(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-18
(45)【発行日】2024-11-26
(54)【発明の名称】研磨装置
(51)【国際特許分類】
B24B 37/30 20120101AFI20241119BHJP
B24B 37/32 20120101ALI20241119BHJP
B24B 41/06 20120101ALI20241119BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20241119BHJP
【FI】
B24B37/30 D
B24B37/32 Z
B24B41/06 L
H01L21/304 621D
(21)【出願番号】P 2020129761
(22)【出願日】2020-07-30
【審査請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100169960
【氏名又は名称】清水 貴光
(72)【発明者】
【氏名】永井 大智
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-217457(JP,A)
【文献】特開2000-127025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B37/00-37/34
B24B41/06
H01L21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨ヘッドに保持されたワークをプラテン上の研磨パッドに押し当てて研磨する研磨装置であって、
前記研磨ヘッドの下端に設けられたチャックテーブルと、前記チャックテーブルの下面に収容されて前記ワークを保持面で保持可能なチャックと、を備えている保持機構と、
前記チャックテーブルに締結により圧着され、前記研磨ヘッドに入力される回転駆動力を前記チャックテーブルに伝達するベース部材と、
を備え、
前記チャックテーブル及び前記ベース部材は、前記チャックテーブルの線膨張係数と前記ベース部材の線膨張係数との差に起因して前記チャックの温度に応じて変化する前記保持面の平坦度が前記研磨装置の使用温度範囲に亘って略線形状に変化するような線膨張係数を示す材質から成
り、
前記チャックテーブルは、アルミナ製であり、
前記ベース部材は、インバー合金製であり、
前記ベース部材の線膨張係数と前記チャックテーブルの線膨張係数との差は、2.2ppm/℃以下に設定されていることを特徴とする研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを研磨する研磨装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造分野では、シリコンウェハ等(以下、「ワーク」という)を研磨して平坦化するCMP装置が知られている。
【0003】
特許文献1記載の研磨装置は、化学的機械的研磨、いわゆるCMP(Chemical Mechanical Polishing)技術を適用した研磨装置である。このCMP装置は、研磨ヘッドに装着されたワークを研磨パッドに押圧してワークを研磨するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ワークの裏面が研磨ヘッドのチャックに保持され、ワークの表面を研磨パッドに押圧して研磨する裏面基準研磨では、ワークを保持するチャックの平坦度がワークに作用する圧力分布として転写され、研磨後のワークの形状に影響を及ぼすことが知られている。
【0006】
従来の研磨ヘッドでは、チャックの吸着面をラップ加工することによりチャックの平坦度が1μm以下に設定されている。しかしながら、このような平坦な吸着面でワークを保持し、同一の研磨条件で研磨を行った場合であってもワーク形状が安定しない、すなわち、高い再現性を得られない事象が発生するという問題があった。
【0007】
そこで、再現性良くワークを研磨するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が鋭意研究を重ねた結果、従来の研磨装置において、チャックを収容するアルミナ製のチャックテーブルの線膨張係数とチャックテーブルに締結されて研磨ヘッドに入力される回転駆動力をチャックテーブルに伝達する金属製のベース部材の線膨張係数との差によって、研磨における温度変化に伴ってチャックに非線形応答性の歪みが生じることを発見した。
【0009】
