(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】基板処理装置、基板処理システム及び異常検知方法
(51)【国際特許分類】
H05H 1/46 20060101AFI20241119BHJP
C23C 16/52 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
H05H1/46 R
H05H1/46 M
C23C16/52
(21)【出願番号】P 2021017299
(22)【出願日】2021-02-05
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】樋川 和志
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 勝人
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-199736(JP,A)
【文献】国際公開第2020/025546(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0131116(US,A1)
【文献】特開2017-162713(JP,A)
【文献】特開2006-253364(JP,A)
【文献】特開平10-074734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/46
H01J 37/32
C23C 16/455,16/505
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ生成用の高周波電力を、前記高周波電力を発生する発生期間と、前記高周波電力を停止する停止期間と、を交互に繰り返して処理容器に供給する高周波電源部と、
前記処理容器への前記高周波電力の供給について異常を検知する監視部と、
を備え、
前記監視部は、前記高周波電源部と前記処理容器との間を伝搬する信号を前記高周波電力の周波数より高いサンプリング周波数でサンプリングした信号データに基づいて、前記処理容器への前記高周波電力の供給について前記発生期間のそれぞれにおける前記高周波電力の異常を検知し、
前記監視部は、
前記発生期間及び前記停止期間のそれぞれを少なくとも1つ含む第1期間において、前記信号データを用いて前記信号の波形指標である第1波形指標を算出し、
前記第1期間の直後の
前記発生期間及び前記停止期間のそれぞれを少なくとも1つ含む第2期間において、前記信号データを用いて前記波形指標である第2波形指標を算出し、
前記第1波形指標と前記第2波形指標との比較に基づいて、前記異常を検知する、
基板処理装置。
【請求項2】
前記監視部は、前記第1波形指標を基準値として、前記第2波形指標が前記基準値に対して、設定された範囲内にあるか否かに基づいて、前記異常を検知する、
請求項1に記載の基板処理装置。
【請求項3】
前記監視部は、
前記第2期間の直後の
前記発生期間及び前記停止期間のそれぞれを少なくとも1つ含む第3期間において、前記信号データを用いて前記波形指標である第3波形指標を算出し、
前記第2波形指標を前記基準値として、前記第3波形指標が前記基準値に対して、設定された範囲内にあるか否かに基づいて、前記異常を検知する、
請求項2に記載の基板処理装置。
【請求項4】
前記波形指標は、前記高周波電源部から前記処理容器の向きに伝搬する進行波の強度、前記処理容器から前記高周波電源部の向きに伝搬する反射波の強度、デューティ比及び繰り返し周波数のいずれかである、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の基板処理装置と、
表示端末と、
を備え、
前記表示端末は、前記監視部が前記異常を検知したときに、前記信号データにおける前記異常を検知した異常波形と、前記異常波形の前後の波形を表示する、
基板処理システム。
【請求項6】
プラズマ生成用の高周波電力を、前記高周波電力を発生する発生期間と、前記高周波電力を停止する停止期間と、を交互に繰り返して処理容器に供給する高周波電源部を備える基板処理装置の前記処理容器への前記高周波電力の供給について異常を検知する異常検知方法であって、
前記高周波電源部と前記処理容器との間を伝搬する信号を前記高周波電力の周波数より高いサンプリング周波数でサンプリングした信号データに基づいて、前記処理容器への前記高周波電力の供給について前記発生期間のそれぞれにおける前記高周波電力の異常を検知し、
前記発生期間及び前記停止期間のそれぞれを少なくとも1つ含む第1期間において、前記信号データを用いて前記信号の波形指標である第1波形指標を算出し、前記第1期間の直後の
前記発生期間及び前記停止期間のそれぞれを少なくとも1つ含む第2期間において、前記信号データを用いて前記波形指標である第2波形指標を算出し、前記第1波形指標と前記第2波形指標との比較に基づいて、前記異常を検知する、
