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特許7590010がん治療用医薬、免疫賦活剤および抗がん物質のスクリーニング方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】がん治療用医薬、免疫賦活剤および抗がん物質のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20241119BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241119BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20241119BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241119BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20241119BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20241119BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241119BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20241119BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20241119BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
A61K38/17
A61K39/395 U
A61K35/76
A61P35/00
A61P35/02
A61P37/04
A61P43/00 121
C12Q1/68 ZNA
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022550581
(86)(22)【出願日】2021-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2021033925
(87)【国際公開番号】W WO2022059703
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2020155901
(32)【優先日】2020-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】二村 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】石橋 亜衣里
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】特表平08-502730(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03594683(EP,A1)
【文献】国際公開第2019/143948(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/032764(WO,A1)
【文献】特表2020-515239(JP,A)
【文献】国際公開第2019/204257(WO,A1)
【文献】特表2018-530624(JP,A)
【文献】国際公開第2019/203497(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/172358(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103880949(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0137562(KR,A)
【文献】黒岡正之ほか,不活化センダイウイルス粒子を用いた抗腫瘍免疫療法の展開,ウイルス,2007年,vol.57, no.1,p.19-28
【文献】Eur. J. Immunol.,2009年,vol.39, issue 2,p.527-540
【文献】日本臨床免疫学会会誌,2005年,vol.28, no.1,p.21-32
【文献】MATSUSHIMA-MIYAGI, T., et al.,Clin. Cancer. Res.,2012年,vol.18, issue 22,p.6271-6283
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/17
A61K 35/76
A61K 39/395
A61P 35/00
A61P 35/02
A61P 37/04
G01N 33/50
G01N 33/15
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アポリポタンパク質D、L1、L3、L9aおよびL9bからなる群から選択される少なくとも1種のアポリポタンパク質を有効成分として含有するがん治療用医薬。
【請求項2】
アポリポタンパク質D、L1、L3、L9aおよびL9bからなる群から選択される少なくとも1種のアポリポタンパク質ならびにインターフェロン調節因子7を有効成分として含有するがん治療用医薬。
【請求項3】
OX40アゴニスト抗体と組み合わせて使用する、請求項1または2に記載のがん治療用医薬。
【請求項4】
インターフェロン調節因子7を有効成分として含有し、OX40アゴニスト抗体と組み合わせて使用する、がん治療用医薬。
【請求項5】
センダイウイルスエンベロープを有効成分として含有し、OX40アゴニスト抗体または4-1BBアゴニスト抗体と組み合わせて使用する、がん治療用医薬。
【請求項6】
非標的腫瘍の増殖抑制効果を奏することを特徴とする、請求項3~5のいずれか一項に記載のがん治療用医薬。
【請求項7】
さらにCD4陽性T細胞除去抗体を組み合わせて使用する請求項3~5のいずれか一項に記載のがん治療用医薬。
【請求項8】
アポリポタンパク質、インターフェロン調節因子7およびセンダイウイルスエンベロープからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有し、T細胞共刺激因子アゴニストと組み合わせて使用することを特徴とする免疫賦活剤であって、前記アポリポタンパク質がアポリポタンパク質D、L1、L3、L9aおよびL9bからなる群から選択される少なくとも1種であり、前記アポリポタンパク質または前記インターフェロン調節因子7と組み合わせるT細胞共刺激因子アゴニストがOX40アゴニスト抗体であり、前記センダイウイルスエンベロープと組み合わせるT細胞共刺激因子アゴニストがOX40アゴニスト抗体または4-1BBアゴニスト抗体である、免疫賦活剤。
【請求項9】
局所投与用である、請求項8に記載の免疫賦活剤。
【請求項10】
さらにCD4陽性T細胞除去抗体を組み合わせて使用する請求項8または9に記載の免疫賦活剤。
【請求項11】
抗がん物質のスクリーニング方法であって、
(1)被験物質とがん細胞を接触させる工程、
(2)前記がん細胞におけるIRF7の発現量を測定する工程、および
(3)得られたIRF7発現量を、被験物質と接触していない前記がん細胞のIRF7発現量と比較して、発現量を増加させる被験物質を選択する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
抗がん物質のスクリーニング方法であって、
(1)被験物質とがん細胞を接触させる工程、
(2)前記がん細胞におけるアポリポタンパク質の発現量を測定する工程、および
(3)得られたアポリポタンパク質発現量を、被験物質と接触していない前記がん細胞のアポリポタンパク質発現量と比較して、発現量を増加させる被験物質を選択する工程
を含み、
前記アポリポタンパク質が、アポリポタンパク質D、L1、L3、L9aおよびL9bからなる群から選択される少なくとも1種のアポリポタンパク質であることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん治療用医薬、免疫賦活剤および抗がん物質のスクリーニング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
がん治療における免疫療法が、免疫チェックポイント阻害療法やCAR-T細胞療法の開発などによって、最近注目されている。その基本的なコンセプトは、がん細胞に対するキラーT細胞の活性を維持し、その数を確保することにある。しかし、免疫チェックポイント阻害療法は、実際には非応答症例も多い。CAR-T細胞療法は用いる抗体の特異性に依存し、腫瘍抗原も1種類に限定される。しかし、がんは症例ごとに異なるネオアンチゲンの組み合わせを持ち、さらに腫瘍内不均一性を持つ。そのため、生体内で抗腫瘍免疫を積極的に誘導することが効果的ながん治療法になると考えられるが、このような療法は未だ開発されていない。
【0003】
単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV)に樹状細胞を活性化させるサイトカインGM-CSFを搭載したT-VECなどのウイルス療法が新たな腫瘍治療薬として注目されている。T-VECはFDAによってメラノーマの治療薬として承認されている。T-VECは腫瘍溶解性を持ち、GM-CSFで抗原提示能を強化することで全身性の抗腫瘍効果を誘導することが期待されていたが、実際には非標的腫瘍に対する抗腫瘍効果は限定的であった。
【0004】
センダイウイルスエンベロープ(hemagglutinating virus of Japan envelope、以下「HVJ-E」と記す)は、センダイウイルス(hemagglutinating virus of Japan:HVJ)を完全に不活化・精製し、外膜の細胞膜融合能だけを残した粒子である。HVJ-Eはこれまでの腫瘍溶解性ウイルスと異なり非増殖性であるため安全性が高く、免疫を活性化することで抗腫瘍効果を惹起する(非特許文献1)。ステージIIIC、IV期のメラノーマ症例に対するHVJ-Eの第I/IIa相臨床試験において、標的腫瘍では6ヶ所中3ヶ所で抗腫瘍効果が認められた(非特許文献2)。第1相臨床試験において、HVJ-Eの腫瘍内投与は顕著な抗腫瘍効果を発揮し、投与部位、非投与部位での腫瘍サイズの判定も含めたRECISTによる評価では66.6%の症例がpartial response (PR)となった。また、去勢抵抗性再燃前立腺がん、悪性胸膜中皮腫症例に対する第1相臨床試験も行い、高用量HVJ-Eを投与した前立腺がん症例では6例中5例でstable disease(SD)となり(非特許文献3)、悪性胸膜中皮腫では3例中3例でSDとなった。このことから、HVJ-Eは実際のがん患者において高い抗腫瘍効果を持つことが明らかになった。
