(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】エチレン-ビニルアルコール共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 8/12 20060101AFI20241119BHJP
C08F 216/06 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
C08F8/12
C08F216/06
(21)【出願番号】P 2023518515
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(86)【国際出願番号】 KR2022009460
(87)【国際公開番号】W WO2023080384
(87)【国際公開日】2023-05-11
【審査請求日】2023-03-22
(31)【優先権主張番号】10-2021-0149099
(32)【優先日】2021-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ヒョジン・ベ
(72)【発明者】
【氏名】ボンジュン・キム
(72)【発明者】
【氏名】スンジン・ソン
(72)【発明者】
【氏名】セ・ウォン・ベク
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-526050(JP,A)
【文献】国際公開第02/050137(WO,A1)
【文献】特開平09-067411(JP,A)
【文献】特開2001-055414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール溶媒中に分散されたエチレン-酢酸ビニル共重合体に、第1アルカリ触媒溶液を滴加しながら反応させる第1鹸化反応段階;および
前記第1鹸化反応混合物に第2アルカリ触媒溶液を滴加しながら反応させる第2鹸化反応段階;を含
み、
前記第1アルカリ触媒および第2アルカリ触媒の総使用量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル単位1モルに対して0.01モル以上~0.03モル未満である、エチレン-ビニルアルコール共重合体の製造方法。
【請求項2】
第1アルカリ触媒および第2アルカリ触媒はそれぞれ、エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル単位1モルに対して0.0025モル~0.02モルで使用される、請求項
1に記載のエチレン-ビニルアルコール共重合体の製造方法。
【請求項3】
前記第1アルカリ触媒溶液の滴加は、エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル単位1モルに対して1分当り第1アルカリ触媒の投入量が1.0×10
-5モル~13×10
-5モルであるように行われる、請求項1に記載のエチレン-ビニルアルコール共重合体の製造方法。
【請求項4】
前記第2アルカリ触媒溶液の滴加は、エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル単位1モルに対して1分当り第2アルカリ触媒の投入量が2.0×10
-5モル~8.0×10
-5モルであるように行われる、請求項1に記載のエチレン-ビニルアルコール共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記第1鹸化反応段階および/または第2鹸化反応段階の終了はそれぞれ、アルカリ触媒の滴加が完了する時点に行われる、請求項1に記載のエチレン-ビニルアルコール共重合体の製造方法。
【請求項6】
前記第1鹸化反応段階と第2鹸化反応段階は連続して行われる、請求項1に記載のエチレン-ビニルアルコール共重合体の製造方法。
【請求項7】
前記第2鹸化反応段階の温度は、第1鹸化反応段階の温度と同一であるかさらに高い、請求項1に記載のエチレン-ビニルアルコール共重合体の製造方法。
【請求項8】
前記第1鹸化反応段階の温度は40℃~120℃である、請求項1に記載のエチレン-ビニルアルコール共重合体の製造方法。
【請求項9】
前記第2鹸化反応段階の温度は60℃~120℃である、請求項1に記載のエチレン-ビニルアルコール共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互引用
本出願は2021年11月2日付韓国特許出願第10-2021-0149099号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、エチレン-ビニルアルコール共重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(Ethylene-Vinyl Alcohol、EVOH)は、酸素など気体遮断性、透明性、耐油性、非帯電性、機械強度などに優れてフィルム、シート、容器などの材料として広く使用されている。
