(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】マトリックス組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20241119BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20241119BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20241119BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20241119BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20241119BHJP
A01K 67/027 20240101ALI20241119BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/0775
C12P21/02 A
C12M1/00 A
C12M3/00 A
A01K67/027
(21)【出願番号】P 2021511963
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020013882
(87)【国際公開番号】W WO2020203713
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2019066048
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】武部 貴則
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 憲和
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/047639(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/205511(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/094522(WO,A1)
【文献】特表2012-508771(JP,A)
【文献】国際公開第2019/066059(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/229251(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0284689(US,A1)
【文献】移植,2017年,vol.52, no.4・5,p.310-317
【文献】Prog. Med.,2017年,vol.37, no.5,p.565-569
【文献】仁尾 泰徳 他,iPS肝オルガノイドを用いた血液凝固疾患への応用,第18回日本再生医療学会総会講演要旨集,2019年02月22日,P-03-093
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)脈管細
胞を含む、第一のマトリックス、
(2)臓器を構成する細胞および/または臓器オルガノイドを含む、第二のマトリックス
、および
(3)細胞を含まない、第三のマトリックス
を含む、マトリックス組成物であって、
前記第一のマトリックスにおける脈管細胞は、造血性血管内皮細胞であり、
前記第二のマトリックスにおける臓器を構成する細胞は、肝臓内胚葉細胞、血管内皮細胞および間葉系幹細胞の組み合わせ、または膵β細胞、血管内皮細胞および間葉系幹細胞の組み合わせであり、第二のマトリックスにおける臓器オルガノイドは、肝臓オルガノイド、または膵臓オルガノイドであり、
ここで、
前記第一のマトリックスは
前記第二のマトリックスを包み込み、
前記第一のマトリックスは少なくとも1つの開口部を有
し、
前記開口部には、前記第三のマトリックスが充填されている、
マトリックス組成物。
【請求項2】
マトリックス組成物中に階層的な細胞ネットワークを有する、請求項1記載のマトリックス組成物。
【請求項3】
マトリックス組成物の製造方法であって、
(i)細胞を含まない第三のマトリックスを通気性膜上に直接的に滴下して固化させる工程、
(
ii)臓器を構成する細胞および/または臓器オルガノイドを流体形態の第二のマトリックスに懸濁し、次いで
該第二のマトリックスを
固化した前記第三のマトリックス上に滴下して固化させる工程、および
(
iii)脈管細
胞を流体形態の第一のマトリックスに懸濁し
、該第一のマトリックスが少なくとも1つの開口部を有
し、該開口部には前記第三のマトリックスが充填された状態となるように
、該第一のマトリックスにより
前記第二のマトリックスを覆い、次いで
該第一のマトリックスを固化させる工程を含
み、
前記第一のマトリックスにおける脈管細胞は、造血性血管内皮細胞であり、
前記第二のマトリックスにおける臓器を構成する細胞は、肝臓内胚葉細胞、血管内皮細胞および間葉系幹細胞の組み合わせ、または膵β細胞、血管内皮細胞および間葉系幹細胞の組み合わせであり、第二のマトリックスにおける臓器オルガノイドは、肝臓オルガノイド、または膵臓オルガノイドである、
製造方法。
【請求項4】
(
iv)前記マトリックス組成物を、通気性膜に懸架させた状態で、該通気性膜を通じた気体交換を担保しつつ、液体培地に浸漬して培養することにより、第二のマトリックス中の臓器を構成する細胞に立体構造を形成させる工程、
をさらに含む、請求項
3記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載のマトリックス組成物または請求項3記載の方法によって作製されたマトリックス組成物を、非ヒト動物に移植し、組織または臓器に分化させることを含む、非ヒトキメラ動物の作製方法。
【請求項6】
請求項
5記載の方法に
より作製され
た非ヒトキメラ動物。
【請求項7】
通気性膜に懸架させた状態のマトリックス組成物、および
該マトリックス組成物が浸漬された状態の液体培地、
を備える培養システムであって、
前記マトリックス組成物は、
(1)脈管細
胞を含む、第一のマトリックス
、
(2)臓器を構成する細胞および/または臓器オルガノイドを含む、第二のマトリックス
、および
(3)細胞を含まない、第三のマトリックス
を含み、
前記第一のマトリックスにおける脈管細胞は、造血性血管内皮細胞であり、
前記第二のマトリックスにおける臓器を構成する細胞は、肝臓内胚葉細胞、血管内皮細胞および間葉系幹細胞の組み合わせ、または膵β細胞、血管内皮細胞および間葉系幹細胞の組み合わせであり、第二のマトリックスにおける臓器オルガノイドは、肝臓オルガノイド、または膵臓オルガノイドであり、
ここで、
前記第一のマトリックスは前記第二のマトリックスを包み込み、
前記第一のマトリックスは少なくとも1つの開口部を有
し、
前記開口部には、前記第三のマトリックスが充填されている、
培養システム。
【請求項8】
以下の工程を含む、血漿タンパク質の製造方法:
(1)請求項1記載のマトリックス組成物を培養する工程;および
(2)前記工程(1)で培養した培養物から培養上清を回収する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞または臓器オルガノイドを含むマトリックス組成物に関する。より詳しくは、本発明は、細胞等を含む複数のマトリックスによって形成された特定の構造を有するマトリックス組成物に関する。本発明はまた、そのようなマトリックス組成物の製造方法および用途に関する。
【0002】
[発明の背景]
肝臓、膵臓などの各種の臓器の疾患に対する医薬品開発や再生医療の実現を目指すために、培養細胞を自己組織化させ、それぞれの臓器の三次元的な構造や、血管、胆管、その他の脈管の複雑な構造を再現した細胞構造体、すなわち臓器オルガノイドを作製するための研究開発が進められている。そのような臓器オルガノイドの発展的な細胞構造体として、未分化の細胞を含む特定の種類の細胞を組み合わせて培養することにより、発生の初期に形成される臓器の原基、すなわち器官芽(例えば肝臓の器官芽である肝芽)を作製することも可能となっている。このような「ミニ臓器」とも呼べるオルガノイド等は、従来の単独で培養された臓器の細胞等に比べて、薬効または毒性の評価が生体により近い評価系として利用することができる上、移植手術や、血漿タンパク質の産生にも利用することができるなど、極めて利用価値が高い。
【0003】
特許文献1には、血管内皮細胞、間葉系細胞(例えば間葉系幹細胞)および臓器細胞(例えば肝臓内胚葉細胞、または膵β細胞)を所定の割合で混合した細胞混合物を、「細胞外マトリクス成分に支持された特殊な環境下で」、具体的には、例えば培養容器に固相化されたマトリゲル上に播種して、培養することにより、「器官芽」(例えば肝芽、または膵芽)と呼ばれる三次元構造体を作製できることが記載されている。一方で、特許文献1(特に実施例1および2)には、細胞混合物を「マトリゲル中に包埋した場合」には「立体構造は形成されなかった」と記載されている。
【0004】
非特許文献1には、精巣細胞を混合した第二のマトリックス(コーニング社「マトリゲル」)を、細胞を含まない第一のマトリックスで包み込み、第一のマトリックスの開口部を、細胞を含まない第三のマトリックスで封をした形態(三層勾配システム)を有する、精巣オルガノイド(マトリックス組成物)が記載されている。当該文献に記載されたシステムは、第一および第三のマトリックスが細胞を含まないことで、細胞密度の勾配を生み出し、第二のマトリックスに含まれている精巣細胞によるオルガノイドの形成を促進するものである。しかしながら、当該システムにおいて精巣細胞以外の細胞(オルガノイド)を培養することや、第二のマトリックス以外のマトリックスが細胞を含有することは、非特許文献1には記載されていない。
【0005】