また、本発明者は、チャックテーブルの線膨張係数とベース部材の線膨張係数との差を所定範囲内に設定することにより、チャックの平坦度が略線形状に変化することを見出した。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る研磨装置は、研磨ヘッドに保持されたワークをプラテン上の研磨パッドに押し当てて研磨する研磨装置であって、前記研磨ヘッドの下端に設けられたチャックテーブルと、前記チャックテーブルの下面に収容されて前記ワークを保持面で保持可能なチャックと、を備えている保持機構と、前記チャックテーブルに締結され、前記研磨ヘッドに入力される回転駆動力を前記チャックテーブルに伝達するベース部材と、を備え、前記チャックテーブル及び前記ベース部材は、前記チャックテーブルの線膨張係数と前記ベース部材の線膨張係数との差に起因して前記チャックの温度に応じて変化する前記保持面の平坦度が前記研磨装置の使用温度範囲に亘って略線形状に変化するような線膨張係数を示す材質から成る。
【0011】
この構成によれば、保持面の平坦度が研磨装置の使用温度範囲に亘って線形応答することにより、保持面の平坦度をチャックの温度制御によってコントロールし易いため、ワークを再現性良く平坦に研磨することができる。
【0012】
また、本発明に係る研磨装置は、前記チャックテーブルが、アルミナ製であり、前記ベース部材が、インバー合金製であることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、ベース部材が低熱膨張合金のインバー合金から成ることにより、ベース部材とチャックテーブルとが、研磨装置の使用温度範囲に亘って略一様に膨張・収縮することにより、保持面の平坦度をチャックの温度制御によってコントロールし易いため、ワークを再現性良く研磨することができる。
【0014】
また、本発明に係る研磨装置は、前記ベース部材の線膨張係数と前記チャックテーブルの線膨張係数との差が、2.2ppm/℃以下に設定されていることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、保持面の平坦度がコントロールし易いため、高い再現性でワークを研磨することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、ワークを再現性良く平坦に研磨することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るCMP装置を模式的に示す斜視図。
【
図3】本発明の比較例に係るベース部材を適用したCMP装置における保持面の平坦度の温度依存を示すグラフ。
【
図4】温度変化によって、保持面が変形する様子を示す模式図。
【
図5】温度上昇に伴って、ベース部材及びチャックテーブルが膨張する様子を示す模式図。
【
図6】本発明の実施例1、実施例2に係るCMP装置でワークをそれぞれ研磨した際のチャックの温度と保持面の平坦度との関係を示すグラフ。
【
図7】比較例に係るCMP装置を用いてワークを研磨した際の研磨時温度毎のワークの仕上がり形状を示すグラフ。
【
図8】実施例1に係るCMP装置を用いてワークを研磨した際の研磨時温度毎のワークの仕上がり形状を示すグラフ。
【
図9】実施例2に係るCMP装置を用いてワークを研磨した際の研磨時温度毎のワークの仕上がり形状を示すグラフ。
【
図10】比較例に係るCMP装置における保持面の平坦度の温度依存を示すグラフであって、保持面の平坦度の傾きを追記したグラフ。
【
図11】中央が落ち込んだ研磨パッドに対応するように、保持面を中凸状に変形させた様子を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態について図面に基づいて説明する。なお、以下では、構成要素の数、数値、量、範囲等に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも構わない。
【0019】
また、構成要素等の形状、位置関係に言及するときは、特に明示した場合及び原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似又は類似するもの等を含む。
【0020】
