(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】培養物の製造方法及び細胞回収方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/02 20060101AFI20241119BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20241119BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20241119BHJP
C12N 11/00 20060101ALN20241119BHJP
【FI】
C12N5/02
C12N5/0775
C12M1/00 A
C12N11/00
(21)【出願番号】P 2023511346
(86)(22)【出願日】2022-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2022015315
(87)【国際公開番号】W WO2022210659
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2021060494
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 優至
(72)【発明者】
【氏名】岡野定 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】陳 尚武
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮介
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/017513(WO,A1)
【文献】特開2018-068154(JP,A)
【文献】国際公開第2015/111686(WO,A1)
【文献】特開平02-171183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C12M 1/00- 3/10
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着性細胞と、前記接着性細胞の大きさよりも大きい可溶性培養担体とを接触させて、前記接着性細胞を前記可溶性培養担体の表面に配置させること、
前記可溶性培養担体の表面に配置された前記接着性細胞を、培地中で浮遊培養すること、
前記浮遊培養中の前記可溶性培養担体に対して、前記可溶性培養担体の種類に応じて選択され、かつ前記可溶性培養担体の表面の少なくとも一部を変性する変性処理を行うこと、及び
前記変性処理の後に、前記接着性細胞を、前記接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体から、大きさの差に基づいて分離して回収することを含む、培養物の製造方法。
【請求項2】
前記可溶性培養担体は、多糖類、タンパク質、又はこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の培養物の製造方法。
【請求項3】
前記可溶性培養担体は、デキストラン、セルロース、コラーゲン、ゼラチン、ポリガラクツロン酸、アルギン酸、及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載の培養物の製造方法。
【請求項4】
前記可溶性培養担体は多孔質である、請求項1から3のいずれか1項に記載の培養物の製造方法。
【請求項5】
前記変性処理は、前記可溶性培養担体を表面変性剤によって変性することを含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の培養物の製造方法。
【請求項6】
前記接着性細胞と前記変性処理済可溶性培養担体とを分離装置を用いて分離する、請求項1から5のいずれか1項に記載の培養物の製造方法。
【請求項7】
前記分離装置は、20~50μmの孔径を有する、請求項6に記載の培養物の製造方法。
【請求項8】
前記変性処理済可溶性培養担体の大きさは、最小直径が50μmを超える、請求項1から7のいずれか1項に記載の培養物の製造方法。
【請求項9】
前記変性処理は、表面変性剤を用いて行われ、前記表面変性剤は、可溶性培養担体の溶解剤又は分解剤である、請求項1から8のいずれか1項に記載の培養物の製造方法。
【請求項10】
接着性細胞と、前記接着性細胞の大きさよりも大きい可溶性培養担体とを含み、前記接着性細胞が前記可溶性培養担体の表面に配置された細胞複合体を含む細胞懸濁液を用意すること、
前記細胞懸濁液中の前記細胞複合体に対して、前記可溶性培養担体の種類に応じて選択され、かつ前記可溶性培養担体の表面の少なくとも一部を変性する変性処理を行うこと、及び
前記細胞懸濁液中の前記接着性細胞を、前記接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体から、大きさの差に基づいて分離して回収することを含む、細胞回収方法。
【請求項11】
可溶性培養担体と、請求項1から9のいずれか1項に記載の培養物の製造方法又は請求項10に記載の細胞回収方法に前記可溶性培養担体を用いる旨が記載された使用説明書とを含む、キット。
【請求項12】
可溶性培養担体を変性処理するための表面変性剤と、請求項1から9のいずれか1項に記載の培養物の製造方法又は請求項10に記載の細胞回収方法に前記表面変性剤を用いる旨が記載された使用説明書とを含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、培養物の製造方法、細胞回収方法、キット及び細胞含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養は、平板状の培養担体上に接着性細胞を単層に成長させる平板培養と、主として粒子状の培養担体の表面に接着性細胞を接着させ、接着性細胞と培養担体との複合体として培養系に浮遊させた状態で細胞培養を行う浮遊培養とに大きく分類される。
浮遊培養では、培養担体が細胞増殖の足場として機能して効率よく細胞を増やし、細胞培養後には、細胞を、酵素、キレート剤等を用いて培養担体から剥がして回収することが行われている。浮遊培養に使用可能な培養担体としては、可溶性のものと不溶性のものがあり、可溶性の培養担体を用いる場合には、細胞培養後に培養担体を溶解させ、フィルタ等によって細胞のみを回収する。細胞の大量培養では、このような浮遊培養が好ましく用いられている。可溶性培養担体は、その構成成分に合わせた溶解手段が確立しており、プロトコールに従って細胞培養後に良好に溶解させることができる。
【0003】
例えば、特表2016-523086号公報には、ペクチン酸等のポリガラクツロン酸化合物を含む基質と、基質表面にある接着性ポリマとを含む細胞培養物品が開示されており、ペクチナーゼ及びキレート剤を用いることで培養担体を溶解させて、細胞を容易に採取することが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
培養担体を用いて大量に得られた細胞を、例えば細胞製剤として利用する際には、細胞以外の夾雑物はできるだけ除去することが求められる。しかし、可溶性培養担体は、確立したプロトコールに従って良好に溶解させたときに、溶解残留物が細胞懸濁液中に発生する。溶解残留物の多くは細胞の大きさと同等、又は細胞の大きさよりも小さいため、細胞懸濁液から細胞のみを回収しようとしても溶解残留物の混入を完全に回避することは難しい。
本開示は、不純物の混入が少なく接着性細胞の純度が高い培養物の製造方法及び細胞回収方法、これらの方法に適するキット、並びに接着性細胞の純度が高い細胞含有組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の各実施形態は以下の通りである。
