(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】トリエステル系可塑剤組成物およびそれを含む樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20241119BHJP
C08K 5/103 20060101ALI20241119BHJP
C07C 69/30 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K5/103
C07C69/30
(21)【出願番号】P 2023521654
(86)(22)【出願日】2022-06-22
(86)【国際出願番号】 KR2022008885
(87)【国際公開番号】W WO2022270910
(87)【国際公開日】2022-12-29
【審査請求日】2023-04-07
(31)【優先権主張番号】10-2021-0080755
(32)【優先日】2021-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ヒョン・キュ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジュ・ホ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ウ・ヒュク・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ジュ・ムン
(72)【発明者】
【氏名】ソク・ホ・ジョン
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0098390(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0056681(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0249299(US,A1)
【文献】特開2013-249462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1のトリエステルを1つ以上含み、
下記化学式1のR
1~R
3は、分岐度が2.0以下のヘキサン酸(hexanoic acid)異性体混合物に由来したものであ
り、前記ヘキサン酸異性体混合物は、2-メチルペンタン酸および3-メチルペンタン酸を含む、トリエステル系可塑剤組成物。
[化学式1]
【化1】
前記化学式1中、
R
1~R
3は、それぞれ独立して、n-ペンチル基、分岐ペンチル基、またはシクロペンチル基であり、 R
4およびR
5は、それぞれ独立して、水
素である。
【請求項2】
前記ヘキサン酸異性体混合物は、分岐度が1.5以下である、請求項1に記載の可塑剤組成物。
【請求項3】
前記ヘキサン酸異性体混合物は、1-ヘキサン酸、2-メチルペンタン酸、3-メチルペンタン酸、およびシクロペンチルメタン酸を含む、請求項1に記載の可塑剤組成物。
【請求項4】
前記ヘキサン酸異性体混合物は、混合物の総100重量部に対して、分岐状のヘキサン酸が20~95重量部で含まれる、請求項1に記載の可塑剤組成物。
【請求項5】
前記ヘキサン酸異性体混合物は、混合物の総100重量部に対して、シクロペンチルメタン酸が30重量部以下で含まれる、請求項1に記載の可塑剤組成物。
【請求項6】
前記ヘキサン酸異性体混合物は、混合物の総100重量部に対して、1-ヘキサン酸が80重量部以下で含まれる、請求項1に記載の可塑剤組成物。
【請求項7】
樹脂100重量部と、
請求項1に記載の可塑剤組成物5~150重量部と、
を含む、樹脂組成物。
【請求項8】
前記樹脂は、ストレート塩化ビニル重合体、ペースト塩化ビニル重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン重合体、プロピレン重合体、ポリケトン、ポリスチレン、ポリウレタン、天然ゴム、および合成ゴムからなる群から選択された1種以上である、請求項7に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年6月22日付けの韓国特許出願第10-2021-0080755号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、トリエステルが1つ以上含まれた可塑剤組成物およびそれを含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
通常、可塑剤は、アルコールがフタル酸およびアジピン酸のようなポリカルボン酸と反応し、それに相応するエステルを形成する。また、人体に有害なフタレート系可塑剤の韓国内外の規制を考慮して、テレフタレート系、アジペート系、その他の高分子系などのフタレート系可塑剤を代替可能な可塑剤組成物に関する研究が行われ続けている。
【0004】
一方、床材、壁紙、軟質および硬質シートなどのプラスチゾル業種、カレンダー業種、押出/射出コンパウンド業種を問わず、このような環境に優しい製品に対するニーズが増大しており、それに対する完成品別の品質特性、加工性、および生産性を強化するために、変色および移行性、機械的物性などを考慮して適した可塑剤を用いなければならない。
【0005】
このような多様な使用領域において業種別に求められる特性である引張強度、伸び率、耐光性、移行性、ゲル化性、または吸収速度などに応じて、PVC樹脂に可塑剤、充填剤、安定剤、粘度低下剤、分散剤、消泡剤、発泡剤などの副原料などを配合することになる。
【0006】