また、図面は、特徴を分かり易くするために特徴的な部分を拡大する等して誇張する場合があり、構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。また、断面図では、構成要素の断面構造を分かり易くするために、一部の構成要素のハッチングを省略することがある。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係るCMP装置1を模式的に示す斜視図である。CMP装置1は、ワークWの一面を平坦に研磨するものである。CMP装置1は、プラテン2と、研磨ヘッド10と、を備えている。ワークWは、例えば、シリコンウェハであるがこれに限定されるものではない。
【0022】
プラテン2は、円盤状に形成されており、プラテン2の下方に配置された回転軸3に連結されている。回転軸3がモータ4の駆動によって回転することにより、プラテン2は
図1中の矢印D1の方向に回転する。プラテン2の上面には、研磨パッド5が貼付されており、研磨パッド5上に図示しないノズルから研磨剤と化学薬品との混合物であるCMPスラリーが供給される。
【0023】
また、プラテン2には、循環式冷却装置6が接続されており、循環式冷却装置6から供給される温調されたチラー水がプラテン2内を通水することにより、研磨加工中にチラー水の温度や流量に応じてプラテン2の温度を調整することができる。
【0024】
研磨ヘッド10は、プラテン2より小径に形成されており、研磨ヘッド10の上方に配置された回転軸10aに連結されている。回転軸10aが図示しないモータの駆動によって回転することにより、研磨ヘッド10は、
図1中の矢印D2の方向に回転する。研磨ヘッド10は、図示しないヘッド移動機構によって垂直方向及び水平方向に移動可能に構成されている。研磨ヘッド10は、ワークWを研磨する際に下降して研磨パッド5にワークWを押圧する。
【0025】
CMP装置1の動作は、図示しない制御装置によって制御される。制御装置は、CMP装置1を構成する構成要素をそれぞれ制御するものである。制御装置は、例えばコンピュータであり、CPU、メモリ等により構成される。なお、制御装置の機能は、ソフトウェアを用いて制御することにより実現されても良く、ハードウェアを用いて動作するものにより実現されても良い。
【0026】
次に、研磨ヘッド10の構造について説明する。
図2は、研磨ヘッド10の要部を模式的に示す縦断面図である。
【0027】
研磨ヘッド10は、回転軸10aに接続されたヘッド本体11を備えている。ヘッド本体11は、回転伝達部12を介してベース部材13に連結されており、ヘッド本体11、回転伝達部12及びベース部材13は、回転軸10aと共に回転する。
【0028】
ベース部材13の上方には、ボルトB1を介してPPS製のプレートホルダ14が締結されている。これにより、研磨ヘッド10に入力される回転駆動力が、ベース部材13を介してプレートホルダ14に伝達される。
【0029】
プレートホルダ14とヘッド本体11との間に、エアバッグ15が介装されている。エアバッグ15は、図示しない圧縮空気源からバキュームライン15aを介して供給されるエアによって膨張、収縮自在である。圧縮空気源から供給されるエアの圧力は、図示しないレギュレータによって調整される。エアバッグ15は、供給されるエアの圧力に応じてプレートホルダ14を加圧することで、ワークWが研磨パッド5に押圧される研磨圧力を調整する。
【0030】
ベース部材13の下方には、ポーラスチャック16が設けられている。ポーラスチャック16は、アルミナ製のチャックテーブル17と、多孔質アルミナ製のチャック18と、を備えている。
【0031】
チャックテーブル17は、ボルトB2を介してベース部材13に締結されている。これにより、研磨ヘッド10に入力される回転駆動力が、ベース部材13を介してポーラスチャック16に伝達される。
【0032】
チャック18は、チャックテーブル17の下面に埋設されている。チャック18は、ライン18aを介して図示しない真空源、冷却水源に接続されている。真空源を起動させることにより、ポーラスチャック16の保持面16aにワークWが吸着保持される。また、冷却水源から供給される冷却水は、室温と略等しく温調されており、研磨後にチャック18を通水することでチャック18を冷却する。
【0033】
このようにして、研磨ヘッド10は、ワークWの裏面がチャック18に吸着保持された状態でワークWの表面が研磨パッド5に押し当てられ、エアバッグ15の膨張に伴ってワークWに荷重が伝わることにより、ワークWは、保持面16aの形状が転写されるように研磨される(裏面基準研磨)。保持面16aは、ラップ加工によって約1μm以下の平坦度に設定されており、このような裏面基準研磨では、チャックテーブル17の保持面16aの平坦度がワークWの仕上がり形状に影響する。