非特許文献2には、スライドに塗布したマトリゲル上で(2次元的に)(1) ヒト微小血管内皮細胞(Microvessel endothelial cells; MVEC)と肝臓細胞から作製されたオルガノイド、(2) ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human umbilical-vein endothelial cells; HUVEC)と肝臓細胞から作製されたオルガノイド、(3) ラット肝類洞壁内皮細胞(Liver sinusoidal endothelial cells; LSEC)と肝臓細胞から作製されたオルガノイド、および(4) ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)とヒト皮膚線維芽細胞(Normal human dermal fibroblasts; NHDF)と肝臓細胞から作製されたオルガノイド、のそれぞれを培養したところ、血管内皮細胞のネットワークが上記(2)および(3)ではやがて崩壊したが、上記(1)および(4)では存続し、やがて線維芽細胞のカプセルを形成してスライドから浮上したことなどが記載されている。しかしながら、非特許文献2には、(多層構造を有する)マトリゲル中で上記のような細胞またはオルガノイドを培養することについては記載されていない。
【0006】
非特許文献3には、下層ゲルが神経前駆細胞(NPC)を含み、上層ゲルがNPC、星状細胞またはニューロンを含む構造体を培養した場合、特に上層ゲルが星状細胞を含む場合に、下層ゲルのNPCは上層に向かって遊走し、NPCから神経細胞への分化が促進されることが記載されている。しかしながら、非特許文献3には、下層ゲルが上層ゲルを「包み込んでいる」ことや、下層ゲルが「少なくとも1つの開口部を有する」ことは、開示も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Nature protocols,Vol.13, No.2, 2018, 248-259
【文献】TISSUE ENGINEERING,12(6), 2006, pp.1627-1638
【文献】Cell and Tissue Research (2004) 317: 173-185
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、生体内の臓器に近く、血漿タンパク質の分泌活動や免疫応答が可能な、臓器オルガノイドを作製するための手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、多層構造を有するマトリックスのそれぞれの層に異なる種類の細胞等を包埋し、気液境界面でそのマトリックス多層構造体に含まれる細胞等を培養することにより、従来よりも生体内の臓器に近いオルガノイドが形成されることを見出した。具体的には、臓器を構成する細胞(好ましくは臓器オルガノイドを形成しうる細胞)または臓器オルガノイド自体を含む第二のマトリックスと、その第二のマトリックスの一部分(開口部)を除いて包み込んでいる、脈管細胞(例えば血管内皮細胞、平滑筋細胞など)、神経細胞、血液細胞等を含む第一のマトリックスとを備えたマトリックス多層構造体を作製し、その開口部から酸素等が第二のマトリックスに含まれる細胞等に供給されるようにしつつ、第一のマトリックスおよび第二のマトリックスを液体培地中に浸漬するようにして培養することにより、第一のマトリックスに含まれている細胞は階層的な細胞ネットワークを形成しながら、第二のマトリックスに含まれている細胞等と一体となった臓器オルガノイドを形成できることを見出した。そして、そのようなマトリックス多層構造体(細胞または臓器オルガノイドとマトリックス等を含む、マトリックス組成物と呼ぶこともできる)は、血漿タンパク質の産生その他の臓器オルガノイドに期待される目的のために利用できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち本発明は、上記課題解決のため、以下の[1]~[10]を提供する。
[1]
(1)脈管細胞、神経細胞および血液細胞からなる群から選ばれる1以上の細胞を含む、第一のマトリックス、および
(2)臓器を構成する細胞および/または臓器オルガノイドを含む、第二のマトリックス
を含む、マトリックス組成物であって、
ここで、第一のマトリックスは第二のマトリックスを包み込み、
第一のマトリックスは少なくとも1つの開口部を有する、
マトリックス組成物。
[2]
マトリックス組成物中に階層的な細胞ネットワークを有する、項1記載のマトリックス組成物。
[3]
第一のマトリックスにおける脈管細胞が、造血性血管内皮細胞である、項1記載のマトリックス組成物。
[4]
第二のマトリックスにおける臓器を構成する細胞が、肝臓内胚葉細胞、血管内皮細胞および間葉系幹細胞の組み合わせ、または膵β細胞、血管内皮細胞および間葉系幹細胞の組み合わせである、項1記載のマトリックス組成物。
[5]
マトリックス組成物の製造方法であって、
(a)臓器を構成する細胞および/または臓器オルガノイドを流体形態の第二のマトリックスに懸濁し、次いで第二のマトリックスを固化させる工程、および
(b)脈管細胞、神経細胞、および血液細胞からなる群から選ばれる細胞を流体形態の第一のマトリックスに懸濁し、第二のマトリックスを該第一のマトリックスが少なくとも1つの開口部を有するように該第一のマトリックスにより覆い、次いで第一のマトリックスを固化させる工程を含む、製造方法。
[6]
(c)前記マトリックス組成物を、通気性膜に懸架させた状態で、該通気性膜を通じた気体交換を担保しつつ、液体培地に浸漬して培養することにより、第二のマトリックス中の臓器を構成する細胞に立体構造を形成させる工程、
をさらに含む、項5記載の製造方法。
[7]
項1記載のマトリックス組成物または項5記載の方法によって作製されたマトリックス組成物を、非ヒトキメラ動物に移植し、組織または臓器に分化させることを含む、非ヒトキメラ動物の作製方法。
[8]
項7記載の方法に作製され非ヒトキメラ動物。
[9]
通気性膜に懸架させた状態のマトリックス組成物、および
該マトリックス組成物が浸漬された状態の液体培地、
を備える培養システムであって、
該マトリックス組成物は、
(1)脈管細胞、神経細胞および血液細胞からなる群から選ばれる1以上の細胞を含む、第一のマトリックス、および
(2)臓器を構成する細胞および/または臓器オルガノイドを含む、第二のマトリックス
を含み、
ここで、該第一のマトリックスは前記第二のマトリックスを包み込み、該第一のマトリックスは少なくとも1つの開口部を有する、
培養システム。
[10]
以下の工程を含む、血漿タンパク質の製造方法:
(1)項1記載のマトリックス組成物を培養する工程;および
(2)前記工程(1)で培養した培養物から培養上清を回収する工程。
【発明の効果】
【0012】
本発明により提供されるマトリックス組成物は、生体内の臓器に近い階層的な細胞ネットワーク(脈管構造等)を有するものであり、細胞またはオルガノイドを支持しているマトリックスを含めて一体的に新しいタイプの臓器オルガノイドとみることもできる。このようなマトリックス組成物を用いることにより、好ましくはそれが移植された非ヒトキメラ動物を作製することにより、ヒトの薬物代謝プロファイルの予測、薬効評価、毒性評価、薬物相互作用評価の信頼性などを向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態の一例を示した模式図である。
【
図2】
図2は、本発明により作製されたマトリックス組成物の内部に認められる「階層的な細胞ネットワーク」を撮影した顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
-定義-
・血管内皮細胞
本明細書において「血管内皮細胞」とは、造血性血管内皮細胞(hemogenic endothelial cell;HEC)および非造血性血管内皮細胞(non-hemogenic endothelial cell;non-HEC)の両方の概念を包含する用語である。HECは、造血幹細胞を産生することのできる(造血能を有する)血管内皮細胞であり、血球産生型血管内皮細胞とも呼ばれる。一方で、non-HECは、そのような造血能を有さない血管内皮細胞である。
【0015】
本発明に用いられる血管内皮細胞は、生体から採取された血管内皮細胞(例えば、微小血管内皮細胞(microvessel endothelial cells: MVEC)、肝類洞壁内皮細胞(liver sinusoidal endothelial cells: LSEC)、臍帯静脈内皮細胞(umbilical-vein endothelial cells: UVEC)など)の純度の高い細胞集団であってもよいし、ES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞、その他の血管内皮細胞へ分化する能力を有する細胞を分化させて得られた血管内皮細胞の純度の高い細胞集団であってもよい。上記血管内皮細胞の純度の高い細胞集団は、細胞集団中の細胞総数に対して、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、または99%以上の血管内皮細胞を含む。
【0016】
・造血性血管内皮細胞(HEC)
本明細書において「造血性血管内皮細胞(HEC)」とは、HECの細胞マーカーとしてCD34陽性かつCD73陰性である、造血能を有する血管内皮細胞を意味する。また、本発明に用いられるHECは、その前駆細胞を含んでいてもよい。このような前駆細胞としては、代表的には、細胞マーカーFlk-1(CD309、KDR)陽性の血管内皮細胞の前駆細胞(例、側板中胚葉系細胞)からHEC細胞までの分化過程に存在する細胞が挙げられる(Cell Reports 2, 553-567, 2012参照)。なお、Flk-1(CD309、KDR)陽性のような分化早期の段階の前駆細胞は、HEC細胞とnon-HEC細胞で共通する前駆細胞であり、特に述べない限り、「HEC前駆細胞」は、HEC細胞とnon-HEC細胞で共通する前駆細胞も含む。