一例として、PVCに使用可能な可塑剤組成物のうち、相対的に安価であり、かつ、最も汎用的に用いられるジ(2-エチルヘキシル)テレフタレート(DEHTP)を使用する場合、硬度またはゾル粘度が高く、可塑剤の吸収速度が相対的に遅く、移行性およびストレス移行性も良好でなかった。
【0007】
その改善策として、DEHTPを含む組成物として、ブタノールとのトランスエステル化反応の生成物を可塑剤として使用することが考えられるが、可塑化効率が改善されるのに対し、加熱減量や熱安定性などに劣り、機械的物性が多少低下するなど、物性の改善が求められいる。しかし、一般的に、他の二次可塑剤との混用によりそれを補う方式を採用する以外は、現在のところ解決策がない状況である。
【0008】
しかしながら、二次可塑剤を使用する場合には、物性の変化に対する予測が難しく、製品コストが上昇する要因として作用し得、特定の場合を除き、物性の改善が明らかでなく、樹脂との相溶性に問題を引き起こすなど、予想できない問題が発生するという短所がある。
【0009】
また、前記DEHTP製品の劣悪な移行性および減量特性を改善するために、トリメリテート系の製品としてトリ(2-エチルヘキシル)トリメリテートやトリイソノニルトリメリテートのような物質を使用する場合、移行性や減量特性は改善されるのに対し、可塑化効率が劣悪になり、樹脂に適した可塑化効果を与えるためには、相当な量を投入しなければならないという問題がある。そこで、比較的にコストが高い製品である点で、商用化が不可能な状況である。
【0010】
そこで、既存の製品としてフタレート系製品の環境問題を解決するための製品またはフタレート系製品の環境問題を改善するための環境に優しい製品の劣悪な物性を改善した製品などの開発が求められる状況である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、可塑剤組成物であって、ヘキサン酸異性体混合物と3価アルコールとのエステル化由来の生成物であるトリエステルを含むことで、既存の可塑剤を使用した場合と比べて、耐移行性および加熱減量は同等レベルを維持することができ、機械的物性、吸収速度、ストレス移行性、および可塑化効率を著しく改善することができる可塑剤組成物を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明は、可塑剤組成物および樹脂組成物を提供する。
(1)本発明は、下記化学式1のトリエステルを1つ以上含み、下記化学式1のR1~R3は、分岐度が2.0以下のヘキサン酸(hexanoic acid)異性体混合物に由来したものである、トリエステル系可塑剤組成物を提供する。
【0013】
【0014】
前記化学式1中、
R1~R3は、それぞれ独立して、n-ペンチル基、分岐ペンチル基、またはシクロペンチル基であり、
R4およびR5は、それぞれ独立して、水素または炭素数1~4のアルキル基である。
【0015】
(2)本発明において、前記ヘキサン酸異性体混合物は、分岐度が1.5以下である、前記(1)に記載の可塑剤組成物を提供する。
【0016】
(3)本発明において、前記ヘキサン酸異性体混合物は、2-メチルペンタン酸および3-メチルペンタン酸を含む、前記(1)または(2)に記載の可塑剤組成物を提供する。
【0017】
(4)本発明において、前記ヘキサン酸異性体混合物は、1-ヘキサン酸、2-メチルペンタン酸、3-メチルペンタン酸、およびシクロペンチルメタン酸を含む、前記(1)~(3)のいずれか一項に記載の可塑剤組成物を提供する。
【0018】
(5)本発明において、前記ヘキサン酸異性体混合物は、混合物の総100重量部に対して、分岐状のヘキサン酸が20~95重量部で含まれる、前記(1)~(4)のいずれか一項に記載の可塑剤組成物を提供する。
【0019】
(6)本発明において、前記ヘキサン酸異性体混合物は、混合物の総100重量部に対して、シクロペンチルメタン酸が30重量部以下で含まれる、前記(1)~(5)のいずれか一項に記載の可塑剤組成物を提供する。
【0020】
(7)本発明において、前記ヘキサン酸異性体混合物は、混合物の総100重量部に対して、1-ヘキサン酸が80重量部以下で含まれる、前記(1)~(6)のいずれか一項に記載の可塑剤組成物を提供する。
【0021】
(8)本発明において、前記R4およびR5は、水素である、前記(1)~(7)のいずれか一項に記載の可塑剤組成物を提供する。
【0022】
(9)本発明は、樹脂100重量部と、前記(1)~(8)のいずれか一項に記載の可塑剤組成物5~150重量部と、を含む、樹脂組成物を提供する。
【0023】
(10)本発明において、前記樹脂は、ストレート塩化ビニル重合体、ペースト塩化ビニル重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン重合体、プロピレン重合体、ポリケトン、ポリスチレン、ポリウレタン、天然ゴム、および合成ゴムからなる群から選択された1種以上である、前記(9)に記載の樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一実施形態に係る可塑剤組成物は、樹脂組成物に用いる場合、既存の可塑剤と比べて、同等レベルの耐移行性および加熱減量を維持することができ、機械的物性、吸収速度、ストレス移行性、および可塑化効率を著しく改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書および特許請求の範囲で用いられている用語や単語は、通常のもしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念に解釈すべきである。
【0026】
