(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】抗肥満剤及び肥満の予防又は治療用食品組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/23 20060101AFI20241119BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241119BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20241119BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20241119BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20241119BHJP
A61K 127/00 20060101ALN20241119BHJP
【FI】
A61K36/23
A61P43/00 111
A61P3/04
A23L33/105
A23L2/00 F
A23L2/52
A61K127:00
(21)【出願番号】P 2023062292
(22)【出願日】2023-04-06
(62)【分割の表示】P 2018037410の分割
【原出願日】2018-03-02
【審査請求日】2023-04-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2017年10月13日、https://www.karger.com/Article/Pdf/480486に公表、IUNS(International Union of Nutritional Sciences)21st International Congress of Nutrition、2017年10月15日~20日にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】391022614
【氏名又は名称】学校法人幾徳学園
(73)【特許権者】
【識別番号】000116297
【氏名又は名称】ヱスビー食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】清瀬 千佳子
(72)【発明者】
【氏名】恩田 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】林 直子
(72)【発明者】
【氏名】佐川 岳人
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0035274(US,A1)
【文献】Plant Foods Hum. Nutr.,2009年,64, [1],p.6-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コリアンダーの粉砕物又は抽出物を含む脂肪分解促進剤。
【請求項2】
前記粉砕物が葉の粉砕物であり、前記抽出物が葉の抽出物である、請求項1に記載の脂肪分解促進剤。
【請求項3】
前記抽出物がアルコール抽出物である、請求項1又は2に記載の脂肪分解促進剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の脂肪分解促進剤と飲食品とを含む
脂肪分解促進用食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗肥満剤及び肥満の予防又は治療用食品組成物に関する。本発明の抗肥満剤によれば、肥満を予防又は治療することができる。
【背景技術】
【0002】
世界保健機関の報告によれば、少なくとも10億人の大人が体重過剰であり、このうち3億人が肥満体であるとしている。更に、これらの数は、医療による介入が無い場合、更に上昇すると予想される。肥満は、飽食及び運動不足等の生活習慣が原因であり、体脂肪が増加することによって起き、メタボリックシンドロームや生活習慣病の原因となる。また、肥満は代謝病の原因であり、冠状動脈性心臓病、高血圧、2型糖尿病、癌、呼吸系合併症、及び骨関節炎などとも関連している。
