃至[8]の何れか一項に記載の排水処理方法。
[10] 前記凝集沈殿工程によって生成する汚泥を脱水する脱水処理工程と、
前記脱水処理工程において前記汚泥から分離された脱水処理水を、前記凝集沈殿工程に返送する第2の返送工程と、が更に備えられている、[9]に記載の排水処理方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の排水処理設備によれば、第1のpH調整設備およびろ過設備によって重金属が除去された処理水について、当該処理水のpHを9.5~11に調整する第2のpH調整設備が、逆浸透膜処理装置の前段に配置されているので、重金属除去後の処理水による逆浸透膜のバイオファウリングを防止できる。更に、本発明では、ろ過後の処理水のpHを放流可能な範囲に調整するための中和処理を省略して、ろ過後の処理水のpHを、バイオファウリングが抑制可能なpHの範囲に調整するので、pH調整の回数を減少させることができ、また、pH調整のための薬液の使用量の増大を防止できる。更に、第2のpH調整設備により処理水のpHを調整することで、後段の逆浸透膜処理装置の耐久性を向上できる。
【0011】
また、本発明の排水処理設備によれば、逆浸透膜処理装置の後段に、透過水に酸を添加してpH5.8~8.6に調整する第3のpH調整設備が備えられているので、処理水を設備用水に適した水質に調整できる。
【0012】
また、本発明の排水処理設備によれば、第3のpH調整設備によってpH調整された処理水を、設備用水として供給する供給流路が備えられているので、水の再利用を図ることができる。
【0013】
また、本発明の排水処理設備によれば、ろ過装置の逆洗浄時に発生した洗浄排水を凝集沈殿処理してから第1のpH調整設備に供給するので、逆洗浄後の洗浄排水の再利用を図ることができる。
【0014】
また、本発明の排水処理設備によれば、洗浄排水を凝集沈殿処理した際に発生する汚泥の脱水処理水(分離水)を、凝集沈殿設備に返送するので、汚泥の回収率を向上させることができる。
【0015】
次に、本発明の排水処理方法によれば、第1のpH調整工程およびろ過工程によって重金属が除去された処理水について、当該処理水のpHを9.5~11に調整する第2のpH調整工程を行ってから、逆浸透膜処理工程を行うので、重金属除去後の処理水による逆浸透膜のバイオファウリングを防止できる。更に、本発明では、ろ過工程後の処理水のpHを放流可能な範囲に調整ための中和処理を省略して、ろ過後の処理水のpHを、バイオファウリングが抑制可能なpHの範囲に調整するので、pH調整の回数を減少させることができ、また、pH調整のための薬液の使用量の増大を防止できる。更に、第2のpH調整工程により処理水のpHを調整することで、後段の逆浸透膜処理工程にて使用する逆浸透膜処理装置の耐久性を向上できる。
【0016】
また、本発明の排水処理方法によれば、逆浸透膜処理工程後の透過水に酸を添加してpH5.8~8.6に調整する第3のpH調整工程が備えられているので、処理水を設備用水に適した水質に調整できる。
【0017】
また、本発明の排水処理方法によれば、第3のpH調整工程後の処理水を、設備用水の供給流路に供給するので、水の再利用を図ることができる。
【0018】
また、本発明の排水処理方法によれば、ろ過装置の逆洗浄時に発生した洗浄排水を凝集沈殿処理してから第1のpH調整工程に供給するので、逆洗浄後の洗浄排水の再利用を図ることができる。
【0019】
また、本発明の排水処理方法によれば、洗浄排水を凝集沈殿処理した際に発生する汚泥の脱水処理水(分離水)を、凝集沈殿工程に返送するので、汚泥の回収率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態である排水処理設備の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態である排水処理設備及び排水処理方法について説明する。
図1には、本発明の実施形態である排水処理設備の構成を模式図で示す。
【0022】
図1に示すように、本実施形態の排水処理設備1は、重金属処理設備3と、第2のpH調整設備5と、逆浸透膜処理装置7と、が少なくとも備えられている。重金属処理設備3は、第1のpH調整設備3Aと、ろ過設備3Bとから構成される。また、ろ過設備3Bには、図示略の逆洗浄設備が設けられている、ろ過設備3Bには、逆洗排水槽12が接続されている。