用語の定義
本明細書で用いられているような「組成物」という用語は、当該組成物の材料から形成された反応生成物および分解生成物だけでなく、当該組成物を含む材料の混合物を含む。
【0027】
本明細書で用いられているような「異性体」という用語は、全ての意味の異性体を区別しようとするものではなく、構造異性体、すなわち、炭素数は同一であるものの、結合構造が異なる場合の関係を意味し、それを区別しようとするものであって、光学異性体やジアステレオマーのような立体異性体まで区別される物質であることを意味するものではない。
【0028】
本明細書で用いられているような「ストレート塩化ビニル重合体」という用語は、塩化ビニル重合体の種類の1つであり、懸濁重合またはバルク重合などにより重合したものを意味し得、数十~数百マイクロメートルサイズを有する多量の気孔が分布した多孔性粒子状を有し、凝集性がなく、流動性に優れた重合体をいう。
【0029】
本明細書で用いられているような「ペースト塩化ビニル重合体」という用語は、塩化ビニル重合体の種類の1つであり、微細懸濁重合、微細シード重合、または乳化重合などにより重合したものを意味し得、数十~数千ナノメートルサイズを有する微細かつ緻密な空隙のない粒子として、凝集性を有し、流動性が劣悪な重合体をいう。
【0030】
「含む」、「有する」という用語およびこれらの派生語は、これらが具体的に開示されているか否かを問わず、任意の追加の成分、ステップ、または手続きの存在を排除することを意図するものではない。いかなる不確実性も避けるために、「含む」という用語の使用により請求された全ての組成物は、反対の意味で記述していない限り、重合体であるかまたはその他のものであるかを問わず、任意の追加の添加剤、補助剤、または化合物を含んでもよい。これとは対照的に、「で本質的に構成される」という用語は、操作性に必須でないものを除き、任意のその他の成分、ステップ、または手続きを任意の連続する説明の範囲から排除する。「で構成される」という用語は、具体的に記述または列挙していない任意の成分、ステップ、または手続きを排除する。
【0031】
測定方法
本明細書において、組成物中の成分の含量分析は、ガスクロマトグラフィー測定により行われ、Agilent社製のガスクロマトグラフィー機器(製品名:Agilent 7890 GC、カラム:HP-5、キャリアガス:ヘリウム(flow rate 2.4mL/min)、検出器:F.I.D、注入量:1uL、初期値:70℃/4.2min、終期値:280℃/7.8min、program rate:15℃/min)で分析する。
【0032】
本明細書において、「硬度(hardness)」は、ASTM D2240に準じて、25℃でのショア硬度(Shore「A」および/またはShore「D」)を意味し、3T 10sの条件で測定し、可塑化効率を評価する指標となることができ、低いほど可塑化効率に優れることを意味する。
【0033】
本明細書において、「引張強度(tensile strength)」は、ASTM D638方法に準じて、テスト機器であるU.T.M(製造会社;Instron、モデル名;4466)を用いて、クロスヘッドスピード(cross head speed)を200mm/min(1T)にして引っ張った後、試験片が切断される地点を測定し、下記数学式1により計算する。
【0034】
[数学式1]
引張強度(kgf/cm2)=ロード(load)値(kgf)/厚さ(cm)×幅(cm)
【0035】
本明細書において、「伸び率(elongation rate)」は、ASTM D638方法にに準じて、前記U.T.Mを用いて、クロスヘッドスピード(cross head speed)を200mm/min(1T)にして引っ張った後、試験片が切断される地点を測定した後、下記数学式2により計算する。
【0036】
[数学式2]
伸び率(%)=伸長後の長さ/初期長さ×100
【0037】
本明細書において、「移行損失(migration loss)」は、KSM-3156に準じて、厚さ2mm以上の試験片を得て、試験片の両面にガラスプレート(Glass Plate)を付着させた後、1kgf/cm2の荷重を加える。試験片を熱風循環式オーブン(80℃)で72時間放置した後に取り出し、常温で4時間冷却させる。その後、試験片の両面に付着させたガラスプレートを除去した後、ガラスプレートと試験片プレート(Specimen Plate)について、オーブンに放置する前後の重量を測定し、移行損失量を下記数学式3により計算する。
【0038】
[数学式3]
移行損失量(%)={(初期の試験片の重量-オーブン放置後の試験片の重量)/初期の試験片の重量}×100
【0039】
本明細書において、「加熱減量(volatile loss)」は、試験片を80℃で72時間処理した後、試験片の重さを測定する。
【0040】
[数学式4]
加熱減量(重量%)={(初期の試験片の重量-処理後の試験片の重量)/初期の試験片の重量}×100
【0041】
上記の多様な測定条件の場合、温度、回転速度、時間などの詳細な条件は、場合に応じて多少異なり得、異なる場合には、別にその測定方法および条件を明示する。
【0042】
以下、本発明に対する理解を助けるために本発明をより詳細に説明する。
本発明の一実施形態によると、可塑剤組成物は、下記化学式1のトリエステルを1つ以上含み、前記トリエステルのアルキル基は、分岐度が2.0以下のヘキサン酸(hexanoic acid)異性体混合物に由来したものである。
【0043】
【0044】