【0005】
ウイルス療法は新たな機序によるがん治療法として期待されているが、ウイルス療法がなぜ高い抗腫瘍効果を発揮するのかについて、その分子メカニズムはほとんど明らかになっていない。また、一般病院でウイルスを薬剤として使用するにはハードルが高いこと、ウイルスを薬剤として大量にかつ安定的に供給することは難しいこと、ウイルスに対して抗体が生じるため、頻回投与することは難しいことなど、ウイルス療法には様々な問題がある。
【0006】
一方、HVJ-Eは増殖能を失ったウイルスである点で他のウイルス療法より安全性が高いといえるが、HVJ自体に対する抗体が生じる点では他のウイルス療法と同様である。また、HVJは赤血球凝集能があるため血栓を生じるリスクがあるという問題がある。また、HVJ-Eは、直接投与した部位に腫瘍抑制効果を発揮するが、非投与部位(遠隔部位)に対する腫瘍抑制効果は限定的である。
【0007】
アポリポタンパク質の抗腫瘍効果について、特許文献1および非特許文献4にApoA1の抗腫瘍効果が開示されている。しかし、この根拠となっているデータはApoA1を欠損した変異マウスにヒト血漿から採取したApoA1を大量に投与すると、がん細胞の生着を阻害できたというものであり、本来血漿中にApoA1が存在する野生型マウスの腫瘍に対するApoA1の抗腫瘍効果を確認したものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】US 2011/0305707 A1
【非特許文献】
【0009】
【文献】Kurooka et al., Cancer Res January 1 2007 67 (1) 227-236
【文献】Kiyohara et al. Cancer Immunology, Immunotherapy 2020 69, 1131-1140
【文献】Fujita et al. Cancer science 2020 111: 1692-1698
【文献】Zamanian-Daryoush et al. J Biol Chem. 2013 288(29):21237-21252
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、HVJ-Eによる抗腫瘍効果の分子メカニズムを解明し、HVJ-Eを投与することなくHVJ-E投与と同等の抗腫瘍効果が得られるがん治療用医薬、および、治療対象がん組織から離れた部位に存在するがん組織に対しても抗がん効果を発揮するがん治療用医薬を提供することを課題とする。また、本発明は、遠隔病変部位の免疫を賦活化することにより、がん以外の疾患の治療にも効果を奏する免疫賦活剤を提供することを課題とする。さらに、本発明は、HVJ-Eを投与することなくHVJ-Eと同等の抗腫瘍効果が得られる抗がん物質をスクリーニングする方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するために以下の各発明を包含する。
[1]HVJ-Eが投与されたがん細胞において発現が増加する遺伝子産物を有効成分として含有するがん治療用医薬。
[2]有効成分が、アポリポタンパク質および/またはインターフェロン調節因子7である、前記[1]に記載のがん治療用医薬。
[3]T細胞共刺激因子アゴニストと組み合わせて使用する、前記[1]または[2]に記載のがん治療用医薬。
[4]HVJ-EとT細胞共刺激因子アゴニストとを組み合わせて使用する、がん治療用医薬。
[5]さらにCD4陽性T細胞除去抗体を組み合わせて使用する前記[3]または[4]に記載のがん治療用医薬。
[6]アポリポタンパク質、インターフェロン調節因子7およびHVJ-Eからなる群より選択される少なくとも1種とT細胞共刺激因子アゴニストとを組み合わせて使用する免疫賦活剤。
[7]局所投与用である、前記[6]に記載の免疫賦活剤。
[8]さらにCD4陽性T細胞除去抗体を組み合わせて使用する前記[6]または[7]に記載の免疫賦活剤。
[9]抗がん物質のスクリーニング方法であって、
(1)被験物質とがん細胞を接触させる工程、
(2)前記がん細胞におけるIRF7の発現量を測定する工程、および
(3)得られたIRF7発現量を、被験物質と接触していない前記がん細胞のIRF7発現量と比較して、発現量を増加させる被験物質を選択する工程
を含むことを特徴とする方法。
[10]抗がん物質のスクリーニング方法であって、
(1)被験物質とがん細胞を接触させる工程、
(2)前記がん細胞におけるアポリポタンパク質の発現量を測定する工程、および
(3)得られたアポリポタンパク質発現量と、被験物質と接触していない前記がん細胞のアポリポタンパク質発現量と比較して、発現量を増加させる被験物質を選択する工程
を含むことを特徴とする方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、HVJ-E投与と同等の抗腫瘍効果が得られるがん治療薬、および、がん治療薬を直接投与した標的がん組織から離れた部位に存在し、がん治療薬を直接投与していない非標的がん組織に対しても抗腫瘍効果が得られるがん治療薬を提供することができる。また、本発明により、局所病変部位で誘導されたT細胞を遠隔病変部位へ移行させることが可能な免疫賦活剤を提供することができる。さらに、本発明のスクリーニング方法により、HVJ-E投与と同等の抗腫瘍効果が得られる抗がん物質をスクリーニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】NOD-SCIDマウスにメラノーマ患者の腫瘍組織を移植して腫瘍を形成させ、HVJ-EまたはPBSを腫瘍内投与して腫瘍体積を記録した結果を示す図であり、(A)は1例目の患者の腫瘍組織を移植した結果であり、(B)は2例目の患者の腫瘍組織を移植した結果である。
図2】B16F10細胞(マウスメラノーマ細胞)をSCIDマウスおよびNSGマウスにそれぞれ移植して腫瘍を形成させ、HVJ-EまたはPBSを腫瘍内投与して腫瘍体積を記録した結果を示す図であり、(A)はSCIDマウスの結果であり、(B)はNSGマウスの結果である。
図3】B16F10細胞をGFPマウスに移植して腫瘍を形成させHVJ-EまたはPBSを腫瘍内投与した後に腫瘍を摘出し、HVJ-E投与により発現が増加する遺伝子を解析した結果を示す図である。
図4】Irf7欠損B16F10細胞をC57BL/6Nマウスに移植して腫瘍を形成させ、HVJ-EまたはPBSを腫瘍内投与して腫瘍体積を記録した結果を示す図である。
図5】Apod欠損B16F10細胞をC57BL/6Nマウスに移植して腫瘍を形成させ、HVJ-EまたはPBSを腫瘍内投与して腫瘍体積を記録した結果を示す図である。
図6】メラノーマ患者の腫瘍組織を移植して腫瘍を形成させ、HVJ-EまたはPBSを腫瘍内投与して腫瘍体積を記録したNOD-SCIDマウス(図1参照)から腫瘍を摘出し、HVJ-E投与により発現が増加する遺伝子を解析した結果を示す図である。
図7】Tet GFP-Irf7またはTet GFPを導入したB16F10細胞をC57BL/6Nマウスに移植して腫瘍を形成させ、ドキシサイクリン投与または非投与における腫瘍体積を記録した結果を示す図であり、(A)はTet GFP群の結果、(B)はTet GFP-Irf7群の結果である。
図8】Tet GFP-Apod、Tet GFP-Apol9aまたはTet GFP-Apol9a-Apol9b-Apodを導入したB16F10細胞をC57BL/6Nマウスに移植して腫瘍を形成させ、ドキシサイクリン投与または非投与における腫瘍体積を記録した結果を示す図であり、(A)はTet GFP-Apod群の結果、(B)はTet GFP-Apol9a群の結果、(C)はTet GFP-Apol9a-Apol9b-Apod群の結果である。
図9】B16F10細胞(野生型)をC57BL/6Nマウスに移植して腫瘍を形成させ、アポリポタンパク質D、L9a、L9bの3種類の組換えタンパク質の混合溶液、または溶媒を腫瘍内投与して腫瘍体積を記録した結果を示す図である。
図10】B16F10細胞(野生型)をC57BL/6Nマウスの左右両側に移植して腫瘍を形成させ、左側腫瘍内にHVJ-EとOX40アゴニスト抗体(HVJ-E+OX40群)、HVJ-EとコントロールIgG(HVJ-E+CtrlIgG群)、OX40アゴニスト抗体のみ(OX40群)またはコントロールIgGのみ(CtrlIgG群)を投与し、標的腫瘍(左)と非標的腫瘍(右)の腫瘍体積を記録した結果を示す図であり、(A)は担がんマウスの模式図、(B)は標的腫瘍の結果、(C)は非標的腫瘍の結果である。
図11】CT26細胞(野生型)をC57BL/6Nマウスの左右両側に移植して腫瘍を形成させ、左側腫瘍内にHVJ-EとOX40アゴニスト抗体(HVJ-E+OX40群)、HVJ-EとコントロールIgG(HVJ-E+CtrlIgG群)、OX40アゴニスト抗体のみ(OX40群)またはコントロールIgGのみ(CtrlIgG群)を投与し、標的腫瘍(左)と非標的腫瘍(右)の腫瘍体積を記録した結果を示す図であり、(A)は担がんマウスの模式図、(B)は標的腫瘍の結果、(C)は非標的腫瘍の結果である。
図12】MC38細胞(野生型)をC57BL/6Nマウスの左右両側に移植して腫瘍を形成させ、左側腫瘍内にHVJ-EとOX40アゴニスト抗体(HVJ-E+OX40群)、HVJ-EとコントロールIgG(HVJ-E+CtrlIgG群)、OX40アゴニスト抗体のみ(OX40群)またはコントロールIgGのみ(CtrlIgG群)を投与し、標的腫瘍(左)と非標的腫瘍(右)の腫瘍体積を記録した結果を示す図であり、(A)は担がんマウスの模式図、(B)は標的腫瘍の結果、(C)は非標的腫瘍の結果である。
図13】B16F10細胞(野生型)をSCIDマウスの左右両側に移植して腫瘍を形成させ、左側腫瘍内にHVJ-EとOX40アゴニスト抗体(HVJ-E+OX40群)、HVJ-EとコントロールIgG(HVJ-E+CtrlIgG群)、OX40アゴニスト抗体のみ(OX40群)またはコントロールIgGのみ(CtrlIgG群)を投与し、標的腫瘍(左)と非標的腫瘍(右)の腫瘍体積を記録した結果を示す図であり、(A)は担がんマウスの模式図、(B)は標的腫瘍の結果、(C)は非標的腫瘍の結果である。
図14】B16F10細胞(野生型)をC57BL/6Nマウスの左右両側に移植して腫瘍を形成させ、左側腫瘍内にHVJ-Eと免疫チェックポイント阻害剤の抗PD-1抗体(HVJ-E+PD-1群)、HVJ-EとコントロールIgG(HVJ-E+CtrlIgG群)、抗PD-1抗体のみ(PD-1群)またはコントロールIgGのみ(CtrlIgG群)を投与し、標的腫瘍(左)と非標的腫瘍(右)の腫瘍体積を記録した結果を示す図であり、(A)は担がんマウスの模式図、(B)は標的腫瘍の結果、(C)は非標的腫瘍の結果である。