【0004】
前記EVOHは、エチレンと酢酸ビニルの共重合によって製造されるエチレン-酢酸ビニル共重合体(Ethylene-Vinyl Acetate、EVAc)の鹸化反応を通じて製造することができる。EVAcの鹸化反応の触媒としては主に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アルカリ金属アルコレートなどのアルカリ触媒が使用される。
【0005】
EVOHは鹸化度が高いほど優れた気体遮断性を示すので、食品包装用途などに使用されるEVOHは99%以上の高い鹸化度を有するのが好ましい。このように高い鹸化度を達成するために、従来は鹸化反応をより高い温度で行うか、あるいはアルカリ触媒の使用量を増やす方法が使用された。
【0006】
しかし、高温鹸化反応の場合、副反応が起こりやすく、多量のアルカリ触媒を使用する場合、鹸化物中の触媒副生成物の量が増加する問題がある。触媒副生成物はEVOHの変色を引き起こすので、鹸化反応後にこれを除去するための洗浄工程が伴われ、触媒副生成物の含量が高い場合、過度な洗浄工程が必要になって工程効率性が低下し、過量の廃水が発生するので環境的側面から好ましくない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記問題を解決するためのものであって、アルカリ触媒の使用量を最少化しながらも高い鹸化度のエチレン-ビニルアルコール共重合体を得ることができるエチレン-ビニルアルコール共重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
よって、本発明の一実施形態によれば、アルコール溶媒中に分散されたエチレン-酢酸ビニル共重合体に、第1アルカリ触媒を滴加しながら反応させる第1鹸化反応段階;および前記第1鹸化反応混合物に第2アルカリ触媒を滴加しながら反応させる第2鹸化反応段階;を含むエチレン-ビニルアルコール共重合体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アルカリ触媒の使用量を最少化しながら高い鹸化度のエチレン-ビニルアルコール共重合体を得ることができる。よって、本発明によれば、鹸化工程後にエチレン-ビニルアルコール共重合体に含まれている触媒副生成物を除去するための洗浄工程の効率性が増大でき、洗浄工程から発生する廃水量を最少化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で使用される用語は単に例示的な実施例を説明するために使用されたものであって、本発明を限定しようとする意図ではない。単数の表現は文脈上明白に異なって意味しない限り、複数の表現を含む。本明細書で、“含む”、“備える”または“有する”などの用語は実施された特徴、段階、構成要素またはこれらを組み合わせたものが存在するのを指定しようとするのであり、一つまたはそれ以上の他の特徴や段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものの存在または付加可能性を予め排除しないと理解されなければならない。
【0011】
本発明は多様な変更を加えることができ様々の形態を有することができるところ、特定実施例を例示して下記で詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の開示形態に対して限定しようとするのではなく、本発明の思想および技術範囲に含まれる全ての変更、均等物乃至代替物を含むと理解されなければならない。
【0012】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0013】
本発明のエチレン-ビニルアルコール共重合体の製造方法は、アルコール溶媒中に分散されたエチレン-酢酸ビニル共重合体に、第1アルカリ触媒を滴加しながら反応させる第1鹸化反応段階;および
前記第1鹸化反応混合物に第2アルカリ触媒を滴加しながら反応させる第2鹸化反応段階;を含む。
【0014】
本発明では、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVAc)の鹸化反応を二段階に分けて行い、アルカリ触媒溶液を一時に投入せず、それぞれの段階で連続的に滴加する方式で投入する。この時‘滴加’とは、溶液を点滴式で投入することを意味する。
【0015】
このようにアルカリ触媒溶液を連続滴加すれば、触媒を一時に投入する場合と比較して少量の触媒でも高い鹸化度のエチレン-ビニルアルコール共重合体を得ることができ、これにより鹸化反応以後に製造されたエチレン-ビニルアルコール共重合体中に含まれているアルカリ触媒副生成物を除去するための洗浄工程が簡素化できて工程の効率性と経済性を高め廃水発生量を最少化することができる。
