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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】ツール
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/36 20060101AFI20241119BHJP
【FI】
G02B6/36
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023550794
(86)(22)【出願日】2021-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2021035655
(87)【国際公開番号】W WO2023053209
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 昇男
(72)【発明者】
【氏名】鹿間 光太
(72)【発明者】
【氏名】石井 雄三
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 亮
【審査官】林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0098698(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0136350(US,A1)
【文献】国際公開第2021/111589(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/24
G02B 6/255-6/27
G02B 6/30-6/34
G02B 6/36-6/43
H01R 13/40-13/533
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1光コネクタと第2光コネクタとを磁気吸引力により吸着して接続するために、前記第1光コネクタに設けられた磁石を前記第1光コネクタから取り外すツールであって、
各々の先端部を開閉自在とされた第1操作アームおよび第2操作アームと、
前記磁石に磁気吸引力により吸着する材料から構成されて前記第1操作アームの先端部に固定された第1チャックと、
前記磁石に磁気吸引力により吸着する材料から構成されて前記第2操作アームの先端部に固定された第2チャックと
を備え、
前記第1操作アームおよび前記第2操作アームを操作して各々の先端部同士を閉状態とすることで、前記第1チャックおよび前記第2チャックを前記磁石に磁気吸引力により吸着させた状態で、前記磁石を前記第1光コネクタから取り外すことを特徴とするツール。
【請求項2】
請求項1記載のツールにおいて、
軟磁性材料から構成されて前記第1光コネクタの接続端に設けられた第1接続部品と、軟磁性材料から構成されて前記第2光コネクタの接続端に設けられた第2接続部品とを備え、前記第1接続部品と前記第2接続部品とを磁気吸引力により吸着して接続することで、前記第1光コネクタと前記第2光コネクタとが接続され、
前記第1チャックおよび前記第2チャックは、軟磁性材料から構成され、
前記第1チャックおよび前記第2チャックを構成する軟磁性材料の透磁率は、前記第1接続部品および前記第2接続部品を構成する軟磁性材料の透磁率より高い
ことを特徴とするツール。
【請求項3】
請求項2記載のツールにおいて、
前記第1操作アームの先端部に固定され、前記磁石を前記第1接続部品から離れた位置より前記第1接続部品の方向に押し込むための第1押込チャックと、
前記第2操作アームの先端部に固定され、前記磁石を前記第1接続部品から離れた位置より前記第1接続部品の方向に押し込むための第2押込チャックと
をさらに備え
前記第1光コネクタと前記第2光コネクタとを挿抜する方向、および前記第1操作アームと前記第2操作アームとの開閉方向に垂直な方向に沿って、前記第1押込チャックと前記第1チャックとが配置され、
前記第1光コネクタと前記第2光コネクタとを挿抜する方向、および前記第1操作アームと前記第2操作アームとの開閉方向に垂直な方向に沿って、前記第2押込チャックと前記第2チャックとが配置されている
ことを特徴とするツール。
【請求項4】
請求項3記載のツールにおいて、
前記第1押込チャックおよび前記第2押込チャックを構成する材料の透磁率は、前記第1接続部品および前記第2接続部品を構成する軟磁性材料の透磁率以下とされていることを特徴とするツール。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか1項に記載のツールにおいて、