【0023】
また、
図1に示す排水処理設備1には、原水槽2と、ろ過水槽4と、RO給水槽6と、が備えられている。原水槽2は、重金属処理設備3の前段に設置されている。ろ過水槽4は、重金属処理設備3と第2のpH調整設備5との間に配置されている。RO給水槽6は、第2のpH調整設備5と逆浸透膜処理装置7との間に配置されている。
【0024】
また、
図1に示す排水処理設備1には、逆浸透膜処理装置7の後段に、第3のpH調整設備8と、回収処理水槽9とが配置されている。回収処理水槽9には、供給流路L1が接続されている。供給流路L1は、処理水を再利用可能な各種の施設や設備に接続されている。このような施設や設備としては、クーリングタワー、ボイラ、洗浄設備等を例示できる。また、第3のpH調整設備8には、逆浸透膜処理装置7によって処理された処理水のうちの透過水が流入されるように構成されている。
【0025】
また、逆浸透膜処理装置7の後段には、第4のpH調整設備10と、放流水槽11とが配置されている。第4のpH調整設備10には、逆浸透膜処理装置7によって分離された濃縮水が流入されるように構成されている。
【0026】
また、
図1に示す排水処理設備1には、逆洗排水槽12の後段に、凝集沈殿設備13と、中継槽14とが備えられている。中継槽14には、凝集沈殿設備13からの分離水(上澄水)を原水槽2に返送する第1の返送流路L2が接続されている。
【0027】
また、凝集沈殿設備13で分離された汚泥を排出する経路には、汚泥貯留槽15と、脱水処理設備16とが備えられている。脱水処理設備16には、汚泥を脱水処理した際の脱水分離水を逆洗排水槽12に返送する第2の返送流路L3が接続されている。
【0028】
更に、本実施形態の排水処理設備1においては、上述した流路L1~L3のほかに、隣接する槽または装置の間で水を流すための流路Lが配置されている。原水槽に貯留された排水は、流路Lによって、重金属処理設備3、ろ過水槽4、第2のpH調整設備5、RO給水槽6、逆浸透膜処理装置7の順に流れるようになっている。
【0029】
また、逆浸透膜処理装置7によって処理された透過水は、流路Lによって、第3のpH調整設備8、回収処理水槽9の順に流れるようなっている。更に、流路Lによって、逆浸透膜処理装置7によって透過水と分離された濃縮水は、第4のpH調整設備10、放流水槽11の順に流れるようなっている。
【0030】
更に、ろ過設備3Bに付属する逆洗浄設備において発生した洗浄排水は、流路Lによって、凝集沈殿設備13、中継槽14の順に流れるようになっている。
【0031】
また、凝集沈殿設備13において生じた汚泥は、流路Lによって、汚泥貯留槽15、脱水処理設備16の順に搬送されるようになっている。
【0032】
次に、排水処理設備1に備えられる設備、装置について順次説明する。
原水槽2には、重金属を含む排水が貯留される。排水に含まれる重金属としては、pH調整により除去が可能な重金属を例示できる。例えば、Cd、Cr、Cu、Fe、Mn、Ni、Znなどを例示できる。
【0033】
重金属処理設備3は、第1のpH調整設備3Aと、ろ過設備3Bとから構成される。第1のpH調整設備3Aは、重金属を含有する排水にアルカリ薬剤を添加してpHを10~12に調整する。アルカリ薬剤には例えば水酸化ナトリウムが用いられる。また、ろ過設備3Bは、pHが10~12に調整された排水を貯留して重金属の析出物を十分に析出させたのちに、ろ過装置による固液分離処理を行って、排水中の重金属を分離除去する機能を備える。ろ過設備3Bに備えられるろ過装置は、精密ろ過膜(MF膜)または限界ろ過膜(UF膜)が好ましいが、これに限定するものでなく、二層ろ過装置やその他のろ過装置を用いることもできる。
【0034】
また、ろ過設備3Bには、図示略の逆洗浄設備が備えられている。逆洗浄設備は、表面に付着物(主に、重金属の析出物)が堆積したろ過装置のろ過媒体を逆洗浄する。これにより、ろ過装置のろ過性能、具体的には透過流束を回復させる。逆洗浄を行うことによって、洗浄排水が発生する。
【0035】
ろ過水槽4は、ろ過設備3Bから流出した処理水を一時的に貯留する。
【0036】
第2のpH調整設備5は、ろ過水槽4を経由してろ過設備3Bから流出した処理水に対して、酸を添加することにより、処理水のpHを9.5~11に調整する。望ましくは、10~10.5の範囲に調整する。酸には、例えば硫酸が用いられる。これにより、ろ過後の処理水による逆浸透膜のバイオファウリングが防止される。