【0017】
本発明に用いられる造血性血管内皮細胞(HEC)は、生体から採取されたHECの純度の高い細胞集団であってもよいし、ES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞、その他の血管内皮細胞へ分化する能力を有する細胞(例えば、側板中胚葉系細胞)を分化させて得られたHECの純度の高い細胞集団であってもよい。上記HECの純度の高い細胞集団は、細胞集団中の細胞総数に対して、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上のHECおよび/またはHEC前駆細胞を含む。一つの実施形態では、上記HECの純度の高い細胞集団は、細胞集団中の細胞総数に対して、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上のHECを含む。
【0018】
ES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞、その他の血管内皮細胞へ分化する能力を有する細胞を、造血性血管内皮細胞(HEC)へ分化させる方法は公知であり、例えば、iPS細胞からは、PLoS One, 2013; 8(4): e59243、Nat Biotechnol. 2014; 32(6): 554-61、Sci Rep. 2016; 6: 35680などに記載の方法に準じて行うことができる。
【0019】
・非造血性血管内皮細胞(non-HEC)
本明細書において「非造血性血管内皮細胞(non-HEC)」とは、non-HECの細胞マーカーとしてCD31、CD73およびCD144が陽性である、造血能を有しない血管内皮細胞を意味する。また、本発明に用いられるnon-HECは、その前駆細胞を含んでいてもよい。このような前駆細胞としては、代表的には、細胞マーカーFlk-1(CD309、KDR)陽性の血管内皮細胞の前駆細胞(例、側板中胚葉系細胞)からnon-HEC細胞までの分化過程に存在する細胞が挙げられる(Cell Reports 2, 553-567, 2012参照)。なお、Flk-1(CD309、KDR)陽性のような分化早期の段階の前駆細胞は、HEC細胞とnon-HEC細胞で共通する前駆細胞であり、特に述べない限り、「non-HEC前駆細胞」は、HEC細胞とnon-HEC細胞で共通する前駆細胞も含む。
【0020】
本発明に用いられる非造血性血管内皮細胞(non-HEC)は、生体から採取されたnon-HECの純度の高い細胞集団であってもよいし、ES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞、その他の血管内皮細胞へ分化する能力を有する細胞(例えば、側板中胚葉系細胞)を分化させて得られたnon-HECの純度の高い細胞集団であってもよい。上記non-HECの純度の高い細胞集団は、細胞集団中の細胞総数に対して、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、または99%以上のnon-HECおよび/またはnon-HEC前駆細胞を含む。一つの実施形態では、上記non-HECの純度の高い細胞集団は、細胞集団中の細胞総数に対して、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、または99%以上のnon-HECを含む。
【0021】
ES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞、その他の血管内皮細胞へ分化する能力を有する細胞を、非造血性血管内皮細胞(non-HEC)へ分化させる方法は公知であり、例えば、iPS細胞から、Nat Cell Biol. 2015; 17(8): 994-1003、Cell Rep. 2017; 21(10): 2661-2670などに記載の方法に準じて行うことができる。
【0022】
・間葉系細胞
本明細書において「間葉系細胞」は、主として中胚葉に由来する結合組織に存在し、組織で機能する細胞の支持構造を形成する結合組織細胞を指し、分化した細胞(分化間葉系細胞)と、間葉系細胞への分化運命が決定しているがまだ間葉系細胞へ分化していない細胞(未分化間葉系細胞)、いわゆる間葉系幹細胞の両方の概念を包含する用語である。ただし、「血管内皮細胞」は未分化間葉系細胞から分化する細胞の一種であるが、本明細書における「間葉系細胞」の定義から除外されるものとする。
【0023】
ある細胞が未分化間葉系細胞であるか分化間葉系細胞であるかは、例えば、未分化間葉系細胞のマーカーである、Stro-1、CD29、CD44、CD73、CD90、CD105、CD133、CD271、Nestinなどの1種または2種以上が陽性であるかどうかにより(陽性であれば未分化間葉系細胞、陰性であれば分化間葉系細胞と)判別することができる。
【0024】
間葉系細胞はさらに、本発明において目的とされる臓器オルガノイドや、組み合わせて用いられる「臓器を構成する細胞」に応じて、特定の臓器(組織)に特異的な細胞マーカーを発現するものであってもよい。そのような細胞マーカーとしては、例えば、septum transversum mesenchyme (STM)の細胞マーカーであるFOXF1、COL4AおよびALCAMが挙げられる。
【0025】
・肝細胞
本明細書において「肝細胞」(肝臓細胞)は、肝臓の実質細胞であって、分化した肝細胞(分化肝細胞)と、肝細胞への分化運命が決定しているがまだ肝細胞へ分化していない細胞(未分化肝細胞)、いわゆる肝前駆細胞(例、肝臓内胚葉細胞)の両方の概念を包含する用語である。分化肝細胞は、生体から採取された(生体内の肝臓から単離された)細胞であってもよいし、ES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞、肝前駆細胞、その他の肝細胞へ分化する能力を有する細胞を分化させて得られた細胞であってもよい。未分化肝細胞は、生体から採取されたものであってもよいし、ES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞、その他の幹細胞または前駆細胞を分化させて得られたものであってもよい。肝細胞に分化可能な細胞は、例えば、K.Si-Taiyeb, et al. Hepatology, 51 (1): 297- 305(2010)、T. Touboul, et al. Hepatology. 51(5):1754-65.(2010)に従って作製することができる。ES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞、肝前駆細胞、その他の肝臓細胞へ分化する能力を有する細胞を、肝臓細胞へ分化させる方法は公知であり、例えば、iPS細胞からは、Hepatology, 2010; 51(1): 297-305、Cell Rep. 2017; 21(10): 2661-2670などに記載の方法に準じて行うことができる。生体から採取した細胞集団、ES細胞やiPS細胞等の分化誘導により作製した細胞集団、いずれについても(特に後者については)、分化肝細胞の純度の高い細胞集団または未分化肝細胞の純度の高い細胞集団を用いてもよいし、分化肝細胞および未分化肝細胞を任意の割合で含む細胞混合物を用いてもよい。
【0026】
ある細胞が分化肝臓細胞であるかどうかは、成熟肝細胞マーカー、例えばアシアログリコプロテインレセプター1(ASGR1)、未成熟肝細胞マーカー(初期肝分化マーカー)であるαフェトプロテイン(AFP)、初期肝分化マーカーであるアルブミン(ALB)、レチノール結合プロテイン(RBP4)、トランスチレチン(TTR)、グルコース-6-ホスファターゼ(G6PC)などの1種または2種以上の発現が陽性かどうかにより判別することができる。一方、ある細胞が未分化肝臓細胞であるかどうかは、HHEX、SOX2、HNF4α、AFP、ALBなどの1種または2種以上の細胞マーカーの発現が陽性かどうかにより判別することができる。
【0027】
・細胞マーカー
本明細書において「細胞マーカー」は、所定の細胞型において特異的に発現する(陽性マーカー)または発現しない(陰性マーカー)遺伝子であり、具体的にはゲノム中の当該遺伝子の転写によるmRNAとして、またはそのmRNAの翻訳によるタンパク質として、生成する(陽性マーカー)または生成しない(陰性マーカー)物質を指す。細胞マーカーは、好ましくは蛍光物質により標識(染色)可能であり、当該細胞マーカーを発現している細胞の検出、濃縮、単離等を容易に行える、細胞表面に発現するタンパク質(細胞表面マーカー)である。
【0028】
マーカー遺伝子が「陽性」であるとは、その遺伝子のmRNAまたはタンパク質の発現量が、当業者にとって一般的または公知の手法により、検出可能である、または所定の閾値(バックグラウンドレベル等)よりも高いことを意味する。マーカー遺伝子が「陰性」とは、その遺伝子のmRNAまたはタンパク質の発現量が、当業者にとって一般的または公知の手法により、検出不可能である、または所定の閾値(バックグラウンドレベル等)よりも低いことを意味する。
【0029】
細胞マーカーが陽性であるか陰性であるかは、当業者にとって一般的または公知の手法により、定性的または定量的な結果をもって判定することができる。タンパク質としての細胞マーカーは、当該タンパク質に特異的な抗体を用いた免疫学的アッセイ、例えば、ELISA、免疫染色、フローサイトメトリーなどを利用して、検出するまたは発現量を測定することができる。mRNAとしての細胞マーカーは、当該mRNAに特異的な核酸を用いたアッセイ、例えば、RT-PCR(定量的PCRを含む)、マイクロアレイ、バイオチップなどを利用して、検出するまたは発現量を測定することができる。