前記化学式1中、R1~R3は、それぞれ独立して、n-ペンチル基、分岐ペンチル基、またはシクロペンチル基であり、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素または炭素数1~4のアルキル基である。
【0045】
前記可塑剤組成物は、ヘキサン酸異性体混合物と3価アルコールとのエステル化反応により生成される生成物であってもよい。これにより、カルボニル基の中心炭素を含む炭素数6の炭素鎖を有するカルボン酸に由来するため、前記化学式1のR1~R3は、炭素数5の直鎖状、分岐状、または脂環状のアルキル基が使用される。
【0046】
本発明の一実施形態に係る可塑剤組成物は、前記化学式1で表されるトリエステルを1つ以上含み、この際、エステル化反応に使されるヘキサン酸異性体混合物に含まれたヘキサン酸の個数に応じて、最終的に生成されるトリエステルの個数が決められることができる。例えば、ヘキサン酸異性体混合物に2種の異性体が含まれた場合、可塑剤組成物には、少なくとも5種のトリエステルが含まれ、3種の異性体が含まれた場合、可塑剤組成物には、少なくとも15種のトリエステルが含まれることができる。
【0047】
本発明の一実施形態に係る前記可塑剤組成物は、特に炭素数6のアルキルカルボン酸、すなわち、ヘキサン酸が使用されることで、他の炭素数が使用された場合と比べて、可塑化効率と機械的物性が同時に向上することができる。炭素数5以下のアルキルカルボン酸を使用する場合には、機械的物性およびストレス移行性に劣り、炭素数7以上のアルキルカルボン酸を使用する場合には、可塑化効率に劣り、吸収速度が非常に遅く、加工性が著しく悪化し得る。
【0048】
また、前記可塑剤組成物は、トリエステルとしてエステル基が3つ存在する化合物である点で、樹脂との相溶性に優れ、他の添加剤との混和性に優れる。エステル基が多く、高分子鎖中で分子が固定されることができ、適正レベルの耐移行性および加熱減量が維持しながらも、可塑化効率および機械的物性に優れることができる。
【0049】
さらに、石油系可塑剤のようにベンゼン環が分子内に存在する場合とは異なり、分子内にベンゼン環が存在しないため、環境に優しい可塑剤に分類されるとともに、その性能は、石油系可塑剤と比較しても優れるものと評価することができる。これは、既存の多価酸とモノアルコールの反応から可塑剤を製造したこととは異なり、多価アルコールとモノカルボン酸の反応から可塑剤を製造することに起因する効果であると把握される。
【0050】
本発明の一実施形態に係る可塑剤組成物に含まれるトリエステルのアルキル基は、分岐度が2.0以下のヘキサン酸異性体混合物に由来し、好ましくは、前記分岐度は1.5以下であってもよく、1.3以下であってもよく、1.2以下であってもよく、または1.0以下であってもよい。また、0.1以上であってもよく、0.2以上であってもよく、または0.3以上であってもよい。
【0051】
ここで、分岐度とは、組成物中に含まれた物質に結合されたアルキル基が何個の分岐炭素を有するかを意味し得、当該物質の重量比に応じてその程度が決められることができる。例えば、ヘキサン酸混合物に1-ヘキサン酸が60重量%、2-メチルペンタン酸が30重量%、そして2-エチルブタン酸が10重量%含まれていると仮定すると、前記各カルボン酸の分岐炭素数は、それぞれ0、1、および2であるところ、分岐度は、[(60×0)+(30×1)+(10×2)]/100により計算され、0.5であり得る。一方、本発明において、シクロペンチルメタン酸の分岐炭素数は0であるとみなす。
【0052】
具体的に、分岐状アルキル基が全アルキル基中にどの程度の割合で存在するか、ひいては分岐状アルキル基中の特定の分岐状アルキル基がどの割合で存在するかなどの特徴により、さらに可塑化効率と耐移行性/減量特性の物性のバランスをとることができ、加工性が最適化されることができ、組成物中に含まれた複数のトリエステルの相互作用により、引張強度と伸び率のような機械的物性および耐ストレス性における著しい改善を達成することができる。
【0053】
これにより、環境問題から完全に自由な物質であるとともに、既存のフタレート系製品の引張強度を著しく改善した製品の実現が可能であり、既存のテレフタレート系製品の耐移行性および耐ストレス性を著しく改善することができ、既存の商用製品と比べて物性間のバランスだけでなく、そのレベルが大幅に向上した製品の実現が可能である。
【0054】
本発明の一実施形態により、上記のような効果の実現をより最適に、好ましくするためには、前記ヘキサン酸異性体混合物は、2-メチルペンタン酸および3-メチルペンタン酸を必須に含んでもよい。異性体混合物に種々の異性体のうち前記2つの異性体を必須に含むことで、前述した効果をさらに再現性高く実現することができる。
【0055】
また、前記ヘキサン酸異性体混合物は、2-メチルペンタン酸および3-メチルペンタン酸に、1-ヘキサン酸およびシクロペンチルメタン酸をさらに含んでもよい。1-ヘキサン酸の場合、これが含まれるほど特定の物性が改善される傾向があるが、吸収速度や可塑化効率の加工性の面を考慮してその含量を調節する必要があり、シクロペンチルメタン酸も同様である。
【0056】
本発明の一実施形態に係る可塑剤組成物は、前記ヘキサン酸異性体混合物には、混合物の総100重量部に対して、分岐状のヘキサン酸が20重量部以上で含まれてもよく、30重量部以上、40重量部以上、または50重量部以上で含まれてもよく、95重量部以下であってもよく、90重量部以下であってもよく、85重量部以下、80重量部以下、または70重量部以下であってもよい。
【0057】