【0037】
ろ過後の処理水のTOC(全有機体炭素)が5ppm以上の場合、仮に、処理水にスライム抑制剤を添加したとしても、バイオファウリングが発生する可能性がある。その一方で、バイオファウリングの原因となる微生物は、アルカリ性域では生息することが抑制される。そのため、第2のpH調整設備5によって、逆浸透膜処理装置7に供給する処理水のpHを9.5以上に調整することにより、逆浸透膜処理装置7内に、微生物の生育が抑制された環境を作り出すことが可能になり、バイオファウリングを抑制できる。また、フラックスを低下させる恐れのある非イオン性界面活性剤その他の有機物は、アルカリ性領域では膜面から脱着することが知られており、処理水のpHを9.5以上にすることにより、逆浸透膜の膜面へのこれらの成分の付着を抑制することが可能となる。
【0038】
また、処理水のpHが高いままだと、後段の逆浸透膜処理装置7の逆浸透膜が劣化する場合がある。そのため、第2のpH調整設備5は、処理水のpHを11以下にする必要がある。
【0039】
RO給水槽6は、第2のpH調整設備5によってpH調整された処理水を一時的に貯留する。
【0040】
逆浸透膜処理装置7は、逆浸透膜を備える。逆浸透膜は、第2のpH調整設備5によってpHが9.5~11に調整された処理水を、透過水と濃縮水とに分離する。
【0041】
第3のpH調整設備8は、逆浸透膜処理装置7において処理された透過水に、酸を添加して、pHを5.8~8.6に調整する。酸には硫酸が用いられる。
また、第4のpH調整設備10は、逆浸透膜処理装置7において処理された濃縮水に、酸を添加して、pHを5.8~8.6に調整する。酸には例えば硫酸が用いられる。
【0042】
回収処理水槽9は、第3のpH調整設備8によってpH調整された処理水を、一時的に貯留する。
また、放流水槽11は、第4のpH調整設備10によってpH調整された処理水を、一時的に貯留する。
【0043】
逆洗排水槽12は、逆洗浄設備によってろ過設備3Bから排出された洗浄排水を一時的に貯留する。
【0044】
凝集沈殿設備13は、逆洗浄後の洗浄排水に対して凝集沈殿処理を行うことにより、洗浄排水を汚泥と処理水とに固液分離する。
【0045】
中継槽14は、凝集沈殿設備13から排出された処理水を一時的に貯留する。
また、汚泥貯留槽15は、凝集沈殿設備13から排出された汚泥を一時的に貯留する。
【0046】
脱水処理設備16は、凝集沈殿設備13において発生した汚泥を脱水処理する。
【0047】
次に、本実施形態の水処理方法について説明する。
本実施形態の水処理方法では、第1のpH調整工程と、ろ過工程と、第2のpH調整工程と、逆浸透膜処理工程とをこの順に行う。以下、各工程について説明する。
【0048】
まず、原水槽2に貯留された重金属を含む排水を、重金属処理設備3に供給して、第1のpH調整工程およびろ過工程を行う。
第1のpH調整工程は、重金属処理設備3の第1のpH調整設備3Aにおいて、排水にアルカリ薬剤を添加し、pHを10~12に調整する。pHの調整は、重金属の種類に応じて最適なpHに設定するとよい。これにより、排水中に含まれる重金属は、主に水酸化物となって析出する。
【0049】
次いで、ろ過工程は、ろ過設備3Bにおいて、排水から重金属の析出物を十分に析出させたのちに、ろ過膜による固液分離処理を行って、排水中の重金属を分離除去する。なお、本実施形態では、排水から重金属の析出物をろ過によって分離するため、析出物の凝集を行う必要はなく、凝集剤の添加を必要としない。凝集剤による凝集処理を省略することにより凝集剤の添加が不要になる他、ろ過性能に悪影響を及ぼす形状を持つ凝集物(ピンフロック)が生成する恐れがなく、ピンフロックのリークによる後段の逆浸透膜処理装置の閉塞リスクを低減することができる。ろ過された処理水は、ろ過水槽4に貯留する。ただし、ろ過設備3Bでのろ過性能を向上させるために、必要に応じて凝集剤を添加して凝集処理することも可能である。
【0050】
次に、第2のpH調整工程では、ろ過された処理水に対して、第2のpH調整設備5にて、酸を添加してpH9.5~11に調整する。ろ過後の処理水のpHを9.5~11に調整することで、逆浸透膜のバイオファウリングを防止することが可能になる。pH調整された処理水は、RO給水槽6に貯留する。