現在、肥満の治療法としては、基本的には食事療法及び運動療法を組み合わせて行うのが一般的である。一方、薬物による治療の研究もおこなわれており、抗肥満薬として、リダクティル(Reductil:塩酸シブトラミン)又はゼニカル(Xenical)などが開発されているが、副作用も報告されており、日本では製造承認されていない。また、薬草のヒハツモドキの抽出成分、ウリ科植物の抽出物(特許文献1)、又は零陵香草の抽出成分(特許文献2)などに抗肥満作用があることが報告されているが、その効果は十分ではなかった。従って、安全で有効な抗肥満剤の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2007-513150号公報
【文献】特表2009-536223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、日常的に摂取することができ、副作用の心配がなく、優れた効果が期待できる安全な抗肥満剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、安全かつ効果の高い抗肥満薬について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、バジル又はコリアンダー(パクチー)に抗肥満効果を有する成分が含まれていることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]バジル又はコリアンダーの粉砕物又は抽出物を含む抗肥満剤、
[2]前記粉砕物が葉の粉砕物であり、前記抽出物が葉の抽出物である、[1]に記載の抗肥満剤、
[3]前記抽出物がアルコール抽出物である、[1]又は[2]に記載の抗肥満剤、及び
[4][1]~[3]のいずれかに記載の抗肥満剤と飲食品とを含む肥満の予防又は治療用食品組成物、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の抗肥満剤によれば、肥満症を予防又は治療することができる。また、本発明の肥満の予防又は治療用食品組成物は、それを食することにより、肥満症を予防したり、又は治療したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】KKAyマウスにコリアンダー(パクチー)粉末を投与し、肝臓重量の変化(a)及びCPT1αのmRNAの発現(b)を測定した結果を示すグラフである。
【
図2】KKAyマウスにバジル粉末を投与し、肝臓重量の変化(a)及びSREPB1cのmRNAの発現(b)を測定した結果を示すグラフである。
【
図3】コリアンダー(パクチー)のエタノール抽出物を用いて、マウス肝臓細胞Hepa-1細胞におけるCPT1αのmRNAの発現量の変化を検討したグラフである。
【
図4】マウス脂肪前駆細胞(3T3-L1細胞)がRAW264.7細胞に作用して発現するIL-6(A)又はIL-1β遺伝子(B)の発現量が、コリアンダー(パクチー)又はバジルによって、抑制されることを示したグラフである。
【
図5】マウス脂肪前駆細胞(3T3-L1細胞)の4-1BBのmRNA発現量に対するパクチー抽出物及びバジル抽出物の作用を検討したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[1]抗肥満剤
本発明の抗肥満剤は、バジル又はコリアンダーの粉砕物又は抽出物を含む。
【0009】
《バジル》
本発明に用いるバジル(Ocimum basilicum)の使用部位は、特に特に限定されるものではなく、植物全体、根、茎、葉、花、果実、若しくは種子、又はそれらの少なくとも2種以上の混合物を挙げられるが、好ましくは葉又は茎である。バジルはシソ科メボウキ属の多年草であり、和名はメボウキと呼ばれている。本発明に用いるバジルの品種は、特に限定されるものではなく、スイートバジル、ジェノベーゼバジル、レモンバジル、ホーリーバジル、シナモンバジル、タイバジル、マンモスバジル、タイレモンバジル、ライムバジル、リコリスバジル、又はアフリカンブルーバジルが挙げられる。
バジルは、粉砕操作又は抽出操作を行う際に、生のまま用いてもよく、乾燥(例えば、凍結乾燥)させたものを用いてもよい。抽出する場合は、抽出効率が向上するように、破砕物又は粉体の状態に加工することが好ましい。
【0010】
《コリアンダー》
本発明に用いるコリアンダー(Coriandrum sativum L)の使用部位は、特に限定されるものではなく、植物全体、根、茎、葉、花、果実、若しくは種子、又はそれらの少なくとも2種以上の混合物を挙げられるが、好ましくは葉、茎、又は根である。コリアンダーは、粉砕操作又は抽出操作を行う際に、生のまま用いてもよく、乾燥(例えば、凍結乾燥)させたものを用いてもよい。抽出する場合は、抽出効率が向上するように、破砕物又は粉体の状態に加工することが好ましい。コリアンダーは、タイ語でパクチーとも呼ばれ、特に生食する葉をパクチーと称することがある。