前記磁石は、複数のパーツから構成され、
前記第1接続部品と前記第2接続部品とが接続している状態では、前記複数のパーツが一体とされ、
前記第1接続部品と前記第2接続部品とが離間している状態では、前記複数のパーツが分離している
ことを特徴とするツール。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のツールにおいて、
前記第1操作アームおよび前記第2操作アームは、枢設接合部で交して互いに枢設していることを特徴とするツール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光コネクタ同士の着脱に用いるツールに関する。
【背景技術】
【0002】
データセンタ内光インタコネクトにおけるニーズの高まりを受けて、MTコネクタやMPOコネクタに代表される多心形光コネクタのニーズが高まっている。いずれのコネクタも、MTフェルール端面同士を対向してピン嵌合により位置決めしている。シングルモードファイバ接続における接続端面間においては、MTコネクタでは整合材が、MPOコネクタでは10-20N程度の押圧力を加えた斜めPC接続が適用されている。いずれのコネクタも接続端面の押圧および接続状態の保持に、バネやクリップなどの機械要素を用いた押圧機構が用いられるが、機械要素の把持や着脱のためのスペース制限により、小型化に限界がある。これを解決する手段の1つとして、非特許文献1に記載のように、機械要素を無くすことで小型化を図り、押圧・保持部品として磁石をフェルール周囲に取り付けて磁力を発現させる光コネクタが提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】K. Shikama et al., "Miniature Optical Connector with Magnetic Physical Contact", Optical Fiber Communication Conference, W2A. 14, 2020.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、磁石を用いる構成は、フェルール接続端面同士の接続と磁性構造体同士の接続が同時に生じることに起因する着脱性に課題があった。磁石による吸引力を用いた光コネクタにおいて、磁力は距離が近づくと両者を引きつける力(磁力)が急激に大きくなるために、光コネクタのレセプタクルとプラグを接続しようとすると安定的に再現性よく実施することが困難であった。また、挿抜時にも磁力以上の大きな力を吸引力と逆方向に働かせる必要があり操作性が低いという問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、光コネクタの接続の操作性の向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るツールは、第1光コネクタと第2光コネクタとを磁気吸引力により吸着して接続するために、第1光コネクタに設けられた磁石を第1光コネクタから取り外すツールであって、各々の先端部を開閉自在とされた第1操作アームおよび第2操作アームと、磁石に磁気吸引力により吸着する材料から構成されて第1操作アームの先端部に固定された第1チャックと、磁石に磁気吸引力により吸着する材料から構成されて第2操作アームの先端部に固定された第2チャックとを備え、第1操作アームおよび第2操作アームを操作して各々の先端部同士を閉状態とすることで、第1チャックおよび第2チャックを磁石に磁気吸引力により吸着させた状態で、磁石を第1光コネクタから取り外す。
【発明の効果】
【0007】
以上説明したように、本発明によれば、各々の先端部を開閉自在とされた第1操作アームおよび第2操作アームの先端部に、磁石に磁気吸引力により吸着する材料から構成された第1チャックおよび第2チャックを設けたので、光コネクタの接続の操作性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A図1Aは、本発明の実施の形態に係るツールの構成を示す斜視図である。
図1B図1Bは、本発明の実施の形態に係るツールの一部構成を示す斜視図である。
図2図2は、本発明の実施の形態に係るツールの一部構成を示す平面図(a)、側面図(b)、正面図(c)である。
図3A図3Aは、プラグ121の構成を示す斜視図である。
図3B図3Bは、本発明の実施の形態に係るツールの一部構成を示す斜視図である。
図4A図4Aは、本発明の実施の形態に係るツールの構成を示す斜視図である。