【0030】
-マトリックス組成物-
本発明のマトリックス組成物は、(1)脈管細胞、神経細胞および血液細胞からなる群から選ばれる1以上の細胞を含む、第一のマトリックス、および(2)臓器を構成する細胞および/または臓器オルガノイドを含む、第二のマトリックス、を含むものであって、第一のマトリックスは第二のマトリックスを包み込み、第一のマトリックスは少なくとも1つの開口部を有する構造を有するものである(
図1参照)。
【0031】
第一のマトリックスが有する「開口部」とは、第二のマトリックスを包み込んでいない部分を指す。つまり、第二のマトリックスは「開口部」において、第二のマトリックス自体が直接的に、または「第一のマトリックスに代わる別の物質」を介して間接的に、外部から酸素、栄養、その他の第二のマトリックスに含まれる細胞が必要とする物質を受け取ることが可能になっている。第二のマトリックスが第一のマトリクスに全面的に包み込まれていると、第一のマトリックスに含まれている脈管細胞等またはそれから形成されるネットワークによって、第二のマトリックスに含まれている臓器を構成する細胞等が外部から十分な量の酸素、栄養等を受け取れないことがある。第一のマトリックスに「開口部」を設けることは、そのような問題を回避するための手段であり、その目的を果たせる限り、「開口部」が「第一のマトリックスに代わる別の物質」で埋められていてもよい。
【0032】
上記の「第一のマトリックスに代わる別の物質」の代表例としては、「細胞を含まないマトリックス」(本明細書において「第三のマトリックス」と称する。)が挙げられる。すなわち、本発明のマトリックス組成物は、一実施形態において、脈管細胞等を含む第一のマトリックス、臓器を構成する細胞等を含む第二のマトリックス、および細胞を含まない第三のマトリックスを含む、マトリックス組成物であって、第一のマトリックスおよび第三のマトリックスは第二のマトリックスを包み込み、第一のマトリックスは少なくとも1つの開口部を有し、該開口部の一部または全部に第三のマトリックスが充填されている、マトリックス組成物である。
【0033】
本発明における「マトリックス」は、臓器を構成する細胞を培養するための、また臓器オルガノイドを形成するための三次元細胞培養に用いられる、細胞外マトリックス(ECM)と、必要に応じて成長因子などの添加成分とを含有する調製品を指す。このようなマトリックスとしては様々なものが公知であり、本発明の目的に応じて適切なものを選択して用いることができる。
【0034】
マトリックスの成分として含まれるECMは、基本的に繊維状タンパク質とプロテオグリカンを主成分としており、そのような成分としては例えば、エラスチン、エンタクチン、オステオネクチン、コラーゲン(IV型コラーゲン等)、テネイシン、トロンボスポンジン、パールカン、ビトロネクチン、フィブリリン、フィブロネクチン、ヘパリン(硫酸塩)プロテオグリカン、ラミニンなどが挙げられる。
【0035】
必要に応じてマトリックスに添加される成長因子としては、例えば、EGF、PDGF、IGF-1、TGF-β、VEGFなどが挙げられる。
【0036】
上記のようなECMおよび成長因子を含有するマトリックスは市販されており、例えば「BDマトリゲル」(BD Biosciences)、マトリゲル(Corning)などが挙げられる。
【0037】
マトリックスの組成や濃度(原液か、希釈物か)は、当業者であれば、発明の目的に応じて適宜調整することができる。例えば、マトリゲルは必要に応じて、取り扱い性を高めるとともに、固化したときに適度な硬さを有するようにするために、液体培地と混合して用いることができる。このような実施形態におけるマトリゲルと混合するための液体培地としては、本明細書に別途記載する、マトリックス組成物の製造方法における、マトリックス組成物を浸漬して培養するための液体培地と同じものを用いることができる。
【0038】
なお、マトリゲルは一般的に、低温(例えば4℃以下)では流体であるが、常温以上(例えば37℃以上)では固化してゲルとなる。所定の細胞等を含むマトリックスは一般的に、流体の状態のマトリゲルと所定の細胞等とを混合した後、昇温して静置して固化させることにより得られるものである。
【0039】
さらに、ハイドロゲルとして知られている自己組織化ペプチド、例えばアルギニン、グリシンおよびアスパラギンを含むハイドロゲルなども、本発明におけるマトリックスの成分として用いることができる。このようなハイドロゲルを含むマトリックスを用いる場合は、固化させる際に必要なイオン性溶液またはイオン性分子を添加すればよい。
【0040】
本発明における第一、第二(および任意で用いられる第三)のマトリックスは、同じ調製品であってもよいし、互いに異なる調製品であってもよい。例えば、マトリックスに添加される増殖因子や、マトリックスの硬さによって、マトリックスに含まれている細胞の分化や臓器オルガノイド(例、器官芽)の形成が変化する場合があるので、発明の実施形態に応じて適切なマトリックスを用いればよい。
【0041】
・第一のマトリックス
第一のマトリックスは、脈管細胞、神経細胞および血液細胞からなる群から選ばれる1種以上の細胞を含む。これらの細胞が由来する生物種は特に限定されるものではなく、ヒトであってもよいし、ヒト以外の動物、例えばマウス、ラット、イヌ、ブタ、サルなどの哺乳動物であってもよい。
【0042】
脈管細胞としては、例えば、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞および周皮細胞が挙げられる。
【0043】
例えば、血管内皮細胞は、第二のマトリックスに含まれる肝臓、膵臓、その他の臓器オルガノイドに、階層的な微小血管構造を賦与することができ、血管系の疾患(例:類洞壁閉塞性症候群)のモデルとして適したものになるという観点から、第一のマトリックスに含まれる細胞(脈管細胞)として好ましい。また、血管内皮細胞のうち造血性血管内皮細胞は、階層的な微小血管構造を形成するとともに、そこから血液細胞(例えばマクロファージ、好中球などの免疫担当細胞)を産生することができるため、より好ましい。
【0044】
本発明で用いるHECは、生体から採取されたHECの純度の高い細胞集団であってもよいし、ES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞、その他の血管内皮細胞へ分化する能力を有する細胞(例えば、側板中胚葉系細胞)を分化させて得られたHECの純度の高い細胞集団であってもよい。なお、ES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞、その他の血管内皮細胞へ分化する能力を有する細胞を、造血性血管内皮細胞(HEC)へ分化させる方法は公知であり、例えば、iPS細胞からは、PLoS One, 2013; 8(4): e59243、Nat Biotechnol. 2014; 32(6): 554-61、Sci Rep. 2016; 6: 35680などに記載の方法に準じて行うことができる。HECの「純度の高い」細胞集団は、細胞集団中の細胞総数に対して、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、または99%以上のHECおよび/またはHEC前駆細胞を含む。
【0045】
神経細胞としては、例えば、GABA作動性ニューロン、ドーパミン作動性ニューロンおよび運動ニューロンが挙げられる。
【0046】
血液細胞(血球系細胞)は、血小板、赤血球および白血球に大別することができる。白血球としては、リンパ球(NK細胞、Tリンパ球、Bリンパ球、マクロファージ、樹状細胞)、単球、好酸球、好塩基球、好中球が挙げられる。例えば、マクロファージ、好中球などの免疫担当細胞は、炎症疾患などの病態モデルとして利用できるマトリックス組成物を製造することができる観点から、第一のマトリックスに含まれる細胞(血球細胞)として好ましい。
【0047】
第一のマトリックスの硬さは、例えば気相から供給される酸素、液体培地から供給される成分などの物質の透過性、その他の第一のマトリックスに含まれる細胞の生育に与える作用などを考慮して適宜調節することができるが、例えば、0.05~50kPaの範囲内とすることができる。なお、このような「硬さ」の指標は、マトリゲルを培地で希釈するときの倍率、またはマトリックス中のECMの濃度などに適宜変換することができる。また、第一のマトリックスの厚さや、第二のマトリックスとの接触面の面積なども、上記と同様の事項を考慮して適宜調節することができる。
【0048】
・第二のマトリックス
第二のマトリックスは、臓器を構成する細胞および/または臓器オルガノイドを含む。これらの細胞またはオルガノイドが由来する生物種は特に限定されるものではなく、ヒトであってもよいし、ヒト以外の動物、例えばマウス、ラット、イヌ、ブタ、サルなどの哺乳動物であってもよい。
【0049】
第二のマトリックスには、例えば下記(i)~(iii)の実施形態が包含される:
(i)臓器を構成する細胞、特に臓器オルガノイドを形成することのできる1種または2種以上の細胞が、まだ臓器オルガノイドを形成していない状態で、(例えば本発明のマトリックス組成物の製造方法の工程(a)により)第二のマトリックスに含まれているもの;
(ii)あらかじめ別途形成済みの臓器オルガノイドが(例えば本発明のマトリックス組成物の製造方法の工程(a)により)第二のマトリックスに含まれているもの;
(iii)臓器オルガノイドを形成することのできる1種または(少なくとも「臓器を構成する細胞」を含む)2種以上の細胞が(例えば本発明のマトリックス組成物の製造方法の工程(a)により)第二のマトリックスに含まれていたところ、それを(例えば本発明のマトリックス組成物の製造方法の工程(c)により)培養した結果形成された臓器オルガノイドが第二のマトリックスに含まれているもの。
【0050】
・臓器を構成する細胞
