(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】脂質ナノ粒子
(51)【国際特許分類】
A61K 9/127 20060101AFI20241119BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20241119BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20241119BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20241119BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20241119BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241119BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20241119BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20241119BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
A61K9/127
A61K47/18
A61K47/24
A61K47/28
A61K47/34
A61K48/00
A61K31/7088
A61P37/02
A61K9/107
(21)【出願番号】P 2021526847
(86)(22)【出願日】2020-06-17
(86)【国際出願番号】 JP2020023773
(87)【国際公開番号】W WO2020262150
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2019116594
(32)【優先日】2019-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】原島 秀吉
(72)【発明者】
【氏名】イブラヒム イクラミ アブデルラヒム カリル
(72)【発明者】
【氏名】木村 誠悟
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-523411(JP,A)
【文献】特開2013-245190(JP,A)
【文献】米国特許第05660855(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-9/72
A61K47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアミノプロパンと1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミンと
コレステロールとポリアルキレングリコール修飾脂質とからなる脂質の成分を含有しており、
1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアミノプロパンの含有量と1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミンの含有量の和に対する、1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアミノプロパンの含有量の割合が
44~
65モル%であり、
脂質ナノ粒子を構成する全脂質量に対する、1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアミノプロパンの含有量と1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミンの含有量の和の割合が60~
65モル%であ
り、
前記脂質ナノ粒子を構成する全脂質量に対する、前記ポリアルキレングリコール修飾脂質の割合が1~3モル%である、脂質ナノ粒子。
【請求項2】
核酸をさらに含有する、請求項
1に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項3】
前記核酸が、脾臓細胞内で発現させる遺伝子である、請求項
2に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子を有効成分とする、医薬用組成物。
【請求項5】
免疫治療又は遺伝子治療に用いられる、請求項
4に記載の医薬用組成物。
【請求項6】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子であって、脾臓細胞内で発現させる目的の外来遺伝子を封入した脂質ナノ粒子を、被験動物(但し、ヒトを除く)へ投与し、前記被験動物の脾臓内で前記外来遺伝子を発現させる、外来遺伝子の発現方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脾臓に選択的に送達可能な遺伝子送達キャリアとして有用な脂質ナノ粒子に関する。
本願は、2019年6月24日に、日本に出願された特願2019-116594号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療は、従来の低分子医薬や抗体医薬が治療対象とすることができなかった遺伝子やタンパク質を標的可能であり、次世代の各種難治性疾患に対する治療法として期待されている。遺伝子治療の実現には、治療用遺伝子を標的細胞へ導入するためのベクターが必要であり、ウイルスベクターと非ウイルスベクターに大別される。遺伝子発現の高効率性から、遺伝子治療における多くの臨床試験ではウイルスベクターが用いられている(例えば、非特許文献1参照。)。しかし、高い免疫原性や毒性、大量製造が難しいといった問題がある。特に、ウイルスベクター由来の免疫応答による死亡例や重篤な副作用が報告されてから(非特許文献2又は3参照。)、より安全で容易に製造可能な非ウイルスベクターの開発が望まれている。
【0003】
2012年に最初の遺伝子治療薬となる「Glybera」が欧州で販売承認された。これに続いて「IMLYGIC」、「Strimvelis」、及び「Zalmoxis」の販売が欧州で承認されている。また、近年注目を浴びているCAR-T療法も承認されている。しかし、いずれの治療薬もウイルスベクターを用いており、遺伝子導入もex vivo又は局所投与で行われている。Ex vivoでの遺伝子導入には、標的細胞の採取、培養操作、遺伝子導入など多くの過程が存在し、実用的、規制的なハードルが高い。また、局所投与は、体の深部になると侵襲性が高くなり、患者への負担が大きくなる。これらの過程が必要ない全身投与(静注型)in vivo遺伝子導入は、非常に魅力的であるが、ウイルスベクターの全身投与は先述した免疫原性や、臓器特異性の面で難しい。これに対して、非ウイルスベクターは、全身投与による毒性が少ない。そこで、リポソームやミセルなど様々なキャリアを用いて、非ウイルスベクターによる臓器特異的な遺伝子導入の研究がなされている(例えば、非特許文献4又は5参照。)。
【0004】
一方で、脂溶性薬物や、siRNA(short interfering RNA)又はmRNA等の核酸を封入し、標的細胞へ送達するためのキャリアとして、脂質ナノ粒子(LNP)が利用されている。例えば、siRNAなどの核酸を効率的に標的細胞内へ送達するためのキャリアとなる脂質ナノ粒子として、pH感受性カチオン性脂質を構成脂質として含む脂質ナノ粒子が報告されている(特許文献1)。また、肝臓特異的に高い遺伝子発現を示す脂質ナノ粒子も報告されている(非特許文献6参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Lukashev et al., Biochemistry. Biokhimiia, 2016, vol.81, p.700-708.
【文献】Marshall, Science, 1999, vol.286, p.2244-2245.
【文献】Hacein-Bey-Abina et al., Science, 2003, vol.302, p.415-419.
【文献】Yin et al., Nature Reviews Genetics, 2014, vol.15, p.541-555.
【文献】Yellepeddi et al., Austin Therapeutics, 2015, vol.2(1), id1014.