また、前記ヘキサン酸異性体混合物の総100重量部に対して、1-ヘキサン酸は、80重量部以下で含まれてもよく、70重量部以下、60重量部以下、50重量部以下、40重量部以下、または30重量部以下で含まれてもよく、1重量部以上であってもよく、2重量部以上、5重量部以上、または10重量部以上で含まれてもよい。
【0058】
前記分岐状および直鎖状の含量は、トリエステル系可塑剤の使用用途に応じて適切に調節することができ、その割合を調節することにより実現しようとする物性を達成することができる。
【0059】
さらに、前記異性体混合物は、シクロペンチルメタン酸をさらに含んでもよく、この場合、異性体混合物の総100重量部に対して30重量部以下で含まれてもよい。好ましくは、20重量部以下であってもよく、15重量部以下で含まれてもよい。シクロペンチルメタン酸の場合、実質的に含まれさえすれば、加工性の改善および機械的物性の改善が可能であり、その含量は、他の異性体の相対的な含量減少による物性の低下を考慮して調節することができる。
【0060】
本発明の一実施形態に係る可塑剤組成物の分岐度を決めるヘキサン酸異性体混合物には、多様な異性体が含まれてもよく、代表的に4種の異性体を言及したが、その他の異性体の存在を排除するものではなく、例えば、4-メチルペンタン酸、2-エチルブタン酸、または2,3-ジメチルブタン酸などが挙げられ、その他にもC6のアルキルカルボン酸の構造異性体が存在することができる。
【0061】
また、本発明の一実施形態に係る可塑剤組成物は、前述したヘキサン酸異性体混合物と3価アルコールの反応に由来するものであり、前記3価アルコールは、グリセロール系化合物であってもよく、例えば、下記化学式2で表されてもよい。
【0062】
【0063】
前記化学式2中、R4およびR5は、前記化学式1における定義と同様である。
前記R4およびR5は、それぞれ独立して、水素または炭素数1~4のアルキル基であってもよく、好ましくは、水素、メチル基、またはエチル基であってもよく、より好ましくは、水素またはメチル基であってもよく、最も好ましくは、R4およびR5がいずれも水素であるグリセロールであってもよい。グリセロールの場合、供給が容易であり、天然物から合成可能であり、他の合成法によっても容易に得られる物質である点で、可塑剤の価格競争力の向上に大きく寄与することができる。
【0064】
本発明の一実施形態に係る可塑剤組成物を製造する方法は、当業界で周知の方法として、前述した可塑剤組成物を製造可能な場合であれば、特に制限なく使用されてもよい。
【0065】
すなわち、エステル化反応を適切に制御することで、本発明に係る可塑剤組成物を製造することができ、例えば、ヘキサン酸異性体混合物と前記化学式2で表されるグリセロール系化合物、例えば、グリセロールを直接エステル化反応させて前記組成物を製造することができる。
【0066】
本発明の一実施形態に係る可塑剤組成物は、前記エステル化反応を適切に行って製造された物質であり、前述した条件に合うもの、特に異性体混合物中の分岐状ヘキサン酸の割合が制御されたものであれば、特に製造方法に制限がない。
【0067】
一例として、前記直接エステル化反応は、ヘキサン酸異性体混合物と前記化学式2で表されるグリセロール系化合物を投入した後に触媒を添加し、窒素雰囲気下で反応させるステップと、未反応のアルコールを除去し、未反応の酸を中和させるステップと、減圧蒸留により脱水および濾過するステップと、により行われることができる。
【0068】
前記ヘキサン酸異性体混合物、すなわち、モノカルボン酸の場合、製造される組成物の成分比を決める主要機能を行うことができ、前記グリセロール系化合物と理論的に3:1のモル比が適用されることができ、このモル比よりもヘキサン酸異性体混合物を追加投入する場合に反応速度の改善に寄与することができる。この際、ヘキサン酸異性体混合物の追加投入量は、ヘキサン酸異性体混合物の当量に対して400モル%以下、または300モル%以下であってもよく、好ましくは、200モル%以下、または100モル%以下の量であってもよい。
【0069】
前記触媒は、一例として、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、アルキル硫酸などの酸触媒、乳酸アルミニウム、フッ化リチウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化カルシウム、塩化鉄、リン酸アルミニウムなどの金属塩、ヘテロポリ酸などの金属酸化物、天然/合成ゼオライト、カチオンおよびアニオン交換樹脂、テトラアルキルチタネート(tetra alkyl titanate)およびそのポリマーなどの有機金属の中から選択された1種以上であってもよい。具体的な例として、前記触媒としては、テトラアルキルチタネートを用いてもよい。好ましくは、活性温度が低い酸触媒としてパラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などが好適である。
【0070】
触媒の使用量は、種類に応じて異なってもよく、一例として、均一触媒の場合は、反応物の総100重量%に対して0.01~5.00重量%、0.01~3.00重量%、0.1~3.0重量%、または0.1~2.0重量%の範囲内、そして不均一触媒の場合は、反応物の総量の5~200重量%、5~100重量%、20~200重量%、または20~150重量%の範囲内であってもよい。
この際、前記反応温度は100~280℃、100~250℃、または100~230℃の範囲内であってもよい。
【0071】
本発明の他の一実施形態によると、前述した可塑剤組成物および樹脂を含む樹脂組成物が提供される。