【0011】
《粉砕物》
本発明におけるバジル又はコリアンダーの粉砕物は、バジル又はコリアンダーが粉砕された状態のものであれば特に限定されるものではないが、例えば、粉末状、粒状、又はペースト状の粉砕物が挙げられるが、好ましくは粉末である。また、粉末を、例えば、キューブ状、ブロック状、又は顆粒状に成型又は造粒したものも好ましく使用できる。粉砕物に加工するための処理は、特に限定されないが、例えば、クラッシャー、ミル、ブレンダー、ミキサー、及び石臼などの粉砕用の機器又は器具を用いて、当業者が通常使用する任意の方法により植物体を粉砕する処理が挙げられる。粉砕前に、植物体を乾燥してもよい。乾燥の処理法としては、凍結乾燥、減圧乾燥、送風乾燥又は加熱乾燥が挙げられる。
【0012】
本発明の抗肥満剤に含まれるバジル又はコリアンダーが粉砕物である場合、限定されるものではないが、例えば、粉砕物の平均最長径が、0.01~2mm、好ましくは、0.01~1.5mm、より好ましくは0.01~1mm、さらに好ましくは0.01~0.75mm、最も好ましくは0.01~0.5mmのものを使用することができる。また、粉砕物の90重量%以上が、0.01~2mm、好ましくは、0.01~1.5mm、より好ましくは0.01~1mm、さらに好ましくは0.01~0.75mm、最も好ましくは0.01~0.5mmの最長径を有するものを使用することができる。また、粉砕物の90重量%以上が、JIS試験篩いメッシュ換算表において、8.6メッシュ(2mm)、10メッシュ(1.7mm)、16メッシュ(1mm)、又は30メッシュ(0.5mm)を通過するものを使用することができる。粉砕物の最長径が2mm以下であると、本発明の抗肥満効果が向上することから、最長径が2mm以下のものを使用することが好ましい。粉砕物の平均最長径の計測は、粒径を計測するための公知の機器を使用して行うことができる。また、粉砕物の中から任意で100個を選択して、それらの最長径を実体顕微鏡を用いて測定し、それらの平均を計算することで算出することもできる。
【0013】
《抽出物》
有効成分を含む抽出物は、植物に由来する成分の抽出に用いられる通常の抽出方法によって抽出することができる。抽出法としては、限定されるものではないが、溶剤抽出法、水蒸気蒸留法、圧搾法(直接、高温、若しくは低温)、又は超臨界抽出法が挙げられる。また、これらの抽出法の組み合わせ、例えば圧搾した後に溶剤抽出する方法を用いてもよいが、好ましくは溶媒抽出である。抽出に用いるバジル又はコリアンダーは、生のまま用いてもよく、又は乾燥させたものを用いてもよい。また、抽出効率が向上するように、破砕物又は粉体の状態に加工してから抽出してもよい。
(溶剤抽出法)
溶剤抽出法で用いられる抽出溶媒は、抽出液中に有効成分が充分に抽出されることができる限りにおいては限定されるものではない。例えば、有機溶媒、水性溶媒、又は有機溶媒及び水性溶媒の混合物を使用することができるが、好ましくは水性溶媒、又は有機溶媒及び水性溶媒の混合物であり、より好ましくは水性溶媒である。
【0014】
有機溶媒としては、例えばアルコール、アセトン、ベンゼン、エステル、酢酸エチル、ヘキサン、クロロホルム、又はジエチルエーテルが挙げられるがアルコールが好ましい。アルコールとしては、抽出液中に有効成分が充分に抽出されることができる限りにおいては限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、及びブチルアルコール等の炭素数1~5の一価アルコール、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、及びグリセリン等の炭素数2~5の多価アルコールが挙げられる。
【0015】
水性溶媒としては、水を含んでいる限りにおいて限定されるものではなく、例えば水、生理食塩水、又は緩衝液などを使用することができる。緩衝液としては、リン酸緩衝液、リン酸ナトリウム緩衝液、炭酸ナトリウム緩衝液、クエン酸緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、及びトリス緩衝液などが挙げられる。好ましい水性溶媒は、リン酸ナトリウム緩衝液である。前記水性溶媒のpHは、特に制限されない。