[1]接着性細胞と、前記接着性細胞の大きさよりも大きい可溶性培養担体とを接触させて、前記接着性細胞を前記可溶性培養担体の表面に配置させること、前記可溶性培養担体の表面に配置された前記接着性細胞を、培地中で浮遊培養すること、前記浮遊培養中の前記接着性細胞を前記可溶性培養担体の表面から離脱させるために、前記可溶性培養担体に対して、表面の少なくとも一部を変性する変性処理を行うこと、及び前記変性処理の後に、前記接着性細胞を、前記接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体から、大きさの差に基づいて分離して回収することを含む、培養物の製造方法。
【0006】
[2]前記可溶性培養担体は、多糖類、タンパク質、又はこれらの組み合わせを含む、[1]に記載の培養物の製造方法。
[3]前記可溶性培養担体は、デキストラン、セルロース、コラーゲン、ゼラチン、ポリガラクツロン酸、アルギン酸、及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを含む、[1]又は[2]に記載の培養物の製造方法。
[4]前記可溶性培養担体は多孔質である、[1]から[3]のいずれかに記載の培養物の製造方法。
【0007】
[5]前記変性処理は、前記可溶性培養担体を表面変性剤によって変性することを含む、[1]から[4]のいずれかに記載の培養物の製造方法。
[6]前記接着性細胞と前記変性処理済可溶性培養担体とを分離装置を用いて分離する、[1]から[5]のいずれかに記載の培養物の製造方法。
[7]前記分離装置は、20~50μmの孔径を有する、[6]に記載の培養物の製造方法。
[8]前記変性処理済可溶性培養担体の大きさは、最小直径が50μmを超える、[1]から[7]のいずれかに記載の培養物の製造方法。
【0008】
[9]接着性細胞と、前記接着性細胞の大きさよりも大きい可溶性培養担体とを含み、前記接着性細胞が前記可溶性培養担体の表面に配置された細胞複合体を含む細胞懸濁液を用意すること、前記細胞懸濁液中の前記細胞複合体に対して、前記接着性細胞を前記可溶性培養担体の表面から離脱させるために、前記可溶性培養担体の表面の少なくとも一部を変性する変性処理を行うこと、及び前記細胞懸濁液中の前記接着性細胞を、前記接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体から、大きさの差に基づいて分離して回収することを含む、細胞回収方法。
[10]可溶性培養担体と、[1]から[8]のいずれかに記載の培養物の製造方法又は[9]に記載の細胞回収方法に前記可溶性培養担体を用いる旨が記載された使用説明書とを含む、キット。
[11]可溶性培養担体を変性処理するための表面変性剤と、[1]から[8]のいずれかに記載の培養物の製造方法又は[9]に記載の細胞回収方法に前記表面変性剤を用いる旨が記載された使用説明書とを含む、キット。
[12]接着性細胞を含有し、20μm以下の大きさを有する可溶性培養担体の溶解残留物の含有率が、細胞1×104個当たり30個以下である、細胞含有組成物。
[13]可溶性培養担体の、[1]から[8]のいずれかに記載の培養物の製造方法、[9]に記載の細胞回収方法、又は[10]に記載のキットにおける使用。
[14]可溶性培養担体を変性処理するための表面変性剤の、[1]から[8]のいずれかに記載の培養物の製造方法、[9]に記載の細胞回収方法、又は[10]に記載のキットにおける使用。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、不純物の混入が少なく接着性細胞の純度が高い培養物の製造方法及び細胞回収方法、これらの方法に適するキット、並びに接着性細胞の純度が高い細胞含有組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例及び比較例で作製した細胞懸濁液の変性処理後の1視野の位相差顕微鏡像である。
【
図2】比較例で作製した細胞懸濁液の変性処理及びピペッティング後の1視野の位相差顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。本明細書において、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。要素は、断りがない限り、単数又は複数の要素を示す。
【0012】
以下、本開示にかかる実施形態について説明する。本発明は以下の実施形態における例示によって限定されるものでははい。以下の説明における用語及び表現は後述の実施例の具体例によって限定されるものではない。
[培養物の製造方法]
本開示の実施形態による培養物の製造方法は、接着性細胞と、接着性細胞の大きさよりも大きい可溶性培養担体とを接触させて、接着性細胞を可溶性培養担体の表面に配置させること、可溶性培養担体の表面に配置された接着性細胞を、培地中で浮遊培養すること、浮遊培養中の接着性細胞を可溶性培養担体の表面から離脱させるために、可溶性培養担体に対して、表面の少なくとも一部を変性する変性処理を行うこと、及び変性処理の後に、接着性細胞を、接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体から、大きさの差に基づいて分離して回収することを含むことができる。
【0013】
この培養物の製造方法によれば、不純物の混入が少なく接着性細胞の純度が高い培養物を得ることができる。すなわち、本培養物の製造方法によれば、接着性細胞を表面に有する可溶性培養担体から接着性細胞を離脱させるために、可溶性培養担体全体を溶解させるのではなく、表面の少なくとも一部を変性する変性処理を行う。接着性細胞は、可溶性培養担体の表面を接着の足場としているところ、変性処理によって接着の足場を失うことになり、培養担体の表面から離脱すると考えられるが、この理論に限定されない。また、変性処理は、可溶性培養担体の表面を変性するに留まるため、可溶性培養担体全体を溶解したときに生じる大量の溶解残留物が発生せず、かつ、変性処理後に得られる変性処理済み可溶性培養担体の大きさが、接着性細胞の大きさよりも小さくなることはない。この結果、接着性細胞と変性処理済可溶性培養担体との大きさの差異に基づいて、変性処理済み可溶性培養担体から接着性細胞を精度よく簡便に分離、回収することができる。
得られる培養物には、接着性細胞が含まれ、可溶性培養担体が含まれず、可溶性培養担体に由来する残留物の含有率が極めて低いことが好ましい。より詳しくは、得られる培養物には、可溶性培養担体が溶解する場合に生じる溶け残り等の残留物であって、細胞の大きさと同等、又はそれより小さい残留物の含有率が極めて低いことが好ましい。
【0014】
以下の説明において、細胞複合体は、接着性細胞及び可溶性培養担体を含み、接着性細胞が可溶性培養担体の表面に配置されたものを意味する。細胞懸濁液は、接着性細胞を含む液体を意味する。
【0015】
培養物の製造方法は、接着性細胞と、接着性細胞の大きさよりも大きい可溶性培養担体とを接触させて、接着性細胞を可溶性培養担体の表面に配置させることを含むことができる。
【0016】
接着性細胞は、可溶性培養担体の表面に担持されることが可能であって、可溶性培養担体の表面に配置される状態で細胞の成長が促進され得る細胞であるとよい。接着性細胞は、水性媒体と一緒になって細胞懸濁液を構成することができる。細胞懸濁液を構成する水性媒体としては、培地、生理食塩水、リン酸緩衝液等とすることができる。