【文献】Khalil et al., Journal of Controlled Release, 2011, vol. 156(3), p.374-380.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
肝臓は、その血管構造や解剖学的生理学的性質から、全身投与したキャリアのアクセスが容易である。このため、肝臓を標的とした遺伝子送達キャリアの報告は多い。一方で、肝臓以外の臓器で特異的に遺伝子発現を達成するキャリアは依然として少ない。肝臓以外の特定の臓器に選択的に送達可能な遺伝子送達キャリアの開発が、全身投与型遺伝子治療実現のために重要である。
【0008】
脾臓は、血液濾過機能と免疫システムを担う重要な臓器である。脾臓には、B細胞、樹状細胞、マクロファージ等の多くの免疫細胞が存在しており、免疫治療や遺伝子治療の標的臓器として好ましい。そこで、本発明は、脾臓に選択的に送達可能な遺伝子送達キャリアとなる脂質ナノ粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、脂質ナノ粒子を構成する脂質成分として1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアミノプロパン(DODAP)と1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン(DOPE)を特定の比率となるように含有する脂質ナノ粒子が、脾臓特異的に高発現する遺伝子送達キャリアとして有用であることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の脂質ナノ粒子を提供するものである。
[1] DODAPとDOPEを含有しており、
DODAPとDOPEの含有量の和に対するDODAPの含有量の割合が、10~75モル%であり、
脂質ナノ粒子を構成する全脂質量に対するDODAPとDOPEの含有量の和の割合が、60~88モル%である、脂質ナノ粒子。
[2] 前記脂質ナノ粒子を構成する全脂質量に対するDODAPとDOPEの含有量の和の割合が、65~88モル%であり、
DODAPとDOPEの含有量の和に対する、DODAPの含有量の割合が15~75モル%である、前記[1]の脂質ナノ粒子。
[3]前記脂質ナノ粒子を構成する全脂質量に対するDODAPとDOPEの含有量の和の割合が、60~65モル%であり、
DODAPとDOPEの含有量の和に対する、DODAPの含有量の割合が44~65モル%である、前記[1]の脂質ナノ粒子。
[4] さらに、ステロール及びポリアルキレングリコール修飾脂質を含有しており、前記脂質ナノ粒子を構成する全脂質量に対する、前記ポリアルキレングリコール修飾脂質の割合が1~3モル%である、前記[1]~[3]のいずれかの脂質ナノ粒子。
[5] 核酸をさらに含有する、前記[1]~[4]のいずれかの脂質ナノ粒子。
[6] 前記核酸が、脾臓細胞内で発現させる遺伝子である、前記[5]の脂質ナノ粒子。
[7] 前記[1]~[6]のいずれかの脂質ナノ粒子を有効成分とする、医薬用組成物。
[8] 免疫治療又は遺伝子治療に用いられる、前記[7]の医薬用組成物。
[9] 前記[1]~[6]のいずれかの脂質ナノ粒子であって、脾臓細胞内で発現させる目的の外来遺伝子を封入した脂質ナノ粒子を、被験動物(但し、ヒトを除く)へ投与し、前記被験動物の脾臓内で前記外来遺伝子を発現させる、外来遺伝子の発現方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る脂質ナノ粒子は、封入された遺伝子を脾臓内で高発現させることができる。このため、当該脂質ナノ粒子は、免疫治療や遺伝子治療に用いられる脾臓特異的遺伝子送達キャリアとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】実施例1において、pLucを封入した各脂質ナノ粒子を、HeLa細胞に取り込ませてルシフェラーゼ活性を測定した結果を示した図である。
【
図1B】実施例1において、pLucを封入した各脂質ナノ粒子を投与したマウスにおける、各臓器のルシフェラーゼ活性を測定した結果を示した図である。
【
図2A】実施例1において、各脂質ナノ粒子の単位質量当たりの臓器移行量(投与量に対する各臓器への移行量の割合(%)を臓器質量(g)で補正した値)の測定結果を示した図である。
【
図2B】実施例1において、各脂質ナノ粒子の臓器移行後の遺伝子発現効率([遺伝子発現活性]/[臓器移行量])の測定結果(B)を示した図である。
【
図3】実施例2において、pLucを封入した各脂質ナノ粒子を投与したマウスにおける、各臓器のルシフェラーゼ活性を測定した結果を示した図である。
【
図4A】実施例2において、各脂質ナノ粒子の単位質量当たりの臓器移行量の測定結果を示した図である。
【
図4B】実施例2において、各脂質ナノ粒子の臓器移行後の遺伝子発現効率([遺伝子発現活性]/[臓器移行量])の測定結果(B)を示した図である。
【
図5】実施例3において、pLucを封入した各脂質ナノ粒子を投与したマウスにおける、各臓器のルシフェラーゼ活性を測定した結果を示した図である。
【
図6A】実施例3において、各脂質ナノ粒子の単位質量当たりの臓器移行量の測定結果を示した図である。
【
図6B】実施例3において、各脂質ナノ粒子の臓器移行後の遺伝子発現効率([遺伝子発現活性]/[臓器移行量])の測定結果(B)を示した図である。
【
図7】実施例4において、pLucを封入し、DODAPとDOPEの含有比率の異なる各脂質ナノ粒子をマウスに投与し、各臓器のルシフェラーゼ活性を測定した結果を示した図である。
【
図8A】
図3における結果について、DODAPとDOPEの含有比率ごとに示した図であり、全脂質量に対するDODAPとDOPEの総量が85モル%の脂質ナノ粒子を投与したマウスにおける、各臓器のルシフェラーゼ活性を測定した結果を示した図である。
【
図8B】実施例5において、pLucを封入し、全脂質量に対するDODAPとDOPEの総量が70モル%の脂質ナノ粒子を投与したマウスにおける、各臓器のルシフェラーゼ活性を測定した結果を示した図である。
【
図8C】実施例5において、pLucを封入し、全脂質量に対するDODAPとDOPEの総量が60モル%の脂質ナノ粒子を投与したマウスにおける、各臓器のルシフェラーゼ活性を測定した結果を示した図である。
【
図9】実施例6において、pLucを封入した脂質ナノ粒子を投与したマウスにおける、各臓器のルシフェラーゼ活性を測定した結果を示した図である。
【
図10A】実施例6において、DiD修飾された脂質ナノ粒子をマウスへ投与し、脾臓内分布を調べた結果を示した図である。
【
図10B】実施例6において、DiD修飾された脂質ナノ粒子を投与したマウスの脾臓内の4種の細胞(T細胞、B細胞、樹状細胞及びマクロファージ細胞)の全量のDiD蛍光強度を100%とした時の各細胞の相対DiD蛍光強度(%)を示した図である。
【