【0016】
本発明の抗肥満剤に用いる抽出物は、有機溶媒と水性溶媒との混合物により抽出することができる。抽出溶媒中に含まれる水性溶媒の量は、抽出液中に有効成分が充分に抽出されることができる限りにおいては限定されないが、抽出溶媒の全体量に対して水性溶媒の含有量は、例えば、50重量%以上、70重量%以上、又は90重量%以上であることができる。
【0017】
前記抽出物を溶剤抽出法で抽出する場合、抽出温度は、抽出液中に有効成分が充分に抽出されることのできる温度である限り、特に限定されるものではないが、-50℃~100℃であることが好ましく、-25℃~50℃であることがより好ましく、-25℃~25℃であることがさらに好ましく、-10℃~10℃であることがさらに好ましく、0℃~10℃であることが最も好ましい。
【0018】
また、抽出の際には、抽出効率が向上するように、撹拌又は振盪しながら実施することが好ましい。抽出時間は、例えば、根、茎、葉、花、果実、又は種子などの使用部分に応じて適宜決定することができる。また、抽出時間は、バジル又はコリアンダーの状態、すなわち、生若しくは乾燥物であるか、又は破砕物若しくは粉体の状態に加工した場合にはその加工状態に応じて適宜決定することができる。さらに、抽出時間は、抽出液の温度、又は撹拌若しくは振盪の有無などの抽出条件に応じて、適宜決定することができる。抽出時間は、通常、1分~72時間であり、1時間~48時間であることが好ましく、12時間~36時間であることが最も好ましい。
【0019】
(水蒸気蒸留法)
本発明の抗肥満剤に含まれるバジル又はコリアンダーの抽出物は、水蒸気蒸留法により抽出することができる。水蒸気蒸留法とは、カラムに充填した原料に水蒸気を通気し、水蒸気に伴われて留出してくる香気成分を水蒸気とともに凝縮させる方法である。蒸留手段として、加圧水蒸気蒸留、常圧水蒸気蒸留、及び減圧水蒸気蒸留のいずれかを採用することができる。
【0020】
(圧搾法)
圧搾法とは、バジル又はコリアンダーに物理的に圧力をかけて、抽出物を抽出する方法である。常温で行う直接圧搾法、高温で行う高温圧搾法、及び低温で行う低温圧搾法がある。本発明の抗肥満剤に含まれる抽出物は、いずれの圧搾法を用いても抽出可能である。
【0021】
(超臨界抽出法)
本発明の抗肥満剤に含まれる抽出物は、超臨界抽出法を用いて抽出可能である。超臨界抽出法とは、超臨界状態にある物質を用いて特定の植物から抽出物を抽出する方法である。超臨界状態にある物質としては、例えば二酸化炭素を用いることができる。超臨界状態にある二酸化炭素は、強力な溶解力を有するため、コーヒーの脱カフェイン、又は植物などの天然原料からの香料及び医薬品成分抽出にも一般に用いられている。
【0022】
《有効成分》
本発明の抗肥満剤に含まれる有効成分は、バジル又はコリアンダーから抽出される抽出物に含まれている。したがって、バジル又はコリアンダーは抗肥満効果を有する有効成分を含んでおり、バジル又はコリアンダーの粉砕物も、抽出物に含まれる有効成分を含んでいる。実際に実施例に示すように、バジル又はコリアンダーの粉砕物は、抗肥満剤としての効果を示している。バジル又はコリアンダー抽出物に含まれる有効成分としては、バジル又はコリアンダー抽出物から分画した活性成分を含む画分、又は精製した活性成分でもよい。
【0023】
《抗肥満作用》
肥満の判定基準としては、BMI(Body Mass Index)が使用されることが多く、WHOは、BMIが30以上の人を肥満と判定しており、一方、日本ではBMIが25以上の人を肥満と判定している。また、肥満症とは、肥満に関連する健康障害を有する状態、又はそのような健康障害が予測される程度に内臓脂肪が過剰に蓄積した状態を意味し、肥満症の場合は、減量治療が必要である。
本発明の抗肥満剤は肥満の予防又は抑制にも有効であり、そして肥満症の予防又は治療にも有効である。
本発明の抗肥満剤の抗肥満作用としては、肥満又は肥満症が抑制される限りにおいて、特に限定されるものではないが、体重の低下、肝臓重量の低下、脂肪分解酵素(例えば、CPT1)の増加、脂肪合成酵素(例えば、SREBP1c)の低下、又は褐色細胞の増加若しくは分化誘導が挙げられる。
【0024】