図15】B16F10細胞(野生型)をC57BL/6Nマウスの左右両側に移植して腫瘍を形成させ、左側腫瘍内にHVJ-Eと4-1-BBアゴニスト抗体(HVJ-E+4-1-BB群)、HVJ-EとコントロールIgG(HVJ-E+CtrlIgG群)、4-1-BBアゴニスト抗体のみ(4-1-BB群)またはコントロールIgGのみ(CtrlIgG群)を投与し、標的腫瘍(左)と非標的腫瘍(右)の腫瘍体積を記録した結果を示す図であり、(A)は担がんマウスの模式図、(B)は標的腫瘍の結果、(C)は非標的腫瘍の結果である。
図16】C57BL/6Nマウスの左側にB16F10細胞(野生型)を、右側にマウス肺腺がんLL/2細胞を移植して腫瘍を形成させ、左側腫瘍内にHVJ-EとOX40アゴニスト抗体(HVJ-E+OX40群)、HVJ-EとコントロールIgG(HVJ-E+CtrlIgG群)、OX40アゴニスト抗体のみ(OX40群)またはコントロールIgGのみ(CtrlIgG群)を投与し、標的腫瘍(左)と非標的腫瘍(右)の腫瘍体積を記録した結果を示す図であり、(A)は担がんマウスの模式図、(B)は標的腫瘍の結果、(C)は非標的腫瘍の結果である。
図17】B16F10細胞(野生型)をC57BL/6Nマウスの左右両側に移植して腫瘍を形成させ、左側腫瘍内にHVJ-EとOX40アゴニスト抗体を投与すると共に、CD4陽性T細胞を除去するための抗体(HVJ-E+OX40群+CD4群)、CD8陽性T細胞を除去するための抗体(HVJ-E+OX40群+CD8群)またはコントロールIgG(HVJ-E+OX40群+Ctrl群)を腹腔内投与し、標的腫瘍(左)と非標的腫瘍(右)の腫瘍体積を記録した結果を示す図であり、(A)は担がんマウスの模式図、(B)は標的腫瘍の結果、(C)は非標的腫瘍の結果である。
図18】C57BL/6Nマウスの左側にTet GFP-Apol9a-Apol9b-Apodを導入したB16F10細胞を、右側にB16F10細胞(野生型)を移植して腫瘍を形成させ、ドキシサイクリンを投与すると共に、左側腫瘍内にOX40アゴニスト抗体またはコントロールIgGを投与し、標的腫瘍(左)と非標的腫瘍(右)の腫瘍体積を記録した結果を示す図であり、(A)は担がんマウスの模式図、(B)は体重の結果、(C)は標的腫瘍の結果、(D)は非標的腫瘍の結果である。
図19】C57BL/6Nマウスの左側にTet GFP-Irf7を導入したB16F10細胞を、右側にB16F10細胞(野生型)を移植して腫瘍を形成させ、ドキシサイクリンを投与すると共に、左側腫瘍内にOX40アゴニスト抗体またはコントロールIgGを投与し、標的腫瘍(左)と非標的腫瘍(右)の腫瘍体積を記録した結果を示す図であり、(A)は担がんマウスの模式図、(B)は標的腫瘍の結果、(C)は非標的腫瘍の結果である。
図20】C57BL/6Nマウスの左側にTet GFPを導入したB16F10細胞を、右側にB16F10細胞(野生型)を移植して腫瘍を形成させ、ドキシサイクリンを投与すると共に、左側腫瘍内にOX40アゴニスト抗体またはコントロールIgGを投与し、標的腫瘍(左)と非標的腫瘍(右)の腫瘍体積を記録した結果を示す図であり、(A)は担がんマウスの模式図、(B)は標的腫瘍の結果、(C)は非標的腫瘍の結果である。
図21】B16F10細胞(野生型)をC57BL/6Nマウスの左右両側に移植して腫瘍を形成させ、左側腫瘍内にHVJ-EとOX40アゴニスト抗体(HVJ-E+OX40群)、HVJ-EとコントロールIgG(HVJ-E+CtrlIgG群)、PBSとOX40アゴニスト抗体(PBS+OX40群)またはPBSとコントロールIgG(PBS+CtrlIgG群)を投与し、標的腫瘍および非標的腫瘍におけるCD4陽性T細胞およびCD8陽性T細胞の細胞数を測定した結果を示す図である。
図22図21のHVJE+OX40群およびHVJE+CtrlIgG群の非標的細胞におけるCD4陽性T細胞 およびCD8陽性T細胞をそれぞれ分取し、IFNγおよびKi67の発現量を測定した結果を示す図である。
図23】C57BL/6Nマウスの左側にTet GFP-Apol9a-Apol9b-Apodを導入したB16F10細胞を、右側にB16F10細胞(野生型)を移植して腫瘍を形成させ、ドキシサイクリンを投与すると共に、左側腫瘍内にOX40アゴニスト抗体またはコントロールIgGを投与し、標的腫瘍および非標的腫瘍におけるCD4陽性T細胞およびCD8陽性T細胞を分取して、IFNγ、Ki67、グランザイムAおよびBの発現量を測定した結果を示す図である。
図24】C57BL/6Nマウスの左側にTet GFP-Apodを導入したB16F10細胞を、右側にB16F10細胞(野生型)を移植して腫瘍を形成させ、ドキシサイクリンを投与すると共に、左側腫瘍内にOX40アゴニスト抗体またはコントロールIgGを投与し、標的腫瘍(左)と非標的腫瘍(右)の腫瘍体積を記録した結果を示す図であり、(A)は担がんマウスの模式図、(B)は標的腫瘍の結果、(C)は非標的腫瘍の結果である。
図25図24のマウスの標的腫瘍および非標的腫瘍におけるCD4陽性T細胞およびCD8陽性T細胞の細胞数を測定した結果を示す図である。
図26】B16F10細胞(野生型)をC57BL/6Nマウスの左右両側に移植して腫瘍を形成させ、左側腫瘍内にApodとOX40アゴニスト抗体(Apod/OX40群)、ApodとコントロールIgG(Apod/CtrlIgG群)、PBSとOX40アゴニスト抗体(PBS/OX40群)またはPBSとコントロールIgG(PBS/CtrlIgG群)を投与し、標的腫瘍(左)と非標的腫瘍(右)の腫瘍体積を記録した結果を示す図であり、(A)は標的腫瘍の結果、(B)は非標的腫瘍の結果である。
図27図26のマウスの標的腫瘍および非標的腫瘍におけるCD4陽性T細胞およびCD8陽性T細胞の細胞数を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔がん治療用医薬〕
本発明は、HVJ-Eが投与されたがん細胞において発現が増加する遺伝子産物を有効成分として含有するがん治療用医薬を提供する。HVJ-Eが投与されたがん細胞において発現が増加する遺伝子産物は、公知の方法を用いて決定することができる。例えば、担がんマウスを作製し、HVJ-Eを投与した腫瘍とHVJ-Eを投与していない腫瘍からそれぞれRNAを抽出し、配列解析を行って発現を比較する方法を用いてもよい。本発明の医薬においては、HVJ-Eが投与されたがん細胞において発現が増加する遺伝子産物として、アポリポタンパク質およびインターフェロン調節因子7を好適に用いることができる。
【0015】
本発明の医薬の有効成分としてのアポリポタンパク質は、どのような生物のアポリポタンパク質でもよいが、哺乳動物のアポリポタンパク質が好ましい。哺乳動物としては、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ等が挙げられるが、限定されない。なかでもヒトのアポリポタンパク質を用いることが特に好ましい。ヒトのアポリポタンパク質としては、APOA1BP(別名NAXE)、APOOL、APOO、APOD、APOE、APOL1、APOL2、APOL3、APOL4、APOL5、APOL6、APOC1、APOC2、APOC4などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、APOD、APOL1、APOL6である。アポリポタンパク質は、1種類を有効成分としてもよく、2種類以上を組み合わせて有効成分としてもよい。ヒトアポリポタンパク質のアミノ酸配列およびそれをコードする遺伝子の塩基配列は、NCBI等の公知のデータベースから取得することができる。例えば、表1に記載のアミノ酸配列および塩基配列が挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
【表1】
【0017】
アポリポタンパク質を有効成分とする本発明の医薬は、組換えアポリポタンパク質を有効成分として含有する医薬であってもよい。組換えアポリポタンパク質を有効成分とする場合、本発明の医薬は薬学的に許容される担体とともに製剤化した形態で実施することができる。組換えアポリポタンパク質は、公知の遺伝子組換え技術を適宜用いることにより製造することができる。例えば、アポリポタンパク質をコードするDNAを挿入した発現ベクターを作製し、これを適切な宿主細胞に導入して発現させ、公知の方法で精製することにより製造することができる。
【0018】
アポリポタンパク質を有効成分とする本発明の医薬は、投与後にがん細胞内でアポリポタンパク質を発現する核酸を有効成分として含有するものであってもよい。アポリポタンパク質を発現する核酸を有効成分とする場合、本発明の医薬は、アポリポタンパク質をコードするDNAが挿入されたウイルスベクター、アポリポタンパク質をコードするDNAが挿入された哺乳動物用発現ベクター、アポリポタンパク質のmRNA、前記発現ベクターやmRNAが封入されたリポソーム等の形態で実施することができる。
【0019】
インターフェロン調節因子7(interferon regulatory factor 7、以下「IRF7」と記す)は、インターフェロン(IFN)β遺伝子の発現調節領域に結合する転写因子の1つである。本発明の医薬の有効成分としてのIRF7はどのような生物のIRF7でもよいが、哺乳動物のIRF7が好ましい。哺乳動物としては、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ等が挙げられるが、限定されない。なかでもヒトのIRF7を用いることが特に好ましい。ヒトのIRF7遺伝子はGRCh38/hg38の染色体11番612555-615950に位置する遺伝子である。ヒトIRF7のアミノ酸配列およびそれをコードする遺伝子の塩基配列は、NCBI等の公知のデータベースから取得することができる。例えば、表2に記載のアミノ酸配列および塩基配列が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
【表2】
【0021】
IRF7を有効成分とする本発明の医薬は、組換えIRF7タンパク質を有効成分として含有する医薬であってもよい。組換えIRF7タンパク質を有効成分とする場合、本発明の医薬は薬学的に許容される担体とともに製剤化した形態で実施することができる。組換えIRF7タンパク質は、公知の遺伝子組換え技術を適宜用いることにより製造することができる。例えば、IRF7タンパク質をコードするDNAを挿入した発現ベクターを作製し、これを適切な宿主細胞に導入して発現させ、公知の方法で精製することにより製造することができる。
【0022】