図4B図4Bは、本発明の実施の形態に係るツールの一部構成を示す斜視図である。
図4C図4Cは、本発明の実施の形態に係るツールの構成を示す斜視図である。
図4D図4Dは、本発明の実施の形態に係るツールの一部構成を示す斜視図である。
図5図5は、実施の形態に係るツールを用いた、プラグ121とレセプタクル122との挿抜動作を説明する説明図である。
図6A図6Aは、プラグ121、レセプタクル122の構成を示す斜視図である。
図6B図6Bは、本発明の実施の形態に係るツールの一部構成を示す斜視図である。
図6C図6Cは、本発明の実施の形態に係るツールの一部構成を示す斜視図である。
図6D図6Dは、本発明の実施の形態に係るツールの一部構成を示す斜視図である。
図7図7は、プラグ121、レセプタクル122の周囲の磁力線(一点鎖線)を示す説明図である。
図8図8は、プラグ121とレセプタクル122との組を、複数配列した状態を示す構成図である。
図9A図9Aは、プラグ121、レセプタクル122の構成を示す平面図である。
図9B図9Bは、プラグ121、レセプタクル122の構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態に係るツールについて図1A図1Bを参照して説明する。このツールは、プラグ(第1光コネクタ)121とレセプタクル(第2光コネクタ)122とを磁気吸引力により吸着して接続するために、プラグ121に設けられた磁石をプラグ121から取り外すためのものであり、第1操作アーム101と、第2操作アーム102とを備える。第1操作アーム101および第2操作アーム102は、人為的な操作により、各々の先端部を開閉自在とされている。例えば、第1操作アーム101および第2操作アーム102は、枢設接合部107で交差して互いに枢設している。また、実施の形態に係るツールは、第1操作アーム101、第2操作アーム102に、第1把持部108、第2把持部109を備える。
【0010】
また、このツールは、第1操作アーム101の先端部に固定された第1チャック103と、第2操作アーム102の先端部に固定された第2チャック104とを備える。この例では、第1操作アーム101の先端部の第1可動機構105に第1チャック103が固定されている。また、第2操作アーム102の先端部の第2可動機構106に第2チャック104が固定されている。第1チャック103および第2チャック104は、磁石に磁気吸引力により吸着する材料から構成されている。第1チャック103および第2チャック104は、例えば、比透磁率が約5000の鉄などの軟磁性材料から構成されている。
【0011】
このツールは、プラグ121とレセプタクル122とを磁気吸引力により吸着して接続するために、プラグ121に設けられた第1磁石123、第2磁石124を、プラグ121から取り外すために用いられる。このツールを用い、第1操作アーム101および第2操作アーム102を操作して各々の先端部同士を閉状態とすることで、第1チャック103および第2チャック104を、第1磁石123、第2磁石124に磁気吸引力により吸着させた状態で、第1磁石123、第2磁石124を、プラグ121から取り外す。
【0012】
ここで、図2に示すように、プラグ121は、第1フェルール121aと、軟磁性材料から構成されてプラグ121の接続端に設けられたフレーム(第1接続部品)121bとを備える。第1フェルール121aには、第1光ファイバ125が接続している。
【0013】
また、レセプタクル122は、第2フェルール122aと、軟磁性材料から構成されてレセプタクル122の接続端に設けられたアダプタ(第2接続部品)122bとを備える。第2フェルール122aには、第2光ファイバ126が接続している。また、レセプタクル122は、基板128に固定されている。
【0014】
各フェルールは、例えば、樹脂材料で形成され多芯ファイバを収容してコネクタとするMT(Mechanical Transferable)フェルールである。また、各フェルールのサイズは、例えば、端面が2.5mm×6.5mmで長さが8mm程度である。
【0015】
第1磁石123、第2磁石124を用い、フレーム121bとアダプタ122bとを磁気吸引力により吸着して接続することで、プラグ121とレセプタクル122とが接続される。
【0016】
なお、上述したように、磁石を、第1磁石123および第2磁石124から構成しているが、磁石は、複数のパーツから構成されたものとすることができる。この例では、第1磁石123、第2磁石124は、フレーム121bとアダプタ122bとが接続している状態では一体とされ、フレーム121bとアダプタ122bとが離間している状態では、分離している。