本発明の抗肥満剤の投与剤型としては、特には限定がなく、経口剤及び非経口剤を挙げることができるが、経口剤が好ましい。前記経口剤は、例えば、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、及び丸剤等の固形状又は粉末状製剤、並びに懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、及びエキス剤等の液状製剤を挙げることができる。非経口剤としては、例えば、注射剤を挙げることができる。
【0025】
本発明の抗肥満剤は、バジル若しくはコリアンダー粉砕物又はバジル若しくはコリアンダー抽出物から成るものでもよく、またバジル若しくはコリアンダー粉砕物又はバジル若しくはコリアンダー抽出物を含むものでもよい。本発明の抗肥満剤が、バジル若しくはコリアンダー粉砕物又はバジル若しくはコリアンダー抽出物を含むものである場合、他の添加剤を含むことができる。
【0026】
本発明の抗肥満剤が経口剤である場合、他の添加剤としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、乳化剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、酸化防止剤、又は懸濁化剤を挙げることができ、具体的には、例えば、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ぶどう糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどであることができる。
【0027】
本発明の抗肥満剤が非経口剤である場合、他の添加剤としては、生理食塩水若しくはリンゲル液等の水溶性溶剤、植物油若しくは脂肪酸エステル等の非水溶性溶剤、ブドウ糖若しくは塩化ナトリウム等の等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、又は乳化剤などを挙げることができる。
【0028】
本発明の抗肥満剤は、バジル若しくはコリアンダー粉砕物又は抽出物を、90重量%以上、50重量%以上、10重量%以上、又は1重量%以上含むことができる。
【0029】
本発明の抗肥満剤の投与量又は摂取量は、製剤形態、並びに使用する対象の年齢、性別、肥満又は肥満症の程度などに応じて適宜調整することができるが、当該抗肥満剤を投与又は摂取することで、肥満又は肥満症を予防するか、又は肥満又は肥満症を緩和若しくは治療することができる量であることが好ましい。具体的には、バジル若しくはコリアンダー抽出物の添加量に換算して、0.01~1000mg/kg体重/日、好ましくは、0.1~750mg/kg体重/日、より好ましくは1~500mg/kg体重/日、さらに好ましくは5~400mg/kg体重/日、さらに好ましくは10~300mg/kg体重/日、さらに好ましくは15~200mg/kg体重/日、又は最も好ましくは20~150mg/kg体重/日であることができる。もちろん、上記の投与法は一例であり、他の投与法であってもよい。ヒトへの抗肥満剤の投与方法、投与量、投与期間、及び投与間隔等は、管理された臨床治験によって決定されることが望ましい。
【0030】
本発明の抗肥満剤は、ヒトに対して投与することができるが、投与対象はヒト以外の動物であってもよく、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット、及びリス等のペット;牛及び豚等の家畜;マウス、ラット等の実験動物;並びに、動物園等で飼育されている動物等が挙げられる。
【0031】
本発明の抗肥満剤は、肥満予防又は治療用医薬組成物であることができる。前記医薬組成物には、医薬品及び医薬部外品が含まれる。
【0032】
《作用》
本発明の抗肥満剤に含まれるバジル又はコリアンダーの粉砕物又は抽出物に抗肥満作用を示す有効成分が含まれている。この抗肥満作用を示す有効成分は、肝臓重量の低下によって、脂肪肝を抑制することができると推定される。また、脂肪分解酵素の産生の促進、及び/又は脂肪合成酵素の産生の抑制によって、肥満(肥満症)を予防又は治療できると考えられる。
【0033】
[2]肥満の予防又は治療用食品組成物
本発明の肥満の予防又は治療用食品組成物は、前記抗肥満剤と飲食品とを含む。
【0034】