本発明における「臓器を構成する細胞」には、(I)臓器を構成する実質細胞および(II)臓器を構成する非実質細胞が包含される。また、(I)実質細胞および(II)非実質細胞には、それぞれ、(i)分化し成熟した、または終末分化に達した、実質細胞または非実質細胞としての所定の機能性を有する細胞(本明細書において単に「分化細胞」と呼ぶ。)、および(ii)実質細胞または非実質細胞への分化能を有する、または分化が運命付けられている(コミットされている)が、未分化である、または幹細胞もしくは前駆細胞の段階であり、実質細胞または非実質細胞としての所定の機能性をまだ十分に有していない細胞(本明細書において単に「未分化細胞」と呼ぶ。)が包含される。
【0051】
臓器を構成する細胞としては、実質細胞の分化細胞、実質細胞の未分化細胞、非実質細胞の分化細胞および非実質細胞の未分化細胞からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞、好ましくは「臓器オルガノイド」(例、器官芽)の形成が可能な2種以上の細胞の組み合わせ、を用いることができる。各種の臓器オルガノイド(例、器官芽)の形成に必要な細胞の種類や培養条件については公知になっており、本発明(第二のマトリックス)においても同様とすることができる。
【0052】
「臓器」としては、例えば、肝臓、膵臓、腎臓、心臓、肺臓、脾臓、食道、胃、甲状腺、副甲状腺、胸腺、生殖腺、脳、脊髄などが挙げられる。
【0053】
臓器を構成する「実質細胞」としては、例えば、肝臓の肝細胞、膵臓の内分泌細胞(例、α細胞、β細胞、δ細胞、ε細胞、PP細胞)および膵管上皮細胞、腎臓の尿細管上皮細胞および糸球体上皮細胞、肺の肺胞上皮細胞、心臓の心筋細胞、腸管の上皮細胞、脳の神経細胞およびグリア細胞、脊髄の神経細胞およびシュワン細胞などが挙げられる。
【0054】
臓器を構成する「非実質細胞」としては、例えば、肝臓の類洞内皮細胞、肝星細胞およびクッパー細胞、膵臓の膵星細胞および膵微小血管内皮細胞、腎臓の腎糸球体内皮細胞、肺の肺動脈内皮細胞および肺線維芽細胞、心臓の心微小血管内皮細胞、大動脈内皮細胞、冠動脈内皮細胞および心線維芽細胞、腸管の腸管微小血管内皮細胞、脳の脳微小血管内皮細胞、血管周皮細胞、脈絡叢内皮細胞および脳血管外膜線維芽細胞などが挙げられる。
【0055】
臓器を構成する実質細胞または非実質細胞への分化能を有する「未分化臓器細胞」としては、例えば、脳、脊髄、副腎髄質、表皮、毛髪・爪・皮膚腺、感覚器、末梢神経、水晶体などの外胚葉性器官に分化可能な細胞;腎臓、尿管、心臓、血液、生殖腺、副腎皮質、筋肉、骨格、真皮、結合組織、中皮などの中胚葉性器官に分化可能な細胞;肝臓、膵臓、腸管、肺、甲状腺、副甲状腺、尿路などの内胚葉性器官に分化可能な細胞;などが挙げられる。
【0056】
・臓器オルガノイド
「臓器オルガノイド」は、人為的に創出された臓器に類似した組織体(三次元構造体)であり、すでに様々な種類の臓器オルガノイド、例えば肝臓、膵臓、腎臓、心臓、肺臓、脾臓、食道、胃、甲状腺、副甲状腺、胸腺、生殖腺、脳、脊髄などのオルガノイドが公知になっている(例、https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMra1806175、https://www.nature.com/articles/s41568-018-0007-6、http://www.amsbio.com/brochures/organoid-culture-handbook.pdf参照)。本発明では、任意の臓器オルガノイドを第二のマトリックスに含ませて用いることができる。なお、「臓器オルガノイド」には、最終的に複雑な構成を有する臓器に至る初期段階の構造体である「器官芽」(例えば肝芽、膵芽)も包含される。
【0057】
本発明における臓器オルガノイドの代表例として、「肝臓オルガノイド」が挙げられる。肝臓オルガノイドの作製方法は公知であり、本発明における肝臓オルガノイドとしては公知の様々な作製方法によって得られる肝臓オルガノイドを用いることができる。
【0058】
肝臓オルガノイドは、好ましくは「肝芽」である。肝芽の作製方法も公知であり、例えば前掲特許文献1に記載されているように、肝臓内胚葉細胞、血管内皮細胞および間葉系幹細胞の組み合わせから肝芽を作製することができる。なお、肝臓内胚葉細胞は、本明細書における実質細胞の未分化細胞に相当し、血管内皮細胞および間葉系幹細胞は、本明細書における非実質細胞の未分化細胞に相当する。肝臓オルガノイド(例、肝芽)の作製に用いられる血管内皮細胞としては、非造血性血管内皮細胞(non-HEC)が好ましい。
【0059】
本発明の一実施形態において、臓器オルガノイドとして肝臓オルガノイドまたは肝芽が選択される場合、あるいは第二のマトリックスに含まれる細胞として、肝臓内胚葉細胞、血管内皮細胞および間葉系幹細胞の組み合わせ、またはその他の肝臓オルガノイドもしくは肝芽の作製用の細胞の組み合わせが選択される場合、第一のマトリックスに含まれる細胞としては、例えば脈管細胞、好ましくは血管内皮細胞、より好ましくは造血性血管内皮細胞(HEC)を選択することができる。
【0060】
本発明における臓器オルガノイドの代表例の一つとして「膵臓オルガノイド」が挙げられる。膵臓オルガノイドの作製方法は公知であり、本発明における膵臓オルガノイドとしては公知の様々な作製方法によって得られる膵臓オルガノイドを用いることができる。
【0061】
膵臓オルガノイドは、好ましくは「膵芽」である。膵芽の作製方法も公知であり、例えば前掲特許文献1に記載されているように、膵β細胞、血管内皮細胞および間葉系幹細胞の組み合わせから膵芽を作製することができる。なお、膵β細胞は、本明細書における実質細胞の分化細胞に相当し、血管内皮細胞および間葉系幹細胞は、本明細書における非実質細胞の未分化細胞に相当する。
【0062】
本発明では、各種の臓器のオルガノイドの作製方法に関する公知の情報に基づいて(例えばhttp://www.amsbio.com/brochures/organoid-culture-handbook.pdf参照)、第二のマトリックスに埋め込むことのできるオルガノイドを作製しておくことができる。なお、そのような作製方法は、第二のマトリックスに埋め込まれた細胞から各種の臓器のオルガノイドを形成する際の、本発明に特有な構成以外の基本的な方法としても利用することができる。
【0063】
第二のマトリックスの硬さは、例えば気相から供給される酸素、液体培地から供給される成分などの物質の透過性、その他の第二のマトリックスに含まれる細胞またはオルガノイドの生育に与える作用などを考慮して適宜調節することができるが、例えば、0.05~50kPaの範囲内とすることができる。なお、このような「硬さ」の指標は、マトリゲルを培地で希釈するときの倍率、またはマトリックス中のECMの濃度などに適宜変換することができる。また、第二のマトリックスの厚さや、第一のマトリックス(および必要に応じて設けられる第三のマトリックス)との接触面の面積なども、上記と同様の事項を考慮して適宜調節することができる。
【0064】
・第三のマトリックス
必要に応じて用いられる第三のマトリックスは、第二のマトリックスに含まされる細胞が第三のマトリックスを透過した酸素等を効率的に受け取れるよう、細胞、オルガノイド等を含まない。ただし、上記の機能を果たす範囲で、例えば第一のマトリックスに含まれる細胞または第二のマトリックスに含まれる細胞および/または臓器オルガノイドの培養に影響を与える物質を含有することは許容される。一例として、第一のマトリックスに脈管細胞(血管内皮細胞等)が含まれる場合、第二のマトリックスを挟んで向かい合うような位置にある第三のマトリックスがVEGFを含むようにし、脈管細胞から形成される血管が第二のマトリックス(に含まれる細胞)の方向に伸長しやすくすることが挙げられる。
【0065】
第三のマトリックスの硬さは、例えば酸素およびその他の物質の透過性などを考慮して適宜調節することができるが、例えば、0.05~50kPaの範囲内とすることができる。なお、このような「硬さ」の指標は、マトリゲルを培地で希釈するときの倍率、またはマトリックス中のECMの濃度などに適宜変換することができる。また、第三のマトリックスの厚さや、第二のマトリックスとの接触面の面積なども、上記と同様の事項を考慮して適宜調節することができる。
【0066】
本発明のマトリックス組成物は、好ましくはその中に「階層的な細胞ネットワーク」を有する。「階層的な細胞ネットワーク」とは、例えば血管内皮細胞により構築される血管網について見れば、第二のマトリックス内の臓器オルガノイドに含まれている血管内皮細胞からなる方向性に乏しい(無秩序に延びている)血管網とは別に、第一のマトリックスに含まれている血管内皮細胞からなる方向性のある血管網が形成されており、マトリックス組成物全体として前者と後者の「階層的」な細胞ネットワーク(血管網)が形成されているような状態を意味する(
図2参照)。
【0067】
上述したような本発明のマトリックス組成物は、どのような製造方法によって得られたものであってもよい。好適な製造方法としては、次に記載する本発明のマトリックス組成物の製造方法が挙げられる。
【0068】
-マトリックス組成物の製造方法-
本発明のマトリックス組成物の製造方法は、少なくとも下記(a)および(b)の工程を含み、必要に応じてさらに、下記(c)の工程を含む:
(a)臓器を構成する細胞および/または臓器オルガノイドを流体形態の第二のマトリックスに懸濁し、次いで第二のマトリックスを固化させる工程;
(b)脈管細胞、神経細胞、および血液細胞からなる群から選ばれる細胞を流体形態の第一のマトリックスに懸濁し、第二のマトリックスを第一のマトリックスが少なくとも1つの開口部を有するように第一のマトリックスにより覆い、次いで第一のマトリックスを固化させる工程;
(c)前記工程(a)および(b)により得られたマトリックス組成物を、通気性膜に懸架させた状態で、通気性膜を通じた気体交換を担保しつつ、液体培地に浸漬して培養することにより、第二のマトリックス中の臓器を構成する細胞に立体構造を形成させる工程。