【0017】
第1チャック103および第2チャック104は、軟磁性材料から構成され、第1チャック103および第2チャック104を構成する軟磁性材料の透磁率は、フレーム121bおよびアダプタ122bを構成する軟磁性材料の透磁率より高いものとされている。軟磁性材料は、例えば、フェライト系ステンレス合金鋼の一種であるSUS430とすることができる。SUS430の比透磁率は約1000である。このように構成することで、第1磁石123、第2磁石124がアダプタ122bやフレーム121bに吸引している状態でも、第1チャック103,第2チャック104を近づけることで第1チャック103,第2チャック104により強い力で吸引させることができる。
【0018】
第1磁石123、第2磁石124は、例えば硬磁性材料であるネオジム磁石とすることができ、残留磁束密度は1200mTである。第1磁石123と第2磁石124とは、ペアで構成されており、各々が面対称の形状である(図2図3A)。例えば、第1磁石123および第2磁石124は、断面視で「コ」の字形状とすることができる。第1磁石123および第2磁石124の磁化方向は、一方がN極、他方がS極であり、第1磁石123と第2磁石124が吸引力で引き合うように磁化されている。
【0019】
また、図3Aに示すように、第1フェルール121aから出てきた第1光ファイバ125を、機械的に保護するブーツ121cを用いることができる。また、第1フェルール121aにホルダ127をはめ込んで用いることができる。ブーツ121cは、第1光ファイバ125を機械的に保護する役目に加えて、ホルダ127を固定する役割を有する。ブーツ121cにホルダ127をはめ込んで接着固定することで、ホルダ127と第1フェルール121aと一体にする。第1光ファイバ125はホルダ127の貫通穴を通して延伸している。
【0020】
例えば、ホルダ127の幅は、第1フェルール122bの幅より1mm程度広くなっている。また、ホルダ127は、端が凸形状となったストッパ127aを備える。第1磁石123と第2磁石124とが、少し離間して両者の吸引力がやや減少した状態で引き合いながらホルダ127を挟み込む形で保持されるような形状となっている。
【0021】
また、図3Bに示すように、第1押込チャック110,第2押込チャック111を用いることができる。第1押込チャック110は、第1操作アーム101の先端部(第1可動機構105)に固定されている。第2押込チャック111は、第2操作アーム102の先端部(第2可動機構106)に固定されている。第1押込チャック110,第2押込チャック111は、第1磁石123、第2磁石124、フレーム121bから離れた位置よりフレーム121bの方向に押し込むために用いる。
【0022】
第1押込チャック110,第2押込チャック111は、例えば、ニッケルなどの軟磁性材料とすることができる。ニッケルの比透磁率は約600である。第1押込チャック110および第2押込チャック111を構成する材料の透磁率は、フレーム121bおよびアダプタ122bを構成する軟磁性材料の透磁率以下とすることができる。
【0023】
このように構成することで、第1磁石123、第2磁石124を押し込むときに吸引させた状態で操作性をあげながら、フレーム121bに接触するとフレーム121bからの、より強い力で吸引させることができる。この結果、第1押込チャック110、第2押込チャック111を、第1磁石123、第2磁石124から離間させることができる。あるいは、第1押込チャック110,第2押込チャック111の材料としてプラスチックなど比透磁率が約1の非磁性材料を用いることもできる。
【0024】
第1チャック103と、第1押込チャック110とを、同一の第1可動機構105の上下方向に取り付け、第2チャック104と第2押込チャック111とを、同一の第2可動機構106の上下方向に取り付けることで、第1磁石123、第2磁石124の装着と取り外しの2つの機能を、1つのツールで実施することができる。
【0025】
このツールは、図4A図4Bに示すように、外部から力を加えていない状態では、第1操作アーム101(第1可動機構105)と、第2操作アーム102(第2可動機構106)とが閉じたノーマリクローズ状態となっている。第1把持部108、第2把持部109にバネ(不図示)を設けて第1把持部108と第2把持部109とを開かせておくことで実現できる。この状態では、第1チャック103と第2チャック104とが、閉じた状態となり、また、第1押込チャック110と第2押込チャック111とが、閉じた状態となる。
【0026】