図10C】実施例6において、DiD修飾された脂質ナノ粒子を投与したマウスの脾臓内の4種の各細胞におけるDiD蛍光陽性細胞の比率(%)を示した図である。
【
図11】実施例7において、各脂質ナノ粒子を投与したマウスに、EG7-OVAを皮下移植し、腫瘍体積をモニタリングした結果を示した図である。
【
図12】実施例8において、EG7-OVAを皮下移植したマウスに、各脂質ナノ粒子を投与し、腫瘍体積をモニタリングした結果を示した図である。
【
図13】実施例9において、各脂質ナノ粒子を投与したマウスの血清中の各種サイトカインを測定した結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施態様について具体的に説明する。本願明細書において、「X1~X2(X1とX2は、X1<X2を満たす実数)」は、「X1以上X2以下」を意味する。
【0014】
本発明に係る脂質ナノ粒子は、DODAPとDOPEを含有しており、DODAPとDOPEの含有量の和に対するDODAPの含有量の割合([DODAP(モル)]/([DODAP(モル)]+[DOPE(モル)])×100%)(以下、「DODAP/(DODAP+DOPE)]」と表すことがある。)が、10~75モル%であり、脂質ナノ粒子を構成する全脂質量に対するDODAPとDOPEの含有量の和の割合(([DODAP(モル)]+[DOPE(モル)])/[脂質ナノ粒子を構成する全脂質(モル)]×100%)(以下、「[(DODAP+DOPE)/Total]」と表すことがある。)が、60~88モル%である。本発明に係る脂質ナノ粒子は、脾臓特異的な遺伝子発現活性が高い。このため、本発明に係る脂質ナノ粒子は、脾臓細胞を標的細胞とする遺伝子発現キャリアとして非常に有用である。
【0015】
本発明に係る脂質ナノ粒子において[(DODAP+DOPE)/Total]が65~88モル%の場合には、[DODAP/(DODAP+DOPE)]は15~75モル%であることが好ましく、15~60モル%であることがより好ましい。
本発明に係る脂質ナノ粒子において、[(DODAP+DOPE)/Total]が60~65モル%の場合には、[DODAP/(DODAP+DOPE)]は44~65モル%であることが好ましく、45~63モル%であることがより好ましく、47~60モル%であることがさらに好ましい。
【0016】
本発明に係る脂質ナノ粒子の構成脂質のうち、DODAPとDOPE以外の脂質としては、一般的にリポソームを形成する際に使用される脂質を用いることができる。このような脂質としては、例えば、リン脂質、ステロール、又は飽和若しくは不飽和の脂肪酸等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
リン脂質としては、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、セラミドホスフォリルグリセロールホスファート、ホスファチジン酸などを挙げることができる。
ステロールとしては、例えば、コレステロール、コレステロールコハク酸、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール、ジヒドロコレステロール等の動物由来のステロール;スチグマステロール、シトステロール、カンペステロール、ブラシカステロール等の植物由来のステロール(フィトステロール);チモステロール、エルゴステロール等の微生物由来のステロールなどが挙げられる。
本発明に係る脂質ナノ粒子としては、ステロールを含むことが好ましく、コレステロールを含むことがより好ましい。
【0018】
本発明に係る脂質ナノ粒子は、脂質成分としてポリアルキレングリコール修飾脂質を含有することが好ましい。ポリアルキレングリコールは親水性ポリマーであり、ポリアルキレングリコール修飾脂質を脂質膜構成脂質として用いて脂質ナノ粒子を構築することにより、脂質ナノ粒子の表面をポリアルキレングリコールで修飾することができる。ポリアルキレングリコールで表面修飾することにより、脂質ナノ粒子の血中滞留性などの安定性を高めることができる場合がある。
【0019】
ポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコールなどを用いることができる。ポリアルキレングリコールの重量平均分子量は、例えば300~10,000程度、好ましくは500~10,000程度、さらに好ましくは1,000~5,000程度である。
【0020】
例えば、脂質のポリエチレングリコールによる修飾には、ステアリル化ポリエチレングリコール(例えばステアリン酸PEG45(STR-PEG45)など)を用いることができる。その他、N-[カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000]-1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、n-[カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-5000]-1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-[カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-750]-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-[カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000]-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-[カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-5000]-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、1,2-ジミリストイル-rac-グリセロ-3-メトキシポリエチレングリコール-2000(PEG-DMG)などのポリエチレングリコール誘導体などを用いることもできるが、ポリアルキレングリコール化脂質はこれらに限定されることはない。
【0021】
本発明に係る脂質ナノ粒子を構成する全脂質量に対する、ポリアルキレングリコール修飾脂質の割合は、DODAPとDOPEによる脾臓特異的遺伝子発現活性を損なわない量であれば特に限定されるものではない。例えば、脂質ナノ粒子を構成する全脂質量に対する、ポリアルキレングリコール修飾脂質の割合は、1~3モル%とすることが好ましい。
【0022】
本発明に係る脂質ナノ粒子には、必要に応じて適宜の表面修飾などを行うことができる。
本発明に係る脂質ナノ粒子は、表面を親水性ポリマー等で修飾することにより、血中滞留性を高めることができる。これらの修飾基で修飾された脂質を脂質ナノ粒子の構成脂質として使用することにより、表面修飾を行なうことができる場合もある。
【0023】