細胞は、動物由来の細胞であることが好ましく、哺乳動物由来の細胞であることがより好ましい。哺乳動物として、例えば、ヒト、サル、チンパンジー、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、ラット、マウス、モルモット、イヌ、ネコ等が挙げられる。細胞が由来する組織は、特に限定されず、例えば、皮膚、肝臓、腎臓、筋肉、骨、血管、血液、神経組織等であってよい。細胞は、初代培養細胞、培養細胞株、組換培養細胞株等であってよい。
【0017】
幹細胞としては、例えば、間葉系幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、骨髄幹細胞、生殖幹細胞、歯髄幹細胞等の体性幹細胞などが挙げられ、好ましくは間葉系幹細胞である。間葉系幹細胞は、個体の様々な組織に存在し、骨芽細胞、軟骨細胞及び脂肪細胞等の間葉系の細胞の全て又はいくつかへの分化が可能な体性幹細胞を広義に意味する。間葉系幹細胞としては、例えば、骨髄由来の間葉系幹細胞、臍帯由来の間葉系幹細胞、脂肪組織由来の間葉系幹細胞等が挙げられる。
幹細胞として、例えば、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)、多能性生殖幹細胞(mGS細胞)、胚性腫瘍細胞(EC細胞)、Muse細胞等の多能性幹細胞を用いてもよい。
【0018】
細胞としては、例えば、内皮細胞、表皮細胞、上皮細胞、心筋細胞、筋芽細胞、神経細胞、骨細胞、骨芽細胞、線維芽細胞、脂肪細胞、肝細胞、腎細胞、膵細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、樹状細胞、マクロファージ、リンパ球等の分化した細胞;幹細胞からこれらの分化した細胞への前段階にある前駆細胞などであってもよい。
上記した細胞は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
可溶性培養担体は、酵素、熱等の手段によって分解可能である材料から構成される培養担体を意味する。可溶性培養担体は、表面に接着性細胞を担持可能であって、表面に接着性細胞が配置されて、可溶性培養担体と接着性細胞とを含む細胞複合体を形成可能である。また、可溶性培養担体は、変性処理によって表面が変性され、接着性細胞を担持する作用が弱まるものであることが好ましい。
【0020】
可溶性培養担体は、その表面を接着性細胞が増殖の足場として利用可能であれば、特に制限はなく使用することができる。可溶性培養担体は、例えば、多糖類、タンパク質、ポリペプチド、又はこれらの組み合わせを含むことができ、好ましくは多糖類、タンパク質、又はこれらの組み合わせを含み、より好ましくは多糖類を含む。可溶性培養担体は、天然高分子及び合成高分子のいずれであってもよい。
多糖類としては、例えば、ペクチン、ペクチン酸等のポリガラクツロン酸;アルギン酸、セルロース、デキストラン、アガロース、キトサン、グリコサミノグリカン等、これらの誘導体等が挙げられる。これらは架橋構造を有していてもよく、例えば架橋セルロース、架橋デキストラン、架橋アガロース、架橋キトサン等が挙げられる。なかでも、ポリガラクツロン酸、ポリガラクツロン酸エステル、アルギン酸、アルギン酸エステル、セルロース、架橋セルロース、デキストラン、架橋デキストラン、又はこれらの組み合わせが好ましい。
タンパク質としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン等が挙げられる。
可溶性培養担体は、デキストラン、セルロース、コラーゲン、ゼラチン、ポリガラクツロン酸、アルギン酸、及びこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。セルロース及びデキストランは、それぞれ架橋又は非架橋であってよい。なかでも、デキストラン、架橋デキストラン、又はこれらの組み合わせを含むことが好ましく、架橋デキストランを含むことがより好ましい。
【0021】
可溶性培養担体の表面には、接着性細胞との担持性(接着性)を向上させるために、カチオン性官能基が導入されていてもよい。カチオン性官能基としては、例えば、置換基を有するアミノ基、1級アミノ基、第四級アンモニウム基等が挙げられる。置換基を有するアミノ基としては、例えば炭素数1~10、好ましくは炭素数1~4のアルキル基を有するアミノ基等が挙げられ、モノアルキルアミノ基及びジアルキルアミノ基のいずれであってもよく、具体的には、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、プロピルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、ジブチルアミノ基等が挙げられる。カチオン性官能基は、置換又は非置換のアミノ基を有する官能基であってもよく、例えばアミノアルキル基等が挙げられ、具体的にはアミノエチル基、アミノプロピル基、メチルアミノエチル基、ジメチルアミノエチル基、エチルアミノエチル基、ジエチルアミノエチル基等が挙げられる。これらのカチオン性官能基は、可溶性培養担体の表面に単独で、又は2種以上が組み合わせられて導入されてもよい。
また、接着性細胞の担持性を促進する観点から、可溶性培養担体の表面には、細胞接着性ポリマが配置されて、可溶性培養担体の表面の一部又は全部を構成してもよい。細胞接着性ポリマとしては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、アルギン酸又はその塩、Matrigel(商標)(BD Biosciences社)、ヒアルロン酸、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン、ヘパラン硫酸、デキストラン、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸等が挙げられる。なかでも、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン等の細胞接着性ポリペプチドが好ましい。
可溶性培養担体の具体例としては、ジアルキルアミノ基を有するデキストラン又は架橋デキストラン、コラーゲン又は変性コラーゲンが被覆されたデキストラン又は架橋デキストラン等が挙げられる。
【0022】
可溶性培養担体の形状としては、特に限定されず、接着性細胞を担持可能であればよく、例えば、球状、扁平状、円柱状、板条、角柱状等が挙げられる。可溶性培養担体は、球状可溶性培養担体を含むことが好ましい。
可溶性培養担体は、表面、内部又はこれら双方に細孔を有する多孔質培養担体であってもよく、内部又は内部及び表面の双方に細孔を有しない中実の培養担体であってもよい。可溶性培養担体として多孔質培養担体を用いることで、可溶性培養担体の表面積を大きくして、可溶性培養担体の表面に担持される接着性細胞の数を増やすことができる。
【0023】
本実施形態に係る可溶性培養担体としては、例えば、Cytiva社のCytodex(登録商標、以下、省略)シリーズ、CytoporeシリーズSephadex(登録商標、以下、省略)シリーズ等を挙げることができる。
【0024】
可溶性培養担体は、接着性細胞よりも大きい大きさ(サイズ)を有することができる。可溶性培養担体の大きさが接着性細胞よりも大きいことは、例えば、接着性細胞及び可溶性培養担体を含む細胞懸濁液を所定の孔径を有するフィルタを通過させることにより確認することができる。この確認に使用可能なフィルタの孔径は、接着性細胞の大きさよりも大きく、可溶性培養担体よりも小さい範囲であればよい。
より具体的には、接着性細胞の大きさは、接着性細胞の種類によって異なるが、例えば1~50μm、10~30μm、10~20μm、又は10~18μmであってよい。また、接着性細胞は、例えば孔径が10μm以上であって、かつ50μm以下、30μm以下、20μm以下、又は18μm以下のフィルタを通過可能な大きさであってよい。