IRF7を有効成分とする本発明の医薬は、投与後にがん細胞内でIRF7タンパク質を発現する核酸を有効成分として含有するものであってもよい。IRF7タンパク質を発現する核酸を有効成分とする場合、本発明の医薬は、IRF7タンパク質をコードするDNAが挿入されたウイルスベクター、IRF7タンパク質をコードするDNAが挿入された哺乳動物用発現ベクター、IRF7タンパク質のmRNA、前記発現ベクターやmRNAが封入されたリポソーム等の形態で実施することができる。
【0023】
本発明の医薬は、アポリポタンパク質を有効成分とする単剤、IRF7を有効成分とする単剤として実施してもよく、アポリポタンパク質とIRF7とを有効成分とする配合剤として実施してもよい。また、アポリポタンパク質を有効成分とする単剤とIRF7を有効成分とする単剤を併用してもよい。
【0024】
本発明の医薬は、T細胞共刺激因子アゴニストと組み合わせて使用することができる。すなわち、本発明の医薬は、アポリポタンパク質とT細胞共刺激因子アゴニストとを有効成分とする配合剤、IRF7とT細胞共刺激因子アゴニストとを有効成分とする配合剤、アポリポタンパク質とIRF7とT細胞共刺激因子アゴニストとを有効成分とする配合剤として実施することができる。また、アポリポタンパク質を有効成分とする単剤とT細胞共刺激因子アゴニストを含有する単剤を併用してもよく、IRF7を有効成分とする単剤とT細胞共刺激因子アゴニストを含有する単剤を併用してもよく、アポリポタンパク質とIRF7を有効成分とする配合剤とT細胞共刺激因子アゴニストを含有する単剤を併用してもよい。
【0025】
本発明の医薬とT細胞共刺激因子アゴニストと組み合わせて使用することにより、標的のがん組織から離れた部位に存在するがん組織に対しても抗がん効果を発揮することが可能となる。具体的には、例えば、本発明の医薬とT細胞共刺激因子アゴニストとを腫瘍内に局所投与した場合、薬剤を投与した腫瘍(標的腫瘍)の増殖抑制だけでなく、標的腫瘍から離れた部位に存在し、何も投与していない腫瘍(非標的腫瘍)に対しても増殖抑制効果が発揮される(実施例参照)。
【0026】
T細胞共刺激因子としては、例えば、OX40、4-1BB、GITR、CD28、CD40、ICOS、HVEM、CD27、CD30、DR3、TNFR2、LTαβ、LFA1などが挙げられる。T細胞共刺激因子アゴニストとしては、上記に例示した各T細胞共刺激因子のアゴニスト抗体または各T細胞共刺激因子のリガンドを好適に用いることができる。好ましくは、OX40、4-1BB、GITR、CD28、CD40、ICOS 、CD27のアゴニストである。T細胞共刺激因子のアゴニスト抗体は、公知の抗体でもよく、自作した抗体でもよい。各T細胞共刺激因子のリガンドとしてはOX40L/TNFSF4、4-1-BB ligand/TNFSF9、GITR ligand/TNFSF18、CD80、CD86、ICOSLG、CD30L/TNFSF8、TL1A/TNFSF15、LIGHT/TNFSF14、TNFα、HVEM/TNFRSF14、LTBRなどが挙げられる。各リガンドのアミノ酸配列およびそれをコードする遺伝子の塩基配列は、NCBI等の公知のデータベースから取得することができる。例えば、表3に記載のアミノ酸配列および塩基配列が挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
【表3】
【0028】
T細胞共刺激因子アゴニストは、前記抗体または前記リガンドの組換えタンパク質を薬学的に許容される担体とともに製剤化した形態で投与することができる。また、T細胞共刺激因子アゴニストは、がん細胞内で前記リガンドタンパク質を発現する核酸として投与することができる。核酸として投与する場合、リガンドタンパク質をコードするDNAが挿入されたウイルスベクター、リガンドタンパク質をコードするDNAが挿入された哺乳動物用発現ベクター、リガンドタンパク質のmRNA、前記発現ベクターやmRNAが封入されたリポソーム等の形態で投与することができる。
【0029】
本発明の医薬は、アポリポタンパク質およびIRF7に代えて、HVJ-EとT細胞共刺激因子アゴニストとを組み合わせて使用する医薬であってもよい。HVJ-Eは、HVJを不活性化することによって調製することができる。本発明のHVJ-Eを調製するためのHVJの不活性化方法としては、例えばUV処理やアルキル化処理が挙げられる。不活性化処理により、ゲノムRNAがウイルスエンベロープ内で変性または断片化されてその活性を喪失し、ウイルスとしての複製能が失われる。本発明のHVJ-Eの調製方法は、具体的には、特開2001-286282号公報(WO01/57204号公報)、特開2002-065278号公報、WO03/014338号公報、Kanedaら(Molecular Therapy 2002, 6, 2, 219-226)等に記載の方法に従って調製することができる。
【0030】
HVJ-Eの投与経路は特に限定されないが、がん組織(腫瘍)またはその周辺部に注射により投与することが好ましい。投与量は、がん組織(腫瘍)の大きさ、患者の年齢、体重、状態等を考慮して、医者または医療従事者が適宜決定することができる。腫瘍体積が1000mm3以下(例えば、200mm3程度など)の場合、1腫瘍部位あたり1回当たりのHVJ-Eの投与量を3 Hemagglutinin Unit(HAU)~75万HAU、好ましくは30HAU~30万HAU、さらに好ましくは300HAU~20万HAU、さらに好ましくは9,000HAU~10万HAUとすることができる。あるいは、体重1kgあたり10万HAU以下であることが好ましい。
【0031】
本発明の医薬は、T細胞共刺激因子アゴニストに加えて、さらにCD4陽性T細胞除去抗体と組み合わせて使用するものであってもよい。CD4陽性T細胞除去抗体としては、例えばヒト化抗CD4抗体「IT1208」(J Immunother Cancer. 2019 Jul 24;7(1):195. doi: 10.1186/s40425-019-0677-y.)、「MAX.16H5」(Front Immunol. 2019 May 24;10:1035. doi: 10.3389/fimmu.2019.01035.)、「cM-T412」(J Clin Invest. 1997 May 1;99(9):2225-31. doi: 10.1172/JCI119396.)などが挙げられる。CD4陽性T細胞除去抗体を組みわせることにより、非標的のがん組織に対する抗がん効果を高めることができる。
【0032】
本発明の医薬の治療対象となるがんは特に限定されず、メラノーマ(悪性黒色腫)、メルケル細胞がん、肺がん、中皮腫、頭頚部がん、食道がん、胃がん、肝臓がん、胆道がん、膵臓がん、大腸がん、前立腺がん、腎がん、膀胱がん、尿路上皮がん、乳がん、子宮がん、卵巣がん、脳腫瘍、甲状腺がん、血管肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、線維肉腫、滑膜肉腫、脂肪肉腫、神経内分泌腫瘍、リンパ腫、白血病、骨髄腫等が挙げられる。
【0033】
発明の医薬は、HVJ-Eが投与されたがん細胞において発現が増加する遺伝子産物を有効成分として、常套手段に従って製剤化することができる。例えば、経口投与のための製剤としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などが挙げられる。これらの製剤は公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有するものである。例えば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウムなどが用いられる。非経口投与のための製剤としては、例えば、注射剤、坐剤などが用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤、関節内注射剤などの剤形を包含する。このような注射剤は、公知の方法に従って、例えば、上記有効成分を通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製される。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例えば、エタノール等)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、非イオン界面活性剤(例えば、ポリソルベート80、HCO-50等)などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用してもよい。直腸投与に用いられる坐剤は、上記有効成分を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製される。このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、ヒトや哺乳動物(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して経口的にまたは非経口的に投与することができる。
【0034】
発明の医薬の有効成分が組換えタンパク質または抗体である場合、薬学的に許容される担体とともに製剤化された注射剤または輸液として、非経口投与経路、例えば、静脈内、筋肉内、皮膚内、腹腔内、皮下または局所に投与することが好ましい。抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。また、完全な抗体分子でもよく、抗原に特異的に結合し得る抗体フラグメント(例えば、Fab、F(ab')2、Fab'、Fv、scFv等)でもよい。抗体はヒト型キメラ抗体またはヒト化抗体が好ましい。
【0035】
発明の医薬の有効成分が核酸である場合、非ウイルスベクターまたはウイルスベクターの形態で投与することができる。非ウイルスベクターの形態で投与する場合、リポソームを用いて核酸分子を導入する方法(リポソーム法、HVJ-リポソーム法、カチオニックリポソーム法、リポフェクション法、リポフェクトアミン法など)、マイクロインジェクション法、遺伝子銃(Gene Gun)でキャリア(金属粒子)とともに核酸分子を細胞に移入する方法などを利用することができる。ウイルスベクターの形態で投与する場合は、無毒化したレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、SV40などのDNAウイルスまたはRNAウイルスに、目的のタンパク質を発現するように構築されたDNAを導入し、標的がん細胞にこの組換えウイルスを感染させることにより、標的がん細胞内で有効成分を発現させることができる。
【0036】