前記飲食品は、食品及び飲料を含む。食品としては、具体的には、サラダなどの生鮮調理品;ステーキ、ピザ、ハンバーグなどの加熱調理品;野菜炒めなどの炒め調理品;トマト、ピーマン、セロリ、ニガウリ、ニンジン、ジャガイモ、及びアスパラガスなどの野菜及びこれら野菜を加工した調理品;クッキー、パン、ビスケット、乾パン、ケーキ、煎餅、羊羹、プリン、ゼリー、アイスクリーム類、チューインガム、クラッカー、チップス、チョコレート及び飴等の菓子類;うどん、パスタ、及びそば等の麺類;かまぼこ、ハム、及び魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品;チーズ、クリーム、及びバターなどの乳製品;みそ、しょう油、ドレッシング、ケチャップ、マヨネーズ、スープの素、麺つゆ、カレー粉、みりん、ルウ等の調味料類;豆腐などの大豆食品;ふりかけ、佃煮、シリアル等の農水産加工品;並びにこんにゃくなどを挙げることができる。
【0035】
飲料としては、例えば、コーヒー飲料;ココア飲料;前記の野菜から得られる野菜ジュース;グレープフルーツジュース、オレンジジュース、ブドウジュース、及びレモンジュース等の果汁飲料;緑茶、紅茶、煎茶、及びウーロン茶等の茶飲料;ビール、ワイン(赤ワイン、白ワイン、又はスパークリングワインなど)、清酒、梅酒、発泡酒、ウィスキー、ブランデー、焼酎、ラム、ジン、及びリキュール類等のアルコール飲料;乳飲料;豆乳飲料;流動食;並びにスポーツ飲料などを挙げることができる。
【0036】
食品又は飲料には、動物に対する飼料及び飲料が含まれる。対象となる動物は、例えば、ヒトなどの霊長類、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、又はマウス等が挙げられる。
【0037】
これらの食品又は飲料には、所望により、酸化防止剤、香料、酸味料、着色料、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、香辛料、pH調整剤、安定剤、植物油、動物油、糖及び糖アルコール類、ビタミン、有機酸、果汁エキス類、野菜エキス類、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品添加物及び食品素材を単独で又は2種以上組み合わせて配合することができる。これらの食品素材及び食品添加物の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲内で適宜決定することができる。
【0038】
これらの食品又は飲料は、例えば、レトルト及びオートクレーブなどの加熱加圧滅菌、バッチ式殺菌、プレート殺菌、通電加熱殺菌、マイクロ波加熱殺菌、並びに、インジェクション及びインフュージョンなどのスチーム殺菌などの一般的な殺菌処理を行うことができる。
【0039】
食品及び飲料には、機能性食品(飲料)及び健康食品(飲料)が含まれる。本明細書において「健康食品(飲料)」とは、健康に何らかの効果を与えるか、あるいは、効果を期待することができる食品又は飲料を意味し、「機能性食品(飲料)」とは、前記「健康食品(飲料)」の中でも、生体調節機能(すなわち、肥満若しくは肥満症の予防、又は肥満若しくは肥満症の緩和若しくは治療の機能)を充分に発現することができるように設計及び加工された食品又は飲料を意味する。機能性食品及び健康食品は、顆粒状、固形状、液状、カプセル状、ゲル状、又は錠剤状であることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0041】
《実施例1》
本実施例では、コリアンダー及びスイートバジルの抗肥満作用を、肥満から重度の糖尿病を発症するKKAyマウスを用いて検討した。
7週齢のKKAy雄マウス25匹を、対照群(C群)、高脂肪・高ショ糖食群(H群)、高脂肪・高ショ糖食+コリアンダー(パクチー)粉末摂取群(HP群)、及び高脂肪・高ショ糖食+バジル粉末添加群(HB群)の4群に分け、4週間飼育した。コリアンダー(パクチー)及びバジルの葉を凍結乾燥後すぐにミキサー用いて粉末化し、高脂肪・高ショ糖食に1%(w/w)添加した。添加分はコーンスターチで置換した。飼育期間終了後、採血及び解剖を行い、分析を行った。
HP群においては、
図1aに示すように、肝臓重量は、C群に比べて、高脂肪・高ショ糖食負荷のH群で有意な増加が見られた。一方、コリアンダー(パクチー)を摂取させたHP群では、H群と比較して肝臓重量の有意な低下が見られた。また、肝臓中のβ酸化系酵素の1つであるCPT1αのmRNAの発現量をリアルタイムPCR法で定量した。CPT1αのmRNAは、H群に比べてHP群で高い傾向が見られた(
図1b)。従って、コリアンダー(パクチー)には、脂