【0025】
変性処理前において、可溶性培養担体の平均粒子径(D50)は、例えば40~1,000μmであり、50~500μmであり、100~250μmであり、又は100~200μmであってよい。この範囲で、変性処理前において可溶性培養担体の大きさが接着性細胞の大きさよりも大きくなり、可溶性培養担体の表面に複数の接着性細胞を担持可能であって、細胞の増殖促進に寄与することができる。また、この範囲で、変性処理前において可溶性培養担体の大きさが接着性細胞の大きさよりも大きいことで、変性処理後にも、可溶性培養担体の大きさが接着性細胞の大きさよりも大きい状態を維持しやすくなり、細胞の大きさに基づいて変性処理済可溶性培養担体から接着性細胞を簡便に分離することができる。
本開示において、可溶性培養担体の平均粒子径は、生理食塩水又は培地中の体積基準のメジアン径(D50)として測定した値とする。可溶性培養担体の平均粒子径は、レーザー回折散乱式の粒子径分布測定装置により測定することができる。ただし、可溶性培養担体が市販品である場合には、製品に付属する製品情報を参照することができる。
【0026】
変性処理の前において、可溶性培養担体の大きさは、最小直径が50μmを超えることが好ましい。変性処理の前において、可溶性培養担体の大きさは、最小直径が、例えば50μm超過、80μm以上、100μm以上、150μm以上、又は170μm以上であってよい。変性処理の前において、可溶性培養担体の大きさがこの範囲であることで、変性処理の後の変性処理済可溶性培養担体と接着性細胞とのサイズの差を維持しやすく、これにより、変性処理済可溶性培養担体から接着性細胞を分離及び回収しやすくすることができる。
【0027】
本開示において、可溶性培養担体の最小直径は、次の測定方法により得られた値又はD5の値を意味することができる。可溶性培養担体の最小直径は、位相差顕微鏡による観察を複数箇所、例えば5視野行い、顕微鏡に付属のメジャー又はスケールバーを参照して確認することができる。この際に、可溶性培養担体を蛍光着色してもよい。また、可溶性培養担体の最小直径は、簡易的に、50μmの孔径を有するフィルタを用いて確認してもよい。本開示において、可溶性培養担体のD5は、生理食塩水又は培地中の体積基準の粒度分布を測定し、粒子径の小さい側からの体積の累積が5%となるときの粒子径とする。可溶性培養担体の粒度分布は、レーザー回折散乱式の粒子径分布測定装置により測定することができる。ただし、可溶性培養担体が市販品である場合には、製品に付属する製品情報を参照することができる。
可溶性培養担体の平均粒子径(D50)、D5、最小直径は、変性処理の前後において、同様の手順で求めることができる。
【0028】
接着性細胞と可溶性培養担体とを接触させる方法としては、例えば、培養開始前、開始時又は培養開始後に、細胞培養容器内の培地等に、可溶性培養担体と接着性細胞とを投入することが挙げられる。投入の順序については、特に制限はない。媒体に投入される可溶性培養担体及び接着性細胞の量は、特に制限されず、細胞培養の規模、設備等に応じて適宜選択すればよい。
【0029】
培養物の製造方法は、可溶性培養担体の表面に配置された接着性細胞を、培地中で浮遊培養することを含むことができる。
可溶性培養担体の表面に配置される接着性細胞は、上記した接着性細胞と可溶性培養担体とを培地中で接触させたものをそのまま用いてもよい。すなわち、培地に接着性細胞と可溶性培養担体とを投入した場合には、その状態から浮遊培養を開始してもよく、上記した接着性細胞と可溶性培養担体とを緩衝液等の培地以外の媒体中で接触させたものと培地とを混合し、浮遊培養を開始してもよい。
【0030】
培養容器内において、浮遊培養の時間経過に伴って接着性細胞の増殖が進むにつれて、接着性細胞と可溶性培養担体との複合体である細胞複合体が形成され、この細胞複合体の可溶性培養担体上で接着性細胞が増殖する。なお、細胞懸濁液中には、細胞複合体のみならず、複数の細胞が凝集することにより形成される細胞塊(凝集体)、細胞が接着していない培養担体等が含まれていてもよい。細胞が接着していない培養担体としては、浮遊培養の間に、追加して投入される追加可溶性培養担体等がある。
【0031】
培養開始時の接着性細胞の播種密度は、細胞の種類、培養条件等によって異なるが、例えば5×102~2×105細胞/mL、1×103~1×105細胞/mL、又は1×103~5×104細胞/mLとすることができる。培養開始時の可溶性培養担体の細胞懸濁液中の濃度は、例えば0.05~50g/L、0.1~10g/Lであり、又は0.3~5g/Lとすることができる。可溶性培養担体が多孔質である場合には、可溶性培養担体の表面積が、0.1~30cm2/mL、0.5~20cm2/mL、1~10cm2/mL、又は3~8cm2/mLの範囲内に、可溶性培養担体の濃度を調整することができる。接着性細胞と可溶性培養担体とは、この範囲内で、適宜組み合わせて用いられる。
【0032】
接着性細胞を培養するために用いられる培地は、無機塩、アミノ酸、糖、及び水を含有することが好ましい。培地は、血清、ビタミン、ホルモン、抗生物質、増殖因子、接着因子等の任意の成分を更に含有してもよい。培地として、細胞培養用の基礎培地として知られている培地を使用することができる。すなわち、培地として、選択された細胞を培養するために用いられることが知られているものであれば特に制限なく使用することができる。
培地としては、これに限定されないが、例えば、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)、MEM(イーグル最小必須培地)、αMEM培地(イーグル最小必須培地α改変型)、GMEM(グラスゴー最小必須培地)、IMDM(イスコフ改変ダルベッコ培地)、Ham’s F12(栄養混合物F-12ハム)、RPMI-1640(RPMI-1640培地)、McCoy’s 5A(マッコイ5A培地)、MSC growth medium 2(Promocell社)、Prime XV XSFM(Irvine Scientific社)等が挙げられる。これらは、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0033】
培地に血清を添加する場合は、例えば、ウシ胎仔血清(FBS)、ウマ血清、ヒト血清等の血清などを用いることができる。
培養に用いられる培地は、異種由来成分を含まないものであってよい。異種由来成分を含まない培地は、動物由来の血清の代わりに、血清の代替添加物(例えばKnockout Serum Replacement(KSR)(Invitrogen社)、Chemically-defined Lipid concentrated(Gibco社)、Glutamax(Gibco社))等を含むことができる。
その他、Essential 8(Thermo Fisher社)、mTeSR1(STEMCELL Technologies社)、StemFitシリーズ(タカラバイオ株式会社)、StemFlex(Thermo Fisher Scientific社)等の無血清培地を用いることができる。
【0034】
培地には、必要に応じて、添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD等のビタミン;葉酸等の補酵素;グリシン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、グルタミン、イソロイシン、ロイシン等アミノ酸;乳酸等の炭素源としての糖又は有機酸;EGF、FGF、PFGF、TGF-β等の成長因子;IL-1、IL-6等のインターロイキン;TNF-α、TNF-β、レプチン等のサイトカイン;トランスフェリン等の金属トランスポーター;鉄イオン、セレンイオン、亜鉛イオン等の金属イオン;β-メルカプトエタノール、グルタチオン等のSH試薬;アルブミン等のタンパク質などが挙げられる。