【0069】
工程(a)に関して、流体形態の第二のマトリックスに臓器を構成する細胞等を懸濁する方法は特に限定されるものではない。例えば、マトリックスとしてマトリゲルと培地との混合物を用いる場合は、マトリゲルが流体となる低温(例えば4℃)でマトリゲルと培地とを混合し、この混合液と臓器を構成する細胞等とを混合することにより、工程(a)用懸濁液が得られる。
【0070】
工程(a)用懸濁液に含まれる第二のマトリックスを固化する方法も特に限定されるものではない。例えば、マトリックスとしてマトリゲルと培地との混合物を用いて工程(a)用懸濁液を調製した場合は、当該マトリゲルが固化する(ゲル化する)温度(例えば37℃)にまで昇温することにより、当該懸濁液の固化物が得られる。
【0071】
工程(b)に関して、流体形態の第一のマトリックスに脈管細胞等を懸濁する方法、および第一のマトリックスを固化させる方法も、特に限定されるものではなく、それぞれ上述した工程(a)における懸濁方法および固化方法と同様にして行うことができる。
【0072】
「第二のマトリックスを、第一のマトリックスが少なくとも1つの開口部を有するように、第一のマトリックスにより覆い、次いで第一のマトリックスを固化させる」方法としては、例えば、まず所定の細胞を含む第二のマトリックスを通気性膜上に滴下して固化させ、続いて所定の細胞等を含む第一のマトリックスをその固化した第二のマトリックス上に滴下して固化させる方法が挙げられる。上記の第二のマトリックスと通気性膜との接触部分は、上記の第一のマトリックスによって覆われておらず、開口部に相当する。
【0073】
また、前述した第三のマトリックスを用いる実施形態においては、例えば、まず細胞を含まない第三のマトリックスを通気性膜上に直接的に滴下して固化させ、次に所定の細胞を含む第二のマトリックスをその固化した第三のマトリックス上に滴下して固化させ、最後に所定の細胞等を含む第一のマトリックスをその固化した第二のマトリックス上に滴下して固化させる方法が挙げられる。上記の第三のマトリックスは、上記の第一のマトリックスの開口部を充填していることになる。
【0074】
工程(c)に関して、「通気性膜」は、少なくとも酸素透過性を有し、必要に応じてさらに二酸化炭素、その他の所望の気体透過性を有する膜であり、様々な通気性膜が公知となっている。通気性膜としては、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、フルオロカーボン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリウレタンなどの繊維で作製された膜が挙げられる。通気性膜は、必要に応じて細胞付着性を高めるまたは低めるための表面処理、例えばコラーゲン等のECMでコーティングする処理がなされていてもよい。また、通気成膜は、必要に応じて通気性膜とは異なる繊維で作製された多孔質膜(メッシュ)と積層化されたもの(ハイブリッド膜)であってもよい。
【0075】
「通気性膜に懸架させた状態」のマトリックス組成物は、前述したような、通気性膜上に所定の細胞等を含む第二のマトリックスを滴下すること(またはあらかじめ第三のマトリックスを滴下すること)などを含む工程(a)および(b)により得られる、通気性膜に付着した状態の固化したマトリックス組成物を、マトリックス組成物が下向きになるようにする(上下を反転する)ことで作り出すことができる。そのような状態のマトリックス組成物を、保持具などの適切な部材を用いて、培養容器に収められた液体培地に浸漬する一方、通気性膜は浸漬させずに大気中(または所望の培養雰囲気中)に置くことにより、「通気性膜を通じた気体交換を担保しつつ、液体培地に浸漬して培養する」ことができる。培養期間は「第二のマトリックス中の臓器を構成する細胞に立体構造を形成させる」のに十分な期間、好ましくは第一のマトリックス中の脈管細胞等による階層的な構造も形成されるのに十分な期間とすればよい。
【0076】
工程(c)用の液体培地は、第一のマトリックスに含まれる脈管細胞等および第二のマトリックスに含まれる臓器を構成する細胞および/または臓器オルガノイドの培養に適したものとすればよい。当業者であれば、培養する細胞または臓器オルガノイドに応じて、適切な種類および量の基礎培地および必要に応じて用いられる添加物を選択して、それらを混合した培地を調製することができる。また、第一のマトリックスおよび第二のマトリックスには複数の種類の(少なくとも2種の)細胞が含まれることになるので、各細胞の培養に用いられる基礎培地および必要な添加物を、適切な割合で混合した培地を用いることができる。特に、第二のマトリックスに、臓器オルガノイド(例、肝芽)を形成するための複数の種類の細胞が含まれている場合、またはすでに形成されている臓器オルガノイドが含まれている場合は、その臓器オルガノイドの形成および/または成長に適した組成の培地を用いることが適切である。
【0077】
血管内皮細胞用の基礎培地としては、例えば、DMEM/F-12(Gibco)、Stempro-34 SFM (Gibco)、Essential 6培地(Gibco)、Essential 8培地(Gibco)、EGM(Lonza)、BulletKit(Lonza)、EGM-2(Lonza)、BulletKit(Lonza)、EGM-2 MV(Lonza)、VascuLife EnGS Comp Kit(LCT)、Human Endothelial-SFM Basal Growth Medium(Invitrogen)、ヒト微小血管内皮細胞増殖培地(TOYOBO)などが挙げられる。血管内皮細胞用の添加物としては、例えば、B27 Supplements(GIBCO)、BMP4(骨形成因子4)、GSKβ阻害剤(例、CHIR99021)、VEGF(血管内皮細胞成長因子)、FGF2(Fibroblast Growth Factor(bFGF(basic fibroblast growth factor)ともいう))、Folskolin、SCF(Stem Cell Factor)、TGFβ受容体阻害剤(例、SB431542)、Flt-3L(Fms-related tyrosine kinase 3 ligand)、IL-3(Interleukin 3)、IL-6(Interleukin 6)、TPO(トロンボポイエチン)、hEGF(組換えヒト上皮細胞成長因子)、ヒドロコルチゾン、アスコルビン酸、IGF1、FBS(ウシ胎児血清)、抗生物質(例えば、ゲンタマイシン、アンフォテリシンB)、ヘパリン、L-グルタミン、フェノールレッドおよびBBEからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0078】
肝細胞用の基礎培地としては、例えば、RPMI(富士フイルム)、HCM(Lonza)などが挙げられる。肝細胞用の添加物としては、例えば、Wnt3a、アクチビンA、BMP4、FGF2、FBS、HGF(肝細胞増殖因子)、オンコスタチンM(OSM)およびデキサメタゾン(Dex)からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。肝細胞用の培地には必要に応じて、アスコルビン酸、BSA-FAF、インスリン、ヒドロコルチゾンおよびGA-1000から選ばれる少なくとも1種を添加することができる。より具体的には、肝細胞用の培地としては、例えば、HCM BulletKit(Lonza)からhEGF(組換えヒト上皮細胞成長因子)を除いた培地;RPMI1640(Sigma-Aldrich)に1% B27 Supplements(GIBCO)と10ng/mL hHGF(Sigma-Aldrich)を添加した培地が挙げられる。特に、肝芽を作製する場合は、例えば、EGM BulletKit(Lonza)とHCM BulletKit(Lonza)よりhEGF(組換えヒト上皮細胞成長因子)を除いたものとを1:1で混ぜた培地に、デキサメタゾン、オンコスタチンMおよびHGFを添加した培地を用いることもできる。
【0079】
膵β細胞用の基礎培地としては、例えば、CMRL 1066(Corning)、MCDB 131(GIBCO)などが挙げられる。膵β細胞用の添加物としては、例えば、Alk5阻害剤II、T3 (L-3,30 ,5-Triiodothyronine)、Trolox、Nアセチルシステイン、R428 (AXL阻害剤)、ヘパリンなどが挙げられる。より具体的には膵β細胞用の培地としては、例えば、CMRL基礎培地に10% FBS、10μM Alk5阻害剤II、1μM T3を添加した培地が挙げられる。特に、膵オルガノイドを作製する場合は、例えばEGM BulletKit(Lonza)とDMEM/F-12(Gibco)とを1:1で混ぜた培地に、1% B27 Supplements(GIBCO)、0.2% BSAおよび10μM ニコチンアミドを添加した培地を用いることもできる。
【0080】
液体培地を収容する培養容器は、マトリックス組成物の形状、サイズ等に応じたもの、例えば複数のウェルを備えたプレートを用いることができる。培養容器は、マトリックスが表面に付着しないような材質で作製されているまたは表面処理がされているものが好ましく、例えば、市販の低吸着培養容器を用いることができる。
【0081】
工程(c)の培養条件(雰囲気、培養温度、培養期間等)は第二のマトリックス中の臓器を構成する細胞の組成に応じて、立体構造(または器官芽)が形成させるよう、適宜調節することができる。例えば、工程(c)の培養は、5%CO2、30~40℃(好ましくは約37℃)で、1~10日間(例えば肝芽であれば1~3日間)行うことができる。
【0082】