異常検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板処理装置、基板処理システム及び異常検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、半導体ウエハを処理するためのプラズマチャンバ内において、プラズマチャンバ内におけるチャックに印加されるパルスRFバイアス電圧信号を監視および調整するための回路構成が開示されている。特許文献1には、当該回路構成がチャックに印加される前記パルスRFバイアス電圧信号の個別パルスを検出するためのRFバイアス電圧検出器を備えることが開示されている。
【0003】
特許文献2には、変調基準信号及びピーク値設定信号をもとに断続する高周波出力を生成する変調部を備えたプラズマ生成装置用高周波電源装置が開示されている。特許文献2には、パルス生成部が予め設定したピーク設定値及びデューティ比設定値をもとに断続する高周波出力の平均値を演算して、高周波出力の平均値と演算手段が演算した高周波出力の平均値をもとに、変調基準信号を生成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2010-504614号公報
【文献】特開2003-257699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、処理容器への高周波電力の供給について異常を検知する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一の態様によれば、プラズマ生成用の高周波電力を処理容器に供給する高周波電源部と、前記処理容器への前記高周波電力の供給について異常を検知する監視部と、を備え、前記監視部は、前記高周波電源部と前記処理容器との間を伝搬する信号を前記高周波電力の周波数より高いサンプリング周波数でサンプリングした信号データに基づいて、前記処理容器への前記高周波電力の供給について異常を検知する基板処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示は、処理容器への高周波電力の供給について異常を検知する技術を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る基板処理装置の一例の概略断面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る基板処理装置の一例の高周波電源に関連する部分のブロック図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る基板処理装置の一例に関連する波形を説明する図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る基板処理装置の一例の信号処理を説明する図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係る基板処理装置の一例の処理結果を説明する図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る基板処理装置の一例の動作を説明する図である。
【
図7】
図7は、本実施形態に係る基板処理装置の一例の動作を説明する図である。
【
図8】
図8は、本実施形態に係る基板処理装置の一例の動作を説明する図である。
【
図9】
図9は、本実施形態に係る基板処理装置の一例の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示を実施するための形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の構成については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く。なお、理解を容易にするため、図面における各部の縮尺は、実際とは異なる場合がある。
【0010】
平行、直角、直交、水平、垂直、上下、左右などの方向には、実施形態の効果を損なわない程度のずれが許容される。角部の形状は、直角に限られず、弓状に丸みを帯びてもよい。平行、直角、直交、水平、垂直には、略平行、略直角、略直交、略水平、略垂直が含まれてもよい。
【0011】
<基板処理装置>
本開示の一実施形態に係る基板処理装置の構成例について説明する。
図1は、基板処理装置の構成例を示す断面図である。
【0012】
図1に示されるように、基板処理装置1は、プラズマCVD法により、例えば基板である半導体ウエハ(以下「ウエハW」という。)にチタン(Ti)膜を成膜する処理を行う成膜装置である。基板処理装置1は、略円筒状の気密な処理容器2を備える。処理容器2の底壁の中央部には、排気室21が設けられる。
【0013】
排気室21は、下方に向けて突出する例えば略円筒状の形状を備える。排気室21には、例えば排気室21の側面において、排気路22が接続される。