【0035】
細胞培養方法は、特に限定されず、それぞれの細胞に適した方法を用いればよい。細胞の培養の温度は、細胞懸濁液の温度で、例えば20~45℃、又は30~40℃の範囲内、好ましくは36~37℃であるとよい。細胞の培養のpHは、細胞懸濁液のpHで、例えば6.2~7.7の範囲内、好ましくは7.4であるとよい。細胞の培養のCO2濃度は、細胞懸濁液のCO2濃度で、例えば1~20体積%の範囲内、4~10体積%、好ましくは5~7体積%であるとよい。哺乳類由来の細胞培養の場合には、一般に、37℃の温度、5%(v/v)の二酸化炭素濃度が用いられる。
【0036】
浮遊培養は、撹拌、振とうなどの揺動を連続的又は間欠的に行う動的な浮遊培養、又は揺動を伴わない静的な浮遊培養であってもよい。揺動に適した培養容器は、特に限定されないが、例えば、フラスコ、バイオリアクター、タンク、培養バッグ等が挙げられる。揺動の方法は、特に限定されず、選択された培養容器に応じた方法が適用可能である。揺動方法としては、例えば、撹拌、振とう、傾斜、又はこれらの組み合わせなどが挙げられる。
浮遊培養の途中で、必要に応じて、適宜培地の交換を行うことができる。培地の交換は、全量交換してもよいし、例えば半量のように、培地の一部交換してもよい。浮遊培養は、接着性細胞の増殖の状態に応じて、適宜、培地を追加して細胞懸濁液の容量を増加させ、培養のスケールアップを図ってもよい。培養のスケールアップとしては、例えば、0.3L以上、2L以上、4L以上、10L以上のように順次、拡大させる態様が挙げられるが、この態様に限定されない。
【0037】
培養物の製造方法は、浮遊培養中の接着性細胞を可溶性培養担体の表面から離脱させるために、可溶性培養担体に対して、表面の少なくとも一部を変性する変性処理を行うことを含むことができる。
【0038】
変性処理では、接着性細胞を表面に有する可溶性培養担体の表面の少なくとも一部が変性されればよく、可溶性培養担体の全面に渡って変性されてもよい。これにより、可溶性培養担体における接着性細胞を担持する能力が低下し、接着性細胞が培養担体の表面から離脱可能となる。
【0039】
変性処理は、可溶性培養担体の表面の性状を変更して、例えば細胞の足場としての機能を損なわせて、接着性細胞を離脱可能にする処理であればよく、可溶性培養担体の種類、大きさ、形状等によって適宜選択できる。変性処理は、温度変化などによって行ってよく、表面変性剤を用いて行ってもよい。
可溶性培養担体が温度感受性の材料で構成されている場合には、細胞の足場としての性状を変更する程度に温度を変更することによって、接着性細胞を離脱させることができる。温度の調整は、可溶性培養担体を構成する材料によって適宜選択可能である。
【0040】
表面変性剤としては、可溶性培養担体の表面の細胞の足場としての性状を変性可能な成分であってよい。このような表面変性剤を用いることによって、例えば、可溶性培養担体の表面が表面変性剤によって、可溶性培養担体の大きさを大きく損なわず、且つ、可溶性培養担体の表面の足場としての機能を損なう程度に変性される。これにより、可溶性培養担体の表面から接着性細胞を離脱しやすくすることができる。
【0041】
この変性処理後の可溶性培養担体の大きさは、接着性細胞の大きさよりも大きいものであり、フィルタ等の分離装置を用いて分離可能な観点から、接着性細胞の大きさの1.5倍以上、2倍以上、3倍以上、5倍以上、8倍以上、又は10倍以上であってもよい。この変性処理後の可溶性培養担体の大きさは、変性処理前の可溶性培養担体の大きさに比べて、例えば50%以上、80%以上、又は90%以上であってよい。変性処理前後での可溶性培養担体の大きさの比較の確認方法としては以下の方法を挙げることができる。変性処理後に、位相差顕微鏡により、観察又は画像を撮り、顕微鏡に付属のメジャー又はスケールバーで、変性処理済み可溶性培養担体の大きさを確認する。1視野あたり30~40個の変性済み可溶性培養担体の最小直径の平均を取り、これを5視野実施し、平均を算出し、変性処理前の可溶性培養担体の最小直径を100%としたときの割合を求める。
【0042】
変性処理済可溶性培養担体の平均粒子径(D50)は、例えば40~1,000μmであり、50~500μmであり、100~250μmであり、又は100~200μmであってよい。この範囲で、細胞の大きさに基づいて変性処理済可溶性培養担体から接着性細胞をより簡便に分離することができる。
【0043】
変性処理済可溶性培養担体の大きさは、最小直径が50μmを超えることが好ましい。変性処理済可溶性培養担体の大きさは、最小直径が、例えば50μm超過、80μm以上、100μm以上、150μm以上、又は170μm以上であってよい。変性処理済可溶性培養担体の大きさが、この範囲の最小直径を有することにより、後工程となる分離回収工程において、接着性細胞との大きさの相違が分離回収に十分な大きさとなり、分離及び回収をしやすくすることができる。
変性処理済可溶性培養担体の平均粒子径(D50)、D5、最小直径は、上記した変性処理の前の可溶性培養担体と同様の手順で求めることができる。なお、変性処理済可溶性培養担体の測定では、変性処理済みの細胞懸濁液から分離及び回収を経て細胞を取り除いた試料を用いてもよい。
【0044】
可溶性培養担体の表面を表面変性剤によって変性処理する条件は、用いられる表面変性剤の種類、細胞の状態によって異なるが、濃度、処理時間等を、可溶性培養担体を完全に溶解するための条件よりも緩和することで、当業者であれば適宜設定することができる。
【0045】
表面変性剤は、用いられる可溶性培養担体の種類によって、公知の溶解剤又は分解剤から選択することができる。表面変性剤の具体例としては、酵素、キレート剤、酸、アルカリ等が挙げられる。酵素としては、糖類分解酵素、タンパク質分解酵素等が挙げられる。糖類分解酵素としては、例えばデキストラナーゼ、ペクチナーゼ、ポリガラクツロナーゼ、セルラーゼ、アルギン酸リアーゼ、アガラーゼ、キトサナーゼ等が挙げられる。タンパク質分解酵素としては、例えばコラゲナーゼ、トリプシン等が挙げられる。キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸(EDDS)等が挙げられる。
例えば、可溶性培養担体にエステル化合物が含まれる場合は、酸又はアルカリ等を触媒として用いて、可溶性培養担体の表面を加水分解することで変性処理を行うことができる。この用途に用いられる酸及びアルカリとしては公知のものを用いることができる。
上記した表面変性剤は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
表面変性剤は、可溶性培養担体の種類に応じて適宜選択するとよい。例えば、デキストラン又は架橋デキストランを含む可溶性培養担体と、デキストラナーゼとの組み合わせ、セルロース又は架橋セルロースを含む可溶性培養担体と、セルラーゼとの組み合わせ、ペクチン等のポリガラクツロン酸を含む可溶性培養担体と、ペクチナーゼ又はポリガラクツロナーゼとの組み合わせ、コラーゲンを含む可溶性培養担体と、コラゲナーゼ又はトリプシンとの組み合わせ、ゼラチンを含む可溶性培養担体と、トリプシンとの組み合わせ、アルギン酸を含む可溶性培養担体と、アルギン酸リアーゼとの組み合わせ、細胞接着性ポリペプチドを表面に有する可溶性培養担体と、トリプシンとの組み合わせ等が挙げられる。ポリガラクツロン酸エステル、アルギン酸エステル等のエステル化合物は、酸又はアルカリを触媒として用いることで加水分解が促進され表面を変性することが可能であることから、表面変性剤として酸又はアルカリを用いることもできる。
【0047】