【0016】
本発明において、反応物質であるエチレン-酢酸ビニル共重合体は市販品を使用するか、またはエチレンおよび酢酸ビニル単量体を共重合して製造することができる。
【0017】
または、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体は、エチレンおよび酢酸ビニル以外に、これらと共重合できる単量体をさらに含んで共重合されたものであってもよい。このような単量体の例としては、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセンなどのα-オレフィン;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸などの不飽和酸、その塩、その無水物またはモノまたはジアルキルエステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類;アクリルアミド、メタクリルアミドなどのアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸などのオレフィンスルホン酸またはその塩;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどのビニル系単量体;などが挙げられる。
【0018】
エチレン-酢酸ビニル共重合体のエチレン含量は、目的とするエチレン-ビニルアルコール共重合体の物性によって適切に調節することができる。一実施形態で、エチレン-酢酸ビニル共重合体のエチレン含量は、20モル%以上、25モル%以上、27モル%、または30モル%以上でありながら、60モル%以下、50モル%以下、48モル%、または35モル%以下であってもよい。エチレン-酢酸ビニル共重合体のエチレン含量が過度に低い場合には製造されるエチレン-ビニルアルコール共重合体の高湿下のガスバリア性、溶融成形性が低下する傾向があり、過度に高い場合にはガスバリア性が低下する傾向がある。一方、前記エチレン含量は、後述の実施例で具体化されるように、エチレン-酢酸ビニル共重合体、またはエチレン-ビニルアルコール共重合体の1H-NMRデータのピーク積分比から計算することができる。
【0019】
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体の重量平均分子量(Mw)は特に制限されないが、一例として180,000g/mol以上、200,000g/mol以上、または220,000g/mol以上でありながら、290,000g/mol以下、270,000g/mol以下、または260,000g/mol以下であってもよい。前記重量平均分子量を満足するエチレン-酢酸ビニル共重合体の鹸化反応で得られるエチレン-ビニルアルコール共重合体は、重量平均分子量が120,000g/mol以上、130,000g/mol以上、または140,000g/mol以上でありながら、180,000g/mol以下、170,000g/mol以下、または160,000g/mol以下の範囲を満足することができる。
【0020】
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体の重量平均分子量が過度に大きい場合には製造されるエチレン-ビニルアルコール共重合体の粘度が過度に高まって溶融押出が難しい傾向があり、過度に小さい場合にはフィルム製造時成膜性が不安定になる傾向がある。前記エチレン-酢酸ビニル共重合体およびエチレン-ビニルアルコール共重合体の重量平均分子量は、後述のように、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)を通じて測定することができる。
【0021】
前記アルコール溶媒としては、通常エチレン-酢酸ビニル共重合体の鹸化反応に使用される溶媒を制限なく使用することができる。例えば、前記アルコール溶媒としてはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、またはブタノールなどの低級アルコール溶媒を使用することができ、これらのうち、入手が容易であり低価である点から、工業上に好ましくはメタノールを使用することができる。
【0022】
前記第1アルカリ触媒および第2アルカリ触媒は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシド、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、およびプロピオン酸ナトリウムからなる群より選択された1種以上を使用することができ、高鹸化度のEVOH製造側面から、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドを使用することができる。