本発明の医薬は、有効成分を0.001~50質量%、好ましくは0.01~10質量%、さらに好ましくは0.1~1質量%含有することができる。本発明の医薬の投与量は、がんの種類、疾患の重篤度、患者の年齢、体重、性別、既往歴などを考慮して、医者または医療従事者により適宜設定される。約65~70kgの体重を有する平均的なヒトを対象とした場合、1日当たり0.02mg~4000mg程度が好ましく、0.1mg~200mg程度がより好ましい。1日当たりの総投与量は、単一投与量であっても分割投与量であってもよい。
【0037】
〔免疫賦活剤〕
本発明者らは、アポリポタンパク質、IRF7およびHVJ-EのいずれかとT細胞共刺激因子アゴニストとを組み合わせて投与することにより、標的のがん組織から離れた部位に存在するがん組織(非標的がん組織)において、T細胞数が増加すると共にT細胞が活性化されていることを見出した。具体的には、非標的がん組織において、T細胞数が増加すると共に、インターフェロンγ(以下「IFNγ」と記す)の発現を増加させ、グランザイムAの発現を増加させることを確認した。したがって、本発明は、アポリポタンパク質、IRF7およびHVJ-Eからなる群より選択される少なくとも1種とT細胞共刺激因子アゴニストとを組み合わせて使用する免疫賦活剤を提供する。
【0038】
本発明の免疫賦活剤は、局所投与用免疫賦活剤として用いることが好ましい。本発明の免疫賦活剤は、局所投与することにより局所病変部位にT細胞を誘導するだけでなく、局所病変部位で誘導されたT細胞を遠隔病変部位に移行させることができる。したがって、本発明の免疫賦活剤は、局所病変部位で誘導されたT細胞の遠隔病変部位への移行促進用免疫賦活剤、局所病変部位で誘導されたT細胞の遠隔病変部位への移行促進剤と称することができる。
【0039】
本発明の免疫賦活剤は、上述のがん治療用医薬だけでなく、標的の病変部位と離れた場所に同じ病変部位が形成される疾患の治療に好適に用いることができる。例えば、本発明の免疫賦活剤は、遠隔感染巣が形成される感染症の治療用として好適に用いることができる。このような感染症としては、例えば、伝染性膿痂疹、壊死性筋膜炎、蜂窩織炎、骨髄炎、髄膜炎、難治性皮膚潰瘍(糖尿病性潰瘍など)、結核、白癬、性感染症、ヘルペス(口唇ヘルペス、性器ヘルペス)、帯状疱疹などが挙げられる。
【0040】
本発明の免疫賦活剤は、上記本発明の医薬と同様に製造し、使用することができる。
【0041】
〔抗がん物質のスクリーニング方法〕
本発明は、抗がん物質のスクリーニング方法を提供する。本発明のスクリーニング方法により選択された物質は、がん治療用医薬の有効成分の候補物質として有用である。
【0042】
本発明のスクリーニング方法の第一の実施形態は、以下の工程を含むものであればよい。
(1)被験物質とがん細胞を接触させる工程、
(2)前記がん細胞におけるIRF7の発現量を測定する工程、および
(3)得られたIRF7発現量を、被験物質と接触していない前記がん細胞のIRF7発現量と比較して、発現量を増加させる被験物質を選択する工程。
【0043】
工程(1)では、被験物質とがん細胞を接触させる。被験物質は特に限定されないが、例えば、核酸、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、細胞培養上清、植物抽出液、哺乳動物の組織抽出液、血漿等が挙げられる。被験物質は、新規な物質であってもよいし、公知の物質であってもよい。これら被験物質は塩を形成していてもよく、被験物質の塩としては、生理学的に許容される酸や塩基との塩を用いてもよい。
【0044】
がん細胞は、上記本発明の医薬の治療対象となるがん細胞であればよく、特に限定されない。がん細胞は株化細胞でもよく、初代培養細胞でもよく、生検組織の細胞でもよい。また、がん細胞は遺伝子工学的に改変された細胞であってもよい。例えば、IRF7のプロモーター活性を有するDNA断片の下流にレポーター遺伝子を融合したベクターが導入されたがん細胞や、内在性のIRF7遺伝子内にレポーター遺伝子をノックインしたがん細胞などを好適に用いることができる。
【0045】
IRF7のプロモーター活性を有するDNA断片としては、配列番号1で示される塩基配列からなるIRF7遺伝子の-1123~+575のDNA断片(J Biol Chem. 2005 Apr 1;280(13):12262-12270. doi: 10.1074/jbc.M404260200.)などを用いることができる。レポーター遺伝子は、一般に用いられているものであれば特に限定されないが、安定かつ活性の定量が容易なものが好ましい。例えば、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)等をコードする遺伝子が挙げられる。
【0046】
被験物質とがん細胞を接触させる方法は特に限定されない。例えば、培養細胞や培養組織を用いる場合には、培地に被験物質を添加する方法などが挙げられる。例えば、非ヒト動物の生体において被験物質と細胞とを接触させる場合には、経口投与、静脈内投与、腹腔内投与等の全身投与、標的臓器や標的組織への局所投与などが挙げられる。また、被験物質を接触させない対照群を設けることが好ましい。
【0047】
工程(2)では、被験物質と接触させたがん細胞におけるIRF7の発現量を測定する。IRF7の発現量は、IRF7タンパク質量を測定してもよく、IRF7mRNA量を測定してもよい。タンパク質量を測定する場合は、公知の方法でがん細胞からタンパク質を抽出し、公知のタンパク質量測定方法を用いて定量することができる。公知のタンパク質量測定方法としては、例えば、ウエスタンブロット法、EIA法、ELISA法、RIA法、タンパク質測定試薬を用いる方法などが挙げられる。mRNA量を測定する場合は、公知の方法で細胞からRNAを抽出し、公知のmRNA量測定方法を用いて定量することができる。公知のmRNA量測定方法としては、ノーザンブロット法、RT-PCR法、定量RT-PCR法、RNaseプロテクションアッセイなどが挙げられる。
【0048】
IRF7のプロモーター活性を有するDNA断片の下流にレポーター遺伝子を融合したベクターが導入されたがん細胞を用いた場合には、IRF7の発現量はレポーター遺伝子の発現量として測定することができる。レポーター遺伝子の発現量は、レポーター遺伝子がコードするタンパク質(レポーター遺伝子産物)に応じて適宜選択される。例えば、レポーター遺伝子がルシフェラーゼをコードする場合、細胞溶解液を調製し、この細胞溶解液の上清中に基質となるルシフェリンを添加した後、市販の検出器を用いて発光量を測定し、レポーター遺伝子の発現量とする。他のレポーター遺伝子を用いた場合も、公知の方法でレポーター遺伝子産物量を測定することができる。
【0049】
工程(3)では、工程(2)で得られたIRF7発現量を、被験物質と接触していないがん細胞のIRF7発現量と比較して、発現量を増加させる被験物質を選択する。すなわち、被験物質を接触させない対照群におけるIRF7のタンパク質量もしくはmRNA量、またはレポーター遺伝子発現量と比較して、被験物質を接触させた場合にIRF7のタンパク質量もしくはmRNA量、またはレポーター遺伝子発現量が増加していれば、当該被験物質を目的物質として選択すれることができる。被験物質がIRF7発現量を増加させる程度は特に限定されないが、例えば、被験物質を接触させていない細胞のIRF7発現量と比較して1.5倍以上、1.6倍以上、1.7倍以上、1.8倍以上、1.9倍以上または2倍以上に増加させる被験物質を選択してもよい。
【0050】
本発明のスクリーニング方法の第二の実施形態は、以下の工程を含むものであればよい。
(1)被験物質とがん細胞を接触させる工程、
(2)前記がん細胞におけるアポリポタンパク質の発現量を測定する工程、および
(3)得られたアポリポタンパク質発現量と、被験物質と接触していない前記がん細胞のアポリポタンパク質発現量と比較して、発現量を増加させる被験物質を選択する工程。
【0051】
第二の実施形態は、第一の実施形態におけるIRF7をアポリポタンパク質に変更した以外は、第一の実施形態と同様に実施することができる。それゆえ、第二の実施形態の各工程の詳細な説明は省略する。
【0052】
アポリポタンパク質には複数種類が存在するが、本発明のスクリーニング方法では、いずれか一種のアポリポタンパク質の発現量を測定すればよい。発現量を測定するアポリポタンパク質は、例えば、APOA1BP、APOOL、APOO、APOD、APOE、APOL1、APOL2、APOL3、APOL4、APOL6、APOC1、APOC2、APOC4などから選択することができる。
【0053】
レポーター遺伝子が導入されたがん細胞を用いる場合は、測定対象のアポリポタンパク質種のプロモーター活性を有するDNA断片の下流にレポーター遺伝子を融合したベクターを導入したがん細胞や、内在性のアポリポタンパク質遺伝子内にレポーター遺伝子をノックインしたがん細胞などを用いることができる。例えばAPODのプロモーター活性を有するDNA断片としては、配列番号2で示される塩基配列からなるAPOD遺伝子の-817~+64のDNA断片(Mol Neurobiol. 2013 Dec;48(3):669-680. doi: 10.1007/s12035-013-8456-0.)などを用いることができる。
【0054】
本発明には、以下の各発明が含まれる。
(a-1)哺乳動物に対して、センダイウイルスエンベロープが投与されたがん細胞において発現が増加する遺伝子産物の有効量を投与することを含む、がん治療方法。
(a-2)がん治療に使用するための、センダイウイルスエンベロープが投与されたがん細胞において発現が増加する遺伝子産物。
(a-3)がん治療用医薬を製造するための、センダイウイルスエンベロープが投与されたがん細胞において発現が増加する遺伝子産物の使用。
発明(a-1)、(a-2)または(a-3)において、有効成分はアポリポタンパク質および/またはインターフェロン調節因子7であってもよい。
発明(a-1)、(a-2)または(a-3)において、T細胞共刺激因子アゴニストと組み合わせて使用してもよい。
【0055】
(b-1)哺乳動物に対して、センダイウイルスエンベロープの有効量およびT細胞共刺激因子アゴニストの有効量を投与することを含む、がん治療方法。
(b-2)センダイウイルスエンベロープと組み合わせてがん治療に使用するための、T細胞共刺激因子アゴニスト。
(b-3)T細胞共刺激因子アゴニストと組み合わせてがん治療に使用するための、センダイウイルスエンベロープ。
(b-4)センダイウイルスエンベロープと組み合わせて使用するがん治療用医薬を製造するための、T細胞共刺激因子アゴニストの使用。
(b-5)T細胞共刺激因子アゴニストと組み合わせて使用するがん治療用医薬を製造するための、センダイウイルスエンベロープの使用。