本発明に係る脂質ナノ粒子の製造にあたり、血中滞留性を高めるための脂質誘導体として、例えば、グリコフォリン、ガングリオシドGM1、ホスファチジルイノシトール、ガングリオシドGM3、グルクロン酸誘導体、グルタミン酸誘導体、ポリグリセリンリン脂質誘導体などを利用することもできる。
また、血中滞留性を高めるための親水性ポリマーとして、ポリアルキレングリコールのほかにデキストラン、プルラン、フィコール、ポリビニルアルコール、スチレン-無水マレイン酸交互共重合体、ジビニルエーテル-無水マレイン酸交互共重合体、アミロース、アミロペクチン、キトサン、マンナン、シクロデキストリン、ペクチン、カラギーナンなどを表面修飾に用いることもできる。
【0024】
また、本発明に係る脂質ナノ粒子の核内移行を促進するために、例えば、脂質ナノ粒子を3糖以上のオリゴ糖化合物で表面修飾することもできる。3糖以上のオリゴ糖化合物の種類は特に限定されないが、例えば、3~10個程度の糖ユニットが結合したオリゴ糖化合物を用いることができ、好ましくは3~6個程度の糖ユニットが結合したオリゴ糖化合物を用いることができる。中でも、好ましくはグルコースの3量体ないし6量体であるオリゴ糖化合物を用いることができ、さらに好ましくはグルコースの3量体又は4量体であるオリゴ糖化合物を用いることができる。より具体的には、イソマルトトリオース、イソパノース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、又はマルトヘキサオースなどを好適に用いることができ、これらのうち、グルコースがα1-4結合したマルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、又はマルトヘキサオースがさらに好ましい。特に好ましいのはマルトトリオース又はマルトテトラオースであり、最も好ましいのはマルトトリオースである。
オリゴ糖化合物による脂質ナノ粒子の表面修飾量は特に限定されないが、例えば、総脂質量に対して1~30モル%程度、好ましくは2~20モル%程度、より好ましくは5~10モル%程度である。
【0025】
オリゴ糖化合物で脂質ナノ粒子を表面修飾する方法は特に限定されないが、例えば、脂質ナノ粒子をガラクトースやマンノースなどの単糖で表面を修飾したリポソーム(国際公開第2007/102481号)が知られているので、この刊行物に記載された表面修飾方法を採用することができる。上記刊行物の開示の全てを参照により本明細書の開示として含める。
【0026】
また、本発明に係る脂質ナノ粒子には、例えば、温度変化感受性機能、膜透過機能、遺伝子発現機能、及びpH感受性機能などのいずれか1つ又は2つ以上の機能を付与することができる。これらの機能を適宜付加することにより、脂質ナノ粒子の血液中での滞留性を向上させ、標的細胞におけるエンドサイトーシスの後にエンドソームから効率的に脂質ナノ粒子を脱出させて、封入された核酸を脾臓細胞内でより効率よく発現させることができる。
【0027】
本発明に係る脂質ナノ粒子は、トコフェロール、没食子酸プロピル、パルミチン酸アスコルビル、又はブチル化ヒドロキシトルエンなどの抗酸化剤、荷電物質、及び膜ポリペプチドなどからなる群から選ばれる1種又は2種以上の物質を更に含んでいてもよい。
正荷電を付与する荷電物質としては、例えば、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの飽和若しくは不飽和脂肪族アミンなどを挙げることができ、負電荷を付与する荷電物質としては、例えば、ジセチルホスフェート、コレステリルヘミスクシネート、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸などを挙げることができる。
膜ポリペプチドとしては、例えば、膜表在性ポリペプチド、又は膜内在性ポリペプチドなどが挙げられる。
これらの物質の配合量は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
【0028】
本発明に係る脂質ナノ粒子の大きさは、生体内の比較的深奥部に存在する脾臓細胞に高い送達効率が得られやすいことから、平均粒子径が400nm以下であることが好ましく、平均粒子径が300nm以下であることがより好ましい。なお、脂質ナノ粒子の平均粒子径とは、動的光散乱法(Dynamic light scattering:DLS)により測定された個数平均粒子径を意味する。動的光散乱法による測定は、市販のDLS装置等を用いて常法により行うことができる。
【0029】
本発明に係る脂質ナノ粒子の多分散度指数(PDI)は0.05~0.7程度、好ましくは0.1~0.6程度、さらに好ましくは0.2~0.6程度である。
ゼータ電位は-50mV~-10mVの範囲、好ましくは-45mV~-15mVの範囲とすることができる。
【0030】
本発明に係る脂質ナノ粒子の形態は特に限定されないが、例えば、水系溶媒に分散した形態として一枚膜リポソーム、多重層リポソーム、球状ミセル、又は不定型の層状構造物などを挙げることができる。本発明に係る脂質ナノ粒子としては、一枚膜リポソーム、多重層リポソームであることが好ましい。
【0031】
本発明に係る脂質ナノ粒子は、脂質膜で覆われた粒子内部に、標的の細胞内に送達する目的の成分を内包していることが好ましい。本発明に係る脂質ナノ粒子が粒子内部に内包する成分としては、内包可能な大きさであれば特に限定されるものではなく、本発明に係る脂質ナノ粒子には、核酸、糖類、ペプチド類、低分子化合物、金属化合物など任意の物質を封入することができる。
【0032】
本発明に係る脂質ナノ粒子に内包させる成分としては、核酸が好ましい。核酸としては、DNAであってもよく、RNAであってもよく、これらの類似体又は誘導体(例えば、ペプチド核酸(PNA)やホスホロチオエートDNAなど)であってもよい。本発明に係る脂質ナノ粒子に内包させる核酸は、1本鎖核酸であってもよく、2本鎖核酸であってもよく、線状であってもよく、環状であってもよい。
【0033】
本発明に係る脂質ナノ粒子に内包させる核酸は、標的細胞内で発現させるための外来遺伝子を含むことが好ましく、細胞内に取り込まれることによって外来遺伝子を細胞内で発現させるために機能する核酸であることがより好ましい。当該外来遺伝子は、標的細胞(好ましくは脾臓細胞)のゲノムDNA中に本来含まれている遺伝子であってもよく、ゲノムDNA中に含まれていない遺伝子であってもよい。このような核酸としては、発現させる目的の遺伝子をコードする塩基配列からなる核酸を含む遺伝子発現ベクターが挙げられる。当該遺伝子発現ベクターは、導入された細胞内において、染色体外遺伝子として存在するものであってもよく、相同組換えによりゲノムDNA中に取り込まれるものであってもよい。
【0034】
本発明に係る脂質ナノ粒子に内包させる遺伝子発現ベクターとしては、特に限定されるものではなく、一般的に遺伝子治療等で使用されるベクターを用いることができる。本発明に係る脂質ナノ粒子に内包させる遺伝子発現ベクターとしては、プラスミドベクター等の核酸ベクターであることが好ましい。プラスミドベクターは、環状のままであってもよく、予め線状に切断した状態で本発明に係る脂質ナノ粒子に封入させてもよい。遺伝子発現ベクターは、発現させる対象の遺伝子の塩基配列情報に基づいて、一般的に使用される分子生物学的ツールを利用して常法により設計でき、公知の各種の方法で製造することができる。