【0023】
前記第1アルカリ触媒と第2アルカリ触媒は互いに同じか異なってもよく、好ましくは、第1アルカリ触媒と第2アルカリ触媒として同一な物質を使用することができる。
【0024】
前記第1アルカリ触媒および第2アルカリ触媒の総使用量は、エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル単位1モルに対して0.01モル以上、または0.015モル以上でありながら、0.03モル未満、または0.02モル以下であってもよい。
【0025】
既存の方法で高い鹸化度を有するエチレン-ビニルアルコール共重合体を製造するためには酢酸ビニル単位1モルに対して0.03モル以上のアルカリ触媒が必要であったが、本発明の製造方法によればアルカリ触媒の使用量を低減しながらも高い鹸化度を有するエチレン-ビニルアルコール共重合体を製造することができる。しかし、アルカリ触媒の総使用量が0.01モル未満で過度に少ない場合は鹸化反応が過度に遅くなることがあるので、前記触媒使用量を満足するのが好ましい。
【0026】
また、前記総使用量を満足する範囲で、第1アルカリ触媒および第2アルカリ触媒はそれぞれ、エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル単位1モルに対して0.0025モル以上、または0.005モル以上でありながら、0.02モル以下、または0.01モル以下に使用することができる。
【0027】
前記第1アルカリ触媒および第2アルカリ触媒は、1:1~1:4のモル比、または1:1~1:2のモル比で使用することができる。このように第2アルカリ触媒使用量を第1アルカリ触媒使用量と同じかより多くして、より高い鹸化度を有するエチレン-ビニルアルコール共重合体を製造することができる。
【0028】
前記第1アルカリ触媒および第2アルカリ触媒は、溶液の形態で前記エチレン-酢酸ビニル共重合体分散液に滴加される。この時、溶媒としては前述のアルコール溶媒を使用することができ、エチレン-酢酸ビニル共重合体分散液製造に使用されたものと同一なものを使用することが好ましい。各アルカリ触媒溶液の濃度は互いに同じか異なってもよく、エチレン-酢酸ビニル共重合体分散液の濃度および目的とするアルカリ触媒溶液の滴加速度によって調節できる。
【0029】
第1鹸化反応段階では先ず、アルコール溶媒中にエチレン-酢酸ビニル共重合体を分散させて分散液を製造し、ここに第1アルカリ触媒を滴加しながら鹸化反応を行う。
【0030】
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体分散液を製造するためのアルコール溶媒の使用量は、アルコール溶媒の種類およびエチレン-酢酸ビニル共重合体の種類と、アルカリ触媒溶液の濃度などによって適切に調節することができる。例えば、アルコール溶媒はエチレン-酢酸ビニル共重合体100重量部に対して、100重量部~1000重量部の範囲で使用することができ、または200重量部以上、または300重量部以上でありながら、800重量部、または700重量部、または500重量部以下の範囲で使用することができるが、これに制限されない。
【0031】
前記第1アルカリ触媒溶液の滴加速度は反応時間によって調節することができ、一例として第1アルカリ触媒溶液の滴加は、エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル単位1モルに対して1分当り第1アルカリ触媒の投入量が1.0×10-5モル~13×10-5モルであるように行うことができる。前記滴加速度範囲を満足する時、鹸化反応時間が過度に長くならなく、反応効率を高めて鹸化度の高いエチレン-ビニルアルコール共重合体を製造することができる。
【0032】
このような観点から、第1アルカリ触媒溶液の滴加は、エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル単位1モルに対して1分当り第1アルカリ触媒の投入量が2.0×10-5モル以上、または3.0×10-5モル以上、または4.0×10-5モル以上でありながら、11.0×10-5モル以下、または10.0×10-5モル以下、または9.0×10-5モル以下であるように行われることが好ましい。
【0033】
前記第1鹸化反応段階の温度は、40℃以上、50℃以上、または60℃以上でありながら、120℃以下、110℃以下、または100℃以下であってもよい。反応温度が40℃未満である場合、鹸化反応速度が過度に遅くなることがあり、120℃を超過する場合、副反応が発生しやすいので、前記範囲を満足するのが好ましい。
【0034】
前記第1鹸化反応は不活性気体雰囲気下で行うことができ、転換率を高めるために副生する酢酸メチルを持続的に系外に排出させながら反応を行うことができる。
【0035】