【0014】
排気路22には、圧力調整部23を介して排気部24が接続される。圧力調整部23は、例えばバタフライバルブ等の圧力調整バルブを備える。排気路22は、排気部24によって処理容器2内を減圧できるように構成される。
【0015】
処理容器2の側面には、搬送口25が設けられる。搬送口25は、ゲートバルブ26によって開閉自在に構成される。処理容器2内と搬送室(図示せず)との間におけるウエハWの搬入出は、搬送口25を介して行われる。
【0016】
処理容器2内には、ウエハWを略水平に保持するための基板載置台であるステージ3が設けられる。ステージ3は、平面視で略円形状に形成される。ステージ3は、支持部材31によって支持される。ステージ3の表面には、例えば直径が300mmのウエハWを載置するための円形状の凹部32が形成される。
【0017】
ステージ3は、例えば窒化アルミニウム(AlN)等のセラミックス材料により形成される。また、ステージ3は、ニッケル(Ni)等の金属材料により形成されていてもよい。なお、凹部32の代わりにステージ3の表面の周縁部にウエハWをガイドするガイドリングを設けてもよい。
【0018】
ステージ3には、例えば接地された下部電極33が埋設される。下部電極33の下方には、加熱機構34が埋設される。加熱機構34は、制御部90からの制御信号に基づいて電源部(図示せず)から給電されることによって、ステージ3に載置されたウエハWを設定温度(例えば350~700℃の温度)に加熱する。ステージ3の全体が金属によって構成されている場合には、ステージ3の全体が下部電極として機能するので、下部電極33をステージ3に埋設しなくてよい。
【0019】
ステージ3には、ステージ3に載置されたウエハWを保持して昇降するための複数本(例えば3本)の昇降ピン41が設けられる。昇降ピン41の材料は、例えばアルミナ(Al2O3)等のセラミックスや石英等であってよい。昇降ピン41の下端は、支持板42に取り付けられている。支持板42は、昇降軸43を介して処理容器2の外部に設けられた昇降機構44に接続されている。
【0020】
昇降機構44は、例えば排気室21の下部に設置されている。ベローズ45は、排気室21の下面に形成された昇降軸43用の開口部211と昇降機構44との間に設けられている。支持板42の形状は、ステージ3の支持部材31と干渉せずに昇降できる形状であってもよい。昇降ピン41は、昇降機構44によって、ステージ3の表面の上方側と、ステージ3の表面の下方側との間で、昇降自在に構成される。
【0021】
処理容器2の天壁27には、絶縁部材28を介してガス供給部5が設けられる。ガス供給部5は、上部電極を成しており、下部電極33に対向している。ガス供給部5には、整合器52を介して高周波電源51が接続される。高周波電源51から上部電極(ガス供給部5)に高周波電力を供給することによって、上部電極(ガス供給部5)と下部電極33との間に高周波電界が生じるように構成されている。
【0022】
ガス供給部5は、中空状のガス供給室53を備える。ガス供給室53の下面には、処理容器2内へ処理ガスを分散供給するための多数の孔54が例えば均等に配置される。ガス供給部5における例えばガス供給室53の上方側には、加熱機構55が埋設される。加熱機構55は、制御部90からの制御信号に基づいて図示しない電源部から給電されることによって、設定温度に加熱される。
【0023】
ガス供給室53には、ガス供給路6が設けられる。ガス供給路6は、ガス供給室53に連通している。ガス供給路6の上流側には、ガスラインL1を介してガス源GS1が接続され、ガスラインL2を介してガス源GS2が接続される。ガスラインL1には、ガスラインL31及びガスラインL3を介してガス源GS3が接続される。ガスラインL2には、ガスラインL32及びガスラインL3を介してガス源GS3が接続される。
【0024】
図1の例では、ガス源GS1はTiCl
4のガス源であり、ガス源GS2はH
2のガス源であり、ガス源GS3はArのガス源である。ただし、ガス源GS1は別の金属原料(例えば、ハロゲン元素を含む金属原料である、WCl
6、WCl
5、WF
6、TaCl
5、AlCl
3やCo、Mo、Ni、Ti、W、Alを含む有機原料)のガス源であってもよく、ガス源GS2は別の還元ガス(例えば、NH
3、ヒドラジン、モノメチルヒドラジン)のガス源であってもよく、ガス源GS3は別の不活性ガス(例えば、N
2、He、Ne、Kr、Xe)であってもよい。
【0025】
また、ガスラインL1とガスラインL2とは、ガスラインL1におけるバルブV1とガス供給路6との間、ガスラインL2におけるバルブV2とガス供給路6との間において、互いに接続される。
【0026】
ガス源GS1は、ガスラインL1を介してガス供給路6に接続される。ガスラインL1には、流量制御器MF1及びバルブV1がガス源GS1の側からこの順番に介設される。流量制御器MF1及びバルブV1がガス源GS1の側からこの順番に介設されることにより、ガス源GS1から供給されるTiCl4は、流量制御器MF1により流量が制御されてガス供給路6に供給される。