【0035】
本発明に係る脂質ナノ粒子に内包させる核酸は、標的細胞内に存在する標的遺伝子の発現を制御する機能性核酸であることも好ましい。当該機能性核酸としては、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、siRNA、microRNA等が挙げられる。また、細胞内でsiRNAを発現させるsiRNA発現ベクターであってもよい。siRNA発現ベクターとしては、市販のsiRNA発現ベクターから調製することができ、また、これを適宜改変してもよい。
【0036】
本発明に係る脂質ナノ粒子の製造方法は特に限定されず、当業者に利用可能な任意の方法を採用することができる。一例を挙げれば、全ての脂質成分をクロロホルムなどの有機溶媒に溶解し、エバポレータによる減圧乾固や噴霧乾燥機による噴霧乾燥を行うことによって脂質膜を形成した後、当該脂質ナノ粒子に封入させる成分、例えば核酸等を含む水系溶媒を乾燥した上記の混合物に添加し、さらにホモジナイザーなどの乳化機、超音波乳化機、又は高圧噴射乳化機などにより乳化することで製造することができる。また、リポソームを製造する方法としてよく知られている方法、例えば逆相蒸発法などによっても製造することができる。脂質ナノ粒子の大きさを制御したい場合には、孔径のそろったメンブランフィルターなどを用いて、高圧下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。
【0037】
水系溶媒(分散媒)の組成は特に限定されないが、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩液などの緩衝液、生理食塩水、細胞培養用の培地などを挙げることができる。これら水系溶媒(分散媒)は脂質ナノ粒子を安定に分散させることができるが、さらに、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、イノシトール、リボース、キシロース糖の単糖類、乳糖、ショ糖、セロビオース、トレハロース、マルトースなどの二糖類、ラフィノース、メレジノースなどの三糖類、シクロデキストリンなどの多糖類、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトールなどの糖アルコールなどの糖(水溶液)や、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、1,3-ブチレングリコールなどの多価アルコール(水溶液)などを加えてもよい。この水系溶媒に分散した脂質ナノ粒子を安定に長期間保存するには、凝集抑制などの物理的安定性の面から水系溶媒中の電解質を極力排除することが望ましい。また、脂質の化学的安定性の面からは水系溶媒のpHを弱酸性から中性付近(pH3.0~8.0程度)に設定し、及び/又は窒素バブリングなどにより溶存酸素を除去することが望ましい。
【0038】
得られた脂質ナノ粒子の水性分散物を凍結乾燥又は噴霧乾燥する場合には、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、イノシトール、リボース、キシロース糖の単糖類、乳糖、ショ糖、セロビオース、トレハロース、マルトースなどの二糖類、ラフィノース、メレジノースなどの三糖類、シクロデキストリンなどの多糖類、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトールなどの糖アルコールなどの糖(水溶液)を用いると安定性を改善できる場合がある。また、上記水性分散物を凍結する場合には、例えば、前記の糖類やグリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、1,3-ブチレングリコールなどの多価アルコール(水溶液)を用いると安定性を改善できる場合がある。
【0039】
遺伝子発現ベクターを封入した本発明に係る脂質ナノ粒子を動物個体に投与すると、当該脂質ナノ粒子に封入された遺伝子発現ベクターは、他の臓器よりも脾臓において選択的に発現する。同様に、siRNA発現ベクターを封入した本発明に係る脂質ナノ粒子を動物個体に投与すると、当該脂質ナノ粒子に封入されたsiRNA発現ベクターは、他の臓器よりも脾臓において選択的に発現し、当該発現ベクターが標的とする遺伝子の発現が抑制される。例えば、脾臓細胞内で発現させる目的の外来遺伝子を封入した本発明に係る脂質ナノ粒子を、被験動物へ投与すると、当該被験動物の脾臓内で当該外来遺伝子を発現させることができる。
【0040】
この脾臓に対する高選択的な遺伝子発現活性により、本発明に係る脂質ナノ粒子は、脾臓を標的とする遺伝子発現キャリアとして機能する。このため、本発明に係る脂質ナノ粒子は、免疫治療や遺伝子治療に用いられる医薬用組成物の有効成分として有用であり、特に、脾臓を標的臓器とする免疫治療や遺伝子治療に用いられる医薬用組成物の有効成分として有用である。
【0041】
本発明に係る脂質ナノ粒子が投与される動物は、特に限定されるものではなく、ヒトであってもよく、ヒト以外の動物であってもよい。非ヒト動物としては、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等の哺乳動物や、ニワトリ、ウズラ、カモ等の鳥類等が挙げられる。また、本発明に係る脂質ナノ粒子を動物に投与する際の投与経路は、特に限定されるものではないが、経静脈投与、経腸投与、筋肉内投与、皮下投与、経皮投与、経鼻投与、経肺投与等の非経口投与であることが好ましい。
【実施例】
【0042】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
[脂質ナノ粒子の調製]
以降の実験において、特に記載のない限り、脂質ナノ粒子は以下の通りにして調製した。
目的の脂質組成の脂質エタノール溶液(総脂質量:960nmol)を試験管内に調製し、デシケーター減圧下で一晩インキュベーションさせることによってエタノールをとばし、当該試験管の底に脂質膜を作製した。当該脂質膜を作製した試験管に、500μLのpDNA溶液(10mM HEPES、pH4、pDNA 30μg)を加え、室温で30分間インキュベーションした後、浴槽型ソニケーターで1分間ソニケーションした。その後、当該試験管内のリポソーム溶液を、遠心式限外ろ過デバイス(製品名:「Amicon Ultra (100kDa)」、メルク社製)に移し、1500×gで30分間遠心処理することにより限外ろ過した後、600μLのリン酸緩衝液(PBS、pH7.4)で回収した。回収されたリポソームのPBS懸濁液を、脂質ナノ粒子溶液として用いた。
【0044】
[脂質ナノ粒子の粒子径及びゼータ電位の測定]
脂質ナノ粒子の粒子径及びゼータ電位は、動的光散乱法を用いて粒子径を、DLS装置(製品名:「ゼータサイザー」、マルバーン・パナリティカル社製)を用いて測定した。