変性処理の後において、可溶性培養担体の大きさが細胞よりも大きくなる変性処理の条件は、例えば、表面変性剤の種類、表面変性剤の濃度、変性処理温度、変性処理の時間等を調節するとよい。例えば、細胞懸濁液への表面変性剤の濃度を完全溶解のための濃度より低くすること、変性処理時間を完全溶解のための時間よりも短くすること、変性処理温度を完全溶解のための温度よりも低く又は高くすること、又はこれらの組み合わせ等が挙げられる。表面変性剤による変性処理は、可溶性培養担体を完全溶解させるための条件よりも緩和した条件とすることにより、接着性細胞に対して過度が負荷を与えることなく、変性処理を行うことができる。
【0048】
表面変性剤の他の例としては、可溶性培養担体がpHによって表面変性が可能な場合には、pH調整剤を挙げることができる。pH調整剤としては、酸又はアルカリを用いるとよい。pH調整剤によって変性処理を行う場合には、可溶性培養担体を完全溶解させるための条件よりも緩和した条件で処理を行うことができる。
【0049】
表面変性処理と同時に又はこれとは別に、可溶性培養担体の表面から接着性細胞の剥離を促進させるために、細胞剥離処理を行うことができる。細胞剥離処理に用いられる細胞剥離剤としては、公知の細胞剥離剤であれば特に制限なく使用可能であり、例えばタンパク質分解酵素、キレート剤等が挙げられ、具体的にはトリプシン、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)等、これらの組み合わせ、例えば、TrypLE(Thermo Fisher Scientific社)等が挙げられる。
【0050】
変性処理の後に、細胞を分離及び回収する前に、細胞懸濁液をピペッティングしてもよい。ピペッティングによって、可溶性培養担体と、可溶性培養担体から離脱している接着性細胞とが分散されて、後続の工程において、細胞を分離及び回収しやすくすることができる。
【0051】
培養物の製造方法は、変性処理の後に、接着性細胞を、接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体から、大きさの差に基づいて分離して回収することを含むことができる。
接着性細胞の分離及び回収は、接着性細胞と変性処理済可溶性培養担体との大きさの差に基づいて行われるので、簡便に精度よく接着性細胞を分離、回収できる。
【0052】
変性処理は、上記した通り可溶性培養担体の表面を変性し、可溶性培養担体を完全に溶解するものではないことから、変性処理後において、上述した範囲で大きさを維持する傾向が高い。この結果、変性済培養担体は、細胞よりも大きい大きさを維持することができる。
【0053】
変性処理済可溶性培養担体の大きさは、接着性細胞の大きさよりも大きいことから、接着性細胞は変性処理済可溶性培養担体から大きさの違いによって分離して回収することができる。例えば、分離には、フィルタ等の分離装置を用いることができる。
分離装置の孔の形状は、接着性細胞を濾過し、接着性細胞と変性処理済可溶性培養担体とを分離することができればいかなる形状であってもよい。分離装置の孔の形状としては、例えば、円形、楕円形、矩形、多角形等が挙げられる。
【0054】
分離装置の孔径は、接着性細胞の大きさ、可溶性培養担体の大きさ等を考慮して適宜選択されてよい。例えば、分離装置の孔径は、接着性細胞の大きさよりも大きく、変性処理済可溶性培養担体の大きさよりも小さいことが好ましい。具体的には、分離装置の孔径は、接着性細胞の最も長い径よりも大きく、且つ変性処理済可溶性培養担体の最も短い径よりも小さくてよい。分離装置の孔径は、例えば、20~50μm、20~40μm、又は20~30μの範囲であってよい。
本開示において、分離装置の孔径は、孔の形状が円形の場合には直径を意味し、孔の形状が円形以外の場合には、孔の断面において当該孔の中心点を通過する任意の直線のうち最も長い直線の長さを意味する。
【0055】
変性処理済可溶性培養担体から分離及び回収された接着性細胞は、リン酸緩衝液等で洗浄されてもよい。
【0056】
[細胞回収方法]
本開示の実施形態による細胞回収方法は、接着性細胞と、接着性細胞の大きさよりも大きい可溶性培養担体とを含み、接着性細胞が可溶性培養担体の表面に配置された細胞複合体を含む細胞懸濁液を用意すること、細胞懸濁液中の細胞複合体に対して、接着性細胞を可溶性培養担体の表面から離脱させるために、可溶性培養担体の表面の少なくとも一部を変性する変性処理を行うこと、及び細胞懸濁液中の接着性細胞を、接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体から、大きさの差に基づいて分離して回収することを含むことができる。
この細胞回収方法によれば、可溶性培養担体の表面に配置された接着性細胞を、効率よく可溶性培養担体から分離して、純度高く回収することができる。
【0057】
細胞回収方法は、接着性細胞と、接着性細胞の大きさよりも大きい可溶性培養担体とを含み、接着性細胞が可溶性培養担体の表面に配置された細胞複合体を含む細胞懸濁液を用意することを含むことができる。
接着性細胞は、可溶性培養担体の表面に配置されて浮遊培養された培養物であってもよい。この場合には、可溶性培養担体の表面に配置されて浮遊培養された培養物を入手して、本開示の細胞回収方法を実施することができ、又は、可溶性培養担体を用いて通常行われる接着性細胞の浮遊培養に続けて、本開示の細胞回収方法を実施することができる。
細胞懸濁液は、接着性細胞が可溶性培養担体の表面に配置されている細胞複合体を含むことができる。接着性細胞及び可溶性培養担体には、それぞれ上記したものを用いることができる。接着性細胞が可溶性培養担体の表面に配置されている細胞複合体の詳細は、上記した通りである。
細胞懸濁液において、可溶性培養担体の表面には部分的又は全面に渡って接着性細胞が配置されていてよい。
細胞懸濁液に含まれる水性媒体としては、培地、生理食塩水、又はリン酸緩衝液等の液体を挙げることができる。
【0058】
細胞回収方法は、細胞懸濁液中の細胞複合体に対して、接着性細胞を可溶性培養担体の表面から離脱させるために、可溶性培養担体の表面の少なくとも一部を変性する変性処理を行うことを含むことができる。
変性処理については、本開示の培養物の製造方法における変性処理をそのまま適用することができる。
【0059】
細胞回収方法は、細胞懸濁液中の接着性細胞を、接着性細胞の大きさよりも大きい変性処理済可溶性培養担体から、大きさの差に基づいて分離して回収することを含むことができる。細胞を分離して回収する方法については、本開示の培養物の製造方法における変性処理をそのまま適用することができる。
変性処理済可溶性培養担体から分離及び回収された接着性細胞は、リン酸緩衝液等で洗浄されてもよい。
【0060】
回収された接着性細胞は、培地、生理食塩水、又はリン酸緩衝液等の液体と組み合わされて細胞懸濁液の形態であってよい。細胞懸濁液として回収された場合には、本細胞回収方法は、更に、細胞懸濁液に対して凍結保存処理を行うことを含むことができる。これにより、不純物が少ない接着性細胞の凍結保存物を得ることができる。
【0061】
[細胞含有組成物]
本開示の実施形態による細胞含有組成物は、接着性細胞を含有し、20μm以下の大きさを有する可溶性培養担体の残留物の含有率が、細胞1×104個当たり30個以下であることができる。
細胞含有組成物は、接着性細胞と同等以下となる20μm以下の大きさを有する可溶性培養担体の残留物の含有率が、細胞1×104個当たり30個以下であるので、不純物が少なく且つ純度高く、接着性細胞を提供することができる。