一方、前記第1鹸化反応段階の終了は、第1アルカリ溶液の滴加が完了する時点に行われてもよい。言い換えれば、前記第1アルカリ溶液の滴加は、第1鹸化反応の開始時から終了時まで連続的に行うことができる。このように反応時間全般にわたって第1アルカリ溶液を滴加することによって、副反応を最少化しながらEVAcのEVOHへの転換率を高めることができる。
【0036】
前記第1鹸化反応終了後、反応混合物に別途に準備した第2アルカリ触媒溶液を滴加して第2鹸化反応を行う。
【0037】
前記第1鹸化反応段階と第2鹸化反応段階は連続して行うことができる。即ち、第1鹸化反応段階の終了後すぐに反応混合物に第2アルカリ触媒溶液を滴加して第2鹸化反応を行うことができる。
【0038】
前記第2アルカリ触媒溶液の滴加速度は反応時間によって調節することができ、一例として第2アルカリ触媒溶液の滴加はエチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル単位1モルに対して1分当り第2アルカリ触媒の投入量が2.0×10-5モル~8.0×10-5モルであるように行うことができる。前記滴加速度範囲を満足する時、鹸化反応時間が過度に長くならなく、反応効率を高めて鹸化度の高いエチレン-ビニルアルコール共重合体を製造することができる。
【0039】
このような観点から、第2アルカリ触媒溶液の滴加は、エチレン-酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル単位1モルに対して1分当り第2アルカリ触媒の投入量が2.0×10-5モル以上、または3.0×10-5モル以上、または4.0×10-5モル以上でありながら、7.0×10-5モル以下、6.0×10-5モル以下であるように行われることが好ましい。
【0040】
前記第2鹸化反応段階の温度は、60℃以上、70℃以上、または80℃以上でありながら、120℃以下、110℃以下、または100℃以下であってもよい。反応温度が60℃未満である場合、鹸化反応速度が過度に遅くなることがあり、120℃を超過する場合、副反応が発生しやすい。
【0041】
一方、前記範囲を満足する限り、前記第2鹸化反応段階の温度は、第1鹸化反応段階の温度と同じかより高くてもよい。この場合、反応効率が増加して高い鹸化度のエチレン-ビニルアルコール共重合体を得ることができるので好ましい。
【0042】
前記第2鹸化反応は不活性気体雰囲気下で行うことができ、転換率を高めるために副生する酢酸メチルを持続的に系外に排出させながら反応を行うことができる。
【0043】
第1鹸化反応段階と同様に、前記第2鹸化反応段階の終了は、第2アルカリ溶液の滴加が完了する時点に行われてもよい。即ち、前記第2アルカリ溶液の滴加は、第2鹸化反応の開始時から終了時まで連続的に行うことができる。このように反応時間全般にわたって第2アルカリ溶液を滴加することによって、副反応を最少化しながらEVAcのEVOHへの転換率を高めることができる。
【0044】
以上の製造方法によれば、既存のエチレン-酢酸ビニル共重合体の回分式鹸化工程に比べて少量のアルカリ触媒を使用して99%以上の高い鹸化度を有するエチレン-ビニルアルコール共重合体を得ることができる。前記エチレン-ビニルアルコール共重合体は鹸化度が高くて優れた気体遮断性を示すので、食品包装用途などに有用に使用することができる。
【0045】
一例として、前記製造方法によって製造されるエチレン-ビニルアルコール共重合体は、鹸化度が99%以上、または99%~99.9%であり;エチレン含量が20モル%以上、25モル%以上、27モル%以上、または30モル%以上でありながら、60モル%以下、50モル%以下、48モル%以下、または35モル%以下であり;重量平均分子量が120,000g/mol以上、130,000g/mol以上、または140,000g/mol以上でありながら、180,000g/mol以下、170,000g/mol以下、または160,000g/mol以下であってもよい。このようなエチレン-ビニルアルコール共重合体は、優れた成形性および気体遮断性を示すことができる。
【0046】
以下、本発明の理解のために好ましい実施例を提示するが、下記の実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範疇および技術思想範囲内で多様な変更および修正が可能であるのは当業者において明白なことであり、このような変更および修正が添付された特許請求の範囲に属するのも当然のことである。
【実施例】
【0047】
<実施例>
実施例1