前記樹脂としては、当該分野で周知の樹脂を用いてもよい。例えば、ストレート塩化ビニル重合体、ペースト塩化ビニル重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン重合体、プロピレン重合体、ポリケトン、ポリスチレン、ポリウレタン、天然ゴム、合成ゴム、および熱可塑性エラストマーからなる群から選択された1種以上の混合物などを用いてもよいが、これに制限されない。
【0072】
前記可塑剤組成物は、前記樹脂100重量部を基準として5~150重量部、好ましくは、5~130重量部、または10~120重量部で含まれてもよい。
一般的に、可塑剤組成物が用いられる樹脂は、溶融加工またはプラスチゾル加工により樹脂製品に製造されることができ、溶融加工樹脂とプラスチゾル加工樹脂は、各重合方法に応じて異なるように生産されるものであってもよい。
【0073】
例えば、塩化ビニル重合体は、溶融加工に用いられる場合、懸濁重合などにより製造され、平均粒径の大きい固体状の樹脂粒子が用いられ、このような塩化ビニル重合体は、ストレート塩化ビニル重合体と呼ばれる。プラスチゾル加工に用いられる場合、乳化重合などにより製造され、微細な樹脂粒子としてゾル状態の樹脂が用いられ、このような塩化ビニル重合体は、ペースト塩化ビニル樹脂と呼ばれる。
【0074】
この際、可塑剤は、前記ストレート塩化ビニル重合体の場合、重合体100重量部に対して5~80重量部の範囲内で含まれることが好ましく、ペースト塩化ビニル重合体の場合、重合体100重量部に対して40~120重量部の範囲内で含まれることが好ましい。
【0075】
前記樹脂組成物は、充填剤をさらに含んでもよい。前記充填剤は、前記樹脂100重量部を基準として0~300重量部、好ましくは50~200重量部、より好ましくは100~200重量部であってもよい。
【0076】
前記充填剤としては、当該分野で周知の充填剤を用いてもよく、特に制限されない。例えば、シリカ、マグネシウムカーボネート、カルシウムカーボネート、硬炭、タルク、水酸化マグネシウム、二酸化チタン、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、および硫酸バリウムの中から選択された1種以上の混合物であってもよい。
【0077】
また、前記樹脂組成物は、必要に応じて、安定化剤などのその他の添加剤をさらに含んでもよい。前記安定化剤などのその他添加剤は、一例として、それぞれ、前記樹脂100重量部を基準として0~20重量部、好ましくは1~15重量部であってもよい。
【0078】
前記安定化剤は、例えば、カルシウム-亜鉛の複合ステアリン酸塩などのカルシウム-亜鉛系(Ca-Zn系)安定化剤またはバリウム-亜鉛系(Ba-Zn系)安定化剤を用いてもよいが、特にこれに制限されるものではない。
【0079】
前記樹脂組成物は、前述したように溶融加工およびプラスチゾル加工に使用されることができ、例えば、溶融加工は、カレンダー加工、押出加工、または射出加工が使用されることができ、プラスチゾル加工は、コーティング加工などが使用されることができる。
【0080】
実施例
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げて詳しく説明する。ただし、本発明に係る実施例は種々の異なる形態に変形してもよく、本発明の範囲が以下に記述する実施例に限定されるものと解釈されてはならない。本発明の実施例は、当業界で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0081】
実施例1
撹拌器、凝縮器、およびデカンターが設けられた反応器に、ヘキサン酸異性体混合物として約9重量%の1-ヘキサン酸、約35重量%の2-メチルペンタン酸、約44重量%の3-メチルペンタン酸、約7重量%の4-メチルペンタン酸、および約5重量%のシクロペンチルメタン酸が含まれた混合物1360gと、グリセロール276gおよびメタンスルホン酸5gを投入した後、100~140℃の反応温度と窒素雰囲気下でエステル化反応させて反応を終了し、未反応酸を除去した後、触媒および製品をアルカリ水溶液で中和および洗浄し、未反応原料および水分を精製し、最終的にトリエステル系可塑剤組成物を得た。
【0082】
実施例2
実施例1において、ヘキサン酸異性体混合物として、約20重量%の1-ヘキサン酸、約30重量%の2-メチルペンタン酸、約35重量%の3-メチルペンタン酸、約5重量%の4-メチルペンタン酸、および約10重量%のシクロペンチルメタン酸が含まれた混合物1360gを用いたことを除いては同様に行い、トリエステル系可塑剤組成物を得た。
【0083】
実施例3
実施例1において、ヘキサン酸異性体混合物として、約2重量%の1-ヘキサン酸、約40重量%の2-メチルペンタン酸、約50重量%の3-メチルペンタン酸、約2重量%の4-メチルペンタン酸、および約6重量%のシクロペンチルメタン酸が含まれた混合物1360gを用いたことを除いては同様に行い、トリエステル系可塑剤組成物を得た。
【0084】
実施例4
実施例1において、ヘキサン酸異性体混合物として、約5重量%の1-ヘキサン酸、約50重量%の2-メチルペンタン酸、約30重量%の3-メチルペンタン酸、および約15重量%のシクロペンチルメタン酸が含まれた混合物1360gを用いたことを除いては同様に行い、トリエステル系可塑剤組成物を得た。
【0085】
比較例1
可塑剤として、ジオクチルフタレート(DOP、LG化学社製)を使用した。
【0086】
比較例2
可塑剤として、ジイソノニルフタレート(DINP、LG化学社製)を使用した。
【0087】
比較例3
可塑剤として、ジオクチルテレフタレートであるLG化学社製のGL300を使用した。
【0088】
比較例4