第1把持部108、第2把持部109に力を内向きに加えて、図4C図4Dの状態とすると、第1チャック103と第2チャック104との間、および第1押込チャック110と第2押込チャック111との間を、開くことができる。
【0027】
次に、実施の形態に係るツールを用いた、プラグ121とレセプタクル122との挿抜動作について、図5を参照して説明する。なお、図5に示すz方向は、挿抜する方向である。また、この例において、x方向は、一体とされた第1磁石123と第2磁石124とを、各々分離する方向を示している。
【0028】
図5の(a)に示すように、レセプタクル122からプラグ121が離間している状態では、第1磁石123、第2磁石124が、ホルダ127を取り囲むように保持されている。次に、図4の(b)に示すように、プラグ121をレセプタクル122に手で差し込む。この際、第1磁石123、第2磁石124は、フレーム121bおよびアダプタ122bから離間しているので、磁力が働いて差し込む動作に悪影響を与えることはない。
【0029】
次に、図5の(c)に示すように、第1押込チャック110,第2押込チャック111を用いて、第1磁石123、第2磁石124にz方向の力を加え、ホルダ127から第1フェルール121aの側へ移動させ、図5の(d)に示すように、第1磁石123、第2磁石124をフレーム121bに接触させる。この状態で、第1磁石123、第2磁石124は、フレーム121bおよびアダプタ122bと吸引しあって、第1光ファイバ125および第2光ファイバ126の光学的な接続がなされる。
【0030】
レセプタクル122からプラグ121を引き抜く際は、図5の(e)のように、第1チャック103,第2チャック104を、第1磁石123、第2磁石124の側面に吸着させる。この状態で、第1チャック103、第2チャック104を、x方向で第1磁石123、第2磁石124を開くように、第1操作アーム101(第1可動機構105),第2操作アーム102(第2可動機構106)により動かす。プラグ121はレセプタクル122に差し込まれている状態なので、第1磁石123、第2磁石124をフレーム121bから外すことができる。
【0031】
また、第1チャック103,第2チャック104を構成する材料の透磁率は、アダプタ122bを構成する材料の透磁率より高いので、第1磁石123、第2磁石124との吸引力は十分大きく、この動作で第1チャック103,第2チャック104と第1磁石123、第2磁石124が離れることはない。また、磁力の一般的な特徴により、物体間の距離が大きくなると急激に吸引力は低下する。
【0032】
第1磁石123をx正方向、第2磁石124をx負方向に移動させて離間させる際に、離間動作開始時は大きなx正負方向の外力を必要とするが、1mm程度離間させると両者の吸引力は急激に小さくなるので、これ以降の離間動作には小さな外力だけで十分となる。
【0033】
このツールは、枢設接合部107を備えた構造をしているので、厳密には円弧状の軌跡を描くことになるが、枢設接合部107と第1チャック103,第2チャック104と距離を十分長くとれば、第1チャック103,第2チャック104のz方向の動きはx方向の動きに比べて十分小さいので、第1チャック103,第2チャック104が第1磁石123、第2磁石124に与える力のz成分も十分小さくできる。
【0034】
また、第1チャック103,第2チャック104のx方向への移動量は、第1磁石123、第2磁石124が、フレーム121bから完全に外れる程度に大きくすることで吸引力が小さくなり操作上は容易になるが、プラグ121およびレセプタクル122による複数の組が、各々隣接して並んでいる場合はx方向の移動量に限度がある。例えば、フレーム121bの半分程度、片側ずつ2mm程度動かすだけでも吸引力は低減できる。
【0035】
この後、図5の(f)に示すように、第1チャック103,第2チャック104をz方向に後退させて、ホルダ127のストッパ127aに第1磁石123、第2磁石124を引っ掛けることで、第1チャック103,第2チャック104から第1磁石123、第2磁石124を外してホルダ127に保持することができる。
【0036】
ホルダ127のx方向の幅を太くしておくことで、第1磁石123と第2磁石124が完全に接触してしまう状態を防ぎつつ、適切に離間することで両者が磁力により吸引させた状態とする。これにより、第1磁石123、第2磁石124が散逸したり、周辺部の磁性体に吸着してしまったりする状態を防ぎ、また、第1磁石123、第2磁石124から発生する磁束を狭い領域に閉じ込めておくことで隣接する磁性体や金属などへの磁気的な干渉が起こるのを防ぐことができる。