【0051】
次に、逆浸透膜処理工程は、pH9.5~11に調整された処理水を、逆浸透膜処理装置7の逆浸透膜によって、透過水と濃縮水に分離する。先に述べたように、逆浸透膜処理装置7への給水のpHは9.5~11に調整されているので、逆浸透膜においてバイオファウリングを起こさせることなく、逆浸透膜処理を行うことができる。
【0052】
次に、第3のpH調整工程について説明する。逆浸透膜処理工程によって生成した透過水は、第3のpH調整設備8に送られる。第3のpH調整工程では、逆浸透膜処理工程後の透過水に酸を添加して、pHを5.8~8.6の中性域に調整する。これにより、透過水の水質を、設備用水として利用可能な水質に調整できる。第3のpH調整工程後の処理水は、回収処理水槽9に送られる。回収処理水槽9に送られた処理水は、供給流路L1によって、処理水を再利用可能な、クーリングタワー、ボイラ、洗浄設備等に供給される。
【0053】
次に、第4のpH調整工程について説明する。逆浸透膜処理工程によって生成した濃縮水は、第4のpH調整設備10に送られる。第4のpH調整工程では、逆浸透膜処理工程後の濃縮水に酸を添加して、pHを5.8~8.6の中性域に調整する。これにより、濃縮水の水質を、放流可能な水質に調整できる。第4のpH調整工程後の処理水は、放流水槽11に送られる。放流水槽11に送られた処理水は、河川等の公共水域や、公共下水道に放流される。
【0054】
次に、逆洗浄工程、凝集沈殿工程および第1の返送工程について説明する。これらの工程により、ろ過設備3Bのろ過装置の逆洗浄によって発生した逆洗浄水を水処理することで、水の再利用が図られる。
逆洗浄工程では、ろ過設備3Bに備えられた逆洗浄設備によって、表面に付着物(主に、重金属の析出物)が堆積したろ過膜等のろ過媒体を逆洗浄する。これにより、ろ過設備3Bのろ過性能が回復するとともに、洗浄排水が発生する。洗浄排水には、ろ過膜から除去された付着物が含まれる。洗浄排水は、逆洗排水槽12を介して、凝集沈殿設備13に送られる。
【0055】
次に、凝集沈殿工程では、凝集沈殿設備13によって、洗浄排水に対する凝集沈殿処理を行う。具体的には、洗浄排水に凝集剤を添加して、逆洗浄工程によってろ過膜から除去された付着物を凝集させる。更に、凝集剤が添加された処理水に対して沈殿処理を行うことで、付着物を含む汚泥が固液分離される。凝集沈殿工程がなされた処理水は、中継槽14に送られる。汚泥は、汚泥貯留槽15に送られる。
【0056】
次に、第1の返送工程では、中継槽14に送られた処理水を、第1の返送流路L2によって、原水槽2に返送する。原水槽2に返送された処理水は、排水として、第1のpH調整工程に送られる。これにより、洗浄排水を再利用することが可能になる。
【0057】
次に、脱水処理工程および第2の返送工程について説明する。これらの工程により、水の再利用が図られる。
脱水処理工程では、汚泥貯留槽15に送られた汚泥を、脱水設備16によって、脱水処理する。脱水処理によって分離された汚泥は、焼却処理もしくは埋め立て処理によって最終処理される。
【0058】
第2の返送工程では、脱水処理によって生成した脱水処理水(分離水)を、第2の返送流路L3によって、逆洗排水槽12に送る。逆洗排水槽12に返送された脱水処理水(分離水)は、再び、凝集沈殿工程に送られる。そして、その一部は、第1の返送工程によって第1のpH調整工程に送られる。これにより、洗浄排水を再利用することが可能になる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態の排水処理設備1によれば、第1のpH調整設備3Aおよびろ過設備3Bによって重金属が分離除去された処理水について、当該処理水のpHを9.5~11に調整する第2のpH調整設備5が、逆浸透膜処理装置7の前段に配置されているので、重金属を分離除去後の処理水による逆浸透膜のバイオファウリングを防止できる。更に、本実施形態では、ろ過後の処理水のpHを放流可能な範囲に調整するための中和処理を省略して、ろ過後の処理水のpHを、バイオファウリングが抑制可能なpHの範囲に調整するので、pH調整の回数を減少させることができ、また、pH調整のための薬液の使用量の増大を防止できる。更に、第2のpH調整設備5により処理水のpHを調整することで、後段の逆浸透膜処理装置7の耐久性を向上できる。