【0045】
[pDNA回収率及び脂質ナノ粒子への封入率の評価]
DNA定量試薬(製品名:「PicoGreen」、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、pDNA回収率及び脂質ナノ粒子への封入率を評価した。脂質ナノ粒子溶液をTEバッファー(10mM Tris-HCl、1mM EDTA、pH8)で40倍希釈し、デキストラン硫酸入りPicoGreen希釈液、デキストラン硫酸及びTriron X-100入り希釈液のそれぞれと等量混合し、分析用サンプルを調製した。この分析用サンプルを、プレートリーダーで蛍光を測定した。濃度既知のpDNA溶液を用いて作成した検量線に基づき、脂質ナノ粒子調製後のpDNA量と脂質ナノ粒子に封入されていないpDNA量を算出し、回収率及び封入率を、以下の式で算出した。
【0046】
【0047】
【0048】
[ルシフェラーゼ活性の評価]
ルシフェラーゼをコードしたpDNA(ルシフェラーゼ遺伝子を含むpDNA:pLuc)(配列番号1)を封入した脂質ナノ粒子をマウスに投与し、ルシフェラーゼ活性を指標にして、各臓器の遺伝子発現活性を評価した。
まず、pLucを封入した脂質ナノ粒子を、一匹当たりのpLuc投与量が30μgとなるように、ICRマウス(4週齢、オス)に尾静脈内投与し、投与から6時間後の肝臓、肺、脾臓を回収した。各臓器をハサミで細かく裁断した後、ライシスバッファー(100mM Tris-HCl、1mM EDTA、0.1% TritonX-100、pH7.8)中でビーズ破砕によりホモジェナイズした。得られたホモジェネートを遠心処理(15,000rpm、4℃、10分間)し、上清を回収した。10μLの上清と50μLのルシフェラーゼ基質溶液を混合した後、ルミノメーターで発光値(RLU)を測定した。上清を100倍希釈し、BCAプロテインアッセイにより総タンパク質量(mg protein/mL)を測定し、タンパク質量で活性値を補正した(RLU/mg protein)。
【0049】
[体内分布評価]
ICRマウスに、総脂質量の1%をDiD修飾した脂質ナノ粒子を尾静脈内投与し、6時間後に肝臓、肺、脾臓を回収した。各臓器の質量を測定した後、ハサミで細かく裁断した後、細断物25mgを1mLの1% SDS中でホモジェナイズした。得られたホモジェネートを遠心処理(15,000rpm、4℃、10分間)し、上清を回収した。100μLの上清のDiD蛍光強度を、プレートリーダーで測定した。脂質ナノ粒子の組織への移行量を、脂質ナノ粒子と無処理マウスの臓器を用いて作製した検量線用サンプルのDiD蛍光強度を基に算出した。
【0050】
[脾臓内分布評価]
ICRマウスに、総脂質量の1%をDiD修飾した脂質ナノ粒子を尾静脈内投与し、6時間後に脾臓を回収した。脾臓細胞用培地(RPMI1640に、10% 非働化FBS、100U/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシン、10mM HEPES、100mM ピルビン酸ナトリウム、及び50nM 2-メルカプトエタノール(Gibco社製)を添加した培地)中で、回収した脾臓から脾臓細胞を単離し、得られた細胞懸濁液をナイロンメッシュに通して凝集塊を取り除いた。凝集塊除去後の細胞懸濁液を遠心処理(1,500g、4℃、5分間)し、上清を除去した後、1mLのACK Lysing Buffer(Thermo Fisher Scientific社製)を加え、5分間室温でインキュベーションし、赤血球を溶血させた。その後、9mLの脾臓細胞用培地を加え、遠心処理(1,500g、4℃、5分間)して上清を除去した後に脾臓細胞用培地を添加する操作を2回繰り返した後、目的の抗体及びアイソタイプコントロール抗体で処理した。抗体処理後、FACSバッファー(PBSに0.5% BSA、0.2% NaN3を添加したバッファー)で洗浄し、最終的に得られた細胞懸濁液を分析用サンプルとした。この分析用サンプルをナイロンメッシュに通して、フローサイトメーター用のチューブに移してフローサイトメーターに設置し、各細胞種のDiD陽性細胞を検出し、脂質ナノ粒子の脾臓内分布を評価した。
【0051】
[予防的抗腫瘍効果の測定]
まず、OVA(ovalbumin)をコードしたpDNA(pOVA)(配列番号2)を封入した脂質ナノ粒子を作製し、一匹当たりのpOVA投与量が30μgとなるように、マウス(C57BL/6J、メス)に尾静脈内投与して免疫した。次いで、投与から1週間後の各マウスに、一匹当たり5.0×105個のEG7-OVA細胞(ATCCより入手)を皮下移植し、30日間腫瘍体積をモニタリングした。腫瘍体積は以下の式で算出した。
【0052】
[腫瘍体積(mm3)]=[長径(mm)]×[短径(mm)]2×0.52
【0053】
[治療的抗腫瘍効果の測定]
C57BL/6Jマウス(メス)に、一匹当たり5.0×105個のEG7-OVA細胞を皮下移植し、EG7-OVA細胞の生着を確認した。
皮下移植後、7日目、10日目、及び14日目に、一匹当たりのpOVA投与量が30μgとなるように、pOVAを封入した脂質ナノ粒子を尾静脈内投与した。
皮下移植後、24日間腫瘍体積をモニタリングした。腫瘍体積は前記式に基づき算出した。
【0054】
[血清中サイトカインの測定]
C57BL/6Jマウス(メス)に、pLucもしくはpOVAを封入した脂質ナノ粒子を、一匹当たりのpLucもしくはpOVAの投与量が30μgとなるように、尾静脈内投与した。
投与後、2時間及び6時間経過時に採血し、回収したマウス血液から血清を調製し、ELISAにより、IL-6、IFN-α、IFN-β、及びIFN-γを測定した。
【0055】
[実施例1]
カチオン性脂質としてYSK05を含む脂質ナノ粒子と、カチオン性脂質としてDODAPを含む脂質ナノ粒子とについて、脾臓での遺伝子発現活性を比較した。
【0056】
まず、表1に記載の脂質組成で、ルシフェラーゼをコードしたpLucを封入した脂質ナノ粒子を作製した。脂質ナノ粒子の構成脂質として、pH感受性カチオン性脂質としてDODAP又はYSK05を、中性リン脂質としてDOPEを、その他の脂質としてコレステロール(chol)及び1,2-ジミリストイル-rac-グリセロ-3-メトキシポリエチレングリコール-2000(PEG-DMG)を用いた。30μgのpLuc当たり、総脂質量は640nmolで作製した。作製された脂質ナノ粒子の物理化学的性質を表2に示す。
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
作製された各脂質ナノ粒子を、HeLa細胞の培養培地に添加し、24時間培養後のHeLa細胞のルシフェラーゼ活性を測定した(n=3)。結果を
図1Aに示す。
また、各脂質ナノ粒子をマウスに投与し、肝臓、肺、及び脾臓のルシフェラーゼ活性を測定した(n=3)。結果を
図1Bに示す。
図1Aに示すように、in vitroにおける遺伝子発現活性は、YSK05を含む脂質ナノ粒子のほうが、DODAPを含む脂質ナノ粒子よりも顕著に高かった。これに対して、