エチレン含有率32モル%のエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVAc、Mw238×103g/mol)100重量部およびメタノール400重量部を鹸化反応器に入れ、水酸化ナトリウムのメタノール溶液(16g/L)20重量部(水酸化ナトリウム/酢酸ビニル単位=0.01/1、モル比)を鹸化反応器に2時間連続的に滴加しながら第1鹸化反応を行った。この時、滴加速度は、EVAcの酢酸ビニル単位当り水酸化ナトリウムの投入モル数が1分当り8.3×10-5モルになるようにした。前記のように水酸化ナトリウムメタノール溶液を反応器内に連続的に投入しながら、反応器内に窒素ガスを吹き込み、副生する酢酸メチルをメタノールと共に系外に除去しながら、60℃で2時間反応させた。
【0048】
そして、別途に準備した水酸化ナトリウムのメタノール溶液(16g/L)20重量部(水酸化ナトリウム/酢酸ビニル単位=0.01/1、モル比)を鹸化反応器に3時間連続的に滴加しながら第2鹸化反応を行った。この時、滴加速度は、EVAcの酢酸ビニル単位当り水酸化ナトリウムの投入モル数が1分当り5.6×10-5モルになるようにした。前記のように水酸化ナトリウムのメタノール溶液を反応器内に連続的に投入しながら、反応器内に窒素ガスを吹き込み、副生する酢酸メチルをメタノールと共に系外に除去しながら、100℃で3時間反応させた。
【0049】
その後、反応混合物を酢酸水溶液(9g/L)120重量部(酢酸/水酸化ナトリウム=1/1、モル比)で中和して反応を停止させ、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)60重量部、メタノール120重量部、および水120重量部からなるEVOHメタノール/水溶液を得た。前記EVOH溶液を常温に冷却して凝固させた。その後、遠心分離機で脱液し、また水を添加した後に脱液する操作を繰り返して行って洗浄した。そして、80℃真空で16時間乾燥して、含水率が0.01質量%であるEVOHを製造した。
【0050】
実施例2
エチレン含有率32モル%のエチレン-酢酸ビニル共重合体(Mw242×103g/mol)100重量部およびメタノール400重量部を鹸化反応器に入れ、水酸化ナトリウムのメタノール溶液(16g/L)10重量部(水酸化ナトリウム/酢酸ビニル単位=0.005/1、モル比)を鹸化反応器に2時間連続的に滴加しながら第1鹸化反応を行った。この時、滴加速度は、EVAcの酢酸ビニル単位当り水酸化ナトリウムの投入モル数が1分当り4.2×10-5モルになるようにした。前記のように水酸化ナトリウムメタノール溶液を反応器内に連続的に投入しながら、反応器内に窒素ガスを吹き込み、副生する酢酸メチルをメタノールと共に系外に除去しながら、100℃で2時間反応させた。
【0051】
そして、水酸化ナトリウムのメタノール溶液(16g/L)20重量部(水酸化ナトリウム/酢酸ビニル単位=0.01/1、モル比)を鹸化反応器に3時間連続的に滴加しながら第2鹸化反応を行った。この時、滴加速度は、EVAcの酢酸ビニル単位当り水酸化ナトリウムの投入モル数が1分当り5.6×10-5モルになるようにした。前記水酸化ナトリウムのメタノール溶液を反応器内に連続的に投入しながら、反応器内に窒素ガスを吹き込み、副生する酢酸メチルをメタノールと共に系外に除去しながら、100℃で3時間反応させた。
【0052】
その後、反応混合物を酢酸水溶液(9g/L)120重量部(酢酸/水酸化ナトリウム=1/1、モル比)で中和して反応を停止させ、EVOH60重量部、メタノール120重量部、および水120重量部からなるEVOHメタノール/水溶液を得た。その後、実施例1と同一な過程を通じてEVOH溶液からEVOHを得た。
【0053】
比較例1
エチレン含有率32モル%のエチレン-酢酸ビニル共重合体(Mw 241×103g/mol)100重量部およびメタノール400重量部を鹸化反応器に入れ、水酸化ナトリウムのメタノール溶液(16g/L)40重量部(水酸化ナトリウム/酢酸ビニル単位=0.02/1、モル比)を鹸化反応器に一度に投入した。この反応器内に窒素ガスを吹き込み、副生する酢酸メチルをメタノールと共に系外に除去しながら、100℃で5時間反応させた。その後、酢酸水溶液(9g/L)120重量部(酢酸/水酸化ナトリウム=1/1、モル比)で中和して反応を停止させ、EVOH60重量部、メタノール120重量部、および水120重量部からなるEVOHメタノール/水溶液を得た。その後、実施例1と同一な過程を通じてEVOH溶液からEVOHを得た。
【0054】
比較例2
エチレン含有率32モル%のエチレン-酢酸ビニル共重合体(Mw 236×103g/mol)100重量部およびメタノール400重量部を鹸化反応器に入れ、水酸化ナトリウムのメタノール溶液(16g/L)40重量部(水酸化ナトリウム/酢酸ビニル単位=0.02/1、モル比)を鹸化反応器に一度に投入した。この反応器内に窒素ガスを吹き込み、副生する酢酸メチルをメタノールと共に系外に除去しながら、100℃で8時間反応させた。その後、酢酸水溶液(9g/L)120重量部(酢酸/水酸化ナトリウム=1/1、モル比)で中和して反応を停止させ、EVOH60重量部、メタノール120重量部、および水120重量部からなるEVOHメタノール/水溶液を得た。その後、実施例1と同一な過程を通じてEVOH溶液からEVOHを得た。