ここで、細胞含有組成物は、接着性細胞を可溶性培養担体と共に培養後に可溶性培養担体と分離して得られたものであればよく、例えば、接着性細胞を可溶性培養担体と共に培養後に可溶性培養担体を酵素処理して得られた接着性細胞の培養物、本開示の一実施形態に係る培養物の製造方法で得られた培養物、本開示の他の実施形態に係る細胞回収方法で得られた細胞懸濁液等、又はこれらの凍結保存物などが挙げられる。
【0062】
可溶性培養担体の残留物とは、可溶性培養担体を接着性細胞から分離するための処理によって得られたものを意味し、溶解処理後の可溶性培養担体の溶解残留物(溶け残り)、変性処理後の可溶性培養担体の変性残留物等が挙げられる。溶解残留物としては、例えば、表面変性剤として酵素を用いた場合に生じる糖鎖断片、ポリペプチド断片等が挙げられる。細胞含有組成物は、接着性細胞と共に、可溶性培養担体の変性処理による残留物を含むことができる。
【0063】
可溶性培養担体の残留物の含有率は、20μm以下、好ましくは1μm以上20μm以下の残留物として、細胞1×104個当たり30個以下であってもよく、25個以下、20個以下、15個以下、10個以下、8個以下、又は5個以下とすることができ、また、1μm以上の残留物として、0個であってもよく、1個以上あってもよい。
【0064】
ここで、細胞含有組成物における、細胞1×104個当たり20μm以下の大きさを有する可溶性培養担体の残留物の含有率の算出方法は、例えば、以下のように行うことができる。細胞含有組成物の一部をサンプリングし、その後、位相差顕微鏡等の顕微鏡を用いて例えば40倍の倍率で5視野を観察又は画像を撮る。このとき、可溶性培養担体の構成成分に対して反応が知られている呈色試薬を用いて、染色してもよい。可溶性培養担体が糖で構成されている場合に糖を染色可能な色素を用いることができる。次いで、所定領域内に観察される細胞の個数と、20μm以下の大きさ、又は1μm以上20μm以下の大きさを有する可溶性培養担体の残留物の個数をそれぞれカウントする。
【0065】
細胞含有組成物が、上述した可溶性培養担体の表面の変性処理によって得られた組成物であることは、次の方法によって確認することができる。すなわち、変性処理後の細胞懸濁液を、20μm以上の孔径を有するメッシュに通過させた後、通過物を40倍以上の位相差顕微鏡で確認する。変性処理後の細胞含有組成物の場合、この観察によって、1視野あたりに1μm以下の残留物を、1個以上確認することができる。他の確認方法としては、得られた通過物を回収して、残留物の有無を確認する方法であってもよい。残留物であること又は残留物の存在は、例えば、公知の確認方法、例えば呈色反応、色素等を用いた試験等で確認できる。
【0066】
本開示の一実施形態による培養物の製造方法、及び、本開示の一実施形態による細胞回収方法は、接着性細胞に対して、過度な負荷をかけずに簡便にかつ精度よく、培養物を製造し、又は細胞を回収することができる。このため得られた培養物及び接着性細胞は、高い生存率を示すことができる。
本開示の一実施形態による培養物の製造方法で得られた培養物、本開示の一実施形態による細胞回収方法で回収された細胞、及び本開示の一実施形態による細胞含有組成物は、細胞以外の不純物、例えば、可溶性培養担体、可溶性培養担体の溶解残留物等が少ないものである。このため、本開示の一実施形態による培養物の製造方法で得られた培養物、本開示の一実施形態による細胞回収方法で回収された細胞、及び本開示の一実施形態による細胞含有組成物は、細胞製剤用の細胞、又は細胞含有組成物として、好適に使用することができる。
【0067】
[キット]
本開示の一実施形態によるキットは、可溶性培養担体と、使用説明書とを含むものである。使用説明書には、本開示の一実施形態による培養物の製造方法又は本開示の一実施形態による細胞回収方法において可溶性培養担体を用いる旨が記載されていることが好ましい。使用説明書に記載の可溶性培養担体としては、本開示の一実施形態による培養物の製造方法又は本開示の一実施形態による細胞回収方法において記載された可溶性培養担体のみであってもよく、その他の可溶性培養担体であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。
【0068】
本開示の他の実施形態によるキットは、可溶性培養担体を変性処理するための表面変性剤と、使用説明書とを含むものである。使用説明書には、本開示の一実施形態による培養物の製造方法又は本開示の一実施形態による細胞回収方法において表面変性剤を用いる旨が記載されていることが好ましい。使用説明書に記載の表面変性剤としては、本開示の一実施形態による培養物の製造方法又は本開示の一実施形態による細胞回収方法において記載された表面変性剤のみであってもよく、その他の表面変性剤であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。
【0069】
本開示のさらに他の実施形態によるキットは、可溶性培養担体と、可溶性培養担体を変性処理するための表面変性剤と、使用説明書とを含むものである。使用説明書には、本開示の一実施形態による培養物の製造方法又は本開示の一実施形態による細胞回収方法において可溶性培養担体及び表面変性剤を用いる旨が記載されていることが好ましい。使用説明書に記載の表面変性剤としては、本開示の一実施形態による培養物の製造方法又は本開示の一実施形態による細胞回収方法において記載された表面変性剤のみであってもよく、その他の表面変性剤であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。使用説明書に記載の可溶性培養担体としては、本開示の一実施形態による培養物の製造方法又は本開示の一実施形態による細胞回収方法において記載された可溶性培養担体のみであってもよく、その他の可溶性培養担体であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。
【0070】
本開示の一実施形態によるキットによれば、キット内に含まれる可溶性培養担体、表面変性剤又はこれらの組み合わせが、これらの一又は複数の実施形態を記載した使用説明書と共に提供されるので、可溶性培養担体、表面変性剤又はこれらの組み合わせの実施形態を迅速かつ簡便に実現可能にすることができる。
【0071】
上記したそれぞれのキットにおいて、本開示の一実施形態による培養物の製造方法又は本開示の一実施形態による細胞回収方法の詳細については上記した通りであり、各方法に使用可能な可溶性培養担体又は表面変性剤の詳細についても上記した通りである。上記したそれぞれのキットは、培地、生理食塩水、リン酸緩衝液、フィルタ等の分離装置、容器、又はこれらのうち2種以上の組み合わせをさらに含んでもよい。
【0072】
上記したキットにそれぞれ含まれる使用説明書は、その説明内容をユーザに伝えることが可能なあらゆる媒体を含む。使用説明書としては、例えば、紙、その他のシート状材料に説明内容が印刷された添付文書であってもよく、包装容器、包装紙、包装袋等の包装材料に説明内容が印刷されたものであってもよく、CD、DVD、ブルーレイディスク等の光学ディスク、フラッシュメモリ、磁気ディスク等の記録媒体に説明内容がデータとして記録されコンピュータで読取可能なものであってもよい。あるいは、使用説明書は、説明内容を提供するインターネットサイトのアドレスであってもよく、インターネットサイトのアドレスは、添付文書、包装材料、データ記録媒体等に印刷又は記録されて提供されるものであってよい。使用説明書は、可溶性培養担体又は表面変性剤の一つの梱包につき一つの使用説明書が提供されてもよく、可溶性培養担体又は表面変性剤の多数の梱包につき一つ又は複数の使用説明書が提供されるものであってもよい。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の技術思想を逸脱しない限り、本発明は当該実施例に限定されるものではない。
【0074】
[実施例1~3]