【0034】
また、ベース部材13は、チャックテーブル17を構成するアルミナの線膨張係数(7.2ppm/℃)に近い線膨張係数を示す材質から成る。ベース部材13は、例えば、アルミナの線膨張係数に近い値になるように調合された低熱膨張合金(インバー合金)である。
【0035】
なお、ベース部材13の線膨張係数とチャックテーブル17の線膨張係数とが近いとは、CMP装置1の使用温度範囲(例えば、約10~40℃)に亘って、ベース部材13とポーラスチャック16とが、互いにボルトB2で締結された状態でそれぞれ膨張・収縮するところ、ベース部材13の線膨張係数とチャックテーブル17の線膨張係数との差に起因してチャック19の温度変化に応じて変化する保持面16aの平坦度が、略線形状に変化する(線形応答する)ように、ベース部材13の線膨張係数とチャックテーブル17の線膨張係数とが設定されていることを意味する。なお、CMP装置1の使用温度範囲は、ワークWを押圧する圧力、研磨ヘッド10の回転数、プラテン2の回転数、スラリー流量、チラー水の温度及び流量等に応じて変動する。
【実施例】
【0036】
次に、線膨張係数5.0ppm/℃のインバー合金を用いたベース部材13を適用したCMP装置1(実施例1)、線膨張係数7.0ppm/℃のインバー合金を用いたベース部材13を適用したCMP装置1(実施例2)又はSUS316製の従来のベース部材13を適用したCMP装置1(比較例)について、使用温度範囲における保持面16aの平坦度の変化を比較した評価データについて説明する。
【0037】
[評価方法]
まず、比較例に係るCMP装置1の研磨ヘッド10を外的要因により温度変化させた場合のチャック18の温度と保持面16aの平坦度との関係を
図3に示す。
【0038】
図3は、比較例に係るCMP装置1の研磨ヘッド10における保持面16aの平坦度の温度依存を示すグラフである。
図3のグラフは、縦軸に保持面16aの平坦度、横軸にチャック18の温度を設定している。なお、平坦度が正とは、ポーラスチャック16の中央が外周に比べて凸である中凸状態に対応し、平坦度が負とは、ポーラスチャック16の中央が外周に比べて凹である中凹状態に対応する。保持面16aの平坦度の測定は、コーニング・トロペル社製のFlat Master 200XRA-Indstrialを用いて行った。また、チャック18の温度測定は、安立計器株式会社製のデジタルサーモメータHA-202Kを用いて行った。
【0039】
図3中の符号aで示す範囲は、比較例に係るCMP装置1の研磨ヘッド10が室温(約22~24℃)で待機している状態に相当するものであり、室温(約22~24℃)でチャック18を温度変化させた場合の保持面16aの平坦度の変化を示す。この範囲内では、保持面16aの平坦度は、温度が上がるにつれて負になる(凹状になる)ように線形応答することが分かる。
【0040】
図3中の符号bで示す範囲は、研磨の摩擦熱に伴ってチャック18が昇温している状態に相当するものであり、40℃に設定したホットプレートでチャック18を研磨時温度に見立てた約37℃まで加温した場合の保持面16aの平坦度の変化を示す。また、
図3中の符号cで示す範囲は、研磨後の研磨ヘッド10に冷却水を通水して冷却している状態に相当するものであり、ホットプレートでの加熱後に室温放置して略室温まで冷却した場合の保持面16aの平坦度の変化を示す。符号bで示す範囲と符号cで示す範囲とは一致せず、保持面16aの平坦度は、線形応答から外れてヒステリシスに変化していることが分かる。また、加熱後に室温(23℃)まで冷却された保持面16aの平坦度は、正(約5μm)で凸状に変形していることが分かる。
【0041】
また、
図3中の符号dで示す範囲は、研磨ヘッド10が輸送等の理由により室温以下の環境に置かれた状態に相当するものであり、10℃のチラー水で研磨ヘッド10を使用温度範囲の下限付近(約11℃)まで冷却した場合の保持面16aの平坦度の変化を示す。また、
図3中の符号eで示す範囲は、10℃のチラー水で冷却後の研磨ヘッド10を室温放置して略室温まで温めた場合の保持面16aの平坦度の変化を示す。符号dで示す範囲と符号eで示す範囲とは一致せず、保持面16aの平坦度は、線形応答から外れてヒステリシスに変化していることが分かる。また、冷却後に室温(23℃)まで温められた保持面16aの平坦度は、負(約-4μm)で凹状に変形していることが分かる。
【0042】