【0027】
ガス源GS2は、ガスラインL2を介してガス供給路6に接続されている。ガスラインL2には、流量制御器MF2及びバルブV2がガス源GS2の側からこの順番に介設される。流量制御器MF2及びバルブV2がガス源GS2の側からこの順番に介設されることにより、ガス源GS2から供給されるH2は、流量制御器MF2により流量が制御されてガス供給路6に供給される。
【0028】
ガス源GS3は、ガスラインL3及びガスラインL31を介してガスラインL1におけるバルブV1とガス供給路6との間に接続される。ガスラインL31には、流量制御器MF31及びバルブV31がガス源GS3の側からこの順番に介設される。流量制御器MF31及びバルブV31がガス源GS3の側からこの順番に介設されることにより、ガス源GS3から供給されるArは、流量制御器MF31により流量が制御される。流量制御器MF31により流量が制御されたArは、ガスラインL1に供給されてガスラインL1を流れるTiCl4と混合されて、ガス供給路6に供給される。
【0029】
また、ガス源GS3は、ガスラインL3及びガスラインL32を介してガスラインL2におけるバルブV2とガス供給路6との間に接続される。ガスラインL32には、流量制御器MF32及びバルブV32がガス源GS3の側からこの順番に介設される。流量制御器MF32及びバルブV32がガス源GS3の側からこの順番に介設されることにより、ガス源GS3から供給されるArは、流量制御器MF32により流量が制御される。流量制御器MF32により流量が制御されたArは、ガスラインL2に供給されてガスラインL2を流れるH2と混合されて、ガス供給路6に供給される。
【0030】
係る構成により、ガス源GS3から供給されるArを、それぞれ流量制御器MF31及び流量制御器MF32により流量を制御してガスラインL1及びガスラインL2に供給することができる。
【0031】
基板処理装置1は、制御部90と、記憶部91とを備える。制御部90は、図示しないCPU、RAM、ROM等を備える。制御部90は、例えばROMや記憶部91に格納されたコンピュータプログラムをCPUに実行させることによって、基板処理装置1を統括的に制御する。
【0032】
図2は、本実施形態に係る基板処理装置1の一例の高周波電源51に関連する部分のブロック図である。
【0033】
高周波電源51は、高周波発生器56と、双方向性結合器57と、電源制御部58と、を備える。
【0034】
高周波発生器56は、プラズマを発生させるための高周波電力、すなわち、プラズマ生成用の高周波電力、を発生させる。高周波発生器56は、高周波電力をパルス状に発生する。すなわち、高周波発生器56は、高周波電力を発生する期間と、高周波電力を停止する期間とを交互に繰り返す。
【0035】
例えば、高周波発生器56は、基本周波数が周波数450kHzの正弦波である高周波電力を発生する。また、高周波発生器56は、20マイクロ秒から50000マイクロ秒の期間(出力期間)において高周波電力を発生し、続く20マイクロ秒から100マイクロ秒の期間(停止期間)において高周波電力を停止する。そして、高周波発生器56は、高周波電力の発生と、高周波電力の停止を交互に繰り返す。すなわち、高周波発生器56は、1マイクロ秒の周期でかつデューティ比17~99%(=高周波電力を出力する期間/(高周波電力を出力する期間+高周波電力を停止する期間))で動作する。
【0036】
高周波発生器56は、電源制御部58に接続される。電源制御部58は、高周波発生器56を制御する。電源制御部58は、例えば、高周波発生器56が出力する高周波電力の基本周波数、繰り返し周波数、デューティ比を変更できる。
【0037】
なお、高周波電力の基本周波数については、周波数450kHzに限らない。例えば、高周波電力の基本周波数は、350kHz以上550kHz以下の範囲に含まれる周波数にしてもよい。
【0038】
双方向性結合器57は、高周波発生器56と、整合器52との間に設けられる。双方向性結合器57は、高周波発生器56から入力される高周波電力を信号RFとして整合器52に出力する。また、高周波発生器56から入力される高周波電力の一部を、信号SIG_RF_FWDとして後述するパルスモニター100に出力する。更に、整合器52の方から双方向性結合器57に入力される高周波電力を、信号SIG_RF_REFとしてパルスモニター100に出力する。
【0039】
電源制御部58は、高周波発生器56を制御する。また、電源制御部58は、高周波電源51が高周波電力を出力することを示す信号SIG_RF-ON及びパルスを発生していることを示す信号SIG_PULSEをパルスモニター100に出力する。
【0040】