(1)細胞培養
6ウェルプレートを用いて細胞を培養した。具体的には、容量2.0mL/wellで、ヒト間葉系幹細胞(MSCs)を培養した。培地としては、FBS(ウシ胎児血清)を10%(v/v)添加した1.0LのαMEMとした。培地には、細胞と共に、培養担体であるマイクロキャリアを投入し、温度37℃、CO2濃度5%に維持されたCO2インキュベータ内で振とう培養をした。培養開始後に、細胞がマイクロキャリアの表面に配置された細胞複合体が観察できた。
マイクロキャリアとしては、Cytodex 1(N,N-ジエチルアミノエチル基を有する架橋性デキストラン、D50:180μm)(Cytiva社)を用いた。Cytodex 1の最小直径を確認したところ、50μm超過であった。
なお、細胞の播種密度は、3000cells/mLであり、マイクロキャリアの初期投入量は、0.001g/mL(5cm2/mL)とした。
【0075】
(2)細胞回収
1週間培養した細胞が入っている6wellプレートから、細胞複合体としての細胞及びマイクロキャリアを含む細胞懸濁液を回収し、DPBS(ダルベッコリン酸緩衝溶液)で2回洗浄した。洗浄後に上清をアスピレートした後、37℃のデキストラナーゼ(シグマ社)とトリプシン-EDTA溶液(0.25w/v%、0.02w/v%、シグマ社)で調製された試薬をそれぞれ1mL/wellになるように添加し、各Wellへ播種して、そのまま静置した。デキストラナーゼの最終濃度は、well中の細胞懸濁液の全体積に対してそれぞれ0.1v/v%、0.01v/v%、0.001v/v%とし、トリプシンの最終濃度は0.2w/v%とした。このときの培地のpHは、7.1~7.2であった。10分後に細胞を位相差顕微鏡で観察した(観察結果1)。
変性処理後の各細胞懸濁液をピペッティング10回した後に、位相差顕微鏡で観察した(観察結果2)。その後、20μmの孔径を有するメッシュ(セルストレーナ、コーニング社)に細胞懸濁液を通過させて、細胞を回収し、細胞回収率及び細胞生存率を(NucleoCounter(登録商標) NC-200、Chemometec社)を用いて評価した。結果を表1に示す。
細胞回収率は、培養後の細胞数に対する回収された細胞数の割合である。細胞生存率は、回収された細胞数に対する生存していた細胞数の割合である。
【0076】
[比較例1]
実施例1の(2)において、細胞懸濁液の洗浄後に上清をアスピレートした後、37℃のトリプシン-EDTA溶液(0.25w/v%、0.02w/v%のみで調製された試薬(トリプシン最終濃度:0.25w/v%)を1mL/wellになるように添加した以外は同様にして、処理を行った。その後、実施例1と同様に細胞を回収して細胞回収率及び細胞生存率を評価した。結果を表1に示す。
【0077】
[比較例2]
実施例1の(2)において、細胞を回収し、DPBSで洗浄した後に、マイクロキャリアの製品プロトコールの記載に従って、デキストラナーゼ500U/mg(製品番号:D0443-250ML、シグマ社)をマイクロキャリア50mLあたり10mg/50mLの濃度となるように各ウェルに添加し、37℃、pH6.0で20分間、マイクロキャリアの溶解処理を行った。その後、実施例1と同様に細胞を回収して細胞回収率及び細胞生存率を評価した。結果を表1に示す。
[比較例3]
実施例1の(2)において、デキストラナーゼの濃度を1%(v/v)とし、反応時間を20分とした以外は同様にして、処理を行った。その後、実施例1と同様に細胞を回収して細胞回収率及び細胞生存率を評価した。結果を表1に示す。
【0078】
変性処理後に細胞懸濁液を位相差顕微鏡(CKX53、オリンパス社)で観察した結果(上記観察結果1)を以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
A:マイクロキャリアと細胞とが観察され、細胞の大きさよりも小さいマイクロキャリアは細胞1×104個あたり、30個以下、又は観察されない。
B:細胞が観察され、粒子状のマイクロキャリアは溶解されて観察されないが、細胞と同等、又は細胞よりも小さいマイクロキャリア由来の残留物が多数観察される。
【0079】
【0080】
図1及び
図2に、
上記の実施例及び比較例について、変性処理後に細胞懸濁液を位相差顕微鏡で観察した写真画像を示す。
図1は上記観察結果1の倍率10倍の写真画像であり、
図1左上は実施例1、
図1右上は、実施例2、
図1左下は、実施例3、
図1右下は比較例1である。
図2は上記観察結果2の倍率40倍の写真画像であり、比較例3である。
【0081】
実施例1~3では、表1に示す通り、細胞回収率はいずれも15%以上であり、細胞生存率はいずれも90%以上であった。また、
図1に示すように、変性処理後に細胞懸濁液を観察したところ、細胞と共にマイクロキャリアが完全に溶解することなく存在していた。位相差顕微鏡を用いた観察を行って、顕微鏡付属のメジャーによりマイクロキャリアの大きさを5視野にわたって最小直径を確認したところいずれも50μm超過であり、最小直径の平均をとって、変性処理前のマイクロキャリアのサイズと対比したところ、いずれも90%以上であった。一方、同様の方法でマイクロキャリアの溶け残りなどの残留物を確認しようと試みたが、細胞のサイズと同等又はそれより小さいマイクロキャリアの溶け残り等の残留物は確認できなかった(
図1参照)。このため、細胞の回収にメッシュを用いることで、マイクロキャリアを容易に分離して、高精度に細胞のみを回収することができた。
【0082】
一方、比較例1では、表1に示す通り、細胞回収率が低く、1割以下であった。また、
図1に示すように、変性処理後に細胞懸濁液を観察したところ、細胞懸濁液には、細胞と共にマイクロキャリアが完全に溶解することなく存在していた。上記と同様の方法で残留物の個数を確認したところ、細胞のサイズと同等又はそれより小さいマイクロキャリアの溶け残り等の残留物は確認できなかった。このため、細胞の回収にメッシュを用いることで、細胞をマイクロキャリアから容易に分離することができたが、メッシュ上に残されたマイクロキャリアの表面に引っかかるようにして、接着性細胞が多く存在していた。このことから、細胞剥離剤のみではマイクロキャリアから細胞を離脱させるには不十分であったことがわかる。
【0083】
比較例2及び比較例3では、変性処理後に細胞懸濁液を観察したところ、マイクロキャリアはほぼ完全に溶解しており、その代わりに、複数の細胞で構成された細胞塊が多く観察された。ピペッティング後に細胞懸濁液を確認したところ、ピペッティング前に確認できた細胞塊が単一細胞として分散していたが、細胞と共に、マイクロキャリアの残留物が、20μm以下の大きさを有する細かい粒子、換言すれば、細胞の大きさよりも小さい微細物として大量に存在していた(比較例3:
図2参照。比較例2も同様。図示せず)。なお、
図2中の3箇所の矢印は、細胞より小さい残留物、すなわち溶け残りを示す。
また、比較例2及び比較例3では、表1に示す通り、細胞回収率及び細胞生存率は高く、この細胞回収率の高さは、マイクロキャリア全体が溶解されたことに基づく。
しかしながら、上述したように、細胞懸濁液中には、20μm以下のマイクロキャリアの残留物が大量に含まれており、メッシュ等を用いて細胞のみを回収しようとしても、大量の残留物が混入し、細胞のみを精度よく分離することができなかった。
【0084】
本願の開示は、2021年3月31日に出願された特願2021-060494号に記載の主題と関連しており、それらのすべての開示内容は引用によりここに援用される。既に述べられたもの以外に、本開示の新規かつ有利な特徴から外れることなく、上記の実施形態に様々な修正や変更を加えてもよいことに注意すべきである。したがって、そのような全ての修正や変更は、添付の請求の範囲に含まれることが意図されている。