このようにして、略室温で待機している保持面16aの平坦度と、研磨に伴う加熱や寒冷期の外気による冷却を経た後に略室温に達した保持面16aの平坦度とでは、大きく乖離することが分かる。さらに、保持面16aの平坦度がヒステリシスに変化することにより、保持面16aの平坦度の管理が非常に困難であった。
【0043】
さらに、ラップ加工後の保持面16aの平坦度が約1μmであるのに対して、加熱、冷却を経た後に略室温に達した保持面16aの平坦度が約5μmであることを考慮すると、ワークWを安定して研磨できず、ポーラスチャック16の温度変化に伴う平坦度の変動を軽減させる必要があることが分かる。
【0044】
このようなポーラスチャック16の温度依存は、以下の理由によるものと考えられる。すなわち、SUS316製のベース部材13(線膨張係数:16.0ppm/℃)とアルミナ製のチャックテーブル17(線膨張係数:7.2ppm/℃)とでは、線膨張係数の違いによるバイメタル効果から、
図4に示すように、加熱時にはベース部材13が相対的に大きく膨張して、保持面16aが中凹状に変形し、冷却時にはベース部材13が相対的に大きく収縮して、保持面16aが中凸状に変形すると推測される。
【0045】
また、ベース部材13及びポーラスチャック16が温まる場合には、
図5(a)に示すように、チャックテーブル17は、ベース部材13にボルトB2で締結されており、
図5(b)に示すように、加熱膨張の初期では、ボルトB2による締結力と、ボルトB2とベース部材13との接地面及びベース部材13とチャックテーブル17との接地面(
図5(b)中の破線部分)に作用する表面摩擦力とによって、ベース部材13とチャックテーブル17とが、温度が上がるにつれて一様に膨張するもの(線形応答する)と考えられる。
【0046】
しかしながら、
図5(c)に示すように、ボルトB2による締結力とベース部材13及びチャックテーブル17の表面摩擦で支えられないほどにベース部材13が膨張すると、ベース部材13が保持限界をむかえてチャックテーブル17に対して横滑りすることで、ベース部材13とチャックテーブル17とが一様に膨張せず、保持面16aの平坦度は、温度が変化に対して飽和傾向になるものと考えられる。なお、ベース部材13及びポーラスチャック16が冷える場合にも同様の傾向にあると考えられる。
【0047】
なお、ボルトB2の締結トルクを増せば、線形応答する温度範囲を拡大することはできるが、チャックテーブル17が図示しないヘリサートタップを介してボルトB2で締結されているため、所定のトルク以上で締結するとチャックテーブル17が欠けたり割れる虞がある。
【0048】
次に、表1に示す研磨条件によって、実施例1、実施例2に係るCMP装置1でワークWをそれぞれ研磨した際のチャック18の温度と保持面16aの平坦度との関係を
図6に示す。
図6のグラフは、縦軸に保持面16aの平坦度、横軸にチャック18の温度を設定している。なお、保持面16aの平坦度測定及びチャック18の温度測定は、上述した比較例の場合と同様である。
【表1】
【0049】
図6によれば、
図3と比べて、ポーラスチャック16の温度変化に伴う平坦度の変動が小さいことが分かる。すなわち、使用温度範囲における保持面16aの平坦度の変化幅が、実施例1では、室温での平坦度(0μm)を中心に-4~4μmであり、実施例2では、室温での平坦度(2.2μm)を中心に2~2.5μmである。したがって、室温で待機状態の保持面16aの平坦度が、研磨に伴う加熱やチラーによる冷却を経た後の保持面16aの平坦度とで乖離せず、高い再現性でワークWを安定して研磨できることが分かる。
【0050】
また、ベース部材13がアルミナ製のチャックテーブル17と近い線膨張係数を示す材質から成る場合には、保持面16aの平坦度が線形応答することから、保持面16aの平坦度をチャック18の温度制御によってコントロールし易いことが分かる。
【0051】
次に、実施例1、実施例2又は比較例に係る各CMP装置1を用いてワークWを研磨した際の、研磨時温度(プラテン2に通水するチラー水温度の変更により調整した)毎のワークWの仕上がり形状を
図7~9に示す。
【0052】
図7~9のグラフは、縦軸にワークWの仕上がり厚み、横軸に径方向座標を設定している。
図7~9では、中心から径方向Rに70mm離れた地点の仕上がり厚みを基準とし、各測定地点(R=0mm、約17mm、約35mm、約53mm)での仕上がり厚みを基準に対する相対的な高さとしてプロットすることで、研磨時温度毎のワークWの仕上がり形状を表している。なお、ワークW上の測定地点は、同一の径方向座標で複数設定されており、仕上がり厚みは同心円上の複数の測定地点の平均値を指標した。