パルスモニター100は、高周波電源51から入力される高周波信号に基づいて、高周波電源51から適切に上部電極(ガス供給部5)に高周波電力が供給されているかを監視する。具体的には、パルスモニター100は、高周波電源51から入力される信号SIG_RF_FWD及び整合器52から双方向性結合器に入力される高周波電力についての信号SIG_RF_REFに基づいて、高周波電源51から適切に上部電極(ガス供給部5)に高周波電力が供給されているかを監視する。
【0041】
パルスモニター100での信号処理について説明する。
図3は、本実施形態に係る基板処理装置1の一例に関連する波形を説明する図である。
【0042】
最初に、パルスモニター100に入力されるデジタル信号について説明する。
図3の(A)は、パルスモニター100に入力されるデジタル信号の波形を示す。制御部90は、信号SIG_STARTをハイレベルにする(時刻TA)。信号SIG_STARTがハイレベルになると、パルスモニター100は動作を開始する。
【0043】
高周波電源51は、高周波電力の供給を開始すると、信号SIG_RF-ONをハイレベルにする。また、高周波電源51は、信号パルスに同期して、信号SIG_PULSEをハイレベルにする。なお、信号SIG_PULSEは、ハイレベルがPA秒、ローレベルがPB秒の波形が繰り返される。
【0044】
信号SIG_RF-ON及び信号SIG_PULSEがハイレベルになると、パルスモニター100は異常検知処理を開始する(時刻TB)。なお、例えば、連続放電(パルス状ではない高周波電力の供給)を行う場合は、信号SIG_PULSEがハイレベルに遷移されないので、パルスモニター100は異常検知処理を行わない。
【0045】
また、制御部90は、パルスモニター100の動作を停止させるときには、信号SIG_STARTをローレベルにする(時刻TC)。信号SIG_STARTがローレベルに遷移なると、パルスモニター100は動作を停止する。
【0046】
高周波電源51は、高周波電力の供給を停止すると、信号SIG_RF-ONをローレベルにする(時刻TD)。
【0047】
次に、パルスモニター100に入力されるアナログ信号について説明する。
図3(B)は、パルスモニター100に入力されるアナログ信号の波形を示す。パルスモニター100に入力されるアナログ信号の波形は、具体的には、信号SIG_RF_FWD及び信号SIG_RF_REFである。
図3(b)では、信号SIG_RF_FWDの波形を模式的に示す。
【0048】
信号SIG_RF_FWD及び信号SIG_RF_REFには、信号SIG_PULSEがハイレベルの期間PAにおいて、周波数450kHzのSIN波が主に含まれる。例えば、
図3(b)の信号SIG_RF_FWDでは、当該SIN波の実効値は、例えば、300Wである。一方、信号SIG_RF_FWD及び信号SIG_RF_REFには、信号SIG_PULSEがローレベルの期間PBにおいて、ほぼ零に等しい。
【0049】
次に、パルスモニター100によって演算される信号について説明する。
図3の(C)は、パルスモニター100によって演算される信号の波形を示す。パルスモニター100は、信号SIG_RF_FWD及び信号SIG_RF_REFを実効値に変換したパルスにする。例えば、信号SIG_RF_FWDの場合は、信号SIG_PULSEがハイレベルの期間PAでは実効値が設定POWER、信号SIG_PULSEがローレベルの期間PBでは実効値が略0Wのパルスとなる。
【0050】
パルスモニター100は、アナログデジタルコンバータ110及びアナログデジタルコンバータ111と、信号処理部120と、を備える。
【0051】
アナログデジタルコンバータ110は、アナログ信号である信号SIG_RF_FWDを第1サンプリング周波数でデジタル信号(信号データ)に変換する。アナログデジタルコンバータ110は、デジタル信号に変換した信号SIG_RF_FWDを、信号処理部120に出力する。
【0052】
アナログデジタルコンバータ111は、アナログ信号である信号SIG_RF_REFを第2サンプリング周波数でデジタル信号(信号データ)に変換する。アナログデジタルコンバータ111は、デジタル信号に変換した信号SIG_RF_REFを、信号処理部120に出力する。
【0053】
第1サンプリング周波数と第2サンプリング周波数とは、等しくてもよいし、異なっていてもよい。第1サンプリング周波数及び第2サンプリング周波数のそれぞれは、高周波発生器56の基本周波数の10倍以上であることが好ましく、20倍以上であることがより好ましく、50倍以上であることが特に好ましい。
【0054】
信号処理部120は、例えば、デジタルシグナルプロセッサである。信号処理部120は、アナログデジタルコンバータ110及びアナログデジタルコンバータ111からのデジタル信号を処理する。信号処理部120のおける処理を
図4に示す。
図4は、本実施形態に係る基板処理装置1の一例の信号処理を説明する図である。
【0055】
信号処理部120には、高周波電源51から入力されるデジタル化された信号SIG_RF_FWD及び信号SIG_RF_REF(