【0037】
なお、このような使用上の利便性はあるが、スペース的な制約があればホルダ127に第1磁石123、第2磁石124を保持しておくことは必須ではなく、ホルダ127がないコンパクトな形態にすることもできる。この後、プラグ121をレセプタクル122から手で引き抜いて、図5の(a)に示す状態とする。
【0038】
図6Aは、図5の(a)に示す状態に対応する斜視図である。図6Bは、図5の(c)に示す状態に対応する斜視図であり、第1押込チャック110,第2押込チャック111により、第1磁石123、第2磁石124をz方向に押し込む様子を示している。ここで、ホルダ127のx方向の幅に対して第1フェルール121aの幅は狭いので、第1押込チャック110,第2押込チャック111の幅に対して、第1チャック103,第2チャック104の幅が狭くなる。y正方向から目視した際に、第1押込チャック110,第2押込チャック111と、第1磁石123、第2磁石124の接触部が見えにくくなると操作性が下がるので、第1チャック103,第2チャック104の位置をz正方向にずらすとともに、第1押込チャック110,第2押込チャック111の上部(y方向)の第1チャック103,第2チャック104間隔を広くすることで、視認性を向上させている。
【0039】
図6Cは、図5の(e)の状態に対応する斜視図であり、第1チャック103,第2チャック104が、第1磁石123、第2磁石124を開いて外す様子を示している。ここでも、第1チャック103,第2チャック104が、第1押込チャック110,第2押込チャック111に対して前方にあることで、上部から見たときの視認性を向上させている。なお、図6Dは、プラグ121、レセプタクル122の下部から見た図を示しているが、第1光ファイバ125に機械的に干渉しないような、第1チャック103,第2チャック104と、第1可動機構105,第2可動機構106の接合構造としている。
【0040】
また、第1可動機構105,第2可動機構106や第1把持部108、第2把持部109をy正方向にオフセットさせているので、第1光ファイバ125より高い位置で操作をすることができ、操作時に第1光ファイバ125に第1可動機構105,第2可動機構106が接触して挟み込みなどにより損傷させるリスクがない。
【0041】
図7の(a)には、図4の(d)に示す状態に対応した磁力線(一点鎖線)を示している。第1磁石123と第2磁石124の構造と磁化方向、フレーム121bとアダプタ122bが軟磁性材料であることから、磁力線の分布や密度が決まる。この状態で、第1磁石123と第2磁石124をz負方向に磁石の吸引力に抗して動かす力は、10N程度と大きく、一方、第1磁石123をx正方向に、第2磁石124をx負方向に磁石の吸引力に抗して動かす力は1N程度と小さい。
【0042】
図7の(b)には、図4の(e)の状態に対応し、第1チャック103,第2チャック104を用いて第1磁石123と第2磁石124を開く方向に動かしている状態の磁力線を示している。x方向に動かす際に、磁石による吸引力はもともと小さい上に、透磁率の高い材料で構成された第1チャック103,第2チャック104を、第1磁石123、第2磁石124に吸着させたため、磁力線は第1チャック103,第2チャック104の内部を通るように集まり、第1チャック103,第2チャック104と第1磁石123、第2磁石124との吸引力が増加するとともに、第1磁石123、第2磁石124ならびにフレーム121bおよびアダプタ122bとの吸引力は減少している。
【0043】
図7の(c)には、図4の(f)示す状態とした後で、図4の(a)に示すように、第1磁石123、第2磁石124がホルダ127に保持された状態の断面図を、磁力線とともに示している。第1磁石123と第2磁石124は、吸引しあいながら、ホルダ127によって安定な位置に保持されている。
【0044】
図7の(d)は、仮にホルダ127がないとした場合を示し、第1磁石123と第2磁石124が磁石の吸引力の観点から最も安定な配置を示す。この状態では、磁力線が最も短くなり、第1磁石123と第2磁石124が強い吸引力が吸着しているため、両者を引き離して第1フェルール121aに装着するには大きな力や特殊なツールが必要となり操作性が非常に悪くなってしまう。ホルダ127により、第1磁石123と第2磁石124の配置を磁力および機械的な応力の観点から安定な状態にできるという効果がある。
【0045】