(c-1)哺乳動物に対して、アポリポタンパク質、インターフェロン調節因子7およびセンダイウイルスエンベロープからなる群より選択される少なくとも1種の有効量およびT細胞共刺激因子アゴニストの有効量を投与することを含む、免疫賦活方法。
(c-2)免疫を賦活するための、アポリポタンパク質、インターフェロン調節因子7およびセンダイウイルスエンベロープからなる群より選択される少なくとも1種とT細胞共刺激因子アゴニストの組み合わせの使用。
(c-3)アポリポタンパク質、インターフェロン調節因子7およびセンダイウイルスエンベロープからなる群より選択される少なくとも1種と組み合わせて使用する免疫賦活剤を製造するための、T細胞共刺激因子アゴニストの使用。
(c-4)T細胞共刺激因子アゴニストと組み合わせて使用する免疫賦活剤を製造するための、アポリポタンパク質、インターフェロン調節因子7およびセンダイウイルスエンベロープからなる群より選択される少なくとも1種の使用。
【実施例
【0056】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
〔実験方法〕
腫瘍形成
がん細胞には、B16F10(マウスメラノーマ細胞株)、LL/2(マウス肺がん細胞株)、MC38(マウス大腸がん細胞株)、CT26(マウス大腸がん細胞株)を使用した。B16F10、LL/2、MC38の培地には、10%FBS、100 U/mLペニシリン、0.1 mg/mLストレプトマイシンを含有するDMEMを用い、CT26の培地には、10%FBS、100 U/mL ペニシリン、0.1 mg/mL ストレプトマイシンを含有するRPMIを用いた。いずれの細胞も、37℃ 5% CO2で培養した。マイコプラズマ陰性であることを確認し、5×105/50μL PBS/mouse でマウスへ皮内移植した。がん細胞を移植してから5~7日後に腫瘍形成を確認し、腫瘍形成が確認された日をDay 0として実験を開始した。腫瘍径はDay 0から2日ごとに測定した。腫瘍体積は式:[腫瘍体積=長径×短径×短径×1/2]で求めた。
【0058】
HVJ-E作製および投与
HVJ-Eは、Kanedaら(Molecular Therapy 2002, 6, 2, 219-226)に記載の方法で作製した。UVで不活化したHVJ-Eを4℃ 15000rpm 10minで遠心し、上清を捨てPBSで再懸濁したものを用いた。HVJ-Eは、2000HAU HVJ-E/50μLを、Day 0、2、4に計3回腫瘍内投与した(PDXの実験を除く)。
【0059】
細胞作製
Tet発現誘導細胞は、Tet GFP、Tet GFP-Irf7、Tet GFP-Apod、Tet GFP-Apol9aおよびTet GFP-Apol9a-Apol9b-Apodの各DNA配列を、B16F10細胞のROSA領域にCRISPR/Cas9システムを用いて導入することにより作製した。
Irf7欠損B16F10細胞およびApod欠損B16F10細胞は、いずれもCRISPR/Cas9システムを用いて作製した。
【0060】
ドキシサイクリン投与
超純水で2mg/mLに溶解したドキシサイクリン塩酸塩を、実験開始前日(Day -1)からDay 6までマウスに飲水させ、Day 7以後は通常水に戻した。別途、実験開始前日(Day -1)からDay 6までの連日と、Day 8、10、12に、2mg/mLドキシサイクリン溶液200μLを、ゾンデを用いてマウスに経口投与した。
【0061】
組換えタンパク質
Apod、Apol9a、Apol9bの発現プラスミドを、ExpiFectamine 293 Transfection Kit(Thermo Fisher)を用いてExpi293F Cells(Thermo Fisher)に導入した。培養上清をMillex GV Low protein Binding 0.22μm(Merck Millipore)で濾過した後に、AKTA pure 25 M1(Cytiva)を用いて精製した。まず、Hitrap DEAE FF(Cytiva, 17-5055-01)を用いて、Start Buffer: 20mM tris pH8.0、Elution Buffer: 20mM Tris,0.5M Nacl pH8.0によって簡易精製し、目的のタンパク質が含まれる分画をHisTrap HP(Cytiva, 17-5247-01)を用いて、Start Buffer: 20mM Sodium phosphate, 0.5M NaCl, 20mM imidazole pH7.4 とElution Buffer: 20mM Sodium phosphate, 0.5M NaCl, 500mM imidazole pH7.4によって精製した。精製したタンパク質の溶液はHitrap Desaltingカラム(Cytiva, 17-1408-01)によってPBSに置換した。3種類の組換えタンパク質の混合溶液(質量比=1:1:1)を調製し、1回あたり35μg/80μLを腫瘍内投与した。
【0062】
抗体
腫瘍内投与する抗体には、T細胞共刺激因子OX40に対するアゴニスト抗体であるUltra-LEAF Purified anti-mouse CD134 (OX-40) clone: OX-86 (Biolegend 119431) および InVivoMAb anti-mouse 4-1BB (CD137) clone LOB12.3 (BioXCell BE0169) を使用した。抗体は2000HAU HVJ-E + 抗体10μg/50μL PBS として腫瘍内投与した。
CD4陽性T細胞を除去するための抗CD4抗体には、InVivoMAb anti-mouse CD4 clone GK1.5 (BioXCell BE0003-1)を、CD8陽性T細胞を除去するための抗CD8抗体には、InVivoMAb anti-mouse CD8α(2.43) clone LOB12.3 (BioXCell BE0061) を用いた。これらの抗体は、Day -1、0、2、4、6に腹腔内投与した。抗CD4抗体の1回あたりの投与量は500μg/200μL、抗CD8抗体の1回あたりの投与量は100μg/200μL とした。
【0063】
〔参考例1:免疫不全マウスに形成された腫瘍におけるHVJ-Eの抗腫瘍効果の検討〕
(1)メラノーマ患者の腫瘍組織を移植した免疫不全マウスにおけるHVJ-Eの抗腫瘍効果
同意を得た2例のメラノーマ患者から腫瘍組織を採取し、それぞれNOD-SCIDマウスに移植した(PDX: Patient-derived xenografts)。腫瘍組織の生着を確認した日をDay 0とし、1例目(PDX1)はDay 0からDay 42まで、2例目(PDX2)はDay 0からDay 38まで、2日に1回HVJ-E(2000HAU HVJ-E/50μL PBS)の腫瘍内投与と、腫瘍径の測定(腫瘍体積の記録)を行った。結果を図1に示した。(A)は1例目の患者の腫瘍組織を移植したNOD-SCIDマウスの結果、(B)は2例目の患者の腫瘍組織を移植したNOD-SCIDマウスの結果である。いずれのPDXに対してもHVJ-Eは腫瘍増殖抑制効果を示した。
【0064】
(2)マウスメラノーマ細胞を移植した免疫不全マウスにおけるHVJ-Eの抗腫瘍効果
B16F10細胞をSCIDマウスおよびNSGマウスにそれぞれ移植し、腫瘍を形成させた。Day 0、2、4にHVJ-Eを腫瘍内投与し、Day 0からDay 14まで2日ごとに腫瘍体積を記録した。結果を図2に示した。(A)はSCIDマウスの結果、(B)はNSGマウスの結果である。いずれの免疫不全マウスの腫瘍に対してもHVJ-Eは腫瘍増殖抑制効果を示した。
【0065】
(3)小括
SCIDマウスは、T細胞およびB細胞が欠失した免疫不全マウスである。NOD-SCIDマウスは、T細胞およびB細胞が欠失し、NK細胞活性が低い免疫不全マウスである。NSGマウスは、T細胞、B細胞およびNK細胞の欠失を伴う重度免疫不全マウスである。以上の結果から、HVJ-Eの標的腫瘍に対する抗腫瘍効果には、少なくともT細胞、B細胞、NK細胞は必須でないことが明らかになった。
【0066】
〔実施例1:HVJ-E投与によって発現が増加する遺伝子の解析(1)〕
B16F10細胞をGFPマウスに移植し、腫瘍を形成させた。Day 0、2、4に、HVJ-E投与群には2000HAUのHVJ-E/50μL PBSを、対照群にはPBS 50μLを腫瘍内投与しした。Day 5に腫瘍を摘出し、FACSでGFP陰性細胞を回収した。定法に従い、回収した細胞からRNAを抽出し、RNAseqを行った。得られた配列データは、STAR、Stringtie、DESeq2を用いて解析し、Rによって図示した。HVJ-E投与によって発現が増加した遺伝子を図3に示した。
【0067】
〔実施例2:Irf7欠損マウスメラノーマ細胞により形成された腫瘍に対するHVJ-Eの効果の検討〕
HVJ-E投与によって発現が増加した遺伝子(図3参照)中に転写因子をコードする遺伝子(Irf7、Batf2)が含まれている。そこで、これらの遺伝子を欠損させたマウスメラノーマ細胞を作製して、これらの転写因子がHVJ-Eによる抗腫瘍効果に与える影響を検討した。
【0068】
Irf7欠損B16F10細胞をC57BL/6Nマウスに移植し、腫瘍を形成させた。Day 0、2、4に、HVJ-E投与群にはHVJ-Eを、対照群にはPBSを腫瘍内投与した。Day 0からDay 14まで2日ごとに腫瘍体積を記録した。結果を図4に示した。Irf7欠損B16F10細胞で形成された腫瘍にHVJ-Eを投与しても、抗腫瘍効果は認められなかった。なお、データを示していないが、Batf2欠損B16F10細胞により形成された腫瘍に対するHVJ-Eの抗腫瘍効果は維持されていた。この結果から、HVJ-Eの抗腫瘍効果には、腫瘍組織におけるIrf7の発現増加が必要であることが明らかになった。
【0069】
〔実施例3:Apod欠損マウスメラノーマ細胞により形成された腫瘍に対するHVJ-Eの効果の検討〕
Irf7欠損細胞またHVJに不応のLL2細胞を用いてIrf7依存的に発現が増加する遺伝子を調べたところ、Apod、Apol9a、Apol9bの遺伝子発現が増加することを見出した。そこで、Apod遺伝子を欠損させたマウスメラノーマ細胞を作製して、HVJ-Eによる抗腫瘍効果に与える影響を検討した。
【0070】
Apod欠損B16F10細胞をC57BL/6Nマウスに移植し、腫瘍を形成させた。Day 0、2、4に、HVJ-E投与群にはHVJ-Eを、対照群にはPBSを腫瘍内投与した。Day 0からDay 14まで2日ごとに腫瘍体積を記録した。結果を図5に示した。Apod遺伝子を欠損させたマウスメラノーマ細胞で形成された腫瘍にHVJ-Eを投与しても、抗腫瘍効果は認められなかった。
【0071】
〔実施例4:HVJ-E投与によって発現が増加する遺伝子の解析(2)〕