図4のINPUT)が入力される。信号SIG_RF_FWD及び信号SIG_RF_REFには、高周波発生器56が供給する高周波電力の周波数450kHz(周期2.2マイクロ秒)のSIN波の他に多くの周波数成分の信号が含まれる。
【0056】
信号処理部120は、高周波発生器56が供給する高周波電力の周波数450kHz(周期2.2マイクロ秒)のSIN波を抽出するためにフィルタ処理を行う。信号処理部120は、高周波電源51から入力されるデジタル化された信号SIG_RF_FWD及び信号SIG_RF_REFのそれぞれについて、フィルタ処理を行う。具体的には、信号処理部120は、デジタル化された信号SIG_RF_FWD及び信号SIG_RF_REFに対してIIR(Infinite Impulse Response)フィルタによりフィルタ処理を行う。
【0057】
IIRフィルタは、高周波発生器56の基本周波数を通過帯域の中心周波数とするバンドパスフィルタである。例えば、基本周波数を周波数450kHzとすると、信号SIG_RF_FWDに対しては、IIRフィルタの通過帯域は、400kHz~500kHzとしてもよい。また、信号SIG_RF_REFに対しては、IIRフィルタの通過帯域は、430kHz~470kHzとしてもよい。なお、通過帯域は、0~5MHzの範囲で設定を変更できる。
【0058】
本実施形態に係る基板処理装置1におけるIIRフィルタの利得特性及びIIRフィルタの伝達関数を
図4の下側に示す。IIRフィルタの次数は、2次である。
【0059】
IIRフィルタを通過した信号は、実効値に変換される。実効値は、振幅Vmに対して、2の平方根で割ることにより求められる。RMS(Root Mean Square)変換ブロックでは、IIRフィルタを通過した信号を実効値に変換する。
【0060】
IIRフィルタの効果について、
図5に示す。
図5(A)は、設定POWERの実効値の信号SIG_RF_FWDについて、IIRフィルタ無しで実効値変換を行った結果を示す。
図5(B)は、信号SIG_RF_FWDについて、IIRフィルタ有りで実効値変換を行った結果を示す。なお、横軸は時間(単位0.1マイクロ秒)、縦軸は実効値を表す。
【0061】
IIRフィルタが無い場合は、実効値が大きく変化し、特に実効値が設定POWERを超える値が検出された。IIRフィルタが無い場合は、矩形波として判断しにくい波形となっている。一方、IIRフィルタにより高周波電力の周波数成分以外の信号を除去することによって、安定してほぼ設定POWERに近い値を有する波形を得ることができる。また、IIRフィルタがある場合は、矩形波に近い波形となった。
【0062】
次に、異常検知処理による監視の処理の流れについて説明する。
図6は、異常検知処理による監視(monitor)を開始してからの流れについて説明する図である。なお、
図6の縦軸は高周波電力のパワー(RF POWER(W))の実効値、横軸は時刻を表す。
【0063】
基板処理装置1を成膜装置として用いる場合、成膜プロセスではプラズマの状態が変わりやすい。したがって、異常判定をするための基準値を絶対値で決めると異常を正しく判定できない場合がある。本実施形態に係る基板処理装置1では、異常判定を行う前の期間で基準値を求めて、当該基準値を使って判定を行う。すなわち、直前の期間における特性値の相対比較によって異常の検出を行う。
【0064】
最初に、高周波電源51が高周波電力の供給を開始してから、装置が安定するまで待機する(マスク時間)。本例では、マスク時間として4秒間待機する。
【0065】
そして、次の1秒間に、異常判定を行うための基準値を求めるために学習(基準値学習)を行う(学習時間、基準決め(1))。基準決めが終わったら、監視を開始する。
【0066】
そして、次の1秒間に、基準決め(1)にて求めた基準(1)(基準値)を用いて、当該基準値に対して、設定された範囲内に測定値が入っているかどうか判定を行う(トレランス監視)(基準(1)に対するトレランス監視)。また、同時に、次の期間(次の1秒間)における基準値を求める学習(基準値学習)を行う(学習時間、基準決め(2))。
【0067】
以下、同様に、トレランス監視と、基準値学習とを繰り返し行う。なお、上記では、マスク時間を4秒、学習時間、トレランス監視の時間を1秒としたが、当該時間に限らず適宜変更してもよい。
【0068】
なお、例えば、学習時間、基準決め(1)における最初の1秒間は第1期間の一例、学習時間、基準決め(1)における1秒間の直後の学習時間、基準決め(2)における1秒間は第2期間の一例である。また、学習時間、基準決め(2)における1秒間の直後の学習時間、基準決め(2)における1秒間は第3期間の一例である。また、第1期間、第2期間及び第3期間のそれぞれで測定される測定値(後述する波形指標)が、それぞれ第1波形指標、第2波形指標及び第3波形指標の一例である。
【0069】