立体構造(三次元構造)の形成は、肉眼または顕微鏡観察により確認することができる。また、オルガノイドの作製は、立体構造の形成に加えて、所定の細胞マーカー、特に臓器の実質細胞のマーカーが陽性であるかによって、さらに好ましくは培養上清中にそれらのマーカーのタンパク質が分泌されているかによって、判別することができる。例えば、肝オルガノイドまたは肝芽であれば、HHEX、SOX2、AFP、ALB、HNF4α等のマーカーの発現が陽性であるかや、培養上清中にALB(アルブミン)が分泌されているかを判別基準とすることができる。膵オルガノイドまたは膵芽であれば、PDX1、SOX17、PSX9等のマーカーの発現が陽性であるかを判別基準とすることができる。
【0083】
本発明のさらなる側面において、本発明のマトリックス組成物の製造方法は、工程(c)において、「通気性膜」の代わりに「物質透過性膜」を用いる実施形態に変形することが可能である。すなわち、第二のマトリックスは、直接的に、または必要に応じて設けられる第三のマトリックスを介して間接的に、気相に曝される「通気性膜」を通じて酸素、二酸化炭素、その他のガスを受け取る代わりに、凸状のマトリックスが浸漬されている液体培地(本明細書において「第一の液体培地」と呼ぶ。)とは別の液体培地(本明細書において「第二の液体培地」と呼ぶ。)と「物質透過性膜」を通じて栄養分その他の添加成分、さらに第二の液体培地に溶存している酸素等のガスを受け取るような実施形態とすることが可能である。この場合、第二の液体培地は、物質透過性膜を介して第二のマトリックスまたは第三のマトリックスとだけ接触する(物質交換する)ようにし、物質透過性膜を介して第一の液体培地と接触する(物質交換する)ことがないようにすること、言い換えれば「物質交換膜」の全面を第二のマトリックスまたは第三のマトリックスが被覆するようにすることが適切である。
【0084】
「物質透過性膜」は、細胞の通過は遮断しつつ、所望の物質の透過性が確保されている膜である。そのような物質透過性膜は公知であり、例えば、コラーゲン製もしくはポリジメチルシロキサン(PDMS)製の膜が挙げられる。
【0085】
上記のようなさらなる側面においては、本発明のマトリックス組成物の製造方法の工程(c)は、例えば次の様な工程(c’)に変更することができる:
(c’)前記工程(a)および(b)により得られたマトリックス組成物を、物質透過性膜に接触させた状態で、物質透過性膜を通じた第二の液体培地中との物質交換を担保しつつ、第一の液体培地に浸漬して培養することにより、第二のマトリックス中の臓器を構成する細胞に立体構造を形成させる工程。
【0086】
さらに、後述する本発明のシステムにおいても、工程(c)に係る記載は工程(c’)に係る記載に置き換えることが可能である。
【0087】
-非ヒトキメラ動物の作製方法-
本発明の非ヒトキメラ動物の作製方法は、本発明のマトリックス組成物または本発明のマトリックス組成物の製造方法により得られたマトリックス組成物を、非ヒト動物に移植し、組織または臓器に分化させることを含む。
【0088】
工程(c)を含む本発明のマトリックス組成物の製造方法により得られたマトリックス組成物は、通気性膜上に形成されているが、非ヒト動物に移植する際はその通気性膜を剥がし、マトリックス組成物のみを移植すればよい。あるいは、通気性膜として生体内で分解されるものを使用すればよい。
【0089】
非ヒト動物としては、例えば、マウス、ウサギ、ブタ、イヌ、サルなどを挙げることができる。
【0090】
本発明の非ヒトキメラ動物は、上記の製造方法により得られる非ヒトキメラ動物、すなわち移植された本発明のマトリックス組成物または本発明のマトリックス組成物の製造方法により得られたマトリックス組成物から分化した組織または臓器を有する、非ヒト動物である。
【0091】
本発明の非ヒトキメラ動物は、例えば、ヒトの薬物代謝プロファイルの予測、薬効評価、毒性評価、薬物相互作用評価など、薬剤を評価する方法のために使用することができる。
【0092】
-培養システム-
本発明のシステムは、本発明のマトリックス組成物の製造方法、特に工程(c)を実施するためのシステムであって、通気性膜に懸架させた状態のマトリックス組成物、および当該マトリックス組成物が浸漬された状態の液体培地、を備える。
【0093】
本発明のシステムで規定される「通気性膜に懸架させた状態のマトリックス組成物」および「マトリックス組成物が浸漬された状態の液体培地」はそれぞれ、本明細書において前述したようなものであり、本発明のマトリックス組成物の製造方法等との関係で記載したことと同様の技術的事項を適用することができる。
【0094】
本発明のシステムは、上記の構成要素以外にも、例えば、マトリックス組成物が懸架された状態の通気性膜を保持するための器具、液体培地を収容するための器具(例えばウェルを備えたプレート)、適切な雰囲気および温度で培養するための培養装置など、本発明の実施にとって必要または好ましい構成要素をさらに備えることができる。
【0095】
-血漿タンパク質の製造方法-
本発明の血漿タンパク質の製造方法は、下記(1)および(2)の工程を含む:
(1)本発明のマトリックス組成物を培養する工程;
(2)前記工程(1)で培養した培養物から培養上清を回収する工程。
【0096】
「血漿タンパク質」としては、例えば、血液凝固因子(例:第II因子、第V因子、第VII因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、第XI因子)、抗血液凝固因子(例:アンチトロンビン等)、補体(例:C1~C9、B因子、D因子、I因子、H因子等)、酵素(例:α1アンチトリプシン、リソソーム酵素)、その他のタンパク質(例:アルブミン)が挙げられる。リソソーム酵素としては、例えば、α-マンノシダーゼ、α-フコシダーゼ、α-ガラクトシダーゼ、α-グルコシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、β-ヘキソサミニダーゼ(例、β-ヘキソサミニダーゼA、β-ヘキソサミニダーゼB、β-ヘキソサミニダーゼS)、β-グルクロニダーゼ、ガラクトセレブロシダーゼ、カテプシン(例、カテプシンA、カテプシンB、カテプシンC、カテプシンD、カテプシンE、カテプシンK等)、α-L-イデュロニダーゼ、アリールスルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼ、イズロン酸2-スルファターゼ、ヘパラン N-スルファターゼ、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ、アセチルCoA-α-グルコサミニド N-アセチルトランスフェラーゼ、N-アセチルグルコサミン-6―スルファターゼ、ガラクトースー6-スルファターゼ、アリールスルファターゼA、BおよびC、アリールスルファターゼAセレブロシド、α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ、α-ニューラミダーゼ(Neuramidase)、アスパルチルグルコサミニダーゼ、酸性リパーゼ、酸性セラミダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、パルミトイルタンパク質チオエステラーゼ、トリペプチジルペプチダーゼ、β-マンノシダーゼなどが挙げられる。
【0097】
工程(1)の培養方法その他の実施形態、例えば培地の組成などは、本発明の「マトリックス組成物の製造方法」における工程(c)の培養方法その他の実施形態に準じたものとすることができる。
【0098】
本発明の一実施形態において、工程(1)における培地は、血清濃度が適切な範囲に調整されたもの、好ましくは血清濃度が0%(つまり血清無添加の培地)~5%の培地である。なお、「血清」としては「血清代替品」を用いることも可能であり、その場合の血清代替品の濃度範囲は、上記の血清の濃度範囲に対応したものとすることができる。
【0099】
本発明の一実施形態において、工程(1)における培地は、Nrf2(nuclear factor erythroid-2-related factor 2)activatorが添加された培地である。Nrf2 activatorとしては、例えば、R-α-リポ酸、tert-ブチルヒドロキノン、スルホラファン、レスベラトロールを含有しているイタドリ(Polygonum cuspidatum)抽出物、BM(バルドキソロンメチル(Bardoxolone methyl))などが挙げられる。Nrf2 activatorの添加量は、当業者であれば適宜決定することができるが、好ましくは20nM以上である。
【0100】
工程(1)の培養条件(雰囲気、培養温度、培養期間等)は、工程(2)において所望の培養上清が回収できるよう適宜調節することができるが、例えば、5%CO2、30~40℃(好ましくは約37℃)で、通常10~50日間とすることができる。なお、工程(1)における、培養上清を回収するまでの培養期間は、工程(c)における、臓器オルガノイド(例、器官芽)を形成するまでの培養期間よりも通常は長く、血漿タンパク質の産生量(培養上清中の濃度)が所望の水準に達するまでとすることができる。
【0101】
血液凝固因子、補体、その他の血漿タンパク質の検出や定量は、公知の方法、例えば、ELISA法(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay法)により行うことができ、そのためのキットも市販されている[例、Human Coagulation Factor II (F2) ELISA Kit(Biomatik)、Human Coagulation Factor V (F5) ELISA Kit(Biomatik)、Human Coagulation Factor VII (F7) ELISA Kit(Biomatik)、Human Coagulation Factor VIII (F8) ELISA Kit(Biomatik)、Human Coagulation Factor IX (F9) ELISA Kit(Biomatik)、Human Coagulation Factor X (F10) ELISA Kit(Biomatik)、Human Coagulation Factor XI (F11) ELISA Kit(Biomatik)、High Sensitive Human Albumin (ALB) ELISA Kit(Biomatik)、(C3):Complement C3 Human ELISA kit(Abcam)、(C5):Complement C5 Human ELISA kit(Abcam)、Human Factor H ELISA Kit(Abcam)、Human Factor B ELISA Kit(Abcam)]。