可塑剤として、ジブチルテレフタレート、ブチルオクチルテレフタレート、およびジオクチルテレフタレートの混合物であるLG化学社製のGL500を使用した。
【0089】
比較例5
前記実施例1において、ヘキサン酸異性体混合物の代わりに、n-ブタン酸と安息香酸が7:3の重量比で混合された酸混合物1360gを使用したことを除いては、同様の方法でトリエステル系可塑剤組成物を得た。
【0090】
比較例6
前記実施例1において、ヘキサン酸異性体混合物の代わりに、単一化合物として3-メチルペンタン酸1360gを使用したことを除いては、同様の方法でトリエステル系可塑剤組成物を得た。
【0091】
比較例7
前記実施例1において、ヘキサン酸異性体混合物の代わりに、n-ブタン酸1030gを使用したことを除いては、同様の方法でトリエステル系可塑剤組成物を得た。
【0092】
比較例8
前記実施例1において、ヘキサン酸異性体混合物の代わりに、n-ヘプタン酸1523gを使用したことを除いては、同様の方法でトリエステル系可塑剤組成物を得た。
【0093】
比較例9
前記実施例1において、ヘキサン酸異性体混合物の代わりに、1-ヘキサン酸と2-エチルヘキサン酸をそれぞれ50重量%で混合した酸混合物1520gを使用したことを除いては、同様の方法でトリエステル系可塑剤組成物を得た。
前記実施例および比較例で用いられた酸の種類および含量、そして酸混合物の分岐度を下記表1にまとめた。
【0094】
【0095】
実験例1:シート性能の評価
実施例および比較例の可塑剤を用いて、ASTM D638に準じて、次のような処方および作製条件で試験片を作製した。
【0096】
(1)処方:ストレート塩化ビニル重合体(LS100)100重量部、可塑剤50重量部、および安定剤(BZ-153T)3重量部
(2)配合:98℃で700rpmで混合
【0097】
(3)試験片の作製:ロールミル(Roll mill)で160℃で4分間、プレス(press)で180℃で2.5分間(低圧)および2分間(高圧)処理して1T、2T、および3Tシートを作製
【0098】
(4)評価項目
1)硬度(hardness):ASTM D2240に準じて、25℃でのショア硬度(Shore「A」および「D」)を3T試験片で10秒間測定した。数値が小さいほど可塑化効率に優れるものと評価される。
【0099】
2)引張強度(tensile strength):ASTM D638方法に準じて、テスト機器であるU.T.M(製造会社;Instron、モデル名;4466)を用いて、クロスヘッドスピード(cross head speed)を200mm/minにして引っ張った後、1T試験片が切断される地点を測定した。引張強度は、次の数学式1により計算した。
【0100】
[数学式1]
引張強度(kgf/cm2)=ロード(load)値(kgf)/(厚さ(cm)×幅(cm))
【0101】
3)伸び率(elongation rate)の測定:ASTM D638方法に準じて、前記U.T.Mを用いて、クロスヘッドスピード(cross head speed)を200mm/minにして引っ張った後、1T試験片が切断される地点を測定した後、下記数学式2により計算した。
【0102】
[数学式2]
伸び率(%)=伸長後の長さ/初期長さ×100
【0103】
4)移行損失(migration loss)の測定:KSM-3156に準じて、厚さ2mm以上の試験片を得て、1T試験片の両面にガラスプレートを付着した後、1kgf/cm2の荷重を加えた。試験片を熱風循環式オーブン(80℃)で72時間放置した後に取り出し、常温で4時間冷却させた。その後、試験片の両面に付着されたガラスプレートを除去した後、ガラスプレートと試験片プレート(Specimen Plate)をオーブンに放置前後の重量を測定し、移行損失量を下記数学式3により計算した。
【0104】
[数学式3]
移行損失量(%)=[{(初期の試験片の重量)-(オーブン放置後の試験片の重量)}/(初期の試験片の重量)]×100
【0105】
5)加熱減量(volatile loss)の測定:前記作製された試験片を80℃で72時間処理した後、試験片の重さを測定し、下記数学式4により計算した。
【0106】
[数学式4]
加熱減量(重量%)=[{(初期の試験片の重量)-(処理後の試験片の重量)}/(初期の試験片の重量)]×100
【0107】
6)ストレステスト(耐ストレス性):厚さ2mmの試験片を曲げた状態で23℃で168時間放置した後、移行程度(染み出る程度)を観察し、その結果を数値で示し、0に近いほど優れた特性を示した。
【0108】
7)吸収速度の測定
吸収速度は、73℃、60rpmの条件下で、プラネタリミキサー(Brabender、P600)を用いて、樹脂とエステル化合物が互いに混合され、ミキサーのトルクが安定化する状態になるまでの所要時間を測定した。参考に、吸収速度が4分未満と測定される場合には、加工中に可塑剤の吸収および移行が繰り返し発生するとみなことができ、9分を超過する場合には、吸収自体が円滑でない現象とみなすことができるため、4分~9分間の値に測定されない場合に対しては加工不能と評価した。
【0109】
(5)評価結果
前記項目の評価結果を下記表2に示した。
【0110】
【0111】
前記表2の結果を参照すると、本発明の実施例による可塑剤組成物は、既存のフタレート系製品である比較例1および2と比較して、伸び率が著しく高いにもかかわらず、可塑化効率に非常に優れ、吸収速度が際立って向上したことを確認することができ、環境に優しい製品である比較例3および4の場合と比較しても、可塑化効率、移行損失、および加熱減量、ひいては耐ストレス性において大幅な向上が観察された。また、可塑化効率と吸収速度に同時に優れる点で、加工性に非常に優れるため、量産に好適であり、安定した製品であることを確認することができる。