次に、波形を評価する波形指標と異常検知方法について説明する。本実施形態の基板処理装置1では、波形指標として、進行波の強度(FWD)、反射波の強度(REF)、デューティ比(Pulse Duty)及び繰り返し周波数(Pulse Freq)を波形指標として用いる。波形指標が設定された範囲内にあるか否かに基づいて、異常を検知する。
【0070】
[進行波の強度(FWD)]
進行波の強度(FWD)は、高周波電源51から処理容器2の向きに伝搬する進行波の強度である。具体的には、信号SIG_PULSEに対応する各パルスについて実効値変換した信号SIG_RF_FWDを時間で積分する。そして、信号SIG_RF_FWDを積分した値を時間で割ることによって、実効値相当の換算実効値を算出する。
【0071】
図7の<FWD>に示すように、実効値が時間方向に小さくなったり、大きくなったりすると、換算実効値が小さくなったり、大きくなったりする。
【0072】
例えば、監視を行う期間の前の学習期間において、換算実効値の平均値を求める。そして、換算実効値の平均値を基準として、その±10%の範囲内に入っている場合は、正常であると判断する。例えば、基準値が1000Wの場合、監視期間における各パルスの換算実効値が900W以上1100W以下であるかどうかを判断する。範囲内である場合は、正常(OK)と判断する。範囲外である場合は、異常(NG)と判断する。なお、範囲については、±10%の範囲に限らず、例えば、設定で範囲を定める閾値を変更できるようにしてもよい。
【0073】
[反射波の強度(REF)]
反射波の強度(REF)は、処理容器2から高周波電源51の向きに伝搬する反射波の強度である。具体的には、信号SIG_PULSEに対応する各パルスについて実効値変換した信号SIG_RF_REFを時間で積分する。そして、信号SIG_RF_REFを積分した値を時間で割ることによって、実効値相当の換算実効値を算出する。
【0074】
図7の<REF>に示すように、反射波が大きいと、換算実効値が大きくなる。
【0075】
例えば、監視を行う期間の前の学習期間において、換算実効値の平均値を求める。そして、換算実効値の平均値を基準として、+30W以下の範囲に入っている場合は、正常であると判断する。例えば、基準値が10Wの場合、監視期間における各パルスの換算実効値が40W以下であるかどうかを判断する。範囲内である場合は、正常(OK)と判断する。範囲外である場合は、異常(NG)と判断する。なお、範囲については、+30W以下の範囲に限らず、例えば、設定で範囲を定める閾値を変更できるようにしてもよい。
【0076】
[デューティ比(Pulse Duty)]
デューティ比(Pulse Duty)は、各パルスのデューティ比である。具体的には、信号SIG_PULSEに対応する各パルスについて信号SIG_RF_FWDの時間方向の幅を算出する。
【0077】
図8の<Pulse Duty>に示すように、パルスの幅が変化して、デューティ比が変化する場合がある。
【0078】
例えば、監視を行う期間の前の学習期間において、デューティ比の平均値を求める。そして、その±10%の範囲内に入っている場合は、正常であると判断する。例えば、基準値が50%の場合、監視期間における各パルスのデューティ比が40%以上60%以下の範囲内であるかどうかを判断する。範囲内である場合は、正常(OK)と判断する。範囲外である場合は、異常(NG)と判断する。なお、範囲については、40%以上60%以下の範囲に限らず、例えば、設定で範囲を定める閾値を変更できるようにしてもよい。
【0079】
[繰り返し周波数(Pulse Freq)]
繰り返し周波数(Pulse Freq)は、各パルスの繰り返し周波数である。具体的には、信号SIG_PULSEに対応する各パルスについて信号SIG_RF_FWDの繰り返し周波数を算出する。
【0080】
図8の<Pulse Freq>に示すように、パルスが変化して、繰り返し周波数が変化する場合がある。
【0081】
例えば、監視を行う期間の前の学習期間において、繰り返し周波数の平均値を求める。そして、その±10%の範囲内に入っている場合は、正常であると判断する。例えば、基準値が1kHzの場合、監視期間における各パルスの繰り返し周波数が0.9kHz以上1.1kHz以下の範囲内であるかどうかを判断する。範囲内である場合は、正常(OK)と判断する。範囲外である場合は、異常(NG)と判断する。なお、範囲については、0.9kHz以上1.1kHz以下の範囲に限らず、例えば、設定で範囲を定める閾値を変更できるようにしてもよい。
【0082】
パルスモニター100は、デジタル入出力を備える。制御部90は、パルスモニター100に接続される。制御部90は、信号SIG_STARTにより、パルスモニター100に監視動作を実行させる。また、パルスモニター100は、制御部90に、アラーム信号を出力する。アラーム信号としては、例えば、進行波の強度(FWD)、反射波の強度(REF)、デューティ比(Pulse Duty)及び繰り返し周波数(Pulse Freq)のいずれかが異常と判定されたときに出力してもよい。パルスモニター100が制御部90にアラーム信号を出力することによって、制御部90は波形に異常が発生していることを検出できる。