【0060】
また、本実施形態の排水処理設備1によれば、逆浸透膜処理装置7の後段に、透過水に酸を添加してpH5.8~8.6に調整する第3のpH調整設備8が備えられているので、処理水を設備用水に適した水質に調整できる。
【0061】
また、本実施形態の排水処理設備1によれば、第3のpH調整設備8によってpH調整された処理水を、設備用水として供給する供給流路L1が備えられているので、水の再利用を図ることができる。
【0062】
また、本実施形態の排水処理設備1によれば、逆洗浄設備、凝集沈殿設備13および第1の返送流路L2により、ろ過設備3Bの逆洗浄時に発生した洗浄排水を凝集沈殿させてから第1のpH調整設備3Aに供給できるので、逆洗後の洗浄排水の再利用を図ることができる。
【0063】
また、本実施形態の排水処理設備1によれば、脱水処理設備16および第2の返送流路L2により、洗浄排水を凝集沈殿した際に発生する脱水処理水(分離水)を、再び凝集沈殿設備13に供給するので、汚泥の回収率を向上させることができる。
【0064】
また、本実施形態の排水処理設備1によれば、第1のpH調整設備3A、ろ過設備3B、第2のpH調整設備5、凝集沈殿設備13の容量を、従来の10~50%の大きさにすることができ、設備の設置面積を小さくすることができる。
【0065】
次に、本実施形態の排水処理方法によれば、第1のpH調整工程およびろ過工程によって重金属が分離除去された処理水について、当該処理水のpHを9.5~11に調整する第2のpH調整工程を行ってから、逆浸透膜処理工程を行うので、重金属を分離除去後の処理水による逆浸透膜のバイオファウリングを防止できる。更に、本実施形態では、ろ過工程後の処理水のpHを放流可能な範囲に調整ための中和処理を省略して、ろ過後の処理水のpHを、バイオファウリングが抑制可能なpHの範囲に調整するので、pH調整の回数を減少させることができ、また、pH調整のための薬液の使用量の増大を防止できる。更に、第2のpH調整工程により処理水のpHを調整することで、後段の逆浸透膜処理工程にて使用する逆浸透膜処理装置7の耐久性を向上できる。
【0066】
また、本実施形態の排水処理方法によれば、逆浸透膜処理工程後の透過水に酸を添加してpH5.8~8.6に調整する第3のpH調整工程が備えられているので、処理水を設備用水に適した水質に調整できる。
【0067】
また、本実施形態の排水処理方法によれば、第3のpH調整工程後の処理水を、設備用水の供給流路に供給するので、水の再利用を図ることができる。
【0068】
また、本実施形態の排水処理方法によれば、ろ過装置の逆洗浄時に発生した洗浄排水を凝集沈殿させてから第1のpH調整工程に供給するので、逆洗浄後の洗浄排水の再利用を図ることができる。
【0069】
また、本実施形態の排水処理方法によれば、洗浄排水を凝集沈殿工程した際に発生する脱水処理水(分離水)を、凝集沈殿工程に返送するので、汚泥の回収率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0070】
1…排水処理設備、2…原水槽、3…重金属処理設備、3A…第1のpH調整設備、3B…ろ過設備、4…ろ過水槽、5…第2のpH調整設備、6…RO給水槽、7…逆浸透膜処理装置、8…第3のpH調整設備、9…回収処理水槽、10…第4のpH調整設備、11…放流水槽、12…逆洗排水槽、13…凝集沈殿設備、14…中継槽、15…汚泥貯留槽、16…脱水処理設備、L…流路、L1…供給流路、L2…第1の返送流路、L3…第2の返送流路。
【要約】
【課題】重金属を含有する排水の処理水を、再利用する場合の水処理において、pH調整工程の増加や、pH調整のための薬液の使用量の増大を防止することが可能な、排水処理設備および排水処理方法を提供する。
【解決手段】重金属を含有する排水にアルカリ薬剤を添加してpHを10~12に調整する第1のpH調整設備3Aと、第1のpH調整設備3AにおいてpH調整されることにより析出した析出物を、ろ過装置により分離除去するろ過設備3Bと、ろ過設備3Bから流出されたろ過後の処理水に酸を添加してpH9.5~11に調整する第2のpH調整設備5と、第2のpH調整設備5においてpH調整された処理水を、逆浸透膜により逆浸透膜処理する逆浸透膜処理装置7と、が備えられている、排水処理設備1を採用する。
【選択図】
図1