【0102】
本発明の製造方法により、各種の疾患の治療等に用いることができる血漿タンパク質を製造することができる。より具体的には、本発明の血漿タンパク質の製造方法の工程(2)により、例えば、血液凝固因子、補体、α1アンチトリプシン(AAT)、リソソーム酵素等の血漿タンパク質を、それぞれの血漿タンパク質の欠損、欠乏、異常、活性低下等に起因する疾患に対する治療用組成物を製造するために好ましい濃度で含む、培養上清を回収することができる。このようにして得られる培養上清は、毒性(例、急性毒性、慢性毒性、遺伝毒性、生殖毒性、心毒性、癌原性)が低く、そのままで、または医薬品に用いられる添加剤を加えて、製剤化することが可能である。
【0103】
血液凝固因子に関連する疾患(血液凝固疾患)の具体例としては、血友病(血友病A(第VIII因子欠損症)、血友病B(第IX因子欠損症))、血友病類縁疾患(第II因子欠損症、第V因子欠損症、第VII因子欠損症、第X因子欠損症、第XI因子欠損症)、血栓症(アンチトロンビン欠損症)が挙げられる。
【0104】
補体に関連する疾患(補体異常疾患)の具体例としては、補体第3成分欠損症、補体第5成分欠損症、B因子欠損症、H因子欠損症が挙げられる。
【0105】
α1アンチトリプシン(AAT)に関連する疾患の具体例としては、AAT欠乏症が挙げられる。
【0106】
リソソームに関連する疾患(リソソーム病)の具体例としては、アスパルチルグルコサミン尿症、ファブリー病、乳児型バッテン病(CNL1)、古典的遅発乳児型バッテン病(CNL2)、ファーバー病、フコシドーシス、ガラクトシアリドーシス、ゴーシェ病1型、2型および3型、GM1-ガングリオシドーシス、ハンター症候群、ハーラー症候群、ハーラー・シャイエ症候群、シャイエ症候群、クラッベ病、α-マンノシドーシス、β-マンノシドーシス、マロトー・ラミー症候群、異染性白質ジストロフィー、モルキオ症候群A型、モルキオ症候群B型、ムコ脂質症II/III型、ニーマン・ピック病A型およびB型、ポンペ病、サンドホフ病、サンフィリッポ症候群A型、サンフィリッポ症候群B型、サンフィリッポ症候群C型、サンフィリッポ症候群D型、シンドラー病、シンドラー神崎病、シアリドーシス、スライ症候群、テイ・サックス病、ウォルマン病、ムコ多糖症IX型、マルチプルサルファターゼ欠損症、ダノン病、遊離シアル酸蓄積症、セロイドリポフスチノーシス等が挙げられる。
【0107】
上記のような製剤化のために、本発明の血漿タンパク質の製造方法は必要に応じて、(3)前記工程(2)で回収した培養上清を濃縮する工程をさらに含んでいてもよい。濃縮された培養上清は、例えば、活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time:APTT)に基づく活性が上昇する(APTTを短縮化する)など、血液凝固および/または補体異常疾患の治療用組成物としての用途に好ましいもの、あるいは濃縮により複数の酵素を高濃度で含むことでリソソーム病(例、ムコリピドーシスII型およびムコリピドーシスIII型)の治療用組成物としての用途に好ましいものとなる。
【実施例】
【0108】
[実施例1]造血性血管内皮細胞および肝臓構成細胞からなるマトリックス組成物の作製
[実験方法]
[1]ヒト非造血性血管内皮細胞の作製
ヒトiPS細胞(1383D2;京都大学iPS研究所)を、DMEM/F-12(Gibco)(10ml)に1% B-27 Supplements(GIBCO)、BMP4(25ng/ml)およびCHIR99021(8μM)を添加した培地中、5%CO2、37℃で3日間培養することで中胚葉系細胞を誘導した。得られた中胚葉細胞をさらに、Stempro-34 SFM(Gibco)(10ml)にVEGF(200ng/ml)およびFolskolin(2μM)を添加した培地中、5%CO2、37℃で7日間培養することで、CD31陽性、CD73陽性およびCD144陽性のヒト非造血性血管内皮細胞集団を得た。
【0109】
[2]ヒト造血性血管内皮細胞の作製
ヒトiPS細胞(625A4;京都大学iPS研究所)を、AK02N(味の素)(8 ml)中、5%CO2、37℃で6~7日間培養することで、直径500-700μmのiPS細胞コロニーを形成させた。得られたコロニーを、Essential 8培地(Gibco)(8 ml)にBMP4(80 ng/ml)、VEGF(80 ng/ml)およびCHIR99021(2μM)を添加した培地中、5%CO2、37℃で2日間培養した。次いで、Essential 6培地(Gibco)(8ml)にVEGF(80ng/ml)、FGF2(25ng/ml)、SCF(50ng/ml)およびSB431542(2μM)を添加した培地に交換し、5%CO2、37℃でさらに2日間培養することで側板中胚葉系細胞を誘導した。その後、Stempro-34 SFM(Gibco)(8ml)にVEGF(80ng/ml)、SCF(50ng/ml)、Flt-3L(50ng/ml)、IL-3(50ng/ml)、IL-6(50ng/ml)およびTPO(5ng/ml)を添加した培地に交換し、5%CO2、37℃で2日間培養した。さらに上記組成の培地からVEGFを除いた培地に交換して、5%CO2、37℃で1日間培養することで、CD34陽性、CD73陰性の造血性血管内皮細胞を得た。
【0110】
[3]ヒト肝臓内胚葉細胞の作製
ヒトiPS細胞(1383D2;京都大学iPS研究所)を、基礎培地RPMI(富士フイルム)(2ml)にWnt3a (50ng/mL)およびアクチビンA(100ng/ml)を添加した培地中、5%CO2、37℃で5日間培養することで、内胚葉系細胞を誘導した。得られた内胚葉系細胞を、前記基礎培地に1%B27 Supplements(GIBCO)およびFGF2(10ng/ml)を添加して、5%CO2、37℃でさらに5日間培養することで、AFP、ALBおよびHNF4αが陽性のヒト肝臓内胚葉細胞集団を得た。
【0111】
[4]ヒト間葉系細胞の作製
ヒトiPS細胞(1383D2;京都大学iPS研究所)を、基礎培地DMEM/F-12(Gibco)(10ml)に1% B-27 Supplements(GIBCO)、BMP4(25ng/ml)およびCHIR99021(8μM)を添加した培地中、5%CO2、37℃で3日間培養することで中胚葉系細胞を誘導した。得られた中胚葉系前駆細胞を、同培地にPDGFBBおよびアクチビンAを添加して、5%CO2、37℃でさらに3日間培養した。培養後の細胞を回収し、新たなゼラチンコートプレートに再播種し、前記基礎培地に、bFGFおよびBMP4を添加して、5%CO2、37℃で、さらに4日間培養することでFOXF1、COL4A、ALCAMおよびCD73が陽性のヒト間葉系細胞集団を得た。
【0112】
[5]細胞外マトリックスへの細胞包埋およびマトリックス組成物の作製
HCM(Lonza社製)にFBS, HGF, OSMおよびDexを加えた肝誘導培地と、EGM(Lonza)とを、1:1の体積割合で混合した培地(本明細書中「オルガノイド用培地」という)を調製した。さらに、オルガノイド用培地とマトリゲル(BD Pharmingen)とを1:1の体積割合で混合したマトリックス(本明細書中「オルガノイド用培地/マトリゲル混合マトリックス」という)を調製した。
【0113】
オルガノイド用培地/マトリゲル混合マトリックスを、反転させたPET Millicell Hanging Cell Culture Inserts(Millipore社)上に5μL滴下し、37℃まで温度を上げることにより固化させ、本発明における「第三のマトリックス」を形成させた。
【0114】
上記のように作製したヒト肝臓内胚葉細胞、ヒト非造血性内皮細胞およびヒト間葉系細胞を10:7:1の割合で、オルガノイド用培地/マトリゲル混合マトリックス内に4℃にて混合した。得られた混合液を、上記のように固化させた第三のマトリックス上に3μL滴下し、37℃まで温度を上げることにより固化させ、本発明における「第二のマトリックス」を形成させた。
【0115】
さらに、上記のように作製したヒト造血性血管内皮細胞をオルガノイド培地/マトリゲル混合マトリックス内に4℃にて混合した。得られた混合液を、上記のように固化させた第二のマトリックス上に8μL滴下し、37℃まで温度を上げることにより固化させ、本発明における「第一のマトリックス」を形成させた。
【0116】
低吸着24-well plateに、VEGF(80ng/ml)、SCF(50ng/ml)、Flt-3L(50ng/ml)、IL-3(50ng/ml)、IL-6(50ng/ml)およびTPO(5ng/ml)を添加したオルガノイド培地を600μL加えた。上記のようにしてhanging drop insert上で固化させた、第一~第三のマトリックスからなるマトリックス組成物を、ウェル内の培地方向に向けて挿入した。培地交換は培養開始後4日目まで毎日半量交換にて実施し、以降は2~3日に一度交換を実施した。培養21~42日程度までの培養液を継時的に採取し、凝固因子および補体因子の産生量を測定した。
【0117】
[結果]
培養21日目の培養液中に含まれる凝固因子(第VIII因子)の産生量、ならびに補体因子(補体第3成分、補体第5成分、B因子、H因子)の産生量は、表1に示す通りである。
【0118】