上記参考例1(1)の試験終了後、メラノーマ患者の腫瘍組織を移植したNOD-SCIDマウス(PDX1、PDX2)からそれぞれ腫瘍を摘出し、マウス由来細胞を除去した後、定法に従い、回収したヒト由来細胞からRNAを抽出し、RNAseqを行った。得られた配列データは、STAR、Stringtie、DESeq2を用いて解析し、Rによって図示した。
【0072】
HVJ-E投与によって発現が増加した遺伝子を図6に示した。ヒト由来の腫瘍においても、マウス由来の腫瘍と同様にHVJ-E投与によりIRF7の発現増加が認められた。さらに、アポリポタンパク質として、APOA1BP、APOOL、APOO、APOD、APOE、APOL1、APOL2、APOL3、APOL4、APOL6、APOC1、APOC2、APOC4の発現が2つのPDXに共通して増加した。
【0073】
〔実施例5:Irf7による抗腫瘍効果の検討〕
HVJ-Eを投与した腫瘍において、Irf7の発現が増加していることが見出され、Irf7欠損マウスメラノーマ細胞により形成された腫瘍に対してHVJ-Eの抗腫瘍効果が認められなかったことから、腫瘍内でIrf7を発現させることにより抗腫瘍効果が認められるか否かを検討した。
【0074】
ドキシサイクリン誘導的にGFPとIrf7を発現するTet GFP-Irf7を導入したB16F10細胞をC57BL/6Nマウスに移植し、腫瘍を形成させた(Tet GFP-Irf7群)。対照としてドキシサイクリン誘導的にGFPのみを発現するTet-GFPを導入したB16F10細胞を用いて、同様にマウスに腫瘍を形成させた(Tet GFP群)。両群ともドキシサイクリン投与群と非投与群にさらに群分けした。ドキシサイクリンの投与スケジュールは上記の通りである。Day 0からDay 14まで2日ごとに腫瘍体積を記録した。
【0075】
結果を図7に示した。(A)はTet GFP群の結果、(B)はTet GFP-Irf7群の結果である。腫瘍内でIrf7を発現させることにより、腫瘍増殖が有意に抑制された。
【0076】
〔実施例6:アポリポタンパク質による抗腫瘍効果の検討(1)〕
HVJ-Eを投与した腫瘍において、アポリポタンパク質の発現が増加していることが見出され、Apod欠損マウスメラノーマ細胞により形成された腫瘍に対してHVJ-Eの抗腫瘍効果が認められなかったことから、腫瘍内でアポリポタンパク質を発現させることにより抗腫瘍効果が認められるか否かを検討した。
【0077】
ドキシサイクリン誘導的にGFPとアポリポタンパク質Dを発現するTet GFP-Apod、ドキシサイクリン誘導的にGFPとアポリポタンパク質L9aを発現するTet GFP-Apol9a、およびドキシサイクリン誘導的にGFPとアポリポタンパク質L9aとアポリポタンパク質L9bとアポリポタンパク質Dを発現するTet GFP-Apol9a-Apol9b-Apodをそれぞれ導入したB16F10細胞をC57BL/6Nマウスに移植し、腫瘍を形成させた(Tet GFP-Apod群、Tet GFP-Apol9a群、Tet GFP-Apol9a-Apol9b-Apod群)。各群ともドキシサイクリン投与群と非投与群にさらに群分けした。ドキシサイクリンの投与スケジュールは上記の通りである。Day 0からDay 14まで2日ごとに腫瘍体積を記録した。
【0078】
結果を図8に示した。(A)はTet GFP-Apod群の結果、(B)はTet GFP-Apol9a群の結果、(C)はTet GFP-Apol9a-Apol9b-Apod群の結果である。いずれの群においても、ドキシサイクリンを投与して腫瘍内にアポリポタンパク質を発現させると、腫瘍増殖が有意に抑制された。
【0079】
〔実施例7:アポリポタンパク質による抗腫瘍効果の検討(2)〕
B16F10細胞(野生型)をC57BL/6Nマウスに移植し、腫瘍を形成させた。アポリポタンパク質群(Apolipoproteins)と対照群(Vehicle)の2群に分け、アポリポタンパク質群にはアポリポタンパク質D、L9a、L9bの3種類の組換えタンパク質の混合溶液(質量比=1:1:1)を、Day 0、2、4、6、8、10および12に、合計7回腫瘍内投与した(35μg/80μL/shot)。対照群には溶媒(80μL/shot)を7回腫瘍内投与した。
【0080】
結果を図9に示した。アポリポタンパク質を直接腫瘍内に投与することによっても、腫瘍増殖を有意に抑制できることを確認した。なお、本実施例ではアポリポタンパク質D、L9a、L9bの混合液を投与したが、実施例6の結果を参照すれば、アポリポタンパク質D、アポリポタンパク質L9a、またはアポリポタンパク質L9bの単独投与でも十分な抗腫瘍効果を奏することが理解できる。さらに、これらの実験結果から、ヒト由来の腫瘍においてHVJ-E投与により発現が増加したアポリポタンパク質(APOA1BP、APOOL、APOO、APOD、APOE、APOL1、APOL2、APOL3、APOL4、APOL6、APOC1、APOC2、APOC4)についてもそれぞれ単独または組み合わせて抗腫瘍効果を奏することが示唆される。
【0081】
〔実施例8:全身性抗腫瘍効果の検討〕
8-1 HVJ-EとOX40アゴニスト抗体との併用効果の検討
(1)マウスメラノーマB16F10細胞により形成された腫瘍
B16F10細胞(野生型)をC57BL/6Nマウスの左右両側に移植し、腫瘍を形成させた。HVJ-EとT細胞共刺激因子OX40に対するアゴニスト抗体を投与する群(HVJE+OX40群)、HVJ-EとコントロールIgGを投与する群(HVJE+CtrlIgG群)、OX40アゴニスト抗体を投与する群(OX40群)およびコントロールIgGを投与する群(CtrlIgG群)の4群を設けた。投与量および投与スケジュールは上記の通りである。投与は左側腫瘍内に行い、標的腫瘍(左側)と非標的腫瘍(右側)の体積を、Day 0からDay 14まで2日ごとに記録した(図10(A)参照)。
【0082】
結果を図10(B)、(C)に示した。(B)は標的腫瘍の結果、(C)は非標的腫瘍の結果である。HVJE+OX40群およびHVJE+CtrlIgG群は、標的腫瘍の増殖を有意に抑制した。一方、HVJE+OX40群は非標的腫瘍の増殖を有意に抑制したが、HVJE+CtrlIgG群は非標的腫瘍の増殖を抑制しなかった。
【0083】
(2)マウス大腸がんCT26細胞により形成された腫瘍
上記(1)において、B16F10細胞(野生型)をCT26細胞(野生型)に変更した以外は同じ方法で実験を行った(図11(A)参照)。結果を図11(B)、(C)に示した。(B)は標的腫瘍の結果、(C)は非標的腫瘍の結果である。HVJE+OX40群およびHVJE+CtrlIgG群は、標的腫瘍の増殖を有意に抑制した。一方、HVJE+OX40群は非標的腫瘍の増殖を有意に抑制したが、HVJE+CtrlIgG群は非標的腫瘍の増殖を抑制しなかった。
【0084】
(3)マウス大腸がんMC38細胞により形成された腫瘍
上記(1)において、B16F10細胞(野生型)をMC38細胞(野生型)に変更した以外は同じ方法で実験を行った(図12(A)参照)。結果を図12(B)、(C)に示した。(B)は標的腫瘍の結果、(C)は非標的腫瘍の結果である。HVJE+OX40群およびHVJE+CtrlIgG群は、標的腫瘍の増殖を有意に抑制した。一方、HVJE+OX40群は非標的腫瘍の増殖を有意に抑制したが、HVJE+CtrlIgG群は非標的腫瘍の増殖を抑制しなかった。
【0085】
8-2 免疫不全マウス(SCIDマウス)に対するHVJ-Eと抗OX40抗体との併用効果の検討 8-1(1)において、C57BL/6Nマウスに代えてSCIDマウスを用いたこと以外は同じ方法で実験を行った(図13(A)参照)。結果を図13(B)、(C)に示した。(B)は標的腫瘍の結果、(C)は非標的腫瘍の結果である。SCIDマウスを用いた場合、HVJE+OX40群は非標的腫瘍の増殖を抑制しなかった。この結果から、非標的腫瘍に対する抗腫瘍効果は、リンパ球依存的であることが判明した。
【0086】
8-3 HVJ-Eと抗PD-1抗体との併用効果の検討
8-1(1)において、OX40アゴニスト抗体に代えて、免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体を用いたこと以外は同じ方法で実験を行った(図14(A)参照)。結果を図14(B)、(C)に示した。(B)は標的腫瘍の結果、(C)は非標的腫瘍の結果である。HVJE+PD-1群は非標的腫瘍の増殖を抑制しなかった。
【0087】
8-4 HVJ-Eと4-1-BBアゴニスト抗体との併用効果の検討
8-1(1)において、OX40アゴニスト抗体に代えて、OX40と同じT細胞共刺激因子である4-1-BBに対するアゴニスト抗体を用いたこと以外は同じ方法で実験を行った(図15(A)参照)。結果を図15(B)、(C)に示した。(B)は標的腫瘍の結果、(C)は非標的腫瘍の結果である。HVJE+4-1-BB群は非標的腫瘍の増殖を有意に抑制した。
以上の結果から、HVJ-EおよびT細胞共刺激因子の刺激によって、全身性抗腫瘍効果が誘導できることが明らかになった。
【0088】
〔実施例9:全身性抗腫瘍効果における腫瘍細胞腫特異性の検討〕
全身性抗腫瘍効果が、腫瘍細胞種に特異的であるか否かを確認するために、非標的腫瘍としてB16F10細胞に代えて、マウス肺腺がん細胞であるLL/2細胞を移植して腫瘍を形成させた。すなわち、非標的腫瘍を形成させるがん細胞をB16F10細胞からLL/2細胞を代えたこと以外は4-1と同じ実験を行った(図16(A)参照)。
【0089】
結果を図16(B)、(C)に示した。(B)は標的腫瘍の結果、(C)は非標的腫瘍の結果である。メラノーマ細胞の腫瘍(標的腫瘍)にHVJ-EとOX40アゴニスト抗体を併用投与しても、肺がん細胞の腫瘍(非標的腫瘍)の増殖を抑制しなかった。この結果から、HVJ-EとOX40アゴニスト抗体によって誘導される全身性抗腫瘍効果は腫瘍細胞種特異的であることが明らかになった。
【0090】
〔実施例10:全身性抗腫瘍効果におけるCD4陽性T細胞およびCD8陽性T細胞の関与の検討〕
HVJ-EとOX40アゴニスト抗体による非標的腫瘍に対する抗腫瘍効果にCD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞の果たす役割を明らかにするための実験を行った。
【0091】
B16F10細胞をC57BL/6Nマウスの両側に移植し、腫瘍を形成させた(図17(A)参照)。左側腫瘍内にHVJ-EとOX40アゴニスト抗体をday 0、2、4に3回投与した。また、CD4陽性T細胞を除去するための抗体、CD8陽性T細胞を除去するための抗体またはコントロールIgGを、Day -1、0、2、4および6に腹腔内投与した。標的腫瘍(左側)と非標的腫瘍(右側)の体積を、Day 0からDay 14まで2日ごとに記録した。