図1Bに示すように、in vivoにおける遺伝子発現活性は、YSK05を含む脂質ナノ粒子よりもDODAPを含む脂質ナノ粒子の方が高く、特にDODAPを含む脂質ナノ粒子の脾臓における遺伝子発現活性は10
6RLU/mg protein以上と非常に高かった。
【0061】
DODAPは、公知のpHカチオン性脂質の中でも比較的、遺伝子発現活性が低く、このため、DODAPは遺伝子発現ベクターを封入する遺伝子発現キャリアとなる脂質ナノ粒子の構成脂質としては適していないと考えられていた。実際に、in vitroの系では、DODAPを含有する脂質ナノ粒子は、YSK05を含有する脂質ナノ粒子とは異なり、遺伝子発現活性は低かった。にもかかわらず、外来遺伝子を脾臓特異的発現させるための遺伝子発現キャリアとしては、DODAPとDOPEを特定の割合で含む脂質ナノ粒子が、YSK05を含有する脂質ナノ粒子よりも非常に優れていた。
【0062】
各脂質ナノ粒子のマウスの体内分布を調べた。単位質量当たりの臓器移行量(投与量に対する各臓器への移行量の割合(%)を臓器質量(g)で補正した値)の測定結果を
図2Aに示す。さらに、各脂質ナノ粒子の各臓器に対する臓器移行後の遺伝子発現効率(各脂質ナノ粒子の遺伝子発現活性を臓器移行量で補正した値:[遺伝子発現活性]/[臓器移行量])の算出結果を
図2Bに示す。
DODAPを含む脂質ナノ粒子の臓器移行量は、特に脾臓に多いとはいえなかった。また、脾臓への移行量は、DODAPを含む脂質ナノ粒子よりもYSK05を含む脂質ナノ粒子のほうが多かった。にもかかわらず、DODAPを含む脂質ナノ粒子の脾臓での遺伝子発現活性が非常に高かった。これらの結果から、DODAPを含む脂質ナノ粒子とYSK05を含む脂質ナノ粒子の遺伝子発現活性の差は、臓器移行量の差によるものではなく、臓器移行後の遺伝子発現効率の差によるものであることが示唆された。
【0063】
[実施例2]
DODAPを含む脂質ナノ粒子について、遺伝子発現活性に対する全脂質量に占めるDODAPの割合の影響を調べた。
【0064】
まず、表3に記載の脂質組成で、pLucを封入した脂質ナノ粒子を作製した。作製された脂質ナノ粒子の物理化学的性質を表4に示す。
【0065】
【0066】
【0067】
作製された各脂質ナノ粒子をマウスに投与し、肝臓、肺、及び脾臓のルシフェラーゼ活性を測定した(n=3)。結果を
図3に示す。この結果、構成脂質におけるDODAPの割合が増加するに伴い、脾臓における遺伝子発現活性が減少する傾向が観察された。
【0068】
最もルシフェラーゼ活性の差が大きかったDODAP含有量が、
モル比で全脂質量101.5に対して35の脂質ナノ粒子と
60の脂質ナノ粒子について、実施例1と同様にして体内分布を調べた。それぞれの脂質ナノ粒子の単位質量当たりの臓器移行量の測定結果を
図4Aに、臓器移行後の遺伝子発現効率([遺伝子発現活性]/[臓器移行量])の測定結果を
図4Bに、それぞれ示す。この結果、両脂質ナノ粒子の各臓器への臓器移行量に差はなく、遺伝子発現活性の差は、臓器移行後の遺伝子発現効率の影響が大きいことが示唆された。
【0069】
[実施例3]
DODAPを含む脂質ナノ粒子について、構成脂質に含有させる中性脂質の種類の遺伝子発現活性に対する影響を調べた。
【0070】
まず、表5に記載の脂質組成で、pLucを封入した脂質ナノ粒子を作製した。作製された脂質ナノ粒子の物理化学的性質を表6に示す。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
作製された各脂質ナノ粒子をマウスに投与し、肝臓、肺、及び脾臓のルシフェラーゼ活性を測定した(n=3)。結果を
図5に示す。この結果、脾臓における遺伝子発現活性は、DOPEを含有する脂質ナノ粒子が最も高かった。
【0075】
各脂質ナノ粒子について、実施例1と同様にして体内分布を調べた。それぞれの脂質ナノ粒子の単位質量当たりの臓器移行量の測定結果を
図6Aに、臓器移行後の遺伝子発現効率([遺伝子発現活性]/[臓器移行量])の測定結果を
図6Bに、それぞれ示す。この結果、PE系脂質の方がPC系脂質よりも脾臓への集積性が高いことが示唆された。これは、PE系脂質の方がPC系脂質よりも、補体系タンパク質C3と結合しやすいため、マクロファージなどの免疫細胞が多い脾臓で取り込まれやすくなったためだと考えられた。また、当該実験でも、遺伝子発現の差は、臓器移行量ではなく臓器移行後の発現効率の差による影響が大きいことが示唆された。
【0076】
[実施例4]
DODAPとDOPEを含有する脂質ナノ粒子について、両脂質の含有比率の遺伝子発現活性に対する影響を調べた。
具体的には、表7に記載の脂質組成で、pLucを封入した脂質ナノ粒子を作製した。
【0077】
【0078】
作製された各脂質ナノ粒子をマウスに投与し、肝臓、肺、及び脾臓のルシフェラーゼ活性を測定した。結果を
図7に示す。この結果、DODAPとDOPEを含有する脂質ナノ粒子は、DODAPとDOPEの含有量比(モル比)がDODAP/DOPE=10/75~60/25、すなわち、[DODAP/(DODAP+DOPE)]が11.8~70.6モル%において、特にDODAP/DOPE=15/75~50/35([DODAP/(DODAP+DOPE)]=17.6~58.8モル%)において、脾臓における遺伝子発現活性が、肺や肝臓よりも明らかに高かった。一方で、DODAPを含有していない脂質ナノ粒子では、脾臓への高選択性は確認されなかった。これらの結果から、DODAPとDOPEを含有する脂質ナノ粒子が、脾臓に高選択的な遺伝子キャリアとして好適であることが確認された。
【0079】
[実施例5]
DODAPとDOPEを含有する脂質ナノ粒子について、両脂質の総含有量の構成脂質全量に対する含有比率の遺伝子発現活性に対する影響を調べた。
具体的には、表8に記載の脂質組成で、pLucを封入した脂質ナノ粒子を作製した。
【0080】
【0081】
作製された各脂質ナノ粒子をマウスに投与し、肝臓、肺、及び脾臓のルシフェラーゼ活性を測定した。結果を、
図8B及び
図8Cに示す。
図8Bは、
モル比で全脂質量
101.5に対するDODAPとDOPEの総量が7
0の脂質ナノ粒子の結果を示した図であり、
図8Cは、
モル比で全脂質量
101.5に対するDODAPとDOPEの総量が6
0の脂質ナノ粒子の結果を示した図である。また、
図8Aは、実施例2における
図3の結果DODAPとDOPEの含有比率ごとに示した図であり、
モル比で全脂質量
101.5に対するDODAPとDOPEの総量が8
5の脂質ナノ粒子の結果を示した図である。
この結果、DODAPとDOPEの総量が
、モル比で全脂質量
101.5に対して70~85の場合には、4種全ての脂質ナノ粒子において、脾臓特異的な遺伝子発現活性が観察された(
図8A及び
図8B)。
一方、DODAPとDOPEの総量が
、モル比で全脂質量101.5に対して6