肪分解を活発にする成分が含まれており、肥満の抑制に有効であると考えられた。
【0042】
HB群においても、
図2aに示すように肝臓重量が有意に抑制された。また、TG合成に関わるSREPB1cのmRNAの発現量をリアルタイムPCR法で定量した。は、H群と比較してHB群で低下する傾向があった(
図2b)。従って、バジルには脂肪の合成を減少させる成分が含まれており、肥満の抑制に有効であると考えられた。
【0043】
《実施例2》
本実施例では、細胞を用いて、コリアンダー(パクチー)の抽出物のCPT1αの活性化を検討した。
パクチーの凍結乾燥物にエタノールを9倍量添加して、エタノール抽出を行った。抽出物はエバポレーターにて溶媒を除去後、DMSOにて溶解し、細胞添加用のサンプルを作成した。マウス肝臓細胞Hepa-1細胞の培地に、抽出物を5μg/mL又は25μg/mL添加し、6時間培養し、更に無血清培地に交換し8時間培養した。細胞を回収し、CPT1αのmRNAをリアルタイムPCR法で定量した。CPT1αのmRNA発現量は、コントロールに比べてコリアンダー(パクチー)のエタノール抽出物を25μg/mL添加することによって、有意に上昇した(
図3)。従って、コリアンダー(パクチー)には肝臓の脂
肪分解を有意に促進する成分が含まれると考えられた。
【0044】
《実施例3》
本実施例では、コリアンダー(パクチー)及びバジルの抽出物のマウス脂肪前駆細胞(3T3-L1細胞)に対する作用を検討した。具体的には、3T3-L1細胞とマウスマクロファージ細胞(RAW264.7細胞)を共培養し、3T3-L1細胞がRAW264.7細胞に作用して惹起される炎症状態に対するコリアンダー(パクチー)及びバジルの抽出物の作用を検討した。
パクチー及びバジルを、それぞれ凍結乾燥後、粉末状にし、80%メタノールを用いて抽出した。抽出後、エバポレーターにて溶媒を除去し、DMSOで5mg/mLまたは25mg/mLになるようにそれぞれ再溶解した。マウスの脂肪前駆細胞である3T3-L1細胞を、DMEM+10%FBS培地にて培養した。コンフルエントに達した時点で継代を行い、薬剤(1μg/mLインスリン、0.5mM 3-イソブチル-1-メチルキサンチン(IBMX)、0.25μM デキサメタゾン(DEX))による10日間の分化誘導を行った。その後、パクチー又はバジル抽出物(終濃度5μg/mL、25μg/mL)を添加し、24時間培養を行った。24時間後に、RAW264.7細胞を添加し、12時間共培養を行った。細胞回収後、リアルタイムPCRを用いて、IL-6又はIL-1β遺伝子の発現量を測定した。結果を
図4に示す。
【0045】
3T3-L1細胞及びRAW264.7細胞を共培養することにより、炎症性サイトカインであるIL-6及びIL-1βのmRNAレベルがコントロールに比べて有意に上昇した。すなわち、共培養することにより、RAW264.7細胞に炎症が惹起された。
3T3-L1細胞に、パクチー又はバジル抽出物を予め添加して培養することにより、パクチー25μg/mLで、IL-6のmRNAが有意に低下した。また、バジルの5及び25μg/mLで、IL-1βのmRNAの発現が有意に低下した。
以上の結果より、パクチー及びバジル抽出物は、脂肪細胞に対する抗炎症効果を有することが示された。
【0046】
《実施例4》
脂肪細胞はTNFレセプターファミリーの一種である4-1BBを有しており、マクロファージの膜結合型リガンドである4-1BBLと結合することにより、炎症誘導が惹起されると報告されている。本実施例では、マウス脂肪前駆細胞(3T3-L1細胞)の4-1BBのmRNA発現量に対するパクチー抽出物及びバジル抽出物の作用を検討した。実施例3で得られたパクチー抽出物及びバジル抽出物を、同様に、終濃度が5μg/mL、又は25μg/mLになるように添加し、24時間培養を行った。その後、RAW264.7細胞を培養し、12時間共培養を行った。細胞回収後、リアルタイムPCRを用いて、4-1BB遺伝子の発現量を測定した。結果を
図5に示す。
バジル抽出物によって、4-1BBのmRNAの発現量が有意に低下した。以上の結果より、バジル抽出物の中にはTNFレセプターファミリーの一種である4-1BBの転写を抑制できる物質が含有されていると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の抗肥満剤及び食品組成物は、肥満又は肥満症の予防又は治療に用いることができる。