【0112】
また、既存のフタレート系可塑剤として、高性能ではあるものの、致命的な環境問題を引き起こす比較例1および2の可塑剤と同等以上のレベルを実現したことが確認されたところ、代替可塑剤として非常に適することを確認することができる。
【0113】
そして、グリセロールと酸のエステル化生成物を用いるが、酸としてヘキサン酸異性体混合物ではなく、n-ブタン酸と安息香酸の混合物を使用した比較例5は、本発明の実施例と比べて著しく低い伸び率を示し、加熱減量の面でも本発明の実施例と比べて大きく劣る結果を示した。さらに、比較例5の場合、吸収速度の測定実験においても加工不能の結果を示した。また、酸として1-ヘキサン酸と2-エチルヘキサン酸の混合物を使用した比較例9は、可塑化効率の面で実施例と比べて大きく劣り、伸び率、移行損失、耐ストレス性、および吸収速度の面でも実施例と比べて劣るものであった。このことから、本発明の可塑剤組成物により実現される改善効果は、他の酸ではなく、炭素数6のヘキサン酸を使用した結果によるものであることを確認することができ、特に、ヘキサン酸を異性体混合物の形態で用いた結果によるものであることを確認することができる。
【0114】
一方、ヘキサン酸を用いるが、それを異性体混合物の状態ではなく、単独化合物として用いた比較例6は、実施例と比べて伸び率に劣り、加熱減量が実施例と比べて若干劣る結果を示した。そして、炭素数4のn-ブタン酸を用いた比較例7は、引張強度、伸び率、移行損失、加熱減量の面のいずれにも実施例と比べて大きく劣る結果を示し、吸収速度も、加工不能の結果を示した。最後に、炭素数7のn-ヘプタン酸を用いた比較例8は、硬度が高く、可塑化効率が実施例と比べて大きく劣り、伸び率、移行損失、および耐ストレス性においても、実施例と比べて劣る結果を示した。吸収速度も、実施例と比べて若干劣るものであった。このことから、可塑化効率、機械的物性、耐ストレス性、加工性などの種々の物性がバランスよく優れるためには、本発明の実施例のようにヘキサン酸異性体混合物を使用することが必要であり、ヘキサン酸ではなく、他の炭素数の酸を使用したり(比較例7、8)、または1種のヘキサン酸のみを使用する場合(比較例6)、上記のような改善効果を達成できないことを確認した。
【0115】
実験例2:プラスチゾル性能の評価
実施例および比較例の可塑剤を用いて、ASTM D638に準じて、次のような処方および作製条件で試験片を作製した。
【0116】
(1)処方:ペースト塩化ビニル重合体(KH-10)100重量部、可塑剤70重量部、安定剤(BZ-119)3重量部、発泡剤(AC5000)3重量部、および充填剤(OMYA-10)40重量部
(2)配合:1000rpmで15分間混合
【0117】
(3)評価項目
1)粘度:ブルックフィールド(Brookfield)粘度として、ブルックフィールド(LV type)粘度計を用いて測定され、スピンドル(spinde)としては#64を用い、測定速度6rpmおよび60rpmで、測定温度25℃および40℃で測定した。
【0118】
(4)評価結果
前記項目の評価結果を下記表3に示した。
【0119】
【0120】
前記表3の結果を参照すると、実施例1~4の場合、可塑剤組成物は、プラスチゾル加工時に、初期粘度自体が非常に低く、加工に相当に有利であり、粘度の経時変化が少なく、粘度安定性に優れることが分かる。一方、既存の製品群に該当する比較例1~4は、粘度自体が高く、プラスチゾル加工が実施例と比べて不利であることが分かる。特に、比較例1および4の場合は、初期粘度だけでなく、粘度の変化幅も大きいため、プラスチゾル加工において本発明の可塑剤組成物と比べて性能が大幅に低下することを確認することができる。
【0121】
一方、本発明の可塑剤組成物と同様にグリセロールのエステル化反応により製造されるが、本発明とは異なる酸を用いた比較例5~9も、プラスチゾル加工における性能が本発明の実施例と比べて低下したことを確認することができる。具体的に、n-ブタン酸と安息香酸を混合して用いた比較例5の場合、初期粘度が本発明の実施例と比べて約4倍程度高く、加工自体が不利であり、粘度の経時変化も高く、粘度安定性も低下したことを確認することができる。本発明の実施例と同様に炭素数6の酸を用いたが、異性体混合物ではなく、3-メチルペンタン酸を単独使用した比較例6の場合、初期粘度および粘度安定性のいずれも実施例と類似したレベルを示したが、相対的に高温条件である40℃でのプラスチゾル加工条件で、粘度の経時変化が実施例の可塑剤組成物と比べて若干大きくなることを確認することができる。このことから、炭素数6の酸を使用し、かつ炭素数6の酸の異性体混合物の形態で使用する場合に、粘度安定性の改善効果を有することを類推することができる。また、炭素数4の酸を用いた比較例7の場合、最も高い初期粘度を示し、プラスチゾル加工に適していないことが分かり、炭素数7の酸を用いた比較例8の場合、初期粘度および低いrpmでの粘度安定性は実施例と類似しているが、高いrpmでの粘度安定性は実施例と比べて劣る結果を示した。最後に、炭素数6のヘキサン酸を使用するが、それを炭素数8の2-エチルヘキサン酸と混合して用いた比較例9は、初期粘度および粘度安定性の面で全般的に実施例と比べて若干劣る結果を示した。
【0122】
このことから、本発明の可塑剤組成物は、炭素数6の酸を異性体混合物の形態で使用することで、プラスチゾル加工においても優れた加工性および粘度安定性を実現可能であることを確認することができる。