【0055】
比較例3
エチレン含有率32モル%のエチレン-酢酸ビニル共重合体(Mw 237×103g/mol)100重量部およびメタノール400重量部を鹸化反応器に入れ、水酸化ナトリウムのメタノール溶液(16g/L)60重量部(水酸化ナトリウム/酢酸ビニル単位=0.03/1、モル比)を鹸化反応器に一度に投入した。この反応器内に窒素ガスを吹き込み、副生する酢酸メチルをメタノールと共に系外に除去しながら、100℃で5時間反応させた。その後、酢酸水溶液(9g/L)120重量部(酢酸/水酸化ナトリウム=1/1、モル比)で中和して反応を停止させ、EVOH60重量部、メタノール120重量部、および水120重量部からなるEVOHメタノール/水溶液を得た。その後、実施例1と同一な過程を通じてEVOH溶液からEVOHを得たが、触媒不純物の含量が高くて洗浄工程が数回さらに繰り返され、これにより洗浄工程の廃水が実施例1に比べて50%増加した。
【0056】
比較例4
エチレン含有率32モル%のエチレン-酢酸ビニル共重合体(Mw 238×103g/mol)100重量部およびメタノール400重量部を鹸化反応器に入れ、水酸化ナトリウムのメタノール溶液(16g/L)20重量部(水酸化ナトリウム/酢酸ビニル単位=0.01/1、モル比)を鹸化反応器に一度に投入した。この反応器内に窒素ガスを吹き込み、副生する酢酸メチルをメタノールと共に系外に除去しながら、60℃で2時間反応させた。
【0057】
その後、水酸化ナトリウムのメタノール溶液(16g/L)20重量部(水酸化ナトリウム/酢酸ビニル単位=0.01/1、モル比)を鹸化反応器に一度に投入した。この反応器内に窒素ガスを吹き込み、副生する酢酸メチルをメタノールと共に系外に除去しながら、100℃で3時間反応させた。その後、酢酸水溶液(9g/L)120重量部(酢酸/水酸化ナトリウム=1/1、モル比)で中和して反応を停止させ、EVOH60重量部、メタノール120重量部、および水120重量部からなるEVOHメタノール/水溶液を得た。その後、実施例1と同一な過程を通じてEVOH溶液からEVOHを得た。
【0058】
前記各実施例および比較例の実験条件を下記表1に整理した。
【0059】
【0060】
<実験例>
(1)エチレン-酢酸ビニル共重合体のエチレン含量
前記実施例1~2および比較例1~3で使用したエチレン-酢酸ビニル共重合体のエチレン含量は、1H-NMRデータから積分比(integral number ratio)を通じて計算した。
具体的に、1H-NMRデータの酢酸ビニル単位に由来する-COOCH-ピーク(δ4.78)の積分値を導出し、δ0.74-2.10ピークの積分値からエチレン単位に由来する-CH2-ピークの積分値を導出して、酢酸ビニル単位とエチレン単位の合計に対するエチレン単位のパーセンテージを計算することによってエチレン-酢酸ビニル共重合体のエチレン含量を導出した。
【0061】
(2)鹸化度
EVOHの1H-NMRデータのピーク積分比(integral number ratio)を通じて製造されたEVOHの鹸化度を計算した。
具体的に、1H-NMRデータのビニルアルコール単位に由来する-OHピーク(δ4.05-4.72)の積分値と酢酸ビニル単位に由来する-CH3COO-ピーク(δ1.99)の積分値を導出し、ビニルアルコール単位と酢酸ビニル単位の合計に対するビニルアルコール単位のパーセンテージを計算して鹸化度を導出した。
【0062】
(3)分子量測定
前記実施例1~2および比較例1~3で製造されたそれぞれのEVOHを用いてGPC sampling(2.0mg/mL in DMSO)後、分子量測定を実施した。GPC分析条件は下記の通りである。
<分析条件>
Column:PLgel Mixed BX2
溶媒:DMF(with 0.05M LiBr)
Flow rate:1.0mL/min
試料注入量:100uL
column温度:65℃
Detector:Waters 2414 RID
Date processing:Empower2
【0063】
【0064】
実験の結果、回分式鹸化工程で水酸化ナトリウム触媒を反応時間中ずっと連続的に滴加して投入した実施例1および2の場合、EVOHの鹸化度が99.0モル%以上を満足して、触媒を一時に投入した比較例1および2、そして2回に分割投入した比較例4に比べて高い鹸化度を有するのを確認することができた。また、実施例1および2は触媒使用量がより高い比較例3に比べても向上した鹸化度を表した。
【0065】
前記結果から、本発明の製造方法によれば、アルカリ触媒の使用量を最少化しながらも高い鹸化度を有するEVOHを製造することができるのを確認することができる。