【0053】
なお、保持面16aがワークWの仕上がり形状に転写される裏面基準研磨では、保持面16aが中央が凸の中凸状に変形している場合には、ワークWの仕上がり形状は中央が凹の中凹状になり、保持面16aが中央が凹の中凹状に変形している場合には、ワークWの仕上がり形状は中央が凸の中凸状になる。すなわち、ワークWの仕上がり形状と保持面16aの形状とは、反転する。
【0054】
図7は、比較例に係るCMP装置1でワークWを研磨した際の、研磨時温度毎のワークWの仕上がり形状を示す。
【0055】
図7によれば、研磨時温度が室温(約23℃)を下回る場合には、ワークWの仕上がり形状は、中凸状であって、外周に向かって傾きが徐々に減少するような曲面状であり、研磨時温度が室温(約23℃)を上回る場合には、ワークWの仕上がり形状は、中凹状であって、外周に向かって傾きが徐々に増大するような曲面状であることが分かる。
【0056】
図8は、実施例1に係るCMP装置1でワークWを研磨した際の、研磨時温度毎のワークWの仕上がり厚みを示す。
【0057】
図8によれば、
図7と比べると、研磨時温度が室温(約23℃)を下回る場合には、ワークWの仕上がり形状は、中凸状である点では一致するが、中央の高さは低くなり、ワークW全面が略平坦に形成されており、研磨時温度が室温(約23℃)を上回る場合には、ワークWの仕上がり形状は、中凹状である点では一致するが、中央の高さは高くなり、ワークW全面が略平坦に形成されていることが分かる。
【0058】
図9は、実施例2に係るCMP装置1でワークWを研磨した際の、研磨時温度毎のワークWの仕上がり厚みを示す。
【0059】
図9によれば、
図7、8と比べて、研磨時温度に係わらず、ワークW全面が最も平坦に形成されていることが分かる。
【0060】
このように、チャックテーブル17との線膨張係数の差が小さい材質でベース部材13を構成することによって、厳密な研磨時温度の管理を行うことなく、ワークWの仕上がり形状を簡便にフラットに形成することができる。
【0061】
このように保持面16aの平坦度を簡便に管理するため、チャックテーブル17を構成するアルミナの線膨張係数が7.2ppm/℃の場合には、ベース部材13の材質は、線膨張係数が5.0~9.4ppm/℃を示すものが好ましい。以下、その理由を説明する。
【0062】
まず、SUS316製のベース部材13の線膨張係数とアルミナ製のポーラスチャック16の線膨張係数との差は、約8.8ppm/℃である。そして、
図10(
図3に保持面16aの平坦度の傾きを追記したもの)に示すように、変化が大きい時の保持面16aの平坦度の傾き(図中の一点鎖線で示す部分)が、-1.8μm/℃であり、変化が小さい時の保持面16aの平坦度の傾き(図中の破線で示す部分)が、-0.45μm/℃であるから、保持面16aの平坦度が最も変化した時の平坦度の傾きは、変化が小さい時の平坦度の傾きの4倍の数値である。したがって、ポーラスチャック16との線膨張係数の差が2.2ppm/℃(約8.8ppm/℃を4で除した数値)以下になる材質でベース部材13を構成することにより、保持面16aの平坦度は、使用温度範囲(例えば、約10~40℃)に亘って、温度変化に応じて線形応答すると考えられる。
【0063】
また、研磨の際にワークWが研磨パッド5に押し込まれることにより、
図11に示すように、研磨パッド5が若干落ち込んでワークWの仕上がり形状が中凹になる虞がある。その場合には、ベース部材13をアルミナ製のチャックテーブル17よりも低い線膨張係数の材質で構成することにより、温度が上がるにつれて保持面16aが中凸状に変形するため、研磨パッド5の落ち込みをキャンセルするようにワークWを研磨することができる。
【0064】
また、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り、上記以外にも種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【符号の説明】
【0065】
1 :CMP装置
2 :プラテン
3 :(プラテンの)回転軸
4 :モータ
5 :研磨パッド
6 :循環式冷却装置
10 :研磨ヘッド
10a :(研磨ヘッドの)回転軸
11 :ヘッド本体
12 :回転伝達部
13 :ベース部材
14 :プレートホルダ
15 :エアバッグ
16 :ポーラスチャック(保持機構)
16a :保持面
17 :チャックテーブル
18 :チャック
W :ワーク