0の場合には、DODAP/DOPE=35/50~50/35の脂質ナノ粒子の遺伝子発現活性は、脾臓で最も高く、特にDODAP/DOPE=40/45~50/35の脂質ナノ粒子では脾臓特異的な遺伝子発現活性が観察された(
図8C)。
【0082】
[実施例6]
DODAPとDOPEを含有する脂質ナノ粒子について、脾臓内の細胞分布を調べた。
【0083】
まず、表9に記載の脂質組成で、pLucを封入した脂質ナノ粒子(以下、「DODAP/DOPE-pLuc」ということがある。)を作製した。作製された脂質ナノ粒子をマウスに投与し、肝臓、肺、及び脾臓のルシフェラーゼ活性を測定した(n=3)。結果を
図9に示す。
【0084】
【0085】
さらにこの脂質ナノ粒子の総脂質量の1%をDiD修飾した脂質ナノ粒子(以下、「DiD修飾DODAP/DOPE-pLuc」ということがある。)をマウスへ投与し、脾臓内分布を調べた。脂質ナノ粒子を投与したマウスから脾臓を回収し、T細胞(B220陰性/CD3陽性細胞)、B細胞(B220陽性/CD3陰性細胞)、樹状細胞(CD11c陽性/F4/80陰性細胞)、及びマクロファージ細胞(CD11c陰性/F4/80陽性細胞)に分離し、それぞれのDiD蛍光強度を測定した。対照として、脂質ナノ粒子を投与していないマウスから回収された脾臓を用いて、同様の測定を行った。測定結果を
図10Aに示す。また、これら4種の細胞全量のDiD蛍光強度を100%とし、各細胞の相対DiD蛍光強度(%)を
図10Bに、各細胞におけるDiD蛍光陽性細胞の比率(%)を
図10Cに、それぞれ示す。DiD蛍光陽性細胞は、DiD修飾された脂質ナノ粒子が取り込まれた細胞である。この結果、DiD修飾された脂質ナノ粒子は脾臓中の抗原提示細胞に多く取り込まれていることが示された。
【0086】
[実施例7]
DODAPとDOPEを含有する脂質ナノ粒子のがんDNAワクチンとしての有用性を調べた。
【0087】
具体的には、pLucの代わりにpOVAを封入した以外は実施例6と同様の方法で作製した脂質ナノ粒子(以下、「DODAP/DOPE-pOVA」ということがある。)を、一匹当たりのpOVA投与量が30μgとなるように、C57BL/6Jマウス(メス)に投与し、一匹当たり5.0×105個のEG7-OVA細胞を皮下移植した。腫瘍細胞移植後30日間、腫瘍体積をモニタリングすることにより、当該脂質ナノ粒子の予防的抗腫瘍効果を評価した。
比較対象として、DODAP/DOPE-pOVAに代えて、PBS、リン脂質に封入していないpOVA(naked pOVA)、DODAP/DOPE-pLuc、及び、DOPEに代えてDOPCを用いた以外はDODAP/DOPE-pOVAと同様にして作製した脂質ナノ粒子(以下、「DODAP/DOPC-pOVA」ということがある。)を用い、同様に予防的抗腫瘍効果を評価した。
【0088】
腫瘍体積をモニタリングした結果を
図11に示す(n=5)。この結果、DODAP/DOPE-pLuc投与群は、対照であるPBS投与群と同様に、腫瘍増大が確認され、抗腫瘍効果を示さなかった。これに対して、リン脂質に封入していないpOVAの投与群では、腫瘍増大がPBS投与群よりも抑制されており、抗腫瘍効果が確認された。これは、脾臓細胞内に取り込まれたpOVAの発現により、抗原特異的な腫瘍免疫が誘導されたためだと考えられた。DODAP/DOPC-pOVA投与群でも腫瘍増大の抑制が観察されたが、その効果はリン脂質に封入していないpOVAと同程度でしかなかった。これに対して、DODAP/DOPE-pOVA投与群では、腫瘍細胞投与~30日間、腫瘍増大は確認されず、極めて高い抗腫瘍効果が確認された。脾臓での遺伝子発現活性が低かったDODAPとDOPCを含有する脂質ナノ粒子に比べて、脾臓での遺伝子発現活性が高かったDODAPとDOPEを含有する脂質ナノ粒子の方が、非常に強い抗腫瘍効果を示したことから、脾臓における効率的な抗原遺伝子発現が抗腫瘍効果に寄与していることが示唆された。また、DODAPとDOPEを含有する脂質ナノ粒子がキャリアとして、免疫治療、特にがんに対する免疫治療に有効であることが確認された。
【0089】
[実施例8]
C57BL/6Jマウス(メス)に、一匹当たり5.0×105個のEG7-OVA細胞を皮下移植し、EG7-OVA細胞の生着を確認した。皮下移植後、7日目、10日目、及び14日目に、一匹当たりのpOVA投与量が30μgとなるように、DODAP/DOPE-pOVAを尾静脈内投与した。皮下移植後、24日間腫瘍体積をモニタリングし、当該脂質ナノ粒子の治療的抗腫瘍効果を評価した。
比較対象として、DODAP/DOPE-pOVAに代えて、PBS、naked pOVA、DODAP/DOPE-pLuc、及び、DODAP/DOPC-pOVAを用い、同様に治療的抗腫瘍効果を評価した。
【0090】
腫瘍体積をモニタリングした結果を
図12に示す(n=5)。この結果、対照であるPBS投与群、naked pOVA投与群、DODAP/DOPE-pLuc投与群、及び、DODAP/DOPC-pOVA投与群では、腫瘍増大が確認され、顕著な抗腫瘍効果が確認されなかった。これに対して、DODAP/DOPE-pOVA投与群では、対照群に比べて高い抗腫瘍効果が確認された。すなわち、ODAPとDOPEを含有する脂質ナノ粒子に、治療対象となる腫瘍抗原をコードするpOVAを封入することが、特にがんの治療に有効であることが確認された。
【0091】
[実施例9]
C57BL/6Jマウス(メス)に、一匹当たりのpLuc又はpOVA投与量が30μgとなるように、脂質ナノ粒子として、DODAP/DOPE-pLuc又はDODAP/DOPE-pOVAを尾静脈内投与した。投与後、2時間、及び6時間経過時に採決し、回収したマウス血液から血清を調製し、ELISAにより、IL-6、IFN-α、IFN-β、及びIFN-γを測定した。
比較対象として、DODAP/DOPE-pOVAに代えて、PBS又はnaked pOVAを用い、同様に、IL-6、IFN-α、IFN-β、及びIFN-γを測定した。
【0092】
測定結果を
図13に示す(n=3)。
図13において、phiは、尾静脈投与後の経過時間を示し、例えば、2phiは、投与後2時間経過時を意味する。また、LNP pLucは、DODAP/DOPE-pLucを意味し、LNP pOVAは、DODAP/DOPE-pOVAを意味する。
結果、対照であるPBS投与群、naked pOVA投与群に比べて、DODAP/DOPE-pLuc投与群、及び、DODAP/DOPE-pOVA投与群では、IL-6、IFN-α、IFN-β、及びIFN-γの産生量の増大が確認された。これらの結果から、DODAPとDOPEを含有した脂質ナノ粒子をキャリアとして用いることにより、pDNAを免疫細胞に効率的に集積させることができ、効果的に免疫を活性化可能であり、免疫治療に有効であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明に係る脂質ナノ粒子は、封入された遺伝子を脾臓内で高発現させることができる。このため、当該脂質ナノ粒子は、免疫治療や遺伝子治療に用いられる脾臓特異的遺伝子送達キャリアとして有用である。
【配列表】