【0092】
結果を図17(B)、(C)に示した。(B)は標的腫瘍の結果、(C)は非標的腫瘍の結果である。CD8陽性T細胞を除去すると非標的腫瘍に対する抗腫瘍効果は減弱するが、CD4陽性T細胞を除去すると非標的腫瘍に対する抗腫瘍効果が増強されることが明らかになった。この結果から、CD4陽性T細胞は免疫が強く活性化し過ぎないようにCD8陽性T細胞を制御していることが判明した。また、HVJ-E、OX40アゴニスト抗体およびCD4陽性T細胞除去抗体の併用によって、強力に非標的腫瘍に対しても抗腫瘍効果を誘導できることが分かった。
【0093】
〔実施例11:アポリポタンパク質とOX40アゴニスト抗体との併用による全身性抗腫瘍効果の検討〕
Tet GFP-Apol9a-Apol9b-Apodを導入したB16F10細胞をC57BL/6Nマウスの左側に移植し、野生型B16F10細胞を右側に移植して、それぞれ腫瘍を形成させた(図18(A)参照)。ドキシサイクリンの投与スケジュールは上記の通りである。OX40アゴニスト抗体またはコントロールIgGは、Day 0、2、4の3回左側腫瘍内に投与した。標的腫瘍(左側)と非標的腫瘍(右側)の体積を、Day 0からDay 14まで2日ごとに記録した。また、Day 0、4、8、14に体重を測定した。
【0094】
結果を図18(B)、(C)、(D)に示した。(B)は体重の結果、(C)は標的腫瘍の結果、(D)は非標的腫瘍の結果である。ドキシサイクリン投与により腫瘍内にアポリポタンパク質を発現させると共に、OX40アゴニスト抗体を腫瘍内投与すると、標的腫瘍だけでなく、非標的腫瘍においても強力に腫瘍増殖が抑制された。また、観察期間を通して体重減少が認められなかったので、免疫関連有害事象は発生していないことが示唆された。
【0095】
〔実施例12:Irf7とOX40アゴニスト抗体との併用による全身性抗腫瘍効果の検討〕
Tet GFP-Irf7を導入したB16F10細胞をC57BL/6Nマウスの左側に移植し、野生型B16F10細胞を右側に移植して、それぞれ腫瘍を形成させた(図19(A)参照)。対照として、Tet-GFPを導入したB16F10細胞をC57BL/6Nマウスの左側に移植し、野生型B16F10細胞を右側に移植して、それぞれ腫瘍を形成させた(図20(A)参照)。ドキシサイクリンの投与スケジュールは上記の通りである。OX40アゴニスト抗体またはコントロールIgGは、Day 0、2、4の3回左側腫瘍内に投与した。標的腫瘍(左側)と非標的腫瘍(右側)の体積を、Day 0からDay 14まで2日ごとに記録した。
【0096】
Tet GFP-Irf7導入B16F10細胞を標的腫瘍とした結果を図19(B)、(C)に示し、Tet GFP導入B16F10細胞を標的腫瘍とした結果を図20(B)、(C)に示した。それぞれ(B)は標的腫瘍の結果、(C)は非標的腫瘍の結果である。ドキシサイクリン投与により腫瘍内にIrf7を発現させると共に、OX40アゴニスト抗体を腫瘍内投与すると、標的腫瘍だけでなく、非標的腫瘍においても腫瘍増殖が抑制された。一方、ドキシサイクリン投与により腫瘍内にGFPのみを発現させてOX40アゴニスト抗体を腫瘍投与した場合は、標的腫瘍および非標的腫瘍のどちらも腫瘍増殖が抑制されなかった。この結果から、下流でアポリポタンパク質の発現を増加させるIrf7を腫瘍内で発現させることによっても、非標的腫瘍の増殖抑制効果が発揮されることが判明した。
【0097】
〔実施例13:HVJ-EとOX40アゴニスト抗体との併用による全身性免疫賦活効果の検討〕
(1)標的腫瘍および非標的腫瘍におけるT細胞数の評価
B16F10細胞(野生型)をC57BL/6Nマウスの左右両側に移植し、腫瘍を形成させた。HVJ-EとT細胞共刺激因子OX40に対するアゴニスト抗体を投与する群(HVJE+OX40群)、HVJ-EとコントロールIgGを投与する群(HVJE+CtrlIgG群)、PBSとOX40アゴニスト抗体を投与する群(PBS+OX40群)およびPBSとコントロールIgGを投与する群(PBS+CtrlIgG群)の4群を設けた。上記〔実験方法〕に記載の投与量でDay 0、2、4の3回左側腫瘍(標的腫瘍)内に投与した。Day 10またはDay 11に標的腫瘍および非標的腫瘍(右側腫瘍)を摘出し、FACSでCD4陽性T細胞(CD45/CD3/CD4)およびCD8陽性T細胞(CD45/CD3/CD8)の10万細胞あたりの数を計測した(図21(A)参照)。
【0098】
結果を図21(B)、(C)に示した。(B)は標的腫瘍の結果、(C)は非標的腫瘍の結果である。HVJ-EとOX40アゴニスト抗体との併用により、標的腫瘍だけでなく非標的細胞においても、CD4陽性T細胞およびCD8陽性T細胞が顕著に増加した。一方、HVJ-E単独投与およびOX40アゴニスト抗体単独投与では、T細胞の増加は認められなかった。
【0099】
(2)非標的細胞におけるT細胞活性化状態の評価
HVJE+OX40群およびHVJE+CtrlIgG群の非標的腫瘍におけるFoxp3陰性CD4陽性T細胞およびCD8陽性T細胞中のIFNγ陽性細胞数およびKi67陽性細胞数を、それぞれFACSで計測した。なお、Ki67は細胞増殖マーカーである。
【0100】
結果を図22に示した。結果は、全Foxp3陰性CD4陽性T細胞に対するIFNγ陽性細胞またはKi67陽性細胞の割合(%)、および、全CD8陽性T細胞に対するIFNγ陽性細胞またはKi67陽性細胞の割合(%)で示した。HVJ-EとOX40アゴニスト抗体との併用により、非標的腫瘍のT細胞におけるIFNγ発現が有意に増加し、細胞増殖が有意に亢進していることが示された。
【0101】
〔実施例14:アポリポタンパク質とOX40アゴニスト抗体との併用による併用による全身性免疫賦活効果の検討〕
Tet GFP-Apol9a-Apol9b-Apodを導入したB16F10細胞をC57BL/6Nマウスの左側に移植し、野生型B16F10細胞を右側に移植して、それぞれ腫瘍を形成させた(図23(A)参照)。ドキシサイクリンの投与スケジュールは上記の通りである。OX40アゴニスト抗体またはコントロールIgGは、Day 0、2、4の3回左側腫瘍(標的腫瘍)内に投与した。Day 14に標的腫瘍および非標的腫瘍(右側腫瘍)を摘出し、それぞれCD4陽性T細胞およびCD8陽性T細胞中のIFNγ陽性細胞数、Ki67陽性細胞数、グランザイムA陽性細胞数およびグランザイムB陽性細胞数をFACSで計測した。なお、グランザイムAおよびBは、標的細胞のアポトーシスを誘導する酵素である。
【0102】
結果を図23(B)に示した。結果は、全CD4陽性T細胞または全CD8陽性T細胞に対する各指標の陽性細胞の割合(%)で示した。OX40アゴニスト抗体投与群の非標的腫瘍のCD4陽性T細胞およびCD8陽性T細胞において、コントロールIgG投与群と比較してIFNγ発現が有意に増加し、細胞増殖が有意に亢進していることが示された。また、非標的腫瘍のCD8陽性T細胞において、コントロールIgG投与群と比較してグランザイムA発現が有意に増加していることが示された。
【0103】
〔実施例15:アポリポタンパク質とOX40アゴニスト抗体との併用による併用による全身性抗腫瘍効果および全身性免疫賦活効果の検討〕
Tet GFP-Apodを導入したB16F10細胞をC57BL/6Nマウスの左側に移植し、野生型B16F10細胞を右側に移植して、それぞれ腫瘍を形成させた(図24(A)参照)。ドキシサイクリンの投与スケジュールは上記の通りである。OX40アゴニスト抗体またはコントロールIgGは、Day 0、2、4の3回左側腫瘍(標的腫瘍)内に投与した。標的腫瘍(左側)と非標的腫瘍(右側)の体積を、Day 0からDay 14まで2日ごとに記録した。Day 14に標的腫瘍および非標的腫瘍(右側腫瘍)を摘出し、それぞれCD4陽性T細胞(CD45/CD3/CD4)およびCD8陽性T細胞(CD45/CD3/CD8)の10万細胞あたりの数をFACSで計測した。
【0104】
抗腫瘍効果の結果を図24(B)、(C)に示した。(B)は標的腫瘍の結果、(C)は非標的腫瘍の結果である。ドキシサイクリン投与により腫瘍内にアポリポタンパク質を発現させると共に、OX40アゴニスト抗体を腫瘍内投与すると、標的腫瘍だけでなく、非標的腫瘍においても強力に腫瘍増殖が抑制された。
【0105】
CD4陽性T細胞数およびCD8陽性T細胞数の結果を図25(A)、(B)に示した。(A)は標的腫瘍の結果、(B)は非標的腫瘍の結果である。アポリポタンパク質を発現させると共に、OX40アゴニスト抗体を腫瘍内投与すると、標的腫瘍だけでなく、非標的腫瘍においてもCD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞の数が顕著に増加した。
【0106】
〔実施例16:アポリポタンパク質とOX40アゴニスト抗体との併用による全身性抗腫瘍効果および全身性免疫賦活効果の検討〕
B16F10細胞(野生型)をC57BL/6Nマウスの両側に移植し、それぞれ腫瘍を形成させた。精製Apodタンパク質40μgとOX40アゴニスト抗体投与する群(Apod/OX40群)、精製Apodタンパク質40μgとコントロールIgGを投与する群(Apod/CtrlIgG群)、PBSとOX40アゴニスト抗体を投与する群(PBS/OX40群)およびPBSとコントロールIgGを投与する群(PBS/CtrlIgG群)の4群を設けた。Day 0、2、4、6、8の5回左側腫瘍(標的腫瘍)内に投与した。標的腫瘍(左側)と非標的腫瘍(右側)の体積を、Day 0からDay 14まで2日ごとに記録した。Day 14に標的腫瘍および非標的腫瘍を摘出し、それぞれCD4陽性T細胞(CD45/CD3/CD4)およびCD8陽性T細胞(CD45/CD3/CD8)の10万細胞あたりの数をFACSで計測した。
【0107】
抗腫瘍効果の結果を図26(A)、(B)に示した。(A)は標的腫瘍の結果、(B)は非標的腫瘍の結果である。アポリポタンパク質とOX40アゴニスト抗体を腫瘍内投与すると、標的腫瘍だけでなく、非標的腫瘍においても強力に腫瘍増殖が抑制された。
【0108】
CD4陽性T細胞数およびCD8陽性T細胞数の結果を図27(A)、(B)に示した。(A)は標的腫瘍の結果、(B)は非標的腫瘍の結果である。アポリポタンパク質とOX40アゴニスト抗体を腫瘍内投与すると、標的腫瘍だけでなく、非標的腫瘍においてもCD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞の数が顕著に増加した。
【0109】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
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