図8は、プラグ121とレセプタクル122との組を、複数配列した状態を示している。この図では、プラグ121をレセプタクル122から外した状態、第1チャック103,第2チャック104で、第1磁石123、第2磁石124を外しつつある状態、プラグ121がレセプタクル122に挿入された状態を示している。このように、同一時間・同一空間に、プラグ121とレセプタクル122との組を複数を密に配置した状態でもツールを使用できる。
【0046】
第1チャック103,第2チャック104の構造を高い透磁率を備えた薄板構造とすることで、プラグ121とレセプタクル122との組を、高密度に複数配置することができる。また、実施の形態に係るツールに前述の各種構造上の特徴を持たせることで、狭いスペースであっても視認性や操作性を向上しているので、第1チャック103と第2チャック104との挿抜時に、隣り合う組の第1チャック103,第2チャック104に接触して光接続状態に影響を与えたり、機械的にぶつかって破損させたりすることがない。
【0047】
なお、図9A図9Bに示すように、x方向に分割した第1磁石223、第2磁石224を用い、y方向に高くしたホルダ227を用い、x方向に突出させたストッパ227aを備える構成としても良い。プラグ121とレセプタクル122との組を、複数配置するときの配置方向や、周辺部材との機械的なスペースを考慮して決めればよい。
また、第1磁石123、第2磁石124の磁化方向はN極・S極の2極としたが、2極より多い多極の磁化にすることで、より吸引力を高めることができる。第1チャック103,第2チャック104では透磁率の高い材料を用いたが、電磁石を用いても構わない。
【0048】
以上のようにすることで、図5の(a)と図5の(d)に示すように、プラグ121をレセプタクル122に挿入して第1光ファイバ125および第2光ファイバ126の先端同士の位置合わせをおよそ行う手順と、第1磁石123、第2磁石124によりプラグ121とレセプタクル122を吸引させて第1光ファイバ125および第2光ファイバ126の先端同士に外部から力を加えて、ファイバコア同士のフィジカルコンタクトなどの光接続を行う手順を分離することができる。
【0049】
仮に、上述した手順が分離されない場合は、動的かつ瞬時に位置合わせと応力印加をすることになり、安定した位置に定まらず位置合わせ精度が悪化して挿抜再現性が得られないばかりか、瞬間的な動作によりファイバ先端や磁石側面に衝撃力がかかって破損・劣化を引き起こすことになる。本実施の形態の手順を踏むことで、位置合わせ精度を向上させて光接続損失を低減し、ファイバ端面や磁石などの破損・摩耗を避け、繰り返し再現性の高い安定した光接続を実現できる。
【0050】
また、図5の(c),(e)および(f)に示す第1チャック103,第2チャック104と、第1押込チャック110,第2押込チャック111を備えたツールを用いることで、狭いスペースで、第1磁石123、第2磁石124の取り外しや取り付け(着脱)が可能になるので、プラグ121とレセプタクル122との組を、高密度に複数配置することができる。
【0051】
仮に、ツールを用いないで手で第1磁石123、第2磁石124の装着を行う場合は、プラグ121とレセプタクル122との組の周囲に、指先が入る十分なスペースが必要となる上に、第1磁石123、第2磁石124を外す場合には、吸引力が強すぎて指先の力だけでは外せないばかりか大きな力を必要とするために手が滑ったときに隣接するプラグ121とレセプタクル122の組を破損させる場合がある。本実施の形態のツールを用いることで、プラグ121とレセプタクル122の組を高密度に配置することができ、視認性・操作性も向上するので安全に光コネクタ同士の挿抜を行うことができる。
【0052】
以上に説明したように、本発明によれば、各々の先端部を開閉自在とされた第1操作アームおよび第2操作アームの先端部に、磁石に磁気吸引力により吸着する材料から構成された第1チャックおよび第2チャックを設けたので、光コネクタの接続の操作性を向上させることができる。本発明によれば、挿抜時の安定性・再現性、ファイバ先端や磁石の破損・劣化・摩耗の防止、低損失な光接続、およびそれらを高い操作性を有する状態で実現するツールが提供できる。
【0053】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0054】
101…第1操作アーム、102…第2操作アーム、103…第1チャック、104…第2チャック、105…第1可動機構、106…第2可動機構、107…枢設接合部、108…第1把持部、109…第2把持部、121…プラグ、122…レセプタクル、123…第1磁石、124…第2磁石。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8
図9A
図9B