【0083】
更に、パルスモニター100は、パーソナルコンピュータ200に接続される。パーソナルコンピュータ200は、パルスモニター100からデータを受信する。例えば、パーソナルコンピュータ200は、波形の情報をパルスモニター100から受信する。また、例えば、パーソナルコンピュータ200は、アラーム情報SIG_ALARMをパルスモニター100から受信する。
【0084】
パーソナルコンピュータ200で表示される波形の例を
図9に示す。線Lfwdは、信号SIG_RF_FWDの波形を示す。線Lrefは、信号SIG_RF_REFの波形を示す。ここで、波形P2は、パルスモニター100が異常と判定した波形(異常波形)である。波形P1と波形P3は、波形P2の前後の波形である。異常と判定された波形P2を真ん中に表示し、その前後に正常な波形を表示することによって、異常の状態を容易に判定することができる。
【0085】
なお、パーソナルコンピュータ200では、例えば、波形が正常又は異常であるに関わらず、波形を表示するようにしてもよい。また、異常と判定されたときに、信号SIG_RF_FWD及び信号SIG_RF_REFをサンプリングした信号データを、ファイルとして保存するようにしてもよい。異常と判定したときに信号データを保存することによって、トラブル等の解析を行うことができる。また、異常と判定したときに信号データを保存することによって、保存するデータ量を削減できる。
【0086】
なお、基板処理装置1とパーソナルコンピュータ200との組み合わせを基板処理システム300という場合がある。高周波電源51は高周波電源部の一例、パルスモニター100は監視部の一例、パーソナルコンピュータ200は表示端末の一例である。
【0087】
<作用・効果>
本実施形態に係る基板処理装置1によれば、処理容器への高周波電力の供給について異常を検知することができる。
【0088】
基板処理装置のプラズマ出力を調整するために、パルスの高周波電力が用いられる。従来は、高周波電力が処理容器に供給されているかを監視するために、100m秒程度のプロセスログしかなかった。プラズマ原子層堆積法において、高速にプラズマを切り替えて成膜を行う。高速でプラズマを切り替える成膜装置では、マイクロ秒オーダーのパルス波形の状態も成膜に影響する。
【0089】
本実施形態に係る基板処理装置1は、高周波電力の周波数より高いサンプリング周波数でサンプリングした信号データに基づいて異常を検知することから、マイクロ秒オーダーのパルス波形の状態を監視できる。また、基板処理装置1によれば、高周波電源部から処理容器の向きに伝搬する進行波及び処理容器から高周波電源部の向きに伝搬する反射波のそれぞれの一つ一つの波形を監視できる。波形を監視することによって、より細かな異常を検知できる。
【0090】
また、高周波電源部から処理容器の向きに伝搬する進行波及び処理容器から高周波電源部の向きに伝搬する反射波のそれぞれの一つ一つの波形を監視することから、アーク放電等の異常を検知できる。
【0091】
更に、基板処理装置1によれば、高周波電力のデューティ比及び繰り返し周波数の異常を検知できる。
【0092】
更にまた、基板処理装置1の現状の状態を学習することにより、学習した情報から相対的に異常を検知ができる。相対的に異常を検知することによって、プラズマの状態が刻々と変化するような環境においても、異常を検知できる。更に、学習を高周波電力が供給されている間に継続的に実施できる。
【0093】
また、波形を監視して、異常を検知することによって、異常な波形で基板処理を行った基板を後工程に送ることを防止できる。異常な波形で基板処理を行った基板を後工程に送ることを防止することによって、後工程において無駄な処理を行うことを防止して、製造コストを削減できる。
【0094】
今回開示された本実施形態は、すべての点において例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲およびその主旨を逸脱することなく、様々な形態で変形および改良が可能である。上記複数の実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で他の構成も取り得ることができ、また、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0095】
1 基板処理装置
2 処理容器
3 ステージ
5 ガス供給部
6 ガス供給路
51 高周波電源
52 整合器
56 高周波発生器
57 双方向性結合器
58 電源制御部
90 制御部
100 パルスモニター
110 アナログデジタルコンバータ
111 アナログデジタルコンバータ
120 信号処理部
200 パーソナルコンピュータ
300 基板処理システム